以下、本発明の実施の形態による可変容量型斜板式閉回路用油圧ポンプを、ホイールローダに代表される建設機械に適用した場合を例に挙げ、添付図面の図1〜図5に従って詳細に説明する。
図中、1は可変容量型斜板式閉回路用油圧ポンプで、該油圧ポンプ1は、後述のケーシング2、回転軸4、シリンダブロック5、複数のシリンダ6、ピストン7、シュー8、斜板支持体10、斜板11、傾転アクチュエータ12および弁板15等によって構成されている。油圧ポンプ1は、例えばホイールローダの原動機(後述のエンジン25)によって回転駆動され、後述の油圧モータ36(図3参照)との間で作動油(高圧油)の給排を行うものである。
油圧ポンプ1の外殻となる筒状のケーシング2は、図1に示すように、筒状のケーシング本体2Aと、該ケーシング本体2Aの両端側を閉塞したフロントケーシング2B、リヤケーシング2Cとから構成されている。なお、ケーシング本体2Aは、フロントケーシング2Bまたはリヤケーシング2Cのいずれか一方と一体に形成する構成としてもよいものである。
ケーシング本体2Aの軸方向一側に位置するフロントケーシング2Bには、後述の斜板支持体10が斜板11の裏面側に対向して設けられている。また、ケーシング本体2Aの軸方向他側に位置するリヤケーシング2Cには、一対の給排通路3A,3Bが設けられている。この給排通路3A,3Bは、図3に示す後述の主管路35A,35Bを介して走行用の油圧モータ36に接続されている。油圧ポンプ1のケーシング2内は、ドレン室となって作動油タンク(例えば、図2、図3に示すタンク20)に接続されている。
回転軸4はケーシング2内に回転可能に設けられている。この回転軸4は、フロントケーシング2Bとリヤケーシング2Cとにそれぞれ軸受を介して回転可能に支持されている。回転軸4の一端側は、フロントケーシング2Bから軸方向に突出する突出端4Aとなり、この突出端4Aには後述のエンジン25(図3参照)が動力伝達機構26等を介して連結される。
シリンダブロック5は、回転軸4と一体的に回転するようにケーシング2内に設けられている。このシリンダブロック5には、その周方向に離間して軸方向に延びる複数のシリンダ6が設けられている。シリンダブロック5に設けるシリンダ6の個数は、例えば7個または9個となるように通常は奇数個である。シリンダブロック5の各シリンダ6には、後述する弁板15の給排ポート15Aまたは給排ポート15Bと間欠的に連通するシリンダポート6Aが形成されている。
複数のピストン7は、シリンダブロック5の各シリンダ6内にそれぞれ摺動可能に挿嵌されている。これらのピストン7は、シリンダブロック5の回転に伴ってシリンダ6内を往復動し、吸入行程と吐出行程とを繰返す。このため、後述の斜板11には、一対の給排ポート15A,15Bのうち高圧側のポートに連通している各シリンダ6内の圧力がピストン7を介して作用する。これは合力の着力点(ピストン推力の合計着力中心点)として、一般的には「∞」マークにより表示されることが知られている。
また、各ピストン7には、シリンダ6から突出する突出端側にシュー8がそれぞれ揺動可能に設けられている。これらのシュー8は、後述する斜板11の平滑面11Bに対しピストン7からの押付力(油圧力)により押付けられ、この状態でシュー押え9等を介して保持される。各シュー8は、この状態で回転軸4、シリンダブロック5およびピストン7と一緒に回転することにより、リング状の円軌跡を描くように後述の平滑面11B上を摺動変位するものである。
斜板支持体10はケーシング2のフロントケーシング2Bに設けられている。この斜板支持体10は、図1に示す如く、回転軸4の周囲に位置して斜板11の裏面側に配置され、ケーシング2のフロントケーシング2Bに固定されている。斜板支持体10には、回転軸4を挟んで左,右方向(または、上,下方向)に離間した一対の傾転支持部10Aが設けられ、該傾転支持部10Aは、斜板11を傾転可能に支持するために凹湾曲状の円弧面を有している。
斜板11はケーシング2内に斜板支持体10を介して傾転可能に設けられている。この斜板11の裏面側には、斜板支持体10の各傾転支持部10Aに向けて凸湾曲状に突出した一対の脚部11Aが設けられている。斜板11の各脚部11Aは、回転軸4を挟んで例えば左,右方向(または、上,下方向)に離間し、凹湾曲状をなす斜板支持体10の傾転支持部10Aに摺動可能に嵌合されている。
一方、斜板11の表面側は、各シュー8を摺動可能に案内する平滑面11Bとなっている。また、斜板11には、その板厚方向に貫通して延びる貫通穴11Cが設けられ、該貫通穴11C内には、一対の脚部11A間に位置して回転軸4が隙間をもって挿通されている。斜板11は、図1中に示す矢示A,B方向に後述の傾転アクチュエータ12(サーボピストン13,14)を用いて傾転駆動される。油圧ポンプ1の吐出容量(圧油の吐出流量)は、斜板11の傾転角に応じて可変に制御されるものである。
斜板11を傾転駆動する傾転アクチュエータ12は、図1に示すように、シリンダブロック5の径方向で互いに対向して位置するように、ケーシング2のケーシング本体2Aに設けられた一対のサーボピストン13,14を含んで構成されている。ここで、該サーボピストン13,14は、シリンダブロック5の径方向外側に位置してケーシング本体2Aに形成されたシリンダ穴13A,14Aと、該シリンダ穴13A,14A内に摺動可能に挿嵌され、該シリンダ穴13A,14Aとの間に液圧室13B,14Bを画成した傾転ピストン13C,14Cと、液圧室13B,14B内に配設され傾転ピストン13C,14Cを斜板11側に向けて常時付勢するばね13D,14Dとを含んで構成されている。
傾転アクチュエータ12(サーボピストン13,14)の液圧室13B,14Bには、図4に示す後述の電気−油圧変換装置41から傾転制御圧が給排される。ここで、サーボピストン13,14は、ケーシング本体2Aに対しシリンダブロック5の径方向で互いに対向する位置に配設され、傾転ピストン13C,14Cによって斜板11を矢示A,B方向に傾転駆動する。即ち、サーボピストン13,14の液圧室13B,14Bには、制御管路(図示せず)を介して前記傾転制御圧が給排される。
そして、この傾転制御圧で傾転ピストン13Cがシリンダ穴13A内から伸長し、傾転ピストン14Cがシリンダ穴14A内へと縮小するときには、斜板11が傾転ピストン13Cによって矢示A方向(正方向)に傾転駆動される。また、傾転ピストン14Cがシリンダ穴14A内から伸長し、傾転ピストン13Cがシリンダ穴13A内に縮小するときには、斜板11が傾転ピストン14Cによって矢示B方向(逆方向)に傾転駆動されるものである。
斜板11は、傾転アクチュエータ12により傾転角零の位置から矢示A方向(正方向)または矢示B方向(逆方向)に傾転駆動される。斜板11の傾転角が零のときには、油圧ポンプ1による圧油の吐出量が実質的に零流量となり、斜板11が矢示A方向または矢示B方向に傾転されるときには、給排通路3Aまたは3Bから吐出される圧油の吐出量が傾転角に従って増減される。
弁板15は、ケーシング2内に位置してリヤケーシング2Cとシリンダブロック5との間に設けられている。この弁板15は、シリンダブロック5を挟んで斜板11とは軸方向の反対側となる位置に配置されている。弁板15は、リヤケーシング2Cと一緒にシリンダブロック5を回転可能に支持し、回転軸4と一体に回転するシリンダブロック5は、軸方向他側の端面が弁板15の表面(一側面)に摺接している。
図2に示す如く、弁板15には、一対の眉形状をなす給排ポート15A,15Bが第1,第2の切換ランド15C,15Dを挟んで形成されている。ここで、一方の給排ポート15Aはリヤケーシング2Cの給排通路3Aに常時連通し、他方の給排ポート15Bは給排通路3Bと常時連通している。弁板15の給排ポート15Aと給排ポート15Bとは、シリンダブロック5の回転時に各シリンダ6のシリンダポート6Aと間欠的に連通する。
斜板11を傾転アクチュエータ12により傾転角零の位置から矢示A方向(正方向)に傾転駆動している場合を例に挙げると、各シリンダ6内を往復するピストン7は、その吸入行程で一方の給排通路3Aから給排ポート15Aを介して各シリンダ6内に作動油を吸込む。そして、各ピストン7は、その吐出行程において各シリンダ6内で高圧状態となった圧油を給排ポート15Bを介して他方の給排通路3Bに向け吐出させる。
なお、斜板11を傾転アクチュエータ12により傾転角零の位置から矢示B方向(逆方向)に傾転駆動する場合は、他方の給排通路3Bから給排ポート15Bを介して各シリンダ6内に作動油が吸込まれ、各シリンダ6内で高圧状態となった圧油が給排ポート15Aを介して一方の給排通路3Aから吐出される。換言すると、斜板11が傾転角零の位置から正,逆いずれの方向に傾転されるかに応じて、圧油の吐出方向が変わるだけであり、以下の説明では、基本的に斜板11を矢示A方向(正方向)に傾転する場合を例に挙げて説明する。
弁板15に形成した第1の切換ランド15Cは、一例としてピストン7が吐出行程から吸入行程に切換わる位置(即ち、上死点側の位置)に配置されている。第2の切換ランド15Dは、ピストン7が吸入行程から吐出行程に切換わる位置(即ち、下死点側の位置)に配置されている。また、弁板15の給排ポート15Aには、ノッチ15Eが第1の切換ランド15C側に向けて三角形状に延びる切欠きとして形成されている。一方、弁板15の給排ポート15Bには、ノッチ15Fが第2の切換ランド15D側に向けて三角形状に延びる切欠きとして形成されている。
換言すると、弁板15の表面側は、図2に示すように、給排ポート15A,15Bの間が第1,第2の切換ランド15C,15Dとなり、これらの切換ランド15C,15Dは、弁板15(回転軸4)の中心Oを挟んで径方向で対向する位置に配設されている。即ち、中心Oの位置で互いに直交するX−X線、Y−Y線のうち、Y−Y線に沿った方向に第1,第2の切換ランド15C,15Dは配設されている。斜板11が傾転角零の位置から正方向(図1中の矢示A方向)に傾転されるときに、弁板15の第1の切換ランド15Cは、図2に示すY−Y線に沿った方向で各シリンダ6内を変位するピストン7の例えば上死点側に位置し、第2の切換ランド15Dは、例えばピストン7の下死点側に位置している。
一方、斜板11が傾転角零の位置から逆方向(図1中の矢示B方向)に傾転されているときには、弁板15の第1の切換ランド15Cは、図2に示すY−Y線に沿った方向で各シリンダ6内を変位するピストン7の例えば下死点側に位置し、第2の切換ランド15Dは、例えばピストン7の上死点側に位置することになる。
弁板15の給排ポート15Aと給排ポート15Bとは、シリンダブロック5の回転時に各シリンダ6と夫々のシリンダポート6Aを介して間欠的に連通し、例えば一方の給排通路3A(または3B)側から各シリンダ6内に吸込まれた作動油をピストン7により加圧させると共に、各シリンダ6内で高圧状態となった圧油を他方の給排通路3B(または3A)から吐出させる機能を有している。
第1の切換ランド15Cには第1の連通穴16が設けられている。第1の連通穴16は、前記吐出行程または吸入行程の最後で夫々のシリンダポート6Aを介して各シリンダ6内に連通するように、第1の切換ランド15Cの表面側に小径孔として開口している。シリンダブロック5が図2中の矢示C方向に回転するとき、第1の連通穴16は、給排ポート15Bの後端(シリンダブロック5の回転方向後側端部)から、例えばシリンダポート6Aの孔寸法分だけ矢示C方向に離間した位置に配設されている。これにより、第1の連通穴16は、一例として述べると、シリンダブロック5の回転に伴って各ピストン7が吐出行程から吸入行程に切換わる途中で該当するシリンダ6内に残った圧力をタンク20に排出(開放)するものである。
また、第2の切換ランド15Dには第2の連通穴17が設けられている。第2の連通穴17は、前記吸入行程または吐出行程の最後で各シリンダ6内に夫々のシリンダポート6Aを介して連通するように、第2の切換ランド15Dの表面側に小径孔として開口している。第2の連通穴17は、給排ポート15Aの後端(シリンダブロック5の回転方向後側端部)から、例えばシリンダポート6Aの孔寸法分だけ矢示C方向に離間した位置に配設されている。これにより、第2の連通穴17は、一例として述べると、シリンダブロック5の回転に伴って各ピストン7が吸入行程から吐出行程に切換わり始めるシリンダ6内に後述の圧油(圧力)を供給するものである。
弁板15には第1の連通穴16に連通する第1の管路18が設けられている。第1の管路18は、弁板15の第1の切換ランド15C(第1の連通穴16)の位置から、例えばリヤケーシング2Cの方に延びて第1の切換弁19と接続されている。第1の切換弁19は、例えばリヤケーシング2C内に配置することができる。そして、第1の切換弁19は、第1の連通穴16に連通する第1の管路18を一対の給排ポート15A,15Bのうち高圧側となる給排ポートまたは所定の低圧部位であるタンク20に選択的に切換えて接続する。このタンク20は、作動油を収容するためにホイールローダに搭載された作動油タンクである。
第1の切換弁19は、例えば左,右両側に油圧パイロット部19A,19Bが設けられた油圧パイロット式方向切換弁により構成されている。第1の切換弁19は、これらの油圧パイロット部19A,19Bと一対の給排ポート15A,15Bとの間がパイロット管路21A,21Bを介して接続されている。これにより、第1の切換弁19は、一対の給排ポート15A,15B間の圧力差に従って切換位置(a),(b)のいずれかに切換えられる。
即ち、第1の切換弁19は、給排ポート15Aよりも給排ポート15Bの方が高圧となるときに図2に示す如く切換位置(a)に切換えられる。この切換位置(a)で第1の切換弁19は、第1の連通穴16に連通する第1の管路18をタンク20(所定の低圧部位)に接続する。また、給排ポート15Aの方が給排ポート15Bよりも高圧となるときに、第1の切換弁19は切換位置(b)に切換えられる。この切換位置(b)で第1の切換弁19は、第1の連通穴16に連通する第1の管路18を高圧側の給排ポート15Aに連通させるように接続する。
また、弁板15には第2の連通穴17に連通する第2の管路22が設けられている。第2の管路22は、弁板15の第2の切換ランド15D(第2の連通穴17)の位置から、例えばリヤケーシング2Cの方に延びて第2の切換弁23と接続されている。第2の切換弁23は、例えばリヤケーシング2C内に配置することができる。そして、第2の切換弁23は、第2の連通穴17に連通する第2の管路22を一対の給排ポート15A,15Bのうち高圧側となる給排ポートまたはタンク20に選択的に切換えて接続する。
第2の切換弁23、例えば左,右両側に油圧パイロット部23A,23Bが設けられた油圧パイロット式方向切換弁により構成されている。第2の切換弁23は、これらの油圧パイロット部23A,23Bと一対の給排ポート15A,15Bとの間がパイロット管路24A,24Bを介して接続されている。これにより、第2の切換弁23は、一対の給排ポート15A,15B間の圧力差に従って切換位置(a),(b)のいずれかに切換えられる。
即ち、第2の切換弁23は、給排ポート15Aよりも給排ポート15Bの方が高圧となるときに図2に示す如く切換位置(a)に切換えられる。この切換位置(a)において、第2の切換弁23は、第2の連通穴17に連通する第2の管路22を高圧側の給排ポート15Bに連通させるように接続する。また、給排ポート15Aの方が給排ポート15Bよりも高圧となるときに、第2の切換弁23は切換位置(b)に切換えられる。この切換位置(b)において、第2の切換弁23は、第2の連通穴17に連通する第2の管路22をタンク20に接続する。
図3に示すエンジン25は、ホイールローダに代表される建設機械の原動機であり、例えばディーゼルエンジンにより構成されている。このエンジン25は、例えば動力伝達機構26等を介して可変容量型斜板式閉回路用油圧ポンプ1の回転軸4に連結され、かつメインポンプ27、パイロットポンプ28にも連結されている。
メインポンプ27は、例えばホイールローダのアームシリンダに代表される油圧シリンダ30等に向けて圧油を供給する可変容量型油圧ポンプにより構成されている。メインポンプ27はタンク20と共にメインの油圧源を構成している。パイロットポンプ28は、原動機としてのエンジン25によりメインポンプ27と一緒に回転駆動される。パイロットポンプ28は、タンク20と共にパイロット油圧源を構成している。
方向制御弁29は、メインポンプ27、タンク20と油圧シリンダ30との間に設けられている。この方向制御弁29は、例えば6ポート3位置の油圧パイロット式方向制御弁からなり、後述の操作弁32からパイロット管路33A,33Bを介してパイロット圧が供給されることにより、中立位置(c)から切換位置(d),(e)のいずれかに切換えられる。このとき、メインポンプ27から油圧シリンダ30に給排される圧油の流量は、方向制御弁29のストローク量(即ち、操作レバー32Aの傾転操作量)に対応して可変に制御される。
油圧シリンダ30は、例えばホイールローダの油圧アクチュエータを構成するもので、この油圧シリンダ30は、ロッド側油室30Aとボトム側油室30Bとを有している。油圧シリンダ30のロッド側油室30Aとボトム側油室30Bとは、一対の主管路31A,31Bを介して方向制御弁29に接続されている。
方向制御弁29が中立位置(c)から切換位置(d)に切換えられたときには、メインポンプ27からの圧油が油圧シリンダ30のロッド側油室30Aに供給され、ボトム側油室30Bからはタンク20に向けて作動油が排出される。これにより、油圧シリンダ30は縮小方向に駆動される。方向制御弁29が中立位置(c)から切換位置(e)に切換えられたときには、メインポンプ27からの圧油が油圧シリンダ30のボトム側油室30Bに供給され、ロッド側油室30Aからはタンク20に向けて作動油が排出される。これにより、油圧シリンダ30は伸長方向に駆動される。
操作弁32は油圧シリンダ30を遠隔操作する減圧弁型のパイロット操作弁により構成されている。この操作弁32は、例えばホイールローダの運転席(図示せず)近傍に設けられ、オペレータにより傾転操作される操作レバー32Aを有している。操作弁32は、そのポンプポートがパイロットポンプ28に接続され、タンクポートがタンク20に接続されている。操作弁32の出力ポートは、方向制御弁29にパイロット管路33A,33Bを介して接続されている。操作弁32は、オペレータが操作レバー32Aを傾転操作したときに、その操作量に対応したパイロット圧をパイロット管路33A,33Bを通じて方向制御弁29に供給する。
これにより、方向制御弁29は中立位置(c)から切換位置(d),(e)のいずれか一方に操作レバー32Aの操作量に対応したストローク量で切換制御される。メインポンプ27の吐出側には、タンク20との間にリリーフ弁34が設けられている。このリリーフ弁34は、メインポンプ27の吐出圧を予め決められたリリーフ設定圧以下の圧力に抑える。このリリーフ設定圧は、メインポンプ27に過剰圧が作用するのを防ぐための圧力に設定されている。
図3に示すように、可変容量型斜板式閉回路用油圧ポンプ1(油圧ポンプ1)は、一対の主管路35A,35Bを介して走行用の油圧モータ36(以下、走行モータ36という)に接続されている。油圧ポンプ1は、エンジン25により回転軸4が回転駆動され、一対の主管路35A,35B内に圧油を流通させる。油圧ポンプ1は、主管路35A,35Bを介して走行モータ36に接続され、所謂HST(ハイドロスタティックトランスミッション)と呼ばれる仕様の油圧閉回路を構成している。
走行モータ36は、例えば減速機37を介してホイール式作業車両(ホイールローダ)の車輪38に連結されている。そして、走行モータ36は、油圧ポンプ1からの圧油が主管路35A,35Bを介して給排されることにより、車輪38を回転駆動してホイールローダを走行駆動するものである。ホイールローダの運転席前側には、例えば図4に示すアクセルペダル39が設けられている。このアクセルペダル39は車両走行時の操作手段であり、例えばペダル操作量に対応した電気信号を出力する電気式操作装置により構成されている。
コントローラ40は、アクセルペダル39のペダル操作量に基づいて電気−油圧変換装置41に制御信号を出力する制御手段である。このコントローラ40は、その入力側にアクセルペダル39と後述の前後進切換レバー42とが接続され、出力側には電気−油圧変換装置41が接続されている。電気−油圧変換装置41は、コントローラ40からの制御信号(例えば、電流値)に対応したパイロット圧を、前記傾転制御圧として発生させる。
油圧ポンプ1の傾転アクチュエータ12は、電気−油圧変換装置41から供給される傾転制御圧に従って、図1中に示す斜板11を傾転駆動するサーボピストン13,14を前述の如く備えている。電気−油圧変換装置41は、例えばパイロットポンプ28から供給されるパイロット圧油を、コントローラ40からの制御信号(例えば、電流値)に比例して減圧制御する電磁比例減圧弁により構成されている。
コントローラ40は、ROM,RAM,不揮発性メモリ等の記憶部40Aを有し、この記憶部40Aには、例えば図5に示す特性線43が特性マップとして更新可能に格納されている。この特性線43は、例えばポジティブコントロールにより油圧ポンプ1の容量制御を行うために、コントローラ40から電気−油圧変換装置41に出力する制御信号(即ち、斜板11の傾転角)をアクセルペダル39の操作量(傾転指令)に対応して増減させる特性に設定されている。
斜板11の傾転方向は、例えば前後進切換レバー42によって切換えられる。この前後進切換レバー42を前進側に切換えているときは、アクセルペダル39の操作量が図5中に示すプラス(正)方向の傾転指令として出力され、これにより、斜板11は傾転角零の位置から矢示A方向に傾転駆動される。一方、前後進切換レバー42を後進側に切換えているときは、アクセルペダル39の操作量が図5中に示すマイナス(負)方向の傾転指令として出力され、これにより、斜板11は傾転角零の位置から矢示B方向に傾転駆動される。
なお、電気−油圧変換装置41は、図5に示す特性線43のように、アクセルペダル39の操作量(傾転指令)に基づいて制御信号の電流値(即ち、斜板11の傾転角)が可変に制御される構成であればよく、必ずしもコントローラ40を用いる必要はない。例えば、ポテンショメータ等の可変抵抗器を用いて、電気−油圧変換装置41をアクセルペダル39の操作量に応じて駆動し、油圧ポンプ1の傾転アクチュエータ12(サーボピストン13,14)に供給する傾転制御圧を可変に制御する構成としてもよい。
本実施の形態による可変容量型斜板式閉回路用油圧ポンプ1が適用された油圧回路は、上述の如き構成を有するもので、次にその作動について説明する。
まず、ホイールローダの運転席に搭乗したオペレータが、エンジン25を始動すると、例えば油圧ポンプ1の回転軸4がシリンダブロック5と一緒に回転駆動される。この状態で、車両を前進させるためにアクセルペダル39を踏込み操作すると、この操作量(傾転指令)に対応して斜板11の傾転角が、電気−油圧変換装置41および傾転アクチュエータ12により、図5の特性線43に沿って可変に制御される。
図4に示す油圧ポンプ1から吐出される圧油は、例えば主管路35Aから走行モータ36に供給されつつ、例えば主管路35Bから油圧ポンプ1へと還流される。このとき、圧油の吐出量は、斜板11の傾転角に応じて増減されるので、走行モータ36の回転速度(即ち、車両の走行速度)は、斜板11の傾転角に対応して増速または減速される。
ここで、油圧ポンプ1は、斜板11が傾転角零の位置から両方向(図1中の矢示A,B方向)に傾転可能で、圧油の吐出方向が図3中の矢示F方向(例えば、車両の前進方向)と矢示R方向(例えば、車両の前進方向)とに切換えられる、所謂閉回路ポンプとして構成され、それぞれの給排通路3A,3Bが走行モータ36の2つのポートに一対の主管路35A、35Bを介して接続されている。
油圧ポンプ1による圧油の吐出量は、斜板11の傾転角に応じて可変に制御され、これはオペレータによるアクセルペダル39の踏込み量(傾転指令)により図5中の特性線43のように決定される。即ち、アクセルペダル39による傾転指令は、車両の目標速度指令であり、油圧ポンプ1のケーシング2内に設けられる傾転アクチュエータ12を制御することで行われる。
例えば、ホイールローダ(車両)が平地を停止状態から発進加速する場合、オペレータがアクセルペダル39を踏込むと、傾転アクチュエータ12が斜板11の傾転角を、ポンプ吐出流量零からペダル踏込み量に応じた傾転量に増やすことで、油圧ポンプ1は吐出する側(例えば、一方の給排通路3A)が高圧になる。この高圧油は、主管路35Aを介して走行モータ36の入口側ポートに供給され、例えば車両重量分の慣性体をポンプ流量に応じて加速をするために必要な圧力(吐出圧)が油圧ポンプ1に発生する。
これにより、車両の走行速度がオペレータが所望の目標速度に達すると、オペレータはアクセルペダル39の踏込み操作量を所望量に維持するように操作し、このときは、車両が等速運動することにより、油圧ポンプ1の吐出圧は車体システムの固定損失分程度なので低い。次に、車両が一定速度で走行している状態から減速して停止する場合は、オペレータがアクセルペダル39を踏込んだ状態から操作量を減少させるように戻すことになる。
このような車両の減速時には、油圧ポンプ1の傾転アクチュエータ12がポンプ流量(斜板11の傾転角)を減らすことになるので、走行モータ36側から例えば主管路35Bを介して油圧ポンプ1側に戻る圧油により圧力が発生することになる。この状態は、油圧ポンプ1の入口側(例えば、他方の給排通路3Bに接続された主管路35B)の方が、出口側(例えば、一方の給排通路3Aに接続された主管路35A)よりも高圧になり、油圧ポンプ1は慣性回転されるモータ作用の状態である。
このとき、走行モータ36は、同時に吐出側(主管路35B)が高圧なので、ポンプ作用することにより主管路35B内にはブレーキ圧が発生し、走行モータ36の駆動トルクは車両を減速するように働く。このようにして、油圧ポンプ1は、アクセルペダル39の操作量を減少させ、斜板11の傾転角を下げていき零傾転になると、吐出流量零で車両は停止状態となる。
油圧ポンプ1の斜板11を傾転角零の位置から一方向(例えば、図1中の矢示A方向)に傾転している状態では、弁板15に設けた一対の給排ポート15A,15Bのうち、一方の給排通路3Aに連通する給排ポート15Aが吸入ポートとなり、他方の給排通路3Bに連通する給排ポート15Bは吐出ポートなる。この状態で、油圧ポンプ1が前述の如くモータ作用するまでは、給排ポート15A(吸入ポート)よりも給排ポート15B(吐出ポート)の方が高圧となる。
しかし、油圧ポンプ1と走行モータ36との間を接続する回路を油圧閉回路とし、油圧ポンプ1を可変容量型斜板式閉回路用油圧ポンプとして用いる場合は、例えば車両の減速時に走行モータ36が慣性回転すると、油圧ポンプ1は前述の如くモータ作用する。このため、油圧ポンプ1が所謂モータ作用する間は、一対の給排ポート15A,15Bのうち、一方の給排通路3Aに連通する給排ポート15Aの方が、他方の給排通路3Bに連通する給排ポート15Bよりも高圧になる。
ところで、油圧ポンプ1の各ピストン7から斜板11に作用する合力の着力点、即ち合力作用点(ピストン荷重)による傾転モーメントは、例えば車両の減速時に走行モータ36が慣性回転すると、斜板11の傾転角を大きくする側に作用する。即ち、油圧ポンプ1が所謂モータ作用するときには、一対の給排ポート15A,15Bの圧力が所謂ポンプ作用時とは逆転し、前記合力の着力点または合力作用点(ピストン荷重)による傾転モーメントは、斜板11の傾転角を大きくする側に作用する。
このため、走行中の車両を減速するために、オペレータがアクセルペダル39の踏込み操作量を減少させて車両を停止させようとするときに、前記傾転モーメントは斜板11の傾転角を小さくするのを妨げる側に作用し、これによって、車両の走行停止が遅くなる虞れがある。これは、例えば車両が坂道を降坂するときにも同様な問題がある。
そこで、本実施の形態では、各シリンダ6のシリンダポート6Aと間欠的に連通する一対の給排ポート15A,15B間に位置して弁板15に、第1,第2の切換ランド15C,15Dが形成されている可変容量型斜板式閉回路用油圧ポンプ1において、弁板15の第1の切換ランド15Cには、各ピストン7の吐出行程または吸入行程の最後で各シリンダ6内にそれぞれ連通する第1の連通穴16を設け、弁板15の第2の切換ランド15Dには、前記吸入行程または吐出行程の最後で各シリンダ6内にそれぞれ連通する第2の連通穴17を設ける構成としている。
この上で、一対の給排ポート15A,15B間の圧力差に従って切換えられ、前記第1の連通穴16に連通する第1の管路18を、タンク20または一対の給排ポート15A,15Bのうち高圧側となる給排ポートに選択的に切換えて接続する第1の切換弁19と、一対の給排ポート15A,15B間の圧力差に従って切換えられ、第2の連通穴17に連通する第2の管路22を、一対の給排ポート15A,15Bのうち高圧側となる給排ポートまたはタンク20に選択的に切換えて接続する第2の切換弁23とを備える構成としている。
これにより、油圧ポンプ1が通常のポンプ作用を行うことによって、給排ポート15A(吸入ポート)よりも給排ポート15B(吐出ポート)の方が高圧となるときには、図2に示すように、第1,第2の切換弁19,23が切換位置(a)に切換えられた状態となる。このとき、第1の切換弁19は、切換位置(a)で第1の管路18をタンク20に接続する。このため、第1の連通穴16は、例えばシリンダブロック5の矢示C方向の回転に伴って各ピストン7が吐出行程から吸入行程に切換わる途中で該当するシリンダ6内に残った圧力を、第1の管路18からタンク20へと排出(開放)することができる。
また、第2の切換弁23は、切換位置(a)で第2の連通穴17に連通する第2の管路22を高圧側の給排ポート15Bに連通させるように接続する。これにより、第2の連通穴17は、例えばシリンダブロック5の矢示C方向の回転に伴って各ピストン7が吸入行程から吐出行程に切換わり始めるシリンダ6内に給排ポート15B内の圧油(圧力)を供給することができる。このため、各ピストン7が吸入行程から吐出行程へと切換わる位置にある第2の切換ランド15D側では、各シリンダ6のうち吸入ポート(即ち、給排ポート15A)を通過したシリンダ6内に吐出ポート(即ち、給排ポート15B)側の高圧が流入するので、ピストン7の合力作用点を下死点側に移動させるように働く。
このように、油圧ポンプ1が通常のポンプ作用を行い、給排ポート15A(吸入ポート)よりも給排ポート15B(吐出ポート)の方が高圧となるときには、第1切換弁19を切換位置(a)に切換えることにより、吐出行程の最後でシリンダブロック5の各シリンダ6内に残った圧力をタンク20側に開放して逃がすことができる。また、第2の切換弁23を切換位置(a)に切換えることにより、シリンダ6内の圧力上昇タイミングを早めることで、斜板11に作用する力をより下死点側に移動させることができる。このため、斜板11に働く合力の着力点は、斜板11の傾転中心を通るX−X線に近付く方向に移動するようになり、合力の着力点が、傾転中心を通るX−X線に対し上死点側にずれて作用するのを抑え、自動的に傾転モーメントを低減することができる。
次に、油圧ポンプ1が前述の如く所謂モータ作用を行うことによって、給排ポート15A(吸入ポート)方が給排ポート15B(吐出ポート)よりも高圧となるときには、第1,第2の切換弁19,23が切換位置(a)から切換位置(b)に切換えられる。このとき、第1の切換弁19は、切換位置(b)で第1の管路18を高圧側の給排ポート15Aに連通させるように接続する。このため、第1の連通穴16は、例えばシリンダブロック5の矢示C方向の回転に伴って各ピストン7が吐出行程から吸入行程に切換わり始めるシリンダ6内に給排ポート15A内の圧油(圧力)を供給することができる。
また、第2の切換弁23は、切換位置(b)で第2の連通穴17に連通する第2の管路22をタンク20に接続する。これにより、第2の連通穴17は、例えばシリンダブロック5の矢示C方向の回転に伴って各ピストン7が吸入行程から吐出行程に切換わる途中で該当するシリンダ6内に残った圧力(所謂モータ作用時の圧力)を、第2の管路22からタンク20へと排出(開放)することができる。
このため、油圧ポンプ1が所謂モータ作用を行い、給排ポート15A(吸入ポート)方が給排ポート15B(吐出ポート)よりも高圧となるときには、第1の切換弁19を切換位置(a)から切換位置(b)に切換えることにより、吐出行程の最後で低圧のシリンダ6内に高圧を供給できるので、斜板11に作用するピストン力が発生するタイミングを早められるので、ピストン7の合力作用点を上死点側に移動させることができる。一方、第2の切換弁23を切換位置(a)から切換位置(b)に切換えることにより、吸入行程の最後でシリンダブロック5の各シリンダ6内に残った圧力をタンク20側に開放して逃がすことができる。この結果、斜板11に働く合力作用点(合力の着力点)は、斜板11の傾転中心を通るX−X線に近付く方向に移動するようになり、合力の着力点が、傾転中心を通るX−X線に対し下死点側にずれて作用するのを抑え、自動的に傾転モーメントを低減することができる。
従って、本実施の形態によれば、可変容量型斜板式閉回路用ポンプ1が通常のポンプ作用を行うときか、所謂モータ作用を行うときかのいずれの動作においても、自動的に傾転モーメントを低減することができる。これにより、ポンプ傾転の応答性が向上し、車両走行時の操作応答がよくなるので、走行操作性がアップすると共に、信頼性の向上も図ることができる。また、傾転アクチュエータ12やパイロットポンプ28の大型化、傾転制御圧の高圧化を回避することができ、可変容量型斜板式閉回路用ポンプ1のコスト低減にも寄与する。
なお、前記実施の形態では、可変容量型斜板式閉回路用ポンプ1をホイールローダに適用する場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えばホイール式油圧ショベル等のように、油圧モータとの間を油圧閉回路で接続する構成とした建設機械に適用してもよいものである。