JP2019161075A - 圧電積層体、圧電積層体の製造方法および圧電デバイス - Google Patents

圧電積層体、圧電積層体の製造方法および圧電デバイス Download PDF

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Abstract

【課題】アルカリニオブ酸化物を用いて製膜された圧電膜の耐久性を向上させる。【解決手段】基板と、基板上に製膜された圧電膜と、を備え、圧電膜は、組成式(K1−xNax)NbO3(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなり、ヤング率が100GPa未満の膜である。【選択図】図1

Description

本発明は、圧電積層体、圧電積層体の製造方法および圧電デバイスに関する。
圧電体は、センサ、アクチュエータ等の機能性電子部品に広く利用されている。圧電体の材料としては、鉛系材料、特に、組成式Pb(Zr1−xTi)Oで表されるPZT系の強誘電体が広く用いられている。PZT系の圧電体は鉛を含有しているため、公害防止の面等から好ましくない。そこで、鉛非含有の圧電体の材料として、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。近年、KNNのように鉛非含有の材料からなる圧電体の性能をさらに高めることが強く求められている。
特開2007−184513号公報 特開2008−159807号公報
本発明の目的は、アルカリニオブ酸化物を用いて製膜された圧電膜の耐久性を向上させることにある。
本発明の一態様によれば、
基板と、前記基板上に製膜された圧電膜と、を備え、
前記圧電膜は、組成式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなり、ヤング率が100GPa未満の膜である圧電積層体およびその関連技術が提供される。
本発明によれば、アルカリニオブ酸化物を用いて製膜された圧電膜の耐久性を向上させることが可能となる。
本発明の一実施形態にかかる圧電積層体の断面構造の一例を示す図である。 本発明の一実施形態にかかる圧電積層体の断面構造の変形例を示す図である。 本発明の一実施形態にかかる圧電デバイスの概略構成の一例を示す図である。 (a)は、圧電膜に対してラマン分光分析を行って得られたラマンスペクトルの一部を抜粋したグラフ図であり、(b)は、圧電膜のラマンスペクトルにおけるNbOの対称伸縮振動のピークの評価結果を示す図である。
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
(1)圧電積層体の製造方法
本実施形態では、一例として、
基板1を用意する処理(ステップ1)と、
基板1上に下部電極膜(第1電極膜)2を製膜する処理(ステップ2)と、
下部電極膜2上に圧電膜(圧電薄膜)3を製膜する処理(ステップ3)と、
圧電膜3上に上部電極膜(第2電極膜)4を製膜する処理(ステップ4)と、
を行い、図1に例示する圧電膜3を有する積層体(積層基板)10(以下、圧電積層体10とも称する)を形成する。図1に例示するように、本実施形態にかかる圧電積層体10は、基板1と、基板1上に製膜された下部電極膜2と、下部電極膜2上に製膜された圧電膜3と、圧電膜3上に製膜された上部電極膜4と、を備えている。以下、各ステップの詳細について説明する。
(ステップ1:基板の用意)
本ステップでは、まず、基板1を用意する。基板1としては、熱酸化膜またはCVD(Chemical Vapor Deposition)酸化膜等の表面酸化膜(SiO膜)1bが形成された単
結晶シリコン(Si)基板1a、すなわち、表面酸化膜を有するSi基板を好適に用いることができる。また、基板1としては、図2に示すように、その表面にSiO以外の絶縁性材料により形成された絶縁膜1dを有するSi基板1aを用いることもできる。また、基板1としては、表面にSi(100)面またはSi(111)面等が露出したSi基板1a、すなわち、表面酸化膜1bまたは絶縁膜1dを有さないSi基板を用いることもできる。また、基板1としては、SOI(Silicon On Insulator)基板、石英ガラス(SiO)基板、ガリウム砒素(GaAs)基板、サファイア(Al)基板、ステンレス(SUS)等の金属材料により形成された金属基板を用いることもできる。単結晶Si基板1aの厚さは例えば300〜1,000μm、表面酸化膜1bの厚さは例えば5〜3,000nmとすることができる。
(ステップ2:下部電極膜の製膜)
ステップ1が終了したら、基板1上に下部電極膜2を製膜する。下部電極膜2は、例えば、白金(Pt)を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、単結晶膜または多結晶膜(以下、これらをPt膜とも称する)となる。Pt膜を構成する結晶は、基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、Pt膜の表面(圧電膜3の下地となる面)は、主にPt(111)面により構成されていることが好ましい。Pt膜は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、Pt以外に、金(Au)、ルテニウム(Ru)、またはイリジウム(Ir)等の各種金属、これらを主成分とする合金、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO)またはニッケル酸ランタン(LaNiO)等の金属酸化物等を用いて製膜することもできる。なお、基板1と下部電極膜2との間には、これらの密着性を高めるため、例えば、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO)、ニッケル(Ni)等を主成分とする密着層6を設けてもよい。密着層6は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2の厚さは例えば100〜400nm、密着層6の厚さは例えば1〜200nmとすることができる。
(ステップ3:圧電膜の製膜)
ステップ2が終了したら、下部電極膜2上に圧電膜3を製膜する。
圧電膜3は、例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)を含み、組成式(K1−xNa)NbOで表されるアルカリニオブ酸化物、すなわち、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)を用いて製膜することができる。上述の組成式中の係数x[=Na/(K+Na)]は、0<x<1、好ましくは0.4≦x≦0.7の範囲内の大きさとする。圧電膜3は、KNNの多結晶膜(以下、KNN膜3とも称する)となる。
KNNの結晶構造は、ペロブスカイト構造となる。
KNN膜3を構成する結晶は、基板1(基板1が例えば表面酸化膜1bまたは絶縁膜1d等を有するSi基板1aである場合はSi基板1a)の表面に対して(001)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、KNN膜3の表面(上部電極膜4の下地となる面)は、主にKNN(001)面方位により構成されていることが好ましい。基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向させたPt膜上にKNN膜3を直接製膜することで、KNN膜3を構成する結晶を、基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向させることが容易となる。例えば、KNN膜3を構成する結晶群のうち80%以上の結晶を基板1の表面に対して(001)面方位に配向させ、KNN膜3の表面のうち80%以上の領域をKNN(001)面とすることが容易となる。
KNN膜3は、例えば、銅(Cu)およびマンガン(Mn)からなる群より選択される金属元素を、例えば0.2at%以上2.0at%以下、好ましくは0.6at%超2.0at%以下の範囲内の濃度で含んでいる。KNN膜3は、リチウム(Li)、Ta、アンチモン(Sb)等のK、Na、Nb、Cu、Mn以外の元素を、KNN膜3のヤング率を後述の範囲内に維持することができる濃度で含んでいてもよい。
KNN膜3は、スパッタリング法、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ゾルゲル
法等の手法を用いて製膜することができる。KNN膜3を例えばスパッタリング法により製膜する場合、KNN膜3の組成比は、例えばスパッタリング製膜時に用いるターゲット材の組成を制御することで調整可能である。ターゲット材は、KCO粉末、NaCO粉末、Nb粉末、CuO粉末、MnO粉末等を混合させて焼成すること等により作製することができる。ターゲット材の組成は、KCO粉末、NaCO粉末、Nb粉末、CuO粉末、MnO粉末の混合比率を調整することで制御することができる。CuまたはMnを上述の濃度で含むKNN膜3は、CuまたはMnを例えば0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含む(K1−xNa)NbO焼結体を用いることで製膜することができる。KNN膜3の厚さは例えば0.5〜5μmとすることができる。
CuまたはMnを例えば0.2at%以上0.6%以下の濃度で含むKNN膜3を製膜する場合の製膜温度(例えばスパッタリング装置等の製膜装置が有するヒータの温度)は、例えば600℃超700℃以下、好ましくは650℃以上680℃以下とすることができる。
CuまたはMnを例えば0.6at%超2.0%以下の濃度で含むKNN膜3を製膜する場合の製膜温度は、例えば500℃以上700℃以下、好ましくは600℃以上680℃以下、より好ましくは650℃以上680℃以下とすることができる。
上述のように製膜されたKNN膜3は、ヤング率が例えば100GPa未満、好ましくは53GPa以上73GPa以下、より好ましくは53GPa以上68GPa以下の膜となる。本明細書におけるヤング率は、例えばUltrasonics56(2015)の91頁のFig.1、IEEE Ultrasonics Symposiumの1434頁のFigure.1等に記載のポンプ・プローブ法を用いて測定した値である。
なお、従来の技術では、100GPa未満のヤング率を有するKNN膜を達成することができなかった。本願発明者は、KNN膜3中にCuまたはMnを上述の範囲内の濃度で添加し、かつ、KNN膜3の製膜温度を上述の範囲内の温度とすることで、100GPa未満のヤング率を有するKNN膜3を達成することができることを見出した。このことは、本願発明者の鋭意研究により初めて見出された事項である。
例えば、KNN膜3中にCuまたはMnを0.2at%以上0.6%以下の範囲内の濃度で含ませ、かつ、KNN膜3の製膜温度を600℃超700℃以下の範囲内とすることで、KNN膜3のヤング率を100GPa未満にすることができる。この場合、KNN膜3の製膜温度を例えば650℃以上680℃以下の範囲内とすることで、KNN膜3のヤング率をより低くする、例えば73GPa以下にすることができる。
また例えば、KNN膜3中にCuまたはMnを0.6at%超2.0at%以下の範囲内の濃度で含ませ、かつ、KNN膜3の製膜温度を500℃以上700℃以下の範囲内とすることで、KNN膜3のヤング率を100GPa未満にすることができる。この場合、KNN膜3の製膜温度を例えば600℃以上680℃以下の範囲内とすることで、KNN膜3のヤング率をより低くする、例えば73GPa以下にすることができる。また、この場合、KNN膜3の製膜温度を例えば650℃以上680℃以下の範囲内とすることで、KNN膜3のヤング率をさらに低くする、例えば68GPa以下にすることができる。なお、本願発明者は、KNN膜3中にCuまたはMnを0.6at%超2.0at%以下の範囲内の濃度で含ませ、かつ、KNN膜3の製膜温度を650℃とした場合、KNN膜3のヤング率が63GPaになることを確認済みである。
KNN膜3のヤング率は低い方が好ましい。しかしながら、現在の技術では、CuまたはMnを上述の範囲内の濃度で添加し、かつ、製膜温度を上述の範囲内の温度とした場合であっても、53GPa未満のヤング率を有するKNN膜3を達成することは困難である。また、KNN膜3の製膜温度を700℃超としても、KNN膜3のヤング率を低下させる効果が得られないばかりか、KNN膜3の熱履歴が増大してしまう。このため、KNN膜3の製膜温度は700℃以下とすることが好ましい。
上述のように製膜されたKNN膜3に対してラマン分光分析を行って得られたラマンスペクトルは、617.5〜622.5cm−1の範囲内、好ましくは、619.5〜622.5cm−1の範囲内にNbOのピークを有している。このピークはNbOの対称伸縮振動に関する情報である。KNN膜3の製膜温度が高くなるほど、上述のNbOのピークは622cm−1に近づく。NbOのピークが622cm−1に近づくほど、KNN膜3中にNbOに起因する酸素欠損等の欠陥が少なくなる。KNN膜3の製膜温度が高くなるほど、NbOのピークが622cm−1に近づく理由は定かではないが、現段階では、KNN膜3の製膜温度を高くすると、KNN膜3中の酸素欠損等の欠陥が減少するためと考えている。上述のNbOのピークを622cm−1に近づける観点からは、KNN膜3の製膜温度は500℃超700℃以下、好ましくは600℃以上700℃以下、より好ましくは650℃以上700℃以下であるとよい。KNN膜3の製膜温度が500℃であると、上述のNbOのピークにばらつきが生じることがある。KNN膜3の製膜温度が700℃超であると、上述したように、KNN膜3のヤング率を低下させる効果が得られないばかりか、KNN膜3の熱履歴が増大してしまう。
(ステップ4:上部電極膜の製膜)
ステップ3が終了したら、KNN膜3上に、上部電極膜4を製膜する。上部電極膜4は、例えば、Pt、Au、アルミニウム(Al)、Cu等の各種金属、またはこれらの合金を用いて製膜することができる。上部電極膜4は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、金属ペースト法等の手法を用いて製膜することができる。上部電極膜4は、下部電極膜2のようにKNN膜3の結晶構造に大きな影響を与えるものではない。そのため、上部電極膜4の材料、結晶構造、製膜手法は特に限定されない。なお、KNN膜3と上部電極膜4との間には、これらの密着性を高めるため、例えば、Ti、Ta、TiO、Ni等を主成分とする密着層を設けてもよい。上部電極膜4の厚さは例えば100〜5,000nm、密着層を設ける場合には密着層の厚さは例えば1〜200nmとすることができる。
(3)圧電デバイスの構成
図3に、本実施形態におけるKNN膜3を有するデバイス30(以下、圧電デバイス30とも称する)の概略構成図を示す。圧電デバイス30は、KNN膜3を有する素子20(以下、圧電素子20とも称する)と、圧電素子20に接続される電圧印加部11aまたは電圧検出部11bと、を少なくとも備えている。圧電素子20は、上述の圧電積層体10をエッチング等により所定の形状に成形することで得ることができ、圧電デバイス30は、圧電素子20に電圧印加部11aまたは電圧検出部11bを接続することで得ることができる。電圧印加部11aとは、下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧を印加するための手段であり、電圧検出部11bとは、下部電極膜2と上部電極膜4との間に発生した電圧を検出するための手段である。電圧印加部11a、電圧検出部11bとしては、公知の種々の手段を用いることができる。
電圧印加部11aを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイス30をアクチュエータとして機能させることができる。電圧印加部11aにより下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧を印加することで、KNN膜3を変形させることができる。この変形動作により、圧電デバイス30に接続された各種部材を作動させることができる。この場合、圧電デバイス30の用途としては、例えば、インクジェットプリンタ用のヘッド、スキャナー用のMEMSミラー、超音波発生装置用の振動子等が挙げられる。
電圧検出部11bを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイス30をセンサとして機能させることができる。KNN膜3が何らかの物理量の変化に伴って変形すると、その変形によって下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧が発生する。この電圧を電圧検出部11bによって検出することで、KNN膜3に印加された物理量の大きさを測定することができる。この場合、圧電デバイス30の用途としては、例えば、角速度センサ、超音波センサ、圧カセンサ、加速度センサ等が挙げられる。
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
(a)KNN膜3のヤング率を100GPa未満にすることで、KNN膜3の耐久性を向上させることができる。例えば、下記の(式1)により算出される圧電定数d31の劣化率を10%以下にすることができる。KNN膜3の耐久性を向上させることで、KNN膜3を有する圧電積層体10を加工することで作製されるセンサまたはアクチュエータ等の圧電デバイス30の信頼性を向上させる(信頼度を高める)ことができる。
(式1)
圧電定数d31の劣化率(%)={(初期の圧電定数d31)−(10億回駆動後の圧電定数d31)/(初期の圧電定数d31)}×100
上記(式1)中、「初期の圧電定数d31」とは、駆動回数が0回、すなわち1回も駆動させていないKNN膜3に対して、厚さ方向に100kV/cmの電界を印加することにより測定した圧電定数d31である。「10億回駆動後の圧電定数d31」とは、0〜300kV/cmのsin波の電界を印加して10億回駆動させた後のKNN膜3に対して、厚さ方向に100kV/cmの電界を印加することにより測定した圧電定数d31である。
(b)KNN膜3のヤング率を低くすることで、KNN膜3を駆動させた際、KNN膜3
が割れにくく(破損しにくく)なる。その結果、KNN膜3の寿命がより長くなる。
(c)KNN膜3中にCuまたはMnを0.6at%超2.0at%以下の範囲内の濃度で添加することで、KNN膜3の製膜温度を低くしても(例えば500℃以上600℃以下の範囲内の温度としても)、KNN膜3のヤング率を100GPa未満にすることができる。KNN膜3の製膜温度を低くすることで、KNN膜3の熱履歴を抑えることができる。これに対し、KNN膜3中にCuまたはMnを0.2at%以上0.6at%以下の範囲内の濃度で添加した場合、KNN膜3の製膜温度を600℃超としなければ、KNN膜3のヤング率を100GPa未満にすることができないことがある。
(d)KNN膜3中にCuまたはMnを0.2at%以上2.0at%以下の範囲内の濃度で添加することで、ヤング率を低くする効果に加え、KNN膜3の絶縁耐圧(絶縁耐力)を高める効果を得ることが可能となる。
ヤング率を低下させる効果と絶縁耐圧を向上させる効果とをバランスよく同時に得るには、KNN膜3中におけるCu又はMnの濃度を0.2at%以上2.0at%以下とする必要がある。
KNN膜3中のCuおよびMnの合計濃度が0.2at%未満であると、KNN膜3のヤング率を低くする効果が得られなくなる場合がある。また、KNN膜3中のCuおよびMnの合計濃度が0.2at%未満であると、上述したKNN膜3の絶縁耐圧向上効果が得られなくなる場合がある。また、KNN膜3中のCuおよびMnの合計濃度が2.0at%を超えると、KNN膜3中にCu又はMnが分散析出することがあり、その結果、KNN膜3が硬くなる、すなわち、KNN膜3のヤング率が100GPa以上となることがある。
(e)KNN膜3の絶縁耐圧を高めることで、KNN膜3に対して従来よりも高い電界を印加することができる。その結果、例えば上述の劣化率を算出する際、例えば、100kV/cmの電界を印加して圧電定数d31を測定したり、0〜300kV/cmのsin波の電界を印加してKNN膜3を10億回駆動させたりすることが可能となる。これに対し、Cu又はMn非含有の従来のKNN膜、あるいはCuまたはMnの濃度が0.2at%未満である従来のKNN膜では、絶縁耐圧が不充分であることから、上述のような高い電界を印加すると絶縁破壊を引き起こす場合がある。このため、従来のKNN膜では、圧電定数d31を測定する際は30kV/cmの電界、KNN膜を10億回駆動させる際は0〜100kV/cmのsin波の電界しか印加することができなかった。本実施形態にかかるKNN膜3は、従来の3倍以上の電界を印加して、圧電定数d31を測定したり、駆動させたりすることが可能となり、従来よりも厳しい条件下で劣化率の測定を行うことが可能となる。このため、圧電デバイス30の信頼性がより高くなる。
(f)KNN膜3に対してラマン分光分析を行って得られたラマンスペクトルが、617.5〜622.5cm−1の範囲内にNbOのピークを有することで、圧電デバイス30の信頼性をより高めることができる。というのも、このようなラマンスペクトルを有するKNN膜3は、KNN膜3中の酸素欠陥が少ないことから、酸素欠陥と電極膜を構成する金属とが反応し、KNN膜3の絶縁破壊を引き起こすことを抑制することができる。
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。但し、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
例えば、KNN膜3は、CuおよびMnからなる群より選択される金属元素に加えて、
あるいはこの金属元素に変えて、Cu、Mnと同等の効果を奏する他の金属元素を、KNN膜3のヤング率を100GPa未満に維持することができる濃度で含んでいてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果を得ることができる。
また例えば、上述の圧電デバイス30を、表面弾性波(SAW:Surface Acoustic Wave)フィルタ等のフィルタデバイスとして機能させてもよい。
また例えば、上述の圧電積層体10を圧電素子20に成形する際、圧電積層体10(圧電素子20)を用いて作製した圧電デバイス30をセンサまたはアクチュエータ等の所望の用途に適用することができる限り、圧電積層体10から基板1を除去してもよい。
以下、上述の実施形態の効果を裏付ける実験結果について説明する。
基板として、表面が(100)面方位であり、厚さが610μmであり、直径が6インチであり、表面に熱酸化膜(厚さ200nm)が形成されたSi基板を用意した。そして、この基板の熱酸化膜上に、密着層としてのTi層(厚さ2nm)、下部電極膜としてのPt膜(基板の表面に対して(111)面方位に優先配向、厚さ200nm)、圧電膜としてのKNN膜(基板の表面に対して(001)面方位に優先配向、厚さ2μm)を順に製膜することで、圧電積層体を作製した。KNN膜中におけるCu濃度(CuO濃度)は、2.0at%とした。
Ti層は、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて製膜した。Ti層を製膜する際の処理条件は、下記の通りとした。
製膜温度:300℃
放電パワー:1,200W
導入ガス:Arガス
Arガス雰囲気の圧力:0.3Pa
製膜時間:1分
Pt膜は、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて製膜した。Pt膜を製膜する際の処理条件は、下記の通りとした。
製膜温度:300℃
放電パワー:1,200W
導入ガス:Arガス
Arガス雰囲気の圧力:0.3Pa
製膜時間:5分
KNN膜は、RFマグネトロンスパッタリング法を用いて製膜した。KNN膜を製膜する際の処理条件は、下記の通りとした。
製膜温度:500℃、600℃、700℃
放電パワー:2,200W
導入ガス:Ar+O混合ガス
Ar+O混合ガス雰囲気の圧力:0.3Pa
ガスに対するArガスの分圧(Ar/O分圧比):25/1
製膜速度:1μm/hr
Cuが添加されたKNN膜を製膜する際のスパッタリングターゲット材としては、(K+Na)/Nb=0.8〜1.2、Na/(K+Na)=0.4〜0.7の組成を有し、Cuを2.0at%の濃度で含む(K1−xNa)NbO焼結体を用いた。なお、タ
ーゲット材は、KCO粉末、NaCO粉末、Nb粉末、CuO粉末をボールミルを用いて24時間混合させ、850℃で10時間仮焼成し、その後、再びボールミルで粉砕し、200MPaの圧力で成型した後、1080℃で焼成することで作製した。ターゲット材の組成は、KCO粉末、NaCO粉末、Nb粉末、CuO粉末の混合比率を調整することで制御し、製膜処理を行う前にEDX(エネルギー分散型X線分光分析)によって測定した。
(ラマンスペクトルのNbOのピークに関する評価)
ラマンスペクトルのNbOのピークに関する評価は、ラマン分光法(ラマン分光装置)を用いて得たラマンスペクトルを用いて行った。ラマンスペクトルを得た際の条件は、下記の通りとした。
波長:532nm
パワー:8mW
対物レンズ:20x(スポットサイズ5μm程度)
温度:室温(〜23℃)
図4(a)に示すように、製膜温度が700℃である試料のラマンスペクトルの部分抜粋を示す。図4(a)から、KNN膜のラマンスペクトルは、620cm−1付近にピークを有することが分かる。なお、製膜温度が500℃、600℃である試料も、図4(a)のように、620cm−1付近にピークを有することを確認している。
図4(b)から、製膜温度が高くなるほど、ラマンスペクトルにおけるNbOのピークが高くなる、例えば622cm−1に近づくことが分かる。また図4(b)から、製膜温度が500℃であると、ラマンスペクトルにおけるNbOのピークが試料によってばらつくことが確認できる。
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
(付記1)
本発明の一態様によれば、
基板と、前記基板上に製膜された圧電膜と、を備え、
前記圧電膜は、組成式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなり、ヤング率が100GPa未満、好ましくは53GPa以上73GPa以下、より好ましくは53GPa以上68GPa以下の膜である圧電積層体が提供される。
(付記2)
付記1の積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜に対してラマン分光分析を行って得られたラマンスペクトルは、617.5〜622.5cm−1の範囲内、好ましくは、619.5〜622.1cm−1の範囲内にNbOのピークを有する。
(付記3)
付記1または2の積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜は、CuおよびMnからなる群より選択される金属元素を、0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含む。
(付記4)
付記3の積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜中における前記金属元素の濃度が0.6at%超2.0at%以下である。
(付記5)
付記1〜4のいずれかの積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜に対して0〜300kV/cmのsin波の電界を印加して10億回駆動させたとき、{(10億回駆動前の圧電定数d31)−(10億回駆動後の圧電定数d31)/(10億回駆動前の圧電定数d31)}×100の式から算出される圧電定数d31の劣化率が10%以下である。
(付記6)
付記1〜5のいずれかの積層体であって、好ましくは、
前記圧電膜は、前記基板の表面に対して(001)面方位に優先配向してなる。
(付記7)
付記1〜6のいずれかの積層体であって、好ましくは、
前記基板と前記圧電膜との間、または、前記圧電膜上の少なくともいずれかに電極膜が製膜されている。
(付記8)
本発明の他の態様によれば、
基板上上に、組成式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなり、ヤング率が100GPa未満、好ましくは53GPa以上73GPa以下、より好ましくは53GPa以上68GPa以下である圧電膜を製膜する工程を有する圧電積層体の製造方法が提供される。
(付記9)
付記8の方法であって、好ましくは、
前記圧電膜を製膜する工程では、
前記圧電膜として、MnおよびCuからなる群より選択される金属元素を、0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含む膜を製膜する。
(付記10)
付記9の方法であって、好ましくは、
前記圧電膜を製膜する工程では、
前記圧電膜として、前記金属元素を0.2at%以上0.6at%以下の濃度で含む膜を、600℃超700℃以下、好ましくは650℃以上680℃以下の条件下で製膜する。
(付記11)
付記9の方法であって、好ましくは、
前記圧電膜を製膜する工程では、
前記圧電膜として、前記金属元素を0.6at%超2.0%以下の濃度で含む膜を、500℃以上700℃以下、好ましくは600℃以上680℃以下、より好ましくは650℃以上680℃以下の条件下で製膜する。
(付記12)
付記8〜11のいずれかの方法であって、好ましくは、
前記基板と前記圧電膜との間に電極膜を製膜する工程、または、前記圧電膜上に電極膜を製膜する工程の少なくともいずれかをさらに有する。
(付記13)
本発明のさらに他の態様によれば、
基板と、前記基板上に製膜された第1電極膜と、前記第1電極膜上に製膜され、組成式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなり、ヤング率が100GPa未満、好ましくは53GPa以上73GPa以下、より好ましくは53GPa以上68GPa以下である圧電膜と、前記圧電膜上に製膜された第2電極膜と、を備える圧電積層体と、
前記第1電極膜と前記第2電極膜との間に接続される電圧印加部および電圧検出部のうち少なくともいずれかと、を備える圧電デバイス(圧電素子)が提供される。
(付記14)
本発明のさらに他の態様によれば、
基板と、前記基板上に製膜され、組成式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなり、ヤング率が100GPa未満、好ましくは53GPa以上73GPa以下、より好ましくは53GPa以上68GPa以下である圧電膜と、前記圧電膜上に製膜された電極膜(パターン電極)と、を備える圧電積層体と、
前記電極膜(パターン電極)間に接続される電圧印加部および電圧検出部のうち少なくともいずれかと、を備える圧電デバイス(圧電素子)が提供される。
1 基板
3 圧電膜
10 圧電積層体

Claims (10)

  1. 基板と、前記基板上に製膜された圧電膜と、を備え、
    前記圧電膜は、組成式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなり、ヤング率が100GPa未満の膜である圧電積層体。
  2. 前記圧電膜に対してラマン分光分析を行って得られたラマンスペクトルは、617.5〜622.5cm−1範囲内にNbOのピークを有する請求項1に記載の圧電積層体。
  3. 前記圧電膜は、CuおよびMnからなる群より選択される金属元素を、0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含む請求項1または2に記載の圧電積層体。
  4. 前記圧電膜中における前記金属元素の濃度が0.6at%超2.0at%以下である請求項3に記載の圧電積層体。
  5. 前記圧電膜に対して0〜300kV/cmのsin波の電界を印加して10億回駆動させたとき、(10億回駆動後の圧電定数d31/10億回駆動前の圧電定数d31)×100の式から算出される圧電定数d31の劣化率が10%以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の圧電積層体。
  6. 本発明の他の態様によれば、
    基板上に、組成式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなり、ヤング率が100GPa未満である圧電膜を製膜する工程と、を有する圧電積層体の製造方法。
  7. 前記圧電膜を製膜する工程では、
    前記圧電膜として、MnおよびCuからなる群より選択される金属元素を0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含む膜を製膜する請求項6に記載の圧電積層体の製造方法。
  8. 前記圧電膜を製膜する工程では、
    前記圧電膜として、前記金属元素を0.2at%以上0.6at%以下の濃度で含む膜を、600℃超700℃以下の条件下で製膜する請求項7に記載の圧電積層体の製造方法。
  9. 前記圧電膜を製膜する工程では、
    前記圧電膜として、前記金属元素を0.6at%超2.0%以下の濃度で含む膜を、500℃以上700℃以下の温度下で製膜する請求項7に記載の圧電積層体の製造方法。
  10. 基板と、前記基板上に製膜された第1電極膜と、前記第1電極膜上に製膜され、組成式(K1−xNa)NbO(0<x<1)で表されるペロブスカイト構造のアルカリニオブ酸化物からなり、ヤング率が100GPa未満である圧電膜と、前記圧電膜上に製膜された第2電極膜と、を備える圧電積層体と、
    前記第1電極膜と前記第2電極膜との間に接続される電圧印加部および電圧検出部のうち少なくともいずれかと、を備える圧電デバイス。
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