JP2019160579A - リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池 Download PDF

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哲 東海林
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Abstract

【課題】低温環境下において高い放電容量を示すリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。【解決手段】リチウム含有遷移金属酸化物と、下記の組成式(1)で表されるリチウム含有リン酸化合物と、下記の組成式(2)で表されるリン酸化合物とを含むリチウムイオン二次電池用正極活物質。LiwNaxM1y(PO4)z・・・(1)ただし、組成式(1)において、M1は、Mn、Co、Ni、Fe、V、VOから選ばれる少なくとも一種であり、0≦w+x≦3.3、0≦x≦3.0、0.9≦y≦2.2、0.9≦z≦3.3である。M2v(PO4)w・・・(2)ただし、組成式(2)において、M2は、Mn、Co、Ni、Fe、V、VOから選ばれる少なくとも1種であり、0.9≦v≦2.2、0.9≦w≦3.3である。【選択図】図2

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極およびリチウムイオン二次電池に関するものである。
近年、環境・エネルギー問題の解決へ向けて、種々の電気自動車の普及が期待されている。これら電気自動車の実用化の鍵を握るモータ駆動用電源などの車載電源として、リチウムイオン二次電池の開発が鋭意行われている。車載電源として電池を広く普及するためには、高い熱安定性を有することが非常に重要視される。現在、リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては数多くのものが提案されているが、最も一般的に知られているものは、層状構造を有するリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)やリチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)等のリチウム含有遷移金属酸化物である。リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)やリチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)は、高容量であり、対リチウム放電電圧も3.8V程度と高いが、高温状態や高電位状態になった場合には電解質溶液と反応して結晶構造中の酸素を放出しやすいために、特に高充電状態での熱安定性が十分でない場合がある。
高温時の安定性に優れたリチウムイオン二次電池用の正極活物質として、特許文献1には、リチウム含有遷移金属酸化物を含有するコア粒子と、そのコア粒子の表面の少なくとも一部を覆うLiVOPOを含む被覆部とを備えた正極活物質が開示されている。この特許文献1によれば、コア粒子の表面を、高温時の構造安定性に優れたLiVOPOを含む被覆部で覆うことによって、コア粒子と電解液との直接接触が抑制されるので、リチウム含有遷移金属酸化物の高温時における結晶構造が安定化するとされている。
特開2008−277152号公報
特許文献1に開示されている正極活物質は、高温環境下においては優れた熱安定性を示す。しかしながら、この特許文献1に開示されている正極活物質は、低温環境下においては放電容量が必ずしも十分ではない場合があり、さらなる低温環境下での放電容量の向上が望まれている。
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、低温環境下において高い放電容量を示す正極活物質、これを含むリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供することにある。
本発明者は、鋭意検討の結果、NiおよびCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を有するリチウム含有遷移金属酸化物と、所定のリチウム含有リン酸化合物と、所定のリン酸化合物とを含む正極活物質は、低温環境下での放電容量が向上することを見出して、本発明を完成させた。
すなわち、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
(1)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質は、NiおよびCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有するリチウム含有遷移金属酸化物と、下記の組成式(1)で表されるリチウム含有リン酸化合物と、下記の組成式(2)で表されるリン酸化合物とを含むことを特徴とする。
LiNaM1(PO ・・・(1)
ただし、組成式(1)において、M1は、Mn、Co、Ni、Fe、V、VOから選ばれる少なくとも一種であり、0≦w+x≦3.3、0≦x≦3.0、0.9≦y≦2.2、0.9≦z≦3.3である。
M2(PO ・・・(2)
ただし、組成式(2)において、M2は、Mn、Co、Ni、Fe、V、VOから選ばれる少なくとも1種であり、0.9≦v≦2.2、0.9≦w≦3.3である。
(2)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、前記リン酸化合物の質量bに対する前記リチウム含有リン酸化合物の質量aの比率a/bは、9≦a/b≦199であってもよい。
(3)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、前記リチウム含有リン酸化合物の質量aと前記リン酸化合物の質量bの合計質量(a+b)に対する前記リチウム含有遷移金属酸化物の質量cの比率c/(a+b)は、1.5≦c/(a+b)≦99であってもよい。
(4)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、前記リチウム含有リン酸化合物は、LiVOPOで表されるリン酸バナジウムリチウムであってもよい。
(5)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、前記リン酸化合物は、VOPOで表されるリン酸バナジウムであってもよい。
(6)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、前記リチウム含有リン酸化合物はLiVOPOで表されるリン酸バナジウムリチウムであり、かつ前記リン酸化合物はVOPOで表されるリン酸バナジウムであってもよい。
(7)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、前記リチウム含有遷移金属酸化物は、下記の組成式(3)で表される酸化物であってもよい。
LiM3M4 ・・・(3)
ただし、組成式(3)において、M3は、NiおよびCoから選ばれる少なくとも1種であり、M4は、Mn、Fe、Ti、Cr、Mg、Al、Cu、Si、Zr、Nb、Ga、Zn、Sn、B、V、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種であり、0.5≦p≦1.2、0.5≦q+r≦1.2、0≦r≦0.5である。
(8)第1の態様にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質において、前記リチウム含有遷移金属酸化物は、下記の組成式(4)で表されるリチウム含有ニッケル複合金属酸化物であってもよい。
LiNi1−t−uCoAl ・・・(4)
ただし、組成式(4)において、0.5≦s≦1.2、0<t≦0.5、0<u≦0.5、0<t+u≦0.5である。
(9)第2の態様にかかる正極は、上記(1)〜(8)のいずれか1つの正極活物質を有する。
(10)第3の態様にかかるリチウムイオン二次電池は、上記(9)の正極と、負極と、セパレータと、電解質溶液とを有する。
本発明によれば、低温環境下において高い放電容量を示す正極活物質、これを含むリチウムイオン二次電池用正極及びリチウムイオン二次電池を提供することが可能となる。
本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の断面模式図である。 本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質の構成を示す模式図である。
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
[リチウムイオン二次電池]
図1は、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の断面模式図である。図1に示すリチウムイオン二次電池100は、主として積層体40、積層体40を密閉した状態で収容するケース50、及び積層体40に接続された一対のリード60、62を備えている。また図示されていないが、積層体40と共に非水電解質溶液が、ケース50内に収容されている。
積層体40は、正極20と負極30とが、セパレータ10を挟んで対向配置されたものである。正極20は、板状(膜状)の正極集電体22上に正極活物質層24が設けられたものである。負極30は、板状(膜状)の負極集電体32上に負極活物質層34が設けられたものである。
正極活物質層24及び負極活物質層34は、セパレータ10の両側にそれぞれ接触している。正極集電体22及び負極集電体32の端部には、それぞれリード62、60が接続されており、リード60、62の端部はケース50の外部にまで延びている。図1では、ケース50内に積層体40が一つの場合を例示したが、複数積層されていてもよい。
「正極」
正極20は、正極集電体22と、正極集電体22の上に設けられた正極活物質層24とを有する。
(正極集電体)
正極集電体22は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。
(正極活物質層)
正極活物質層24は、正極活物質と正極バインダーとを有し、必要に応じて正極導電材を有する。
図2は、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池用正極活物質の構成を示す模式図である。図2に示すように、正極活物質25は、リチウム含有遷移金属酸化物26と、リチウム含有リン酸化合物27と、リン酸化合物28とを含む。
正極活物質25は、リチウム含有遷移金属酸化物26と、リチウム含有リン酸化合物27と、リン酸化合物28の3成分を含むことによって、低温環境下においても高い放電容量を得ることができる。この理由については、詳細は明らかになっていないが、次のような作用効果により、リチウムイオンが移動しにくい低温環境下においても、正極活物質25内でのリチウムイオン拡散が円滑に行われることによって、高い放電容量を発現できるものと考えられる。
第1の作用効果として、正極活物質25がリチウム含有遷移金属酸化物26とリチウム含有リン酸化合物27の異なる2種類のリチウム含有化合物を含むことによって、電池の充放電時において、局在的に微小な電位勾配が生じて、正極活物質25内でリチウムイオンが拡散しやすくなることが考えられる。
すなわち、リチウム含有遷移金属酸化物26とリチウム含有リン酸化合物27は、電池の充電時では、リチウムイオンが脱離することによって電位(vs.Li/Li+)が上昇し、一方、電池の放電時では、リチウムイオンが挿入されることによって、電位が低下する。この充放電時の電位変化の大きさは、リチウム含有遷移金属酸化物26とリチウム含有リン酸化合物27とでは異なる。このため、充放電時には、リチウム含有遷移金属酸化物26とリチウム含有リン酸化合物27との間に局在的な微小な電位勾配が生じる。そして、この微小な電位勾配を推進力として、リチウムイオンが、リチウム含有遷移金属酸化物26とリチウム含有リン酸化合物27との間を移動したり、リチウム含有遷移金属酸化物26およびリチウム含有リン酸化合物27に挿入脱離することによって、正極活物質25内でリチウムイオンが拡散しやすくなると考えられる。
第2の作用効果として、リン酸化合物28が、電池の放電時において、リチウムイオンを吸蔵する働きを担うことによって、正極活物質25のリチウムイオンの吸蔵可能容量が大きくなることが考えられる。
リチウム含有遷移金属酸化物26及びリチウム含有リン酸化合物27に加え、リン酸化合物28もリチウムイオンを吸蔵する働きを担うことにより、正極活物質25のリチウムイオンの吸蔵可能容量が大きくなり、またリチウムイオンの導電パスも増加する。これにより、リチウムイオンが動きにくい低温環境下においても円滑なリチウムイオン吸蔵及び拡散を行うことができる。
本実施形態では、リチウム含有リン酸化合物27として、下記の組成式(1)で表される化合物を用いる。組成式(1)で表されるリチウム含有リン酸化合物27は、充放電時の電位変化の挙動がリチウム含有遷移金属酸化物26と異なる。このため、このリチウム含有リン酸化合物27を用いることによって、上記の第1の作用効果を確実に得ることができる。
LiNaM1(PO ・・・(1)
ただし、組成式(1)において、M1は、Mn、Co、Ni、Fe、V、VOから選ばれる少なくとも一種であり、0≦w+x≦3.3、0≦x≦3.0、0.9≦y≦2.2、0.9≦z≦3.3である。
組成式(1)において、zは、1、2、3のいずれかであることが好ましい。zが1の場合、w+xは、0≦w+x≦1.3であり、xは、0≦x≦1.0であり、yは、0.8≦y≦1.2であることが好ましい。zが2の場合、w+xは、1.7≦w+x≦2.3であり、xは、0≦x≦2.0であり、yは、0.8≦y≦1.2であることが好ましい。zが3の場合、w+xは、2.7≦w+x≦3.3であり、xは、0≦x≦3.0であり、yは、1.8≦y≦2.2であることが好ましい。なお、リン酸化合物は、化学両論組成である必要はない。
リチウム含有リン酸化合物27の例としては、LiMnPO、LiCoPO、LiNiPO、LiFePO、LiVOPO、LiMn(PO、LiCo(PO、LiNi(PO、LiFe(PO、LiV(PO、LiMn(PO、LiCo(PO、LiNi(PO、LiNaFe(PO、LiFe(PO、Li(POを挙げることができる。これらのリチウム含有リン酸化合物27を用いることによって、低温環境下での放電容量をより向上させることができる。これらのリチウム含有リン酸化合物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。上記のリチウム含有リン酸化合物の中で好ましいのは、LiMnPO、LiCoPO、LiFePO、LiVOPO、Li(POであり、特に好ましいのはLiVOPOである。LiVOPOを用いることによって、リチウムイオン二次電池100の保存特性を向上させることができる。これは、LiVOPOから溶出したバナジウムが、正極活物質層24の表面に堆積して被膜を形成することにより、正極活物質層24の表面での電解質溶液の分解が抑えられ、電解質溶液の分解によるガス発生やセパレータの酸化が抑制されるためであると考えられる。
リチウム含有リン酸化合物27は、結晶構造がオリビン型あるいはナシコン型であることが好ましい。これらの結晶構造を有するリチウム含有リン酸化合物27は結晶構造が安定するので、これを用いた正極活物質25は、長期間にわたって放電特性が安定する。
本実施形態では、リン酸化合物28として、下記の組成式(2)で表される化合物を用いる。組成式(2)で表されるリン酸化合物28は、リチウムイオンを結晶内に吸蔵する能力を有する。このため、このリチウム含有リン酸化合物27を用いることによって、上記の第2の作用効果を確実に得ることができる。
M2(PO ・・・(2)
ただし、組成式(2)において、M2は、Mn、Co、Ni、Fe、V、VOから選ばれる少なくとも1種であり、0.9≦v≦2.2、0.9≦w≦3.3である。
リン酸化合物28の例としては、MnPO、CoPO、NiPO、FePO、VOPOを挙げることができる。これらのリン酸化合物28を用いることによって、低温環境下での放電容量をより向上させることができる。リン酸化合物28は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。上記のリン酸化合物28の中で好ましいのは、VOPOである。VOPOを用いることによって、リチウムイオン二次電池100の保存特性を向上させることができる。これは、VOPOから溶出したバナジウムが、正極活物質層24の表面に堆積して被膜を形成することにより、正極活物質層24の表面での電解質溶液の分解が抑えられ、電解質溶液の分解によるガス発生やセパレータの酸化が抑制されるためであると考えられる。
リチウム含有リン酸化合物27とリン酸化合物28とは、共通する金属元素を有することが好ましい。例えば、リチウム含有リン酸化合物27がLiVOPOで表されるリン酸バナジウムリチウムである場合は、リン酸化合物28はVOPOで表されるリン酸バナジウムであることが好ましい。リチウム含有リン酸化合物27とリン酸化合物28とが共通する金属元素を有することによって、低温環境下においてさらに高い放電容量を得ることができる。これは、リチウム含有リン酸化合物27とリン酸化合物28との親和性が向上することによって、リン酸化合物28が吸蔵したリチウムイオンがリチウム含有リン酸化合物27に拡散しやすくなるためであると考えられる。
リチウム含有遷移金属酸化物26は、NiおよびCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を有する。
リチウム含有遷移金属酸化物は、下記の組成式(3)で表される酸化物であることが好ましい。このリチウム含有遷移金属酸化物を用いることによって、低温環境下においてより高容量を得ることができる。
LiM3M4 ・・・(3)
ただし、組成式(3)において、M3は、NiおよびCoから選ばれる少なくとも1種である。M3が、NiとCoを含む場合、NiとCoの原子個数比は、1:9〜9:1(Ni:Co)の範囲内にあることが好ましい。M4は、Mn、Fe、Ti、Cr、Mg、Al、Cu、Si、Zr、Nb、Ga、Zn、Sn、B、V、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも一種である。0.5≦p≦1.2、0.5≦q+r≦1.2、0≦r≦0.5である。なお、リチウム含有遷移金属酸化物は、化学両論組成である必要はない。
リチウム含有遷移金属酸化物は、下記の組成式(4)で表されるリチウム含有ニッケル複合金属酸化物であることが好ましい。このリチウム含有遷移金属酸化物を用いることによって、低温環境下においてさらなる高容量を得ることができる。
LiNi1−t−uCoAl ・・・(4)
ただし、組成式(4)において、0.5≦s≦1.2、0<t≦0.5、0<u≦0.5、0<t+u≦0.5である。
リチウム含有遷移金属酸化物の例としては、LiCoO、LiNiO、LiNi0.8Co0.15Al0.05、LiNi0.8Co0.1Mn0.1、LiNi0.6Co0.2Mn0.2、LiNi0.5Co0.2Mn0.3、LiNi0.33Co0.33Mn0.33を挙げることができる。リチウム含有遷移金属酸化物は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
正極活物質25は、リン酸化合物28の質量bに対するリチウム含有リン酸化合物27の質量aの比率a/bが、9≦a/b≦199であることが好ましい。比率a/bがこの範囲にあることによって、リチウムイオン二次電池の容量を維持しつつ、低温環境下において高容量で優れた高出力特性を得ることができる。すなわち、比率a/bが9以上とされていて、リチウムを含有するリチウム含有リン酸化合物27の量がリチウムを含有しないリン酸化合物28と比較して相対的に多いので、リチウムイオン二次電池の容量を維持することができる。また、比率a/bが199以下とされているので、電池の放電時において、リン酸化合物28がリチウムイオンを吸蔵することができ、低温環境下での容量や出力特性が向上する。
正極活物質25は、リチウム含有リン酸化合物27の質量aとリン酸化合物28の質量bの合計質量(a+b)に対するリチウム含有遷移金属酸化物26の質量cの比率c/(a+b)が、1.5≦c/(a+b)≦99であることが好ましい。比率c/(a+b)がこの範囲にあることによって、低温環境下においてさらなる高容量を得ることができる。すなわち、比率c/(a+b)が99以下とされているので、正極活物質25内に微小な電位勾配を確実に発生させることができ、この微小な電位勾配によるリチウムイオンの拡散効果を確実に得ることができる。また、比率c/(a+b)が1.5以上とされていて、リチウムイオンパスが二次元であって相対的にリチウムイオンが内部に拡散しやすいリチウム含有遷移金属酸化物26の量が、リチウムイオンパスが一次元であって相対的にリチウムイオンが内部に拡散しにくいリチウム含有リン酸化合物27及びリン酸化合物28に比較して多いので、微小電位勾配によって正極活物質25内に拡散されたリチウムイオンを、リチウム含有遷移金属酸化物26にて効率よく吸蔵できる。
正極活物質25は、相対的に粒子径が大きいリチウム含有遷移金属酸化物26の周囲に、相対的に粒子径が小さいリチウム含有リン酸化合物27とリン酸化合物28とが付着した構成であることが好ましい。この場合、リチウム含有遷移金属酸化物26を中心として、リチウム含有遷移金属酸化物26とリチウム含有リン酸化合物27とリン酸化合物28とが接触することによって、微小電位勾配によるリチウムイオンの拡散がより促進され、低温環境下においてさらなる高容量を得ることができる。リチウム含有遷移金属酸化物26は、平均粒子径が1μm以上50μm以下の範囲内にあることが好ましい。リチウム含有リン酸化合物27およびリン酸化合物28は、平均粒子径が50nm以上800nm以下の範囲内にあることが好ましい。なお、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定することができる。
正極活物質25は、リチウム含有遷移金属酸化物26とリチウム含有リン酸化合物27とリン酸化合物28とを混合することによって製造することができる。混合方法には、特に制限はなく、乾式で混合してもよいし、湿式で混合してもよい。また、混合の順序には特に制限ない。例えば、リチウム含有遷移金属酸化物26とリチウム含有リン酸化合物27とリン酸化合物28とを同時に混合してもよいし、リチウム含有遷移金属酸化物26とリチウム含有リン酸化合物27とを先に混合した後、リン酸化合物28を加えて混合してもよいし、リチウム含有遷移金属酸化物26とリン酸化合物28とを先に混合した後、リチウム含有リン酸化合物27を加えて混合してもよいし、リチウム含有リン酸化合物27とリン酸化合物28とを混合した後、リチウム含有遷移金属酸化物26を加えた混合してもよい。なお、得られた正極活物質25は、造粒してもよい。
リチウム含有遷移金属酸化物26の製造方法は特に限定されないが、少なくとも原料調製工程及び焼成工程を備える。所望のモル比となるように所定のリチウム源及び金属源を配合して、粉砕・混合、熱的な分解混合、沈殿反応、または加水分解等の方法により、製造することができる。
リチウム含有リン酸化合物27及びリン酸化合物28の製造方法は特に限定されないが、少なくとも原料調製工程及び焼成工程を備える。原料調製工程では、リチウム源、金属源、リン源及び水を攪拌、混合して、混合物(混合液)を調製する。原料調製工程により得た混合物を乾燥する乾燥工程を焼成工程前に実施してもよい。必要に応じて乾燥工程及び焼成工程前に水熱合成工程を実施してもよい。所望のモル比となるように所定のリチウム源、金属源、リン源を配合し、混合物を乾燥及び焼成することにより製造することができる。また得られたリチウム含有リン酸化合物から、電気化学的にLiを脱離させることによりリチウム含有リン酸化合物のリチウム量を調整することができる。または、リン源、金属源及び蒸留水を攪拌してこれらの混合物を調製し、混合物を乾燥することによって、リン酸化合物の水和物を製造し、さらに熱処理することによりリン酸化合物を製造してもよい。得られたリン酸化合物とリチウム源とを混合、熱処理することによりリチウム含有リン酸化合物を製造することができる。なお、上述した金属源や、リチウム源、金属源、リン源の化合物形態は、特に問わず、各原料の酸化物や塩など、プロセスに合わせ公知の材料が選択できる。
(正極バインダー)
正極バインダーは、正極活物質25同士あるいは正極活物質25と導電材とを結合すると共に、正極活物質と正極集電体22とを結合する。バインダーは、上述の結合が可能なものであればよく、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂が挙げられる。
また、上記の他に、バインダーとして、例えば、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−HFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF−PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−ペンタフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFP−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−PFMVE−TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF−CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴムを用いてもよい。
また、この他に、バインダーとして、例えば、セルロース、スチレンブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アクリル樹脂等を用いてもよい。
また、バインダーとして電子伝導性の導電性高分子やイオン伝導性の導電性高分子を用いてもよい。電子伝導性の導電性高分子としては、例えば、ポリアセチレン等が挙げられる。この場合は、バインダーが導電材の機能も発揮するので導電材を添加しなくてもよい。イオン伝導性の導電性高分子としては、例えば、リチウムイオン等のイオンの伝導性を有するものを使用することができ、例えば、高分子化合物(ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル系高分子化合物、ポリフォスファゼン等)のモノマーと、LiClO、LiBF、LiPF等のリチウム塩又はリチウムを主体とするアルカリ金属塩と、を複合化させたもの等が挙げられる。複合化に使用する重合開始剤としては、例えば、上記のモノマーに適合する光重合開始剤又は熱重合開始剤が挙げられる。正極活物質層24のバインダーの含有率は、1.0質量%以上20質量%以下の範囲内にあることが好ましい。
(正極導電材)
正極導電材としては、例えば、炭素材料、金属微粉、導電性酸化物を用いることができる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。炭素材料の例としては、アセチレンブラックやエチレンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブを挙げることができる。金属微粉の例としては、銅、ニッケル、ステンレス、鉄を挙げることができる。導電性酸化物の例としては、ITO(スズドープ酸化インジウム)を挙げることができる。これらの中でも、アセチレンブラックやエチレンブラック等のカーボンブラックが特に好ましい。正極活物質層24の正極導電材の含有率は、1.0質量%以上20質量%以下の範囲内にあることが好ましい。なお、正極活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、正極活物質層24は導電材を含んでいなくてもよい。
「正極の作製」
正極20は、次のようにして作製することができる。
正極活物質、バインダー及び溶媒を混合して塗料を調製する。塗料には、必要に応じて導電材を更に加えても良い。溶媒としては、例えば、水、N−メチル−2−ピロリドン等を用いることができる。正極活物質、バインダー、導電材の混合比率は、質量比で80〜98質量%:1.0〜20質量%:1.0〜20質量%であることが好ましい。これらの質量比は、全体で100質量%となるように調整される。塗料を構成するこれらの成分の混合方法は特に制限されず、混合順序もまた特に制限されない。
次に、上記塗料を、正極集電体22に塗布する。塗布方法としては、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。例えば、スリットダイコート法、ドクターブレード法が挙げられる。
続いて、正極集電体22上に塗布された塗料中の溶媒を除去する。溶媒を除去することによって正極活物質層24が形成され、正極20が得られる。溶媒の除去方法は特に限定されない。例えば、塗料が塗布された正極集電体22を、80〜150℃の温度で乾燥させればよい。
次いで、このようにして得られた正極20の正極活物質層24をプレス処理して、正極活物質層24の厚さを調整する。プレス装置としては、ロールプレスを用いることができる。
「負極」
負極30は、負極集電体32と、負極集電体32の上に設けられた負極活物質層34とを有する。
(負極集電体)
負極集電体32は、導電性の板材であればよく、例えば、アルミニウム、銅、ニッケル箔の金属薄板を用いることができる。負極集電体32は、リチウムと合金化しないことが好ましく、銅が特に好ましい。負極集電体32の厚みは6〜30μmとすることが好ましい。
(負極活物質層)
負極活物質層34は、負極活物質とチオール化合物とを含む。また、負極活物質層34は、必要に応じて負極バインダーと負極導電材を有する。
(負極活物質)
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な、公知のリチウムイオン二次電池用の負極活物質を用いることができる。具体的には、例えば、金属リチウム、炭素材料、リチウムと化合する金属、酸化物を主体とする化合物、チタン酸リチウム(LiTi12)等が挙げられる。
負極活物質として用いられる炭素材料としては、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛)、カーボンナノチューブ、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温度焼成炭素等が挙げられる。リチウムと化合する金属としては、アルミニウム、シリコン、スズ等が挙げられる。酸化物を主体とする化合物としては、酸化シリコン(SiO(0<x<2))、二酸化スズ等が挙げられる。
(負極バインダー)
負極バインダーとしては、正極バインダーで例示したものを用いることができる。
(負極導電材)
負極導電材としては、正極導電材で例示したものを用いることができる。なお、負極活物質のみで十分な導電性を確保できる場合は、負極活物質層34は導電材を含んでいなくてもよい。
「負極の作製」
負極30は、次のようにして作製することができる。
負極活物質、導電材、バインダー及び溶媒を混合して塗料を調製する。
溶媒としては、正極の製造の場合と同様に、例えば、水、N−メチル−2−ピロリドン等を用いることができる。負極活物質、導電材、バインダーの構成比率は、質量比で80〜99質量%:0〜20質量%:1.0〜20質量%であることが好ましい。これらの質量比は、全体で100質量%となるように調整される。
塗料を構成するこれらの成分の混合方法は特に制限されず、混合順序もまた特に制限されない。上記塗料を、負極集電体32に塗布する。塗布方法としては、正極の製造の場合と同様に、特に制限はなく、通常電極を作製する場合に採用される方法を用いることができる。
続いて、負極集電体32上に塗布された塗料中の溶媒を除去する。溶媒を除去することによって負極活物質層34が形成され、負極30が得られる。溶媒の除去方法は特に限定されない。例えば、塗料が塗布された負極集電体32を、80℃〜150℃の雰囲気下で乾燥させればよい。
そして、このようにして得られた負極30の負極活物質層34をプレス処理して、負極活物質層34の厚さを調整する。プレス装置としては、ロールプレスを用いることができる。
「セパレータ」
セパレータ10は、電気絶縁性の多孔質構造から形成されていればよく、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン又はポリオレフィンからなるフィルムの単層体、積層体や上記樹脂の混合物の延伸膜、或いはセルロース、ポリエステル及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種の構成材料からなる繊維不織布が挙げられる。
「非水電解質溶液」
非水電解質溶液は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解されている電解質とを含む。非水溶媒は、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを含有することが好ましい。
環状カーボネートとしては、電解質を溶媒和することができるものを用いることができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート及びブチレンカーボネートなどを用いることができる。
鎖状カーボネートは、環状カーボネートと比較して相対的に粘度が低いので、非水溶媒の粘性を低下させることができる。例えば、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートが挙げられる。
非水溶媒中の環状カーボネートと鎖状カーボネートの割合は、体積比で1:9〜1:1の範囲内にあることが好ましい。
非水溶媒は、環状カーボネート及び鎖状カーボネート以外のその他の有機溶媒を含有していてもよい。その他の有機溶媒の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンを挙げることができる。
電解質としては、例えば、LiPF、LiClO、LiBF、LiCFSO、LiCFCFSO、LiC(CFSO、LiN(CFSO、LiN(CFCFSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiN(CFCFCO)、LiBOB等のリチウム塩が使用できる。なお、これらのリチウム塩は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。特に、電離度の観点から、LiPFを含むことが好ましい。
LiPFを非水溶媒に溶解する際は、非水電解質溶液中の電解質の濃度を、0.5〜2.0mol/Lに調整することが好ましい。電解質の濃度が0.5mol/L以上であると、非水電解質溶液のリチウムイオン濃度を充分に確保することができ、充放電時に十分な容量が得られやすい。また、電解質の濃度が2.0mol/L以内に抑えることで、非水電解質溶液の粘度上昇を抑え、リチウムイオンの移動度を充分に確保することができ、充放電時に十分な容量が得られやすくなる。
LiPFをその他の電解質と混合する場合にも、非水電解質溶液中のリチウムイオン濃度が0.5〜2.0mol/Lに調整することが好ましく、LiPFからのリチウムイオン濃度がその50mol%以上含まれることがさらに好ましい。
「ケース」
ケース50は、その内部に積層体40及び非水電解質溶液を密封するものである。ケース50は、非水電解質溶液の外部への漏出や、外部からのリチウムイオン二次電池100内部への水分等の侵入等を抑止できる物であれば特に限定されない。
例えば、ケース50として、図1に示すように、金属箔52を高分子膜54で両側からコーティングした金属ラミネートフィルムを利用できる。金属箔52としては例えばアルミニウム箔を、高分子膜54としてはポリプロピレン等の膜を利用できる。例えば、外側の高分子膜54の材料としては融点の高い高分子、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド等が好ましく、内側の高分子膜54の材料としてはポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等が好ましい。
「リード」
リード60、62は、アルミニウム等の導電材料から形成されている。そして、公知の方法により、リード60、62を正極集電体22、負極集電体32にそれぞれ溶接し、正極20の正極活物質層24と負極30の負極活物質層34との間にセパレータ10を挟んだ状態で、非水電解質溶液と共にケース50内に挿入し、ケース50の入り口をシールする。
[リチウムイオン二次電池の製造方法]
リチウムイオン二次電池100は、次のようにして作製することができる。
正極活物質層24を有する正極20と、負極活物質層34を有する負極30と、正極20と負極30との間に介在させるセパレータ10と、非水電解質溶液と、をケース50内に封入する。
例えば、正極20と、負極30と、セパレータ10とを積層し、正極20及び負極30を、積層方向に対して垂直な方向から、プレス器具で加熱加圧し、正極20、セパレータ10、及び負極30を密着させる。そして、例えば、予め作製した袋状のケース50に、積層体40を入れる。
最後に非水電解質溶液をケース50内に注入することにより、リチウムイオン二次電池100が作製される。なお、ケースに非水電解質溶液を注入するのではなく、積層体40を非水電解質溶液に含浸させてもよい。
本実施形態のリチウムイオン二次電池100では、正極活物質25が、NiおよびCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を有するリチウム含有遷移金属酸化物26と、所定のリチウム含有リン酸化合物27と、所定のリン酸化合物28とを含むので、低温環境下での放電容量が向上する。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、各実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨から逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
[実施例1]
(正極の作製)
リチウム含有遷移金属酸化物として平均粒子径が20μmのLi1.01Ni0.83Co0.13Al0.03と、リチウム含有リン酸化合物として平均粒子径が500nmのLiVOPOと、リン酸化合物として平均粒子径が500nmのVOPOとを、それぞれ80:19.8:0.2の質量比率で秤量し、乳鉢にて混合したものを正極活物質として用いた。
上記の正極活物質90質量部と、アセチレンブラック5質量部と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)5質量部をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に分散させ、スラリー状の塗料を調製した。得られた塗料を厚さ20μmのアルミニウム箔上に塗工し、温度140℃で30分間乾燥した後に、ロールプレス装置を用いて線圧1000kgf/cmでプレス処理することにより、正極を得た。
(負極の作製)
負極活物質として天然黒鉛粉末90質量部と、PVDF10質量部をNMP中に分散させてスラリー状の塗料を調製した。得られた塗料を厚さ15μmの銅箔上に塗工し、温度140℃で30分間減圧乾燥した後に、ロールプレス装置を用いてプレス処理することにより、負極を得た。
(非水電解質溶液)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒に、LiPFを1.0mol/L、LiBFを0.1mol/Lとなるように溶解させた非水電解質溶液を用意した。混合溶媒におけるECとDECとの体積比は、EC:DEC=30:70とした。
(セパレータ)
膜厚20μmのポリエチレン微多孔膜(空孔率:40%、シャットダウン温度:134℃)を用意した。
(電池セルの作製)
上記正極、負極、及びセパレータを積層させて発電要素を構成し、これと上記非水電解質溶液とを用いて、実施例1の電池セルを作製した。
[電池セルの評価(0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比)]
上記のようにして作製した電池セルについて、25℃(室温)の環境下で0.5Cの充放電を行ったときの放電容量(0.5C(25℃)の放電容量)と、10℃の環境下で0.5Cの充放電を行ったときの放電容量(0.5C(10℃)の放電容量)とを、下記のようにして測定した。そして、0.5C(10℃)の放電容量と0.5C(25℃)の放電容量との比(0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比)を算出した。その結果を、正極活物質の組成と共に、表1に示す。
電池セルを、25℃の恒温槽中に5時間静置した後、その環境下で、0.5Cの定電流密度で充電終止電圧が4.2V(vs.Li/Li)になるまで充電を行い、さらに4.2V(vs.Li/Li)の定電圧で電流値が0.05Cの電流密度に低下するまで定電圧充電を行った。次いで、10分間休止した後、電池セルを、0.5Cの定電流密度で放電終止電圧が2.8V(vs.Li/Li)になるまで放電させて、0.5C(25℃)の放電容量を測定した。
次に、電池セルを、10℃の恒温槽中に5時間静置した後、その環境下で、上記と同じ条件で充電し、10分間休止した後、放電させて、0.5C(10℃)の放電容量を測定した。
[実施例2〜8、比較例1〜8]
実施例2〜8では、リチウム含有遷移金属酸化物、リチウム含有リン酸化合物、リン酸化合物として、それぞれ表1に示す化合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして電池セルを作製した。
比較例1、3、5、7では、リン酸化合物を加えずに、表1に示すリチウム含有遷移金属酸化物とリチウム含有リン酸化合物とを80:20の質量比率で秤量したこと以外は、実施例1と同様にして電池セルを作製した。また、比較例2、4、6、8では、リチウム含有リン酸化合物を加えずに、表1に示すリチウム含有遷移金属酸化物とリン酸化合物とを、80:20の質量比率で秤量したこと以外は、実施例1と同様にして電池セルを作製した。
実施例2〜8、比較例1〜8で作製した電池セルについて、実施例1と同様に、0.5C(10℃)の放電容量と0.5C(25℃)の放電容量を測定し、0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比を算出した。その結果を、表1に示す。
Figure 2019160579
表1の結果から、リチウム含有遷移金属酸化物とリチウム含有リン酸化合物とリン酸化合物とを含む正極活物質を用いて作製した実施例1〜8の電池セルは、リチウム含有遷移金属酸化物とリチウム含有リン酸化合物とを含む正極活物質を用いて作製した比較例1、3、5、7の電池セル、およびリチウム含有遷移金属酸化物とリン酸化合物とを含む正極活物質を用いて作製した比較例2、4、6、8の電池セルと比較して、いずれも0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比が大きく、低温環境下での放電容量が高いことがわかる。
[実施例9〜15]
正極の作製において、リチウム含有リン酸化合物(LiVOPO)とリン酸化合物(VOPO)とを、リチウム含有リン酸化合物の質量aとリン酸化合物の質量bとの比率a/bが、下記の表2に示す値となるように、秤量したこと以外は、実施例1と同様にして電池セルを作製した。そして、作製した電池セルについて、実施例1と同様に、0.5C(10℃)の放電容量と0.5C(25℃)の放電容量を測定し、0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比を算出した。その結果を、実施例1の結果と共に表2に示す。
Figure 2019160579
表2の結果から、0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比は、リチウム含有リン酸化合物の質量aとリン酸化合物の質量bとの比率a/bによって変動することがわかる。特に、比率a/bが9≦a/b≦199である実施例1、10〜13の電池セルは、0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比が大きく、低温環境下での放電容量が高いことがわかる。
[実施例16〜24]
正極の作製において、リチウム含有遷移金属酸化物(Li1.01Ni0.83Co0.13Al0.03)とリチウム含有リン酸化合物(LiVOPO)とリン酸化合物(VOPO)とを、リチウム含有リン酸化合物の質量aとリン酸化合物の質量bとの比率a/bが99であり、かつリチウム含有リン酸化合物の質量aおよびリン酸化合物の質量bの合計質量(a+b)と、リチウム含有遷移金属酸化物の質量cとの比率c/(a+b)が、下記の表3に示す値となるように、秤量したこと以外は、実施例1と同様にして電池セルを作製した。そして、作製した電池セルについて、実施例1と同様に、0.5C(10℃)の放電容量と0.5C(25℃)の放電容量を測定し、0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比を算出した。その結果を、実施例1の結果と共に表3に示す。
Figure 2019160579
表3の結果から、0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比は、リチウム含有リン酸化合物の質量aおよびリン酸化合物の質量bの合計質量(a+b)と、リチウム含有遷移金属酸化物の質量cとの比率c/(a+b)によって変動することがわかる。特に、比率c/(a+b)が1.5≦c/(a+b)≦99である実施例1、18〜23の電池セルは、0.5C(10℃)/0.5C(25℃)放電容量比が大きく、低温環境下での放電容量が高いことがわかる。
10…セパレータ、20…正極、22…正極集電体、24…正極活物質層、25…正極活物質、26…リチウム含有遷移金属酸化物、27…リチウム含有リン酸化合物、28…リン酸化合物、30…負極、32…負極集電体、34…負極活物質層、40…積層体、50…ケース、52…金属箔、54…高分子膜、60,62…リード、100…リチウムイオン二次電池

Claims (10)

  1. NiおよびCoから選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素を含有するリチウム含有遷移金属酸化物と、下記の組成式(1)で表されるリチウム含有リン酸化合物と、下記の組成式(2)で表されるリン酸化合物とを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用正極活物質。
    LiNaM1(PO ・・・(1)
    ただし、組成式(1)において、M1は、Mn、Co、Ni、Fe、V、VOから選ばれる少なくとも一種であり、0≦w+x≦3.3、0≦x≦3.0、0.9≦y≦2.2、0.9≦z≦3.3である。
    M2(PO ・・・(2)
    ただし、組成式(2)において、M2は、Mn、Co、Ni、Fe、V、VOから選ばれる少なくとも1種であり、0.9≦v≦2.2、0.9≦w≦3.3である。
  2. 前記リン酸化合物の質量bに対する前記リチウム含有リン酸化合物の質量aの比率a/bが、9≦a/b≦199であることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  3. 前記リチウム含有リン酸化合物の質量aと前記リン酸化合物の質量bの合計質量(a+b)に対する前記リチウム含有遷移金属酸化物の質量cの比率c/(a+b)が、1.5≦c/(a+b)≦99であることを特徴とする請求項1または2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  4. 前記リチウム含有リン酸化合物が、LiVOPOで表されるリン酸バナジウムリチウムであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  5. 前記リン酸化合物が、VOPOで表されるリン酸バナジウムであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  6. 前記リチウム含有リン酸化合物が、LiVOPOで表されるリン酸バナジウムリチウムであり、かつ前記リン酸化合物がVOPOで表されるリン酸バナジウムであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  7. 前記リチウム含有遷移金属酸化物が、下記の組成式(3)で表される酸化物であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
    LiM3M4 ・・・(3)
    ただし、組成式(3)において、M3は、NiおよびCoから選ばれる少なくとも1種であり、M4は、Mn、Fe、Ti、Cr、Mg、Al、Cu、Si、Zr、Nb、Ga、Zn、Sn、B、V、Ca、Sr、Baから選ばれる少なくとも1種であり、0.5≦p≦1.2、0.5≦q+r≦1.2、0≦r≦0.5である。
  8. 前記リチウム含有遷移金属酸化物が、下記の組成式(4)で表されるリチウム含有ニッケル複合金属酸化物であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
    LiNi1−t−uCoAl ・・・(4)
    ただし、組成式(4)において、0.5≦s≦1.2、0<t≦0.5、0<u≦0.5、0<t+u≦0.5である。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の正極活物質を有するリチウムイオン二次電池用正極。
  10. 請求項9に記載の正極と、負極と、セパレータと、電解質溶液とを有するリチウムイオン二次電池。
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