以下、本発明のポンプ装置の実施形態を図面に基づき説明する。
[第1の実施形態]
(ポンプ装置の構成)
図1は、本発明の第1の実施形態のポンプ装置の縦断面図であり、図2は、図1の線A−Aに沿って切断したポンプ装置の断面図である。
ポンプ装置は、図示せぬパワーステアリング装置の油圧パワーシリンダに作動油を供給する所謂可変容量型のベーンポンプである。ポンプ装置は、内部にポンプ要素収容空間1aを有したポンプハウジング1と、ポンプ要素収容空間1aを貫通し、ポンプハウジング1に回転可能に取り付けられた駆動軸2と、ポンプ要素収容空間1a内に収容され、駆動軸2の回転に伴いポンプ作用を行うポンプ要素3と、を備えている。ポンプ要素3は、環状のカムリング4と、このカムリング4の内周側に配置されたロータ5と、を備えている。
ポンプハウジング1は、有底円筒状に形成されたフロントハウジング6と、このフロントハウジング6の開口部を閉塞する概ね円盤状のリアハウジング7と、を備えている。フロントハウジング6内には、アダプタリング8およびプレッシャプレート9が収容されている。なお、アダプタリング8およびプレッシャプレート9は、ポンプハウジング1に含まれるものとする。
アダプタリング8は、その内部に概ね楕円状に形成された内部空間を有するように概ね環状に形成されており、フロントハウジング6の筒状部6aの内周面に固定されている。アダプタリング8の上記内部空間には、この内部空間を移動可能となるように、円環状のカムリング4が設けられている。カムリング4の内周側において、円環状のロータ5が、駆動軸2と一体となって回転可能となるように駆動軸2の周囲に固定されている。
また、プレッシャプレート9は、円盤状をなしており、フロントハウジング6の筒状部6aにおいて、第1プレート10を挟んでカムリング4やロータ5と駆動軸2の回転軸線Oの方向反対側に設けられている。カムリング4やロータ5とフロントハウジング6の筒状部6aの底部6bとの間には、第1プレート10と同様の厚みを有した第2プレート11が設けられている。プレッシャプレート9は、吸入通路23を通してリアハウジング7とプレッシャプレート9との間の隙間に供給される作動油の油圧によって、第1、第2プレート10,11、カムリング4、ロータ5等を挟んで保持する。
アダプタリング8、プレッシャプレート9および第1、第2プレート10,11は、位置決めピン12によってポンプハウジング1に対する周方向の位置決めがなされている。
アダプタリング8の内周面のうち位置決めピン12よりも後述する第1流体圧室13側となる部位には、板部材14が設けられている。板部材14は、カムリング4がアダプタリング8の内部空間内を移動する際の転動面として機能するとともに、アダプタリング8とカムリング4との間をシールするシール部材としても機能する。
さらに、アダプタリング8の内周面のうち板部材14と径方向に対向する位置には、板部材14と同様にアダプタリング8とカムリング4との間をシールする機能を有するシール部材15が設けられている。板部材14とシール部材15とによって、アダプタリング8とカムリング4との間に、一対の第1流体圧室13および第2流体圧室16がそれぞれ画定される。
第1流体圧室13は、駆動軸2の回転軸線Oの径方向においてカムリング4の径方向外側に設けられた空間であり、駆動軸2の回転軸線Oとカムリング4の内周縁の中心との偏心量が増大するほど容積が減少する部分に設けられている。ここで、上記カムリング4の内周縁の中心は、駆動軸2の回転軸線Oの直交断面におけるカムリング4の内周縁の中心を意味している。
一方、第2流体圧室16は、駆動軸2の回転軸線Oの径方向においてカムリング4の径方向外側に設けられた空間であり、駆動軸2の回転軸線Oとカムリング4の内周縁の中心との偏心量が増大するほど容積が増大する部分に設けられている。
カムリング4は、第1流体圧室13と第2流体圧室16との圧力差に基づいて図2中の左右方向へ移動することでロータ5に対する偏心量が適宜増減するように構成されている。また、カムリング4は、その外周に弾性的に接するリターンスプリング17によってロータ5に対する偏心量が最大となる方向へ常時付勢されている。
ロータ5は、駆動軸2がその回転方向Rつまり図2中の反時計方向へ回転するときに、駆動軸2と一体となって回転する。ロータ5の外周部には、ロータ5の周方向のほぼ等間隔位置において、ロータ5の径方向に沿った11個のスリット18が形成されている。各スリット18には、板状のベーン19がロータ5の径方向に出没可能に収容されている。
各ベーン19は、各スリット18の内端部側に形成された背圧室20に導入される作動油の圧力によって、カムリング4の円形に連続する内周面に押し付けられ、カムリング4とロータ5との間の環状の空間がロータ5の周方向で仕切られることで、該空間が複数のポンプ室21に区切られる。
また、リアハウジング7のプレッシャプレート9に臨む内端面のうち、ロータ5の回転に伴い各ポンプ室21の容積が漸次拡大する吸入領域に相当する部位には、ロータ5の周方向に沿う正面視円弧状の第1吸入ポート22が形成されている。そして、この第1吸入ポート22は、リアハウジング7に形成された吸入通路23を介して図示せぬリザーバタンクに連通している。
プレッシャプレート9のうち第1吸入ポート22と対向する部位には、第1吸入ポート22と連通する吸入ポート側連通路24が、駆動軸2の回転軸線Oの方向に沿って貫通形成されている。
また、プレッシャプレート9と駆動軸2の回転軸線Oの方向に隣接する第1プレート10のうち吸入ポート側連通路24と対向する部位には、吸入ポート側連通路24と連通する第1連通路25が、駆動軸2の回転軸線Oの方向に沿って貫通形成されている。
そして、図示せぬリザーバタンクに貯留された作動油が、吸入通路23を通して第1吸入ポート22、吸入ポート側連通路24および第1連通路25へと導入され、上記吸入領域に生じるポンプ吸入作用によって各ポンプ室21へ吸入されるようになっている。
さらに、プレッシャプレート9のうち第1吸入ポート22と対向する部位には、第1吸入ポート22と連通する通路58も、駆動軸2の回転軸線Oの方向に沿って貫通形成されている。
また、プレッシャプレート9と駆動軸2の回転軸線Oの方向に隣接する第1プレート10のうち通路58と対向する部位には、通路58および第2流体圧室16と連通する通路59が、駆動軸2の回転軸線Oの方向に沿って貫通形成されている。
フロントハウジング6の筒状部6aの底部6bのうち第1吸入ポート22と対向する位置には、第1吸入ポート22とほぼ同様の形状をなす第2吸入ポート26が形成されている。
筒状部6aの底部6bと駆動軸2の回転軸線Oの方向に隣接する第2プレート11のうち第2吸入ポート26と対向する部位には、第2吸入ポート26と連通する第2連通路27が、駆動軸2の回転軸線Oの方向に沿って貫通形成されている。また、第2吸入ポート26は、フロントハウジング6に形成された還流通路28を介して、同じくフロントハウジング6に形成された凹部29と連通している。この凹部29には、フロントハウジング6と駆動軸2との間をシールするシールリング30が嵌め込まれている。また、凹部29には、駆動軸2の周囲の軸受、例えばプレーンベアリング60,61を潤滑した後の余剰な作動油が滞留するようになっている。この余剰な作動油は、上述した吸入領域に生じるポンプ吸入作用によって還流通路28、第2吸入ポート26および第2連通路27を介して各ポンプ室21に供給される。従って、余剰な作動油のポンプ装置外部への漏出が抑制される。
さらに、第2プレート11のうち第2吸入ポート26と対向する部位には、第2吸入ポート26および第2流体圧室16と連通する通路62が、駆動軸2の回転軸線Oの方向に沿って貫通形成されている。
なお、第1吸入ポート22および第2吸入ポート26は、特許請求の範囲に記載の「吸入ポート」に相当する。
また、フロントハウジング6の底部6bの第2プレート11と対向する面のうち、ロータ5の回転に伴い各ポンプ室21の容積が漸次縮小する吐出領域に相当する部位には、ロータ5の周方向に沿う正面視円弧状の第1吐出ポート31が形成されている。
第1吐出ポート31は、この第1吐出ポート31の底部に形成された圧力室32を介して図示せぬ吐出通路に連通している。そして、上述した吐出領域におけるポンプ作用によって各ポンプ室21から吐出された作動油が、第1吐出ポート31および吐出通路を介して図示せぬパワーステアリング装置の油圧パワーシリンダに供給される。
第2プレート11の第1吐出ポート31と対向する部位には、第1吐出ポート31と連通する第3連通路33が、駆動軸2の回転軸線Oの方向に沿って貫通形成されている。
また、リアハウジング7の内側面のうち第1吐出ポート31と対向する位置には、第1吐出ポート31とほぼ同様の形状をなす第2吐出ポート34が形成されている。
第2吐出ポート34と駆動軸2の回転軸線Oの方向に隣接するプレッシャプレート9のうち第2吐出ポート34と対向する部位には、第2吐出ポート34と連通する吐出ポート側連通路35が、駆動軸2の回転軸線Oの方向に沿って貫通形成されている。
また、プレッシャプレート9と駆動軸2の回転軸線Oの方向に隣接する第1プレート10のうち吐出ポート側連通路35と対向する部位には、吐出ポート側連通路35と連通する第4連通路36が、駆動軸2の回転軸線Oの方向に沿って貫通形成されている。
第1の吐出ポート31および第2吐出ポート34は、第1の吐出ポート31の始端31aおよび第2吐出ポート34の始端から駆動軸2の回転方向Rの逆方向に向かって延びるノッチを有していない。
なお、第1吐出ポート31および第2吐出ポート34は、特許請求の範囲に記載の「吐出ポート」に相当する。
このように第1、第2吸入ポート22,26と第1、第2吐出ポート31,34とが、各ポンプ室21を挟んで駆動軸2の回転軸線Oの方向に対称となるようにそれぞれ設けられることで、各ポンプ室21における駆動軸2の回転軸線Oの方向両側の圧力バランスが保たれている。
また、フロントハウジング6の第2吸入ポート26側の内部には、ポンプ吐出圧を制御するコントロールバルブ37が設けられている。コントロールバルブ37は、図2の左側から右側に向かって形成された細長い弁穴38と、この弁穴38に収容される有底円筒状のスプール40と、このスプール40と弁穴38の底部との間に圧縮状態で配置されたバルブスプリング39と、弁穴38の開口部を閉塞するプラグ41と、を備えている。スプール40は、弁穴38の長手方向に沿って摺動可能に設けられており、バルブスプリング39と当接する側が開口している。バルブスプリング39は、プラグ41側へスプール40を常時付勢する。
弁穴38は、スプール40が収容されることによって、プラグ41とスプール40との間に設けられた高圧室42と、内部にバルブスプリング39を収容する中圧室43と、スプール40の外周側に形成された低圧室44と、に仕切られている。高圧室42には、図示せぬ吐出通路に形成された図示せぬメータリングオリフィスよりも上流側の油圧が導入される。中圧室43には、メータリングオリフィスよりも下流側の油圧が導入される。低圧室44は、低圧通路63を通して吸入通路23と連通している。
そして、高圧室42と中圧室43との圧力差に基づいてスプール40が弁穴38の長手方向に移動するようになっている。つまり、高圧室42と中圧室43との圧力差が比較的小さく、バルブスプリング39の付勢力によってスプール40がプラグ41側に位置する場合には、第1流体圧室13と弁穴38とを連通する連通路45が低圧室44に開口し、低圧室44の低圧が第1流体圧室13に導入される。
一方、高圧室42と中圧室43との圧力差が比較的大きく、スプール40が中圧室43の圧力およびバルブスプリング39の付勢力に抗してプラグ41とは反対側に移動した場合には、低圧室44と第1流体圧室13との連通が遮断され、高圧室42が連通路45を介して第1流体圧室13と連通する。これにより、第1流体圧室13には、高圧室42の高圧が導入される。
このように、第1流体圧室13には、低圧室44または高圧室42の油圧が選択的に導入される。すなわち、第2流体圧室16には、低圧が通路62を通して常時導入されており、第1流体圧室13に低圧室44の油圧が導入されているときには、リターンスプリング17の付勢力に基づき、カムリング4が、偏心量が最大となる位置に保持され、ポンプ吐出量が最大となる。一方、第1流体圧室13に高圧室42の油圧が導入されるときには、この油圧に基づき、カムリング4がリターンスプリング17の付勢力に抗して偏心量が減少する方向に転動することで、ポンプ吐出量が減少する。
さらに、スプール40の内部には、中圧室43の圧力が所定のリリーフ圧以上となった場合、つまり吐出通路内の作動液の圧力が所定のリリーフ圧以上となった場合に開弁し、メータリングオリフィスよりも下流側の作動油の油圧を減圧するリリーフバルブ46が設けられている。
このリリーフバルブ46は、スプール40の内周側に形成されたリリーフバルブ収容孔47内に、プラグ41側から順に、コイルスプリング48、リテーナ49、ボール50およびシートバルブ51を設けることにより構成されている。
リリーフバルブ収容孔47は、スプール40の内周側に形成され、リリーフバルブ収容孔47の軸方向に延びる断面円形の孔である。リリーフバルブ収容孔47の底面とリテーナ49との間には、コイルスプリング48が圧縮状態で配置されている。リテーナ49は、リリーフバルブ収容孔47内において、リリーフバルブ収容孔47の軸方向に沿って摺動可能に設けられている。また、コイルスプリング48とは反対側のリテーナ49の端部には、円弧状凹部52が形成されており、この円弧状凹部52に、ボール50が着座する。さらに、ボール50を挟んでリテーナ49とは反対側では、シートバルブ51がリリーフバルブ収容孔47に圧入されている。シートバルブ51には、ボール50を挟んで円弧状凹部52と対向する位置において、リリーフバルブ収容孔47の軸方向に沿った貫通孔53が貫通形成されている。この貫通孔53のバルブスプリング39側の開口部は、中圧室43を介して図示せぬメータリングオリフィスよりも下流側の吐出通路に連通している。一方、貫通孔53のリテーナ49側の開口部は、ボール50によって開閉可能となっている。
また、リリーフバルブ収容孔47を構成するスプール40の周囲壁のうちシートバルブ51よりも僅かにボール50側の部位には、複数のリリーフ孔54が、スプール40の径方向に沿って貫通形成されている。これらのリリーフ孔54を介して、リリーフバルブ収容孔47内のリテーナ49とシートバルブ51との間の空間55と、低圧室44とが連通している。
かかるリリーフバルブ46において、吐出通路内の作動液の圧力が所定のリリーフ圧以上となった場合には、上記作動液の圧力が貫通孔53を介してボール50に作用することで、ボール50が、コイルスプリング48の付勢力に抗してシートバルブ51から離間する方向に移動する。これにより、作動液が、貫通孔53、空間55、リリーフ孔54、低圧室44および低圧通路63を介して吸入通路23へ排出される。
図3は、最大偏心位置でのカムリング4の内周面と第2吸入ポート26および第1吐出ポート31との相対位置関係を示す、第1の実施形態の模式図である。図4は、駆動軸2の回転速度が一定に保たれているときの時間に対する第1、第2のポンプ室21A,21Bの微小容積変化量dv1,dv2およびこれらの微小容積変化量dv1,dv2の差dv1−dv2を示す、第1の実施形態のグラフである。
図3に示すように、ロータ5に対して最大偏心量で偏心したカムリング4の内周面に、ロータ5の周方向にほぼ等間隔に配置された11個のベーン19の先端が当接している。ここで、図3において、ロータ5の周方向に互いに隣接する2つのベーン19の間の間隔を、1ピッチと定義する。
ロータ5の回転方向つまり駆動軸2の回転方向Rにおける円弧状の第2吸入ポート26の終端26bと、駆動軸2の回転方向Rにおける円弧状の第1吐出ポート31の始端31aとは、1ピッチ以上ロータ5の周方向に互いに離間している。
同様に、駆動軸2の回転方向Rにおける円弧状の第1吐出ポート31の終端31bと、駆動軸2の回転方向Rにおける第2吸入ポート26の始端26aとは、1ピッチ以上ロータ5の周方向に互いに離間している。
また、図3において、カムリング4のうち、駆動軸2の回転方向Rにおける第2吸入ポート26の終端26bと第1吐出ポート31の始端31aとの間には、第1閉じ込み領域56が、1ピッチ以上にわたって形成されている。
同様に、図3において、カムリング4のうち、駆動軸2の回転方向Rにおける第1吐出ポート31の終端31bと第2吸入ポート26の始端26aとの間には、第2閉じ込み領域57が、1ピッチ以上にわたって形成されている。
第1閉じ込み領域56の第1吐出ポート31への連通と、第2閉じ込み領域57の第1吐出ポート31との遮断が同時にされるようになっている。
また、図3では、11個のベーン19のうちベーン19bが、第1吐出ポート31の始端31aに対応した位置に配置されている。さらに、11個のベーン19のうち他のベーン19cが、第1吐出ポート31の終端31bに配置されている。
ここで、第1閉じ込み領域56のうち第1吐出ポート31の始端31a側に位置するポンプ室を、「第1のポンプ室21A」とし、第2閉じ込み領域57のうち第1吐出ポート31の終端31b側に位置するポンプ室を、「第2のポンプ室21B」とする。
上記のように第1吐出ポート31の始端31aおよび終端31bにベーン19が位置することが可能な構成によって、第1のポンプ室21Aおよび第2のポンプ室21Bの双方について、第1吐出ポート31に対する連通と遮断のタイミングを同じにすることができる。具体的には、第1閉じ込み領域56における第1のポンプ室21Aが、ロータ5の回転つまり駆動軸2の回転に伴い第1吐出ポート31と連通を開始するタイミングにおいて、第2閉じ込み領域57における第2のポンプ室21Bが第1吐出ポート31と連通を遮断するようになっている。
また、上述したようにカムリング4が円形に連続した内周面を有しているので、第1閉じ込み領域56におけるカムリング4の内周面のプロフィール4Aと、第2閉じ込み領域57におけるカムリング4の内周面のプロフィール4Bとは、ロータ5の周方向に沿ってほぼ1ピッチ分だけ連続した同様の円弧状をなしている。具体的には、カムリング4の内周面の駆動軸2を中心に置いたプロフィール4A,4Bの二乗の単位角度当たりの変化率は、同じになるようにそれぞれ形成されている。第1の実施形態では、プロフィール4Aは、駆動軸2の中心からカムリング4の内周面までの距離が第1閉じ込み領域56において常にほぼ一定となるように形成されている。同様に、プロフィール4Bは駆動軸2の中心からカムリング4の内周面までの距離が第2閉じ込み領域57において常にほぼ一定となるように形成されている。ただし、駆動軸2の中心からカムリング4の内周面までの距離は、プロフィール4Aの方がプロフィール4Bよりも大きい。
なお、プロフィール4Aとプロフィール4Bとは、駆動軸2を中心に置いたプロフィールの二乗の単位角度当たりの変化率が同様であれば、他の形状を有していても良い。例えば、2つのプロフィールを、駆動軸2の回転に伴いポンプ室21A,21Bの容積V1,V2が減少する減少プロフィールとすることができ、また、駆動軸2の回転に伴いポンプ室21A,21Bの容積V1,V2が増加する増加プロフィールとすることもできる。第1の実施形態は駆動軸2の回転に伴いポンプ室21A,21Bの容積V1,V2が減少も増加もしないプロフィールをした形態である。
駆動軸2の回転速度が一定に保持されている場合、換言すると、駆動軸2の角周波数が一定に保持されている場合、単位角度当たりの変化率と単位時間あたりの変化率は比例関係になる。従って、単位角度当たりの変化率は角周波数によって単位時間当たりの変化率へ換算できる。以後、駆動軸2の回転速度は一定に保持されていると仮定し、単位時間当たりの変化率を使って説明する。
また、図3において、第1吐出ポート31の始端31aから反時計回りに1ピッチの距離にベーン19aが位置した、および第1吐出ポート31の終端31bにベーン19cが位置した時間を「時間tn」とする。同様に、第1吐出ポート31の始端31aにベーン19bが位置した、および第1吐出ポート31の始端31aから時計回りに1ピッチの距離にベーン19dが位置した時間を「時間tn+1」とする。時間が時間tnから時間tn+1へと経過したときには、第1のポンプ室21Aの容積V1分の作動油が第1吐出ポート31に流入し、一方、第2のポンプ室21Bの容積V2分の作動油が第2吸入ポート26に流入することになる。従って、時間tnから時間tn+1における作動油の吐出量は、容積V1から容積V2を減算したもの(V1−V2)となる。
さらに、時間tnと時間tn+1との間の時間において、ロータ5が微小回転角dθだけ僅かに回転したときの作動油の吐出量は「微小容積変化量dv1」と「微小容積変化量dv2」との差dv1−dv2である。
なお、微小容積変化量dv1,dv2は、特許請求の範囲に記載の「容積変化量」に相当する。
上述したようにプロフィール4A,4Bは駆動軸2の中心カムリング4の内周面までの距離がそれぞれほぼ一定なので、時間tnから時間tn+1における微小容積変化量dv1,dv2もほぼ一定になる。つまり、図4のグラフのように、図4に細い実線で示す微小容積変化量dv1は常に一定であり、一方、図4に破線で示す微小容積変化量dv2も常に一定である。
微小容積変化量dv1,dv2がそれぞれ常に一定のため、微小容積変化量dv1,dv2の単位時間当たりの変化率が互いに同じであることにより、例えば時間t0から時間t1において、微小容積変化量dv1と微小容積変化量dv2との差dv1−dv2(図4に微小容積変化量dv1よりも太い実線で示す)が、常にほぼ一定になっている。
なお、微小容積変化量dv1,dv2の単位時間当たりの変化率が互いに同じになることは、微小容積変化量dv1,dv2が全く同一であることを意味するものではない。微小容積変化量dv1,dv2には、ポンプ装置の各部品の製造誤差、部品同士の組み付け誤差、ポンプ装置の使用時の各部品の変形等に伴う誤差等が許容される。従って、技術思想として、微小容積変化量dv1,dv2が互いに同じになるのである。
また、差dv1−dv2は常に一定になることが望ましいが、上述したポンプ装置の各部品の製造誤差等や第2吸入ポート26および第1吐出ポート31の連通、遮断のタイミングのずれによって生じる所定の誤差が許容される。つまり、微小容積変化量dv1の最大値MAXdv1と微小容積変化量dv2の最小値MINdv2の差MAXdv1−MINdv2の絶対値を100パーセントとしたときに、微小容積変化量dv1と微小容積変化量dv2との差dv1−dv2の最大値MAX(dv1−dv2)と最小値MIN(dv1−dv2)との差MAX(dv1−dv2)−MIN(dv1−dv2)が所定値以下つまり15パーセント以下となるようになっている。上記「15パーセント」は、上述したポンプ装置の各部品の製造誤差等や第1吐出ポート31の連通、遮断のタイミングのずれが最大限に生じたときに発生し得る誤差に基づいて求められた値である。
[第1の実施形態の効果]
まず、ポンプ装置に生じる振動や異音の発生原因について説明する。ポンプ装置の振動や異音の発生の原因の1つとして、ポンプ装置の圧力脈動の変化が挙げられる。この圧力脈動の変化は、ポンプ装置からの作動油の吐出量が変動することにより生じる。作動油の吐出量の変動は、上述した微小容積変化量dv1と微小容積変化量dv2との差dv1−dv2の変動によって生じる。
図5は、時間に対する第1、第2のポンプ室の微小容積変化量およびこれらの微小容積変化量の差を示す、第1の比較例のグラフである。
第1の比較例では、第1閉じ込み領域におけるカムリングの内周面が、駆動軸の回転に伴い第1のポンプ室の容積が減少する減少プロフィールとなっている。また、第2閉じ込み領域におけるカムリングの内周面が、駆動軸の回転に伴い第2のポンプ室の容積が減少する減少プロフィールとなっている。ただし、第2のポンプ室の容積の微小容積変化量dv2の単位時間当たりの変化率は、微小容積変化量dv1の単位時間当たりの変化率と比べて小さくなっている。換言すると、微小容積変化量dv1、dv2の単位時間当たりの変化率は異なっている。
図5に示すように、互いに異なる2つのプロフィールによって生じる2つの微小容積変化量dv1,dv2の差dv1−dv2は、例えば時間0から時間t1にかけてほぼ直線的に増加する。そして、この微小容積変化量dv1,dv2の差dv1−dv2の増加は、駆動軸の回転に伴って順次繰り返される。即ち、差dv1−dv2は、ほぼ直線的に増加してからステップ的に減少することが順次繰り返されることで変動している。これにより、ポンプ装置の圧力脈動の変化が生じ、ポンプ装置の振動や異音が発生する。
図6は、最大偏心位置でのカムリング4の内周面と第2吸入ポート26および第1吐出ポート31との相対位置関係を示す、第2の比較例の模式図である。図7は、時間に対する第1、第2のポンプ室21A,21Bの微小容積変化量dvx1,dvx2およびこれらの微小容積変化量dvx1,dvx2の差dvx1−dvx2を示す、第2の比較例のグラフである。
第2の比較例では、第1、第2閉じ込み領域56,57におけるカムリング4の内周面が、駆動軸の回転に伴い第1、第2のポンプ室21A,21Bの容積V1,V2が減少する減少プロフィール4C,4Dとなっている。かつ、第1閉じ込み領域56において第1吐出ポート31の始端31aから反時計回りに1ピッチの距離に対応したベーン19eの近傍の容積変化量を、「微小容積変化量dvx1」、第2閉じ込み領域57において第1吐出ポート31の終端31bに対応したベーン19cの近傍の容積変化量を、「微小容積変化量dvx2」とすると、微小容積変化量dvx1,dvx2の単位時間当たりの変化率は相似である。さらに、第1閉じ込み領域56において、ベーン19eが第2吸入ポート26の終端26bから1/2ピッチ分だけロータ5の周方向にずれた位置にある。このため、第1閉じ込み領域56の第1ポンプ室21Aの連通のタイミングおよび第2のポンプ室21Bの連通の遮断のタイミングがずれる。
微小容積変化量dvx1と微小容積変化量dvx2との差dvx1−dvx2は、駆動軸の回転に伴い、ベーン19e,19cの位相のずれの影響を受けて変動する。
次に第1の実施形態の効果を説明する。ポンプ装置において振動や異音の発生を抑制するには、互いに対応する2つのベーン19e,19cの微小容積変化量のdvx1,dvx2の単位時間当たりの変化率が同じで、かつ差dvx1−dvx2が、駆動軸の回転に伴い常に一定であることが望ましい。
しかし、第2の比較例では、ベーン19eの位相が1/2ピッチずれていることにより、微小容積変化量dvx1,dvx2の単位時間当たりの変化率が常に同じにならず、さらに、差dvx1−dvx2が常に一定とならない。これにより、ポンプ装置の振動や異音が生じる虞がある。
これに対し、第1の実施形態では、ポンプ装置は、ポンプハウジング1であって、ポンプ要素収容空間1a、吸入通路23、吐出通路、第2吸入ポート26、および第1吐出ポート31を有し、吸入通路23は、第2吸入ポート26と接続されており、吐出通路は、第1吐出ポート31と接続されている、ポンプハウジング1と、ポンプハウジング1に回転可能に設けられた駆動軸2と、駆動軸2に設けられ、複数のスリット18を有するロータ5と、複数のスリット18の夫々の中で移動可能に設けられた複数のベーン19と、カムリング4であって、環状に形成されており、ポンプ要素収容空間1aの中に設けられており、ロータ5および複数のベーン19と共に複数のポンプ室21を形成し、ポンプ要素収容空間1aに第1流体圧室13と第2流体圧室16を形成し、ロータ5との間に第1閉じ込み領域56と第2閉じ込み領域57を形成しており、第2吸入ポート26は、複数のポンプ室21のうち、駆動軸2の回転に伴いポンプ室21の容積が増大する領域に開口しており、第1吐出ポート31は、複数のポンプ室21のうち、駆動軸2の回転に伴いポンプ室21の容積が減少する領域に開口しており、第1流体圧室13は、駆動軸2の回転軸線Oの径方向においてカムリング4の径方向外側に設けられた空間であって、駆動軸2の回転軸線Oとカムリング4の内周縁の中心との偏心量が増大するほど容積が減少する部分に設けられており、第2流体圧室16は、駆動軸2の回転軸線Oの径方向においてカムリング4の径方向外側に設けられた空間であって、駆動軸2の回転軸線Oとカムリング4の内周縁の中心との偏心量が増大するほど容積が増大する部分に設けられており、第1閉じ込み領域56は、カムリング4のうち、駆動軸2の回転方向Rにおける第2吸入ポート26の終端26bと第1吐出ポート31の始端31aの間の領域であって、第2閉じ込み領域57は、カムリング4のうち、駆動軸2の回転方向Rにおける第1吐出ポート31の終端31bと第2吸入ポート26の始端26aの間の領域であって、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴う第1のポンプ室21Aの微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴う第2のポンプ室21Bの微小容積変化量dv2の差dv1−dv2の最大値MAX(dv1−dv2)と最小値MIN(dv1−dv2)との差MAX(dv1−dv2)−MIN(dv1−dv2)は所定値以下であり、複数のポンプ室21のうちの1つである第1のポンプ室21Aが駆動軸2の回転に伴い第1吐出ポート31と連通を開始するタイミングにおいて、複数のポンプ室21のうち第1のポンプ室21Aではない第2のポンプ室21Bが第1吐出ポート31との連通が遮断されるように形成されており、第1流体圧室13と第2流体圧室16の圧力差に基づきポンプ要素収容空間1aの中で移動可能に設けられている、カムリング4と、を有する。
このように、第1ポンプ室21Aの連通、第2のポンプ室21Bの連通の遮断のタイミングが同じである。さらに、差dv1−dv2の最大値MAX(dv1−dv2)と最小値MIN(dv1−dv2)との差MAX(dv1−dv2)−MIN(dv1−dv2)が、所定値以下つまり15パーセント以下となっている。つまり、カムリング4は、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴う第1のポンプ室21Aの微小容積変化量dv1の最大値MAXdv1と第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴う第2のポンプ室21Bの微小容積変化量dv2の最小値MINdv2の差MAXdv1−MINdv2の絶対値を100パーセントとしたとき、微小容積変化量dv1と微小容積変化量dv2との差dv1−dv2の最大値MAX(dv1−dv2)と最小値MIN(dv1−dv2)との差MAX(dv1−dv2)−MIN(dv1−dv2)は、15パーセント以下となる形状を有する。従って、駆動軸2の回転に伴う差dv1−dv2の変動が抑制され、これにより、ポンプ装置の圧力脈動が低減する。よって、ポンプ装置の振動や異音を抑制することができる。
また、第1の実施形態では、カムリング4は、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴う第1のポンプ室21Aの微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴う第2のポンプ室21Bの微小容積変化量dv2の単位時間当たりの変化率が同じとなる形状を有する。
つまり、カムリング4は、微小容積変化量dv1の最大値MAXdv1と微小容積変化量dv2の最小値MINdv2の差MAXdv1−MINdv2の絶対値を100パーセントとしたとき、微小容積変化量dv1,dv2の差dv1−dv2が0パーセントになることが望ましい。
これにより、作動油の吐出量の周期的な変化つまり駆動軸2の回転に伴う差dv1−dv2の変動に起因するポンプ装置の圧力脈動が理論的にはゼロとなる。従って、ポンプ装置の振動や異音をさらに抑制することができる。
また、第1の実施形態では、カムリング4は、駆動軸2の回転軸線Oとカムリング4の内周縁との偏心量が最大のとき、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴う第1のポンプ室21Aの微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴う第2のポンプ室21Bの微小容積変化量dv2の差dv1−dv2の最大値MAX(dv1−dv2)と最小値MIN(dv1−dv2)との差MAX(dv1−dv2)−MIN(dv1−dv2)が所定値以下となる形状を有する。
カムリング4の偏心量が最大のときは、エンジンがアイドル回転状態である。ドライバーがハンドルを大きく操舵することが最も多いのはエンジンがアイドル回転時である。ハンドルの操舵角に伴い作動油の吐出圧も大きくなる。そして、ポンプ装置からの吐出圧の変動に起因するポンプ装置の振動や異音の影響がより顕著なものとなる。従って、このような作動油の吐出圧が大きいときに差dv1−dv2の最大値MAX(dv1−dv2)と最小値MIN(dv1−dv2)との差MAX(dv1−dv2)−MIN(dv1−dv2)を所定値以下に抑えることで、ポンプ装置の振動や異音を効果的に抑制することができる。
特に、エンジンがアイドル回転状態のときには、エンジン音が他の運転状態と比べて小さくなるから、ポンプ装置からの異音がより強調されることになる。このような状況での異音を抑制することは、他の運転状態でのポンプ装置の異音を抑制することよりも効果的である。
[第2の実施形態]
図8は、最大偏心位置でのカムリング4の内周面と第2吸入ポート26および第1吐出ポート31との相対位置関係を示す、第2の実施形態の模式図である。図9(a)は、第1閉じ込み領域56における第1のポンプ室21Aの模式図であり、図9(b)は、第2閉じ込み領域57における第2のポンプ室21Bの模式図である。図10は、時間に対する第1、第2のポンプ室21A,21Bの微小容積変化量dv1,dv2およびこれらの微小容積変化量dv1,dv2の差dv1−dv2を示す、第2の実施形態のグラフである。
第2の実施形態では、図9(a)、(b)で示したカムリング4の内周面にあるプロフィール4E、4Gを次のようにする。第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴うカム動径R1(4E)の単位時間当たりの変化率が、第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴うカム動径R2(4G)の単位時間当たりの変化率よりも小さくなる、かつ、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴うカム動径R1の二乗の単位時間当たりの変化率が、第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴うカム動径R2の二乗の単位時間当たりの変化率と同じになるように、カムリング4が構成されている。換言すると、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴う第1のポンプ室21Aの微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴う第2のポンプ室21Bの微小容積変化量dv2の単位時間当たりの変化率が常に同じになるように、カムリング4が構成されている。なお、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴うカム動径R1(4E)の二乗の単位時間当たりの変化率が、第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴うカム動径R2(4G)の二乗の単位時間当たりの変化率と同じならば、換言すると、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴う第1のポンプ室21Aの微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴う第2のポンプ室21Bの微小容積変化量dv2の単位時間当たりの変化率が常に同じならば、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴うカム動径R1(4E)の単位時間当たりの変化率が、第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴うカム動径R2(4G)の単位時間当たりの変化率よりも大きくすることもできる。
図9(a)、(b)において2点鎖線で示されているプロフィール4F,4Hは、駆動軸2の中心からカムリング4の内周面までの距離が第1、第2閉じ込み領域56,57において常にほぼ一定となるようにそれぞれ形成されている。つまり、微小容積変化量dv1、dv2の差dv1−dv2は第1の実施形態と同様に常にほぼ一定になる。このとき、微小容積変化量dv1、dv2の単位時間当たりの変化率は常に0である。第2の実施形態とは、図10に示すように、微小容積変化量dv1、dv2の単位時間当たりの変化率が常に0にならない、かつ、微小容積変化量dv1とdv2との差dv1−dv2が常に一定になる場合の一つである。第2の実施形態は駆動軸2の回転に伴いポンプ室21A,21Bの容積V1,V2が減少する減少プロフィールである。
第2の実施形態では、第1の実施形態と同様に微小容積変化量dv1とdv2との差dv1−dv2が常にほぼ一定になるようにプロフィールを設計したため、図9(a)、(b)で示した2つのベーン19a、19bと2つのプロフィール4E、4Fに囲まれた容積変化量VAΔ1と2つのベーン19c、19dと2つのプロフィール4G、4Hに囲まれた容積変化量VBΔ2は概ね等しくなる。
[第2の実施形態の効果]
第1の実施形態には次のような問題がある。第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴う第1のポンプ室21Aの微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴う第2のポンプ室21Bの微小容積変化量dv2の単位時間当たりの変化率が常に0であるため、微小容積変化量dv1、dv2の位相にかかわらず、微小容積変化量dv1とdv2との差dv1−dv2を常にほぼ一定にすることができる。しかしながら、プロフィールが次のように制約される。駆動軸2の中心からカムリング4の内周面までの距離が第1、第2閉じ込み領域56,57において常にほぼ一定となる。第2の実施形態では、次の2つのことを守ることでプロフィールが制約を受けない。第1吐出ポート31に対する連通と遮断のタイミングを同じにし、微小容積変化量dv1、dv2の単位時間当たりの変化率を同じにする。従って、ポンプ装置の作動油の吐出量が安定し、ポンプ装置の振動や異音を抑制することができる。
[他の実施形態の効果]
他の一実施形態では、ポンプ装置は、リリーフバルブ46を備え、リリーフバルブ46は、吐出通路と接続されており、吐出通路内の作動液の圧力がリリーフ圧以上のとき、作動液を吸入通路23へ排出するものであり、カムリング4は、吐出通路内の作動液の圧力がリリーフ圧未満のとき、第1閉じ込み領域56における駆動軸2の回転に伴う第1のポンプ室21Aの微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57における駆動軸2の回転に伴う第2のポンプ室21Bの微小容積変化量dv2の差dv1−dv2の最大値MAX(dv1−dv2)と最小値MIN(dv1−dv2)との差MAX(dv1−dv2)−MIN(dv1−dv2)が所定値以下となる形状を有していることが望ましい。
駆動軸2の回転軸線Oとカムリング4の内周縁の中心との相対位置の変化は、第1流体圧室13と第2流体圧室16の差圧の変化によって生じるだけでなく、作動油の吐出圧の変化によっても生じる。即ち、作動油の吐出圧が上昇すると、吐出領域の作動液により、カムリング4とロータ5とが互いに離れる方向に力が作用し、カムリング4を収容しているフロントハウジング6の筒状部6aの吐出領域側の内周面が筒状部6aの径方向外側に弾性変形する。この弾性変形により窪んだ筒状部6aの内周面の部位に、筒状部6aと隣接するアダプタリング8がずれ込む。これに伴い、カムリング4は、駆動軸2の回転軸線Oを基準として吐出領域側に移動する。この移動量は、吐出圧が最大値であるリリーフ圧のとき、最大となる。
このため、本実施例のように、吐出圧がリリーフ圧未満のとき、即ち、通常のポンプ装置の使用状態において、第1閉じ込み領域56の微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57の微小容積変化量dv2の差dv1−dv2の最大値MAX(dv1−dv2)と最小値MIN(dv1−dv2)との差MAX(dv1−dv2)−MIN(dv1−dv2)が所定値以下となるようにすることで、通常の使用状態においてポンプ装置の異音等の問題を抑制することができる。
さらに他の一実施形態では、カムリング4は、第1閉じ込み領域56において、駆動軸2の回転に伴い第1のポンプ室21Aの容積V1が減少する形状を有していることが望ましい。
これにより、スリット18内を摺動可能なベーン19に、このベーン19をロータ5の中心に向かって押さえ付ける予圧が作用する。従って、第1閉じ込み領域56におけるカムリング4に対するベーン19の離間が抑制され、第1のポンプ室21A内の作動油の漏れが緩和される。このため、ポンプ装置からの作動油の吐出量が安定化し、第1閉じ込み領域56の微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57の容積変化量dv2の差dv1−dv2の変動が緩和される。よって、ポンプ装置の振動や異音を抑制することができる。
なお、本実施形態では、第1閉じ込み領域56の微小容積変化量dv1と第2閉じ込み領域57の微小容積変化量dv2とを同じにするために、当然のことながら、第2閉じ込み領域57におけるカムリング4の内周面も、第1閉じ込み領域56と同様の減少形状を有している。
以上説明した実施形態に基づくポンプ装置としては、例えば以下に述べる態様のものが考えられる。
ポンプ装置は、その一態様として、ポンプハウジングであって、ポンプ要素収容空間、吸入通路、吐出通路、吸入ポート、および吐出ポートを有し、前記吸入通路は、前記吸入ポートと接続されており、前記吐出通路は、前記吐出ポートと接続されている、前記ポンプハウジングと、前記ポンプハウジングに回転可能に設けられた駆動軸と、前記駆動軸に設けられ、複数のスリットを有するロータと、前記複数のスリットの夫々の中で移動可能に設けられた複数のベーンと、カムリングであって、環状に形成されており、前記ポンプ要素収容空間の中に設けられており、前記ロータおよび複数の前記ベーンと共に複数のポンプ室を形成し、前記ポンプ要素収容空間に第1流体圧室と第2流体圧室を形成し、前記ロータとの間に第1閉じ込み領域と第2閉じ込み領域を形成しており、前記吸入ポートは、複数の前記ポンプ室のうち、前記駆動軸の回転に伴い前記ポンプ室の容積が増大する領域に開口しており、前記吐出ポートは、複数の前記ポンプ室のうち、前記駆動軸の回転に伴い前記ポンプ室の容積が減少する領域に開口しており、前記第1流体圧室は、前記駆動軸の回転軸線の径方向において前記カムリングの前記径方向外側に設けられた空間であって、前記駆動軸の回転軸線と前記カムリングの内周縁の中心との偏心量が増大するほど容積が減少する部分に設けられており、前記第2流体圧室は、前記駆動軸の回転軸線の径方向において前記カムリングの径方向外側に設けられた空間であって、前記駆動軸の回転軸線と前記カムリングの内周縁の中心との偏心量が増大するほど容積が増大する部分に設けられており、前記第1閉じ込み領域は、前記カムリングのうち、前記駆動軸の回転方向における前記吸入ポートの終端と前記吐出ポートの始端の間の領域であって、前記第2閉じ込み領域は、前記カムリングのうち、前記駆動軸の回転方向における前記吐出ポートの終端と前記吸入ポートの始端の間の領域であって、前記第1閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量と前記第2閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量の差の振幅は所定値以下であり、複数の前記ポンプ室のうちの1つである第1のポンプ室が前記駆動軸の回転に伴い前記吐出ポートと連通を開始するタイミングにおいて、複数の前記ポンプ室のうち前記第1のポンプ室ではない第2のポンプ室が前記吐出ポートとの連通が遮断されるように形成されており、前記第1流体圧室と前記第2流体圧室の圧力差に基づき前記ポンプ要素収容空間の中で移動可能に設けられている、前記カムリングと、を有する。
前記ポンプ装置の好ましい態様において、前記カムリングは、前記第1閉じ込み領域の微小容積変化量の最大値と前記第2閉じ込み領域の微小容積変化量の最小値の差の絶対値を100パーセントとしたとき、前記第1閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量と前記第2閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量の差の最大値と最小値との差は、15パーセント以下となる形状を有する。
別の好ましい態様では、前記ポンプ装置の態様のいずれかにおいて、前記カムリングは、前記第1閉じ込み領域の容積と前記第2閉じ込み領域の容積の差の絶対値を100パーセントとしたとき、前記第1閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量と前記第2閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量が同じとなる形状を有する。
別の好ましい態様では、前記ポンプ装置の態様のいずれかにおいて、前記カムリングは、前記駆動軸の回転軸線と前記カムリングの内周縁との偏心量が最大のとき、前記第1閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量と前記第2閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量の差の振幅が前記所定値以下となる形状を有する。
別の好ましい態様では、前記ポンプ装置の態様のいずれかにおいて、前記ポンプ装置は、リリーフバルブを備え、前記リリーフバルブは、前記吐出通路と接続されており、前記吐出通路内の作動液の圧力がリリーフ圧以上のとき、作動液を前記吸入通路へ排出するものであり、前記カムリングは、前記吐出通路内の作動液の圧力が前記リリーフ圧未満のとき、前記第1閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量と前記第2閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴う前記ポンプ室の容積変化量の差の振幅が前記所定値以下となる形状を有する。
別の好ましい態様では、前記ポンプ装置の態様のいずれかにおいて、前記カムリングは、前記第1閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴うカム動径の変化率が、前記第2閉じ込み領域における前記駆動軸の回転に伴うカム動径の変化率よりも小さくなる形状を有する。
別の好ましい態様では、前記ポンプ装置の態様のいずれかにおいて、前記カムリングは、前記第1閉じ込み領域において、前記駆動軸の回転に伴い前記ポンプ室の容積が減少する形状を有する。