JP2019155228A - 塗装構造、塗装方法、及び車両 - Google Patents

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悦子 高根
宣仁 勝村
Nobuhito Katsumura
宣仁 勝村
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Osamu Uhara
治 鵜原
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Abstract

【課題】塗装(被塗装物)の耐候性及び耐久性を向上させる塗装方法の提供。【解決手段】塗料層2、及び、前記塗料層2を保護する保護層4が設けられる被塗装物1の塗装方法であって、前記塗料層2及び前記保護層4の間に、光触媒能が抑制され又は無効化された酸化チタンを含む物質である光触媒能抑制物質(光触媒能抑制層3)を介在させる。【選択図】図1

Description

本発明は塗装構造、塗装方法、及び車両に関する。
鉄道車両や自動車等の移動体の表面には、汚れが付着し堆積しやすい。例えば、鉄道車両では、走行時に車輪とレールの摩擦により発生した金属粉等の無機物質、及び、様々な有機物質(昆虫や鳥類を起因とする物質、架線カーボン等)がその表面に付着する。このうち有機物は、主に黒色の汚れを発生させ、美観を大きく損ねる。また、金属粉(例えば、直径あるいは長さが数μm〜10μm程度のもの)は、移動体の表面で酸化して錆の状態に至り褐色の着色汚れを生じさせると共に、その金属粉が移動体の表面(例えば、0.2〜0.5μm厚の防汚層)に突き刺さって移動体表面の損傷や強度の低下を招く。
この点、移動体の汚れを防止するためには、移動体の表面に、種々の汚れに対応可能な表面構造を有する保護用の膜(保護層)を形成することが有効である。例えば、特許文献1には、外装材のカラー塗装上に有機樹脂層が形成され、親水処理された有機樹脂層の上層に耐候性に優れた防汚層(最表面)を形成し、その防汚層に光触媒にて親水性を持たせることで油の付着によっても汚れにくく、水洗い等によって簡単に汚れが落とすことができるとされている車両外装材及び防汚処理の技術が開示されている。
特開2003−306088号公報
しかしながら、特許文献1には有機物による汚れ(特に油汚れ)について記載されているものの、金属粉等の硬質な物質の飛来や衝突に対する対策は考慮されていない。硬質な物質に対する対策は、移動体が鉄道車両等の場合に重要となる。すなわち、鉄道車両等は屋外で長期間にわたって使用されるため、金属粉等の飛来によって損傷を受けやすい。また特に問題なのは、損傷によって露出した下層の塗料層が太陽光による紫外線の放射を長い間受け続ける結果、塗料樹脂が光触媒作用によって分解し、塗料層及び表面の保護層等にクラックや剥離が発生し、鉄道車両がさらに劣化することである。
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐候性及び耐久性を向上させることが可能な塗装構造、塗装方法、及び車両を提供することにある。
以上の課題を解決するための本発明の一つは、塗料層、及び、前記塗料層を保護する保護層が設けられる被塗装物の塗装方法であって、前記塗料層及び前記保護層の間に、光触媒能が抑制され又は無効化された酸化チタンを含む物質である光触媒能抑制物質を介在させることを特徴とする。
本発明によれば、耐候性及び耐久性を向上させることができる。
図1は、本実施形態に係る塗装構造の一例を示す断面図である。 図2は、本実施形態に係る被塗装物1の一例として示す鉄道車両11の模式側面図である。 図3は、本実施形態における塗装構造5の塗装方法の一例を説明するフローチャートである。 図4は、実施例サンプル1−4の各試験結果を示した表である。 図5は、比較例サンプル1−3の各試験結果を示した表である。 図6は、保護膜サンプルの各試験結果を示した表である。 図7は、従来の塗装構造の構成例を示す断面図である。
以下、図面を参照しつつ本実施形態に係る塗装構造について説明する。まず、本実施形態に係る塗装構造の特徴を明らかにするため、従来の塗装構造の一例について説明する。
<従来の塗装構造>
図7は、従来の塗装構造の構成例を示す断面図である。この塗装構造は、鉄道車両や建物等、屋外での使用が想定される被塗装物101を想定している。すなわち、基材である被塗装物101の上に、有色の有機物(例えば、有機樹脂)等を素材とする有色有機塗料膜201、及び、所定の有機樹脂により形成された保護膜である有機クリヤ塗料膜401が積層して塗布される。有機クリヤ塗料膜401は、各種の飛来物等による損傷を防止するために設けられるが、有機樹脂等からなるため硬度が低い。そのため、例えば砂塵、金属粉等の硬質な異物が飛来すると、これらの異物が表面の有機クリヤ塗料膜401に突き刺さり、損傷することになる。
そしてこの場合、突き刺さった異物は、汚れDとして強固に付着する。例えば、異物が金属粉である場合、有機クリヤ塗料膜401の表面に付着した汚れDは錆となって褐色を呈すると共に、体積膨張により有機クリヤ塗料膜401の表面に密着する。ここで、汚れDを有機クリヤ塗料膜401から物理的に除去しようとすると、汚れDは脆いため、この除去時に発生した細かい残渣が有機クリヤ塗料膜401の表面に残留する。残留した錆の成分は、微小なコロイド粒子として有機クリヤ塗料膜401の内部に侵入し、有機クリヤ塗料膜401全体に、着色した汚れを生じさせる。このような汚れ(錆)が被塗装物101上にいったん生成してしまうと、有機クリヤ塗料膜401を損傷せずにこれを除去することは困難である。
また、従来の塗装構造では、以下のような問題も生じさせる。すなわち、有色有機塗料膜201中には、塗料の退色防止材として酸化チタンが添加されることが多いが、この酸化チタンは光触媒能を有するため、太陽から放射される紫外線が、有機クリヤ塗料膜401から有色有機塗料膜201に達すると、有色有機塗料膜201中の塗料物質が分解して(例えば、分子中のC-C結合が分解して)、CO2(二酸化炭素)ガスが発生する。そして、このCO2ガスが有機クリヤ塗料膜401を押圧してこれを欠損させる。そして、この欠損
部を起点にして塗装構造に大きなクラックCが発生し、有機クリヤ塗料膜401や有色有機塗料膜201等が剥離することになる。その結果、被塗装物101の美観も大きく損なわれる。
このように、従来の塗装構造においては、硬質な異物の飛来等により被塗装物101が損傷すると共に、紫外線による化学的作用(光触媒作用)に基づく損傷も引き起こされるという事態が生じていた。このような点に鑑みて、本実施形態に係る塗装構造は以下のような構成を有する。
<本実施形態に係る塗装構造>
図1は、本実施形態に係る塗装構造5の一例を示す断面図である。本実施形態の塗装構
造5は被塗装物1の表面に設けられ、塗料層2、光触媒能抑制層3、及び保護層4を有する。
被塗装物1は塗装構造5の基材であり、例えば、屋外で使用され、耐候性、耐久性が要求されるものである。被塗装物1は、例えば、種々の移動体(鉄道車両、自動車、航空機等)、建築物(ビル、橋梁等の構造物等)、機械(建設機械、エレベータ等)、発電機器(太陽光発電モジュール、ブレードの回転動作を行う風力発電機及び風力発電モジュール等)である。また、被塗装物1は、塗装が可能な物質である必要があればその他のものでもよく、例えば、金属、セラミックス、若しくは樹脂又はこれらの組み合わせによる物質からなるものである。
塗料層2は被塗装物1の上層に設けられ、例えば、種々の有機物質から構成される有色の塗料からなる。塗料層2は、例えば、アクリル樹脂系、アクリルウレタン樹脂系、フェノール樹脂系、エポキシ樹脂系、ポリエステル樹脂系、又はウレタン樹脂系の塗料からなる。さらに、塗料層2は、退色防止材として酸化チタンを含んでいる。なお、この酸化チタンは光触媒能を有する。
光触媒能抑制層3は、塗料層2の上層に設けられ、光触媒能を有しない又はこれが抑制された物質(以下、光触媒能抑制物質という)で構成される。すなわち、光触媒能抑制層3は、例えば、アモルファス型過酸化チタン(TiO3)若しくはアモルファス型酸化チタン(TiO2)又はこれらの混合物である。また、光触媒能抑制層3は、光触媒能を有するアナターゼ型酸化チタン又はルチル型酸化チタンに対してシランカップリング処理を施すことによって光触媒能を抑制させたものとしてもよい。
なお、この光触媒能抑制層3は塗料層2上に層状に形成してもよいし、本図のように光触媒能抑制物質を分散させた状態で塗料層2上に埋もれるように形成してもよい。
また、光触媒能抑制層3の厚さは、0.5〜4.0μmが好ましい。光触媒能抑制層3の厚さがこれよりも薄いと、膜欠陥(ピンホール等)が発生し易く、その下層の塗料層2が損傷するおそれがある。また、光触媒能抑制層3の厚さがこれよりも厚いと、当該厚みの部分に局所的に応力が発生して光触媒能抑制層3が剥離するおそれがある。
保護層4は、光触媒能抑制層3の上層に設けられる、外気に接する最表面の層である。保護層4は、外部から加わる衝撃(例えば、金属成分や有機物等の異物の衝突)、太陽光の放射、風雨、風雪等に起因して被塗装物1の表面付近が損傷し又は劣化することを防ぐ(例えば、膜剥がれを防止する)ための保護膜である。
保護層4は、有機成分及び無機成分が分子レベル又はナノレベルで複合化(化学結合)して形成される複合材料(以下、有機無機複合材という)からなる。保護層4の有機成分は、例えば、有機樹脂等の高分子化合物の成分(例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂といった有機樹脂の樹脂成分)である。保護層4の無機成分は、例えば、シロキサン結合(Si-O-Si)を有してケイ素を主鎖骨格とする、ガラス様体の成分物質であ
る。シロキサン結合により結合された有機樹脂成分を含むことで、保護層4の膜としての安定性及び耐久性が確保されると共に、太陽からの紫外線の放射による分解が生じにくい。これにより、被塗装物1の耐候性を向上させることができる。なお、保護層4の無機成分は、ケイ素を主鎖骨格とするものに限られず、チタン、ジルコニア又はアルミニウムを主鎖骨格に含むものでもよい。
有機成分と無機成分の複合化は、有機物と相互作用し得る有機基と、金属成分を含む加水分解性基とを分子内に有する化合物(例えば、シランカップリング剤)、又は、有機基を有するポリシロキサン等の化合物を用いて行うことができる。シランカップリング剤の
場合、例えば、金属又は金属酸化物(例えば、チタン、ニッケル、ジルコニア、若しくは亜鉛等の金属又はそれらの金属酸化物)と、有機高分子とを化学結合させ、これにより保護層4の前駆体を生成する。
このような保護層4の具体例としては、例えば、無機成分としての金属アルコキシドと、有機成分としての、水酸基等の極性基を有する有機高分子(例えば、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等)とを反応させて得られた複合物質である。すなわち、金属アルコキシドの加水分解により得られる金属酸化物と、有機高分子との間に化学結合が形成されることにより、両者が複合化される。
なお、保護層4の硬さは、鉛筆硬度4H以上であることが好ましい。これにより、砂塵や金属粉等の硬質な物質の付着を防止することができる。なお、鉛筆硬度とは、日本工業規格(JIS)に規定されている鉛筆硬度試験(JIS K 5600-5-4)に基づいて評価した引っ
掻き硬度である。
以上のように、本実施形態の塗装構造5によれば、塗料層2及び保護層4の間に、光触媒能が抑制され又は無効化された酸化チタンを含む物質である光触媒能抑制物質を介在させる(光触媒能抑制層3を設ける)ことで、塗装構造5の耐候性及び耐久性を向上させることができる。すなわち、光触媒能抑制層3は、紫外線の放射に基づく光触媒能(紫外線励起による光触媒能)を有さないか又はこれが抑制されているので、光触媒能抑制層3が太陽からの紫外線放射による光化学反応を抑制し又はこれが起きないようにすることで、塗料層2中に退色防止材等として添加されている光触媒能を有する物質(例えば、酸化チタン)が分解し塗装構造5が劣化、さらなる損傷を引き起こすことを防ぐことができる。また、有機塗料クリヤ膜401を保護層として用いていた従来の塗装構造とは異なり、有機無機複合材を保護層4に用いることで、従来の塗装構造よりも硬い保護層を形成でき、金属等の硬質な物質が飛来しても保護層4を損傷しにくくすることができる。このように、本実施形態の塗装構造5によれば、被塗装物1の耐候性及び耐久性を向上させることができる。
また、本実施形態の塗装構造5においては、光触媒能抑制物質(光触媒能抑制層3)が、アモルファス型過酸化チタン、又はアモルファス型酸化チタンを含んでいることで、光触媒能抑制層3が確実に光触媒能を有さないものとすることができる。また、本実施形態におけるアモルファス型過酸化チタン及びアモルファス型酸化チタンは、塗料層2及び保護層4中の有機成分との密着性が良好であるため、外部からの衝撃及び経年劣化等の外的要因に対する保護層4の耐性を向上させ、被塗装物1の損傷や剥離のリスクを低減させることができる。
また、本実施形態の塗装構造5においては、アナターゼ型酸化チタン又はルチル型酸化チタンに対してシランカップリング処理を施すことにより光触媒能を抑制させた光触媒能抑制物質を用いることで、これにより光触媒能を確実に抑制しつつも強度、耐久性を保つことができる。
また、本実施形態の塗装構造5においては、光触媒能抑制物質を有機溶剤に分散させ、その有機溶剤中に分散させた光触媒能抑制物質を半硬化状態の塗料層2に塗布してもよい。このように、有機溶剤によって光触媒能抑制物質を分散的に配置することにより、少量の光触媒能抑制物質でも被塗装物1の耐候性を効率よく向上させることができる。
また、本実施形態の塗装構造5においては、保護層4は、金属酸化物及び有機樹脂成分が化学結合した複合材を含むとすることで、光触媒能抑制層3(特に、有機物との密着性が良好なアモルファス型過酸化チタン及びアモルファス型酸化チタン)、又は、塗料層2
(特に、有機樹脂)に対する接着性が高い。これにより、被塗装物1に対してシャワーやブラシを用いて擦過による洗浄を行った際の、保護層4や塗料層2の剥離等を防ぐことができる。このように、被塗装物1の洗浄処理に対する耐性が向上するので、被塗装物1のメンテナンスが容易となる(例えば、保護層4の除去、再塗布の頻度が軽減する)と共にその費用を低減することができる。また、保護層4中の有機樹脂成分により、粘着剤を有する粘着シート(シール)を被塗装物1の表面に貼付した場合に、その接着力に優れる。
また、本実施形態の塗装構造5においては、保護層4が無機成分を有することによって、保護膜としての高い硬度を得ることができる。これにより、砂塵、金属粉等の硬質な異物の飛来による被塗装物1の損傷や汚れを低減することができる。これにより、耐久性及び防汚性を向上させることができる。
<鉄道車両への適用>
次に、本実施形態に係る塗装構造5を鉄道車両11に適用した場合を説明する。
図2は、本実施形態に係る被塗装物1の一例として示す鉄道車両11の模式側面図である。同図に示すように、鉄道車両11の側面部17及び上面部15(屋根)は、金属板を加工した所定の加工材により形成されている。側面部17には、ドア部13(開閉扉)や窓部14が設けられている。また、鉄道車両11の上面部15には、パンタグラフ16及び空調機19(冷房等)が設けられている。なお、鉄道車両11の底面部18には車輪12が設けられている。
鉄道車両11は屋外にて高速で移動しながら長時間使用され、その間、太陽光、風雨、風雪等の過酷な条件下に晒されることになる。そのため、例えば、地面等から巻き上げられる砂塵のみならず、レール(線路)、車輪12、近傍の鉄道設備、及びパンタグラフ16等に由来する金属粉等、様々な硬質な異物が激しく衝突して強固に付着し、その結果鉄道車両11の表面付近には、クラックや剥離等が生じ、劣化しやすい。また、鉄道車両11の表面塗料として通常、酸化チタン等が塗料の退色防止剤として使用されているが、これは光触媒能を有するため太陽光からの紫外線の放射によって光化学反応を引き起こして鉄道車両11の表面付近の劣化をさらに引き起こす。
ここで、図2に示すように、本実施形態の鉄道車両11の側面部17及び上面部15の所定表面(特に外気と接触する領域)に、前記の塗装構造5が設けられる。これにより、特に以下の効果が奏される。
まず、光触媒能抑制層3を設けることで特に耐候性及び鉄道車両11のエネルギー効率が向上する。すなわち、鉄道車両11の上面部15は太陽光による紫外線を他の箇所よりも多く浴びるため、光触媒能抑制層3がなければ、保護層4が損傷した場合に塗料層2や保護層4が顕著に劣化する。さらに、上面部15には特に汚れ等による着色が生じやすいため、これにより太陽光の吸収がさらに促進されて鉄道車両11の上面部15に設けられている空調機19の効率をも低下させる。しかし、本実施形態では光触媒能抑制層3を設けることで、鉄道車両11の塗装部分の劣化のみならず、鉄道車両11の空調機19のエネルギー効率の低下も防止することができる。
また、保護層4により硬質の異物の付着やこれによる錆の発生を防止できる(なお、ハードコート保護膜を用いるとより効果的である)。また、鉄道車両11の洗浄時、表面に付着した汚れをブラシやシャワーで強い力で洗浄処理しても保護層4が剥離しにくい。これにより、鉄道車両11の洗浄をより強力にすることができるので、洗浄処理の頻度を低減することができ、鉄道車両11の管理に係る負担を大幅に軽減させることができる。ひいては、鉄道車両11の耐用年数を向上させると共に、その稼働時間を長くすることがで
きる。また、保護層4が剥離しにくいことで塗料の塗り直し(塗料層2の再構築等)の頻度も低減でき、塗料層2の劣化に起因する保護層4のクラックや剥離も防止することができる。
また、保護層4により、鉄道車両11の耐久性及び防汚性を特に向上させることができる。すなわち、鉄道車両11の塗料としては従来、有機樹脂中にミクロンサイズの顔料を添加したものが用いられていた。具体的には、顔料粒子を含む有機樹脂を固形化することで得られる、有機樹脂を主体とする有機樹脂膜に顔料粒子が分散された塗装膜を用いていた。しかし、この塗装膜の表面における有機樹脂膜の占有面積は大きいため、塗装膜は全体的に軟らかく低硬度となり、被塗装物1の損傷や有機物の付着を引き起こしやすかった。これに対して、本実施形態の保護層4は、無機成分(例えば、金属成分)を有することによって、保護膜としての高い硬度を得ることができるので、耐久性及び防汚性を向上させることができる。また、保護層4中の有機樹脂成分により、鉄道車両11の側面部17及び上面部15に広告用のシールを貼付した場合にも、その接着力に優れる。
なお、以上の構成及び効果は、鉄道車両11に限らず、自動車、飛行機、船舶、ロープウェイ、ケーブルカー等、屋外で使用される移動体全般に対してあてはまる。
<塗装構造の塗装方法>
次に、本実施形態における塗装構造5の塗装方法について説明する。
図3は、本実施形態における塗装構造5の塗装方法の一例を説明するフローチャートである。同図に示すように、まず、被塗装物1の表面(例えば、鉄道車両11の上面部15又は側面部17)に、下塗り層を形成する(s1)。具体的には、例えば、プライマー、パテ、サーフェーサ等の下塗り用の塗料を所定厚みにて塗布する。次に、形成した下塗り層の表面に、塗料層2を形成する(s3)。具体的には、例えば、退色防止剤である酸化チタンを含んだアクリル樹脂系の塗料を塗布した後、乾燥させる。
次に、塗料層2の表面に、光触媒能抑制層3を形成する(s5)。具体的には、例えば、塗料層2の表面に、光触媒能がなく有機成分との密着性に優れるアモルファス型過酸化チタンゾル又はアモルファス型酸化チタンゾル(例えば、0.85wt%の水溶液)をスプレー等で添加し、その後室温で乾燥させることにより、厚さ0.5〜4.0μmの光触媒能抑制層3を形成する。
なお、光触媒能抑制層3としては、光触媒能を有するアナターゼ型又はルチル型の酸化チタンに対して0.01〜0.4wt%の3アミノプロピルトリメトキシシランを用いてシランカップリング処理を施すことにより光触媒能を10〜30%抑制したものを生成し、この光触媒能を抑制した酸化チタンをキシレン等の有機溶剤に分散させたものを用いてもよい。そして、この場合、生成した溶剤を、半硬化の状態となっている塗料層2にスプレー等で塗布し、塗料層2上に埋もれるように光触媒抑制型酸化チタン層3を形成してもよい。
次に、形成した光触媒能抑制層3の表面に、保護層4を形成する(s7)。具体的には、例えば、光触媒能抑制層3の表面に、金属アルコシドとエポキシ樹脂の複合物質を、その厚さが0.2〜100μmになるように形成する。以上で、塗装構造5の形成は終了する(s9)。
<効果実証試験>
本発明者らは、本実施形態に係る塗装構造5について、その効果を実証するための試験(以下、効果実証試験という)を行った。以下、この効果実証試験の手順について説明する。
1.サンプルの作製
まず、効果実証試験に用いたサンプル(塗装構造5を有する被塗装物)の作製手順について説明する。以下に示すように、実施例サンプル1−4、比較例サンプル1−3、及び、保護膜例サンプルを作製した。
(実施例サンプル1)
まず、被塗装物1(基材)としてアルミニウム板を用いた。具体的には、Al−Mg系合金(5000系アルミニウム合金)のうち、A5052合金を用いた。このアルミニウム板は、150mm×70mm、厚さ0.8mmのものを使用した。そして、このアルミニウム板の表面を、イソプロピルアルコールを含ませたウエスを用いて拭浄して脱脂した。次に、接着強度が得られるエポキシ系樹脂を塗布して室温で乾燥させることにより、塗料層2を形成した。次に、アモルファス型過酸化チタンゾルを塗料層2にスプレーで塗布して室温で乾燥させることにより光触媒能抑制層3を形成した。保護層4には、有機無機複合材を用いた。
(実施例サンプル2)
光触媒能抑制層3を、光触媒能がないアモルファス型酸化チタンにより形成した。それ以外は実施例サンプル1と同様である。
(実施例サンプル3)
光触媒能抑制層3を、シランカップリング処理を行って光触媒能を抑制したアナターゼ型酸化チタンにより形成した。それ以外は実施例サンプル1と同様である。
(実施例サンプル4)
光触媒能抑制層3を、シランカップリング処理を行って光触媒能を抑制したルチル型酸化チタンにより形成した。それ以外は実施例サンプル1と同様である。
(比較例サンプル1)
塗料層2のみを設け、光触媒能抑制層3及び保護層4を設けなかった。それ以外は実施例サンプル1と同様である。
(比較例サンプル2)
塗料層2及び保護層4(有機無機複合材)を設け、光触媒能抑制層3を設けなかった。それ以外は実施例サンプル1と同様である。
(比較例サンプル3)
保護層4として、有機無機複合材ではなく有機クリヤ塗料膜401を形成した。それ以外は実施例サンプル1と同様である。
(保護膜例サンプル)
保護層4のみを設け、塗料層2及び光触媒能抑制層3を設けなかった。それ以外は実施例サンプル1と同様である。なお、この保護膜例サンプルは、保護層4単独の効果を検証するためのサンプルである。
2.試験内容
次に、作製した各サンプルを用いて行った各試験の内容について説明する。
(硬度試験)
各サンプルの引っ掻き硬度を、前記した鉛筆試験(JIS K5600−5−4)に基
づいて評価した。この試験は、サンプルの表面に鉛筆の芯を押し付けながら当該鉛筆を動かすことでサンプルの表面に傷が生じたか否かを判定することにより、引っ掻き硬度を当該鉛筆の芯の硬さを指標として定量化する方法である。
(防汚性(撥水性)試験)
まず、各サンプルに対して色差(L*、a*、b*)を測定した。色彩は、色彩色差計(コニカミノルタ センシング社製「色彩色差計 CR-400」)により測定した。次に、このサンプルの表面に、粒径10μmの鉄粉をスプレーガンにより均一に吹き付けた。そして、このサンプルを垂直に立て、鉄粉を吹き付けた面と反対側の面を軽く叩くことで、鉄粉の拭き付け面に付着している鉄粉を脱落させた。そして、このサンプルを高温高湿環境下(60℃、湿度90%)にて24時間放置した後に、室温まで冷却した。そして、このサンプルの表面を流水下で洗浄した後、当該表面の水分を拭き取り、室温で乾燥させた。乾燥したサンプルに対して、色彩(L*、a*、b*)を前記と同様に測定した。
以上のようにして測定した2つの色彩の間の色差ΔE(鉄粉の付着前の色彩と、鉄粉の
付着後の色彩との差)を、以下の式(1)で算出した。
色差ΔE={(ΔL*)2+(Δa*)2+(Δb*)2}1/2 ・・・(1)
(接着性試験)
まず、サンプルを有機溶剤(イソプロピルアルコール等)で洗浄し、このサンプルの表面に対して幅10mm、厚さ50μmの装飾用テープを圧着した。装飾用テープの圧着は、直径85mm、幅45mmの上に厚さ6mm、デューロメータ硬さA80のゴムを設置して覆った重さ1kgの手動式ローラを、10mm/sの速度で2往復することで行った。このようにして、サンプルの表面に空気が入らないように装飾用テープを圧着した。この状態で30分間静置した後、180°引き剥がし試験(速度5mm/s)を行うことで、各サンプルの接着力(N/mm)を求めた。なお、各サンプルと比較するための基準サンプル(アルミニウム板(被塗装物1)のみ)を作製し、同様の引き剥がし試験を行った。
(耐候性試験)
耐候性試験として、色彩及び光沢に関する評価を行った。色彩については、まず、各サンプルに対して、メタルハライドランプ促進耐候性試験機を用いて、紫外線を500時間照射した(紫外線照射強度:530W/m、ブラックパネル温度63℃、相対湿度:50%、シャワーサイクル:18min/120min)。紫外線の照射後、各サンプルの表面の色の変化を評価した(塗装膜の退色及び黄変を評価した)。具体的には、前記の防汚性試験と同様の要領で色差を算出した。次に、光沢についての耐候性試験としては、各サンプルについて、60°光沢保持率(基準サンプルに対する比率)を算出することにより、光沢の変化を評価した。
3.試験結果及び検討
図4は、実施例サンプル1−4の各試験結果を示した表である。なお、同図の各記号(「◎」、「○」、「△」、「×」)について、防汚性試験では、色差が10未満の場合を「◎」、10以上15未満の場合を「○」、15以上25未満の場合を「△」、25以上の場合を「×」とした。また、接着力試験については、基準サンプルの接着力(0.60N/mm)との関係で、0.50N/mm以上の接着力であったサンプルを「◎」、0.40〜0.50N/mmであったサンプルを「○」、0.30〜0.40N/mmであったサンプルを「△」、0.30N/mm未満の接着力であったサンプルを「×」とした。また、耐候性試験のうち色差については、防汚性試験と同様である。また、耐候性試験のうち光沢については、光沢保持率が90〜100%のサンプルを「◎」、85〜90%のサンプルを「○」、80〜85%のサンプルを「△」、80%未満のサンプルを「×」と
した。また、同図の「H」、「4H」は、鉛筆硬度を示している。
図4に示すように、塗料層2に対して光触媒能抑制層3及び保護層4を設けることで、硬度(耐久性)、防汚性(撥水性)、接着性、及び耐候性のいずれについても優れた効果が得られた(実施例サンプル1−4)。特に、光触媒能抑制層3としてアモルファス型過酸化チタン又はアモルファス型酸化チタンを用いた場合(実施例サンプル1−2)はいずれの試験でも顕著な効果(「◎」)がみられた。また、光触媒能抑制層3としてシランカップリング処理を行ったアナターゼ型又はルチル型酸化チタンについては(実施例サンプル3−4)、防汚性及び接着性について顕著な効果がみられた。
次に、図5は、比較例サンプル1−3の各試験結果を示した表である(各記号の意味は図4と同様である)。
まず、光触媒能抑制層3及び保護層4を設けていない比較例サンプル1では、防汚性及び耐候性(光沢)が極めて不良であった(「×」)。この理由は、防汚性試験において鉄粉が酸化して酸化鉄が生成したために着色汚れが顕著に発生し(なお、この汚れにより色差がやや増大した)、さらに、これに伴い光沢性も大きく低下したためと考えられる。
次に、光触媒能抑制層3を設けていない比較例サンプル2では、耐候性が不良であり、特に光沢が損なわれた。この理由は、光触媒能抑制層3がないことにより塗料層2中の退色材等が分解して生成した物質が塗料層2に滞留し(上層に保護層4が存在するため)、変色したこと、さらに、この分解時に生成したCO2ガスの圧力により保護層4に穴やクラ
ックが発生して光沢が低下したこと、によると考えられる。
保護層4として有機クリヤ塗料膜401を形成した比較例サンプル3では、硬度(耐久性)が不良であり、また、防汚性もやや損なわれた。この理由は、有機クリヤ塗料膜401の硬度が低いことにある。なお、防汚性の低下は、有機クリヤ塗料膜401に付着した鉄粉が酸化して酸化鉄となって着色した汚れが発生した(なお、この汚れにより色差はやや大きくなった)ためと考えられる。また、これにより耐久性も低下していると考えられる。
次に、図6は、保護膜例サンプルの各試験結果を示した表である(各記号の意味は図4、5と同様である)。図6に示すように、保護膜4として有機無機複合材を設けることにより、硬度、防汚性(撥水性)、接着性、及び耐候性のいずれについても優れた効果をもたらすことが示された。
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。
例えば、保護層4の形成方法としては、有機無機複合材を直接光触媒能抑制層3の上面に塗布してもよいし、有機無機複合材からなる所定の板状の部材を光触媒能抑制層3の上面に配置してもよい。
1 被塗装物、2 塗料層、3 光触媒能抑制層、4 保護層、5 塗装構造、11 鉄道車両、15 上面部、17 側面部

Claims (14)

  1. 塗料層、及び、前記塗料層を保護する保護層が設けられる被塗装物の塗装方法であって、前記塗料層及び前記保護層の間に、光触媒能が抑制され又は無効化された酸化チタンを含む物質である光触媒能抑制物質を介在させることを特徴とする、塗装方法。
  2. 前記光触媒能抑制物質はアモルファス型過酸化チタンを含む、請求項1に記載の塗装方法。
  3. 前記光触媒能抑制物質はアモルファス型酸化チタンを含む、請求項1に記載の塗装方法。
  4. アナターゼ型酸化チタンに対してシランカップリング処理を施すことにより光触媒能を抑制させた前記光触媒能抑制物質を前記塗料層及び前記保護層の間に介在させることを特徴とする、請求項1に記載の塗装方法。
  5. ルチル型酸化チタンに対してシランカップリング処理を施すことにより光触媒能を抑制させた前記光触媒能抑制物質を前記塗料層及び前記保護層の間に介在させることを特徴とする、請求項1に記載の塗装方法。
  6. 前記光触媒能抑制物質を有機溶剤に分散させ、前記有機溶剤中に分散させた光触媒能抑制物質を半硬化状態の前記塗料層に塗布することにより、前記光触媒能抑制物質を介在させることを特徴とする、請求項1に記載の塗装方法。
  7. 前記保護層は、金属酸化物及び有機樹脂成分が化学結合した複合材を含むことを特徴とする、請求項1に記載の塗装方法。
  8. 塗料層、及び、前記塗料層を保護する保護層が設けられる被塗装物の塗装構造であって、前記塗料層及び前記保護層の間に、光触媒能が抑制され又は無効化された酸化チタンを含む物質である光触媒能抑制物質が介在されていることを特徴とする、塗装構造。
  9. 前記光触媒能抑制物質はアモルファス型過酸化チタンを含む、請求項8に記載の塗装構造。
  10. 前記光触媒能抑制物質はアモルファス型酸化チタンを含む、請求項8に記載の塗装構造。
  11. アナターゼ型酸化チタンに対してシランカップリング処理が施されていることにより光触媒能が抑制されている前記光触媒能抑制物質が前記塗料層及び前記保護層の間に介在されていることを特徴とする、請求項8に記載の塗装構造。
  12. ルチル型酸化チタンに対してシランカップリング処理が施されていることにより光触媒能が抑制されている前記光触媒能抑制物質が前記塗料層及び前記保護層の間に介在されていることを特徴とする、請求項8に記載の塗装構造。
  13. 塗料層、及び、前記塗料層を保護する保護層が設けられた塗装構造を有する車両であって、前記塗料層及び前記保護層の間に、光触媒能が抑制され又は無効化された酸化チタンを含む物質である光触媒能抑制物質が介在されていることを特徴とする車両。
  14. 前記塗装構造は、前記車両の上面部又は側面部に設けられていることを特徴とする、請
    求項13に記載の車両。
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