JP2019143045A - カルボキシメチル化セルロースナノファイバー - Google Patents

カルボキシメチル化セルロースナノファイバー Download PDF

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【課題】透明度の高い水分散体を形成するカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーを提供する。【解決手段】セルロースI型の結晶化度が60%以上であり、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の波長660nmの光の透過率が60%以上であり、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、6rpmにおける粘度を固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、60rpmにおける粘度で除した値が、6.0以上である、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー。【選択図】なし

Description

本発明は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーに関する。詳細には、水分散体としたときに高い透明度を有し、セルロースI型の結晶化度が高く、チキソ性が高い、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーに関する。
カルボキシメチル化セルロースは、セルロースの誘導体であり、セルロースの骨格を構成するグルコース残基中の水酸基の一部にカルボキシメチル基をエーテル結合させたものである。カルボキシメチル基の量が増えると(すなわち、カルボキシメチル置換度が増加すると)、カルボキシメチル化セルロースは水に溶解するようになる。一方、カルボキシメチル置換度を適度な範囲に調整することにより、水中でもカルボキシメチル化セルロースの繊維状の形状を維持させることができるようになる。繊維状の形状を有するカルボキシメチル化セルロースは、機械的に解繊することにより、ナノスケールの繊維径を有するナノファイバーへと変換することができる(特許文献1)。
カルボキシメチル化セルロースの製造方法としては、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、エーテル化剤(カルボキシメチル化剤ともいう。)で処理(カルボキシメチル化。エーテル化とも呼ぶ。)する方法が知られており、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行う方法と、マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行う方法(特許文献2)が知られており、前者は「水媒法」、後者は「溶媒法」と呼ばれる。
ナノスケールの繊維径を有するセルロースナノファイバーの製法としては、カルボキシメチル化セルロースの機械的解繊だけではなく、カルボキシル基を導入したセルロースの機械的解繊などが知られている(特許文献3)。
国際公開第2014/088072号 特開2017−149901号公報 特開2008−1728号公報
特許文献3に記載されるようなカルボキシル基を導入したセルロースの解繊により得られるセルロースナノファイバーの水分散体は透明度が高いことが知られている。一方、溶媒法により得られたカルボキシメチル化セルロースの解繊により得られるセルロースナノファイバーの水分散体は、カルボキシル基を導入したセルロースの解繊により得られるセルロースナノファイバーの水分散体に比べて、透明性が低いものであった。また水媒法により得られたカルボキシメチル化セルロースの解繊により得られるセルロースナノファイバーの水分散体は、透明性を高めるためにはマーセル化剤やカルボキシメチル化剤などの薬剤を多量に使用する必要があり、製造上及び経済上の課題が大きい物であった。透明な素材は多様な用途に適するため、セルロースナノファイバーの透明化が求められており、特に、カルボキシメチル化セルロースは、安全性が高い素材であるため、カルボキシメチル化セルロースを用いて透明性が高いセルロースナノファイバーを得ることが求められている。本発明は、透明度の高い水分散体を形成するカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーであって、新規な特徴を有するセルロースナノファイバーを提供することを目的とする。
本発明者らは上記目的に対して鋭意検討を行った結果、セルロースのカルボキシメチル化において、マーセル化(セルロースのアルカリ処理)を水を主とする溶媒下で行い、その後、カルボキシメチル化(エーテル化ともいう。)を水と有機溶媒との混合溶媒下で行うことにより、従来の水媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行う方法)や溶媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行う方法)で得たカルボキシメチル化セルロースに比べて、解繊した際に、非常に透明度の高いセルロースナノファイバー分散体を、カルボキシメチル化剤の高い有効利用率で、経済的に製造することができることを見出した。このようなカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、セルロースI型の結晶化度が比較的高く、水を分散媒として分散体とした際に高い透明度を呈し、かつ、チキソ性(チキソトロピー性)が高い新規なカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーであった。従来の水媒法では、カルボキシメチル化剤などの薬剤の使用量を増加させてカルボキシメチル置換度を高めることにより、透明度の高いナノファイバー分散体を形成することができるカルボキシメチル化セルロースを得ることはできたが、そのようにして得られるカルボキシメチル化セルロース(水媒法)は、セルロースI型の結晶化度が低く、粘度及びチキソ性が比較的低いという特徴を有していた。これに対し、マーセル化を水を主とする溶媒下で行い、その後、カルボキシメチル化を水と有機溶媒との混合溶媒下で行うことにより得たカルボキシメチル化セルロースは、セルロースI型の高い結晶化度を維持し、従来の溶媒法で製造されたカルボキシメチル化セルロースと比べてナノファイバー分散体としたときの透明度が非常に高く、また、チキソ性も高いという特徴を有していた。
本発明としては、以下に限定されないが、次のものが挙げられる。
(1)セルロースI型の結晶化度が60%以上であり、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の波長660nmの光の透過率が60%以上であり、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、6rpmにおける粘度を固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、60rpmにおける粘度で除した値が、6.0以上である、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
(2)固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、6rpmにおける粘度が、15000mPa・s以上である、(1)に記載のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
(3)平均繊維径が3nm〜500nmである、(1)または(2)に記載のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
(4)カルボキシメチル置換度が0.60以下である、(1)〜(3)のいずれか1つに記載のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
(5)セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部に、カルボキシメチル基がエーテル結合した構造を有する、(1)〜(4)のいずれか1つに記載のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
本発明により、透明度の高い水分散体を形成するカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーが提供される。また、本発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、セルロースI型の結晶化度が比較的高く(60%以上)、かつ、チキソ性が高い(6rpmにおける粘度を60rpmにおける粘度で除した値が6.0以上)という特徴を有する。このようにセルロースI型の結晶化度が高く、透明性が高く、チキソ性が高いセルロースナノファイバーは、増粘剤等の粘度調整用途に適し、ゲル状の物質(食品や医薬品など)に添加すると保形性を向上させるという利点を有し、また、組成物の透明性に影響を与えずに添加することができるという利点を有する。
<カルボキシメチル化セルロースのナノファイバー>
本発明は、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーに関する。カルボキシメチル化セルロースは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基の一部がカルボキシメチル基とエーテル結合した構造を有する。
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーとは、上記の構造を有するカルボキシメチル化セルロースをナノスケールの繊維径を有するナノファイバーへと変換したものをいう。カルボキシメチル化セルロースは、例えばカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩などの金属塩といった塩の形態をとる場合もあり、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーも塩の形態をとっていてもよい。
本発明のカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものである。すなわち、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの水分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーをX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるものである。
<セルロースI型の結晶化度>
本発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーにおけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が60%以上であり、好ましくは65%以上である。セルロースI型の結晶化度が60%以上と高いと、水等の溶媒中で溶解せずに結晶構造を維持するセルロースの割合が高いため、チキソ性が高くなり(チキソトロピー)、増粘剤等の粘度調整用途に適するようになる。また、例えば、これに限定されないが、ゲル状の物質(例えば、食品や化粧品など)に添加した際に、優れた保形性を付与できるという利点が得られる。セルロースの結晶性は、マーセル化剤の濃度と処理時の温度、並びにカルボキシメチル化の度合によって制御できる。マーセル化及びカルボキシメチル化においては高濃度のアルカリが使用されるために、セルロースのI型結晶がII型に変換されやすいが、アルカリ(マーセル化剤)の使用量を調整するなどして変性の度合いを調整することによって、所望の結晶性を維持させることができる。セルロースI型の結晶化度の上限は特に限定されない。現実的には90%程度が上限となると考えられる。
カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのセルロースI型の結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD−6000、島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10°〜30°の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6°の002面の回折強度と2θ=18.5°のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c―Ia)/I002c×100
Xc=セルロースI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6°、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5°、アモルファス部分の回折強度。
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーにおけるI型結晶の割合は、ナノファイバーとする前のカルボキシメチル化セルロースにおけるものと、通常、同じである。
<水分散体における透明度>
本発明のカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、水を分散媒として分散体としたときに(水分散体)、高い透明度を呈するという特徴を有する。本明細書において、透明度は、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーを固形分1%(w/v)の水分散体とした際の、波長660nmの光の透過率をいうものとする。カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの透明度の測定方法は、以下の通りである:
セルロースナノファイバー分散体(固形分1%(w/v)、分散媒:水)を調製し、UV−VIS分光光度計UV−1800(島津製作所製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて、660nm光の透過率を測定する。
本発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの透明度は、60%以上である。より好ましくは60〜100%であり、さらに好ましくは70〜100%であり、さらに好ましくは80〜100%であり、さらに好ましくは90〜100%である。このようなセルロースナノファイバーは、透明性が要求されるような用途に最適に使用することができる。
<水分散体における粘度とチキソ性>
本発明のカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、水を分散媒として分散体(水分散体)としたときに高いチキソ性を奏する。チキソ性(チキソトロピー)とは、剪断応力を受けることにより粘度が次第に低下し、静止すると粘度が次第に上昇する性質をいい、本願明細書では、チキソ性の指標として、低い剪断速度で測定した粘度を高い剪断速度で測定した粘度で除した値を用いる。具体的には、粘度及びチキソ性は以下の方法で測定する:
セルロースナノファイバー分散体(固形分1%(w/v)、分散媒:水)を調製し、25℃で16時間放置した後、撹拌機を用いて3000rpmで1分間撹拌し、粘度測定用サンプルとする。得られた粘度測定用サンプルの一部について、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、No.4ローター/回転数6rpmで3分後の粘度を測定する。また、粘度測定用サンプルの別の一部(粘度をまだ測定していないもの)を用いて、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、No.4ローター/回転数60rpmで3分後の粘度を測定する。粘度の測定時にはJIS−Z−8803の方法に準じる。得られた6rpmにおける粘度を60rpmにおける粘度で除した値を、チキソ性の指標として用いる。
本願発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーは、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、6rpmにおける粘度を固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、60rpmにおける粘度で除した値(単に「6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値」とも呼ぶ)が、6.0以上である。この値が高いほど、剪断応力の差によって粘度の変化が大きいことを示しており、チキソ性が高いことを示している。6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値の上限は限定されないが、実際は15.0程度が上限となると考えられる。
本願発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの6rpmにおける粘度(固形分1%(w/v)の水分散体、25℃)は、15000mPa・s以上であることが好ましく、20000mPa・s以上であることがさらに好ましい。低い剪断速度(6rpm)における粘度が高いほど、チキソ性が高くなる可能性がある。6rpmにおける粘度の上限は特に限定されないが、現実的には50000mPa・s程度となると考えられる。
本願発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーの60rpmにおける粘度(固形分1%(w/v)の水分散体、25℃)は、6rpmにおける粘度を60rpmにおける粘度で除した値が6.0以上となる範囲であればよく、特に限定されないが、1500〜8400mPa・s程度、好ましくは2000〜7000mPa・s程度、さらに好ましくは2500〜7000mPa・s程度、さらに好ましくは3000〜7000mPa・s程度となると考えられる。
<繊維径、アスペクト比>
本発明のカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、ナノスケールの繊維径を有するものである。平均繊維径は、好ましくは3nm〜500nm、さらに好ましくは3nm〜150nm、さらに好ましくは3nm〜20nm、さらに好ましくは5nm〜19nm、さらに好ましくは5nm〜15nmである。
本発明のカルボキシメチル化セルロースナノファイバーのアスペクト比は、特に限定されないが、350以下であることが好ましく、300以下であることがさらに好ましく、200以下であることがさらに好ましく、120以下であることがさらに好ましく、100以下であることがさらに好ましく、80以下であることがさらに好ましい。アスペクト比が350以下であると、繊維が過度に長すぎず、繊維同士の絡まり合いが少なくなり、セルロースナノファイバーの塊(ダマ)の発生を低減することができる。また、流動性が高いので、高濃度でも使用しやすくなり、高固形分が要求される用途においても使いやすくなるという利点が得られる。アスペクト比の下限は、特に限定されないが、好ましくは25以上であり、さらに好ましくは30以上である。アスペクト比が25以上であると、その繊維状の形状から、チキソ性の向上といった効果が得られる。カルボキシメチル化セルロースナノファイバーのアスペクト比は、カルボキシメチル化時の溶媒と水の混合比、薬品添加量、及びカルボキシメチル化の度合によって制御できる。
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、径が20nm以下の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
<カルボキシメチル置換度>
本発明のカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が、好ましくは0.60以下である。当該置換度が0.60を超えると水へ溶解し、繊維形状を維持できなくなると考えられる。操業性を考慮すると当該置換度は0.02〜0.50であることが好ましく、0.05〜0.50であることがさらに好ましく、0.10〜0.40であることがさらに好ましく、0.20〜0.40であることがさらに好ましい。セルロースにカルボキシメチル基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発するため、ナノファイバーへと解繊することができるようになるが、無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度が0.02より小さいと、解繊が不十分となり、透明性の高いセルロースナノファイバーが得られない場合がある。なお、従来の水媒法では、カルボキシメチル置換度が0.20〜0.40の範囲では、セルロースI型の結晶化度が60%以上であるカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーを得ることは困難であったが、本発明者らは、例えば後述する方法により、カルボキシメチル置換度が0.20〜0.40の範囲であり、セルロースI型の結晶化度が60%以上であるカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーを製造できることを見出した。カルボキシメチル置換度は、反応させるカルボキシメチル化剤の添加量、マーセル化剤の量、水と有機溶媒の組成比率をコントロールすること等によって調整することができる。
本発明において無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味する。また、カルボキシメチル置換度(エーテル化度ともいう。)とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基のうちカルボキシメチルエーテル基に置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシメチルエーテル基の数)を示す。なお、カルボキシメチル置換度はDSと略すことがある。
カルボキシメチル置換度の測定方法は以下の通りである:
試料約2.0gを精秤して、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振盪して、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの塩(CMC)をH−CMC(水素型カルボキシメチル化セルロースナノファイバー)に変換する。その絶乾H−CMCを1.5〜2.0g精秤し、300mL共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLでH−CMCを湿潤し、0.1N−NaOHを100mL加え、室温で3時間振盪する。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1N−HSOで過剰のNaOHを逆滴定し、次式によってカルボキシメチル置換度(DS値)を算出する。
A=[(100×F’−0.1N−HSO(mL)×F)×0.1]/(H−CMCの絶乾質量(g))
カルボキシメチル置換度=0.162×A/(1−0.058×A)
F’:0.1N−HSOのファクター
F:0.1N−NaOHのファクター。
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーにおけるカルボキシメチル置換度は、ナノファイバーとする前のカルボキシメチル化セルロースにおけるカルボキシメチル置換度と、通常、同じである。
<その他>
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、製造後に得られる分散体の状態であってもよいが、必要に応じて乾燥してもよく、また水に再分散してもよい。乾燥方法は何ら限定されないが、例えば凍結乾燥法、噴霧乾燥法、棚段式乾燥法、ドラム乾燥法、ベルト乾燥法、ガラス板等に薄く伸展し乾燥する方法、流動床乾燥法、マイクロウェーブ乾燥法、起熱ファン式減圧乾燥法などの既知の方法を使用できる。乾燥後に必要に応じて、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル、ジェットミル等で粉砕しても良い。また、水への再分散の方法も特に限定されず、既知の分散装置を使用することができる。
カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの用途は、特に限定されないが、本発明のカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、セルロースI型の結晶化度、透明度、及びチキソ性が高いことから、透明性と増粘性(チキソ性)に優れており、これらが必要とされる用途(例えば、組成物の透明性や色調に影響を与えない増粘剤など)に特に最適に用いることができると考えられる。しかし、それ以外の用途に用いてもよい。カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーが用いられる分野は特に限定されず、一般的に添加剤が用いられる様々な分野、例えば、食品、飲料、化粧品、医薬、製紙、各種化学用品、塗料、スプレー、農薬、土木、建築、電子材料、難燃剤、家庭雑貨、接着剤、洗浄剤、芳香剤、潤滑用組成物などで、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、食品添加剤、賦形剤、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、製紙用添加剤、研磨剤、ゴム・プラスチック用配合材料、保水剤、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、溢泥防止剤などとして使用することができると考えられる。
<カルボキシメチル化セルロースナノファイバーの製造方法>
セルロースI型の結晶化度が60%以上であり、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の波長660nmの光の透過率が60%以上であり、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、6rpmにおける粘度を固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、60rpmにおける粘度で除した値が6.0以上であるカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、これに限定されないが、以下の方法により製造したカルボキシメチル化セルロースを解繊することにより、製造することができる。
カルボキシメチル化セルロースは、一般に、セルロースをアルカリで処理(マーセル化)した後、得られたマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)と反応させることにより製造することができる。本発明の上記特徴を有するナノファイバーを形成することができるカルボキシメチル化セルロースは、マーセル化(セルロースのアルカリ処理)を水を主とする溶媒下で行い、その後、カルボキシメチル化(エーテル化ともいう。)を水と有機溶媒との混合溶媒下で行うことにより、製造することができる。このようにして得たカルボキシメチル化セルロースは、従来の水媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を水を溶媒として行う方法)や溶媒法(マーセル化とカルボキシメチル化の両方を有機溶媒を主とする溶媒下で行う方法)で得たカルボキシメチル化セルロースに比べて、カルボキシメチル化剤の高い有効利用率を有しながら、解繊した際に、透明度とチキソ性の高いセルロースナノファイバー分散体へと変換することができる。
<セルロース>
本発明においてセルロースとは、D−グルコピラノース(単に「グルコース残基」、「無水グルコース」ともいう。)がβ−1,4結合で連なった構造の多糖を意味する。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、マーセル化セルロースの原料として用いることができるが、カルボキシメチル化セルロースナノファイバーにおいて60%以上のセルロースI型の結晶化度を維持するためには、セルロースI型の結晶化度が高いセルロースを原料として用いることが好ましい。原料となるセルロースのセルロースI型の結晶化度は、好ましくは、70%以上であり、さらに好ましくは80%以上である。セルロースI型の結晶化度の測定方法は、上述した通りである。
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
<マーセル化>
原料として前述のセルロースを用い、マーセル化剤(アルカリ)を添加することによりマーセル化セルロース(アルカリセルロースともいう。)を得る。本明細書に記載の方法にしたがって、このマーセル化反応における溶媒に水を主として用い、次のカルボキシメチル化の際に有機溶媒と水との混合溶媒を使用することにより、解繊した際に非常に高い透明度を有するセルロースナノファイバー分散体とすることができるカルボキシメチル化セルロースを経済的に得ることができる。
溶媒に水を主として用いる(水を主とする溶媒)とは、水を50質量%より高い割合で含む溶媒をいう。水を主とする溶媒中の水は、好ましくは55質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上である。特に好ましくは水を主とする溶媒は、水が100質量%(すなわち、水)である。マーセル化時の水の割合が多いほど、カルボキシメチル化セルロースを解繊して得られるセルロースナノファイバー分散体の透明度が高まる。水を主とする溶媒中の水以外の(水と混合して用いられる)溶媒としては、後段のカルボキシメチル化の際の溶媒として用いられる有機溶媒が挙げられる。例えば、メタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に50質量%未満の量で添加してマーセル化の際の溶媒として用いることができる。水を主とする溶媒中の有機溶媒は、好ましくは45質量%以下であり、さらに好ましくは40質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは0質量%である。
マーセル化剤としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物が挙げられ、これらのうちいずれか1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。マーセル化剤は、これに限定されないが、これらのアルカリ金属水酸化物を、例えば、1〜60質量%、好ましくは2〜45質量%、より好ましくは3〜25質量%の水溶液として反応器に添加することができる。
マーセル化剤の使用量は、カルボキシメチル化セルロースにおけるセルロースI型の結晶化度60%以上を維持できる量であり、一実施形態において、セルロース100g(絶乾)に対して0.1モル以上2.5モル以下であることが好ましく、0.3モル以上2.0モル以下であることがより好ましく、0.4モル以上1.5モル以下であることがさらに好ましい。
マーセル化の際の水を主とする溶媒の量は、原料の撹拌混合が可能な量であればよく特に限定されないが、セルロース原料に対し、1.5〜20質量倍が好ましく、2〜10質量倍であることがより好ましい。
マーセル化処理は、発底原料(セルロース)と水を主とする溶媒とを混合し、反応器の温度を0〜70℃、好ましくは10〜60℃、より好ましくは10〜40℃に調整して、マーセル化剤の水溶液を添加し、15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間、より好ましくは30分〜3時間撹拌することにより行う。これによりマーセル化セルロース(アルカリセルロース)を得る。
マーセル化の際のpHは、9以上が好ましく、これによりマーセル化反応を進めることができる。該pHは、より好ましくは11以上であり、更に好ましくは12以上であり、13以上でもよい。pHの上限は特に限定されない。
マーセル化は、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することができる反応機を用いて行うことができ、従来からマーセル化反応に用いられている各種の反応機を用いることができる。例えば、2本の軸が撹拌し、上記各成分を混合するようなバッチ型攪拌装置は、均一混合性と生産性の両観点から好ましい。
<カルボキシメチル化>
マーセル化セルロースに対し、カルボキシメチル化剤(エーテル化剤ともいう。)を添加することにより、カルボキシメチル化セルロースを得る。本明細書に記載の方法にしたがって、マーセル化の際は水を主とする溶媒として用い、カルボキシメチル化の際には水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、解繊した際に非常に高い透明度を有するセルロースナノファイバー分散体とすることができるカルボキシメチル化セルロースを経済的に得ることができる。
カルボキシメチル化剤としては、モノクロロ酢酸、モノクロロ酢酸ナトリウム、モノクロロ酢酸メチル、モノクロロ酢酸エチル、モノクロロ酢酸イソプロピルなどが挙げられる。これらのうち、原料の入手しやすさという点でモノクロロ酢酸、またはモノクロロ酢酸ナトリウムが好ましい。
カルボキシメチル化剤の使用量は、セルロースI型の結晶化度60%以上を維持できる量であり、また、好ましくは0.20〜0.40のカルボキシメチル置換度を維持できる量である。特に限定されないが、一実施形態において、セルロースの無水グルコース単位当たり、0.5〜1.5モルの範囲で添加することが好ましい。上記範囲の下限はより好ましくは0.6モル以上、さらに好ましくは0.7モル以上であり、上限はより好ましくは1.3モル以下、さらに好ましくは1.1モル以下である。カルボキシメチル化剤は、これに限定されないが、例えば、5〜80質量%、より好ましくは30〜60質量%の水溶液として反応器に添加することができるし、溶解せず、粉末状態で添加することもできる。
マーセル化剤とカルボキシメチル化剤のモル比(マーセル化剤/カルボキシメチル化剤)は、カルボキシメチル化剤としてモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムを使用する場合では、0.9〜2.45が一般的に採用される。その理由は、0.9未満であるとカルボキシメチル化反応が不十分となる可能性があり、未反応のモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムが残って無駄が生じる可能性があること、及び2.45を超えると過剰のマーセル化剤とモノクロロ酢酸又はモノクロロ酢酸ナトリウムによる副反応が進行してグリコール酸アルカリ金属塩が生成する恐れがあるため、不経済となる可能性があることにある。
カルボキシメチル化において、カルボキシメチル化剤の有効利用率は、15%以上であることが好ましい。より好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは25%以上であり、特に好ましくは30%以上である。カルボキシメチル化剤の有効利用率とは、カルボキシメチル化剤におけるカルボキシメチル基のうち、セルロースに導入されたカルボキシメチル基の割合を指す。マーセル化の際に水を主とする溶媒を用い、カルボキシメチル化の際に水と有機溶媒との混合溶媒を用いることにより、高いカルボキシメチル化剤の有効利用率で(すなわち、カルボキシメチル化剤の使用量を大きく増やすことなく、経済的に)、解繊した際に高い透明度を有するセルロースナノファイバー分散体を得ることができるカルボキシメチル化セルロースを製造することができる。カルボキシメチル化剤の有効利用率の上限は特に限定されないが、現実的には80%程度が上限となる。なお、カルボキシメチル化剤の有効利用率は、AMと略すことがある。
カルボキシメチル化剤の有効利用率の算出方法は以下の通りである:
AM = (DS ×セルロースのモル数)/ カルボキシメチル化剤のモル数
DS: カルボキシメチル置換度(測定方法は上述の通り)
セルロースのモル数:パルプ質量(100℃で60分間乾燥した際の乾燥質量)/162
(162はセルロースのグルコース単位当たりの分子量)。
カルボキシメチル化反応におけるセルロース原料の濃度は、特に限定されないが、カルボキシメチル化剤の有効利用率を高める観点から、1〜40%(w/v)であることが好ましい。
カルボキシメチル化剤を添加するのと同時に、あるいはカルボキシメチル化剤の添加の前または直後に、反応器に有機溶媒または有機溶媒の水溶液を適宜添加し、又は減圧などによりマーセル化処理時の水以外の有機溶媒等を適宜削減して、水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、この水と有機溶媒との混合溶媒下で、カルボキシメチル化反応を進行させる。有機溶媒の添加または削減のタイミングは、マーセル化反応の終了後からカルボキシメチル化剤を添加した直後までの間であればよく、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチル化剤を添加する前後30分以内が好ましい。
有機溶媒としては、メタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等のアルコールや、アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン、ならびに、ジオキサン、ジエチルエーテル、ベンゼン、ジクロロメタンなどを挙げることができ、これらの単独または2種以上の混合物を水に添加してカルボキシメチル化の際の溶媒として用いることができる。これらのうち、水との相溶性が優れることから、炭素数1〜4の一価アルコールが好ましく、炭素数1〜3の一価アルコールがさらに好ましい。
カルボキシメチル化の際の混合溶媒中の有機溶媒の割合は、水と有機溶媒との総和に対して有機溶媒が20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、45質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。有機溶媒の割合が高いほど、セルロースナノファイバー分散体としたときの透明度が高くなるという利点が得られる。有機溶媒の割合の上限は限定されず、例えば、99質量%以下であってよい。添加する有機溶媒のコストを考慮すると、好ましくは90質量%以下であり、更に好ましくは85質量%以下であり、更に好ましくは80質量%以下であり、更に好ましくは70質量%以下である。
カルボキシメチル化の際の反応媒(セルロースを含まない、水と有機溶媒等との混合溶媒)は、マーセル化の際の反応媒よりも、水の割合が少ない(言い換えれば、有機溶媒の割合が多い)ことが好ましい。本範囲を満たすことで、得られるカルボキシメチル化セルロースの結晶化度を維持しながらカルボキシメチル置換度を高くしやすくなり、解繊した際に透明度の高いセルロースナノファイバー分散体となるカルボキシメチル化セルロースを、より効率的に得ることができるようになる。また、カルボキシメチル化の際の反応媒が、マーセル化の際の反応媒よりも水の割合が少ない(有機溶媒の割合が多い)場合、マーセル化反応からカルボキシメチル化反応に移行する際に、マーセル化反応終了後の反応系に所望の量の有機溶媒を添加するという簡便な手段でカルボキシメチル化反応用の混合溶媒を形成させることができるという利点も得られる。
水と有機溶媒との混合溶媒を形成し、マーセル化セルロースにカルボキシメチル化剤を投入した後、温度を好ましくは10〜40℃の範囲で一定に保ったまま15分〜4時間、好ましくは15分〜1時間程度撹拌する。マーセル化セルロースを含む液とカルボキシメチル化剤との混合は、反応混合物が高温になることを防止するために、複数回に分けて、または、滴下により行うことが好ましい。カルボキシメチル化剤を投入して一定時間撹拌した後、必要であれば昇温して、反応温度を30〜90℃、好ましくは40〜90℃、さらに好ましくは60〜80℃として、30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間、エーテル化(カルボキシメチル化)反応を行い、カルボキシメチル化セルロースを得る。
カルボキシメチル化の際には、マーセル化の際に用いた反応器をそのまま用いてもよく、あるいは、温度制御しつつ上記各成分を混合撹拌することが可能な別の反応器を用いてもよい。
反応終了後、残存するアルカリ金属塩を鉱酸または有機酸で中和してもよい。また、必要に応じて、副生する無機塩、有機酸塩等を含水メタノールで洗浄して除去し、乾燥、粉砕、分級してカルボキシメチル化セルロース又はその塩としてもよい。副生物除去のために洗浄する際は、予め酸型にして線状し、洗浄後に塩型に戻しても良い。乾式粉砕で用いる装置としてはハンマーミル、ピンミル等の衝撃式ミル、ボールミル、タワーミル等の媒体ミル、ジェットミル等が例示される。湿式粉砕で用いる装置としてはホモジナイザー、マスコロイダー、パールミル等の装置が例示される。
<ナノファイバーへの解繊>
上記の方法により得たカルボキシメチル化セルロースを解繊することにより、ナノスケールの繊維径を有するセルロースナノファイバーへと変換することができる。
解繊の際には、上記の方法で得られたカルボキシメチル化セルロースの分散体を準備する。分散媒は、取扱いの容易性から、水が好ましい。解繊時の分散体におけるカルボキシメチル化セルロースの濃度は、解繊、分散の効率を考慮すると、0.01〜10%(w/v)であることが好ましい。
カルボキシメチル化セルロースを解繊する際に用いる装置は特に限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの装置を用いることができる。解繊の際にはカルボキシメチル化セルロースの分散体に強力な剪断力を印加することが好ましい。特に、効率よく解繊するには、前記分散体に50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力な剪断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。また、高圧ホモジナイザーでの解繊及び分散処理に先立って、必要に応じて、高速せん断ミキサーなどの公知の混合、撹拌、乳化、分散装置を用いて、前記分散体に予備処理をほどこしてもよい。
高圧ホモジナイザーとは、ポンプにより流体に加圧(高圧)し、流路に設けた非常に繊細な間隙より噴出させることにより、粒子間の衝突、圧力差による剪断力等の総合エネルギーによって乳化、分散、解細、粉砕、及び超微細化を行う装置である。
上記の方法により、透明度が高く、チキソ性が高いセルロースナノファイバーが得られる理由は明らかではないが、上記の方法によれば比較的高いセルロースI型の結晶化度を維持することができ、したがって、カルボキシメチル置換度を比較的高くしてもカルボキシメチル化セルロースの繊維状の形状を維持させることができることを本発明者らは確認している。繊維状の形状を維持しながらカルボキシメチル置換度を高くできる(すなわち、カルボキシメチル基を多く導入する)ことは、カルボキシメチル化セルロースの解繊性の向上につながると考えられ、これが透明度が高いナノファイバー分散体が得られることの理由の1つであると推測される。また、カルボキシメチル基が多く導入されていると、それによる水素結合が多くなり、静止状態ではナノファイバー同士の水素結合等で次第に絡み合いによる粘度を発現するのに対し、剪断を加えると絡み合ったナノファイバーがほぐれるため粘度が低下すると考えられ、これがチキソ性の高いナノファイバーが得られる理由の1つであると推測される。しかし、これら以外の理由もあるかもしれない。
以下、本発明を実施例及び比較例をあげてより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、特に断らない限り、部および%は質量部および質量%を示す。
(実施例1)
回転数を150rpmに調節した二軸ニーダーに、水130部と、水酸化ナトリウム20部を水100部に溶解したものとを加え、広葉樹パルプ(日本製紙(株)製、LBKP)を100℃60分間乾燥した際の乾燥質量で100部仕込んだ。35℃で80分間撹拌、混合しマーセル化セルロースを調製した。更に撹拌しつつイソプロパノール(IPA)230部と、モノクロロ酢酸ナトリウム60部を添加し、30分間撹拌した後、70℃に昇温して90分間カルボキシメチル化反応をさせた。カルボキシメチル化反応時の反応媒中のIPAの濃度は、50%である。反応終了後、pH7になるまで酢酸で中和、含水メタノールで洗浄、脱液、乾燥、粉砕して、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。
得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を水に分散し、固形分1%(w/v)水分散体とした。これを、140MPaの高圧ホモジナイザーで3回処理し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。得られた分散体の透明度と粘度、また、セルロースナノファイバーの平均繊維径、カルボキシメチル置換度、及びセルロースI型の結晶化度を、上述の方法で測定した。
(実施例2)
IPAの添加量を変えることによりカルボキシメチル化反応時の反応液中のIPAの濃度を30%とした以外は実施例1と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
(比較例1)
マーセル化反応時の溶媒を水10%、IPA90%とし、カルボキシメチル化反応時にも同じ組成の溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
(比較例2)
広葉樹パルプに代えて針葉樹パルプ(日本製紙(株)製、NBKP)を乾燥質量で200部仕込み、乾燥質量で50部の水酸化ナトリウムを加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を添加し、カルボキシメチル化反応時にIPAを加えず、モノクロロ酢酸ナトリウムを50部(有効成分換算)添加した以外は実施例1と同様にして、カルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を得た。得られたカルボキシメチル化セルロースのナトリウム塩を実施例1と同様にして解繊し、カルボキシメチル化セルロースのナノファイバーの分散体を得た。
Figure 2019143045
表1に示される通り、マーセル化を水を主とする溶媒下で行い、カルボキシメチル化を水と有機溶媒との混合溶媒下で行った実施例1及び2では、セルロースI型の結晶化度が60%以上であり、透明度が60%以上であり、チキソ性の指標である6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値が6.0以上であるカルボキシメチル化セルロースナノファイバーを製造することができたことがわかる。一方、従来法である溶媒法を用いた比較例1では、セルロースI型の結晶化度が60%以上であるが、透明度が極めて低く、またチキソ性も有意に低いことがわかる。また、従来法である水媒法を用いた比較例2では、実施例1及び2と同等のカルボキシメチル置換度とした場合、セルロースI型の結晶化度が低く、また、チキソ性も低いことがわかる。本発明のセルロースI型の結晶化度が60%以上であり、透明度が60%以上であり、固形分1%(w/v)の水分散体における6rpmの粘度を60rpmの粘度で除した値が6.0以上であるカルボキシメチル化セルロースのナノファイバーは、これまでにない特性を有する新規素材であり、高度な透明性が要求される用途や、チキソ性が必要な用途などにおいて、新たな選択肢となることが期待される。

Claims (5)

  1. セルロースI型の結晶化度が60%以上であり、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の波長660nmの光の透過率が60%以上であり、固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、6rpmにおける粘度を固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、60rpmにおける粘度で除した値が、6.0以上である、カルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
  2. 固形分1%(w/v)の水分散体とした際の25℃、6rpmにおける粘度が、15000mPa・s以上である、請求項1に記載のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
  3. 平均繊維径が3nm〜500nmである、請求項1または2に記載のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
  4. カルボキシメチル置換度が0.60以下である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
  5. セルロースの水酸基の一部に、カルボキシメチル基がエーテル結合した構造を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー。
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