本発明の衣類は、電極が形成されている。そして、上記衣類は、上記電極が配置された部位を含む少なくとも100cm2以上の領域にニット編地が形成されており、該ニット編地は、身丈方向または身幅方向に80%伸長したときに、少なくとも一方向の伸長力が50〜600cNで、身丈方向または身幅方向に80%伸長および回復を3回繰り返したときに、少なくとも一方向の伸長回復率が85%以上である点に特徴がある。
以下、本発明の衣類について、詳細に説明する。
上記衣類には、電極が設けられており、電極の電極面が、着用者の肌に直接接触することによって、身体からの電気信号を測定でき、生体情報を計測できる。生体情報としては、電極で取得した電気信号を電子ユニットで演算、処理することによって、例えば、心電、心拍数、脈拍数、呼吸数、血圧、体温、筋電、発汗などの身体の情報が得られる。
上記電極としては、心電図を測定できる電極を設けることが好ましい。心電図とは、心臓の動きによる電気的な変化を、生体表面の電極を介して検出し、波形として記録された情報を意味する。心電図は、一般的には、横軸に時間、縦軸に電位差をプロットした波形として記録される。心拍1回ごとに心電図に現れる波形は、P波、Q波、R波、S波、T波の代表的な5つの波により主に構成され、この他にU波が存在する。また、Q波の始めからS波の終わりまでは、QRS波と呼ばれることがある。
これらの波のなかでも、本発明の衣類には、少なくともR波を検知できる電極を設けることが好ましい。R波は、左右両心室の興奮を示し、電位差が最も大きい波である。R波を検知できる電極を設けることにより、心拍数も計測できる。即ち、R波の頂点と次のR波の頂点までの時間は、一般に、RR間隔(秒)と呼ばれ、1分間当たりの心拍数は、下記式に基づいて算出できる。なお、本明細書においては、特に注釈のない限り、QRS波もR波に含まれる。
心拍数(回/分)=60/RR間隔
上記電極の具体的な構成については、後で詳述する。
上記衣類には、上記電極が配置された部位を含む少なくとも100cm2以上の領域にニット編地が形成されている。上記領域に、後述するニット編地を形成することによって、所望の効果が得られる。
上記ニット編地が形成されている領域は、前記衣類の50面積%以上が好ましく、より好ましくは80面積%以上、更に好ましくは95面積%以上である。
上記ニット編地は、身丈方向または身幅方向に80%伸長したときに、少なくとも一方向の伸長力が50〜600cNである。上記伸長力が小さすぎると、伸縮性が良すぎて、衣類が体にフィットせず、着用者の肌と電極との密着性が悪くなるため、生体情報を安定的に、精度良く計測できない。従って、上記伸長力は50cN以上とし、好ましくは80cN以上、より好ましくは100cN以上である。しかし、上記伸長力が大きすぎると、伸縮性が不足するため、着用者が衣類を着用したときに圧迫感を感じ、衣類を快適に着用できない。従って、上記伸長力は600cN以下とし、好ましくは500cN以下、より好ましくは450cN以下である。
上記ニット編地は、身丈方向または身幅方向における伸長力が上記範囲を満足すればよく、身丈方向および身幅方向の両方において上記範囲を満足することが好ましい。
上記伸長力は、JIS L1096(2010)に規定されるB法(編物の定伸長時伸長力)で測定すればよい。
上記ニット編地の伸長力は、生地を構成する糸の選択(具体的には、種類、太さなど)、編み組織、染色仕上げ工程でのセット条件(具体的には、加工温度、時間、仕上げ密度など)によって調整できる。構成糸として弾性糸が用いられていると、伸長性、回復性ともに優れた生地を得ることができ、好ましい。
また、上記ニット編地は、身丈方向または身幅方向に80%伸長および回復を3回繰り返したときに、少なくとも一方向の伸長回復率が85%以上である。上記伸長回復率が小さすぎると、衣類の締め付けがきついため、着用者が衣類を着用したときに圧迫感を感じ、衣類を快適に着用できない。従って、上記伸長回復率は85%以上とし、好ましくは88%以上、より好ましくは90%以上である。
上記伸長回復率は、身丈方向および身幅方向の両方において上記範囲を満足することが好ましい。
上記伸長回復率は、JIS L1096(2010)に規定され定荷重法で測定すればよい。
上記ニット編地の伸長回復率は、生地を構成する糸の選択(具体的には、種類、太さなど)、編み組織、染色仕上げ工程でのセット条件(具体的には、加工温度、時間、仕上げ密度など)によって調整できる。
上記ニット編地は、下記(a)〜(c)よりなる群から選ばれる要件を少なくとも1つ満足することが好ましい。
(a)身丈方向または身幅方向に14.7Nの荷重をかけたときに、少なくとも一方の伸長率が120%以上400%以下である。
(b)身丈方向または身幅方向に9.8Nの荷重をかけたときに、少なくとも一方の伸長率が100%以上350%以下である。
(c)身丈方向または身幅方向に4.9Nの荷重をかけたときに、少なくとも一方の伸長率が90%以上300%以下である。
上記(a)〜(c)において、伸長率が下限値を下回ると、衣類が身体の動きに充分に追従しにくくなり、また生地の伸び止まりによる窮屈感を感じやすくなる。また、衣類の脱着性も悪くなる。一方、伸長率が上限値を超えると、生地が伸びすぎて運動時に体と衣類のズレが生じやすくなり、測定不良が起こりやすくなる。また、衣服に取り付けた生体情報計測装置が揺れやすくなり、装置の揺れによるノイズが発生することがある。
上記ニット編地は、上記(a)〜(c)よりなる群から選ばれる要件を少なくとも1つ満足することが好ましく、2つ満足することがより好ましく、3つ全て満足することが特に好ましい。
上記(a)〜(c)の各荷重条件において、上記伸長率は、身丈方向または身幅方向で上記範囲を満足することが好ましく、身丈方向および身幅方向の両方において上記範囲を満足することがより好ましい。
上記ニット編地は、弾性糸と非弾性糸を交編して得られたものを形成することが好ましい。
上記弾性糸とは、ゴム状弾性を持った糸であり、モノフィラメント、マルチフィラメントのいずれも用いることができる。具体的には、ポリウレタン弾性糸、ポリエステル系弾性糸、ポリオレフィン系弾性糸、天然ゴム、合成ゴム、伸縮性を有する複合繊維からなる糸などが挙げられる。これらの中でも、ポリウレタン弾性糸が好ましく、糸の弾性、熱セット性、耐薬品性などの点で優れている。また、融着、合着タイプのポリウレタン弾性糸を用いることができる。
上記非弾性糸とは、ゴム状弾性を持たない糸であり、フィラメント糸、紡績糸のいずれも用いることができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ナイロン6、ナイロン66、アラミド繊維、アクリル、アクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレンに代表される合成繊維マルチフィラメントや、レーヨン、アセテートに代表される化学繊維、さらには綿や羊毛、シルクなどの天然繊維などからなる糸が挙げられる。
上記ニット編地は、弾性糸の混率が10〜60質量%であることが好ましい。上記弾性糸の混率が低すぎると、充分な伸長性が得られないことがある。一方、上記弾性糸の混率が高すぎると、編成および染色加工での工程が難しくなり、生産性に問題が起こりやすくなる。また、伸長応力を高くすることは可能になるが、フィット性が悪くなりやすい。また、寸法変化率などの物性においても、問題が起こりやすくなる。
上記ニット編地として緯編(丸編)を用いるときの編組織としては、例えば、平編(天竺編)、ゴム編、両面編、パール編、タック編、浮き編、片畔編、レース編、添え毛編等が挙げられる。緯編の場合、編込む弾性糸の糸長は、編機ゲージや編組織、糸の太さに基づいて適宜調整すればよい。弾発性や伸長回復性を効果的に発現させるために、弾性糸の糸長は、100ウェール当り200〜600mmが好ましく、より好ましくは230〜550mm、更に好ましくは250〜500mmである。
上記ニット編地として経編を用いるときの編組織としては、例えば、シングルデンビー編、開目デンビー編、シングルアトラス編、ダブルコード編、ハーフ編、ハーフベース編、サテン編、トリコット編、ハーフトリコット編、裏毛編、ジャガード編等が挙げられる。これらの中で好ましい編組織は、ハーフ編、開目デンビー編などである。経編の場合、編込む糸の糸長は、編機ゲージや編組織、糸の太さに基づいて適宜調整すればよい。弾発性や伸長回復性を効果的に発現させるために、弾性糸の糸長は、ラック当り800〜2200mmが好ましく、より好ましくは850〜2100mm、更に好ましくは900〜2000mmである。
上記ニット編地としては、例えば、特開2012−188765号公報や再公表特許WO2016/166993号公報に記載のものを用いることができる。
上記ニット編地が、トリコット編地(特に、2wayトリコット編地)の場合は、2枚以上の筬で編成され、一つの筬に非弾性糸が配置され、別の筬に弾性糸が配置されるものが好ましく、非弾性糸、弾性糸共に、ニット組織であることが好ましい。
上記ニット組織としては、例えば、鎖編み、デンビー、プレーンコード、アトラス、ダブルアトラス、二目編組織から選択される1種もしくは複数の編組織が用いられる。例えば、非弾性糸がプレーンコード組織で弾性糸がデンビー組織のハーフ組織や、非弾性糸、弾性糸共にデンビー組織からなるダブルデンビー組織である。
上記非弾性糸のシンカーループは2針振り以内であることが好ましく、更に好ましくは1針振り以内である。シンカーループが1針振りの場合は、裁断したあとの糸のホツレを極力低減できると共に、生地を薄く、軽くできる。なお、シンカーループの振りが全くない鎖編組織であると、非弾性糸、弾性糸がタテ方向にのみ配置されるため、ヨコ方向の伸びが少なくなり、好ましくない。また、シンカーループの振りが3針振り以上の場合は、生地が厚くなり、また糸が浮いてしまうことでスナッグ、ピリングが悪くなるため、好ましくない。
非弾性糸と弾性糸の両方をデンビー組織にすることで、シンカーループを最も短くすることができ、かつタテヨコの伸長性バランスを得ることができるが、デンビー組織だけの場合、編終わりからランが発生し易くなる。
そこで、本発明では、加工で弾性糸を融着させることが好ましく、編終わりからのラン発生を抑制させ、その結果引裂強力も向上させることが可能である。
上記ニット編地は、非弾性糸と弾性糸を同行させることが好ましい。非弾性糸と弾性糸が交叉しないことでコース方向に伸長時に耳カールしにくくなると共に弾性糸が非弾性糸の下目に入ることで生地表面から弾性糸が露出しにくくなるため品位の向上が可能になる。
上記ニット編地の編糸の繊度は、好ましくは22〜470dtex、より好ましくは22〜156dtex、更に好ましくは22〜78dtexであり、非弾性糸の繊度は、好ましくは17〜156dtex、更に好ましくは22〜78dtexであり、非弾性糸の単糸繊度は、好ましくは1〜11dtexである。
上記ニット編地の厚みは、好ましくは300〜1200μm、より好ましくは500〜1000μmである。
上記ニット編地の目付は、用途に応じて適宜設定すればよいが、好ましくは150〜250g/m2、より好ましくは170〜220g/m2である。
上記衣類のうち、上記ニット編地が形成されていない領域の生地は、特に限定されず、公知の生地を用いることができる。
本発明の衣類は、電極が形成されていればよく、その形態は特に限定されず、例えば、スポーツインナー、Tシャツ、ポロシャツ、キャミソール、肌着、下着、病衣、または寝間着などが挙げられる。これらの中でも、肌着が好ましく、特に女性用の肌着が好ましい。
上記衣類が、袖を有する場合は、半袖、五分袖、七分袖、長袖等のいずれであってもよく、袖の形状は、ラグラン袖であってもよい。
上記衣類は、胸部、手部、脚部、足部、頸部、または顔部のいずれかを少なくとも覆うことが好ましい。
次に、上記衣類に設ける電極について説明する。上記電極は、主として皮膚接触によって生体電位を検出するために用いられるが、コネクタ等の電気接点として用いてもよく、その他の近接的非接触的なセンサーの検知端として用いてもよい。
上記電極は、被測定者の運動動作に追従できるように伸縮性を有することが好ましい。
上記伸縮性を有する電極としては、例えば、導電性ファブリックで構成されている電極や、導電性フィラーと伸縮性を有する樹脂を含む導電性組成物から形成されたシート状の電極が挙げられる。
上記導電性ファブリックで構成されている電極としては、例えば、基材繊維に導電性高分子を被覆した導電性繊維または導電糸、あるいは銀、金、銅、ニッケルなどの導電性金属によって表面を被覆した繊維、導電性金属の微細線からなる導電糸、導電性金属の微細線と非導電性繊維とを混紡した導電糸などからなる織物、編物、不織布、あるいはこれら導電性の糸を非導電性の布帛に刺繍した物を導電性ファブリックからなる電極として用いることができる。
上記導電性ファブリックは、身丈方向または身幅方向に14.7Nの荷重をかけたときに、少なくとも一方の伸長率が3%以上60%以下であることが好ましい。上記伸長率が下限値を下回ると、電極が衣類の生地の動きに充分に追従しにくくなり、生地から電極が剥がれることがある。従って上記伸長率は、3%以上が好ましく、より好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上である。しかし、伸長率が上限値を超えると、電極が伸びすぎて生体情報を精度良く計測できないことがある。従って上記伸長率は、60%以下が好ましく、より好ましくは55%以下、更に好ましくは50%以下である。
上記伸長率は、身丈方向または身幅方向で上記範囲を満足することが好ましく、身丈方向および身幅方向の両方において上記範囲を満足することがより好ましい。
上記シート状の電極の材料としては、例えば、導電性が高い導電性フィラーを用いることによって、繊維状電極よりも電気抵抗値を低くすることができるため、微弱な電気信号を検知できる。
上記電極は、生体の電気的情報を検知できる導電層を含み、更に肌とは逆側、即ち、導電層の衣類側に絶縁層を有することが好ましい。以下、衣類側の絶縁層を、第一絶縁層ということがある。
また、上記衣類は、電極の他、該電極と、該電極で取得した電気信号を演算する機能を有する電子ユニット等とを接続する配線を有している。上記配線は、電極で検知した生体の電気信号を電子ユニット等へ伝達するための導電層を含み、更に肌とは逆側、即ち、導電層の衣類側に絶縁層(第一絶縁層)を有することが好ましい。上記配線は、導電層の肌側にも絶縁層を有することが好ましい。以下、肌側の絶縁層を、第二絶縁層ということがある。
以下、導電層、第一絶縁層、第二絶縁層について具体的に説明する。
(導電層)
導電層は、導通を確保するために必要である。
上記導電層は、導電性フィラーと伸縮性を有する樹脂を含むことが好ましく、より好ましくは導電性フィラーとエラストマーを含むものであり、各成分を有機溶剤に溶解または分散させた組成物(以下、導電性ペーストということがある)を用いて形成できる。
上記導電性フィラーとしては、例えば、金属粉、金属ナノ粒子、金属粉以外の導電材料などを用いることができる。上記導電性フィラーは、1種でもよいし、2種以上でもよい。
上記金属粉としては、例えば、銀粉、金粉、白金粉、パラジウム粉等の貴金属粉、銅粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、真鍮粉等の卑金属粉、卑金属やシリカ等の無機物からなる異種粒子を銀等の貴金属でめっきしためっき粉、卑金属と銀等の貴金属で合金化した合金化卑金属粉等が挙げられる。これらの中でも、銀粉および/または銅粉が好ましく、低コストで、高い導電性を発現させることができる。
上記銀粉および/または銅粉は、導電性フィラーとして用いる金属粉の主成分であることが好ましく、主成分とは、合計で50質量%以上を意味する。
上記導電性フィラーに占める金属粉の割合は、20体積%以下が好ましく、より好ましくは15体積%以下、更に好ましくは10体積%以下である。金属粉の含有割合が多すぎると、樹脂中に均一に分散させ難くなることがあり、また一般に上述のような金属粉は高価であることからも、上記範囲に使用量を抑えることが望ましい。
上記金属ナノ粒子としては、上述した金属粉のうち、粒子径が数ナノ〜数十ナノの粒子を意味する。
上記導電性フィラーに占める金属ナノ粒子の割合は、20体積%以下が好ましく、より好ましくは15体積%以下、更に好ましくは10体積%以下である。金属ナノ粒子の含有割合が多すぎると、樹脂中に均一に分散させ難くなることがあり、また一般に上述のような金属ナノ粒子は高価であることからも、上記範囲に使用量を抑えることが望ましい。
上記金属粉以外の導電材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素系材料が挙げられる。上記金属粉以外の導電材料は、表面に、メルカプト基、アミノ基、ニトリル基を有するか、表面が、スルフィド結合および/またはニトリル基を含有するゴムで表面処理されていることが好ましい。一般に、金属粉以外の導電材料自体は凝集力が強く、アスペクト比が高い金属粉以外の導電材料は、樹脂中への分散性が悪くなるが、表面にメルカプト基、アミノ基またはニトリル基を有するか、スルフィド結合および/またはニトリル基を含有するゴムで表面処理されていることによって、樹脂に対する親和性が増して、分散し、有効な導電性ネットワークを形成でき、高導電性を実現できる。
上記導電性フィラーに占める金属粉以外の導電材料の割合は、20体積%以下が好ましく、より好ましくは15体積%以下、更に好ましくは10体積%以下である。金属粉以外の導電材料の含有割合が多すぎると、樹脂中に均一に分散させ難くなることがあり、また一般に上述のような金属粉以外の導電材料は高価であることからも、上記範囲に使用量を抑えることが望ましい。
上記導電層は、導電性フィラーの種類や、導電性フィラーの添加量等を変化させた2種類以上の導電層を積層したり、配列させて、複数の導電層を一体化したものであっても構わない。
上記導電層に占める上記導電性フィラー(換言すれば、導電層形成用の導電性ペーストの全固形分に占める導電性フィラー)は、15〜45体積%が好ましく、より好ましくは20〜40体積%である。導電性フィラーが少なすぎると、導電性が不充分になる虞がある。一方、導電性フィラーが多すぎると、導電層の伸縮性が低下する傾向があるため、電極および配線を伸長したときにクラック等が発生し、良好な導電性を保持できない虞がある。
上記伸縮性を有する樹脂としては、例えば、硫黄原子を含有するゴムおよび/またはニトリル基を含有するゴムを少なくとも含むことが好ましい。硫黄原子やニトリル基は、導電性フィラー(特に、金属粉)との親和性が高く、またゴムは伸縮性が高いため、電極および配線の10%伸長時にかかる単位幅当りの荷重を低減でき、伸長時にもクラック等の発生を回避できる。また、電極および配線が伸長されても導電性フィラーを均一な分散状態で保持できるため、20%伸長時における電気抵抗の変化倍率を小さくすることができ、優れた導電性を発現させることができる。また、電極および配線の厚みを薄くしても、優れた導電性を発現させることができる。これらの中でも、ニトリル基を含有するゴムがより好ましく、20%伸長時における電気抵抗の変化倍率を一段と低減できる。
上記硫黄原子を含有するゴムとしては、硫黄原子を含有するゴムの他、エラストマーでもよい。硫黄原子は、ポリマーの主鎖のスルフィド結合やジスルフィド結合、側鎖や末端のメルカプト基などの形で含有される。
上記硫黄原子を含有するゴムとしては、例えば、メルカプト基、スルフィド結合またはジスルフィド結合を含有する、ポリサルファイドゴム、ポリエーテルゴム、ポリアクリレートゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。特に、メルカプト基を含有する、ポリサルファイドゴム、ポリエーテルゴム、ポリアクリレートゴム、シリコーンゴムが好ましい。
上記硫黄原子を含有するゴムとして用いることのできる市販品としては、例えば、液状多硫化ゴムである東レ・ファインケミカル製の「チオコール(登録商標)LP」等が好ましく挙げられる。
上記硫黄原子を含有するゴム中の硫黄原子の含有量は、10〜30質量%が好ましい。
また、硫黄原子を含有しないゴムに、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(S−メルカプトブチレート)、トリメチロールプロパントリス(S−メルカプトブチレート)、メルカプト基含有シリコーンオイルなどの硫黄含有化合物を配合した樹脂を用いることもできる。
上記ニトリル基を含有するゴムとしては、ニトリル基を含有するゴムの他、エラストマーでもよい。特に、ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であるアクリロニトリルブタジエン共重合体ゴムが好ましく挙げられる。
上記ニトリル基を含有するゴムとして用いることのできる市販品としては、日本ゼオン製の「Nipol(登録商標)1042」等が好ましく挙げられる。
上記ニトリル基を含有するゴム中のニトリル基量(特に、アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム中のアクリロニトリル量)は、18〜50質量%が好ましく、より好ましくは20〜45質量%、更に好ましくは28〜41質量%である。特に、アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム中の結合アクリロニトリル量が多くなり過ぎると、導電性フィラー、特に、金属粉との親和性は増大するが、伸縮性に寄与するゴム弾性は逆に減少する。
上記導電層を形成する伸縮性を有する樹脂は、1種でもよいし、2種以上でもよい。即ち、上記導電層を形成する伸縮性を有する樹脂は、硫黄原子を含有するゴムおよびニトリル基を含有するゴムのみで構成されることが望ましいが、導電性、伸縮性、導電層形成時の塗布性などを損なわない範囲で、硫黄原子を含有するゴムおよびニトリル基を含有するゴム以外に、伸縮性を有する樹脂を含んでいてもよい。
伸縮性を有する他の樹脂を含む場合、全樹脂中、硫黄原子を含有するゴムおよびニトリル基を含有するゴムの合計量は、95質量%以上が好ましく、より好ましくは98質量%以上、更に好ましくは99質量%以上である。
上記導電層に占める上記伸縮性を有する樹脂(換言すれば、導電層形成用の導電性ペーストの全固形分に占める伸縮性を有する樹脂固形分)は、55〜85体積%が好ましく、より好ましくは58〜83体積%、更に好ましくは60〜80体積%である。伸縮性を有する樹脂が少なすぎると、導電性は高くなるが、伸縮性が悪くなる傾向がある。一方、伸縮性を有する樹脂が多すぎると、導電層の伸縮性はよくなるが、導電性は低下する傾向がある。
上記導電層は、上述した各成分を有機溶剤に溶解または分散させた組成物(導電性ペースト)を用い、後述する第一絶縁層上に直接形成するか、所望のパターンに塗布または印刷して塗膜を形成し、該塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させて乾燥させることによって形成できる。上記導電層は、上記導電性ペーストを離型シート等の上に塗布または印刷して塗膜を形成し、該塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させて乾燥させることによって予めシート状の導電層を形成しておき、それを所望のパターンで後述する第一絶縁層上に積層して形成してもよい。
上記導電性ペーストは、粉体を液体に分散させる従来公知の方法を採用して調製すればよく、伸縮性を有する樹脂中に導電性フィラーを均一に分散することによって調製できる。例えば、金属粉、金属ナノ粒子、金属粉以外の導電材料などと、樹脂溶液を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロールミル法、ボールミル法などで均一に分散すればよい。これらの手段は、複数を組み合わせて用いることができる。
上記導電性ペーストを塗布または印刷する方法は特に限定されないが、例えば、コーティング法、スクリーン印刷法、平版オフセット印刷法、インクジェット法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スタンピング法、ディスペンス法、スキージ印刷などの印刷法などを採用できる。
上記導電層の乾燥膜厚は、10〜150μmが好ましく、より好ましくは20〜130μm、更に好ましくは30〜100μmである。上記導電層の乾燥膜厚が薄すぎると、電極および配線が、繰り返し伸縮を受けて劣化しやすく、導通が阻害ないし遮断される虞がある。一方、上記導電層の乾燥膜厚が厚すぎると、伸縮性が阻害され、また、電極および配線が厚くなりすぎ、着心地が悪くなる虞がある。
(第一絶縁層)
上記第一絶縁層は、絶縁層として作用する他、電極および配線の導電層を生地に形成するための接着層として作用すると共に、着用時に第一絶縁層が積層された生地の反対側(即ち、衣類の外側)からの水分が導電層に達することを防ぐ止水層としても作用する。また、導電層の衣類側に第一絶縁層を設けることによって、第一絶縁層が、生地の伸びを抑制し、導電層が過度に伸長されるのを防ぐことができる。その結果、第一絶縁層にクラックが発生することを防止できる。これに対し、上述したように、上記導電層は、良好な伸長性を有するものであるが、生地が導電層の伸長性を超えた伸び性に富む素材の場合、生地表面に導電層を直接形成すると、生地の伸びに追随して導電層が伸ばされ過ぎ、その結果、導電層にクラックが発生すると考えられる。
上記第一絶縁層は、絶縁性を有する樹脂で構成すればよく、樹脂の種類は特に制限されない。
上記樹脂としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステルエラストマー等を好ましく用いることができる。これらの中でも、ポリウレタン系樹脂がより好ましく、導電層との接着性が一層良好となる。上記第一絶縁層を構成する樹脂は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
上記第一絶縁層の形成方法は特に限定されないが、例えば、絶縁性を有する樹脂を、溶剤(好ましくは水)に溶解または分散させて、離型紙または離型フィルム上に塗布または印刷し、塗膜を形成し、該塗膜に含まれる溶剤を揮発させて乾燥させることによって形成できる。また、市販されている樹脂シートまたは樹脂フィルムを用いることもできる。
上記第一絶縁層の平均膜厚は10〜200μmが好ましい。上記第一絶縁層が薄すぎると、絶縁効果および伸び止め効果が不充分になることがある。従って上記第一絶縁層の平均膜厚は10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上である。しかし、上記第一絶縁層が厚すぎると、電極および配線の伸縮性が阻害されることがある。また、電極および配線が分厚くなりすぎ、着心地が悪くなるおそれがある。従って上記第一絶縁層の平均膜厚は200μm以下が好ましく、より好ましくは180μm以下、更に好ましくは150μm以下である。
(第二絶縁層)
上記配線は、前記導電層の上に、第二絶縁層が形成されていることが好ましい。第二絶縁層を設けることによって、例えば、雨、雪、汗などの水分が導電層に接触することを防止できる。
上記第二絶縁層を構成する樹脂としては、上述した第一絶縁層を構成する樹脂と同様のものが挙げられ、好ましく用いられる樹脂も同じである。
上記第二絶縁層を構成する樹脂も、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
上記第二絶縁層を構成する樹脂は、上記第一絶縁層を構成する樹脂と、同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。同じ樹脂を用いることによって、導電層の被覆性および配線の伸縮時における応力の偏りによる導電層の損傷を低減できる。
上記第二絶縁層は、上記第一絶縁層と同じ形成方法で形成できる。また、市販されている樹脂シートまたは樹脂フィルムを用いることもできる。
上記第二絶縁層の平均膜厚は10〜200μmが好ましい。上記第二絶縁層が薄すぎると、繰り返し伸縮したときに劣化しやすく、絶縁効果が不充分になることがある。従って上記第二絶縁層の平均膜厚は10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上である。しかし、上記第二絶縁層が厚すぎると、配線の伸縮性が阻害され、また配線の厚みが厚くなりすぎて着心地が悪くなる虞がある。従って上記第二絶縁層の平均膜厚は200μm以下が好ましく、より好ましくは180μm以下、更に好ましくは150μm以下である。
上記電極および配線は、10%伸長時にかかる単位幅当りの荷重が、100N/cm以下であることが好ましい。10%伸長時にかかる単位幅当りの荷重が100N/cmを超えると、電極および配線の伸長が、生地の伸長に追従し難くなり、衣類を着用したときの着心地を阻害することがある。従って10%伸長時にかかる単位幅当りの荷重は、100N/cm以下が好ましく、より好ましくは80N/cm以下、更に好ましくは50N/cm以下である。
上記電極および配線は、20%伸長時における電気抵抗の変化倍率が5倍以下であることが好ましい。20%伸長時における電気抵抗の変化倍率が5倍を超えると、導電性の低下が著しくなる。従って20%伸長時における電気抵抗の変化倍率は5倍以下であることが好ましく、より好ましくは4倍以下、更に好ましくは3倍以下である。
上記電極と配線は、異なる材料で構成されていてもよいが、同じ材料で構成されていることが好ましい。
上記電極と配線を同じ材料で構成する場合は、配線の幅は1mm以上とすることが好ましく、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは5mm以上である。配線幅の上限は特に限定されないが、例えば、10mm以下とすることが好ましく、より好ましくは9mm以下、更に好ましくは8mm以下である。
上記電極および配線は、衣類を構成する生地に直接形成することが好ましい。
上記電極および配線を生地に形成する方法としては、電極および配線の伸縮性を妨げない方法であれば特に限定されず、着用時の身体へのフィット性や運動時、動作時の追従性などの観点から、例えば、接着剤による積層や熱プレスによる積層など、公知の方法が採用できる。接着剤による積層や熱プレスによる積層を行う場合、上記生地には、シリコン系柔軟剤やフッ素系撥水剤のように、接着性を損なう材料が付着していないことが望ましい。生地に付着しているシリコン系柔軟剤やフッ素系撥水剤などの量は、生地の染色加工工程において精練処理による弾性糸等に用いられているシリコン系柔軟剤を除去したり、生地の仕上げセット時に用いる加工剤の種類を選定するなどの方法によって、調整できる。
上記電極は、衣類の胸郭部または胸郭下腹部に設けられていることが好ましい。上記電極を、衣類の胸郭部または胸郭下腹部に設けることによって、生体情報を精度良く測定できる。上記電極は、衣類のうち、着用者の第七肋骨上端と第九肋骨下端との間の肌に接触する領域に設けることがより好ましい。
上記電極は、衣類のうち、着用者の左右の後腋窩線に平行な線であって、着用者の後腋窩線から着用者の背面側に10cm離れた場所に引いた線同士で囲まれる着用者の腹側の領域に設けることが好ましい。
上記電極は、着用者の胴回りに沿って、円弧状に設けることが好ましい。
上記衣類に設ける電極の数は、少なくとも2つであり、2つの電極を、衣類の胸郭部または胸郭下腹部に設けることが好ましく、2つの電極を、着用者の左右の後腋窩線に平行な線であって、着用者の後腋窩線から着用者の背面側に10cm離れた場所に引いた線同士で囲まれる着用者の腹側の領域に設けることが好ましい。なお、電極を3つ以上設ける場合は、3つ目以降の電極を設ける位置は特に限定されず、例えば、後身頃生地に設けてもよい。
上記電極面の電気抵抗値は、1000Ω/cm以下が好ましく、より好ましくは300Ω/cm以下、更に好ましくは200Ω/cm以下、特に好ましくは100Ω/cm以下である。特に、上記電極の形態がシート状の場合は、電極面の電気抵抗値を、通常、300Ω/cm以下に抑えることができる。
上記電極の形態は、シート状が好ましい。電極をシート状にすることによって、電極面を広くできるため、着用者の肌との接触面積を確保できる。上記シート状の電極は、曲げ性が良好であるものが好ましい。また、上記シート状の電極は、伸縮性を有するものが好ましい。
上記シート状の電極の大きさは、身体からの電気信号を計測できれば特に限定されないが、電極面の面積は5〜100cm2であり、電極の平均厚みは10〜500μmが好ましい。
上記電極面の面積は、より好ましくは10cm2以上、更に好ましくは15cm2以上である。上記電極面の面積は、より好ましくは90cm2以下、更に好ましくは80cm2以下である。
上記電極が薄すぎると導電性が不充分になることがある。従って平均厚みは10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上である。しかし、厚くなり過ぎると、着用者に異物感を感じさせ、不快感を与えることがある。従って平均厚みは500μm以下が好ましく、より好ましくは450μm以下、更に好ましくは400μm以下である。
上記電極の形状は、電極を配置する位置に相当する身体の曲線に沿い、且つ身体の動きに追随して密着しやすい形状であれば特に限定されず、例えば、四角形、三角形、五角形以上の多角形、円形、楕円形等が挙げられる。電極の形状が多角形の場合は、頂点に丸みを付け、肌を傷付けないようにしてもよい。
上記配線は、導電性繊維または導電性糸を用いて形成してもよい。
上記導電性繊維または導電性糸としては、絶縁物である繊維表面に金属をメッキしたもの、細い金属線を糸に撚り込んだもの、導電性の高分子をマイクロファイバーなどの繊維間に含浸させたもの、細い金属線等を用いることができる。
上記配線の平均厚みは、10〜500μmが好ましい。厚みが薄すぎると導電性が不充分になることがある。従って平均厚みは10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上である。しかし、厚みが厚くなり過ぎると、着用者に異物感を感じさせ、不快感を与えることがある。従って平均厚みは500μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下である。
上記配線の形状は特に限定されず、直線、曲線の他、冗長性を有する幾何学パターンであってもよい。冗長性を有する幾何学パターンとしては、例えば、ジグザグ状、連続馬蹄状、波状などが挙げられる。冗長性を有する幾何学パターンの電極は、例えば、金属箔を用いて形成できる。
上記衣類は、電極で取得した電気信号を演算する機能を有する電子ユニット等を備えていることが好ましい。上記電子ユニット等において、電極で取得した電気信号を演算、処理することによって、例えば、心電、心拍数、脈拍数、呼吸数、血圧、体温、筋電、発汗などの生体情報が得られる。
上記電子ユニット等は、衣類に着脱できることが好ましい。
上記電子ユニット等は、更に、表示手段、記憶手段、通信手段、USBコネクタなどを有することが好ましい。
上記電子ユニット等は、例えば、気温、湿度、気圧などの環境情報を計測できるセンサーや、GPSを用いた位置情報を計測できるセンサーなどを備えてもよい。
上記衣類を用いることにより、人の心理状態や生理状態を把握する技術への応用もできる。例えば、リラックスの度合いを検出してメンタルトレーニングしたり、眠気を検出して居眠り運転を防止したり、心電図を計測してうつ病やストレス診断等を行うことができる。