以下、添付図面に従って本発明に係るワーク分割装置及びワーク分割方法の好ましい実施形態について詳説する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲であれば、以下の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
実施形態に係るワーク分割装置10(図1参照)を説明する前に、実施形態のワーク分割装置10によって分割されるウェーハについて説明する。
図11は、円盤状のウェーハ1が貼付されたウェーハユニット2の説明図であり、図11(A)はウェーハユニット2の斜視図、図11(B)はウェーハユニット2の縦断面図である。
ウェーハ1は、片面に粘着層が形成されたダイシングテープ3の中央部に貼付され、ダイシングテープ3は、その外周部が剛性のある金属製のリング状のフレーム4に固定されている。
ウェーハ1の厚さは例えば50μm程度であり、ダイシングテープ3の厚さは例えば100μm程度である。また、ダイシングテープ3としては、例えばPVC(polyvinyl chloride:ポリ塩化ビニール)系のテープが使用される。なお、ウェーハ1をDAF(Die Attach Film)等のフィルム状接着材を介してダイシングテープ3に貼付してもよい。フィルム状接着材としては、例えばPO(polyolefin:ポリオレフィン)系のものを使用することができる。
図1に示すワーク分割装置10では、ウェーハユニット2のフレーム4の上面4Aが固定部7の下面7Aに着脱自在に固定される。この後、ウェーハユニット2の下方からエキスパンドリング16が上昇移動され、このエキスパンドリング16によってダイシングテープ3が押圧されて放射状に拡張される。このときに生じるダイシングテープ3の張力が、ウェーハ1の分割予定ライン5(図11参照)に付与されることにより、ウェーハ1が個々のチップ6に分割される。
本願明細書においては、図11(B)に示すように、ダイシングテープ3のうち、ウェーハ1が貼付される平面視円形状の領域を中央部領域3Aと称し、中央部領域3Aの外縁部(ウェーハ1の外縁部)とフレーム4の内縁部との間に備えられる平面視ドーナツ形状の領域を環状部領域3Bと称し、フレーム4に固定される最外周部分の平面視ドーナツ形状の領域を固定部領域3Cと称する。環状部領域3Bが、エキスパンドリング16に押圧されて拡張される領域である。
ワーク分割装置10おいて、ウェーハ1の分割に要する力、すなわち、ウェーハ1を個々のチップ6に分割するために環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、分割予定ライン5の本数が多くなるに従って高くしなければならないことが知られている。分割予定ライン5の本数について、例えば、図12のウェーハ1の如く、直径D1が300mmのウェーハ1でチップサイズが5mmの場合には約120本(XY方向に各60本)の分割予定ライン5が形成され、チップサイズが1mmの場合は約600本の分割予定ライン5が形成される。よって、環状部領域3Bに発生させなければならない張力は、チップサイズが5mmの場合よりも1mmの場合の方を高くしなければならない。
また、直径D1が300mmのウェーハ1がマウントされるフレーム4の内径D2(フレームの内縁部の径)は、SEMI規格(G74−0699 300mmウェーハに関するテープフレームのための仕様)により350mmと定められている。この規格により、ウェーハ1の外縁部とフレーム4の内縁部との間には、25mmの幅寸法aを有する環状部領域3Bが存在することになる。また、フレーム4を固定する固定部7は、図11(B)の如く、エキスパンドリング16によって拡張される環状部領域3Bに接触しないように、矢印Aで示すダイシングテープ3の面内方向において環状部領域3Bから外方に離間した位置に設置されている。
ここで、エキスパンドリング16の上昇動作によって生じるウェーハ1を分割する力は、(i)環状部領域3Bの全領域を拡張する力、(ii)ウェーハ1をチップ6に分割する力、(iii)隣接するチップ6とチップ6との間のダイシングテープ3を拡張する力の3つの力に分けられる。
図13(A)〜(E)に示すワーク分割装置の動作図の如く、ダイシングテープ3の環状部領域3Bにエキスパンドリング16が当接し、エキスパンドリング16の上昇動作によってダイシングテープ3の拡張が始まると(図13(A))、まず最もバネ定数の低い環状部領域3Bの拡張が始まる(図13(B))。これにより、環状部領域3Bに張力が発生し、この張力がある程度高まると、高まった張力がウェーハ1に伝達されてウェーハ1のチップ6への分割が始まる(図13(C))。ウェーハ1が個々のチップ6に分割されると、環状部領域3Bの拡張とチップ6間のダイシングテープ3の拡張とが同時に進行する(図13(D)〜(E))。
ここで、例えば、直径D1が300mmのウェーハ1において、チップサイズが5mm以上の場合には、環状部領域3Bで発生した張力により、個々のチップ6に問題無く分割することが可能である。しかしながら、近年、ウェーハ1に形成される回路パターンの微細化に伴いチップサイズがより小さい1mm以下のチップも現れてきている。この場合、ウェーハ1を分割する分割予定ライン5の本数が増大することに起因して、ウェーハ1の分割に要する力が大きくなり、環状部領域3Bの拡張による張力以上の力が必要となる。そうすると、図14のウェーハユニット2の縦断面図の如く、エキスパンドリング16による拡張動作が終了しても、ウェーハ1に形成された分割予定ライン5の一部が分割されずに未分割のまま残存するという問題が発生する。
そこで、以下に説明する実施形態では、分割対象のウェーハ1の一例として、図12に示す直径D1が300mmのウェーハ1であって、X方向と平行な分割予定ライン5の本数と、Y方向と平行な分割予定ライン5の本数とがそれぞれ300本でチップサイズが1mmのウェーハ1を例示する。そして、このようなウェーハ1において、既述の未分割の問題を解消しつつ、拡張後に生じたダイシングテープ3の塑性変形による弛みを有効に除去することができるワーク分割装置及びワーク分割方法について説明する。
図1は、実施形態に係るワーク分割装置10の構造を示した断面図である。ワーク分割装置10は、拡張部12及び加温部14を備えている。図2は、拡張部12の構造を示した要部拡大斜視図である。
図2の如く、拡張部12は、フレーム4を固定する固定部7と、ダイシングテープ3の環状部領域3Bを下方側から上方側に押圧してダイシングテープ3を拡張するエキスパンドリング16と、ダイシングテープ3の環状部領域3Bに上方側から当接される拡張規制リング17と、エキスパンドリング16によって拡張されたダイシングテープ3の拡張状態を保持する拡張保持リング(サブリングとも言う。)18と、を備える。これらの固定部7、エキスパンドリング16、拡張規制リング17及び拡張保持リング18は、拡張部12の作業室20(図1参照)に配置されている。
固定部7は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と同一側に配置され、その下面7Aにフレーム4の上面4Aが着脱自在に固定される。固定部7の形状は、フレーム4の内径D2(350mm:図12参照)よりも大きい、例えば直径D3(図2参照)が361mmの開口部7Bを有するリング状である。
エキスパンドリング16は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と反対側の裏面側に配置され、フレーム4の内径D2(350mm:図12参照)よりも小さく、かつウェーハ1の外径D1(300mm:図12参照)よりも大きい拡張用開口部16Aを有する。エキスパンドリング16は、ダイシングテープ3に対して相対的に近づく方向に移動自在に配置される。具体的には、エキスパンドリング16は、ダイシングテープ3の環状部領域3Bの裏面を上方側に押圧して環状部領域3Bを拡張する拡張位置(図1の二点鎖線で示す位置)と、環状部領域3Bから下方に退避した退避位置(図1の実線で示す位置)との間で上下方向に移動自在に配置される。
ワーク分割装置10には、エキスパンドリング16を拡張位置と退避位置との間で上下移動させるエキスパンドリング移動機構22が備えられている。エキスパンドリング移動機構22の一例として、送りネジ装置を例示するが、これに代えてエアシリンダ装置等のアクチュエータを使用することもできる。退避位置に位置されているエキスパンドリング16をエキスパンドリング移動機構22によって拡張位置に向けて移動させると、エキスパンドリング16は、環状部領域3Bに向けて矢印B方向に上昇移動される。これによって、環状部領域3Bの裏面がエキスパンドリング16に押圧されて放射状に拡張される。
拡張規制リング17は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と同一側に配置され、フレーム4の内径D2(350mm:図12参照)よりも小さく、かつエキスパンドリング16の外径よりも大きい拡張規制用開口部17Bを有する。一例として、拡張規制用開口部17Bの直径D4(図1参照)は338mmである。
拡張規制リング17は、環状部領域3Bの表面にその下縁部17Aが当接される規制位置(図1の二点鎖線で示す位置)と、規制位置から上方に退避した退避位置(図1の実線で示す位置)との間で上下移動自在に配置される。
規制位置とは、拡張規制リング17によって外周側領域3Eの拡張を規制する位置であって、図1では、拡張規制リング17の下縁部17Aが、フレーム4の下面4Bと同一面上に位置する位置に設定されている。なお、規制位置は、その位置に限定されるものではなく、外周側領域3Eの拡張を規制可能な位置であればよい。また、外周側領域3Eとは、環状部領域3Bのうち拡張規制リング17の下縁部17Aに当接された当接部3D(図3参照)を境として外周側に位置する領域である。また、環状部領域3Bのうち外周側領域3Eを除く領域が内周側領域3Fであり、この内周側領域3Fがエキスパンドリング16によって拡張される領域である。
図1に戻り、ワーク分割装置10には、拡張規制リング17を規制位置と退避位置との間で上下移動させる拡張規制リング移動機構23が備えられている。拡張規制リング移動機構23の一例として、エアシリンダ装置を例示するが、これに代えて送りネジ装置等のアクチュエータを使用することもできる。
図3は、エキスパンドリング16によって拡張途中の環状部領域3Bの形状を示したウェーハユニット2の要部拡大断面図である。
図3に示すように、エキスパンドリング16による環状部領域3Bの拡張の際には、エキスパンドリング16による拡張動作に先立って、拡張規制リング17が規制位置に位置されている。つまり、ダイシングテープ3の外周側領域3Eの拡張が拡張規制リング17によって予め規制されている。このため、実施形態のワーク分割装置10によれば、エキスパンドリング16が環状部領域3Bに当接した直後から内周側領域3Fの拡張が開始される。
実施形態では、図1の如く、拡張規制用開口部17Bの直径D4が338mmに設定されているので、拡張規制リング17によって拡張が規制される外周側領域3Eの幅寸法bが6mmに設定され、エキスパンドリング16によって拡張される内周側領域3Fの幅寸法cが19mmに設定されている。
ここで、環状部領域3Bのうち、エキスパンドリング16によって拡張される内周側領域3Fが、ウェーハ1の分割に実質的に寄与する領域となる。この内周側領域3Fの幅寸法cを小さくするに従い、内周側領域3Fのバネ定数が大きくなるので、内周側領域3Fからウェーハ1に付与する張力が増加する。このため、内周側領域3Fの幅寸法cを決定する拡張規制用開口部17Bの直径D4は、分割予定ライン5の本数等で規定される分割条件に応じて設定される。
一方、拡張保持リング18は、ダイシングテープ3におけるウェーハ1の貼付面と反対側の裏面側に配置される。また、拡張保持リング18は、図4に示すように、外径D5がフレーム4の内径D2(350mm)よりも小さく、内径D6がエキスパンドリング16の外径よりも大きい本体リング24と、本体リング24の外周部に装着されて、フレーム4の内径D2(350mm)よりも大きい外径D7(351.3mm)を有する弾性変形可能なリング状の嵌合部26と、を有する。なお、図4は、拡張保持リング18によってダイシングテープ3の拡張状態が保持された縦断面図である。
拡張保持リング18は、拡張保持前においては、図1の実線で示す待機位置に配置されており、拡張保持時に拡張保持リング移動機構28によって待機位置から上昇移動される。拡張保持リング移動機構28の一例として、送りネジ装置を例示するが、これに代えてエアシリンダ装置等のアクチュエータを使用することもできる。
拡張保持リング移動機構28によって拡張保持リング18が上昇されると、嵌合部26がフレーム4の下面に当接する。この後、嵌合部26は、継続する拡張保持リング18の上昇移動により、フレーム4の内周面に押されて弾性変形しながら上昇する。そして、嵌合部26が、フレーム4の内周面を通過した位置で拡張保持リング18の上昇が停止される。これによって、嵌合部26が図4に示す嵌合位置でフレーム4の上面4Aに嵌合される。
なお、後述するが、実施形態のワーク分割装置10では、エキスパンドリング16による分割工程(S140:図7参照)が終了すると、加温部14によるダイシングテープ3の加温工程(S150:図7参照)が行われ、その後に拡張保持リング18による拡張状態保持工程(S160:図7参照)が行われる。
図1に戻り、加温部14について説明する。
加温部14は、エキスパンドリング16の拡張動作によって塑性変形されたダイシングテープ3を加温する加温室30を備える。
加温室30は、断熱壁32を介して作業室20に並設される。また、加温室30は、扉34によって開閉される開口部36を介して作業室20に連通されている。よって、拡張部12によって個々のチップ6に分割されたウェーハユニット2は、拡張保持リング18によってダイシングテープ3の拡張状態が保持されることなく、不図示の搬送装置によって作業室20から加温室30に開口部36を介して搬入される。そして、加温室30に搬入されたウェーハユニット2は、前述の搬送装置によって、加温室30のリング状のテーブル38にフレーム4が載置される。なお、実施形態のワーク分割装置10では、加温室30を作業室20に並設しているので、作業室20で拡張されたダイシングテープ3を加温室30に効率よく搬送して加温することができる。
加温室30のテーブル38の下方には、ダイシングテープ3の全面を輻射熱により加温する複数の輻射熱放射部材40が配置されている。
ここで、ダイシングテープ3に熱を付与する加温手段について説明すると、その加温手段には輻射熱の他、熱伝導(接触)又は熱伝達(対流)を利用した手段がある。
ところで、加温手段として熱伝導を採用した場合は、加温対象物であるダイシングテープ3が弛んでいて不定形であるため、ダイシングテープ3の全体に接触することが困難なので、ダイシングテープ3の全体を均一に加温することは難しい。また、加温手段として熱伝達を採用した場合は、ダイシングテープ3の全体を均一に加温することができるが、空気中に存在する微小な塵埃がウェーハ1に付着してウェーハ1を汚染する虞があるので採用することは難しい。
そこで、実施形態のワーク分割装置10では、加温手段の好ましい形態として、輻射熱を放射する輻射熱放射部材40を採用している。輻射熱による加温方法は、熱伝導と熱伝達の既述の問題を解消することができ、また、赤外光が照射された領域のみ加温することができるため、無駄な温度上昇を抑制することができる利点がある。
図5は、図1に示した加温部14の要部構成を示した拡大斜視図である。図5に示すように、輻射熱放射部材40は、ハロゲンランプ42を有する。ハロゲンランプ42は、全体として複数本(図5では5本)備えられており、これらのハロゲンランプ42は、ダイシングテープ3の直下の同一水平面上に等間隔に配置されるとともに、それらの軸方向が平行となるように配置される。
ハロゲンランプ42のみを使用してダイシングテープ3の全体を加温することも可能であるが、ダイシングテープ3のうち、ハロゲンランプ42からの赤外光が直射されるランプ直上部分と、ハロゲンランプ42が存在しないランプ間の直上部分とでは照度が異なる場合がある。このような場合には、ダイシングテープ3に温度むらが発生するので、ダイシングテープ3の全体を均一に加温することが難しくなる。
そこで、実施形態の加温部14は、本発明の熱反射部材の一例であるリフレクタ44を、ハロゲンランプ42の下側に隣接して配置し、ハロゲンランプ42から下方及び側方に放射された赤外光を、リフレクタ44によって反射してランプ間の直上部分にも照射するようにしている。これにより、実施形態の加温部14によれば、ダイシングテープ3の全面をより均一に加温することができ、よって、ダイシングテープ3の全体をより均一に熱収縮させることができる。
また、実施形態のリフレクタ44は、ハロゲンランプ42の下方に位置する山形の底部44Aと、底部44Aの両側にダイシングテープ3に向けて配置されるとともにダイシングテープ3の面外方向に傾斜した一対の壁部44B、44Bと、を有している。このような形状のリフレクタ44によれば、ハロゲンランプ42からの赤外光を、ランプ間の直上部分に向けて効率よく反射することができる。これにより、ダイシングテープ3の全面をより一層均一に加温することができるので、ダイシングテープ3の全体をより一層均一に熱収縮させることができる。なお、リフレクタ44は、上記の形状のものに限定されるものではない。すなわち、リフレクタ44は、ハロゲンランプ42からの赤外光を、ランプ間の直上部分に向けて効率よく反射することができる形状、例えば縦断面が下側に凸の円弧状のリフレタであってもよい。
図6は、ワーク分割装置10の制御部48の機能ブロック図である。図6に示す制御部48は、CPU(central processing unit)を含む各演算処理回路とメモリ等の記憶媒体とを有し、既述のエキスパンドリング移動機構22、拡張規制リング移動機構23及び拡張保持リング移動機構28を含むワーク分割装置10の全体の動作を制御する。この制御部48には、エキスパンドリング移動機構22、拡張規制リング移動機構23及び拡張保持リング移動機構28の他に、ハロゲンランプ電源46及び放射温度計50が接続されている。
ハロゲンランプ電源46は、制御部48の制御の下、ハロゲンランプ42に対する電力供給と、ハロゲンランプ42に供給する電力の電圧制御を行う。ハロゲンランプ42は、ハロゲンランプ電源46からの電力供給を受けて点灯し赤外光を放射する。ハロゲンランプ42から放射される赤外光の放射量は、ハロゲンランプ電源46からハロゲンランプ42に印加される電圧の大きさにより制御される。つまり、ハロゲンランプ電源46からハロゲンランプ42に印加する電圧を変更することにより、ハロゲンランプ42によってダイシングテープ3を加温する温度が変更される。
放射温度計50は、図1に示した加温室30に設置されており、ダイシングテープ3の温度を測定する。なお、実施形態では放射温度計50が、加温室30内においてダイシングテープ3の環状部領域3Bの温度を測定可能な位置に配置されているが、配置位置はこれに限定されない。例えば、加温室30内において放射温度計50をダイシングテープ3の下方に配置して、放射温度計50により中央部領域3Aの温度を測定してもよい。放射温度計50は、ダイシングテープ3の温度測定結果を制御部48へ出力する。
制御部48は、メモリ等に記憶された制御プログラム(不図示)を実行することにより、電圧制御部48aとして機能する。電圧制御部48aは、ハロゲンランプ電源46からハロゲンランプ42への電力供給が実行されている場合に、ハロゲンランプ電源46によりハロゲンランプ42に印加される電圧の大きさを制御する。具体的に電源制御部48aは、放射温度計50から入力されるダイシングテープ3の温度測定結果に基づき、ダイシングテープ3の温度が所定の上限温度を超過しないように、ハロゲンランプ42に印加する電圧の大きさを制御する。これにより、ダイシングテープ3の温度が上限温度を超過しないように、ハロゲンランプ42から照射される赤外光の放射量が調整される。なお、上限温度は、ダイシングテープ3の基材の材質に基づき設定される。
次に、図7のフローチャート、図8(A)〜(D)、図9(A)〜(B)及び図10(A)〜(E)に示すワーク分割装置10の動作説明図に従って、実施形態のワーク分割方法について説明する。
まず、図7の配置工程(S100)では、図8(A)の如く、エキスパンドリング16と拡張規制リング17をそれぞれ退避位置に配置するとともに、拡張保持リング18を待機位置に配置する。
次に、図7の固定工程(S110)では、図8(B)の如く、ウェーハユニット2のフレーム4を固定部7に固定する。
次に、図7の拡張規制工程(S120)では、図8(C)の如く、拡張規制リング17を退避位置から規制位置に移動し、拡張規制リング17の下縁部17Aを環状部領域3Bの表面に当接する。
次に、図7の拡張開始工程(S130)では、図8(D)の如く、エキスパンドリング16を、図7(A)の退避位置から拡張位置に向けて上昇移動させて、環状部領域3Bの拡張を開始する。
この拡張開始工程(S130)では、環状部領域3Bの表面に拡張規制リング17の下縁部17Aが予め当接されて外周側領域3Eの拡張が規制されているので、内周側領域3F(図1参照)がエキスパンドリング16によって拡張されていく。なお、既述の拡張規制工程(S120)は、拡張開始工程(S130)から後述の分割工程(S140)の終了時に至るまでの拡張工程と共に行われる工程である。つまり、本発明の拡張工程は、拡張開始工程(S130)から分割工程(S140)の終了時に至るまでの工程を指している。
次に、図7の分割工程(S140)では、図9(A)の如く、エキスパンドリング16の上昇移動により内周側領域3F(図3参照)の拡張を継続し、この間でウェーハ1を個々のチップ6に順次分割していく。この後、図9(B)の如く、エキスパンドリング16が拡張位置に到達したところで、エキスパンドリング16の上昇移動を停止する。この時点で既述の拡張工程が終了する。
このような拡張工程では、外周側領域3Eの拡張が拡張規制リング17によって規制されながら、内周側領域3Fのみがエキスパンドリング16によって拡張されていく。つまり、内周側領域3Fに発生した張力がウェーハ1に付与される。
具体的に説明すると、拡張工程では、拡張規制用開口部17Bの直径D4(図1参照)が338mmの拡張規制リング17を使用することにより、ウェーハ1の分割に寄与する領域の長さが25mm(環状部領域3Bの幅寸法a:図12参照)から19mm(内周側領域3Fの幅寸法c:図1参照)に縮小されている。このため、内周側領域3Fのバネ定数が増大し、その増大したバネ定数に対応する張力がウェーハ1に付与される。
したがって、実施形態のワーク分割方法によれば、拡張規制リング17を使用した拡張規制工程(S120)を備えているので、チップサイズが小チップ(1mm)であっても個々のチップ6に分割するだけの張力をウェーハ1に付与することができる。よって、チップサイズが小チップ(1mm)の場合に生じる分割予定ラインの未分割の問題を解消することができる。
ところで、分割工程(S140)後のダイシングテープ3は、ウェーハ1を小サイズのチップ6に分割するためにエキスパンドリング16の上昇量を大きくする必要があり、その結果としてダイシングテープ3の塑性変形が避けられず、ウェーハ1の全体に余分な弛みが生じている。このような余分な弛みは、拡張保持リング18を用いても十分に除去することは困難である。このため、分割工程(S140)の直後に、拡張保持リング18を使用した拡張状態保持工程(S160)を実施しても、ダイシングテープ3の拡張状態を保持することができない。
そこで、実施形態のワーク分割装置10では、図7の如く、S140の分割工程の終了後、S160の拡張状態保持工程の前に、S150の加温工程を備えている。
以下、S150の加温工程を具体的に説明する。
まず、図10(A)の如く、エキスパンドリング16を拡張位置から退避位置に下降移動させるとともに、拡張規制リング17を規制位置から退避位置に上昇移動させる。次に、ウェーハユニット2のフレーム4と固定部7との固定を解除する。次に、作業室20の扉34(図1参照)を開放し、ウェーハユニット2を不図示の搬送装置によって作業室20から開口部36を介して加温室30に搬入する。そして、不図示の搬送装置によってウェーハユニット2のフレーム4を、図10(B)の如く、加温室30のテーブル38に載置する。この後、扉34を閉じて加温室30を密閉する。
次に、図6の制御部48が、ハロゲンランプ電源46を駆動して、図10(C)の如く、全てのハロゲンランプ42、42…を点灯する。ハロゲンランプ42、42…を点灯すると、ダイシングテープ3のうち、ランプ直上部分がハロゲンランプ42からの直射赤外光によって照射され、ランプ間の直上部分がリフレクタ44からの反射赤外光によって照射される。これにより、ダイシングテープ3の全面が均一に加温されていく。
また、リフレクタ44は、ハロゲンランプ42の下方に配置された山形の底部44Aと、底部44Aの両側にダイシングテープ3に向けて配置されるとともにダイシングテープ3の面外方向に傾斜した一対の壁部44B、44Bと、を有する構成である。このような構成のリフレクタ44を適用することにより、ハロゲンランプ42からの赤外光を、ランプ間の直上部分に向けて効率よく反射することができるので、ダイシングテープ3の全面がより均一に加温されていく。
ダイシングテープ3は、ハロゲンランプ42による赤外光により昇温ともに徐々に熱収縮して弛みが除去されていくが、ダイシングテープ3の全体に発生した弛みを全て除去すると、ダイシングテープ3が硬くなり過ぎて、拡張保持リング18をフレーム4に装着することができなくなる。
ここで、拡張によって生じたダイシングテープ3の弛み量をAとし、拡張保持リング18によってダイシングテープ3を拡張状態で保持するためのダイシングテープ3の弛み量をBとすると、弛み量Aから弛み量Bを減算した弛み量Cを熱収縮により除去すれば、拡張保持リング18によってダイシングテープ3を拡張状態で保持することができる。しかしながら、ダイシングテープ3の環状部領域3Bのみを熱収縮させただけでは、弛み量Cを除去することができず、拡張保持リング18をフレーム4に装着してもダイシングテープ3を拡張状態で保持することができない。
そこで、図7に示したS150の加温工程では、ダイシングテープ3の全体を均一に熱収縮することで、弛み量Cを除去している。具体的に説明すると、実施形態のダイシングテープ3はポリ塩化ビニール製なので、約60℃で熱収縮を開始する傾向にある。このため、S150の加温工程では、ダイシングテープ3の温度が60℃に到達したことを放射温度計50にて計測された時点で、図6の制御部48がハロゲンランプ42を消灯する。これにより、ダイシングテープ3は余熱によって徐々に熱収縮されていき、常温に戻ったときに弛み量Cだけ除去される。以上でS150の加温工程が終了する。なお、ダイシングテープ3は、基材の材料(ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルム及びポリイミドフィルム)によって熱収縮を開始する温度が異なるため、その基材の材料に応じてハロゲンランプ42の赤外光の放射量と、ハロゲンランプ42の消灯のタイミングを制御すればよい。
S150の加温工程が終了すると、作業室20の扉34(図1参照)を開放し、ウェーハユニット2を不図示の搬送装置によって加温室30から開口部36を介して作業室20に搬入する。そして、ウェーハユニット2のフレーム4を、図10(D)の如く固定部7に固定する。
次に、図7のステップS160の拡張状態保持工程において、図10(E)の如く、拡張保持リング18を拡張保持リング移動機構28によって待機位置から嵌合位置に向けて上昇させて、嵌合部26を嵌合位置でフレーム4の上面4Aに嵌合させる。これにより、ダイシングテープ3の拡張状態が拡張保持リング18によって保持される。これにより、ステップS160の拡張状態保持工程が終了する。
以上の如く、実施形態のワーク分割方法によれば、ダイシングテープ3を拡張する拡張工程と、ダイシングテープ3の全体に熱を付与してダイシングテープ3の全体を熱収縮させる加温工程と、ダイシングテープ3を拡張してダイシングテープ3の拡張状態を保持する拡張状態保持工程と、を備えているので、拡張後に生じたダイシングテープ3の塑性変形による弛みを有効に除去した状態で、ダイシングテープ3の拡張状態を拡張保持リング18によって保持することができる。
また、実施形態のワーク分割方法によれば、既述の通り、拡張規制リング17を使用した拡張規制工程(S120)を備えているので、チップサイズが小チップ(1mm)の場合に生じる分割予定ラインの未分割の問題を解消することができる。
以上により、実施形態のワーク分割方法によれば、未分割の問題を解消しつつ、拡張後に生じたダイシングテープ3の塑性変形による弛みを有効に除去することができる。
なお、上述の実施形態では、拡張規制リング17を用いた例について説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。つまり、拡張規制リング17を用いることなく通常の拡張動作で個々のチップ6に分割可能なダイシングテープ3であっても、拡張時に生じた塑性変形の弛みを本発明の加温部及び加温工程によって除去することができる。
また、実施形態では、本発明の加温部材の一例としてハロゲンランプ42を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、ハロゲンランプ42に代えて遠赤外線ランプ又は赤外線ランプを適用することができる。
また、ハロゲンランプ42は、図5に示したように棒状に構成されたものであるが、形状は棒状に限定されるものではない。例えば、リング状のハロゲンランプでも適用できる。この場合は、直径の異なる複数のリング状のハロゲンランプ42を、ダイシングテープ3の中心を中心とする同心円状に配置することが好ましい。これにより、ダイシングテープ3の全体を均一に加温することができる。