以下、本発明を実施するための好適な実施形態について、図面を用いて説明する。なお、以下の実施形態は、各請求項に係る発明を限定するものではなく、また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
まず、図1〜図4を用いて、本実施形態に係る電動工具である手持ち式電動工具10の基本構成を説明する。ここで、図1は、本実施形態に係る手持ち式電動工具の上面外観図であり、図2は、図1におけるA−A断面を示す縦断面図である。また、図3は、図2におけるB−B断面を示す横断面図であり、図4は、図2におけるC−C断面を示す縦断面図である。
図1〜図3にて示すように、本実施形態に係る手持ち式電動工具10は、手持ち式の携帯用グラインダとして構成されるものであり、操作者が片手で持つことができるように略円筒状に形成されたハウジング11を備えるとともに、研削作業を行うための回転工具(先端工具)である円盤状の砥石(不図示)を設置可能に構成されている。
ハウジング11は、駆動源となるモータ31を内部に収納するケーシングとしてのモータケース12と、モータ31からの回転駆動力を受けてこの回転駆動力を不図示の砥石に伝達するための複数の歯車群等からなる駆動力伝達手段を収納するギアケース13とによって構成されている。
モータケース12は、樹脂又はアルミニウム合金などの金属製の部材によって構成されており、このモータケース12におけるモータ収納部分の外周箇所が、操作者から把持を受ける把持部として構成される。モータケース12の外郭形状は、操作者が把持し易いように略円筒状に形成されており、その表面には、滑り止めのための凹凸形状12aが形成されている。また、モータケース12の後方側(図1における紙面下側)には、モータ31に対して電力を供給するための電源部であるバッテリパック14を設置可能となっている。
モータケース12の前方側(図1における紙面上側)に連結されるギアケース13は、例えばアルミニウム合金などの金属製の部材により構成されている。そして、このギアケース13の下部には、研削作業を行うこととなる回転工具としての不図示の砥石が配置されており、不図示の砥石の背面側には、操作者に対して切粉などが飛散しないようにするために、安全カバーを設置することも可能である。
手持ち式電動工具10の内部構造を描いた図2および図3にて示されるように、モータケース12の内部には不図示の砥石を駆動するための駆動源となるモータ31が収納されており、このモータ31は、モータ軸32の軸心が略円筒状のモータケース12の軸心と略重畳するように配置されている。また、モータ軸32の前端部32aはモータケース12内からギアケース13内へと突出し、モータケース12とギアケース13とで挟まれた位置で固定された前部ベアリング17に支持されている。一方、モータ軸32の後端部32bは、モータケース12の後部において後部ベアリング18に支持されている。したがって、モータ軸32は、前後部のベアリング17,18により両端部32a,32bを支持されることで、高速回転できるように構成されている。
モータ軸32の前端部32aの側には、モータケース12内に収まるように冷却ファン19が設置されている。冷却ファン19は、モータケース12内に配置されることで、モータケース12の内部に冷却風を通す役割を果たしている。したがって、モータ軸32と共に冷却ファン19が回転すると、外気がモータケース12内に取り込まれ、モータケース12内の隙間を通ってモータ31等を冷却した後、機外に排出される。
ギアケース13内には、モータ軸32の前端部32aに固定される小傘歯車23と、この小傘歯車23に噛み合う大傘歯車24が収納されている。大傘歯車24は、ギアケース13内にベアリング25,26を介してモータ軸32の軸線方向に対して直交する方向で支持された駆動軸27に固定されており、この駆動軸27がギアケース13の外方に突出し、この突出箇所に対して不図示の砥石を着脱自在に固定することが可能となっている。これら小傘歯車23、大傘歯車24、駆動軸27等の部材が駆動力伝達手段として機能することにより、モータ31が回転すると、この回転駆動力がモータ軸32から小傘歯車23、大傘歯車24へと伝達され、最終的に駆動軸27を介して不図示の砥石が回転することになり、被加工対象物に対する研削加工が実行可能となる。
また、モータケース12の上方前端部には、スイッチボタン28が設置されている。このスイッチボタン28には、モータケース12内でモータケース12の前後方向(図1における紙面上下方向)に移動可能な操作アーム28aが接続されており、さらに、操作アーム28aにおけるスイッチボタン28との接続側とは逆側の端部には、スイッチ装置29が配置されている。したがって、操作者がスイッチボタン28を切り替え操作すると、その切り替え動作に応じて操作アーム28aがモータケース12内を前後方向に移動し、スイッチ装置29のオン・オフの切り替えを実行できるようになっている。例えば、操作者がスイッチボタン28を前方側にスライドさせると、操作アーム28aがスイッチ装置29のノブを押してスイッチ装置29をオン状態とし、操作者がスイッチボタン28を後方側にスライドさせると、操作アーム28aがスイッチ装置29のノブの押圧を解除してスイッチ装置29をオフ状態とすることができる。このように、操作者がスイッチボタン28を切り替え操作することによってスイッチ装置29のオン・オフが切り替わることで、モータ31が回転又は停止し、手持ち式電動工具10の操作を行うことが可能となっている。
さらに、モータケース12の内部後方位置には、モータ31の回転駆動を制御するための回路基板41が収納設置されている。本実施形態に係る回路基板41には、当該回路基板41の基板面に対して放熱のためのヒートシンク42が設置されている。図4に示すように、回路基板41の基板面には、発熱源となるスイッチング素子41a等の部材が設置されている。ヒートシンク42は、これら発熱源となるスイッチング素子41a等の部材を回路基板41と挟み込んだ状態で設置されている。また、ヒートシンク42は、当該ヒートシンク42の表面積を大きくするために設けられた放熱フィン42aを複数備えているので、この複数の放熱フィン42aの作用によって、スイッチング素子41a等の部材からの熱を放熱できるように構成されている。
なお、本実施形態に係る回路基板41には、スイッチング素子41a等の他に、様々な回路部材が組み込まれており、当該回路基板41とスイッチ装置29によって、本実施形態に係る制御部50が構成されている。
以上のような基本構成を備えることで、本実施形態に係る手持ち式電動工具10は、操作者がモータケース12を片手で把持し、手の指でスイッチボタン28を前方に動かしてスイッチ装置29をオン状態にすると、モータ31が回転し、モータ軸32から小傘歯車23、大傘歯車24へと動力が伝達され、不図示の砥石が回転する。これにより、被加工対象物に対して研削加工を行うことができる。このとき、モータ軸32の回転と同時に冷却ファン19が回転するので、外気がモータケース12内に取り込まれる。この外気が、モータケース12の内壁面とモータ31との間などの隙間を通ってモータ31やヒートシンク42などの発熱源を冷却した後、モータケース12内を通り抜けて機外に排出されるので、安全・安定した手持ち式電動工具10の動作が実現されている。研削作業が終了し、操作者がスイッチボタン28を後方に動かしてスイッチ装置29をオフ状態にすると、モータ31が停止し、不図示の砥石が回転を停止する。
以上、本実施形態に係る手持ち式電動工具10の基本構成について説明したが、本実施形態に係る手持ち式電動工具10は、さらなる有意な特徴を有している。そこで次に、図5および図6を用いて、本実施形態に係る手持ち式電動工具10の構成と動作をさらに説明する。
ここで、図5は、本実施形態に係る手持ち式電動工具の回路構成を模式的に示したブロック図である。また、図6は、本実施形態に係る手持ち式電動工具の電源をオフ状態とした際に実行されるソフトブレーキの動作状態を説明するためのタイムテーブル図である。
図5で示すように、本実施形態に係る手持ち式電動工具10では、駆動源であるモータ31と、このモータ31に対して電力を供給するための電源部であるバッテリパック14との間を接続するように制御部50が設置されている。制御部50は、バッテリパック14とモータ31の間に設置されてバッテリパック14からモータ31へ供給される電力のオン・オフを行うスイッチ装置29と、このスイッチ装置29と並列配置されるダイオード54と、を有して構成されている。ダイオード54は、整流作用(電流を一定方向にしか流さない作用)を持つ電子素子であり、例えば、スイッチ装置29がオフ状態となったときに制御回路中に発生した回線電流(電圧)を、モータ31側からバッテリパック14側への一方向だけに流すことを許容する部材として配置されている。
また、制御部50は、バッテリパック14の正極側および負極側とモータ31の複数の端子(U,V,W)との間にそれぞれ設けられた6個のスイッチング素子41aを有するインバータ回路52と、このインバータ回路52を構成する6個のスイッチング素子41aのオン・オフを制御することでモータ31に流れる電流をPWM(Pulse Width Modulation)制御する制御回路51と、を備えている。制御回路51は、6個のスイッチング素子41aのオン・オフを制御することでモータ31に流れる電流を制御できるように構成されており、例えばソフトブレーキなどの動作制御をモータ31に対して実行することが可能となっている。なお、図5では、6個のスイッチング素子41aの符号の末尾に括弧書きで番号が示されているが、この番号は、各スイッチング素子41aを構成するFETを識別するための固有番号である。
さらに、制御部50は、バッテリパック14とインバータ回路52との間に電圧・電流検知手段53を備えている。この電圧・電流検知手段53は、バッテリパック14の正極側と負極側のそれぞれに1つずつ、合計2個設置されており、これら2個の電圧・電流検知手段53は、いずれも制御回路51と接続して当該制御回路51に対して動作指令信号を送信可能となっている。例えば、制御回路51によるソフトブレーキの実行時に、電圧・電流検知手段53が、モータ31で発生した回生電流(電圧)がインバータ回路52内で所定以上の電圧・電流を示したと検知したとき、電圧・電流検知手段53は制御回路51に対してソフトブレーキの実行を停止するように指令することができる。
以上、図5を参照して本実施形態に係る手持ち式電動工具10の回路構成を説明した。次に、図6を参照して、本実施形態に係る手持ち式電動工具10にソフトブレーキを掛ける際の動作状態についての説明を行う。なお、図6では、最上段にスイッチ装置29によるスイッチ信号の様子、すなわち、スイッチ装置29のオン・オフ状態が示されている。また、スイッチ信号の下段には、スイッチ装置29のオン・オフ状態に応じたインバータ回路52における6個のスイッチング素子41aに対する制御回路51からのスイッチング素子制御信号の様子が示されている。
スイッチ信号がオン状態の時には、制御回路51がインバータ回路52を構成する6個のスイッチング素子41aに対して駆動信号を送信することで、モータ31に対してバッテリパック14からの電力が供給され、モータ31は回転駆動を行う。この状態からスイッチボタン28が操作されてスイッチ装置29(すなわち、スイッチ信号)がオフ状態となると、インバータ回路52を構成する6個のスイッチング素子41aは、制御回路51からの動作指令によりオフ状態とされる。このオフ状態の区間は、100msecという短い時間間隔で実行される。
100msecのオフ区間に続いて、制御回路51はインバータ回路52に対してソフトブレーキ信号を送信する。ソフトブレーキ信号によってインバータ回路52を構成する6個のスイッチング素子41aのうちの2番、4番、6番のスイッチング素子41a(2),41a(4),41a(6)を同時にオン・オフさせることを繰り返すことで、モータ31にソフトブレーキを掛ける。このソフトブレーキは、1000msecの時間間隔で実行される。
そして、ソフトブレーキが行われると、モータ31からは回生電流(電圧)が発生する。この回生電流(電圧)は、2個の電圧・電流検知手段53によって、その電圧値・電流値が常時監視されている。2個の電圧・電流検知手段53によって検出された回生電流(電圧)の電圧値・電流値が所定値より小さい場合には、スイッチ装置29と並列配置されたダイオード54を用いてバッテリパック14側に回生電流(電圧)を流し、バッテリパック14の充電が行われる。また、ソフトブレーキの実行も継続される。
一方、例えば、バッテリパック14が過充電状態だったり、バッテリパック14が外れたりなどして回生電流(電圧)の逃げ場が無くなったりした場合、あるいは回転工具(先端工具)である円盤状の砥石(不図示)の質量が大きいために過剰な回生電流(電圧)が発生した場合などといった通常動作以外の突発的な事態が発生した場合、回生電流(電圧)の電圧値・電流値は所定値以上となる。そして、2個の電圧・電流検知手段53によって検出された回生電流(電圧)の電圧値・電流値が所定値以上であった場合には、異常値を検出した電圧・電流検知手段53から制御回路51に対して異常値検出の信号が発信され、当該信号を受信した制御回路51は、ソフトブレーキの実行を停止するために、6個のスイッチング素子41aの全てをオフ状態とするように動作指令する。かかるソフトブレーキの停止動作指令によって、ソフトブレーキ動作は直ちに停止されるので、過剰な回生電流(電圧)から制御部50等を保護することが可能となる。
なお、本実施形態に係る手持ち式電動工具10では、上述した制御回路51によるソフトブレーキの実行中にバッテリパック14を喪失した場合にも、電圧・電流検知手段53によるインバータ回路52内での回生電流(電圧)の検知と、電圧・電流検知手段53がモータ31で発生する回生電流(電圧)によりインバータ回路52内で所定以上の電圧・電流を検知した場合に、制御回路51によるソフトブレーキの実行を停止する動作を継続することが可能となっている。かかる動作は、本実施形態に係る手持ち式電動工具10の回路構成により実現されるものであり、インバータ回路52等の機器の破損を防止可能となっている。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されない。上記実施形態には、多様な変更又は改良を加えることが可能である。
例えば、上述した実施形態では、本発明を手持ち式電動工具10に適用した場合を例示したが、本発明については、ハンドドリルや丸鋸等といった、あらゆる形式の電動工具に対して適用することが可能である。
その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。