JP2019116577A - 筆記具用水性インキ組成物、およびそれを用いた筆記具 - Google Patents
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Description
本発明の第一の態様による筆記具用水性インキ組成物(以下、インキ組成物ということがある)は、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子と、着色剤と、アルキル硫酸塩と、水と、を含んでなり、pH値が6〜10であるものである。
以下、これらのインキ組成物について詳細に説明する。
本発明による第一のインキ組成物は、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子を含んでなる。この樹脂粒子は、着色前は無色であるが、そのままインキ組成物に配合すると、インキ組成物に白色性をもたらす着色効果がある。また、本発明者らの検討によれば、着色剤と組み合わせて用いた場合には、着色剤とともにインキ組成物の色彩を調整する、着色助剤としての機能を有していることがわかった。この結果、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子はインキ組成物に優れた発色性をもたらす。
本発明の第一のインキ組成物における着色剤は、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子とともにインキ組成物の色彩を調整するものである。この着色剤は、インキ組成物中で独立して色彩に寄与する他、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子との組み合わせによって調整された発色をしたり、インキ組成物中でスチレン−アクリロニトリル樹脂粒子に吸着または浸透して、着色された粒子を形成することもある。
本発明による第二のインキ組成物は、着色剤によって着色されたスチレン−アクリロニトリル樹脂粒子(以下、単に着色済樹脂粒子ということがある)を含んでなる。この着色済樹脂粒子は、前記したスチレン−アクリロニトリル樹脂粒子が、前記した着色剤によって着色されたものであることが好ましい。このような着色済樹脂粒子を用いることで、インキ組成物の発色性をさらに向上することができる。これは、前記スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子は、透明度が高いので、着色剤により所望の色に着色することができ、多彩な色彩を表現できる発色性に優れた着色済樹脂粒子とすることができるためである。また、着色済樹脂粒子を用いた場合、着色剤とスチレン−アクリロニトリル樹脂粒子をそれぞれ個別に用いる場合に比べて、アルキル硫酸塩の分散効果が効率良く得られ、分散安定性に優れたインキ組成物を得ることができる。このため、第一のインキ組成物におけるスチレン−アクリロニトリル樹脂粒子と着色剤の組み合わせに変えて、着色済樹脂粒子を用いることが好ましい。
本発明によるインキ組成物に用いられるアルキル硫酸塩は、アルキル硫酸、またはアルキル硫酸を塩基で中和した塩である。本発明においては、アルキル硫酸も便宜的にアルキル硫酸塩のひとつとする。本発明によるインキ組成物において、前記アルキル硫酸塩は分散剤として働き、主溶媒である水に不溶な状態で存在し得る成分を均一に分散させることができる。前記アルキル硫酸塩は、特に、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子に対し、優れた分散効果を発揮する。
よって、本発明において、特に好ましく用いられるアルキル硫酸塩としては、ラウリル硫酸塩であり、さらには、ラウリル硫酸トリエタノールアミンである。
また、本発明のインキ組成物は、リン酸エステル系界面活性剤を含んでなることが好ましい。この界面活性剤は、インキ組成物の分散性などを改良する効果の他、インキ組成物をボールペンに用いる場合、潤滑剤としても作用する。潤滑剤は、ボールペンが有するボールとボールペンチップの間の潤滑性を向上して、ボールの回転をスムーズにすることで、ボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上するものである。本発明において用いられる、リン酸基を有するリン酸エステル系界面活性剤は、リン酸基は金属に吸着しやすい性質にあることから、潤滑性を向上させ、ボール座の摩耗抑制や書き味を向上させやすい。このため、本発明のインキ組成物をボールペンに適用する場合に、特に優れた書き味を実現できる。しかしながら、この界面活性剤は、潤滑性だけでは無く、分散性の改良にも寄与しているため、インキ組成物をボールペン以外の筆記具に利用する場合にも有効に作用する。
水としては、特に制限なく、例えば、イオン交換水、蒸留水、および水道水などの慣用の水を用いることができる。
本発明によるインキ組成物は、必要に応じて任意の添加剤を含むことができる。用いることができる添加剤について説明すると以下の通りである。
インキが樹脂粒子や顔料などの主溶媒である水に不溶な状態で存在し得る成分を含んでなる場合、そのインキを内包する筆記具のペン先などで水が蒸発し、インキが乾燥固化してインキ流路などが詰まってしまうことがある。このような現象が起きると、後から追従されるインキによりこの詰まりを解消することは難しく、その筆記具はインキの残量はあるものの、再び筆記できなくなることがある。このため、耐ドライアップ性能を向上させることが好ましい。本発明においては、インキ組成物に水溶性有機溶剤を添加することで、耐ドライアップ性能を向上させることができるため、水溶性有機溶剤の使用が好ましい。用いることができる水溶性有機溶剤は、多価アルコール類、グリコールエーテル類などが挙げられるが、それらの中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類を選択して用いることが好ましい。これらの溶剤は、インキ組成物の分散安定性に大きく影響を及ぼすことなく、多価アルコール類の吸湿効果をインキ組成物に付与することができ、耐ドライアップ性能を向上できるためである。
前述の通り、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子や顔料などの主溶媒である水に不溶な状態で存在し得る成分を含んでなる場合、例えばボールペンのチップ先端における耐ドライアップ性能の向上も考慮する必要がある。前記デキストリンは、ペン先に被膜を形成してその被膜によってインキ中の溶媒の蒸発を防ぐ効果を持つ。このため、デキストリンを用いることは、耐ドライアップ性能に優れたインキ組成物を得ることができるため効果的である。特に、良好な発色性を得られやすくするために、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子の含有率が高い場合は、インキ中の総固形分含有率も高くなり、チップ先端における耐ドライアップ性能が低下する傾向にあるため、デキストリンを用いることが好ましい。そして、デキストリンは、適度な湿潤効果をもつことから分散助剤として働き、アルキル硫酸塩との組み合わせによって、分散性を向上させやすくする作用も有することから、アルキル硫酸塩とデキストリンを組み合わせることは効果的である。尚、デキストリンは、数個のα−グルコースが、グリコシド結合によって重合した物質の総称で、食物繊維の一種であり、デンプンの加水分解などにより得られる。
アルキル硫酸塩と、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子と、着色剤とを含んでなる本発明のインキ組成物は、分散安定性に特に優れているため、インキ流動性が高くなり、ペン先からインキ漏れが生じる可能性が高い傾向にある。このため、本発明においては、ペン先インキ漏れ抑制効果の高い、オレフィン系樹脂粒子、ベンゾグアナミン・ホルムアルデヒド樹脂粒子の樹脂粒子を用いることが好ましい。
pH調整剤としては、アンモニア、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの塩基性無機化合物、酢酸ナトリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの塩基性有機化合物、乳酸およびクエン酸などが挙げられるが、本発明において、アルキル硫酸塩との相性、さらにインキ組成物の経時安定性を考慮すれば、塩基性有機化合物を用いることが好ましく、より考慮すれば、弱塩基性であるトリエタノールアミンを用いることが好ましい。これらのpH調整剤は単独又は2種以上混合して使用してもかまわない。
これらの剪断減粘性付与剤は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
本発明によるインキ組成物のpHは6〜10である。これは、pH値が6未満の酸性側に近づくと、インキ組成物の経時安定性が劣化することがあり、また、本発明のインキ組成物をボールペンや万年筆などに用いた場合にはインキ組成物が接触する金属部材の腐食がおこりやすく、また、pH値が10を超えて強アルカリ側に近づくと、インキ組成物の褪色や変色が起きやすい傾向があり、良好な筆跡が得られ難いためである。また、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子が着色剤で着色され、スチレン−アクリロニトリル着色済樹脂粒子として用いられる場合、インキ組成物の経時安定性や、発色良好で線とびやかすれなどが改善された良好な筆跡が得られるなど筆記性の向上を特に考慮すると、pH値は7〜9であることが好ましい。なお、本発明において、pH値は、IM−40S型pHメーターを用いて、20℃にて測定した値を示すものである。
尚、本発明による第一のインキ組成物の調製方法は、特に限定されるものではないが、着色剤と、スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子と、アルキル硫酸塩と、水と、必要に応じてその他の成分を添加して、インキ組成物とすることが好ましい。このとき、混合順序は特に限定されない。
本発明の筆記具用水性インキ組成物を充填する筆記具の構造、形状は特に限定されるものではなく、従来より汎用なものが適用でき繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップまたはボールペンチップなどをペン先としたマーキングペンやボールペン、金属製のペン先を用いた万年筆などの各種筆記具に用いることができる。
なお、インキ消費量については、20℃、筆記用紙JIS P3201筆記用紙上に筆記角度65°、筆記荷重100gの条件にて、筆記速度4m/分の速度で、試験サンプル5本を用いて、らせん筆記試験を行い、その100mあたりのインキ消費量の平均値を、100mあたりのインキ消費量と定義する。また、ボール径については、特に限定されないが、一般に0.1〜2.0(mm)程度のボールを用いる。
下記の配合組成および方法により実施例1の水性ボールペン用インキ組成物を得た。
・スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子(平均粒子径0.4μm) 20質量%
・アルキル硫酸塩(ラウリル硫酸トリエタノールアミン) 1.0質量%
・着色剤 0.5質量%
(顔料:ピグメントブルー15:3)
・デキストリン 1.0質量%
・インキ粘度調整剤 0.4質量%
(剪断減粘性付与剤、サクシノグリカン)
・潤滑剤 1.0質量%
(リン酸エステル系界面活性剤(プライサーフA215C、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、HLB値:11.5))
・防錆剤 0.5質量%
(ベンゾトリアゾール)
・防腐剤 0.1質量%
(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)
・pH調整剤 2.25質量%
(トリエタノールアミン)
・水溶性有機溶剤 14.0質量%
(エチレングリコール)
・水溶性有機溶剤 4.0質量%
(グリセリン)
・水 残部
表1に示す通りに原料を配合して、着色済樹脂粒子分散体1〜8を調整した。
上記で得られた着色済樹脂粒子分散体1〜8を用いて、表2に示す通りに原料を配合して実施例2〜19、比較例1〜4のインキ組成物を作製した。
実施例1〜実施例19、比較例1〜比較例4のインキ組成物を直径15mmの密開閉ガラス試験管に入れて、50℃、30日間放置し、該インキ組成物の状態を光学顕微鏡を用いて観察した。
A:凝集体が確認されず、均一に分散されている良好な状態。
B:凝集体がわずかに確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
C:凝集体が確認され、実用上懸念の残るレベルの分散状態であった。
D:凝集体の沈降が見られた。
実施例1〜実施例19、比較例1〜比較例4のインキ組成物(1.0g)を、直径0.7mmの超硬合金製ボールを回転自在に抱持したボールペンチップ(ボールの縦軸方向の移動量(クリアランス)30μm)を先端に有するインキ収容体の内部に充填させたレフィルを作製し、このレフィルを(株)パイロットコーポレーション製のゲルインキボールペン(商品名:G−2)に装着し、ボールペンを得た。
得られたボールペンを試験用ボールペンとし、以下の試験および評価を行った。
筆記可能であることを確認した試験用ボールペンを用いて、手書きで、試験用紙(JIS P3201、筆記用紙A)に螺旋状の丸を連続筆記し、得られた筆跡の状況を目視にて確認し、下記評価基準で筆記性能を評価した。結果は表2にまとめたとおりであった。
A+:筆跡は発色良好で線とびやカスレなどない、良好な筆跡が得られた。
A:筆跡に線とびやカスレが極わずかに確認されたが、発色良好な筆跡が得られた。
B:筆跡に線とびやカスレがわずかに確認されたが、発色良好な筆跡が得られた。
C:筆跡に線とびやカスレが確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
D:筆跡に線とびやカスレが多数確認されたり、良好な筆跡が得られなかったり、筆記不能となるものも見られた。
筆記性能試験に用いた試験用ボールペンを、ペン先を下にした状態で、50℃、80日間放置した後、手書きで、試験用紙(JIS P3201、筆記用紙A)に螺旋状の丸を連続筆記し、得られた筆跡の状況を目視にて確認し、下記評価基準で筆記性能を評価した。結果は表2にまとめたとおりであった。
A+:筆跡は発色良好で線とびやカスレなどない、良好な筆跡が得られた。
A:筆跡に線とびやカスレが極わずかに確認されたが、発色良好な筆跡が得られた。
B:筆跡に線とびやカスレがわずかに確認されたが、発色良好な筆跡が得られた。
C:筆跡に線とびやカスレが確認されたが、実用上問題のないレベルであった。
D:筆跡に線とびやカスレが多数確認されたり、良好な筆跡が得られなかったり、筆記不能となるものも見られた。
(2) サンデックシリーズ、三和澱粉工業株式会社製、
(3)三晶株式会社製、
(4) プライサーフA215C、第一工業製薬株式会社製、 ポリオキシエチレントリデシルエーテルリン酸エステル、HLB値:11.5
(5) プライサーフAL、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテルリン酸エステル、HLB値:5
(6) プライサーフA208F、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンアルキル(C8)エーテルリン酸エステル、HLB値:8.7
(7) プライサーフA208N、第一工業製薬株式会社製、ポリオキシエチレンアルキル(C12,13)エーテルリン酸エステル、HLB値:7
(8)エポスターM05、株式会社日本触媒製、平均粒子径5μm
下記の配合組成および方法により実施例1のインキ組成物を得た。
・着色済樹脂粒子分散体1 45.0質量%
・浸透剤 1.0質量%
(ニッコールPBC−34)
・防腐剤 0.1質量%
(1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン)
・水溶性有機溶剤 20.0質量%
(グリセリン)
・水 残部
着色済樹脂粒子分散体1と、浸透剤と、防腐剤と、水溶性有機溶剤を添加し、プロペラ撹拌により混合してインキ組成物を得た。得られたインキ組成物をIM−40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃におけるインキ組成物のpH値を測定した結果、pH値は8.3であった。
実施例20の配合組成のうち、着色済樹脂粒子分散体1を着色済樹脂粒子分散体8に変更した以外は、実施例20と同じ方法で比較例5のインキ組成物を得た。得られたインキ組成物をIM−40S型pHメーター(東亜ディーケーケー株式会社製)を用いて、20℃におけるインキ組成物のpH値を測定した結果、pH値は8.1であった。
Claims (9)
- スチレン−アクリロニトリル樹脂粒子と、着色剤と、アルキル硫酸塩と、水と、を含んでなる筆記具用水性インキ組成物であって、前記インキ組成物のpH値が6〜10であることを特徴とする、インキ組成物。
- 前記アルキル硫酸塩のアルキル基の炭素数が6〜20である、請求項1に記載のインキ組成物。
- キレート剤を含まないか、または組成物の総質量を基準として、0.5質量%以下のキレート剤を含んでなる、請求項1または2に記載のインキ組成物。
- ポリオキシアルキレンアリールエーテルを含まないか、または組成物の総質量を基準として、0.5質量%以下のポリオキシアルキレンアリールエーテルを含んでなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載のインキ組成物。
- デキストリンをさらに含んでなる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のインキ組成物。
- リン酸エステル系界面活性剤をさらに含んでなる、請求項1〜5のいずれか1項に記載のインキ組成物。
- 着色剤によって着色されたスチレン−アクリロニトリル樹脂粒子と、アルキル硫酸塩と、水と、を含んでなる筆記具用水性インキ組成物であって、前記インキ組成物のpH値が6〜10であることを特徴とする、インキ組成物。
- 前記着色剤または前記着色剤とは異なる別の着色剤をさらに含んでなる、請求項7に記載のインキ組成物。
- 請求項1〜8のいずれか一項に記載のインキ組成物を収容してなることを特徴とする、筆記具。
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