JP2007177084A - 筆記具用水性インキ組成物 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 少なくとも着色剤と水を含有する筆記具用インキ組成物において、平均重合度が1〜10のグリセリンに、40〜120モルのアルキレンオキサイドが付加された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸エステルの硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩の少なくとも1種をインキ組成物全量に対して、0.1〜30重量%含有することを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。
【選択図】なし
Description
特に、ボールペンのようなボールとチップホルダー間の金属潤滑性を必要とするような仕様である場合、界面活性剤の添加は必須である。
また、金属潤滑性を必要としないマーキングペンのような機構の場合でも、着色剤として使用する染着エマルジョンなどに吸着した乳化剤の影響で筆記描線が滲むなどの課題がある。
また、筆跡がにじみにくく、十分な潤滑性を有し、快適な筆記感を与えるに、ポリグリセリンのアルキレンオキサイド付加物、グリセリンにアルキレンオキサイドが1〜150モル付加したグリセリンのアルキレンオキサイド付加物及びトリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド付加物からなる群及びこれらの混合物から選ばれた少なくとも1種の多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物、顔料、分散剤及び水を含有することを特徴とする水性ボールペン用顔料インキ組成物(例えば、特許文献2参照)や、初期分散性、保存安定性に優れた水性インク又は水性塗料用顔料分散剤として、平均重合度が2〜10のポリグリセリンとアルキレンオキサイド(2〜150モル)及び炭素数が4〜24の直鎖状若しくは分岐状の飽和若しくは不飽和の脂肪酸又は芳香族カルボン酸を反応して得られる生成物からなり、HLBが12〜19の範囲からなる、特に、インクジェット記録用顔料インクとしてときの吐出特性、印字特性に優れた顔料分散剤(例えば、特許文献3参照)が知られている。
また、上記特許文献2に記載される水性ボールペン用顔料インキ組成物は、潤滑性向上等を目的としているが、未だ書き味、非滲み性及び描線乾燥性の点で劣るものであり、しかも、上記疎水基としての脂肪酸が結合していない多価アルコールのアルキレンオキサイド付加物と本願発明のアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルとはその物性及び作用効果が異なるものである。
更に、上記特許文献3に記載される顔料分散剤は、初期の顔料分散性を向上させるものであるが、未だ長期保存安定性において劣るものであり、滲み、書き味、描線乾燥性に優れると共に、長期保存安定性にも優れる筆記具用水性インキ組成物の出現が切望されているのが現状である。
(1) 少なくとも着色剤と水を含有する筆記具用インキ組成物において、平均重合度が1〜10のグリセリンに、40〜120モルのアルキレンオキサイドが付加された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸エステルの硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩の少なくとも1種をインキ組成物全量に対して、0.1〜30重量%含有することを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。
(2) グリセリン誘導体の脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸の1モルあたりの炭素数が4〜25である上記(1)記載の筆記具用水性インキ組成物。
(3) グリセリン誘導体のエステル化された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸は、該グリセリン誘導体1モルに対して1〜5モルである上記(1)又は(2)記載の筆記具用水性インキ組成物。
(4) グリセリン誘導体のアルキレンオキサイドがエチレンオキサイドである上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の筆記具用水性インキ組成物。
(5) 上記(1)〜(4)の何れか一つに記載の筆記具用水性インキ組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。
本発明の筆記具用インキ組成物は、少なくとも着色剤と水を含有する筆記具用インキ組成物において、平均重合度が1〜10のグリセリンに、40〜120モルのアルキレンオキサイドが付加された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸エステルの硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩の少なくとも1種をインキ組成物全量に対して、0.1〜30重量%含有することを特徴とするものである。
このアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルは、重合度が1〜10であるポリグリセリンと40〜120モルのアルキレンオキサイド及びカルボン酸含有物を反応させると共に、アニオン基を導入することにより得られるものである。
このアルキレンオキサイドの付加モル数は、ポリグリセリン1モルに対して、40〜120モルが好ましく、更に好ましくは、60〜110モルが望ましい。
この付加モル数が40モル未満であると、非滲み性が低下すると共に、アルキレンオキサイドによる充分な紙面の膨潤作用が発現されないため、書き味の飛躍的な向上が見込めず、また、顔料インキに用いる場合、分散性が低下することとなる。
一方、付加モル数が120モルを超えると、インキ粘度が上昇するため、特に低粘度インキを設計する場合、含有量を少なくする必要があり、目的の書き味、非滲み性が発揮できないこととなる。また、顔料インキに使用する場合、顔料分散安定性を確保するために多量の添加が必要となり、インキ粘度上昇が避けられなくなる。更に、インキに剪断減粘性を付与する場合は、低粘度インキを作製する場合と比較して、適正粘度領域が広いものの、一定の粘度上昇は避けられないため、結果として粘度付与剤の含有量を減らすこととなり、特に顔料インキに含有する場合、経時にて顔料が沈降することとなる。
用いる脂肪酸は、直鎖状又は分岐状、または、飽和若しくは不飽和の何れの脂肪酸であってもよく、本発明の効果の更なる向上の点から、炭素数4〜25である脂肪酸が好ましく、更に好ましくは、炭素数8〜20である脂肪酸が望ましく、例えば、カプリン酸、ラウリン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ヒドロキシステアリン酸、オレイン酸などが挙げられる。
芳香族カルボン酸としては、安息香酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、また、アルキル、ハロゲン、アルコキシなどの置換基を有するものであってもよいものである。
なお、炭素数4未満の脂肪酸である場合、相対的に分子中に占める親水性度が高くなって、描線乾燥性が低下することがあり、また、顔料インキに含有する場合、顔料吸着能力が低下するため顔料分散性が低下することがある。一方、炭素数が25を超える脂肪酸であると、アルキレンオキサイドの付加モル数と同様に、インキ粘度が上昇し、インキ粘度設計上制約が生じることとなる。
このグリセリン誘導体のエステル化された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸がグリセリン誘導体1モルに対して1モル未満では、一分子中の疎水基が不足して十分な顔料分散性が得られず、また、相対的に親水性が高くなるため、描線乾燥性が低下する。一方、5モルを越えると、親水性が低下するため、紙面の膨潤作用が十分でなく、書き味が損なわれることとなる。
塩基成分は、無機塩、有機塩を区別なく使用することができる。例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニア、各種アルキルアミンなどが挙げられる、これらのうち、安定性、安全性、取り扱い性等の面からナトリウム、トリエタノールアミンが好ましい。
これらの中で、本願の各目的を効果的に発現させる点から、ジグリセリン若しくはトリグリセリンに、エチレンオキサイドが60〜100モル付加され、ステアリン酸、パルミチン酸、オレイン酸、ラウリン酸、べヘン酸から選ばれる脂肪酸が1〜2モル結合した硫酸塩の使用が望ましい。
この含有量が0.1重量%未満であると、本願発明の目的が達成されず、一方、30%を越えると、ニュートン性インキの場合、粘度が高くなり目標粘度に設定できない。また、非ニュートンインキの場合、目標粘度に設定する際、非ニュートン性付与剤の含有量を制限する必要があり、結果としてネットワーク構造が強固なものにならず、顔料沈降等の問題が発生することとなる。
油溶性染料を用いる場合は、ビヒクル中に有機溶剤を溶解させることで染料の溶解性を向上させることが可能となる。
無機系顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、金属粉などが挙げられ、また、有機系顔料としては、例えばアゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、二トロ顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。
具体的にはフタロシアニンブルー(C.I.74160)、フタロシアニングリーン(
C.I.74260)、ハンザイエロー3G(C.I.11670)、ジスアゾエローG
R(C.I.21100)、ナフトールレッド(C.Iトレッド12390)、パーマネ
ンレッド4R(C.I.12335)、ブリリアントカーミン6B(C.I.15850
)、キナクリドンレッド(C.I.46500)などが使用できる。
直接染料の一例を以下に記載する。C.I.ダイレクトブラック17、同19同22、
同32、同38、同51、同71、C.I.ダイレクトエロー4、同26、同44、同5
0、C.I.ダイレクトレッド1、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同
80、同81、同83、同225、同226、同227、C.I.ダイレクトブルー1、
同15、同71、同86、同106、同119等が挙げられる。
6、同31、同52、同107、同109、同110、同119、同154、C.I.ア
シッドエロー7、同17、同19、同23、同25、同29、同38、同42、同49、同61、同72、同78、同110、同141、同127、同135、同142、C.I
.アシッドレッド8、同9、同14、同18同26、同27、同35、同37、同51、同52、同57、同82、同87、同92、同94、同111、同129、同131、同138、同186、同249、同254、同265、同276、C.I.アシッドバイオ
レッド15、同17、C.I.アシッドブルー1、同7、同9、同15、同22、同23
、同25同40、同41、同43、同62、同78、同83、同90、同93、同103同112、同113、同158、C.I.アシッドグリーン3、同9、同16、同25、
同27等が挙げられる。
塩基性染料の一例を以下に記載する。C・I・ベーシックエロー1、同2、同21、C
.I.ベーシックオレンジ2、同14、同32、C.I.ベーシックレッド1、同2、同
9、同14、C.I.ベーシックバイオレット1、同3、同7、C.I.ベーシックグリ
ーン4、C.I.ベーシックブラウン12、C.Iベーシックブラック2、同8等が挙げ
られる。
OB−B、BASE OF BASIC DYES RO6G−B、BASE OF BASIC DYES VB−B、BASE OF BASIC DYES VPB−B、BASE OF BASIC DYES MVB−3(以上、オリエント化学工業社製)、アイゼンスピロンブラック GMH−スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C−RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C−RH、アイゼンスピロンレッドC−GH、アイゼンスピロンレッド C−BH、アイゼンスピロンイエロー C−GNH、アイゼンスピロンイエロー C−2GH、S.P.T レッド522、S.P.T ブルー111、S.P.Tブルー GLSHスペシャル、S.P.T レッド533、S.P.T オレンジ6、S.B.N バイオレット510、S.B.N イエロー510、S.B.N イエロー530(以上、保土谷化学工業社製)等が挙げられる。
これらの着色剤は、それぞれ単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
この着色剤の含有量が30重量%越えると、長期に保存した場合、顔料が凝集してしまったり、染料が析出したりしてペン先に詰まり、筆記不良を起こすこととなり、また、0.05重量%未満では、着色が弱くなり、紙に書いた時の色相が分からなくなってしまうので好ましくない。
インキ組成物のpHを上記範囲に調製するのは、筆記具が、例えば、ボールペンの場合、金属ボールペンチップの防錆とともに、顔料の分散に使用する分散剤の凝集や着色剤として使用する酸性染料の未溶解を防ぐためである。例えば、通常、ボールペンチップはボールとホルダーにより構成されており、少なくともこれらの一部が金属で構成されている場合には、錆に対する配慮が必要であり、本発明のような水性インキの場合は防錆対策は必須条件となる。例えば、ボールペンチップ材料として一般的なタングステンカーバイトを用いる場合には、上記範囲内であれば、コバルトやタングステンの溶出による筆記性能への悪影響が生じないので好ましい。
例えば、本発明のインキ組成物を粘度が1〜10mPa・s(25℃)程度の低粘度インキとして後述する直留直液方式の筆記具に使用する場合には、ペン体の品質を維持するために、インキの表面張力が約35〜約45mN/mに調整されることが好ましく、より好ましくは約37〜約42mN/m、特に望ましくは約38〜約40mN/mであり、また、同様の粘度で後記する中綿方式の筆記具に使用する場合は、ペン体の品質を維持するためにインキの表面張力は約25〜約40mN/mに調整されることが好ましく、より好ましくは約27〜約38mN/m、特に望ましくは約30〜約36mN/mである。
以上の各方式の筆記具においてインキの表面張力がそれぞれ上記の好ましい範囲を下回ると、筆記描線が滲みやすくなったり、ペン体品質に悪影響(インキの直流・吹き出し等)を生じることがあり、それぞれ上記の好ましい範囲を越えると、ペンの書き味や流量安定性が低下することがある。
一方、本発明のインキ組成物に擬塑性を付加させ、せん断速度3.84s-1における粘度が100〜4000mPa・s(25℃)程度の中粘度インキとする場合またはニュートン粘性インキで粘度が10〜100mPa・s(25℃)の場合には、表面張力を約16〜約38mN/mの範囲となるように調整することが好ましく、より好ましくは約17〜約35mN/m、特に望ましくは約20〜約33mN/mである。
表面張力が16mN/m未満では、直流現象を起こしやすく、また顔料の沈降や凝集を起こしやすくなってしまう。一方、38mN/mを越えると、ボテ現象や、線割れ現象を起こしやすく、更に保存環境や筆記状態によってインキ流出量が不安定になり、描線の濃度や幅にバラツキを生じやすくなってしまうことがある。
これらの水溶性有機溶剤の含有量は、インキ組成物全量に対して、通常40重量%以下、好ましくは5〜40重量%の範囲とすることが望ましい。この水溶性有機溶剤の含有量が40重量%を越えると、描線が乾きづらくなり、好ましくない。
これらの保湿剤は、夫々単独で用いてもよく、また、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
これらの糖類、尿素誘導体等の保湿剤の含有量は、インキ組成物全量に対して、0.1〜30重量%、好ましくは、0.15〜15重量%、更に好ましくは、0.25〜10重量%とすることが望ましい。この保湿剤の含有量が0.1重量%未満であると、保湿剤としての効果が発揮されず、一方、30重量%を越えると、インキ粘度増加、描線乾燥性の低下を招くこととなる。
潤滑剤としては、例えば、リシノール酸カリウム、リシノール酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウムなどの脂肪酸塩、その他、以下に示すノニオン系、アニオン系、両性界面活性剤を挙げることができる。これらの含有量は、特に低粘度インキ(10mPa・s程度)の場合は、非滲み性の観点から、インキ組成物全量に対して、0.01〜2.0重量%が好ましく、より好ましくは0.05〜1.5重量%、特に望ましくは0.1〜1.2重量%とすることが望ましく、非ニュートン粘性で100〜4000mPa・s(せん断速度3.84s-1の場合)の際は、その粘度効果より含有量を制限しなくともよい。
両性界面活性剤としては、例えば、アルキルベタイン系、アルキルイミダゾリウムベタイン系、その他アミノカルボン酸系界面活性剤などが挙げられる。
無機系増粘剤としては、例えば、スメクタイト、ベントナイト、ケイソウ土等の粘土類、二酸化珪素等の微少粒体等が挙げられる。
これらの増粘剤の含有量は、インキの粘度値により適宜増減される。
これらの中でも、特に多糖類との併用によって好ましい相互作用効果が得られる。特に、キサンタンガム若しくはダイユータンガムとの併用が優れた効果が得られる。
これらとの組み合わせが優れている理由は明確ではないが、多糖類の有するOH基との相互作用や特有の立体構造との相互作用が有効に働くものと推察される。
例えば、インキ収容管に、ステンレス、真鍮及び洋白のような金属材質からなる群から選ばれた少なくとも一種からなる材質のチップホルダーおよび超硬合金・ジルコニア・炭化珪素、ステンレス鋼球からなる群から選ばれた少なくとも一種からなる材質のボールを有するペン先を具備するボールペン、ペン先に金属片、プラスチック片を具備し、金属間、プラスチック間の毛細管力によりインキを誘導する万年筆などが挙げられる。
また、直液方式の筆記具には2種類あり、インキを直接貯溜するインキタンク、該インキタンク内の空気が温度上昇などによって膨張した場合インキタンクから押し出されるインキをペン先(またはペン芯)や空気孔からボタ落ちさせないために一時的に保留するインキ保留体、ボール、チップホルダーからなるペン先または樹脂製合成繊維を円筒形に収束形成したペン芯、金属・プラスチック片をペン先とする万年筆ペン先などからから構成されるもの(以下、直留方式と称す)と、インキを直接貯溜するチューブ、ボール、チップホルダーからなるペン先または樹脂製合成繊維を円筒形に収束形成したペン芯、金属・プラスチック片をペン先とする万年筆ペン先などからから構成されるもの(以下、貯留方式と称す)が挙げられる。
本発明に用いる平均重合度が1〜10のグリセリンに、40〜120モルのアルキレンオキサイドが付加された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸エステルの硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩の少なくとも1種は、まず第1に筆記具の書き味を向上させることが可能となる。例えば、ボールペンの場合、書き味に影響するファクターとして、ボールとチップホルダーとの潤滑性及び紙とボールとの潤滑性が大きく寄与している。通常、ボール・チップホルダー間の潤滑性を期待するので有れば含有量を多くする必要があるが、紙とボールの潤滑性で有ればさほどその量を必要としない。また、ペン芯を装着したマーキングペンや万年筆の場合、紙とインキ吐出部の潤滑性が大きく寄与するため、同様な効果が期待できる。紙とボール(またはペン芯など)との潤滑性メカニズムは定かではないが、分子中のアルキレンオキサイド鎖が水を水和し、その分子が紙面に吐出された際、セルロース繊維間の水素結合力を低下させ、紙自身を柔らかくし、ボールとの潤滑性を向上させると予測される。
本発明において、非滲み性のメカニズムの詳細は明確ではないが、以下のように推察される。すなわち、本発明のアルキレンオキサイド付加グリセリンエステル分子中に存在するアルキレンオキサイド鎖長は、一般的な低分子の界面活性剤に存在するアルキレンオキサイドの鎖長と比較して長い(付加モル数が多い)ことが特徴的である。
このアルキレンオキサイドは、インキ中の水分子と水和しやすい性質、言い換えると、水成分を抱き込みやすい性質を有している。このため、筆記後の紙面上におけるインキの広がりを抑制し、結果として滲みを防止するものと推測される。
一方、筆記具用水性インキで使用される界面活性剤は、顔料等の分散や書き味の向上等を目的として使用されるが、その効果を得るには一定量の添加が必要となる。界面活性剤は、界面張力を低下させる性質を有しているので、添加量が増加すると、滲み性は一層悪くなる方向に作用する。つまり、非滲み性、滑らかな書き味向上を同時に満足するのは困難である。
これに対して、本発明の物質は、滲みが発生しにくい性質を有しているため、比較的多量に添加することが可能であり、非滲み性と滑らかな書き味を同時に満足することが可能となる。
用いるアルキレンオキサイド付加グリセリンエステルの硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩としては、下記A〜Kを用いた。
A:ジグリセリンEO(60)パルミチル(1)リン酸ナトリウム
B:トリグリセリンEO(80)ラウリル(1)カルボン酸のトリエタノールアミン塩
C:ジグリセリンEO(100)べヘル(2)硫酸ナトリウム
D:トリグリセリンEO(100)パルミチル(2)硫酸ナトリウム
E:ジグリセリンEO(90)安息香酸(2)リン酸ナトリウム
F:ジグリセリンEO(110)ステアリル(1)カルボン酸ナトリウム
G:トリグリセリンEO(40)ステアリル(2)リン酸ナトリウム
H:グリセリンEO(40)ステアリル(1)硫酸ナトリウム
I:デカグリセリンEO(85)ラウリル(4)硫酸のトリエタノールアミン塩
J:ジグリセリンEO(60)パルミチル(5)リン酸ナトリウム
K:トリグリセリンPO(80)ラウリル(1)ホウ酸ナトリウム
得られた各筆記具用水性インキ組成物について、下記測定方法により、インキ粘度、pHを測定した。
(1)直液直留方式ボールペン(三菱鉛筆社製、UB−157、ボール径φ0.7mm)
実施例1,2,8,12、比較例3,8
(2)中綿方式マーキングペン(三菱鉛筆社製、PM−150)
実施例6,7,9,10、比較例2,4
(3)直液貯留ボールペン(三菱鉛筆社製、UM−100、ボール径φ0.7mm)
実施例3,4,5,11、比戟例7
上記実施例及び比較例インキを上記記載の仕様で5本組み立て、以下の評価を実施した。
得られた筆記具を用いて下記評価方法により、滲み〔非滲み性〕、書き味、描線乾燥性及び経時安定性について評価した。
これらの結果を下記表1及び2に示す。
測定温度25℃、測定器:トキメック社製 ELD・EMD型粘度計にてインキ粘度を測定した。
〔pHの測定方法〕
測定温度:25℃、測定器:ホリバ社製pHメーターにより、インキpHを測定した。
原稿用紙に「三菱鉛筆」と筆記を行い、下記評価基準で滲み性を官能評価した。
評価基準:
◎:滲みが全くない。
○:若干滲むが実使用上問題なし。
△:滲みは生じるが小さい文字を筆記しても文字はつぶれない。
△△:文字が若干つぶれる。
×:文字つぶれにより文字の判読不能。
原稿用紙に、螺旋筆記及び「三菱鉛筆」と筆記を行い、下記評価基準で書き味を評価した。
評価基準:
◎:螺旋及び「三菱鉛筆」筆記共に良好でペン先を細字にしても書き味良好。
○:上記◎に較べ若干低下するが実使用上問題なし。
△:「三菱鉛筆」の筆記では書き味が重く感じる。螺旋筆記では良好。
△△:螺旋及び「三菱鉛筆」筆記共に書き味が重いが筆記描線は良好。
×:書き味が重く、描線上に点コロ発生。
評価基準:
◎:筆記10秒後に指に付着しない。
○:筆記30秒後に指に付着しない。
△:筆記60秒後に指に付着しない。
△△:筆記60秒経っても指に付着する。
×:筆記300秒経っても指に付着する。
得られた水性インキ組成物をペンに詰めた状態及び板蓋付き透明容器(バルク)に入れ、0〜50℃を24時間サイクルで温度変化させ、このサイクルで3ヶ月後、下記評価基準で経時安定性を評価した。
評価基準:
◎:ペン性能・バルク共に安定。
○:バルクにて若干増粘傾向。しかし、ペン性能は問題なし。
△:バルク増粘によりペン性能が初期より低下しているが実使用上問題なし。
△△:ペン性能にカスレ発生。
×:インキゲル化。
*1:カーボンブラックMA−100(三菱化学社製)
*2:ウォーターブラック187LM(オリエント化学社製)
*3:スミトーンスカーレット(住友化学社製)
*4:クロモファインブルー4927(大日化学社製)
*5:赤103号(ダイワ化成社製)
*6:ジケトピロロピロール:Irgalite DPP BT−R(チバスペシャリティケミカルズ社製)
*7:トリエタノールアミン
*8:アミノメチルプロパノール
*9:2−ベンズイソチアゾリン−3−オン(ゼネカ社製)
*10:ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(第一工業製薬社製)
本発明となる実施例1〜12の筆記具用インキ組成物は、平均重合度が1〜10のグリセリンに、40〜120モルのアルキレンオキサイドが付加された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸エステルの硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩を含有した各組成であるので、非滲み性、書き味、描線乾燥性及び0〜50℃を24時間サイクルでの3ヶ月後でも経時安定性に優れた性能を具備するものであり、実施例1のように、低粘度インキであっても、本発明の効果を発揮できることが判った。
これに対して、比較例を個別的にみると、比較例1では、アルキレンオキサイドが付加された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸エステル類を含有しないものであり、比較例2は、グリセリンの重合度が10超過のものであり、比較例3及び4は、エチレンオキサイドの付加モル数が本発明の範囲外となるものであり、比較例5は非エステル化物を用いたものであり、比較例6はアルキレンオキサイドを付加しないものを用いたものであり、比較例7は、特許文献4に記載の実施例4のジグリセリンEO(120)ラウリル(3)エステルを用いたものであり、アニオン基が存在しない点で本発明の範囲外となる。比較例8は、本願実施例1の物質に類似するが、アニオン基が存在しない点において本発明の範囲外となる。これらは本発明の効果を発揮できないものであった。
特に、比較例7及び8のアルキレンオキサイドが付加された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸エステルでは、経時安定性〔0〜50℃を24時間サイクルでの3ヶ月後の経時安定性〕に明らかに劣り、アルキレンオキサイドが付加された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸エステルの硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩を用いることにより、非滲み性、書き味、描線乾燥性及び0〜50℃を24時間サイクルでの3ヶ月後でも経時安定性に優れることが判った。
Claims (5)
- 少なくとも着色剤と水を含有する筆記具用インキ組成物において、平均重合度が1〜10のグリセリンに、40〜120モルのアルキレンオキサイドが付加された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸エステルの硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩の少なくとも1種をインキ組成物全量に対して、0.1〜30重量%含有することを特徴とする筆記具用水性インキ組成物。
- グリセリン誘導体の脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸の1モルあたりの炭素数が4〜25である請求項1記載の筆記具用水性インキ組成物。
- グリセリン誘導体のエステル化された脂肪酸若しくは芳香族カルボン酸は、該グリセリン誘導体1モルに対して1〜5モルである請求項1又は2記載の筆記具用水性インキ組成物。
- グリセリン誘導体のアルキレンオキサイドがエチレンオキサイドである請求項1〜3の何れか一つに記載の筆記具用水性インキ組成物。
- 請求項1〜4の何れか一つに記載の筆記具用水性インキ組成物を搭載したことを特徴とする筆記具。
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