JP2019112541A - 水性エマルジョン組成物用分散安定剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】水溶液に不溶な成分の量が微量であり、メタノール含有量が低減されているため環境にも配慮された水性エマルジョン用分散安定剤を提供する。【解決手段】エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)が0.05モル%以上10モル%以下であり、けん化度が80.0モル%以上99.9モル%以下であり、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定した場合のメタノール含有量が3.0質量%未満であり、かつ、90℃、濃度5質量%の水溶液に不溶な成分の量が0.1ppm以上2000ppm未満である変性ビニルアルコール系重合体(A)を含有する、水性エマルジョン組成物用分散安定剤。【選択図】なし

Description

本発明は、特定の変性ビニルアルコール系重合体を含有する水性エマルジョン組成物用分散安定剤、及び当該水性エマルジョン組成物用分散安定剤を含有する水性エマルジョン組成物に関する。
ビニルアルコール系重合体(以下、「PVA」と略記することがある。)は水溶性の合成高分子として知られており、様々な分野で用いられている。特に、PVAは親水性基と疎水性基を有し、優れた界面活性能を示すため、酢酸ビニル等のビニルエステル系単量体などの水性エマルジョン組成物用分散安定剤として有用であり、PVAを含む水性エマルジョン組成物は、紙用、木工用、プラスチック用等の各種接着剤、含浸紙用及び不織製品用等の各種バインダー、混和剤、打継ぎ材、塗料、紙加工、繊維加工等の分野で広く用いられている。
水性エマルジョン組成物は、目的に応じて、耐水性や高粘度、皮膜強度が求められることがあり、これまでに、エチレン変性PVA、シリル基変性PVA、一級水酸基変性PVAなど様々なPVAを含有する水性エマルジョン組成物が提案されている(特許文献1〜3)。また、カルボン酸変性PVAやカルボン酸変性エマルジョンは、カルボン酸基に由来する粒子の安定化やイオン的な相互作用により、比較的高粘度な水性エマルジョン組成物が得られ易いということが知られる。また、カルボン酸の架橋反応により耐水化が期待できる。
PVAへのカルボン酸又はその誘導体の導入は、例えばビニルエステル系単量体とカルボン酸又はその誘導体を含有する単量体を共重合して共重合体を得た後、該共重合体をけん化することにより製造される。カルボン酸を効率的に導入するために、ビニルエステル系単量体と反応性の高いエチレン性不飽和ジカルボン酸誘導体が用いられ、その工業的入手容易性の観点から、マレイン酸誘導体、フマル酸誘導体の使用が知られている。これらの中でも、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和ジカルボン酸はビニルエステル系単量体に対しての溶解性が乏しいため、溶液重合法においては、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル、ジエステル、又は無水物等の、ビニルエステル系単量体への溶解性が向上した単量体が使用される。
前記した、カルボン酸又はその誘導体が導入されたPVAは通常、酢酸ビニルをメタノール溶媒中でラジカル重合して酢酸ビニル重合体のメタノール溶液を得た後に、アルカリ触媒を添加してけん化することにより製造される。したがって、溶媒のメタノールが、乾燥して得られる重合体中に必ず残存する。該重合体を水性エマルジョン組成物の分散安定剤として用いた場合、最終製品にメタノールが混入することがあり、有機揮発分低減の観点から、メタノールの低減が求められていた。
特許文献4では、PVAを炭素数2〜3のアルコールを主体とする洗浄液で洗浄することでメタノール含有量を効率的に低減する技術が提案されている。しかしながら、メタノールよりも沸点や蒸発潜熱の高い、炭素数2〜3のアルコールを使用しているために通常よりも乾燥工程での必要な熱量、時間の増加を招いてしまうことから、製造コストアップ等の工業的な問題が残っているのが現状である。
前記のような乾燥技術を用いずとも、通常であれば高温で長時間加熱乾燥することにより、メタノール分の除去は可能であるが、エネルギーの消費が多く、工業的に生産効率を犠牲にすることとなる。加えて、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(例えば、モノエステル、ジエステル、又は無水物)に由来する構造単位を含有するPVAでは、高温下、非特許文献1に記載されるように、モノエステル、ジエステル、無水物由来の構造部分とPVAの水酸基部分との架橋反応が進行し、水に不溶な成分が生成し、水性エマルジョン組成物の分散安定剤として用いた場合、水に不溶な成分が水性エマルジョン組成物の塗工性を悪化させる原因となる。したがって、当該PVAにおいて、メタノール含有量を低減さる要求を満たし、かつ、水に不溶な成分の生成を抑制するということを両立させることができず、実質困難とされてきた。
特開平11−106727号公報 国際公開第2014/112625号 国際公開第2015/020220号 特開2013−28712号公報
Polyer Vol.38, No.12, pp.2933-2945,1997
本発明は、水溶液に不溶な成分の量が微量であり、メタノール含有量が低減されているため環境にも配慮された水性エマルジョン組成物用分散安定剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、当該水性エマルジョン組成物用分散安定剤を用いることで、高粘度であり、塗工性に優れ、メタノール含有量が低減されている水性エマルジョン組成物を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、粒子径や乾燥前の洗浄条件を工夫することにより、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体に由来する構造単位を導入した場合でも、残存するメタノール含有量が3.0質量%未満であり、さらに水溶液に不溶な成分の量が0.1ppm以上2000ppm未満である変性ビニルアルコール系重合体を製造するに至り、該変性ビニルアルコール系重合体を含有する水性エマルジョン組成物用分散安定剤、及び当該水性エマルジョン組成物用分散安定剤を用いてなる水性エマルジョン組成物により、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1]エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)が0.05モル%以上10モル%以下であり、けん化度が80.0モル%以上99.9モル%以下であり、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定した場合のメタノール含有量が3.0質量%未満であり、かつ、90℃、濃度5質量%の水溶液に不溶な成分の量が0.1ppm以上2000ppm未満である変性ビニルアルコール系重合体(A)を含有する、水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
[2]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)が、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル、ジエステル又は無水物である、前記[1]の水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
[3]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)が、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、無水マレイン酸、フマル酸モノアルキルエステル、及びフマル酸ジアルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1種である、前記[1]又は[2]の水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
[4]前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の少なくとも一部が、下記式(I)
Figure 2019112541
(式中、R1は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であり、R2は、金属原子、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基である。)
で表される構造単位であり、前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)と式(I)で表される構造単位の含有量(Y)の値が下記式(Q)を満たす、前記[1]〜[3]のいずれかの水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
0.05≦Y/X<0.98 (Q)
[5]前記変性ビニルアルコール系重合体(A)は、目開き1.00mmの篩を通過する量が全体の95質量%以上である、前記[1]〜[4]のいずれかの水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
[6]前記[1]〜[5]のいずれかの水性エマルジョン組成物用分散安定剤及びエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)を含み、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定した場合のメタノール含有量が0.1質量%未満である水性エマルジョン組成物。
[7]前記エチレン性不飽和単量体が、ビニルエステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体からなる群から選択される少なくとも1種である、前記[6]の水性エマルジョン組成物。
本発明によれば、水溶液に不溶な成分の量が微量であり、メタノール含有量が低減されているため環境にも配慮された水性エマルジョン組成物用分散安定剤を提供できる。さらに本発明は、当該水性エマルジョン組成物用分散安定剤を用いることで、高粘度であり、塗工性に優れ、メタノール含有量が低減されている水性エマルジョン組成物を提供できる。
<水性エマルジョン組成物用分散安定剤>
本発明の水性エマルジョン組成物用分散安定剤(以下、単に「分散安定剤」ともいう)は、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)が0.05モル%以上10モル%以下であり、けん化度が80.0モル%以上99.9モル%以下であり、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定した場合のメタノール含有量が3.0質量%未満であり、かつ、90℃、濃度5質量%の水溶液に不溶な成分の量が0.1ppm以上2000ppm未満である変性ビニルアルコール系重合体(A)(以下、「変性PVA(A)」と略記することがある。)を含有する。
[変性PVA(A)]
変性PVA(A)のエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)は0.05モル%以上10モル%以下であることが重要であり、0.1モル%以上8.0モル%以下が好ましく、0.2モル%以上7.0モル%以下がより好ましく、0.3モル%以上5.0モル%以下が特に好ましい。変性PVA(A)は、例えば、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)とビニルエステル系単量体(a2)とを共重合させてビニルエステル系共重合体(A’)とし、ビニルエステル系共重合体(A’)をけん化することで得られる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)が0.05モル%未満の場合には、カルボン酸の導入量が少なく、多量に変性PVA(A)を添加しないと水性エマルジョン組成物の高粘度化が達成できず、工業的に不利である。一方、含有量(X)が10モル%を超える場合には、安定な水性エマルジョン組成物が得られない。また、水性エマルジョン組成物が得られたとしても、変性PVA(A)の製造時に架橋により水溶液に不溶な成分の量が多くなるため、水性エマルジョン組成物中にも水に不溶な成分の塊が生成し、水性エマルジョン組成物の塗工性が悪くなる。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)は、けん化前のビニルエステル系共重合体(A’)の1H−NMR解析により算出できる。
なお、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
変性PVA(A)のけん化度は、80.0モル%以上99.9モル%以下であることが重要であり、得られる水性エマルジョン組成物の安定性に優れる点から、82.0モル%以上99.9モル%以下が好ましく、85.0モル%以上99.9モル%以下がより好ましい。けん化度が80.0モル%未満の場合には、高温でも水に溶解しない場合があり、水性エマルジョンの重合安定剤として用いた場合、分散安定剤として十分に機能せず、得られる水性エマルジョン組成物が不安定化する。99.9モル%より高い変性PVA(A)を用いると、得られる水性エマルジョン組成物の低温粘度安定性が不十分となる。変性PVA(A)のけん化度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法に従って測定できる。
変性PVA(A)の粘度平均重合度(以下、単に「重合度」という。)は、特に限定されないが、100以上5000以下が好ましく、150以上4500以下がより好ましく、200以上4000以下がさらに好ましい。粘度平均重合度が前記下限以上である変性PVA(A)を用いると、得られる水性エマルジョン組成物の分散安定性が向上する。変性PVA(A)の粘度平均重合度が前記上限以下であることにより、変性PVA(A)の生産性が向上する。変性PVA(A)の重合度は、JIS K 6726(1994年)に記載の方法に従って測定できる。
変性PVA(A)中に存在するメタノール含有量は、有機揮発分低減の観点から、3.0質量%未満であることが重要であり、2.5質量%未満が好ましく、2.0質量%未満がより好ましく、1.0質量%未満がさらに好ましい。
変性PVA(A)中に存在するメタノール含有量はヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて、以下の方法で決定される。
<検量線の作成>
イソプロピルアルコールを内部標準として、メタノール含有量が既知の水溶液を3種類準備し、ヘッドスペースサンプラー(Turbo Matrix HS40、Parkin Elmer社製)を装着したガスクロマトグラフ(GC−2010、島津製作所製)を用いて測定を行い、検量線を作成する。
<変性PVA(A)中に存在するメタノール含有量の測定>
蒸留水を1000mLメスフラスコの標線に合わせて採取し、内部標準液のイソプロピルアルコールをメスピペットにて0.1mL添加し、よく撹拌する。この液を「溶解液」とする。次に変性PVA(A)500mgをヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定用のバイアル瓶中に秤量し、撹拌子を投入した後、前記溶解液をホールピペットで10mL測りとり、バイアル瓶中に投入する。キャップをバイアル瓶に取り付け、ロックがかかるまで締め付けた後、バイアル瓶をホットスターラー上に乗せて、変性PVA(A)を加熱溶解する。変性PVA(A)が完全に溶解したことを目視で確認後、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定を行い、前記のようにして作成した検量線から変性PVA(A)中のメタノール含有量を決定する。
変性PVA(A)は、90℃、濃度5質量%の水溶液に不溶な成分の量(以下、単に「水溶液に不溶な成分の量」ともいう)が0.1ppm以上2000ppm未満であり、0.1ppm以上1500ppm未満がより好ましく、0.1ppm以上1000ppm未満がさらに好ましく、0.1ppm以上500ppm未満が特に好ましい。0.1ppm未満は実質的に製造不可能である。前記水溶液に不溶な成分の量が2000ppm以上である場合、得られる水性エマルジョン組成物の塗工性が不十分となる。
前記特定の水溶液に不溶な成分の量は、以下の方法で決定される。
20℃に設定した水浴中に、撹拌機及び還流冷却管を装着した500mLのフラスコを準備し、蒸留水を285g投入して、300rpmで撹拌を開始する。変性PVA(A)15gを秤量し、フラスコ中に該変性PVA(A)を徐々に投入する。変性PVA(A)を全量(15g)投入したのち、直ちに30分程度かけて水浴の温度を90℃まで上昇させる。温度が90℃に到達後、さらに60分間300rpmで撹拌しながら溶解を継続した後、未溶解で残留する粒子(未溶解粒子)を目開き63μmの金属製フィルターで濾過する。フィルターを90℃の温水でよく洗浄し、付着した溶液を取り除いた後、フィルターを120℃の加熱乾燥機で1時間乾燥する。こうして採取した未溶解粒子の質量から、水溶液に不溶な成分の量が決定される。
本発明で用いる変性PVA(A)が有する構造単位の基となるエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)は、本発明の効果を妨げない限り、特に制限されない。エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)としては、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル、ジエステル又は無水物が単量体として好ましい。前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)の具体例としては、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、シトラコン酸モノメチル、シトラコン酸モノエチル、メサコン酸モノメチル、メサコン酸モノエチル、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル等の不飽和ジカルボン酸モノアルキルエステル;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、シトラコン酸ジメチル、シトラコン酸ジエチル、メサコン酸ジメチル、メサコン酸ジエチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル等の不飽和ジカルボン酸ジアルキルエステル;無水マレイン酸、シトラコン酸無水物等の不飽和ジカルボン酸無水物が挙げられる。これらの単量体の中でも、工業的入手の観点、ビニルエステル系単量体との反応性の面からマレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、無水マレイン酸、フマル酸モノアルキルエステル、フマル酸ジアルキルエステルが好ましく、マレイン酸モノメチル、無水マレイン酸が特に好ましい。本発明の変性PVA(A)は、少なくとも1種の前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)由来の構造単位を有していればよく、2種以上のエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)を併用することもできる。
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の少なくとも一部が、下記式(I)
Figure 2019112541
(式中、R1は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であり、R2は、金属原子、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基である。)
で表される構造単位であり、前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)(以下、変性量(X)ともいう。)と式(I)で表される構造単位の含有量(Y)(以下、変性量(Y)ともいう。)が下記式(Q)を満たすことが、水溶液に不溶な成分の量を抑制できる面で好ましい。
0.05≦Y/X<0.98 (Q)
Y/Xが前記式(Q)で示される範囲を満たすことにより、前記水溶液に不溶な成分の量が低減された変性PVA(A)を工業的に容易に製造することが可能となり、得られる水性エマルジョン組成物は塗工性にも優れる。前記Y/Xの下限は0.06以上であることがより好ましい。一方、Y/Xの上限は0.80以下であることがより好ましく、0.60以下であることがさらに好ましく、0.40以下が特に好ましい。なお、式(I)で表される構造単位の含有量(Y)とは、変性PVA(A)の主鎖を構成する単量体単位の総モル数に対する式(I)の構造単位のモル数の比である。
1及びR2が各々表す炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、2−メチルプロピル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、sec−ペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基(イソヘキシル基)、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、1,4−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチル−2−メチル−プロピル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、n−ヘプチル基、2−メチルヘキシル基、n−オクチル基、イソオクチル基、tert−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチルヘプチル基等が挙げられる。前記アルキル基の炭素数としては、1〜6が好ましく、1〜4がより好ましく、1〜3がさらに好ましい。
2が表す金属原子としては、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等のアルカリ金属;カルシウム、バリウム、ストロンチウム、ラジウム等のアルカリ土類金属が挙げられ、これらの中でもアルカリ金属が好ましく、ナトリウムがより好ましい。
前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)を用いて変性PVA(A)を製造した場合、導入したエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位はけん化後、その一部が前記式(I)で表される6員環ラクトン環構造を形成することが知られている。非特許文献1に記載されるように、前記式(I)で表される6員環ラクトン構造は、加熱により開環し、引き続き分子間のエステル化反応により架橋体を形成するため、変性PVA(A)の水溶液に不溶な成分の量が増加する場合がある。すなわち、式(I)で表される構造単位の含有量(Y)が、導入したエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)に対して多ければ、架橋反応が抑制されていることを意味する。前記式(I)の6員環ラクトン構造は、重ジメチルスルホキシド溶媒で測定した1H−NMRスペクトルにおいて6.8〜7.2ppmに検出されると考えられている。変性PVA(A)において、前記水溶液に不溶な成分の量を2000ppm未満とするためには、式(I)で表される構造単位の含有量(Y)は、けん化前のビニルエステル系共重合体(A’)から求められるエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)に対して、前記式(Q)を満たすことが好ましい。なお、式(Q)においてY/Xが0.50の場合は、導入したエチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する全構造単位の半数が、式(I)で表される構造単位を形成していることを意味する。
変性PVA(A)の粒子径は特に限定されないが、変性PVA(A)全体の95質量%以上が、目開き1.00mmの篩を通過することが好ましく、目開き710μmの篩を通過することがより好ましく、目開き500μmの篩を通過することが特に好ましい。ここで、前記「変性PVA(A)全体の95質量%以上」とは、粒度分布として、例えば、目開き1.00mmの篩を通過する粒子が、95質量%以上であるという積算分布(ふるい下)を意味するものである。目開き1.00mmの篩を通過する粒子が95質量%未満の場合、変性PVA(A)中に取り込まれたメタノールの揮発が困難となり、メタノールの含有量が3.0質量%を超える場合がある、もしくは粒子が大きいため乾燥ムラ等が発生し、水溶液に不溶な成分の量が多くなる場合がある。また、本発明の変性PVA(A)の目開き500μmの篩を通過する量は特に限定されないが、変性PVA(A)全体の30質量%以上であることが好ましく、35質量%であることがより好ましく、45質量%以上がさらに好ましく、56質量%以上が特に好ましい。さらに、変性PVA(A)の粒子径は、変性PVA(A)の99質量%以上が、目開き1.00mmの篩を通過することが好ましく、変性PVA(A)の99質量%以上が目開き1.00mmの篩を通過し、かつ56質量%以上が目開き500μmの篩を通過することが特に好ましい。前記篩はJIS Z 8801−1−2006の公称目開きWに準拠するものである。
本発明の水性エマルジョン組成物用分散安定剤は、変性PVA(A)に加え、溶媒、界面活性剤、変性PVA(A)以外の分散安定剤等を含んでいてもよい。特に溶媒としては、水を含むことが好ましい。
ある実施形態では、本発明の水性エマルジョン組成物用分散安定剤は、ビニルエステル系単量体などのエチレン性不飽和単量体の乳化重合の分散安定剤として用いることができる。本発明の水性エマルジョン組成物用分散安定剤は、好適には、変性PVA(A)が水中に溶解した状態で使用される。その場合、例えば、前記した実施形態のように、乳化重合の分散安定剤としては、乳化重合をより容易かつ確実に行うことができる。また、他の実施形態では、本発明の水性エマルジョン組成物用分散安定剤は、水性エマルジョン組成物に後添加で添加する水性エマルジョン組成物の安定剤(粘度調整剤)として用いることができる。前記したように、変性PVA(A)が水中に溶解した状態で使用されるため、水性エマルジョン組成物に後添加で添加する場合でも、確実に分散安定化効果を付与できるだけでなく、粘度調整効果も有する。
前記界面活性剤としては、例えばアルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸等のアニオン性界面活性剤;アルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド等のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル等のノニオン性界面活性剤;アルキルベタイン、アミンオキシド等の両性界面活性剤等が挙げられる。
変性PVA(A)以外の分散安定剤としては、変性PVA(A)以外のビニルアルコール系重合体、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
<水性エマルジョン組成物用分散安定剤の製造方法>
当該水性エマルジョン組成物用分散安定剤の製造方法は特に限定されないが、例えば変性PVA(A)を製造する工程及び変性PVA(A)を水に溶解する工程を備える。
[変性PVA(A)の製造方法]
以下、本発明の水性エマルジョン組成物用分散安定剤に用いる変性PVA(A)の製造方法について、詳細に説明する。なお、これらの実施態様に限定されるものではない。
変性PVA(A)は、例えば、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)とビニルエステル系単量体(a2)とを共重合させてビニルエステル系共重合体(A’)を得る工程、得られたビニルエステル系共重合体(A’)を、アルコール溶液中でアルカリ触媒又は酸触媒を用いてけん化するけん化工程、洗浄工程及び乾燥する工程を有する製造方法により製造できる。
前記ビニルエステル系単量体(a2)としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等が挙げられ、とりわけ酢酸ビニルが好ましい。
エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)とビニルエステル系単量体(a2)とを共重合する方法としては、塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の公知の方法が挙げられる。中でも、無溶媒で行う塊状重合法又はアルコール等の溶媒を用いて行う溶液重合法が通常採用される。メタノール等の低級アルコールと共に重合する溶液重合法が好ましい。塊状重合法あるいは溶液重合法で重合反応を行う場合、反応の方式は回分式及び連続式のいずれの方式も用いることができる。
重合反応に使用する開始剤は特に限定されず、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等のアゾ系開始剤;過酸化ベンゾイル、n−プロピルパーオキシカーボネート等の有機過酸化物系開始剤等の公知の開始剤が挙げられる。重合反応を行う際の重合温度は特に制限はなく、5〜200℃の範囲であってもよく、30〜150℃の範囲であってもよい。
エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)とビニルエステル系単量体(a2)とを共重合させる際には、本発明の効果が損なわれない範囲であれば、必要に応じて、さらに、共重合可能な、エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)とビニルエステル系単量体(a2)以外の他の単量体(a3)を共重合させてもよい。このような単量体(a3)としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン、1−ヘキセン等のα−オレフィン;アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル等のビニルエーテル;エチレングリコールビニルエーテル、1,3−プロパンジオールビニルエーテル、1,4−ブタンジオールビニルエーテル等のヒドロキシ基含有ビニルエーテル;プロピルアリルエーテル、ブチルアリルエーテル、ヘキシルアリルエーテル等のアリルエーテル;オキシアルキレン基を有する単量体;酢酸イソプロペニル、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、7−オクテン−1−オール、9−デセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等のヒドロキシ基含有α−オレフィン;ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルジメチルエトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリルアミド−プロピルトリエトキシシラン等のシリル基を有する単量体;N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−カプロラクタム等のN−ビニルアミド系単量体等が挙げられる。これらの単量体(a3)の含有量は、その使用される目的及び用途等によっても異なるが、通常、共重合に用いられる全ての単量体を基準にした割合で10モル%以下であり、5.0モル%以下が好ましく、3.0モル%以下がより好ましく、2.0モル%以下がさらに好ましい。
上述の方法により得られたビニルエステル系共重合体(A’)をアルコール溶媒中でけん化する工程、洗浄工程、及び乾燥工程に供することで変性PVA(A)を得ることができる。本発明の変性PVA(A)を得るためのけん化条件、乾燥条件に特に制限はないが、けん化原料溶液の含水率、乾燥時のPVA樹脂の温度又は乾燥時間を特定の範囲にすることが、変性PVA(A)中に存在するメタノール含有量の低減、及び前記水溶液に不溶な成分の量を抑制できる面で好ましい。
前記共重合工程で得られた、ビニルエステル系共重合体(A’)及び溶媒を含有する溶液に、さらに少量の水を添加することにより、けん化原料溶液を調製することができる。水の添加量は、得られるけん化原料溶液の含水率(「系含水率」ともいう。)が1.0質量%を超えて5.0質量%未満となるように調整することが好ましい。当該含水率は1.5〜4.0質量%であることがより好ましい。当該含水率が1.0質量%以下の場合はアルカリ触媒が失活しづらく、架橋のための触媒として働く場合があり、乾燥時、水溶液に不溶な成分の量が多くなる場合がある。一方、含水率が5.0質量%以上の場合は、けん化反応速度が低下したり、変性PVA(A)が水に溶解し易いため、けん化反応液中に溶出して、製造工程で問題を引き起こす場合がある。
けん化反応に用いることができる溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸メチル、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でもメタノール、もしくはメタノールと酢酸メチルとの混合溶媒が好ましく用いられる。
ビニルエステル系共重合体(A’)のけん化反応の触媒には、通常アルカリ触媒が用いられる。アルカリ触媒としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物;及びナトリウムメトキシド等のアルカリ金属アルコキシドが挙げられ、水酸化ナトリウムが好ましい。けん化触媒の使用量は、ビニルエステル系共重合体(A’)のビニルエステル単量体単位に対するモル比で0.005〜0.50であることが好ましく、0.008〜0.40であることがより好ましく、0.01〜0.30であることが特に好ましい。けん化触媒は、けん化反応の初期に一括して添加してもよいし、あるいはけん化反応の初期に一部を添加し、残りをけん化反応の途中で追加して添加してもよい。
けん化反応の温度は、好ましくは5〜80℃の範囲であり、より好ましくは20〜70℃の範囲である。けん化反応の時間は、好ましくは5分間〜10時間であり、より好ましくは10分間〜5時間である。けん化反応の方式は、バッチ法及び連続法のいずれであってもよい。アルカリ触媒を用いてけん化反応を行う際、けん化反応を停止させるため、必要に応じて、残存する触媒を、酢酸、乳酸等の酸の添加により中和してもよいが、中和後、残存する酸により、乾燥時に変性PVAの分子間における架橋反応が進行しやすくなるため、水に不溶な成分を2000ppm未満に抑制するためには、酸添加による中和は行わないことが好ましい。
けん化反応の方式は、公知の方法であれば特に限定されない。例えば、(1)20質量%を超える濃度に調製したビニルエステル系共重合体(A’)の溶液及びけん化触媒を混合し、得られた半固体(ゲル状物)又は固体を粉砕機で粉砕することによって変性PVA(A)を得る方法、(2)メタノールを含む溶媒中に溶解しているビニルエステル系共重合体(A’)の濃度を10質量%未満に制御することによって、反応溶液全体が流動性の無いゲル状となることを抑制し、変性PVA(A)を溶媒中で析出させ、メタノール中に分散する微粒子として得る方法、(3)飽和炭化水素系の溶媒を加えてビニルエステル系共重合体(A’)を乳化、又は懸濁相でけん化し、変性PVA(A)を得る方法、等が挙げられる。前記(1)において、粉砕機は特に限定されず、公知の粉砕機、破砕機を使用することができる。
製造上の観点から飽和炭化水素系の溶媒を必要としない(1)又は(2)の方法が好ましく、メタノール含有量を低減させる観点から(2)がより好ましい。さらに、(2)の製造方法は、後に続く洗浄工程及び乾燥工程を従来よりも弱めて行う場合においてもメタノール含有量が低減され、かつ、水溶液に不溶な成分も微量にでき、工業的に有利である点から好ましい。前記(2)において、メタノールを含む溶媒中に溶解しているビニルエステル系共重合体(A’)及びその部分けん化物の濃度は8.0質量%未満が好ましく、5.0質量%未満がより好ましく、4.0質量%未満がさらに好ましい。
けん化工程の後に、必要に応じて変性PVA(A)を洗浄する工程を設けることが、得られる変性PVA(A)中のメタノール含有量を3.0質量%未満にできる点から好ましい。洗浄液として、メタノール等の低級アルコールを主成分とし、さらに、水及び/又は酢酸メチル等のエステルを含有する溶液を用いることができる。洗浄液としては、メタノールを主成分とし、酢酸メチルを含む溶液が好ましい。ビニルエステル系共重合体(A’)の共重合工程で好適に用いられるメタノール及びけん化工程で生成する酢酸メチルを洗浄液として用いることが工程内でリサイクルが可能であり、洗浄液として他の溶媒を準備する必要がなく、経済的、工程的に好ましい。ある実施形態では、前記(1)のけん化反応の方法において、洗浄中に、洗浄溶媒がPVAに一部含浸することにより、PVAに含有されるメタノールと置換されることがあるため、乾燥後の変性PVA(A)中のメタノール含有量を3.0質量%未満とするためには、洗浄液として、酢酸メチルの含有量が45体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましく、得られる変性PVA(A)の前記水溶液に不溶な成分の量をより減らす観点から70体積%以上であることが特に好ましい。
けん化工程の後あるいは洗浄工程の後、重合体を乾燥することにより本発明の変性PVAを得ることができる。具体的には、円筒乾燥機を使用した熱風乾燥が好ましく、乾燥時の変性PVA(A)の温度は80℃を超え、120℃未満であることが好ましく、90℃以上110℃未満であることがより好ましい。また、乾燥時間は2〜10時間であることが好ましく、3〜8時間であることがより好ましい。乾燥時の条件を前記範囲にすることにより、得られる変性PVA中に存在するメタノール含有量を3.0質量%未満、前記水溶液に不溶な成分の量を2000ppm未満に抑制しやすくなるため好ましい。
<水性エマルジョン組成物>
本発明の水性エマルジョン組成物用分散安定剤、及びエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)を含み、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定した場合のメタノール含有量が0.1質量%未満である水性エマルジョン組成物も本発明の好適な実施態様である。前記メタノール含有量は0.07質量%未満が好ましく、0.05質量%未満がより好ましく、0.03質量%未満がさらに好ましい。
本発明の水性エマルジョン組成物中のメタノール含有量はヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて、以下の方法で決定される。
<水性エマルジョン組成物中に存在するメタノール含有量の測定>
水性エマルジョン組成物10mLをヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定用のバイアル瓶中に秤量し、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定を行い、変性PVA(A)のメタノール含有量分析で使用した検量線と同様にして作成した検量線から水性エマルジョン組成物中のメタノール含有量を決定する。
水性エマルジョン組成物における、変性PVA(A)とエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)との組成比は特に限定されないが、変性PVA(A)は、重合体(B)100質量部に対して2質量部以上50質量部未満が好ましく、3質量部以上30質量部未満がより好ましく、5質量部以上20質量部未満がさらに好ましい。2質量部未満の場合には、得られる水性エマルジョン組成物の安定性が不十分となる恐れがある。50質量部以上の場合には、得られる水性エマルジョン組成物から作製される皮膜の耐水性が低下する恐れがある。
(重合体(B))
本発明の水性エマルジョン組成物は、エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)を分散質として含有する。前記エチレン性不飽和単量体としては、例えばビニルエステル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体、α,β−不飽和モノ又はジカルボン酸系単量体、ジエン系単量体、オレフィン系単量体、(メタ)アクリルアミド系単量体、ニトリル系単量体、芳香族ビニル系単量体、複素環式ビニル系単量体、ビニルエーテル系単量体、アリル系単量体、多官能性アクリレート系単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、ビニルエステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ビニルエステル系単量体がより好ましい。ただし、重合体(B)は、ポリビニルアルコールではない。
ビニルエステル系単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、桂皮酸ビニル、クロトン酸ビニル、デカン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、オクタン酸ビニル、イソノナン酸ビニル、トリメチル酢酸ビニル、4−tert−ブチルベンゼン酸ビニル、2−エチルヘキサン酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オレイン酸ビニル、安息香酸ビニル等が挙げられ、工業的観点から、酢酸ビニルが特に好ましい。
前記重合体(B)は、不飽和カルボン酸もしくはその塩に由来する単量体単位で変性されていても構わない。
本発明の水性エマルジョン組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、前記水性エマルジョン組成物用分散安定剤及び前記重合体(B)以外の他の成分を含んでいてもよい。当該他の成分としては、粘度調整剤、密着性向上剤、消泡剤、耐水化剤、防腐剤、酸化防止剤、浸透剤、界面活性剤、填料、澱粉及びその誘導体、ラテックス等が挙げられる。
水性エマルジョン組成物における固形分濃度は、10質量%以上80質量%以下が好ましい。固形分濃度が10質量%未満の場合には、水性エマルジョン組成物の粘度が低すぎるため粒子が沈降し易くなる傾向がある。固形分濃度は20質量%以上がより好ましい。一方、固形分濃度が80質量%を超えると、粒子間距離が近くなり過ぎるため、乳化重合中に凝集が起こるなど製造が困難となる傾向がある。固形分濃度は70質量%以下がより好ましい。ここで固形分とは、水性エマルジョン組成物に含まれる乾燥固形物の全量を示す。
本発明の水性エマルジョン組成物は、木工用、紙加工用等の接着用途をはじめ、塗料、繊維加工等に使用でき、中でも接着用途が好適である。前記方法で得られる水性エマルジョン組成物をそのまま用いてもよいし、必要に応じて消泡剤、pH調整剤、溶剤、顔料、染料、防腐剤、増粘剤、架橋剤、可塑剤等を添加して使用してもよい。
<水性エマルジョン組成物の製造方法>
本発明の水性エマルジョン組成物の製造方法は特に限定されないが、(i)本発明の分散安定剤の存在下、エチレン性不飽和単量体を乳化重合する方法、(ii)エチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)を含有する水性エマルジョン組成物を作製後に変性PVA(A)を添加する方法などが挙げられる。特に前記(i)の製造方法に関して、以下に説明する。
前記(i)の具体的な方法としては、本発明の分散安定剤とエチレン性不飽和単量体を仕込んだ後、適宜選択した重合開始剤を添加して、当該単量体を乳化重合する方法が挙げられる。分散安定剤の仕込み方法や添加方法は特に限定されず、分散安定剤を初期一括で仕込む方法や重合中に連続的に分散安定剤を添加する方法等を挙げることができる。なかでも、変性PVA(A)の分散質へのグラフト率を高める観点から、重合系内に分散剤を初期一括で仕込む方法が好ましい。これらの方法において、分散安定剤の量やエチレン性不飽和単量体の量、溶媒の量を適宜調整することで重合反応を調節できる。
前記乳化重合において、重合開始剤としては、乳化重合に通常用いられる水溶性の単独開始剤又は水溶性のレドックス系開始剤が使用できる。これらの開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。中でも、レドックス系開始剤が好ましい。
水溶性の単独開始剤としては、アゾ系開始剤、過酸化水素、過硫酸塩(カリウム、ナトリウム又はアンモニウム塩)等の過酸化物等が挙げられる。アゾ系開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
レドックス系開始剤としては、酸化剤と還元剤を組み合わせたものを使用できる。酸化剤としては、過酸化物が好ましい。還元剤としては、金属イオン、還元性化合物等が挙げられる。酸化剤と還元剤の組み合わせとしては、過酸化物と金属イオンとの組み合わせ、過酸化物と還元性化合物との組み合わせ、過酸化物と、金属イオン及び還元性化合物とを組み合わせたものが挙げられる。過酸化物としては、過酸化水素、クメンヒドロキシパーオキサイド、t−ブチルヒドロキシパーオキサイド等のヒドロキシパーオキサイド、過硫酸塩(カリウム、ナトリウム又はアンモニウム塩)、過酢酸t−ブチル、過酸エステル(過安息香酸t−ブチル)等が挙げられる。金属イオンとしては、Fe2+、Cr2+、V2+、Co2+、Ti3+、Cu+等の1電子移動を受けることのできる金属イオンが挙げられる。還元性化合物としては、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、フルクトース、デキストロース、ソルボース、イノシトール、ロンガリット、アスコルビン酸が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム及び過硫酸アンモニウムからなる群から選ばれる1種以上の酸化剤と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる1種以上の還元剤との組み合わせが好ましく、過酸化水素と、亜硫酸水素ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酒石酸、ロンガリット及びアスコルビン酸からなる群から選ばれる1種以上の還元剤との組み合わせがより好ましい。
また、乳化重合に際しては、本発明の効果を損なわない範囲で、アルカリ金属化合物、界面活性剤、緩衝剤、重合度調節剤等を適宜使用してもよい。
アルカリ金属化合物としては、アルカリ金属(ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム)を含む限り特に限定されず、アルカリ金属イオンそのものであってもよく、アルカリ金属を含む化合物であってもよい。
アルカリ金属化合物の含有量(アルカリ金属換算)は、用いられるアルカリ金属化合物の種類に応じて適宜選択することができるが、アルカリ金属化合物の含有量(アルカリ金属換算)は、水性エマルジョン組成物(固形換算)の全質量に対して、100〜15000ppmが好ましく、120〜12000ppmがより好ましく、150〜8000ppmが最も好ましい。アルカリ金属化合物の含有量が100ppmより低い場合、水性エマルジョン組成物の乳化重合の安定性が低下することがあり、15000ppmを超えると、水性エマルジョン組成物からなる皮膜が着色するおそれがあるため好ましくない。なお、アルカリ金属化合物の含有量は、ICP発光分析装置などにより測定することができる。ここで「ppm」は、「質量ppm」を意味する。
アルカリ金属を含む化合物としては、具体的には、弱塩基性アルカリ金属塩(例えば、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属酢酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ金属硫酸塩、アルカリ金属ハロゲン化物塩、アルカリ金属硝酸塩)、強塩基性アルカリ金属化合物(例えば、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ金属のアルコキシド)等が挙げられる。これらのアルカリ金属化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
弱塩基性アルカリ金属塩としては、例えば、アルカリ金属炭酸塩(例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム)、アルカリ金属重炭酸塩(例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等)、アルカリ金属リン酸塩(リン酸ナトリウム、リン酸カリウム等)、アルカリ金属カルボン酸塩(酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸セシウム等)、アルカリ金属硫酸塩(硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸セシウム等)、アルカリ金属ハロゲン化物塩(塩化セシウム、ヨウ化セシウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム等)、アルカリ金属硝酸塩(硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸セシウム等)が挙げられる。これらのうち、水性エマルジョン組成物が塩基性を帯びる観点から、解離時に弱酸強塩基の塩として振舞えるアルカリ金属カルボン酸塩、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩が好ましく用いられ、アルカリ金属のカルボン酸塩がより好ましい。
これらの弱塩基性アルカリ金属塩を用いることにより、乳化重合において当該弱塩基性アルカリ金属塩がpH緩衝剤として作用をすることで、乳化重合を安定に進めることができる。
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及びカチオン性界面活性剤のいずれを使用してもよい。非イオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。アニオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキル硫酸塩、アルキルアリール硫酸塩、アルキルスルフォネート、ヒドロキシアルカノールのサルフェート、スルフォコハク酸エステル、アルキル又はアルキルアリールポリエトキシアルカノールのサルフェート及びホスフェート等が挙げられる。カチオン性界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルアミン等が挙げられる。界面活性剤の使用量は、エチレン性不飽和単量体(例えば、酢酸ビニル)の全量に対して2質量%以下であることが好ましい。界面活性剤の使用量が2質量%を超えると、水性エマルジョン組成物の皮膜の耐水性が低下することがある。
緩衝剤としては、酢酸、塩酸、硫酸等の酸;アンモニア、アミン荷性ソーダ、荷性カリ、水酸化カルシウム等の塩基;又はアルカリ炭酸塩、リン酸塩、酢酸塩等が挙げられる。重合度調節剤としては、メルカプタン類、アルコール類等が挙げられる。
前記乳化重合における分散媒は、水を主成分とする水性媒体であることが好ましい。水を主成分とする水性媒体には、水と任意の割合で可溶な水溶性の有機溶媒(アルコール類、ケトン類等)を含んでいてもよい。ここで、「水を主成分とする水性媒体」とは水を50質量%以上含有する分散媒のことである。コスト及び環境負荷の観点から、分散媒は、水を90質量%以上含有する水性媒体であることが好ましく、水であることがより好ましい。前記水性エマルジョン組成物の製造方法において、乳化重合の開始の前に前記分散剤を分散媒に溶解させて加熱した後、冷却し、窒素置換することが好ましい。このとき加熱温度は80〜100℃が好ましい。乳化重合の温度は、特に限定されないが、20〜95℃程度が好ましく、40〜90℃程度がより好ましい。
本発明の水性エマルジョン組成物は、高粘度であり、塗工性に優れ、メタノール含有量が低減されているため、紙用、木工用、プラスチック用等の各種接着剤;含浸紙用及び不織製品用等の各種バインダー;セメント混和剤;打継ぎ材;塗料;紙用加工剤、繊維用加工剤、モルタルプライマー等として好適に用いられる。
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的範囲内において、前記の構成を種々組み合わせた態様を含む。
次に、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではなく、多くの変形が本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により可能である。以下の実施例及び比較例において、特に断りがない場合、「部」は「質量部」を示し、「%」は「質量%」を示す。
[変性PVA(A)の粘度平均重合度]
変性PVA(A)の粘度平均重合度はJIS K 6726:1994に準じて測定した。具体的には、変性PVAのけん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化し、得られた変性PVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)を用いて下記式により粘度平均重合度(P)を求めた。
P=([η]×104/8.29)(1/0.62)
[変性PVA(A)のけん化度]
変性PVAのけん化度は、JIS K 6726:1994に記載の方法により求めた。
[エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)]
1H−NMRスペクトル解析によって、変性種のスペクトルから算出した。
[式(I)で表される構造単位の含有量(Y)]
ジメチルスルホキシド溶媒で測定した1H−NMRスペクトル解析において6.8〜7.2ppmに検出されるスペクトルから算出した。
[変性PVA(A)のメタノール含有量]
実施例及び比較例の変性PVA中に存在するメタノール含有量はヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて、以下の方法で決定した。
<検量線の作成>
イソプロピルアルコールを内部標準として、メタノール含有量が既知の水溶液を3種類準備し、ヘッドスペースサンプラー(Turbo Matrix HS40、Parkin Elmer社製)を装着したガスクロマトグラフ(GC−2010、島津製作所製)を用いて測定を行い、検量線を作成する。
<変性PVA(A)中に存在するメタノール含有量の測定>
蒸留水を1000mLメスフラスコの標線に合わせて採取し、内部標準液のイソプロピルアルコールをメスピペットにて0.1mL添加し、よく撹拌する。この液を「溶解液」とする。次に、試料として実施例及び比較例の変性PVA(A)500mgをヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定用のバイアル瓶中に秤量し、撹拌子を投入した後、前記溶解液をホールピペットで10mL測りとり、バイアル瓶中に投入する。キャップをバイアル瓶に取り付け、ロックがかかるまで締め付けた後、バイアル瓶をホットスターラー上に乗せて、試料の変性PVA(A)を加熱溶解する。変性PVA(A)が完全に溶解したことを目視で確認後、ヘッドスペースガスクロマトグラフィー測定を行い、前記のようにして作成した検量線から変性PVA(A)中のメタノール含有量を決定した。
[90℃、濃度5質量%の水溶液に不溶な成分の量]
20℃に設定した水浴中に、撹拌機及び還流冷却管を装着した500mLのフラスコを準備し、蒸留水を285g投入して、300rpmで撹拌を開始する。実施例及び比較例の変性PVA(A)15gを秤量し、フラスコ中に該変性PVAを徐々に投入する。変性PVA(A)を全量(15g)投入したのち、直ちに30分程度かけて水浴の温度を90℃まで上昇させる。温度が90℃に到達後、さらに60分間300rpmで撹拌しながら溶解を継続した後、未溶解で残留する粒子(未溶解粒子)を目開き63μmの金属製フィルターで濾過する。フィルターを90℃の温水でよく洗浄し、付着した溶液を取り除いた後、フィルターを120℃の加熱乾燥機で1時間乾燥する。こうして採取した未溶解粒子の質量から、水溶液に不溶な成分の量を決定した。
[粒度分布]
JIS Z 8815:1994に記載の乾式篩法により、実施例及び比較例で得られた変性PVA(A)の粒度分布を測定した。実施例及び比較例で得られた変性PVA(A)を目開き1.00mmの篩(フィルター)にかけて、篩をパスした変性PVA(A)の質量を測定し、篩にかける前の変性PVA(A)の質量から、篩をパスした変性PVA(A)粒子の割合(質量%)を算出した。同様に、実施例及び比較例で得られた変性PVA(A)を目開き500μmの篩(フィルター)にかけて、篩をパスした変性PVA(A)の質量を測定し、篩にかける前の変性PVA(A)の質量から、篩をパスした変性PVA(A)粒子の割合(質量%)を算出した。なお、前記目開きは、JIS Z 8801−1−2006の公称目開きWに準拠する。
[合成例1]
還流冷却器、原料供給ライン、温度計、窒素導入口、及び撹拌翼を備えた重合容器(連続重合装置;以下、「重合槽」という。)と、還流冷却器、原料供給ライン、反応液取出ライン、温度計、窒素導入口及び撹拌翼を備えた装置を用いた。重合槽に酢酸ビニル(VAM)876L/hr、メタノール(MeOH)157L/hr、変性種としてマレイン酸モノメチル(MMM)の20%メタノール溶液12.9L/hr、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(AMV)の2%メタノール溶液13.6L/hrを定量ポンプを用いて連続的に供給した。重合槽内の液面が一定になるように重合槽から重合液を連続的に取り出した。重合槽から取り出される重合液中の酢酸ビニルの重合率が43%になるように調整した。重合槽の滞留時間は4時間であった。重合槽から取り出された重合液の温度は63℃であった。重合槽から重合液を取り出し、当該重合液にメタノール蒸気を導入することで未反応の酢酸ビニルの除去を行い、ビニルエステル系共重合体(PVAc)のメタノール溶液(濃度32%)を得た。
前記ビニルエステル系共重合体のメタノール溶液に、所望量の水及びメタノールを添加して、けん化原料溶液である含水率1.5質量%のビニルエステル系共重合体/メタノール溶液(濃度32質量%)を調製した。けん化触媒溶液である水酸化ナトリウム/メタノール溶液(濃度4質量%)を前記ビニルエステル系共重合体中の酢酸ビニル単位に対する水酸化ナトリウムのモル比が0.01となるように添加した。けん化原料溶液及びけん化触媒溶液をスタティックミキサーを用いて混合し、混合物を得た。得られた混合物をベルト上に載置し、40℃の温度条件下でけん化反応を進行させた。けん化反応により得られたゲルを粉砕し、メタノール/酢酸メチル比が35/65(体積比)である洗浄液に含浸した後、遠心脱液機を用いて脱液し、重合体を得た。該重合体を樹脂温度が105℃となるように乾燥機内の温度を制御した乾燥機に連続的に供給した。乾燥機内の重合体の平均滞留時間は6時間であった。その後、目開き1.00mmのフィルターを通過するまで粉砕を行い、本発明の変性PVA(PVA−1)を得た。得られた変性PVAの粘度平均重合度は1700、けん化度は88.0モル%、1H−NMRスペクトル解析における変性量(X)は0.4モル%、変性量(Y)は0.04モル%であり、その比(Y/X)は0.10であった。また得られた変性PVA全体のうち、目開き1.00mmのフィルターを通過した割合は99.0質量%であり、目開き500μmのフィルターを通過した割合は56.0質量%であった。さらに、上述したヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて算出したPVA中のメタノール含有量は0.9質量%であり、上述した方法で測定した、水溶液に不溶な成分の量(水不溶分量)は700ppmであった。得られたPVA−1の分析結果を表2に示す。
[合成例2〜10]
表1及び表2に記載した条件に変更したこと以外は、合成例1のPVA−1の製造方法と同様の方法により、PVA−2〜PVA−10を得た。得られた変性PVAの分析結果を表2に示す。
Figure 2019112541
Figure 2019112541
[実施例1]
(水性エマルジョン用分散安定剤の調製、水性エマルジョン組成物の製造)
還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を292.0g、PVA−1を10.7g、酢酸ナトリウムを0.2g仕込み90℃で1時間撹拌し完全に溶解して水性エマルジョン用分散安定剤の水溶液を得た。次に、この分散安定剤の水溶液を冷却、窒素置換後、200rpmで撹拌しつつ80℃に昇温した後、2%過硫酸カリウム水溶液9.6gを添加し、酢酸ビニル163.6gを4時間かけて連続的に滴下し、乳化重合を開始した。乳化重合開始30分後から2%過硫酸カリウム8.6gと5%のPVA−1水溶液114gを4時間連続的に滴下し、乳化重合を完結させた。水性エマルジョン組成物として、固形分濃度29.5%の酢酸ビニルエマルジョンが得られた。得られた水性エマルジョン組成物について、以下の基準により粘度、メタノール含有量及び塗工性を評価した。結果を表3に示す。
[水性エマルジョン組成物の粘度]
得られた水性エマルジョン組成物について、BH型粘度計(東機産業社のBII型粘度計)を用いて、30℃、2rpmの条件下における粘度を測定した。
[水性エマルジョン組成物のメタノール含有量]
得られた水性エマルジョン組成物中に存在するメタノール含有量をヘッドスペースガスクロマトグラフィーを用いて、以下の方法で決定した。
<検量線の作成>
イソプロピルアルコールを内部標準として、メタノール含有量が既知の水溶液を3種類準備し、ヘッドスペースサンプラー(Turbo Matrix HS40、Parkin Elmer社製)を装着したガスクロマトグラフ(GC−2010、島津製作所製)を用いて測定を行い、検量線を作成する。
<水性エマルジョン組成物中に存在するメタノール含有量の測定>
得られた水性エマルジョン組成物を10mg測りとり、バイアル瓶中に投入する。キャップをバイアル瓶に取り付け、ロックがかかるまで締め付けた後、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーにて測定を行い、前記のようにして作成した検量線から水性エマルジョン組成物中のメタノール含有量を決定した。
[水性エマルジョン組成物の塗工性]
塗工用ハンドローラーを用いて、平滑な木板上に得られた水性エマルジョン組成物を塗布した。目視で異物のあり、なしを評価した。
A:異物なし
B:異物あり
[実施例2〜4、及び比較例1〜5]
(分散安定剤の調製、水性エマルジョン組成物の調製)
前記用いたPVA−1の種類を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして水性エマルジョン用分散安定剤を調製し、水性エマルジョン組成物を製造した。得られた水性エマルジョン組成物の固形分濃度を表3に示す。得られた水性エマルジョン組成物について、実施例1と同様の方法により粘度、メタノール含有量及び塗工性を評価した。結果を表3に示す。なお、比較例3のPVA−8は水溶液に不溶な成分が多かったため、水性エマルジョン組成物の製造を中断した。比較例5のPVA−10は水溶液に不溶な成分が多く、また、変性量が多かったため、水性エマルジョン組成物の製造途中で重合安定性が悪くなり、重合を中断した。
[実施例5]
(分散安定剤の調製、水性エマルジョン組成物の調製)
還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素吹込口を備えた1リットルガラス製重合容器に、イオン交換水を270g、PVA−5を30g入れ、90℃で1時間撹拌し、完全に溶解して水性エマルジョン用分散安定剤の水溶液を得た。得られた分散安定剤の水溶液70gと、比較例1で得られた水性エマルジョン組成物30gとを混合し、新たな水性エマルジョン組成物を製造した。得られた水性エマルジョン組成物の固形分濃度を表3に示す。得られた水性エマルジョン組成物について、実施例1と同様の方法により粘度、メタノール含有量及び塗工性を評価した。結果を表3に示す。
Figure 2019112541
比較例1は、無変性のPVAであったため、高粘度なエマルジョンが得られなかった。比較例2は、変性PVA中のメタノール含有量が多かったため、得られた水性エマルジョン組成物中のメタノール含有量も多く、環境負荷の高いものであった。比較例4は、変性PVA中の水溶液に不溶な成分の量が多かったため、得られた水性エマルジョン組成物の塗工性が悪かった。
本発明の水性エマルジョン用分散安定剤は、水溶液に不溶な成分の量が微量であり、メタノール含有量が低減されているため環境にも配慮されている。さらに当該水性エマルジョン用分散安定剤を用いて得られる水性エマルジョン組成物は高粘度であり、塗工性に優れ、メタノール含有量が低減されているため、各種接着剤、紙用加工剤、無機物バインダー、セメント混和剤、モルタルプライマー等に好適に用いられる。

Claims (7)

  1. エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)が0.05モル%以上10モル%以下であり、けん化度が80.0モル%以上99.9モル%以下であり、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定した場合のメタノール含有量が3.0質量%未満であり、かつ、90℃、濃度5質量%の水溶液に不溶な成分の量が0.1ppm以上2000ppm未満である変性ビニルアルコール系重合体(A)を含有する、水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
  2. 前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)が、エチレン性不飽和ジカルボン酸のモノエステル、ジエステル又は無水物である、請求項1に記載の水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
  3. 前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)が、マレイン酸モノアルキルエステル、マレイン酸ジアルキルエステル、無水マレイン酸、フマル酸モノアルキルエステル、及びフマル酸ジアルキルエステルからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
  4. 前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の少なくとも一部が、下記式(I)
    Figure 2019112541
    (式中、R1は、水素原子、又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基であり、R2は、金属原子、水素原子又は炭素数1〜8の直鎖状あるいは分岐状のアルキル基である。)
    で表される構造単位であり、前記エチレン性不飽和ジカルボン酸の誘導体(a1)に由来する構造単位の含有量(X)と式(I)で表される構造単位の含有量(Y)の値が下記式(Q)を満たす、請求項1〜3のいずれかに記載の水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
    0.05≦Y/X<0.98 (Q)
  5. 前記変性ビニルアルコール系重合体(A)は、目開き1.00mmの篩を通過する量が全体の95質量%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載の水性エマルジョン組成物用分散安定剤。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の水性エマルジョン組成物用分散安定剤及びエチレン性不飽和単量体単位を含む重合体(B)を含み、ヘッドスペースガスクロマトグラフィーで測定した場合のメタノール含有量が0.1質量%未満である水性エマルジョン組成物。
  7. 前記エチレン性不飽和単量体が、ビニルエステル系単量体、スチレン系単量体及びジエン系単量体からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項6に記載の水性エマルジョン組成物。
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