JP2019111529A - 複合半透膜、複合半透膜エレメント及び複合半透膜エレメントの使用方法 - Google Patents

複合半透膜、複合半透膜エレメント及び複合半透膜エレメントの使用方法 Download PDF

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Abstract

【課題】膜面への無機スケール付着量を抑制し、高い造水性及び高い脱塩性能を長期にわたって保持可能である、複合半透膜を提供すること。【解決手段】本発明は、基材と、多孔性支持体と、ポリアミドを主成分とする分離機能層と、からなり、上記分離機能層の表面を、pH8及びNaCl10mMの条件で測定したゼータ電位が、正の値であり、上記分離機能層の表面から深さ5nmまでの解離カルボキシル基量が、pH8の条件で1.0〜10mmol/kgである、複合半透膜を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、複合半透膜、複合半透膜エレメント及び複合半透膜エレメントの使用方法に関する。
混合物の分離に関して、溶媒(例えば水)に溶解した物質(例えば塩類)を除くための技術には様々なものがあるが、近年、省エネルギー及び省資源のためのプロセスとして、膜分離法の利用が拡大している。膜分離法に使用される膜には、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜、逆浸透膜等があり、これらの膜は、例えば海水、かん水、有害物を含んだ水等から飲料水を得る場合や、工業用超純水の製造、排水処理、有価物の回収等に用いられている。
特に、逆浸透膜としては、架橋ポリアミド重合体を分離機能層として有する複合半透膜が提案されており、逆浸透ろ過には、スパイラル型分離膜エレメントが広く用いられる。スパイラル型分離膜エレメントは、集水管と、集水管の周囲に巻き付けられた積層体とを備える。積層体は、供給水を分離膜表面へ供給する供給側流路材、供給水に含まれる成分を分離する分離膜、及び、分離膜を透過し供給水から分離された透過水を集水管へと導くための透過側流路材が積層されることで形成される。スパイラル型分離膜エレメントは、供給水に圧力を付与することができるので、透過水をより多く取り出すことができる点で好ましく用いられている。
エレメントを実運転する際は、回収率(供給水に対する透過水の割合)を高めた運転が、捨て水量低減等の理由から好まれるが、供給水中のイオンが膜面近傍においてより濃縮され、カルシウム・マグネシウムスケール等の難溶塩すなわち無機スケールが析出する。この無機スケールの付着による膜面被覆・損傷は、急激な造水性と脱塩性能の低下とを引き起こし、スパイラル型分離膜エレメント寿命が短くなるトラブルが度々起こることが問題視されている。
一方で、供給側流路材の厚みを薄くすることで供給水流速を向上させ、無機スケールの付着を抑制し、スパイラル型分離膜エレメント長寿命化を達成した例(特許文献1及び2)が知られている。
特開平10−230150号 国際公開第2014/003170号
しかしながら無機スケールが付着する、逆浸透膜の表面そのものを改質することで、無機スケールの付着を抑制する例は、これまでに提案されていないのが現状であった。
そこで本発明は、膜面への無機スケール付着量を抑制し、高い造水性及び高い脱塩性能を長期にわたって保持可能である、複合半透膜を提供することを目的とする。
上記目的を達成するための本発明は、次の(1)〜(5)の構成を採る。
(1) 基材と、多孔性支持体と、ポリアミドを主成分とする分離機能層と、からなり、上記分離機能層の表面を、pH8及びNaCl10mMの条件で測定したゼータ電位が、正の値であり、上記分離機能層の表面から深さ5nmまでの解離カルボキシル基量が、pH8の条件で1.0〜10mmol/kgである、複合半透膜。
(2) 親水性分子を含有し、かつ、含水率が1〜20%である、上記(1)に記載の複合半透膜。
(3) 上記親水性分子として、糖鎖化合物又はアルコール類を含有する、上記(2)に記載の複合半透膜。
(4) 上記分離機能層は、表面に複数の突起を有し、上記複数の突起の平均高さが10〜100nmであり、かつ、上記複数の突起の高さの標準偏差が40nm以下である、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の複合半透膜。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれかに記載の複合半透膜を備える、複合半透膜エレメント。
(6) 上記(5)に記載の複合半透膜エレメントを用いて、供給水量の60%以上を造水する、複合半透膜エレメントの使用方法。
本発明によって、膜表面にカルシウムスケール等の無機スケール(難溶塩)が付着しにくくなる構成となり、特にエレメントの高回収率運転において、スケール析出を抑制し、長期にわたり造水性や脱塩性能に優れた複合半透膜エレメントを得ることができる。
分離機能層がその表面に有する、複数の突起を模式的に示す断面図である。 複合半透膜エレメントの一例を示す展開図である。
1.複合半透膜
(1−1)支持膜
本発明において支持膜は、実質的にイオン等の分離性能を有さず、実質的に分離性能を有するポリアミド分離機能層に強度を与えるためのものである。微多孔性である支持膜の孔のサイズや分布は特に限定されないが、例えば、均一で微細な孔、又は、ポリアミド分離機能層が形成される側の表面からもう一方の面まで徐々に大きくなるような微細孔を持ち、かつ、ポリアミド分離機能層が形成される側の表面で微細孔の大きさが0.1〜100nmであるような支持膜が好ましい。
支持膜に使用する材料やその形状は特に限定されないが、本発明における支持膜は、基材と、多孔性支持体と、からなる膜であり、より具体的には、基材上に多孔性支持体を形成した膜である。
上記の基材としては、例えば、ポリエステル又は芳香族ポリアミドを主成分とする布帛が例示される。
上記の布帛としては、長繊維不織布又は短繊維不織布を好ましく用いることができる。基材上に高分子重合体溶液を流延した際に、それが過浸透により裏抜けしたり、基材と多孔性支持体とが剥離したり、さらには基材の毛羽立ち等により膜の不均一化やピンホール等の欠点が生じたりすることがないような優れた製膜性が要求されることから、長繊維不織布をより好ましく用いることができる。
上記の長繊維不織布としては、例えば、熱可塑性連続フィラメントより構成される長繊維不織布等が挙げられる。基材が長繊維不織布からなることにより、短繊維不織布を用いたときに起こる、毛羽立ちによって生じる高分子溶液流延時の不均一化や、膜欠点を抑制することができる。また、複合半透膜を連続製膜する工程において、基材の製膜方向に張力がかけられることからも、寸法安定性に優れる長繊維不織布が好ましい。
特に、多孔性支持体とは反対側の基材の繊維の配向が、製膜方向と平行であることにより、基材の強度を保ち、膜破れ等を防ぐことができるので好ましい。
複合半透膜や複合半透膜エレメントの製造の過程においては、基材を含む複合半透膜等が加熱され収縮する場合があるため、熱寸法変化率が小さい素材の基材が好ましい。
基材の通気度は、複合半透膜の造水性を高めるため、2.0cc/cm/sec以上であることが好ましい。通気度は、JIS L1096(2010)に基づき、フラジール形試験機によって測定できる。例えば、200mm×200mmの基材をフラジール形試験機に取り付け、傾斜形気圧計が125Paの圧力になるように吸込みファン及び空気孔を調整し、このときの垂直形気圧計の示す圧力と使用した空気孔の種類から基材を通過する空気量、すなわち通気度を算出することができる。フラジール形試験機は、カトーテック株式会社製のKES−F8−AP1等が使用できる。
基材の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30〜120μmの範囲内である。
多孔性支持体の素材としては、例えば、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド、ポリエステル、セルロース系ポリマー、ビニルポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン若しくはポリフェニレンオキシド等のホモポリマー又はコポリマーを単独であるいはブレンドして使用することができる。
セルロース系ポリマーとしては、例えば、酢酸セルロース又は硝酸セルロース等、ビニルポリマーとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル又はポリアクリロニトリル等が使用できる。中でも、ポリスルホン、ポリアミド、ポリエステル、酢酸セルロース、硝酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリフェニレンスルフィド若しくはポリフェニレンスルフィドスルホン等のホモポリマー又はコポリマーが好ましい。中でも、ポリスルホン、酢酸セルロース若しくはポリ塩化ビニル、又は、それらを混合したものが好ましく使用され、化学的、機械的、熱的に安定性の高く、孔径制御の容易で寸法安定性が高い、ポリスルホンを使用するのが特に好ましい。
また、多孔性支持体の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは20〜100μmの範囲内である。多孔性支持体の厚みが10μm以上であることで、良好な耐圧性が得られると共に、欠点のない均一な支持膜を得ることができる。また多孔性支持体の厚みが200μm以下であることで、多孔性支持体形成時の未反応物質の残存が抑制されるため、透過水量が低下せず、耐薬品性の低下を防ぐことができる。
基材上に多孔性支持体を形成した支持膜の厚みは、複合半透膜の強度及びそれをエレメントに充填したときの密度に影響を与える。複合半透膜が十分な機械的強度及び充填密度を得るためには、支持膜の厚みは30〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは50〜250μmの範囲内である。
基材や多孔性支持体の厚みは、走査型電子顕微鏡により観察し測定することができる。より具体的には、凍結割断法で切断したサンプルの断面に白金、白金−パラジウム又は四塩化ルテニウムを薄くコーティングして、3〜6kVの加速電圧で、高分解能電界放射型走査電子顕微鏡(UHR−FE−SEM)で観察し、無作為に選択した5箇所の厚みの平均値として算出することができる。高分解能電界放射型走査電子顕微鏡としては、日立製のS−900型電子顕微鏡等が使用できる。
上記の支持膜としては、ミリポア社製の“ミリポアフィルターVSWP”(商品名)又は東洋濾紙社製の“ウルトラフィルターUK10”(商品名)のような市販品を用いても構わないし、“オフィス・オブ・セイリーン・ウォーター・リサーチ・アンド・ディベロップメント・プログレス・レポート”No.359(1968)に記載された方法に従って製造しても構わない。
上記の基材、多孔性支持体及び複合半透膜の厚みは、尾崎製作所株式会社のPEACOCK等のデジタルシックネスゲージによって測定することができる。より具体的には、無作為に選択した20箇所についてデジタルシックネスゲージで厚みを測定し、その平均値を複合半透膜等の厚みとすることができる。なお、後述するポリアミド分離機能層の厚みは支持膜と比較して非常に薄いので、複合半透膜の厚みを、支持膜の厚みとみなすこともできる。
(1−2)ポリアミド分離機能層
本発明の複合半透膜において、実質的にイオン等の分離性能を有するのは、ポリアミドを主成分とする分離機能層(以下、「ポリアミド分離機能層」)である。
分離機能層の主成分であるポリアミドは、例えば、多官能性アミンと多官能性酸ハロゲン化物との界面重縮合により形成することができる。ここで、多官能性アミン又は多官能性酸ハロゲン化物の少なくとも一方が、3官能以上であることが好ましい。
ポリアミド分離機能層の厚みは、十分な分離性能及び透過水量を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内、好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内である。
ここで、多官能性アミンとは、一分子中に少なくとも2個の第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有し、そのアミノ基のうち少なくとも1つが第一級アミノ基であるアミンをいい、例えば、2個のアミノ基がオルト位、メタ位又はパラ位のいずれかの位置関係でベンゼン環に結合した、フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸、3−アミノベンジルアミン若しくは4−アミノベンジルアミン等の芳香族多官能アミン、又は、エチレンジアミン、プロピレンジアミン等の脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4−アミノピペリジン若しくは4−アミノエチルピペラジン等の脂環式多官能アミン等が挙げられる。
中でも、膜の選択分離性、透過性又は耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の第一級アミノ基及び/又は第二級アミノ基を有する芳香族多官能アミンが好ましい。このような芳香族多官能アミンとしては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン等が好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、「m−PDA」)がより好ましい。
これらの多官能性アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いても構わない。2種以上を同時に用いる場合、上記の多官能性アミンと、一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとを組み合わせても構わない。一分子中に少なくとも2個の第二級アミノ基を有するアミンとしては、例えば、ピペラジン又は1,3−ビスピペリジルプロパン等が挙げられる。
多官能性酸ハロゲン化物とは、一分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。3官能酸ハロゲン化物としては、例えば、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド若しくは1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリド等が挙げられ、2官能酸ハロゲン化物としては、例えば、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド若しくはナフタレンジカルボン酸クロリド等の芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド若しくはセバコイルクロリド等の脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド若しくはテトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリド等の脂環式2官能酸ハロゲン化物が挙げられる。
多官能性アミンとの反応性を考慮すると、多官能性酸ハロゲン化物は多官能性酸塩化物であることが好ましく、膜の選択分離性及び耐熱性を考慮すると、一分子中に2〜4個の塩化カルボニル基を有する多官能性芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、トリメシン酸クロリドがより好ましい。これらの多官能性酸ハロゲン化物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いても構わない。
また添加物として、単官能性酸ハロゲン化物若しくは1つの酸クロリド基が加水分解したトリメシン酸クロリド、又は、2つの酸クロリド基が加水分解したトリメシン酸クロリドを用いても構わない。このような単官能性酸ハロゲン化物としては、例えば、ベンゾイルフルオリド、ベンゾイルクロリド、ベンゾイルブロミド、メタノイルフルオリド、メタノイルクロリド、メタノイルブロミド、エタノイルフルオリド、エタノイルクロリド、エタノイルブロミド、プロパノイルフルオリド、プロパノイルクロリド、プロパノイルブロミド、プロペノイルフルオリド、プロペノイルクロリド、プロペノイルブロミド、ブタノイルフルオリド、ブタノイルクロリド、ブタノイルブロミド、ブテノイルフルオリド、ブテノイルクロリド又はブテノイルブロミド等が挙げられる。これらの添加物は、単独で用いても、2種以上を同時に用いても構わない。
本発明の複合半透膜は、その構成要素の一つであるポリアミド分離機能層の表面を、pH8及びNaCl10mMの条件で測定したゼータ電位が、正の値であることを特徴とする。
上記条件で測定したゼータ電位を好適なものに調整する方法としては、例えば、ポリアミド分離機能層を形成した後に、一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能性アミンを、縮合剤を用いて膜面に縮合させる方法が挙げられる。
一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能性アミンは、単独で用いても、2種以上を同時に用いても構わない。多官能性アミンは、質量濃度で0.001〜1質量%の水溶液として使用するのが好ましい。多官能性アミンの濃度が0.001質量%であれば、ポリアミド分離機能層の表面に存在するカルボキシル基等の官能基と、多官能性アミンとを十分に反応させることができる。一方で、多官能性アミンの濃度が1質量%を超えると、多官能性アミンの層が厚くなるため、造水量が低下する場合がある。
一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能性アミンとしては、m−PDA、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン又はエチレンジアミン(以下、「EDA」)等が好適に用いられる。
一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能性アミンの水溶液には、必要に応じて他の化合物を混合しても構わない。例えば、ポリアミド分離機能層の表面に存在する官能基と、多官能性アミンとの縮合反応を促進するため、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム又はリン酸ナトリウム等のアルカリ性金属化合物を添加しても構わない。また、ポリアミド分離機能層中に残存する、疎水性の有機溶媒や、多官能酸ハロゲン化物又は多官能性アミン化合物等のモノマーの反応で生じたオリゴマー等を除去するために、ドデシル硫酸ナトリウム又はベンゼンスルホン酸ナトリウム等の界面活性剤を添加することも好ましい。
水中で、ポリアミド分離機能層の表面に存在するカルボキシル基を活性化させ、多官能性アミンが有するアミノ基との縮合反応を促進させる、縮合剤を添加しても構わない。縮合剤としては、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、1,3−ビス(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イルメチル)カルボジイミド又は4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジン−2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリド(以下、「DMT−MM」)が挙げられる。中でも、縮合反応時の安定性、及び、縮合反応後の副生成物の毒性の低さ等から、DMT−MMが特に好ましく用いられる。
一分子中に2個以上のアミノ基を有する多官能性アミンと、縮合剤とを含む水溶液中の縮合剤の濃度は、活性化させるべきカルボキシル基の濃度より高ければ特に制限はなく、十分な効果を得ることができる。また該水溶液のpHは、2〜12であることが好ましい。水溶液のpHを上記範囲内とすることで、酸やアルカリによる膜の劣化を抑制し、複合半透膜の塩除去性能を維持することができる。
本発明の構成要素の一つであるポリアミド分離機能層の表面が、一定の条件下において正の値を取るゼータ電位とは、超薄膜層表面の正味の固定電荷の尺度であり、下記の式(1)、すなわちヘルムホルツ・スモルコフスキー(Helmholtz−Smoluchowski)の式によって求めることができる。
式(1)中、Uは電気移動度、εは溶液の誘電率、ηは溶液の粘度である。ここで、溶液の誘電率ε及び粘度ηは、測定温度での文献値を使用することができる。
ゼータ電位の測定原理について説明する。材料に接した(水)溶液には、材料表面の電荷の影響で、表面の近傍に流動できない静止層が存在する。ゼータ電位は、材料の静止層と流動層との境界面(すべり面)での、溶液に対する電位である。
ここで、石英ガラスセル中の水溶液を考えると、セル表面は通常負に荷電されているため、セル表面付近に正荷電のイオンや粒子が集まる。一方、セルの中心部には、負荷電のイオンや粒子が多くなり、セル内でイオン分布が生じている。この状態で電場をかけると、セル内ではイオン分布を反映し、セル内の位置で異なる泳動速度でイオンが動く(電気浸透流という)。この泳動速度はセル表面の電荷を反映したものであるので、この泳動速度分布を求めることにより、セル表面の電荷(表面電位)を評価することができる。
ゼータ電位の測定は、大きさ20mm×30mmの複合半透膜サンプルを用い、電気泳動させるための標準粒子として、表面をヒドロキシプロピルセルロースでコーティングしたポリスチレン粒子(粒径520nm)を、pH8、かつ、所定濃度である110mMに調整したNaCl水溶液に分散させて測定することができる。ゼータ電位の測定装置としては、例えば、大塚電子製の電気泳動光散乱光度計ELS−8000等が挙げられる。
ポリアミド分離機能層には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物とに由来する未反応のアミノ基とカルボキシル基とが含まれ、それら官能基の解離度によって、表面のゼータ電位の値が変化する。
ポリアミド分離機能層中の解離カルボキシル基数密度は、下記のとおりラザフォート後方散乱(以下、「RBS」)測定によって分析することが可能である。また測定方法は、特許文献である国際公開第2014/014664号公報を参考にできる。
(i)複合半透膜サンプル作製方法:
3cm×3cm角に切り出した複合半透膜を脱イオン水中で30分間煮沸し、その後、50質量%のメタノール水溶液に15時間浸漬する。次にpHを12に調整した硝酸銀水溶液(1×10−4mol/L)に30分浸漬する。さらに複合半透膜に結合していない銀を洗い流すため乾燥したメタノールに浸漬し、窒素雰囲気下に30分以上置いた後、複合半透膜サンプルとしてRBS測定に用いる。
(ii)RBS測定方法:
複合半透膜サンプルを導電性の両面テープに固定し、以下の装置及び測定条件にて行う。
装置:National Electrostatics Corporation製 Pelletron3SDH
測定条件
測定モード:RBS単独測定
入射イオン : He++
入射エネルギー : 2300keV
入射角 : 0°
散乱角 : 160°
試料電流 : 4nA
ビーム径 : 2mmφ
面内回転 : 無
照射量 : 44.8μC
RBS測定結果の解析においては、銀の原子数密度がカルボキシル基数密度に対応すると仮定する。RBS測定においては、複合半透膜サンプル内部での入射イオンのエネルギー変化が、「イオンが通過した距離」ではなく、「イオンが通過した範囲内にある構成原子の密度(atoms/cm)」すなわち面密度に依存しており、この測定値を深さに換算するためには、「試料の単位体積当りの原子数(atoms/cm)」すなわち原子数密度が必要になる。換算式は下記の式(2)のとおりである。
本発明者らは鋭意検討した結果、RBS測定したポリアミド分離機能層の表面から深さ5nmまでの解離カルボキシル基量が、pH8の条件で1.0〜10mmol/kgであることにより、膜面への無機スケール付着量を大幅に削減できることを見出した。
無機スケールの主成分となるカルシウムカチオンやマグネシウムカチオンは、カルボキシル基と強固に相互作用するため、カルボキシル基はスケール核形成の起点となりやすい。このため、深さ5nmまでの解離カルボキシル基量が、pH8の条件で10mmol/kg以下であると、スケール発生起点数を大幅に削減でき、スケール生長が起こり難い構成となる。
一方で、カルボキシル基は、その親水性から多くの中間水を保持しており、複合半透膜の造水性の確保のため、深さ5nmまでの解離カルボキシル基量が、pH8の条件で1.0mmol/kg以上存在していることが好ましい。
本発明の複合半透膜は、透水性を確保するために、親水性分子を含有し、乾燥処理を施しても構わない。親水性分子は、複合半透膜の分離機能層及び多孔性支持体に含まれ、かつ、基材にも含まれる。
親水性分子を含有する複合半透膜に乾燥処理を施し、乾燥状態とすることで、さらなる透水性向上効果の他に、長期保管性(カビ発生抑制)や複合半透膜の軽量化が期待できる。ここで乾燥状態とは、親水性分子を含有する複合半透膜の含水率が、1〜20%であることをいう。一定程度の透水性を確保するため、親水性分子を含有する複合半透膜の含水率は、1%以上であることが好ましい。一方で、親水性分子を含有する複合半透膜の含水率が20%以下であることで、長期保管時のカビ発生を抑制することが可能となる。
親水性分子を含有する複合半透膜の含水率は、(乾燥処理前の複合半透膜の質量−乾燥状態の複合半透膜の質量)/乾燥処理前の複合半透膜質量×100(%)で表される。
ここで親水性分子とは、水に可溶である化合物をいい、より具体的には、水に対して質量比で100分の1以上溶解する化合物をいう。
親水性分子としては、糖鎖化合物又はアルコール類が好ましい。
糖鎖化合物としては、例えば、グルコース、マンニトール、ソルビトール、デキストリン、トレハロース、ガラクトース、キシリトール、乳糖、ヒアルロナン又はコンドロイチン硫酸等が挙げられる。複合半透膜の乾燥処理による性能低下が小さいという観点から、糖鎖化合物としては、単糖類、二糖類又は三糖類が好ましく、グルコース、スクロース、マルトース、ラクトース、トレハロース又はラフィノースがより好ましい。
アルコール類としては、例えば、メタノール、エタノール若しくは2−プロパノール等の単価アルコール、エチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール若しくはポリブチレングリコール等のグリコール類、グリセリン、ポリグリセリン、ポリビニルアルコール、ジグリセリン誘導体、グリセリン脂肪酸エステル又はポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられ、中でも、複合半透膜の乾燥処理による性能低下が小さいという観点から、ポリビニルアルコール、グリコール類、グリセリン又はポリグリセリンからなる群から選ばれる少なくとも1種の多価アルコールが好ましい。なお、グリセリン脂肪酸エステルやポリグリセリン脂肪酸エステルは水に可溶であれば特に限定されないが、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸又はエルカ酸等が挙げられる。
親水性分子としては他にも、可溶性コラーゲン、エラスチン若しくはケラチン等のタンパク質加水分解物、ポリグルタミン酸、ピロリドンカルボン酸ナトリウム等のカルボン酸若しくはその塩類、アロエエキス、黒砂糖エキス、海藻エキス、酵母エキス、コメヌカエキス、ダイズエキス、エイジツエキス、クララエキス、クチナシエキス、オタネニンジンエキス、カワラヨモギエキス、ローズマリーエキス、ビフィズス菌発酵エキス又はヒトオリゴペプチド等保湿作用を有する各種動植物エキスを使用しても構わない。
さらに親水性分子として、ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアリルアミン、ポリエチレンイミン、ポリエピアミノヒドリン、アミン変性ポリエピクロルヒドリン、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸アミド又はセルロース誘導体等を用いることもできる。
上述した親水性分子は単独又は組み合わせて使用しても構わない。
本発明の複合半透膜における分離機能層は、その表面に複数の突起を有することが好ましく、その表面が、全体としてひだ構造であることがより好ましい。
複数の突起の平均高さは、十分な透水性を担保するため、10nm以上であることが好ましく、分離機能層の表面積を抑制するため、100nm以下であることが好ましい。複数の突起の標準偏差は、分離機能層の表面積を抑制するため、40nm以下であることが好ましい。分離機能層の表面積が抑制されることで、スケール析出箇所が減り、複合半透膜エレメントの分離性能の低下が抑制できる。これらの値の測定方法を、以下に詳述する。
複合半透膜のサンプルをエポキシ樹脂で包埋し、OsOで染色したものをウルトラミクロトームで切断して、超薄切片を作製する。得られた超薄切片については透過型電子顕微鏡を用いて、加速電圧は100kV、観察倍率10,000倍の条件で、それぞれ分離膜の表面付近の断面画像を撮影する。
得られた断面画像の一例の一部を、図1に模式的に示す。図1に示す例では、複数の突起の存在により、断面画像で凸部と凹部とが連続的に繰り返される、ひだ構造の曲線が形成されている。断面画像における複合半透膜の膜面方向(膜の表面に略平行な方向)で無作為に2.0μm幅の領域選択し、この領域におけるひだ構造の曲線に基づき、ISO4287:1997で定義される粗さ曲線及び平均線を求める。ここで平均線とは、平均線と粗さ曲線とで囲まれる領域の面積の合計が、平均線の上下で等しくなるように描かれる直線である。
選択した2.0μm幅の領域において、上記平均線を基準線として、基準線に対し垂直上方向における突起高さHと、基準線に対し垂直下方向における方突起間の深さDをそれぞれ測定する。1〜5番目に大きい高さHの値を高さH1〜H5として、それらの平均値であるHavを算出し、1〜5番目に大きい深さDの値を深さD1〜D5として、それらの平均値であるDavを算出する。Hav+Davの値を、10点平均面粗さとする。
選択した2.0μm幅の領域において、10点平均面粗さの5分の1以上大きさである全ての突起の高さHの平均値を、「複数の突起の平均高さ」とし、10点平均面粗さの5分の1以上大きさである全ての突起の高さHの標準偏差を、「複数の突起の高さの標準偏差」とする
2.複合半透膜エレメント
本発明の複合半透膜エレメントは、本発明の複合半透膜を備えることを特徴とする。複合半透膜エレメントの構成の一例について、図1を参照しながら説明する。
図1に示すように、複合半透膜エレメント100は、複合半透膜2、供給側流路材3、透過側流路材4、集水管6、第一端板7及び第二端板8を備える。
複合半透膜2は、貼り合わされることで封筒状膜20を形成している。封筒状膜20は、集水管6の周囲にスパイラル状に巻き付けられることで、巻囲体26を形成している。巻囲体26の外周には、巻囲体26の保護のため、フィルム及びフィラメント等の他部材が巻き付けられていても構わない。
供給側流路材3は、複合半透膜2の供給側面に対向するように配置され、かつ、複合半透膜2と共に集水管6の周囲に巻き付けられる。供給側流路材3としては、例えば、ネットが好ましく用いられる。
透過側流路材4は、複合半透膜2の透過側面に対向するように配置され、かつ、複合半透膜2と共に集水管6の周囲に巻き付けられる。透過側流路材4としては、例えば、トリコット又は突起物固着シート等を用いることができる。
なお、複合半透膜における基材側の面に突起(透過側流路材に相当)が直接固着している場合は、透過側流路材4は、省略可能である。
集水管6は、中空の筒状部材であり、側面に複数の孔を有する。
第一端板7は、複数の供給口を備える円盤状の部材である。第一端板7は、巻囲体26の第1端に配置される。
第二端板8は、濃縮水の排出口と透過水の排出口とを備える円盤状の部材である。第二端板8は、巻囲体26の第2端に配置される。
複合半透膜エレメント100による流体の分離について説明する。供給水101は、第一端板7の複数の供給口から巻囲体26に供給される。供給水101は、複合半透膜2の供給側面において、供給側流路材3で形成された供給側流路内を移動する。複合半透膜2を透過した流体(図中に透過水102として示す)は、透過側流路材4によって形成された透過側流路内を移動する。集水管6に到達した透過水102は、集水管6の孔を通って集水管6の内部に入る。集水管6内を流れた透過水102は、第二端板8から外部へと排出される。一方、分離膜2を透過しなかった流体(図中に濃縮水103として示す)は、供給側流路を移動して、第二端板8から外部へと排出される。こうして、供給水101が、透過水102と濃縮水103とに分離される。
3.水処理システム
本発明の複合半透膜エレメントは、例えば、RO浄水器等の水処理システムに適用することができる。造水能・脱塩能に優れる分離膜を搭載し、かつ回収率(供給水量に対する透過水量の割合)を高く設定して運転する場合、膜面に濃縮されるイオン量が上昇し、それに伴い難溶性の無機スケールが発生する。しかしながら、本発明の複合半透膜エレメントでは、膜表面が正荷電を持ち、カルボキシル基量が少ないため、カルシウムカチオン及びマグネシウムカチオンが吸着し難く、スケールの発生を抑制できる。その結果として、回収率を60%以上に設定して運転しても長期にわたり、造水能・脱塩能に優れる複合半透膜エレメントを提供することが可能となる。
4.製造方法
以上に説明した本発明の複合半透膜の製造方法の一例を、以下に示す。例示した製造方法は、支持膜の形成工程及びポリアミド分離機能層の形成工程を備える。
(4−1)支持膜の形成工程
本例示における支持膜の形成工程は、基材に高分子溶液を塗布する工程と、高分子溶液を塗布した上記基材を凝固浴に浸漬させて高分子を凝固させる工程とを備える。
ここで高分子溶液は、多孔性支持体の成分である高分子を、その良溶媒に溶解したものである。多孔性支持層の表面構造を緻密に、かつ、均一にするため、高分子溶液における高分子濃度は、25質量%以上であることが好ましい。多孔性支持層の表面構造を緻密に、かつ、均一にすることで、多孔性支持層の表面に形成される分離機能層の表面において、複数の突起の平均高さ及び複数の突起の高さの標準偏差の値を小さくすることができる。
凝固浴としては、上記の高分子を溶解しない溶媒であれば特に限定されないが、通常水が使われる。
(4−2)ポリアミド分離機能層の形成工程
本例示におけるポリアミド分離機能層の形成工程は、下記(a)〜(d)の工程を備える。
(a) 多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する有機溶媒溶液とを用い、支持膜の表面で界面重縮合させることにより、架橋ポリアミド層を形成し、複合半透膜を得る工程
(b) 上記(a)で形成した架橋ポリアミド層の表面に多官能性アミンを導入する工程
(c) 上記(a)で形成した架橋ポリアミド層の第一級アミノ基と反応して、ジアゾニウム塩又はその誘導体を生成する試薬を反応させる工程
(d) 上記(a)で得られた複合半透膜を、親水性分子の水溶液に浸漬してから乾燥する工程
上記のステップ(b)では、多官能性アミンの導入により架橋ポリアミド層の表面の電荷を正の値にしており、上記のステップ(c)では、第一級アミノ基を官能基変換している。
(4−3)複合半透膜エレメントの製造方法
複合半透膜エレメントの製造方法としては、特公昭44−14216号公報、特公平4−11928号公報、又は、特開平11−226366号公報等に開示された方法を用いることができる。
(4−4)複合半透膜エレメントの使用
複数の複合半透膜エレメントを直列又は並列に接続して圧力容器に収納し、複合半透膜モジュールとして使用しても構わない。
また複合半透膜エレメント及び複合半透膜モジュールを、ポンプや前処理装置等と組み合わせて、例えば所期の水質の水を得るための、流体分離装置を構成しても構わない。
以下に実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
実施例及び比較例における各評価は、以下のとおり行った。
(塩除去率)
pH6.5に調整した塩化ナトリウム溶液500mg/Lを、操作圧力0.5MPaで複合半透膜に供給し、透過水中の塩濃度を測定した。複合半透膜による塩の除去率は、下記の式(3)から求めた。
(膜透過流束)
供給水(塩化ナトリウム溶液)の膜透過水量を、膜面1平方メートル当たり、1日当たりの透水量(立方メートル)でもって膜透過流束(m/m/日)を表した。
(複合半透膜エレメント性能)
供給水として、全炭素(TC)35ppm、全有機炭素(TOC)3.8ppm、TDS濃度350ppm、pH7.3の中国上海市水道水を用い、運転圧力0.41MPa、温度25℃の条件下で30分間運転した後に1分間のサンプリングを行い、1日当たりの透水量を造水量(m/日)として示した。また塩除去率は、上記の式(3)から求めた。
(回収率)
造水量の測定において、所定の時間に供給した供給水流量Vと、同時間での透過水量Vの比率を回収率(%)とし、V/V×100から算出した。
(無機スケール付着量)
総造水量3000Lに達した複合半透膜エレメントを解体し、複合半透膜表面の付着物を1質量%の硝酸水溶液で抽出し、日立株式会社製のP−4010型ICP(高周波誘導結合プラズマ発光分析)装置を用いて、無機成分(カルシウム、マグネシウム、バリウム)の合計吸着量(g)を測定し、複合半透膜エレメントの膜面積から無機スケール付着量(mg/m)を算出した。
(実施例1)
ポリエチレンテレフタレート繊維からなる不織布(繊度:1デシテックス、厚み:約90μm、通気度:1cc/cm/sec、密度0.80g/cm)上にポリスルホンの17.0質量%DMF溶液を180μmの厚みで室温(25℃)にてキャストし、ただちに純水中に浸漬して5分間放置し、80℃の温水で1分間浸漬することによって繊維補強ポリスルホン支持膜からなる、多孔性支持体(厚み130μm)ロールを作製した。
その後、多孔性支持体の表面をm−PDAの2.2質量%水溶液中に2分間浸漬してから、垂直方向にゆっくりと引き上げた。さらに、エアーノズルから窒素を吹き付けることで、支持膜表面から余分な水溶液を取り除いた。
その後、トリメシン酸クロリド0.08質量%を含むn−デカン溶液を、支持膜の表面が完全に濡れるように塗布してから、1分間静置した。その後、支持膜から余分な溶液をエアブローで除去し、80℃の熱水で1分間洗浄した。
その後、支持膜をpH3、35℃に調整した0.3質量%の亜硝酸ナトリウム水溶液に1分間浸漬した。なお、亜硝酸ナトリウムのpHの調整は硫酸で行った。次に20℃の純水で洗浄した。次に、m−PDA0.01質量%とDMT−MM0.1質量%を含む水溶液に20℃で24時間接触させ、界面重縮合させた後、水洗した。
その後、親水性分子であるグリセリンの水溶液で、85%に加湿した25℃の恒温装置内にて、複合半透膜を10分間静置することにより親水化処理を行った(以下、「親水化工程」)後、60℃で2分間の乾燥処理を行い(以下、「乾燥工程」)、複合半透膜ロールを得た。
このようにして得られた複合半透膜を、複合半透膜エレメントでの有効面積が0.45mになるように折り畳み断裁加工し、ネット(厚み:700μm、ピッチ:3mm×3mm、繊維径:0.35mm、投影面積比:0.18)を供給側流路材として挟み込み、次いでトリコット(厚み:260μm、溝幅:200μm、畦幅:300μm、溝深さ:105μm)を透過側流路材として積層して、254mmの幅を有する2枚の封筒状膜を作製した。
こうして得られた封筒状膜を集水管にスパイラル状に巻き付け、巻囲体を得た。巻囲体の外周にフィルムを巻き付け、テープで固定した後に、エッジカット及び端板取りつけを行うことで、2インチ複合半透膜エレメントを作製した。
(実施例2〜7)
界面重縮合させた多官能性アミン、縮合剤濃度、界面重縮合時間、親水化工程及び乾燥工程の有無、ポリスルホン濃度を表1のとおりに変更し、複合半透膜エレメントを作製した。
複合半透膜の性能を実施例1と同様に評価し、回収率を変更して複合半透膜エレメント性能を測定したところ、結果は表1のとおりであった。
(比較例1〜10)
界面重縮合させた多官能性アミン、縮合剤濃度、界面重縮合時間、親水化工程及び乾燥工程の有無、ポリスルホン濃度を表1のとおりに変更し、複合半透膜エレメントを作製した。
複合半透膜の性能を実施例1と同様に評価し、回収率を変更して複合半透膜エレメント性能を測定したところ、結果は表1のとおりであった。なお、比較例8では膜透過流速が著しく低く、複合半透膜の塩除去率及び複合半透膜エレメント性能を測定することができなかった。
本発明の複合半透膜は、特に、海水やかん水の脱塩に好適に用いることができる。
1 分離機能層
H1〜H5 突起の高さ
D1〜D5 突起間の深さ
2 複合半透膜
100 複合半透膜エレメント
101 供給水
102 透過水
103 濃縮水
20 封筒状膜
26 巻囲体
3 供給側流路材
4 透過側流路材
6 集水管
7 第一端板
8 第二端板

Claims (6)

  1. 基材と、多孔性支持体と、ポリアミドを主成分とする分離機能層と、からなり、
    前記分離機能層の表面を、pH8及びNaCl10mMの条件で測定したゼータ電位が、正の値であり、
    前記分離機能層の表面から深さ5nmまでの解離カルボキシル基量が、pH8の条件で1.0〜10mmol/kgである、複合半透膜。
  2. 親水性分子を含有し、かつ、含水率が1〜20%である、請求項1記載の複合半透膜。
  3. 前記親水性分子として、糖鎖化合物又はアルコール類を含有する、請求項2記載の複合半透膜。
  4. 前記分離機能層は、表面に複数の突起を有し、前記複数の突起の平均高さが10〜100nmであり、かつ、前記複数の突起の高さの標準偏差が40nm以下である、請求項1〜3のいずれか一項記載の複合半透膜。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項記載の複合半透膜を備える、複合半透膜エレメント。
  6. 請求項5記載の複合半透膜エレメントを用いて、供給水量の60%以上を造水する、複合半透膜エレメントの使用方法。
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Cited By (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2024135716A1 (ja) * 2022-12-21 2024-06-27 東レ株式会社 ポリアミド系半透膜の処理方法、半透膜エレメントの製造方法および処理装置ならびに半透膜エレメントを用いた流体処理方法および流体処理装置

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