以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において同一部には原則として同一符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
[課題等]
課題等について補足説明する。前述のように、従来技術のプラズマ処理装置として、ECR現象を用いてプラズマを発生する装置等が知られている。従来技術では、一般的に処理室の中心軸に沿った方向に静磁界が加えられる。マイクロ波によるECRが、マイクロ波の進行方向と平行な静磁界によって効率よく起きることが知られているためである。また、プラズマ発生用の電界のプラズマ中の波長は、静磁界によって調整できる。波長に合わせたアンテナを用いて電磁波を処理室に投入することでプラズマを効率よく発生させるヘリコン波という技術も実用化されている。
さらに、従来技術のプラズマ処理装置では、RFバイアス技術が用いられている。RFバイアス技術では、処理室内のプラズマ処理中の被処理基板が載せられた試料台の内部の電極である基板電極に、所定の周波数の高周波電力(RF電力)が供給される。これにより、被処理基板の上面の上方に、RF電力によるRFバイアス電位が形成される。そして、そのRFバイアス電位とプラズマの電位との電位差を利用して、プラズマ中のイオン等の荷電粒子を、被処理基板の表面に誘引して衝突させる。RFバイアス技術では、この際の物理的または化学的相互作用により、非処理基板のエッチング等の処理の高速化や品質向上を図る。例えば、プラズマエッチング処理の場合、被処理基板の被処理面に対し垂直にイオンが入射する。そのため、エッチングが被処理基板の垂直方向にのみ進む異方性の加工が達成される。
RFバイアス技術を利用する上では、被処理基板からプラズマを介して接地電位(対応するアース電極)に至る経路のインピーダンスが重要となる。被処理基板とプラズマとの間に形成されるシースは、非線形性のインピーダンスを持つことが知られている。このシース領域をRFバイアス電流が流れることで、被処理基板の直流電位が下がり、プラズマ中のイオンを引き込むことができる。従来技術のプラズマ処理装置でも、処理室には、RFバイアス電流を効率よく流すために、処理室内のプラズマに面する位置にアース電極が配置されていた。
一方で、一般的なプラズマは、プラズマが形成される処理室の壁面とプラズマの粒子とが接触することで失われる。そのため、処理室の壁面付近ではプラズマの密度が相対的に低く、壁面から離れた箇所では密度が高くなる。すなわち、処理室内での中心部から壁面に向かう方向でのプラズマ密度分布が不均一となる傾向がある。例えば、処理室等の半径方向で、中心部では密度が高く壁面付近では密度が低くなる分布、いわゆる中高の分布(凸分布)となる場合がある。このようにプラズマ密度分布の不均一がある場合、プラズマを用いて処理されるウエハ(半導体ウエハ)の上面の処理後の結果の形状が、ウエハ面内方向で不均一となってしまう課題が従来からあった。特に、処理室内にマイクロ波等の所定の周波数の高周波の電界とともに、静磁界を供給して、プラズマを形成するプラズマ処理装置では、処理室の中心部付近で密度が高くなる分布(凸分布)となる場合があった。
さらに、従来、処理室の側面にアース電極が配置されている構成がある。アース電極は、試料台に供給されるRFバイアス電位形成用のRF電力のアースとして機能する電極(アース部材とも記載する)である。この構成の場合、下記のような課題があった。前述のように、静磁界は、処理室の中心軸と平行な方向に加えられることが多い。そのことから、RF電力が供給される試料台の基板電極とアース電極との間を電気的に接続して形成される回路を流れる電流(RF電流、RFバイアス電流と記載する)は、静磁界の磁力線を横切ってアース電極へと流れる成分を多く持つ。このため、静磁界を加えたプラズマ中では、RF電流に対して磁力線の方向にはインピーダンスが低い一方で、磁力線の垂直方向にはインピーダンスが高くなることが知られている。そのため、アース電極と試料台の基板電極との間のRF電流は、プラズマ生成条件によってはインピーダンスが高いために、プラズマ中の荷電粒子を効率よく被処理基板の上面に誘引することが困難となる。
上記のような課題は、真空容器内の処理室にマイクロ波やUHF帯の電界を伝播して導入するとともに静磁界を導入してECRを用いてプラズマを形成する方式のプラズマ処理装置では特に生じやすい。すなわち、このような従来技術のプラズマ処理装置では、処理室の上方の導波路から電界が処理室内に放射されて導入される。そのため、処理室の下部に配置されている試料台の基板電極の上方で、試料台の上面に対向して面する処理室内の位置にアース電極を配置するには、困難が生じていた。
このような課題の解決に係わる先行技術例として、前述の特許文献1のプラズマ処理装置が挙げられる。この装置では、処理室の試料台の被処理基板の上方に、対向するように、アース電極として機能する円板形状の導体製の対向電極が設けられている。特許文献1では、被処理基板の上面からアース電極に至る高周波電流であるRFバイアス電流の経路長は、被処理基板の上面の複数の箇所で差が小さくされて均等に近付けることができる。このため、被処理基板の上面の複数の箇所におけるRFバイアス電流の大きさのばらつきが低減され、面内のRFバイアス電位の不均一が抑制される。
そのため、その装置では、プラズマを発生させるためのマイクロ波は、石英製のリング(石英リング)を通して外周を囲むリング状の空間から処理室内の中央部に向けて導入される。石英リングは、対向電極の下方に配置され、処理室の側壁を構成し、リング状、円筒状、または円錐台形状を有する。一方で、その装置では、対向電極を接地するための導通経路および導通部材として、石英リングの内部を貫通して複数のアース柱が配置されている。さらに、処理室に供給される反応ガスは、石英リングおよびこの石英リングが載せられたベースフランジの内部を貫通して形成された流路を通る。そして、その反応ガスは、対向電極の処理室に向く側に配置されているシャワープレートと対向電極との間の空間を介して、シャワープレートのガス供給口から下向きでシャワー状に処理室内に供給される。さらに、対向電極と基板(被処理基板)との間の距離は5〜50mmの範囲とされている。これにより、イオン密度や基板上の電界分布、電子密度の一定化に効果があり、望ましいとされている。
上記特許文献1のような従来技術例のプラズマ処理装置では、以下のような点について考慮が不十分であったため、いくつか課題が生じていた。この装置では、マイクロ波の導入窓に相当する石英リングの内部には、対向電極の電気的な導通用の経路として複数のアース柱が貫通して配置されている。一般に、マイクロ波は、金属等の導体面で反射されることが知られる。この装置では、石英リングを透過して処理室に導入しようとするマイクロ波の一部は、アース柱により反射されるので、プラズマを発生させる効率が損なわれる。また、この装置では、プラズマの形成に用いる処理用のガスを、石英リング内に設けられた流路を通して導入する。そのため、マイクロ波によってその流路内で意図しない放電を起こし、処理室内のプラズマの形成に悪影響を及ぼす恐れがあった。
また、その装置では、被処理基板と対向電極との距離を5〜50mmにした場合、石英リングの上下が対向電極とベースフランジとで挟まれた構造となる。一般に、マイクロ波の電界は、導電率の高い金属表面に対し垂直となる。そのため、石英リングの内側の処理室でのマイクロ波の電界は、上下方向を向く傾向となる。その一方で、静磁界も磁力線が概ね上下方向となるように導入されている。そのため、マイクロ波の電界の向きと静磁界の向きとが同じか近似した方向になる。このことから、処理室内でのマイクロ波は、O波の成分が多いものとなる。しかし、ECRは、静磁界とマイクロ波の電界とが平行な場合には起きないことが知られる。よって、ECRを用いてプラズマを形成する効率が損なわれてしまう課題が生じていた。上記のような課題について、特許文献1を含む従来技術では考慮されていなかった。
[概要等]
本発明者は、上記前提や課題等を踏まえ、検討によって以下のような知見を得た。すなわち、プラズマ処理装置において、円筒形状を有した処理室の半径方向の側面を通して処理室内にマイクロ波の電界を導入し、処理室の中心部付近にその電界が到達する前にプラズマ中で効率的に吸収させるようにする。これにより、従来の半径方向で処理室の中心部でのプラズマの密度が相対的に外周部での密度よりも高くなる、いわゆる中高の分布(凸分布)を、低減することができる。言い換えると、プラズマ密度分布を、より均一で平らな分布に近付けることができる。この際、静磁界を、処理室の上下方向に延びる中心軸に沿った平行な方向で導入するとともに、処理室の側壁を通して外周側から中心側に向けた方向でマイクロ波(その電界)を導入する。すると、マイクロ波(その電界)の進行方向と静磁界の方向とが概ね直交して略垂直になる。
そこで、本発明者によって、磁界が供給されたプラズマ中を伝播する電界の吸収の特性を検討した結果、X波で高域混成共鳴と呼ばれる現象が起きることが分かった。高域混成共鳴は、ECRと同様の共鳴現象であり、電磁波の電力がプラズマに強く吸収されるため、効率よくプラズマの生成が可能である。そこで、本発明者は、マイクロ波をX波として処理室に導入することで、高域混成共鳴によってマイクロ波の電力をプラズマに効率よく吸収させる構成を検討した。
プラズマ処理装置において、処理室内にプラズマを形成しつつ処理室内の試料台に試料が載せられた状態で、試料台の電極に高周波電力を供給して試料上にバイアス電位を形成する方式の装置では、以下が知られている。その装置で、プラズマに静磁界を供給している場合に、プラズマ中ではRFバイアス電力による電流が主に電子の移動によって流れる。電子はイオンに比べて軽く、高周波電力による電界にも、より敏感に反応するためである。また、静磁界中を運動する荷電粒子にはローレンツ力が働き、静磁界に垂直な方向には移動が妨げられる。このため、磁化プラズマ中でRFバイアス電位によって流れる電流は、静磁界の方向には流れやすいが、静磁界と垂直な方向には流れにくい異方性を示す。
効率よく試料にRFバイアス電力を印加するには、プラズマを介して試料上面とアース電極との間を流れるRF電流の経路が、静磁界に沿っていることが望ましい。このことから、本発明者は、本実施の形態のプラズマ処理装置の構成において、試料上面から処理室内を通って処理室の内壁面と交差する面に、RFバイアス電位形成用のアース電極を配置した。
このアース電極は、試料台の上方で試料台および試料の上面と対向して配置された、円板形状を有した導電性のアース部材である。また、このアース電極の周囲には、マイクロ波の電界が伝播および導入される空間が設けられている。このアース電極の外周端が、接地電位の箇所との間で導通するための導通部材(後述の柱)と接続され、かつ、その導通部材によってマイクロ波の電界の導入を妨げない構成を有する。さらに、この導通部材によってマイクロ波の電界が反射されることによる供給効率低下を防止するための構成として以下を有する。すなわち、上方から見た平面視で、このアース電極の周囲に配置された空間では、導通部材同士によって区画された開口の空間が構成されている。その開口の空間の寸法および形状は、マイクロ波の電界の半波長以上の寸法とした形状にされている。さらに、この開口の空間は、マイクロ波の電界の向きが、上方から見て半波長以上の寸法を持つ辺に対し概ね垂直となるように構成されている。
さらに、円板形状のアース部材には、処理室に面した下面の中央部付近に、ガス供給口またはガス供給用の貫通孔を持つシャワープレートが連結されてもよい。それとともに、アース部材および導通部材の少なくとも一方の部材における下側または内部には、処理室にガス(処理用ガス)を供給するための流路(ガス流路)が設けられていてもよい。そのガス流路は、真空容器の外部のガス供給系と接続されている。これにより、処理室内にガスが供給されるまでにガス流路内でマイクロ波の電界によって放電が生起することが抑制される。
また、処理室の側面には、円筒形状を有しマイクロ波の電界を透過する石英製の窓部材が配置されている。この窓部材の外周側で真空容器の側壁の内側には、窓部材を囲むようにリング状または円筒状に配置された空間が設けられている。この空間は、アース電極の外周側の空間と連通している。すなわち、それらの両方の空間を含む同軸状空洞が設けられている。
アース電極の上方の導波路から、アース電極の外周側の空間(第1同軸状空洞部)を通して、窓部材の外周側の空間(第2同軸状空洞部)内にマイクロ波が導入される。そのマイクロ波は、その空間内でX波に整形されて、半径方向で外周から中心に向けた方向で、窓部材を透過して処理室内に導入される。これにより、処理室内では、例えば半径方向での中心部と外周部(窓部材の内側壁面の付近)とでプラズマ密度が均一な分布になるようにプラズマが形成される。
(実施の形態)
図1〜図3を用いて、本発明の一実施の形態のプラズマ処理装置について説明する。なお、以下では、説明上、方向として、Z方向、R方向、C方向等を用いる。Z方向は、装置を構成する真空容器等の円筒や円柱や円板等における中心軸方向、鉛直上下方向に対応する。R方向は、水平方向のうち、円筒等における半径方向に対応し、C方向は、周方向に対応する。また、平面視とは、Z方向で水平面をみる場合を指す。
[(1)真空容器]
図1は、実施の形態のプラズマ処理装置1における構成の概略を模式的に示す縦断面図である。この縦断面は、真空容器302等の中心軸(一点鎖線で示す)を通る断面であり、R方向とZ方向とで成すR−Z平面で示される。図1のZ方向の矢印の起点が下側、矢側が上側を示す。R方向の矢印の起点が中心側、矢側が外周側を示す。なお、真空容器302等は、円筒形状等を有し、中心軸に対して概ね対称形状である。そのため、C方向の各位置での縦断面は概ね同様である。
プラズマ処理装置1は、特に、ECRを用いるプラズマエッチング装置である。このプラズマエッチング装置は、真空容器内で内部が減圧された処理室内に配置された半導体ウエハ等の基板状の試料(被処理基板214)をプラズマ処理する。この装置は、処理室内に処理用ガスを供給しつつ、所定の周波数のマイクロ波の電界、および磁界を供給して、処理用ガスの原子または分子を励起、解離させて、プラズマを形成する。そして、この装置は、そのプラズマを用いて、試料の上面に予め配置されたマスク層と処理対象の膜層とを含む膜構造における処理対象の膜層をマスク層に沿ってエッチング処理する。
プラズマ処理装置1は、真空容器302、プラズマ形成部、真空排気部、高周波電力供給部等を備える。真空容器302は、円筒形状部分を有した金属製の容器等で構成される。プラズマ形成部は、真空容器302の上方に配置されプラズマ形成用の電界が伝播する導波管を含む導波路と、導波管に接続され電界を生成する電波源と、処理室212および導波路の周囲を囲んで配置され磁界を生起する磁界発生器(特に静磁界発生装置)とを含む。真空排気部は、真空容器302の下方で真空容器内と連通されるように配置され真空容器302内の処理室212内を排気して減圧するターボ分子ポンプ等の真空ポンプを含む。高周波電力供給部は、基板電極215に接続される自動整合器218、RFバイアス電源217等を含む。
真空容器302は、処理室212、第1アース部材209、窓部材211、第2アース部材216等を有する。導波路は、円形導波管204、円筒空洞部208等を含む。静磁界発生装置は、ソレノイドコイル213を含む。真空容器302の上には円筒空洞部208等が接続されている。
処理室212は、真空容器302の内部に形成された、円筒形状の側壁等に囲まれた空間である。処理室212の上部では、上面に第1アース部材209が、側面に窓部材211および第2アース部材216が配置されている。処理室212の下部には、中心軸を含む中央部に、円柱形状の試料台を構成する基板電極215等が配置されている。
基板電極215は、試料台を構成する導体製の部材、電極である。基板電極215は、上面である載置面上に、処理対象の試料である被処理基板214(円板形状の半導体ウエハ)が載せられる。なお、試料台の内部に一部として基板電極215が設けられていてもよい。
基板電極215には、真空容器302の外部に配置されているRFバイアス電源217から自動整合器218を介してRFバイアス電位形成用のRFバイアス電力が供給される。RFバイアス電源217と基板電極215とが自動整合器218を介して電気的に接続されている。RFバイアス電源217は、マイクロ波帯よりも低い所定の周波数の高周波電力(RF電力)をRFバイアス電力として供給する。本例では、RFバイアス電源217が供給するRF電力の周波数として2MHzが用いられる。
基板電極215にRFバイアス電力が供給されることで、基板電極215上の被処理基板214の上面の上方に、RFバイアス電位が形成される。基板電極215と第1アース部材209との間で形成されるRFバイアス電位の電流の経路の一部を実線直線矢印で模式的に示す。基板電極215と第2アース部材216との間で形成されるRFバイアス電位の電流の経路の一部を実線曲線矢印で模式的に示す。
第1アース部材209は、処理室212の上方で処理室212の上面を覆うように配置されている円板形状を有した導電体製の部材である。第1アース部材209は、真空容器302の蓋部材および円筒空洞部208の底面を構成している。第1アース部材209は、円形の水平面である下面が、基板電極215および被処理基板214の上面と平行になるように、Z方向での所定の距離を持って対向して配置されている。第1アース部材209は、言い換えると、対向アース部材、アース電極である。第1アース部材209および第2アース部材216は、接地電位とされている。第1アース部材209のR方向の外周部の側面(外周端)は、柱301を通じて、真空容器302の側壁の内側壁面と物理的に接続され電気的に導通されている。第1アース部材209の外周部の下面は、窓部材211の上端と接続されている。
第1アース部材209の直径は、真空容器302の円筒形状部分の内径よりも所定の距離で小さい。それに対応して、R方向で同軸状空洞210(窓部材211と真空容器302の側壁との間の空間)のC方向に延在する部分の幅として所定の距離を有する。
第1アース部材209の外周端と真空容器302の円筒形状部分の内側壁面との間の空間は、後述のように、導波路の一部として、マイクロ波の電界が供給される空間(第1同軸状空洞部)となる。その空間(第1同軸状空洞部)には、後述の図2のように、複数の柱301が、両者を接続して導通するように配置されている。柱301は、導電体製の導通部材である。
さらに、第1アース部材209の外周部の下方には、石英製で円筒形状の窓部材211が配置されている。窓部材211は、処理室212の外周側で処理室212を囲んで配置されている部材である。窓部材211の外径は、真空容器302の円筒形状部分の側壁の内径よりも所定の距離で小さく、第1アース部材209の径と同程度である。
第1アース部材209の外周部の下方で、窓部材211の下端に接する位置には、第2アース部材216が配置されている。第2アース部材216は、外周の側面が真空容器302の内側壁面に接するように取り付けられている、リング状の導体製の部材である。第2アース部材216の内径は、窓部材211の内径と同程度である。処理室212の側壁として、Z方向で上側から下側へ窓部材211と第2アース部材216とが設けられている。
同軸状空洞210は、概略的に円筒形状またはリング形状を有する空洞である。窓部材211の外周側で、窓部材211を囲む、真空容器302の内側壁面との間の空間は、同軸状空洞210(特に第2同軸状空洞部)を構成している。この空間(第2同軸状空洞部)は、第1アース部材209と真空容器302の側壁との間の空間(第1同軸状空洞部)とZ方向で連通されている。この同軸状空洞210では、上方の導波路の部分(特に円筒状空洞部208)からのマイクロ波の電界が、開口の空間(第1同軸状空洞部)を通して、その空間(第2同軸状空洞部)に導入される。
本実施の形態では、第2アース部材216、窓部材211、および第1アース部材209の各部材は、互いの間にOリング等のシール部材を挟んで上下方向に積み重ねられた状態で、処理室212の内外を気密に封止するように連結されている。これらの各部材は、真空容器302および処理室212の上部を構成している。
Z方向で平面視した場合、中心軸(Z方向)に対し、真空容器302、処理室212、基板電極215、被処理基板214、第1アース部材209、窓部材211、第2アース部材216、円筒空洞部208、円形導波管204等の各構成要素が、同心円状になるように配置されている。
また、図示しないが、基板電極215内の金属製の円板形状を有した基材の内部には、冷媒流路が配置されている。冷媒流路は、基板電極215または被処理基板214の温度を所望の範囲内の値に調節するために循環して供給される冷媒が内部を通流するように螺旋状または同軸状に多重に配置されている。
なお、真空容器302には、図示しない公知のガス供給系や真空排気部等が接続されている。真空容器302の底面において、基板電極215の上面の下方には、図示しない排気用開口が設けられている。その排気用開口と真空排気部の真空ポンプとの間には、圧力調整機構が配置されている。圧力調整機構は、真空ポンプの動作によって排気用開口を通して処理室212から排出されるガス、プラズマ、および反応生成物等の粒子の流量や速度を調節する。ガス供給系から処理室212内へ供給されるガスの流量と、圧力調整機構等を通じて排気されるガスやプラズマの流量とのバランスにより、処理室212の内側の空間の圧力が、被処理基板214の処理に適した範囲内の値に調節される。
[(2)導波路]
真空容器302および第1アース部材209等のZ方向で上方には、導波路(円筒空洞部208、円形導波管204等)と静磁界発生装置(ソレノイドコイル213等)とを含むプラズマ形成部が配置されている。導波路は、内部をマイクロ波の電界が伝播する。なお、真空容器302と円筒空洞部208とが別のものとして接続される構成としているが、真空容器302の内部に円筒空洞部208が含まれる構成としてもよい。
静磁界発生装置は、導波路のうちの円柱形状部分(円形導波管204等)や円筒形状部分(円筒空洞部208)、および真空容器302の円筒形状部分(処理室212の上部を含む)の外周側で、これらを囲むように配置されている。静磁界発生装置は、それらを囲むように配置されている複数のソレノイドコイル213を含む。ソレノイドコイル213は、少なくとも、処理室212の上部、円筒空洞部208、および円形導波管204を含む部分の外周側に近接して配置されている。
本実施の形態で、導波路は、マイクロ波源201側から順に、方形導波管202と、方形円形導波管変換器203と、円形導波管204と、円筒空洞部208とを含む。
方形導波管202は、中心軸方向に垂直な断面が矩形状を有し、中心軸から水平方向のうちの所定の方向(図1の左右方向)に延在する上部導波路である。方形導波管202は、開口である一方端部が、方形円形導波管変換器203と接続され、他方端部が、自動整合器205およびアイソレータ206を介してマイクロ波源201と接続されている。
マイクロ波源201は、図示しない電源からの電力に基づいて発振してマイクロ波の電界を形成する。本例では、マイクロ波源201として、発振周波数が2.45GHzであるマグネトロンが用いられる。自動整合器205は、方形導波管202とマイクロ波源201との中間に配置されている。自動整合器205によって負荷インピーダンスを調整して反射波を自動的に抑制できる。アイソレータ206は、自動整合器205とマイクロ波源201との間の方形導波管202の導波路上に、マイクロ波源201の保護のために配置されている。アイソレータ206は、下部導波路(円形導波管204等を含む)からのマイクロ波の電界の反射波がマイクロ波源201に入射することを抑制している。
円形導波管204は、中心軸方向に垂直な断面が円形を有し、上下方向(Z方向)に延在する導波管であり、下部導波路を構成している。円形導波管204は、開口である上端部が方形円形導波管変換器203と接続され、下端部が、円筒空洞部208の上面の中央部の開口と接続されている。
円形導波管204の上下端の間には、円偏波発生器207が配置されている。円偏波発生器207は、方形導波管202側である上方から伝播してきたマイクロ波の電界を中心軸方向の下向きの周りで所定の方向に回転する円偏波に変換する。円偏波発生器207は、上方から直線偏波で入射したマイクロ波の電界を円偏波に変換する。本実施の形態では、円形導波管204は、公知の円形導波管の最低次モードであるTE11モードのみが伝播可能である寸法に設計されている。円偏波発生器207は、入射側のマイクロ波の電界の方向に対し45度傾斜させた誘電体板が用いられている。この誘電体板の材質としては、石英等の誘電体が用いられる。
方形円形導波管変換器203は、方形導波管202の一方端部分と、円形導波管204の上端部分との接続部分に配置されて、導波管の中心軸方向および断面形状を変換する変換器である。方形円形導波管変換器203は、導波管の軸方向を90度曲げるコーナーを兼ねる。これにより、導波路ひいてはプラズマ処理装置1の大きさを小さくできる。
円筒空洞部208は、円形導波管204の下端部に接続されて、円形導波管204の下方で、第1アース部材209の上方に配置されている。かつ、円筒空洞部208は、円形導波管204の径よりも大きく、真空容器302の円筒形状部分の側壁と同じ外径を有する。かつ、円筒空洞部208は、真空容器302の上端に接続され、第1アース部材209を介在して処理室212の上方に載せられるように配置されている。円筒空洞部208の底面は、第1アース部材209で構成されている。
円筒空洞部208は、円筒形状の側壁および円板形状(開口を含む)の天井壁を含む構造物とその内部の円柱状の空洞とを含む部分である。円筒空洞部208は、外径が真空容器302の外径と同じ、または同じと見做せる程度に近似した値にされている。円筒空洞部208の内部の外周部で天井壁および側壁に接する部分には、リング状の整合部材219が配置されている。整合部材219は、第1アース部材209等の外周側にリング状に配置された同軸状空洞210の上端部から上方に配置されている。
円筒空洞部208のZ方向の高さ寸法は、円形導波管204の下端(図示の直線)との接続部でのマイクロ波の電界の反射を最小にする寸法に設計されている。
整合部材219は、同軸状空洞210からのマイクロ波の電界の反射波を低減する。整合部材219は、円筒空洞部208の円筒形状の外周端を構成する側壁の内側壁面で発生するマイクロ波の電界の反射波と同一の振幅で位相が180度異なる反射波を発生させる。整合部材219は、両者の波を互いに打ち消すことで、マイクロ波の電界の反射波を抑制する作用を奏する。
円筒空洞部208内にはリング状の整合部材219を有する。このため、円筒空洞部208は、詳しくは、R方向の径が異なる、Z方向で2段の円柱空洞部(第1円柱空洞部、第2円柱空洞部とする)を含む。第1円柱空洞部は、円筒空洞部208の天井壁と接していて、円形導波管204の下面の開口と連通され、外周側に整合部材219が配置されている。第2円柱空洞部は、第1円柱空洞部の下に連通され、円筒空洞部208の側壁に接していて、下側に第1アース部材209の上面が接している。
マイクロ波源201で発生したマイクロ波は、方形導波管202を用いて伝搬され、方形円形導波管変換器203によって伝播方向が変換されて、円形導波管204内に上方から伝搬される。円形導波管204内で円偏波に変換されたマイクロ波の電界は、円形導波管204の下端部から円筒空洞部208内に導入される。円筒空洞部208内に円偏波として入射したマイクロ波は、円筒空洞部208内の空洞をZ方向で伝搬し、かつR方向で中心部から外周部へ向かう方向で伝播し、円筒空洞部208の外周部(特に整合部材219の下側の領域)に到達する。
上記導波路において、マイクロ波の電界が伝播する方形導波管202および円形導波管204等における、電界に曝される内壁面は、導電率の高い金属で構成され、より平滑になるように平滑化処理が施されている。これにより、マイクロ波の電界のジュール損失が低減される。本実施の形態では、導電率の高い金属としてアルミニウムが用いられる。さらに、ジュール損失の低減のために、上記導波路の内壁面は、金や銀等の低抵抗の材料を用いた部材でメッキ等の表面処理が施されていてもよい。
[(3)静磁界発生装置]
上記円形導波管204、円筒空洞部208、および処理室212の上部の外周を囲むように、静磁界発生装置を構成するソレノイドコイル213が配置されている。本実施の形態では、ソレノイドコイル213は、処理室212の上部および導波路の一部を囲むように配置されている複数の電磁石と、更に外周側で複数の電磁石を囲むように配置されている磁性体のヨークとを備える。複数の電磁石は、真空容器302および円筒空洞部208の側壁の外周側で上下方向および周方向に延在する部分と、円形導波管204の外周側かつ円筒空洞部208の天井壁の外周側で半径方向および周方向に延在する部分とにおいて、複数の段を有して配置されている。ヨークは、複数の電磁石の外周および上面を囲むように配置されている。ヨークは、円形導波管204の側面とそれに近接した電磁石との間にも配置されている。ソレノイドコイル213によれば、静磁界を処理室212内に効率的に供給するとともに、外部への漏洩が低減される。
上記の通り、本実施の形態のプラズマ処理装置1では、ソレノイドコイル213が発生する静磁界は、磁力線が円筒形状の真空容器302内の処理室212の中心軸方向(Z方向)と平行な方向になるようにされている。そのような静磁界が発生するように、ソレノイドコイル213の電磁石に供給される直流電力が調節される。一部の静磁界の方向を破線矢印で模式的に示す。
[(4)第1アース部材、同軸状空洞、窓部材]
円筒空洞部208の下方には、平面視で円板形状を有した第1アース部材209が配置されている。また、円筒空洞部208の外周部の下方、かつ第2アース部材216の上方で、第1アース部材209および窓部材211の外周側に、同軸状空洞210が配置されている。第1アース部材209の外周側には、同軸状空洞210の上部の開口(言い換えると第1同軸状空洞部)が、第1アース部材209をリング状に囲むように配置されている。窓部材211の外周側には、同軸状空洞210の主たる領域(言い換えると第2同軸状空洞部)が窓部材211をリング状に囲むように配置されている。第1同軸状空洞部と第2同軸状空洞部が連通している。第1同軸状空洞部におけるC方向での所定の位置の領域には、第1アース部材209と真空容器302の側壁とを接続するように、図2の複数の柱301が配置されている。複数の柱301によって区画されることで、複数の開口(第1同軸状空洞部)が設けられている。
円筒空洞部208に導入された円偏波のマイクロ波の電界は、Z方向で、第1アース部材209の外周側に配置された同軸状空洞210の上側の開口(第1同軸状空洞部)から内部(第2同軸状空洞部)に伝播する。そして、その電界は、R方向で、同軸状空洞210(特に第2同軸状空洞部)から、円筒形状の窓部材211を透過して、処理室212内(特に上部)に導入される。その導入の際の電界の伝播方向を点線矢印で模式的に示す。
本例では、窓部材211は、円筒形状を有した部材であって、同軸状空洞210内に導入されたマイクロ波の電界が透過する石英等の材料で構成されている。窓部材211および第1アース部材209等は、真空容器302の一部を構成し、処理室212の内外を区画している。窓部材211の内側壁面、および第1アース部材209の下面は、処理室212内部を囲むようにして処理室212の一部を構成している。第1アース部材209、窓部材211、および第2アース部材216は、互いにOリング等の部材を挟んで連結されて、処理室212内を気密に封止している。
窓部材211および第1アース部材209の径は同程度である。第1アース部材209、窓部材211、および第2アース部材216の各々のZ方向の寸法は、マイクロ波の電界の伝播の特性等を考慮して設計されている。
[(5)電磁波、プラズマ分布]
従来から、静磁界を加えたプラズマ中を伝播する電磁波の伝播モード等の特性が知られている。例えば、文献としてプラズマ物理入門(F.F.Chen著、内田岱二郎訳、丸善株式会社)には、そのような特性について記載されている。前述のように、所定の周波数の高周波電界と静磁界とを用いて形成されるプラズマ中を伝播する電波として、以下のようなR波、L波、X波、O波が知られている。
右円偏波(R波): 静磁界と平行に伝播し、静磁界に沿う方向から見てその電界が静磁界の方向に対し右回りに回転する波。
左円偏波(L波): 静磁界と平行に伝播し、静磁界に沿う方向から見てその電界が静磁界の方向に対し左回りに回転する波。
異常波(X波): 静磁界と垂直に伝播し、電界が静磁界と垂直方向となる波。
正常波(O波): 静磁界と垂直に伝播し、電界が静磁界と平行となる波。
R波は、電子のサイクロトロン周波数と電磁波の周波数とが一致する場合、電子サイクロトロン共鳴(ECR)を起こし、電磁波のエネルギーがプラズマに吸収される旨が上記文献に記載されている。同様に、X波について、高域混成周波数と電磁波の周波数とが一致する場合、共鳴、特に高域混成共鳴によって、X波のエネルギーがプラズマに吸収される旨が記載されている。高域混成周波数の2乗は、サイクロトロン周波数の2乗とプラズマ周波数の2乗との和であり、静磁界の大きさとプラズマ密度の関数となる。
本実施の形態のプラズマ処理装置1では、X波の電界を処理室212内に励起する。そのために、処理室212内に供給される静磁界の磁力線(Z方向の破線矢印)に垂直な方向あるいはこれを横切る方向(R方向の点線矢印)にマイクロ波の電界を導入する。プラズマ処理装置1では、図1のように、マイクロ波の電界を静磁界に対し垂直にする構成を備える。
さらに、静磁界は、破線矢印のように、処理室212等の中心軸方向(Z方向)に対し平行に導入されている。マイクロ波の電界は、点線矢印のように、この静磁界に対し概ね垂直に配置された部材、特に窓部材211を透過して、処理室212内に導入される。すなわち、処理室212の外周を囲むように円筒形状の内側壁面を構成する部材として、マイクロ波の電界の導入窓となる窓部材211を備える。マイクロ波の電界が、R方向で、処理室212の外周にある同軸状空洞210から、窓部材211を透過して、処理室212の中心軸を含む中央部に向けて導入される。プラズマ処理装置1は、マイクロ波の電界を、同じく側面から中心軸に向かう方向に調整するように、処理室212内のプラズマを内部導体とし、このプラズマの外周側を囲む真空容器302の側壁を外部導体とする同軸線路の電界を用いる構成を有する。
また、X波は、プラズマ密度が上昇してプラズマ密度に依存するプラズマ周波数とマイクロ波の周波数とが一致する場合にはカットオフ周波数となり、プラズマ中を伝播できなくなることが知られている。すなわち、マイクロ波の電力を増大してプラズマ密度を増大させ、プラズマ密度がカットオフ周波数に対応する値を超える場合、X波は、プラズマ中を伝播できなくなる。これにより、処理室212内のプラズマは、処理室212内のマイクロ波の電界が透過する窓部材211による導入窓の近傍に局在したプラズマ分布となる。本実施の形態では、窓部材211による導入窓は、円筒形状を有したものであるため、プラズマ密度の高い箇所がその円筒形状の内側壁面に沿って形成されたプラズマとなる。これにより、処理室212の水平面内のR方向のプラズマ分布として、従来技術のような中心軸を含む中央部へのプラズマの集中が抑制される。すなわち、実施の形態では、プラズマ分布として、従来技術のいわゆる中高の分布(凸分布)よりも、均一で平らな分布に近付けることができる。
[(6)第2アース部材]
また、本実施の形態のプラズマ処理装置1では、処理室212内において円筒形状の窓部材211の下に、第2アース部材216が配置されている。なお、変形例としては、このような第2アース部材216の構成に限らず可能である。第2アース部材216は、真空容器302の側壁の内側壁面に設けられた、リング状または円筒形状を持つ導電体製の部材である。第2アース部材216は、Z方向で基板電極215または被処理基板214の上面よりも上方の位置で、かつR方向で基板電極215および被処理基板214よりも外周側の位置に配置されている。処理室212内で、基板電極215または被処理基板214の上面から第2アース部材216の内周側の壁面までの間では、RFバイアス電力によるRFバイアス電流が流れる。その電流の経路は、ソレノイドコイル213が生起する静磁界の磁力線を横切るものとなる。その電流の経路の一部を実線曲線矢印で模式的に示す。このため、第2アース部材216の被処理基板214から見たRFバイアス電力のインピーダンスは、第1アース部材209の被処理基板214から見たRFバイアス電力のインピーダンスに比べて大きいものとなる。
被処理基板214または基板電極215と第2アース部材216との間でプラズマを介して流れるRF電流は、R方向で、被処理基板214の外周側部分の方が、中心軸を含む中央部よりも、第2アース部材216に対して近接している。そのため、そのRF電流は、被処理基板214の中央部に比べて、外周側部分の方が、インピーダンスが低く、より多くの電流が流れることになる。そのため、第2アース部材216と被処理基板214との間で流れる電流による、被処理基板214の上面の上方のシースの厚さ、およびプラズマと被処理基板214との間の相互作用は、R方向の外周側部分で相対的に高く、中央部で低い分布(凹分布)になる。
一方、本実施の形態のプラズマ処理装置1において、被処理基板214の上面に対向して配置された円板形状の第1アース部材209は、R方向では被処理基板214の中央部と外周側部分との各位置で、被処理基板214との距離に大きな差が無く、略一定である。そのため、これらの被処理基板214と第1アース部材209との間で流れるRFバイアス電力によるRFバイアス電流の量は、被処理基板214の上面のR方向でのばらつきが小さい。すなわち、被処理基板214と第1アース部材209との間の電流によるシースの厚さ、およびプラズマと被処理基板214との間の相互作用の分布のばらつきも小さいものとなる。
一般に、プラズマは、これを囲む処理室の壁面との接触により消失する。そのため、従来技術では、プラズマ密度は、処理室の面内のR方向の中央部では相対的に高く外周(内壁面の近傍)では低い分布(凸分布)となる傾向にある。そのため、従来技術では、プラズマ密度分布に起因する、被処理基板に対するエッチング処理の速度は、R方向の中央部から外周に向けて低い分布(凸分布)となる傾向を有する。
それに対し、本実施の形態のプラズマ処理装置1では、上記のように、プラズマ密度分布は、R方向で、より均一な分布になり、それに対応して、エッチング処理の速度の分布もより均一な分布になる。プラズマ処理装置1では、処理室212内のプラズマに面する第2アース部材216の内側表面の面積を選択することで、上記RFバイアス電流の分布が適切に実現される。そして、プラズマ処理装置1では、被処理基板214の面内の半径方向についての所望のエッチング処理後の被処理膜層の加工形状の分布が得られるようにできる。さらに、プラズマ処理装置1では、より積極的に、第1アース部材209と処理室212内部との間の高周波インピーダンスを増減して、相対的に第2アース部材216のインピーダンスおよびRF電流の密度分布を所望に調節する。これにより、被処理基板214の上面のエッチング処理の特性と処理結果との分布を好適に調節することもできる。
本実施の形態で、被処理基板214としては、例えば直径300mmの円板形状でシリコン製の基板であるウエハが用いられている。被処理基板214が円板形状であり、プラズマを用いた処理の結果における周方向(C方向)についてのばらつきを低減するために、処理室212等を構成する部材は、いわゆる軸対称形状の構成を有する。それらの部材は、軸対称形状の構成として、被処理基板214または基板電極215の載置面の中心軸に合致した位置または合致と見做せる程度に近似した位置に配置された、軸対称形状の部材で構成されている。すなわち、前述の円形導波管204、円筒空洞部208、整合部材219、真空容器302、第1アース部材209、窓部材211、同軸状空洞210、ソレノイドコイル213、基板電極215、処理室212の上部の概略円柱形状空間部分、等の構成要素は、それぞれ、軸対称形状の構成を有する。
[(7)第1アース部材等の詳細]
図2は、図1の実施の形態のプラズマ処理装置1における、Z方向で上方から下方の第1アース部材209等を見た平面視での、真空容器302の内部の構成を模式的に示す横断面図である。この横断面図は、R方向とC方向とを含む水平面で示される。この横断面では、第1アース部材209、同軸状空洞210、複数の柱301、真空容器302の側壁を有する。同軸状空洞210としては、特に第1同軸状空洞部である開口の空間303を有する。
図2に示すように、円板形状の第1アース部材209のR方向の外周端と、真空容器302の円筒形状の内側壁面との間の空間である第1同軸状空洞部では、複数の柱301と複数の開口の空間303とが配置されている。言い換えると、第1同軸状空洞部の空洞は、複数の空間303で構成されている。第1アース部材209等の中心軸の周りの円周に対応するC方向で、柱301と空間303とが交互に配置されている。複数の空間303は、複数の柱301で区切られることで構成され、同軸状空洞210の上端の開口を構成している。
第1アース部材209の中心軸からのR方向で、複数の柱301が放射状に配置されている。複数の柱301は、第1アース部材209と真空容器302の側壁との間の領域で、C方向に、所定の等しい角度か、等しいと見做せる程度に近似した角度で配置されている。複数の柱301は、C方向でその角度に対応する所定の距離の間隔で配置されている。同様に、複数の開口の空間303が、その領域で、C方向に、所定の角度および距離で配置されている。複数の柱301は、C方向で、均等または均等と見做せる程度に近似した形状を有する。同様に、複数の空間303は、C方向で、均等または均等と見做せる程度に近似した形状を有する。本例では、複数の柱301として、等角度(60度)で配置された6本の柱301を有し、複数の開口の空間303として、等角度(60度)で配置された6個の開口の空間303を有する。
柱301は、C方向に延在する円弧形状の各辺で所定の幅を有する。同様に、空間303は、C方向に延在する円弧形状の各辺で所定の幅を有する。
導電体製の真空容器302は、図示しない接地電極と電気的に接続されて接地電位にされている。導電体製の第1アース部材209は、導電体製の複数の柱301を通して真空容器302と導通されることで、高周波電流および直流電流のいずれの電流に対しても接地電位にされている。
複数の空間303は、Z方向で上側の円筒空洞部208の外周部、および下側の第2同軸状空洞部と連通されている。円筒空洞部208に導入された円偏波のマイクロ波の電界は、円筒空洞部208の外周部から、複数の空間303を通して、下方の同軸上空洞210の特に第2同軸状空洞部(図3)に導入される。
本実施の形態で、複数の柱301の本数は、以下のように定められてもよい。マイクロ波の電界が、柱301間の空間303を通過できる必要がある。方形の導波管では、遮断特性が理論的に明らかとなっている。この方形の導波管をマイクロ波の電界が伝播するには、断面の方形の長い方の辺の長さが、自由空間でのマイクロ波の波長の二分の一以上であることが必要である。図2の構成では、横断面における柱301間の空間303の形状は、中心軸からのR方向についての内側の辺と外側の辺が、C方向での円弧形状を有する。この同軸状空洞210の位置での空間303の円弧の辺の長さが、マイクロ波の半波長以上になるように構成される。この場合、マイクロ波の電界が空間303を透過することができる。このような空間303の形状や寸法の規定に合わせて、柱301の形状や寸法も規定される。
一方、複数の柱301の本数が比較的少なくなる場合、同軸状空洞210に導入されたマイクロ波の電界の中心軸の周り(C方向)の強度のばらつきが大きくなる。前述のように、同軸状空洞210(第2同軸状空洞部)から処理室212の中心軸へ向かって窓部材211を透過して伝播するマイクロ波の電界によって、処理室212内(特に窓部材211の近傍)にプラズマが形成される。そのため、上記C方向の強度のばらつきの大きさによって、そのマイクロ波の電界によって処理室212内に形成されるプラズマの強度や密度の均一性に悪影響を及ぼす恐れがある。このことから、上記悪影響を及ぼさない条件を満たすように、中心軸の周りのC方向で均等な角度の位置に配置される複数の柱301の本数は、より多い方が望ましい。本実施の形態では、上記のような条件および下記のような空間303の条件を満たす構成として、6本の柱301を用いている。
[(8)窓部材等の詳細]
図3は、さらに図2のZ方向で第1アース部材209から下方をみた平面視で、真空容器302内の同軸状の空間の構成を模式的に示す横断面図である。この横断面では、処理室212の一部、窓部材211、同軸状空洞210(特に第2同軸状空洞部)、真空容器302の側壁を有する。また、図3では、同軸状空洞210内のマイクロ波の電界401、および電気力線の分布の一部を、矢印を用いて模式的に示している。
前述のように、同軸状空洞210を囲む真空容器302の内側壁面は、導電率の高い導電体製である。その内側壁面の表面では、マイクロ波の電界401の向きは、その内側壁面に対して垂直の方向(R方向)となる。さらに、その内側壁面の表面の導電率を高めるために、その表面に金や銀等によって表面処理が施されていてもよい。
本実施の形態のプラズマ処理装置1では、円筒空洞部208の中心軸に合わせて上方に配置された円形導波管204内を伝播するマイクロ波の電界は、最低次モードであるTE11モードで励振されている。このため、任意の時刻の同軸状空洞210内の電界は、図3の紙面内の上向きで紙面に平行な方向を有している。さらに、円形導波管204内のTE11モードの電界は円偏波となっている。そのため、同軸状空洞210内においても、マイクロ波の電界は、図3に示す電界401のパターンが、マイクロ波の周期で回転することになる。
一方で、図1のように真空容器302の側面や上方に配置されたソレノイドコイル213によって生起されて処理室212内に供給される静磁界の磁力線は、図3の窓部材211の紙面に垂直な中心軸方向(Z方向)に沿った向きを有している。
このため、処理室212内では、上記マイクロ波の電界の方向と上記静磁界の方向とが、直交の角度または直交に近い角度で交差することになる。このような方向に供給されたマイクロ波の電界および静磁界によって、X波を、処理室212内のプラズマ中に励起することができる。
本実施の形態では、図1のように、同軸状空洞210は、円筒空洞部208と連通していて、マイクロ波の電界が上方から伝播する同軸状の導波路(言い換えると同軸線路)の一部を構成している。そして、同軸状空洞210における、開口の空間303を除く、窓部材211の外周側の部分(第2同軸状空洞部)のZ方向の高さ寸法は、以下のように設計されている。この高さ寸法は、窓部材211の高さ寸法と対応している。この高さ寸法は、柱301および第1アース部材209の底面と同軸状空洞210の底面との距離に相当する。この同軸状空洞210の高さ寸法は、上記同軸線路におけるTE11モードのマイクロ波の電界の波長に対し半波長の長さに合わせた寸法にされている。これにより、同軸状空洞210は、内部(第2同軸状空洞部)に導入された上記同軸線路のTE11モードのマイクロ波の電界がその内部で反射を繰り返して定在波が形成される空洞共振器として機能および動作する。これにより、同軸状空洞210内のマイクロ波の電界は、TE11モードを優位として励起される。
図1で、矢印等を用いて示すパターン220は、同軸状空洞210(特に第2同軸状空洞部)内のマイクロ波の電界パターンを模式的に示したものである。上記のように同軸状空洞210の高さ寸法が半波長に相当する寸法であるため、この空洞部における二分の一の高さ付近で、マイクロ波の電界の定在波の振幅の大きさが最大となり、電界の向きが概ね水平方向(図1の左右方向、R方向)になる。このように形成されたマイクロ波の電界は、点線矢印で示すように、その水平方向で、その空洞部から窓部材211を透過して処理室212内へ中心軸に向けて伝播される。これにより、その電界は、処理室212内の上部、特に基板電極215および被処理基板214の上に形成されたプラズマ内に供給される。
一方、図1のソレノイドコイル213が生起した静磁界は、その磁力線の向き(破線矢印)が、Z方向の中心軸(一点鎖線)に対し概ね平行となるように供給される。そのため、同軸状空洞210からのマイクロ波の電界は、X波として処理室212に導入される。本実施の形態では、上記のように同軸状空洞210の高さ寸法をマイクロ波の半波長に相当する寸法にしたが、これに限らず、空洞共振器として動作させるには、その半波長の整数倍の高さであればよい。
[(9)処理用ガス等]
本実施の形態のプラズマ処理装置1では、第1アース部材209における処理室212側に向いた下面は、プラズマに直接曝されるため、プラズマ中のイオンや活性種の影響によってダメージを受ける。そのため、第1アース部材209の下面は、耐プラズマ性の高い材質として例えば酸化イットリウムでコーティングされている。
また、プラズマ処理装置1では、第1アース部材209の下側に、処理室212の天井面を構成する図示しないシャワープレートが配置されている。そのシャワープレートの中心軸を含む中央部には、処理用ガスの複数の供給孔が配置されている。ガス供給系から処理用ガスが供給される。その処理用ガスは、真空容器302および柱301の内部に配置されているガス流路を通して、第1アース部材209とシャワープレートとの間の隙間内に供給される。その処理用ガスは、その隙間内で拡散された後、シャワープレートの複数の供給孔から処理室212内に供給される。特に、被処理基板214の上方および窓部材211の内部空洞を含む処理室212の上部に供給される。処理室212内において、その処理用ガスは、X波のマイクロ波の電界によって励起され、あるいは解離して、プラズマを形成し、基板電極215上の被処理基板214のエッチング処理に用いられる。
上記のように、本実施の形態のプラズマ処理装置1によれば、上記導波路および真空容器302等の構造に基づいて、処理室212内でのプラズマの密度を大きくするように形成の条件を制御する。これにより、同軸状空洞210から窓部材211を通してX波として供給されるマイクロ波の電界は、カットオフ周波数に近付けられて、処理室212内のプラズマは、窓部材211の内側壁の近傍での密度を相対的に高くすることができる。すなわち、処理室212の被処理基板214等に対応する円形の水平面内において、半径方向(R方向)で中心軸付近と外周付近とでプラズマの強度または密度が概ね均一で平らな分布に設定することができる。あるいは、その面内のR方向で中心軸付近よりも外周付近でプラズマの強度または密度が高い分布(凹分布)に設定することができる。
これにより、実施の形態のプラズマ処理装置1によれば、従来技術のプラズマ処理装置の前述の課題を解決でき、好適な効果が得られる。すなわち、従来技術のプラズマ処理装置として、処理室の上方から下向きにマイクロ波の電界が導入されていた構成では、面内の半径方向(R方向)でのプラズマの強度または密度の分布が、中心軸付近の方が外周付近よりも高い、いわゆる中高の分布(凸分布)であった。そのために、被処理基板の上面の上方での荷電粒子や反応性粒子の密度に関して、面内の半径方向にばらつきが大きくなっていた。それに対し、実施の形態のプラズマ処理装置1では、従来技術のような中高の分布を抑制でき、上記平らな分布あるいは凹分布に近付けることができる。そのため、プラズマ処理装置1では、被処理基板214のエッチング等の処理の結果における面内の半径方向のばらつきを低減することができる。さらに、処理室212内のプラズマを形成する効率を向上させることができる。
さらに、実施の形態のプラズマ処理装置1では、基板電極215およびその上面に載せられた被処理基板214に対向して配置された、円板形状の第1アース部材209を備える。これにより、RFバイアス電位形成用に基板電極215に供給されるRF電力の電流の大きさに関して、被処理基板214の半径方向でのばらつきが低減される。あるいは、プラズマ処理装置1では、マイクロ波の電界が透過する窓部材211の下方に配置された第2アース部材216を備える。これにより、第1アース部材209、第2アース部材216の各々に対する、上記RF電力の電流についてのインピーダンスの大きさを、所望に調節することができる。これにより、被処理基板214の半径方向についての処理の結果の所期のものからのばらつきを低減することができる。
上記のように、実施の形態のプラズマ処理装置1によれば、プラズマを形成する効率を向上させたことができる。また、プラズマ処理装置1によれば、被処理基板214の面内の処理の分布のばらつきを低減させることができる。すなわち、プラズマ処理装置1によれば、ECRを用いたプラズマエッチング処理等の処理の品質を高めることができる。
以上、本発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は前述の実施の形態に限定されず、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。