JP2019104002A - コーティング材の被覆方法、及びコーティング材が被覆された金属材 - Google Patents

コーティング材の被覆方法、及びコーティング材が被覆された金属材 Download PDF

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Abstract

【課題】金属材の表面を被覆したコーティング材の背面側においても十分な防錆効果を得ることのできるコーティング材の被覆方法、及びコーティング材が被覆された金属材を提供する。【解決手段】被覆対象となる架設材1の表面2にコーティング材15を被覆する方法であって、水分6が付着した架設材1の表面2にコーティング材の原材料10を被覆し、原材料10に含まれる成分と空気中の水分とを化学反応させるとともに、原材料10に含まれる成分と金属材1の表面2に付着している水分6とを化学反応させることで、金属材1の表面2にSiO2を主成分とした薄膜のコーティング材15を生成する。【選択図】図1

Description

本発明は、被覆対象として金属材の表面に適用されるコーティング材の被覆方法、及びコーティング材が被覆された金属材に関する。
従来、鋼材やアルミ材等の金属材の表面をコーティング材によって被覆処理することで、当該金属材の表面に水分が付着することを防止し、錆の発生を防止するようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
特開平11−29724号公報(第5頁)
しかしながら、特許文献1にあっては、被覆対象となる金属材の表面に結露等により水分が付着した状態で、この金属表面にコーティング材を塗布若しくは浸漬する等して被覆層を形成することがある。このような場合、金属材を被覆したコーティング材の被覆膜の背面側、すなわちコーティング材が金属材の表面と接する側にて、金属表面に付着した水分と金属とが化学反応して錆が発生し、経時的に成長した錆こぶによって、コーティング材が背面側から剥離される虞があるという問題がある。
また通常、金属表面にはその加工時などに生じる小傷等の微小な凹凸部が多数形成されていることから、金属表面に付着した水分を払拭しようとしても、このような凹凸部に存在する水分は容易に除去できず、コーティング材の背面側での錆の発生を防止することは困難であった。
更に、コーティング材が金属表面に対し十分に当接した状態で被覆されなかったり、あるいは被覆後のコーティング材が熱膨張・熱収縮する等により、コーティング材と金属表面との間に隙間が生じることがあり、このような場合、発錆の原因となる水気がこの隙間に浸入し、長期的な防錆効果を得られないという問題がある。
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、金属材の表面を被覆したコーティング材の背面側においても十分な防錆効果を得ることのできるコーティング材の被覆方法、及びコーティング材が被覆された金属材を提供することを目的とする。
前記課題を解決するために、本発明のコーティング材の被覆方法は、
被覆対象となる金属材の表面にコーティング材を被覆する方法であって、
水分が付着した前記金属材の表面に前記コーティング材の原材料を被覆し、該原材料に含まれる成分と空気中の水分とを化学反応させるとともに、前記原材料に含まれる成分と前記金属材の表面に付着している水分とを化学反応させることで、前記金属材の表面にSiOを主成分とした薄膜のコーティング材を生成することを特徴としている。
この特徴によれば、金属材の表面に付着している発錆の原因となる水分を、SiOを主成分とするコーティング材の生成のための化学反応に利用することで、金属材に被覆した原材料の表層面側及び背層面側の両方向から迅速に化学反応させることができるばかりか、金属材に被覆したコーティング材の背層面側にて発錆を防止でき、更に金属材の表面に密接状態で被覆する高い防錆性を備えたコーティング材を生成することができる。
前記コーティング材の表層面は、ナノレベルの微細な凹凸からなるディンプルが形成された平滑面であることを特徴としている。
この特徴によれば、コーティング材の表層面を微細な凹凸からなるディンプルが形成された平滑面に形成することで、コーティング材の表層に水分や異物が付着し難く、高い防錆性に加え、撥水性、防汚効果を得ることができる。
前記ディンプルは、前記原材料に含まれる成分と水分との化学反応で生成した気体を揮発させることで形成されることを特徴としている。
この特徴によれば、原材料に含まれる成分と水分との化学反応で生成した気体の揮発を利用することで、コーティング材の表面にディンプルを均一な分布に形成できる。
前記コーティング材は、10nm〜1μmの膜厚を有していることを特徴としている。
この特徴によれば、コーティング材が極めて薄い膜厚であるため、金属材の厚さ寸法が被覆前と比してほとんど変化せず、金属材を広範な用途に適用することができる。
前記金属材の表面に目粗し処理を施した後、該金属材の表面に前記コーティング材の原材料を被覆することを特徴としている。
この特徴によれば、金属材の表面に予め目粗し処理を施すことで、コーティング材の原材料が、金属材の表面の目粗しによって形成された凹凸部に入り込んだ状態で膜層を生成するため、コーティング材が金属材に密着するアンカー効果が高まる。
前記金属材の表面に水分を付着させた後、該金属材の表面に前記コーティング材の原材料を被覆することを特徴としている。
この特徴によれば、金属材の表面に付着させた水分と、この金属材の表面に接するコーティング材の原材料との化学反応を促進できる。
前記金属材は、架設材として使用されることを特徴としている。
この特徴によれば、架設材として使用される金属材の表面に硬質なSiOを主成分としたコーティング材を生成することで、金属粉等の異物が食い込み難いため、架設材の表面の防汚効果が高まり当該架設材を長期に亘り使用に供することができる。
本発明のコーティング材が被覆された金属材は、
表面にコーティング材が被覆された金属材であって、
水分が付着した前記金属材の表面に前記コーティング材の原材料を被覆し、該原材料に含まれる成分と空気中の水分とを化学反応させるとともに、前記原材料に含まれる成分と前記金属材の表面に付着している水分とを化学反応させることで、前記金属材の表面にSiOを主成分とした薄膜のコーティング材が生成されていることを特徴としている。
この特徴によれば、金属材の表面に付着した発錆の原因となる水分を、SiO2を主成分とするコーティング材の生成のための化学反応に利用することで、金属材に被覆したコーティング材の背層面側にて発錆を防止できるばかりか、表面に密接する高品質なコーティング材を被覆した金属材を提供することができる。
前記金属材は、架設材として適用されることを特徴としている。
この特徴によれば、架設材に被覆したコーティング材の背層面側にて発錆を防止できるばかりか、表面に密接する高品質且つ硬質であって防汚性にも優れたコーティング材を被覆した架設材を提供することができる。
前記金属材は、鉄よりもモース硬度の低い金属からなることを特徴としている。
この特徴によれば、コーティング材の被覆対象となる金属材として、例えばアルミニウム、亜鉛、鉛、錫、金、銀、銅または真鍮など、比較的モース硬度の低い金属材にコーティング材を被覆することで、当該被覆対象のモース硬度を、鉄よりも高い値に向上させることができる。
前記金属材は、銀若しくは銅からなることを特徴としている。
この特徴によれば、銀製若しくは銅製の金属材の表面をコーティング材で被覆することで、硫化銀や硫化銅の発生による変色や腐食を防止することができる。
前記ディンプルは、算術平均粗さRa=1nm〜10nmの凹凸からなることを特徴としている。
この特徴によれば、好適なナノレベルの凹凸構造を有するディンプルを得ることができる。
(a)〜(c)は、実施例における金属材にコーティング材が生成されるメカニズムを時系列で示す断面図である。 コーティング材が被覆された金属材の表面をAFM測定により撮像した図であり、(a)はコーティング材が1層、(b)はコーティング材が3層被覆された図である。 防錆・耐アルカリ・耐酸試験を行った金属材の表面を撮像した図であり、(a)〜(h)はそれぞれ供試材a〜供試材hを示す図である。 アルミ箔の表面の物性を赤外分光法により試験した結果を示す図であり、(a)はコーティング材を被覆していないアルミ箔、(b)はコーティング材を被覆したアルミ箔、(c)はコーティング材を被覆した後に曲面部を形成したアルミ箔を示す図である。 供試材の第1の暴露試験後を撮像した図であり、(a)は供試材(A)〜(D)、(b)は供試材(無印)を示す図である。 供試材の第1の暴露試験結果を評価した表である。 供試材の第2の暴露試験後を撮像した図であり、供試材(E)、供試材(無印)を示す図である。 供試材の第2の暴露試験結果を評価した表である。 ガス腐食試験を行った銀製の供試材の表面を撮像した図であり、(a)〜(f)はそれぞれ供試材(Fa)〜供試材(無印a)を示す図である。 ガス腐食試験を行った銅製の供試材の表面を撮像した図であり、(a)〜(f)はそれぞれ供試材(Fb)〜供試材(無印b)を示す図である。 ガス腐食試験を行った銀製の供試材の色差を測定した表である。 ガス腐食試験を行った銅製の供試材の色差を測定した表である。 耐摩耗性試験を行った供試材の摩耗量を示す表である。 防汚試験を行っている供試材を撮像した図である。 供試材から試料を剥離し、散水した状況を撮像した図であり、(a),(b)はそれぞれ供試材(P),供試材(無印)を示す図である。 試料を剥離した後の供試材の表面を撮像した図である。 表面粗さ試験を行った供試材の表面を撮像した図である。 表面粗さ試験を行った供試材の算術平均粗さを示す表である。
本発明に係るコーティング材の被覆方法、及びコーティング材が被覆された金属材を実施するための形態を図1から図18を参照して以下に説明する。
(コーティング材の主成分)
コーティング材15は、後述する主成分を有機溶剤によって希釈した原材料としての原液10が化学反応したものであり、平滑状に清掃処理した被覆対象となる金属材1の表面2に、当該原液10を滴下して単層または複数層に塗り伸ばしするなどの被覆加工を施すことで、膜厚として数十nm〜1μmの薄膜状の表層膜を成層したものである。
より詳しくはコーティング材15の原液10は、その主成分として少なくとも、第1成分と第2成分と不活性有機溶剤とで構成されている。第1成分はポリアルキルシラザンであり、ヘキサメチルジシラザン、オクタメチルシラザン、シクロテトラシラザンまたはテトラメチルシラザンから選択される少なくとも1種が挙げられる。第2成分はペルヒドロポリシラザンであり、−(SiHNH)−ユニット、すなわちケイ素、窒素及び水素のみから構成され、炭素などの有機成分を含まない無機のポリマーである。コーティング材は、金属材の表面に塗布する前の原液10の状態では、これら第1成分及び第2成分の合計として1〜40質量%の濃度で不活性有機溶剤に溶解して生成されている。また第1成分及び第2成分を溶解する有機溶剤は、上記成分に対して不活性な有機溶剤であれば好適であり、例えばエーテル系有機溶剤であれば好ましい。
(被覆対象となる金属材)
コーティング材15の被覆対象となる金属材1は、本実施例では鉄(Fe)を主成分として表面が亜鉛メッキされた鋼板であるが、僅かでも錆を生じ得る金属であればこれに限らず、例えばアルミ、亜鉛、ニッケル、錫或いは銅等の金属、又はこれらのいずれかを主成分とする合金や鋳物であってもよいし、若しくはこれらの表面に、例えば溶融亜鉛メッキ等のメッキ加工がされたものでも良く、種々の金属材にコーティング材15を適用可能である。また金属材1は、より好ましくは建設現場等に用いる架設材・仮設材として適用されるものである。
(コーティング材の被覆方法)
次に、本発明に係るコーティング材15の被覆方法について説明する。
先ず金属材1が、最終製品として形状加工される前工程である圧延工程において被覆される場合、特に図示しないが、平板状の形状で長手方向に送出される金属材に、例えばロールコーターを用いてコーティング材の原液を塗布により被覆した後、周知の機械加工により曲げ成型等がされる。
次に、最終製品として形状加工された金属材にコーティング材15を被覆する場合、刷毛等の治具を用いて塗布する方法や、金属材をコーティング材15に浸漬する方法等が挙げられるが、被覆方法としては浸漬法がムラなく均一に被覆することができ、良好な結果が得られる。また塗布の場合、複数回重ね塗りする場合と比較して、1回塗りの方がコーティング材15の被覆膜のクラックや剥離が少なく、良好な結果が得られる。
(コーティング材の被覆層形成のメカニズム)
次に、本発明に係るコーティング材15の被覆層が形成されるメカニズムについて説明する。図1(a)に示されるように、被覆対象となる金属材1の表面2には多くの場合、結露や空気中の湿気により例え僅かでも複数の水分6,6,‥(水滴)が付着している。この金属材1の表面2にコーティング材の原液10を上記した方法にて薄膜に被覆すると、原液10に含まれる−(SiHNH)−ユニット成分が、空気中の水分(H0)と化学反応することで、金属材1の表面2にほぼ純度100%のSiOの被覆層が生成される。なお、上記した化学反応で微量の気体(NH,H)が副次的に生成されるが、これらの気体は当然のことながら金属材1の表面2に残らず大気中に揮発する。
すなわち図1(b)に示されるように、原液10は、空気に接する表層面10aにて、空気中に含まれる水分と化学反応することで、コーティング材の副生成物である水素やアンモニア等のガスが表層から揮発するとともに、コーティング層であるSiO層11が表層側に生成される。
また金属材1の表面2に被覆されたコーティング材の原液10は、金属材1の表面2に接する背層面10bにて、表面2に付着した水分6,6,‥(水滴)と化学反応することで、水素やアンモニア等のガスが被覆層内を上昇し表層から揮発するとともに、コーティング層であるSiO層12が背層側に生成される。
また同時に金属材1の表面2に被覆された原液10は、金属材1の表面2に接する背層面10bにて、金属材1の表面2に終端して存在しているヒドロキシル基−OHと化学反応することで、水素やアンモニア等のガスが被覆層内を上昇し表層から揮発するとともに、コーティング層であるSiO層12が背層側に生成される。
このように、先ずコーティング材の原液10の表層面10a及び背層面10bにてそれぞれSiO層11,12が生成される。次に表層側から背層側に向けてSiO層11を拡層するとともに、背層側から表層側に向けてSiO層12を拡層することで、順次中間のSiO層を生成し、最終的に表層面と背層面とに亘るコーティング材のSiO層15が生成される。
図1(c)に示されるように、コーティング材15を被覆する前の金属材1の表面2には、鏡面加工等の特段の表層処理を行わない限り、製造工程等で生じる小傷等によりマイクロレベルの微細な多数の凹凸部3が形成されている。コーティング材の原液10は、金属材1の表面2を被覆するとともに凹凸部3内に入り込んだ状態で、上記したように硬化することで、これらの凹凸部3内に入り込んで硬化したコーティング材がアンカー部17として機能するため、コーティング材15は金属材1の表面2に対し強固に密着する。
なお、金属材1の表面2が上記した凹凸部3をほとんど有さない平滑面である場合、コーティング材15を被覆する前処理として、金属材1の表面2をやすり等により目粗し処理を行うことによって、金属材1の表面2に凹凸部3を積極的に生成してもよく、このようにすることで、コーティング材15のアンカー効果を得ることができる。
この目粗し処理を行うことによって、金属材1の表面2に算術平均粗さ1〜500μm程度の範囲の凹凸部3を形成すると好ましく、このようにすることで、コーティング材15のアンカー効果を高めることができる。
目粗し処理の後、例えばエアガン等の空気噴射手段を用いて、金属材1の表面2にやすり掛け等で生じた金属粉を吹き飛ばす清浄処理を行う。更にこの清浄処理の後、所定時間を置くことで金属材1の表面2に結露等を生じさせ、自然由来の水分を付着させる。
また、この場合、金属材1の表面2の目粗し処理及び清浄処理の後、目粗しによって凹凸部3が形成された金属材1の表面2に、例えば霧吹き等の水分付与手段によって水分を積極的に付着させ、後にコーティング材15を被覆してもよく、このようにすることで、金属材1の表面2に付着させた水分と、この金属材1の表面2に接するコーティング材の原液10との化学反応を促進できる。なお、金属材1の表面2に、特に目粗し処理を施すことなく、水分付与手段によって水分を付着させてもよい。
(コーティング材の被覆層の形状)
金属材1の表面2に被覆されたコーティング材15の被覆膜の表面は、副生成物であるガスの気泡が揮発した箇所の跡に、ナノレベルの凹凸からなるディンプル16が形成される。より詳しくは、上記した化学反応により水素やアンモニア等の気泡が多数生成され、これらの気泡がコーティング材の平滑面である表層面から気中に向け放出される際に、気泡に接するコーティング材の表層面に生じる表面張力の影響、及び化学反応に伴うこの表層面の初期硬化のタイミングの影響が相俟って、当該平滑面にナノレベルの凹凸を生成するものと想定される。
また、被覆前の金属材1の表面2に当初形成された凹凸部3よりも、コーティング材15の被覆膜の表面に形成されたディンプル16の方が凹凸の深さ・高さ寸法が小さいため、金属材1の表面2にコーティング材15を被覆することで、被覆前よりも被覆後の方が表面は平滑に生成される。
なお言うまでもないが、上記した副生成物であるガスは、コーティング材15の被覆膜の表面に一様に生成されるものであることから、ディンプル16は、被覆膜の単位面積当たりの個数や凹部の深さ、凸部の高さにバラつきを生じることなく均一に形成されるものである。
また、金属材1の表面2に被覆されるコーティング材は、図2(a)に示されるように単層塗りする場合のコーティング材15に形成されるディンプル16と、図2(b)に示されるように複数層塗りする場合のコーティング材25に形成されるディンプル26とを比較すると、複数層塗りする場合のディンプル26の方が、凹凸の深さ・高さ寸法が小さいことが確認されている。これは、コーティング材を複数回にわたり被覆することで、単層塗りのときのディンプル16の凹凸が均され、より平滑なディンプル26が形成されるためと想定される。
(防錆・耐アルカリ・耐酸試験)
次に、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材の防錆試験i,ii耐アルカリ試験及び耐酸試験について説明する。このうち防錆試験i,iiは、供試材に所定濃度の塩水を連続して噴霧し、発錆の状況を観察したものである。先ず防錆試験iについて説明すると、図3(a)で示す供試材aはコーティング材を1回浸漬した鉄板であり、供試材a’は特に図示しないがコーティング材を1回浸漬した後、150℃で30分焼成した鉄板であり、また図3(b)で示す供試材bは比較対象としてコーティング材を被覆していない鉄板である。
図3(a)に示されるように、供試材aは、塩水噴霧を4時間継続したが発錆は確認されず、また4時間を超えるとスポット状に発錆が確認された。また供試材a’は、塩水噴霧を8時間継続したが発錆は確認されず、8時間を超えるとスポット状に発錆が確認された。更に供試材bは、塩水噴霧を開始して数分後からスポット状に発錆が確認され、図3(b)に示されるように、4時間経過時には供試材bの略全面に膜状に拡がる錆が確認された。
上記した試験の結果、また被覆後、所定温度(150℃程度)で焼成すると、コーティング材のガラス化が促進され、防錆効果が早期に向上するという結果が得られている。
次に、防錆試験iiについて説明すると、図3(c)で示す供試材cはコーティング材を1回浸漬した鉄板であり、また、図3(d)で示す供試材dは比較対象として従来周知のコーティング材を被覆した鉄板である。
図3(c)に示されるように、供試材cは、塩水噴霧を24時間継続したところスポット状に発錆が確認された。これに対し図3(d)に示されるように、供試材dは、塩水噴霧を24時間継続すると多数のスポット状に発錆が確認された。
上記した試験の結果、本発明に係るコーティング材は、従来周知のコーティング材と比較して、有意な発錆の抑制効果が得られている。これは、本発明に係るコーティング材が金属表面の水分を利用してガラス化するうえ、本発明に係るコーティング材により金属表面に良性の黒錆を積極的に発生させ被覆膜として当該金属表面を保護するため、スポット状の錆(赤錆)が生じてもそれ以上の錆の成長に対する抑制がされていると考察される。
次に耐アルカリ試験は、アルミ材からなる供試材に所定pH(本試験ではpH12.5)のアルカリイオン水に浸漬した後、供試材表面の状況を観察したものである。図3(e)で示す供試材eはコーティング材を1回浸漬したアルミ板であり、また図3(f)で示す供試材fは比較対象としてコーティング材を被覆していないアルミ板である。
図3(e)に示されるように、供試材eは、アルカリイオン水に浸漬しても供試材の表面に顕著な変化は見られなかった。これに対し図3(f)に示されるように、供試材fは、その表面がアルカリに浸食された結果、斑模様に変化した。
上記した試験の結果、本発明に係るコーティング材は、高い耐アルカリ性を有していることが確認された。
更に耐酸試験は、亜鉛メッキ鋼材からなる供試材に所定濃度(本試験では濃度9.5%)の塩酸に浸漬した後、供試材表面の状況を観察したものである。図3(g)で示す供試材gはコーティング材を1回浸漬した亜鉛メッキ鋼板であり、また図3(h)で示す供試材hは比較対象としてコーティング材を被覆していない亜鉛メッキ鋼板である。
図3(g)に示されるように、供試材gは、塩酸に浸漬しても供試材gの亜鉛メッキが残っており表面に顕著な変化は見られず、表面を反射する光沢の態様にも変化がなかった。これに対し図3(h)に示されるように、供試材hは、その表面の亜鉛メッキが塩酸に浸食された結果、やや赤みを有する金属素地が露わになり、表面を反射する光沢もほとんど無くなった。
上記した試験の結果、本発明に係るコーティング材は、高い耐酸性を有していることが確認された。
(被膜確認実験)
コーティング材の被膜状況を確認する実験Iとして、亜鉛メッキ鋼板に本発明に係るコーティング材15を上記の方法で被覆した後、当該鋼板を機械加工で90°プレス成型してアングル部を形成し、当該アングル部に濃度10%程度の塩酸を滴下して水素の発泡を確認した。比較対象として、コーティング材15を被覆していない鋼板にも同じアングル部を形成し、前記塩酸を滴下して発泡の状況を比較した。
この実験Iの結果、コーティング材15を被覆した鋼板が、コーティング材15を被覆していない鋼板と比較して、水素の発泡の量が有意に低減されていた。このように、水素の発泡量が低減されていることから、コーティング材15を被覆によって耐酸効果が得られていることが分かる。また、このことから、コーティング材が90°のプレス成型される鋼板に追従して曲げ加工され、鋼板のアングル部においても被覆状況を維持できていると想定される。
また被膜状況を確認する実験IIとして、薄膜状のアルミ箔に本発明に係るコーティング材15を被覆した後、当該アルミ箔に曲率半径R=5mm〜10mm程度の曲面部を形成し、当該アルミ箔の表面部の物性を公知の赤外分光法により試験した。曲面部を赤外線の照射対象とした試験結果を図4(c)に示す。なお比較のため、図4(a)はコーティング材15を被覆する前のアルミ箔自体を照射対象とした試験結果であり、図4(b)はコーティング材15を被覆した後で曲面部を形成する前の平面状のアルミ箔を照射対象とした試験結果である。図4では横軸に波数、縦軸に吸光度を示す。
図4(b)、(c)に示されるように、コーティング材15を被覆した後では、曲面部を形成する前と後に関わらず同様に、Si−O結合由来のスペクトルのピークが得られていることから、アルミ箔に被覆したコーティング材15は、当該アルミ箔の曲率半径R=5mm〜10mm程度の曲面に追従して、曲面状に形成されることが確認された。このことから、コーティング材15は、曲率半径R=5mm以上の曲面に追従可能な可撓性を有している機能を備える。
金属材1の表面2を被覆するコーティング材15の膜厚が1μmを超える厚膜の場合、被膜後の金属材1の曲げ成型に追随できない虞が生じ、一方で膜厚が薄いと発錆の虞が高まる。よって500nm〜1μmの範囲内でコーティング材15の膜厚を形成することが最良と考えられる。
(第1の暴露試験)
次に、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材の第1の暴露試験について説明する。この第1の暴露試験は、後述する複数種類のコーティング材をそれぞれ被覆した金属製の供試材(A)〜(D)、及び比較対象としてコーティング材を被覆していない供試材(無印)を、飛散する異物等に曝される同じ環境下(本実施例では、製鉄所内のコークス炉近傍で、コークス炉ガスに曝される劣悪な環境下)で数か月にわたり常設配置し、これらの供試材(A)〜(D),(無印)の表面に生じる発錆、汚れ、付着物或いは変色の状況を比較したものである。
図5(a),(b)に示されるように、この試験に適用される金属製の供試材として、建設現場等に架設材として使用されるパイプ30が使用された。このパイプ30は、例えば足場材として使用される鉄製又はアルミ製パイプであり、その全表面に溶融亜鉛メッキによる従来の防錆処理が施されたものである。
供試材(A)は、架設材30の表面にシリカガラスコートを被覆したものである。当該シリカガラスコートは、主として排気管、海洋船、車塗装面等に適用され、赤錆を黒錆に還元・腐食防止する用途に使用される。また供試材(B)は、パイプ30の表面に上記したシリカガラスコート及び遮熱ガラスコートを被覆したものである。当該遮熱ガラスコートは、結露を軽減する用途に使用される。また供試材(C)は、パイプ30の表面に高分子ガラスコートを被覆したものである。当該高分子ガラスコートは防錆する用途に使用される。更に供試材(D)は、パイプ30の表面に高透過ガラスコートを被覆したものである。当該高透過ガラスコートは防傷する用途に使用される。最後に供試材(無印)は、パイプ30の表面にコーティングを施さず、溶融亜鉛メッキのみされたものである。
次に、第1の暴露試験により各供試材の金属表面に発生した錆や汚れの状況について時系列で説明する。また図6に、各供試材(A)〜(D),(無印)の状況を評価した結果の表を示す。
・1か月経過時
供試材(A)は、砂れき・泥等の粒子が多少付着した汚損状態であるが、拭けば除去できる程度であった。供試材(B)は、砂れき・泥等の粒子が付着し変色も多少見られた。供試材(C)は、砂れき・泥等の粒子が多少付着した汚損状態であるが、拭けば除去できる程度であった。供試材(D)は、砂れき・泥等の粒子が僅かに付着した汚損状態であるが、供試体の中で最も付着は少なく、拭けば除去できる程度であった。また供試材(無印)は、砂れき・泥等の粒子が多く付着しており、拭いても容易に除去できない程度であった。
・2か月経過時
供試材(A)は、1か月経過時と同様の汚損状態であり、変色も見られなかった。供試材(B)は、1か月経過時と同様に砂れき・泥等の粒子が付着し変色も多少見られた。供試材(C)は、砂れき・泥等の粒子が多少付着した汚損状態であるが、付着物は拭けば除去できる程度であり、1か月経過時よりも雨水で流れ落ちているように見られた。供試材(D)は、砂れき・泥等の粒子が多少付着した汚損状態であるが、付着物は拭けば除去できる程度であった。また供試材(無印)は、砂れき・泥等の粒子や、黒い塊のような付着があり、付着物は拭いても除去できない程度であった。更に支柱のポケット部に錆の発生も確認された。
・4か月経過時
第1の暴露試験の4か月経過時の状況を図5(a),(b)に示す。供試材(A)は、大きな変色は見られず、粒子の付着も軽く拭けば除去できる程度であった。供試材(B)は、変色度合いが増しており、また付着物も擦っても除去できない程度であった。供試材(C)は、部分的に変色が見られたが、付着物は拭けば除去できる程度であった。供試材(D)は、前回よりも変色が見られたが、付着物は拭けば除去できる程度であった。また供試材(無印)は、粒子や、黒い塊のような付着物が増加し、拭いても除去できない程度であった。更に錆の発生も確認された。
(第2の暴露試験)
次に、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材の第2の暴露試験について説明する。この第2の暴露試験は、後述する種類のコーティング材を被覆した金属製の供試材(E)、及び比較対象としてコーティング材を被覆していない供試材(無印)を、屋内の鉄鉱石を運搬するベルトコンベアの近傍で鉄粉等が飛散する同じ環境下で数か月にわたり常設配置し、これらの供試材(E),(無印)の表面に生じる発錆、汚れ、付着物或いは変色の状況を比較したものである。
図7に示されるように、この試験に適用される金属製の供試材として、建設現場等に架設材として使用されるパイプ40が使用された。このパイプ40は、前述した第1の暴露試験で用いられたパイプ30と同種のパイプであって、例えば足場材として使用される鉄製又はアルミ製パイプであり、その全表面に溶融亜鉛メッキによる従来の防錆処理が施されたものである。
供試材(E)は、パイプ40の表面にシリカガラスコートを被覆したものである。当該シリカガラスコートは、主として排気管、海洋船、車塗装面等に適用され、赤錆を黒錆に還元・腐食防止する用途に使用される。なお供試材(E)は、前述した第1の暴露試験で用いられた供試材(A)と同種のシリカガラスコートを被覆した供試材である。また供試材(無印)は、パイプ40の表面にコーティングを施さず、溶融亜鉛メッキのみされたものである。
次に、第2の暴露試験により各供試材の金属表面に発生した錆や汚れの状況について説明する。また図8に、各供試材(E),(無印)の状況を評価した結果の表を示す。
・4か月経過時
第2の暴露試験の4か月経過時の状況を図7に示す。供試材(E)は、鉄粉と見られる付着物が僅かに付着する程度で大きな変色は見られず、乾拭きのみで容易に除去できる程度であり、新品同様の金属光沢を維持していた。これに対し供試材(無印)は、鉄粉と見られる付着物が供試材の表面に多く付着し、乾拭きしても水洗いしても除去できない程度であった。
この結果から、まず供試材(無印)では、コーティング材を被覆していない鉄製の供試材(無印)の溶融亜鉛メッキされた表面が、モース硬度4の鉄粉(鉄)と比較して、より軟らかいモース硬度2〜3であるため、供試材(無印)近傍で飛散する鉄粉が、当該供試材(無印)の表面を傷付けながら食い込むものと推察される。
一方で、供試材(E)では、緻密なガラス膜でコーティングされている供試材(E)の表面が、モース硬度4の鉄粉(鉄)に比較して、より硬いモース硬度4.5〜6.5であるため、供試材(E)近傍で飛散する鉄粉が、当該供試材(E)の表面を傷付けること無く弾かれ、表面に食い込むことが大幅に抑制されていると推察される。
したがって、この第2の暴露試験によると、本願発明に係るコーティング材の被覆対象となる金属材として、例えばアルミニウム、亜鉛、鉛、錫、金、銀、銅または真鍮など、比較的モース硬度の低い金属材にコーティング材を被覆することで、当該被覆対象のモース硬度を、鉄よりも高い4.5〜6.5に向上させることができる。よって例えば、本願発明に係るコーティング材を車両のアルミ製タイヤホイールの表面に被覆すれば、当該タイヤホイールに鉄粉が飛散して生じる傷を低減させることができ、その耐用期間を大幅に延ばすことが可能となる。
(ガス腐食試験)
次に、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材のガス腐食試験について説明する。このガス腐食試験は、後述する種類のコーティング材を被覆した銀製、銅製の各供試材、及び本発明の比較対象として、本発明とは異なる種類のコーティング材を被覆した銀製、銅製の各供試材、及びコーティング材を被覆していない銀製、銅製の各供試材を、腐食の原因となるガスが含まれる所定条件の雰囲気で満たされる試験室(図示略)内に配置し、これらの供試材を同じ環境下で24時間にわたり雰囲気中に曝露して、これらの供試材の表面に生じる変色、すなわち腐食の状況を比較したものである。
試験室内の所定条件について、より詳しくは、腐食の原因となるガスとして、濃度10ppmの二酸化硫黄(SO)及び濃度3ppmの硫化水素(HS)を含み、温度40度、湿度80%の雰囲気である。また、上記した供試材として、それぞれ銀製の金属板及び銅製の金属板が試験室内に配置された。
図9(a)及び図10(a)に示されるように、供試材(Fa)及び供試材(Fb)は、それぞれ銀製及び銅製の金属板の表面に、錆を還元・腐食防止するシリカガラスコートを被覆したものである。当該シリカガラスコートは主として排気管、海洋船、車塗装面等に適用され、赤錆を黒錆に還元・腐食防止する用途に使用される。
また図9(b)及び図10(b)に示されるように、供試材(Ga)及び供試材(Gb)は、それぞれ銀製及び銅製の金属板の表面に、上記した供試材(Fa)及び供試材(Fb)と同じシリカガラスコートを被覆し、更に焼成したものである。
また図9(c)及び図10(c)に示されるように、供試材(Ha)及び供試材(Hb)は、それぞれ銀製及び銅製の金属板の表面に、耐候性に優れ土木建築用途に適したシリカガラスコートを3層重ねて被覆したものである。
更に図9(d)及び図10(d)に示されるように、供試材(Ia)及び供試材(Ib)は、それぞれ銀製及び銅製の金属板の表面に、上記した供試材(Ha)及び供試材(Hb)と同じシリカガラスコートを5層重ねて被覆したものである。
また図9(e)及び図10(e)に示されるように、供試材(Ja)及び供試材(Jb)は、それぞれ銀製及び銅製の金属板の表面に、比較対象として本発明とは異なるコーティング材を被覆したものである。当該コーティング材は、SiO以外の有機成分を多量に含む点において、本発明のコーティング材とは異なる。
また図9(f)及び図10(f)に示されるように、供試材(無印a)及び供試材(無印b)は、それぞれ銀製及び銅製の金属板の表面に、何らのコーティング材も被覆せず、金属素地が露出されたものである。
次に、ガス腐食試験により銀製及び銅製の各供試材の金属表面に発生した変色、すなわち腐食の状況について説明する。図11,12は、それぞれ銀製及び銅製の各供試材の表面の色を測定した表である。色の測定方法は、分光測色方法に準じて行い、Lab色空間の色差に準じ算出したものである。測定回数は3回とし、その平均値を結果として示している。
・銀製の供試材
図9(a)〜(f)に、ガス腐食試験の試験前及び24時間経過後の銀製の各供試材の金属表面の状況を示し、図11にガス腐食試験前及び試験後の銀製の各供試材の色差を示す。
先ず図9(a)〜(d)及び図11に示されるように、本発明のコーティング材を被覆した供試材(Fa)〜(Ia)は、いずれも銀製の金属表面に変色等が確認されず、また色差も僅かな誤差範囲で有意な値は測定されなかった。この結果から、供試材(Fa)〜(Ia)では、各供試材の表面に腐食等の化学変化が全く発生しておらず、よって本発明に係るコーティング材は、完全に銀製の金属材表面を被覆しているものと考えられる。
一方で図9(e)及び図11に示されるように、比較対象として本発明とは異なるコーティング材を被覆した供試材(Ja)では、銀製の金属表面に黒ずんだ変色を確認することができ、また色差も有意な値15.7が測定された。この結果から、供試材(Ja)では、供試材の表面に若干の硫化銀(AgS)が発生しているものと考えられる。これは、比較対象となるコーティング材に含まれるSiO以外の多量の有機成分が、雰囲気中の酸性ガスに侵される結果、下地となる銀製の金属材表面が露出するためと考察される。
これに対し、本発明のコーティング材は、SiOの純度が極めて高く、SiO以外の有機成分が微量のみ含まれているため、上記した供試材(Fa)〜(Ia)では、雰囲気中の酸性ガスに侵されることがほとんどなく、腐食が発生しないものと考察される。
また図9(f)及び図11に示されるように、コーティング材を被覆していない供試材(無印a)では、銀製の金属表面が黒色に変色しており、また色差も大きな値43.1が測定された。この結果から、供試材(無印a)では、供試材の表面の全面にわたり硫化銀(AgS)が発生しているものと考えられる。
・銅製の供試材
図10(a)〜(f)に、ガス腐食試験の試験前及び24時間経過後の銅製の各供試材の金属表面の状況を示し、図12にガス腐食試験前及び試験後の銅製の各供試材の色差を示す。
先ず図10(a)〜(d)及び図12に示されるように、本発明のコーティング材を被覆した供試材(Fb)〜(Ib)は、いずれも銅製の金属表面に変色等が確認されず、また色差も僅かな誤差範囲で有意な値は測定されなかった。この結果から、供試材(Fb)〜(Ib)では、各供試材の表面に腐食等の化学変化が全く発生しておらず、よって本発明に係るコーティング材は、完全に銅製の金属材表面を被覆しているものと考えられる。
一方で図10(e)及び図12に示されるように、比較対象として本発明とは異なるコーティング材を被覆した供試材(Jb)では、銅製の金属表面に黒ずんだ変色を確認することができ、また色差も有意な値49.8が測定された。この結果から、供試材(Jb)では、供試材の表面に若干の硫化銅(I)(CuS),硫化銅(II)(CuS)が発生しているものと考えられる。これは、比較対象となるコーティング材に含まれるSiO以外の多量の有機成分が、雰囲気中の酸性ガスに侵される結果、下地となる銅製の金属材表面が露出するためと考察される。
これに対し、本発明のコーティング材は、SiOの純度が極めて高く、SiO以外の有機成分が微量のみ含まれているため、上記した供試材(Fb)〜(Ib)では、雰囲気中の酸性ガスに侵されることがほとんどなく、腐食が発生しないものと考察される。
また図10(f)及び図12に示されるように、コーティング材を被覆していない供試材(無印b)では、銅製の金属表面が黒色に変色しており、また色差も大きな値63.5が測定された。この結果から、供試材(無印b)では、供試材の表面の全面にわたり硫化銅(I)(CuS),硫化銅(II)(CuS)が発生しているものと考えられる。
(耐摩耗性試験)
次に、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材の耐摩耗性試験について説明する。この耐摩耗性試験は、後述する種類のコーティング材を被覆したアルミ製の供試材、及び本発明の比較対象として、本発明とは異なる種類のコーティング材を被覆したアルミ製の供試材、及びコーティング材を被覆していないアルミ製の供試材に対し、摩耗輪を一定荷重(本実施例では4.9N)かけて押圧した状態で、所定回数(本実施例では500回)回転させた後、各供試材の摩耗量を質量測定する、いわゆるテーバー式摩耗試験である。
図13に示されるように、供試材(K)は、アルミ製の金属板の表面に、防水、防傷、防汚性に優れたシリカガラスコートを被覆したものである。当該シリカガラスコートは主としてスマートフォン、車両等の表層改質に適用される。また供試材(L)は、アルミ製の金属板の表面に、錆を還元・腐食防止するシリカガラスコートを被覆したものである。当該シリカガラスコートは主として排気管、海洋船、車塗装面等に適用され、赤錆を黒錆に還元・腐食防止する用途に使用される。また供試材(M)は、アルミ製の金属板の表面に、上記した供試材(L)と同じシリカガラスコートを被覆し、更に焼成したものである。更に供試材(N)は、アルミ製の金属板の表面に、比較対象として本発明とは異なるコーティング材を被覆したものである。当該コーティング材は、SiO以外の有機成分を多量に含む点において、本発明のコーティング材とは異なる。また供試材(無印)は、アルミ製の金属板の表面に、何らのコーティング材も被覆せず、金属素地が露出されたものである。また効果の再現性を確認するため、供試材(K)及び供試材(無印)については計3回試験を行った。
次に、図13に示されるように、耐摩耗性試験により各供試材に生じた摩耗量について説明する。第1回目の試験では、供試材(無印)の摩耗量が18mgであったのに対し、供試材(K)の摩耗量は14mgであり、供試材(L)の摩耗量は15mgであり、供試材(M)の摩耗量は16mgであり、すなわち本発明に係る供試材(K)、(L)及び(M)の摩耗量はいずれも供試材(無印)よりも有意に小さかった。また比較対象である供試材(N)の摩耗量は18mgであり、供試材(無印)と同じであった。
また、第2回目の試験では、供試材(無印)の摩耗量が20mgであったのに対し、供試材(K)の摩耗量は19mgであり、すなわち本発明に係る供試材(K)の摩耗量は供試材(無印)よりも有意に小さかった。
また、第3回目の試験では、供試材(無印)の摩耗量が132mgであったのに対し、供試材(K)の摩耗量は116mgであり、すなわち本発明に係る供試材(K)の摩耗量は供試材(無印)よりも有意に小さかった。
上記した耐摩耗性試験によれば、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材が、何らのコーティング材も被覆していない金属材と比較して、摩耗量が約10〜20%低減した。これは、本発明に係るコーティング材を被覆することで、金属材の表面がナノレベル凹凸の極めて平滑性の高い表面構造となり、すなわちコーティング材を被覆した金属材の摩擦係数が低減することで、高い耐摩耗効果が発現するものと考察される。
(防汚試験)
次に、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材の防汚試験について説明する。この防汚試験は、後述する種類のコーティング材を被覆したアルミ製の供試材、及び本発明の比較対象として、コーティング材を被覆していないアルミ製の供試材の表面に対し、防汚対象物の試料を塗布した状態で、数日間を経過した後、密着度試験機で試料の剥離を試みることで、防汚性能を確認した試験である。
図14に示されるように、供試材(P)はアルミ製の足場板の表面に、防水、防傷、防汚性に優れたシリカガラスコートをスポンジないしローラーによって被覆したものである。当該シリカガラスコートは主として排気管、海洋船、車塗装面等に適用され、赤錆を黒錆に還元・腐食防止する用途に使用される。また供試材(無印)は、アルミ製の金属板の表面に、何らのコーティング材も被覆せず、金属素地が露出されたものである。
またこれらの供試材(P)及び供試材(無印)のそれぞれの上面に、防汚対象物の試料として、主に外壁の吹付に使用されるリシンを塗布して付着させるとともに(図示上側)、及び建築工事に多用されるモルタルを塗布して付着させた(図示下側)。塗布後の供試材を乾燥した屋内にて約11日経過した後、これらリシン及びモルタルの剥離を試みた。
図15(a),(b)に示されるように、各供試材(P)及び供試材(無印)に付着したリシン及びモルタルを密着度試験機にて剥離させ(図示左側)、当該剥離した足場板の表面部分に散水した(図示右側)。図15(a)の右側に示されるように、供試材(P)では多数の細かい水滴状に付着する撥水作用が見られた。また図15(b)の右側に示されるように、供試材(無印)では広い面のシミ状に付着する親水作用が見られた。なお、各供試材(P)及び供試材(無印)に付着したリシン及びモルタルを剥離させるための密着度試験機は、供試材(P)では約2kg重目盛の荷重でモルタルが剥離するのに対して、供試材(無印)では約10kg重目盛の荷重でモルタルが剥離した。
上記した剥離試験によれば、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材が、何らのコーティング材も被覆していない金属材と比較して、付着した防汚対象物の高い剥離性を有していることが確認された。
また図16に示されるように、試料を剥離した後の各供試材(P)及び供試材(無印)の表面を目視観察すると、供試材(P)の表面には試料の付着前と変わらず光沢があり、一方で、供試材(無印)の表面には剥離部分が一部白色化していた。これは、供試材(P)の表面に付着したリシン及びモルタルを剥離した後も、本発明に係るコーティング材は剥離されることなく残留しており、一方で供試材(無印)に付着したリシン及びモルタルがその硬化過程で強アルカリ化することで、供試材(無印)の表面が腐食され、アルミニウムが白色化したものと考察される。
上記した防汚試験によれば、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材が、何らのコーティング材も被覆していない金属材と比較して、高い防汚性及び耐腐食性を有していることが確認された。
(表面粗さ試験)
次に、本発明に係るコーティング材を被覆した金属材の表面粗さ試験について説明する。この表面粗さ試験は、後述する種類のコーティング材を被覆した亜鉛鋼製の供試材、及び本発明の比較対象として、コーティング材を被覆していない亜鉛鋼製の供試材の表面に対し、表面粗さ測定機で供試材の表面粗さを測定することで、供試材の平滑さを確認した試験である。
図17に示されるように、供試材(Q)は足場資材に使用される亜鉛鋼製の金属板の表面に、錆を還元・腐食防止するシリカガラスコートを被覆したものである。当該シリカガラスコートは主として排気管、海洋船、車塗装面等に適用され、赤錆を黒錆に還元・腐食防止する用途に使用される。また供試材(無印)は、亜鉛鋼製の金属板の表面に、何らのコーティング材も被覆せず、金属素地が露出されたものである。
各供試材(Q)及び供試材(無印)の表面上の任意の3箇所ずつを選定し、図示しない表面粗さ測定機にて当該箇所の表面粗さを測定した。図18に示されるように、供試材(Q)では各点の算術平均粗さRaの平均値が0.3322μmであったのに対し、供試材(無印)では各点の算術平均粗さRaの平均値が0.7762μmであった。
上記した表面粗さ試験によれば、亜鉛鋼製の金属板にコーティング材を被覆することで、金属素地と比較して表面が平滑化されることが確認された。このように、本願発明に係るコーティング材を被覆することで、表面に汚れ成分、水分、化学成分が留まり難くなり、防汚効果及び耐腐食効果が向上するものと思料される。
なお、以上説明した各試験に使用した供試材のうち、第1の暴露試験の供試材(A)、第2の暴露試験の供試材(E)、ガス腐食試験の供試材(Fa)、供試材(Fb)、耐摩耗性試験の供試材(L)、防汚試験の供試材(P)、及び表面粗さ試験の供試材(Q)は、互いに同じコーティング材であって、主として排気管、海洋船、車塗装面等に適用され、赤錆を黒錆に還元・腐食防止する用途に使用されるシリカガラスコートを被覆したものである。
(本願発明の作用効果)
以上説明したように、本発明のコーティング材の被覆方法によれば、水分が付着した金属材1の表面2にコーティング材の原液10(原材料)を被覆し、原液10に含まれる成分と空気中の水分とを化学反応させるとともに、原液10に含まれる成分と金属材1の表面2に付着している水分6とを化学反応させることで、金属材1の表面2にSiOを主成分とした薄膜のコーティング材15を生成することにより、金属材1の表面2に付着している発錆の原因となる水分6を、SiOを主成分とするコーティング材15の生成のための化学反応に利用することで、金属材1に被覆した原液10の表層面10a側及び背層面10b側の両方向から迅速に化学反応させることができるばかりか、金属材1に被覆したコーティング材15の背面側にて発錆を防止でき、更に金属材1の表面2に密接状態で被覆する高い防錆性を備えたコーティング材15を生成することができる。
また、コーティング材15の表層面は、ナノレベルの微細な凹凸からなるディンプル16が形成された平滑面に形成することで、コーティング材15の表層に水分や異物が付着し難く、高い防錆性に加え、撥水性、防汚効果を得ることができる。
また、原液10に含まれる成分と水分との化学反応で生成した気体の揮発を利用してディンプル16を形成することで、コーティング材15の表面にディンプル16を均一な分布に形成できる。
また、コーティング材15は、10nm〜1μmの膜厚を有していることにより、コーティング材15が極めて薄い膜厚であるため、被覆対象となる金属材1の厚さ寸法が被覆前と比してほとんど変化せず、金属材1を広範な用途に適用することができる。
更に、金属材1の表面2に目粗し処理を施した後、この金属材1の表面2にコーティング材の原液10を被覆することにより、金属材1の表面2に予め目粗し処理を施すことで、コーティング材の原液10が、金属材1の表面2の目粗しによって形成された凹凸部に入り込んだ状態で膜層を生成するため、コーティング材15が金属材1に密着するアンカー効果が高まる。
また、金属材1の表面2に水分を付着させた後、この金属材1の表面2にコーティング材の原液10を被覆することにより、金属材1の表面2に付着させた水分と、この金属材1の表面2に接するコーティング材の原液10との化学反応を促進できる。
また、金属材1は、架設材として使用されることで、金属材1の表面に硬質なSiOを主成分としたコーティング材15を生成することで、金属粉等の異物が食い込み難いため、架設材の表面の防汚効果が高まり当該架設材を長期に亘り使用に供することができる。
また本発明のコーティング材15が被覆された金属材1によれば、水分が付着した金属材1の表面2にコーティング材の原液10を被覆し、該原液10に含まれる成分と空気中の水分とを化学反応させるとともに、原液10に含まれる成分と金属材1の表面2に付着している水分とを化学反応させることで、金属材1の表面2にSiOを主成分とした薄膜のコーティング材15が生成されていることにより、金属材1の表面2に付着した発錆の原因となる水分を、SiO2を主成分とするコーティング材15の生成のための化学反応に利用することで、金属材1に被覆したコーティング材15の背面側にて発錆を防止できるばかりか、表面に密接する高品質なコーティング材15を被覆した金属材1を提供することができる。
また、金属材1は、架設材として適用されることで、架設材に被覆したコーティング材15の背層面側にて発錆を防止できるばかりか、表面に密接する高品質且つ硬質であって防汚性にも優れたコーティング材を被覆した架設材を提供することができる。
また、コーティング材の被覆対象となる金属材として、例えばアルミニウム、亜鉛、鉛、錫、金、銀、銅または真鍮など、比較的モース硬度の低い金属材にコーティング材を被覆することで、当該被覆対象のモース硬度を、鉄よりも高い値に向上させることができる。
更に、銀製若しくは銅製の金属材の表面をコーティング材で被覆することで、硫化銀や硫化銅の発生による変色や腐食を防止することができる。
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
例えば、前記実施例では、コーティング材15は略100%のSiOを主成分としているが、これに限らず、微量又はSiOに影響を与えない程度の少量であれば他の成分を含有してもよい。
また例えば、前記実施例では、本発明に係るコーティング材の被覆対象として金属材が適用されているが、これに限らず例えば、本発明のコーティング材がブラスト加工機等の覗き窓に用いられる透明のアクリル樹脂材等に適用されてもよく、このようにすることで、当該アクリル樹脂材の表面硬度が高まり、ブラスト加工機内部で飛散する研磨材に対して耐用期間を約10倍以上に向上させることができるという効果が得られる。
1 金属材
2 表面
3 凹凸部
6 水分
10 原液(コーティング材の原材料)
10a 表層面
10b 背層面
11,12 SiO
15 コーティング材
16 ディンプル
17 アンカー部
25 コーティング材
26 ディンプル
30 パイプ
40 パイプ

Claims (11)

  1. 被覆対象となる金属材の表面にコーティング材を被覆する方法であって、
    水分が付着した前記金属材の表面に前記コーティング材の原材料を被覆し、該原材料に含まれる成分と空気中の水分とを化学反応させるとともに、前記原材料に含まれる成分と前記金属材の表面に付着している水分とを化学反応させることで、前記金属材の表面にSiOを主成分とした薄膜のコーティング材を生成することを特徴とするコーティング材の被覆方法。
  2. 前記コーティング材の表層面は、ナノレベルの微細な凹凸からなるディンプルが形成された平滑面であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング材の被覆方法。
  3. 前記ディンプルは、前記原材料に含まれる成分と水分との化学反応で生成した気体を揮発させることで形成されることを特徴とする請求項2に記載のコーティング材の被覆方法。
  4. 前記コーティング材は、10nm〜1μmの膜厚を有していることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のコーティング材の被覆方法。
  5. 前記金属材の表面に目粗し処理を施した後、該金属材の表面に前記コーティング材の原材料を被覆することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のコーティング材の被覆方法。
  6. 前記金属材の表面に水分を付着させた後、該金属材の表面に前記コーティング材の原材料を被覆することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のコーティング材の被覆方法。
  7. 前記金属材は、架設材として使用されることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のコーティング材の被覆方法。
  8. 表面にコーティング材が被覆された金属材であって、
    水分が付着した前記金属材の表面に前記コーティング材の原材料を被覆し、該原材料に含まれる成分と空気中の水分とを化学反応させるとともに、前記原材料に含まれる成分と前記金属材の表面に付着している水分とを化学反応させることで、前記金属材の表面にSiOを主成分とした薄膜のコーティング材が生成されていることを特徴とするコーティング材が被覆された金属材。
  9. 前記金属材は、架設材として適用されることを特徴とする請求項8に記載のコーティング材が被覆された金属材。
  10. 前記金属材は、鉄よりもモース硬度の低い金属からなることを特徴とする請求項8または9に記載のコーティング材が被覆された金属材。
  11. 前記金属材は、銀若しくは銅からなることを特徴とする請求項8ないし10のいずれかに記載のコーティング材が被覆された金属材。
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