本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態の苗移植機100の左側面を示している。図中には、苗移植機100の前後方向及び上下方向を矢印で示している。
図1は、玉葱などの野菜苗を圃場に植付けるための苗移植機100を示す。苗移植機100は、乗用型の苗移植機である。苗移植機100は、複数条(本実施形態では二条)の苗移植作業を同時に実行できるように構成されている。苗移植機100は、牽引車として機能する走行機体1と、その走行機体1の後方(図1の右方向)に配置された苗供給装置2と、その苗供給装置2の後方に配置された苗植付け装置3とを備える。
走行機体1は、下部体11と、その下部体11の上方に設けられた上部体12とで構成されている。下部体11は、ミッションケース13とリヤアクスルケース14との間に連結フレーム15を介在させて形成されている。連結フレーム15は、断面四角形状のパイプ材により形成され、前後方向に直線状に延在している。連結フレーム15には、原動機としてのエンジン16がブラケットを介して搭載されている。エンジン16には、ミッションケース13が連動連結されている。ミッションケース13には、リヤアクスルケース14とフロントアクスルケース17が連動連結されている。
走行機体1を支持する走行車輪は、左右一対の前輪20,20と左右一対の後輪22,22とで構成されている。前輪20,20は、フロントアクスルケース17の端部に前車軸21を介して取り付けられている。フロントアクスルケース17は、ミッションケース13の側壁部から外側へ向けて延設された軸ケース18の外側の端部から下方に向けて延設されている。後輪22,22は、リヤアクスルケース14の左右方向の端部に後車軸23を介して取り付けられている。走行車輪は昇降揺動自在に設けられており、それによって走行路面が凹凸形状であっても追従することができる。
上部体12の前方部には、ハンドルコラムの周囲を被覆するカバー体24と、そのハンドルコラムを介して支持されたハンドル25とが設けられている。上部体12の中央部には、オペレータが着席する運転席26が設けられている。オペレータは、運転席26にて苗移植機100を運転して圃場内を移動しながら、苗供給装置2及び苗植付け装置3を駆動させて、圃場に苗を植付ける苗移植作業を実行できる。ハンドル25の左右両側には、予備の苗トレイを載置するための予備苗台28が設けられている。上部体12の後方部には、オペレータが予備苗台28から苗供給装置2に苗トレイを移送するためのスペース27が形成されている。空の苗トレイは予備苗台28に収納される。
苗供給装置2は、昇降機構4を介して走行機体1に取り付けられている。昇降機構4は、前後方向に伸延するトップリンク片31と、左右一対のロワリンク片32と、後端部連結片33と、単動式の昇降シリンダ34とを有する。昇降機構4は、走行機体1の後方に設けられた昇降機構支持体19に上下回動自在に取り付けられている。圧油の供給により昇降シリンダ34を短縮させると、後端部連結片33が上昇し、それに伴って苗供給装置2及び苗植付け装置3が上昇する。一方、圧油の排出により昇降シリンダ34を伸長させると、苗供給装置2及び苗植付け装置3が自重によって下降する。
苗供給装置2の下方には、昇降センサローラ35が配置されている。昇降センサローラ35は、圃場の畝面の凹凸に沿って昇降動作する。この昇降センサローラ35の昇降動作に連動して昇降シリンダ34の油圧回路が切り替えられ、移植深さ(植付け深さ)が一定に維持されるように昇降機構4を作動させる。昇降センサローラ35の後方であって、後述する移植用カップ50の後方には、移植直後の苗に覆土するための覆土輪36が配置されている。
図1,2に示すように、苗供給装置2は、ポット苗Nをマトリックス状に配置した苗トレイ41が載置される苗載台42を備える。苗トレイ41には、前後方向と左右方向とのマトリックス状に苗ポット部41aが設けられている。苗ポット部41aの各々には、移植すべきポット苗N(図1では図示せず)が収められている。苗載台42は、横送り機構によって左右方向に往復動可能に構成されている。また、苗載台42は、縦送り機構によって、横送りの終端位置で苗トレイ41を1ピッチ(苗ポット部41aの1つ分の長さ)ずつ間欠的に後方下方へ移動可能に構成されている。
上記の縦送り機構は、動力伝達系を介して駆動される駆動軸に取り付けられた大径スプロケット43と、従動軸に取り付けられた小径チェンスプロケット44と、それらに巻掛けられた左右一対の搬送チェン45とを含む。搬送チェン45に搭載された苗トレイ41は、この縦送り機構により図2の矢印C方向に沿って後方下方へと搬送される。苗トレイ41は、可撓性を有する材料(例えば、軟質合成樹脂材)によって形成されているので、搬送チェン45に搭載されて搬送される際に、大径スプロケット43の外周に沿って湾曲可能である。
図1に示すように、苗供給装置2には、左右方向に延在する動力取入れ軸37を介した伝達経路を経て動力が伝達される。苗植付け装置3についても、これと同様である。動力取入れ軸37は、一対の後輪22,22の間で前後方向に延びた伝動シャフト38を含む伝動機構を介してミッションケース13に連動連結されている。当該伝動機構の中途部に配設されたクラッチケースには、植付けクラッチを備えたクラッチ機構や株間調整機構などが内蔵されている(いずれも図示せず)。
図2に示すように、苗植付け装置3は、移植すべきポット苗Nを保持して圃場に移植するための移植用カップ50を有する移植機構5と、苗トレイ41の苗ポット部41aからポット苗Nを苗取出爪61で取出して移植用カップ50に移送する受継ぎ機構6とを備える。後述するように、本実施形態では、左右方向の四箇所に移植機構5が設けられており、それに対応して受継ぎ機構6も左右方向の四箇所に設けられている。
受継ぎ機構6は、苗ポット部41aに収まっているポット苗Nを取り出し、そのポット苗Nを上方から移植機構5の移植用カップ50へ向けて落下させる苗取出爪61を有する。苗取出爪61は、先細り形状をなす左右一対の棒状部材で形成されている。この左右一対の棒状部材は、バネ(図示せず)によって常時閉じる方向に付勢されているが、カム板62の作用により、回動角度の一区間で付勢力に抗して開くように構成されている。苗取出爪61は、L字状に折り曲げられてリング状に形成された押出し部材60の先端部に挿通されている。
苗取出爪61は、ガイド軸65を有する苗取出しアーム66に取り付けられている。ガイド軸65は、ガイド板67に形成されたガイド溝63に摺動自在に嵌合されている。動力伝達系を介して駆動されるロータリケース(図示せず)の回転により、苗取出爪61は、苗ポット部41aの内部に先端部を侵入させてポット苗Nを挟持する姿勢を経て、移植用カップ50の上方に戻る、という軌跡64を辿る。押出し部材60は、軌跡64を辿る苗取出爪61が移植用カップ50の上方に位置したときに、苗取出爪61に突き刺さっているポット苗Nを押し出して落下させる。落下したポット苗Nは移植用カップ50で受け止められ、移植用カップ50に対する苗供給が行われる。
上述した走行機体1や苗供給装置2、苗植付け装置3の受継ぎ機構6は、通常の苗移植機と同様に構成することが可能であり、従来公知の形状や材質、機構などは何れも本発明に採用することができる。
既述の通り、本実施形態では、二条の苗移植作業を同時に実行できるように構成されている。また、図3のように、苗植付け装置3では左右方向の四箇所に移植機構5が設けられており、単一条(一列の植付け条)に対して左右一組の移植機構5,5を並設している。この並設された左右一組の移植機構5,5においては、その左右に位置する移植用カップ50を前後方向から見て植付け条に対して左右対称に傾斜させて、それらの植付け位置を単一条に一致させるように構成されている。
単一条に対して並設された左右一組の移植機構5のうち、少なくとも片方には複数の移植用カップ50を設けることができる。本実施形態では、その並設された左右一組の移植機構5,5のうち、一方が移植用カップ50を二つ有し、他方が移植用カップ50を一つ有する例を示す。便宜上、前者を移植機構5W、後者を移植機構5Sとして区別している。並設された左右一組の移植機構5,5(即ち、移植機構5Wと移植機構5S)が有する三つの移植用カップ50は、その植付け位置を単一条に一致させるように構成されている。
図3に示すように、移植機構5の入力軸となる伝動軸70には、スプロケット71,72に巻掛けられた伝動チェン73、及び、スプロケット74,75に巻掛けられた伝動チェン76を介して、動力取入れ軸37より動力が伝達される。入力部77は、中折れ自在且つ軸方向に伸縮自在の伝動シャフト78を介して、伝動軸70上に配置された出力部79に連動連結されている。回転中心軸80は、入力部77から左右方向に突出した出力軸である。第1ロータリケース81は、この回転中心軸80を中心にして回転する。
図4は、右端に位置する移植機構5(5W)の概略断面図である。図3,4に示すように、移植機構5Wは、回転中心軸80と、回転中心軸80を中心に回転する第1ロータリケース81と、第1ロータリケース81の回転直径方向の両先端部の側面に設けられた回転支軸83と、回転支軸83を中心に回転する一対の第2ロータリケース82,82と、回転支軸83に対して偏位した位置に配置され、第2ロータリケース82に対して回転可能に設けられた相対回動支持中心軸84と、相対回動支持中心軸84に支持された一対の移植用カップ50,50と、を備える。一対の移植用カップ50,50は、第1ロータリケース81の回転位相の如何に拘らず、常時下向きとなるように姿勢制御されている。
上記の構成を更に詳しく説明する。図4のように、回転中心軸80は、入力部77から左側へ向けて突出している。回転中心軸80は、入力部77から突出した筒部77pに対して相対回転可能に挿通されている。筒部77pは、入力部77に固定されているが、第1ロータリケース81に対しては相対回転可能に構成されている。回転中心軸80の先端部は、ボルトなどを介して第1ロータリケース81に固定されている。したがって、第1ロータリケース81は回転中心軸80と一体的に回転する。
第1ロータリケース81には、第1太陽歯車85と、第1ロータリケース81の両端に位置する一対の第1従動歯車86,86と、第1太陽歯車85と一対の第1従動歯車86,86との間で両者に噛み合う一対の第1中間歯車87,87とが内蔵されている。第1太陽歯車85は、筒部77pの外周に固定された固定ギヤであり、第1ロータリケース81が回転しても第1太陽歯車85は回転しない。第1中間歯車87は、第1太陽歯車85に噛み合う第1歯車部87aと、第1従動歯車86に噛み合う第2歯車部87bと、それらを連結する筒状の連結部87pとを有する。
一対の第1従動歯車86,86には、それぞれ回転支軸83が固着されている。回転支軸83は、第1ロータリケース81から左側へ向けて突出している。回転支軸83は、第1ロータリケース81から突出した筒部81pに対して相対回転可能に挿通されている。筒部81pは、第2ロータリケース82に対して相対回転可能に構成されている。回転支軸83の先端部は、ボルトなどを介して第2ロータリケース82に固定されている。したがって、第2ロータリケース82は回転支軸83と一体的に回転(自転)し、且つ、回転中心軸80を中心にして回動(公転)する。第2歯車部87bから第1従動歯車86までの変速比率(ギヤ比)は1であり、第2歯車部87bの歯数Z87bと第1従動歯車86の歯数Z86との関係は、Z87b:Z86=1:1の式で表される。
第1ロータリケース81には、更に、筒部77pの外周に固定された第2太陽歯車88と、筒部81pの外周に固定された第2従動歯車89と、第2太陽歯車88と第2従動歯車89との間で両者に噛み合う第2中間歯車90とが内蔵されている。第2太陽歯車88から第2従動歯車89までの変速比率(ギヤ比)は1であり、第2太陽歯車88の歯数Z88と第2従動歯車89の歯数Z89との関係は、Z88:Z89=1:1の式で表される。
第2ロータリケース82には、筒部81pの外周に固定された第3太陽歯車91と、相対回動支持中心軸84に固着された第3従動歯車92と、第3太陽歯車91と第3従動歯車92との間で両者に噛み合う第3中間歯車93とが内蔵されている。相対回動支持中心軸84は、第2ロータリケース82の回転支軸83に対して偏位した位置に配置されている。第3太陽歯車91から第3従動歯車92までの変速比率(ギヤ比)は1であり、第3太陽歯車91の歯数Z91と第3従動歯車92の歯数Z92との関係は、Z91:Z92=1:1の式で表される。
第3従動歯車92には、相対回動支持中心軸84が固着されている。相対回動支持中心軸84は、第2ロータリケース82から左側へ向けて突出している。相対回動支持中心軸84は、第2ロータリケース82に対して相対回転可能に構成されている。移植用カップ50は、リンク機構95を介して相対回動支持中心軸84に支持されている。したがって、移植用カップ50は、第2ロータリケース82に対して相対回転可能に支持されている。第2ロータリケース82の側面にはカム体94が取り付けられている。
移植用カップ50は、下向きに窄まる略円錐状部材を前後方向に半割りした一対のカップ体50a,50b(図3参照)により形成されている。一対のカップ体50a,50bは、図示しないバネによって常時閉じる方向に付勢されている。カム体94とリンク機構95とは、移植用カップ50が所定範囲内に位置するときに、一対のカップ体50a,50bの下端側をバネの付勢力に抗して開放するように連係されている。
上記の所定範囲は、第1ロータリケース81の長手方向(一対の第2ロータリケース82,82が装着された側)が上下方向を指向し、後述する回動静軌跡Tの下端部の頂点近傍となる範囲である。これにより、下方に位置する移植用カップ50の下端部が圃場面に突入した直後に、一対のカップ体50a,50bの下端側が開き、保持されていたポット苗が圃場に移植され、移植用カップ50の下端部が圃場面から抜き出た後に、移植された苗よりも上方で一対のカップ体50a,50bの下端側が閉じる、という移植用カップ50の開閉動作が行われる。
図5は、第1ロータリケース81の内部に設けられた間欠駆動機構7を示す。本実施形態において、間欠駆動機構7は、第1太陽歯車85と、それに噛み合う一対の第1中間歯車87,87とで構成されている。(a)は、第1ロータリケース81(図5では図示せず)の長手方向が上下方向を指向した状態を示し、(b)は、第1ロータリケース81の長手方向が水平方向を指向した状態を示している。第1太陽歯車85は、下方の半周分だけに歯85tが形成された欠歯ギヤであり、上方の半周分は歯無し部85nとして形成されている。既述の通り、第1太陽歯車85は、入力部77に固定された筒部77pに固定されているので、第1ロータリケース81が回転しても第1太陽歯車85は回転しない。一対の第1中間歯車87,87が有する第1歯車部87a,87aの周方向の一部には、歯87tの先端部を切欠いた切欠き部87cが設けられている。
第1太陽歯車85の上方の半周分に形成された歯無し部85nを第1中間歯車87が通る間は、歯85tと歯87tとが噛み合わないために第1歯車部87aは回転をロックさせた状態で公転し、したがって第2歯車部87bも回転せず、回転支軸83に回転動力が伝達されない。一方、第1太陽歯車85の下方の半周を第1中間歯車87が通る間は、歯85tと歯87tとが噛み合うために第1歯車部87aが回転し、それに連動して第2歯車部87bも回転して、回転支軸83に回転動力が伝達される。これにより、第1ロータリケース81に対する第2ロータリケース82の相対位置変化を間欠駆動させることができる。
第1中間歯車87は、第1太陽歯車85の下方の半周を通る間に一回転する。したがって、歯85tと歯87tとが全周に亘って規則的に形成されていたとすれば、第1太陽歯車85から第1歯車部87aまでの変速比率(ギヤ比)は1/2であり、第1太陽歯車85の歯数Z85と第1歯車部87aの歯数Z87aとの関係は、Z85:Z87a=2:1の式で表される。このため、第1ロータリケース81が一回転して第1中間歯車87が第1太陽歯車85の周囲を回動(公転)する間、その下方の半周では第1中間歯車87が一回転し、上方の半周では第1中間歯車87が回転しない、という間欠的な動作が行われる。
図6及び7は、それぞれ、図4に示した第1ロータリケース81と第2ロータリケース82を回転中心軸80の軸方向から見た概略側面図であり、当該ケースに内蔵されている歯車を概略的に示している。図6では、第1ロータリケース81の長手方向が水平方向を指向した状態と、同じく上下方向を指向した状態とを重ねて示している。図7では、第1ロータリケース81の長手方向が前傾方向を指向した状態と、同じく後傾方向を指向した状態とを重ねて示している。
図6及び7において、回転中心軸80を介して第1ロータリケース81を矢印A方向(反時計周り方向)に回転(自転)させると、第1ロータリケース81の両先端部に設けられた回転支軸83は回動(公転)し、第2ロータリケース82も同方向に回動する。また、回転支軸83に固着された第1従動歯車86は、第1中間歯車87を介して第1太陽歯車85と噛み合っているので、図6及び7において時計周り方向に回転し、それに伴って第2ロータリケース82も同方向に回転する。このように、第1ロータリケース81が反時計周り方向に回転するのに対して、第2ロータリケース82は時計周り方向に回転する。即ち、第2ロータリケース82は、第1ロータリケース81の回転方向と逆方向に回転する。
第1ロータリケース81が回転中心軸80を中心に一回転する間に、回転支軸83は、回転半径Rを有する円形状の回動静軌跡Mを描き、第2ロータリケース82は回転支軸83を中心に一回転する。但し、第2ロータリケース82の動きは、上方の半周と下方の半周とで異なる。具体的に、第2ロータリケース82は、回動静軌跡Mにおける下方の半周において、第1ロータリケース81に対する相対位置を変化させて回転支軸83を中心に一回転するのに対し、回動静軌跡Mにおける上方の半周では、回転支軸83が回転をロックされた状態となり、第1ロータリケース81に対する相対位置を変化させない。回動静軌跡Mの上方の半周でのみ従動歯車86が固定された状態(自転しない状態)となることで、第2ロータリケース82は第1ロータリケース81に対して間欠的に相対回転することになる。このような間欠的な動作は、上述した間欠駆動機構7によって実現される。また、上述した第1及び第2ロータリケース81,82内の伝達機構により、第1ロータリケース81の回転位相の如何に拘らず、相対回動支持中心軸84に支持された移植用カップ50は常時下向きとなるように姿勢制御される。
図8は、回転中心軸80に対する第2ロータリケース82の変位を連続的に示している。第1ロータリケース81に対する第2ロータリケース82の相対変位と、その第1ロータリケース81に対する相対回動支持中心軸84の相対変位との関係から、相対回動支持中心軸84は図8の如き回動静軌跡Tを描く。このことは、相対回動支持中心軸84に支持されている移植用カップ50においても同じである。図9では、回動静軌跡Tに加えて、移植用カップ50の下端部が辿る回動静軌跡Teも示しており、回動静軌跡Tと回動静軌跡Teとは互いに合同である。このように、回転中心軸80の軸方向から見て移植用カップ50は図9の如き回動静軌跡T(及び回動静軌跡Te)を描く。回動静軌跡は、苗移植機100(の走行機体1)が前進していない状態での回動軌跡である。
図9に示すように、回転中心軸80の軸方向から見た移植用カップ50の回動静軌跡Tは、上向きに凸となる円弧形状をなす上方軌跡Tuと、下向きに凸となる縦長の楕円弧形状をなす下方軌跡Tdとにより形成されている。このように、回動静軌跡Tは上下で異なる形状を有している。回動静軌跡Tの全体形状は、上下方向に長い楕円形状ではなく、上下方向に長い卵形状に近い。本実施形態において、上方軌跡Tuは、回転中心軸80(図9では図示せず)と略同じ高さに位置する両端H1,H2から上方に延びており、下方軌跡Tdは、その両端H1,H2から下方に延びている。両端H1,H2は、必ずしも回転中心軸80と同じ高さに位置している必要はない。また、上方軌跡Tuは、一定の径を有する円の上半身形状に相当し、下方軌跡Tdは、上下方向に長い楕円の下半身形状に相当する。本実施形態において、上方軌跡Tuは、回転支軸83の回動静軌跡Mとの同心円に沿った形状をしている。
本実施形態では、上記のような形状の回動静軌跡Tを実現するうえで、第1ロータリケース81に対する第2ロータリケース82の相対位置変化を間欠駆動することにより、一対の移植用カップ50に回動静軌跡Tを描かせる間欠駆動機構7が第1ロータリケース81の内部に設けられている。この間欠駆動は、既述の通り、上方の半周に位置する回転支軸83には回転動力を伝達せず、下方の半周に位置する回転支軸83には回転動力を伝達することにより、第1ロータリケース81に対する第2ロータリケース82の相対位置を下方の半周でのみ変化させるものである。
また、本実施形態では、図6のように、第1ロータリケース81が水平方向を指向するとき、第2ロータリケース82の回転支軸83より回転半径Rの内径側に相対回動支持中心軸84,84の各々が位置し、且つ、第1ロータリケース81が上下方向を指向するとき、上方に位置する第2ロータリケース82の回転支軸83より回転半径R内側の下位置に相対回動支持中心軸84が位置するとともに、下方に位置する第2ロータリケース82の回転支軸83より回転半径R外側の下位置に相対回動支持中心軸84が位置するようにする伝動機構が、第1及び第2ロータリケース81,82の内部に設けられている。図6では、第1ロータリケース81が水平方向を指向する状態において、回転支軸83、相対回動支持中心軸84、回転中心軸80、相対回動支持中心軸84、回転支軸83が、この順で水平線上に並ぶ。また、第1ロータリケース81が上下方向を指向する状態において、回転支軸83、相対回動支持中心軸84、回転中心軸80、相対回動支持中心軸84、回転支軸83が、この順で鉛直線上に並ぶ。
移植用カップ50の回動静軌跡Tは、上記の如き上方軌跡Tuと下方軌跡Tdとで形成されているので、上方への突出が抑えられた形状となる。そのため、苗取出爪61を回動静軌跡Tに近付けることが可能となり、延いては苗取出爪61を移植用カップ50に近付けて配置することが容易になり、苗供給の安定性が高められる。また、第1ロータリケース81の両先端部に装着された一対の第2ロータリケース82の各々に相対回動支持中心軸84を介して移植用カップ50が支持されているため、第1ロータリケース81が一回転することで単一条に沿った二箇所に苗を植付けることができて、高速苗移植作業を実現できる。したがって、この苗移植機100によれば、高速苗移植作業を実現しながら苗供給の安定性を高めることができる。
しかも、上方軌跡Tuと下方軌跡Tdとで形成された回動静軌跡Tは、図10のような上下方向に長い楕円形状をなす回動静軌跡と比べて、その上下方向の長さが小さくなる。上方軌跡Tuが楕円弧形状ではなく円弧形状をなすことから、その上方への突出が抑えられ、例えば苗供給装置2を接近させて配置することが可能となり、機械をコンパクトに構成できる。更に、下方軌跡Tdが、縦長の楕円弧形状をなすことにより、苗を植付けるためのストロークを十分に確保できる。このような楕円弧形状は、苗移植機100(の走行機体1)が前進する状態では圃場面にて略鉛直状となるため、苗を適正な姿勢で植付けるうえで都合がよい。
図9に示した位置P1,P2は、それぞれ株間(植付間隔)を広げるときなどに移植用カップ50の回動を一時停止するときの位置を示す。移植用カップ50が圃場面に接近して引き摺られる事態を避けるうえでは、このように互いに実質的に同じ高さとなる位置P1,P2で一対の移植用カップ50,50を一時停止することが好ましい。この位置P1(位置P2でも可)の上方から苗取出爪61がポット苗を落下させることで、移植用カップ50への苗供給が行われる。
一対の移植用カップ50,50は、回動静軌跡Tを描いて回動する際に、上方軌跡Tuの両端H1,H2近傍で一時停止することが好ましい。その場合、上死点を挟んで、その上死点の近傍となる位置で一対の移植用カップ50,50を一時停止するので、互いに回転位相を180度ずらした関係にある一対の移植用カップ50,50が圃場面から適度に離れた状態で一時停止され、苗供給の安定性を確実に高めることができる。本実施形態では、一対の移植用カップ50,50が両端H1,H2で一時停止する(換言すれば、一対の相対回動支持中心軸84,84が両端H1,H2に位置するときに一時停止する)例を示す。
図3において左端に位置する移植機構5Wは、右端に位置する移植機構5Wを平面視で左右対称に配置したこと以外は同じ構成を有するため、重複した説明を省略する。
本発明は、上述のような第1ロータリケースの両先端部に装着された第2ロータリケースの各々に移植用カップが支持された移植機構に適用されるものであり、移植用カップ50を一つだけ有する移植機構5(即ち、移植機構5Wと対をなす移植機構5S)の構成は特に限定されない。また、そのような移植用カップ50を一つだけ有する移植機構5Sを具備しない構造でも構わない。
本実施形態では、第1ロータリケース81内の伝動機構が歯車のみで構成されている例を示したが、これに限られず、スプロケットとそれに巻掛けたチェンとを含む構成にしても構わない。
本実施形態では、二条植えタイプの苗移植機を例示したが、これに限られず、一条植えタイプの苗移植機、または三条以上の複数条植えタイプの苗移植機であっても構わない。
本実施形態では、乗用型の苗移植機の例を示したが、これに限られず、歩行型の苗移植機であってもよい。
本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。