JP2019096590A - 正極活物質 - Google Patents

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泰行 森下
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Abstract

【課題】容量に優れるリチウムイオン二次電池を提供するための新たな正極活物質を提供すること。【解決手段】 空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示し、下記組成式(1)で表されることを特徴とする正極活物質。LizMn1−xTi1−yPaXbO4(1)(組成式(1)において、Xはハロゲン元素から選択され、z、x、y、a及びbは、2.2≦z≦3、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦a≦0.04、0<b≦0.2を満足する。)【選択図】図1

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池の正極活物質に関するものである。
リチウムイオン二次電池は小型で大容量であるため、携帯電話やノート型パソコンなどの種々の機器の電池として用いられている。リチウムイオン二次電池は、主な構成要素として、正極、負極及び電解液を備える。正極は、集電体と、該集電体の表面に形成され、正極活物質を含有する正極活物質層とを有する。
リチウムイオン二次電池の正極活物質としては、種々の材料が用いられることが知られており、また、優れた正極活物質となり得る材料が探求されている。例えば、特許文献1にて、リチウム、マンガン及びチタンを含有する新たな複合金属酸化物が、リチウムイオン二次電池の正極活物質として使用可能なことが報告されている。
特開2016−122549号公報
近年、産業界からは、容量に優れるリチウムイオン二次電池が求められており、それを実現するための、新たな正極活物質が求められている。
本発明は、かかる事情に鑑みて為されたものであり、容量に優れるリチウムイオン二次電池を提供するための新たな正極活物質を提供することを目的とする。
本発明者は、特許文献1に記載の複合金属酸化物についての研究を行ったところ、容量の観点で、改良の余地があることに気が付いた。そして、本発明者の鋭意検討の結果、ある種の元素をドープすることで、当該複合金属酸化物の正極活物質としての性能が向上することを見出した。さらに、ドープ元素がフッ素である正極活物質が、特に好適な放電容量を示すことを見出した。本発明は、本発明者のかかる知見に基づき、完成されたものである。
本発明の正極活物質は、空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示し、下記組成式(1)で表されることを特徴とする。
LiMn1−xTi1−y (1)
(組成式(1)において、Xはハロゲン元素から選択され、z、x、y、a及びbは、2.2≦z≦3、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦a≦0.04、0<b≦0.2を満足する。)
本発明の正極活物質に因り、容量に優れるリチウムイオン二次電池を提供できる。
実施例1の正極活物質のX線回折チャートである。 実施例1のリチウムイオン二次電池の充放電曲線である。 実施例2のリチウムイオン二次電池の充放電曲線である。 比較例1のリチウムイオン二次電池の充放電曲線である。 実施例2−2の正極活物質のHAADF−STEM像である。 実施例2の正極活物質のHAADF−STEM像である。 実施例2−2の正極活物質のHAADF−STEM像において、<100>方位の電子の積分強度を示すチャートである。 実施例2の正極活物質のHAADF−STEM像において、<100>方位の電子の積分強度を示すチャートである。 比較例1の正極活物質のHAADF−STEM像において、<100>方位の電子の積分強度を示すチャートである。
以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、新たな上限や下限の数値とすることができる。
本発明の正極活物質は、空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示し、下記組成式(1)で表されることを特徴とする。
LiMn1−xTi1−y (1)
(組成式(1)において、Xはハロゲン元素から選択され、z、x、y、a及びbは、2.2≦z≦3、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦a≦0.04、0<b≦0.2を満足する。)
なお、「Fm−3m」において、「−3」は上線を付した3を表したものである。
まず、組成式(1)のz、x及びyについて説明する。
zとしては、2.3≦z≦2.8の範囲が好ましく、2.4≦z≦2.7の範囲がより好ましく、2.45≦z≦2.65の範囲がさらに好ましい。また、zはx、y及びbとの関係で規定されていてもよい。例えば、0.9×(2+x+y+b)≦z≦1.1×(2+x+y+b)の関係や、0.95×(2+x+y+b)≦z≦1.05×(2+x+y+b)の関係を例示できる。
xとしては、0<x≦0.4の範囲が好ましく、0.1≦x≦0.35の範囲がより好ましく、0.11≦x≦0.3の範囲がさらに好ましい。
yとしては、0<y≦0.4の範囲が好ましく、0.1≦y≦0.35の範囲がより好ましく、0.11≦y≦0.3の範囲がさらに好ましい。
組成式(1)で表される正極活物質には、Pが含まれてもよいし、含まれなくてもよい。Pの組成比を示すaとしては、0≦a≦0.03を満足するのが好ましく、0≦a≦0.02を満足するのがより好ましく、0≦a≦0.015を満足するのがさらに好ましく、0≦a≦0.01を満足するのが特に好ましい。Pを過剰に添加すると、放電容量が減少する場合がある。
組成式(1)で表される正極活物質にはXが含まれる。Xの添加により、正極活物質の放電容量が増加する。Xとしては、F、Cl、Br、Iを例示できる。
Xの組成比を示すbとしては、0.01≦b≦0.2を満足するのが好ましく、0.05≦b≦0.15を満足するのがより好ましく、0.1≦b≦0.15を満足するのがさらに好ましい。
本発明の正極活物質の製造方法について説明する。
本発明の正極活物質を製造するには、一般的な正極活物質を製造する際に採用される、固相法や共沈法を応用して合成すればよい。固相法の場合には、リチウム源、マンガン源、チタン源及びX源、必要に応じてP源を、所望の比率で混合し、焼成することで、本発明の正極活物質を製造できる。共沈法の場合には、マンガン塩及びチタン塩を所望の比率で混合した水溶液から、水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物などを沈殿させて沈殿物とし、次いで、沈殿物と、リチウム源と、X源と、必要に応じてP源とを混合して焼成することで、本発明の正極活物質を製造できる。固相法及び共沈法の焼成温度としては、500〜1200℃が好ましく、700〜1100℃がより好ましく、800〜1000℃がさらに好ましく、850〜950℃が特に好ましい。焼成は、ヘリウムやアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うのが好ましい。
リチウム源としては、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、フッ化リチウムを例示できる。マンガン源又はマンガン塩としては、酸化マンガン、水酸化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン、フッ化マンガンを例示できる。チタン源又はチタン塩としては、酸化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、塩化チタン、フッ化チタン、チタン酸リチウムを例示できる。X源としては、Xがフッ素の場合で例示すると、フッ化リチウム、フッ化マンガン、フッ化チタンを例示できる。P源としては、リン酸、リン酸化物及びリン酸塩、並びにこれらの誘導体を例示できる。また、X源としては、リチウム源にもなり得る化合物を採用するのが合理的であるため、X源として、LiXやLiPXを採用するのが好ましい。
X源及びP源としては、焼成温度よりも融点又は分解温度が低い化合物が好ましい。X源及びP源として、焼成温度よりも融点又は分解温度が低い化合物を採用することで、焼成時に優れた反応場を提供することが可能となる。その結果、各原料の反応性が向上して、不都合な副反応を抑制することができる。したがって、X源及びP源として焼成温度よりも融点又は分解温度が低い化合物を採用して製造された本発明の正極活物質には、不純物の混入が抑制されるといえる。融点又は分解温度の点で好適なX源及びP源としては、LiF、LiPF、LiPOを例示できる。
合成後の本発明の正極活物質は、適切な粒度分布の粉末に調製する粉砕工程に供されるのが好ましい。粉砕工程は、本発明の正極活物質と後述する導電助剤との共存下で、実施されるのが好ましい。本発明の正極活物質の粉末の平均粒子径としては、0.5〜50μmが好ましく、1〜30μmがより好ましく、3〜10μmがさらに好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径とは、一般的なレーザー回折散乱式粒度分布測定装置で試料を測定した際の50%累積径(D50)を意味する。
また、後述する評価例6の結果から、以下の発明を把握することができる。
空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示す正極活物質であって、
高角度散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡法で前記結晶構造の{110}面を観測した時の顕微鏡像における、<100>方位の電子の積分強度を示すチャートにおいて、連続するピークの距離が2.5〜5.5Åの範囲内であることを特徴とする正極活物質(以下、高規則性正極活物質ということがある。)。
高角度散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡法とは、いわゆるHAADF−STEMであり、細く絞った電子線を試料に走査させながら当て、透過電子のうち高角に散乱したものを環状の検出器で検出し、検出された電子の積分強度を表示する方法をいう。
HAADF−STEM像は、測定対象が原子量の大きな原子であるほど、強い強度で観測されることが知られている。リチウムやナトリウムなどの電荷担体金属、遷移金属及び酸素で構成される正極活物質を測定したHAADF−STEM像においては、事実上、原子量の大きな遷移金属が測定対象となる。
電荷担体金属、遷移金属及び酸素で構成される空間群Fm−3mの正極活物質においては、電荷担体金属及び遷移金属が配置される陽イオン箇所と、酸素が配置される陰イオン箇所とで、結晶格子が形成される。そして、空間群Fm−3mの結晶格子の{110}面における<100>方位において、理想的には、概ね2Å毎に陽イオン箇所と陰イオン箇所が順に存在する。すなわち、空間群Fm−3mの結晶格子の{110}面における<100>方位において、理想的には、概ね4Å毎に陽イオン箇所が存在する。
「連続するピークの距離が2.5〜5.5Åであること」とは、Fm−3m結晶の{110}面における<100>方位において、遷移金属が本来存在すべき陽イオン箇所に存在していることを意味する。
「連続するピークの距離が2.5Å未満」の場合には、遷移金属が本来存在すべき陽イオン箇所に存在しているだけではなく、酸素が本来存在すべき陰イオン箇所にも遷移金属が存在していることを意味する。換言すれば、遷移金属が隣り合って存在する場合があることを意味するといえる。
「連続するピークの距離が5.5Åを超える」場合には、遷移金属が本来存在すべき陽イオン箇所に存在していないことを意味し、結晶の成立性の点や正極活物質としての機能の点から、問題があるといえる。
さて、電荷担体であるリチウムイオンが正極活物質内を移動する場合には、周囲に遷移金属が存在しない経路で移動するのが好ましいと考えられている。逆に、周囲に遷移金属が存在する経路でリチウムイオンが移動する場合には、リチウムイオンの伝導性が悪化すると考えられている。参考文献として、Science,Vol.343,pp.519−522(2014)を提示する。
そうすると、「連続するピークの距離が2.5Å未満」の正極活物質においては、隣接する遷移金属(陽イオン箇所と陰イオン箇所の両者に存在する遷移金属)に因り、電荷担体の移動が妨害されるといえる。
他方、高規則性正極活物質においては、遷移金属は、陰イオン箇所ではなく、陰イオン箇所を挟む陽イオン箇所に正しく存在するため、電荷担体の移動が妨害される程度は低いといえる。すなわち、高規則性正極活物質においては、電荷担体の移動性が優れるといえる。
高規則性正極活物質において規定する連続するピークの距離としては、3〜5Åの範囲内が好ましく、3.5〜4.5Åの範囲内がより好ましい。
高規則性正極活物質を製造するためには、なるべく低温で、空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示す正極活物質を、合成するのが好ましい。従来の「連続するピークの距離が2.5Å未満」の正極活物質の製造方法においては、エネルギー過剰な高温条件下で正極活物質を合成していたために、一部の遷移金属の理想的な配置が乱れて、酸素が本来存在すべき陰イオン箇所に遷移金属が侵入したと考えられるためである。
高規則性正極活物質の合成においては、低温での優れた反応場を提供するために、焼成温度よりも融点が低い物質を添加するのが好ましい。そのような物質として、具体的に、LiF、LiPF、LiPO、LiCO、CHCOLi、LiOH、LiClを例示できる。また、反応性が高いことで知られるLiOを添加するのも好ましい。
前段落の記載から、高規則性正極活物質の合成時には、リチウム源として2種類以上のリチウム化合物を併用するのが好ましいといえる。併用の際には、リチウム化合物の共晶点が合成温度、すなわち焼成温度以下の組み合わせを選択するのが好ましい。例えば、LiFとLiCOとの共晶点は613℃であり、LiOHとLiCOとの共晶点は434℃であり、LiClとLiCOとの共晶点は517℃であるため、これらの組み合わせは好ましいといえる。
高規則性正極活物質の組成としては、電荷担体金属、遷移金属、酸素、及び、必要に応じて、これらの元素以外のドープ元素を例示できる。電荷担体金属としては、Li、Naなどのアルカリ金属を例示できる。遷移金属としては、Yなどの第3族元素、Ti、Zrなどの第4族元素、V、Nb、Taなどの第5族元素、Cr、Mo、Wなどの第6族元素、Mnなどの第7族元素、Fe、Ruなどの第8族元素、Co、Rhなどの第9族元素、Ni、Pd、Ptなどの第10族元素、Cu、Ag、Auなどの第11族元素を例示できる。遷移金属としては、2種類以上の異なる族の元素を併用するのが好ましい。
高規則性正極活物質の一態様として、下記組成式(A)又は下記組成式(1−1)で表される化合物を例示できる。
Li (A)
(組成式(A)において、Mは遷移金属である。Dは遷移金属以外のドープ元素である。a、b及びcは、0<a、0<b、3.8≦a+b+c≦4.2を満足する。)
組成式(A)において、a、b及びcは、2≦a≦3、1≦b≦2、0≦c≦0.3、3.9≦a+b+c≦4.1を満足するのが好ましく、2.1≦a≦2.9、1.3≦b≦1.8、0≦c≦0.2、3.95≦a+b+c≦4.05を満足するのがより好ましい。
LiMn1−xTi1−y (1−1)
(組成式(1−1)において、Xはハロゲン元素から選択され、z、x、y、a及びbは、2.2≦z≦3、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦a≦0.04、0≦b≦0.2を満足する。)
また、以下の高規則性正極活物質の製造方法を把握できる。
2種類以上のリチウム化合物及び遷移金属酸化物を混合し、焼成する、高規則性正極活物質の製造方法。
2種類以上のリチウム化合物及び遷移金属酸化物を混合し、焼成する、高規則性正極活物質の製造方法であって、前記リチウム化合物のうち、少なくとも1種類は焼成時の温度よりも融点が低いことを特徴とする製造方法。
なお、高規則性正極活物質の規定を満足しない正極活物質の製造においても、他の結晶構造の不純物が製造されない限りは、「リチウム源として2種類以上のリチウム化合物を併用する」との技術事項を適用するのが好適といえる。さらに、「前記リチウム化合物のうち、少なくとも1種類は焼成時の温度よりも融点が低いこと」との技術事項を適用するのがより好適といえる。すなわち、以下の正極活物質の製造方法を把握できる。
2種類以上のリチウム化合物及び遷移金属酸化物を混合し、焼成する、正極活物質の製造方法。
2種類以上のリチウム化合物及び遷移金属酸化物を混合し、焼成する、正極活物質の製造方法であって、前記リチウム化合物のうち、少なくとも1種類は焼成時の温度よりも融点が低いことを特徴とする製造方法。
前段落の正極活物質の製造方法又は高規則性正極活物質の製造方法における焼成温度としては、650〜900℃が好ましく、680〜900℃がより好ましく、700〜850℃がさらに好ましい。
高規則性正極活物質に関する他の事項、及び、高規則性正極活物質を具備する正極や二次電池に関する事項については、本明細書における本発明の正極活物質などに関する説明を援用する。
以下、本発明の正極活物質を具備するリチウムイオン二次電池用正極を「本発明の正極」といい、本発明の正極活物質を具備するリチウムイオン二次電池を「本発明のリチウムイオン二次電池」という。
本発明の正極は、本発明の正極活物質を含む正極活物質層、及び、集電体を具備する。正極活物質層は集電体上に形成される。正極活物質層における本発明の正極活物質の配合割合として、30〜100質量%、40〜90質量%、50〜80質量%、を例示できる。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体の材料は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はない。集電体の材料としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、正極用集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
具体的には、正極用集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極活物質層には、本発明の正極活物質以外に公知の正極活物質が含まれていてもよい。また、正極活物質層には、結着剤及び導電助剤が含まれているのが好ましい。正極活物質層に含まれる結着剤及び導電助剤としては、後述するものを適宜適切に採用すればよい。
本発明のリチウムイオン二次電池は、具体的に、本発明の正極と、負極と、セパレータと、電解液とを具備する。
負極は、集電体と集電体上に形成された負極活物質層を具備する。負極活物質層には、公知の負極活物質が含まれており、さらに、結着剤及び導電助剤が含まれているのが好ましい。負極の集電体としては、本発明の正極で説明したものから適宜適切に選択すればよい。以下、正極活物質及び負極活物質の両者を総合して「活物質」という場合があり、また、正極活物質層及び負極活物質層の両者を総合して「活物質層」という場合がある。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.01〜1:0.7であるのが好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、結着剤、溶剤、並びに必要に応じて導電助剤を混合してスラリーにしてから、当該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥するとよい。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。また、活物質、結着剤、及び必要に応じて導電助剤を含む混合物を調製し、当該混合物を集電体に圧着させることで、集電体の表面に活物質層を形成させてもよい。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
非水溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル類等が使用できる。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートを例示でき、環状エステルとしては、ガンマブチロラクトン、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネートを例示でき、鎖状エステルとしては、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
電解質としては、LiClO、LiAsF、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(CFSO等のリチウム塩を例示できる。
電解液としては、フルオロエチレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO、LiPF、LiBF、LiCFSOなどのリチウム塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
本発明のリチウムイオン二次電池の具体的な製造方法について述べる。
例えば、正極と負極とでセパレータを挟持して電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極の積層体を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、各種の具体例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの具体例によって限定されるものではない。
(比較例1)
LiCO、Mn及びTiOを、元素組成比Li:Mn:Tiが2.4:0.8:0.8となるように秤量し、これらの粉末をボールミルに投入した。そして、ボールミルによる混合を約100rpmで24時間行い、混合物とした。混合物を成型した上で、アルゴンガス雰囲気下、950℃で12時間加熱して焼成することで、焼成物である比較例1の正極活物質を製造した。比較例1の正極活物質の理論上の組成は、Li2.4Mn0.8Ti0.8である。
比較例1の正極活物質と導電助剤としてのアセチレンブラックとを、質量比5:2となるように秤量して、ボールミルに投入した。そして、ボールミルによる混合を300rpmで0.5時間行い、比較例1の正極活物質及びアセチレンブラックを含む比較例1の混合物とした。
比較例1の混合物、アセチレンブラック、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレンを乳鉢で混合して、粘土状の正極活物質層用組成物とした。当該正極活物質層用組成物において、比較例1の正極活物質とアセチレンブラックとポリテトラフルオロエチレンとの質量比は5:3:2であった。
集電体としてメッシュ状のアルミニウムを準備し、これに正極活物質層用組成物を圧着して、比較例1の正極を得た。
リチウム箔を準備し、これを負極とした。セパレータとしてポリエチレン多孔質膜を準備した。また、LiPF6を1mol/Lの濃度で含有する電解液を準備した。電解液の溶媒は、エチレンカーボネート3体積部及びジエチルカーボネート7体積部を混合した混合溶媒とした。
セパレータを比較例1の正極と負極とで挟持し電極体とした。この電極体を二枚一組のラミネートフィルムで覆い、三辺をシールした後、袋状となったラミネートフィルムに上記電解液を注入した。その後、残りの一辺をシールすることで、四辺が気密にシールされ、電極体および電解液が密閉された比較例1のリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例1−1)
焼成温度を850℃にした以外は、比較例1と同様の方法で、比較例1−1の正極活物質を製造した。
(実施例1)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して1質量%に相当する添加量のLiFを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、比較例1と同様の方法で、実施例1の正極活物質、実施例1の混合物、実施例1の正極、実施例1のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例1の正極活物質の理論上の組成は、Li2.463Mn0.8Ti0.80.063である。
(実施例2)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して2質量%に相当する添加量のLiFを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、比較例1と同様の方法で、実施例2の正極活物質、実施例2の混合物、実施例2の正極、実施例2のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例2の正極活物質の理論上の組成は、Li2.526Mn0.8Ti0.80.126である。
(実施例2−1)
焼成温度を900℃にした以外は、実施例2と同様の方法で、実施例2−1の正極活物質、実施例2−1の混合物、実施例2−1の正極を製造した。
また、実施例2−1の正極を用いた点、セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を用いた点、並びに、ラミネートフィルムに代えてコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)を用いた点以外は、実施例2と同様の方法で、実施例2−1のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例2−2)
焼成温度を850℃にした以外は、実施例2−1と同様の方法で、実施例2−2の正極活物質、実施例2−2の混合物、実施例2−2の正極、実施例2−2のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例3)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して1質量%に相当する添加量のLiPFを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、比較例1と同様の方法で、実施例3の正極活物質、実施例3の混合物、実施例3の正極、実施例3のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例3の正極活物質の理論上の組成は、Li2.411Mn0.8Ti0.80.0110.064である。
(実施例4)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して2質量%に相当する添加量のLiPFを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、比較例1と同様の方法で、実施例4の正極活物質、実施例4の混合物、実施例4の正極、実施例4のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例4の正極活物質の理論上の組成は、Li2.421Mn0.8Ti0.80.0210.129である。
(実施例5)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して2質量%に相当する添加量のLiF、及び、Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して2質量%に相当する添加量のLiPOを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、比較例1と同様の方法で、実施例5の正極活物質、実施例5の混合物、実施例5の正極、実施例5のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例5の正極活物質の理論上の組成は、Li2.610Mn0.8Ti0.80.0280.126である。
(比較例2)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して1質量%に相当する添加量のLiPOを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、比較例1と同様の方法で、比較例2の正極活物質、比較例2の混合物、比較例2の正極、比較例2のリチウムイオン二次電池を製造した。比較例2の正極活物質の理論上の組成は、Li2.442Mn0.8Ti0.80.014である。
(比較例3)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して2質量%に相当する添加量のLiPOを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、比較例1と同様の方法で、比較例3の正極活物質、比較例3の混合物、比較例3の正極、比較例3のリチウムイオン二次電池を製造した。比較例3の正極活物質の理論上の組成は、Li2.484Mn0.8Ti0.80.028である。
(比較例4)
LiCO、Mn及びTiOを、元素組成比Li:Mn:Tiが2.444:0.667:0.889となるように秤量し、これらの粉末をボールミルに投入した以外は、比較例1と同様の方法で、比較例4の正極活物質、比較例4の混合物、比較例4の正極を製造した。比較例4の正極活物質の理論上の組成は、Li2.444Mn0.667Ti0.889である。
また、比較例4の正極活物質を用いた以外は、実施例2−1と同様の方法で、比較例4のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例6)
Li2.444Mn0.667Ti0.889に対して2質量%に相当する添加量のLiFを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、比較例4と同様の方法で、実施例6の正極活物質、実施例6の混合物、実施例6の正極、実施例6のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例6の正極活物質の理論上の組成は、Li2.567Mn0.667Ti0.8890.123である。
(実施例6−1)
焼成温度を900℃にした以外は、実施例6と同様の方法で、実施例6−1の正極活物質、実施例6−1の混合物、実施例6−1の正極、実施例6−1のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例6−2)
焼成温度を850℃にした以外は、実施例6と同様の方法で、実施例6−2の正極活物質、実施例6−2の混合物、実施例6−2の正極、実施例6−2のリチウムイオン二次電池を製造した。
表1−1に、比較例1、実施例1〜実施例5、比較例2〜比較例3の正極活物質の一覧を示す。表1−2に、比較例4及び実施例6の正極活物質の一覧を示す。
(評価例1)
走査型電子顕微鏡(SEM)とエネルギー分散型X線分析装置(EDX)を組み合わせたSEM−EDXにて、実施例2の正極活物質に対して、Mn、Ti、F及びOを対象とした分析を行ったところ、これらの元素が実施例2の正極活物質中に分散して存在することが確認できた。
(評価例2)
Cu−Kα線を用いた粉末X線回折装置にて、実施例及び比較例の正極活物質の分析を行った。
すべての正極活物質のX線回折チャートにおいて、空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示す回折パターンが観察された。実施例1の正極活物質のX線回折チャートを図1に示す。
ただし、焼成温度が850℃である比較例1−1の正極活物質のX線回折チャートには、他の結晶構造を示す不純物のピークも観測された。焼成温度が850℃である実施例2−2及び実施例6−2の正極活物質のX線回折チャートには、不純物のピークが観測されなかったことから、LiFの添加に因り、原料の反応性が向上したといえる。
(評価例3)
実施例1、2、3〜5及び比較例1〜3のリチウムイオン二次電池につき、25℃の条件下、電流レート13.5mA/gで電圧4.8Vまで充電させた後に、電流レート13.5mA/gで電圧1.5Vまで放電させた。その結果から、各正極活物質の単位質量あたりの放電容量を算出した。
放電容量の結果を、各正極活物質におけるPとFの組成とともに、表2に示す。表2は比較例1のLi2.4Mn0.8Ti0.8を母体としたものの結果である。
また、実施例1のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を図2に、実施例2のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を図3に、比較例1のリチウムイオン二次電池の充放電曲線を図4に、それぞれ示す。
表2において、比較例1の正極活物質と比較して、すべての実施例の正極活物質は、放電容量に優れることがわかる。特に、実施例2の正極活物質の放電容量の高さは際立っている。本発明の正極活物質は好適に充放電に寄与でき、かつ、容量に優れることが裏付けられたといえる。
実施例1のリチウムイオン二次電池と比較して、Pが添加された実施例3のリチウムイオン二次電池は、放電容量が低下した。同様に、実施例2のリチウムイオン二次電池と比較して、Pが添加された実施例4及び実施例5のリチウムイオン二次電池は、放電容量が低下した。さらに、比較例2及び比較例3の結果から、Pの添加量が増加すると、放電容量が低下することが示唆される。以上の結果から、Pの添加は、必ずしも放電容量の増大にはならず、放電容量の減少となる場合もあるといえる。
また、比較例1及び比較例3の正極活物質と比較して、比較例2の正極活物質が放電容量に優れることから、以下の発明を把握できる。以下の発明の特定事項についての説明は、組成式(1)に関する本発明の正極活物質の説明を適宜援用する。
空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示し、下記組成式(2)で表されることを特徴とする正極活物質。
LiMn1−xTi1−y (2)
(組成式(2)において、z、x、y及びaは、2.2≦z≦3、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0<a≦0.02を満足する。)
(評価例4)
実施例2−1、2−2、6、6−1、6−2及び比較例4のリチウムイオン二次電池につき、25℃の条件下、電流レート7mA/gで電圧4.8Vまで充電させた後に、電流レート6.5mA/gで電圧1.5Vまで放電させた。その結果から、各正極活物質の単位質量あたりの放電容量を算出した。
放電容量の結果を、表3及び表4に示す。表3は比較例4のLi2.444Mn0.667Ti0.889を母体としたものの結果である。表4は焼成温度に関する結果である。
表3において、比較例4の正極活物質と比較して、実施例6の正極活物質は、放電容量に著しく優れることがわかる。正極活物質のMnやTiの組成比が多少変動しても、Fをドープすることに因る容量の向上は達成可能といえる。
表4の結果から、本発明の正極活物質の製造において、焼成温度が低い方が正極活物質の放電容量が増加する傾向にあるといえる。
(評価例5)
焼成温度が900℃である実施例2−1の正極活物質と、焼成温度が950℃である実施例2の正極活物質とをSEMで観察して比較した。焼成温度が低い実施例2−1の正極活物質のSEM像には、微細な空隙を多数有する表面積の大きな正極活物質が観察されたが、他方、焼成温度が高い実施例2の正極活物質のSEM像には、空隙の数が少なく、表面積が小さな正極活物質が観察された。
さらに、焼成温度が950℃である実施例2と実施例6の正極活物質をSEMで観察して比較したところ、実施例6の正極活物質の方が微細な空隙の面積が大きかった。
これらの正極活物質の形状の違いは、それぞれの放電容量に影響すると考えられる。
(評価例6)
高角度散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡(HAADF−STEM)を用いて、焼成温度が850℃である実施例2−2の正極活物質、焼成温度が950℃である実施例2の正極活物質、及び、焼成温度が950℃である比較例1の正極活物質について、球面収差補正を行いつつ、加速電圧200kVにて分析を行った。
実施例2−2の正極活物質のFm−3m結晶構造の{110}面におけるHAADF−STEM像からは、Mn及びTiに対応する強い明度の輝点が、規則的かつ同等のコントラストで観察された。実施例2−2の正極活物質のHAADF−STEM像を図5に示す。
他方、実施例2及び比較例1の正極活物質のFm−3m結晶構造の{110}面におけるHAADF−STEM像からは、Mn及びTiに対応する強い明度の輝点が、規則的かつ同等のコントラストで観察されるとともに、これらの各輝点間であって、理想的なFm−3m結晶構造においては酸素原子が存在する箇所に、Mn及びTiに対応する弱い明度の輝点が観察された。実施例2の正極活物質のHAADF−STEM像を図6に示す。
以上の結果から、実施例2及び比較例1の正極活物質においては、本来、酸素原子が位置すべき箇所に、Mn及びTiの一部が侵入していることがわかる。
また、{110}面を観測したHAADF−STEM像における、<100>方位の電子の積分強度を示すチャートを算出し、それぞれのチャートにおいて、観測された連続するピークの距離を算出した。ここで、「{110}面を観測したHAADF−STEM像における、<100>方位」とは、図5のHAADF−STEM像においては、上下方向を意味する。また、ピークの距離とは、ピークトップ間の距離を意味する。
実施例2−2の正極活物質のチャートを図7に、実施例2の正極活物質のチャートを図8に、比較例1の正極活物質のチャートを図9にそれぞれ示す。連続するピークの距離の結果を表5に示す。
以上の結果から、実施例2−2の正極活物質の{110}面における<100>方位において、Mn及びTiは4Å程度の一定間隔を保ち、規則的に存在しているといえる。換言すれば、実施例2−2の正極活物質においては、Mn及びTiがFm−3m結晶構造の陽イオン箇所に正しく存在しているといえる。
他方、実施例2及び比較例1の正極活物質の{110}面における<100>方位において、Mn及びTiは部分的に2Å間隔で存在しているといえる。換言すれば、実施例2及び比較例1の正極活物質においては、Mn及びTiがFm−3m結晶構造において陽イオン箇所以外の陰イオン箇所にも存在しているといえる。
実施例2や比較例1の正極活物質においては、2Å間隔で存在するMn及びTiに因り、リチウムイオンの移動が妨害されるのに対して、実施例2−2の正極活物質においては、Mn及びTiは4Å間隔で存在するため、リチウムイオンの移動が妨害される程度は低いといえる。すなわち、実施例2−2の正極活物質においては、リチウムイオンの移動性が優れるといえる。
評価例4で示されたとおり、実施例2−2の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の放電容量が著しく高いのは、実施例2−2の正極活物質においてはMn及びTiが4Å間隔で存在するため、リチウムイオンの移動性が優れることに起因すると考えられる。
(実施例7−1)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して2質量%に相当する添加量のLiOを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと、並びに、焼成温度を850℃にしたこと以外は、比較例1と同様の方法で、実施例7−1の正極活物質、実施例7−1の混合物、実施例7−1の正極、実施例7−1のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例7−1の正極活物質の製造において、リチウム源はLiCO及びLiOの2種類である。
(実施例7−2)
焼成温度を800℃にした以外は、実施例7−1と同様の方法で、実施例7−2の正極活物質、実施例7−2の混合物、実施例7−2の正極、実施例7−2のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例7−3)
焼成温度を750℃にした以外は、実施例7−1と同様の方法で、実施例7−3の正極活物質、実施例7−3の混合物、実施例7−3の正極、実施例7−3のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例7−4)
焼成温度を700℃にした以外は、実施例7−1と同様の方法で、実施例7−4の正極活物質、実施例7−4の混合物、実施例7−4の正極、実施例7−4のリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例5)
焼成温度を650℃にした以外は、実施例7−1と同様の方法で、比較例5の正極活物質を製造した。
(実施例8−1)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して2質量%に相当する添加量の酢酸リチウム二水和物を、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、実施例7−1と同様の方法で、実施例8−1の正極活物質、実施例8−1の混合物、実施例8−1の正極、実施例8−1のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例8−1の正極活物質の製造において、リチウム源はLiCO及びCHCOLiの2種類である。
(実施例8−2)
焼成温度を800℃にした以外は、実施例8−1と同様の方法で、実施例8−2の正極活物質、実施例8−2の混合物、実施例8−2の正極、実施例8−2のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例8−3)
焼成温度を750℃にした以外は、実施例8−1と同様の方法で、実施例8−3の正極活物質、実施例8−3の混合物、実施例8−3の正極、実施例8−3のリチウムイオン二次電池を製造した。
(実施例8−4)
焼成温度を700℃にした以外は、実施例8−1と同様の方法で、実施例8−4の正極活物質、実施例8−4の混合物、実施例8−4の正極、実施例8−4のリチウムイオン二次電池を製造した。
(比較例6)
焼成温度を650℃にした以外は、実施例8−1と同様の方法で、比較例6の正極活物質を製造した。
(実施例9−1)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して2質量%に相当する添加量の水酸化リチウム一水和物を、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、実施例7−1と同様の方法で、実施例9−1の正極活物質、実施例9−1の混合物、実施例9−1の正極、実施例9−1のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例9−1の正極活物質の製造において、リチウム源はLiCO及びLiOHの2種類である。
(実施例10−1)
Li2.4Mn0.8Ti0.8に対して2質量%に相当する添加量のLiClを、LiCO、Mn及びTiOと共にボールミルに投入したこと以外は、実施例7−1と同様の方法で、実施例10−1の正極活物質、実施例10−1の混合物、実施例10−1の正極、実施例10−1のリチウムイオン二次電池を製造した。実施例10−1の正極活物質の製造において、リチウム源はLiCO及びLiClの2種類である。
(評価例7)
Cu−Kα線を用いた粉末X線回折装置にて、実施例7−1〜実施例10−1の正極活物質、及び、比較例5〜比較例6の正極活物質の分析を行った。
すべての実施例の正極活物質のX線回折チャートにおいて、空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示す回折パターンが、概ね単一の結晶構造として観察された。他方、比較例5〜比較例6の正極活物質のX線回折チャートからは、LiMnO由来と推定される、空間群Fm−3mではない結晶構造を示す回折パターンが観察された。
(評価例8)
実施例7−1〜実施例10−1のリチウムイオン二次電池につき、25℃の条件下、電流レート7mA/gで電圧4.8Vまで充電させた後に、電流レート6.5mA/gで電圧1.5Vまで放電させた。その結果から、各正極活物質の単位質量あたりの放電容量を算出した。
放電容量の結果を、表6に示す。
実施例7−1〜実施例10−1の正極活物質は、すべて200mAh/g以上の高い放電容量を示した。合成時に2種類以上のリチウム源を用いて、かつ、比較的低温で焼成することに因り、正極活物質の放電容量が増加するといえる。
また、評価例4、評価例6及び評価例8の結果及び考察を鑑みると、焼成温度が850℃以下と低い実施例7−1〜実施例10−1の正極活物質についても、焼成温度が850℃である実施例2−2の正極活物質で観測されたのと同様のHAADF−STEM像が観測されると強く推認される。

Claims (8)

  1. 空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示し、下記組成式(1)で表されることを特徴とする正極活物質。
    LiMn1−xTi1−y (1)
    (組成式(1)において、Xはハロゲン元素から選択され、z、x、y、a及びbは、2.2≦z≦3、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦a≦0.04、0<b≦0.2を満足する。)
  2. 空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示し、下記組成式(2)で表されることを特徴とする正極活物質。
    LiMn1−xTi1−y (2)
    (組成式(2)において、z、x、y及びaは、2.2≦z≦3、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0<a≦0.02を満足する。)
  3. 空間群Fm−3mに帰属可能な結晶構造を示す正極活物質であって、
    高角度散乱環状暗視野走査透過電子顕微鏡法で前記結晶構造の{110}面を観測した時の顕微鏡像における、<100>方位の電子の積分強度を示すチャートにおいて、連続するピークの距離が2.5〜5.5Åの範囲内であることを特徴とする正極活物質。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の正極活物質を具備するリチウムイオン二次電池用正極。
  5. 請求項4に記載のリチウムイオン二次電池用正極を具備するリチウムイオン二次電池。
  6. 2種類以上のリチウム化合物、及び、遷移金属酸化物を混合し、焼成する、正極活物質の製造方法。
  7. 焼成時の温度が680〜900℃の範囲内である請求項6に記載の正極活物質の製造方法。
  8. 前記リチウム化合物のうち、少なくとも1種類は焼成時の温度よりも融点が低い請求項6又は7に記載の正極活物質の製造方法。
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