JP2019090094A - フェライト系耐熱鋳鋼、排気系部品及びタービンハウジング - Google Patents
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Abstract
【課題】オーステナイト系耐熱鋳鋼と比較して安価でありながら高温環境下における物理特性に優れるだけでなく、溶接性にも優れたフェライト系耐熱鋳鋼を得ること。【解決手段】フェライト系耐熱鋳鋼は、質量比で、C:0.03%以下、Mn:0.8%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ti:0.01%以下、Cr:16〜20%、Mo:2〜3%、N:0.03%以下、Nb:(8×(C+N))〜1%、Al:2〜7%、Si:(0.5−0.06×Al)%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる。このフェライト系耐熱鋳鋼を素材とすることで、高温環境下においても優れた酸化性、引張り強度の各物理特性が確保され、また、溶接後の熱処理を実施しなくても溶接割れの発生が抑制されて溶接性にも優れる。【選択図】 なし
Description
本発明は、フェライト系耐熱鋳鋼並びにそれを素材とする排気系部品及びタービンハウジングに関する。
自動車等に搭載される内燃機関(エンジン)の排気系部品として、例えば排気タービン過給機のタービンハウジング等のように鋳造製のものが知られている。排気系統には高温状態の排気ガスが流通するため、鋳造製の排気系部品の素材としては、耐熱鋳鋼が用いられている。
耐熱鋳鋼としては、オーステナイト系のものと、フェライト系のものが知られている。この両者を比較すると、オーステナイト系耐熱鋳鋼の方がフェライト系耐熱鋳鋼よりも、高温時における酸化性、引張り強度等の物理特性に優れており、従来、排気系部品の素材としては、オーステナイト系耐熱鋳鋼が一般的に用いられてきた(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、オーステナイト系耐熱鋳鋼は、高価なニッケル(Ni)を10数%程度含有させる必要があるため、材料コストの低減という点では、フェライト系耐熱鋳鋼に劣る。
また、近年では、排気系部品の軽量化を図るため、一つの排気系部品を鋳造製部分と鋼板製部分とに分け、両者を溶接により一体化させた構成を採用することが試みられている。この構成を採用する場合に、鋳造製部分の素材としてオーステナイト系耐熱鋳鋼を用いると、板金製部分との溶接時における溶接割れを防ぐため、Niを含有する高価な溶接棒を用いたり、溶接後は鋭敏化を回避するための熱処理が必要となったりして、製造コストの増加を招く。そのため、排気系部品の素材としてオーステナイト系耐熱鋳鋼を用いる場合には、部品全体が鋳造により一体化された構造を採用せざるを得ず、排気系部品の軽量化が難しいという問題もある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、オーステナイト系耐熱鋳鋼と比較して安価でありながら高温環境下における物理特性に優れるだけでなく、溶接性にも優れたフェライト系耐熱鋳鋼を得ることを目的とする。
上記課題を解決するため、第1の発明のフェライト系耐熱鋳鋼では、質量比で、C:0.03%以下、Mn:0.8%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ti:0.01%以下、Cr:16〜20%、Mo:2〜3%、N:0.03%以下、Nb:(8×(C+N))〜1%、Al:2〜7%、Si:(0.5−0.06×Al)%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなることを特徴とする。
第1の発明によれば、Niよりも安価なAlを2〜7%含有することにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼と比較して安価でありながら、高温環境下においても優れた耐酸化性、引張り強度の各物理特性を確保することができる。また、鋼板製部分との溶接において、Niを含有する高価な溶接棒は不要である。そして、前記Alの含有とともに、0.5−(0.06×Al)%以下のSiを含有することにより、溶接後の熱処理を実施しなくても溶接割れの発生が抑制されるため、溶接性にも優れている。
第2の発明では、第1の発明のフェライト系耐熱鋳鋼において、Alが7%未満であって、かつAl+Siが7%以下であることを特徴とする。
第2の発明によれば、フェライト性耐熱鋳鋼の硬度の上昇を抑制し、被削性の悪化による機械加工性能の低下を抑制できる。
第3の発明の排気系部品は、第1の発明又は第2の発明のフェライト系耐熱鋳鋼よりなることを特徴とする。
フェライト系耐熱鋳鋼は、オーステナイト系耐熱鋳鋼と比較して、低比重でNiよりも安価なAlを含有し、前述したように優れた物理特性を備え、かつ溶接性にも優れている。そのため、第3の発明によれば、排気系部品の製造コストを低減したり軽量化を実現したりすることができる。
第4の発明のタービンハウジングでは、
タービン流路及びタービン室を備えた鋳造製の内側ハウジングと、
前記内側ハウジングのタービン回転中心軸線方向からみた外周部を取り込むように設けられた板金製の外側ハウジングと、
を備え、
前記内側ハウジングと前記外側ハウジングとが溶接によって一体化されており、
前記内側ハウジングは、第1の発明又は第2の発明のフェライト系耐熱鋳鋼により形成されていることを特徴とする。
タービン流路及びタービン室を備えた鋳造製の内側ハウジングと、
前記内側ハウジングのタービン回転中心軸線方向からみた外周部を取り込むように設けられた板金製の外側ハウジングと、
を備え、
前記内側ハウジングと前記外側ハウジングとが溶接によって一体化されており、
前記内側ハウジングは、第1の発明又は第2の発明のフェライト系耐熱鋳鋼により形成されていることを特徴とする。
オーステナイト系耐熱鋳鋼と比較して安価でありながら、高温環境下においても優れた耐酸化性、引張り強度の各物理特性を確保できるフェライト系耐熱鋳鋼が内側ハウジングの素材として用いられているため、タービンハウジングの製造コストを低減できる。また、フェライト系耐熱鋳鋼は溶接性にも優れているため、鋼板製の外側ハウジンとの溶接による一体化が好適になされ、しかも含有するAlが低比重であることから、タービンハウジングの軽量化を実現できる。
以下に、本発明の一実施の形態について図面を参照しつつ説明する。本実施の形態では、自動車等の排気系部品として、排気タービン過給機のタービンハウジングにおける内側ハウジングに適用した例として説明する。
図6に示すように、タービンハウジング10は、内側ハウジング11と外側ハウジング12とを備えている。内側ハウジング11は鋳造製であり、タービン流路11a及びタービン室11bを備えている。外側ハウジング12は鋼板よりなり、略筒状をなすように形成されている。外側ハウジング12は、内側ハウジング11をタービン回転中心軸線方向から見た場合の当該内側ハウジング11の外周部を取り囲むように設けられている。外側ハウジング12は、内側ハウジング11の外周部における当接部分で溶接され、内側ハウジング11と接合されている。タービンハウジング10は、この両者が一体化されることによって構成されている。
鋳造製の内側ハウジング11は、その素材として、フェライト系耐熱鋳鋼が用いられている。このフェライト系耐熱鋳鋼は、質量比で、C:0.03%以下、N:0.03%以下、Mn:0.8%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ti:0.01%以下、Cr:16〜20%、Mo:2〜3%、Nb:(8×(C+N))〜1%、Al:2〜7%、Si:(0.5−0.06×Al)%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなる。
炭素(C)及び窒素(N)は、一般的な溶解炉において溶湯を生成することが可能な汎用性鉄原料を用いた場合に、必然的に含まれる成分である。CやNが過剰に含まれると、フェライト系耐熱鋳鋼の靭性を低下させるだけなく、溶接をした場合に、鋭敏化による応力腐食割れが生じやすくなる。そのため、CやNは、その含有量をできるだけ低くすることが望ましい。そこで、C及びNの含有量は、それぞれ0.03質量%以下としている。
マンガン(Mn)は、フェライト系耐熱鋳鋼の固溶を強化するための成分として添加される。1質量%以下の範囲として硬さや組織を検査したところ、その範囲での変化は特に認められなかった。また、Mnを多く含有させるとその分だけ材料コストが増加するため、材料コストとのバランスから0.8質量%以下であることが好ましい。
リン(P)及び硫黄(S)の各成分は、鉄スクラップ等の原料に由来する成分である。P及びSは、フェライト系耐熱鋳鋼の溶接割れを発生させたり、耐食性を劣化させたりする要因となる。そのため、PやSは、その含有量をできるだけ低くすることが望ましい。そのため、Pは0.03質量%以下とすることが好ましく、Sは0.01質量%以下とすることが好ましい。
チタン(Ti)は、CやNと結合して炭化物や窒化物を生成し、靱性を向上させることができる成分である。高温環境下においては当該炭化物や窒化物が分解し、その近傍でCやNが増加してガンマ(γ)相を生じさせる。これにより、Feに富んだ酸化皮膜が生成されて異常酸化を発生させる原因となる。そのため、上限値を0.01質量%とすることが好ましい。この上限値は、排気系部品等の高温環境下で用いられる製品の素材とされる場合に好適となる。
クロム(Cr)は、フェライト系耐熱鋳鋼の引張り強度を向上させるとともに、Crを主成分とする皮膜が表面に生成することによって耐食性を向上させる成分である。Crの含有量が高くなるにつれてシグマ(σ)相の生成量が増加し、それによるフェライト系耐熱鋳鋼の脆化を招く。また、Crを含有させるために添加される汎用鉄クロム合金にはCやNなどを多く含有しており、Crの含有量を増加させようとすると、C及びNの含有量を上記の範囲に調整することが困難となる。そのため、Crの上限は、20質量%であることが好ましい。一方、Crの含有量を低下させると、耐腐食性を低下させてしまうため、Crの下限は16質量%であることが好ましい。なお、CrはCやNと反応して炭窒化物が生成され、その分、Crの含有量が減少することも考慮すれば、Crの下限値を17質量%とすることがより好ましい。
モリブデン(Mo)は、ニオブ(Nb)等とともにLavas相やμ相を形成し、基地組織中に分散析出して、フェライト系耐熱鋳鋼の強度を向上させる成分である。また、Moはフェライト相を形成する強力な因子であり、その含有は、フェライト相を安定化させる。Moの含有量を増加させることによるフェライト系耐熱鋳鋼の強度向上は、含有量が3質量%を超えると、強度の向上の効果は頭打ちとなる一方で、材料コストを増加させる。そのため、Moの上限値は3質量%であることが好ましい。一方で、Nb及びCrを上記範囲で含有する場合にMoの含有量を2質量%未満とすると、耐食性を急激に悪化させる。そのため、2質量%を下限値とすることが好ましい。
ニオブ(Nb)は、CやNと結合してフェライト相の靭性を向上させ、溶接割れを抑制することができる成分である。この効果を得るには、(C+N)の8倍以上含有させることが有効であるため、Nbの下限値としては8×(C+N)質量%とすることが好ましい。また、Nbは、Mo等とともにLavas相やμ相を形成し、基地組織中に分散析出して、フェライト系耐熱鋳鋼の強度を向上させる。もっとも、1質量%を超えて含有させても強度の向上の効果は頭打ちとなる一方で、材料コストを増加させる要因となる。そのため、Nbの上限値は1質量%とすることが好ましい。
アルミニウム(Al)は、それを含有することにより、フェライト相を安定化させるとともに、オーステナイト相の生成が抑えられ、ひいてはマルテンサイト相が形成されることによる靭性の低下が抑制される。また、Alは、σ相の生成速度を遅らせたり、σ相の生成に対して抑制的な働きをしたりして、脆性が高まることが抑制される。Alは、上記Crと反応して酸化皮膜を形成する。その酸化皮膜によって耐高温酸化性が高められるとともに、耐浸炭性や耐食性を向上させることができる。また、当該酸化皮膜の形成は、CrがNと反応してクロム窒化物を生成することを抑制する。クロム窒化物の生成は鋭敏化による耐食性の劣化を招くため、それが抑制される。そのため、オーステナイト系耐熱鋳鋼と異なり、溶接後に鋭敏化を回避するための熱処理を施さなくても、耐食性を維持することができる。
Alの含有量を少なくするにつれ酸化皮膜が形成されなくなるため、高温環境下における酸化が進み、高温酸化による減耗量が増加する。酸化による減耗は製品寸法に影響を及ぼし、内側ハウジング11における排気ガスの流動特性を大きく変化させて、ターボ効率を大幅に減少させる原因となる。そのため、内側ハウジング11の素材として用いた場合における酸化減耗量の限界値をマイナス(−)2.5mg/cm2と設定し、それを満たす範囲として、Alは2質量%以上含有させることが好ましい。
また、Alが2質量%未満となると、高温環境下において十分な引張り強度が確保できない。内側ハウジング11の素材として耐熱鋳鋼を用いる場合、例えば900℃における引張り強度として、60MPa以上であることが好ましいとされる。そこで、これを満たす範囲として、Alは2質量%以上含有させることが好ましい。Alを2質量%以上含有させることにより、Alが鉄(Fe)の格子歪に導入されることによる固溶が強化され、Mn、Cr、Mo、Nb等の他の金属との化合物を分散析出させることで、引張り強度を向上させることができる。
その他、Alの含有量を2質量%未満とすると、渦巻き型に成形した鋳型を用いた溶湯の流動性試験において、湯流れ試験片の断面形状が、減面率で90質量%未満となってしまい、溶湯の流動性を悪化させる原因にもなる。その点でも、Alは2質量%以上含有させることが好ましい。
一方で、7質量%を超えるAlを含有すると、鋼板との溶接時に溶接割れが発生してしまうため、Alの含有量は7質量%以下とすることが好ましい。この場合、6質量%以下とすることで溶接割れの発生をより抑制できるため、6質量%以下であることがさらに好ましい。また、Alの含有量が増加するにつれてフェライト系耐熱鋳鋼の靭性低下が抑制されるため、引張り強度が高められる。8質量%を超えてAlを含有させると靱性が低下し、引張り強度が急激に低下してしまう。そのため、7質量%を上限とすることが、引張り強度を確保する上では好ましい。
また、フェライト系耐熱鋳鋼は、オーステナイト系耐熱鋳鋼と比較して線膨張係数が小さいという特徴があり、この点でオーステナイト系耐熱鋳鋼よりも優れている。ただ、Al含有量が増加するにつれて線膨張係数が高まる。そして、Al含有量が7質量%を超えると、高温環境下においてタービンハウジング10に応力集中が発生し、亀裂や破損が生じてしまうおそれがある。その点でも、Al含有量は7%以下であることが好ましい。
ケイ素(Si)は、耐酸化性を向上させる成分である。一方で、Siを過剰に含有させると、フェライト系耐熱鋳鋼の靭性を低下させる原因となる。そして、Siを、Alの含有量との関係で、(0.5−0.06×Al)質量%を超えて含有させると溶接時に溶接割れが発生してしまうことから、(0.5−0.06×Al)質量%以下であることが好ましい。
Al及びSiはそれぞれの含有量が増加するについて、フェライト系耐熱鋳鋼の硬度が高くなるという相関関係を有している。一方で、Al及びSiを過剰に含有させて硬度を高くすると、被削性を悪化させ、機械加工時に刃具の寿命を著しく低下させてしまう。そのため、機械加工性を考慮した場合、常温時における硬度は、ビッカース硬さが250Hvを上限とすることが好ましい。それを満たす範囲として、Alの含有量が7質量%未満である場合に、Alの含有量とSiの含有量とを合わせた量は、7質量%以下であることが好ましい。これにより、硬度が過度に高まることが抑制され、それによって、オーステナイト系耐熱鋳鋼と同程度の被削性を確保することができる。
以上より、Niよりも安価なAlを2〜7%含有することにより、オーステナイト系耐熱鋳鋼と比較して安価でありながら、高温環境下においても優れた耐酸化性、引張り強度の各物理特性を確保することができる。そのため、タービンハウジング10の製造コストを低減できる。また、鋼板製部分である外側ハウジング12との溶接において、Niを含有する高価な溶接棒は不要である。そして、Alの含有とともに、0.5−(0.06×Al)%以下のSiを含有することにより、溶接後の熱処理を実施しなくても溶接割れの発生が抑制されるため、溶接性にも優れている。これにより、内側ハウジング11について、外側ハウジング12との溶接による一体化が好適になされ、しかも含有するAlが低比重であることから、タービンハウジング10の軽量化を実現できる。
また、Alを含有することにより、フェライト系耐熱鋳鋼の融点が低下するため、鋳造性を向上させることができる。例えば、本実施形態のフェライト系耐熱鋳鋼では、融点が1495℃前後となる。
なお、溶接性に関しては、溶接割れの発生の確認以外の試験も行ったところ、良好な結果が得られた。試験は、フェライト系耐熱鋳鋼よりなる板状の試験片と熱間圧延鋼板(SPH270)の板材とを一部重ね合わせ、その重ね合わせ部分を片側だけ溶接して行った。溶接材としては、フェライト系ステンレス鋼(SUS430)を母材とするものを用いた。電子顕微鏡検査により、試験片と溶接部との境界部における組織は健全であることが確認された。また、当該境界部における硬さ分布が健全であること、引張り強度試験においても十分な強度が確保されていることが確認された。
次に、本発明の実施例について説明する。なお、表1における数値は成分含有量を「%」で示している。この「%」は質量基準である。
実施例1〜9及び比較例1〜14として、上記表1に示す成分組成及び含有量を有するフェライト系耐熱鋳鋼を生成した。表1に示すように、実施例1〜9は、C、Si、Mn、P、S、Cr、Mo、Nb、Al、Ti及びNの各成分を、本実施の形態における含有量の範囲内で含有する。比較例1〜14は、実施例1〜9と比較して、主に、AlとSiの含有量を変更したものである。比較例1〜5は、Alの含有量を2質量%未満となる範囲で調製し、Siの含有量も変更している。比較例6〜10は、実施例1〜9と同様に、2〜7質量%の範囲でAlの含有量を調製し、実施例1〜9と比較して、Siの含有量を変更している。比較例11〜14は、実施例1〜9と比較して、7質量%を超える範囲でAlの含有量を調製し、Siの含有量も変更している。
[溶接性試験]
実施例1〜9及び比較例1〜14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、厚さ10mmの板状をなす試験片を作成した。電流値を150AとしたTIG溶接方法を用いて、フェライト系ステンレス鋼(SUS444)を母材とする溶接材料を、この試供片の上に半球状に肉盛り溶接した。半球状をなす肉盛り部の大きさは、直径が約10mmで高さが約3mmである。溶接後において、鋭敏化を回避するための熱処理は実施していない。その後、浸透探傷試験を行い、肉眼にて溶接割れの有無を確認した。溶接割れが確認できなければ結果良好と判断し、溶接割れが確認できた場合は不良と判断した。その結果は表2に示すとおりである。
実施例1〜9及び比較例1〜14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、厚さ10mmの板状をなす試験片を作成した。電流値を150AとしたTIG溶接方法を用いて、フェライト系ステンレス鋼(SUS444)を母材とする溶接材料を、この試供片の上に半球状に肉盛り溶接した。半球状をなす肉盛り部の大きさは、直径が約10mmで高さが約3mmである。溶接後において、鋭敏化を回避するための熱処理は実施していない。その後、浸透探傷試験を行い、肉眼にて溶接割れの有無を確認した。溶接割れが確認できなければ結果良好と判断し、溶接割れが確認できた場合は不良と判断した。その結果は表2に示すとおりである。
[高温酸化性試験]
実施例1,5,8,9及び比較例2,4,6,8,12,14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、それぞれ直径15mm、高さ30mmの試験片を作成し、1000℃の電気炉中で100時間の加熱処理をした。その後、試験片の加熱前後の質量変化から減耗量(mg/cm2)を測定した。その結果は表2に示す通りである。
実施例1,5,8,9及び比較例2,4,6,8,12,14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、それぞれ直径15mm、高さ30mmの試験片を作成し、1000℃の電気炉中で100時間の加熱処理をした。その後、試験片の加熱前後の質量変化から減耗量(mg/cm2)を測定した。その結果は表2に示す通りである。
[引張り強度試験]
実施例1,2,4,6,9及び比較例2,4〜8,12,14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、「金属材料引張り試験方法(JIS Z 2241)」に定める引張り試験方法により、引張り強度(MPa)を測定した。高温環境下における引張り強度を測定するため、試験時における温度は900℃に設定した。その結果は表2に示すとおりである。
実施例1,2,4,6,9及び比較例2,4〜8,12,14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、「金属材料引張り試験方法(JIS Z 2241)」に定める引張り試験方法により、引張り強度(MPa)を測定した。高温環境下における引張り強度を測定するため、試験時における温度は900℃に設定した。その結果は表2に示すとおりである。
[硬度]
実施例1〜4,6,9及び比較例2,4〜9,12〜14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、「ビッカース硬さ試験−試験方法(JIS Z 2244)」に定める硬さ試験方法により、ビッカース硬さ(Hv)を測定した。この試験における最大加重圧は196Nに設定した。その結果は表2に示すとおりである。
実施例1〜4,6,9及び比較例2,4〜9,12〜14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、「ビッカース硬さ試験−試験方法(JIS Z 2244)」に定める硬さ試験方法により、ビッカース硬さ(Hv)を測定した。この試験における最大加重圧は196Nに設定した。その結果は表2に示すとおりである。
図1は、溶接性試験の結果を示したグラフである。図1に示すように、Alの含有量をX質量%、Siの含有量をY質量%とした場合に、次の式Aで示す条件を満たす範囲にある場合に、鋼板との間で溶接をしても、フェライト系耐熱鋳鋼に溶接割れが確認できない良好な結果が得られると判明した。これによれば、Alの含有量は7質量%以下で、Siの含有量は、(0.5−0.06×Al)質量%以下の範囲であれば、溶接割れの発生が抑制された溶接性に優れたフェライト耐熱鋳鋼が得られる。そして、試験結果によれば、Al含有量が6質量%以下となれば溶接割れの発生がより確実に抑制されるため、6質量%以下であることがより好ましいことが判明した。
式A: Y≦0.50−0.06X (ただし、X≦7)
なお、式Aで示す条件は、図1において一点鎖線上を含むそれよりもAl及びSiの含有量が少なくなる側の範囲となる。
なお、式Aで示す条件は、図1において一点鎖線上を含むそれよりもAl及びSiの含有量が少なくなる側の範囲となる。
図2は、高温酸化性の試験結果を示したグラフである。タービンハウジング10における内側ハウジング11では、高温酸化による減耗量が増加して寸法が小さくなると、タービン室11bに設けられるタービンインペラとの間に形成される隙間が広がり、ターボ効率を減少させる原因となる。そのため、内側ハウジング11では、酸化減耗量としての限界値として2.5mg/cm2が設定される。図2に示すように、Alの含有量が2質量%未満とすると、酸化減耗量は、当該限界値として設定される2.5mg/cm2を超えてしまう。そのため、試験結果より、Alの含有量は2質量%以上であることが好ましいことが判明した。
図3は、引張り強度の試験結果を示したグラフである。タービンハウジング10における内側ハウジング11では、排気ガスが流通する高温環境下における引張り強度は、60MPa以上であることが好ましい。図3に示すように、Alが2質量%未満となると、900℃の高温環境下において、その60MPaの引張り強度を確保することができない。そのため、試験結果により、60MPa以上の引張り強度を確保するには、Alの含有量を2質量%以上とすることが好ましいことが判明した。一方で、図3に示すように、Alの含有量が増加し、8質量%を超えるあたりで引張り強度が急激に低下することが判明した。そのため、試験結果より、7質量%を上限とすることが、引張り強度を確保する上では好ましいことが判明した。
図4は、硬度の試験結果を示したグラフである。AlもSiも、それぞれの含有量が増加することによって硬度も高まるという相関関係があるため、Al及びSiの含有量合計と硬度との関係をグラフで示した。図4によれば、Al及びSiの含有量合計の数値が高くなるにつれて硬度も直線的に高くなっていることが判明した。Al及びSiの含有量を増加させて硬度を高くし過ぎると、その被削性が悪化し、鋳造した内側ハウジング11を切削等によって機械加工する時に、刃具の寿命を著しく低下させてしまう。そのため、常温時における硬度は、ビッカース硬さが250Hvを上限とすることが好ましい。それを満たす範囲として、Alの含有量が7質量%未満であって、Alの含有量とSiの含有量とを合わせた量を7質量%以下とすることが好ましいと、試験結果により判明した。
[線膨張係数の測定]
加えて、比較例2,4,6,8,12,14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、Alを含有させたフェライト系耐熱鋳鋼における温度と線膨張係数αとの関係を調べた。線膨張係数αは、「金属材料の線膨張係数の測定方法(JIS Z 2285)」に定める測定方法を用いて測定した。その測定結果を表3及び表4に示す。なお、表3及び表4における線膨張係数αの数値は、例えば「8.540×10^−5」を「8.540E−05」とするように、Eの前後に仮数及び指数を置く形式で表記している。なお、「^」は、べき乗を示している(以下同じ)。また、図5は、表3及び表4に示した結果に基づいて、温度と線膨張係数αとの関係をAl含有量ごとにプロットし、グラフによって示したものである。
加えて、比較例2,4,6,8,12,14の各フェライト系耐熱鋳鋼を用いて、Alを含有させたフェライト系耐熱鋳鋼における温度と線膨張係数αとの関係を調べた。線膨張係数αは、「金属材料の線膨張係数の測定方法(JIS Z 2285)」に定める測定方法を用いて測定した。その測定結果を表3及び表4に示す。なお、表3及び表4における線膨張係数αの数値は、例えば「8.540×10^−5」を「8.540E−05」とするように、Eの前後に仮数及び指数を置く形式で表記している。なお、「^」は、べき乗を示している(以下同じ)。また、図5は、表3及び表4に示した結果に基づいて、温度と線膨張係数αとの関係をAl含有量ごとにプロットし、グラフによって示したものである。
図5に示すように、フェライト系耐熱鋳鋼は、温度の上昇に伴って線膨張係数αの数値も上昇することが判明した。また、Al含有量が増加するにつれて、線膨張係数αが大きくなるとも判明した。このため、Al含有量と温度に対する線膨張係数αの間には、相関が認められる。そして、この結果を用いて重回帰式を求めたところ、次の式Bが得られた。なお、Tは温度を示している。
式B: α=(4.198×10^−7×Al含有量(質量%))+(5.629×10^−9×T(℃))+(7.206×10^−6)
ここで、タービンハウジング10について熱応力解析を行った結果によれば、950℃における線膨張係数αが「1.6×10^−5」を超えると、応力集中によって亀裂や破損が生じるおそれがあると判明している。そこで、Al含有量を7質量%とし、950℃における線膨張係数αを上記式Bに基づいて求めると、「1.549×10^−5」となり、応力集中によって亀裂や破損が生じるおそれのある線膨張係数αに近づく。そのため、線膨張係数αの測定結果に基づいても、Al含有量は7質量%以下であることが好ましいことが判明した。
ここで、タービンハウジング10について熱応力解析を行った結果によれば、950℃における線膨張係数αが「1.6×10^−5」を超えると、応力集中によって亀裂や破損が生じるおそれがあると判明している。そこで、Al含有量を7質量%とし、950℃における線膨張係数αを上記式Bに基づいて求めると、「1.549×10^−5」となり、応力集中によって亀裂や破損が生じるおそれのある線膨張係数αに近づく。そのため、線膨張係数αの測定結果に基づいても、Al含有量は7質量%以下であることが好ましいことが判明した。
なお、本実施の形態では、タービンハウジング10の内側ハウジング11を排気系部品の一例としたが、他の排気系部品の素材として、上記成分及び含有量を有するフェライト系耐熱鋳鋼を用いてもよい。例えば、内側ハウジング11と外側ハウジング12とが一体化されたタービンハウジング10の全体の素材としてもよいし、エキゾーストマニホールド等のタービンハウジング10以外の排気系部品の素材としてもよい。
10…タービンハウジング、11…内側ハウジング(排気系部品)、11a…タービン流路、11b…タービン室、12…外側ハウジング。
Claims (4)
- 質量比で、C:0.03%以下、Mn:0.8%以下、P:0.03%以下、S:0.01%以下、Ti:0.01%以下、Cr:16〜20%、Mo:2〜3%、N:0.03%以下、Nb:(8×(C+N))〜1%、Al:2〜7%、Si:0.5−(0.06×Al)%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物よりなることを特徴とするフェライト系耐熱鋳鋼。
- Alが7%未満であって、かつAl+Siが7%以下であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト系耐熱鋳鋼。
- 請求項1又は2に記載のフェライト系耐熱鋳鋼よりなることを特徴とする排気系部品。
- タービン流路及びタービン室を備えた鋳造製の内側ハウジングと、
前記内側ハウジングのタービン回転中心軸線方向からみた外周部を取り込むように設けられた鋼板製の外側ハウジングと、
を備え、
前記内側ハウジングと前記外側ハウジングとが溶接によって一体化されており、
前記内側ハウジングは、請求項1又は2に記載のフェライト系耐熱鋳鋼により形成されていることを特徴とするタービンハウジング。
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JP2017221119A JP2019090094A (ja) | 2017-11-16 | 2017-11-16 | フェライト系耐熱鋳鋼、排気系部品及びタービンハウジング |
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WO2020080104A1 (ja) * | 2018-10-15 | 2020-04-23 | Jfeスチール株式会社 | フェライト系ステンレス鋼 |
-
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- 2017-11-16 JP JP2017221119A patent/JP2019090094A/ja active Pending
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WO2020080104A1 (ja) * | 2018-10-15 | 2020-04-23 | Jfeスチール株式会社 | フェライト系ステンレス鋼 |
JPWO2020080104A1 (ja) * | 2018-10-15 | 2021-02-15 | Jfeスチール株式会社 | フェライト系ステンレス鋼 |
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