以下、図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。以下の図面において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
[薬液移注装置1の構成]
図1は、実施形態に係る薬液移注装置1の概略構成を示す斜視図である。図1に示すように、薬液移注装置1は、ベース部2と、保持部3とを備えている。ベース部2は、保持部3を回転可能に保持している。保持部3は、ベース部2に対して回転可能な回転台8と、注射器保持部10と、容器保持部20とを備えている。
注射器保持部10は、注射器100を保持している。注射器100は、シリンジ110とプランジャ120とを有している。シリンジ110は、中空筒状の形状を有しており、先端に注射針130が装着されている。注射器保持部10は、シリンジ保持部12とプランジャ保持部14とを有している。シリンジ保持部12は、シリンジ110を保持している。シリンジ保持部12は、シリンジバレルの先端を保持する先端保持部12Aと、シリンジバレルの末端(開放端)のフランジを保持するフランジ保持部12Bとを含んでいる。プランジャ120の一部は、シリンジ110内に収容されている。プランジャ120は、筒状のシリンジ110の軸方向(図1においては図中の上下方向)に沿って、シリンジ110に対して相対移動可能に設けられている。プランジャ保持部14は、シリンジ110の外部に突き出るプランジャ120の一部を保持している。
シリンジ保持部12およびプランジャ保持部14は、各々、筒状のシリンジ110の軸方向に移動可能に構成されている。シリンジ保持部12は、回転台8に対して移動可能に構成されている。シリンジ保持部12に保持されたシリンジ110は、その軸方向に移動可能である。プランジャ保持部14は、シリンジ保持部12に対して移動可能に構成されている。プランジャ保持部14に保持されたプランジャ120は、シリンジ110とは独立して、シリンジ110の軸方向に移動可能である。シリンジ110とプランジャ120とが一体として移動することが可能であり、また、プランジャ120がシリンジ110に対して相対移動することが可能である。
プランジャ120の、シリンジ110の内部に収容されている先端には、図示しないガスケットが取り付けられている。ガスケットは、シリンジ110の内周面に接触している。プランジャ120がシリンジ110に対して相対移動するとき、ガスケットはシリンジ110の内周面に対して摺動し、ガスケットとシリンジ110との液密な接触状態が維持されている。
ベース部2は、机上または台上などに搭載される。典型的にはベース部2は、水平面上に載置される。図1に示すベース部2は水平面上に載置されており、図1に示すシリンジ110の軸方向は鉛直方向である。
本実施形態において、ベース部2が載置されている載置面に垂直な方向に対して注射器100の軸方向がなす角度θを規定する。保持部3がベース部2に対して相対回転することに伴って、角度θは0°から180°までの範囲で変動する。図1に示す、注射器100の軸方向が載置面に垂直な方向に延び注射針130の針先133が上を向く配置を、角度θ=0°と定める。図1に示す配置から保持部3がベース部2に対して180°相対回転した、注射器100の軸方向が載置面に垂直な方向に延び注射針130の針先133が下を向く配置を、角度θ=180°と定める。
容器保持部20は、複数の容器200を保持している。容器保持部20は、バイアル保持部21,22と、輸液ボトル保持部23とを有している。容器200は、バイアル201、バイアル202および輸液ボトル210を含んでいる。バイアル保持部21は、バイアル201を保持している。バイアル保持部22は、バイアル202を保持している。輸液ボトル保持部23は、輸液ボトル210を保持している。バイアル201、バイアル202および輸液ボトル210は、容器保持部20に対する相対移動が不能に、容器保持部20に保持されている。
バイアル201,202の内部には、薬剤が収容されている。バイアル201,202は、実施形態の薬剤容器に含まれている。輸液ボトル210の内部には、たとえば生理食塩水が収容されている。生理食塩水は、バイアル201,202内の薬剤を希釈する希釈液として用いられる。生理食塩水はまた、薬剤が固体である場合など、バイアル201,202内の薬剤が溶解を必要とする場合に、溶解液として用いられる。輸液ボトル210は、希釈液が収容された希釈液容器を構成すると言え、また溶解液が収容された溶解液容器を構成すると言える。さらに、希釈された薬剤が輸液ボトル210に収容されることから、輸液ボトル210は薬剤容器に含まれていると言える。
実施形態の薬液移注装置1は、バイアル201,202からシリンジ110へ薬液を移注することが可能であり、またシリンジ110からバイアル201,202へ薬液を移注することが可能に構成されている。また薬液移注装置1は、輸液ボトル210からシリンジ110へ薬液を移注することが可能であり、またシリンジ110から輸液ボトル210へ薬液を移注することが可能に構成されている。実施形態の薬液移注装置1は、薬剤容器と注射器100との間で薬液を移注することが可能に構成されている。実施形態の薬液移注装置1は、注射器100を介して第1の薬剤容器と第2の薬剤容器との間で薬液を移注することが可能に構成されている。
図1に示す複数の容器200のうち、バイアル201が注射器100の注射針130の針先133に対向している。図1においてバイアル201が配置されている、いずれかの容器200が注射器100の針先133に対向する位置を、本実施形態では対向位置と称する。容器保持部20は、複数の容器200のいずれか一つを対向位置に保持する。バイアル201の開口は、公知のゴム栓により閉塞されている。注射針130の針先133は、ゴム栓に対向している。バイアル202、輸液ボトル210の開口も同様に、ゴム栓により閉塞されている。
図2は、図1に示す保持部3の配置を変更した薬液移注装置1を示す正面図である。図3は、図2に示す薬液移注装置1を異なる角度から見た斜視図である。図4は、実施形態に係る薬液移注装置1の電気的構成を示すブロック図である。図5は、保持部3および注射器100の配置を変更した薬液移注装置1を示す正面図である。
図4に示すように、薬液移注装置1は、制御部90と、入力部92と、注射器駆動部93と、プランジャ駆動部94と、保持部駆動部95と、容器移動部96とを含んで構成されている。
入力部92は、薬液移注装置1を操作する操作者によって操作される。入力部92は、薬液移注装置1の電源のオンとオフとの切り替え、容器200の容量および薬剤の投与量などの入力と入力値の確定、ならびに薬液移注装置1の動作開始および停止などのために、操作される。入力部92は、各種のボタンおよびスイッチを含んで構成されていてもよく、またはタッチパネルを含んで構成されていてもよい。入力部92の操作による指令または入力値は、制御部90に入力される。制御部90は、入力部92からの入力を受ける。
制御部90は、メモリ91を有している。メモリ91は、薬液移注装置1における各種の動作を実行するためのプログラムを格納するとともに、必要なデータを記憶する領域として設けられている。制御部90は、メモリ91に格納されているプログラムに基づいて、薬液移注装置1の動作を制御するための各種処理を実行する。
制御部90は、注射器駆動部93に対して、注射器100が回転台8に対して相対往復移動する動作を制御するための信号を出力する。図2中に示す矢印AR1は、回転台8に対する注射器100の相対移動方向を示している。注射器駆動部93は、回転台8に対して注射器100を往復移動させる駆動力を、注射器100に作用する。注射器駆動部93は、注射器100が容器200に接近する方向と注射器100が容器200から離れる方向との両方に、注射器100を移動させる。注射器100は、図1〜3に示す注射針130の針先133が容器200の外部にある定位置と、図5に示す注射針130が容器200の開口のゴム栓に刺し通されて針先133が容器200の内部にある針刺し位置との間を、移動可能である。
制御部90は、プランジャ駆動部94に対して、プランジャ120がシリンジ110に対して相対往復移動する動作を制御するための信号を出力する。図2中に示す矢印AR2は、シリンジ110に対するプランジャ120の相対移動方向を示している。プランジャ駆動部94は、シリンジ110に対してプランジャ120を往復移動させる駆動力を、プランジャ120に作用する。プランジャ駆動部94は、プランジャ120がシリンジ110内へ押し込まれる押込方向と、プランジャ120がシリンジ110から抜け出る抜出方向との両方に、プランジャ120を移動させる。
なお、シリンジ保持部12とプランジャ保持部14とを回転台8に対してそれぞれが移動可能に構成するようにしてもよい。この場合、薬液移注装置1は、注射器駆動部93およびプランジャ駆動部94に代えて、第1駆動部および第2駆動部を備える。第1駆動部は、回転台8に対してシリンジ保持部12を往復移動させる駆動力を、シリンジ保持部12に作用する。また、第2駆動部は、回転台8に対してプランジャ保持部14を往復動させる駆動力を、プランジャ保持部14に作用する。第2駆動部は、第1駆動部が回転台8に対してシリンジ110を往復動させるのに伴い、プランジャ120がシリンジ110の移動に追従するようプランジャ120を回転台8に対して相対的に移動させることが可能である。この場合、第1駆動部および第2駆動部は、注射器駆動部として機能し、また第1駆動部および第2駆動部は、プランジャ駆動部として機能する。
制御部90は、保持部駆動部95に対して、保持部3がベース部2に対して相対回転する動作を制御するための信号を出力する。図2中に示す矢印AR3は、ベース部2に対する保持部3の相対回転方向の一例を示している。保持部3は、ベース部2に対し、時計回り方向と反時計回り方向との両方向に相対回転可能である。保持部駆動部95は、ベース部2に対して保持部3を相対回転させる回転駆動力を、保持部3に作用する。本実施形態では、保持部駆動部95は、ベース部2に対して回転台8を相対回転させる回転駆動力を、回転台8に作用する。保持部3は、保持部駆動部95の駆動力を受けて、ベース部2が載置されている載置面に垂直な面内で、両方向に回動可能とされている。
制御部90は、容器移動部96に対して、容器保持部20が注射器保持部10に対して相対回転する動作を制御するための信号を出力する。図3中に示す矢印AR4は、注射器保持部10に対する容器保持部20の相対回転方向の一例を示している。容器保持部20は、注射器保持部10に対し、時計回り方向と反時計回り方向との両方向に相対回転可能である。容器移動部96は、注射器保持部10に対して容器保持部20を相対回転させる回転駆動力を、容器保持部20に作用する。本実施形態では、容器移動部96は、回転台8に対して容器保持部20を相対回転させる回転駆動力を、容器保持部20に作用する。
容器保持部20は、保持部3の回転と異なる回転軸まわりに回転する。保持部3の回転軸と容器保持部20の回転軸とは一致していない。典型的には、保持部3の回転軸と容器保持部20の回転軸とは直交している。容器保持部20は、回転台8に対して回転可能に構成されている。
複数の容器200、すなわちバイアル201,202および輸液ボトル210は、図3に示すように、容器保持部20の回転の周方向に並んで配置されている。容器保持部20が回転することにより、複数の容器200のうちのいずれか一つを、注射針130の針先133に対向する対向位置へ移動することが可能である。容器移動部96は、複数の容器200のうちいずれか一つを、選択的に対向位置に移動させる。
図1と図2,3とを比較して、図2,3に示す保持部3は、ベース部2に対して図2中の反時計回り方向に回転した位置に配置されている。図1に示すバイアル201の開口は真下に向いているのに対し、図2に示すバイアル201の開口は斜め下を向いている。上述した角度θが0°以上90°未満の範囲では、バイアル201の開口が下向きとなる。対向位置に保持されている容器200の口が下向きとなる保持部3の配置を、本実施形態では第1配置と称する。
図5に示す保持部3は、図2,3と比較して、図2,5中の反時計回り方向にさらに回転した位置に配置されている。図5に示すバイアル201の開口は斜め上を向いている。上述した角度θが90°超180°以下の範囲では、バイアル201の開口が上向きとなる。対向位置に配置されている容器200の口が上向きとなり、かつ当該容器200の口の少なくとも一部が容器200内の液体に接触しなくなる保持部3の配置、たとえば角度θが100°以上180°以下の範囲を、本実施形態では第2配置と称する。
注射器駆動部93、プランジャ駆動部94、保持部駆動部95、容器移動部96は、ステッピングモータに代表されるモータにより構成されてもよい。注射器駆動部93、プランジャ駆動部94および容器移動部96を構成するモータは、注射器保持部10内に収容されてもよい。保持部駆動部95を構成するモータは、ベース部2内に収容されてもよい。
[薬液移注装置1の動作]
以上の構成を備えている薬液移注装置1の動作について、以下説明する。図6は、実施形態の薬液移注装置1による薬剤の調製作業の全体の概要を示すフロー図である。
図6に示すように、まずステップS1において、注射器100への注射針130の取付け、注射器保持部10への注射器100の取付け、および容器保持部20への容器200の取付けが行なわれる。容量の異なる注射器100を予め用意しておき、吸引する薬剤の量に応じた容量の注射器100を選択する。注射器100の容量に対して吸引する薬剤が75パーセント程度になるよう、使用する注射器100を選択することが望ましい。容器200が容器保持部20に取り付けられる前に、容器200の開口を閉塞するゴム栓の消毒が行なわれる。注射器100を注射器保持部10に取り付ける際に、シリンジ110はシリンジ保持部12に取り付けられ、プランジャ120はプランジャ保持部14に取り付けられる。これらの取付けおよび消毒する作業は、薬液移注装置1を操作する操作者によって行なわれる。取付けおよび消毒する作業のいずれか一方または両方が自動で行なわれてもよい。
次にステップS2において、入力部92への入力が行なわれる。具体的には、薬液移注装置1を操作する操作者が処方箋の情報に基づいて入力部92を操作することによって、容器保持部20に取り付けられた容器200の本数および各容器200の容量が入力される。各容器200に収容されている薬剤が選択または入力され、各容器200から採取される薬剤の分量が入力される。入力される薬剤の分量は、採取する薬剤の総量であってもよいし、容器200毎に指定され各容器200から採取する薬剤の分量であってもよい。薬剤が収容されている容器200とは、バイアル201,202を指すが、薬剤を溶解する必要がある場合は輸液ボトル210も含まれる。また、薬剤を希釈するための注入先となる容器200(輸液ボトル210)が指定される。
次にステップS3において、薬剤を収容する容器200から薬剤をシリンジ110に所定量吸引する、薬液吸引が行なわれる。図7は、薬液吸引の概要について説明するフロー図である。
薬液吸引を行なうステップS3においては、まずステップS11において、シリンジ110に吸引される薬剤が、溶解を必要とするかが判断される。たとえば、粉末または凍結乾燥薬剤がバイアル201,202に収容されている場合には、そのままの状態で薬剤をシリンジ110に吸引できないため、溶解して液状にする処理が実行される。制御部90は、入力部92を介して入力された薬剤の種類に基づいて、容器200(バイアル201,202)に収容されている薬剤が、溶解を必要とする薬剤であるか否かを判断する。
なお本実施形態において、溶解とは、固体の薬剤を完全に溶液化することだけでなく、一部の成分が溶解せずに溶解液中に粒子として存在する懸濁液または乳濁液にすることを含むものとする。
溶解が必要であると判断された場合(ステップS11においてYES)、ステップS12に進み、薬剤の溶解が行なわれる。図8は、薬剤の溶解について説明するフロー図である。以下では、バイアル201に収容されている薬剤が溶解を必要とする薬剤である例について説明する。
薬剤を溶解する処理は、まず図8に示すステップS21において、薬剤の溶解に用いられる溶解液が収容されている溶解液容器を、注射器100の針先133に対向する対向位置へ移動させる。本実施形態の場合、輸液ボトル210を対向位置へ移動させる。制御部90は、容器移動部96に対し、輸液ボトル210が対向位置に配置されるように容器保持部20を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた容器移動部96は、容器保持部20を注射器保持部10に対して相対回転させて、輸液ボトル210を対向位置へ配置させる。
次にステップS22において、シリンジ110への溶解液の吸引が行なわれる。図9は、容器200からシリンジ110への液の吸引について説明するフロー図である。
容器200からシリンジ110へ液を吸引するには、まずステップS31において、容器200の口が下向きとなる第1配置に保持部3を移動させる。好ましくは、角度θ=0°となる位置に、保持部3を移動させる。制御部90は、保持部駆動部95に対し、保持部3が第1配置となるように保持部3を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた保持部駆動部95は、保持部3をベース部2に対して相対回転させて、保持部3を第1配置に配置させる。
次にステップS32において、シリンジ110に吸引することが予定されている液よりも少ない体積、たとえば80%程度の体積のエアーを、シリンジ110内に吸入する。制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、プランジャ120がシリンジ110から抜け出る抜出方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対してシリンジ110の軸方向に相対移動させて、プランジャ120よりも先端側(注射針130の装着されている側)のシリンジ110の内部空間の容積を増大させる。このプランジャ120の動作によって、注射針130を経由して、シリンジ110内にエアーが吸引される。
このエアー吸入は、容器200内の液とシリンジ110内のエアーとを置換して、シリンジ110へ液を円滑に吸引できるように、また正確な液量をシリンジ110に採取できるように、行なわれる。
次にステップS33において、注射針130を容器200の口のゴム栓に刺し通す針刺しが行なわれる。制御部90は、注射器駆動部93に対し、注射器100を容器200に接近させる方向へ移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた注射器駆動部93は、注射器100およびその先端に装着された注射針130を容器200に対して相対移動させる。注射針130が容器200の外部にある定位置(図2)から、注射針130が容器200のゴム栓に刺し通された針刺し位置(図5)まで、注射器100および注射針130が一体に移動する。注射針130の針先133は、容器200内の液中に配置される。
薬剤を溶解する処理の場合、ステップS21で溶解液ボトル(本実施形態の場合、輸液ボトル210)が対向位置に配置されているので、注射針130は輸液ボトル210のゴム栓に刺し通される。注射針130の針先133は、輸液ボトル210内の生理食塩水中に配置される。
また、シリンジ内にエアーを吸引し(ステップS32)、保持部3を第1配置に配置させ(ステップS31)、その後、注射針130の容器200の口への針刺し(ステップS33)を行なうようにしてもよい。また、シリンジ内にエアーを吸引し(ステップS32)、注射針130の容器200の口への針刺し(ステップS33)を行ない、その後、保持部3を第1配置に配置させるようにしてもよい(ステップS31)。
次にステップS34において、容器200内の液をシリンジ110内に吸引する。制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、抜出方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対して所定距離分相対移動させて、シリンジ110の先端側の内部空間の容積を増大させる。プランジャ120の動作に伴って、容器200内とシリンジ110内とに圧力差が生じ、容器200の内圧が相対的に高くなる。この圧力差の作用によって、容器200内の液が、注射針130を経由して、シリンジ110内に吸引される。
図1,2に示すように、第1配置において注射器100は、注射針130が取り付けられている先端が、先端と反対側の末端(開放端)よりも上方にあるように、配置されている。そのため、シリンジ110内に吸引された液は、重力の作用によってシリンジ110の内部空間の末端側に貯留される。シリンジ110の内部空間の先端側には、エアーが存在している。
次にステップS35において、シリンジ110内のエアーを容器200内に戻す。制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、プランジャ120をシリンジ110に押し込む押込方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対して相対移動させて、シリンジ110の先端側の内部空間の容積を減少させる。プランジャ120の動作に伴って、シリンジ110の内部空間の先端側に存在しているエアーが、容器200内に押し込まれる。
このエアー戻しは、容器200から吸引した液に相当する量のエアーを容器200に戻すことで、容器200内の気圧を適度な陰圧または平衡圧に維持し、容器200内が過度に陰圧になるのを防止するために、行なわれる。容器200内が過度に陰圧になると、容器200から液を吸引するときの負荷が増大するためである。
次にステップS36において、シリンジ110内に液が所定量吸引されたか否かの判断が行なわれる。プランジャ120の移動距離に応じて吸引される液の量は、メモリ91に保存されている。制御部90は、プランジャ120の移動距離と移動距離に応じて吸引される液量とに基づいて、これまでのプランジャ120の移動によってシリンジ110内に吸引された液量を算出する。制御部90はさらに、吸引された液量を算出した値と、入力部92を介して入力された吸引されるべき液の量とを比較して、吸引されるべき量の液が既にシリンジ110内に吸引されたか否かを判断する。
所定量の液が未だシリンジ110に吸引されていないと判断された場合(ステップS36においてNO)、ステップS34に戻り、ステップS34の液吸引とステップS35のエアー戻しとが繰り返される。
所定量の液がシリンジ110に吸引されたと判断された場合(ステップS36においてYES)、ステップS37に進み、容器200の口が上向きとなる第2配置に保持部3を移動させる。制御部90は、保持部駆動部95に対し、保持部3が第2配置となるように保持部3を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた保持部駆動部95は、保持部3をベース部2に対して相対回転させて、保持部3を第2配置に配置させる。
次にステップS38において、注射針130を容器200から抜き取る針抜きが行なわれる。図10は、容器200から針を抜く動作について説明するフロー図である。
容器200から注射針130を抜き取るには、まずステップS41において、注射針130の針先133が容器200内の液中にあるか否かが判断される。この判断は、容器200内に残存する液量、容器200の配置および姿勢、ならびに容器200内における針先133の位置に基づいて、容器200内の液面と針先133との位置関係を制御部90が求めることによって、行なわれてもよい。または、容器200内の針先133および液面の位置を検出するセンサを設けて、当該センサの検出結果に基づいて、ステップS41の判断がなされてもよい。
針先133が液中にあると判断された場合(ステップS41においてYES)、ステップS42に進み、注射器100を移動させる。制御部90は、注射器駆動部93に対し、注射器100を容器200から離れる方向へ移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた注射器駆動部93は、注射器100および注射針130を容器200に対して相対移動させる。ステップS41における一回の移動量は、比較的小さく設定される。注射針130の全体が意図せずに容器200から抜け出ることを防止するためである。針先133が液から出るまで、ステップS41の判断とステップS42の注射器100の移動とが繰り返される。
針先133が液から出て液中にないと判断された場合(ステップS41においてNO)、ステップS43に進み、容器200内のエアーをシリンジ110に吸入する。制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、抜出方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対してシリンジ110の軸方向に相対移動させて、シリンジ110の先端側の内部空間の容積を増大させる。このプランジャ120の動作によって、注射針130を経由して、シリンジ110内にエアーが吸引される。
このエアー吸引は、注射針130の内部に残存する液をシリンジ110内に引き込んで注射針130内を空にするため、および、容器200内の気圧を適度な陰圧または平衡圧に維持するため、すなわち容器200内が陽圧または過度の陰圧になるのを防止するために、行なわれる。
次にステップS44において、注射器100を容器200に対して相対移動する。また、注射器100を容器200に対して相対移動するとともに、プランジャ120をシリンジ110に対して相対移動するようにしてもよい。制御部90は、注射器駆動部93に対し、注射器100を容器200から離れる方向へ移動させる指令信号を出力する。また制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、抜出方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。
制御部90から指令信号を受けた注射器駆動部93は、注射器100および注射針130を容器200に対して相対移動させる。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対してシリンジ110の軸方向に相対移動させて、シリンジ110の先端側の内部空間の容積を増大させる。これにより、プランジャ120を引きながら注射針130を容器200から抜く動作が行なわれる。このプランジャ120の移動は、シリンジ110内の液が針先133から垂れるのを防止するために、行なわれる。
次にステップS45において、注射針130が容器200の外部にある定位置(図2)まで、注射器100および注射針130が移動したかどうかが判断される。定位置に到達していないと判断された場合(ステップS45においてNO)、ステップS44に戻る。定位置に到達するまで、ステップS44の移動が繰り返される。
注射器100および注射針130が定位置に到達したと判断されると(ステップS45においてYES)、ステップS46に進み、注射器100およびプランジャ120が停止される。制御部90は、注射器駆動部93に対し注射器100を停止させる指令信号を出力し、プランジャ駆動部94に対しプランジャ120を停止させる指令信号を出力する。
このようにして、注射針130を容器200から抜き取る針抜きが行なわれ(図10のエンド)、輸液ボトル210からシリンジ110への溶解液の吸引が完了する(図9のエンド)。
図8に戻って、次にステップS23において、薬剤が収容されている容器200を、注射器100の針先133に対向する対向位置へ移動させる。本実施形態の場合、溶解されるべき薬剤が収容されているバイアル201を対向位置へ移動させる。制御部90は、容器移動部96に対し、バイアル201が対向位置に配置されるように容器保持部20を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた容器移動部96は、容器保持部20を注射器保持部10に対して相対回転させて、バイアル201を対向位置へ配置させる。
次にステップS24において、シリンジ110から容器200への溶解液の吐出が行なわれる。図11は、シリンジ110から容器200(薬剤容器としてのバイアル201)への溶解液の吐出について説明するフロー図である。
シリンジ110から薬剤容器(バイアル201)へ溶解液を吐出するには、まずステップS51において、注射針130をバイアル201の口のゴム栓に刺し通す針刺しが行なわれる。制御部90は、注射器駆動部93に対し、注射器100をバイアル201に接近させる方向へ移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた注射器駆動部93は、注射器100およびその先端に装着された注射針130をバイアル201に対して相対移動させる。注射器100および注射針130は、定位置(図2)から針刺し位置(図5)まで、一体に移動する。注射針130がバイアル201のゴム栓に刺し通されて、注射針130の針先133がバイアル201内の気相中に配置される。
次にステップS52において、シリンジ110内の溶解液をバイアル201に吐出する。制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、押込方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対して所定距離分移動させて、シリンジ110内の溶解液を所定量バイアル201内に吐出する。
このとき、保持部3はステップS37で第2配置に移動したままであるので、バイアル201に溶解液が吐出されるとき、保持部3は第2配置に配置されている。バイアル201の口が上向きであるため、バイアル201内に吐出された溶解液は、バイアル201の底部へ向かって流れる。バイアル201内の全体に溶解液が流れることにより、バイアル201の底部の内面に付着した薬剤にも溶解液が接触して溶解される。そのため、バイアル201内に溶解されないままの薬剤が残存することがなく、バイアル201内の薬剤の全量が溶解される。
第2配置の保持部3を垂直に近い角度(角度θ≒180°)にせずに、図5に示すように斜めに傾けた配置とすることで、注射針130の針先133からバイアル201の内壁面に向けて薬液が吐出され、バイアル201の内壁面に沿って底部へ流すことができる。これにより、バイアル201内に吐出された溶解液に泡立ちが発生することが抑制される。プランジャ120の移動速度は、溶解液の泡立ちをより確実に抑制できるように、後述のステップS73におけるプランジャ120の押込み速度よりも低速に設定される。
次にステップS53において、シリンジ110内の溶解液が全量吐出されたか否かの判断が行なわれる。プランジャ120の移動距離に応じて吐出される溶解液の量は、メモリ91に保存されている。制御部90は、プランジャ120の移動距離と移動距離に応じて吐出される液量とに基づいて、これまでのプランジャ120の移動によってシリンジ110からバイアル201に吐出された液量を算出する。制御部90はさらに、吐出された液量を算出した値と、輸液ボトル210からシリンジ110に吸引した溶解液の量とを比較して、シリンジ110内の液が全量吐出されたか否かを判断する。
代替的には、シリンジ110および/またはバイアル201の重量を検出するセンサを設けて、当該センサの検出結果に基づいて、ステップS53の判断がなされてもよい。
シリンジ110内の溶解液が未だ全量吐出されていないと判断された場合(ステップS53においてNO)、ステップS54に進み、バイアル201内のエアーをシリンジ110に吸引する。制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、抜出方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対して所定距離分相対移動させて、シリンジ110の先端側の内部空間の容積を増大させる。このプランジャ120の動作によって、注射針130を経由して、シリンジ110内にエアーが吸引される。
このエアー吸引は、バイアル201に吐出した溶解液に相当する量のエアーをバイアル201から吸引することで、バイアル201内の気圧を適度な陰圧または平衡圧に維持し、バイアル201内が陽圧になるのを防止するために、行なわれる。バイアル201内が陽圧になると、バイアル201から注射針130を抜く際などに、バイアル201内の薬液が外部に漏出する可能性があるためである。
その後ステップS52に戻り、ステップS52における溶解液の吐出と、ステップS53における判断とが繰り返される。
シリンジ110内の溶解液が全量吐出されたと判断された場合(ステップS53においてYES)、ステップS55に進み、注射針130をバイアル201から抜き取る針抜きが行なわれる。この針抜きは、図10を参照して説明した通りに行なわれる。このようにして、シリンジ110からバイアル201への溶解液の吐出が完了し(図11のエンド)、薬剤を溶解する処理が完了する(図8のエンド)。バイアル201内の薬剤が溶解液中に溶解されることにより、バイアル201内には溶液(または、薬剤の粒子を含む懸濁液もしくは乳濁液)状の薬液が収容されている。
図7に戻って、ステップS11の判断において容器200(薬剤容器)に収容されている薬剤が溶解を必要としないと判断された場合(ステップS11においてNO)、薬剤容器内には当初より液体である薬液が収容されている。この場合、ステップS13に進み、薬剤容器を対向位置へ移動させる。制御部90は、容器移動部96に対し、薬剤容器が対向位置に配置されるように容器保持部20を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた容器移動部96は、容器保持部20を注射器保持部10に対して相対回転させて、薬剤容器を対向位置へ配置させる。
ステップS12の薬剤の溶解が完了した時点で、溶解された液状の薬剤を収容する薬剤容器が対向位置に配置されている。ステップS13の移動が完了した時点で、液状の薬剤を収容する薬剤容器が対向位置に配置されている。
次に、ステップS14において、薬剤容器内の薬液のシリンジ110への吸引が行なわれる。この吸引は、図9を参照して説明した通りに行なわれる。このようにして、薬液をシリンジ110に所定量吸引する薬液吸引が完了する(図7のエンド)。
容器200内に泡立ちしやすい種類の液が収容されている場合、針先133が液中に配置された状態でステップS35のエアーを戻す処理を行なうと、容器200内に泡立ちが発生する可能性がある。泡立ちの発生を防止するために、エアーの戻しに先立って、保持部3をベース部2に対して移動させ、および/または、注射器100を回転台8に対して移動させて、針先133を液面から出した状態でエアーの戻しが行なわれる。
このエアー戻しは、容器200内の気圧を適度な陰圧または平衡圧に維持し、容器200内が過度に陰圧になるのを防止するために行なわれるとともに、容器200内の空気中に高濃度の薬剤が含まれることになり気体として容器200外に噴出することを防止するために行なわれる。
図6に戻って、続いてステップS4において、シリンジ110に吸引された薬液を希釈液中に吐出して、薬液の希釈が行なわれる。図12は、薬液の希釈の概要について説明するフロー図である。
薬液の希釈を行なうステップS4においては、まずステップS61において、薬剤を希釈する希釈液が収容された希釈液容器を、対向位置へ移動させる。本実施形態の場合、輸液ボトル210を対向位置へ移動させる。本実施形態の場合、輸液ボトル210内に収容されている生理食塩水が、薬剤を溶解させるための溶解液として使用され、かつ、薬液を希釈して投与に適した濃度にするための希釈液として使用される。薬剤の溶解が必要である場合に用いられる溶解液を収容する容器200と、薬液を適切な濃度に希釈するための希釈液を収容する容器200とは、同じ輸液ボトル210である。
制御部90は、容器移動部96に対し、輸液ボトル210が対向位置に配置されるように容器保持部20を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた容器移動部96は、容器保持部20を注射器保持部10に対して相対回転させて、輸液ボトル210を対向位置へ配置させる。
次にステップS62において、シリンジ110から輸液ボトル210への薬液の吐出が行なわれる。図13は、シリンジ110から容器200(希釈液容器としての輸液ボトル210)への薬液の吐出について説明するフロー図である。
シリンジ110から希釈液容器(輸液ボトル210)へ薬液を吐出するには、まずステップS71において、輸液ボトル210の口が下向きとなる第1配置に保持部3を移動させる。制御部90は、保持部駆動部95に対し、保持部3が第1配置となるように保持部3を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた保持部駆動部95は、保持部3をベース部2に対して相対回転させて、保持部3を第1配置に配置させる。
第1配置の注射針130は、図1,2に示すように、針先133が上向きとなるように配置される。そのため、シリンジ110内の薬液が針先133から漏出することが抑制されている。薬液の漏出をより確実に抑制するためには、図1に示す角度θ=0°となる配置が好ましい。
次にステップS72において、注射針130を輸液ボトル210の口のゴム栓に刺し通す針刺しが行なわれる。制御部90は、注射器駆動部93に対し、注射器100を容器200に接近させる方向へ移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた注射器駆動部93は、注射器100およびその先端に装着された注射針130を輸液ボトル210に対して相対移動させる。注射器100および注射針130は、定位置(図2)から針刺し位置(図5)まで、一体に移動する。注射針130が輸液ボトル210のゴム栓に刺し通されて、注射針130の針先133が輸液ボトル210内の液中に配置される。
次にステップS73において、シリンジ110内の薬液を輸液ボトル210に吐出する。制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、押込方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対して所定距離分移動させて、シリンジ110内の薬液を所定量輸液ボトル210内に吐出する。
輸液ボトル210の口が下向きとなる第1配置に保持部3を配置し、注射針130の針先133が輸液ボトル210内の生理食塩水中に存在しているので、薬液は液中に吐出される。これにより、薬液の吐出に伴う泡立ちの発生が抑制されている。
次にステップS74において、シリンジ110内の薬液が全量吐出されたか否かの判断が行なわれる。この判断は、図11を参照して説明したステップS53の判断と同様に行なわれる。
シリンジ110内の薬液が未だ全量吐出されていないと判断された場合(ステップS74においてNO)、ステップS75に進み、輸液ボトル210の口が上向きとなる第2配置に保持部3を移動させる。制御部90は、保持部駆動部95に対し、保持部3が第2配置となるように保持部3を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた保持部駆動部95は、保持部3をベース部2に対して相対回転させて、保持部3を第2配置に配置させる。
保持部3が回動されて保持部3が第2配置に配置されることにより、注射針130の針先133は、液面から出て、輸液ボトル210内の気相中に配置される。注射器100は、第2配置において、注射針130が取り付けられている先端が、末端よりも下方にあるように配置される。そのため、シリンジ110内の薬液は、重力の作用によってシリンジ110の内部空間の先端側に貯留される。
次にステップS76において、輸液ボトル210内のエアーをシリンジ110に吸引する。制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、抜出方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対して所定距離分相対移動させて、シリンジ110の先端側の内部空間の容積を増大させる。注射針130の針先133が気相中に配置されているので、プランジャ120の動作によって、輸液ボトル210内のエアーが、注射針130を経由してシリンジ110内に吸引される。
このエアー吸引は、輸液ボトル210に吐出した薬液に相当する量のエアーを輸液ボトル210から吸引することで、輸液ボトル210内の気圧を適度な陰圧または平衡圧に維持し、輸液ボトル210内が陽圧になるのを防止するために、行なわれる。
次にステップS77において、シリンジ110内の薬液の残りを輸液ボトル210に吐出する。制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、押込方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対して所定距離分移動させて、シリンジ110内の薬液を所定量輸液ボトル210内に吐出する。
シリンジ110内の薬液がシリンジ110の先端側に移動しているため、プランジャ120をシリンジ110に押し込む動作によって、シリンジ110内の薬液は、注射針130の針先133から容易に吐出可能である。プランジャ120を押し込む速度が大きいと輸液ボトル210内に吐出される薬液が泡立ちを発生させる可能性があるので、プランジャ120は低速でシリンジ110に押し込まれる。たとえば、ステップS73におけるプランジャ120の押込み速度よりも、ステップS77におけるプランジャ120の押込み速度の方が小さいように、設定される。
次にステップS78において、シリンジ110内の薬液が全量吐出されたか否かの判断が、再び行なわれる。この判断は、ステップS74と同様に行なわれる。シリンジ110内の薬液が未だ全量吐出されていないと判断された場合(ステップS78においてNO)、ステップS76に戻り、ステップS76のエアー吸引とステップS77の薬液吐出とが繰り返される。
シリンジ110内の薬液が全量吐出されたと判断された場合(ステップS78においてYES)、ステップS79へ進み、輸液ボトル210の口が下向きとなる第1配置に保持部3を移動させる。制御部90は、保持部駆動部95に対し、保持部3が第1配置となるように保持部3を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた保持部駆動部95は、保持部3をベース部2に対して相対回転させて、保持部3を第1配置に配置させる。好ましくは、角度θ=0°となる位置に、保持部3を移動させる。
ステップS73における吐出でシリンジ110内の薬液が全量吐出されて、ステップS74の判断において全量吐出されたと判断された場合(ステップS74においてYES)、ステップS71で移動されたまま、保持部3は第1配置に配置されている。保持部3を第2配置に移動する必要はない。なおこの場合でも、角度θが0°超であれば、角度θ=0°となる位置に保持部3を移動させてもよい。
シリンジ110内の薬液の全量が輸液ボトル210に吐出され、かつ保持部3が第1配置に配置されている状態で、次にステップS80において、シリンジ110内の洗浄(フラッシュ)が行なわれる。
制御部90は、プランジャ駆動部94に対し、抜出方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120をシリンジ110に対して所定距離分相対移動させて、シリンジ110の先端側の内部空間の容積を増大させる。プランジャ120の動作に伴って、輸液ボトル210内とシリンジ110内とに圧力差が生じ、輸液ボトル210の内圧が相対的に高くなる。この圧力差の作用によって、輸液ボトル210内の薬液が、注射針130を経由して、シリンジ110内に吸引される。このときシリンジ110内に吸引される薬液は、輸液ボトル210内で希釈液(生理食塩水)によって希釈されているため、ステップS73およびステップS77で吐出される薬液よりも、濃度が薄くなっている。
続いて制御部は、プランジャ駆動部94に対し、押込方向へプランジャ120を移動させる指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けたプランジャ駆動部94は、プランジャ120を移動させて、シリンジ110内の薬液を輸液ボトル210内に全量吐出する。以上の洗浄を行なうことで、シリンジ110および注射針130の内部に残存する薬液の量が低減される。
次にステップS81において、容器200の口が上向きとなる第2配置に保持部3を移動させる。制御部90は、保持部駆動部95に対し、保持部3が第2配置となるように保持部3を回転する指令信号を出力する。制御部90から指令信号を受けた保持部駆動部95は、保持部3をベース部2に対して相対回転させて、保持部3を第2配置に配置させる。
次にステップS82において、注射針130を輸液ボトル210から抜き取る針抜きが行なわれる。この針抜きは、図10を参照して説明した通りに行なわれる。このようにして、シリンジ110から輸液ボトル210への薬液の吐出が完了し(図13のエンド)、薬液を希釈する処理が完了する(図12のエンド)。
図6に戻って、以上のようにステップS3の薬液吸引とステップS4の薬液の希釈とを行なうことで、投与に適した濃度および量の薬液の調製が行なわれる。輸液ボトル210内には、投与に適した濃度および量の薬液が調製されている。
次にステップS5において、注射器100および容器200の薬液移注装置1からの取り外しが行なわれる。具体的には、輸液ボトル210を容器保持部20から取り外し、輸液ボトル210のゴム栓が清掃されるとともにゴム栓にシールが貼り付けられ、輸液ボトル210にはラベルが貼り付けられる。続いて、注射針130にキャップが取り付けられた後に、注射器100が注射器保持部10から取り外される。最後に、使用済みのバイアル201,202が容器保持部20から取り外される。これらの取り外し作業は、薬液移注装置1を操作する操作者によって行なわれる。取り外し作業が自動で行なわれてもよい。
取り外された注射器100およびバイアル201,202は、密封されて廃棄される。そして、実施形態の薬液移注装置1による薬剤の調製作業が完了する(図6のエンド)。
[作用および効果]
次に、本実施形態の作用および効果について説明する。
本実施形態の薬液移注装置1は、図9に示すように、容器200の口が下向きとなる第1配置に保持部3を配置させた状態で、注射針130を容器200に突き刺し、容器200内の薬液をシリンジ110に吸引する。その後、注射針130を容器200に刺し通したまま容器200の口が上向きとなる第2配置に保持部3を回動させ、第2配置に保持部3を配置させた状態で、注射針130を容器200から抜く。
容器200を保持する保持部3が垂直面内で回動可能に構成されているので、容器200を垂直面内の任意の位置に自在に配置することが可能である。保持部3への容器200の取り付けまたは取り外しの作業を行なうときには、容器200の位置を下げて、容器200を着脱しやすい配置にした状態で、効率的に作業を行なうことができる。
第1配置では容器200内の薬液が容器200の口側に寄って貯留されるので、容器200内の薬液を吸引するときに第1配置に配置することで、多くの薬液を効率よく吸引できる。
第1配置から第2配置への移動の際に、保持部駆動部95の駆動力の作用で、注射器100と容器200とが一体に回動する。注射器100と容器200とを回動させるための駆動源が一つの保持部駆動部95であり共通しているため、動力が低減される。注射器100および容器200の回転移動に当たって、注射器100の回転と容器200の回転とを同期させる必要がない。したがって、薬液移注装置1の構造および制御を簡略化することができる。
第2配置では容器200内の薬液が容器200の底側に寄って貯留され、容器200の口の周辺が気相となる。そのため、容器200から注射針130を抜くときに第2配置に配置することで、注射針130の針先を気相内に配置することが容易になる。容器200から抜き取られるときに注射針130が容器200内の液に触れないことで、注射針130を容器200から抜いた後の針先133からの薬液の漏出を防止できる。したがって、針先133に付着した薬液の液だれによる周囲環境の汚染を防止することができる。
また図13に示すように、容器200の口が下向きとなる第1配置に保持部3を配置させた状態で、注射針130を容器200に突き刺し、シリンジ110内の薬液を容器200に吐出する。第1配置では容器200内の薬液が容器200の口側に寄って貯留されるので、シリンジ110内の薬液を吐出するときに第1配置に配置することで、注射針130の針先133を液中に配置することが容易になる。これにより、容器200内での薬液の泡立ちを抑制することができる。
また図10に示すように、容器200内の空気をシリンジ110に吸引した後、注射針130を容器200から抜く。注射針130の針先133が容器200内の気相に位置した状態で容器200内の空気を吸引するため、容器200内を陰圧にすることができ、注射針130を抜くときの容器200からの液だれを防止できる。容器200内を陰圧にする操作が注射器100を利用して行なわれるので、陰圧操作のための設備を別に設ける必要がなく、薬液移注装置1の構成を簡略化できる。また、吸引される空気が注射針130の内部を通過するときに、注射針130内の薬液がシリンジ110内に吸引される。これにより、注射針130の内部に残存する薬液の量が低減されるので、針先133からの薬液の漏出をより確実に抑制することができる。
また図3,4に示すように、容器移動部96は、注射針130の針先133に対向する対向位置に、複数の容器200のうちいずれか一つを選択的に移動させる。図8,9,11に示すように、注射針130を容器200から抜いた後、他の容器200に注射針130を突き刺し、シリンジ110内の薬液を当該他の容器200に吐出する。このようにすれば、第1の容器200からシリンジ110に薬液を吸引した後、シリンジ110内の薬液が吐出される第2の容器200を、容器移動部96により対向位置に容易に移動させることができる。
また図3に示すように、複数の容器200を保持する容器保持部20は、注射器100を保持する注射器保持部10に対して回転移動し、複数の容器200は容器保持部20の回転の周方向に並んで配置されている。このようにすれば、容器移動部96により容器保持部20を回転させることで、複数の容器200のいずれか一つを対向位置に容易に移動させることができる。
容器保持部20の回転軸を注射針130の延在方向と平行にすることで、容器200の口のゴム栓面に対して注射針130を垂直にする位置調整が容易になる。当該位置調整が薬液移注装置1の初期の調整で適切に行なわれれば、対向位置に移動してきた容器200のゴム栓面が、注射針130に対して常に垂直になる。これにより、ゴム栓面に対して注射針130を垂直に刺すことが可能になるので、コアリングの発生を抑制することができる。
同じ容器200のゴム栓に注射針130を複数回刺す場合には、容器保持部20の回転角度を変えることで、ゴム栓面の針刺し位置を変えて、ゴム栓面の未だ針刺ししていない箇所に注射針130を刺すことができる。これにより、容器200からの薬液の漏出を防止できる。注射針130を刺す位置が変わっても注射針130とゴム栓面との角度は垂直のまま変わらないので、コアリングの発生を抑制することができる。
本実施形態の薬液移注装置1は、図7に示すように、容器200に収容された薬剤が溶解を必要とするか否かの判断を実行する。溶解が必要であると判断された場合、図7,9,11に示すように、シリンジ110に吸引した希釈液を容器200に吐出して薬剤を溶解する。図6,7,13に示すように、溶解された薬剤をシリンジ110に吸引し、その後シリンジ110内の薬剤を輸液ボトル210に吐出する。溶解が不要であると判断された場合、図6,7,13に示すように、容器200内の薬剤をシリンジ110に吸引し、その後シリンジ110内の薬剤を輸液ボトル210に吐出する。
係る構成により、1台の薬液移注装置1を使用して、薬剤の溶解と調製との両方の作業を行なうことができる。したがって実施形態の薬液移注装置1は、容器200に液状の薬剤が収容されている場合と、容器200に粉末状の薬剤が収容されている場合との両方において、薬剤の調製を行なうことができる。
また図8,12に示すように、薬剤を希釈する希釈液が収容された容器200と、希釈された薬剤が吐出される容器200とは、同じ輸液ボトル210である。薬液を希釈するための希釈液を薬剤の溶解に使用することで、薬剤の溶解のための専用の溶解液を別に用意しなくてよい。したがって、薬液移注装置1の構成を簡素化することができる。
また図3,4に示すように、容器移動部96は、注射針130の針先133に対向する対向位置に、薬剤が収容された容器200と希釈液が収容された容器200とのいずれか一方を選択的に移動させる。このようにすれば、薬剤が収容された容器200からシリンジ110に薬液を吸引した後、希釈液が収容された容器200を容器移動部96により対向位置に容易に移動させることができ、シリンジ110内の薬液を希釈液で希釈する作業が容易になる。
本実施形態の薬液移注装置1は、図13に示すように、容器200の口が下向きとなる第1配置に保持部3を配置させた状態で、シリンジ110内の薬液の一部を容器200に吐出し、注射針130を容器に刺し通したまま容器200の口が上向きとなる第2配置に保持部3を回動させ、容器内の空気をシリンジ110に吸引した後、シリンジ110内の薬液の残りを容器200に吐出する。
第1配置で薬液を容器200に吐出すると、注射針130の針先133が容器200内の液相に位置した状態で吐出することになるため、容器200内での薬液の泡立ちを抑制できる。第2配置に移動してから容器200内の空気をシリンジ110に吸引することで、容器200内の圧力の上昇が抑制される。そのため、薬液を容器200に吐出するときの負荷を低減することができ、また容器200内が陽圧になって薬液が漏出する事態を回避することができる。
また図13に示すように、第2配置に保持部3を配置させた状態で薬液を容器200に吐出した後、注射針130を容器200から抜く。第2配置では容器200内の薬液が容器200の口から離れる側に寄って貯留され、容器200の口の周辺が気相となる。容器200から注射針130を抜くときに第2配置に配置することで、注射針130の針先を気相内に配置することが容易になる。容器200から抜き取られるときに注射針130が容器200内の液に触れないことで、注射針130を容器200から抜いた後の針先133からの薬液の漏出を防止できる。したがって、針先133に付着した薬液の液だれによる周囲環境の汚染を防止することができる。
以上のように本発明の実施形態について説明を行なったが、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。