実施するための形態について、以下に説明する。
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
(1)本開示の一態様に係る光ファイバー付きPC鋼撚り線は、ひずみ測定用光ファイバーと、
温度測定用光ファイバーと、
複数のPC鋼線が撚り合わされたPC鋼撚り線と、を有し、
前記ひずみ測定用光ファイバー及び前記温度測定用光ファイバーが、前記PC鋼撚り線の長手方向に沿って配置されている。
本開示の一態様に係る光ファイバー付きPC鋼撚り線によれば、ひずみ測定用光ファイバーに加えて、温度測定用光ファイバーを備えることにより、PC鋼撚り線のひずみと、温度とを測定することができ、測定したひずみを温度により補正できる。このため、本開示の一態様に係る光ファイバー付きPC鋼撚り線によれば、PC鋼撚り線のひずみを精度良く測定することが可能になる。
また、本開示の一態様に係る光ファイバー付きPC鋼撚り線によれば、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを備えており、ひずみの測定点と温度の測定点とが近接しているため、精度良くひずみを測定できる。
さらに、本開示の一態様に係る光ファイバー付きPC鋼撚り線によれば、ひずみ、及び温度の測定ができるため、該光ファイバー付きPC鋼撚り線が埋設等され、外部からは測定が困難な場合でも、ひずみ及び温度を容易に測定することができる。
(2)前記光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、
前記ひずみ測定用光ファイバー、及び前記温度測定用光ファイバーは、
前記PC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に設けられていてもよい。
(3)前記光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、
前記ひずみ測定用光ファイバー、及び前記温度測定用光ファイバーは、それぞれ、
隣接する2本の前記PC鋼線の表面と、前記隣接する2本のPC鋼線の共通接線とで囲まれた領域内に配置されていてもよい。
(4)前記光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、
前記ひずみ測定用光ファイバー、及び前記温度測定用光ファイバーは、共に、
隣接する2本の前記PC鋼線の表面と、前記隣接する2本のPC鋼線の共通接線とで囲まれた同じ領域内に配置されていてもよい。
(5)少なくとも前記ひずみ測定用光ファイバーが前記PC鋼線と接していてもよい。
(6)前記ひずみ測定用光ファイバーがシングルモード光ファイバーであり、
前記温度測定用光ファイバーがマルチモード光ファイバーであってもよい。
(7)本開示の一態様に係るひずみ測定方法は、複数のPC鋼線が撚り合わされたPC鋼撚り線と、前記PC鋼撚り線の長手方向に沿って配置された光ファイバーと、を有する光ファイバー付きPC鋼撚り線を用いて前記PC鋼撚り線のひずみを測定するひずみ測定方法であって、以下の工程を有することができる。
前記光ファイバーを用いて、散乱光により前記PC鋼撚り線のひずみの測定を行うひずみ測定工程。
前記光ファイバーを用いて、散乱光により温度を測定する温度測定工程。
前記ひずみ測定工程で測定した前記PC鋼撚り線のひずみを、前記温度測定工程で測定した温度を用いて補正する補正工程。
本開示の一態様に係るひずみ測定方法によれば、PC鋼撚り線のひずみを測定するひずみ測定工程に加えて、温度を測定する温度測定工程を有している。そして、補正工程において、ひずみ測定工程で測定したひずみを、温度測定工程で測定した温度により補正しているため、精度良くひずみを測定することが可能になる。
本開示の一態様に係るひずみ測定方法によれば、光ファイバー付きPC鋼撚り線を用い、ひずみ、及び温度の測定を行っているため、該光ファイバー付きPC鋼撚り線が埋設等され、外部からは測定が困難な場合でも、ひずみ及び温度を容易に測定することができる。また、例えば光ファイバー付きPC鋼撚り線以外の温度計を用いて温度を測定する場合等と比較して、ひずみの測定点と温度の測定点とが近接しているため、精度良く補正を行うことができる。
さらに、本開示の一態様に係るひずみ測定方法によれば、ひずみと、温度とを散乱光を用いて測定しており、同様の測定方法により測定しているため、現場での計測負担が少なく、容易に測定を行うことができる。
(8)前記光ファイバー付きPC鋼撚り線は複数の前記光ファイバーを有し、前記光ファイバーは、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーと、を含むこともできる。
(9)前記ひずみ測定工程と、前記温度測定工程とでは、異なる種類の散乱光を使用することもできる。
(10)前記ひずみ測定工程では、前記光ファイバーを用いて、ブリルアン散乱光により前記PC鋼撚り線のひずみの測定を行い、
前記温度測定工程では、前記光ファイバーを用いて、ラマン散乱光により温度の測定を行うこともできる。
(11)前記光ファイバー付きPC鋼撚り線は複数の前記光ファイバーを有し、前記光ファイバーは、前記ひずみ測定工程で用いるひずみ測定用光ファイバーと、前記温度測定工程で用いる温度測定用光ファイバーとを含んでおり、
前記ひずみ測定用光ファイバーをシングルモード光ファイバーに、
前記温度測定用光ファイバーをマルチモード光ファイバーにすることもできる。
(12)本開示の一態様に係るひずみ測定装置によれば、(7)〜(11)のいずれかに記載のひずみ測定方法を用いることができる。
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る光ファイバー付きPC鋼撚り線、ひずみ測定方法、ひずみ測定装置の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許の請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
1.光ファイバー付きPC鋼撚り線
従来のひずみ測定用の光ファイバーを備えたPC鋼撚り線によりPC鋼撚り線のひずみ(本明細書において、単に「ひずみ」と記載する場合もある)を測定する場合、ひずみ測定用の光ファイバーを用いて、散乱光により該光ファイバーの長手方向の任意の位置のひずみ、もしくは該光ファイバーの長手方向に沿ったひずみ分布を測定していた。
しかしながら、既述の様に、従来用いられていたひずみ測定用の光ファイバーを備えたPC鋼撚り線において、ひずみを正確に測定できない場合があった。
そこで、本発明の発明者らは、従来用いられていたひずみ測定用の光ファイバーを備えたPC鋼撚り線において、ひずみを正確に測定できない場合が生じる原因について鋭意検討を行った。
その結果、ひずみ測定用の光ファイバーを備えたPC鋼撚り線の周辺の温度変化によって、光ファイバーを構成するガラス等の材料の特性が変化し、散乱光の周波数に影響を与えていることを見出した。そして係る知見に基づき、従来は着目されていなかった温度についても併せて測定できる光ファイバー付きPC鋼撚り線とすることで、ひずみや、ひずみ分布を精度よく測定できることを見出し、本発明を完成させた。
本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線は、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーと、複数のPC鋼線が撚り合わされたPC鋼撚り線と、を有することができる。なお、ひずみ測定用光ファイバー及び温度測定用光ファイバーは、PC鋼撚り線の長手方向に沿って配置することができる。
このように、本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線は、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを有することにより、ひずみと共に、温度も測定することができる。このため、測定したひずみや、ひずみ分布を、従来考慮されていなかった温度により補正することができ、ひずみを精度よく測定することが可能になる。
また、本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線によれば、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーを有し、ひずみの測定点と温度の測定点とが近接しているため、精度良くひずみを補正できる。さらに、本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線によれば、ひずみ、及び温度の測定ができるため、該光ファイバー付きPC鋼撚り線が埋設等され、外部からは測定が困難な場合でも、ひずみ及び温度を容易に測定することができる。
(1)光ファイバー付きPC鋼撚り線の第1の構成例
以下に、本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線の第1の構成例について図面を用いて説明する。
まず、図1〜図5を用いながら、第1の構成例の光ファイバー付きPC鋼撚り線の各部材について説明する。
図1は、第1の構成例の光ファイバー付きPC鋼撚り線の斜視図であり、図2は図1に示した光ファイバー付きPC鋼撚り線10の長手方向と垂直な断面の構成例を示している。図3は光ファイバー部材の構成例の説明図を示している。図4、図5は、光ファイバー部材をPC鋼撚り線に配置した場合の、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面の一部拡大図を示している。
図1〜図5では被覆(シース)を有しない光ファイバー付きPC鋼撚り線の構成例を示しているが、後述するように被覆を有する光ファイバー付きPC鋼撚り線とすることもできる。
(PC鋼撚り線)
図1に示す光ファイバー付きPC鋼撚り線10は、鋼性の素線であるPC鋼線111を複数本撚り合わせたPC鋼撚り線11を有する。各PC鋼線111は、光ファイバー付きPC鋼撚り線10をコンクリート構造体等に設置した場合に、緊張力を負担する。
PC鋼撚り線11を構成するPC鋼線111の本数は特に限定されるものではなく、光ファイバー付きPC鋼撚り線の使用形態(内ケーブルや外ケーブル)などに応じて選択することができ、7本、19本などが挙げられる。PC鋼線111の本数が7本の場合、PC鋼撚り線11の構造は、図1、図2に示すように、1本の中心素線となるPC鋼線111Aの外周に、6本の外周素線となるPC鋼線111Bが螺旋状に撚られた1層撚りの構造とすることができる。この場合、外周素線となるPC鋼線111BがPC鋼撚り線11の最外周に位置することになる。図1、図2では、中心素線となるPC鋼線111Aと、外周素線となるPC鋼線111Bとして、同じ径のPC鋼線を用いた例を示しているが、係る形態に限定されない。例えば中心素線となるPC鋼線111Aの径と、外周素線となるPC鋼線111Bの径が異なっていてもよい。
一方、PC鋼線の数が19本の場合、PC鋼撚り線の構造は、図示は省略するが、1本の中心素線となるPC鋼線に対して内側から順に内周素線となるPC鋼線、及び外周素線となるPC鋼線が螺旋状に撚られた2層撚り構造とすることができる。代表的には内周素線と外周素線の本数の組み合わせが異なる2つのタイプがある。
具体的には、1本の中心素線と9本の内周素線と9本の外周素線とで構成されるタイプと、1本の中心素線と6本の内周素線と12本の外周素線とで構成されるタイプとがある。前者のタイプでは、中心素線と外周素線は、同等の径のPC鋼線で構成でき、内周素線は、中心素線よりも径の小さいPC鋼線で構成できる。
後者のタイプでは、中心素線と内周素線は、同等の径のPC鋼線で構成できる。外周素線は、中心素線と同等の径のPC鋼線と、それよりも径の小さいPC鋼線とを交互に配置して構成できる。
図2に示すように、PC鋼撚り線11には、隣接し合う3本のPC鋼線111に囲まれた空間である内部空隙21や、隣接する2本の、外周素線となるPC鋼線111Bの間に形成される谷である凹部領域22などの空間が形成される。これらの内部空隙21や、凹部領域22は、PC鋼撚り線11の長手に連続する撚り溝23、すなわち隣接するPC鋼線111間に、隣接する2本のPC鋼線111の表面によって形成される溝により構成される。そして、内部空隙21や、凹部領域22は、PC鋼撚り線11の長手方向に沿って延在するように、中心軸Aを中心とした螺旋状の形状を有する。
図1、図2に示すようにPC鋼撚り線11が1層撚り構造の場合、すなわちPC鋼線の数が7本の場合、内部空隙21は、中心素線となるPC鋼線111Aと2本の外周素線となるPC鋼線111Bとの間に形成される。
PC鋼撚り線が2層撚り構造(素線の数が19本)の場合、内部空隙は、中心素線と2本の内周素線の間、1本の内周素線と2本の外周素線との間、2本の内周素線と1本の外周素線との間に形成される。
(ひずみ測定用光ファイバー、温度測定用光ファイバー)
本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線は、光ファイバーとして、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを有することができる。
ひずみ測定用光ファイバーや、温度測定用光ファイバーとして用いる光ファイバーは、コアとクラッドとで構成されるものを好適に利用できる。コアとクラッドの材質は、プラスチックや石英ガラスが挙げられる。光ファイバーとしては、クラッドの外周に一次被覆を備える光ファイバー素線や、更に二次被覆を備える光ファイバー芯線、更に二次被覆の外周に補強材と補強材の外周を覆う外被とを備える光ファイバーコードなどが利用できる。一次被覆の材質は、例えば、紫外線硬化型樹脂が挙げられる。二次被覆の材質は、例えば、難燃性ポリエステルエラストマーなどが挙げられる。補強材の材質は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維などが挙げられる。外被の材質は、難燃性ポリエチレンなどの難燃性ポリオレフィンや、難燃性架橋ポリエチレンなどの難燃性架橋ポリオレフィン、耐熱ビニルなどが挙げられる。
そして、ひずみ測定用光ファイバーや、温度測定用光ファイバーとして用いる光ファイバーの種類は特に限定されるものではなく、それぞれひずみや、温度の測定方法、測定の際に用いる散乱光の種類等に応じて選択することができる。例えば、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーとして、それぞれシングルモード光ファイバー、マルチモード光ファイバー、及び偏波保持光ファイバーから選択された1種類以上の光ファイバーを用いることが好ましい。
ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとは、同じ種類の光ファイバーであっても良く、異なる種類の光ファイバーであっても良い。また、本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線は、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとして、測定方式等に応じてそれぞれ1本または複数本の光ファイバーを有することができる。このため、例えばひずみ測定用光ファイバーとして異なる種類の光ファイバー、または同じ種類の光ファイバーを2本以上用いることもでき、温度測定用光ファイバーについても同様である。
特に、本発明の発明者らの検討によれば、ひずみ測定を行う際には散乱光としてブリルアン散乱光や、レイリー散乱光等を好ましく用いることができ、シングルモード光ファイバーを用いると特にシャープなピークが得られる。このため、ひずみ測定用光ファイバーはシングルモード光ファイバーであることが好ましい。また、温度測定を行う際には散乱光としてラマン散乱光等を好ましく用いることができ、マルチモード光ファイバーを用いると特に高いピーク強度が得られる。このため、温度測定用光ファイバーは、マルチモード光ファイバーであることが好ましい。
このように、用いる散乱光に適した光ファイバーを用いることで、精度良くひずみや温度を測定することができる。
図1、図2に示した光ファイバー付きPC鋼撚り線のように被覆(シース)を設けない場合、PC鋼線との密着性を高め、破損を防止するため、ひずみ測定用光ファイバーや温度測定用光ファイバーは、以下の光ファイバー部材としてから配置することが好ましい。
(光ファイバー部材)
図3、図4を用いて光ファイバー部材の構成例について説明する。図3は、光ファイバー部材の斜視図であり、図4は、光ファイバー部材30を、PC鋼撚り線の凹部領域内に配置した際の光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な面での断面図の構成例を示している。
図3に示すように、光ファイバー部材30は、その内部に光ファイバー31を有している。光ファイバー31については特に限定されず、ひずみ測定用光ファイバー、温度測定用光ファイバーのそれぞれに対応した光ファイバーを用いることができる。なお、光ファイバーは、既述のように光ファイバー素線や、光ファイバー芯線、光ファイバーコードのいずれであっても良く、例えばクラッドの外周に一次被覆を備えた光ファイバー素線を用いることができる。
図3においては、光ファイバー部材30内に1本の光ファイバーを配置した例を示しているが係る形態に限定されない。光ファイバー部材30は、例えば2本以上の光ファイバーを含むこともできる。後述するように、1つの光ファイバー部材内にひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを同時に配置することもできる。
光ファイバー部材30は、光ファイバー31を包囲する樹脂製のフィラー32を有している。このような光ファイバー部材30は、フィラー32を押出し成型で製造する際に、フィラー32内に光ファイバー31を配置する方法で製造することができる。また、スリット、すなわち切込み線を有するフィラー32を押出し成型で製造した後、スリットから光ファイバー31を挿入し接着剤で固定してもよい。
フィラー32の材料の樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン樹脂等を用いることができる。
光ファイバー部材30の長手方向と垂直な断面において、光ファイバー31を配置する位置は特に限定されないが、例えば図3に示すように、その中央部に配置することもできる。また、本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線においては、少なくともひずみ測定用光ファイバーが、PC鋼線と接するように構成することもできる。このため、光ファイバー部材30内において、例えばPC鋼線と接触する面に光ファイバーの一部が露出する様に光ファイバーを選択した一の表面側に偏在するように配置することもできる。
光ファイバー部材30は、その設置する場所に応じて外形形状を選択することができ、その具体的な形状は特に限定されない。
既述のように図1、図2に示したPC鋼撚り線11の表面には、互いに隣接する2本のPC鋼線111同士の間に、断面が略三角形、すなわち少なくとも2つの辺が曲線となっている三角形の谷間である凹部領域22が形成されている。なお、ここでの断面とは光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面を意味する。
そして、光ファイバー部材30を、凹部領域22に挿入し、隣接する2本のPC鋼線111に挟まれた状態で、当該隣接する2本のPC鋼線111に沿って螺旋状に延在するように設置する場合の光ファイバー部材30の構成例について以下に説明する。
上述のように、凹部領域内に光ファイバー部材30を挿入した構成とする場合、図3及び図4に示すように、光ファイバー部材30は長手方向と垂直な断面において、略三角形の断面をなし、略三角形断面の凹部領域22に挿入し易いように構成することが好ましい。
また、例えば図3、図4に示したように、光ファイバー部材30は、その長手方向と垂直な断面において、凹状の円弧をなす輪郭線を少なくとも2つ有することができる。この場合、図4に示すように光ファイバー部材30の長手方向と垂直な断面において、光ファイバー部材30の第1の表面32Aを構成する第1の輪郭線33Aは、凹部領域22を形成する一方のPC鋼線111の表面111aに沿ってほぼ同じ曲率で延びることが好ましい。また、光ファイバー部材30の第2の表面32Bを構成する第2の輪郭線33Bは、凹部領域22を形成する一方のPC鋼線111の表面111bに沿ってほぼ同じ曲率で延びることが好ましい。光ファイバー部材30が、配置する凹部領域22に対応した形状を有することで、光ファイバー部材30を凹部領域22内に安定して保持することができるため、好ましい。
なお、光ファイバー部材30の長手方向と垂直な断面での形状を上述のように略三角形とした場合、光ファイバー部材30は、第3の表面32Cを構成する第3の輪郭線33Cを有する。図4から明らかなように、凹部領域22内に光ファイバー部材30を配置した場合に、第3の表面32Cは、PC鋼線111と対向する面ではない。このため、第3の輪郭線33Cの形状は、光ファイバー部材30とPC鋼線111との接着性等に影響は与えないが、例えば第3の輪郭線33Cは、第1の輪郭線33A及び第2の輪郭線33Bと同一形状の凹状の円弧とすることもできる。この場合、光ファイバー部材30は、その長手方向軸周りに120度ずつ回転させても同じように使用可能であり、当該回転方向の向きを気にせずに光ファイバー部材30をPC鋼撚り線11に設置することができるため、作業性の観点から好ましい。
光ファイバー部材30の長手方向の断面の形状を略三角形とし、その輪郭線を凹状の円弧とした例を示したが、係る形態に限定されるものではない。例えば、第1の輪郭線33A〜第3の輪郭線33Cから選択される1つ以上の輪郭線を直線や、凸状の円弧、その他の形状とすることもできる。また、光ファイバー部材30を配置する場所の形状にあわせて、その外形形状を選択することができる。
なお、光ファイバー部材30を凹部領域22内に配置する場合、光ファイバー部材30は、該凹部領域22を形成する隣接する2本のPC鋼線111のうち、1本にのみ接着されていることが好ましい。PC鋼撚り線11に力が加わった場合に、PC鋼撚り線11を構成する各PC鋼線111は伸縮することになるが、隣接するPC鋼線が同じ方向に、同程度伸縮するとは限らない。このため、光ファイバー部材30を、凹部領域22を形成する隣接する2本のPC鋼線111に接着しておくと、光ファイバー部材30と、PC鋼線111との接着部の一部が不規則に剥離し、光ファイバーに複雑なひずみを与える恐れがある。その結果、却って光ファイバー部材30がPC鋼撚り線11の伸縮に追従できなくなる場合があるからである。このため、図4に示す様に、光ファイバー部材30は、例えば凹部領域22を形成する、隣接する2本のPC鋼線111のうち、1本とのみ接着剤34等により接着しておくことが好ましい。
(光ファイバー付きPC鋼撚り線の構造の構成例について)
次に、本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線の好適な構造の構成例について説明する。
本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線は、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーと、PC鋼撚り線を備えていればよく、各部材の具体的な配置は特に限定されるものではない。
例えば、本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線は、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーを、PC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に設けることが好ましい。
ひずみ測定用光ファイバーを、PC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に設けることで、ひずみ測定用光ファイバーをPC鋼撚り線の伸縮に追従させ易いため、ひずみや、その分布を精度よく測定できる。また、温度測定用光ファイバーも同様にPC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に配置することで、温度測定用光ファイバーもひずみ測定用光ファイバーと同様にPC鋼撚り線の伸縮に追従させ易くなる。このため、PC鋼撚り線が伸縮した場合でもひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとの位置関係を維持できる。
PC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置として、PC鋼撚り線の撚り溝により形成される既述の内部空隙21や、凹部領域22が挙げられる。このため、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーをPC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に設ける例として、PC鋼撚り線の撚り溝により形成される既述の内部空隙や、凹部領域に沿って、ひずみ測定用光ファイバー等を設ける構成が挙げられる。この場合、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、それぞれ内部空隙、及び凹部領域から選択された1種類以上の空間内に配置することもできるが、該空間の近傍にあればよく、例えば空間の外に配置されていても良い。
特に、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、PC鋼撚り線の外周側に位置する凹部領域に沿って配置することが好ましい。これは、PC鋼撚り線内部に位置する内部空隙と比較して、外周側に位置する凹部領域の方が容易にひずみ測定用光ファイバー等の設置を行うことができるからである。
具体的な構成例について、図1、図2を用いて説明する。
図1に示した光ファイバー付きPC鋼撚り線10の長手方向とは、光ファイバー付きPC鋼撚り線10の長さ方向に当たり、図中のX軸方向に相当する。光ファイバー付きPC鋼撚り線10の長手方向と垂直な断面とは、YZ平面での断面を示しており、図2に示した通りである。
そして、上述のように光ファイバー付きPC鋼撚り線10の長手方向と垂直な断面において、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、PC鋼撚り線11の撚り溝23に対応した位置に、それぞれ配置することが好ましい。
具体的には例えば、図1、図2に示したように、ひずみ測定用光ファイバー311を含む第1光ファイバー部材301や、温度測定用光ファイバー312を含む第2光ファイバー部材302を凹部領域22に沿って配置することができる。
なお、既述のように、ひずみ測定用光ファイバーを含む第1光ファイバー部材301や、温度測定用光ファイバーを含む第2光ファイバー部材302は、内部空隙21に沿って配置することもできる。
また、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、光ファイバー付きPC鋼撚り線の外接円内に配置されていることが好ましい。これは、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーを、光ファイバー付きPC鋼撚り線の外接円内に配置することで、ひずみ測定用光ファイバーを、PC鋼撚り線の近傍に配置することができ、PC鋼撚り線の伸縮に特に追従させやすくなる。このため、ひずみや、その分布を精度よく測定できる。また、温度測定用光ファイバーも同様に光ファイバー付きPC鋼撚り線の外接円内に配置することで、温度測定用光ファイバーもひずみ測定用光ファイバーと同様にPC鋼撚り線の伸縮に追従させることができる。このため、PC鋼撚り線が伸縮した場合でもひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとの位置関係を維持できる。
図1、図2に示した光ファイバー付きPC鋼撚り線10においては、被覆を有していないことから光ファイバー付きPC鋼撚り線10の外接円とは、図2に点線で示したPC鋼撚り線11の外接円Cとなる。
このため、図1、図2に示した光ファイバー付きPC鋼撚り線10においては、ひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312は、PC鋼撚り線11の外接円C内に配置することが好ましい。
特に、光ファイバー付きPC鋼撚り線10の長手方向と垂直な断面において、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、それぞれ、隣接する2本のPC鋼線の表面と、係る隣接する2本のPC鋼線の共通接線とで囲まれた領域内に配置されていることが好ましい。
例えば図4に示すように、ひずみ測定用光ファイバーや、温度測定用光ファイバーとなる光ファイバー31は、隣接する2本のPC鋼線111の表面111a、111bと、係る隣接する2本のPC鋼線111の共通接線Lとで囲まれた領域内に配置されていることが好ましい。この場合、ひずみ測定用光ファイバー及び温度測定用光ファイバーとなる光ファイバーは、PC鋼撚り線の内側寄りに配置されることになるため、光ファイバー保護の観点、すなわち断線防止の観点から好ましいからである。
光ファイバーを光ファイバー部材としてからPC鋼撚り線に配置する場合、図4に示すように、光ファイバー部材30を、隣接する2本のPC鋼線111の表面111a、111bと、係る隣接する2本のPC鋼線の共通接線Lとで囲まれた領域内に配置することがさらに好ましい。このように光ファイバー部材自体を配置することで、光ファイバー部材全体がPC鋼撚り線の内側寄りに配置されることになるため、光ファイバーの断線等を特に防止できるからである。
本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線は、ここまで説明してきたように、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを有することができる。そして、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとは、近接して配置することが好ましい。これはひずみ測定用光ファイバーで測定したひずみを、温度測定用光ファイバーで測定した温度により補正する場合、両光ファイバーを近接させることで、ひずみの測定点と、温度の測定点とを近接させ、より精度よくひずみの温度補正を行えるからである。
このため、光ファイバー部材を凹部領域内に配置する場合、ひずみ測定用光ファイバーを配設する凹部領域と、温度測定用光ファイバーを配設する凹部領域とは近接していることが好ましい。
例えば、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、PC鋼撚り線の外周に沿って隣接した凹部領域にひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを配置することが好ましい。例えば図2に示すように、凹部領域22Aにひずみ測定用光ファイバー311を配置した場合、PC鋼撚り線11の外周に沿って、凹部領域22Aに隣接する凹部領域22Bに温度測定用光ファイバー312を配置することが好ましい。
凹部領域だけではなく、例えば隣接する内部空隙21と、凹部領域22とにひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとをそれぞれ配置することもできる。隣接する内部空隙21にひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとをそれぞれ配置することもできる。
ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとは、隣接するように配置することもできる。例えばひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを束ねて、束ねた光ファイバーをPC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に設けることができる。
このように、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを隣接するように配置することで、ひずみを測定した箇所の極近傍で温度を測定できることになる。ひずみ測定用光ファイバーで測定したひずみを、温度測定用光ファイバーで測定した温度により補正するため、両光ファイバーを近接して配置することで、ひずみの測定点と、温度の測定点とが特に近接し、ひずみの測定精度を特に高めることができる。
また例えば、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、共に、隣接する2本のPC鋼線の表面と、係る隣接する2本のPC鋼線の共通接線とで囲まれた同じ領域内に配置することができる。
具体的には例えば、図5に示す様にひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312を備えた点以外は図3、図4に示した場合と同様の光ファイバー部材50とし、凹部領域22に配置することができる。
この場合についても、ひずみ測定用光ファイバー311と、温度測定用光ファイバー312とが特に近接して配置されることになるため、ひずみを測定した箇所の極近傍で温度を測定できることになる。ひずみ測定用光ファイバーで測定したひずみを、温度測定用光ファイバーで測定した温度により補正するため、両光ファイバーを近接して配置することで、ひずみの測定点と、温度の測定点とが特に近接し、ひずみの測定精度を特に高めることができる。
また、ひずみ測定用光ファイバー及び温度測定用光ファイバーの光ファイバーは、PC鋼撚り線の内側寄りに配置されることになるため、光ファイバー保護の観点、すなわち断線防止の観点からも好ましいからである。
なお、ひずみ測定用光ファイバー311と、温度測定用光ファイバー312とは、両部材が直接接触するように束ねて、光ファイバー部材50内に配置することもできる。
また、少なくともひずみ測定用光ファイバーをPC鋼線と接するように配置することもできる。
例えば図5に示すように、ひずみ測定用光ファイバー311が、PC鋼線111と接するように配置できる。このように構成することで、ひずみ測定用光ファイバー311にPC鋼線に生じたものとほぼ同じひずみを生じさせることができ、PC鋼撚り線のひずみを特に正確に評価することが可能になり好ましい。温度測定用光ファイバー312についてもPC鋼線111と接するように配置することもできる。
ここでは、図5を例に説明したが、同じ凹部領域22にひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを同時に配置していない場合でも、少なくともひずみ測定用光ファイバーをPC鋼線と接するように配置することもできる。すなわち、例えば図2等で示した第1光ファイバー部材301、第2光ファイバー部材302において、ひずみ測定用光ファイバー等をPC鋼線111に接するように配置することもできる。
(2)光ファイバー付きPC鋼撚り線の第2の構成例
本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線は、被覆(シース)を有することもできる。第2の構成例として、被覆を有する場合の光ファイバー付きPC鋼撚り線の構成例を、図面を用いて説明する。なお、既に説明した事項については説明を一部省略する。
図6は被覆を有する光ファイバー付きPC鋼撚り線60の長手方向と垂直な面での断面図を示している。
被覆を有する光ファイバー付きPC鋼撚り線60とする場合、被覆として、防食被覆61と外側被覆62とを有することができる。
防食被覆61は、PC鋼撚り線11を外部環境から保護してPC鋼撚り線11の腐食を抑制する。防食被覆61は、PC鋼撚り線11の外周を被覆する外周部611を有する。外周部611は、PC鋼撚り線11の外周輪郭に沿った表面を有し、その表面におけるPC鋼撚り線11の撚り溝23に対応した箇所に撚り溝613が形成されている。
防食被覆61は、各PC鋼線111の間(内部空隙)に充填される充填部612を有していることが好ましい。充填部612を有することで、PC鋼撚り線11の隙間に水分などが侵入することを抑制でき、PC鋼撚り線11の腐食をより一層抑制し易い。
充填部612を備える場合、外周部611と充填部612とは同一材質で一連に形成されていることが好ましい。
防食被覆61の材質は、特に限定されないが、例えば耐食性に優れる樹脂を好ましく用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエチレン樹脂などが挙げられる。
そして、防食被覆61の外側にはさらに、防食被覆61の外周を覆う外側被覆62を備えることができる。なお、防食被覆61と、外側被覆62とは同じ樹脂により形成することもできるが、異なる樹脂により構成することが好ましい。これは、外側被覆62は、主に紫外線による劣化を防止する機能を有しているが、外側被覆62の樹脂のみで防食被覆も形成すると、コストが高くなる恐れがあるからである。
また、外側被覆62は、ひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312を防食被覆61へ固定する固定部材としての機能も期待できる。外側被覆62の外周面621は、撚り溝が形成されない円筒状面で構成されている。外側被覆62の材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン樹脂が挙げられる。
防食被覆61、及び外側被覆62は、例えば以下の手順により形成できる。
予めPC鋼線111を撚って形成したPC鋼撚り線11について、目板で撚り線の外周素線となるPC鋼線111Bの撚りを解いておく(撚り解き工程)。
中心素線、及び外周素線の外周に防食被覆の構成樹脂を供給し、中心素線となるPC鋼線111A、及び外周素線となるPC鋼線111Bの外周に塗布する(防食樹脂供給工程)。
外周素線であるPC鋼線111Bを再び中心素線となるPC鋼線111A上に撚り戻した後、塗装した樹脂を冷却する(冷却工程)。
防食被覆の撚り溝に対応する位置に光ファイバーを配置し、固定する(固定工程)。
防食被覆61の外周に外側被覆62の構成樹脂を押出成型等により成型し、外側被覆62を形成する(外側被覆配置工程)。
なお、被覆(シース)を有する場合、ひずみ測定用光ファイバーや、温度測定用光ファイバーは、被覆内に埋設されることになるため、図1、図2等を用いて説明した被覆を有しない場合とは異なり、光ファイバーはそのまま被覆内に埋設できる。すなわち、光ファイバーは、光ファイバー部材としてからPC鋼撚り線に配置する必要はない。
被覆を有する場合でも、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、PC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に設けられていることが好ましい。
PC鋼撚り線11の撚り溝23に対応した位置としては、防食被覆61の外周部の撚り溝613や、防食被覆61の内側の内部空隙21や、凹部領域22などが挙げられる。このため、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーをPC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に設ける例として、防食被覆61の外周部の撚り溝や、既述の内部空隙や、凹部領域に沿って、ひずみ測定用光ファイバー等を設ける構成が挙げられる。
ひずみ測定用光ファイバーを、PC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に設けることで、ひずみ測定用光ファイバーをPC鋼撚り線の伸縮に追従させ易いため、ひずみや、その分布をより精度よく測定できる。また、温度測定用光ファイバーも同様にPC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に配置することで、温度測定用光ファイバーもひずみ測定用光ファイバーと同様にPC鋼撚り線の伸縮に追従させ易くなる。このため、PC鋼撚り線が伸縮した場合でもひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとの位置関係を維持できる。
また、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、光ファイバー付きPC鋼撚り線の外接円内に配置されていることが好ましい。これは、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーを、光ファイバー付きPC鋼撚り線の外接円内に配置することで、ひずみ測定用光ファイバーを、PC鋼撚り線の近傍に配置することができ、PC鋼撚り線の伸縮に特に追従させやすくなるからである。また、温度測定用光ファイバーも同様に光ファイバー付きPC鋼撚り線の外接円内に配置することで、温度測定用光ファイバーを、ひずみ測定用光ファイバーに近接して配置することができ、ひずみの測定点と、温度の測定点とを近接させることができるからである。
図6に示した被覆を有する光ファイバー付きPC鋼撚り線60の長手方向と垂直な断面における光ファイバー付きPC鋼撚り線の外接円とは、外側被覆62の外周面621の輪郭線を意味する。このため、例えば外側被覆62の外周面621よりも内側で、PC鋼撚り線11の撚り溝23に対応した箇所にひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312を配置することが好ましい。この場合、ひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312は防食被覆61に埋設させることや、防食被覆61と外側被覆62との間(境界部)に配置することができる。また、ひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312を外側被覆62に埋設させることもできる。ひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312を外側被覆62に埋設させる場合、これらの光ファイバーの配置位置は、例えば防食被覆61の外周近傍が挙げられる。
なお、ひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312をPC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に配置する場合、例えば防食被覆61に該光ファイバーを埋め込んだり、防食被覆61に予め設けておいた溝に該光ファイバーを配置することもできる。
(3)光ファイバー付きPC鋼撚り線の第3の構成例
図7、図8を用いて、光ファイバー付きPC鋼撚り線の第3の構成例を説明する。なお、図8は、図7中の点線円X部分を拡大して示したものである。
光ファイバー付きPC鋼撚り線70において、ひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312は、その一部が防食被覆61の外周部611の表面に埋設されて、防食被覆61と一体化されている。このため、PC鋼撚り線11の伸縮にひずみ測定用光ファイバー311や温度測定用光ファイバー312を追従させ易くなり、PC鋼撚り線11のひずみを精度良く測定できる。また、PC鋼撚り線が伸縮した場合でもひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとの位置関係を維持できる。
なお、ひずみ測定用光ファイバー311等の防食被覆61に埋設されていない残部は、外周部611の表面から露出し、外側被覆62に覆われる。防食被覆61の外周部611の表面には、ひずみ測定用光ファイバー311等が埋設されることで凹部63が形成されている。この凹部63は、ひずみ測定用光ファイバー311等の螺旋に沿って螺旋状に形成されている。
光ファイバー付きPC鋼撚り線70の製造は、既述の光ファイバー付きPC鋼撚り線60の防食被覆61を形成している途中に光ファイバーを配置することで行える。具体的には、冷却工程において、外周素線となるPC鋼線111Bを再び中心素線となるPC鋼線111A上に撚り戻した後、光ファイバーを樹脂の表面に押し付けてから樹脂を冷却する。そうすれば、光ファイバーの一部が防食被覆61の外周部611表面に埋設されて、防食被覆61と一体化させることができる。
なお、防食被覆61に切削加工などにより圧入溝を形成しておき、該圧入溝にひずみ測定用光ファイバー等を配置するように構成することもできる。
防食被覆61にひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312が埋設されている点以外は、既述の第2の構成例と同様に構成できるため、説明を省略する。
(4)光ファイバー付きPC鋼撚り線の第4の構成例
図9を用いて光ファイバー付きPC鋼撚り線の第4の構成例を説明する。
被覆を有する光ファイバー付きPC鋼撚り線においても、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、それぞれ、隣接する2本のPC鋼線の表面と、係る隣接する2本のPC鋼線の共通接線とで囲まれた領域内に配置されていることが好ましい。
すなわち、例えば図9に示した、光ファイバー付きPC鋼撚り線90の様に構成することができる。図9は、光ファイバー付きPC鋼撚り線90の長手方向と垂直な面での断面図を示している。
図9に示した光ファイバー付きPC鋼撚り線90において、ひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用光ファイバー312は、それぞれ、隣接する2本の外周素線であるPC鋼線111の間に形成された凹部領域22に配置されている。
そして、ひずみ測定用光ファイバー311は、隣接する2本のPC鋼線111の表面と、係る隣接する2本のPC鋼線111の共通接線Lと、で囲まれた領域内に配置されている。なお、温度測定用光ファイバー312についても同様である。
ひずみ測定用光ファイバー311を、隣接する2本のPC鋼線111の表面と、隣接する2本のPC鋼線111の共通接線Lとで囲まれた領域内に配置することで、特にPC鋼線111の近傍に配置することができ、PC鋼撚り線11の伸縮に追従させ易くなる。このため、ひずみや、ひずみ分布を特に精度良く測定できる。また、温度測定用光ファイバー312も同様に隣接する2本のPC鋼線111の表面と、係る隣接する2本のPC鋼線111の共通接線Lとで囲まれた領域内に配置することで、特にPC鋼線111の近傍に配置することができ、PC鋼撚り線11の伸縮に追従させ易くなる。このため、PC鋼撚り線が伸縮した場合でもひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとの位置関係を維持できる。
なお、ひずみ測定用光ファイバー311と、温度測定用光ファイバー312とは、近接して配置することが好ましい。このため、例えば凹部領域22Aにひずみ測定用光ファイバー311を配置した場合、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、PC鋼撚り線の外周に沿って隣接した凹部領域22Bに温度測定用光ファイバー312を配置することが好ましい。
光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、共に、隣接する2本のPC鋼線の表面と、係る隣接する2本のPC鋼線の共通接線とで囲まれた同じ領域内に配置することもできる。
この場合、例えば図9に示した光ファイバー付きPC鋼撚り線90において、温度測定用光ファイバー312についても、ひずみ測定用光ファイバー311と同じ凹部領域22Aに配置した構成を有することができる。
ひずみ測定用光ファイバー311と、温度測定用光ファイバー312とを、共に隣接する2本のPC鋼線111の表面と、係る隣接する2本のPC鋼線111の共通接線L、で囲まれた同じ領域内に配置することで、両光ファイバーを特に近接して配置できる。
このため、ひずみを測定した箇所の極近傍で温度を測定できることになる。ひずみ測定用光ファイバーで測定したひずみを、温度測定用光ファイバーで測定した温度により補正するため、両光ファイバーを近接して配置することで、補正する温度がより適切な温度となり、ひずみの測定精度を特に高めることができる。
なお、本構成例の光ファイバー付きPC鋼撚り線の場合に限られず、例えば、第2の構成例、第3の構成例においても、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを、隣接するように配置することもできる。例えばひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを束ねて、束ねた光ファイバーをPC鋼撚り線の撚り溝に対応した位置に設けることができる。
このように、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを隣接するように配置することで、ひずみを測定した箇所の極近傍で温度を測定できることになる。ひずみ測定用光ファイバーで測定したひずみを、温度測定用光ファイバーで測定した温度により補正するため、両光ファイバーを近接して配置することで、ひずみの測定点と、温度の測定点とが特に近接し、ひずみの測定精度を特に高めることができる。
また、図9では、ひずみ測定用光ファイバー311が、PC鋼線111と接している。このように構成することで、ひずみ測定用光ファイバー311にPC鋼線に生じたものとほぼ同じひずみを生じさせることができ、PC鋼撚り線のひずみを特に正確に評価することが可能になり好ましい。温度測定用光ファイバー312についてもPC鋼線111と接するように配置することもできる。
図9に示した、光ファイバー付きPC鋼撚り線90の製造方法は特に限定されないが、例えばまず、PC鋼撚り線と、光ファイバーとを用意し、隣接する外周素線となるPC鋼線の間の凹部領域に光ファイバーを配置する(光ファイバー配置工程)。その後、光ファイバーを配置したPC鋼撚り線の外周側から溶融状態の防食被覆の構成樹脂を押し出すことで、防食被覆を形成できる(防食被覆形成工程)。
その後は他の光ファイバー付きPC鋼撚り線の場合と同様にして必要に応じて外側被覆を形成することができる。なお、光ファイバーは防食被覆により保護されているため、外側被覆を設けなくてもよく、例えば上記防食被覆形成工程で製造工程を終了することもできる。
本実施形態の光ファイバー付きPC鋼撚り線の用途は特に限定されるものではなく、PC鋼撚り線が求められる各種用途において用いることができる。例えば、内ケーブル、外ケーブル、斜材などのセメント硬化体用のPCケーブルや、グランドアンカー、ケーブルボルト等に用いることができる。
(2)ひずみ測定方法
次に、本実施形態のひずみ測定方法の一構成例について説明する。
本実施形態のひずみ測定方法は、複数のPC鋼線が撚り合わされたPC鋼撚り線と、PC鋼撚り線の長手方向に沿って配置された光ファイバーと、を有する光ファイバー付きPC鋼撚り線を用いてPC鋼撚り線のひずみを測定するひずみ測定方法であって、以下の工程を有することができる。
光ファイバーを用いて、散乱光によりPC鋼撚り線のひずみの測定を行うひずみ測定工程。
光ファイバーを用いて、散乱光により温度を測定する温度測定工程。
ひずみ測定工程で測定したPC鋼撚り線のひずみを、温度測定工程で測定した温度を用いて補正する補正工程。
各工程について説明する。
(ひずみ測定工程)
ひずみ測定工程では、光ファイバーと、複数のPC鋼線が撚り合わされたPC鋼撚り線と、を有する光ファイバー付きPC鋼撚り線の光ファイバーを用いて、ひずみの測定を行うことができる。なお、ひずみ測定工程では、光ファイバーの長手方向の任意の位置のひずみや、光ファイバーの長手方向に沿ったひずみ分布を測定することができる。
ひずみ測定工程で用いる散乱光としては特に限定されないが、例えばブリルアン散乱光や、レイリー散乱光、ラマン散乱光から選択された1種類以上を用いることができる。
ひずみの測定方式は特に限定されないが、例えば、BOCDA(Brillouin Optical Correlation Domain Analysis)、BOTDR(Brillouin Optical Time Domain Reflectometry)、FBG(Fiber Bragg Grating)、BOTDA(Brillouin Optical Time Domain Analysis)、BOCDR(Brillouin Optical Correlation Domain Reflectometry)などが挙げられる。
測定に用いる光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する光ファイバーの本数は測定方式等に応じて選択することができる。例えば、測定方式をBOCDA、BOTDAとする場合、光ファイバーの数は2本以上の偶数本とし、測定方式をBOTDRやFBG、BOCDRとする場合、光ファイバーの数は1本以上とすることが好ましい。
BOCDAやBOTDAによりひずみを測定する場合、光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する2本の光ファイバーの両一端部を光ファイバー付きPC鋼撚り線の一端部側から引き出して一端部同士を接続する。また、光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する2本の光ファイバーの両他端部を光ファイバー付きPC鋼撚り線の他端部側から引き出してBOCDA測定装置(図示略)、BOTDA測定装置(図示略)に接続する。そして、測定に供することができる。
BOTDRやFBG、BOCDRによりひずみを測定する場合、光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する1本の光ファイバーの一端部を光ファイバー付きPC鋼撚り線の一端部側に配置する。そして、光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する光ファイバーの他端部を光ファイバー付きPC鋼撚り線の他端部側から引き出してBOTDR測定装置(図示略)やFBG測定装置(図示略)、BOCDR測定装置(図示略)に接続する。そして、測定に供することができる。
上述のようにして、光ファイバー付きPC鋼撚り線の光ファイバーに測定方式に対応した測定装置を接続した後、任意のタイミングでひずみ測定を実施することができる。
なお、ひずみ測定工程におけるひずみの測定方式として、主にBOCDA等のブリルアン散乱光を用いた測定方式を例示したが、ブリルアン散乱光のみに限定されず、例えばレイリー散乱光等の他の散乱光を用いてひずみや、ひずみの分布を測定することもできる。
(温度測定工程)
温度測定工程では、光ファイバーと、複数のPC鋼線が撚り合わされたPC鋼撚り線と、を有する光ファイバー付きPC鋼撚り線の光ファイバーを用いて、温度の測定を行うことができる。なお、温度測定工程では、光ファイバーの長手方向の任意の位置の温度や、光ファイバーの長手方向に沿った温度分布を測定することができる。ただし、後述のように、温度測定工程で測定した温度により、ひずみ測定工程で測定したひずみを補正することから、ひずみ測定工程でひずみやひずみ分布を測定した位置に対応する箇所で温度や、温度分布を測定することが好ましい。
温度測定工程で用いる散乱光としては特に限定されないが、例えばブリルアン散乱光や、レイリー散乱光、ラマン散乱光から選択された1種類以上を用いることができる。
温度の測定方式は特に限定されないが、例えば、BOCDA、BOTDR、FBG、BOTDA、BOCDR、ROTDR(Raman Optical Time Domain Reflectmeter)などが挙げられる。
測定に用いる光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する光ファイバーの本数は測定方式等に応じて選択することができる。例えば、測定方式をBOCDA、BOTDAとする場合、光ファイバーの数は2本以上の偶数本とし、測定方式をBOTDRやFBG、BOCDR、ROTDRとする場合、光ファイバーの数は1本以上とすることが好ましい。
BOCDAやBOTDAにより温度を測定する場合、光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する2本の光ファイバーの両一端部を光ファイバー付きPC鋼撚り線の一端部側から引き出して一端部同士を接続する。また、光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する2本の光ファイバーの両他端部を光ファイバー付きPC鋼撚り線の他端部側から引き出してBOCDA測定装置(図示略)、BOTDA測定装置(図示略)に接続する。そして、測定に供することができる。
BOTDRやFBG、BOCDR、ROTDRにより温度を測定する場合、光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する1本の光ファイバーの一端部を光ファイバー付きPC鋼撚り線の一端部側に配置する。そして、光ファイバー付きPC鋼撚り線が有する光ファイバーの他端部を光ファイバー付きPC鋼撚り線の他端部側から引き出してBOTDR測定装置(図示略)やFBG測定装置(図示略)、BOCDR測定装置(図示略)、ROTDR測定装置(図示略)に接続する。そして、測定に供することができる。
上述のようにして光ファイバー付きPC鋼撚り線の光ファイバーに測定方式に対応した測定装置を接続した後、任意のタイミングで温度測定を実施することができる。
なお、温度測定工程における温度の測定方式として、主にBOCDA等のブリルアン散乱光を用いた測定方式、もしくはラマン散乱光を用いた測定方式であるROTDRを例示したが、ブリルアン散乱光、ラマン散乱光のみに限定されない。例えばレイリー散乱光等の他の散乱光を用いて温度や、温度の分布を測定することもできる。
なお、散乱光は、PC鋼撚り線のひずみに対応して光ファイバーに生じたひずみだけではなく、光ファイバー周辺の温度の影響も受ける場合があるため、ひずみ測定工程と、温度測定工程とでは、異なる種類の散乱光を使用することが好ましい。これは、ひずみ測定工程と、温度測定工程とで異なる散乱光を用いることで、ひずみ、及び温度をそれぞれ精度よく測定することができるからである。
例えば、ひずみ測定工程では、光ファイバーを用いてブリルアン散乱光によりひずみの測定を行い、温度測定工程では、光ファイバーを用いてラマン散乱光により温度の測定を行うことが好ましい。このように、ひずみ測定工程と、温度測定工程とで異なる散乱光を用いることで、ひずみ、及び温度をそれぞれ精度よく測定することができる。また、本発明の発明者らの検討によれば、ひずみの測定にブリルアン散乱光を用い、温度の測定にラマン散乱光を用いることで特に精度よく測定できるからである。
ひずみ測定工程と、温度測定工程とを行う際に用いる光ファイバー付きPC鋼撚り線は、光ファイバーを備えたPC鋼撚り線であれば足りるが、光ファイバー付きPC鋼撚り線は、複数の光ファイバーを有することが好ましい。そして、係る光ファイバーとして、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーと、を含むことが好ましい。これは、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを有する光ファイバー付きPC鋼撚り線を用いることで、ひずみと、温度とを同時に測定することもでき、測定精度を高め、測定に要する時間を短くすることができるからである。
ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを有する光ファイバー付きPC鋼撚り線としては、例えば既述の光ファイバー付きPC鋼撚り線を用いることができ、ひずみと、温度との測定方式等により、各光ファイバーを所定の本数有することができる。
ひずみ測定用光ファイバー、温度測定用光ファイバーは、ひずみ、温度について、測定に用いる散乱光に適した光ファイバーを用いることができ特に限定されるものではない。
例えばひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、それぞれシングルモード光ファイバー、マルチモード光ファイバー、及び偏波保持光ファイバーから選択された1種類以上の光ファイバーを用いることが好ましい。特に、ひずみ測定用光ファイバー、及び温度測定用光ファイバーは、それぞれひずみ測定工程と、温度測定工程とで用いる散乱光に適した光ファイバーを選択することが好ましい。
例えば、ブリルアン散乱光や、レイリー散乱光を用いる場合には、シングルモード光ファイバーを、ラマン散乱光を用いる場合には、マルチモード光ファイバーをそれぞれ好ましく用いることができる。これは、ブリルアン散乱光や、レイリー散乱光により測定を行う際、シングルモード光ファイバーを用いると特にシャープなピークが得られるからである。また、ラマン散乱光により測定を行う際、マルチモード光ファイバーを用いると特に高いピーク強度が得られるからである。
そこで、本実施形態のひずみ測定方法で用いる光ファイバー付きPC鋼撚り線は、上述のように複数の光ファイバーを有し、該光ファイバーとして、ひずみ測定工程で用いるひずみ測定用光ファイバーと、温度測定工程で用いる温度測定用光ファイバーとを含むことができる。そして、例えばひずみ測定工程では、ブリルアン散乱光や、レイリー散乱光を、温度測定工程ではラマン散乱光を好ましく用いることができる。このため、ひずみ測定用光ファイバーをシングルモード光ファイバーとし、温度測定用光ファイバーをマルチモード光ファイバーとすることが好ましい。
このように、各測定工程で、用いる散乱光に応じて適した種類の光ファイバーを用いることで、特に測定精度を高めることができる。
(補正工程)
補正工程では、ひずみ測定工程で測定したひずみを、温度測定工程で測定した温度を用いて補正する。
補正工程では例えば以下の式(1)により補正後のひずみを算出できる。
(補正後のひずみ(%)) = (ひずみ測定工程で測定したひずみ(%))−(温度測定工程で測定した温度(℃))×温度係数(%/℃)) ・・・(1)
なお、上記式(1)中の「温度測定工程で測定した温度」に代えて、基準となる温度からの温度変化を用いることもできる。
温度係数は、例えば測定に用いたものと同じ光ファイバー付きPC鋼撚り線を用いて、既知の温度と、既知のひずみ量との関係から予め算出しておくことができる。
以上に説明した本実施形態のひずみ測定方法によれば、従来は考慮されていなかった温度により、測定したひずみや、ひずみ分布を補正している。このため、精度良くひずみを測定することができる。
本実施形態のひずみ測定方法によれば、光ファイバー付きPC鋼撚り線を用い、ひずみ、及び温度の測定を行っているため、該光ファイバー付きPC鋼撚り線が埋設等され、外部からは測定が困難な場合でも、ひずみ及び温度を容易に測定することができる。また、例えば光ファイバー付きPC鋼撚り線以外の温度計を用いて温度を測定する場合等と比較して、ひずみの測定点と温度の測定点とが近接しているため、精度良く補正を行うことができ、ひずみを精度よく測定できる。
さらに、本実施形態のひずみ測定方法によれば、ひずみと、温度とを散乱光を用いて測定しており、同様の測定方法により測定しているため、現場での計測負担が少なく、容易に測定を行うことができる。
(3)ひずみ測定装置
本実施形態のひずみ測定装置の一構成例について説明する。本実施形態のひずみ測定装置は、既述のひずみ測定方法を用いる。このため、ひずみ測定方法で既述の内容は説明を一部省略する。
本実施形態のひずみ測定装置は、光ファイバー付きPC鋼撚り線と、該光ファイバー付きPC鋼撚り線に接続される散乱光測定装置とを有することができる。
散乱光測定装置の具体的な構成例について、図10、図11を用いて説明する。なお、光ファイバー付きPC鋼撚り線との接続形態を示すため、図10、図11内にはあわせて光ファイバー付きPC鋼撚り線も示している。
図10に示される散乱光測定装置100Aは、光ファイバーの両端からレーザ光を入出力するタイプの散乱光測定装置である。例えばBOCDAやBOTDAにより測定する際に用いることができる。
図11に示される散乱光測定装置100Bは、光ファイバーの片端からレーザ光を入出力するタイプの測定装置である。例えばBOTDRやFBG、BOCDR、ROTDRにより測定する際に用いることができる。
散乱光測定装置100A、100Bは、光信号を発信する光信号発信部1001と、光ファイバーからの光信号を受信する光信号受信部1002とを有する。また、散乱光測定装置100A、100Bは、光信号受信部1002で受信された光信号を解析し光ファイバーのひずみと、温度とから選択された1種類以上の情報を取得する解析部1003を有する。必要に応じて、散乱光測定装置100A、100Bは、解析部1003で取得された情報を表示する表示部1004を有することもできる。
光信号発信部1001と光信号受信部1002とは例えば一体の測定器として構成されてもよい。解析部1003は例えばコンピュータ等の演算装置であり、表示部1004は例えば演算装置による演算結果を画面表示するディスプレイモニタである。解析部1003と表示部1004とを一体で備えるパーソナルコンピュータ等を採用してもよい。
そして、散乱光測定装置100Aと接続する光ファイバー付きPC鋼撚り線101の光ファイバー1011、1012は、光ファイバーの一端部1011a、1012aを光ファイバー付きPC鋼撚り線の一端部側から引き出して該一端部同士を接続してある。また、光ファイバー付きPC鋼撚り線101が有する光ファイバー1011、1012の両他端部1011b、1012bを光ファイバー付きPC鋼撚り線101の他端部側から引き出して散乱光測定装置100Aに接続されている。
また、散乱光測定装置100Bと接続する光ファイバー付きPC鋼撚り線102の光ファイバー1021は、1本の光ファイバー1021の一端部1021aを光ファイバー付きPC鋼撚り線102の一端部側に配置する。そして、光ファイバー付きPC鋼撚り線102が有する光ファイバー1021の他端部1021bを光ファイバー付きPC鋼撚り線102の他端部側から引き出して散乱光測定装置100Bに接続する。
散乱光測定装置100A、100Bにおいて、光信号発信部1001、光信号受信部1002、及び光ファイバー1011、1012、1021は、光分岐器1005、カプラ1006等を介しながら適宜接続される。
なお、既述のように既述のひずみ測定方法では、ひずみ、及び温度を測定する。このため、本実施形態のひずみ測定装置は、散乱光を用いてひずみ、及び温度を測定する際に用いる測定方式に応じた散乱光測定装置を有することができ、例えば散乱光測定装置100A、及び散乱光測定装置100Bの両方を有することもできる。
既述のひずみ測定方法で用いる光ファイバー付きPC鋼撚り線は、ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを有することもできる。このため、本実施形態のひずみ測定装置は、例えばひずみ測定用光ファイバーに接続する散乱光測定装置と、温度測定用光ファイバーに接続する散乱光測定装置とを有することもできる。また、本実施形態のひずみ測定装置は、例えば1台の散乱光測定装置を有し、ひずみを測定する場合と、温度を測定する場合とで、散乱光測定装置内もしくは散乱光測定装置と接続する光ファイバー等の接続を変更するように構成することもできる。
また、既述のひずみ測定方法の補正工程では、ひずみ測定工程で測定したひずみを、温度測定工程で測定した温度により補正する。このため、係る補正のための演算を行う演算部103を有することもできる。本実施形態のひずみ測定装置が複数台の散乱光測定装置を有する場合には、複数の散乱光測定装置で1つの演算部103を共有することもできる。また、各散乱光測定装置に、演算部103を接続しておき、複数の演算部103間で補正に必要な情報を共有できるように構成することもできる。
以上に説明した本実施形態のひずみ測定装置によれば、従来は考慮されていなかった温度により、測定したひずみや、ひずみ分布を補正している。このため、精度良くひずみを測定することができる。
本実施形態のひずみ測定装置によれば、光ファイバー付きPC鋼撚り線を用い、ひずみ、及び温度の測定を行っているため、該光ファイバー付きPC鋼撚り線が埋設等され、外部からは測定が困難な場合でも、ひずみ及び温度を容易に測定することができる。また、例えば光ファイバー付きPC鋼撚り線以外の温度計を用いて温度を測定する場合等と比較して、ひずみの測定点と温度の測定点とが近接しているため、精度良く補正を行うことができる。
さらに、本実施形態のひずみ測定装置によれば、ひずみと、温度とを散乱光を用いて測定しており、同様の測定方法により測定しているため、現場での計測負担が少なく、容易に測定を行うことができる。
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
光ファイバー付きPC鋼撚り線をコンクリート構造体内に配置し、ひずみの測定を行った。実験例1が実施例、実験例2が比較例となる。
(実験例1)
ひずみ測定用光ファイバーと、温度測定用光ファイバーとを有する光ファイバー付きPC鋼撚り線を用いて、ひずみの測定を行った。
用いた光ファイバー付きPC鋼撚り線は、該光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面が、図9に示した構造を有しており、7本のPC鋼線111が撚り合わされたPC鋼撚り線11を有している。そして、PC鋼撚り線11の隣接する外周素線であるPC鋼線111の間に形成された凹部領域22Aにひずみ測定用光ファイバー311が、凹部領域22Bに温度測定用光ファイバー312が、それぞれ配置されている。なお、図9に示すように、光ファイバー付きPC鋼撚り線の長手方向と垂直な断面において、PC鋼撚り線の外周に沿って、凹部領域22Aと、凹部領域22Bとは隣接した凹部領域となる。
また、ひずみ測定用光ファイバー311及び温度測定用光ファイバー312はそれぞれ、隣接する2本のPC鋼線111の表面と、係る隣接する2本のPC鋼線111の共通接線Lと、で囲まれた領域内に配置されている。
なお、ひずみ測定用光ファイバー311、及び温度測定用の光ファイバーとしてはシングルモード光ファイバーをそれぞれ用いている。
そして、PC鋼撚り線11の周囲には防食被覆61が配置されており、防食被覆61内に、ひずみ測定用光ファイバー311及び温度測定用光ファイバー312は埋没されている。
また、防食被覆61の周囲には外側被覆62が配置されている。
係る光ファイバー付きPC鋼撚り線を橋脚の柱頭部の幅方向に配置し、該柱頭部に幅方向に沿って圧縮力を加えた。
具体的な構成を図12を用いて説明する。図12は、橋脚の柱頭部120の断面図を模式的に表している。
図12に示すように橋脚の柱頭部120の幅方向、すなわち図中の左右方向に沿って、コンクリート内に、上に凸の形状となるように、既述の光ファイバー付きPC鋼撚り線122を、図示しないシースを介して埋設した。そして、光ファイバー付きPC鋼撚り線122の一端部側を支圧板121Aにおいてジャッキ122Aにより、他端部側を支圧板121Bにおいてジャッキ122Bにより絞め、緊張力を導入した。これにより橋脚の柱頭部120には左右方向の端部側から中央部側に押圧する圧縮力が加えられる。
また、同様に光ファイバーを有していない点以外は光ファイバー付きPC鋼撚り線122と同じ構成を有するPC鋼撚り線123も設置した。なお、上述の光ファイバー付きPC鋼撚り線122と、PC鋼撚り線123とには同様に緊張力が加えられている。
なお、図12中、幅方向に沿って示した位置X1〜位置X4は、図12に示した橋脚の柱頭部の座標を示している。そして、位置X1と位置X2との間、位置X3と位置X4との間は光ファイバー付きPC鋼撚り線122がコンクリートに埋設されずに空気中に露出している部分、すなわち気中部となっている。
また、位置X2と位置X4との間は、光ファイバー付きPC鋼撚り線122が、シースを通してコンクリート構造体内に位置するコンクリート部となっている。
光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置した直後と、設置後半年経った時点とで、光ファイバーつきPC鋼撚り線に生じたひずみを測定した。そして、測定したひずみの変化から光ファイバー付きPC鋼撚り線に加えられた緊張力の変化量分布を算出した。
ひずみの測定は以下の手順により行った。
光ファイバー付きPC鋼撚り線122内に配置した、ひずみ測定用光ファイバーに、図11に示すようにして散乱光測定装置100B及び演算部103を接続し、ブリルアン散乱光を用いてBOTDRによりひずみ分布を測定した(ひずみ測定工程)。
光ファイバー付きPC鋼撚り線122内に配置した、温度測定用光ファイバーに、図11に示すようにして散乱光測定装置100B及び演算部103を接続し、ラマン散乱光を用いてROTDRにより温度分布を測定した(温度測定工程)。
そして、演算部103において、ひずみ測定工程で測定したひずみ分布を、温度測定工程で測定した温度分布を以下の式(1)を用いて補正した(補正工程)。
(補正後のひずみ(%)) = (ひずみ測定工程で測定したひずみ(%))−(温度測定工程で測定した温度(℃))×温度係数(%/℃)) ・・・(1)
なお、温度係数は、用いた光ファイバー付きPC鋼撚り線について、予め既知のひずみ量と、既知の温度との間の相関を測定し、算出しておいたものを用いた。
光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置直後、及び設置後半年経過した時点とで、上述のように、補正したひずみ分布をそれぞれ算出した。そして、補正後のひずみ分布を用いて光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置直後、及び設置後半年経過した時点の緊張力分布を算出した。
光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置直後、及び設置後半年経過した時点の緊張力分布の差を求めた。結果を図13に線分131として示す。図13中に横軸で示した位置は、図12に示した各座標の位置に対応する。なお、図13中、コンクリート部は、光ファイバー付きPC鋼撚り線122が、コンクリート内にシースを介して埋設された部分を意味する。また、気中部は光ファイバー付きPC鋼撚り線122がコンクリート内に埋設されずに空気中に露出している部分を意味する。
図13に示すように、半年間での緊張力変化量はほぼ0であり橋脚の柱頭部120内でほぼ一定になっていることが確認できた。
なお、図示しない緊張力センサーを用い、光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置直後、及び設置後半年経過した時点の気中部における緊張力分布をそれぞれ測定し、緊張力分布の差を算出したところ、上記結果とほぼ一致しており、気中部において、その差は最大で0.6%であった。具体的な緊張力の差の最大値は1.6kNとなる。緊張力センサーとしては磁気歪センサーを用いた。
[実験例2]
温度測定用光ファイバー312を有していない点以外は、実験例1と同じ光ファイバー付きPC鋼撚り線を用い、実験例1と同様に橋脚の柱頭部に配置し緊張力を加えた。
そして、光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置直後、及び設置後半年経過した時点とで、ひずみ分布をそれぞれ測定した。
なお、ひずみ分布の測定は、光ファイバー付きPC鋼撚り線122内に配置した、光ファイバーに、図11に示すようにして散乱光測定装置100Bを接続し、ブリルアン散乱光を用いてBOTDRにより行った(ひずみ測定工程)。
そして、測定したひずみ分布を用いて光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置直後、及び設置後半年経過した時点の緊張力分布を算出した。
光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置直後、及び設置後半年経過した時点の緊張力分布の差を求めた。結果を図13に示す。結果を図13に線分132として示す。
図13に示すように、半年間での緊張力変化量は橋脚の柱頭部の幅方向の位置によりばらついており、気中部である位置X1と位置X2との間、及び位置X3と位置X4との間と、コンクリート部である位置X2と位置X3との間では大きく異なっていた。
半年間での緊張力変化割合は最大で6.5%であり、具体的な緊張力変化量は最大で10.5kNとなることが確認できた。
実験例1の結果と大幅に異なることも確認できた。
これは、コンクリート部は、硬化後もしばらくは熱を有するため、光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置直後と、設置後半年経過した時点とではコンクリート部の温度に大きな差があり、その結果、ひずみにも影響が出たためと考えられる。
なお、実験例1の場合においても、光ファイバー付きPC鋼撚り線を設置直後と、設置後半年経過した時点とではコンクリート部の温度に大きな差があった。しかしながら、実験例1では測定した温度分布による補正を行っているため、精度良くひずみ分布を算出でき、これに基いて緊張力も正確に評価できたためと考えられる。
既述の緊張力センサーを用いて測定した緊張力分布の差と、実験例2で算出した緊張力分布の差とを比較したところ、気中部において、その差は最大で0.6%であった。具体的な緊張力の差の最大値は1.6kNとなる。