JP2019066841A - ポリエステルフィルムとその用途 - Google Patents

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明紀 恵島
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亮平 木村
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Yohei Yamaguchi
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Abstract

【課題】フィルムのスリット端面の髭状欠点の存在個数を減らすことにより、偏光子保護フィルムとして好適に用いられるポリエステルフィルムを提供すること。【解決手段】フィルム製造時の機械流れ方向に沿ってスリットされたフィルムの端面に、5μm以上突出する髭状物の存在本数が、フィルム長さ100μmあたり1本以内であるポリエステルフィルム。面内リタデーションが3000nm以上30000以下である前記の偏光子保護フィルム用ポリエステルフィルム。また、その用途である偏光版及び液晶表示装置。【選択図】なし

Description

本発明は、フィルム製造時の機械流れ方向に沿ってスリットされ、そのスリット端面に髭状の欠点の少ないポリエステルフィルムに関し、更に詳しくは、スリット端面に前記髭上欠点の少ない偏光子保護フィルム用ポリエステルフィルム、それを用いた偏光板および液晶表示装置に関する。
液晶表示装置(LCD)に使用される偏光板は、通常ポリビニルアルコール(PVA)などにヨウ素を染着させた偏光子を2枚の偏光子保護フィルムで挟んだ構成となっていて、偏光子保護フィルムとしては通常トリアセチルセルロース(TAC)フィルムが用いられている。近年、LCDの薄型化、コストダウンに伴い、偏光板の薄層化が求められるようになっている。しかし、このために偏光子保護フィルムとして用いられているTACフィルムの厚さを薄くすると、充分な機械強度を得ることができず、また透湿性が悪化するという問題が発生する。また、TACフィルムは非常に高価であり、安価な代替素材が強く求められている。
ポリエステルフィルムは、TACフィルムに比べて耐久性に優れるが、TACフィルムと異なり複屈折性を有するため、これを偏光子保護フィルムとして用いた場合、光学的歪みにより画質が低下するという問題があった。すなわち、複屈折性を有するポリエステルフィルムは所定の光学異方性(リタデーション)を有することから、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察すると、虹状の色斑が生じ、画質が低下する。
そのため、特許文献1では、ポリエステルフィルムの面内リタデーションを特定の範囲に制御することで色斑への対策がなされている。
また延伸方向に分子が配向しているTACフィルムやポリエステルフィルムなどの製造において、幅方向の両端部は、膜厚が不均一であり、製造後に切断装置(スリッター)により切り落とされる(スリット工程)。しかし、フィルムを構成している分子鎖が配向していることが災いし、フィルムのスリット端部に、髭状物や毛羽立ちなどが現れ、異物の増加や切断時のフィルム破断などの問題があった。そのため、特許文献2では、切断手法により、上記問題を解決する方法が提案されている。
一方、ポリエステルフィルムを製造する際には、屑フィルムが生じる。製品から切断除去したフィルム端部等の屑フィルムについて、再利用またはリサイクルする方法が試みられてきた。しかしながら、易接着樹脂や帯電防止樹脂などの塗布層を有するフィルムは、リサイクルして再生ポリエステル原料を主成分に用いる場合、含まれる塗布層の成分が熱劣化し、得られたフィルムが著しく着色したり、濁りが生じてしまうという問題があった。そのため、特許文献3では、自己回収原料を含み、透明で着色の少ないポリエステルフィルが得られる方法などが提案されている。
しかしながら、特許文献2においては、ポリエステルフィルムでの知見はなく適用できるかどうかは疑わしい。さらに特許文献3においては、光学用途への適用を考えた場合、自己回収原料添加による内部異物発生のハードルが高く、近年複雑化(多様化)する塗布層の組成において、架橋した成分のなどが混入が回収を妨げ、内部異物の要因となるという欠点を有していた。また、自己回収原料のとなるポリエステルフィルムの塗布層をいずれかの手法により除去したのち、基材ポリエステルフィルムのみとし、これから、溶融押出、ペレタイズして再生原料を得るという煩雑な別工程が必要であった。
国際公開第2011/162198号 特開2017−109262号公報 特開2013−039764号公報
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、上述した欠点を解消せしめることであり、特にフィルムのスリット端面の髭上欠点の存在個数を減らすことにより、偏光子保護フィルムとして好適に用いられるポリエステルフィルムを提供することにある。
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の構成によりなる。
1. フィルム製造時の機械流れ方向に沿ってスリットされたフィルムの端面に、5μm以上突出する髭状物の存在本数が、フィルム長さ100μmあたり1本以内であるポリエステルフィルム。
2. 固有粘度が0.55dl/g以上0.65dl/g以下である上記第1に記載のポリエステルフィルム。
3. ヘイズ値が2.0%以下であり、かつb値が−0.5以上3.0以下である上記第1または第2に記載のポリエステルフィルム。
4. 厚さが15μm以上300μm以下である上記第1〜第3のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
5. ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの一部に、ポリエステルフィルムを製造する工程で生じた自己回収ポリマーを含む上記第1〜第4のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
上記第6. 少なくとも片面上に塗布層を有する上記第1〜第5のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
7, ポリエステルで構成される中間層の両面上にポリエステルで構成される表面層を少なくとも有する3層以上の積層構造を有し、中間層にポリエステルフィルムを製造する工程で生じた自己回収ポリマーを含む上記第1〜第6のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
8. ポリエステルで構成される中間層の両面上にポリエステルで構成される表面層を少なくとも有する3層以上の積層構造を有し、中間層を構成するポリエステルの固有粘度が、両表面層を構成するポリエステルの固有粘度よりも小さい上記第1〜第7のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
9. 面内リタデーションが3000nm以上30000以下である上記第1〜第8のいずれかに記載の偏光子保護フィルム用ポリエステルフィルム。
10. 偏光子の少なくとも一方の面に、上記第9に記載の偏光子保護フィルム用ポリエステルフィルムが積層された偏光板。
11. バックライト、液晶セル、および液晶セルの両側に配置された偏光板を有する液晶表示装置であって、少なくとも片側の偏光板が、上記第10に記載の偏光板である液晶表示装置。
本発明により、スリット端面の髭状物の少ないポリエステルフィルムロールを提供でき、欠点となる因子を減らすことができたことで、光学用途、特に偏光子保護フィルムへの適用がより可能となる。
以下、本発明を詳述する。
(ポリエステルフィルム)
本発明でいうポリエステルフィルムとは、ポリエステル樹脂より構成されるフィルムであり、主に、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートから選ばれる少なくとも1種を構成成分とするポリエステルフィルムが好ましい。また、前記のようなポリエステルに第三成分モノマーが共重合された、共重合ポリエステルからなるフィルムであってもよい。これらのポリエステルフィルムの中でも、物性とコストのバランスからポリエチレンテレフタレートフィルムが最も好ましい。
また、前記のポリエステルフィルムは、単層であっても複層であっても構わない。また、本発明の効果を奏する範囲内であれば、これらの各層には、必要に応じて、ポリエステル樹脂中に各種添加剤を含有させることができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐光剤、ゲル化防止剤、有機湿潤剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤などがあげられる。
(塗布層)
本発明のポリエステルフィルムは、上記のようなポリエステル製の基材フィルム上に易接着性の塗布層が積層されていることが好ましい。塗布層中には、通常、バインダー樹脂、滑剤粒子、架橋剤、界面活性剤などが含まれている。
前記の塗布層中の滑剤粒子としては、(1)シリカ、カオリナイト、タルク、軽質炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、ゼオライト、アルミナ、硫酸バリウム、カーボンブラック、酸化亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、二酸化チタン、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、水酸化アルミニウム、加水ハロイサイト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、等の無機粒子、(2)アクリルあるいはメタアクリル系、塩化ビニル系、酢酸ビニル系、ナイロン、スチレン/アクリル系、スチレン/ブタジエン系、ポリスチレン/アクリル系、ポリスチレン/イソプレン系、メチルメタアクリレート/ブチルメタアクリレート系、メラミン系、ポリカーボネート系、尿素系、エポキシ系、ウレタン系、フェノール系、ジアリルフタレート系、ポリエステル系等の有機粒子が挙げられるが、塗布層に適度な滑り性を与えるためには、シリカが特に好ましく使用される。
滑剤粒子の平均粒径は200nm以上であることが好ましく、より好ましくは、250nm以上であり、さらに好ましくは300nm以上であり、特に好ましくは、350nm以上である。滑剤粒子の平均粒径は200nm以上であると、凝集しにくく、滑り性が確保できて好ましい。
滑剤粒子の平均粒径は、2000nm以下であることが好ましく、より好ましくは1500nmであり、さらに好ましくは1000nmであり、特に好ましくは700nmである。滑剤粒子の平均粒径が2000nm以下であると、透明性が保たれ、また、粒子が脱落することがなく好ましい。
滑剤粒子は表面処理を行っても良く、表面処理法としてはプラズマ放電処理やコロナ放電処理のような物理的表面処理とカップリング剤を使用する化学的表面処理があるが、カップリング剤の使用が好ましい。カップリング剤としては、オルガノアルコキシメタル化合物(例、チタンカップリング剤、シランカップリング剤)が好ましく用いられる。無機超微粒子フィラーである滑剤粒子がシリカの場合はシランカップリング剤処理が特に有効である。塗布液調製以前にあらかじめ表面処理を施しても良いし、塗布液調製時の添加剤として添加して、塗布層に含有させてもよい。
塗布層を構成するバインダー樹脂としては、易接着性をもたらす樹脂であれば特に限定されないが、ポリマーの具体例としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル系樹脂(ポリビニルアルコール等)、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、メチルセルロース、ヒドロキシセルロース、でんぷん類等が挙げられる。これらの中でも、粒子の保持、密着性の観点から、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂を使用することが好ましい。また、ポリエステルフィルムとの馴染みを考慮した場合、ポリエステル樹脂が最適である。これら前記のバインダー樹脂を併用しても良い。
前記ポリエステル樹脂は塗布層中に、全固形成分中、100質量%であってもよいが、10質量%以上90質量%以下含有することが好ましい。より好ましくは、20質量%以上80質量%以下である。ポリエステル樹脂の含有量が90%以下の場合には、高温高湿下のハードコート層等との密着性が保持されて好ましい。逆に、含有量が10質量%以上であると、他のウレタン樹脂等の存在によって、常温、高温高湿下のポリエステルフィルムとの密着性が保持されて好ましい。
本発明において、塗布層中に架橋構造を形成させるために、塗布層は架橋剤が含まれて形成されていてもよい。架橋剤を含有させることにより、高温高湿下での密着性をさらに向上させることが可能となる。具体的な架橋剤としては、尿素系、エポキシ系、イソシアネート系、オキサゾリン系、カルボジイミド系等が挙げられる。これらの中で、塗布液の経時安定性、高温高湿処理下の密着性向上効果からメラミン系、イソシアネート系、オキサゾリン系、カルボジイミド系の架橋剤が好ましい。また、架橋反応を促進させるため、触媒等を必要に応じて適宜使用することができる。
架橋剤の塗布層中への含有量としては、全固形成分中、5質量%以上50質量%以下が好ましい。より好ましくは、10質量%以上40質量%以下である。5質量%以上の場合には、塗布層の樹脂の強度が保たれ、高温高湿下での密着性が低下するおそれがなく好ましい。一方、50質量%以上の場合には、塗布層の樹脂の柔軟性が保たれ、常温、高温高湿下での密着性が保持されて好ましい。
塗布層中の滑剤粒子の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1質量%以上である。塗布層中の滑剤粒子含有量は、0.1質量%以上であると、適度な滑り性が保たれて好ましい。
塗布層中の滑剤粒子の含有量は、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下であり、さらに好ましくは10質量%以下である。塗布層中の滑剤粒子含有量は、20質量%以下であると、ヘイズが低く保たれて透明性の点で好ましい。
塗布層の膜厚は0.001μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上であり、さらに好ましくは0.02μm以上であり、特に好ましくは、0.05μm以上である。塗布層の膜厚が0.001μm以上であると、接着性が良好であり好ましい。
塗布層の膜厚は2μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以下であり、特に好ましくは、0.5μm以下である。塗布層の膜厚が2μm以下であると、ブロッキングが生じるおそれがなく好ましい。
塗布層には、塗布時のレベリング性の向上、塗布液の脱泡を目的に界面活性剤を含有させることもできる。界面活性剤は、カチオン系、アニオン系、ノニオン系などいずれのものでも構わないが、シリコーン系、アセチレングリコール系またはフッ素系界面活性剤が好ましい。これらの界面活性剤は、蛍光灯下で虹彩状色彩の抑制効果や密着性を損なわない程度の範囲で塗布層に含有させることが好ましい。
塗布層に他の機能性を付与するために、蛍光灯下での虹彩状色彩の抑制効果や密着性を損なわない程度の範囲で、各種添加剤を含有させても構わない。前記添加剤としては、例えば、蛍光染料、蛍光増白剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料分散剤、抑泡剤、消泡剤、防腐剤等が挙げられる。
塗工方法としては、ポリエステルフィルム製膜時に同時に塗工する所謂インラインコーティング法、およびポリエステルフィルムを製膜後、別途コーターで塗布する所謂オフラインコーティング法のいずれも適用できるが、インラインコーティング法が効率的でより好ましい。
塗布液をポリエステルフィルムに塗布するための方法としては、公知の任意の方法を用いることができる。例えば、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ダイコーター法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーコート法、パイプドクター法、含浸コート法、カーテンコート法、などが挙げられる。これらの方法を単独で、あるいは組み合わせて塗工する。
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を設ける方法としては、溶媒、粒子、樹脂を含有する塗布液をポリエステルフィルムに塗布、乾燥する方法が挙げられる。溶媒として、トルエン等の有機溶剤、水、あるいは水と水溶性の有機溶剤の混合系が挙げられるが、好ましくは、、環境問題の観点から、水単独あるいは水に水溶性の有機溶剤を混合したものが好ましい。
塗工液の固形分濃度はバインダー樹脂の種類や溶媒の種類などにもよるが、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上であることがより好ましい。塗工液の固形分濃度は35質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下である。
塗布後の乾燥温度についても、バインダー樹脂の種類、溶媒の種類、架橋剤の有無、固形分濃度などにもよるが、80℃以上であることが好ましく、250℃以下であることが好ましい。
塗布層の表面粗さ(Ra)は、塗布層表面のすべり性等と関係があり、0.01nm以上であることが好ましく、より好ましくは、0.1nm以上であり、さらに好ましくは0.2nm以上であり、特に好ましくは、0.5nm以上である。一方、塗布層の表面粗さ(Ra)の上限については、200nm以下であることが好ましく、より好ましくは100nm以下であり、さらに好ましくは80nm以下であり、特に好ましくは50nm以下である。
(ポリエステルフィルムの製造)
本発明のポリエステルフィルムは、一般的なポリエステルフィルムの製造方法に従って製造することができる。例えば、ポリエステル樹脂を溶融し、シート状に押し出し成型された無配向ポリエステルシート又はフィルムを、必要に応じて、ガラス転移温度以上の温度において、ロールの速度差を利用して縦方向に延伸した後、又は前記の縦延伸をすることなく、テンターにより、ガラス転移温度以上の温度において、横方向に延伸し、熱処理を施す方法が挙げられる。
本発明のポリエステルフィルムは、広範にわたり適用可能と考えるが、光学フィルム、特に偏光子保護フィルム用途に好適に適用される。
偏光子保護用ポリエステルフィルムについては、一軸延伸フィルムであっても、二軸延伸フィルムであっても構わないが、二軸延伸フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合、フィルムの面内リタデーションによっては、フィルム面の真上から観察しても虹状の色斑が見られないが、斜め方向から観察した時に虹状の色斑が観察される場合があるので注意が必要である。
この現象は、二軸延伸フィルムが、走行方向、幅方向、厚さ方向で異なる屈折率を有する屈折率楕円体からなり、フィルム内部での光の透過方向によりリタデーションがゼロになる(屈折率楕円体が真円に見える)方向が存在するためである。従って、液晶表示画面を斜め方向の特定の方向から観察すると、リタデーションがゼロになる点を生じる場合があり、その点を中心として虹状の色斑が同心円状に生じることとなる。そして、フィルム面の真上(法線方向)から虹状の色斑が見える位置までの角度をθとすると、この角度θは、フィルム面内の複屈折が大きいほど大きくなり、虹状の色斑は見え難くなる。二軸延伸フィルムでは角度θが小さくなる傾向があるため、一軸延伸フィルムの方が虹状の色斑は見えにくくなり好ましい。
しかしながら、完全な1軸性(1軸対称)フィルムでは、配向方向と直行する方向の機械的強度が著しく低下する場合もあるので、本発明は、実質的に虹状の色斑を生じない範囲、または液晶表示画面に求められる視野角範囲において虹状の色斑を生じない範囲で、2軸性(2軸対称性)を有していることも好ましい。
偏光子保護フィルム用途に用いられるポリエステルフィルムは、3000〜30000nmの面内リタデーションを有することが好ましい。面内リタデーションが3000nm以上であれば、偏光子保護フィルムとして用いた場合、斜め方向から観察した時に強い干渉色を呈することがなく、良好な視認性を確保できて好ましい。好ましい面内リタデーションの下限値は4500nm、より好ましい下限値は5000nm、更に好ましい下限値は6000nm、特に好ましい下限値は8000nm、最も好ましい下限値は10000nmである。
一方、面内リタデーションの好ましい上限は30000nmである。30000nmを超える面内リタデーションを有するポリエステルフィルムを用いたとしても更なる視認性の改善効果は実質的ほぼ飽和状態となる。また、30000nm以下のフィルムであれば、フィルムの厚みも厚くなりすぎず、工業材料としての取扱い性が良好で好ましい。
なお、本発明における面内リタデーションは、2軸方向の屈折率と厚みを測定して求めることもできるし、KOBRA−21ADH(王子計測機器株式会社)といった市販の自動複屈折測定装置を用いて求めることもできる。なお、屈折率の測定波長は589nmである。
本発明のポリエステルフィルムの製膜条件を具体的に説明すると、縦延伸温度、横延伸温度は80〜130℃が好ましく、特に好ましくは90℃〜120℃である。縦延伸倍率は、1.0〜3.5倍が好ましく、特に好ましくは1.0倍〜3.0倍である。また、横延伸倍率は、2.5〜6.0倍が好ましく、特に好ましくは、3.0〜5.5倍である。面内リタデーションを制御するためには、縦延伸倍率と横延伸倍率との比率を制御することが好ましい。縦横の延伸倍率の差を大きくするとリタデーションを高くすることできて好ましい。また、延伸温度を低く設定することもリタデーションを高くする上では好ましい対応である。続く熱処理においては、処理温度は100〜250℃が好ましく、特に好ましくは180〜245℃である。
リタデーションの変動を抑制するためには、フィルムの厚み斑が小さいことが好ましい。延伸温度、延伸倍率はフィルム厚み斑に影響を与えることから、厚み斑の観点からも製膜条件の最適化を行うことが好ましい。
本発明のフィルムの厚み斑は5.0%以下であることが好ましく、4.5%以下であることがさらに好ましく、4.0%以下であることがよりさらに好ましく、3.0%以下であることが特に好ましい。
前述のように、フィルムの面内リタデーションを特定範囲に制御するためには、延伸倍率や延伸温度、フィルムの厚みを適宜設定することにより行うことができる。例えば、延伸倍率の縦横方向間での差が大きいほど、延伸温度が低いほど、フィルムの厚みが厚いほど高い面内リタデーションを得やすくなる。逆に、延伸倍率の縦横方向間での差が小さいほど、延伸温度が高いほど、フィルムの厚みが薄いほど低いリタデーションを得やすくなる。但し、フィルムの厚みを厚くすると、厚さ方向位相差が大きくなりやすい。そのため、フィルム厚みは後述の範囲に適宜設定することが望ましい。また、面内リタデーションの制御に加えて、加工に必要な物性等を勘案して最終的な製膜条件を設定することが好ましい。
本発明のポリエステルフィルムの厚さは任意であるが、15〜300μmの範囲が好ましく、より好ましくは20〜200μmの範囲であり、さらに好ましくは30〜150μmの範囲である。15μmを下回る厚さのフィルムであっても、原理的には3000nm以上のリタデーションを得ることは可能である。しかし、その場合にはフィルムの力学特性の異方性が顕著となり、裂け、破れ等を生じやすくなり、工業材料としての実用性が低下し易くあまり好ましくない。特に好ましい厚さの下限は35μmである。一方、偏光子保護フィルムの厚さの上限は、300μm以下であると偏光板の厚さが厚くなりすぎることがなく好ましい。偏光子保護フィルムとしての実用性の観点からは、厚さの上限は200μmが好ましい。特に好ましい厚さの上限は、一般的なTACフィルムと同等程度の100μmである。上記厚さ範囲内においても面内リタデーションを本発明の範囲内に制御するために、フィルムを構成するポリエステルはポリエチレンテレフタレートが好適である。
本発明におけるポリエステルフィルムは、ヨウ素色素などの光学機能性色素の劣化を抑制することを目的として、波長380nmの光線透過率が20%以下であることが望ましい。380nmの光線透過率は15%以下がより好ましく、10%以下であることがさらに好ましく、5%以下であることが特に好ましい。前記光線透過率が20%以下であれば、光学機能性色素の紫外線による変質を抑制することができる。なお、本発明における透過率は、フィルムの平面に対して垂直方向に測定したものであり、分光光度計を用いて測定することができる。
本発明のポリエステルフィルムの波長380nmの透過率を20%以下にするためには、ポリエステルフィルムに含有させる紫外線吸収剤の種類、濃度、およびフィルムの厚みを適宜調整することが望ましい。本発明で使用される紫外線吸収剤は公知の物質である。紫外線吸収剤としては、有機系紫外線吸収剤と無機系紫外線吸収剤が挙げられるが、透明性の観点から有機系紫外線吸収剤が好ましい。有機系紫外線吸収剤としては、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、環状イミノエステル系等、およびその組み合わせが挙げられるが、特に限定されない。しかし、耐久性の観点からはベンゾトリアゾール系、環状イミノエステル系が特に好ましい。2種以上の紫外線吸収剤を併用した場合には、別々の波長の紫外線を同時に吸収させることができるので、より紫外線吸収効果を改善することができる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリ
ル系紫外線吸収剤としては例えば2−[2'−ヒドロキシ−5' −(メタクリロイルオキ
シメチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2' −ヒドロキシ−5' −(
メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2' −ヒ
ドロキシ−5' −(メタクリロイルオキシプロピル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾ
ール、2,2'−ジヒドロキシ−4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、2,2',4,4'
−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロ
ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2−(2'−ヒドロキシ−3'−tert−
ブチル−5'−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(5−クロロ(
2H)−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(tert−ブチル)フェ
ノール、2,2'−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−
(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノールなどが挙げられる。環状イミノエス
テル系紫外線吸収剤としては例えば2,2’−(1,4−フェニレン)ビス(4H−3,
1−ベンズオキサジノン−4−オン)、2−メチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オ
ン、2−ブチル−3,1−ベンゾオキサジン−4−オン、2−フェニル−3,1−ベンゾ
オキサジン−4−オンなどが挙げられる。しかし特にこれらに限定されるものではない。
また、本発明におけるポリエステルフィルムに紫外線吸収剤を配合する方法としては、公知の方法を組み合わせて採用し得るが、例えば、予め混練押出機を用い、乾燥させた紫外線吸収剤とポリマー原料とをブレンドしマスターバッチを作製しておき、フィルム製膜時に所定の該マスターバッチとポリマー原料を混合する方法などによって配合することができる。
この時マスターバッチの紫外線吸収剤濃度は、紫外線吸収剤を均一に分散させ、かつ経済的に配合するためには、5〜30質量%の濃度にするのが好ましい。マスターバッチを作製する条件としては、混練押出機をもちい、押出し温度はポリエステル原料の融点以上、290℃以下の温度で1〜15分間で押し出すのが好ましい。290℃以上では紫外線吸収剤の減量が大きく、また、マスターバッチの粘度低下が大きくなる。押し出し温度1分以下では紫外線吸収剤の均一な混合が困難となる。この時、必要に応じて安定剤、色調調整剤、帯電防止剤を添加しても良い。
また、本発明ではポリエステルフィルムを少なくとも3層以上の多層構造とし、フィルムの中間層に紫外線吸収剤を添加することが好ましい。中間層に紫外線吸収剤を含む3層以上の構造のポリエステルフィルムは、具体的には次のように作製することができる。両表面用としてポリエステルのペレット単独、中間層用として紫外線吸収剤を含有したマスターバッチとポリエステルのペレットを所定の割合で混合し、乾燥したのち、公知の溶融積層押出機に供給し、スリット状のダイからシート状に押出し、キャスティングロール上で冷却固化せしめて未延伸フィルムを作る。すなわち、2台以上の押出機、3層以上のマニホールドまたは合流ブロック(例えば角型合流部を有する合流ブロック)を用いて、両表面層、中間層を構成するフィルム層を含ませて積層し、口金から3層以上のシートを押し出し、キャスティングロールで冷却して未延伸フィルムを作る。なお発明では、光学欠点の原因となる、原料のポリエステル中に含まれている異物を除去するため、溶融押し出しの際に高精度濾過を行うことが好ましい。溶融樹脂の高精度濾過に用いる濾材の濾過粒子サイズ(初期濾過効率95%)は、15μm以下が好ましい。濾材の濾過粒子サイズが15μm以下であると、20μm以上の異物の除去が十分であり好ましい。
本発明のポリエステルフィルムには、自己回収したポリマー原料が用いられることが好ましい。
ここで、自己回収原料の作製手法について述べる。製品から機械流れ方向にスリットされ切断除去したフィルム端部の屑フィルムを粉砕し、水分を除去するためにガラス転移温度〜160℃程度で乾燥させた。乾燥した粉砕フィルムを押出機にて溶融し、ダイからストランド状に吐出せしめて冷水で急冷固化させる。固化したストランドはストランドカッターにてペレット形状に切断した後、融着を防止するために表面を乾燥させて、自己回収ペレットを得る。
乾燥後の水分量は、10ppm以下にすることが好ましい。10ppm以下であると、ポリマーの加水分解が加速しづらく、固有粘度の低下を招くおそれがなく好ましい。
マスターロールのフィルム両端部は、膜厚が不均一であり、かつテンター内搬送時に掴まれるクリップ痕などの影響で、フィルム品位も悪く、通常切り落とされるが、この部分を回収して、自己回収原料としたもののうち、該切断部分に積層される塗布層によっては、この自己回収原料を用いて作製したポリエステルフィルム中に、異物の混入や着色さらには濁りを生じさせることが起こる場合があるので注意を要する。
本発明においては、スリットされ切り落とされるマスターロールの両端部分の塗布層については、上記記載した偏光子保護フィルム用に好適に使用される製品ポリエステルフィルムに必要な易接着性等の特性を有する塗布層を積層するための塗剤組成とは異なり、製品ポリエステルフィルムの原料ポリエステル中の一部として再投入しても、異物の混入、着色あるいは濁りを生じさせづらい別の塗剤組成として、製品ポリエステルフィルム上に積層された塗布層と重なることなく別途塗布し、かかるマスターロールの幅方向の両端に位置する別途に塗布液を塗布した部分までを切り落とし、自己回収原料として用いることが好ましい。
フィルム幅方向の両端に位置する別途塗布する塗布液としては、自己回収原料作製可能となるような組成であれば、特に限定されるものではない。但し、用いる組成の安定性や安全性を考慮すると、水を主媒体とした樹脂組成物の塗布液であることが好ましい。
該水系塗布液は、塗布液の安定性を助ける目的で、若干量の有機溶剤を含ませても良い。この有機溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、シクロヘキサノン、n−ヘキサン、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノールを例示することができる。有機溶剤は複数種含まれていても良い。
上述の水性塗布液には、本発明の効果を阻害しない範囲において公知の添加剤、例えば耐熱安定剤、耐酸化安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、有機の易滑剤、有機、無機の微粒子などを添加しても良い。
塗布の方法としては、公知の塗布方法であれば、いずれの方法を適用しても構わない。例えば、リバースコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、ロッドコート法、ダイコート法、ロールコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、など任意の方法を用いることができる。
本発明において、かかるフィルム幅方向両端の別途の塗布層は、ポリエステルフィルム両端の少なくとも片面に塗布するが、ポリエステルフィルムの結晶配向が完了する前に塗布され、その後、少なくとも1方向に延伸された後、ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる方法によって製造されるのが本発明の効果をより顕著に発現させることができるので、好ましい方法である。
塗布量としては、1mあたり2g以上15g以下、さらに好ましくは4g以上13g以下が好ましい。最終乾燥塗膜の厚さとしては、0.001μm以上であることが好ましく、より好ましくは0.01μm以上であり、さらに好ましくは0.02μm以上であり、特に好ましくは、0.05μm以上である。塗布層の膜厚が0.001μm以上であると、滑り性を十分に確保でき、フィルムロールへのすべりが良くなり、キズなどの欠点の少ないフィルムロールを得ることができる。
塗布層の膜厚は2μm以下であることが好ましく、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以下であり、特に好ましくは、0.5μm以下である。塗布層の膜厚が2μm以下であると、ブロッキングが生じる恐れがなく好ましい。
本発明においては、ポリエステル基材に水系塗布液を塗布した後、乾燥延伸処理を行うが、この乾燥は、バインダー樹脂の種類、溶媒の種類、架橋剤の有無、固形分濃度などにもよるが、80℃以上であることが好ましく、250℃以下であることが好ましい。
延伸処理については、上述したポリエステルフィルムの製膜方法に準じており、それに合わせた条件にすることが好ましい。
また、自己回収原料の作製手法については、上記以外にも、スリットロール端部の耳ロールや、製品規格外の格落ちロールなどから、塗布層を剥がす処理を行うことで、自己回収原料とすることができる。
塗布層を剥がす手法としては、剥がした後のフィルムへの異物混入などの問題を招かない手法であれば、特に限定されるものはないが、サンドブラスト処理などの化学的および物理的に塗布層のみを剥離し、樹脂層のみを残す手法があり、本発明においても、この手法を適用してもよい。
本発明における偏光子保護フィルム用ポリエステルフィルムは、自己回収原料を用いたとしても黄味−青味を示すb値がゼロ付近であることが好ましい。b値が3.0以下であると、フィルムが黄ばんで見えることがなく、偏光子保護フィルムに適用した際、画質の劣化や変色といった問題がなく好ましい。またb値が−0.5以上であると、フィルムが青く見えることがなく、暗い印象を与えないので好ましい。
フィルムのヘイズについても同様であり、2.0%以下であることが好ましく、2.0%以下であると、透明性が保たれ、液晶等の表示を招くおそれがなく好ましい。
本発明により得られたポリエステルフィルムの固有粘度については、0.55dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは、0.56dl/g以上であり、さらに好ましくは、0.57l/g以上である。固有粘度が0.55dl/g以上であると、フィルムの機械的強度が保たれ、製膜安定性、耐破断性上の問題が生じるおそれがなく好ましい。
本発明により得られたポリエステルフィルムの固有粘度については、0.65dl/g以下であることが好ましく、より好ましくは、0.64dl/g以下であり、さらに好ましくは、0.63dl/g以下である。固有粘度が0.65dl/g以下であると、フィルムが硬くなりすぎず、スリッターでフィルム幅方向の両端部分を切り落とす際に切断不良を起こしづらいため、切断品位および切断状態が良好であり好ましい。
ここで、作製したポリエステルフィルムの固有粘度は、ポリエステルフィルムを特定の溶媒に溶解し、溶液を粘度管にて評価することで、固有粘度(dl/l)を得ることができる。
本発明のポリエステルフィルムは、スリット端面から5μm以上突出する髭状物 (バリや毛羽状物のような切断乱れを含む)が、フィルム長さ100μmあたり1本以内であることが好ましい。
ポリエステルフィルムにおける、フィルム端面から5μm以上突出する髭状物(切断乱れ)の存在本数が、フィルム長さ100μmあたり1本以内であることは、機械流れ方向にスリッターでスリットされたフィルム端面を、電子顕微鏡や光学顕微鏡などで観察し、フィルム長さ100μmあたりにその端面から5μm以上の大きさで突出する髭状物(切断乱れ)を数えて、それが1本以下であることをいうものである。
この髭状物(切断乱れ)が5μmに満たない大きさで端面から突出している場合は、偏光子保護フィルムに適用される際の搬送や取扱い時に異物の取り込みや付着にさほどの影響を及ぼさず、かつ万一付着した異物の除去も容易であるため、特に問題とすることを要しない。
本発明のポリエステルフィルムのスリット端面から5μm以上突出する髭状物(切断乱れ)が、フィルム長さ100μmあたり1本以内であるポリエステルフィルムを得るためには、スリット方法は本発明のフィルム端面が得られる方法であれば特に限定されるものではないが、好ましくはスリット手段としてレーザービームを適用する方法(レーザービーム発振器でフィルム表面にビームを照射し、フィルムをレーザーの照射エネルギーにより瞬時に溶解又は蒸発してビームの走査軌跡に沿ってスリットする方法で、レーザービームの照射には、炭酸ガスレーザー、アルゴンレーザー、YAGレーザー等の各種発振器が適用される方法。)、刃物(トムソン刃物,回転刃等)でスリットする方法等が挙げられる。
刃物(トムソン刃物,回転刃等)でスリットする方法を採用される場合は、刃物の交換もしくは刃先の更新を一定の条件化で実施する必要があり、例えばポリエステルフィルムをスリットする際、切断面積が200mを超えない、より好ましくは160mを超えないようにして刃物の交換もしくは刃先の更新を実施することで本発明のポリエステルフィルムが得られる、例えば100μmのフィルムを7日間連続で150m/分の速度でスリットした場合151mとなり、この時点で刃物の交換もしくは刃先の更新を実施することが好ましい。
自己回収原料の添加量については、上述のフィルム特性を満足するのであれば、特に限定されるものではないが、フィルムの自己回収原料が添加される層の全原料中の質量割合として、3質量%以上であることが好ましく、より好ましくは5質量%であり、さらに好ましくは7質量%以上であり、特に好ましくは8質量%以上である。3質量%以上であると、得られるフィルムの固有粘度が0.65dl/g以下に調節し易く、フィルムの弾性率が高過ぎず、端面から突出する髭状物が減少するため好ましい。
自己回収原料の添加量については、上述のフィルム特性を満足するのであれば、特に限定されるものではないが、フィルムの自己回収原料が添加される層の全原料中の質量割合として、30質量%以下であることが好ましく、より好ましくは28質量%以下であり、さらに好ましくは26質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以下である。30質量%以下であると、フィルムの固有粘度が0.55dl/g以上となり易く、フィルムの機械的強度が保たれて、製膜安定性、耐破断性などの点から好ましい。
本発明のポリエステルフィルムは、スリット端面の髭状物を低減せしめたものである。髭状物の数を減らすには、フィルム成型時の樹脂の固有粘度が関連していることを見出し、樹脂の固有粘度をある範囲に制御することにより、好ましくスリット端面の髭状物を減らすことができる。
得られるポリエステルフィルムの強度という点においては、ある程度の高さのフィルムを構成するポリエステルの固有粘度が望ましく、それらを実現するために、ポリエステルで構成される中間層の両面上にポリエステルで構成される表面層を少なくとも有する3層以上の積層構造を有し、両表面層は、相対的に固有粘度の高いポリエステル層とし、中間層は相対的に固有粘度の低いポリエステル層とすることが好ましい。特に、中間層にポリエステルフィルムを製造する工程で生じた固有粘度が低い自己回収ポリマーを含ませて構成することが好ましい。
ここで、かかる3層以上の積層構造を有するポリエステルフィルムの両表面層の固有粘度としては、0.63dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは、0.64dl/g以上であり、さらに好ましくは、0.65dl/gである。固有粘度が0.63dl/g以上であると、フィルム全体の固有粘度が低過ぎず、製膜時に破断などの問題がなく好ましい。
また、かかる3層以上の積層構造を有するポリエステルフィルムの両表面層の固有粘度としては、0.67dl/g以下であることが好ましく、より好ましくは、0.66dl/g以下であり、さらに好ましくは、0.65dl/gである。固有粘度が0.67dl/g以下であると、樹脂の固有粘度が高過ぎず、押出時のフィルターなどにかかる圧力が大きくなり過ぎることがなく、吐出不良や厚み斑の問題がなく好ましい。
さらに、かかる3層以上の積層構造を有するポリエステルフィルムの中間層の固有粘度としては、0.56dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは、0.57dl/g以上であり、さらに好ましくは、0.58dl/g以上である。固有粘度が0.56dl/g以上であると、フィルム全体の固有粘度が低過ぎず、製膜時に破断などの問題がなく好ましい。
ここで、本発明により得られたポリエステルフィルムの中間層の固有粘度としては、0.62dl/g以下であることが好ましく、より好ましくは、0.61dl/g以下であり、さらに好ましくは、0.60dl/g以下である。固有粘度が0.62dl/g以下であると、樹脂の固有粘度が高くなりすぎず、押出時のフィルターなどにかかる圧力も高くなく、吐出不良を招かず製膜できるため、狙いの厚みを制御しやすく、厚み斑も小さい。
ここで、3層以上の積層構造を有するポリエステルフィルムの各層の固有粘度(dl/g)は、各々の溶融押出時の配管に備え付けた細管粘度計等のオンライン粘度計から得られた流体粘度、測定温度(℃)等から換算して求めることができ、予めプログラムされた換算式により、固有粘度(dl/l)を得ることができる。
前記樹脂の固有粘度により、得られるポリエステルフィルムの固有粘度を制御でき、髭状物の発生を低減することが可能となるが、さらに、ポリエステルフィルムの層構成においても重要となり、塗布層があっても含めないポリエステルの3層構成だけを例として述べると、その厚み構成比としては(表面層:中間層:表面層として)4:92:4から13:74:13の間で制御することが好ましく、5:90:5から10:80:10の間で制御することがより好ましい。両表面層の厚み比率が各々4%以上であると、中間層に添加した紫外線吸収剤やその他添加剤のブリードアウトによりフィルムヘイズが上昇することがなく好ましい。
両表面層比率が各々13%以下であると、得られるポリエステルフィルムの固有粘度が高くなり過ぎず、髭状物の発生抑制効果が明瞭となり好ましい。
一般に偏光板は、偏光子の両面に偏光子保護フィルムを積層した構成からなり、少なくとも一方の偏光子保護フィルムが、本発明のポリエステルフィルムであることが好ましい。偏光子は、ポリビニルアルコール(PVA)を主体に、ヨウ素化合物分子を吸着配向させたフィルムが通常使用される。
また、本発明において、偏光板には、写り込み防止やギラツキ抑制、キズ抑制などを目的とした、種々のハードコート層を表面に積層した偏光子保護フィルムを用いることも好ましく、かかるハードコート層を有する面は、偏光子と接しない側に設けられるよう積層されることが好ましい。
本発明の液晶表示装置は、液晶セルの両面に偏光板を配し、一方の面に対して配された冷陰極蛍光管(CCFL)や発光ダイオード(LED)などを光源としたバックライトによって、画像などを表示する装置である。前記2つの偏光板のうち、少なくとも一方に本発明の偏光板が使用されることが好ましい。液晶表示装置は、これら以外の他の構成部材として、例えば、カラーフィルター、レンズフィルム、拡散シート、反射防止フィルムなどを適宜有しても構わない。
バックライトの構成としては、導光板や反射板などを鋼製部材とするエッジライト方式であっても、直下型方式であっても構わないが、液晶表示装置のバックライト光源として白色LEDを用いることが好ましい。
白色LEDとは、蛍光体方式、すなわち化合物半導体を使用した青色光、もしくは紫外光を発するLEDと蛍光体を組み合わせることにより白色を発する素子のことである。また、蛍光体としては、イットリウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体やテルビウム・アルミニウム・ガーネット系の黄色蛍光体等があり、中でも、化合物半導体を使用した青色LEDとイットリウム・アルミニウム・ガーネット系黄色蛍光体とを組み合わせた発光素子からなる白色LEDは、連続的で幅広い発光スペクトルを有しているとともに発光効率にも優れるため、省エネルギー化が期待できる。
なお、赤・緑・青の各色を発するLEDの組み合わせる方式(三色LED方式)も実用化されているが、この方式では発光スペクトルが狭くかつ不連続であり、また、従来のバックライト光源として広く用いられているCCFLなどの蛍光管も、特定波長にピークを有し、不連続な発光スペクトルであるため、本発明の効果が十分に得られない場合があるので注意が必要である。
液晶表示装置内における本発明の偏光子保護フィルムの配置は、特に限定されないが、入射光側(光源側)に配される偏光板と、液晶セルと出射光側(視認側)に配される偏光板とを有する液晶表示装置の場合、入射光側に配される偏光板の入射光側、もしくは、出射光側に配される偏光板の出射光側に配置されることが好ましく、特に、出射光側に配される偏光板の出射光側に配置されることがより好ましい。上記以外の位置に本発明の偏光子保護フィルムを配置した場合、液晶セルの偏光特性を変化させてしまう場合がある。一方、本発明の偏光子保護フィルムを使用しない面には、TACフィルムやアクリルフィルム、ノルボルネン系樹脂フィルムに代表されるような面内リタデーションがないフィルムを用いることが好ましい。
以下に実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記の実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適宜変更を加えて実施することが可能であり、それらは、いずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例における評価方法、ならびに本文中に記載の各種物性評価方法を以下に示す。
(1)平均粒径
[走査型電子顕微鏡による測定法]
塗布層などに用いられる粒子の平均粒径の測定は、下記の方法により行うことができる。粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、最も小さい粒子1個の大きさが2〜5mmとなるような倍率で、300〜500個の粒子の最大径(最も離れた2点間の距離)を測定し、その平均値を平均粒径とする。本発明における塗布層中に存在する粒子の平均粒径は当該測定方法により測定できる。
(2)樹脂の固有粘度
本発明における各層の樹脂の固有粘度としては、溶融成型時における流体粘度を評価しており、溶融流体の配管に設けたオンライン粘度計VIS(Gneuss社製)を用いて評価し、予めプログラムされた換算式により、固有粘度(dl/l)を得た。
(3)フィルムの厚さ(d)
JIS K 7130−1999「プラスチックフィルムおよびシートの厚さ測定方法(A法)」に準拠して、厚さdを求めた。
(4)屈折率(Nx、Ny、Nz)
JIS K 7142−2014「プラスチックフィルムの屈折率測定方法(A法)」に準拠して、MD方向の屈折率(Nx)、TD方向の屈折率(Ny)、厚さ方向の屈折率(Nz)を求めた。測定波長は589nmで行った。
(5)複屈折率(ΔNxy)、面内リタデーション(Re)
リタデーションとは、フィルム面に対して厚さ方向(Z軸)とこれと直行すると共に相互にも直行する2つの軸方向(x軸、y軸)において、フィルムの各軸方向の屈折率(Nx、Ny、Nz)によって生じる複屈折とフィルムの厚さdの積で示される位相差であり、ここでは、MDをx軸、TDをy軸としたフィルム面(x−y平面)に入射する光によって生じる複屈折Nxyと厚さdとの積である面内リタデーションを云い、それぞれについて次式より求めた。なお、通例に従い、面内リタデーションの単位はnmである。
ΔNxy = |Nx−Ny|
Re = Nxy/d
(6)厚さ方向リタデーション(Rth)
厚さ方向リタデーションは、フィルム面に対して厚さ方向(z軸)とこれと直行すると共に相互にも直行する2つの軸方向(x軸、y軸)において、厚さ方向により入射する光によって生じるリタデーションを示すものであり、ここでは、x−z平面とy−z平面の2つの複屈折の平均とフィルム厚さdの積として、次式より求めた。なお、通例に従い、単位はnmである。
Rth = (|Nx−Nz|+|Ny−Nz|)/2×d
(7)製造されたフィルム全体および原料ペレットの固有粘度
JIS K 7367−2002「プラスチック−毛細管型粘度計を用いた希釈溶液の粘度の求め方−第5部:熱可塑性ポリエステル(TP)ホモポリマー及びコポリマー」に準拠して、得られた粘度数に対して、下記の測定条件で、溶液の質量濃度cに対する粘度数の関係から質量濃度c=0としたときの値を固有粘度(iV)とした。
溶媒 : フェノール/1、1、2、2−テトラクロロエタン=60/40(wt%)
管 : ウベローデ粘度管
温度 : 30±0.1℃
(8)虹斑観察
市販の偏光子の片側に後述する方法で作製した実施例、ならびに比較例のフィルムを偏光子の吸収軸とフィルムの配向主軸(NxとNyの高い方)が垂直になるように貼り付け、その反対面に市販のTACフィルムを張り付けて偏光子を作製した。これを白色LEDがバックライトであり、2枚のTACフィルムを偏光子保護フィルムとする偏光板で挟まれた、液晶セルを有する市販の液晶表示装置の、射出光側の偏光板を取り外し、実施例、ならびに比較例のフィルムが射出光側になるように設置し、液晶表示装置の正面、および斜め方向から目視観察を行い、虹斑の発生について、以下のように判定した。
○ : いずれの方向からも虹斑の発生なし
× : 斜め方向から観察した時に、明確に虹斑が観察できる。
(9)幅方向の厚み変動率
フィルムの幅方向に3m、長手方向に5cmの長さの連続したテープ状サンプルを巻き取り、フィルム厚み連続測定機(アンリツ株式会社製)にて、フィルムの厚さを測定し、レコーダーに記録する。チャートより、厚さの最大値(dmax)、最小値(dmin)、平均値(d)を求め、下記式にて厚み変動率(%)を算出した。なお、測定は3回行い、その平均値を求めた。また、幅方向の長さが3mに満たない場合は、つなぎ合わせて行う。なお、つなぎ部分はデータから削除する。
厚み変動率(%)=((dmax−dmin)/d)×100
その平均値を幅方向の厚み変動率(%)として求め、以下の基準で判定した。
○ : 幅方向の厚み変動率が3%以下
△ : 幅方向の厚み変動率が5%以下
× : 幅方向の厚み変動率が5%超
(10)フィルム透明性(ヘイズ)
JIS K 7136−2000「プラスチック−透明材料のヘーズの求め方」に準拠して、濁度計(日本電色製、NDH2000)を用いて測定した。
(11)色調(b値)
JIS K 7373−2006「プラスチック−黄色度および黄変度の求め方」に準拠して、測色色差計(日本電色製、ZE2000)を用いて測定した。
(12)表面粗さ(Ra)
JIS B 0601−2001「製品の幾何特性仕様(GPS)−表面性状;輪郭曲線方式−用語、定義及び表面性状パラメータ」に準拠して、サーフコム(登録商標)304B(株式会社東京精密製)にてRaを測定した。なお測定条件は、カットオフ0.08μm、触針半径2μm、測定長0.8mm、測定速度0.03mm/秒で行った。
(13)ガラス転移温度
JIS K 7121−2012「プラスチックの転移温度測定方法」に準拠し、示差走査熱量計(セイコーインスツルメンツ製、DSC6200)を用いて測定した。樹脂サンプル10mgを、25℃〜300℃の温度範囲にわたって、20℃/minで昇温させ、DSC曲線から得られた補外ガラス転移開始温度をガラス転移温度とした。
(14)数平均分子量
樹脂0.03gをテトラヒドロフラン10mlに溶かし、GPC−LALLS装置低角度光散乱光度計(東ソー株式会社製 LS−8000)を用い、カラム温度30℃、流量1ml/分、カラム(昭和電工社製 shodex KF−802、804、806)を用い、数平均分子量を測定した。
(15)樹脂組成
樹脂を重クロロホルムに溶解し、ヴァリアン社製核磁気共鳴分析計(NMR)ジェミニ―200を用いて、1H−NMR分析を行い、その積分比より各組成のモル%比を決定した。
(16)製膜安定性(通膜性)
工程温度が安定してから、フィルム長さ5、000mを製膜するまでの工程中におけるフィルム破断の有無を調べた。
○ : 安定製膜できる(破断発生しない)
△ : 走行やや不安定 (稀に破断生じることがある)
× : たびたび破断し、安定に製膜できない
(17)フィルム端面の髭状物の測定
機械流れ方向に沿ってスリッターでスリットされたポリエステルフィルムのスリット端面を光学顕微鏡又は走査型電子顕微鏡下で500〜3000倍の倍率で観察し、写真撮影して得られた画像から異なるスリット端面位置の各100μmあたりの5μm以上の髭状物突出をカウントして、10位置でのカウントを平均してフィルム端面の髭状物数として評価した。
(製造例1 : ポリエチレンテレフタレート樹脂A)
エステル化反応缶を昇温し、200℃に到達した時点で、テレフタル酸86.4質量部およびエチレングリコール64.4質量部を仕込み、撹拌しながら、触媒として三酸化アンチモンを0.017質量部、酢酸マグネシウム四水和物を0.064質量部、トリエチルアミン0.16質量部を仕込んだ。ついで、加圧昇温を行い、ゲージ圧0.34MPa、240℃の条件で、加圧エステル化反応を行った後、エステル化反応缶を常圧に戻し、リン酸0.014質量部を添加した。さらに、15分かけて、260℃に昇温し、リン酸トリメチル0.012質量部を添加した。ついで15分後に、高圧分散器で、分散処理を行い、15分後、得られたエステル化反応生成物を重縮合反応缶に移送し、280℃で減圧下、重縮合反応を行った。撹拌トルクを目安に、重縮合反応を終了させた後、ストランド状態で冷却水において、冷却、固化したものをペレット状に切断し、さらに、減圧乾燥を行って、固有粘度0.65dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂A(以下、樹脂A)を得た。
(製造例2 : ポリエチレンテレフタレート樹脂B)
乾燥させた紫外線吸収剤(2,2’−(1,4−フェニレン)ビス(4H−3,1−ベンズオキサジノン−4−オン)10質量部、粒子を含有しない製造例1にて作製したポリエチレンテレフタレート樹脂A90質量部を混合し、混練押出機を用い、紫外線吸収剤含有する固有粘度0.58dl/gのポリエチレンテレフタレート樹脂B(以下、樹脂B)を得た。
(製造例3 : 自己回収ポリエチレンテレフタレート樹脂C)
製品から切断除去したフィルム端部の屑フィルムを粉砕し、水分を除去するために150℃で乾燥させた。乾燥した粉砕フィルムを押出機にて溶融し、ダイからストランド状に吐出せしめて冷水で急冷固化させる。固化したストランドはストランドカッターにてペレット形状に切断した後、融着を防止するために表面を乾燥させて、固有粘度が0.50dl/gの自己回収ポリエチレンテレフタレート樹脂C(以下、樹脂C)を得た。
(製造例4 : 自己回収ポリエチレンテレフタレート樹脂D)
スリット工程にて生じた耳ロールおよび規格外製品を、外部にて、洗浄剥離加工を実施した。得られた両表面の塗布層が剥離されたフィルムを粉砕し、水分を除去するために150℃で乾燥させた。乾燥した粉砕フィルムを押出機にて溶融し、ダイからストランド状に吐出せしめて冷水で急冷固化させる。固化したストランドはストランドカッターにてペレット形状に切断した後、融着を防止するために表面を乾燥させて、固有粘度が0.60dl/gの自己回収ポリエチレンテレフタレート樹脂D(以下、樹脂D)を得た。
(製造例5 : 塗布液X1:接着性改質塗布液の調製)
(ポリエステル樹脂の重合)
攪拌機、温度計、および部分還流式冷却器を具備するステンレススチール製オートクレーブに、ジメチルテレフタレート194.2質量部、ジメチルイソフタレート184.5質量部、ジメチル−5−ナトリウムスルホイソフタレート14.8質量部、ジエチレングリコール233.5質量部、エチレングリコール136.6質量部、およびテトラ−n−ブチルチタネート0.2質量部を仕込み、160℃から220℃の温度で4時間かけてエステル交換反応を行なった。次いで255℃まで昇温し、反応系を徐々に減圧した後、30Paの減圧下で1時間30分反応させ、共重合ポリエステル樹脂(D−1)を得た。得られた共重合ポリエステル樹脂は、淡黄色透明であった。共重合ポリエステル樹脂の還元粘度を測定したところ、0.70dl/gであった。DSCによるガラス転移温度は40℃であった。
(ポリエステル水分散体の調製)
攪拌機、温度計と還流装置を備えた反応器に、上記ポリエステル樹脂30質量部、エチレングリコールn−ブチルエーテル15質量部を入れ、110℃で加熱、攪拌し樹脂を溶解した。樹脂が完全に溶解した後、水55質量部をポリエステル溶液に攪拌しつつ徐々に添加した。添加後、液を攪拌しつつ室温まで冷却して、固形分30質量%の乳白色のポリエステル水分散体を作製した。
(ポリビニルアルコール水溶液の調製)
攪拌機と温度計を備えた容器に、水90質量部を入れ、攪拌しながら重合度500のポリビニルアルコール樹脂(クラレ製)10質量部を徐々に添加した。添加後、液を攪拌しながら、95℃まで加熱し、樹脂を溶解させた。溶解後、攪拌しながら室温まで冷却して、固形分10質量%のポリビニルアルコール水溶液を作製した。
(ブロックポリイソシアネート架橋剤の重合)
攪拌機、温度計、還流冷却管を備えたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネートを原料としたイソシアヌレート構造を有するポリイソシアネート化合物(旭化成ケミカルズ製、デュラネートTPA)100質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート55質量部、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(平均分子量750)30質量部を仕込み、窒素雰囲気下、70℃で4時間保持した。その後、反応液温度を50℃に下げ、メチルエチルケトオキシム47質量部を滴下した。反応液の赤外スペクトルを測定し、イソシアネート基の吸収が消失したことを確認し、固形分75質量%のブロックポリイソシアネート水分散液を得た。
下記の塗剤を混合し、塗布液X1を作製した。
水 40.75質量%
イソプロパノール 25.00質量%
ポリエステル水分散体 10.32質量%
ポリビニルアルコール水溶液 20.82質量%
ブロックポリイソシアネート系架橋剤 0.50質量%
粒子 1.24質量%
(平均粒径100nmのシリカゾル、固形分濃度40質量%)
粒子 0.74質量%
(平均粒径450nmのシリカゾル、固形分濃度4質量%)
触媒
(有機スズ系化合物 固形分濃度14質量%) 0.48質量%
界面活性剤 0.15質量%
(シリコン系、固形分濃度10質量%)
(製造例6 : 塗布液Y:水系塗布液の調製)
下記の塗剤を混合し、塗布液Yを作製した。
水 70.64質量%
イソプロパノール 9.25質量%
ポリエステル水分散体 15.00質量%
粒子 3.41質量%
(平均粒径100nmのシリカゾル、固形分濃度20質量%)
粒子 1.70質量%
(平均粒径450nmのシリカゾル、固形分濃度4質量%)
(製造例7 : 塗布液X2:接着性改質塗布液の調整)
下記の塗剤を混合し、塗布液X2を作成した。
水 54.89質量%
イソプロパノール 15.00質量%
ポリエステル水分散液 18.19質量%
ブロックポリイソシアネート系架橋剤 2.08質量%
酸化亜鉛粒子 9.37質量%
(多木化学製セラメースS−8、固形分濃度8質量%)
粒子 0.17質量%
(平均粒径500nmのシリカゾル、固形分濃度15質量%)
界面活性剤 0.30質量%
(シリコン系、固形分濃度10質量%)
(製造例8 : 塗布液X3:接着性改質塗布液の調整)
(カルボジイミド系架橋剤の重合)
撹拌機、温度計、還流冷却管を備えたフラスコにヘキサメチレンジイソシアネート168質量部とポリエチレングリコールモノメチルエーテル(M400、平均分子量400)220質量部を仕込み、120℃で1時間、撹拌し、更に4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート26質量部とカルボジイミド化触媒として3-メチル-1-フェニル-2-フォスフォレン-1-オキシド3.8質量部(全イソシイアネートに対し2重量%)を加え、窒素気流下185℃で更に5時間撹拌した。反応液の赤外スペクトルを測定し、波長2200〜2300cm-1の吸収が消失したことを確認した。60℃まで放冷し、イオン交換水を567質量部加え、固形分40質量%のカルボジイミド系架橋剤を得た。
下記の塗剤を混合し、塗布液X3を作成した。
水 48.27質量%
イソプロパノール 25.00質量%
ポリエステル水分散体 20.09質量%
カルボジイミド系架橋剤 2.86質量%
酸化ジルコニウム粒子 1.88質量%
(日産化学製ZR−40BL、固形分濃度40質量%)
粒子 1.60質量%
(平均粒径450nmのシリカゾル、固形分濃度4質量%)
界面活性剤 0.30質量%
(シリコン系、固形分濃度10質量%)
(実施例1)
基材フィルム中間層用原料として粒子を含有しない樹脂A81質量部と樹脂C9質量部、紫外線吸収剤を含有した樹脂B10質量部を135℃で6時間減圧乾燥(1Torr)した後、押出機2(中間層II層用)に供給し、また樹脂Aを常法により乾燥して押出機1(表面層I層および表面層III用)にそれぞれ供給し、285℃で溶解した。この2層のポリマーを、それぞれステンレスの焼結体の濾材(公称濾過精度10μm粒子95%カット)で濾過し、2種3層合流ブロックにて積層し、口金よりシート状にして押し出した後、静電印加キャスト法を用いて表面温度30℃のキャスティングドラムに巻きつけて冷却固化し、未延伸フィルムを作製した。この時、I層、II層、III層の厚さの比は8:84:8となるように各押し出し機の吐出量を調整した。また、据え付けたオンライン粘度計から、I層およびIII層を形成する樹脂の固有粘度は0.65dl/gとなり、II層を形成する樹脂の固有粘度は0.60dl/gとなった。
ついで、リバースロール法によりこの未延伸フィルムの両面に乾燥後の塗布量が0.1g/mになるように、フィルム幅方向の両端部を除いたスリット後も製品として使用される幅の範囲において、上記接着性改質塗布液X1を塗布した後、80℃で20秒間乾燥した。
この塗布層を形成した未延伸フィルムの両端のスリット後は製品とならない主に接着性改質塗布液X1が塗布されていない範囲の、端部から50〜100mmの位置において、ロールコート法により、乾燥後の塗布量が0.07g/mになるように、上記水系塗布液Yを塗布した。この時、上記の塗布液X1による塗布層とはなるべく重ならないように塗布した。
端部に水系塗布液をコートした未延伸フィルムを、テンター延伸機に導き、フィルム端部をクリップで把持しながら、温度125℃の熱風ゾーンに導き、幅方向に4.0倍に延伸した。次に、幅方向に延伸された幅を保ったまま、温度225℃、30秒間処理し、さらに幅方向に3%の緩和処理を行い、フィルム厚み約100μmの一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.61dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表1に示す。
(実施例2)
押出機2(中間層II層用)に供給する樹脂構成割合を、樹脂A86質量部と樹脂C4質量部、樹脂B10質量部にした以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み約100μmの一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.63dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表1に示す。
(実施例3)
押出機2(中間層II層用)に供給する樹脂構成割合を、樹脂A72質量部と樹脂C18質量部、樹脂B10質量部にした以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み約100μmの一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.58dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表1に示す。
(実施例4)
押出機2(中間層II層用)に供給する樹脂構成割合を、樹脂A90質量部と樹脂C10質量部にした以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み約100μmの一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.62dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表1に示す。
(実施例5)
できあがりのフィルム膜厚を60μmにした以外は、実施例1と同様にして、一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.59dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表1に示す。
(実施例6)
I層、II層、III層の厚さの比を5:90:5となるように各押し出し機の吐出量を調整した以外は、実施例1と同様にして、一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.57dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表1に示す。
(実施例7)
I層、II層、III層の厚さの比を10:80:10となるように各押し出し機の吐出量を調整した以外は、実施例1と同様にして、一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.63dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表1に示す。
(実施例8)
押出機2(中間層II層用)に供給する樹脂構成割合を、樹脂A76質量部と樹脂D14質量部、樹脂B10質量部にした以外は、実施例1と同様にして、一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.62dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表1に示す。
(実施例9)
押出機2(中間層II層用)に供給する樹脂構成割合を、樹脂A67質量部と樹脂C9質量部、樹脂D14質量部、樹脂B10質量部にした以外は、実施例1と同様にして、一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.63dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表1に示す。
(比較例1)
押出機2(中間層II層用)に供給する樹脂構成割合を、樹脂A90質量部と樹脂B10質量部にし、実施例1と同様にして、フィルム厚み約100μmの一軸配向PETフィルムを得た。樹脂押し出し時、II層を形成する樹脂の固有粘度は0.64dl/g、得られたフィルムの固有粘度は0.67dl/gとなり、通膜性は良好であった。しかし、スリット端面の髭状物の数が多かった。その他フィルム物性等は、以下表2に示す。
(実施例10)
押出機2(中間層II層用)に供給する樹脂構成割合を、樹脂A63質量部と樹脂C27質量部、樹脂B10質量部にし、実施例1と同様にして、フィルム厚み約100μmの一軸配向PETフィルムを得た。樹脂押し出し時、II層を形成する樹脂の固有粘度は0.55dl/g、得られたフィルムの固有粘度は0.54dl/gとなり、通膜性及び厚み変動率の点でやや不満は残ったが、スリット後の端面の髭状物は少なかった。その他フィルム物性等は、以下表2に示す。
(実施例11)
押出機2(中間層II層用)に供給する樹脂構成割合を、樹脂A63質量部と樹脂D27質量部、樹脂B10質量部にし、実施例1と同様にして、フィルム厚み約100μmの一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.61dl/gとなり、厚み変動率と黄色みの点でやや不満は残ったが、スリット後の端面の髭状物は少なかった。その他フィルム物性等は、以下表2に示す。
(実施例12)
未延伸フィルムの両端に水系塗布液を塗布せず、接着性改質塗布液X1の塗布幅を広げ、水系塗布液Yを塗布した両端の位置まで塗布し、水系塗布液Yを塗布しなかった以外は、実施例1と同様にして、フィルム厚み約100μmの一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.60dl/gとなった。通膜性の点でやや不満は残ったが、スリット後の端面の髭状物は少なかった。その他フィルム物性等は、以下表2に示す。
(実施例13)
I層、II層、III層の厚さの比を3:94:3となるように各押し出し機の吐出量を調整した以外は、実施例1と同様にして、一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.59dl/gとなり、通膜性も良好であった。フィルムのヘイズや黄色味の点でやや不満は残ったが、スリット後の端面の髭状物は少なかった。その他フィルム物性等は、以下表2に示す。
(比較例2)
I層、II層、III層の厚さの比を14:72:14となるように各押し出し機の吐出量を調整した以外は、実施例1と同様にして、一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.63dl/gとなり、通膜性も良好であった。しかし、スリット端面の髭状物の数が多かった。その他フィルム物性等は、以下表2に示す。
(実施例14)
ワイヤーバーコート法により、未延伸フィルムの両面に乾燥後の塗布量が0.15g/mになるように、フィルム幅方向の両端部を除いたスリット後も製品として使用される幅の範囲において、接着性改質塗布液X1に代えて接着性改質塗布液X2を塗布した以外は、実施例1と同様にして、一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.57dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表2に示す。
(実施例15)
ワイヤーバーコート法により、未延伸フィルムの片面に乾燥後の塗布量が0.10g/mになるように接着性改質塗布液X1を、もう一方の面に接着性改質塗布液X1に代えて乾燥後の塗布量が0.08g/mになるように接着性改質塗布液X3を、フィルム幅方向の両端部を除いたスリット後も製品として使用される幅の範囲において塗布した以外は、実施例1と同様にして、一軸配向PETフィルムを得た。得られたフィルムの固有粘度は0.57dl/gとなり、スリット端面の髭状物の数は少なく、通膜性も良好であった。その他フィルム物性等は、以下表2に示す。
表1および表2は、実施例1〜15および比較例1及び2のポリエステルフィルムについて各種フィルム物性をまとめたものである。
本発明により、スリット端面の髭状物の少ないポリエステルフィルムロール提供でき、欠点となる因子を減らすことができたことで、光学用途、特に偏光子保護フィルムへの適用がより可能となる。そして、本発明のポリエステルフィルムを偏光子保護フィルム用途として用いることにより、虹斑による視認性を低下させることなく、表示装置の薄型化、低コスト化に寄与できる偏光板や液晶表示装置の提供を可能とした。

Claims (11)

  1. フィルム製造時の機械流れ方向に沿ってスリットされたフィルムの端面に、5μm以上突出する髭状物の存在本数が、フィルム長さ100μmあたり1本以内であるポリエステルフィルム。
  2. 固有粘度が0.55dl/g以上0.65dl/g以下である請求項1に記載のポリエステルフィルム。
  3. ヘイズ値が2.0%以下であり、かつb値が−0.5以上3.0以下である請求項1または2に記載のポリエステルフィルム。
  4. 厚さが15μm以上300μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
  5. ポリエステルフィルムを構成するポリエステルの一部に、ポリエステルフィルムを製造する工程で生じた自己回収ポリマーを含む請求項1〜4のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
  6. 少なくとも片面上に塗布層を有する請求項1〜5のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
  7. ポリエステルで構成される中間層の両面上にポリエステルで構成される表面層を少なくとも有する3層以上の積層構造を有し、中間層にポリエステルフィルムを製造する工程で生じた自己回収ポリマーを含む請求項1〜6のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
  8. ポリエステルで構成される中間層の両面上にポリエステルで構成される表面層を少なくとも有する3層以上の積層構造を有し、中間層を構成するポリエステルの固有粘度が、両表面層を構成するポリエステルの固有粘度よりも小さい請求項1〜7のいずれかに記載のポリエステルフィルム。
  9. 面内リタデーションが3000nm以上30000以下である請求項1〜8のいずれかに記載の偏光子保護フィルム用ポリエステルフィルム。
  10. 偏光子の少なくとも一方の面に、請求項9に記載の偏光子保護フィルム用ポリエステルフィルムが積層された偏光板。
  11. バックライト、液晶セル、および液晶セルの両側に配置された偏光板を有する液晶表示装置であって、少なくとも片側の偏光板が、請求項10に記載の偏光板である液晶表示装置。
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