本発明は、ワークの離型方向に対して負角をなす負角部を有する成形品を成形するためのプレス成形技術に関し、負角部の成形にともなって生じる不具合としての成形品の歪みを解消すべく、プレス成形型における型構造を工夫したものであり、また、本発明に係る型構造による成形に適した車両用ルーフパネルを提案するものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
本実施形態に係るプレス成形型1は、負角部を有する成形品としての自動車のルーフパネル2をプレス成形するためのものである。ルーフパネル2は、車幅方向を回転軸方向とするバックドアを有する車両の車体を構成する車両用ルーフパネルである。つまり、ルーフパネル2は、上下方向に開閉するタイプのバックドアを有する自動車のルーフパネルである。ただし、本発明に係る成形品は、車両用ルーフパネルに限らず、例えば、自動車において自動車の外装をなすパネル部材であってフロントドアの前側に位置するフロントフェンダパネル等、負角部を有する成形品であればよい。
まず、本実施形態に係る成形品としてのルーフパネル2について、図1および図2を用いて説明する。なお、図1および図2において、図面に記載した矢印UPの方向、矢印FRの方向、および矢印RHの方向は、それぞれルーフパネル2を備えた自動車における上方向、前方向、および右方向に対応する。
ルーフパネル2は、全体として、平面視で略矩形状の外形を有するとともに、その長手方向を前後方向とする。したがって、ルーフパネル2は、略左右方向(略車幅方向)に沿う前縁部および後縁部と、略前後方向に沿う左右の縁部とを有する。また、ルーフパネル2は、全体として略左右対称の形状を有する。
自動車において、ルーフパネル2の前側には、フロントガラスが、その上側(後側)の縁部をルーフパネル2の前縁部に沿わせるように設けられる。また、ルーフパネル2の後側には、車幅方向に沿う所定の回転軸O1を中心として回動することで開閉されるバックドアが設けられる。後述するように、ルーフパネル2の後縁部とバックドアの前縁部との間には、見切り隙と呼ばれるクリアランスが存在する。
図1および図2に示すように、ルーフパネル2は、自動車の車体の天井面部をなす第1の面部としてのルーフ本体面部3と、ルーフ本体面部3の後縁部から下側に屈曲し、ルーフ本体面部3とともに車幅方向に延びる稜線4をなす角部5を形成する第2の面部としての後壁面部6とを有する。
ルーフ本体面部3は、ルーフパネル2の大部分をなす面部であり、平面視でルーフパネル2の外形に沿うように略矩形状の外形を有する。ルーフ本体面部3は、全体的に前後方向および左右方向(車幅方向)について上側を凸側とする緩やかな湾曲面形状を有する。
後壁面部6は、ルーフパネル2の後面をなす面部であり、左右方向を長手方向とし、上下方向について所定の屈曲形状を有する。後壁面部6がルーフ本体面部3とともに形成する稜線4は、ルーフパネル2の平面視において、左右方向の中央位置を頂部として前側を凸側とするようにわずかに湾曲した形状を有する(図2参照)。また、稜線4は、ルーフパネル2の後面視においても、左右方向の中央位置を頂部として上側と凸側とするようにわずかに湾曲した形状を有する。
後壁面部6は、その左右方向の大部分において、ルーフ本体面部3とともに、ワークの離型方向に対して負角をなす負角部を形成する。つまり、ルーフ本体面部3と後壁面部6とにより形成される角部5は、その左右方向の大部分を負角部とする。なお、負角部の形成態様および後壁面部6の詳細な形状については後述する。
後壁面部6の後側には、バックドアを支持するドア支持面部7が形成されている。ドア支持面部7は、後壁面部6とともに略直角状の角をなすように、後壁面部6の後端から後方に向けて形成されている。
ドア支持面部7には、バックドアを回動可能に支持するヒンジ部材8(図15参照)を取り付けるためのヒンジ取付座面部9が形成されている。ヒンジ部材8は、ヒンジ取付座面部9に対する固定側の部分である基部8aと、基部8aの上側の部分であって回転軸O1が位置する軸支部分である軸支部8bとを有し、側面視(回転軸O1の軸方向視)において略三角形状の外形を有する。
ヒンジ取付座面部9は、ドア支持面部7の長手方向となる左右方向の両端部近傍の位置に設けられている。ヒンジ取付座面部9は、ドア支持面部7の他の部分に対して盛り上がった隆起状の部分であり、ドア支持面部7の他の面部に対して一段高い平面状の取付面部9aを有する。このようなヒンジ取付座面部9の隆起形状により、バックドアの取付剛性が確保されている。取付面部9aには、ヒンジ部材8を取付面部9aに固定するための固定具8cを貫通させる孔部9bが2箇所に形成されている。このように、バックドアは、ドア支持面部7において左右両端の2箇所に設けられたヒンジ部材8により、回転軸O1を中心として回動可能に支持される。
ドア支持面部7のさらに後側には、前側から後側にかけて下り傾斜した後傾斜面部10が形成されている。後傾斜面部10は、例えば、ルーフパネル2の下方に設けられるルーフインナパネルや補強部材であるリインフォースメント等との接合部として用いられる。
また、ルーフパネル2においては、ルーフ本体面部3の左右両側に、階段状の段差面部11を介して、サイドフランジ部12が形成されている。サイドフランジ部12は、ルーフ本体面部3の左右の縁部に沿って前後方向に延びた幅狭の平面状の部分である。ルーフ本体面部3とサイドフランジ部12との間の境界部分となる段差面部11は、ワークの離型方向に対して負角をなす負角部を含む。
以上のような構成を備えたルーフパネル2が、本実施形態に係るプレス成形型1により、所定の形状を有するパネル部材をワーク20として、プレス成形によって成形される。本実施形態に係るプレス成形型1について、図3から図9を用いて説明する。なお、図3は、図6におけるD−D位置の断面図であり、図4は、図6におけるE−E位置の断面図であり、図5は、図6におけるF−F位置の断面図である。また、図6および図7は、プレス成形型1の下側の型要素のみを示している。
図3から図9に示すように、本実施形態に係るプレス成形型1は、加工型としての加工カム21と、加工カム21の下方に設けられた第1の型要素としての後下カム22と、加工カム21の前方(図3において右方)に設けられた押さえ型としてのパッド23と、パッド23の下方に設けられた第2の型要素としての横下カム24とを備える。なお、プレス成形型1における前後・左右・上下は、それぞれルーフパネル2の(ルーフパネル2を備えた自動車の)前後・左右・上下に対応する。
加工カム21は、寄曲部としての寄曲刃26を有する。加工カム21は、いわゆる吊りカムであり、プレス成形型1の上側において昇降可能に設けられた上型25の下側に支持された状態で設けられている。加工カム21は、上型25の下側に設けられた水平面状の下面部25aに対して、例えばシリンダ機構等のアクチュエータを含む所定のスライド機構によって前後方向(図3において左右方向)にスライド移動可能に設けられている。
加工カム21は、その寄曲刃26をワーク20の一側(後側)の縁部に作用させることで、後壁面部6やドア支持面部7等を形成する。このため、加工カム21において、寄曲刃26は、ルーフパネル2の後縁部の幅方向の寸法に対応して略左右方向に沿って延伸状に形成されている。寄曲刃26は、加工カム21の前下側の角部分に設けられており、図3に示すような側面断面視で所定の向きに突出した凸状の部分をなす。
一方、加工カム21の下部の後側、つまり寄曲刃26の前後方向の反対側には、カム面21aが形成されている。カム面21aは、略後側を向く面であり、前後方向に対して垂直な鉛直面に対し、上側から下側にかけて後側から前側に向かうように傾斜した傾斜面となっている。カム面21aは、加工カム21によるワーク20に対する寄曲げ作用を得るために加工カム21が後下カム22に対して相対移動する際の後下カム22に対する摺動面となる。
後下カム22は、加工カム21を受けて寄曲刃26とともにワーク20に負角部を形成する負角形成部27を有する。後下カム22は、プレス成形型1の下側に設けられた図示せぬ支持台(下型)に対して、例えばシリンダ機構等のアクチュエータを含む所定のスライド機構によって前後方向にスライド移動可能に設けられている。なお、後述するように、後下カム22は、その一部を前後方向に移動可能とするように構成されている。
後下カム22は、その負角形成部27に寄曲刃26を受け入れることで、寄曲刃26との間にワーク20の後側の縁部を挟み込み、寄曲刃26とともに後壁面部6やドア支持面部7等を形成する。このため、後下カム22において、負角形成部27は、寄曲刃26と同様、ルーフパネル2の後縁部の幅方向の寸法に対応して略左右方向に沿って延伸状に形成されている。負角形成部27は、後下カム22の前上側の部分に設けられており、図3に示すような側面断面視において、凸状の部分をなす寄曲刃26の形状に対応した凹状の部分をなす。
一方、後下カム22の後上部、つまり前後方向について負角形成部27に対向する部分には、加工カム21のカム面21aに対する合わせ面であるカム面22aが形成されている。カム面22aは、略前側を向く面であり、前後方向に対して垂直な鉛直面に対し、上側から下側にかけて後側から前側に向かうように傾斜した傾斜面となっている。カム面22aは、加工カム21によるワーク20に対する寄曲げ作用を得るために加工カム21を後下カム22に対して相対移動させる際の加工カム21に対する摺動面となる。
加工カム21の寄曲刃26と後下カム22の負角形成部27とによるワーク20に対する寄曲げ加工により、ルーフパネル2の後部の各部がプレス形成される。このため、寄曲刃26および負角形成部27は、それぞれルーフパネル2の後縁部の各部に対応した成形面を有する。ここでは、図6および図7に示された負角形成部27を含む後下カム22について具体的に説明する。
図6および図7に示すように、負角形成部27は、ルーフパネル2の後壁面部6を形成するための後壁面部成形面36を有する。後壁面部成形面36は、後壁面部6の内側(前側)の面を成形する面である。また、負角形成部27は、ワーク20におけるルーフ本体面部3の後縁部となる部分を下側から支持する後縁支持成形面33を有する。後縁支持成形面33および後壁面部成形面36は、それぞれ略左右方向に延伸しており、ルーフパネル2において稜線4をなす角部5に対応した角部35を形成する。
また、負角形成部27は、ルーフパネル2のドア支持面部7を形成するためのドア支持面部成形面37を有する。ドア支持面部成形面37は、ドア支持面部7の内側(下側)の面を成形する面である。ドア支持面部成形面37には、ルーフパネル2のヒンジ取付座面部9を形成するためのヒンジ取付座面部成形面39が存在する。また、後下カム22においては、ドア支持面部成形面37の後側に、ルーフパネル2の後傾斜面部10を形成するための後傾斜面部成形面40が設けられている。
以上のような負角形成部27を含む後下カム22に対して、寄曲刃26は、後下カム22が有する各成形面に対応する成形面を有する。
パッド23は、後下カム22において負角形成部27をなす一側の成形面との間にワーク20を押さえる押圧面50を有する。ここで、負角形成部27をなす一側の成形面は、上記のとおりワーク20におけるルーフ本体面部3の後縁部となる部分を支持する後縁支持成形面33である。つまり、パッド23は、ワーク20のプレス成形において、押圧面50の一部と、後下カム22の後縁支持成形面33との間にワーク20を挟持する。
また、パッド23は、横下カム24に対してもワーク20を押圧する。このため、押圧面50は、横下カム24の成形面である支持面43との間にワーク20を挟持する部分を有する。すなわち、パッド23の押圧面50は、その領域部分として、加工カム21の後縁支持成形面33に対してワーク20を押さえ付ける横延伸部51と、横下カム24の支持面43に対してワーク20を押さえ付ける縦延伸部52とを含む。
横延伸部51は、ルーフパネル2において稜線4をなす角部5に対応した角部35の延伸形状に対応して略左右方向に延伸した帯状の領域部分である。横延伸部51は、パッド23の押圧面50のうち、ワーク20において寄曲刃26の作用を受ける部分の前側の部分を後縁支持成形面33に対して押さえる領域部分となる。また、縦延伸部52は、ルーフパネル2においてサイドフランジ部12の延伸形状に対応して略前後方向に延伸した帯状の領域部分である。縦延伸部52は、パッド23において左右両側に設けられている。
図6に示すように、横延伸部51および左右の縦延伸部52は、平面視で略直角状をなすように繋がっている。なお、図6は、横延伸部51の右側の部分および右側の縦延伸部52を示しており、図6において、パッド23による押圧範囲をハッチング部分で示している。
横下カム24は、加工カム21の後縁支持成形面33とともにパッド23の押圧面50に対向してワーク20を支持する支持面43を有する。横下カム24は、プレス成形型1の下側に設けられた図示せぬ支持台(下型)に対して、例えばシリンダ機構等のアクチュエータを含む所定のスライド機構によって左右方向にスライド移動可能に設けられている。横下カム24は、左右両側に設けられており、後下カム22の左右両端部の前方に位置する。左右の横下カム24は、互いに左右対称な動作を行うように構成されている。
横下カム24において、支持面43は、ワーク20におけるルーフ本体面部3の左右の縁部となる部分を下側から支持する成形面である。また、横下カム24は、図示せぬ加工カムとともにルーフパネル2の段差面部11およびサイドフランジ部12を形成する成形面として、段差面部成形面41およびサイドフランジ部成形面42を有する。段差面部成形面41は、段差面部11の内側の面を成形する面であり、サイドフランジ部成形面42は、サイドフランジ部12の内側(下側)の面を成形する面である。
このように、本実施形態に係るプレス成形型1は、互いに異なる方向に移動可能に設けられた後下カム22および左右の横下カム24を備えたダブルカム構造を有する。後下カム22および横下カム24は、それぞれ所定の方向に移動するための隙間60を互いの間に設けている。具体的には、図6および図7に示すように、後下カム22と左右の横下カム24とは、それぞれ傾斜端面(61,62)同士を対向させており、これら傾斜端面(61,62)の面間の空間が隙間60となる。
隙間60を形成する傾斜端面のうち、後下カム22が有する第1傾斜端面61は、後縁支持成形面33の左右両側の縁端をなす面であって、左右外側斜め前方を向く面である。また、隙間60を形成する傾斜端面のうち、左右の横下カム24が有する第2傾斜端面62は、支持面43の後側の縁端をなす面であって、左右内側斜め後方を向く面である。第1傾斜端面61および第2傾斜端面62は、互いに平行な面であって、いずれも平面視で前後方向あるいは左右方向に対して略45°をなす傾斜面である。
隙間60は、後下カム22については、後下カム22が前方に移動するための横下カム24との間の空間となり、横下カム24については、横下カム24が左右方向の内側方向に移動するための後下カム22との間の空間となる。したがって、後下カム22が前方に移動すること、および横下カム24が左右方向の内側方向に移動することで、第1傾斜端面61と第2傾斜端面62との面間間隔は狭くなり、同面間間隔の大きさは、少なくとも後下カム22および横下カム24の移動を許容する大きさとなっている。
以上のような構成を備えた本実施形態に係るプレス成形型1の動作について、図8および図9を用いて説明する。なお、以下のプレス成形型1の動作説明においては、便宜上、上記のとおり左右方向に移動可能に設けられた横下カム24の動作についての説明は省略する。
図8(a)に、プレス成形型1の型開き状態を示す。プレス成形型1の型開き状態においては、上型25は上昇端に位置し、上型25に支持された加工カム21は、後下カム22の上方に位置する。また、後下カム22は、前進端に位置し、横下カム24との間の隙間60(図6、図7、図8(b)参照)を形成する第1傾斜端面61を、横下カム24の第2傾斜端面62に接触あるいは略接触させている。また、パッド23は、横下カム24に対して上方に離間した待機位置に位置している。
そして、型開き状態のプレス成形型1に対して、所定の形状を有するワーク20が、プレス成形型1の下側の型要素、つまり後下カム22および横下カム24上にセットされる。ワーク20は、セットされた状態において、内側面である下面20aを、横下カム24の支持面43に接触させている。
ワーク20がセットされた後、後下カム22の張り動作が行われる。すなわち、図8(b)に示すように、型開き状態において前進端に位置していた後下カム22が、エアシリンダ等の移動機構によって後方に移動する(矢印A1参照)。これにより、後下カム22が、加工カム21を受ける位置、つまりワーク20を成形するための位置(以下「成形位置」という。)に位置する。後下カム22が成形位置に位置することで、後下カム22の後縁支持成形面33が、ワーク20の下面20aに接触した状態となる。なお、図6および図7は、後下カム22の張り動作後の状態、つまり後下カム22が成形位置に位置する状態を示している。
後下カム22の張り動作の後、パッド23の接触動作が行われる。すなわち、図8(c)に示すように、型開き状態において横下カム24の上方に位置していたパッド23が下降し(矢印A2参照)、パッド23により、後下カム22および横下カム24上のワーク20がこれらのカムに対して押さえ付けられる。つまり、後下カム22の後縁支持成形面33および横下カム24の支持面43と、パッド23の押圧面50とにより、ワーク20が挟持され押圧された状態となる。ここで、パッド23の押圧面50は、ワーク20の外側面である上面20bに接触した状態となる。また、パッド23の接触動作にともない、上型25の下降にともなって加工カム21が下降を開始する(矢印A3参照)。
下降を開始した加工カム21は、後下カム22に接触した時点から、後下カム22に対する摺動を開始する。すなわち、図8(d)に示すように、加工カム21は、そのカム面21aを後下カム22のカム面22aに対する摺動面として、これらのカム面の傾斜にならい、上型25に対する前方への相対移動をともなって、下斜め前方へと移動する(矢印A4参照)。
加工カム21の移動が進むと、ワーク20の加工が開始される。すなわち、図8(e)に示すように、加工カム21は、カム面21a,22aの傾斜にならって下斜め前方への移動を進めることで(矢印A5参照)、寄曲刃26をワーク20に接触させ、ワーク20に対する寄曲げ加工を開始する。
そして、カム面21a,22aに沿った加工カム21の移動がさらに進み、加工カム21が後下カム22に対して最近接状態となることで、加工が完了する。すなわち、図8(f)に示すように、加工カム21の移動により寄曲刃26がワーク20を介して負角形成部27に押圧嵌合した状態となり、ワーク20に対するプレス加工としての寄曲げ加工が完了する。これにより、ワーク20において所定の形状部分が成形され、ルーフパネル2が成形された状態となる。
ワーク20の加工が完了した後、まず、プレス成形型1の型開きが行われる。すなわち、図9(a)に示すように、加工カム21は、上型25の上昇をともなって成形後のワーク20(ルーフパネル2)から離間して元の位置に戻り(矢印B1参照)、パッド23は、上昇することでワーク20から離間して待機位置に戻る(矢印B2参照)。
そして、成形後のワーク20においては、加工カム21による寄曲げ加工の加工部位においてワーク20の離型方向(例えば上方向)に対して負角をなす負角部が存在する。具体的には、後下カム22の負角形成部27により寄曲刃26とともに形成された負角部が、負角形成部27の前側に存在する。このため、図9(b)に示すように、ワーク20の取出しに際し、ワーク20の離型時におけるワーク20と負角形成部27との干渉を避けるため、後下カム22が前方に移動する(矢印B3参照)。ここで、後下カム22は、その前進端まで移動する。
後下カム22が前進端まで移動した後、ワーク20の取出しが行われる。すなわち、図9(c)に示すように、図示せぬ押出し機構等によってワーク20が横下カム24に対して離型方向に移動させられ(矢印B4参照)、ロボットアーム等の取出し装置(図示略)によってワーク20がプレス成形型1から取り出される。
ワーク20が取り出された後、再度ワーク20がセットされ、上述のような一連の工程がプレス成形サイクルとして繰り返され、ルーフパネル2が連続的に生産される。
以上のような本実施形態に係るプレス成形型1によるプレス成形においては、上述のとおり、成形後のワーク20の取出しに際し、ワーク20の負角部における型に対する干渉を避けるため、後下カム22を前方に移動させることが行われる。このため、後下カム22が成形位置にある状態において、後下カム22と横下カム24との間には、後下カム22の前方への移動を許容するための隙間60が確保されている。
このように後下カム22と横下カム24との間に存在する隙間60は、パッド23によるワーク20の押圧範囲内に存在する。このため、隙間60の部分は、パッド23によりワーク20が押さえられた状態において、パッド23の押圧面50とともにワーク20を挟持する支持面が途切れた部分となる。つまり、隙間60の部分は、ワーク20を介してパッド23の押圧面50に対向する支持面において、部分的に支持面が存在しない部分となる。
このような隙間60に関し、例えば、図10(a)、(b)に示すように、隙間60が、後下カム22と横下カム24との間において、隙間60を左右方向の外側に開放させる隙間部分60bを有する構成を想定する。すなわち、図10(a)、(b)に示す想定例の構成において、隙間60は、後下カム22の第1傾斜端面61と横下カム24の第2傾斜端面62との間の傾斜状の隙間部分60aと、後下カム22の第1端面63と横下カム24の第2端面64との間の左右方向に沿う隙間部分60bとを有する。
隙間部分60bをなす第1端面63は、後下カム22において第1傾斜端面61の左右外側に連続する面であって、後下カム22の左右方向の外側端部の前側の面である。また、隙間部分60bをなす第2端面64は、横下カム24において第2傾斜端面62の左右外側に連続する面であって、第1端面63に対向する横下カム24の後端面である。そして、隙間部分60aと隙間部分60bとは、互いに連続しており、平面視で鈍角をなすように屈曲状の隙間形状をなす。また、後縁支持成形面33のうち、隙間部分60bをなす部分である左右の端部は、他の部分に対して前後方向の寸法が短い幅狭部33aとなっている。
そして、想定例の構成の場合、上述したようなプレス成形の加工工程において、後下カム22の張り動作が行われることで(図8(b)参照)、第1端面63と第2端面64との間に隙間部分60bが形成される。また、ワーク20の取出し工程において、後下カム22が前進端まで移動することで(図9(b)参照)、第1端面63が第2端面64に対して接触ないし略接触した状態となる。
このような想定例の構成においては、次のような問題が生じることが判明している。すなわち、隙間60の左右方向の外側の部分であって後縁支持成形面33の幅狭部33aの前側の隙間部分60bは、ワーク20が加工カム21による加工の作用を受けることにともなって、ワーク20に意図せぬ変形である歪みを生じさせる原因となる。具体的には、この歪みは、ワーク20に対する加工カム21による加工の作用の反力等に起因し、隙間60の隙間部分60bにワーク20が落ち込むことにより生じる凹状の面歪みである。そして、この凹状の面歪みは、図1および図2において符号C1で示す部分、つまりルーフパネル2におけるルーフ本体面部3の後端部の左右両側の端部に生じることとなる。
このようにルーフパネル2において生じる歪みは、自動車の外観品質を低下させる不具合となることから、成形品について歪みに対する改修が必要となる。なお、図10(a)、(b)に示す構成は、想定例の構成であり、便宜上、本実施形態に係るプレス成形型1と同様の符号を用いているが、本実施形態に係るプレス成形型1とは異なるものである。
一方で、ルーフパネル2は、ルーフ本体面部3の後縁部と後壁面部6との角部分において負角部を有することから、プレス成形におけるワーク20の取出し工程において後下カム22を前方に逃がすために、後下カム22と横下カム24との間の隙間60は必要となる。
そこで、本実施形態に係るプレス成形型1は、次のような構成を備える。すなわち、図5から図7、図11および図12に示すように、本実施形態に係るプレス成形型1において、後下カム22は、前後方向に移動可能に設けられた可動型部71と、所定の位置に設けられた固定型部72とを有する。つまり、本実施形態に係るプレス成形型1は、後下カム22の一部を固定型部72とし、後下カム22について部分的にリジッド化を図ったものである。
可動型部71は、左右方向に長い後下カム22の左右方向の大部分をなし、可動型部71の左右両側に、固定型部72が設けられている。つまり、固定型部72は、可動型部71に対し、車幅方向に対応する方向の両側に設けられている。
このように、後下カム22は、左右方向について、可動型部71とその長手方向の両側に設けられた固定型部72との3つの型要素からなる3分割の分割構造を有する。そして、後下カム22において、可動型部71が、上述したような後下カム22の張り動作としての後方への移動、およびワーク20の離型時における前方への移動を行う可動部分となり、固定型部72は、下型における固定部分となる。
可動型部71は、負角形成部27を含み、負角形成部27をワーク20に形成された負角部から逃がすために横下カム24に対して近付く方向に移動可能に設けられている。ここで、可動型部71の移動方向に関し、横下カム24に対して近付く方向、つまり負角形成部27をワーク20に形成された負角部から逃す方向は前方向である(図9(b)、矢印B3参照)。
すなわち、可動型部71は、横下カム24との関係において、上述のとおり後下カム22が横下カム24との間に有する隙間60をなす部分である。したがって、可動型部71の左右両側の端部の前側の部分には、横下カム24の第2傾斜端面62とともに隙間60をなす第1傾斜端面61が形成されている。これに対し、固定型部72は、横下カム24に対して接触した状態あるいは略接触した状態(わずかな隙間を隔てた状態)で設けられている。なお、可動型部71の左右両端部を除いた部分の前側には、横下カム24は存在しない。
固定型部72は、負角形成部27の上側の面である後縁支持成形面33および横下カム24の支持面43と連続する成形面73を有し、横下カム24に対して前後方向について固定の位置に設けられている。固定型部72は、プレス成形型1において図示せぬ支持台(下型)に対してボルト等の固定具によって固定された状態で設けられている。これにより、固定型部72は、上述したようなプレス成形サイクルにおいて、後下カム22および横下カム24といった移動する他の下側の型要素に対して、所定の位置に位置して移動しない型部分となる。
固定型部72は、平面視で前後方向に沿う面であって左右方向の内側の面である内側面74を、可動型部71の左右方向の外側の端面である外側端面75に対する合わせ面とする。可動型部71は、その外側端面75を、固定型部72の内側面74に接触させ、内側面74は、前後方向に移動する可動型部71の摺動面となる。外側端面75は、可動型部71の左右両端部において、左右方向の外側を向く面として、第1傾斜端面61の後側に形成されている。外側端面75は、平面視で前後方向に沿う面であって、平面視において第1傾斜端面61とともに鈍角をなす。固定型部72の内側面74と可動型部71の外側端面75との合わせ面部は、後下カム22における分割線22bをなす。
また、固定型部72は、平面視で左右方向に沿う前面76を、横下カム24の後端面77に対する合わせ面とする。横下カム24は、その後端面77を、固定型部72の前面76に接触させ、前面76は、左右方向に移動する横下カム24の摺動面となる。後端面77は、横下カム24の後端部において、後側を向く面として、第2傾斜端面62の左右外側に形成されている。後端面77は、平面視で左右方向に沿う面であって、平面視において第2傾斜端面62とともに鈍角をなす。固定型部72の前面76と横下カム24の後端面77との合わせ面部は、固定型部72と横下カム24との境界線24cをなす。
可動型部71および2つの固定型部72は、後下カム22の張り動作後の状態、つまり可動型部71が後方に移動した状態において、ワーク20の成形面として一体的に連続した成形面をなすように構成されている。つまり、後下カム22において寄曲刃26とともにワーク20を成形する成形面は、可動型部71および固定型部72のそれぞれが有する成形面により連続した成形面として形成される。具体的には次のとおりである。
後下カム22において、パッド23の押圧面50の横延伸部51とともにワーク20を挟持する上面は、可動型部71が有する負角形成部27の後縁支持成形面33と、後縁支持成形面33に対して左右両側に連続する固定型部72の成形面73とを含む。
また、各固定型部72は、可動型部71が有する負角形成部27を形成する後壁面部成形面36に対して左右外側に連続する第1固定成形面部36Aを有する。つまり、後下カム22は、ルーフパネル2の後壁面部6を形成するための成形面として、後壁面部成形面36およびこれに対して左右両外側に連続する第1固定成形面部36Aを有する。
また、各固定型部72は、可動型部71が有する負角形成部27を形成するドア支持面部成形面37に対して左右外側に連続する第2固定成形面部37Aを有する。つまり、後下カム22は、ルーフパネル2のドア支持面部7を形成するための成形面として、ドア支持面部成形面37およびこれに対して左右両外側に連続する第2固定成形面部37Aを有する。
また、各固定型部72は、可動型部71が有する負角形成部27を形成する後傾斜面部成形面40に対して左右外側に連続する第3固定成形面部40Aを有する。つまり、後下カム22は、ルーフパネル2の後傾斜面部10を形成するための成形面として、後傾斜面部成形面40およびこれに対して左右両外側に連続する第3固定成形面部40Aを有する。
また、固定型部72は、ルーフパネル2の段差面部11を形成するための成形面として、横下カム24の段差面部成形面41に対して後側に連続する後側段差面部成形面41Aを有する。また、固定型部72は、ルーフパネル2のサイドフランジ部12を形成するための成形面として、横下カム24のサイドフランジ部成形面42に対して後側に連続する後側サイドフランジ部成形面42Aを有する。
以上のように可動型部71および左右両側の固定型部72を有する後下カム22において、固定型部72は、可動型部71の負角形成部27を形成する成形面に連続した成形面を有しながら、可動型部71の角部35に連続する固定側角部35Aについて、ワーク20の離型方向に対して負角をなさない形状(非負角形状)を有する。つまり、図12に示すように、固定型部72において、側面断面視における固定側角部35Aの角度α1は、90°以上の角度(例えば95°)となっている。なお、固定側角部35Aは、成形面73と第1固定成形面部36Aとがなす角部分である。
このような固定型部72の型形状により、固定型部72は、ワーク20の離型時において、ワーク20との干渉を避けるための前方への移動を不要とする。これにより、固定型部72は、横下カム24との間の隙間を不要とし、横下カム24に対して接触あるいは略接触するように固定の位置に設けられている。
以上のような後下カム22を備えたプレス成形型1においては、ワーク20の取出しに際し、ワーク20の離型時におけるワーク20と負角形成部27との干渉を避けるため、次のような動作が行われる。すなわち、図13に示すように、後下カム22のうち、可動型部71の部分が前方に移動する(矢印X1参照)。そして、ワーク20の成形前における後下カム22の張り動作としては、後下カム22のうち、可動型部71の部分が後方に移動する(矢印X2参照)。一方、可動型部71の左右両側の固定型部72は、ワーク20の成形前の後下カム22の張り動作の際、およびワーク20の離型時における後下カム22の前方への移動の際のいずれの際においても、移動せずに固定位置に存在する。なお、図11は、後下カム22の張り動作後の状態を示している。
以上のような構成を備えた本実施形態に係るプレス成形型1により成形されるルーフパネル2について、図1、図2、図14から図16を用いて詳細に説明する。図14は図2におけるA−A位置の断面図であり、図15は図2におけるB−B位置の断面図であり、図16は図2におけるC−C断面図である。
図14、図15および図16に示すように、上述のとおり、ルーフパネル2の後側には、回転軸O1を中心として回動するバックドア80が設けられる。そして、ルーフパネル2の後縁部とバックドア80の前縁部との間には、見切り隙と呼ばれるクリアランス81が存在する。
ここで、見切り隙をなすルーフパネル2の後縁部は、ルーフパネル2の後上側の角部分、つまりルーフ本体面部3の後縁部と後壁面部6とにより形成される角部5である。また、バックドア80の前端縁は、バックドア80の前上側の縁端であり、本実施形態ではバックドア80の前側の縁端に装着されるスポイラ82の前端縁である。スポイラ82は、ルーフパネル2における稜線4の湾曲形状に沿うように湾曲している。
このようにルーフパネル2の後側にバックドア80が設けられた構成においては、バックドア80の所定の開閉角度(例えば70〜80°)の回動範囲θ1において、ルーフパネル2とバックドア80とが互いに干渉しないことを条件として、回転軸O1の位置やバックドア80の形状等に対して、ルーフパネル2の形状が設定される。具体的には、回転軸O1を中心としたバックドア80の前側の最大外径位置P1の回動軌跡L1がルーフパネル2に干渉しないことが条件に含まれる。ここで、最大外径位置P1は、バックドア80の(スポイラ82の)寸法のバラつきや熱変形による寸法のバラつき等を考慮した最大の外径位置であり、スポイラ82の湾曲形状により、断面位置ごとに異なる位置に位置する。一方で、見切り隙としてのクリアランス81は、一般的に、自動車の外観上、狭いほど好ましい。
そこで、上記のような条件を満たすように、回転軸O1は、可及的にルーフパネル2の後壁面部6に近くの位置に設けられ、ルーフパネル2においては、角部5に負角部5Aが形成されている。そして、ルーフパネル2の角部5において、負角部5Aは、左右方向について、寄曲刃26と可動型部71により成形される範囲において形成されており、それよりも左右外側、つまり寄曲刃26と固定型部72により成形される部分については、角部5は非負角形状の非負角部5Bとなっている。
図14に示すように、ルーフパネル2の左右方向の中央位置であるA−A位置においては、ルーフ本体面部3の後端縁部と後壁面部6とにより、角部5として負角部5Aが形成されている。この断面位置において、後壁面部6は、ルーフ本体面部3とともに稜線4をなす上端部である鉛直状の上縦壁面部91と、上縦壁面部91の下側の部分であって上側から下側にかけて前側(図14において左側)に向けて傾斜した傾斜面部92と、傾斜面部92の下側の部分である鉛直状の下縦壁面部93とを有する。これらの各面部を有する後壁面部6の部位においては、下縦壁面部93が上縦壁面部91に対して傾斜面部92を介して前側に位置し、上下方向について後側(図14において右側)に対して凹状をなす壁面形状が形成されており、角部5が負角形状となっている。
そして、左右方向におけるA−A位置においては、最大外径位置P1の回動軌跡L1が、後壁面部6の凹状の壁面形状に沿うように、上縦壁面部91よりも前側に張り出している。後壁面部6の壁面形状は、回動軌跡L1にできるだけ近くなるように、かつ回動軌跡L1に干渉しないように設定される。A−A位置において、後壁面部6に対する回動軌跡L1の最近接位置は、傾斜面部92に対する位置であり、その位置における後壁面部6と回動軌跡L1との隙間S1は、例えば0.数mmである。また、下縦壁面部93およびドア支持面部7の部分の形状については、バックドア80が開き端に位置する状態(最大外径位置P1が位置P1aに位置する状態)で、回動軌跡L1が後壁面部6およびドア支持面部7に干渉しないように、つまりバックドア80が後壁面部6に接触したりドア支持面部7に底付きしたりしないように設定される。
図15に示すように、ルーフパネル2の左右方向の外側寄りの位置であるB−B位置においては、A−A位置の場合と同様に、ルーフ本体面部3の後端縁部と後壁面部6とにより、角部5として負角部5Aが形成されている。すなわち、この断面位置において、後壁面部6は、上縦壁面部91、傾斜面部92、および下縦壁面部93を有し、上下方向について後側に対して凹状をなす壁面形状をなし、角部5を負角形状としている。なお、本実施形態では、B−B位置は、ヒンジ取付座面部9の位置である。
そして、左右方向におけるB−B位置において、最大外径位置P1の回動軌跡L1は、A−A位置の場合と同様に、上縦壁面部91よりも前側に張り出している。また、B−B位置において、後壁面部6に対する回動軌跡L1の最近接位置は、傾斜面部92に対する位置であり、その位置における後壁面部6と回動軌跡L1との隙間S2は、A−A位置における隙間S1よりも大きく、例えば1〜2mm程度である。また、B−B位置においては、下縦壁面部93、ドア支持面部7、およびヒンジ取付座面部9の部分の形状が、バックドア80が後壁面部6に接触したりドア支持面部7に底付きしたりしないように設定される。
図16に示すように、ルーフパネル2の左右方向の外側端部の位置であるC−C位置においては、ルーフ本体面部3の後端縁部と後壁面部6とにより、角部5として鈍角側の略直角状の非負角部5Bが形成されている。この断面位置において、後壁面部6は、上下方向について下端部を除いた大部分を、上側から下側にかけて後側(図16において右側)に向けてわずかに傾斜した傾斜面部96とする。具体的には、傾斜面部96の鉛直線T1に対する傾斜角度θ2は、例えば5°程度である。このように傾斜面部96を有する後壁面部6の部位においては、ルーフ本体面部3と傾斜面部96とにより形成される角部5は、例えば95°程度の鈍角をなす非負角部5Bとなっている。
そして、左右方向におけるC−C位置において、最大外径位置P1の回動軌跡L1は、後壁面部6の傾斜面部96に対してわずかな隙間S3を隔てた後側を通る。つまり、後壁面部6における傾斜面部96を有する部位の壁面形状は、回動軌跡L1にできるだけ近くなるように、かつ回動軌跡L1に干渉しないように設定される。傾斜面部96と回動軌跡L1との隙間S3は、例えば0.数mmである。また、C−C位置においては、後壁面部6およびドア支持面部7の部分の形状が、バックドア80が傾斜面部96に接触したりドア支持面部7に底付きしたりしないように設定される。
以上のようなA−A位置、B−B位置、およびC−C位置の各断面位置における条件が満たされるように、ルーフパネル2とバックドア80との見切り隙をなす部分の曲線形状(曲面形状)が設定される。具体的には、例えば、稜線4が上記の3箇所の各断面位置における稜線4に対応する点を通る滑らかな曲線形状となるように設定され、ルーフパネル2の後部において角部5をなすルーフ本体面部3の後縁部および後壁面部6等の形状が設定される。こうしたルーフパネル2の形状は、プレス成形型1における加工カム21(寄曲刃26)および後下カム22の成形面の形状に符合している。
以上のように、本実施形態において、プレス成形型1による成形品は、車幅方向を回転軸方向とするバックドア80を有する自動車の車体を構成するルーフパネル2であり、ルーフパネル2におけるルーフ本体面部3と後壁面部6による角部5としての負角部5Aおよび非負角部5Bは、バックドア80の前縁部とともに見切りをなす部分である。
そして、ルーフパネル2の後壁面部6は、角部5としてルーフ本体面部3とともに鉛直状の所定の基準線に対する負角部5Aをなす負角形成面部6Aと、角部5としてルーフ本体面部3とともにルーフ本体面部3が所定の基準線に対してなす角度以上の角度をなす非負角形成面部6Bとを含む。ここで、上記の所定の基準線は、プレス成形型1におけるワーク20の離型方向に沿う上下方向であり、図16に示す鉛直線T1である。
後壁面部6が鉛直線T1に対してなす角度について、鉛直線T1を基準(0°)として、鉛直線T1よりも後側(図16、矢印H1参照)が正の角度、鉛直線T1よりも前側(図16、矢印H2参照)が負の角度(負角)となる。そして、負角形成面部6Aは、傾斜面部92により鉛直線T1に対して負角をなす部分であり、非負角形成面部6Bは、傾斜面部96により鉛直線T1に対して正の角度をなす部分である。すなわち、負角形成面部6Aは、A−A断面位置やB−B断面位置のように負角側に傾斜した傾斜面部92を有する部分であり、非負角形成面部6Bは、C−C断面位置のように正の角側に傾斜した傾斜面部96を有する部分である。
図2に示すように、後壁面部6において、左右方向について、負角形成面部6Aの形成範囲J1は、寄曲刃26と可動型部71により成形される範囲、つまり負角部5Aの範囲と一致あるいは略一致している。また、後壁面部6において、左右方向について、非負角形成面部6Bの形成範囲J2は、寄曲刃26と固定型部72により成形される範囲、つまり非負角部5Bの範囲と一致あるいは略一致している。
本実施形態では、負角形成面部6Aの形成範囲J1は、後壁面部6の全体に対して左右方向の両端部を除いた大部分の範囲であり、負角形成面部6Aの形成範囲J1の左右両側が、非負角形成面部6Bの形成範囲J2となっている。非負角形成面部6Bの形成範囲J2は、例えば左右方向の寸法について50mm程度の範囲である。
このようにルーフパネル2において後壁面部6の左右両端部に形成された非負角形成面部6Bによる非負角形状により、プレス成形型1において、寄曲刃26とともに非負角形成面部6Bを形成する固定型部72は、ワーク20の成形時の位置のままで(前方に移動することなく)、鉛直上方向きを離型方向とするワーク20を離型させることができる。これにより、固定型部72は、横下カム24との間の隙間を不要とし、横下カム24に対して接触あるいは略接触するように固定の位置に設けられる。なお、ワーク20と可動型部71および固定型部72との関係に関し、可動型部71により形成される部分には、非負角部5Bおよび非負角形成面部6Bが含まれていてもよいが、固定型部72により形成される部分は、全て非負角部5Bおよび非負角形成面部6Bとなる。
以上のような本実施形態に係るプレス成形型1およびルーフパネル2によれば、負角部の成形にともなって生じる不具合を解消することができ、外観品質を向上させることができる。
具体的には、本実施形態に係るプレス成形型1およびルーフパネル2によれば、可動型部71および固定型部72を有する後下カム22の分割構成により、上述したような想定例の構成(図10(a)、(b)参照)において後下カム22と横下カム24との間に存在する隙間60の隙間部分60bを無くすことができる。これにより、ルーフパネル2において隙間部分60bに対応する部分、つまりルーフ本体面部3の後端部の左右両側の端部の部位(図1、図2、符号C1参照)に、凹状の面歪みが発生することを防止することが可能となる。これにより、ルーフパネル2の外観品質、延いては自動車の外観品質を向上させることができる。
また、ルーフパネル2において凹状の面歪みが生じた場合、その歪みに対する改修が必要となるが、上述のとおり歪みの発生を防止することが可能となるため、ルーフパネル2の改修の手間が不要となり、生産性を向上することができる。
特に、本実施形態に係るプレス成形型1のように、本発明に係るプレス成形型を、左右方向を回転軸方向とするバックドア80を有する自動車のルーフパネル2の成形型として適用することにより、上述したようなルーフパネル2における歪みを防止するため、ルーフパネル2とバックドア80との見切りとプレス成形型の型構造の両立を実現することが可能となる。
また、本実施形態に係るプレス成形型1によれば、互いに異なる方向に移動可能に設けられた後下カム22および左右の横下カム24によるダブルカム構造を備えることから、ルーフパネル2における後側の成形と左右両サイドの成形とを一つの工程で同時的に行うことが可能となる。これにより、工程を短縮することができるとともに、上述したようなルーフパネル2における歪みを防止することが可能となる。
以上のように実施形態を用いて説明した本発明に係るプレス成形型および車両用ルーフパネルは、上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨に沿う範囲で、種々の態様を採用することができる。