以下、本発明の複数の実施形態について図面を参照して説明する。なお、各実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について図1〜図4を参照して説明する。
図1に示す三相インバータ装置1は、モータ2を駆動するものであり、インバータ主回路3、検出回路4〜9、コントローラ10などを備えている。モータ2は、例えば車両に搭載される三相交流モータである。インバータ主回路3は、例えば車載のバッテリである直流電源11から一対の直流電源線L1、L2を通じて供給される直流電圧を、U相、V相およびW相の三相の交流電圧に変換して出力する。
インバータ主回路3のU相、V相およびW相、つまり三相の各出力端子は、モータ2の三相の端子にそれぞれ接続されている。これにより、インバータ主回路3からモータ2に対し三相電流、つまり三相のモータ電流Iu、Iv、Iwが供給され、モータ2が駆動される。インバータ主回路3は、直流電源線L1、L2間にそれぞれ接続された三相のハーフブリッジ回路3u、3vおよび3wを備えている。ハーフブリッジ回路3u、3v、3wは、モータ2に供給するための三相のモータ電流Iu、Iv、Iwを生成する。なお、以下では、モータ電流のことを相電流とも呼ぶ。
ハーフブリッジ回路3uは、スイッチング素子12、13を備えている。ハーフブリッジ回路3uの上アームを構成するスイッチング素子12は、高電位側の電源線L1と、インバータ主回路3のU相の出力端子となるノードNuとの間に接続されている。ハーフブリッジ回路3uの下アームを構成するスイッチング素子13は、ノードNuと、低電位側の電源線L2との間に接続されている。
ハーフブリッジ回路3vは、スイッチング素子14、15を備えている。ハーフブリッジ回路3vの上アームを構成するスイッチング素子14は、電源線L1と、インバータ主回路3のV相の出力端子となるノードNvとの間に接続されている。ハーフブリッジ回路3vの下アームを構成するスイッチング素子15は、ノードNvと、電源線L2との間に接続されている。
ハーフブリッジ回路3wは、スイッチング素子16、17を備えている。ハーフブリッジ回路3wの上アームを構成するスイッチング素子16は、電源線L1と、インバータ主回路3のW相の出力端子となるノードNwとの間に接続されている。ハーフブリッジ回路3wの下アームを構成するスイッチング素子17は、ノードNwと、電源線L2との間に接続されている。
スイッチング素子12〜17は、いずれもメインセル18およびセンスセル19を備えたNチャネル型のパワーMOSFETである。メインセル18は、インバータ主回路3からモータ2に対する通電を行うための主たる通電経路に介在している。すなわち、上アームを構成するスイッチング素子12、14、16のメインセル18のドレインは電源線L1に接続され、そのソースはノードNu、Nv、Nwにそれぞれ接続されている。下アームを構成するスイッチング素子13、15、17のメインセル18のドレインはノードNu、Nv、Nwにそれぞれ接続され、そのソースは電源線L2に接続されている。
センスセル19は、アーム電流、つまりメインセル18に流れる素子電流を検出するためのものであり、メインセル18に流れる電流に応じた電流が所定の分流比で流れる。なお、この分流比は、メインセル18およびセンスセル19のサイズ比などにより定まる。このような構成によれば、メインセル18に比較的大きな電流が流れる場合でも、その電流検出を容易に行うことができる。
メインセル18およびセンスセル19のゲートは、共通接続されており、その共通のゲートには、コントローラ10から出力される駆動信号が与えられている。具体的には、U相のスイッチング素子12、13のゲートには駆動信号G_up、G_unがそれぞれ与えられ、V相のスイッチング素子14、15には駆動信号G_vp、G_vnがそれぞれ与えられ、W相のスイッチング素子16、17には駆動信号G_wp、G_wnがそれぞれ与えられる。
メインセル18およびセンスセル19の各ソースは、検出回路4〜9の入力端子にそれぞれ接続されている。検出回路4〜9は、センスセル19に流れる電流に基づいてスイッチング素子12〜17に流れる素子電流を検出する。したがって、本実施形態では、センスセル19および検出回路4〜9により、電流検出部が構成されている。
検出回路4〜9は、スイッチング素子12〜17のセンスセル19に流れる電流を検出し、その検出値を表す電流検出信号を出力する。具体的には、U相の検出回路4、5は、スイッチング素子12、13のセンスセル19に流れる電流の検出値を表す電流検出信号I_up、I_unをそれぞれ出力する。
V相の検出回路6、7は、スイッチング素子14、15のセンスセル19に流れる電流の検出値を表す電流検出信号I_vp、I_vnをそれぞれ出力する。W相の検出回路8、9は、スイッチング素子16、17のセンスセル19に流れる電流の検出値を表す電流検出信号I_wp、I_wnをそれぞれ出力する。
検出回路4〜9から出力される電流検出信号I_up〜I_wnは、コントローラ10に与えられる。なお、図示は省略しているが、検出回路4〜9の具体的な構成としては、例えば、メインセル18およびセンスセル19の各ソース電圧が入力されるOPアンプと、そのOPアンプの出力端子およびセンスセル19のソースの間に接続される抵抗と、その抵抗の両端電圧が入力されるA/D変換器と、を備えた構成を採用することができる。
上記構成によれば、抵抗の両端電圧はセンスセル19に流れる電流に対応した電圧となり、このような電圧をA/D変換して得られるデジタル信号が、電流検出信号としてコントローラ10に送信される。また、上記構成では、OPオペアンプの動作により、メインセル18のソースとセンスセル19のソースが同電位となる。そのため、コントローラ10は、センスセル19に流れる電流に対応した電流検出信号に基づいて、メインセル18に流れる素子電流を精度良く検出することが可能となる。
コントローラ10は、モータ2の駆動を制御するものであり、モータ電流推定部20、駆動制御部21、三相総和算出部22、故障検出処理部23、故障検出カウンタ24などを備えている。モータ電流推定部20は、検出回路4〜9から与えられる電流検出信号I_up〜I_wnに基づいてスイッチング素子12〜17に流れる素子電流を検出する処理と、それら検出した素子電流から相電流Iu、Iv、Iwを推定する処理と、を実行する。本実施形態では、モータ電流推定部20は、電流検出部による電流の検出結果に基づいてモータ2に供給される三相電流を算出する三相電流算出部に相当する。
上記した素子電流を検出する処理は、モータ2の制御方式に対応した通常の検出タイミングで行われる。例えば、モータ2の制御方式が三角波比較の制御方式である場合、キャリアである三角波信号が最大値または最小値、つまり頂点に達したタイミングが、通常の検出タイミングに相当する。
なお、モータ電流推定部20は、このような通常の検出タイミングにおいて、三相分の素子電流を検出できないことがある。その理由は、次の通りである。すなわち、本実施形態の検出回路4〜9は、上記したような構成であるため、スイッチング素子12〜17がオン駆動されていないと、素子電流を正しく検出することができない。
モータ2の制御状態によっては、通常の検出タイミングと、スイッチング素子12〜17に与えられる駆動信号がオンレベルとなる時間が短い期間、つまりオンパルス幅が短い期間とが重複することがあり、そうすると、モータ電流推定部20は、三相分の素子電流を検出することができない。この場合、モータ電流推定部20は、検出できた二相分の素子電流から検出できなかった残りの一相の素子電流を推定する。
モータ電流推定部20は、後述する故障検出処理の実行が可能であるか否かを表す可否信号を三相総和算出部22および故障検出処理部23に出力する。詳細は後述するが、モータ電流推定部20は、電流検出信号I_up〜I_wnに基づいて三相分の素子電流を検出することができた場合、それら三相分の素子電流から相電流Iu、Iv、Iwを求めるとともに、故障検出処理の実行が「可」である旨を表す可否信号を出力する。
また、モータ電流推定部20は、電流検出信号I_up〜I_wnに基づいて二相分の素子電流しか検出できなかった場合、それら二相分の素子電流から対応する二相の相電流を求めるとともに、それら二相分の素子電流から残りの一相の相電流を推定する。なお、相電流の推定手法については後述する。二相分の素子電流しか検出できなかった場合、モータ電流推定部20は、上述したようにして相電流Iu、Iv、Iwを推定するとともに、故障検出処理の実行が「否」である旨を表す可否信号を出力する。
駆動制御部21は、電流検出部による電流の検出結果に基づいてハーフブリッジ回路3u、3v、3wの動作を制御する。具体的には、駆動制御部21は、モータ電流推定部20により推定された相電流Iu、Iv、Iwに基づいてインバータ主回路3を駆動するための駆動信号G_up〜G_wnを生成して出力し、これによりモータ2に流れる電流を制御する。
三相総和算出部22は、モータ電流推定部20により推定された相電流Iu、Iv、Iw、つまり三相電流の総和の絶対値を算出し、その算出結果を故障検出処理部23へ出力する総和算出処理を実行することができる。この場合、三相総和算出部22は、モータ電流推定部20から与えられる可否信号が「可」である場合には総和算出処理を実行するが、可否信号が「否」である場合には総和算出処理を実行しない。なお、三相総和算出部22は、可否信号にかかわらず、常に総和算出処理を実行するような構成でもよい。
故障検出処理部23は、電流検出部の故障を検出するための故障検出処理を実行することができる。故障検出処理部23は、モータ電流推定部20から与えられる可否信号が「可」である場合には故障検出処理を実行するが、可否信号が「否」である場合には故障検出処理を実行しない。
前述したように、本実施形態では、電流検出部は、センスセル19および検出回路4〜9により構成されている。したがって、この場合、電流検出部の故障には、検出回路4〜9の回路故障だけでなく、センスセル19を含むスイッチング素子12〜17の素子故障およびセンスセル19に関連する配線の断線などの配線故障も含まれる。
本実施形態における故障検出処理には、第1判定処理、カウント値加算処理および第2判定処理が含まれている。第1判定処理は、三相総和算出部22から与えられる三相電流の総和の絶対値の算出結果に基づいて電流検出部が正常であるか否かを判定する処理である。カウント値加算処理は、第1判定処理において電流検出部が正常ではないと判定された場合に、その判定結果に応じた所定値を故障検出カウント値に加算する処理である。第2判定処理は、故障検出カウント値が所定の故障判定値を超えると電流検出部が故障していると判定する処理である。
なお、上記した故障検出カウント値は、故障検出カウンタ24を用いてカウントされる。本実施形態では、故障検出カウンタ24は、三相のハーフブリッジ回路3u、3v、3wの各アームのそれぞれに対応して6つ設けられている。この場合、故障検出処理部23が6つの故障検出カウンタ24のそれぞれを用いて上記各処理を実行することにより、故障した電流検出部を特定することが可能となっている。
次に、上記構成の作用について説明する。
[1]電流検出部の故障検出に関連する処理の全体の流れ
コントローラ10による処理のうち、電流検出部の故障検出に関連する処理は、図2に示すような内容の処理となる。まず、ステップS100では、電流検出信号I_up〜I_wnに基づいてスイッチング素子12〜17に流れる素子電流が検出される。なお、この場合の検出タイミングは、モータ2の制御方式に対応した通常の検出タイミングとなる。例えば、三角波比較の制御方式の場合、キャリアである三角波信号が頂点、つまり最大値または最小値に達したタイミングが、通常の検出タイミングに相当する。
ステップS200では、ステップS100で検出された素子電流から相電流Iu、Iv、Iwを推定するモータ電流推定処理が実行される。なお、モータ電流推定処理の内容については後述する。ステップS300では、可否信号に基づいて、三相分の素子電流の検出ができ、それら素子電流の検出値から三相電流を推定したか否かが判断される。三相分の素子電流の検出ができなかった場合、ステップS300で「NO」となり、処理が終了となる。
一方、三相分の素子電流の検出ができた場合、ステップS300で「YES」となり、ステップS400に進む。ステップS400では、ステップS200で推定された相電流Iu、Iv、Iwの総和の絶対値を算出する総和算出処理が実行される。なお、以下では、相電流Iu、Iv、Iwの総和の絶対値のことを「三相の総和」とも呼ぶ。ステップS500では、ステップS400で算出される三相の総和を用いて電流検出部の故障を検出する故障検出処理が実行される。なお、故障検出処理の内容については後述する。
[2]モータ電流推定処理の内容
本実施形態のモータ電流推定処理は、図3に示すような内容の処理となっている。まず、ステップS201では、通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流を検出できたか否かが判断される。通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流を検出できた場合、ステップS201で「YES」となり、ステップS202に進む。
ステップS202では、検出された各素子電流の値から各相電流Iu、Iv、Iwの値が求められる。具体的には、相電流Iuの値がU相の素子電流の検出値に更新され、相電流Ivの値がV相の素子電流の検出値に更新され、相電流Iwの値がW相の素子電流の検出値に更新される。
なお、上述した各相の素子電流の検出値は、各相の上アームまたは下アームの素子電流の検出値であり、図3および以下の説明では、検出値I_u*、検出値I_v*、検出値I_w*と表す。ステップS202の実行後は、ステップS203に進む。この場合、三相分の素子電流を検出することができている。そのため、ステップS203において、可否信号が「可」に設定される。
通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流を検出できなかった場合、ステップS201で「NO」となり、ステップS204に進む。ステップS204では、U相の素子電流が検出できなかったか否かが判断される。U相の素子電流が検出できなかった場合、ステップS204で「YES」となり、ステップS205に進む。
ステップS205では、検出値I_v*、I_w*から各相電流Iu、Iv、Iwの値が求められる。具体的には、ステップS205では、相電流Ivの値が検出値I_v*に更新され、相電流Iwの値が検出値I_w*に更新される。また、相電流Iuの値は、検出値I_v*、I_w*を用いた計算により求められる。
すなわち、本実施形態の構成では、各回路が正常であれば、相電流Iu、Iv、Iwの総和がゼロとなる、つまり「Iu+Iv+Iv=0」が成立する。そこで、ステップS205では、相電流Iu、Iv、Iwの総和がゼロとなることを利用し、相電流Iuの値は、下記(1)式に基づいて計算される。
Iu=−I_v*−I_w* …(1)
一方、U相の素子電流が検出できた場合、ステップS204で「NO」となり、ステップS206に進む。ステップS206では、V相の素子電流が検出できなかったか否かが判断される。V相の素子電流が検出できなかった場合、ステップS206で「YES」となり、ステップS207に進む。
ステップS207では、検出値I_u*、I_w*から各相電流Iu、Iv、Iwの値が求められる。具体的には、ステップS207では、相電流Iuの値が検出値I_u*に更新され、相電流Iwの値が検出値I_w*に更新される。また、相電流Ivの値は、検出値I_u*、I_w*を用いた計算により求められる。この場合、相電流Ivの値は、ステップS205と同様、相電流Iu、Iv、Iwの総和がゼロとなることを利用し、下記(2)式に基づいて計算される。
Iv=−I_u*−I_w* …(2)
一方、V相の素子電流が検出できた場合、ステップS206で「NO」となり、ステップS208に進む。ステップS208では、検出値I_u*、I_v*から各相電流Iu、Iv、Iwの値が求められる。具体的には、ステップS208では、相電流Iuの値が検出値I_u*に更新され、相電流Ivの値が検出値I_v*に更新される。また、相電流Iwの値は、検出値I_u*、I_v*を用いた計算により求められる。この場合、相電流Iwの値は、ステップS205、S207と同様、相電流Iu、Iv、Iwの総和がゼロとなることを利用し、下記(3)式に基づいて計算される。
Iw=−I_u*−I_v* …(3)
ステップS205、S207またはS208の実行後は、ステップS209に進む。この場合、三相分の素子電流を検出することができていない。そのため、ステップS209において、可否信号が「否」に設定される。このようにする理由は、次の通りである。すなわち、三相分の素子電流を検出できなかった場合、素子電流を検出できなかった相の相電流は、上記(1)〜(3)式に基づいて計算される。
したがって、この場合、三相の総和は必ずゼロとなる。後述する故障検出処理の第1判定処理では、三相の総和に基づいて電流検出部が正常であるか否かが判定されるようになっており、三相の総和が必ずゼロとなる状態では、正確な判定を行うことができない。このようなことから、三相分の素子電流を検出することができない場合、故障判定処理が実行されることがないように、可否信号が「否」に設定されるようになっている。ステップS203またはS209の実行後、モータ電流推定処理が終了となる。
上述したように、本実施形態のモータ電流推定処理では、三相分の素子電流を検出できなかった場合、素子電流を検出できなかった相がどの相であるかについて、U相→V相→W相の順で確認するようになっている。なお、このような確認のための処理の順番は、必ずしもこの順に限らずともよく、入れ替えてもよい。また、このような確認のための処理は、必ずしも図3に示すように逐次処理する必要はなく、並列処理するようにしてもよい。
[3]故障検出処理の内容
本実施形態の故障検出処理は、図4に示すような内容の処理となっている。なお、この故障検出処理では、故障検出カウンタ24の故障検出カウント値の保持、加算などが行われるが、その対象となる故障検出カウンタ24は、ステップS100で検出された三相分の素子電流が流れるアームに対応して設けられた3つの故障検出カウンタ24となる。また、故障検出カウント値の初期値は、ゼロになっている。
まず、ステップS501では、三相の総和が第1閾値Ith1未満であるか否かが判断される。第1閾値Ith1は、電流検出部が正常であるか否か、つまり電流検出部に故障が生じている可能性があるか否かを判定するためのものであり、本実施形態では、例えば「10A」に設定されている。なお、第1閾値Ith1は、上記構成における電流の検出精度を考慮したうえで、電流検出部の故障検出について、所望する検出応答性が得られるとともに誤検出の発生率を所望する程度に抑えられるような値に設定すればよい。
三相の総和が第1閾値Ith1未満である場合、ステップS501で「YES」となり、ステップS502に進む。ステップS502では、故障検出カウント値が現状の値に保持される。一方、三相の総和が第1閾値Ith1以上である場合、ステップS501で「NO」となり、ステップS503に進む。
ステップS503では、故障検出カウント値に加算するための所定値Aが選択される。具体的には、ステップS503では、三相の総和が第2閾値Ith2未満である場合には所定値Aとして「+2」が選択され、三相の総和が第2閾値Ith2以上である場合には所定値Aとして「+10」が選択される。
なお、第2閾値Ith2は、第1閾値Ith1よりも大きい値に設定されている。具体的には、第2閾値Ith2は、電流検出部に何らかの故障が発生していると明確に判断できるような値であり、本実施形態では、例えば「100A」に設定されている。したがって、ステップS503では、電流検出部に何らかの故障が発生していると明確に判断できない場合に選択される所定値Aよりも、電流検出部に何らかの故障が発生していると明確に判断できる場合に選択される所定値Aのほうが、大きな値となるようになっている。
ステップS503の実行後はステップS504に進み、故障検出カウント値に対し、ステップS503で選択された所定値Aが加算される。ステップS502またはS504の実行後は、ステップS505に進む。ステップS505では、故障検出カウント値が故障判定値Cthを超えているか否かが判断される。故障判定値Cthは、本実施形態では、例えば「100」に設定されている。なお、故障判定値Cthは、上記構成における電流の検出精度を考慮したうえで、電流検出部の故障検出について、所望する検出応答性が得られるとともに誤検出の発生率を所望する程度に抑えられるような値に設定すればよい。
故障検出カウント値が故障判定値Cthを超えている場合、ステップS505で「YES」となり、ステップS506に進む。ステップS506では、電流検出部に故障が生じていると判定される。一方、故障検出カウント値が故障判定値Cth以下である場合、ステップS505で「NO」となり、ステップS507に進む。ステップS507では、電流検出部に故障が生じておらず、電流検出部が正常であると判定される。ステップS506またはS507の実行後、故障検出処理が終了となる。
なお、図4に示した各処理のうち、ステップS501が第1判定処理に相当し、ステップS503およびS504がカウント値加算処理に相当し、ステップS505〜S507が第2判定処理に相当する。
以上説明した本実施形態によれば、次のような効果が得られる。
上記構成の故障検出処理では、第1判定処理および第2判定処理という2つの判定処理を経て電流検出部の故障が検出されるようになっている。そして、上記構成では、第1判定処理において三相電流の総和に基づく判定を実施するために用いられる第1閾値Ith1の設定に応じて、故障検出の感度を任意の値に設定することができる。しかも、上記構成では、第1判定処理において電流検出部が正常ではないと判定された場合でも、直ちに故障検出が確定することがないため、ノイズなどによる誤検出の発生頻度が低く抑えられる。
また、上記構成では、第2判定処理において用いられる故障判定値Cthの設定に応じて、検出応答性を任意の値に設定することができる。したがって、上記構成によれば、電流検出部の故障検出について、その検出応答性を高めつつ、その誤検出を防止することができるという優れた効果が得られる。
さらに、カウント値加算処理では、三相の総和が第1閾値Ith1よりも大きい第2閾値Ith2未満である場合よりも、三相の総和が第2閾値Ith2以上である場合のほうが、故障検出カウント値に加算する所定値Aが大きい値となるようになっている。つまり、本実施形態では、三相の総和が本来あるべき値であるゼロから離れた値であるほど、カウント値加算処理において故障検出カウント値に加算される所定値Aが大きい値となる。このようにすれば、ノイズなどによる誤検出の発生頻度を低く抑えつつ、センスセル19および検出回路4〜9などの耐久劣化や壊れ始めなどの三相の総和の変動が比較的小さい異常も検出することができるとともに、三相の総和の変動が比較的大きい明らかな故障については比較的短い時間で検出することが可能となる。
このように、本実施形態では、三相の総和と比較する閾値として、第1閾値Ith1および第2閾値Ith2という2つの閾値が設けられている。そして、本実施形態によれば、それら2つの閾値および故障検出カウント値と比較するための故障判定値Cthを、上記構成における電流の検出精度などを考慮して設定することにより、電流検出部の故障検出について、所望する検出応答性を得ることができるとともに、誤検出の発生頻度を所望する程度に抑えることができる。
三相のハーフブリッジ回路3u、3v、3wを構成するスイッチング素子12〜17は、メインセル18およびセンスセル19を備えた構成である。そして、本実施形態の電流検出部を構成する検出回路4〜9は、センスセル19に流れる電流に基づいてスイッチング素子12〜17に流れる素子電流を検出する構成となっている。このような構成によれば、相電流Iu、Iv、Iwを検出する電流センサを設けた構成に比べ、装置の製造コストを低く抑えるとともに、装置の体格を小さく抑えることができる。そして、本実施形態の故障検出処理によれば、このような素子電流検出の構成の電流検出部についての故障を検出することができ、その故障検出に関して上述したような効果を得ることができる。
故障検出カウンタ24は、三相のハーフブリッジ回路3u、3v、3wを構成する6つのアームのそれぞれに対応して設けられている。また、故障検出処理では、6つの故障検出カウンタ24のうち、ステップS100で検出された三相分の素子電流が流れるアームに対応して設けられた3つの故障検出カウンタ24を対象として故障検出カウント値の保持、加算などが行われる。例えば、ステップS100においてU相上アーム、V相下アームおよびW相下アームの各素子電流が検出された場合、U相上アーム、V相下アームおよびW相下アームに対応した3つの故障検出カウンタ24を対象としてカウント動作が行われる。そして、故障検出カウント値が故障判定値Cthを超えていると判断された際、その故障検出カウント値をカウントした故障検出カウンタ24に対応したアームの素子電流を検出する電流検出部に故障が生じたと判断することができる。したがって、上記構成によれば、電流検出部の故障が検出された際、その故障した電流検出部を特定することも可能となる。
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について図5を参照して説明する。
第2実施形態では、故障検出処理の内容が第1実施形態と異なっている。なお、三相インバータ装置1の構成は、第1実施形態と共通する。
図5に示すように、本実施形態の故障検出処理では、第1実施形態の故障検出処理のステップS503に代えてステップS513が設けられている。ステップS513では、ステップS503と同様、故障検出カウント値に加算するための所定値Aが選択される。ただし、この場合、所定値Aは、モータ2の制御方式に応じた値に設定される。
具体的には、ステップS513では、三相の総和が第2閾値Ith2未満であり且つモータ2の制御方式が三角波比較の制御方式である場合には所定値Aとして「+2」が選択され、三相の総和が第2閾値Ith2未満であり且つモータ2の制御方式が電圧位相制御の制御方式である場合には所定値Aとして「+3」が選択される。
また、ステップS513では、三相の総和が第2閾値Ith2以上であり且つモータ2の制御方式が三角波比較の制御方式である場合には所定値Aとして「+10」が選択され、三相の総和が第2閾値Ith2以上であり且つモータ2の制御方式が電圧位相制御の制御方式である場合には所定値Aとして「+15」が選択される。つまり、ステップS513において、所定値Aは、モータ2の制御方式が電圧位相制御の場合、三角波比較の場合に比べ、1.5倍に設定されるようになっている。なお、本実施形態では、ステップS513およびS504がカウント値加算処理に相当する。
以上説明したように、本実施形態の故障検出処理では、カウント値加算処理において故障検出カウント値に加算される所定値Aが、モータ2の制御方式に応じた値に設定されるようになっている。このようにすれば、次のような効果が得られる。すなわち、三角波比較の場合、キャリアの頂点で電流検出が行われることから、電流検出の周期は、モータ2の回転速度などに依存しない。一方、電圧位相制御の場合、所定の電気角毎に電流検出が行われることから、電流検出の周期がモータ2の回転速度などに依存して変動する。そうすると、故障が検出されるまでの時間が安定せず、故障検出の応答性が悪くなるおそれがある。そこで、想定されるモータ2の回転速度などを考慮し、所定値Aの値を適切に設定することで、このような故障検出の応答性の悪化を防止することができる。
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について図6を参照して説明する。
第3実施形態では、故障検出処理の内容が第1実施形態と異なっている。なお、三相インバータ装置1の構成は、第1実施形態と共通する。
図6に示すように、本実施形態の故障検出処理では、第1実施形態の故障検出処理のステップS502に代えてステップS522が設けられている。ステップS522では、故障検出カウント値に加算するための所定値Aが選択される。具体的には、ステップS522では、三相の総和が第3閾値Ith3未満である場合には所定値Aとして「−5」が選択され、三相の総和が第3閾値Ith3以上である場合には所定値Aとして「−1」が選択される。
なお、第3閾値Ith3は、第1閾値Ith1よりも小さい値に設定されている。具体的には、第3閾値Ith3は、電流検出部に故障が生じておらず正常であると明確に判断できるような値であり、本実施形態では、例えば「1A」に設定されている。したがって、ステップS522では、電流検出部が正常であると明確に判断できない場合に選択される所定値Aよりも、電流検出部が正常であると明確に判断できる場合に選択される所定値Aのほうが、マイナス方向に大きな値となるようになっている。
ステップS522の実行後はステップS504に進み、故障検出カウント値に対し、ステップS522で選択された所定値Aが加算される。ただし、この場合、所定値Aは、マイナスの値であるため、ステップS504では、故障検出カウント値に対する減算が行われることになる。したがって、本実施形態では、ステップS522およびS504が、第1判定処理において電流検出部が正常であると判定されたことを条件として故障検出カウント値を減算するカウント値減算処理に相当する。
以上説明したように、本実施形態の故障検出処理では、第1判定処理において電流検出部が正常であると判定されたことを条件として故障検出カウント値を減算するカウント値減算処理が設けられている。このようにすれば、次のような効果が得られる。すなわち、例えばノイズなどの影響により、一時的に三相の総和が第1閾値Ith1を超える状態が発生することが考えられる。そして、このような状態が生じる度、故障検出カウント値が加算されていき、やがては、故障検出カウント値が故障判定値Cthを超えてしまい、誤検出を引き起こすおそれがある。しかし、本実施形態のように、三相の総和が正常範囲の値であるときに故障検出カウント値を減算するようにすれば、このようなノイズなどの影響による誤検出の発生を防止することができる。
また、カウント値減算処理では、三相の総和が第1閾値Ith1よりも小さい第3閾値Ith3以上である場合よりも、三相の総和が第3閾値Ith3未満である場合のほうが、故障検出カウント値から減算される値が大きくなるようになっている。つまり、本実施形態では、三相の総和が本来あるべき値であるゼロに近い値であるほど、カウント値減算処理において故障検出カウント値から減算される値が大きくなる。このようにすれば、ノイズなどの影響により故障検出カウント値が累積的に加算されたとしても、電流検出部が正常であれば、故障検出カウント値は直ちに大きく減算されるため、ノイズなどの影響による誤検出の発生を一層確実に防止することができる。
(第4実施形態)
以下、第4実施形態について図7を参照して説明する。
第4実施形態では、故障検出処理の内容が第1実施形態と異なっている。なお、三相インバータ装置1の構成は、第1実施形態と共通する。
図7に示すように、本実施形態の故障検出処理では、第1実施形態の故障検出処理のステップS503に代えてステップS513が設けられているとともに、第1実施形態の故障検出処理のステップS502に代えてステップS522が設けられている。すなわち、本実施形態の故障検出処理は、第2実施形態の故障検出処理と第3実施形態の故障検出処理とを組み合わせた内容となっている。したがって、本実施形態によれば、第2実施形態により得られる効果と第3実施形態により得られる効果の双方を得ることができる。
(第5実施形態)
以下、第5実施形態について図8〜図14を参照して説明する。
前述したように、電流検出部として素子電流検出の構成を採用した場合、通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流を検出できないことがある。特に、三角波比較の制御方式において、高出力や高回転でモータ2が制御される場合、キャリア頂点と駆動信号のオンパルス幅が短い期間とが連続して重なることがあり、三相分の素子電流を検出することができずに故障判定処理を実行することができない期間が継続するおそれがある。
図8には、このように連続して三相分の素子電流を検出できない状態の一例が示されている。なお、図8において、上段はモータ制御波形、具体的にはキャリアである三角波信号、U相変調波信号、V相変調波信号およびW相変調波信号を示し、中段は駆動波形、具体的にはU相駆動信号、V相駆動信号およびW相駆動信号を示し、下段は推定された三相電流の波形を示している。
図8に示す例の場合、通常の検出タイミングである時刻t1、t2、t3、t4、t5、t6の6回連続して三相分の素子電流を検出することができておらず、その結果、6周期連続して故障判定処理が実行できない。故障判定処理を実行することができない期間が長期化すると、電流検出部に故障が生じた際、その検出が遅れてしまうおそれがある。そこで、本実施形態では、このような問題を解消するための工夫が加えられている。
図9に示すように、本実施形態の三相インバータ装置51は、第1実施形態の三相インバータ装置1に対し、コントローラ10に代えてコントローラ52を備えている点などが異なる。コントローラ52は、コントローラ10に対し、モータ電流推定部20に代えてモータ電流推定部53を備えている点、三相総和算出部22に代えて三相総和算出部54を備えている点などが異なる。
三相電流算出部に相当するモータ電流推定部53は、通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流を検出できた場合、それら三相分の素子電流から三相電流を求める。このように求められた三相電流は、モータ2の駆動制御用の相電流Iu、Iv、Iwとして駆動制御部21に与えられるとともに、故障検出用の相電流Iu_err、Iv_err、Iw_errとして三相総和算出部54に与えられる。
また、モータ電流推定部53は、通常の検出タイミングにおいて二相分の素子電流しか検出できなかった場合、それら二相分の素子電流から対応する二相の相電流を求めるとともに、それら二相分の素子電流から残りの一相の相電流を推定する。このように求められた三相電流は、モータ2の駆動制御用の相電流Iu、Iv、Iwとして駆動制御部21に与えられる。
さらに、この場合、モータ電流推定部53は、三相分の検出結果が得られる故障検出用の検出タイミングにおける電流検出部による電流の検出結果に基づいて三相電流を算出する。このようにして算出された三相電流は、故障検出用の相電流Iu_err、Iv_err、Iw_errとして三相総和算出部54に与えられる。
三相総和算出部54は、三相総和算出部22と同様の総和算出処理を実行することができる。ただし、この場合、総和算出処理における算出対象としては、相電流Iu、Iv、Iwではなく、相電流Iu_err、Iv_err、Iw_errとなる。
このように、本実施形態の構成では、通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流が検出できなかった場合、三相分の検出結果が得られる別のタイミングである故障検出用タイミングにおいて三相分の素子電流の検出が行われ、それら検出値から算出される三相電流を用いて故障検出処理が行われる。
次に、上記構成の作用について説明する。
[1]電流検出部の故障検出に関連する処理の全体の流れ
コントローラ52による処理のうち、電流検出部の故障検出に関連する処理は、図10に示すような内容の処理となる。本実施形態の故障検出に関連する処理では、第1実施形態の故障検出に関連する処理に対し、ステップS350が追加されている。ステップS350は、通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流の検出ができなかった場合、つまりステップS300で「NO」の場合に実行される。
ステップS350では、故障検出用タイミングにおいて三相分の素子電流が検出され、それら検出された素子電流から故障検出用の相電流Iu_err、Iv_err、Iw_errを算出する故障検出用の電流検出処理が実行される。なお、以下の説明では、故障検出用の相電流Iu_err、Iv_err、Iw_errについても、単に相電流Iu、Iv、Iwとして表すこととする。ステップS350の実行後は、ステップS400に進み、総和算出処理が実行される。
[2]故障検出用の電流検出処理の内容
本実施形態の故障検出用の電流検出処理は、図11に示すような内容となっている。まず、ステップS351では、各相の変調波信号に基づいて各相のスイッチング間隔が計算され、それらスイッチング間隔と電流検出が可能となるアームの組み合わせとの関連付けが行われる。
例えば、図12に示すように、キャリアである三角波信号の頂点毎に電流検出が行われる場合、N回目の電流検出からN+1回目の電流検出までの間には、3つのスイッチング間隔T1_N+1、T2_N+1、T3_N+1が存在する。また、この場合、N+1回目の電流検出からN+2回目の電流検出までの間には、3つのスイッチング間隔T1_N+2、T2_N+2、T3_N+2が存在する。なお、図12において、上段はキャリアである三角波信号、U相変調波信号、V相変調波信号およびW相変調波信号を示し、下段は駆動信号G_up〜G_wnを示している。
ステップS351における関連付けは、例えば図13に示すような内容のものとなる。スイッチング間隔T1_N+1において、電流検出が可能となるアームの組み合わせである組み合わせAは、図12から明らかなようにU相上アーム、V相上アームおよびW相上アームとなる。
スイッチング間隔T2_N+1において、電流検出が可能となるアームの組み合わせである組み合わせBは、図12から明らかなようにU相下アーム、V相上アームおよびW相上アームとなる。スイッチング間隔T3_N+1において、電流検出が可能となるアームの組み合わせである組み合わせCは、図12から明らかなようにU相下アーム、V相下アームおよびW相上アームとなる。
ステップS351の実行後は、ステップS352に進む。ステップS352では、各スイッチング間隔のうち、三相分の素子電流が検出できない期間Ton_NGより長い期間のいずれかが選択される。このような期間Ton_NGが存在する理由は次の通りである。すなわち、スイッチング間隔の開始時点から所定時間が経過するまでの期間Ton_NGでは、スイッチング素子12〜17のスイッチングに伴い生じるノイズの影響により検出回路4〜9による素子電流検出が正常に行うことができない。なお、図12では、期間Ton_NGについて、矢印の上に「NG」を付して表している。
そこで、ステップS351では、上述したように、期間Ton_NGより長いスイッチング間隔が選択され、そのスイッチング間隔の開始時点から期間Ton_NGが経過した後の任意のタイミングで各相の素子電流が検出される。なお、この任意のタイミングが、三相分の検出結果が得られる故障検出用の検出タイミングに相当する。
ステップS351の実行後は、ステップS353に進む。ステップS353では、ステップS352で検出された各素子電流の値から各相電流Iu、Iv、Iwの値が求められる。具体的には、相電流Iuの値がU相の素子電流の検出値に更新され、相電流Ivの値がV相の素子電流の検出値に更新され、相電流Iwの値がW相の素子電流の検出値に更新される。
なお、上述した各相の素子電流の検出値は、各相の上アームまたは下アームの素子電流の検出値であり、図11では、検出値Ierr_u*、検出値Ierr_v*、検出値Ierr_w*として示す。ステップS351の実行後、故障検出用の電流検出処理が終了となる。
以上説明したように、本実施形態の構成では、通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流が検出できなかった場合、三相分の検出結果が得られる別のタイミングである故障検出用タイミングにおいて三相分の素子電流の検出が行われ、それら検出値から算出される三相電流を用いて故障検出処理が行われる。そのため、通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流が検出できない状態が継続したとしても、故障判定処理を実行することが可能となる。
例えば、図14に示すように、通常の検出タイミングでの三相分の素子電流の検出が6周期連続してできない場合でも、本実施形態の構成によれば、1周期毎に故障検出用の検出タイミングである時刻t1’、t2’、t3’、t4’、t5’、t6’において三相分の素子電流が検出され、その結果、毎周期、故障判定処理が実行される。このように、本実施形態によれば、例えば三角波比較の制御方式において高出力や高回転でモータ2が制御される場合など、通常の検出タイミングにおいて三相分の素子電流を検出することができない状態が連続するような場合でも、故障判定処理を実行することができない期間が長期化することがないため、電流検出部に故障が生じた際、その故障を素早く検出することができる。
(第6実施形態)
以下、第6実施形態について図15〜図20を参照して説明する。
第5実施形態では、故障検出用の検出タイミングとして、三相分の検出結果が得られる任意のタイミングが選択されるようになっていた。このような方法では、特定のアームに対応した素子電流の検出結果だけを用いて故障判定処理が実行されるおそれがある。すなわち、第5実施形態の方法では、アーム毎の故障判定に用いられる回数である故障判定回数に偏りが出るおそれがある。そこで、本実施形態では、このような偏りを防止するための工夫が加えられている。
図15に示すように、本実施形態の三相インバータ装置61が備えるコントローラ62は、第5実施形態のコントローラ52に対し、モータ電流推定部53に代えてモータ電流推定部63を備えている点が異なる。三相電流算出部に相当するモータ電流推定部63は、モータ電流推定部53が備える構成に対し、回数カウント部64が追加されている。
回数カウント部64は、ハーフブリッジ回路3u、3v、3wを構成する6つのアームのそれぞれについて、それらアームに対応する素子電流の検出結果が三相電流の算出に用いられた回数、ひいては故障判定に用いられた回数である故障判定回数をカウントする。回数カウント部64は、6つのアームの故障判定回数に偏りが出ないようにするため、各アームの故障判定回数をカウントする。ただし、故障判定処理は、三相分の素子電流が検出できた場合にのみ実行されるため、3つの相毎に故障判定回数の偏りが出ることはない。つまり、ここで問題となる偏りは、各相における上アームと下アームの偏りとなる。
そこで、回数カウント部64は、各相における上下アームの故障判定回数の差分を検出するため、3つの相毎にカウンタを備えている。以下、これら3つのカウンタのことを、差分検出カウンタと呼ぶ。差分検出カウンタは、対応する相について、上アームの素子電流の検出結果が故障判定に用いられた場合にカウント値を「+1」するとともに、下アームの素子電流の検出結果が故障判定に用いられた場合にカウント値を「−1」する。このような構成によれば、差分検出カウンタのカウント値は、上下アームの故障判定回数の偏りが小さいほどゼロに近い値となり、その偏りが大きいほどゼロから離れた値となる。
モータ電流推定部63は、故障判定回数が少ないアームに対応する素子電流の検出結果が得られるタイミングを優先して故障検出用の検出タイミングを決定する。詳細は後述するが、モータ電流推定部63は、回数カウント部64が備える3つの差分検出カウンタのカウント値がゼロに近付くように、故障検出用の検出タイミングを決定するようになっている。
次に、上記構成の作用について説明する。
[1]電流検出部の故障検出に関連する処理の全体の流れ
コントローラ62による処理のうち、電流検出部の故障検出に関連する処理は、図16に示すような内容の処理となる。本実施形態の故障検出に関連する処理では、第5実施形態の故障検出に関連する処理に対し、ステップS600が追加されている。ステップS600は、ステップS500の実行後に実行される。
ステップS600では、故障判定回数の更新が行われる。具体的には、ステップS600では、各相について、上アームの素子電流の検出結果が故障判定に用いられた場合には差分検出カウンタのカウント値が「+1」され、下アームの素子電流の検出結果が故障判定に用いられた場合には差分検出カウンタのカウント値が「−1」される。
[2]故障検出用の電流検出処理の内容
本実施形態の故障検出用の電流検出処理は、図17に示すような内容となっている。本実施形態の故障検出用の電流検出処理は、第5実施形態の故障検出用の電流検出処理に対し、ステップS354〜S357が追加されている。この場合、ステップS351の実行後は、ステップS354が実行される。
ステップS354では、故障判定に用いるべきアームの組み合わせを選択する組み合わせ選択処理が実行される。なお、組み合わせ選択処理の内容については後述する。ステップS354の実行後はステップS355に進み、ステップS354にて選択された組み合わせが、ステップS351にて関連付けられた組み合わせの中に存在するか否かが判断される。
選択された組み合わせが関連付けられた組み合わせの中に存在する場合、ステップS355で「YES」となり、ステップS356に進む。一方、選択された組み合わせが関連付けられた組み合わせの中に存在しない場合、ステップS355で「NO」となり、ステップS352に進む。
ステップS356では、選択された組み合わせに対応するスイッチング間隔が期間Ton_NGより長い期間であるか否かが判断される。選択された組み合わせに対応するスイッチング間隔が期間Ton_NGより長い期間である場合、ステップS356で「YES」となり、ステップS357に進む。一方、選択された組み合わせに対応するスイッチング間隔が期間Ton_NG以下の期間である場合、ステップS356で「NO」となり、ステップS352に進む。
ステップS357では、選択された組み合わせに対応するスイッチング間隔の開始時点から期間Ton_NGが経過した後の任意のタイミングで各相の素子電流が検出される。なお、この任意のタイミングが、三相分の検出結果が得られる故障検出用の検出タイミングに相当する。ステップS357の実行後は、ステップS353が実行される。
[3]組み合わせ選択処理の内容
組み合わせ選択処理は、図18に示すような内容となっている。すなわち、組み合わせ選択処理は、U相のアームを選択するアーム選択処理S700u、V相のアームを選択するアーム選択処理S700vおよびW相のアームを選択するアーム選択処理S700wが、この順に実行されるようになっている。なお、アーム選択処理700u、700v、700wの実行順は、この順に限らずともよく、入れ替えてもよい。また、アーム選択処理700u、700v、700wは、必ずしも図18に示すように逐次処理する必要はなく、並列処理するようにしてもよい。
[4]アーム選択処理の内容
アーム選択処理S700u、700v、700wは、いずれも図19に示すような内容となっている。まず、ステップS701では、対応する差分検出カウンタのカウント値がゼロより大きいか否かが判断される。なお、図19では、差分検出カウンタのカウント値のことを「差分検出カウント値」と省略している。差分検出カウンタのカウント値がゼロより大きい場合、つまりカウント値が正の値である場合、ステップS701で「YES」となり、ステップS702に進む。ステップS702では、当該相の素子電流を検出する対象として「下アーム」が選択される。
差分検出カウンタのカウント値がゼロ以下である場合、ステップS701で「NO」となり、ステップS703に進む。ステップS703では、差分検出カウンタのカウント値がゼロであるか否かが判断される。差分検出カウンタのカウント値がゼロである場合、ステップS703で「YES」となり、ステップS704に進む。ステップS704では、当該相の素子電流を検出する対象として「上アームおよび下アームのどちらでも可」が選択される。この場合、当該相の素子電流を検出する対象として上アームおよび下アームのどちらか任意のアームが選択されることになる。
差分検出カウンタのカウント値がゼロではない場合、つまり差分検出カウンタのカウント値が負の値である場合、ステップS703で「NO」となり、ステップS705に進む。ステップS705では、当該相の素子電流を検出する対象として上アームが選択される。ステップS702、S704またはS705の実行後、アーム選択処理が終了となる。
以上説明したように、本実施形態の構成では、各アームの故障判定回数をカウントする回数カウント部64を設け、故障判定回数が少ないアームに対応する素子電流の検出結果が得られるタイミングを優先して故障検出用の検出タイミングを決定するようになっている。このようにすれば、6つのアームの故障判定回数に偏りが出ず、その結果、6つのアームに対応した電流検出部を均等に故障判定することができる。
故障検出用の検出タイミングを任意につまりランダムに選択した場合、アーム毎の故障判定回数に偏りがでるおそれがある。例えば図20に示す例では、V相について上アームが故障判定に用いられる状態が連続するように偏りが生じている。なお、図20において、上から1段目はモータ制御波形を示し、上から2段目は駆動波形を示し、上から3段目はランダムにアームを選択した場合の差分検出カウンタのカウント値を示し、上から4段目は本実施形態のアーム選択処理によりアームを選択した場合の差分検出カウンタのカウント値を示している。図20に示すように、本実施形態によれば、各相について、上アームと下アームの故障判定回数の差を低減することができ、その結果、上下アームのそれぞれに対応した電流検出部を均等に故障判定することができることが分かる。
(その他の実施形態)
なお、本発明は上記し且つ図面に記載した各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で任意に変形、組み合わせ、あるいは拡張することができる。
上記各実施形態で示した数値などは例示であり、それに限定されるものではない。
上記各実施形態では、三相電流の総和の絶対値を求め、その絶対値と各閾値Ith1、Ith2、Ith3との比較を行うようにしていたが、三相電流の総和の絶対値を求めなくともよい。この場合、ステップS501、S503、S522などについて、各閾値をプラスとマイナスの2つの閾値として、三相電流の総和が、マイナスの閾値からプラスの閾値の範囲内の値に含まれるか否かを判断するように変更を加えればよい。
第2〜第4実施形態におけるカウント値加算処理を構成するステップS503、S513では、三相の総和と1つの閾値である第2閾値Ith2とを比較した結果に基づいて所定値Aを選択するようになっていたが、三相の総和と比較する閾値を2つ以上設け、それら各閾値との比較結果に基づいて、さらに詳細に所定値Aを選択するように変更してもよい。
第3および第4実施形態におけるカウント値加算処理を構成するステップS513では、三相の総和と第2閾値Ith2との比較結果およびモータ2の制御方式の双方を考慮して所定値Aの選択が行われるようになっていたが、モータ2の制御方式だけを考慮して所定値Aの選択を行うように変更してもよい。
第3実施形態におけるカウント値減算処理を構成するステップS522では、三相の総和と1つの閾値である第3閾値Ith3とを比較した結果に基づいて所定値Aを選択するようになっていたが、三相の総和と比較する閾値を2つ以上設け、それら各閾値との比較結果に基づいて、さらに詳細に所定値Aを選択するように変更してもよい。また、ステップS522は、第2実施形態におけるカウント値加算処理を構成するステップS513と同様に、モータ2の制御方式をも考慮して所定値Aの選択を行うように変更してもよい。
故障検出処理に対し、外部からの指令などに基づいて故障検出カウント値を強制的にゼロにクリアするカウント値クリア処理、三相の総和が第1閾値Ith1未満となった回数が一定回数を超えた際などに故障検出カウント値をゼロにクリアする処理などを追加してもよい。なお、上述した外部からの指令としては、例えば、モータ2の駆動終了時点などに与えられる初期化のための指令が想定される。
検出回路4〜9は、スイッチング素子12〜17に流れる素子電流を検出する構成であればよく、その具体的な構成は適宜変更可能である。例えば、ハーフブリッジ回路3u、3v、3wに流れる電流が比較的小さい場合、スイッチング素子12〜17としてセンスセル19を備えない構成を用いるとともに、メインセル18に流れる素子電流をシャント抵抗などにより直接検出する構成としてもよい。この場合、検出回路4〜9およびシャント抵抗などにより電流検出部が構成される。
電流検出部としては、スイッチング素子12〜17の素子電流を検出する構成に限らずともよく、ハーフブリッジ回路3u、3v、3wから出力される三相電流を検出するホール式の電流センサなどにより構成してもよい。このような構成を採用する場合、スイッチング素子12〜17としてセンスセル19を備えない構成を用いるとともに、検出回路4〜9を省くことができる。また、この場合、電流センサによる検出値がそのまま相電流Iu、Iv、Iwの値になり、また、素子電流検出の構成のように電流検出ができない期間が存在しない。そのため、上記構成を採用する場合、図2などに示した電流検出部の故障検出に関連する処理におけるステップS200およびS300の処理が不要となる。
ハーフブリッジ回路を構成するスイッチング素子としては、パワーMOSFETであるスイッチング素子12〜17に限らずともよく、例えばIGBTなど、種々のパワー素子、つまりパワーデバイスを用いることができる。
故障検出カウンタ24は、必ずしも、三相のハーフブリッジ回路3u、3v、3wを構成する6つのアームのそれぞれに対応して設ける必要はない。例えば、各相に1つずつ、つまり合計3つの故障検出カウンタ24を設け、各相の上下アームで兼用してもよいし、全体で1つの故障検出カウンタ24を設け、6つのアームで兼用してもよい。
第6実施形態の回数カウント部64は、6つのアーム毎にカウンタを設け、6つのアーム毎の故障判定回数をカウントする構成としてもよい。
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。