以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。本明細書において、範囲を示す「X〜Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等は、室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。
なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
本発明は、基材層と弾性層とを含み、前記弾性層が最表面層を構成する中間転写ベルトであって、前記弾性層側の最表面のナノインデンテーション硬度をA(MPa)、前記弾性層側の最表面から5μmの深さのナノインデンテーション硬度をB(MPa)、前記弾性層側の最表面から前記弾性層の厚みの1/2の深さのナノインデンテーション硬度をC(MPa)、前記弾性層側の最表面から前記弾性層の厚みの2/3の深さのナノインデンテーション硬度をD(MPa)としたとき、下記数式(1)を満たし、
前記中間転写ベルトの体積抵抗Rvに対する、前記中間転写ベルトの前記弾性層側の最表面で測定される表面抵抗Rsの比率(Rs/Rv)が800以上1300以下であり、前記弾性層は、イオン導電剤を含む、中間転写ベルトに関する。本発明によれば、基材層と弾性層とを含み、前記弾性層が最表面層を構成する中間転写ベルトにおいて、凹凸紙等の凹凸を有する記録媒体に対する高い転写性と、高い耐久性とを付与する手段が提供される。
本発明者らは、上記構成によって課題が解決されるメカニズムを以下のように推定している。なお、本明細書において、前記弾性層側の最表面のナノインデンテーション硬度A(MPa)を、単に「表面硬度」とも称する。また、前記弾性層側の最表面から5μmの深さのナノインデンテーション硬度をB(MPa)、前記弾性層側の最表面から前記弾性層の厚みの1/2の深さのナノインデンテーション硬度をC(MPa)、および前記弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さのナノインデンテーション硬度をD(MPa)としたとき、これらの算術平均値〔(B+C+D)/3〕を、単に「内部硬度」とも称する。
本発明に係る中間転写ベルトは、基材層と弾性層とを含み、前記弾性層が最表面層を構成しており、弾性層上に表面層を有さないことから、表面層の割れや剥がれといった問題は生じない。
また、本発明に係る中間転写ベルトは、表面硬度が高く、内部硬度が低く、表面硬度と内部硬度との差が所定の範囲内となる。これより、弾性層の柔軟性が十分に維持され、弾性層は、凹凸紙等の凹凸を有する記録媒体への高い追従性を維持しつつ、屈曲ストレス、伸長ストレス、摩耗等に対する高い耐久性を有することができる。また、表面硬度と内部硬度とを異ならせることは、同じ弾性層内の深さ方向の位置によって、最表面近傍に向かって化学構造、物理構造、組成等を変化させることによって実現される。本発明においては、弾性層の深さ方向で物性が急激に変化することはほとんどないことから、弾性層側の最表面近傍と弾性層内部との間での密着性の低下はほとんど生じず、変形時の応力集中が緩和される。また、弾性層側の最表面も、ある程度の柔軟性を有し、弾性層内部の変形に対して最表面近傍もその変形に追従することができる。これより、本発明に係る中間転写ベルトでは、弾性層上に表面層を設けた場合と比較して、最表面近傍での割れや剥がれの発生も顕著に抑制される。
また、弾性層が最表面層を構成する中間転写ベルトでは、帯電したトナーが弾性層に付着することによって、弾性層中で電荷の移動が生じ、トナーの帯電に対するカウンター電荷が弾性層の最表面近傍に偏在することとなる。このとき、カウンター電荷が最表面に近い位置に存在するほど、トナーとカウンター電荷との間に発生するクーロン力は大きくなり、トナーが弾性層から剥離しにくくなる。
本発明に係る中間転写ベルトでは、弾性層がイオン導電剤を含むことから、電荷の移動はイオンが担う。また、本発明に係る中間転写ベルトは、表面抵抗Rsが高く、体積抵抗Rvが低く、Rs/Rvが所定の範囲内となる。これより、弾性層中のイオン導電性が十分に維持された状態でありながら、弾性層の最表面近傍でのイオンの移動が弾性層内部よりもしにくくなることで、該弾性層は、トナーの付着性を十分に維持しつつ、カウンター電荷の弾性層の最表面近傍への偏在を抑制することができる。このとき、トナーとカウンター電荷との距離が長くなり、トナーとカウンター電荷との間のクーロン力が低下するため、弾性層は、トナーの高い剥離性を有することができる。
なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
<中間転写ベルト>
本発明に係る中間転写ベルトは、基材層と弾性層とを含み、弾性層が最表面層を構成する。すなわち、電子写真プロセスにおいて本発明に係る中間転写ベルトを用いる場合、弾性層とトナーとが直接接することとなる。なお、基材層と弾性層とは、他の層を介さずに直接接して積層されていてもよいし、後述する他の層を介して積層されていてもよいが、直接接して積層されていることが好ましい。
図1は、本発明の一実施形態に係る中間転写ベルトの構成を示す模式図であり、(A)は中間転写ベルトの全体を示す模式図であり、(B)は、(A)に示す中間転写ベルトの層構造を示す断面模式図である。本発明の一形態に係る中間転写ベルト300は、基材層301、弾性層302との積層構造を有している。ここで、弾性層302の最表面近傍の位置を弾性層側の最表面近傍の位置303として示す。なお、弾性層302の最表面近傍とは、少なくとも最表面を基準として、最表面から5μm未満の位置までの範囲であり、例えば、最表面から2μm未満の位置までの範囲、最表面から1μm未満の位置までの範囲等、最表面を基準としてより狭い範囲であってもよい。
本発明に係る中間転写ベルトにおいて、上記数式(1)に示すように表面硬度から内部硬度を引いた差は、50MPa以上である。表面硬度から内部硬度を引いた差が50MPa未満である場合は、凹凸紙等の凹凸を有する記録媒体への転写性が不十分となる、または耐久性が不十分となる。転写性が不十分となるのは、弾性層全体の柔軟性不足に起因すると考えられ、耐久性が不十分となるのは、表面硬度の不足に起因すると考えられる。
また、本発明に係る中間転写ベルトにおいて、表面硬度から内部硬度を引いた差は、200MPa以下である。表面硬度から内部硬度を引いた差が200MPa超である場合は、凹凸紙等の凹凸を有する記録媒体への転写性が不十分となる、または耐久性が不十分となる。この現象は、弾性層側の最表面近傍での柔軟性不足、または弾性層内部での柔軟性が過度になり、弾性層内部の変形に対する弾性層の最表面近傍の追従が困難となることに起因すると考えられる。
なお、本発明の一形態に係る中間転写ベルトの表面硬度から内部硬度を引いた差は、同様の観点から、100MPa以上200MPa以下が好ましく、150MPa以上200MPa以下がより好ましく、160MPa以上200MPa以下がさらに好ましい。
本発明の一形態に係る中間転写ベルトの内部硬度は、100MPa以上200MPa以下が好ましい。すなわち、弾性層側の最表面から5μmの深さのナノインデンテーション硬度をB(MPa)、弾性層の厚みの1/2の深さのナノインデンテーション硬度をC(MPa)、および弾性層の厚みの2/3の深さのナノインデンテーション硬度をD(MPa)としたとき、下記数式(2)を満たすことが好ましい。
内部硬度〔(B+C+D)/3〕が100MPa以上であると、耐久性が向上する。この現象は、弾性層内部の変形に対する弾性層の最表面近傍の変形の追従が容易になることに起因すると考えられる。また、内部硬度が200MPa以下であると、転写性および耐久性が向上する。この現象は、転写性向上については弾性層の柔軟性が維持されることで凹凸紙等の凹凸を有する記録媒体への追従性が維持されることに起因すると考えられ、耐久性向上については内部硬度が過度に大きい値ではなく、脆性破壊が生じ難くなることに起因すると考えられる。同様の観点から、内部硬度は、160MPa以下が好ましく、150MPa以下がより好ましい。
また、本発明の一形態に係る中間転写ベルトの表面硬度は、150MPa以上400MPa以下であることが好ましく、200MPa以上360MPa以下であることがより好ましく、250MPa以上350MPa以下であることがさらに好ましく、260MPa以上300MPa以下であることが特に好ましい。表面硬度が上記範囲内であると、転写性と耐久性とのバランスが良好となるからである。
ここで、表面硬度は、弾性層側の最表面について、ナノインデンテーション測定器(株式会社エリオニクス製)を用い、圧子は球状とし、測定荷重を30μNとして測定することができる。
また、弾性層側の最表面から5μmの深さ、弾性層側の最表面から弾性層の厚みの1/2の深さ、および弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さのナノインデンテーション硬度は、測定深さまで弾性層を削り取った後、それぞれの深さにおいて、ナノインデンテーション測定器(株式会社エリオニクス製)を用い、圧子は球状とし、測定荷重を30μNとして測定することができる。
なお、表面硬度および内部硬度の測定方法の詳細は、実施例に記載する。
本発明に係る中間転写ベルトにおいて、体積抵抗Rvに対する、弾性層側の最表面で測定される表面抵抗Rs(表面抵抗Rs)の比率(Rs/Rv)は、800以上である。Rs/Rvが800未満である場合は、凹凸紙等の凹凸を有する記録媒体への転写性が不十分となるからである。この現象は、カウンター電荷が弾性層の最表面近傍に顕著に偏在する状態となること、または、弾性層の導電性が過度になり、表面抵抗の制御のみではトナーの剥離性向上効果を十分に得ることができないことに起因すると考えられる。
また、本発明に係る中間転写ベルトにおいて、体積抵抗Rvに対する、弾性層側の最表面で測定される表面抵抗Rs(表面抵抗Rs)の比率(Rs/Rv)は、1300以下である。Rs/Rvが1300超である場合は、凹凸紙等の凹凸を有する記録媒体への転写性が不十分となるからである。この現象は、弾性層側の最表面近傍での導電性が不足して、トナーの弾性層への付着が不十分となること、または、弾性層の導電性が不足してトナーが弾性層へ十分に付着することができないことに起因すると考えられる。
なお、本発明の一形態に係る中間転写ベルトのRs/Rvは、同様の観点から、1000以上1300以下が好ましく、1100以上1300以下がより好ましく、1100以上1200以下がさらに好ましい。
また、本発明の一形態に係る中間転写ベルトの表面抵抗Rsは、1×107Ω/□以上1×1012Ω/□以下が好ましく、1×1010Ω/□以上1.3×1011Ω/□以下がより好ましく、1.1×1010Ω/□以上1.3×1011Ω/□以下がさらに好ましく、1.1×1010Ω/□以上5×1010Ω/□以下が特に好ましい。表面抵抗Rsが上記範囲内であると、トナーの付着性と剥離性とのバランスが良好となり、転写性が向上するからである。
また、本発明の一形態に係る中間転写ベルトの体積抵抗Rvは、1×105Ω・cm以上1×1010Ω・cm以下が好ましく、1×106Ω・cm以上1×108Ω・cm以下がより好ましく、1×107Ω・cm以上1×108Ω・cm以下がさらに好ましく、1×107Ω・cm以上5×107Ω・cm以下が特に好ましい。体積抵抗Rvが上記範囲内であると、トナーの付着性と剥離性とのバランスが良好となり、転写性が向上するからである。
したがって、本発明の好ましい一形態に係る中間転写ベルトは、例えば、表面抵抗Rsが1×107Ω/□以上1×1012Ω/□以下であり、体積抵抗Rvが1×105Ω・cm以上1×1010Ω・cm以下である。
表面抵抗Rsは、高性能高抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用いて、電圧印加から10秒後の値として測定することができる。ここで、比較データは、印加電圧100V時とすることができる。
また、体積抵抗Rvは、高性能高抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用いて、電圧印加から10秒後の値として測定することができる。ここで、比較データは、印加電圧100V時とすることができる。
なお、表面抵抗Rsおよび体積抵抗Rvの測定方法の詳細は、実施例に記載する。
表面硬度、内部硬度、Rs、Rv、およびRs/Rvは、弾性層形成材料の組成、弾性層の架橋状態等によって制御することができる。そして、後述するように、表面硬度、表面硬度と内部硬度との差、Rs、およびRs/Rvは、弾性層の架橋状態によって制御することが好ましく、弾性層が化学架橋性を有する材料を含む場合は、紫外線照射処理条件によって制御することがより好ましい。この理由は、後述するように、弾性層の架橋状態を制御することによって、表面硬度およびRsの両方を同時に制御することができるからである。
本発明に係る中間転写ベルトは、無端ベルトであることが好ましい。
以下、本発明に係る中間転写ベルトの各構成要素について、詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
(弾性層)
弾性層は、中間転写ベルトの紙等の記録媒体の凹凸への追従性を向上させる機能を有する。
弾性層は、弾性材料を含む。弾性材料としては、熱可塑性エラストマー、ゴム、高分子の発泡体等が挙げられるが、これらの中でもゴムを含むことが好ましい。
ゴムは、特に制限されず公知のゴムを用いることができるが、化学架橋ゴムであることが好ましい。化学架橋ゴムとしては、特に制限されないが、例えば、アクリルゴム、ウレタンゴム、オレフィンゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム、フッ素ゴム等の非ジエン系ゴムや、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレンーブタジエンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム等のジエン系ゴム等が挙げられる。ここで、オレフィンゴムとしては、特に制限されないが、例えば、エチレン−プロピレンゴム;エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4ヘキサジエンなどの非共役ジエン成分を導入して成るエチレン−プロピレン−非共役ジエンゴム;エチレン−ブテン共重合体;クロロスルホン化ポリエチレン;塩素化ポリエチレン等が挙げられる。
化学架橋ゴムは、弾性層側の最表面の硬度の制御が容易であるとの観点から、ジエン系ゴムが好ましい。なお、弾性層の最表面の高硬度化のために紫外線照射処理を行う場合、ジエン系ゴムは、架橋剤を含有せずとも架橋反応を十分に進行させることができることから特に好ましい。
化学架橋ゴムは、弾性層のイオン導電性を向上させるとの観点から、極性基を有することが好ましく、ハロゲン基、ニトリル基を有することがより好ましく、クロロ基、ニトリル基を有することがさらに好ましく、ニトリル基を有することが特に好ましい。
化学架橋ゴムは、難燃性を向上させるとの観点では、ハロゲン基を有することが好ましく、クロロ基を有することがより好ましい。
すなわち、ジエン系ゴムとしては、極性基を有するジエン系ゴムがより好ましく、ハロゲン基、ニトリル基を有するジエン系ゴムがさらに好ましく、クロロ基、ニトリル基を有するジエン系ゴムが特に好ましく、ニトリル基を有するジエン系ゴムが最も好ましい。
これらのゴムは、合成品を用いても市販品を用いてもよい。市販品は、特に制限されないが、例えば、アクリロニトリル−ブタジエンゴムとして日本ゼオン株式会社製Nipol(登録商標)1041等を、クロロプレンゴムとしては電気化学工業株式会社デンカクロロプレン(登録商標)DCR−66等を挙げることができる。
弾性材料は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。2種以上を組み合わせる際は、弾性層のイオン導電性と難燃性との両立の観点から、ニトリル基を有するジエン系ゴムと、ハロゲン基を有するゴムとを併用することが特に好ましい。ニトリル基を有するジエン系ゴムと、ハロゲン基を有するゴムとの質量比(ニトリル基を有するジエン系ゴムの質量/ハロゲン基を有するゴムの質量)は、50/50〜99/1であることが好ましく、70/30〜97/3であることがより好ましく、80/20〜95/5であることがさらに好ましい。ここで、ニトリル基を有するジエン系ゴムと、ハロゲン基を有するゴムとを併用する際に、ニトリル基を有するジエン系ゴムがハロゲン基をさらに有するものである場合は、ニトリル基を有するジエン系ゴムに分類して質量比を算出するものとする。
弾性層中の弾性材料の含有量は、特に制限されないが、柔軟性を向上させるとの観点から、弾性層の総質量に対して25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましく、40質量%以上が特に好ましい。また、弾性層中の弾性材料の含有量は、特に制限されないが、導電剤等の他の成分の添加による機能付与の観点から、弾性層の総質量に対して99質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、60質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下が特に好ましい。
弾性層がゴムを含む場合、中間転写ベルトの弾性層側の最表面近傍における架橋状態と、弾性層側の最表面から5μm以上の深さにおける架橋状態とが異なることが好ましい。すなわち、図1の本発明の一形態に係る中間転写ベルト300で表すと、弾性層302の最表面近傍の位置303と、弾性層302の最表面から深さ5μm以上の位置とで、架橋状態が異なることが好ましい。
ここで、「架橋状態が異なること」には、物理架橋または化学架橋等、架橋の種類が異なること、架橋構造が異なること等も含まれる。中でも、「架橋構造が異なる」形態として、弾性層側の最表面近傍の架橋密度が、弾性層側の最表面から5μm以上の深さにおける架橋密度よりも高いことが好ましい。すなわち、弾性層側の最表面で測定される架橋密度が、弾性層側の最表面から5μm以上の深さで測定される架橋密度よりも高いことがより好ましい。この理由は、後述する中間転写ベルトの製造方法で詳細に述べるように、弾性層の最表面近傍および弾性層内部の架橋状態、特に架橋密度を制御することで、表面硬度と内部硬度との差およびRs/Rvが同時に制御されうるからである。
このメカニズムは、以下のように推測している。まず、弾性層側の最表面近傍における架橋密度が、弾性層側の最表面から5μm以上の深さにおける架橋密度よりも高いときは、弾性層の表面硬度は弾性層の内部硬度よりも高くなる。また、弾性層側の最表面近傍では架橋構造が多く存在することで、イオンの移動が阻害されることとなるため、弾性層内部ではイオン導電性が十分に維持された状態でありながら、弾性層側の最表面近傍でのイオンの移動が起こりにくくなる。これより、弾性層側の最表面近傍および弾性層内部の架橋状態、特に架橋密度は、表面硬度から内部硬度を引いた差およびRs/Rvの両方に関係することとなる。なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
架橋密度が異なることは、ゴム状領域の動的粘弾性の値より算出することができる。また、同一組成である弾性層中における架橋密度の相違は、架橋密度が増加するとtanδが減少することが当該技術分野の当業者に知られていることから、tanδを比較することで確認することができる。
これより、弾性層がゴムを含む場合、中間転写ベルトの弾性層側の最表面で測定されるtanδが、弾性層側の最表面から5μm以上の深さで測定されるtanδ(例えば、弾性層側の最表面から5μmの深さ、弾性層側の最表面から弾性層の厚みの1/2の深さ、および弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さで測定したtanδ、またはこれらの平均値)よりも小さいことが好ましい。
中間転写ベルトの弾性層側の最表面でのtanδの測定は、動的粘弾性計測装置RSA−3(TA Instryments製)を用い、三点曲げツールを使用して、弾性層側の最表面から圧子を繰り返し押し込み、歪み0.02%、周波数を0.1〜3kHzの間で変化させることで測定することができる。また、弾性層側の最表面から5μm以上の深さでのtanδの測定は、所望の深さまで弾性層を削り取った後、露出した面から圧子を繰り返し押し込むことで測定することができる。なお、弾性層の深さ方向の位置における架橋密度の確認方法の詳細は、実施例に記載する。
弾性層は、導電性付与のため、イオン導電剤を含む。ここで、導電剤は、電子導電剤とイオン導電剤とが知られている。電子導電剤は、一般的に金属、炭素化合物等の粒子であり、弾性層中に粒子として分散するため、添加により弾性層の硬度が顕著に上昇し柔軟性が低下する。一方、イオン導電剤は、弾性層中に分子またはイオンとして分散することができるため、添加による弾性層の硬度の顕著な上昇は生じない。これより、イオン導電剤を添加すれば、弾性層に要求される導電性と柔軟性との両立が可能となる。したがって、本発明では、導電剤としてイオン導電剤を使用することが必要となる。ただし、本発明は、その効果を損なわない限り、電子導電剤をさらに含むことを妨げるものではない。
イオン導電剤としては、特に制限されないが、例えば、第4級アンモニウム塩、ヨウ化銀、ヨウ化銅、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフロオロメタンスルホン酸リチウム、有機ホウ素錯体のリチウム塩、リチウムビスイミド((CF3SO2)2NLi)およびリチウムトリスメチド((CF3SO2)3CLi)等が挙げられる。これらの中でも、弾性層中での分散性が良好であり、良好な導電性を示し、かつ、表面抵抗Rsおよび体積抵抗Rvの制御が容易であるとの観点から、第4級アンモニウム塩が好ましい。
第4級アンモニウム塩は、下記式(1)で表される。下記式(1)中、R1は、独立して、アルキル基を表し、X−は、ハロゲン化物イオンを表す。
R1は、全て同一のアルキル基であってもよいし、異なる二種以上のアルキル基を含んでいてもよいが、全て同一のアルキル基であることが好ましい。また、R1は、直鎖アルキル基であってもよいし、分岐アルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基であることが好ましい。R1のアルキル基の炭素数は、特に制限されないが、中間転写ベルトの弾性層側の最表面で測定される表面抵抗Rsおよび中間転写ベルトの体積抵抗Rvの制御が容易となるとの観点から、2以上8以下が好ましく、3以上7以下がより好ましく、3以上5以下がさらに好ましく、4が特に好ましい。
X−で表されるハロゲン化物イオンは、特に制限されないが、中間転写ベルトの弾性層側の最表面で測定される表面抵抗Rsおよび中間転写ベルトの体積抵抗Rvの制御が容易となるとの観点から、フッ化物イオン、塩化物イオン、または臭化物イオンであることが好ましく、臭化物イオンであることがより好ましい。
上記式(1)で表される第4級アンモニウム塩の具体例としては、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラヘプチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムフロリド、テトラオクチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
これらのイオン導電剤は、合成品を用いても市販品を用いてもよく、市販品は、例えば、東京化成工業株式会社製の上記具体例で挙げた化合物を用いることができる。
イオン導電剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
弾性層中のイオン導電剤の含有量は、特に制限されないが、導電性、転写性の向上との観点から、弾性層中の弾性材料100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましい。また、弾性層中のイオン導電剤の含有量は、特に制限されないが、機械特性の向上および転写ニップ前後での放電による画像不良の低減の観点から、弾性層中の弾性材料100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下がさらに好ましい。
弾性層が架橋性を有する材料、例えば化学架橋ゴムを含む場合、架橋密度の制御をより容易とするとの観点から、架橋剤を含むことが好ましい。
架橋剤としては、特に制限されないが、例えば、硫黄、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フェノキシ樹脂、ウレタン樹脂等を用いることができる。これらの中でも、溶剤への溶解性、反応性などの観点から、硫黄、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、アミノ樹脂が好ましく、硫黄がより好ましい。
架橋剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
弾性層中の架橋剤の含有量は、特に制限されないが、架橋密度を向上させるとの観点から、弾性層中の弾性材料100質量部に対して10質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましい。また、弾性層中の架橋剤の含有量は、特に制限されないが、柔軟性を向上させるとの観点から、弾性層中の弾性材料100質量部に対して80質量部以下が好ましく、60質量部以下がより好ましく、55質量部以下がさらに好ましい。
弾性層は、耐久性および難燃性等の特性向上の観点から、弾性材料以外の樹脂を含むことが好ましい。弾性材料以外の樹脂としては、天然樹脂であっても合成樹脂であってもよく、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。耐久性向上の観点からは、例えば、ポリウレタン、ポリカーボネート等を好ましく用いることができる。また、難燃性向上の観点からは、例えば、ポリフォスファゼン等を好ましく用いることができる。弾性材料以外の樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。弾性材料以外の樹脂の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で、所望の特性が得られるよう適宜設定すればよい。
弾性層は、機械特性の向上の観点から充填剤を含むことが好ましい。
充填剤としては、特に制限されないが、金属酸化物粒子であることが好ましい。金属酸化物粒子としては、特に制限されないが、例えば、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化鉛、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化インジウム、酸化ビスマス、酸化イットリウム、酸化コバルト、酸化銅、酸化マンガン、酸化セレン、酸化鉄、酸化ジルコニウム、酸化ゲルマニウム、酸化錫、酸化チタン、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化バナジウム等が挙げられる。これらの中でも、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタンであることが好ましく、酸化ケイ素(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、酸化チタン(TiO2)であることがより好ましい。
金属酸化物粒子は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
弾性層中の金属酸化物粒子の含有量は、特に制限されないが、機械特性の向上の観点から、弾性層中の弾性材料100質量部に対して10質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましい。また、弾性層中の金属酸化物粒子の含有量は、特に制限されないが、柔軟性向上の観点から、弾性層中の弾性材料100質量部に対して100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。
弾性層は、本発明の効果を損なわない限り、公知の弾性層に含有されうる他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、滑剤、染料、有機顔料、無機顔料、可塑剤、レベリング剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、ワックス、結晶核剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、ラジカル捕捉剤、防曇剤、防徽剤、イオントラップ剤、難燃助剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で、所望の特性が得られるよう適宜設定すればよい。
弾性層は、無端ベルト状のものであることが好ましい。
弾性層の厚さは特に制限されないが、機械特性および画質の向上、ならびに製造コストの軽減の観点から、50μm以上500μm以下が好ましく、100μm以上300μm以下がより好ましく、150μm以上250μm以下がさらに好ましい。
(基材層)
基材層は、駆動時にかかる応力で中間転写ベルトの変形を回避する機能を有する。
基材層は、特に制限されないが、樹脂を含むことが好ましく、合成樹脂を含むことがより好ましい。合成樹脂は、特に制限されず公知の合成樹脂を用いることができるが、例えば、非晶ポリアリレート(PAR)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、フッ素樹脂(例えば、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)等)、液晶ポリマー等のスーパーエンジニアリングプラスチックスや、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル−スチレン共重合体、アセテート樹脂、ABS樹脂等が挙げられる。これらの中でも、機械特性、耐熱性、耐久性の向上の観点から、スーパーエンジニアリングプラスチックスであることがさらに好ましく、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンサルファイドであることがよりさらに好ましく、ポリイミドまたはポリアミドイミドであることが特に好ましく、ポリイミドであることが最も好ましい。
これらの合成樹脂は、合成品を用いても市販品を用いてもよい。市販品は、特に制限されないが、例えば、ポリアミドイミドワニスとしては、東洋紡株式会社製HR−16NN等、ポリイミドワニスとしては宇部興産株式会社製U−ワニス−A、U−ワニス−S、新日本理化株式会社製リカコート(登録商標)、JSR株式会社製オプトマー(登録商標)、日産化学工業株式会社製SE812等を挙げることができる。
合成樹脂は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
基材層中の樹脂の含有量は、特に制限されないが、機械特性の向上の観点から、基材層の総質量に対して50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましい。また、基材層中の樹脂の含有量は、特に制限されないが、導電剤等の他の成分の添加による機能付与の観点から、基材層の総質量に対して99質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下がさらに好ましい。
基材層は、転写するのに好ましい抵抗値に調整するとの観点から、導電剤を含むことが好ましい。導電剤としては、例えばイオン導電剤および電子導電剤が挙げられる。イオン導電剤としては、特に制限されないが、例えば、前述の弾性層の説明で挙げたものと同様のものを用いることができる。電子導電剤としては、特に制限されないが、例えば、銀、銅、アルミニウム、マグネシウム、ニッケル、ステンレス鋼等の金属、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素化合物等が挙げられる。
これらの中でも、転写するのに好ましい抵抗値に調整するとの観点から、機械特性、耐熱性および耐久性の向上の観点から、電子導電剤であることが好ましく、炭素化合物であることがより好ましく、カーボンブラック、カーボンナノチューブであることがさらに好ましく、カーボンブラックであることが特に好ましい。
これらの導電剤は、合成品を用いても市販品を用いてもよい。市販品は、特に制限されないが、例えば、カーボンブラックとしてはDegussa社製SPECIAL BLACK4等を挙げることができる。
導電剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
基材層中の導電剤の含有量は、特に制限されないが、基材層が樹脂を含む場合は、導電性の向上の観点から、基材層中の樹脂100質量部に対して1質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。また、基材層中の導電剤の含有量は、特に制限されないが、基材層が樹脂を含む場合は、機械特性の向上の観点から、基材層中の樹脂100質量部に対して50質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
基材層は、本発明の効果を損なわない限り、公知の基材層に含有されうる他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、充填剤、滑剤、染料、有機顔料、無機顔料、可塑剤、レベリング剤、アクリル加工助剤等の加工助剤、紫外線吸収剤、光安定剤、発泡剤、ワックス、結晶核剤、離型剤、加水分解防止剤、アンチブロッキング剤、帯電防止剤、ラジカル捕捉剤、防曇剤、防徽剤、イオントラップ剤、難燃剤、難燃助剤等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。他の成分の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で、所望の特性が得られるよう適宜設定すればよい。
基材層は、単層構成であっても、2層以上の複数層構成であってもよいが、単層構成であることが好ましい。また、基材層は、無端ベルト状のものであることが好ましい。
(他の層)
本発明の一形態に係る中間転写ベルトは、基材層と弾性層とを含み、弾性層が最表面層を構成するものであれば、本発明の効果を損なわない限り、公知の中間転写ベルトに含まれうる他の層をさらに含んでいてもよい。他の層の種類、組成、特性等については、本発明の効果を損なわない範囲で、所望の特性が得られるよう適宜設定すればよい。
<中間転写ベルトの製造方法>
(基材層の形成方法)
基材層は、公知の方法によって形成することができる。基材層を形成する方法としては、例えば、樹脂、ならびに必要に応じて用いられうる導電剤および他の成分を含む基材層形成材料を溶媒に溶解させた基材層形成用塗布液を用いて塗膜を形成する方法が挙げられる。また、例えば、樹脂、ならびに必要に応じて用いられうる導電剤および他の成分を含む基材層形成材料を溶融させて膜を形成する方法が挙げられる。これらの中でも、基材層形成用塗布液を用いて塗膜を形成する方法であることが好ましい。
基材層形成用塗布液を用いて塗膜を形成する方法は、例えば、基材層形成用塗布液を円筒状金型の外周面に浸漬して塗膜を形成する方法が挙げられる。また、基材層形成用塗布液を内周面に塗布して塗膜を形成する方法や、更に遠心して塗膜を形成する方法が挙げられる。さらに、円筒状金型を、円筒軸を中心に回転させながら、ディスペンスノズルを軸方向に移動させつつ当該ノズルから基材層形成用塗布液を吐出して金型の外周面上にらせん状に塗布し、それらがつながったベルト状の塗膜を形成し、乾燥し、必要に応じてさらに塗膜を加熱処理(例えば、熱イミド化処理等)する方法が挙げられる。また、無端ベルト状の基材層の製造に際しては、金型の離型処理や脱泡処理などの適宜な処理を施すことができる。
溶媒は、特に制限されず、公知のものを用いることができるが、例えば、アルコール系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、スルホキシド系溶媒、ホルムアミド系溶媒、アセトアミド系溶媒、ピロリドン系溶媒が好ましく、ジメチルスルホキシド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましく、N−メチル−2−ピロリドンがさらに好ましい。
基材層形成用塗布液中の固形分濃度は、特に制限されないが、塗布性の向上や塗膜故障の低減の観点から、基材層形成用塗布液の総質量に対して、1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
塗膜の乾燥条件としては、特に制限されず、公知の条件を用いることができる。塗膜の乾燥条件としては、たとえば第1乾燥後により高温で第2乾燥を行うことが好ましい。
乾燥温度は、基材層形成用塗布液の組成によっても異なるが、50℃以上300℃未満が好ましく、50℃以上250℃以下がより好ましい。ここで、第1乾燥および第2乾燥を行う場合は、第1乾燥温度としては、50℃以上150℃以下がさらに好ましく、100℃以上150℃以下が特に好ましい。また、第2乾燥温度としては、150℃超250℃以下がさらに好ましく、200℃以上250℃以下が特に好ましい。
塗膜の乾燥時間は、基材層形成用塗布液の組成によっても異なり、塗膜を十分に乾燥することができれば特に制限されない。ここで、第1乾燥および第2乾燥を行う場合は、
第1乾燥時間および第2乾燥時間としては、共に、5分以上180分以下が好ましく、10分以上90分以下がより好ましく、10分以上60分以下がさらに好ましい。
熱イミド化処理を行う場合の条件としては、特に制限されず、公知の条件を用いることができる。熱イミド化温度は、ポリイミドやポリアミドイミドの前駆体(ポリアミド酸、ポリアミド−ポリアミド酸共重合体等)をはじめとする基材層形成材料の組成によっても異なるが、300℃以上450℃以下が好ましい。
熱イミド化処理の時間は、ポリイミドやポリアミドイミドの前駆体(ポリアミド酸、ポリアミド−ポリアミド酸共重合体等)をはじめとする基材層形成材料の組成によっても異なるが、5分以上180分以下であることが好ましい。
塗膜の乾燥および熱イミド化処理は、回転軸を中心として円筒状金型を回転させつつ行うことが好ましい。乾燥時の金型の周速は、特に制限されないが、1rpm以上100rpm以下が好ましく、5rpm以上80rpm以下がより好ましく、10rpm以上40rpm以下がさらに好ましい。
(弾性層の形成方法)
弾性層は、公知の方法によって形成することができる。弾性層を形成する方法としては、例えば、弾性材料、イオン導電剤および必要に応じて用いられうる他の成分を含む弾性層形成材料を溶媒に溶解させた弾性層形成用塗布液を用いて塗膜を形成する方法が挙げられる。また、例えば、弾性材料、イオン導電剤および必要に応じて用いられうる他の成分を含む弾性層形成材料を溶融させて膜を形成する方法が挙げられる。これらの中でも、弾性層形成用塗布液を用いて塗膜を形成する方法であることが好ましい。
弾性層形成用塗布液を用いて塗膜を形成する方法は、例えば、弾性層形成用塗布液を円筒状金型上に形成された基材層上に浸漬して塗膜を形成する方法が挙げられる。また、弾性層形成用塗布液を内周面上に形成された基材層上に塗布して塗膜を形成する方法や、更に遠心して塗膜を形成する方法が挙げられる。さらに、円筒状金型を、円筒軸を中心に回転させながら、ディスペンスノズルを軸方向に移動させつつ当該ノズルから弾性層形成用塗布液を吐出して金型上に形成された基材層上にらせん状に塗布し、それらがつながったベルト状の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥した後、円筒状金型より剥離する方法が挙げられる。また、無端ベルト状の弾性層の製造に際しては、金型の離型処理や脱泡処理などの適宜な処理を施すことができる。
溶媒は、特に制限されず、公知のものを用いることができるが、例えば、アルコール系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、ケトン系溶媒、スルホキシド系溶媒、ホルムアミド系溶媒、アセトアミド系溶媒、ピロリドン系溶媒が好ましく、トルエン、キシレンがより好ましく、トルエンがさらに好ましい。
弾性層形成用塗布液中の固形分濃度は、特に制限されないが、塗布性の向上や塗膜故障の低減の観点から、弾性層形成用塗布液の総質量に対して、1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましく、10質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。
塗膜の乾燥条件としては、特に制限されず、公知の条件を用いることができる。乾燥温度は、弾性層形成用塗布液の組成によっても異なるが、50℃以上250℃以下が好ましく、100℃以上200℃以下がより好ましく、100℃以上150℃以下がさらに好ましい。
塗膜の乾燥時間は、弾性層形成用塗布液の組成によっても異なるが、5分以上180分以下が好ましく、10分以上90分以下がより好ましく、10分以上60分以下がさらに好ましい。
弾性材料が化学架橋性を有する材料である場合、塗膜の乾燥後に熱架橋処理を行うことが好ましい。熱架橋処理条件としては、特に制限されず、公知の条件を用いることができる。熱架橋処理温度は、化学架橋性を有する材料(化学架橋ゴム等)をはじめとする弾性層形成材料の組成によっても異なるが、100℃以上300℃以下が好ましく、120℃以上250℃以下がより好ましく、150℃以上200℃以下がさらに好ましい。
熱架橋処理の時間は、化学架橋性を有する材料(化学架橋ゴム等)をはじめとする弾性層形成材料の組成によっても異なるが、5分以上180分以下が好ましく、10分以上90分以下がより好ましく、10分以上60分以下がさらに好ましい。
塗膜の乾燥および熱架橋処理は、回転軸を中心として円筒状金型を回転させつつ行うことが好ましい。乾燥時の金型回転数は、特に制限されないが、1rpm以上100rpm以下が好ましく、5rpm以上80rpm以下がより好ましく、10rpm以上40rpm以下がさらに好ましい。
本発明の他の一形態は、化学架橋ゴムを含む弾性層形成用塗布液を調製することと、基材層上に、前記弾性層形成用塗布液を用いて塗膜を形成し、前記塗膜に対して熱架橋処理を行うことと、前記熱架橋処理後に、前記塗膜に対して紫外線照射処理を行うことと、を含む、本発明の一形態に係る中間転写ベルトの製造方法であることがより好ましい。弾性層の形成における熱架橋処理後の紫外線照射処理によって、表面硬度と内部硬度との差およびRs/Rvを同時に制御することができる。これより、本方法によると、本発明の一形態に係る中間転写ベルトを高い生産性をもって製造することができる。
このメカニズムは、以下のように推測している。まず、紫外線照射によって、弾性層側の最表面近傍で化学架橋ゴムの架橋が促進されて架橋密度が増加し、その結果、弾性層の表面硬度が向上する。一方、紫外線は層の深くまでは届かないため、弾性層側の最表面から一定以上の深さ(例えば、5μm以上の深さ)では、化学架橋ゴムの架橋の促進は生じない。これより、紫外線照射条件によって表面硬度と内部硬度との差を制御することができる。また、紫外線照射によって、弾性層側の最表面近傍で、化学架橋ゴムの架橋が促進されて架橋密度が増加する。その結果、最表面近傍でのイオンの移動が、架橋構造によって阻害される頻度が高まる。一方、紫外線は弾性層の深くまでは届かないため、弾性層側の最表面から一定以上の深さでは、弾性層中のイオン導電性が十分に維持される。これより、紫外線照射処理条件によってRs/Rvを制御することができ、Rs/Rvを800以上1300以下へと制御することができる。なお、上記メカニズムは推測に基づくものであり、その正誤が本発明の技術的範囲に影響を及ぼすものではない。
これより、本発明のその他の一形態としては、基材層と弾性層とを含み、前記弾性層が最表面層を構成する中間転写ベルトにおいて、前記弾性層は化学架橋ゴムを含み、前記化学架橋ゴムの架橋密度を調整することによって、前記弾性層側の最表面のナノインデンテーション硬度A(MPa)(表面硬度)から、前記弾性層側の最表面から5μmの深さのナノインデンテーション硬度B(MPa)、前記弾性層側の最表面から前記弾性層の厚みの1/2の深さのナノインデンテーション硬度C(MPa)、および前記弾性層側の最表面から前記弾性層の厚みの2/3の深さのナノインデンテーション硬度D(MPa)の算術平均値〔(B+C+D)/3〕(内部硬度)を引いた差、および中間転写ベルトの体積抵抗Rvに対する、前記弾性層側の最表面で測定した表面抵抗Rsの比率(Rs/Rv)を所望の値に制御する制御方法も挙げられる。
紫外線照射処理条件としては、特に制限されず、公知の条件を用いることができる。照射強度は、化学架橋ゴムをはじめとする弾性層形成材料の組成によっても異なるが、80mW/cm2以上200mW/cm2以下が好ましく、100mW/cm2以上150mW/cm2以下がより好ましく、100mW/cm2以上120mW/cm2以下がさらに好ましい。
照射時間は、化学架橋ゴムをはじめとする弾性層形成材料の組成によっても異なるが、1秒以上1000秒以下が好ましく、10秒以上60秒以下がより好ましく、10秒以上40秒以下がさらに好ましく、30秒以上40秒以下が特に好ましい。
光源と弾性層表面との距離は、特に制限されないが、30mm以上100mm以下が好ましく、30mm以上60mm以下がより好ましく、30mm以上40mm以下がさらに好ましい。
紫外線照射処理は、回転軸を中心として円筒状金型を回転させつつ行うことが好ましい。紫外線照射処理時のベルト状積層体における弾性層側の最表面の周速は、特に制限されないが、500mm/秒以上600mm/秒以下が好ましく、550mm/秒以上600mm/秒以下がより好ましく、570mm/秒以上590mm/秒以下がさらに好ましい。
紫外線照射装置の光源としては、特に制限されず、公知のものを用いることができるが、例えば、水銀ランプ等が挙げられる。紫外線照射装置としては、市販の紫外線照射機を用いてもよく、例えば、「UB031−2A/BM」(水銀ランプ形式)」(アイグラフィックス株式会社)等を用いることができる。紫外線照射条件は、特に制限されないが、例えば、空気下で行うことが挙げられる。
<画像形成装置>
以下では、本発明の一形態に係る中間転写ベルトを電子写真方式の画像形成装置に用いる場合の一例について説明する。但し、本発明はこれに限定されるものではない。
以下、添付した図2を参照しながら、本発明の一形態を説明する。図2は、本発明の一実施形態に係る画像形成装置の構成を示す模式図である。なお、図2では、フルカラー画像形成装置の場合を示している。
画像形成装置1は、複数組の画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kと、転写部としてのベルト状中間転写体形成ユニット7と、記録媒体Pを搬送するベルト状の給紙搬送手段21、および定着手段としてのベルト式定着装置24と、を備えている。画像形成装置1の本体Aの上部には、原稿画像読み取り装置SCが配置されている。
各感光体1Y、1M、1C、1Kに形成される異なる色のトナー像の一つとして、イエロー色の画像を形成する画像形成ユニット10Yは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1Yと、感光体1Yの周囲に配置された帯電手段2Yと、露光手段3Yと、現像剤担持体4Y1を有する現像手段4Yと、一次転写手段としての一次転写ローラー5Yと、クリーニング手段6Yと、を有する。
また、別の異なる色のトナー像の一つとして、マゼンタ色の画像を形成する画像形成ユニット10Mは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1Mと、感光体1Mの周囲に配置された帯電手段2Mと、露光手段3Mと、現像剤担持体4M1を有する現像手段4Mと、一次転写手段としての一次転写ローラー5Mと、クリーニング手段6Mと、を有する。
また、さらに別の異なる色のトナー像の一つとして、シアン色の画像を形成する画像形成ユニット10Cは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1Cと、感光体1Cの周囲に配置された帯電手段2Cと、露光手段3Cと、現像剤担持体4C1を有する現像手段4Cと、一次転写手段としての一次転写ローラー5Cと、クリーニング手段6Cと、を有する。
また、さらに他の異なる色のトナー像の一つとして、黒色画像を形成する画像形成ユニット10Kは、第1の像担持体としてのドラム状の感光体1Kと、感光体1Kの周囲に配置された帯電手段2Kと、露光手段3Kと、現像剤担持体4K1を有する現像手段4Kと、一次転写手段としての一次転写ローラー5Kと、クリーニング手段6Kと、を有する。
ベルト状中間転写体形成ユニット7は、複数のローラーにより巻回され、回動可能に支持された半導電性エンドレスベルト状の第2の像担持体として、中間転写ベルト70を有する。
画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kより形成された各色の画像は、一次転写ローラー5Y、5M、5C、5Kにより、回動する中間転写ベルト70上に逐次転写されて、合成されたカラー画像が形成される。
給紙カセット20内に収容された用紙等の記録媒体Pは、給紙搬送手段21により給紙され、複数の中間ローラー22A、22B、22C、22Dおよびレジストローラー23を経て、二次転写手段としての二次転写ローラー5Aに搬送され、記録媒体P上にカラー画像が一括転写される。
カラー画像が転写された記録媒体Pは、熱ローラー定着器270が装着された定着装置24により定着処理され、排紙ローラー25に挟持されて機外の排紙トレイ26上に載置される。
一方、二次転写ローラー5Aにより記録媒体Pにカラー画像を転写した後、記録媒体Pを曲率分離した中間転写ベルト70は、クリーニング手段6Aにより残留トナーが除去される。
画像形成処理中、一次転写ローラー5Kは、常時、感光体1Kに圧接している。他の一次転写ローラー5Y、5M、5Cは、カラー画像形成時にのみ、それぞれ対応する感光体1Y、1M、1Cに圧接する。
二次転写ローラー5Aは、ここを記録媒体Pが通過して二次転写が行われる時にのみ、中間転写ベルト70に圧接する。
また、装置本体Aから筐体8を支持レール82L、82Rを介して引き出し可能にしてある。筐体8は、画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kと、ベルト状中間転写体形成ユニット7と、を有する。
画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kは、垂直方向に縦列配置されている。感光体1Y、1M、1C、1Kの図示左側方にはベルト状中間転写体形成ユニット7が配置されている。ベルト状中間転写体形成ユニット7は、ローラー71、72、73、74、76を巻回して回動可能な中間転写ベルト70、一次転写ローラー5Y、5M、5C、5Kおよびクリーニング手段6Aを有している。
筐体8の引き出し操作により、画像形成ユニット10Y、10M、10C、10Kと、ベルト状中間転写体形成ユニット7とは、一体となって、本体Aから引き出される。
このように感光体1Y、1M、1C、1Kの外周面上を帯電、露光し外周面上に潜像を形成した後、現像によりトナー像(顕像)を形成し、中間転写ベルト70上で各色のトナー像を重ね合わせ、一括して記録媒体Pに転写し、ベルト式定着装置24で加圧および加熱により固定して定着する。
トナー像を記録媒体Pに転移させた後の感光体1Y、1M、1C、1Kは、各感光体1Y、1M、1C、1Kに配設されたクリーニング手段6Y、6M、6C、6Kで転写時に感光体に残されたトナーを清掃した後、上記の帯電、露光、現像のサイクルに入り、次の像形成が行われる。
上記画像形成装置1では、中間転写ベルト70をクリーニングするクリーニング手段6Aのクリーニング部材として、弾性ブレードを用いる。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。以下の実施例においては、特記しない限り、「部」および「%」はそれぞれ「質量部」および「質量%」を意味する。なお、本発明は以下実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
<中間転写ベルトの製造>
[基材層の形成]
ポリアミドイミドワニス「HR−16NN」(東洋紡株式会社製)の樹脂成分100質量部に対し、カーボンブラック「SPECIAL BLACK4」(Degussa社製)19質量部を添加してミキサーを用いて混合することにより、基材層形成用塗布液を調製した。
続いて、ステンレス製の円筒状金型を、円筒軸を中心に回転させながら、ディスペンスノズルを軸方向に移動させつつ当該ノズルから基材層形成用塗布液を吐出して金型の外周面上にらせん状に塗布し、それらがつながった塗膜を形成した。次いで、円筒状金型を回転させながら100℃で1時間加熱することにより大部分の溶媒を揮発させ、その後、250℃で1時間加熱して溶剤をさらに揮発させることにより、無端ベルト状の基材層を形成した。形成された基材層の厚みは65μmであった。
[弾性層の形成]
弾性材料であるアクリロニトリルブタジエンゴム「Nipol(登録商標)1041」(日本ゼオン株式会社製)90質量部と、弾性材料であるポリクロロプレン「デンカクロロプレンDCR(登録商標)−66」(デンカ株式会社製)10質量部と、Al2O3 30質量部と、TiO2 10質量部と、SiO2 15質量部と、イオン導電剤であるテトラブチルアンモニウムブロミド(東京化成工業株式会社製)1質量部と、架橋剤である硫黄50質量部とを、固形分濃度が20質量%となるよう、トルエン中に溶解、分散させることにより、弾性層形成用塗布液を調製した。
続いて、基材層形成用塗布液の塗布と同様の方法によって、弾性層形成用塗布液を円筒状金型上に形成した基材層上に塗布し、基材層の外周面を覆う塗膜を形成した。次いで、円筒状金型を回転させながら50℃で1時間加熱することにより大部分の溶媒を揮発させ、その後、170℃で20分間加熱することで熱架橋処理を行うことにより、弾性層を形成した。形成された弾性層の厚みは200μmであった。
さらに、円筒状金型上に形成したベルト状積層体における弾性層側の最表面の周速が570〜590mm/秒となるよう、円筒状金型を、円筒軸を中心に回転させながら、弾性層側の最表面に対して紫外線照射処理を行った。紫外線照射処理は、紫外線照射機「UB031−2A/BM」(水銀ランプ形式)」(アイグラフィックス株式会社製)を用いて、照射強度120mW/cm2、照射時間30秒、光源と弾性層の最表面との距離40mm、の各条件で行った。
[円筒状金型からの剥離]
紫外線照射処理の後、ベルト状積層体を円筒状金型から剥離することで、中間転写ベルトを製造した。
(実施例2〜10および比較例1〜8)
実施例1において、導電剤の種類、添加量および紫外線照射処理における照射時間を下記表1のように変更した以外は同様にして、各中間転写ベルトを製造した。ここで、カーボンブラックとしては、サーマルカーボン 旭#60(旭カーボン株式会社製)を用いた。
<評価>
[ナノインデンテーション硬度]
各中間転写ベルトについて、それぞれ、弾性層側の最表面のナノインデンテーション硬度A(MPa)(表面硬度)、ならびに弾性層側の最表面から5μmの深さのナノインデンテーション硬度B(MPa)、弾性層側の最表面から弾性層の厚みの1/2の深さのナノインデンテーション硬度C(MPa)、および弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さのナノインデンテーション硬度D(MPa)の算術平均値〔(B+C+D)/3〕(内部硬度)を測定した。これらの結果を下記表2に示す。
ここで、表面硬度は、弾性層側の最表面について、ナノインデンテーション測定器(株式会社エリオニクス製)を用いて測定し、圧子は球状とし測定荷重30μN時の硬さの値を用いた。
また、内部硬度を算出するために、弾性層側の最表面から5μmの深さのナノインデンテーション硬度B(MPa)、弾性層側の最表面から弾性層の厚みの1/2の深さのナノインデンテーション硬度C(MPa)、および弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さのナノインデンテーション硬度D(MPa)は、測定深さまで弾性層を削り取った後、それぞれの深さにおいて、ナノインデンテーション測定器(株式会社エリオニクス製)を用いて測定し、圧子は球状とし測定荷重30μN時の硬さの値を測定した。
[表面抵抗Rs]
各中間転写ベルトについて、それぞれ、高性能高抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用いて、弾性層側の最表面の表面抵抗Rsを測定した。本測定においては、電圧印加から10秒後の値を測定値とした。また、比較データは印加電圧100V時を用いた。これらの結果を下記表2に示す。
[体積抵抗Rv]
各中間転写ベルトについて、それぞれ、高性能高抵抗率計(株式会社三菱ケミカルアナリテック製)を用いて体積抵抗Rvを測定した。本測定においては、電圧印加から10秒後の値を測定値とした。また、比較データは印加電圧100V時を用いた。これらの結果を下記表2に示す。
[凹凸紙転写性]
各中間転写ベルトを、それぞれ、画像形成装置「bizhub PRESS(登録商標) C1100」(コニカミノルタ株式会社製)の中間転写体として搭載した。次いで、当該画像形成装置を用いて、20℃50%RHにて、レザック(登録商標)66 302g紙(特種東海製紙株式会社製)を用い、YMCK、各色2層色(RGB)の255階調を10段階に区切ったグラデーションパターンを印字した。その後、目視により、以下の評価基準により凹凸紙への転写性を確認し、下記評価基準に従って評価した。ここで、評価がランク3以上となるときは、実用上望ましい特性であるとした;
5:完全に転写されていた、
4:トナー積層部で転写不良が確認されるものの、単色部で完全に転写されていた、
3:トナー積層部で転写不良が確認され、単色部のハーフ濃度の部分(階調125未満)で転写不良が確認されるものの、単色部のベタ部(階調255未満)で完全に転写されていた、
2:トナー積層部、単色部のハーフ濃度の部分(階調125未満)、単色部のベタ部(階調255未満)の全てで転写不良が確認された、
1:トナー積層部、単色部のハーフ濃度の部分(階調125未満)、単色部のベタ部(階調255未満)の全てで転写不良が確認され、特に凹凸紙の凹部で著しい転写不良が確認された、
これらの結果を下記表2に示す。
[耐久性]
各中間転写ベルトについて、それぞれ、密閉空間で、常時100μAの通電がされ、かつ常時10Nのテンションが加えられた状態とした。そして、この状態において、中間転写ベルトの弾性層側の最表面に、研磨剤であるSi微粒子を付着させた上で、クリーニングブレードを押しあてた。この状態の中間転写ベルトについて、外部駆動機を用いて、300時間連続で回転駆動を行った。その後、目視により、ベルト上に割れや剥がれ等の発生の有無を確認し、下記評価基準に従って評価した。ここで、評価が○となるときは、実用上望ましい特性であるとした;
○:3μm以上の割れ、傷は確認されなかった、
△:3μm以上の割れ、傷は1個以上5個未満であった、
×:3μm以上の割れ、傷は5個以上であった、
これらの結果を下記表2に示す。
[tanδの測定]
実施例1〜10で得られた中間転写ベルト、ならびに、実施例1〜10の中間転写ベルトの製造において、紫外線照射処理を行わない以外は同様に製造した中間転写ベルト(以下、UV未照射の中間転写ベルトとも称する)、紫外線照射処理における照射強度を2倍とした以外は同様に製造した中間転写ベルト(以下、UV照射強度2倍の中間転写ベルトとも称する)、および紫外線処理における照射強度を3倍とした以外は同様に製造した中間転写ベルト(以下、UV照射強度3倍の中間転写ベルトとも称する)について、それぞれ、中間転写ベルトの弾性層側の最表面、弾性層側の最表面から5μmの深さ、弾性層側の最表面から弾性層の厚みの1/2の深さ、および弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さでtanδを測定した。
ここで、弾性層側の最表面でのtanδの測定は、動的粘弾性計測装置RSA−3(TA Instruments製)を用い、三点曲げツールを使用して、弾性層側の最表面より圧子を繰り返し押し込み、歪み0.02%、周波数0.1〜3kHzと変化させ測定した。また、弾性層側の最表面から5μmの深さ、弾性層側の最表面から弾性層の厚みの1/2の深さ、および弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さでのtanδの測定は、それぞれの深さまで弾性層を削り取った後、露出したそれぞれの深さの表面より圧子を繰り返し押し込むこと以外は、弾性層の最表面でのtanδの測定方法と同様の方法、条件で測定を行った。
これらを代表して、実施例1に係る中間転写ベルトについて、弾性層側の最表面、ならびに弾性層側の最表面から5μmの深さ、弾性層側の最表面から弾性層の厚みの1/2の深さ、および弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さでのtanδの値を下記表3に示す。また、実施例1に係る中間転写ベルトに対するUV未照射の中間転写ベルト、UV照射強度2倍の中間転写ベルト、UV照射強度3倍の中間転写ベルトの結果も併せて記載する。
表2の結果より、本発明に係る中間転写ベルトは、凹凸紙等の凹凸を有する記録媒体に対する高い転写性と、高い耐久性を有することが確認された。
また、表3の結果より、紫外線照射処理における照射強度が増加するに従い、中間転写ベルトの弾性層側の最表面でのtanδが減少することが確認された。
さらに、全ての紫外線未照射の中間転写ベルトでは、中間転写ベルトの弾性層側の最表面、弾性層側の最表面から5μmの深さ、弾性層側の最表面から弾性層の厚みの1/2の深さ、および弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さでのtanδの値は実質的に同等であることが確認された。
そして、実施例1〜10で得られた中間転写ベルト、全ての紫外線照射強度2倍の中間転写ベルト、および全ての紫外線照射強度3倍の中間転写ベルトでは、弾性層側の最表面から5μmの深さ、弾性層側の最表面から弾性層の厚みの1/2の深さ、および弾性層側の最表面から弾性層の厚みの2/3の深さでのtanδの値は実質的に同等であること、およびこれらの値よりも中間転写ベルトの弾性層側の最表面でのtanδの値が小さいことが確認された。
ここで、同一組成の材料においては、架橋密度が増加するとtanδが減少することが当該技術分野ではよく知られている。従って、表3の結果は、紫外線照射処理を行うことで、中間転写ベルトの弾性層側の最表面近傍で架橋が促進され、架橋密度が増加することを示している。さらに、表3の結果は、紫外線照処理によっては、弾性層側の最表面から5μm以上の深さでは、化学架橋ゴムの架橋の促進されないことを示している。