JP2019014163A - 射出成形品およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】剛性、靱性および美観のいずれもを有する射出成形品を提供する。【解決手段】第1の熱可塑性樹脂1aおよび繊維状フィラー2aを溶融混練してなる第1の混練物3aと、第2の熱可塑性樹脂1bおよび熱可塑性エラストマー2bを溶融混練してなる第2の混練物3bとを混合し、得られた混合物を材料として射出成形して、射出成形品5の製造する。第1の混練物3aおよび第2の混練物3bには、せん断速度1×103/秒での第1の混練物3aの第1せん断粘度が上記せん断速度での第2の混練物3bの第2せん断粘度よりも大きな混練物をそれぞれ用いる。【選択図】図1
Description
本発明は、射出成形品およびその製造方法に関する。
熱可塑性樹脂は、添加物の添加によって種々の特性を付与することができ、また、射出成形によって種々の形状に形作ることができることから、様々な分野において有用な材料として利用されている。たとえば、事務機器などに使われる構造材としての射出成形品では、剛性および靭性がともに求められ、そのための樹脂材料では、樹脂中にフィラーおよびエラストマーを分散させることが有効である。このような射出成形品用の樹脂材料には、ポリカーボネート、無機充填剤、および、弾性を有するグラフト共重合体、を含有する樹脂組成物が知られている(例えば、特許文献1参照)。
上記樹脂材料のようなフィラーを含有する樹脂材料は、一般に、フィラーが射出成形品の表面を粗してしまうことから、樹脂製品特有の滑らかな外観が損なわれることがある。
このように、フィラーおよびエラストマーを材料に含有する射出成形品では、その剛性、靱性および美観のいずれもを向上させる観点から検討の余地が残されている。
このように、フィラーおよびエラストマーを材料に含有する射出成形品では、その剛性、靱性および美観のいずれもを向上させる観点から検討の余地が残されている。
本発明は、剛性、靱性および美観のいずれもを有する射出成形品を提供することを課題とする。
本発明は、上記の課題を解決するための一手段として、第1の熱可塑性樹脂およびフィラーを溶融混練してなる第1の混練物と、第2の熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを溶融混練してなる第2の混練物とを混合する工程、および、得られた混合物を材料として射出成形する工程、を含み、上記第1の混練物および上記第2の混練物には、せん断速度1×103/秒での上記第1の混練物の第1せん断粘度が上記せん断速度での上記第2の混練物の第2せん断粘度よりも大きな混練物をそれぞれ用いる射出成形品の製造方法、を提供する。
また、本発明は、上記の課題を解決するための他の手段として、第1の熱可塑性樹脂およびフィラーを溶融混練してなる第1の混練物と、第2の熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを溶融混練してなる第2の混練物との混合物を材料とする射出成形によって製造された射出成形品であって、上記フィラーが内側に、上記熱可塑性エラストマーが外側にそれぞれ偏在している射出成形品、を提供する。
本発明によれば、剛性、靱性および美観のいずれもを有する射出成形品を提供することができる。
以下、本発明の実施の形態を説明する。本発明の一実施の形態における射出成形品の製造方法は、第1の混練物および第2の混練物を混合し、得られた混合物を材料として射出成形する。第1の混練物および第2の混練物は、射出成形の材料として公知の形態であればよい。このような形態の例には、ペレット、フレークおよび破砕物が含まれる。
上記第1の混練物および第2の混練物の混合は、両混練物が射出成形時にシリンダ内において一様な組成物となるのに十分な程度に混合されればよく、上記第1の混練物および第2の混練物の混合は、射出成形における材料の混合の通常の方法によって行うことができる。たとえば、上記混合は、ドライブレンドであり、タンブラーを用いて行うことが可能である。
また、上記射出成形は、樹脂材料を用いる通常の条件によって行うことが可能である。このような射出条件は、第1および第2の混練物中の樹脂の種類などに応じて適宜に決めることが可能である。
上記第1の混練物は、第1の熱可塑性樹脂およびフィラーを含有する組成物の溶融混練物である。上記第2の混練物は、第2の熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを含有する組成物の溶融混練物である。
上記第1の熱可塑性樹脂および第2の熱可塑性樹脂は、後述するせん断粘度の要件を満たす範囲において、適宜に選ぶことが可能であり、市販品であってもよい。第1および第2の熱可塑性樹脂は、同じであってもよいし異なっていてもよい。上記第1の熱可塑性樹脂および上記第2の熱可塑性樹脂には同じ熱可塑性樹脂を用いることが、後述のせん断粘度の要件を容易に達成する観点、および、射出成形時における両混練物の相溶性を高める観点から好ましい。
上記第1の熱可塑性樹脂および上記第2の熱可塑性樹脂の例には、ポリカーボネート(PC)、スチレン系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタレートが含まれる。上記ポリカーボネートの例には、芳香族ポリカーボネート、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製の「カリバー(Calibre)」シリーズ(「カリバー」は、トリンセオ ヨーロッパ社の登録商標)、および、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製の各種ポリカーボネート、が含まれる。上記スチレン系樹脂の例には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリスチレン、および、耐衝撃性ポリスチレンが含まれる。ABS樹脂の例には、東レ株式会社製の「トヨラック」シリーズ(「トヨラック」は同社の登録商標)が含まれる。
中でも、上記射出成形品における剛性や靱性などの機械特性およびコストの観点、および、構造材として適した物性を有する上記射出成形品を得る観点から、上記第1、第2の熱可塑性樹脂は、ポリカーボネートまたはスチレン系樹脂であることが好ましい。
上記フィラーは、樹脂材料の特性を高める目的で用いられる粉体であり、一種でも二種以上でもよく、無機材料でも有機材料でもよい。また、フィラーの形状も限定されず、例えば、繊維状フィラーであってもよいし、粒状フィラーであってもよい。上記フィラーは、射出成形品の剛性を高める観点から、繊維状フィラーであることが好ましい。繊維状フィラーは、一般に、射出成形品の外観における滑らかさを損ない易いが、本発明は、後述する理由により外観の悪化を抑制する効果に優れているため、剛性の向上のために繊維状フィラーを用いるのにより好適である。
上記繊維状フィラーは、繊維そのものによるフィラーであってもよいし、例えばウィスカ状のフィラーのように繊維状の部分を含むフィラーであってもよい。繊維状とは、平均太さが20μm以下であり、かつアスペクト比(長径/短径の比)が15以上となる形を言う。繊維状フィラーは、一種でもそれ以上でもよい。
繊維状フィラーの長さは、第1の混練物を調製する際の溶融混練や、その後の射出成形時において繊維状フィラーがある程度折れることから、短すぎると、射出成形品の強度(剛性)が不十分になることがある。しかしながら、長すぎると、射出成形品の上記美観に悪影響を及ぼす傾向があり、上記美観が不十分となることがあり、また、繊維状フィラーの第1の混練物中での均一な分散が不十分になることがある。射出成形品の十分な剛性を実現する観点から、射出成形品中における繊維状フィラーの平均繊維長は、100μm以上であることが好ましく、繊維状フィラーの分散性の観点から300μm以下であることが好ましい。
上記粒状フィラーにおける粒状は、繊維状ではない形状であり、例えば球状であってもよいし、樹脂組成物の破砕物のように不定形であってもよい。粒状フィラーのアスペクト比は、15未満であればよいが、2以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましい。上記粒状フィラーは、一種でもそれ以上でもよい。
上記粒状フィラーは、大きすぎると射出成形品の上記美観が損なわれることがある。上記粒状フィラーの大きさは、射出成形品の美観および剛性のそれぞれの観点において、小さい程好ましい。たとえば、粒状フィラーの平均最大径は、50μm以下であることが好ましい。
上記のフィラーの材料の例には、ガラス、タルク、マイカおよびカーボンが含まれる。上記フィラーの例には、「CHG 3PA−830」(日東紡績株式会社製)、「ミクロエース」シリーズ、「ナノエース」シリーズ(日本タルク株式会社製、「ミクロエース」および「ナノエース」はいずれも同社の登録商標)が含まれる。
上記繊維状フィラーには、第1の混練物の材料として、その繊維長が3mm以上であるガラス繊維を用いることが、射出成形品の機械物性およびコストの観点から好ましい。また、上記粒状フィラーには、ガラス製の粒子を用いることが、上記の観点から好ましい。
上記繊維状フィラーあるいは上記粒状フィラーの形状および大きさは、樹脂組成物中のフィラーの形状、大きさを測定するための通常の方法によって求めることが可能である。たとえば、上記フィラーの形状および大きさは、上記混練物または射出成形品の断面の拡大画像の解析によって求めることが可能である。
上記熱可塑性エラストマーは、熱可塑性を有するとともに常温で弾性を示す高分子化合物である。熱可塑性エラストマーは、一種でもそれ以上でもよい。当該熱可塑性エラストマーの例には、タフテックMシリーズ、Hシリーズ、Sシリーズ(いずれも旭化成株式会社製、「タフテック」は同社の登録商標)、および、メタブレンシリーズS−2100、SX−006、C−223Aなど(三菱レイヨン株式会社製、「メタブレン」は同社の登録商法)、が含まれる。
上記第1の混練物および上記第2の混練物には、せん断速度1×103/秒での上記第1の混練物の第1せん断粘度が上記せん断速度での上記第2の混練物の第2せん断粘度よりも大きな混練物をそれぞれ用いる。すなわち、上記第2せん断粘度η2に対する上記第1せん断粘度η1の比(η1/η2)は、1.0よりも大きい。当該比が1.0以下であると、射出成形品における美観が損なわれやすい。射出成形品の剛性および美観の両方を十分に発現させる観点から、上記比は、1.5以上であることが好ましい。上記比は、大きすぎると、美観の効果が頭打ちになり、また、剛性が不十分になる可能性があることから、所期の剛性および美観を十分に発現させる範囲内で適宜にその上限値を決めてよく、例えば5.0未満であることが好ましい。
上記第1、第2せん断粘度は、樹脂組成物のせん断粘度を測定する通常の方法によって求めることが可能であり、例えば、株式会社東洋精機製作所製のキャピラリーレオメーター「キャピログラフ1D」を用いて測定することが可能である。
また、上記第1、第2せん断粘度およびそれらの上記比は、樹脂組成物のせん断粘度を調整する通常の方法によって調整することが可能であり、例えば、第1の混練物および第2の混練物における樹脂材料の種類、第1の混練物におけるフィラーの含有量または第2の混練物における熱可塑性エラストマーの含有量、第1の混練物および第2の混練物の溶融混練の条件、によって調整することが可能である。より具体的には、上記第1せん断粘度は、フィラーの含有量を多くすることによって大きくすることが可能であり、上記第2せん断粘度は、熱可塑性エラストマーの含有量を多くすることによって大きくすることが可能である。
上記第1、第2の熱可塑性樹脂、フィラーおよび熱可塑性エラストマーの上記混練物中の含有量は、射出成形品における含有量に応じて決めることが可能であり、射出成形品における上記成分の含有量は、所期の効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。
たとえば、上記射出成形品において、上記第1の熱可塑性樹脂および上記第2の熱可塑性樹脂の含有量が少なすぎると、上記フィラーの含有量が相対的に多くなることによって美観が損なわれることがあり、多すぎると上記フィラーの含有量が相対的に少なくなることによって剛性が不十分になることがある。また、上記フィラーの含有量が少なすぎると、射出成形品の剛性が不十分となることがあり、多すぎると美観が損なわれることがある。また、上記熱可塑性エラストマーの含有量が少なすぎると、射出成形品の美観が損なわれることがあり、多すぎると、靱性および美観は十分だが剛性が不十分、となることがある。
このように、射出成形品における剛性と美観とのそれぞれを高める観点から、上記第1の熱可塑性樹脂および上記第2の熱可塑性樹脂の総量の含有量は、上記射出成形品における上記第1の熱可塑性樹脂、上記第2の熱可塑性樹脂、上記フィラーおよび上記熱可塑性エラストマーの総量に対して、70〜85質量%であることが好ましく、上記フィラーの含有量は、10〜20質量%であることが好ましく、上記熱可塑性エラストマーの含有量は、5〜10質量%であることが好ましい。
より具体的には、例えば、第1の熱可塑性樹脂と第2の熱可塑性樹脂に同じ熱可塑性樹脂を用いる場合では、熱可塑製樹脂の全量のうちの一部を、第1の混練物におけるフィラーの含有量が40質量%となる量で用いて第1の混練物を生成し、次いで、上記熱可塑性樹脂の残りと熱可塑性エラストマーとを混練して第2の混練物を生成して、第2の混練物における熱可塑性エラストマーの含有量を20質量%以下にすることにより、上記の粘度の比を満足する第1の混練物および第2の混練物を調製することが可能である。
上記射出成形品は、本実施の形態の効果が得られる範囲において、前述した第1の熱可塑性樹脂、第2の熱可塑性樹脂、フィラーおよび熱可塑性エラストマー以外の他の成分をさらに含有していてもよい。当該他の成分の例には、着色剤、難燃剤、および紫外線吸収剤が含まれる。これらの他の成分の上記射出成形品における含有量は、本実施の形態の効果とともに当該他の成分による効果が得られる範囲において適宜に決めることが可能である。
上記他の成分は、第1の混練物および第2の混練物の一方または両方に添加されていてもよいし、上記混合物の一材料として添加されてもよい。なお、本実施の形態では、上記他の成分が前述した第1の熱可塑性樹脂、第2の熱可塑性樹脂、フィラーおよび熱可塑性エラストマーに該当する場合には、それらとして扱われる。
また、上記射出成形品の製造方法は、前述した混練物の混合工程、および得られた混合物の射出成形工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。当該他の工程の例には、第1の熱可塑性樹脂およびフィラーを溶融混練して第1の混練物を生成する第1の溶融混練工程、第2の熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを溶融混練して第2の混練物を生成する第2の溶融混練工程、両混練物のそれぞれを射出成形の材料用の形状に加工する造粒工程、および、両混練物の混合物を射出成形前に乾燥させる工程、が含まれる。これらの他の工程は、前述したせん断粘度の比の要件が満たされる範囲において、樹脂組成物の射出成形で行われる通常の条件で行うことが可能である。
上記射出成形品は、上記第1および第2の熱可塑性樹脂、フィラーおよび熱可塑性エラストマーを含有し、その内側にフィラーが、そしてその外側に熱可塑性エラストマーが偏在する。偏在とは、偏った分布を有して存在することを意味する。すなわち、上記射出成形品において、上記フィラーは、射出成形品の内側へ偏って分布しており、上記熱可塑性エラストマーは、射出成形品の表面側へ偏って分布している。このような偏った分布は、所定の方向に向けての存在割合の増加または減少を含んでいてもよいし、そのような増減を含んでいなくてもよい。また、上記の分布の偏りが見られる範囲において、フィラーの一部が射出成形品の表面側に存在していてもよいし、熱可塑性エラストマーの一部が射出成形品の内部(中央部)に存在していてもよい。
上記射出成形品における熱可塑性エラストマーの上記遍在は、例えば、射出成形体の表面付近と中心部分とを切断し、あるいは、これらの両方を含む断面となるように切断し、透過型電子顕微鏡(TEM)によって観察することによって確認することが可能である。また、上記射出成形品におけるフィラーの上記遍在は、例えば、上記射出成形品の上記の切断片を焼き、レーザー顕微鏡で観察することによって確認することが可能である。
上記射出成形品の剛性、靱性および美観は、当該射出成形品の用途に応じて適宜に決めることが可能である。たとえば、上記射出成形品は、上記の遍在が実現され、かつ構造材としての利用などの汎用性の観点から、上記射出成形品は、その厚みが1.6〜4.0mmの部材であることが好ましい。上記射出成形品の厚さは一定であってもよいし、一定でなくてもよく、上記射出成形品の形状は、限定されず、曲面を含む形状であってもよいし、主に平面で構成される形状であってもよい。汎用性などの観点から、上記射出成形品の形状は、平板状または箱状であることが好ましい。
上記射出成形品は、例えば、プリンタなどの電気機器の構造材(外装材および内装材など)に使用することが可能である。このような外観と強度の両方を要求される用途において、上記射出成形品は、要求される剛性および靱性を満足するために、例えば、2600MPa以上の曲げ弾性率を有するとともにIzod衝撃試験による6kJ/m2以上の衝撃強度を有することが好ましく、要求される外観上の滑らかさ(美観)を満足するために、5以下の十点平均粗さ(Rz)を有することが好ましい。
以下、本実施の形態について図を用いてより詳しく説明する。図1は、本実施の形態における射出成形品の製造方法の一例を概略的に示す図である。
本実施の形態では、上記せん断粘度のより大きな第1の混練物3aと、せん断粘度がより小さな第2の混練物3bとの混合物(例えばドライブレンドによる混合物)を射出成形の材料に用いる。たとえば、第1の熱可塑性樹脂1aと繊維状フィラー2aとを溶融混練することによって第1の混練物3aが生成される。同様に、第2の熱可塑性樹脂1bと熱可塑性エラストマー2bとを溶融混練することによって第2の混練物3bが生成される。これらの混練物は、例えばペレットとして生成される。
第1の混練物3aと第2の混練物3bは、ドライブレンドなどの射出成形に関する公知の方法によって十分に混合され、得られた混合物が、射出成形機に投入される。射出成形機のシリンダ内では、両混練物は、一様の組成物4になるが、組成物4には、繊維状フィラーが豊富な領域4aと熱可塑性エラストマーが豊富な領域4bとが混在すると考えられる。
第1の混練物3aの上記第1せん断粘度は、第2の混練物3bの上記第2せん断粘度よりも高いことから、上記シリンダ内において、繊維状フィラーが豊富な領域4aは、熱可塑性エラストマーが豊富な領域4bのそれよりも高い粘性を呈すると考えられる。その結果、射出成形において、図中のY方向の両側に配置されている不図示の金型に組成物4がX方向に沿って射出されたときに、組成物4は、当該金型内においてファウンテンフローで流動し、組成物4におけるより低粘性な、熱可塑性エラストマーが豊富な領域4bが、繊維状フィラーが豊富な領域4aに比べて金型の表面(射出成形品の表面)側に移動する。よって、射出成形品5では、金型によって形成される表面側(Y方向における両側側)付近に熱可塑性エラストマー2bが、内側には繊維状フィラー2aが偏在する構造が形成される、と考えられる。
より具体的には、組成物4は、射出成形において、図2に示されるように、ファウンテンフローで流動する。射出成形において、組成物4は、図中の矢印Aの方向および速度で流動する。そして、流動する組成物4が金型21で冷却されることで射出成形品の表面およびその近傍となる固化層41が生成する。固化層41または金型21の表面と流動する組成物4との間の部分(図2中にて一点鎖線で囲まれる部分、例えば、流動方向における固化層41の先端部)には、大きなせん断力が生じる。このとき、より低粘度な成分(熱可塑性エラストマーが豊富な領域4b)は、そのせん断速度が矢印Bで示されるようにより大きくなり、矢印Cで示されるように、流動する組成物4の先端に集まりやすい、このため、当該低粘度な成分は、金型21の表面に向けてより移動しやすくなり、よって、金型21により早くに到達して固化されやすい。そのため、低粘度な成分、例えば熱可塑性エラストマーに富む樹脂成分、が射出成形品の表面付近に分布しやすいと考えられる。
このように、本実施の形態では、フィラーと熱可塑性エラストマーを分割して混練し、その粘度差と射出成形での流動形式(ファウンテンフロー)とによって、上記のような剛性、靱性および外観のいずれもが良好な射出成形品の有効な構造を実現し、その結果、剛性、靭性、外観性の良い射出成形品が得られる、と推定される。
換言すると、一般には、繊維状フィラーは、射出成形品の剛性を高める効果が高いが、射出成形品の表面およびその近傍に存在すると、射出成形品の外観を悪化させる。これに対して熱可塑性エラストマーは、熱可塑性エラストマーによる射出成形品の剛性を高める効果は、繊維状フィラーのそれに比べて小さいが、射出成形品の外観の滑らかさを実質的には損なわない。
これに対して、本実施の形態では、第1の混練物および第2の混練物を予め分けて混練し、組成比を制御して第1の混練物のせん断粘度を第2の混練物のせん断物のそれに対して大きくなるように調整する。そして、第1、第2の混練物の混合物、例えばドライブレンド品、を射出成形の原料に用いる。そして、これらの混練物が溶融した組成物内に、熱可塑性エラストマーがリッチな低粘度相と、フィラーがリッチな高粘度相とが形成され、成形体表面にエラストマーが、内部にフィラーが分布しやすくなる、と考えられる。
よって、上記射出成形品では、フィラーによって剛性が向上し、かつその表面およびその近傍にフィラーが少なく、柔軟なエラストマー成分が存在することで良好な外観が維持される。また、熱可塑性エラストマーによる高靭性化は、射出成形品の内部構造における熱可塑性エラストマー間の距離が一定以下になることが重要である。本実施の形態では、当該内部構造において熱可塑性エラストマーが局在化することから、少量の熱可塑性エラストマーでもそれらの間の距離を小さくすることができる。このため、上記射出成形品を効率的に高靭性化することができる。その結果、本実施の形態では、射出成形品において一般にトレードオフの関係になりやすい剛性および美観の両方を十分に高めることができ、さらには、剛性、靭性および外観のいずれもを十分に高めることができると考えられる。
以上の説明から明らかなように、上記射出成形品の製造方法は、第1の熱可塑性樹脂およびフィラーを溶融混練してなる第1の混練物と、第2の熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを溶融混練してなる第2の混練物とを混合する工程、および、得られた混合物を材料として射出成形する工程、を含み、上記第1の混練物および上記第2の混練物には、せん断速度1×103/秒での上記第1の混練物の第1せん断粘度が上記せん断速度での上記第2の混練物の度第2せん断粘度よりも大きな混練物をそれぞれ用いる。
また、上記射出成形品は、第1の熱可塑性樹脂およびフィラーを溶融混練してなる第1の混練物と、第2の熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを溶融混練してなる第2の混練物との混合物を材料とする射出成形によって製造された射出成形品であって、上記フィラーが内側に、上記熱可塑性エラストマーが外側にそれぞれ偏在している。よって、上記射出成形品は、剛性、靱性および美観のいずれもを有し、上記射出成形品の製造方法は、上記射出成形品を提供することができる。
上記第1の熱可塑性樹脂および上記第2の熱可塑性樹脂には同じ熱可塑性樹脂を用いることは、上記のせん断粘度の要件を容易に達成する観点、および、射出成形時における両混練物の相溶性を高める観点からより一層効果的である。
また、上記第1の混練物および上記第2の混練物には、上記第2せん断粘度に対する上記第1せん断粘度の比が1.5以上5.0未満である混練物をそれぞれ用いることは、射出成形品の剛性をさらに高める観点からより一層効果的である。
また、上記第1の熱可塑性樹脂および上記第2の熱可塑性樹脂には、それぞれ、芳香族ポリカーボネートまたはスチレン系樹脂を用いることが、上記射出成形品の機械特性およびコストの観点からより一層効果的である。
また、上記フィラーに繊維状フィラーを用いることが、上記射出成形品の機械特性およびコストの観点からより一層効果的である。
また、上記第1の熱可塑性樹脂、上記第2の熱可塑性樹脂、上記フィラーおよび上記熱可塑性エラストマーの総量に対して、上記第1の熱可塑性樹脂および上記第2の熱可塑性樹脂の総量の含有量が70〜85質量%であり、上記フィラーの含有量が10〜20質量%であり、上記熱可塑性エラストマーの含有量が5〜10質量%であることは、射出成形品の剛性、靱性および美観のいずれもを十分に実現させる観点からより一層効果的である。
[実施例1]
ポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマー(Ela.)を、この順で質量比にて80:15:5となるようにそれぞれ計量した。ポリカーボネート(PC)は熱可塑性樹脂(単に「樹脂」とも言う)に、ガラス繊維(GF)はフィラー(Fil.)に、それぞれ相当する。
ポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマー(Ela.)を、この順で質量比にて80:15:5となるようにそれぞれ計量した。ポリカーボネート(PC)は熱可塑性樹脂(単に「樹脂」とも言う)に、ガラス繊維(GF)はフィラー(Fil.)に、それぞれ相当する。
上記ポリカーボネートには、住化スタイロンポリカーボネート株式会社製の「Calibre301−10」を用いた。上記ガラス繊維には、日東紡績株式会社製の「CHG 3PA−830」を用いた。上記ガラス繊維の平均繊維長は3mmであり、上記ガラス繊維の異形比(ガラス断面の長径/短径比)は4である。上記熱可塑性エラストマーには、旭化成株式会社製の「タフテックM1911」を用いた。
計量した上記の材料のうち、ポリカーボネートとガラス繊維とを、ガラス繊維の含有量が40質量%となる量で、二軸混練機を用いてシリンダ温度270℃、スクリュー回転数250rpmで溶融混練し、直径2〜3mm程度、長さ3〜5mm程度の円筒状のペレットとして、第1の混練物1を得た。
また、計量した上記材料のうちの残り、すなわち57.5質量部の上記ポリカーボネートと5質量部の熱可塑性エラストマーとを、第1の混練物1と同様の条件で溶融混練し、上記ペレットとして第2の混練物1を得た。
第1の混練物1および第2の混練物1のそれぞれについて、溶融せん断速度1×103/秒でのせん断粘度を、株式会社東洋精機製作所製のキャピラリーレオメーター「キャピログラフ1D」を用いて測定したところ、第1の混練物1の第1せん断粘度η1は、1905Pa秒であり、第2の混練物1の第2せん断粘度η2は、900Pa秒であり、第2せん断粘度η2に対する第1せん断粘度η1の比Rη(η1/η2)は2.1であった。
このようにしてそれぞれ分割して製造された第1の混練物1と第2の混練物1とをタンブラーによってドライブレンドし、このような分割混練方法によってこれらのペレットの混合物を得た。得られた混合物を80℃で4時間乾燥させ、その後、射出成形機のホッパーに投じ、射出成形して、射出成形品1Aおよび1Bを得た。上記射出成形の条件は、シリンダ温度290℃、金型温度90℃、射出速度30mm/秒、保圧60MPaとした。
射出成形品1Aの形状は、JIS K7171に記載の寸法に準じている。すなわち、射出成形品1は、縦4mm、横10mm、長さ80mmの直方体形状を有している。射出成形品1Bの形状は、JIS K7110に記載の寸法に準じている。すなわち、射出成形品1Bの形状は、射出成形品1Aに、成形によるタイプAのノッチが形成された形状である。ノッチは、射出成形品1Aの一側面(4mm×80mmの面)の長手方向の中央部に、当該一側面を横断する方向(短手方向)に沿って形成されている。ノッチの半径は0.25mmであり、ノッチの幅は8.0mmである。
[実施例2]
ポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを、この順で質量比にて70:20:10となるようにそれぞれ計量した以外は、実施例1と同様にして射出成形品2を得た。本実施例において、第1せん断粘度η1は1893Pa秒であり、第2せん断粘度η2は1014Pa秒であり、上記Rηは1.9であった。
ポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを、この順で質量比にて70:20:10となるようにそれぞれ計量した以外は、実施例1と同様にして射出成形品2を得た。本実施例において、第1せん断粘度η1は1893Pa秒であり、第2せん断粘度η2は1014Pa秒であり、上記Rηは1.9であった。
[実施例3]
ポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを、この順で質量比にて90:5:5となるようにそれぞれ計量した以外は、実施例1と同様にして射出成形品3を得た。本実施例において、第1せん断粘度η1は1881Pa秒であり、第2せん断粘度η2は895Pa秒であり、上記Rηは2.1であった。
ポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを、この順で質量比にて90:5:5となるようにそれぞれ計量した以外は、実施例1と同様にして射出成形品3を得た。本実施例において、第1せん断粘度η1は1881Pa秒であり、第2せん断粘度η2は895Pa秒であり、上記Rηは2.1であった。
[実施例4]
ポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを、この順で質量比にて75:20:5となるようにそれぞれ計量した以外は、実施例1と同様にして射出成形品4を得た。本実施例において、第1せん断粘度η1は1880Pa秒であり、第2せん断粘度η2は1310Pa秒であり、上記Rηは1.4であった。
ポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを、この順で質量比にて75:20:5となるようにそれぞれ計量した以外は、実施例1と同様にして射出成形品4を得た。本実施例において、第1せん断粘度η1は1880Pa秒であり、第2せん断粘度η2は1310Pa秒であり、上記Rηは1.4であった。
[実施例5]
ガラス繊維に代えてタルク(Talc)を用いる以外は実施例1と同様にして射出成形品5を得た。上記タルクには、日本タルク株式会社製の「ミクロエースP−3」を用いた。当該タルクの体積基準のメディアン径D50は5.0μmである。本実施例において、第1せん断粘度η1は1480Pa秒であり、第2せん断粘度η2は925Pa秒であり、上記Rηは1.6であった。
ガラス繊維に代えてタルク(Talc)を用いる以外は実施例1と同様にして射出成形品5を得た。上記タルクには、日本タルク株式会社製の「ミクロエースP−3」を用いた。当該タルクの体積基準のメディアン径D50は5.0μmである。本実施例において、第1せん断粘度η1は1480Pa秒であり、第2せん断粘度η2は925Pa秒であり、上記Rηは1.6であった。
[実施例6]
ポリカーボネートに代えてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)を用い、第1および第2の混練物を調製する際の溶融混練におけるシリンダ温度を230℃とし、射出成形時のシリンダ温度を240℃、金型温度を70℃とした以外は、実施例1と同様にして射出成形品6を得た。上記ABSには、東レ株式会社製の「トヨラック700−314」を用いた。本実施例において、第1せん断粘度η1は1084Pa秒であり、第2せん断粘度η2は279Pa秒であり、上記Rηは3.9であった。
ポリカーボネートに代えてアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)を用い、第1および第2の混練物を調製する際の溶融混練におけるシリンダ温度を230℃とし、射出成形時のシリンダ温度を240℃、金型温度を70℃とした以外は、実施例1と同様にして射出成形品6を得た。上記ABSには、東レ株式会社製の「トヨラック700−314」を用いた。本実施例において、第1せん断粘度η1は1084Pa秒であり、第2せん断粘度η2は279Pa秒であり、上記Rηは3.9であった。
[実施例7]
ガラス繊維に代えて上記タルクを用いる以外は、実施例6と同様にして射出成形品7を得た。本実施例において、第1せん断粘度η1は745Pa秒であり、第2せん断粘度η2は319Pa秒であり、上記Rηは2.3であった。
ガラス繊維に代えて上記タルクを用いる以外は、実施例6と同様にして射出成形品7を得た。本実施例において、第1せん断粘度η1は745Pa秒であり、第2せん断粘度η2は319Pa秒であり、上記Rηは2.3であった。
[比較例1]
計量したポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを一括で溶融混練して混練し、得た混練物のペレットを材料として射出成形を行った以外は、実施例1と同様にして射出成形品C1を得た。
計量したポリカーボネート、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを一括で溶融混練して混練し、得た混練物のペレットを材料として射出成形を行った以外は、実施例1と同様にして射出成形品C1を得た。
[比較例2]
計量したABS樹脂、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを一括で溶融混練して混練し、得た混練物のペレットを材料として射出成形を行った以外は、実施例6と同様にして射出成形品C2を得た。
計量したABS樹脂、ガラス繊維および熱可塑性エラストマーを一括で溶融混練して混練し、得た混練物のペレットを材料として射出成形を行った以外は、実施例6と同様にして射出成形品C2を得た。
[比較例3]
計量した上記の材料のうち、ポリカーボネートとガラス繊維とを、ガラス繊維の含有量が15質量%となる量で第1の混練物のペレットを作製し、熱可塑性エラストマーの含有量が30質量%となる量で第2の混練物のペレットを作製し、射出成形時のシリンダ温度を300℃にする以外は、実施例1と同様にして射出成形品C3を得た。本比較例において、第1せん断粘度η1は1215Pa秒であり、第2せん断粘度η2は1305Pa秒であり、上記Rηは0.9であった。
計量した上記の材料のうち、ポリカーボネートとガラス繊維とを、ガラス繊維の含有量が15質量%となる量で第1の混練物のペレットを作製し、熱可塑性エラストマーの含有量が30質量%となる量で第2の混練物のペレットを作製し、射出成形時のシリンダ温度を300℃にする以外は、実施例1と同様にして射出成形品C3を得た。本比較例において、第1せん断粘度η1は1215Pa秒であり、第2せん断粘度η2は1305Pa秒であり、上記Rηは0.9であった。
[評価]
(1)剛性
射出成形品1〜7およびC1〜C3のそれぞれについて、JIS K7171に準じた曲げ試験を行った。より詳しくは、株式会社エー・アンド・デイ製の万能材料試験機「テンシロン」を用い、試験片にノッチを有さない射出成形品Aを用い、3点曲げ試験において、支点間距離64mmにセットし、圧子を2mm/分の速度で押し込み、得られる応力−ひずみ曲線(ssカーブ)における歪み0.05%から0.25%までの間の傾きから曲げ弾性率Eを算出し、下記の基準により判定した。
◎:Eが3300MPa以上
○:Eが3000MPa以上3300MPa未満
△:Eが2600MPa以上3000MPa未満
×:Eが2600MPa未満
(1)剛性
射出成形品1〜7およびC1〜C3のそれぞれについて、JIS K7171に準じた曲げ試験を行った。より詳しくは、株式会社エー・アンド・デイ製の万能材料試験機「テンシロン」を用い、試験片にノッチを有さない射出成形品Aを用い、3点曲げ試験において、支点間距離64mmにセットし、圧子を2mm/分の速度で押し込み、得られる応力−ひずみ曲線(ssカーブ)における歪み0.05%から0.25%までの間の傾きから曲げ弾性率Eを算出し、下記の基準により判定した。
◎:Eが3300MPa以上
○:Eが3000MPa以上3300MPa未満
△:Eが2600MPa以上3000MPa未満
×:Eが2600MPa未満
(2)靱性
射出成形品1〜7およびC1〜C3のそれぞれについて、JIS K7110に準じたIzod衝撃試験を行った。より詳しくは、株式会社安田精器製作所製の衝撃試験機「万能衝撃試験機(No.258)」を用い、Izod衝撃試験において、5.5Jのハンマーを用いて、試験片であるノッチを有する射出成形品Bを破壊し、破壊に要したエネルギーを当該射出成形品Bのノッチ部における断面積で割って衝撃強度Sを求め、下記の基準により判定した。
○:Sが10kJ/m2以上
△:Sが6kJ/m2以上10kJ/m2未満
×:Sが6kJ/m2未満
射出成形品1〜7およびC1〜C3のそれぞれについて、JIS K7110に準じたIzod衝撃試験を行った。より詳しくは、株式会社安田精器製作所製の衝撃試験機「万能衝撃試験機(No.258)」を用い、Izod衝撃試験において、5.5Jのハンマーを用いて、試験片であるノッチを有する射出成形品Bを破壊し、破壊に要したエネルギーを当該射出成形品Bのノッチ部における断面積で割って衝撃強度Sを求め、下記の基準により判定した。
○:Sが10kJ/m2以上
△:Sが6kJ/m2以上10kJ/m2未満
×:Sが6kJ/m2未満
(3)外観
射出成形品1〜7およびC1〜C3のそれぞれについて、キーエンス社製VK−X100を用いて、射出成形品の表面を観察し、当該表面の画像を解析して10点粗さ平均Rzを算出した。そして、下記基準により判定した。
○:Rzが5μm未満
×:Rzが5μm以上
射出成形品1〜7およびC1〜C3のそれぞれについて、キーエンス社製VK−X100を用いて、射出成形品の表面を観察し、当該表面の画像を解析して10点粗さ平均Rzを算出した。そして、下記基準により判定した。
○:Rzが5μm未満
×:Rzが5μm以上
なお、射出成形品1〜7およびC1〜C3のそれぞれについて、その断面をTEMで観察して当該断面における熱可塑性エラストマーの分布の観察し、また、表面付近の部分とそれ以外の部分とに切断し、それぞれの部分の樹脂を燃やした後に残るフィラーの分布をレーザー顕微鏡で観察した。その結果、射出成形品1〜7では、射出成形品の表面から離れる程、熱可塑性エラストマーの割合が減少する一方でフィラーの割合が増加する傾向が見られた。それに対して、射出成形品C1、C2では、熱可塑性エラストマーおよびフィラーのいずれもがほぼ一様に分布しているように観察された。また、射出成形品C3では、フィラーがより表面側に分布する傾向が見られた。
実施例1〜7および比較例1〜3について、その射出成形品の材料の組成および物性を表1に、評価結果を表2にそれぞれ示す。表中、「分割」は、射出成形時の原材料のペレットを、第1の混練物と第2の混練物とに分けて作製したことを意味し、「一括」は、射出成形時の原材料のペレットを、全ての材料の一度に混練して作製したことを意味する。
表1から明らかなように、射出成形品1〜7は、いずれも、剛性、靱性および表面の美観のいずれも十分であり、また良好であった。また、例えば実施例1〜3から、フィラーの総量が多いことが剛性を高める観点から有利であることがわかる。さらに、例えば実施例1および5から、フィラーが繊維状のフィラーであることが剛性を高める観点から有利であることがわかる。さらには、例えば実施例1および6から、上記の効果は、異なる熱可塑性樹脂を用いた場合でも得られることがわかる。
これに対して、射出成形品C1〜C3は、いずれも、表面の美観が不十分である。射出成形品C1、C2については、フィラーと熱可塑性エラストマーとを一括で熱可塑性樹脂に投入して溶融混練したため、これらのフィラーおよび熱可塑性エラストマーが均一に分散し、フィラーが射出成形品の表面およびその近傍にも十分量存在し、その結果、射出成形品の表面が粗されため、と考えられる。
また、射出成形品C3では、第1の混練物が第2の混練物よりも流動性に優れるため、射出成形時における金型内でのファウンテンフローによって、第1の混練物由来の成分がより外側まで流れ、フィラーが射出成形品の表面およびその近傍まで到達し、その結果、射出成形品の表面が粗されるため、と考えられる。
本発明によれば、添加物の種類およびせん断粘度が十分に異なる二種の溶融混練物によって、剛性および靱性に優れ、かつ樹脂成形品に特有の、表面の見た目の滑らかさを有する射出成形品を得ることができる。したがって、本発明によれば、射出成形品用の樹脂材料に種々の樹脂材料を利用することが可能であり、また、上記の添加物を含有することから樹脂材料の含有量を低減させることが可能である。よって、本発明によれば、上記射出成形品の生産性のさらなる向上と、その製造に伴う環境への負荷のさらなる低減との両立が期待される。
1a 第1の熱可塑性樹脂
1b 第2の熱可塑性樹脂
2a 繊維状フィラー
2b 熱可塑性エラストマー
3a 第1の混練物
3b 第2の混練物
4 組成物
4a 繊維状フィラーが豊富な領域
4b 熱可塑性エラストマーが豊富な領域
5 射出成形品
21 金型
41 固化層
1b 第2の熱可塑性樹脂
2a 繊維状フィラー
2b 熱可塑性エラストマー
3a 第1の混練物
3b 第2の混練物
4 組成物
4a 繊維状フィラーが豊富な領域
4b 熱可塑性エラストマーが豊富な領域
5 射出成形品
21 金型
41 固化層
Claims (7)
- 第1の熱可塑性樹脂およびフィラーを溶融混練してなる第1の混練物と、第2の熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを溶融混練してなる第2の混練物とを混合する工程、および、得られた混合物を材料として射出成形する工程、を含み、
前記第1の混練物および前記第2の混練物には、せん断速度1×103/秒での前記第1の混練物の第1せん断粘度が前記せん断速度での前記第2の混練物の第2せん断粘度よりも大きな混練物をそれぞれ用いる、
射出成形品の製造方法。 - 前記第1の熱可塑性樹脂および前記第2の熱可塑性樹脂には同じ熱可塑性樹脂を用いる、請求項1に記載の射出成形品の製造方法。
- 前記第1の混練物および前記第2の混練物には、前記第2せん断粘度に対する前記第1せん断粘度の比が1.5以上5.0未満である混練物をそれぞれ用いる、請求項1または2に記載の射出成形品の製造方法。
- 前記第1の熱可塑性樹脂および前記第2の熱可塑性樹脂には、それぞれ、芳香族ポリカーボネートまたはスチレン系樹脂を用いる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の射出成形品の製造方法。
- 前記フィラーに繊維状フィラーを用いる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の射出成形品の製造方法。
- 前記第1の熱可塑性樹脂、前記第2の熱可塑性樹脂、前記フィラーおよび前記熱可塑性エラストマーの総量に対して、前記第1の熱可塑性樹脂および前記第2の熱可塑性樹脂の総量の含有量が70〜85質量%であり、前記フィラーの含有量が10〜20質量%であり、前記熱可塑性エラストマーの含有量が5〜10質量%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載の射出成形品の製造方法。
- 第1の熱可塑性樹脂およびフィラーを溶融混練してなる第1の混練物と、第2の熱可塑性樹脂および熱可塑性エラストマーを溶融混練してなる第2の混練物との混合物を材料とする射出成形によって製造された射出成形品であって、
前記フィラーが内側に、前記熱可塑性エラストマーが外側にそれぞれ偏在している、射出成形品。
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JP2017133825A JP2019014163A (ja) | 2017-07-07 | 2017-07-07 | 射出成形品およびその製造方法 |
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Cited By (2)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP2019123085A (ja) * | 2018-01-12 | 2019-07-25 | コニカミノルタ株式会社 | 射出成形品の製造方法および射出成形品 |
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-
2017
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