JP2018513698A - 生体組織補強材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】血液製剤であるフィブリン糊を用いることなく、空気漏れや体液漏れを防止して、脆弱化した組織をより確実に補強できる生体組織補強材料を提供する。【解決手段】生体吸収性高分子からなる繊維構造物と、セルロースのヒドロキシ基がエーテル化されたエーテル化セルロースからなる繊維構造物との積層構造体からなる生体組織補強材料。【選択図】 なし

Description

本発明は、血液製剤であるフィブリン糊を用いることなく、空気漏れや体液漏れを防止して、脆弱化した組織をより確実に補強できる生体組織補強材料に関する。
外科分野において損傷又は脆弱化した臓器、組織の修復は最も基本的な課題である。例えば、臓器の損傷による出血に対しては、止血して縫合する方法が現在でも最も一般的に用いられる外科的な手技である。また、組織の脆弱化や損傷に伴う体液の漏出や空気漏れ防止も、外科治療において大きな課題となっている。なかでも、呼吸器外科の分野においては、気胸や肺がん切除後の空気漏れ防止が大きな課題である。特に気胸は、適切な治療をしないと再発率も高く、治療にも難渋する疾病である。
気胸は、肺を切除した場合の断端や縫合部位、肺がんに対する肺部分切除部位、又は、外傷による肺組織の損傷部位から空気が胸腔内に漏れ出たり、あるいは肺胞の一部がのう胞化し(ブラと呼ばれる)、これが破れてその破れ目から空気が胸腔内に漏れ出たりすることにより生じる場合が多い。この漏れ出ている部分に対して、薬剤等を用いて、又は、人為的に化学熱傷を起こさせて肺組織と胸膜とを癒着させることで治療する胸膜癒着術という方法が用いられてきた。胸膜癒着術によれば、気胸の再発は一定程度防止できる。しかし、胸膜との癒着が不充分な場合には、再発の可能性が高い。仮に再度手術が必要になった場合には、肺組織が壁側胸膜に癒着しているために癒着を剥がす操作が必要となり、結果として手術時間の長期化や、癒着を剥がす際の出血という不具合が生じる。そこで、胸膜癒着術に代わる新しい治療方法が模索されていた。
また、消化器外科領域においては膵臓の部分切除後の断端からの膵液漏れ防止が大きな課題となっている。膵液は創傷治癒を司る肉芽組織を溶解してしまい、それの増殖を妨げてしまう。結果として膵臓の組織再生が困難となる。更に、漏出膵液により血管を消化して術後の大出血を引き起こしてしまう致命的な合併症になる危険性も懸念される。
これに対して、生体吸収性高分子からなる繊維構造物とフィブリン糊とを併用することで、肺組織の補強と肺表面のシールをする方法が行われるようになってきた。この方法によれば、従来の胸膜癒着術と比較して気胸の再発率が低下したと報告されている(非特許文献1〜4)。同様の方法は、消化器外科の分野においても、肝臓切除後の出血防止等にも用いられるようになってきている(非特許文献5)。
このような生体吸収性高分子からなる繊維構造物とフィブリン糊とを併用する方法は、脆弱組織の補強に極めて有効である。しかしながら、補強したはずの部位から空気漏れや体液漏れが発生してしまうことがあり、再手術の必要が生じることがあった。このような事例の発生確率は決して大きくはないものの、重篤な症状を引き起こす危険もあることから、より確実な補強方法が求められていた。また、血液製剤であるフィブリン糊は、未知のウイルス感染の可能性があるという問題もあった。
J.Pediatric Surg,42,1225−1230(2007) Interact.Cardiovasc.Thorac.Surg,6,12−15(2007) 日本呼吸器外科学会会誌,19(4),628−630(2005) 日本呼吸器外科学会会誌,22(2),142−145(2008) 臨床と研究,84,148(2007)
本発明は、血液製剤であるフィブリン糊を用いることなく、空気漏れや体液漏れを防止して、脆弱化した組織をより確実に補強できる生体組織補強材料を提供することを目的とする。
本発明は、生体吸収性高分子からなる繊維構造物と、セルロースのヒドロキシ基がエーテル化されたエーテル化セルロースからなる繊維構造物との積層構造体からなる生体組織補強材料である。
以下に本発明を詳述する。
本願の発明者らは、生体吸収性高分子からなる繊維構造物とフィブリン糊とを併用して生体組織の補強を行った場合に、補強したはずの部位から空気漏れや体液漏れが発生してしまう原因を検討した。その結果、フィブリン糊による接着部に原因があることを見出した。
フィブリン糊は、ごく短時間でゲル化する性質を有し、生体用の糊として極めて有用である。しかしながら、ゲル化したフィブリン糊は比較的硬いゲルであることから、衝撃によって凝集破壊したり、界面剥離したりしやすい。とりわけ肺組織の補強に用いた場合には、せきやくしゃみの際に極めて大きな圧力がかかり、その圧力によって凝集破壊、界面剥離してしまうことがあると思われる。ゲル化したフィブリン糊にはほとんど粘着性がないことから、いったん剥離してしまうと、再密着することができず、剥離部から空気漏れや体液漏れが生じていたものと考えられた。
本願の発明者らは、更に鋭意検討の結果、フィブリン糊に代えてセルロースのヒドロキシ基がエーテル化されたエーテル化セルロース(以下、単に「エーテル化セルロース」ともいう。)を用いることにより、脆弱化した組織をより確実に補強でき、空気漏れや体液漏れが生じない生体組織補強材料が得られることを見出し、本発明を完成した。
エーテル化セルロースは、高い安全性が確認された化合物であり、フィブリン糊と同様に短時間でゲル化して、生体吸収性高分子からなる繊維構造物を生体組織に貼着する糊としての役割を果たすことができる。また、ゲル化後も一定の粘着力を有することから、仮に大きな圧力によって凝集破壊や界面剥離が生じたとしても、再密着して空気漏れや体液漏れを防止することができる。更に、エーテル化セルロースは繊維状に加工可能であることから、予めエーテル化セルロースからなる繊維構造物を、生体吸収性高分子からなる繊維構造物に積層した積層構造体とすることにより、極めて取扱い性に優れた生体組織補強材料とすることができる。
本発明の生体組織補強材料は、生体吸収性高分子からなる繊維構造物と、エーテル化セルロースからなる繊維構造物との積層構造を有する。
上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物は、損傷又は脆弱化した臓器に貼付することにより、組織補強効果、空気漏れ防止効果、体液漏れ防止効果を発揮するものである。上記エーテル化セルロースからなる繊維構造物は、水分を吸収することによりゲル化して、上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物を生体組織に貼着する糊としての役割を果たす。
上記生体吸収性材料としては特に限定されず、例えば、ポリグリコリド、ポリラクチド(D、L、DL体)、グリコリド−ラクチド(D、L、DL体)共重合体、グリコリド−ε−カプロラクトン共重合体、ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体、ポリ(p−ジオキサノン)、グリコリド−ラクチド(D、L、DL体)−ε−カプロラクトン共重合体等のα−ヒドロキシ酸重合体高分子等の合成吸収性高分子や、コラーゲン、ゼラチン、キトサン、キチン等の天然吸収性高分子が挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。例えば、上記生体吸収性材料として上記合成吸収性高分子を用いる場合に、天然吸収性高分子を併用してもよい。なかでも、高い強度を示すことから、グリコリド、ラクチド、ε−カプロラクトン、ジオキサノン及びトリメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーを重合してなるホモポリマー又はコポリマーであるα−ヒドロキシ酸重合体高分子が好適であり、適度な分解挙動を示すことから、グリコリドを含むモノマーを重合してなるホモポリマー又はコポリマーであるα−ヒドロキシ酸重合体高分子がより好適である。
上記生体吸収性材料としてポリグリコリド(グリコリドのホモポリマー又はコポリマー)を用いる場合、ポリグリコリドの重量平均分子量の好ましい下限は30000、好ましい上限は1000000である。上記ポリグリコリドの重量平均分子量が30000未満であると、強度が不足して充分な組織補強効果が得られないことがあり、1000000を超えると、体内分解速度が遅くなり、異物反応を起こすことがある。上記ポリグリコリドの重量平均分子量のより好ましい下限は50000、より好ましい上限は300000である。
上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物の形態は特に限定されず、不織布、編物、織物、ガーゼ、糸条が挙げられる。また、これらの形態を複合化したものであってもよい。なかでも、不織布が好適である。
上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物が不織布である場合、該不織布の目付は特に限定されないが、好ましい下限は5g/m、好ましい上限は300g/mである。上記不織布の目付が5g/m未満であると、生体組織補強材としての強度が不足し、脆弱した組織を補強できないことがあり、300g/mを超えると、組織への接着性が悪くなることがある。上記不織布の目付のより好ましい下限は10g/m、より好ましい上限は100g/mである。
上記不織布を製造する方法は特に限定されず、例えば、エレクトロスピニングデポジション法、メルトブロー法、ニードルパンチ法、スパンボンド法、フラッシュ紡糸法、水流交絡法、エアレイド法、サーマルボンド法、レジンボンド法、湿式法等の従来公知の方法を用いることができる。
上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物は、親水化処理が施されていてもよい。親水化処理を施すことにより、生理食塩水等の水分と接触させたときに速やかにこれを吸収することができ、取り扱い性に優れる。
上記親水化処理としては特に限定されず、例えば、プラズマ処理、グロー放電処理、コロナ放電処理、オゾン処理、表面グラフト処理又は紫外線照射処理等が挙げられる。なかでも、不織布の外観を変化させることなく吸水率を飛躍的に向上できることからプラズマ処理が好適である。
上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は5μm、好ましい上限は1.0mmである。上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物の厚さが5μm未満であると、強度が不足して充分な組織補強効果が得られないことがあり、1.0mmを超えると、組織に充分に密着するように固定できないことがある。上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物の厚さのより好ましい下限は10μm、より好ましい上限は0.5mmである。
上記エーテル化セルロースは、セルロースのヒドロキシ基がエーテル化されたものである。具体的には例えば、セルロースのヒドロキシ基がヒドロキシエチル基に置き換わったヒドロキシエチル化セルロース、セルロースのヒドロキシ基がヒドロキシプロピル基に置き換わったヒドロキシプロピル化セルロース等の下記一般式(1)で表されるヒドロキシアルキル化セルロースが挙げられる。なかでも、高い安全性が確認されていることから、ヒドロキシエチル化セルロースが好適である。
Figure 2018513698
式(1)中、nは整数を示し、Rは水素又は−R’OH基を示す。R’は、アルキレン基を示す。
上記エーテル化セルロースがヒドロキシエチル化セルロースである場合、該ヒドロキシエチル化セルロース中のジエチレングリコール基とエチレングリコール基とのモル比(ジエチレングリコール基/エチレングリコール基)は0.1〜1.0であることが好ましく、トリエチレングリコール基とエチレングリコール基とのモル比(トリエチレングリコール基/エチレングリコール基)は0.1〜0.5であることが好ましい。この範囲内であると、上記エーテル化セルロースからなる繊維構造物を介して上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物を生体組織に貼着したときに、優れた初期接着力を発揮できるとともに、接着後も高い粘着力を維持して、仮に大きな圧力によって凝集破壊や界面剥離が生じたとしても、再密着して空気漏れや体液漏れを防止することができる。
なお、ヒドロキシエチル化セルロース中のエチレングリコール基、ジエチレングリコール基及びトリエチレングリコール基のモル数は、例えば、NMRや熱分解GC−MSを用いて測定することができる。
上記エーテル化セルロースがヒドロキシエチル化セルロースである場合、無水グルコース単位当り結合しているアルキレンオキオキサイドの平均分子数(MS)の好ましい下限は1.0、好ましい上限は4.0である。上記MSがこの範囲内であると、短時間でのゲル化と高いゲル強度とを両立して、より組織に密着して固定させることができる。上記MSが1.0未満であると、ゲル化した後の粘性が低くなる傾向があり、4.0を超えると、ゲル化に時間がかかる傾向がある。 上記MSのより好ましい下限は1.3、より好ましい上限は3.0である。
上記エーテル化セルロースがヒドロキシエチル化セルロースである場合、無水グルコース単位の2、3、6位の水酸基へのアルキレンオキサイドの平均置換度(DS)の好ましい下限は0.2、好ましい上限は2.5である。上記DSがこの範囲内であると、短時間でのゲル化と高いゲル強度とを両立して、より組織に密着して固定させることができる。また、繊維構造による強力を発揮しやすく、繊維中に水分を保持しやすい。上記DSが0.2未満であると、ゲル化に時間がかかることがあり、2.5を超えると、湿潤状態での繊維構造による強力が低下することがある。 上記DSのより好ましい下限は0.3、より好ましい上限は1.5である。
なお、上記MS及びDSは、ヒドロキシエチル化セルロースの水溶液のNMRスペクトルを測定し、該スペクトルの無水グルコース環炭素および置換基炭素に帰属されるシグナルの強度を定量することにより、算出することができる。(例えば、特公平6−41926号公報を参照のこと。)
より具体的には、例えば、サンプル0.2g、酵素(セルラーゼ)30mg及び内部標準を重水3mlで溶解し、4時間超音波処理を施した後、NMR測定装置(例えば、日本電子社製のJNM−ECX400P等)を用い、スキャン回数700、パルス幅45°、観測周波数範囲31500Hz等の条件でNMRスペクトルを測定する。
上記ヒドロキシエチル化セルロースは、例えば、セルロースをアルカリ水溶液で処理して得られるアルカリセルロースにエチレンオキサイドを反応させることにより製造することができる。
具体的には、例えば、セルロースからなる繊維構造物を原料として、該原料繊維構造物を水酸化ナトリウム等のアルカリ水溶液で処理してセルロースをアルカリセルロースとし、得られたアルカリセルロースに一定量のエチレンオキサイドと反応溶媒とを加えて反応させる方法が挙げられる。
上記エーテル化セルロースからなる繊維構造物は、吸水率の好ましい下限が200%、好ましい上限が1000%である。吸水率がこの範囲内であると、短時間でのゲル化と高いゲル強度とを両立して、より組織に密着して固定させることができる。吸水率が200%未満であると、ゲル化に時間がかかることがあり、1000%を超えると、ゲル強度が低くなる傾向がある。吸水率のより好ましい下限は400%、より好ましい上限は800%である。
なお、本明細書において吸水率は、以下の方法により測定することができる。
即ち、初期重量を測定したサンプルをシャーレ上に乗せ、該サンプル上に蒸留水をゆっくりと滴下する。サンプルが最大限の蒸留水を吸水したとき(これ以上蒸留水を滴下すると、サンプルから吸水できない蒸留水が溢れ出してしまうぎりぎりのとき)の重量を測定し、最大吸水重量とする。得られた初期重量及び最大吸水重量を用い、下記式により吸水率を算出することができる。
吸水率(%)=(最大吸水重量−初期重量)/初期重量×100
上記エーテル化セルロースからなる繊維構造物は、吸湿率の好ましい下限が7%、好ましい上限が50%である。吸湿率がこの範囲内であると、短時間でのゲル化と高いゲル強度とを両立して、より組織に密着して固定させることができる。吸湿率が7%未満であると、ゲル化に時間がかかることがあり、50%を超えると、ゲル強度が低くなる傾向がある。吸湿水率のより好ましい下限は10%、より好ましい上限は35%である。
なお、本明細書において吸湿率は、以下の方法により測定することができる。
即ち、サンプルを105℃、2時間加熱した後、その重量を測定して絶乾重量とする。次いで、絶乾状態のサンプルを20℃、65%Rhの環境下に7時間静置して調湿させた後、その重量を測定し、調湿後重量とする。得られた絶乾重量及び調湿後重量を用い、下記式により吸湿率を算出することができる。
吸湿率(%)=(調湿後重量−絶乾重量)/絶乾重量×100
上記エーテル化セルロースからなる繊維構造物の形態は特に限定されず、不織布、編物、織物、ガーゼ、糸条が挙げられる。また、これらの形態を複合化したものであってもよい。なかでも、不織布が好適である。
上記エーテル化セルロースからなる繊維構造物が不織布である場合、該不織布の目付は特に限定されないが、好ましい下限は20g/m、好ましい上限は700g/mである。上記不織布の目付が20g/m未満であると、充分な接着力で生体組織補強材を生体組織に貼付できないことがあり、700g/mを超えると、エーテル化セルロースがゲル化するまでに時間を要してしまうことがある。上記不織布の目付のより好ましい下限は50g/m、より好ましい上限は500g/mである。
上記エーテル化セルロースからなる繊維構造物の厚さは特に限定されないが、好ましい下限は50μm、好ましい上限は10mmである。上記エーテル化セルロースからなる繊維構造物の厚さが50μm未満であると、充分な接着力で生体組織補強材を生体組織に貼付できないことがあり、10mmを超えると、吸水しにくく風合いが損なわれて、操作性が悪くなることがある。上記エーテル化セルロースからなる繊維構造物の厚さのより好ましい下限は50μm、より好ましい上限は5mmである。
上記生体吸収性高分子からなる繊維構造物とエーテル化セルロースからなる繊維構造物とは、複合一体化されていることが好ましい。複合一体化されることにより、より取扱い性が向上する。
上記複合一体化の方法としては特に限定されず、例えば、ニードルパンチ交絡、水流交絡、エアー交絡、交編、交織又は吹付紡糸(メルトブロー、電界紡糸)による方法が挙げられる。
なお、本明細書において複合一体化とは、積層された2つの繊維構造物を1つのものとして取り扱うことができ、容易には剥離しない状態とすることを意味する。
本発明の生体組織補強材料は、外科分野において損傷又は脆弱化した臓器、組織の止血、空気漏れ防止、体液漏れ防止の為に用いる。とりわけ、呼吸器外科の分野において、気胸や肺がん切除後の空気漏れ防止の為に好適に用いることができる。
本発明の生体組織補強材料は、例えば、生体組織補強材料を生理食塩水に浸漬してから患部にあてるだけで、容易に貼付することができる。また、患部に血液や体液がある場合には、これらを吸収することによっても接着力を発現することができる。
本発明によれば、血液製剤であるフィブリン糊を用いることなく、空気漏れや体液漏れを防止して、脆弱化した組織をより確実に補強できる生体組織補強材料を提供することができる。
実施例で行った耐圧試験で用いた耐圧試験装置の模式図である。
以下に実施例を挙げて本発明の態様を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
(実施例1)
(1)ヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物の調製
80番手のセルロース糸を用いてなる厚さ280μmのシングルニットを原料として、過酸化水素漂白法により漂白処理を施した。
漂白処理後のニット3.55gを、140mLの10%水酸化ナトリウム水溶液中に15℃、30分間浸漬して、セルロースをアルカリ化した。アルカリ処理後のニットを、2.5〜3.0kgでパディングした。
次いで、得られたアルカリセルロースからなるニット12.25gを、50mLの0.8mol/Lエチレンオキサイド/ヘキサン溶液中に25℃で浸漬し、その後、50℃、3時間反応を行った。反応後のニットをメタノール/メチルイソブチルケトン混合液(メタノール:メチルイソブチルケトン=35:35)70mL中に25℃、5分間浸漬して洗浄し、次いでメタノール/メチルイソブチルケトン/酢酸混合液(メタノール:メチルイソブチルケトン:酢酸=35:35:2.6)72.6mL中に25℃、10分間浸漬して中和した。更に、中和後のニットをイソプロピルアルコール/水混合液(イソプロピルアルコール:水=63:7)70mL中に25℃、3分間浸漬し、アセトン70mL中に25℃5分間浸漬した後、40℃、24時間乾燥して、ヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物を得た。
得られた繊維構造物のヒドロキシエチル化セルロースについて、熱分解GC−MSを用いて測定したところ、ジエチレングリコール基とエチレングリコール基とのモル比(ジエチレングリコール基/エチレングリコール基)が0.20、トリエチレングリコール基とエチレングリコール基とのモル比(トリエチレングリコール基/エチレングリコール基)が0.21であった。
(2)生体組織補強材料の製造
厚さ150μmのポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を生体吸収性高分子からなる繊維構造物として準備した。
得られたヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物2枚/ポリグリコリドからなる不織布/ヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物1枚をこの順に積層し、ニードルパンチ交絡法により複合一体化して生体組織補強材料を得た。
得られた生体組織補強材料を、直径9mmの円形に打ち抜いたものを測定用試料とした。
(3)耐圧試験
図1に示した耐圧試験装置1を用いて耐圧試験を行った。
厚さ約130μmのコラーゲンフィルム(ニッピ社製)を、直径24mmの円形に打ち抜き、70%エタノールで洗浄後、水分を拭き取ってからフィルターホルダー2(メルクミリポア社製、スウィネクス(登録商標)25)にセットした。フィルターホルダー2にセットしたコラーゲンフィルムの中心に、パンチを用いて直径3mmの孔を形成した。このフィルターホルダーの下流側に、三方コック4を介して20mlシリンジ3(テルモシリンジSS−20ESZ、テルモ社製)及び圧力計5(デジタルマノメータFUSO−8230、扶桑理化社製)をセットして耐圧試験装置とした。
得られた測定用試料のヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物2枚側の面に精製水を滴下した後、この面側が接するようにフィルターホルダーにセットしたコラーゲンフィルムの中心に置いた。静置してから15分後にシリンジから空気を送り、測定用試料が剥離するまでの最大の圧力を圧力計にて測定して、耐圧性(初期耐圧性)を評価した。
初期耐圧性を評価した後、5分毎に5回、シリンジから空気を送り、測定用試料が剥離するまでの最大の圧力を圧力計にて測定して繰り返し耐圧性の評価を行った。
結果を表1に示した。
(実施例2)
原料として160番手のセルロース糸を用いてなる厚さ200μmのシングルニットを用いてヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物を調製し、ヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物3枚/ポリグリコリドからなる不織布/ヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物2枚をこの順に積層した以外は、実施例1と同様にして生体組織補強材料を得て、耐圧試験を行った。なお、耐圧試験においては、測定用試料のヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物3枚側の面が接するようにフィルターホルダーにセットしたコラーゲンフィルムの中心に置いた。
耐圧試験の結果を表1に示した。
(比較例1)
生体吸収性高分子からなる繊維構造物とフィブリン糊とを併用したときの耐圧性を以下の方法により評価した。
厚さ150μmのポリグリコリドからなる不織布(ネオベールTypeNV−M015G、グンゼ社製)を直径9mmの円形に打ち抜いた。
実施例1で準備した耐圧試験装置のフィルターホルダーにセットしたコラーゲンフィルムの中心に、孔を避けるようにして、フィブリン糊(CSLベーリング社製、ベリプラストP)のA液20μLを滴下し、直径9mm程度に広げた。次いで、該広げたA液の上に、直径9mmの円形に打ち抜いた不織布を載せ、A液になじませた。次いで、A液40μLを不織布上に滴下し、充分になじませた。次いで、B液40μLを不織布上に滴下した。
B液を滴下してから15分後にシリンジから空気を送り、測定用試料が剥離するまでの最大の圧力を圧力計にて測定して、耐圧性(初期耐圧性)を評価した。
初期耐圧性を評価した後、更に5分毎に4回、シリンジから空気を送り、測定用試料が剥離するまでの最大の圧力を圧力計にて測定して繰り返し耐圧性の評価を行った。
結果を表1に示した。
(比較例2)
ヒドロキシエチル化セルロースからなる繊維構造物に代えて、酸化セルロースからなる繊維構造物(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製、サージセル)を用いた以外は実施例1と同様にして生体組織補強材料を得て、耐圧試験を行った。
耐圧試験の結果を表1に示した。
Figure 2018513698
表1より、生体吸収性高分子からなる繊維構造物とフィブリン糊とを併用した場合には、初期耐圧性こそ34.7mmHgと比較的高いものの、圧力によりいったん剥離した後(2回目以降)は、耐圧性の顕著な低下が認められ、回復することはなかった。これに対して、実施例1、2の生体組織補強材料を用いた場合には、初期耐圧性が高い(59.3、52.1mmHg)のみならず、圧力によりいったん剥離した後(2回目以降)も、耐圧性の低下がほとんど認められなかった。これは、5分間のインターバルの間に再密着したためと考えられる。なお、比較例2では、可吸収性止血材として知られる酸化セルロースからなる繊維構造物を用いた場合も試みたが、初期耐圧性も20.7mmHgと低く、2回目以降、耐圧性の低下も認められた。
本発明によれば、血液製剤であるフィブリン糊を用いることなく、空気漏れや体液漏れを防止して、脆弱化した組織をより確実に補強できる生体組織補強材料を提供することができる。
1 耐圧試験装置
2 フィルターホルダー
3 シリンジ
4 三方コック
5 圧力計
6 孔が開けられたコラーゲンフィルム

Claims (8)

  1. 生体吸収性高分子からなる繊維構造物と、セルロースのヒドロキシ基がエーテル化されたエーテル化セルロースからなる繊維構造物との積層構造体からなることを特徴とする生体組織補強材料。
  2. セルロースのヒドロキシ基がエーテル化されたエーテル化セルロースは、下記一般式(1)で表されるヒドロキシアルキル化セルロースであることを特徴とする請求項1記載の生体組織補強材料。
    Figure 2018513698
    式(1)中、nは整数を示し、Rは水素又は−R’OH基を示す。R’は、アルキレン基を示す。
  3. セルロースのヒドロキシ基がエーテル化されたエーテル化セルロースは、ヒドロキシエチル化セルロースであることを特徴とする請求項1記載の生体組織補強材料。
  4. セルロースのヒドロキシ基がエーテル化されたエーテル化セルロースからなる繊維構造物の形態が、不織布、編物、織物、ガーゼ又は糸条であることを特徴とする請求項1、2又は3記載の生体組織補強材料。
  5. 生体吸収性高分子は、α−ヒドロキシ酸重合体高分子であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の生体組織補強材料。
  6. α−ヒドロキシ酸重合体高分子は、グリコリド、ラクチド、ε−カプロラクトン、ジオキサノン及びトリメチレンカーボネートからなる群より選択される少なくとも1種のモノマーを重合してなるホモポリマー又はコポリマーであることを特徴とする請求項5記載の生体組織補強材料。
  7. 生体吸収性高分子からなる繊維構造物の形態が、不織布、編物、織物、ガーゼ又は糸条であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5又は6記載の生体組織補強材料。
  8. 生体吸収性高分子からなる繊維構造物と、セルロースのヒドロキシ基がエーテル化されたエーテル化セルロースからなる繊維構造物とが、ニードルパンチ交絡、水流交絡、エアー交絡、交編、交織又は吹付紡糸(メルトブロー、電界紡糸)により複合一体化されていることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載の生体組織補強材料。
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