JP2018207054A - 希土類薄膜磁石及びその製造方法 - Google Patents

希土類薄膜磁石及びその製造方法 Download PDF

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正基 中野
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武志 柳井
広信 澤渡
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Abstract

【課題】膜の剥離や基板の破壊が発生せず、良好な磁気特性を有する希土類薄膜磁石の製造方法を提供する。【解決手段】Si基板上のガラス膜上に形成されるNd−Fe−Bからなる希土類薄膜磁石であって、パルスレーザーデポジション法によりSi基板上にガラス膜を膜厚20μm以上成膜する工程、Nd−Fe−B希土類薄膜を膜厚10μm以上成膜する工程、成膜した希土類薄膜を熱処理して結晶化させる工程、結晶化した希土類薄膜を着磁して希土類薄膜磁石を作製する工程、からなる。【選択図】図2

Description

本発明は、シリコン基板上にガラス膜を形成し、そのガラス膜上に形成したNd−Fe−B膜の希土類薄膜磁石、及び、パルスレーザーデポジション法(以降、PLD法と記載)により、シリコン基板上にガラス膜を形成し、そのガラス膜上にNd−Fe−B膜の希土類薄膜磁石を製造するための方法に関する。
近年、電子機器の軽薄短小化に伴い、優れた磁気特性を有する希土類磁石の小型化、高性能化が進められている。中でも、ネオジム−鉄−ホウ素(Nd−Fe−B)系磁石は、現有の磁石の中で最も高い最大エネルギー積を有することから、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)やエナジーハーベスト(環境発電)などのエネルギー分野や、医療機器分野などへの応用が期待されている。
このような希土類磁石の薄膜は、スパッタリング法(特許文献1、非特許文献1)やPLD法(特許文献2、非特許文献2)などのPVD(Physical Vapor Deposition)法(非特許文献3)を用いて作製することが知られている。そして、これらは、いずれもTaやMo等の金属基板や、Ta下地層の上に希土類磁石の薄膜を形成している。
一方で、シリコン(Si)半導体を基礎としたリソグラフィー技術を有効に活用するために、MEMS用のマイクロ磁気デバイス等におけるマイクロアクチュエータなどを作製する際には、汎用性のあるSi基板上にNd−Fe−B膜を安定して形成することが強く要望される。
非特許文献4には、化学量論組成であるNdFe14Bと同程度の組成を有する磁石膜をSi基板上に直接成膜すると、成膜の熱処理工程により、Si基板とNdFe14B膜の熱膨張率差により応力が発生し、磁石膜が剥離することが記載されている。一方同文献には、熱処理における応力の緩和を促す手法として、厚さ50nmのMoSi歪緩衝膜をSi基板上に形成することで、2μmの厚さでも剥離の無いNd−Fe−B膜を形成できたことが記載されている。
しかし、膜内の反磁界により、膜表面から外部に十分な磁界を取り出すのに膜厚2μmでは不十分な厚さであるため、少なくとも10 μm以上の厚さの膜が要求されている。一方、基板と膜の熱膨張率の差がある場合、膜厚が厚くなるに従って、膜に加わる応力が大きくなるので、膜の剥離がより一層発生し易くなり、Si基板上に厚膜のNd−Fe−B膜を成膜しても剥離の発生しない歪緩衝膜材料が長年にわたり待ち望まれていた。
本発明者らは以前、ターゲットと膜との間に優れた組成転写性があり、また成膜速度がスパッタリング法に比べて1桁以上も高いことを特徴としたPLD法により、Si基板上に、SiとNdFe14Bの各線膨張係数の中間の値を有するNdリッチなNdFe14B膜(Xは2以上)を形成することで、膜の剥離や基板の破壊が生じない最大膜厚160μmの希土類薄膜磁石及び当該膜を安定して成膜できる希土類薄膜磁石の製造方法を開発することができた(特許文献3、非特許文献5)。
また、Si基板上に形成するNd−Fe−B膜の組成が化学量論組成付近であっても、PLD法を用いてSi基板上にNd下地膜、もしくは化学量論組成に対してNdリッチなNd−Fe−B膜による歪緩衝膜を介することにより、Nd−Fe−B膜の剥離や基板の破壊が発生せず、良好な磁気特性を有する希土類薄膜磁石及び製造方法を開発することができた(特許文献4、非特許文献6)。以上から、Si基板上に基板と膜の間の応力歪を緩和する成膜方法を開発することで、良好な磁気特性を有し、かつ膜の剥離や基板の破壊の発生が無いNd−Fe−B膜を安定して形成することが可能となった。
ところで、Si基板を用いたMEMS用磁気デバイスを実現するためには、複数の機能を有するデバイスを同一基板上に形成する必要があるため、上記で述べた磁石膜の形成技術以外に電気的、あるいは熱的な分離を行う役割を果たすために、Si基板上に、SiOなどの絶縁膜を形成し、さらにその絶縁膜の上に希土類薄膜磁石を安定に形成することが要求される(非特許文献7)。すなわち、MEMSでのSiO膜の役割は、電気的絶縁の他に機械的強度(加工)や熱的分離も加わる。
一般的には、Si基板上に形成される安定な絶縁膜としてSiO熱酸化膜法が良く知られているが、成膜速度が小さいために10μm以上の厚膜が要求される場合には適用できない(非特許文献8)。一方、Si基板上に形成する絶縁膜の種類として、酸化ケイ素などを含むガラス膜があり、本発明者らは、酸化ケイ素等を含むガラス基板上にPLD法を用いて高い磁気特性を有するNd−Fe−BやPr−Fe−Bの希土類薄膜磁石を安定して形成する方法を見出している(非特許文献9)。
本発明者が希土類薄膜磁石の成膜方法として培ってきたPLD法を用いて、Si基板上にガラス膜の形成が可能となれば、PLD装置内のターゲットを交換することで、最初にSi基板上にガラス膜を、その後に希土類薄膜磁石を連続して形成することが可能となる。一方、希土類薄膜磁石の硬磁気特性を発現させるためには、薄膜形成後に熱処理を行うことが要求されるが、この際、ガラス膜とNd−Fe−B膜との線膨張係数に差があるために、熱処理後にガラス膜の剥離やSi基板での破壊が発生する、もしくは希土類薄膜磁石の磁気特性が劣化する問題が発生することが考えられる。
特開2012−207274号公報 特開2009−091613号公報 特願2016−081697 特願2016−043193
N.M.Dempsey, A.Walther, F.May, D.Givord, K.Khlopkov O.Gutfeisch: Appl.Phys.Lett. vol.90 (2007) 092509-1-092509-3. H.Fukunaga, T.Kamikawatoko, M.Nakano,T. Yanai F.Yamashita: J. Appl. Phys. vol.109 (2011) 07A758-1-07A758-3. G. Rieger, J. Wecker, W. Rodewalt, W. Scatter, Fe.-W. Bach, T.Duda and W.Unterberg: J. Appl. Phys. vol. 87(2000) 5329-5331. 安達、伊佐、太田、奥田:セラミック基盤工学センター年報vol.6(2006)46-50. M. Nakano, Y. Chikuba, M. Oryoshi, A. Yamashita, T. Yanai, R. Fujiwara, T. Shinshi, H. Fukunaga, IEEE Transactions on Magnetics, 51, Issue 11, 2015.11, #2102604. M. Nakano, Y. Chikuba, A. Yamashita, D.Shimizu, T. Yanai, H. Fukunaga, AIP advances. 片白雅浩, 有馬通継,徳田一成,岡村俊朗,松本一哉,宮島博志,IEEJ, Trans. SM. Vol. 123, No. 5(2003) 152-157. J. P. Bange, L. S. Patil, and D. K. Gautam, Progress In Electromagnetics Research M, Vol. 3(2008) 165-175. A. Yamashita, K. Hirotaki, A. Kurosaki, T. Yanai, H. Fukunaga, R. Fujiwara, T. Shinshi, and M.Nakano,IEEE Trans. Magn. Vol. 53, No. 4(2017), #2100104.
本発明は、Si基板上の、酸化ケイ素、酸化ホウ素等を含むガラス膜上に形成されるNd−Fe−B膜からなる希土類薄膜磁石及びその製造方法であり、特に、膜の剥離や基板の破壊が発生せず、良好な磁気特性を有し、安定して成膜できる希土類薄膜磁石の製造方法を提供することを課題とする。
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、パルスレーザーデポジション法により形成される酸化ケイ素、酸化ホウ素などを含むガラス膜の厚さを最適化させることにより、該ガラス膜の上に形成したNd−Fe−B膜において、剥離や基板破壊等の発生を防止でき、良好な磁気特性が得られるとの知見が得られた。
このような知見に基づき、本発明は、以下の手段を提供する。
1)Si基板上のガラス膜上に形成されるNd−Fe−Bからなる希土類薄膜磁石であって、前記ガラス膜の膜厚が20μm以上であることを特徴とする希土類薄膜磁石。
2)保磁力が210kA/m以上であることを特徴とする上記1)記載の希土類薄膜磁石。
3)残留磁気分極が0.6T以上であることを特徴とする上記1)又は2)記載の希土類薄膜磁石。
4)最大エネルギー積(BH)maxが43kJ/m以上であることを特徴とする上記1)〜3)のいずれか一に記載の希土類薄膜磁石。
5)パルスレーザーデポジション法によりSi基板上にガラス膜を膜厚20μm以上成膜する工程、Nd−Fe−Bからなる希土類薄膜を膜厚10μm以上成膜する工程、成膜した希土類薄膜を熱処理して結晶化させる工程、結晶化した希土類薄膜を着磁して希土類薄膜磁石を作製する工程、からなることを特徴とする希土類薄膜磁石の製造方法。
6)前記ガラス膜を成膜する工程において、パルスレーザー強度密度を0.01〜1000 J/cmとすることを特徴とする上記5)に記載の希土類薄膜磁石の製造方法。
7)前記希土類薄膜を結晶化させる工程において、定格出力2〜10kW、最大出力の保持時間1〜4秒の条件で、パルス熱処理することを特徴とする上記4)又は5)に記載の希土類薄膜磁石の製造方法。
本発明は、PLD法によりSi基板上にガラス膜を20μm以上成膜することにより、そのガラス膜の上に膜剥離や基板破壊のない10μm厚以上のNd−Fe−B膜の希土類薄膜磁石を作製することができるという優れた効果を有する。また、得られる希土類薄膜磁石は、良好な磁気特性を示すという優れた効果を有する。さらに、ガラス膜の成膜速度が比較的大きいことから、本発明は、製造コストの点から、生産性を向上できるという優れた効果を有する。
希土類薄膜(Nd−Fe−B膜)の剥離メカニズムを示す図である。 剥離性に関するガラス膜厚とNd−Fe−B膜厚の関係を示す図である。 実施例2で作製したガラス膜の膜厚方向の組成分布を示す図である。 実施例2の希土類薄膜磁石の磁気特性(J−H特性)を示す図である。 比較例1の希土類薄膜で発生した基板破壊(剥離)を示す写真である。
図1にNd−Fe−B膜(希土類薄膜)の剥離メカニズムを示す。このNd−Fe−B膜は、Si基板上に酸化ケイ素、酸化ホウ素などを含むガラス膜を成膜し、その後、ガラス膜上に成膜したものであるが、表1に示すように、Si基板とホウケイ酸ガラスの線膨張係数の差は小さいが、Si基板又はホウケイ酸ガラスの線膨張係数は、Nd−Fe−Bの線膨張係数とその差が大きいために、熱処理において、Nd−Fe−B膜とホウケイ酸ガラス又はSi基板との熱膨張率差による歪により、膜の剥離や基板の破壊等が生じる。多くの試料において、熱処理後の冷却の際に、基板の破壊が生じることが確認された。
Nd−Fe−B膜の収縮の際の応力がその原因の一つと考えられる。昇温時における熱膨張率の差も応力が働く原因と考えられるものの、成膜直後のNd−Fe−B膜は、アモルファス構造であり、熱処理により結晶化するためにNd−Fe−B膜が収縮する。一度結晶化したNd−Fe−B膜が収縮した際に働く力の影響、すなわち、降温時に働く応力の影響が昇温時に比べて大きいものと考えられる。この応力は、ホウケイ酸ガラス膜とSi基板に応力がかかるものの、ホウケイ酸ガラス膜は、成膜直後及び熱処理後もアモルファス構造であり、かつSi基板の密着性が高いために、結晶であるSi基板が応力に耐えられなくなり、先に破壊に至ると考えられる。
このようなことから、本発明者らは、Si基板上のホウケイ酸ガラス膜の膜厚を一定の厚み以上とすることで、Nd−Fe−B膜の収縮の際の応力を軽減し、Nd−Fe−B膜の剥離やSi基板の破壊を回避できるとの知見を得た。図2に、Nd−Fe−B膜の剥離性に及ぼすガラス膜の膜厚とNd−Fe−B膜の膜厚の関係を示す。図2に示す通り、ホウケイ酸ガラスの膜厚が20μm未満の場合は、Si基板内部に破壊が発生するが、ガラス膜の膜厚が20μm以上になれば、Si基板内に発生する歪みが緩和され、Si基板の破壊を抑止することができる。なお、膜厚均一性(膜厚のばらつきの抑制)を考慮した場合、ガラス膜の膜厚は100μm以下とするのが好ましい。
上記では、ガラス膜としては、ホウケイ酸ガラスを主成分とするガラス膜について説明したが、ケイ酸塩ガラス、ホウ酸塩ガラス、その他の酸化物を主成分とするガラスを用いる場合であっても、同様の効果が得られる。但し、本発明は、後述の通り、PLD法によりガラス膜を成膜することから、レーザー波長355nmにおいて、10%以上の吸収率があることが必要である。
本発明のNd−Fe−B膜は、Nd、Fe、Bを構成成分とし、成分組成は化学量論組成であるNdFe14Bを基本とするものである。但し、特性を改善する目的で他の成分を添加したり、組成を調整したりする場合も、本発明のNd−Fe−B膜は、含むものである。Nd−Fe−B膜は、膜表面から外部に十分な磁界を取り出すために、10μm以上とすることが好ましく、バルク磁石と競合する観点から、膜厚は200μm以下とすることが好ましい。
本発明の希土類薄膜磁石は、例えば、以下のようにして作製することができる。
まず、酸化ケイ素、酸化ホウ素、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化アルミニウムなどの酸化物のうち、いずれか一種以上を含むターゲットをパルスレーザーデポジション(PLD)装置に装着し、一方、ターゲットと対向する位置に厚さ0.6mmのSi基板を装着する。当該ターゲットは、厚さ1mm程度であり、350nm以上の波長領域で約90%の透過率を有する。
次に、チャンバー内を真空度が1〜8×10−5Paとなるまで排気した後、ターゲットに集光レンズを通してレーザーを照射する。レーザーには、Nd:YAGレーザー(発振波長:355nm、繰り返し周波数30Hz)を使用することができる。このとき、レーザーの強度密度は0.01〜1000 J/cmとするのが好ましい。レーザー強度密度が0.01J/cm未満であると、成膜速度が0.1μm/分未満と小さくなり、成膜に多大な時間を要するためである。一方、1000J/cmを超えると、レーザー照射によるターゲットのエッチングが著しく生じ、アブレーション現象が停止するなどの好ましくない現象が生じることがある。
このようにしてレーザー照射されたターゲット表面は、化学反応と溶融反応が起き、プルームと呼ばれるプラズマが発生する。このプルームが対向するSi基板上に到達することで、ガラスの薄膜を形成することができる。
次に、同一チャンバー内で、Nd−Fe−Bターゲットに交換し、上記真空度が保持されていることを確認した後に、Nd−Fe−Bターゲットに集光レンズを通してレーザーを照射する。レーザーの強度密度は0.01〜1000J/cmとするのが好ましい。レーザー強度密度が0.01J/cm未満であると、成膜速度が0.1μm/分未満と小さくなり成膜に多大な時間を要する。一方、1000 J/cmを超えると、レーザー照射によるターゲットのエッチングが著しく生じ、アブレーション現象が停止するなどの好ましくない現象が生じることがある。
次に、このようにして成膜したNd−Fe−B系アモルファス膜を結晶化させるため、成膜後に定格出力2〜10kW、最大出力の保持時間1〜4秒の条件でパルス熱処理を施して、Nd−Fe−B系アモルファス母相を結晶化させる。ここで、熱処理が十分施されないと、膜中のNd−Fe−B系アモルファス相の結晶化が十分でなく、アモルファス相が多く残存することがあり、一方、過度の熱処理は、NdFe14B結晶粒が粗大化して、磁気特性は劣化することがある。したがって、パルス熱処理の条件は上記の範囲で行うのが好ましい。なお、パルス熱処理は、赤外線を極短時間で照射することで、試料の瞬時の結晶化を促し、結晶粒の微細化を実現することができる。
その後、この結晶化薄膜に対して、たとえば、磁界7Tでパルス着磁を施すことで、希土類薄膜磁石を作製することができる。なお、本発明においては、着磁の方法に特に制限はなく、公知の着磁方法を用いることができる。これより、Si基板上に、剥離の発生や基板の破壊のないガラス膜を介したNd−Fe−B膜の希土類薄膜磁石を製造することができる。そして、この希土類薄膜磁石は、保磁力が210kA/m以上、残留磁化が0.6T以上、最大エネルギー積(BH)maxが43kJ/m以上、を達成でき、優れた磁気特性を有する。さらに、汎用性のあるSi基板上に直接成膜することが可能であるので、MEMS用のマイクロ磁気デバイス等のマイクロアクチュエータなどを作製するために有用である。
以下、実施例および比較例について説明する。なお、本実施例はあくまで一例であって、これら例によって本発明は何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
(実施例1)
Nd2.4Fe14Bターゲット、ホウケイ酸ガラスターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着した。一方、ターゲットと対向する位置に厚さ0.6mmの単結晶Si基板(100)を装着した。
次に、チャンバー内を真空に排気して、10−5Paの真空度に到達したことを確認後、約11rpmで回転させたホウケイ酸ガラスターゲットに繰り返し周波数30HzのNd:YAGレーザー(発振波長:355nm)を照射し、ターゲット物質をアブレーションした。このときターゲットと基板との距離を10mmとした。ターゲット表面でのレーザー強度密度を1J/cm程度とすることにより、Si基板上に厚63μmのSiOガラス膜を成膜した。
次に、真空中で上記ガラスターゲットをNd2.4Fe14Bターゲットに切り替えた後、約11rpmで回転させたターゲットに繰り返し周波数30HzのNd:YAGレーザー(発振波長:355nm)を照射し、ターゲット物質をアブレーションした。このときターゲットと基板との距離を10mmとした。該ターゲット表面でのレーザー強度密度を1J/cm程度とすることにより、SiOを主成分とするガラス膜の上にNd含有量が原子数比でNd/(Nd+Fe)=0.155のNd−Fe−Bアモルファス膜を厚さ24μm成膜した。なお、上記膜厚評価には、マイクロメーターを使用し、組成分析には、EDX(Energy Dispersive X-ray spectroscopy)を用いた。
次に、定格出力8kW、最大出力の保持時間約4秒にて、パルス熱処理(熱処理温度:約500〜800 ℃)を行って、Nd−Fe−B系アモルファス相を結晶化させた。
その後、磁界7Tでパルス着磁を施して、希土類薄膜磁石を作製した。次に、Nd−Fe−B膜の剥離性を調べるために、ダイシングによる切削加工を行った。5×5mm角の試料を2.5×2.5mmへと四分割するようにダイシング加工行った結果、機械的破損することなく加工することができ、膜剥離等の発生も認められなかった。
次に、ダイシング後の試料についてVSM(Vibrating Sample Magnetometer)による磁気特性測定を行った。保磁力(Hc)は1105kA/m、残留磁気分極(Jr)は0.60T、最大エネルギー積(BH)maxは73kJ/mと良好な磁気特性が得られた。以上の結果を表2に示す。なお、表中、Nd量(at%)とあるのは、原子数比Nd/(Nd+Fe)×100を意味し、また、SiO膜厚とあるのは、SiOを主成分とするガラス膜の膜厚を意味する。
(実施例2〜3)
Nd2.0Fe14Bターゲット、ホウケイ酸ガラスを主成分とするターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着後、実施例1と同様の方法で単結晶Si基板(100)上にガラス膜、さらに、この膜の上にNd−Fe−Bアモルファス膜を成膜し、その後実施例1と同様の方法でパルス熱処理、パルス着磁を行った。なお、実施例2と実施例3は、それぞれSiO膜厚とNdFeB膜厚を変化させたものである。
次に、それぞれの希土類薄膜磁石について、実施例1と同じ方法でダイシングによる切削加工を行ったところ、機械的破損することなく加工することができ、また、いずれにおいても、膜剥離等の発生も認められなかった。
実施例2〜3における各膜の膜厚、磁気特性、基板破壊の有無についてまとめたものを表2に示す。また、図3に、実施例2におけるガラス膜中の組成の膜厚方向の分布を示す。なお、測定には、アルバック・ファイ株式会社製5600MCを用い、スパッタ条件はArのイオン源でスパッタ速度2.3nm/min (SiO換算)とした。測定部位は表面部位のみであるが、膜厚方向で組成は均一となっていることを確認した。さらに、図4に実施例2の希土類薄膜磁石のJ−H特性を示す。
(実施例4〜6)
Nd1.9Fe14Bターゲット、ホウケイ酸ガラスを主成分とするターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着後、実施例1と同じ方法で、単結晶Si基板(100)上にSiOガラス膜、さらに、この膜の上にNd−Fe−Bアモルファス膜を成膜した。この後、実施例1と同じ方法でパルス熱処理、パルス着磁を行った。実施例1と同じ方法でダイシングによる切削加工を行ったが、機械的破損することなく加工することができ、膜剥離等の発生も認められなかった。表2に、SiOガラス膜の膜厚、Nd−Fe−B膜のNd含有量と膜厚、そして、パルス熱処理、パルス着磁後に測定した保磁力(H)、残留磁化(Jr)、最大エネルギー積(BH)maxを示す。
(実施例7〜8)
Nd1.8Fe14Bターゲット、ホウケイ酸ガラスを主成分とするターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着後、実施例1と同じ方法で、単結晶Si基板(100)上にSiOガラス膜、さらに、この膜の上にNd−Fe−Bアモルファス膜を成膜した。この後、実施例1と同じ方法でパルス熱処理、パルス着磁を行った。実施例1と同じ方法でダイシングによる切削加工を行ったが、機械的破損することなく加工することができ、膜剥離等の発生も認められなかった。表2に、SiOガラス膜の膜厚、Nd−Fe−B膜のNd含有量と膜厚、そして、パルス熱処理、パルス着磁後に測定した保磁力(Hc)、残留磁気分極(Jr)、最大エネルギー積(BH)maxを示す。
(比較例1)
Nd1.8Fe14Bターゲット、ホウケイ酸ガラスを主成分とするターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着後、実施例1と同じ方法で、単結晶Si基板(100)上にSiOガラス膜、さらに、この膜の上にNd−Fe−Bアモルファス膜を成膜した。この後、実施例1と同じ方法でパルス熱処理、パルス着磁を行った。実施例1と同じ方法でダイシングによる切削加工を行ったが、図5に示すように機械的破損が発生した。
(比較例2)
Nd1.9Fe14Bターゲット、ホウケイ酸ガラスを主成分とするターゲットをパルスレーザーデポジション装置に装着後、実施例1と同じ方法で、単結晶Si基板(100)上にSiOガラス膜、さらに、この膜の上にNd−Fe−Bアモルファス膜を成膜した。この後、実施例1と同じ方法でパルス熱処理、パルス着磁を行った。実施例1と同じ方法でダイシングによる切削加工を行ったが、機械的破損が発生した。
本発明は、Si基板上にパルスレーザーデポジション法によって形成するガラス膜の膜厚を最適化させることにより、Si基板上のガラス膜の上に、膜の剥離や基板の破壊等がなく、良好な磁気特性を有するNd−Fe−B膜の希土類薄膜を安定成膜できるという優れた効果を有する。本発明のNd−Fe−B希土類薄膜磁石は、エナジーハーベスト(環境発電)などのエネルギー分野や医療機器分野などに応用される磁気デバイス用として有用である。また特に、MEMS用のマイクロ磁気デバイス等のマイクロアクチュエータなどを作製するために有用である。

Claims (7)

  1. Si基板上のガラス膜上に形成されるNd−Fe−Bからなる希土類薄膜磁石であって、前記ガラス膜の膜厚が20μm以上であることを特徴とする希土類薄膜磁石。
  2. 保磁力が210kA/m以上であることを特徴とする請求項1記載の希土類薄膜磁石。
  3. 残留磁気分極が0.6T以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の希土類薄膜磁石。
  4. 最大エネルギー積が43kJ/m以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の希土類薄膜磁石。
  5. パルスレーザーデポジション法によりSi基板上にガラス膜を膜厚20μm以上成膜する工程、Nd−Fe−B希土類薄膜を膜厚10μm以上成膜する工程、成膜した希土類薄膜を熱処理して結晶化させる工程、結晶化した希土類薄膜を着磁して希土類薄膜磁石を作製する工程、からなることを特徴とする希土類薄膜磁石の製造方法。
  6. 前記ガラス膜を成膜する工程において、パルスレーザー強度密度を0.01〜1000 J/cmすることを特徴とする請求項5に記載の希土類薄膜磁石の製造方法。
  7. 前記希土類薄膜を結晶化させる工程において、定格出力2〜10kW、最大出力の保持時間1〜4秒の条件で、パルス熱処理することを特徴とする請求項5又は6に記載の希土類薄膜磁石の製造方法。
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