JP2018201408A - がんオルガノイドを用いた抗がん薬のスクリーニング方法 - Google Patents
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Abstract
Description
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 以下の工程を含む抗がん薬のスクリーニング方法。
(1)がん幹細胞を三次元培養して得られるがんオルガノイドに被検物質を接触させる工程
(2)該がんオルガノイドの脱構築を生じさせた被検物質を抗がん薬として選択する工程
[2] がんオルガノイドが、がん幹細胞と間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞との共培養により得られるものである、[1]に記載の方法。
[3] 以下の工程を含む抗がん薬のスクリーニング方法。
(1)がん幹細胞を被検物質の存在下で三次元培養してがんオルガノイド形成を誘導する工程
(2)被検物質の非存在下で三次元培養した場合に比べて、がんオルガノイドの形成を阻害した被検物質を抗がん薬として選択する工程
[4] 工程(1)において、がん幹細胞を、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞と共培養する、[3]に記載の方法。
[5] 被検物質が、がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子の発現又は機能を調節し得る物質である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6] がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子を同定する工程をさらに含む、[5]に記載の方法。
[7] がん幹細胞が、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導されたものである、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 誘導されたがん幹細胞が、
(a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
(b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである、
[7]に記載の方法。
[9] がん幹細胞が大腸がん幹細胞又は肺がん幹細胞である、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10] がん幹細胞と、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞とを、三次元培養にて共培養する工程を含む、がんオルガノイドの製造方法。
[11] がん幹細胞が、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導され、かつ
(a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
(b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである、[10]に記載の方法。
[12]がん幹細胞と、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞とが、in vitroで自己組織化されてなるがんオルガノイド。
[13][10]又は[11]に記載の方法により得られる、[12]に記載のがんオルガノイド。
[14]IL-6調節薬を含有してなる、間葉系幹/前駆細胞からαSMA陽性細胞への分化制御剤。
本発明は、がん幹細胞を標的とする新規な抗がん薬のスクリーニング方法(以下、「本発明の方法」ともいう。)を提供する。本発明の方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
(1)がん幹細胞を三次元培養して得られるがんオルガノイドに被検物質を接触させる工程
(2)該がんオルガノイドの脱構築を生じさせた被検物質を抗がん薬として選択する工程
(工程(1)及び(2)を含む方法を、以下、「本発明の方法A」ともいう。)
あるいは、
(1’)がん幹細胞を被検物質の存在下で三次元培養してがんオルガノイド形成を誘導する工程
(2’)被検物質の非存在下で三次元培養した場合に比べて、がんオルガノイドの形成を阻害した被検物質を抗がん薬として選択する工程
(工程(1’)及び(2’)を含む方法を、以下、「本発明の方法B」ともいう。)
ここで「がんオルガノイド」とは、天然のがん組織において通常観察され得る構造と類似した構造を有する、in vitroで誘導された組織構造体を意味する。例えば、がん幹細胞と、該がん幹細胞から分化した非幹細胞がん細胞とを少なくとも含み、それらが、天然のがん組織で観察されるのと同様の形態で組織化されたものが挙げられる。好ましい一実施態様においては、本発明のがんオルガノイドは、がん幹細胞及び非幹細胞がん細胞に加えて、間質細胞(例えば、間葉系幹/前駆細胞(MSC/MPC)に由来するαSMA陽性細胞及び/又は血管内皮細胞等)などの、天然のがん組織を構成する非がん細胞を含むことができる。
がんオルガノイドは、がん幹細胞を三次元培養することにより得ることができる。がんオルガノイドの作製に用いられるがん幹細胞は、がん組織を再構築する能力(以下、「がん組織再構築能」ともいう)を有する細胞であれば特に制限されない。がん組織再構築能は、自体公知の方法により確認することができる。例えば、上記特許文献1に記載されるように、がん幹細胞をマウスに移植し、in vivoでの腫瘍形成能を評価することで、組織再構築能を評価することができる。また、三次元培養によるスフェア形成能をがん組織再構築能の指標とすることができるので、がん組織再構築能はスフェア形成アッセイにより評価することもできる。
本発明に用いるiCSCは、公知の方法(例えば、特許文献1、WO 2011/049099に記載の方法)により作製することができる。例えば、外来性の初期化因子を導入したがん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導することができ、このようにして作製したiCSCは、本発明の方法に好適に使用することができる。
培養がん細胞や生体内の大腸がん組織から大腸がん幹細胞を単離する方法としては、例えば、細胞を無血清で浮遊培養することによりスフェアを形成させ、がん幹細胞を濃縮するスフェア形成分離法や、SP分画による分離法、幹細胞の表面マーカーによる分離法が挙げられる。これらの方法は、上述した方法と同様に行うことができる。また、WO2013/035824 A1に記載されるように、大腸がん患者由来のがん組織を免疫不全マウスに移植し、継代を行った後、腫瘍組織からLGR5を指標にがん幹細胞を選別する方法を用いてもよい。
上述のとおり、がんオルガノイドは、がん幹細胞を三次元培養することにより得ることができる。三次元培養とは、低接着性の培養容器や、多孔質膜・ハイドロゲル等の足場(スキャフォールド)を利用して細胞の凝集塊(スフェア、スフェロイド)を形成させ、細胞をより生体内に近い三次元的な状態で培養することをいう。足場の有無により、スキャフォールド型とスキャフォールドフリー型とに大別される。前者は足場の種類により、ハイドロゲル型、不活性マトリクス型等に細分される。ハイドロゲルとしては、例えば、動物由来のマトリゲル、コラーゲン、ラミニン等、植物由来のアルギン酸ハイドロゲル等、合成化合物(例、OGelTM MT 3D Matrix(Ogel SA)、3-D Life Biomimetic(Cellendes)、Puramatrix(3D MATRIX)等)を用いることができる。不活性マトリクスとしては、例えば、alvetex(reinnavate)、3D Insert(3D Biotek)、VECELL-3D Insert(iwaki)等を用いることができる。あるいは、96又は384ウェルプレート等に多孔質ポリスチレン製ディスクを装填してスキャフォールド培養を行うこともできる。スキャフォールドフリー型も、使用する培養容器の種類等に応じて、低接着性プレート、マイクロパターン表面プレート、ハンギングドロップ法等に細分される。低接着性プレートとは、親水性ポリマーでコーティングして細胞接着を抑制するように加工された底面を有するプレートであり、例えば、PrimeSurface(住友ベークライト)、Ultra-Low Attachment(コーニング)、Nunclon Sphera(サーモサイエンティフィック)等が挙げられる。マイクロパターン表面プレートとは、増殖に影響を与えるような微小パターンに加工された底面を有するプレートであり、例えば、底面の一部のみが接着性であるため、そこに細胞が集積し凝集塊を形成するものや、底面にナノファイバーやナノ格子を敷き詰めることで細胞の接着を抑制し、平面的拡がりを抑えることで細胞塊を形成させるもの等が挙げられる。ハンギングドロップ法は液滴中に細胞塊を形成させる方法であり、例えば、ディッシュにあいた穴に通したチップ先端に細胞入りの培地ドロップを形成させ、チップを穴から引き抜くことでドロップを穴にとどまらせ、重力によりドロップの底に細胞を凝集させる方法が挙げられる。
本発明の方法Aと本発明の方法Bとは、前者が、がん幹細胞から予め形成させたがんオルガノイドに被検物質を接触させるのに対し、後者は、がん幹細胞からがんオルガノイドを形成させる過程でがん幹細胞に被検物質を接触させ点で異なる。そのため、前者では、被検物質ががんオルガノイドを脱構築させる、即ち、がん組織の類似した構造を破壊する能力を有するか否かを指標とし、後者では、被検物質ががんオルガノイドの形成を抑制するか否かを指標とする。
本発明の方法は、がん幹細胞は三次元培養により天然のがん組織と類似したがんオルガノイドを形成し得るのに対し、非幹細胞がん細胞を三次元培養しても天然のがん組織に典型的な組織学的特性を示すスフェアを形成しないことの発見に基づく。即ち、がんオルガノイドの形成能やがんオルガノイドの構造維持能力は、がんオルガノイドにおけるがん幹細胞の維持に依存するので、がんオルガノイドの脱構築(即ち、がん組織類似の構造の破壊)や、がんオルガノイドの形成の抑制を指標として、がん幹細胞を標的とする抗がん薬を選択することができる。例えば、本発明の方法Aの工程(2)において、がんオルガノイドの脱構築を生じさせた被検物質を、抗がん薬、特にがん幹細胞を標的とする抗がん薬の候補薬剤として選択することができる。また、本発明の方法Bの工程(2’)において、被検物質の非存在下で三次元培養した場合に比べて、がんオルガノイドの形成を阻害した被検物質を、抗がん薬、特にがん幹細胞を標的とする抗がん薬の候補薬剤として選択することができる。
好ましい一実施態様において、本発明の方法において使用される被検物質は、がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子の発現又は機能を調節し得る物質である。
本発明はまた、iCSCから誘導され、量的な制限なく供給され得るがんオルガノイドを提供する。該がんオルガノイドは、iCSCと、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞とを、三次元培養にて共培養することにより得ることができる。三次元培養の各種条件は上記と同様である。より具体的には、がんオルガノイドの製造に用いられるiCSCは、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導され、かつ
(a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
(b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである。
後述の実施例に示すとおり、本発明により、肺がん幹細胞はIL-6を高発現することによりMSC/MPCからαSMA陽性細胞への分化を促進することで、肺がんオルガノイド形成に寄与しており、一方、IL-6阻害薬はIL-6の当該効果を遮断することで、MSC/MPCからαSMA陽性細胞への分化を抑制し得ることが明らかとなった。
したがって、本発明はまた、IL-6調節薬を含有してなる、MSC/MPCからαSMA陽性細胞への分化制御剤を提供する。IL-6増強薬としては、例えばIL-6自体(それを発現する組換え細胞の形態であってもよい)が挙げられる。一方、IL-6阻害薬としては、例えば抗IL-6抗体、IL-6に対するアプタマー、IL-6に対するsiRNA、IL-6に対するアンチセンス核酸等が挙げられるが、それらに限定されない。
<細胞培養>
ATCCコレクション及びCell Biolabs(San Diego、CA、USA)から、ヒト大腸がん細胞株(SW480)及びPlat-A アンホトロピックレトロウイルスパッケージング細胞をそれぞれ入手した。また、ヒト肺がん細胞株(A549; RCB0098)を理研バイオリソースセンターから入手した。10%ウシ胎仔血清(FBS)(Life Technologies)、ペニシリン(100 Units/ ml)及びストレプトマイシン(100 μg/ml)(Life Technologies)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Nacalai Tesque、Kyoto、Japan)中で、37℃、加湿5%CO2インキュベーター内で、これらの細胞を培養した。Plat-A培養において、1 μg/mlのピューロマイシン(Nacalai Tesque)及び10 μg/mlのブラストサイジン(Funakoshi)を添加した。 HUVEC(Lonza)は、内皮増殖培地(Lonza)中で、37℃、加湿5%CO2インキュベーター内で維持した。ヒトMSC(Lonza)は、内皮増殖培地(Lonza)(大腸がんオルガノイド作製時)又はMSC増殖培地(Lonza)(肺がんオルガノイド作製時)中で、37℃、加湿5%CO2インキュベーター内で維持した。
pMXをベースにしたベクターにおいて、OCT3/4、SOX2又はKLF4を別々にコードするレトロウイルスベクター(pMXs-OCT3/4, pMXs-SOX2, pMXs-KLF4)は、Addgeneから入手した。大腸がん幹細胞の作製については、OCT3/4、KLF4及びSOX2をコードするポリシストロニックレトロウイルスベクター(pMXs-OKS)を設計した。簡潔には、上記の各ベクターを鋳型とし、ヒトOCT3/4、KLF4及びSOX2を、Thosea asignaウイルスの2A配列(T2A)を含むプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、In-fusion HDクローニングシステム(Clontech)を用いてpMXベクターのEcoRI部位にクローニングした。
トランスフェクションの1日前に、Plat-Aパッケージング細胞を、60mmディッシュ当たり1×106細胞又は1.2×106細胞の密度で播種した。翌日、メーカーの説明書に従い、Fugene HDトランスフェクション試薬(Promega)を用いて3μgのpMX-OKS(SW480細胞用)ベクター又はpMXs-OCT3/4、pMXs-SOX2又はpMXs-KLF4(A549細胞用)で、Plat-A細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、Plat-A培地を交換し、さらに24時間培養した後、これらのウイルス含有上清を、0.45mm酢酸セルロースフィルター(Whatman)で濾過し、4μg/ mlポリブレン(Nacalai Tesque)を補充した。pMXs-OCT3/4、pMXs-SOX2及びpMXs-KLF4含有上清は等量を混合した。これらのウイルス含有上清を、速やかに、前日60mmディッシュ上に播種しておいたSW480又はA549細胞に添加した。感染24時間〜36時間後に、ウイルス含有培地を新しい培地と交換した。
初期化因子導入後のSW480細胞の培養及び誘導型大腸がん幹細胞(以下、「大腸iCSC」ともいう。)富化細胞集団の単離及び大腸がんオルガノイドの誘導は、図4に記載のスケジュールで実施した。大腸iCSCの樹立培養及び大腸iCSC富化細胞集団のソーティングは、上記非特許文献4に記載される方法(50μM ベラパミル存在下でのHoechst33342排除能を利用したフローサイトメトリー)に従って行った。以下、1回目のソーティングにより得られた大腸iCSC富化細胞集団(50μM ベラパミル存在下でHoechst33342により標識されない細胞集団;V50細胞)を1st V50細胞(又は1st V50-OKS細胞)、2回目のソーティングにより得られたV50細胞を2nd V50細胞(又は2nd V50-OKS細胞)と、それぞれ略記する場合がある。大腸がんオルガノイドの誘導は、後述のスフェア形成アッセイに記載の方法にて行った。
一方、初期化因子導入後のA549細胞は、37℃、5% CO2雰囲気下、10% FBS、0.5% ペニシリン及び0.5% ストレプトマイシンを補充したDMEM中で維持した。10〜15日後に出現したコロニーを0.25% トリプシンで6分間処理し、解離した細胞及びトリプシンを除去した後、ディッシュ上に残存する細胞をPBSで2回洗浄した。細胞コロニーを回収し、穏やかにピペッティングした後、新しい60mmディッシュに移した。ディッシュあたり約5コロニーが継代可能となった。継代後7〜10日目により大きなコロニーが出現し、その周りに紡錘形の細胞が認められた。コロニーを0.25% トリプシンで6分間処理し、上清中に解離した細胞をOSK-A549-SN細胞として回収した。ディッシュ上に残存する細胞をPBSで2回洗浄した。細胞コロニーを誘導型肺がん幹細胞(肺iCSC; OSK-A549-Colony細胞)として回収し、穏やかにピペッティングした後、新しいディッシュに移した。肺がんオルガノイドの誘導は、後述のスフェア形成アッセイに記載の方法にて行った。
10 ng/mlのbFGF(WAKO)、10 μg/mlのヒトインスリン(CSTI)、100 μg/mlのヒトトランスフェリン(Roche)及び100 μg/mlのBSA(Nacalai Tesque)を含有する無血清DMEM(スフェア形成培地)を添加したUltra Low Attachmentプレート(Corning)に細胞を移し、37℃、5%CO2インキュベーター内で6日間又は10日間インキュベートした。スフェアの数は、100μmより大きいスフェアのサイズに基づいて計算した。
SW480細胞及び2nd V50細胞をそれぞれ、カルシニューリン阻害薬(FK506(Sigma、25μM))、又はGSK3阻害薬(バルプロ酸(1mM)もしくはCHIR99021(3μM))で、5日間(接着培養の場合)もしくは10日間(浮遊培養の場合)処理した後、Countess(Invitrogen)システムを用いて細胞(スフェア)数をカウントした。
また、SW480細胞及び2nd V50細胞にそれぞれ、Duplexed Stealth siRNA (Invitrogen) を用い、製造者のプロトコルに従って、以下のsiRNAを導入し、接着培養した。
GSK3α siRNA 5’-CCA AGG CCA AGU UGA CCA UCC CUA U-3’(配列番号1)
GSK3β siRNA 5’-GCU CCA GAU CAU GAG AAA GCU AGA U-3’(配列番号2)
SCRAMBLED siRNA 5’-AAU UCU CCG AAC GUG UCA CGU GAG A-3’(配列番号3)
siRNA導入後5日目に、Countess(Invitrogen)システムを用いて細胞数をカウントした。
5×105 親SW480細胞又は2nd V50細胞を、5×104HUVEC及び2×105 MSCと共にスフェア形成培地に再懸濁し、低接着24ウェルのフラットプレート(Prime Surface(登録商標)24F、 Sumitomo Bakelite)に蒔いた。また、A549細胞又はOSK-A549-Colony細胞についても、同様にHUVEC及び2×105MSCと共培養した(この際、がん(幹)細胞:HUVEC:MSC=5:1:4〜5:4:4の割合で混合した)。6〜12日後、自己組織化したスフェアを、BZ8000(Keyence)を用いて写真撮影し、病理学的に解析した。
A549細胞又はOSK-A549-Colony細胞由来のスフェアにおけるCDDP感受性及び形成中のスフェアにおけるIL-6の機能を調べるべく、5μM CDDP、1μg/ml 抗IL-6抗体(R & D, MAB206)及び10ng/ml IL-6の存在下もしくは非存在下で、該スフェアを培養した。撮影した写真を解析し、ImageJソフトウェアプログラムを用いて蛍光強度を計算した。
スフェアをパラフィンブロックに包埋し、厚さ5μmで切片化した。切片を脱パラフィンし、ヘマトキシリン及びエオシン(HE)、抗ヒトサイトケラチン20(CK20)マウスモノクローナル抗体(クローン:Ks20.8、1:50で希釈、Dako)、抗ヒトサイトケラチン7(CK7)マウスモノクローナル抗体(クローン:OV-TL 12/30、1:50で希釈、Dako)、抗CDX2マウスモノクローナル抗体(CM226、1:50で希釈、Biocare Medical)、抗Ki67マウスモノクローナル抗体(クローン:MIB-1、1:50で希釈、Dako)、抗αSMAマウスモノクローナル抗体(クローン:1A4、1:50で希釈、Dako)及び抗CD31マウスモノクローナル抗体(クローン:JC70A、1:50で希釈、Dako)で染色した。免疫組織化学分析は、XT ultraView Universal DAB検出キット(Ventana Medical Systems, Inc)及びBenchmark XT(Roche)autostainerを用いて行った。Ki67-及びαSMA-陽性細胞の割合は、免疫組織化学的に陽性な細胞数と、3つの高倍率視野中の総核数とを計数することにより算出した。
Trizol(Life Technologies)を用いて細胞の全RNAを抽出した。Prime ScriptTM II 1st strand cDNA Synthesis Kit(Takara)を用いて、500ngの全RNAをcDNAに逆転写し、SYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM II(Takara)を用いたLightCycler(登録商標)480リアルタイムPCRシステム(Roche)で定量PCR分析を行った。使用したPCRプライマーを表1に挙げる。
Mock-SW480細胞(空のベクターでSW480細胞をトランスフェクトした細胞)、1st V50-OKS細胞由来の非V50細胞及び2nd V50-OKS細胞のRNAを、ソート後5日目に回収した。また、親A549細胞、3回の独立したレトロウイルス導入実験から得られたOSK-A549-Colony細胞及びOSK-A549-SN細胞からもRNAを回収した。遺伝子発現プロファイリングを、メーカーのプロトコールに従い、SurePrint G3 human GE microarray(Agilent Technologies)用いて行った。GeneSpring 13.0ソフトウェアプログラム(Agilent Technologies)を用いてデータを分析した。データ処理は、次のように行った:(i)閾値生シグナルを1.0に設定し、(ii)ログベース2変換を行い、(iii)標準化アルゴリズムとして75パーセンタイル正規化を選択した(http://genespringsupport.com/faq/normalization)。フラグの設定は、次のように行った:特徴は、not positive and significant (not detected)、not uniform (compromised)、 not above background (not detected)、 saturated (compromised)、又はpopulation outlier(compromised)とした。コントロールプローブを除去し、全ての試料中の少なくとも1つの試料中に存在する「検出された」プローブのみをさらなる分析に使用した。分析に使用したプローブの数は50,739(Mock-SW480細胞もしくは1st V50-OKS細胞由来の非V50細胞 vs 2nd V50-OKS細胞)又は30886(A549細胞もしくはOSK-A549-SN細胞 vs OSK-A549-Colony細胞)であった。
すべてのデータは、jstatソフトウェアプログラムを使用して分析した。データ値は、3回の独立した実験の平均±標準誤差(SEM)として表した。図1A、図3E、図5A、図5D、図6A-6C、図9H、図9I、図11C及び図11Fにおける2群間の平均値の差を、両側対応t検定を用いて分析した。図7A及び図9Gにおけるデータ分析にはBonferroni’s検定を用いた。図9Cにおけるデータ分析には、repeated measures ANOVA検定を用いた。図10Cにおける多重比較にはDunnet’s検定を用いた。P値<0.05(*)及び<0.01(**)である場合に、データ間の差は統計的に有意であるとみなした。
無血清培地を用いた低接着培養皿で培養した場合、CSCが高いスフェア形成する能力を有することが以前報告されている(Ricci-Vitiani L. et al., Nature 2007;445:111-51、Sato T. et al., Gastroenterology 2011;141:1762-72)。これらの細胞のスフェア形成能を調べるために、スフェア形成アッセイを行った。
以前の異種移植実験では、親細胞株ではなく大腸iCSCが、免疫組織学的所見の点から、実際のヒト大腸がん組織に類似した組織をin vivoで再構成できることが実証された(非特許文献4)。しかし、大腸iCSCがin vitroで同じ現象を示すことができるかどうかは依然として不明であった。そこで、親SW480細胞及び2nd V50-OKS細胞由来のスフェアを免疫組織学的に評価した。2nd V50-OKS細胞由来のスフェアは、CK20及びCDX2が陽性であり、CK7は陰性であった(図1B)。これは典型的な大腸がん組織に対する染色パターンと一致する(Bayrak R et al., Diagn Pathol 2012;7:9)が、親SW480細胞由来のスフェアはCK20が陰性であり(図1B)、このことは、in vivoのみならずin vitroでも、大腸iCSC由来組織がヒト大腸がん組織様の構造(大腸がんオルガノイド)を再構築できることを示している。従って、これらのiCSCの組織再構築能の指標として、スフェア形成能を評価することができると考えられる。
CSCsの特性を促進する分子メカニズムを同定するために、ソーティングから5日後のMock-SW480細胞、1stV50-OKS細胞由来の非V50細胞及び2ndV50-OKS細胞における網羅的遺伝子発現パターンを、マイクロアレイによって比較した。まず、Mock-SW480と2nd V50-OKS細胞間の遺伝子発現を比較し、3914のプローブがそれらの発現において有意差を有することを同定した(t検定、偽陽性率(FDR)<0.05及びFold Change>2)(図3A)。次に、2nd V50-OKS細胞の遺伝子発現プロファイルを、1stV50-OKS細胞由来の非V50細胞の遺伝子発現プロファイルと比較した(図3B)。FDR<0.05であり、Fold Change>2である56個のプローブを同定した。次に、非V50細胞、モックよりも2nd V50においてより高く発現するプローブ、及び非V50、Mock-SW480細胞よりも2ndV50-OKS細胞においてより低く発現するプローブのベン図を描き、ベン図で重なる8個のプローブを選択した(図3C)。これら8個のプローブのうち、各細胞における発現レベルとスフェア形成能とがパラレルの関係にある、セマフォリン 6A(SEMA6A)、FAM105A(family with a sequence similarity 105 member A)、及びRCAN2(regulator of calcineurin 2)を含む3個のプローブに絞り込んだ(図3D、3E)。
FK506は、親SW480培養において細胞の数を有意に減少させたが、これはカルシニューリンの阻害がin vitroで大腸がん細胞株の増殖を阻害するという報告と一致する(Peuker K. et al., Nat Med 2016;22:506-15)。一方で、2nd V50-OKS培養において、FK506の細胞数に対する有意な効果は観察されなかった(図5A)(継代±FK506添加5日後)。さらに、2nd V50-OKS細胞において顕著に観察された形態又はドーム型コロニーは、FK506を用いることでより顕著になったが、親SW480の細胞形態はFK506を用いても変化しなかった(図5B)(継代±FK506添加5日後)。これらのデータにより、FK506が大腸iCSC及び親SW480細胞に対して異なる作用を有することが示唆された。
次に、FK506有り又は無しでの大腸iCSCの組織再構築能の指標として、スフェア形成能を評価した。FK506は、2nd V50-OKS細胞においてスフェアの数を有意に増加させたが、親SW480細胞では増加しなかった(図5C、5D)。免疫組織化学分析により、FK506処置を受けた2nd V50-OKS細胞のスフェアは、CK20及びCDX2が陽性であり、CK7が陰性であり、FK506を用いないスフェアと同じパターンであった(図5E)。
カルシニューリンは、NFATの核移行を促進することが他の細胞で報告されていた。逆に、NFATの核から細胞質への移行を促進する分子としてGSK3が知られていた。そこで、大腸がん幹細胞に対して、GSK3を阻害すれば、カルシニューリン阻害薬FK506とは逆の効果があるという仮説のもとに本実験を行った。
まず、GSK3α及びGSK3βに対するsiRNAを用いて、GSK3を阻害した。その結果、平面接着培養において、GSK3αに対するsiRNAとGSK3βに対するsiRNAの両者を添加することで、iCSCの形態的特徴(ドーム状のコロニー)は抑制されて平坦となり、細胞数も減少した(図6A)。単独のsiRNAでは効果が見られなかったことから、大腸がんにおいてはGSK3αとGSK3βとの間には機能的なリダンダンシーがあることが示唆された。
次に、GSK3αおよびβ両者の阻害薬であるバルプロ酸(VPA)やCHIR99021(CHIR)添加によりsiRNAと同様の効果があるか否かを調べた。その結果、図6Bに示すとおり、いずれのGSK3阻害薬でも、siRNAと同様の効果が認められた。さらに、実施例3と同様に、スフェア形成能の及ぼすこれら阻害薬の効果を調べたところ、いずれのGSK3阻害薬も大腸iCSC(2ndV50)のスフェア形成能力を優位に抑制した。
KRASにG12S変異を有するヒト肺がん細胞株(A549)にレトロウイルスベクターを用いてOCT3/4、SOX2及びKLF4を導入し(OSK-A549細胞)、10% FBS含有DMEM中で培養した。2週間後OSK-A549細胞の増殖速度が親A549細胞及びEGFP-A549細胞(トランスフェクションコントロールとして、pMx-EGFPをA549細胞に導入したもの)と比較して低下した。CSC特性であると考えられるスフェア形成能を調べるべく、これらの細胞を、トランスフェクション後10、20及び30日目に低接着性プレートに移して浮遊培養した。親A549細胞及びEGFP-A549細胞はいずれの条件下でも3個未満のスフェアしか形成しなかったのに対し、OSK-A549細胞から形成されたスフェア数は顕著に増大した(図7A)。特に遺伝子導入後20日目の細胞においてスフェア形成能が高かった。遺伝子導入から10〜15日後に、OKS-A549細胞のみにドーム状のコロニーが出現した。該コロニーをピックアップして継代したところ、1週間の間にコロニーはより大きくなり、その周りに紡錘形の細胞を生じた。トリプシンに対する解離抵抗性の差を利用して、ディッシュ上に残存したドーム状のコロニー(OSK-A549-Colony細胞)と、解離した紡錘形の細胞(OKS-A549-SN細胞)とを別々に単離することができた。
次に、OSK-A549-Colony細胞のスフェア形成能を調べた。位相差顕微鏡観察の結果、OSK-A549-Colony細胞において明らかな細胞凝集が認められたのに対し、親A549細胞ではそのような細胞凝集は観察されなかった(図7B, Phase)。HE染色の結果、OSK-A549-Colony細胞は腺管様構造を有する蜜なスフェアを形成したのに対し、親A549細胞はそのようなスフェアを形成することができなかった(図7B, HE)。Alcian blue-PAS 染色により、OSK-A549-Colony細胞から作製した組織でのムチン分泌を調べた。その結果、該組織では、ムチン分泌を伴う極性のある腺管様構造がみられた(図9A)。
通常の肺がん細胞株(A549)またはA549から作製した肺iCSC(OSK-A549-Colony細胞)と、間質細胞(HUVEC、及びMSC)とを、低接着性プレート上で共培養した(図8上)。その結果、肺iCSCと間質細胞との共培養によってのみ、よりリアリティーのあるヒト肺がん組織類似の組織を構築できた(図8下)。即ち、通常の細胞株(A549)を用いた共培養では紡錘形のαSMA陽性細胞はみられず、CK7陽性のがん細胞のみからなる疎な細胞集塊を形成したのに対し、肺iCSC(OSK-A549-Colony細胞)を用いた共培養では、CK7陽性肺がん細胞のみならず、αSMA陽性cancer associated fibroblast(CAF)様細胞なども含むヒト肺がん組織類似の充実性の組織を形成した。これらの所見は、肺iCSCががん以外の細胞(αSMA陽性細胞はおそらく間葉系幹細胞由来)に何らかの働きかけをしていることを示唆している。
A549細胞とそこから作製した肺iCSC(OSK-A549-Colony細胞)とにおける網羅的遺伝子発現をマイクロアレイで比較したところ、OSK-A549-Colony細胞において有意に発現変動する(P<0.05, Fold Change>2)575遺伝子を同定した。次に、OSK-A549-Colony細胞と該iCSCから分化した非幹細胞肺がん細胞(OSK-A549-SN細胞)との間で、これらの遺伝子の発現を比較し、その結果をvolcanoプロットで示した(図10A)。OSK-A549-Colony細胞において有意に発現変動する(P<0.05, Fold Change>2)54遺伝子が同定された。その中で、IL-6は、OSK-A549-Colony細胞において特に特異的に高発現していた。定量RT-PCRの結果、A549細胞及びOSK-A549-SN細胞と比較して、OSK-A549-Colony細胞においてIL-6発現が顕著に上方制御されていることが確認された(図9G)。従って、肺iCSCの特性においてIL-6が重要であることが示唆された(図10A)。
通常の肺がん細胞株A549(緑色蛍光でラベル)を用いた共培養で形成される細胞集塊にIL-6を添加してその効果を検証した。その結果、IL-6添加により、細胞集塊はより充実性になり、EGFP蛍光強度及びαSMA陽性細胞が有意に増加した(図11A及び図9H、図11B及び11C)。一方、肺iCSC(緑色蛍光でラベル)を用いた共培養で形成される肺がんオルガノイドに抗IL-6抗体を添加して、その効果を検証したところ、抗IL-6抗体添加により、EGFP蛍光強度は減弱されなかったが(図9I及び図11D)、αSMA陽性細胞が有意に減少した(図11E及び11F)。また、MSCを単独で接着培養したものにIL-6を添加すると、αSMA陽性細胞が出現した(図11G)。これらの結果から、IL-6はMSCをαSMA陽性細胞へと変化させることで肺がん組織形成に正の効力を有し、抗IL-6抗体はこれを遮断することで、がん組織を破壊し得ることが示唆された。
Claims (11)
- 以下の工程を含む抗がん薬のスクリーニング方法。
(1)がん幹細胞を三次元培養して得られるがんオルガノイドに被検物質を接触させる工程
(2)該がんオルガノイドの脱構築を生じさせた被検物質を抗がん薬として選択する工程 - がんオルガノイドが、がん幹細胞と間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞との共培養により得られるものである、請求項1に記載の方法。
- 以下の工程を含む抗がん薬のスクリーニング方法。
(1)がん幹細胞を被検物質の存在下で三次元培養してがんオルガノイド形成を誘導する工程
(2)被検物質の非存在下で三次元培養した場合に比べて、がんオルガノイドの形成を阻害した被検物質を抗がん薬として選択する工程 - 工程(1)において、がん幹細胞を、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞と共培養する、請求項3に記載の方法。
- 被検物質が、がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子の発現又は機能を調節し得る物質である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子を同定する工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
- がん幹細胞が、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導されたものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
- 誘導されたがん幹細胞が、
(a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
(b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである、
請求項7に記載の方法。 - がん幹細胞が大腸がん幹細胞又は肺がん幹細胞である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
- がん幹細胞と、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞とが、in vitroで自己組織化されてなるがんオルガノイド。
- がん幹細胞が、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導され、かつ
(a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
(b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである、請求項10に記載のがんオルガノイド。
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