JP2018201408A - がんオルガノイドを用いた抗がん薬のスクリーニング方法 - Google Patents

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【課題】ハイスループット・スクリーニング(HTS)にたえ得る、がん幹細胞を標的とした抗がん薬のin vitroスクリーニング系を提供すること。【解決手段】 以下の工程を含む抗がん薬のスクリーニング方法。(1)がん幹細胞を三次元培養して得られるがんオルガノイドに被検物質を接触させる工程(2)該がんオルガノイドの脱構築を生じさせた被検物質を抗がん薬として選択する工程あるいは、(1’)がん幹細胞を被検物質の存在下で三次元培養してがんオルガノイド形成を誘導する工程(2’)被検物質の非存在下で三次元培養した場合に比べて、がんオルガノイドの形成を阻害した被検物質を抗がん薬として選択する工程【選択図】なし

Description

本発明は、in vitroでヒトのがん組織類似の構造体(がんオルガノイド)を構築する方法、並びに、該がんオルガノイドを用いた、がん幹細胞を標的とする抗がん薬のin vitroスクリーニング方法に関する。
がん幹細胞は、がんの転移・再発・治療抵抗性の責任細胞であると考えられており、がん患者の予後不良に深く関与している。そのため、がん幹細胞を標的とした抗がん薬の開発が求められているが、がん幹細胞はがん組織において極めて少数の細胞集団を形成しているにすぎないため、ハイスループットスクリーニング(HTS)にたえ得る量のがん幹細胞を取得することは困難である。HTSにたえ得るスケールアップが可能な細胞材料として従来用いられてきたがん細胞株は、ヒトがん組織に類似した組織を構築する能力を有しない。患者組織から誘導したがんオルガノイドでは一定のリアリティーはみられるものの、オルガノイド構築能を有するがん幹細胞と、比較対照とすべき非幹細胞がん細胞を十分量得ることができない(非特許文献1、2)。
Takebeらは、ヒト肝がん細胞株と内皮細胞及び間葉系幹細胞とを共培養することで、自己組織化によりがんオルガノイドを形成させ得ることを報告しているが(非特許文献3)、得られた組織とヒトがん組織の類似性は明らかではないし、組織構築の主体となるがん幹細胞は得られていない。
一方、本発明者らは最近、ヒト大腸がん又は肺がん細胞株にOCT3/4、SOX2、KLF4を導入することにより、がん幹細胞様の細胞を誘導することに成功し、これらの細胞を誘導型がん幹細胞(iCSC)と命名した(特許文献1、非特許文献4)。誘導型大腸がん幹細胞は、元のがん細胞に比べて高い薬剤排出能を有しており、in vivoでヒトの大腸がん組織の構造をよく模倣した。しかしながら、誘導型がん幹細胞をin vitroで培養した場合に、in vivoと同様に、がん組織に類似した構造を形成し得るか否かについては明らかではない。
国際公開第2015/199088号
Vaira, V. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (2010) 107(18): 8352-8356 van de Wetering, M. et al., Cell (2015) 161: 933-945 Takebe, T. et al., Cell Stem Cell (2015) 16: 556-565 Oshima, N. et al., PLoS One (2014) 9(7): e101735
本発明の目的は、HTSにたえ得る、がん幹細胞を標的とした抗がん薬のin vitroスクリーニング系を提供することである。
本発明者らは、上記の目的を達成すべく、本発明者らが樹立した誘導型がん幹細胞(iCSC)に着目し、該iCSCから浮遊培養によりスフェアを形成させ、免疫組織化学的分析により、in vitroでのがん組織類似の構造体(がんオルガノイド)の形成能について調べた。その結果、大腸がん及び肺がんのいずれのiCSCからも、それぞれのヒトがん組織類似の免疫組織化学的特徴を有する組織様構造体、即ちがんオルガノイドを形成させることができた。さらに、iCSCと間質細胞(間葉系幹細胞(MSC)及び血管内皮細胞)との共培養により、ヒトがん組織と同様の、がん細胞のみならず、αSMA陽性細胞及び血管内皮細胞を含む大きな細胞塊を形成させることにも成功した。
次に、本発明者らは、iCSCと、iCSCの維持培養過程で分化した非幹細胞がん細胞とについて、マイクロアレイを用いて網羅的遺伝子発現を比較し、iCSC特異的に高発現を示す遺伝子として、大腸がんについてはregulator of calcineurin 2(RCAN2)、肺がんについてはインターロイキン(IL)-6遺伝子を同定した。RCAN2はカルシニューリンを阻害することが知られているので、カルシニューリン阻害薬であるFK506を添加してスフェア形成アッセイを行ったところ、FK506添加により誘導型大腸がん幹細胞のスフェア形成能は促進された。一方、カルシニューリンはNFATタンパク質の核移行を促進することが知られているので、逆にNFATの核から細胞質への移行を促進することが知られているGSK3を阻害したところ、いずれのGSK3阻害薬を用いた場合でも、誘導型大腸がん幹細胞のスフェア形成能は有意に抑制された。GSK阻害薬は抗がん作用を有することが知られていることから、これらの結果は、がん幹細胞を三次元培養して得られるスフェア(即ち、がん組織類似の構造体=がんオルガノイド)の形成能に対する抑制効果を指標として、抗がん薬、特にがん幹細胞を標的とする抗がん薬の薬効評価が可能であること、並びに、がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で顕著に発現レベルの変動する遺伝子を同定し、該遺伝子(産物)を標的とする薬剤を被検物質とすることにより、より効率的にがん幹細胞を標的とする抗がん薬の探索が可能となることを強く示唆している。
そこで、本発明者らは、上記の仮説を実証すべく、誘導型肺がん幹細胞又は元の肺がん細胞と、MSC及び血管内皮細胞との共培養により作製した肺がんオルガノイドの組織構築能力に及ぼすIL-6及び抗IL-6抗体の効果について調べた。その結果、IL-6の添加により、元の肺がん細胞から形成される細胞塊はより充実し、αSMA陽性細胞数が有意に増加したのに対し、抗IL-6抗体の添加により、誘導型肺がん幹細胞から形成される細胞塊では、αSMA陽性細胞数が有意に減少した。また、誘導型肺がん幹細胞から形成される細胞塊はシスプラチン(CDDP)抵抗性であったが、抗IL-6抗体を併用すると著明な細胞減少が認められ、肺がんオルガノイドの構造が破壊された。これらの結果は、上記の仮説を支持するものであると同時に、肺がん幹細胞はIL-6を高発現することによりMSCからαSMA陽性細胞への分化を促進し、肺がんオルガノイド形成に寄与しており、IL-6阻害薬はIL-6の当該効果を遮断することで、MSCからαSMA陽性細胞への分化を抑制し得ることを示すものである。
本発明者らは、これらの知見に基づいてさらに研究を重ねた結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1] 以下の工程を含む抗がん薬のスクリーニング方法。
(1)がん幹細胞を三次元培養して得られるがんオルガノイドに被検物質を接触させる工程
(2)該がんオルガノイドの脱構築を生じさせた被検物質を抗がん薬として選択する工程
[2] がんオルガノイドが、がん幹細胞と間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞との共培養により得られるものである、[1]に記載の方法。
[3] 以下の工程を含む抗がん薬のスクリーニング方法。
(1)がん幹細胞を被検物質の存在下で三次元培養してがんオルガノイド形成を誘導する工程
(2)被検物質の非存在下で三次元培養した場合に比べて、がんオルガノイドの形成を阻害した被検物質を抗がん薬として選択する工程
[4] 工程(1)において、がん幹細胞を、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞と共培養する、[3]に記載の方法。
[5] 被検物質が、がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子の発現又は機能を調節し得る物質である、[1]〜[4]のいずれかに記載の方法。
[6] がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子を同定する工程をさらに含む、[5]に記載の方法。
[7] がん幹細胞が、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導されたものである、[1]〜[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 誘導されたがん幹細胞が、
(a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
(b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである、
[7]に記載の方法。
[9] がん幹細胞が大腸がん幹細胞又は肺がん幹細胞である、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法。
[10] がん幹細胞と、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞とを、三次元培養にて共培養する工程を含む、がんオルガノイドの製造方法。
[11] がん幹細胞が、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導され、かつ
(a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
(b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである、[10]に記載の方法。
[12]がん幹細胞と、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞とが、in vitroで自己組織化されてなるがんオルガノイド。
[13][10]又は[11]に記載の方法により得られる、[12]に記載のがんオルガノイド。
[14]IL-6調節薬を含有してなる、間葉系幹/前駆細胞からαSMA陽性細胞への分化制御剤。
本発明によれば、がん幹細胞、非幹細胞がん細胞及び該がん細胞から誘導されるがんオルガノイドの三つ組(triad)を用いることで、新規ながん幹細胞標的治療薬の開発が可能となる。がん幹細胞としてiCSCを使用すれば、これらはいずれも試料の量的制限がないという点において、患者がん組織由来試料を用いる方法よりも優位であるし、得られる組織とヒトがん組織の類似性においても既存技術よりも優れている。
iCSC由来のスフェアの特徴を示す。(A)親SW480細胞、1st V50-OKS細胞由来の非V50細胞、及び2nd V50-OKS細胞におけるスフェア形成能を示す。相当な数のスフェアが2nd V50-OKS細胞において形成される。各実験のスフェアの数を示す(n = 3)。 * p <0.05、** p <0.01 (B)親SW480細胞及び2nd V50-OKS細胞のスフェアの組織学的及び免疫組織化学的分析を示す。親SW480細胞に由来するスフェアは、CK20、CK7が陰性であり、CDX2が陽性であった。2nd V50-OKS細胞由来のスフェアは、CK20、CDX2が陽性であり、CK7が陰性であった。 (A)親株SW480ではなく、iCSC由来のスフェアは、HUVECとMSCとの共培養において、集合細胞(collective cell)のコロニーとなった。 (B)共培養されたスフェアにおける組織学的及び免疫組織化学的分析を示す。iCSC、HUVEC及びMSCに由来するスフェアは、α-SMA及びCD31が陽性であり、スフェアの外側のみがKi67陽性であった。親SW480、HUVEC及びMSCに由来するスフェアは、α-SMA及びCD31が陰性であり、全体的にKi67陽性であった。 Mock-SW480細胞、非V50-OKS細胞及び2nd V50細胞における遺伝子プロファイルの比較を示す。(A)Mock-SW480と2nd V50-OKS細胞との間の遺伝子発現において、3914個のプローブが、有意差を有するものとして同定された(t検定、偽陽性率(FDR)<0.05及び2倍差、灰色のドットで示す)。(B)1st V50-OKS細胞由来の非V50細胞と2nd V50-OKS細胞との間の遺伝子発現において、56プローブが、有意差を有するものとして同定された(t検定、偽発見率(FDR)<0.05及び2倍差、灰色のドットで示す)。(C)非V50、モックよりも2ndV50においてより高く発現するプローブ、及び非V50、モックよりも2nd V50においてより低く発現するプローブのベン図を示す。ベン図において、各4つのプローブが重複していた。(D)ベン図において、重複する8つのプローブのmRNA発現レベルを示す(n=3)。(E)選別後5日目の、親SW480細胞、1st V50-OKS細胞由来の非V50細胞及び2nd V50-OKS細胞におけるSEMA6A、FAM105A及びRCAN2の総転写物レベルのqRT-PCRを示す(n=3)。 * p <0.05 図4は、FK506添加実験における、初期化因子の導入からFK506の添加開始までの一連の流れを示した模式図を示す。 (A)FK506の添加有り又は無しの場合における、親SW480細胞及び2nd V50-OKS細胞の細胞数を、播種後5日目に計数した(n = 3)。 * P <0.05、** P <0.01 (B)FK506の添加有り又は無しの場合における、親SW480細胞及び2nd V50-OKS細胞の形態の変化を示す。(C)FK506の添加有り又は無しの場合における、2nd V50-OKS細胞のスフェア形成能を示す。 FK506を添加した2nd V50-OKS細胞において、スフェア形成の数が増加した。(D)播種後10日目での、FK506の添加有り又は無しの場合における、親SW480細胞又は2nd V50-OKS細胞のスフェアの数を示す(n = 3)。 * p <0.05、** p <0.01 (E)FK506の添加有り又は無しの場合における、iCSCのスフェアの組織学的及び免疫組織化学的分析を示す。両方のスフェアは、CK20、CDX2が陽性であり、CK7が陰性であった。 GSK3阻害は誘導型大腸がん幹細胞の能力を抑制することを示す。(A)平面接着培養における、GSK3α及びGSK3βに対するsiRNA添加の効果を示す。(B)平面接着培養における、バルプロ酸(VPA)又はCHIR99021添加の効果を示す。(C)スフェア形成能に及ぼすバルプロ酸(VPA)又はCHIR99021(CHIR)添加の効果を示す。 誘導型肺がん幹細胞のスフェア形成能を示す。(A)肺がん細胞(A549)、それから誘導された肺がん幹細胞(OKS-A549)及びトランスフェクションコントロール(EGFP-A549)のスフェア形成能を示す。(B)肺がん細胞(A549)及びそれから誘導された肺がん幹細胞(OKS-A549-Colony)由来のスフェアの位相差像(上)及びHE染色像(下)を示す。 in vitroでの肺がん様組織(肺がんオルガノイド)の作製の模式図(上)及び作製された肺がん細胞(A549)由来及び肺がん幹細胞由来の組織の免疫染色の結果(下)を示す。下図中、右列は実際のヒト肺がん組織を示す。αSMAは、ヒト肺がん組織にみられるcancer associated fibroblast(CAF)のマーカー、CK7は上皮(すなわち、がん癌細胞)のマーカーである。 誘導型肺がん幹細胞と間質細胞との共培養によってヒト肺がん組織類似の組織を構築できたことを示す。(A) 肺がん細胞(A549)由来及び肺がん幹細胞由来の組織のAlcian blue-PAS 染色を示す。誘導型肺がん幹細胞(OSK-A549-Colony)から作製した組織では、ムチン分泌を伴う極性のある腺管様構造がみられた。(B)がん細胞(誘導型肺がん幹細胞または親細胞株)をGFPで着色、血管内皮細胞株HUVECをm-cherryで着色し、作製したオルガノイドを蛍光顕微鏡観察した。(C)(B)で観察されたmCherryの蛍光強度(mcherry陽性細胞数)の変化を示す。(D)肺がん細胞(A549)由来及び肺がん幹細胞(OSK-A549-Colony)由来の組織中のHUVEC由来CD31陽性細胞の、免疫組織化学分析による検出を示す。(E)肺がん細胞(A549)、肺がん幹細胞(OSK-A549-Colony)由来の組織及びヒト肺がん組織標本におけるKi67陽性細胞の分布を示す。(F)肺がん細胞(A549)及び肺がん幹細胞(OSK-A549-Colony)由来の組織において、組織の内側及び外側に存在するKi67陽性細胞数を示す。(G)定量RT-PCRにより、肺がん幹細胞が特異的にIL-6を高発現していることを示す。(H)IL-6添加により、蛍光標識された肺がん細胞(A549)由来の組織における蛍光強度が増加することを示す。(I)抗IL-6抗体添加により、蛍光標識された肺がん細胞(A549)由来の組織における蛍光強度は減弱しないことを示す。 IL-6が肺がん幹細胞特異的に高発現していること、並びに抗IL-6抗体とシスプラチン(CDDP)併用により、誘導型癌幹細胞由来組織が破壊されることを示す。(A)A549とそこから作製した誘導型肺癌幹細胞における遺伝子発現をマイクロアレイで比較した結果を示す。(B, C, D)誘導型肺がん幹細胞と間質細胞との共培養により作製した組織のCDDPに対する応答性、及び肺がん幹細胞由来の組織において抗IL-6抗体を併用した場合のCDDPに対する応答性の変化を示す。 IL-6はMSCをαSMA陽性細胞へと変化させることで肺がん組織形成に正の効力を有し、抗IL-6抗体はこれを遮断することを示す。(A, B, C)通常の肺がん細胞株(A549)を用いた共培養で形成される細胞集塊に及ぼすIL-6添加の効果を示す。(D, E, F)肺がん幹細胞を用いた共培養で形成されるがんオルガノイドに及ぼす抗IL-6抗体添加の効果を示す。(G)MSCを単独で接着培養したものにIL-6を添加すると、αSMA陽性細胞が出現することを示す。
[I]抗がん薬のスクリーニング方法
本発明は、がん幹細胞を標的とする新規な抗がん薬のスクリーニング方法(以下、「本発明の方法」ともいう。)を提供する。本発明の方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
(1)がん幹細胞を三次元培養して得られるがんオルガノイドに被検物質を接触させる工程
(2)該がんオルガノイドの脱構築を生じさせた被検物質を抗がん薬として選択する工程
(工程(1)及び(2)を含む方法を、以下、「本発明の方法A」ともいう。)
あるいは、
(1’)がん幹細胞を被検物質の存在下で三次元培養してがんオルガノイド形成を誘導する工程
(2’)被検物質の非存在下で三次元培養した場合に比べて、がんオルガノイドの形成を阻害した被検物質を抗がん薬として選択する工程
(工程(1’)及び(2’)を含む方法を、以下、「本発明の方法B」ともいう。)
1.がんオルガノイド
ここで「がんオルガノイド」とは、天然のがん組織において通常観察され得る構造と類似した構造を有する、in vitroで誘導された組織構造体を意味する。例えば、がん幹細胞と、該がん幹細胞から分化した非幹細胞がん細胞とを少なくとも含み、それらが、天然のがん組織で観察されるのと同様の形態で組織化されたものが挙げられる。好ましい一実施態様においては、本発明のがんオルガノイドは、がん幹細胞及び非幹細胞がん細胞に加えて、間質細胞(例えば、間葉系幹/前駆細胞(MSC/MPC)に由来するαSMA陽性細胞及び/又は血管内皮細胞等)などの、天然のがん組織を構成する非がん細胞を含むことができる。
天然のがん組織と同等の組織学的特性を有することは、例えば、がん幹細胞及び/又は非幹細胞がん細胞に特異的なマーカーの発現を指標として、免疫組織化学的分析により確認することができる。例えば、大腸がんオルガノイドの場合、典型的な大腸がん組織の染色パターンとして、CK20陽性、CK7陰性、CDX2陽性等の免疫組織化学的所見を示すことにより確認することができる。また、肺がんオルガノイドの場合、CK7陽性、TTF1陽性、NapsinA陽性等の免疫組織化学的所見を示すことにより確認することができる。また、がんオルガノイドががん幹細胞とMSC/MPCとの共培養により得られる場合、MSC/MPC由来の筋線維芽細胞のマーカーであるαSMA陽性、さらに、がんオルガノイドが血管内皮細胞との共培養により得られる場合には、血管内皮細胞マーカーであるCD31陽性の免疫組織化学的所見を示すことにより確認することもできる。
本発明の方法に使用するがんオルガノイドのがん種は特に制限されず、天然の任意のがんに対応するものが挙げられる。例えば、上皮細胞由来の癌であり得るが、非上皮性の肉腫や血液がんであってもよい。より具体的には、例えば、頭頸部のがん(例えば、上顎がん、咽頭がん、喉頭がん、舌がん、甲状腺がん)、胸部のがん(例えば、乳がん、肺がん(非小細胞肺がん、小細胞肺がん))、消化器のがん(例えば、食道がん、胃がん、十二指腸がん、大腸がん(結腸がん、直腸がん)、肝がん(肝細胞がん、胆管細胞がん)、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、肛門がん)、泌尿器のがん(例えば、腎がん、尿管がん、膀胱がん、前立腺がん、陰茎がん、精巣(睾丸)がん)、生殖器のがん(例えば、子宮がん(子宮頸がん、子宮体がん)、卵巣がん、外陰がん、膣がん)、皮膚のがん(例えば、基底細胞がん、有棘細胞がん)を含むが、これらに限定されない。好ましい一実施態様においては、大腸がんオルガノイド、肺がんオルガノイド等が挙げられる。
がんオルガノイドの動物種は特に制限されないが、本発明の方法(1)が目的とする抗がん薬の投与対象と同一種であることが望ましい。例えば、哺乳動物(例、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ等)が挙げられるが、上記の本発明の方法(1)の目的に照らせば、好ましくはヒトである。
2.がん幹細胞
がんオルガノイドは、がん幹細胞を三次元培養することにより得ることができる。がんオルガノイドの作製に用いられるがん幹細胞は、がん組織を再構築する能力(以下、「がん組織再構築能」ともいう)を有する細胞であれば特に制限されない。がん組織再構築能は、自体公知の方法により確認することができる。例えば、上記特許文献1に記載されるように、がん幹細胞をマウスに移植し、in vivoでの腫瘍形成能を評価することで、組織再構築能を評価することができる。また、三次元培養によるスフェア形成能をがん組織再構築能の指標とすることができるので、がん組織再構築能はスフェア形成アッセイにより評価することもできる。
また、本発明においては、がん幹細胞マーカーの発現や、細胞増殖速度、抗がん薬に対する耐性、及び/又は薬剤排出能を指標として、がん幹細胞を取得することができる。例えば、大腸がん幹細胞の場合、従来大腸がん幹細胞マーカーとして報告のある1以上のマーカー、具体的には、CD133、CD44、CD26、ABCG2及びLGR5からなる群より選択される少なくとも一つのマーカーが陽性の細胞を、大腸がん幹細胞として用いることができる。また、肺がん幹細胞の場合、例えば、従来肺がん幹細胞マーカーとして報告のあるCD133が陽性の細胞を、肺がん幹細胞として用いることができる。ここで「がん幹細胞マーカーが陽性」であることは、細胞でがん幹細胞マーカーのmRNAが発現していること、又はがん幹細胞マーカーのタンパク質が発現していることにより、判断することができる。がん幹細胞マーカーのmRNAは、特に限定されないが、RT-PCR法及びノーザンブロット法等の自体公知の方法によって確認することができる。また、がん幹細胞マーカーのタンパク質は、特に限定されないが、ウエスタンブロット法及び免疫染色法等の自体公知の方法によって確認することができる。がん幹細胞マーカーが細胞表面抗原マーカーである場合、フローサイトメーターで測定することによって、当該がん幹細胞マーカーが陽性であることを確認することができる。
一方、細胞増殖速度、抗がん薬に対する耐性、及び/又は薬剤排出能を指標とする場合、通常のがん細胞と比較して、細胞増殖速度が遅い、抗がん薬に対する耐性が高い、及び/又は薬剤排出能が高い等の特性を有する細胞を、がん幹細胞として使用することができる。さらに、例えば、肺がん幹細胞の場合、接着培養においてトリプシン処理に対する解離抵抗性を指標として、後述のように、一定濃度のトリプシンで一定時間処理した際に培養容器から解離しない細胞を肺がん幹細胞として選択することができる。
本発明に用いるがん幹細胞のソースは特に制限されず、がん細胞に初期化因子を導入することで誘導したがん幹細胞(誘導型がん幹細胞; iCSC)でもよいし、培養がん細胞や生体内のがん組織から単離した細胞であってもよいが、抗がん薬のHTS系の確立という本発明の趣旨に照らせば、容易に大量のがん幹細胞及び/又はがんオルガノイドを提供し得るという点で、誘導型がん幹細胞(iCSC)が好ましい。
(2−1)誘導型がん幹細胞(iCSC)
本発明に用いるiCSCは、公知の方法(例えば、特許文献1、WO 2011/049099に記載の方法)により作製することができる。例えば、外来性の初期化因子を導入したがん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導することができ、このようにして作製したiCSCは、本発明の方法に好適に使用することができる。
iCSCの作製に用いる初期化因子としては、例えば、Oct3/4、Sox2及びKlf4の組み合わせが挙げられるが、この場合において、Oct3/4に代えて他のOctファミリーのメンバー、例えば、Oct1A、Oct6などを用いることもできる。また、Sox2に代えて他のSoxファミリーのメンバー、例えば、Sox1、Sox3、Sox15、Sox17、Sox18などを用いることもできる。またKlf4に変えて他のKlfファミリーのメンバー、例えば、Klf1、Klf2、Klf5などを用いることもできる。さらに、Oct3/4、Sox2及びKlf4に加えてさらに任意の物質を含んでいてもよい。追加される任意の物質は、体細胞に導入することにより、その体細胞をより未分化な状態に移行させる物質(群)であり、例えば、ES細胞に特異的に発現している遺伝子又はES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子もしくはその遺伝子産物などが挙げられるがこれらに限定されない。ES細胞に特異的に発現している遺伝子又はES細胞の未分化維持に重要な役割を果たす遺伝子もしくはその遺伝子産物は、例えば、c-Myc, L-Myc, N-Myc, TERT, SV40 Large T antigen, HPV16 E6, HPV16 E7, Bmi1, Lin28, Lin28b, Nanog, Esrrb又はEsrrgが例示される。あるいは、導入にあたって追加される任意の物質は、体細胞に導入することにより、その体細胞をより未分化な状態に移行させる効率を上昇させる物質(群)であり得、例えば、iPS細胞の樹立効率を促進する物質(群)が挙げられるがこれらに限定されない。iPS細胞の樹立効率を促進する物質(群)としては、例えば、下記の物質(群)が挙げられるが、これらに限定されない:ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤[例えば、バルプロ酸(VPA)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等の低分子阻害剤、HDACに対するsiRNA及びshRNA(例、HDAC1 siRNA Smartpool(登録商標) (Millipore)、HuSH 29mer shRNA Constructs against HDAC1 (OriGene)等)等の核酸性発現阻害剤など]、DNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤(例えば5’-azacytidine)(Nat. Biotechnol., 26(7): 795-797 (2008))、G9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤[例えば、BIX-01294 (Cell Stem Cell, 2: 525-528 (2008))等の低分子阻害剤、G9aに対するsiRNA及びshRNA(例、G9a siRNA(human) (Santa Cruz Biotechnology)等)等の核酸性発現阻害剤など]、L-channel calcium agonist (例えばBayk8644) (Cell Stem Cell, 3, 568-574 (2008))、p53阻害剤(例えばp53に対するsiRNA及びshRNA)(Cell Stem Cell, 3, 475-479 (2008))、Wnt Signaling activator(例えばsoluble Wnt3a)(Cell Stem Cell, 3, 132-135 (2008))、LIF又はbFGFなどの増殖因子、ALK5阻害剤(例えば、SB431542)(Nat. Methods, 6: 805-8 (2009))、mitogen-activated protein kinase signaling阻害剤、glycogen synthase kinase-3阻害剤(PloS Biology, 6(10), 2237-2247 (2008))、miR-291-3p、miR-294、miR-295などのmiRNA (R.L. Judson et al., Nat. Biotech., 27:459-461 (2009))。
初期化因子は、DNAの形態で、あるいはタンパク質の形態で導入することができる。DNAの形態で導入する場合、例えば、ウイルス、プラスミド、人工染色体(例:ヒト人工染色体(HAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BAC、PAC)等)などのベクター、リポフェクション、リポソーム、マイクロインジェクションなどの手法によって体細胞内に導入することができる。ウイルスベクターとしては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター(以上、Cell, 126, pp.663-676, 2006; Cell, 131, pp.861-872, 2007; Science, 318, pp.1917-1920, 2007)、アデノウイルスベクター(Science, 322, 945-949, 2008)、アデノ随伴ウイルスベクター、センダイウイルスベクター(Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 85, 348-62, 2009)などが例示される。ベクターには、初期化因子が発現可能なように、プロモーター、エンハンサー、リボゾーム結合配列、ターミネーター、ポリアデニル化サイトなどの制御配列を含むことができる。使用されるプロモーターとしては、例えばEF1αプロモーター、CAGプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、MoMuLV(モロニーマウス白血病ウイルス)LTR、HSV-TK(単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ)プロモーターなどが用いられる。さらに、ベクターには、染色体への組み込みがなくとも複製されて、エピソーマルに存在するように、リンパ指向性ヘルペスウイルス(lymphotrophic herpes virus)、BKウイルス及び牛乳頭腫(Bovine papillomavirus)の起点とその複製に係る配列を含んでいてもよい。例えば、EBNA-1及びoriPもしくはLarge T及びSV40ori配列を含むことが挙げられる(WO 2009/115295、WO 2009/157201及びWO 2009/149233)。
また、複数の初期化因子を同時に導入するために、ポリシストロニックに発現させる発現ベクターを用いてもよい。ポリシストロニックに発現させるためには、遺伝子をコードする配列の間は、IRES、口蹄病ウイルス(FMDV)2Aコード領域又はThosea asignaウイルスの2Aコード領域(T2A)により結合されていてもよい(Science, 322:949-953, 2008及びWO 2009/092042、WO 2009/152529、PLoS One. 6(4):e18556, 2011)。初期化因子の均一な発現の観点からは、ポリシストロニックに発現させる発現ベクターが好ましい。
一方、タンパク質の形態で導入する場合、例えば、タンパク質導入試薬を用いる方法、タンパク質導入ドメイン(PTD)融合タンパク質を用いる方法、マイクロインジェクション法などが挙げられる。タンパク質導入試薬としては、カチオン性脂質をベースとしたBioPOTER Protein Delivery Reagent(Gene Therapy Systmes)、Pro-JectTM Protein Transfection Reagent(PIERCE)及びProVectin(IMGENEX)、脂質をベースとしたProfect-1(Targeting Systems)、膜透過性ペプチドをベースとしたPenetrain Peptide(Q biogene)及びChariot Kit(Active Motif)、HVJエンベロープ(不活化センダイウイルス)を利用したGenomONE(石原産業)等が市販されている。導入はこれらの試薬に添付のプロトコールに従って行うことができるが、一般的な手順は以下の通りである。初期化因子を適当な溶媒(例えば、PBS、HEPES等の緩衝液)に希釈し、導入試薬を加えて室温で5-15分程度インキュベートして複合体を形成させ、これを無血清培地に交換した細胞に添加して37℃で1ないし数時間インキュベートする。その後培地を除去して血清含有培地に交換する。
PTDとしては、ショウジョウバエ由来のAntP、HIV由来のTAT(Frankel, A. et al, Cell 55, 1189-93 (1988); Green, M. & Loewenstein, P.M. Cell 55, 1179-88 (1988))、Penetratin (Derossi, D. et al, J. Biol. Chem. 269, 10444-50 (1994))、Buforin II (Park, C. B. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 97, 8245-50 (2000))、Transportan (Pooga, M. et al. FASEB J. 12, 67-77 (1998))、MAP (model amphipathic peptide) (Oehlke, J. et al. Biochim. Biophys. Acta. 1414, 127-39 (1998))、K-FGF (Lin, Y. Z. et al. J. Biol. Chem. 270, 14255-14258 (1995))、Ku70 (Sawada, M. et al. Nature Cell Biol. 5, 352-7 (2003))、Prion (Lundberg, P. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 299, 85-90 (2002))、pVEC (Elmquist, A. et al. Exp. Cell Res. 269, 237-44 (2001))、Pep-1 (Morris, M. C. et al. Nature Biotechnol. 19, 1173-6 (2001))、Pep-7 (Gao, C. et al. Bioorg. Med. Chem. 10, 4057-65 (2002))、SynBl (Rousselle, C. et al. MoI. Pharmacol. 57, 679-86 (2000))、HN-I (Hong, F. D. & Clayman, G L. Cancer Res. 60, 6551-6 (2000))、HSV由来のVP22等のタンパク質の細胞通過ドメインを用いたものが開発されている。PTD由来のCPPとしては、11R (Cell Stem Cell, 4:381-384(2009)) や9R (Cell Stem Cell, 4:472-476(2009))等のポリアルギニンが挙げられる。初期化因子のcDNAとPTD配列もしくはCPP配列とを組み込んだ融合タンパク質発現ベクターを作製して組換え発現させ、融合タンパク質を回収して導入に用いる。導入は、タンパク質導入試薬を添加しない以外は上記と同様にして行うことができる。比較的分子量の小さい欠失変異体の導入などに好適である。
マイクロインジェクションは、先端径1μm程度のガラス針にタンパク質溶液を入れ、細胞に穿刺導入する方法であり、確実に細胞内にタンパク質を導入することができる。その他、エレクトロポレーション法、セミインタクトセル法(Kano, F. et al. Methods in Molecular Biology, Vol. 322, 357-365(2006))、Wr-t ペプチドによる導入法(Kondo, E. et al., Mol. Cancer Ther. 3(12), 1623-1630(2004))などのタンパク質導入法も用いることができる。
タンパク質導入操作は1回以上の任意の回数(例えば、1回以上10回以下、又は1回以上5回以下等)行うことができ、好ましくは導入操作を2回以上(たとえば3回又は4回)繰り返して行うことができる。導入操作を繰り返し行う場合の間隔としては、例えば6時間〜7日間、好ましくは12〜48時間もしくは7日間が挙げられる。
iCSCの作製に用いるがん細胞は、個体から単離された初代培養細胞であってもよく、あるいはインビトロにおいて無限に増殖する能力を獲得(不死化)した株化細胞であってもよい。大腸がん株化細胞としては、例えば、HT29、HCT8、HCT116、W620、SW480、SW837、DLD-1、CACO-2、LoVo等が挙げられるが、好ましくは、SW480細胞である。また、肺がん株化細胞としては、例えば、A549、A427、Calu-1、Calu-6、CLS-54、DMS-79、GCT、HEL-299等が挙げられるが、好ましくはA549細胞である。
本発明においてがん幹細胞を誘導するための培地は、動物細胞の培養に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、例えば、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle's Minimum Essential Medium (EMEM)培地、αMEM培地、Dulbecco's modified Eagle's Medium (DMEM)培地、Ham's F12培地、RPMI 1640培地、Fischer's培地、StemPro34(invitrogen)、およびこれらの混合培地などが包含される。培地には、血清が含有されていてもよいし、あるいは無血清でもよい。必要に応じて、培地は、例えば、アルブミン、トランスフェリン、Knockout Serum Replacement(KSR)(FBSの血清代替物)、N2サプリメント(Invitrogen)、B27サプリメント(Invitrogen)、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール(2ME)、チオールグリセロールなどの1つ以上の血清代替物を含んでもよいし、脂質、アミノ酸、L-グルタミン、Glutamax(Invitrogen)、非必須アミノ酸、ビタミン、増殖因子、低分子化合物、抗生物質、抗酸化剤、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類などの1つ以上の物質も含有し得る。
本発明において、初期化因子を導入したがん細胞は、ES細胞の維持培養条件以外の条件で培養されることが好ましい。ここで「ES細胞の維持培養条件」とは、例えば、bFGFまたはSCFを含有した培地中で培養する条件、維持培養を補助する目的で用いる細胞外マトリックス(例えば、Matrigel、ラミニン511、ラミニン332、またはそのフラグメント)を用いる条件、維持培養を補助する目的で用いるフィーダー細胞(例えば、マウス胎児由来線維芽細胞(MEF)、STO細胞(ATCC, CRL-1503))を用いる条件、または当該フィーダー細胞を培養した培養上清を用いる条件等が挙げられるが、いかなる培養条件によればES細胞の維持培養が可能であるかは当業者にとって自明である。本発明においては、これらのES細胞の維持培養条件を用いることなく、初期化因子を導入したがん細胞を培養する。ただし、本発明において、がん幹細胞を得る最終工程においてのみ、ES細胞の維持培養条件以外の条件で培養されることが望ましいため、中間工程において、ES細胞の維持培養条件で培養することを妨げるものではない。
本発明において初期化因子を導入したがん細胞を培養するための培地は、好ましくは、FBSを含有するDMEM、DMEM/F12またはDMEM培地であり得る。
培地におけるFBSの濃度は、当業者が通常の細胞培養において用いる濃度であればいくらでもよいが、例えば、1〜30%、好ましくは、1〜20%の範囲内であり得る。培地におけるFBSの濃度は、例えば、1%、2%、3%、4%、5%、6%、7%、8%、9%、10%、11%、12%、13%、14%、15%、16%、17%、18%、19%、20%であり、好ましくは、10%である。
本発明で用いる培地には、細菌感染を防ぐ目的で、さらにペニシリンを含有してもよく、ペニシリンの濃度は、当業者が通常の細胞培養において用いる濃度であればいくらでもよいが、例えば、1〜500 Units/ml、好ましくは、1〜200 Units/mlの範囲内であり得る。培地におけるペニシリンの濃度は、例えば、1 Units/ml、25 Units/ml、50 Units/ml、60 Units/ml、70 Units/ml、80 Units/ml、90 Units/ml、100 Units/ml、110 Units/ml、120 Units/ml、130 Units/ml、140 Units/ml、150 Units/ml、175 Units/ml、200 Units/mlであり、好ましくは、100 Units/mlである。
本発明で用いる培地には、細菌感染を防ぐ目的で、さらにストレプトマイシンを含有してもよく、ストレプトマイシンの濃度は、当業者が通常の細胞培養において用いる濃度であればいくらでもよいが、例えば、1〜500 μg/ml、好ましくは、1〜200 μg/mlの範囲内であり得る。培地におけるストレプトマイシンの濃度は、例えば、1μg/ml、25μg/ml、50μg/ml、60μg/ml、70μg/ml、80μg/ml、90μg/ml、100μg/ml、110μg/ml、120μg/ml、130μg/ml、140μg/ml、150μg/ml、175μg/ml、200μg/mlであり、好ましくは、100μg/mlである。
培養温度は、30〜40℃が好ましく、37℃がより好ましい。CO濃度は、2〜5%が好ましい。培養法の例としては、がん細胞へ初期化因子を導入した後、例えば、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS、ペニシリンおよびストレプトマイシンを含有するDMEM培地中で、培養する方法が挙げられる。培養期間は、特に限定されないが、4日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、またはそれ以上が例示される。このとき、一定期間経過後、培地を新鮮な培地で置換することが好ましい。特に好ましくは、がん細胞と初期化因子の接触の24時間後に、培地の交換が行われる。
がん幹細胞の誘導に使用するがん細胞の数は、初期化因子を導入できる限り特に限定されないが、培養ディッシュに70%から100%コンフルエントな細胞数が例示される。
好ましい一実施態様において、本発明で用いるiCSCは、外来性の初期化因子を導入していないがん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のATP結合カセット(ABC)トランスポーター阻害薬の存在下でもなお、薬剤排除能を有する細胞である。薬剤排除能を有する細胞とは、例えば、Side population (SP) 細胞である。SP細胞とは、フローサイトメトリーでの解析でHoechst33342という蛍光色素を細胞に取り込ませてUVで励起すると405nm及び600nmに蛍光を発する通常の細胞(未分化細胞以外の細胞)からサイトグラム上は異なった位置(蛍光の暗い部分、すなわち、“Hoechst Blue弱陽性かつHoechst Red弱陽性”)に出現する細胞集団のことである。従って、本発明における好ましい排出される薬剤は、Hoechst33342であり、Hoeschst33342を指標として、薬剤排除能を有するがん幹細胞を抽出することができる。従って、上記実施態様において、iCSCは、外因性の初期化因子を導入していない大腸がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害剤を添加した条件において、薬剤排除能を有する細胞を抽出する工程(以下、「一次抽出工程」と略記する。)により得られる薬剤排除能を有する細胞(以下、「1st iCSC」と略記する。)であることが好ましく、1stiCSCを一定期間培養した後に、さらに上記と同様の抽出工程(以下「二次抽出工程」と略記する。)を行い、該工程により得られる薬剤排除能を有する細胞(以下「2nd iCSC」と略記する。)であることがより好ましい。初期化因子導入から一次抽出工程までの期間としては、例えば、6日間〜12日間が挙げられ、好ましくは10日間である。また、一次抽出工程から二次抽出工程の期間としては、例えば、10日間〜20日間が挙げられ、好ましくは17日間である。本発明に1st iCSC又は2nd iCSCを用いる場合、抽出工程を行った直後の細胞を用いてもよいが、一定期間培養をした細胞を用いてもよい。
本発明におけるABCトランスポーターとは、例えば、ATPの加水分解エネルギーを利用して輸送を行うトランスポーターであり、好ましくは、抗がん剤の細胞外輸送に関与する例えば、P-glycoprotein(Pgp/MDR1/ABCB1)、MDR-asscociated protein 1(MPR1)、ABCG2(BCRP/ABCP/MXR)が例示される。
本発明において、ABCトランスポーター阻害薬とは、ABCトランスポーターの機能を阻害する限り特に限定されないが、例えば、VX-710、GF120918、XR9576、fumitremorgin C 、Ko143、pantoprazole、flavonoids、estrogens、antiestrogens、Dofequidar Fumarate (フマル酸ドフェキダル)(MS-209)(Cancer Science Volume 100, Issue 11, pages 2060-2068, November 2009)、ベラパミル、レセルピン、ゾスキダル(LY335973)、シクロスポリA、タモキシフェン、キニジン、d-αトコフェリルポリエチレングリコール1000サクシネート、PSC833、フェノチアジン、SDZ PSC 833、TMBY、MS-073、S-9788、SDZ 280-446、XR9051が挙げらえる。ABCトランスポーター阻害薬は、好ましくは、fumitremorgin C、Ko143、Dofequidar Fumarate、ベラパミル、レセルピンであり、特に好ましくは、ベラパミルである。
本発明において用いられる、ABCトランスポーター阻害薬の濃度は、初期化因子を導入していないがん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度であり、例えば、ABCトランスポーター阻害薬が、fumitremorgin Cの場合は10 μM以上であり、Ko143の場合は1 μM以上であり、Dofequidar Fumarateの場合は5 μM以上であり、ベラパミルの場合は50 μM以上であり、レセルピンの場合は10 μM以上である。より好ましくは、ベラパミルの場合は50 μM以上、かつ250 μM未満(例えば、240 μM以下、230 μM以下、220 μM以下、210 μM以下、200 μM以下、190 μM以下、180 μM以下、170 μM以下、160 μM以下、150 μM以下)である。
別の好ましい一実施態様において、本発明で用いるiCSCは、トリプシン処理により培養容器から解離しない細胞である。ここで「トリプシン処理」とは、接着培養における細胞間接着及び細胞-培養容器間接着を解離させる処理を意味する。トリプシン処理の条件としては、通常のがん細胞が培養容器から解離するのに十分な条件であれば特に制限はないが、トリプシン濃度としては、例えば、0.1〜1%(例、0.1%、0.15%、0.2%、0.25%、0.3%、0.35%、0.4%、0.45%、0.5%、0.55%、0.6%、0.65%、0.7%、0.75%、0.8%、0.85%、0.9%、0.95%、1%)が挙げられ、好ましくは0.25%である。また、処理時間としては、例えば、1分以上(例、1分以上、2分以上、3分以上、4分以上、5分以上、6分以上、7分以上、8分以上、9分以上、10分以上)が挙げられ、好ましくは5分以上、より好ましくは6〜10分である。細胞とトリプシンとの接触は、被処理細胞の通常の培養条件で行われてよく、例えば、35〜42℃、好ましくは36〜40℃、より好ましくは37〜39℃で、2〜5% CO2、5〜20%O2の雰囲気下で行うことができる。
トリプシン処理終了後、トリプシン及び剥離した細胞を除去し、PBS等の等張緩衝液で洗浄した後、培養容器から解離せずに残った細胞を、がん幹細胞として回収することができる。
(2−2)その他のがん幹細胞
培養がん細胞や生体内の大腸がん組織から大腸がん幹細胞を単離する方法としては、例えば、細胞を無血清で浮遊培養することによりスフェアを形成させ、がん幹細胞を濃縮するスフェア形成分離法や、SP分画による分離法、幹細胞の表面マーカーによる分離法が挙げられる。これらの方法は、上述した方法と同様に行うことができる。また、WO2013/035824 A1に記載されるように、大腸がん患者由来のがん組織を免疫不全マウスに移植し、継代を行った後、腫瘍組織からLGR5を指標にがん幹細胞を選別する方法を用いてもよい。
本発明に用いるがん幹細胞は、がん幹細胞以外の分化したがん細胞が混在した不均一な細胞集団の形態であってもよいが、好ましくはがん幹細胞のみからなる均一な細胞集団である。がん幹細胞は単離後、in vitroにおいて自己複製させる維持培養が困難であることから、がん幹細胞のみからなる均一な細胞集団を得るためには、例えば、上記の薬剤排除能を有する細胞を抽出する工程や、トリプシン処理により解離しない細胞を抽出する工程を行うことがより望ましい。
3.がんオルガノイドの形成(がん幹細胞の三次元培養)
上述のとおり、がんオルガノイドは、がん幹細胞を三次元培養することにより得ることができる。三次元培養とは、低接着性の培養容器や、多孔質膜・ハイドロゲル等の足場(スキャフォールド)を利用して細胞の凝集塊(スフェア、スフェロイド)を形成させ、細胞をより生体内に近い三次元的な状態で培養することをいう。足場の有無により、スキャフォールド型とスキャフォールドフリー型とに大別される。前者は足場の種類により、ハイドロゲル型、不活性マトリクス型等に細分される。ハイドロゲルとしては、例えば、動物由来のマトリゲル、コラーゲン、ラミニン等、植物由来のアルギン酸ハイドロゲル等、合成化合物(例、OGelTM MT 3D Matrix(Ogel SA)、3-D Life Biomimetic(Cellendes)、Puramatrix(3D MATRIX)等)を用いることができる。不活性マトリクスとしては、例えば、alvetex(reinnavate)、3D Insert(3D Biotek)、VECELL-3D Insert(iwaki)等を用いることができる。あるいは、96又は384ウェルプレート等に多孔質ポリスチレン製ディスクを装填してスキャフォールド培養を行うこともできる。スキャフォールドフリー型も、使用する培養容器の種類等に応じて、低接着性プレート、マイクロパターン表面プレート、ハンギングドロップ法等に細分される。低接着性プレートとは、親水性ポリマーでコーティングして細胞接着を抑制するように加工された底面を有するプレートであり、例えば、PrimeSurface(住友ベークライト)、Ultra-Low Attachment(コーニング)、Nunclon Sphera(サーモサイエンティフィック)等が挙げられる。マイクロパターン表面プレートとは、増殖に影響を与えるような微小パターンに加工された底面を有するプレートであり、例えば、底面の一部のみが接着性であるため、そこに細胞が集積し凝集塊を形成するものや、底面にナノファイバーやナノ格子を敷き詰めることで細胞の接着を抑制し、平面的拡がりを抑えることで細胞塊を形成させるもの等が挙げられる。ハンギングドロップ法は液滴中に細胞塊を形成させる方法であり、例えば、ディッシュにあいた穴に通したチップ先端に細胞入りの培地ドロップを形成させ、チップを穴から引き抜くことでドロップを穴にとどまらせ、重力によりドロップの底に細胞を凝集させる方法が挙げられる。
本発明において、三次元培養法は、好ましくは浮遊培養により行うことができる。浮遊培養とは、目的の細胞や細胞塊を培養器の底面に接着させずに培養することを意味し、細胞や細胞塊が底面に触れていても、培養液を軽く揺らすと細胞や細胞塊が培養液中に浮かんでくるような状態で培養することも、浮遊培養に包含される。浮遊培養の際は、培養容器として、底表面が未処理のプラスティックディッシュや、細胞の基質への接着を阻止するための接着阻止用コーティング剤(ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)等)でコートしたものを用いることが好ましい。
がん幹細胞からスフェアを形成させるには、公知の方法(例えば、Ricci-Vitiani L. et al., Nature 2007;445:111-51、Sato T. et al., Gastroenterology 2011;141:1762-72)を用いて行うことができる。具体的には、血清を含まない培地に、上皮細胞成長因子(EGF)、塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)、インスリン、トランスフェリン及び/又はBSAを加えて、細胞を浮遊培養することにより行うことができる。この際用いるプレートは、Ultra Low Attachmentプレート(Corning)が好ましい。
また、がん幹細胞の三次元培養を行う際、間葉系幹/前駆細胞(MSC/MPC)や血管内皮細胞等の間質細胞との共培養を行うことで、天然の組織をより忠実に模倣したがんオルガノイドを形成させることができる。従って、好ましい一実施態様において、がん幹細胞の三次元培養工程は、少なくとも間葉系幹/前駆細胞を含み、好ましくはさらに血管内皮細胞を含む間質細胞との共培養により行われる。MSC/MPCとしては、例えば、骨髄、脂肪組織、滑膜組織、筋組織、末梢血、胎盤組織、月経血、臍帯血などに由来する幹/前駆細胞が挙げられる。血管内皮細胞としては、例えば、臍帯静脈血管内皮細胞、新生児包皮・成人皮膚等由来微小血管内皮細胞、肺動脈血管内皮細胞、大動脈血管内皮細胞が挙げられ、好ましくは、臍帯静脈血管内皮細胞(特に、ヒト臍帯静脈血管内皮細胞(HUVEC))である。
MSC/MPC及び血管内皮細胞の由来となる動物としては特に限定されないが、がん幹細胞が由来する動物と同種由来であることが好ましい。より好ましくはヒトである。MSC/MPC及び血管内皮細胞は、それぞれ自体公知の方法により取得することができ、また、一般に市販されている。
がん幹細胞に対するMSC/MPC及び血管内皮細胞の量比としては特に制限はないが、例えば、がん幹細胞:MSC/MPC:血管内皮細胞=10:4:1〜5:4:4の割合で共培養することができる。
がん幹細胞の三次元培養ための基礎培地や培地添加物については、iCSCの誘導用培地として上述したものを、同様に使用することができる。好ましくは、基礎培地として、FBSを含有するDMEM、DMEM/F12又はDMEM培地が用いられる。FBSの添加濃度は上記と同様である。
培養温度は、例えば35〜42℃、好ましくは36〜40℃、より好ましくは37〜39℃である。培養は2〜5% CO2、5〜20% O2の雰囲気下で行われ得る。培養法の一例としては、がん幹細胞を、37℃、5%CO2存在下にて、10%FBS、ペニシリン及びストレプトマイシンを含有するDMEM培地中で、培養する方法などが挙げられるが、これに限定されない。
4.がんオルガノイド又はがん幹細胞と被検物質との接触
本発明の方法Aと本発明の方法Bとは、前者が、がん幹細胞から予め形成させたがんオルガノイドに被検物質を接触させるのに対し、後者は、がん幹細胞からがんオルガノイドを形成させる過程でがん幹細胞に被検物質を接触させ点で異なる。そのため、前者では、被検物質ががんオルガノイドを脱構築させる、即ち、がん組織の類似した構造を破壊する能力を有するか否かを指標とし、後者では、被検物質ががんオルガノイドの形成を抑制するか否かを指標とする。
本発明の方法において使用される被検物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、微生物発酵産物、海洋生物由来の抽出物、植物抽出物、精製タンパク質又は粗タンパク質、ペプチド、非ペプチド化合物、合成低分子化合物、天然化合物等が挙げられる。本発明の方法において、被検物質はまた、(1)生物学的ライブラリー法、(2)デコンヴォルーションを用いる合成ライブラリー法、(3)「1ビーズ1化合物(one-bead one-compound)」ライブラリー法、及び(4)アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する合成ライブラリー法を含む当技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法における多くのアプローチのいずれかを使用して得ることができる。アフィニティクロマトグラフィ選別を使用する生物学的ライブラリー法はペプチドライブラリーに限定されるが、その他の4つのアプローチはペプチド、非ペプチドオリゴマー、又は化合物の低分子化合物ライブラリーに適用できる(Lam (1997) Anticancer Drug Des. 12: 145-67)。分子ライブラリーの合成方法の例は、当技術分野において見出され得る(DeWitt et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6909-13; Erb et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91: 11422-6; Zuckermann et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 2678-85; Cho et al. (1993) Science 261: 1303-5; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2059; Carell et al. (1994) Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33: 2061; Gallop et al. (1994) J. Med. Chem. 37: 1233-51)。化合物ライブラリーは、溶液(Houghten (1992) Bio/Techniques 13: 412-21を参照のこと)又はビーズ(Lam (1991) Nature 354: 82-4)、チップ(Fodor (1993) Nature 364: 555-6)、細菌(米国特許第5,223,409号)、胞子(米国特許第5,571,698号、同第5,403,484号、及び同第5,223,409号)、プラスミド(Cull et al. (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89: 1865-9)若しくはファージ(Scott and Smith (1990) Science 249: 386-90; Devlin (1990) Science 249: 404-6; Cwirla et al. (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 6378-82; Felici (1991) J. Mol. Biol. 222: 301-10; 米国特許出願第2002103360号)として作製され得る。
がんオルガノイド又はがん幹細胞と被検物質との接触は、がんオルガノイド又はがん幹細胞の培養培地に、被検物質を添加することにより行われ得る。被検物質の添加濃度は、その種類に応じて、細胞の生育に悪影響を及ぼさない範囲で適宜選択され得るが、通常0.1 nM〜10 mM、好ましくは1 nM〜1 mMである。接触期間は、例えば1〜14日間、好ましくは3〜10日間である。
5.薬効評価
本発明の方法は、がん幹細胞は三次元培養により天然のがん組織と類似したがんオルガノイドを形成し得るのに対し、非幹細胞がん細胞を三次元培養しても天然のがん組織に典型的な組織学的特性を示すスフェアを形成しないことの発見に基づく。即ち、がんオルガノイドの形成能やがんオルガノイドの構造維持能力は、がんオルガノイドにおけるがん幹細胞の維持に依存するので、がんオルガノイドの脱構築(即ち、がん組織類似の構造の破壊)や、がんオルガノイドの形成の抑制を指標として、がん幹細胞を標的とする抗がん薬を選択することができる。例えば、本発明の方法Aの工程(2)において、がんオルガノイドの脱構築を生じさせた被検物質を、抗がん薬、特にがん幹細胞を標的とする抗がん薬の候補薬剤として選択することができる。また、本発明の方法Bの工程(2’)において、被検物質の非存在下で三次元培養した場合に比べて、がんオルガノイドの形成を阻害した被検物質を、抗がん薬、特にがん幹細胞を標的とする抗がん薬の候補薬剤として選択することができる。
本発明の方法Aにおいて、がんオルガノイドの脱構築は、がんオルガノイドががん幹細胞とそれから分化した非幹細胞がん細胞からなるスフェアの場合、例えば、スフェア数の減少、スフェア径の減少、スフェアの形態変化、スフェアの免疫染色パターン(例えば、大腸がんの場合、CK20、CK7及びCDX2、肺がんの場合、CK7、TTF1及びNapsinA)等を指標として、評価することができる。また、がんオルガノイドがMSC/MPCや血管内皮細胞等の間質細胞をさらに含む場合、例えば、細胞集塊の形態的変化(例えば、肺がんオルガノイドの場合、ムチン分泌性の腺管様構造の破壊等)、細胞集塊内の細胞数の減少、がんオルガノイドの免疫染色パターン(例、がん細胞(大腸がんの場合、例えばCK20陽性、肺がんの場合、例えばCK7陽性)、MSC/MPC由来細胞(例、αSMA陽性)、血管内皮細胞(例、CD31陽性))の脱落、Ki67陽性細胞の組織内分布の変化等)などを指標としても、評価することができる。
本発明の方法Bにおいては、がんオルガノイドががん幹細胞とそれから分化した非幹細胞がん細胞からなるスフェアの場合、例えば、被検物質の非存在下で三次元培養した場合と比較して、スフェア数が少ない、スフェア径が小さい、スフェアの形態が異常である、スフェアの免疫染色パターン(例えば、大腸がんの場合、CK20、CK7及びCDX2、肺がんの場合、CK7、TTF1及びNapsinA)が天然のがん組織を反映していない等の場合に、がんオルガノイドの形成が阻害されたと評価することができる。また、がんオルガノイドがMSC/MPCや血管内皮細胞等の間質細胞をさらに含む場合、例えば、被検物質の非存在下で三次元培養した場合と比較して、細胞集塊の形態が異常である(例えば、肺がんオルガノイドの場合、ムチン分泌性の腺管様構造が形成されない等)、細胞集塊内の細胞数が少ない、がんオルガノイドの免疫染色パターンが天然のがん組織を反映していない(例、構成細胞〔がん細胞(大腸がんの場合、例えばCK20陽性、肺がんの場合、例えばCK7陽性)、MSC/MPC由来細胞(例、αSMA陽性)、血管内皮細胞(例、CD31陽性)数が少ない、Ki67陽性細胞が組織内分布が一様である〕等)などの場合に、がんオルガノイドの形成が阻害されたと評価することができる。
その他、がんオルガノイドが抗がん薬(例、CDDP、5-フルオロウラシル等)に対して抵抗性である場合、該抗がん薬の共存下で被検物質と接触させ、該抗がん薬への抵抗性が低下した被検物質を、がん幹細胞を標的とする抗がん薬の候補薬剤として選択することもできる。
尚、本発明の方法Aにおいて、がんオルガノイドの構造をより充実させた被検物質や、本発明の方法Bにおいて、がんオルガノイドの形成を促進した被検物質は、がん幹細胞の維持増幅及び/又はがんオルガノイドの誘導促進剤として利用することができる。
6.三つ組のスクリーニング系
好ましい一実施態様において、本発明の方法において使用される被検物質は、がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子の発現又は機能を調節し得る物質である。
上述のとおり、本発明においてがんオルガノイドの形成に用いられるがん幹細胞は、好ましくは、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導されたiCSCである。iCSCはそれ自体やそれから誘導されるがんオルガノイドに量的制限がないだけでなく、維持培養の過程で非幹細胞がん細胞に分化していくので、iCSCと遺伝的に同系の非幹細胞がん細胞も量的な制限なく取得することができる。また、iCSC誘導のためのがん細胞として株化細胞を用いた場合には、当該親株(初期化因子の導入に用いた、空のベクターを導入した親株(mock)を含む)もまた、iCSCと遺伝的に同系の非幹細胞がん細胞であり、しかも量的制限なく取得できる。
そこで、iCSCと、それと遺伝的に同系の非幹細胞がん細胞との間での網羅的遺伝子発現を、マイクロアレイを用いて比較することにより、あるいは、WGBS法やPBAT法により網羅的なDNAメチル化状態を比較することにより、がん幹細胞特異的に発現が上昇又は低下している遺伝子を、信頼性よく同定することができる。これらの遺伝子は、その発現及び/又は機能ががん幹細胞の組織再構築能力に関与している可能性が高いので、該遺伝子の発現又は機能を調節し得る物質は、がん幹細胞を標的とする抗がん薬となり得る有望な候補薬剤といえる。
したがって、本発明の好ましい一実施態様において、本発明の方法は、がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子を同定する工程をさらに含む。本工程は、がん幹細胞と、それと遺伝的に同系の非幹細胞がん細胞(例、がん幹細胞から維持培養過程で分化した非幹細胞がん細胞、iCSC誘導のために用いた親細胞株等)とについて、例えば、マイクロアレイを用いた網羅的遺伝子発現解析を行うか、WGBS法やPBAT法による網羅的なDNAメチル化解析を行い、両者のデータを比較することにより実施することができる。
一例として、誘導型大腸がん幹細胞と、それと遺伝的に同系の非幹細胞大腸がん細胞との網羅的遺伝子発現の比較により、大腸がん幹細胞特異的に発現が上昇する遺伝子の1つとして、RCAN2が同定された。RCAN2はカルシニューリンを負に制御することが報告されていたので(Cao X., et al., Biochem J 2002;367:459-66)、本発明者らは、カルシニューリン阻害薬であるFK506を添加して、大腸がん幹細胞の維持増幅及びがんオルガノイド形成能に及ぼす効果を調べたところ、FK506は大腸がん幹細胞の維持増幅及びがんオルガノイドの形成を促進した。一方、RCAN2はNFAT(nuclear factor of activated T cells)タンパク質の核移行を促進することが知られているので、RCAN2とは逆にNFATの核から細胞質への移行を促進するGSK3の阻害薬(GSK3α及びGSK3βに対するsiRNA、バルプロ酸、CHIR99021)を添加して、大腸がん幹細胞の維持増幅及びがんオルガノイド形成能に及ぼす効果を調べたところ、いずれのGSK3阻害薬も大腸がん幹細胞の維持増幅及びがんオルガノイドの形成を抑制した。
別の一例として、誘導型肺がん幹細胞と、それと遺伝的に同系の非幹細胞肺がん細胞との網羅的遺伝子発現の比較により、肺がん幹細胞特異的に発現が上昇する遺伝子の1つとして、IL-6が同定された。そこで、本発明者らは、肺がん幹細胞及び肺がん幹細胞の組織再構築に及ぼすIL-6及び抗IL-6抗体の効果について調べたところ、IL-6の添加により、元の肺がん細胞の組織再構築能が向上したのに対し、抗IL-6抗体の添加により、肺がん幹細胞の組織再構築能は低下した。また、誘導型肺がん幹細胞から形成される細胞塊はシスプラチン(CDDP)抵抗性であったが、抗IL-6抗体を併用すると著明な細胞減少が認められ、肺がんオルガノイドの構造が破壊された。
7.がんオルガノイド
本発明はまた、iCSCから誘導され、量的な制限なく供給され得るがんオルガノイドを提供する。該がんオルガノイドは、iCSCと、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞とを、三次元培養にて共培養することにより得ることができる。三次元培養の各種条件は上記と同様である。より具体的には、がんオルガノイドの製造に用いられるiCSCは、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導され、かつ
(a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
(b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである。
上記がんオルガノイドは、元になるiCSCと組み合わせてキットとして提供することもできる。さらに、該iCSCから分化した非幹細胞がん細胞や、該iCSC誘導のための親細胞株をキットに含めることもできる。前者はiCSCを維持培養する過程で生じたものを使用者が分画して取得することもできる。さらに、該キットには、iCSCの維持増幅及び/又はがんオルガノイド誘導を促進する物質(例えば、大腸がん幹細胞の場合、FK506等のカルシニューリン阻害薬)を構成として含めてもよい。
8.IL-6調節薬の新規用途
後述の実施例に示すとおり、本発明により、肺がん幹細胞はIL-6を高発現することによりMSC/MPCからαSMA陽性細胞への分化を促進することで、肺がんオルガノイド形成に寄与しており、一方、IL-6阻害薬はIL-6の当該効果を遮断することで、MSC/MPCからαSMA陽性細胞への分化を抑制し得ることが明らかとなった。
したがって、本発明はまた、IL-6調節薬を含有してなる、MSC/MPCからαSMA陽性細胞への分化制御剤を提供する。IL-6増強薬としては、例えばIL-6自体(それを発現する組換え細胞の形態であってもよい)が挙げられる。一方、IL-6阻害薬としては、例えば抗IL-6抗体、IL-6に対するアプタマー、IL-6に対するsiRNA、IL-6に対するアンチセンス核酸等が挙げられるが、それらに限定されない。
IL-6調節薬は、MSC/MPCの分化又は維持培養において、分化制御剤として培地に添加して使用することができる。また、MSC/MPCのαSMA陽性細胞への分化の異常が関与する疾患の治療及び/又は予防に使用することもできる。そのような疾患としては、例えば、がん、特発性間質性肺炎、特発性肺線維症、薬剤性肺線維症、腎線維化を伴う慢性腎臓病等が挙げられる。IL-6調節薬を医薬用途に用いる場合、医薬上許容される担体とともに医薬組成物として製剤化することができる。IL-6調節薬は非経口投与(例、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与等)用の製剤として調製することが好ましい。IL-6調節薬の投与方法及び投与量は特に制限はないが、例えば抗IL-6抗体の場合、既存薬で使用されている用法・用量に準じて適宜選択することができる。
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明がこれらに限定されないことは言うまでもない。
後述の実施例では、以下のようにして実験を行った。
<細胞培養>
ATCCコレクション及びCell Biolabs(San Diego、CA、USA)から、ヒト大腸がん細胞株(SW480)及びPlat-A アンホトロピックレトロウイルスパッケージング細胞をそれぞれ入手した。また、ヒト肺がん細胞株(A549; RCB0098)を理研バイオリソースセンターから入手した。10%ウシ胎仔血清(FBS)(Life Technologies)、ペニシリン(100 Units/ ml)及びストレプトマイシン(100 μg/ml)(Life Technologies)を補充したダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)(Nacalai Tesque、Kyoto、Japan)中で、37℃、加湿5%CO2インキュベーター内で、これらの細胞を培養した。Plat-A培養において、1 μg/mlのピューロマイシン(Nacalai Tesque)及び10 μg/mlのブラストサイジン(Funakoshi)を添加した。 HUVEC(Lonza)は、内皮増殖培地(Lonza)中で、37℃、加湿5%CO2インキュベーター内で維持した。ヒトMSC(Lonza)は、内皮増殖培地(Lonza)(大腸がんオルガノイド作製時)又はMSC増殖培地(Lonza)(肺がんオルガノイド作製時)中で、37℃、加湿5%CO2インキュベーター内で維持した。
<レトロウイルス感染>
pMXをベースにしたベクターにおいて、OCT3/4、SOX2又はKLF4を別々にコードするレトロウイルスベクター(pMXs-OCT3/4, pMXs-SOX2, pMXs-KLF4)は、Addgeneから入手した。大腸がん幹細胞の作製については、OCT3/4、KLF4及びSOX2をコードするポリシストロニックレトロウイルスベクター(pMXs-OKS)を設計した。簡潔には、上記の各ベクターを鋳型とし、ヒトOCT3/4、KLF4及びSOX2を、Thosea asignaウイルスの2A配列(T2A)を含むプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅し、In-fusion HDクローニングシステム(Clontech)を用いてpMXベクターのEcoRI部位にクローニングした。
トランスフェクションの1日前に、Plat-Aパッケージング細胞を、60mmディッシュ当たり1×106細胞又は1.2×106細胞の密度で播種した。翌日、メーカーの説明書に従い、Fugene HDトランスフェクション試薬(Promega)を用いて3μgのpMX-OKS(SW480細胞用)ベクター又はpMXs-OCT3/4、pMXs-SOX2又はpMXs-KLF4(A549細胞用)で、Plat-A細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、Plat-A培地を交換し、さらに24時間培養した後、これらのウイルス含有上清を、0.45mm酢酸セルロースフィルター(Whatman)で濾過し、4μg/ mlポリブレン(Nacalai Tesque)を補充した。pMXs-OCT3/4、pMXs-SOX2及びpMXs-KLF4含有上清は等量を混合した。これらのウイルス含有上清を、速やかに、前日60mmディッシュ上に播種しておいたSW480又はA549細胞に添加した。感染24時間〜36時間後に、ウイルス含有培地を新しい培地と交換した。
<初期化因子導入後の細胞の培養、iCSC富化細胞集団の単離及びがんオルガノイドの誘導>
初期化因子導入後のSW480細胞の培養及び誘導型大腸がん幹細胞(以下、「大腸iCSC」ともいう。)富化細胞集団の単離及び大腸がんオルガノイドの誘導は、図4に記載のスケジュールで実施した。大腸iCSCの樹立培養及び大腸iCSC富化細胞集団のソーティングは、上記非特許文献4に記載される方法(50μM ベラパミル存在下でのHoechst33342排除能を利用したフローサイトメトリー)に従って行った。以下、1回目のソーティングにより得られた大腸iCSC富化細胞集団(50μM ベラパミル存在下でHoechst33342により標識されない細胞集団;V50細胞)を1st V50細胞(又は1st V50-OKS細胞)、2回目のソーティングにより得られたV50細胞を2nd V50細胞(又は2nd V50-OKS細胞)と、それぞれ略記する場合がある。大腸がんオルガノイドの誘導は、後述のスフェア形成アッセイに記載の方法にて行った。
一方、初期化因子導入後のA549細胞は、37℃、5% CO2雰囲気下、10% FBS、0.5% ペニシリン及び0.5% ストレプトマイシンを補充したDMEM中で維持した。10〜15日後に出現したコロニーを0.25% トリプシンで6分間処理し、解離した細胞及びトリプシンを除去した後、ディッシュ上に残存する細胞をPBSで2回洗浄した。細胞コロニーを回収し、穏やかにピペッティングした後、新しい60mmディッシュに移した。ディッシュあたり約5コロニーが継代可能となった。継代後7〜10日目により大きなコロニーが出現し、その周りに紡錘形の細胞が認められた。コロニーを0.25% トリプシンで6分間処理し、上清中に解離した細胞をOSK-A549-SN細胞として回収した。ディッシュ上に残存する細胞をPBSで2回洗浄した。細胞コロニーを誘導型肺がん幹細胞(肺iCSC; OSK-A549-Colony細胞)として回収し、穏やかにピペッティングした後、新しいディッシュに移した。肺がんオルガノイドの誘導は、後述のスフェア形成アッセイに記載の方法にて行った。
<スフェア形成アッセイ>
10 ng/mlのbFGF(WAKO)、10 μg/mlのヒトインスリン(CSTI)、100 μg/mlのヒトトランスフェリン(Roche)及び100 μg/mlのBSA(Nacalai Tesque)を含有する無血清DMEM(スフェア形成培地)を添加したUltra Low Attachmentプレート(Corning)に細胞を移し、37℃、5%CO2インキュベーター内で6日間又は10日間インキュベートした。スフェアの数は、100μmより大きいスフェアのサイズに基づいて計算した。
<カルシニューリン阻害及びGSK3阻害>
SW480細胞及び2nd V50細胞をそれぞれ、カルシニューリン阻害薬(FK506(Sigma、25μM))、又はGSK3阻害薬(バルプロ酸(1mM)もしくはCHIR99021(3μM))で、5日間(接着培養の場合)もしくは10日間(浮遊培養の場合)処理した後、Countess(Invitrogen)システムを用いて細胞(スフェア)数をカウントした。
また、SW480細胞及び2nd V50細胞にそれぞれ、Duplexed Stealth siRNA (Invitrogen) を用い、製造者のプロトコルに従って、以下のsiRNAを導入し、接着培養した。
GSK3α siRNA 5’-CCA AGG CCA AGU UGA CCA UCC CUA U-3’(配列番号1)
GSK3β siRNA 5’-GCU CCA GAU CAU GAG AAA GCU AGA U-3’(配列番号2)
SCRAMBLED siRNA 5’-AAU UCU CCG AAC GUG UCA CGU GAG A-3’(配列番号3)
siRNA導入後5日目に、Countess(Invitrogen)システムを用いて細胞数をカウントした。
<HUVEC及びMSCとの共培養>
5×105 親SW480細胞又は2nd V50細胞を、5×104HUVEC及び2×105 MSCと共にスフェア形成培地に再懸濁し、低接着24ウェルのフラットプレート(Prime Surface(登録商標)24F、 Sumitomo Bakelite)に蒔いた。また、A549細胞又はOSK-A549-Colony細胞についても、同様にHUVEC及び2×105MSCと共培養した(この際、がん(幹)細胞:HUVEC:MSC=5:1:4〜5:4:4の割合で混合した)。6〜12日後、自己組織化したスフェアを、BZ8000(Keyence)を用いて写真撮影し、病理学的に解析した。
A549細胞又はOSK-A549-Colony細胞由来のスフェアにおけるCDDP感受性及び形成中のスフェアにおけるIL-6の機能を調べるべく、5μM CDDP、1μg/ml 抗IL-6抗体(R & D, MAB206)及び10ng/ml IL-6の存在下もしくは非存在下で、該スフェアを培養した。撮影した写真を解析し、ImageJソフトウェアプログラムを用いて蛍光強度を計算した。
<スフェアの組織学的及び免疫組織化学的分析>
スフェアをパラフィンブロックに包埋し、厚さ5μmで切片化した。切片を脱パラフィンし、ヘマトキシリン及びエオシン(HE)、抗ヒトサイトケラチン20(CK20)マウスモノクローナル抗体(クローン:Ks20.8、1:50で希釈、Dako)、抗ヒトサイトケラチン7(CK7)マウスモノクローナル抗体(クローン:OV-TL 12/30、1:50で希釈、Dako)、抗CDX2マウスモノクローナル抗体(CM226、1:50で希釈、Biocare Medical)、抗Ki67マウスモノクローナル抗体(クローン:MIB-1、1:50で希釈、Dako)、抗αSMAマウスモノクローナル抗体(クローン:1A4、1:50で希釈、Dako)及び抗CD31マウスモノクローナル抗体(クローン:JC70A、1:50で希釈、Dako)で染色した。免疫組織化学分析は、XT ultraView Universal DAB検出キット(Ventana Medical Systems, Inc)及びBenchmark XT(Roche)autostainerを用いて行った。Ki67-及びαSMA-陽性細胞の割合は、免疫組織化学的に陽性な細胞数と、3つの高倍率視野中の総核数とを計数することにより算出した。
<RNAの単離及び定量逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応>
Trizol(Life Technologies)を用いて細胞の全RNAを抽出した。Prime ScriptTM II 1st strand cDNA Synthesis Kit(Takara)を用いて、500ngの全RNAをcDNAに逆転写し、SYBR(登録商標)Premix Ex TaqTM II(Takara)を用いたLightCycler(登録商標)480リアルタイムPCRシステム(Roche)で定量PCR分析を行った。使用したPCRプライマーを表1に挙げる。
<マイクロアレイ分析>
Mock-SW480細胞(空のベクターでSW480細胞をトランスフェクトした細胞)、1st V50-OKS細胞由来の非V50細胞及び2nd V50-OKS細胞のRNAを、ソート後5日目に回収した。また、親A549細胞、3回の独立したレトロウイルス導入実験から得られたOSK-A549-Colony細胞及びOSK-A549-SN細胞からもRNAを回収した。遺伝子発現プロファイリングを、メーカーのプロトコールに従い、SurePrint G3 human GE microarray(Agilent Technologies)用いて行った。GeneSpring 13.0ソフトウェアプログラム(Agilent Technologies)を用いてデータを分析した。データ処理は、次のように行った:(i)閾値生シグナルを1.0に設定し、(ii)ログベース2変換を行い、(iii)標準化アルゴリズムとして75パーセンタイル正規化を選択した(http://genespringsupport.com/faq/normalization)。フラグの設定は、次のように行った:特徴は、not positive and significant (not detected)、not uniform (compromised)、 not above background (not detected)、 saturated (compromised)、又はpopulation outlier(compromised)とした。コントロールプローブを除去し、全ての試料中の少なくとも1つの試料中に存在する「検出された」プローブのみをさらなる分析に使用した。分析に使用したプローブの数は50,739(Mock-SW480細胞もしくは1st V50-OKS細胞由来の非V50細胞 vs 2nd V50-OKS細胞)又は30886(A549細胞もしくはOSK-A549-SN細胞 vs OSK-A549-Colony細胞)であった。
<統計解析>
すべてのデータは、jstatソフトウェアプログラムを使用して分析した。データ値は、3回の独立した実験の平均±標準誤差(SEM)として表した。図1A、図3E、図5A、図5D、図6A-6C、図9H、図9I、図11C及び図11Fにおける2群間の平均値の差を、両側対応t検定を用いて分析した。図7A及び図9Gにおけるデータ分析にはBonferroni’s検定を用いた。図9Cにおけるデータ分析には、repeated measures ANOVA検定を用いた。図10Cにおける多重比較にはDunnet’s検定を用いた。P値<0.05(*)及び<0.01(**)である場合に、データ間の差は統計的に有意であるとみなした。
実施例1:大腸iCSCsのin vitroでの組織再構築能の検証
無血清培地を用いた低接着培養皿で培養した場合、CSCが高いスフェア形成する能力を有することが以前報告されている(Ricci-Vitiani L. et al., Nature 2007;445:111-51、Sato T. et al., Gastroenterology 2011;141:1762-72)。これらの細胞のスフェア形成能を調べるために、スフェア形成アッセイを行った。
O+S+K-SW480を用いた大腸iCSCにおける以前の報告(非特許文献4)と一致して、2nd V50-OKS細胞におけるスフェアの数が明らかに増加したのに対し、親SW480ではスフェアを見つけることが困難であった(図1A)。スフェアの数は、1st V50-OKS細胞由来の非V50細胞において、中間レベルであった(図1A)。
以前の異種移植実験では、親細胞株ではなく大腸iCSCが、免疫組織学的所見の点から、実際のヒト大腸がん組織に類似した組織をin vivoで再構成できることが実証された(非特許文献4)。しかし、大腸iCSCがin vitroで同じ現象を示すことができるかどうかは依然として不明であった。そこで、親SW480細胞及び2nd V50-OKS細胞由来のスフェアを免疫組織学的に評価した。2nd V50-OKS細胞由来のスフェアは、CK20及びCDX2が陽性であり、CK7は陰性であった(図1B)。これは典型的な大腸がん組織に対する染色パターンと一致する(Bayrak R et al., Diagn Pathol 2012;7:9)が、親SW480細胞由来のスフェアはCK20が陰性であり(図1B)、このことは、in vivoのみならずin vitroでも、大腸iCSC由来組織がヒト大腸がん組織様の構造(大腸がんオルガノイド)を再構築できることを示している。従って、これらのiCSCの組織再構築能の指標として、スフェア形成能を評価することができると考えられる。
ヒト大腸がん組織は、がん細胞だけでなく、血管及び間葉系の細胞のような間質細胞からなることが知られている(Takebe T. et al., Cell Stem Cell 2015;16:556-65、Plaks V. et al., Cell Stem Cell 2015;16:225-38)。そのため、大腸iCSCを、間葉系幹細胞(MSC)及びヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)と共に培養した場合に、in vitroで間質細胞と共に、よりリアリティーのある大腸がんオルガノイドを構築することができるかどうかを調べた。
MSC及びHUVECと共培養された2nd V50-OKS細胞は、親SW480細胞とは異なり、大きな凝集した集合細胞を生じた(図2A)。免疫組織化学的分析を行ったところ、2nd V50-OKS由来のスフェアにおいて、α-SMA及びCD31(それぞれMSC及び血管細胞に由来し得る筋繊維芽細胞マーカーである(Quante M. et al., Cancer Cell 2011;19:257-72))陽性細胞が観察されたが、親SW480細胞由来のスフェアでは観察されなかった(図2B)。このことから、大腸iCSCのみが、HUVECとMSCと共に組織を構築し、大腸がんオルガノイドをより成熟した段階に導き得ることが示された。
実施例2:Mock-SW480細胞、非V50細胞及び2 nd V50-OKS細胞における遺伝子発現プロファイルの比較
CSCsの特性を促進する分子メカニズムを同定するために、ソーティングから5日後のMock-SW480細胞、1stV50-OKS細胞由来の非V50細胞及び2ndV50-OKS細胞における網羅的遺伝子発現パターンを、マイクロアレイによって比較した。まず、Mock-SW480と2nd V50-OKS細胞間の遺伝子発現を比較し、3914のプローブがそれらの発現において有意差を有することを同定した(t検定、偽陽性率(FDR)<0.05及びFold Change>2)(図3A)。次に、2nd V50-OKS細胞の遺伝子発現プロファイルを、1stV50-OKS細胞由来の非V50細胞の遺伝子発現プロファイルと比較した(図3B)。FDR<0.05であり、Fold Change>2である56個のプローブを同定した。次に、非V50細胞、モックよりも2nd V50においてより高く発現するプローブ、及び非V50、Mock-SW480細胞よりも2ndV50-OKS細胞においてより低く発現するプローブのベン図を描き、ベン図で重なる8個のプローブを選択した(図3C)。これら8個のプローブのうち、各細胞における発現レベルとスフェア形成能とがパラレルの関係にある、セマフォリン 6A(SEMA6A)、FAM105A(family with a sequence similarity 105 member A)、及びRCAN2(regulator of calcineurin 2)を含む3個のプローブに絞り込んだ(図3D、3E)。
SEMA6Aは、神経系以外の多くの発達プロセスにおいて役割を果たすセマフォリンファミリーの1つである(Luo Y. et al., Cell 1993;75:217-27)。セマフォリンのこれらの正常な機能に加えて、多くのセマフォリンは、腫瘍の進行に関連する機能的活性を有することが見出されている(Neufeld G. et al., Cold Spring Harb Perspect Med 2012;2:a006718、Worzfeld T. et al., Nat Rev Drug Discov 2014;13:603-21)。現在のところ、FAM105Aについてはほとんど報告されていないが、FAM105AはRho-GAPの保存されたタンパク質ドメインを有し(Marchler-Bauer A. et al., Nucleic Acids Res 2015;43:D222-6)、RhoGタンパク質を調節する可能性がある。RCAN2はもともとヒト線維芽細胞由来の甲状腺ホルモン応答遺伝子 ZAKI-4として同定されており(Miyazaki T. et al., J Biol Chem 1996;271:14567-71)、その後カルシニューリンのネガティブレギュレーターとして機能することが報告されている(Cao X., et al., Biochem J 2002;367:459-66)。
次に、SEMA6A、FAM105A若しくはRCAN2、又はそれらの標的分子に作用する低分子化合物を用いて実験を行うことにした。しかし、SEMA6Aのアゴニストもアンタゴニストも、探した限りでは市販されておらず、FAM105Aの機能は不明であった。対照的に、RCAN2はカルシニューリンを負に調節することが知られており、理論的には大腸iCSCに対するRCAN2と同じ効果を有すると推定されるFK506などのカルシニューリン-NFAT(nuclear factor of activated T cells)シグナル伝達阻害剤は市販されていた。従って、大腸iCSCの特性に対するFK506の影響を評価することに焦点を当てた。
実施例3:カルシニューリン阻害による大腸iCSCの平面接着培養及びスフェア形成能への効果の検証
FK506は、親SW480培養において細胞の数を有意に減少させたが、これはカルシニューリンの阻害がin vitroで大腸がん細胞株の増殖を阻害するという報告と一致する(Peuker K. et al., Nat Med 2016;22:506-15)。一方で、2nd V50-OKS培養において、FK506の細胞数に対する有意な効果は観察されなかった(図5A)(継代±FK506添加5日後)。さらに、2nd V50-OKS細胞において顕著に観察された形態又はドーム型コロニーは、FK506を用いることでより顕著になったが、親SW480の細胞形態はFK506を用いても変化しなかった(図5B)(継代±FK506添加5日後)。これらのデータにより、FK506が大腸iCSC及び親SW480細胞に対して異なる作用を有することが示唆された。
次に、FK506有り又は無しでの大腸iCSCの組織再構築能の指標として、スフェア形成能を評価した。FK506は、2nd V50-OKS細胞においてスフェアの数を有意に増加させたが、親SW480細胞では増加しなかった(図5C、5D)。免疫組織化学分析により、FK506処置を受けた2nd V50-OKS細胞のスフェアは、CK20及びCDX2が陽性であり、CK7が陰性であり、FK506を用いないスフェアと同じパターンであった(図5E)。
実施例4:GSK3阻害による大腸iCSCの平面接着培養及びスフェア形成能への効果の検証
カルシニューリンは、NFATの核移行を促進することが他の細胞で報告されていた。逆に、NFATの核から細胞質への移行を促進する分子としてGSK3が知られていた。そこで、大腸がん幹細胞に対して、GSK3を阻害すれば、カルシニューリン阻害薬FK506とは逆の効果があるという仮説のもとに本実験を行った。
まず、GSK3α及びGSK3βに対するsiRNAを用いて、GSK3を阻害した。その結果、平面接着培養において、GSK3αに対するsiRNAとGSK3βに対するsiRNAの両者を添加することで、iCSCの形態的特徴(ドーム状のコロニー)は抑制されて平坦となり、細胞数も減少した(図6A)。単独のsiRNAでは効果が見られなかったことから、大腸がんにおいてはGSK3αとGSK3βとの間には機能的なリダンダンシーがあることが示唆された。
次に、GSK3αおよびβ両者の阻害薬であるバルプロ酸(VPA)やCHIR99021(CHIR)添加によりsiRNAと同様の効果があるか否かを調べた。その結果、図6Bに示すとおり、いずれのGSK3阻害薬でも、siRNAと同様の効果が認められた。さらに、実施例3と同様に、スフェア形成能の及ぼすこれら阻害薬の効果を調べたところ、いずれのGSK3阻害薬も大腸iCSC(2ndV50)のスフェア形成能力を優位に抑制した。
実施例5:In vitroでの肺がん様組織(肺がんオルガノイド)の作製(1)
KRASにG12S変異を有するヒト肺がん細胞株(A549)にレトロウイルスベクターを用いてOCT3/4、SOX2及びKLF4を導入し(OSK-A549細胞)、10% FBS含有DMEM中で培養した。2週間後OSK-A549細胞の増殖速度が親A549細胞及びEGFP-A549細胞(トランスフェクションコントロールとして、pMx-EGFPをA549細胞に導入したもの)と比較して低下した。CSC特性であると考えられるスフェア形成能を調べるべく、これらの細胞を、トランスフェクション後10、20及び30日目に低接着性プレートに移して浮遊培養した。親A549細胞及びEGFP-A549細胞はいずれの条件下でも3個未満のスフェアしか形成しなかったのに対し、OSK-A549細胞から形成されたスフェア数は顕著に増大した(図7A)。特に遺伝子導入後20日目の細胞においてスフェア形成能が高かった。遺伝子導入から10〜15日後に、OKS-A549細胞のみにドーム状のコロニーが出現した。該コロニーをピックアップして継代したところ、1週間の間にコロニーはより大きくなり、その周りに紡錘形の細胞を生じた。トリプシンに対する解離抵抗性の差を利用して、ディッシュ上に残存したドーム状のコロニー(OSK-A549-Colony細胞)と、解離した紡錘形の細胞(OKS-A549-SN細胞)とを別々に単離することができた。
次に、OSK-A549-Colony細胞のスフェア形成能を調べた。位相差顕微鏡観察の結果、OSK-A549-Colony細胞において明らかな細胞凝集が認められたのに対し、親A549細胞ではそのような細胞凝集は観察されなかった(図7B, Phase)。HE染色の結果、OSK-A549-Colony細胞は腺管様構造を有する蜜なスフェアを形成したのに対し、親A549細胞はそのようなスフェアを形成することができなかった(図7B, HE)。Alcian blue-PAS 染色により、OSK-A549-Colony細胞から作製した組織でのムチン分泌を調べた。その結果、該組織では、ムチン分泌を伴う極性のある腺管様構造がみられた(図9A)。
実施例6:In vitroでの肺がん様組織(肺がんオルガノイド)の作製(2)
通常の肺がん細胞株(A549)またはA549から作製した肺iCSC(OSK-A549-Colony細胞)と、間質細胞(HUVEC、及びMSC)とを、低接着性プレート上で共培養した(図8上)。その結果、肺iCSCと間質細胞との共培養によってのみ、よりリアリティーのあるヒト肺がん組織類似の組織を構築できた(図8下)。即ち、通常の細胞株(A549)を用いた共培養では紡錘形のαSMA陽性細胞はみられず、CK7陽性のがん細胞のみからなる疎な細胞集塊を形成したのに対し、肺iCSC(OSK-A549-Colony細胞)を用いた共培養では、CK7陽性肺がん細胞のみならず、αSMA陽性cancer associated fibroblast(CAF)様細胞なども含むヒト肺がん組織類似の充実性の組織を形成した。これらの所見は、肺iCSCががん以外の細胞(αSMA陽性細胞はおそらく間葉系幹細胞由来)に何らかの働きかけをしていることを示唆している。
次に、この肺がんオルガノイドの細胞組成を可視化すべく、がん細胞(肺iCSCまたは親細胞株)をGFPで着色し、血管内皮細胞株HUVECをm-cherryで着色し、作製した肺がんオルガノイドの蛍光顕微鏡観察を実施した。その結果、肺iCSCではmcherry陽性細胞が増幅していたが、親細胞株で作製した細胞塊ではmcherry陽性細胞は減少していた(図9B、9C)。また、肺iSCSを用いて作製した細胞塊では、内皮細胞マーカーであるCD31陽性細胞数が増加していた(図9D)。このことから、肺iCSCは血管内皮細胞に何らかの働きかけをしていることが示唆される。
ヒト肺がん組織標本において、Ki67陽性細胞は、がん細胞塊の内側よりも外側により高頻度に検出されるが(図9E、右パネル)、同様の周縁ドミナントなKi67陽性細胞は肺iCSC由来オルガノイドで見出されたが、親A549細胞由来オルガノイドでは認められなかった(図9E、9F)。
実施例7:IL-6阻害による肺iCSC由来がんオルガノイドへの効果の検証
A549細胞とそこから作製した肺iCSC(OSK-A549-Colony細胞)とにおける網羅的遺伝子発現をマイクロアレイで比較したところ、OSK-A549-Colony細胞において有意に発現変動する(P<0.05, Fold Change>2)575遺伝子を同定した。次に、OSK-A549-Colony細胞と該iCSCから分化した非幹細胞肺がん細胞(OSK-A549-SN細胞)との間で、これらの遺伝子の発現を比較し、その結果をvolcanoプロットで示した(図10A)。OSK-A549-Colony細胞において有意に発現変動する(P<0.05, Fold Change>2)54遺伝子が同定された。その中で、IL-6は、OSK-A549-Colony細胞において特に特異的に高発現していた。定量RT-PCRの結果、A549細胞及びOSK-A549-SN細胞と比較して、OSK-A549-Colony細胞においてIL-6発現が顕著に上方制御されていることが確認された(図9G)。従って、肺iCSCの特性においてIL-6が重要であることが示唆された(図10A)。
A549(緑色蛍光でラベル)を用いた共培養で形成される細胞集塊はCDDP感受性だが、肺iCSC(緑色蛍光でラベル)を用いて形成される組織はCDDP抵抗性である。そこで、抗IL-6抗体の添加により、肺iCSC(OSK-A549-Colony細胞)由来組織のCDDP抵抗性に変化が生じるか否かを調べた。その結果、CDDPに抗IL-6抗体を併用することにより、著明な細胞減少が認められた(図10B、10C、10D)。
実施例8:IL-6調節による肺がん細胞又は肺iCSC由来がん様組織への効果の検証
通常の肺がん細胞株A549(緑色蛍光でラベル)を用いた共培養で形成される細胞集塊にIL-6を添加してその効果を検証した。その結果、IL-6添加により、細胞集塊はより充実性になり、EGFP蛍光強度及びαSMA陽性細胞が有意に増加した(図11A及び図9H、図11B及び11C)。一方、肺iCSC(緑色蛍光でラベル)を用いた共培養で形成される肺がんオルガノイドに抗IL-6抗体を添加して、その効果を検証したところ、抗IL-6抗体添加により、EGFP蛍光強度は減弱されなかったが(図9I及び図11D)、αSMA陽性細胞が有意に減少した(図11E及び11F)。また、MSCを単独で接着培養したものにIL-6を添加すると、αSMA陽性細胞が出現した(図11G)。これらの結果から、IL-6はMSCをαSMA陽性細胞へと変化させることで肺がん組織形成に正の効力を有し、抗IL-6抗体はこれを遮断することで、がん組織を破壊し得ることが示唆された。
がん幹細胞、非幹細胞がん細胞及び該がん細胞から誘導されるがんオルガノイドの三つ組(triad)を用いる本発明のスクリーニング系は、がん幹細胞としてiCSCを使用すれば、いずれの試料も量的制限がないので、実用にたえ得る抗がん薬のHTS系として極めて有用である。

Claims (11)

  1. 以下の工程を含む抗がん薬のスクリーニング方法。
    (1)がん幹細胞を三次元培養して得られるがんオルガノイドに被検物質を接触させる工程
    (2)該がんオルガノイドの脱構築を生じさせた被検物質を抗がん薬として選択する工程
  2. がんオルガノイドが、がん幹細胞と間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞との共培養により得られるものである、請求項1に記載の方法。
  3. 以下の工程を含む抗がん薬のスクリーニング方法。
    (1)がん幹細胞を被検物質の存在下で三次元培養してがんオルガノイド形成を誘導する工程
    (2)被検物質の非存在下で三次元培養した場合に比べて、がんオルガノイドの形成を阻害した被検物質を抗がん薬として選択する工程
  4. 工程(1)において、がん幹細胞を、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞と共培養する、請求項3に記載の方法。
  5. 被検物質が、がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子の発現又は機能を調節し得る物質である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
  6. がん幹細胞と非幹細胞がん細胞との間で有意に発現レベル及び/又はエピジェネティック修飾が異なる遺伝子を同定する工程をさらに含む、請求項5に記載の方法。
  7. がん幹細胞が、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導されたものである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 誘導されたがん幹細胞が、
    (a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
    (b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである、
    請求項7に記載の方法。
  9. がん幹細胞が大腸がん幹細胞又は肺がん幹細胞である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
  10. がん幹細胞と、間葉系幹/前駆細胞及び血管内皮細胞とが、in vitroで自己組織化されてなるがんオルガノイド。
  11. がん幹細胞が、外来性の初期化因子を導入した非幹細胞がん細胞を、胚性幹(ES)細胞を維持し得ない条件下で培養することにより誘導され、かつ
    (a)外来性の初期化因子を導入していない非幹細胞がん細胞の薬剤排除能を抑制するのに有効な濃度のABCトランスポーター阻害薬の存在下で、薬剤排除能を有するものであるか、あるいは
    (b)トリプシン処理により培養容器から解離しないものである、請求項10に記載のがんオルガノイド。
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