JP2018172706A - 硬質炭素被覆膜 - Google Patents
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Abstract
【課題】低摩擦性と耐摩耗性の両立を十分に改善させるだけでなく、耐焼き付き性についてもさらなる改善が図られた被覆膜を提供する。【解決手段】基材の表面に被覆される被覆膜であって、断面を明視野TEM像により観察したとき、少なくとも2つの層からなる硬質炭素層が形成されており、最上層の硬質炭素層は、直下に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層である被覆膜。基材の表面に被覆される被覆膜であって、断面を明視野TEM像により観察したとき、少なくとも3つの層からなる硬質炭素層が形成されており、最上層の硬質炭素層と最下層の硬質炭素層とは、中間に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層である被覆膜。【選択図】図1
Description
本発明は、被覆膜に関し、より詳しくは、各種摺動部材の被覆膜として好適な被覆膜に関する。
近年、各種産業分野、特に自動車分野において、エンジン基材やその他機械基材等、摺動性が必要とされる部材の表面に硬質炭素膜を被覆させることが盛んに検討されている。
この硬質炭素膜は、一般的にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜、無定形炭素膜、i−カーボン膜、ダイヤモンド状炭素膜等、様々な名称で呼ばれており、構造的には結晶ではなく非晶質に分類される。
そして、この硬質炭素膜は、ダイヤモンド結晶に見られるような単結合(C−C)とグラファイト結晶に見られるような二重結合(C=C)とが混在していると考えられており、ダイヤモンド結晶のような、高硬度、高耐摩耗性、優れた化学的安定性等といった特徴に加えて、グラファイト結晶のような低硬度、高潤滑性、優れた相手なじみ性等といった特徴を併せ備えている。また、非晶質であるために、平坦性に優れ、相手材料との直接接触における低摩擦性、即ち、小さな摩擦係数や優れた相手なじみ性も備えている。
これらの特性は、成膜条件、摺動条件、相手材料により大きく変動するため、硬質炭素膜の組成、構造、表面粗さ等を制御することにより、これらの特性の向上を図る技術が提案されている。
一方、摺動部材にとって重要な特性である低摩擦性と耐摩耗性とは、互いにトレードオフの関係にあるため、これらを両立させることが難しい。
このため、低硬度化した硬質炭素層を規定したり、低硬度硬質炭素と高硬度硬質炭素の混在状態を規定したりして、低硬度の硬質炭素を活用することにより、被覆膜の低摩擦性と耐摩耗性をある程度両立させて、上記したトレードオフの関係を改善することが図られている。
しかしながら、この低摩擦性と耐摩耗性を両立させることについては、未だ十分とは言えないのが現状である。また、摺動部材の被覆膜には前記した低摩擦性や耐摩耗性に加えて耐焼き付き性が要求されるが、この特性の改善も未だ十分とは言えないのが現状である。
例えば、特許文献1では、炭素を主成分としたアモルファス構造体であって、平均径2nm以上からなるグラファイトクラスターを含む低硬度硬質炭素層と、平均径1nm以下からなるグラファイトクラスターを含む高硬度硬質炭素層とを交互に積層することにより、低摩擦性と耐摩耗性とが両立されると示されているが、その両立は未だ不十分であり、耐焼き付き性も十分とは言えない。
また、特許文献2では、炭素、水素を主成分とし、表面粗さがRmax0.5μm以下のプラズマCVD法で成膜された硬質炭素膜であって、X線回折結晶学的に非晶質構造であり、ダイヤモンド構造およびグラファイト構造のクラスターの混合体として、各クラスターの炭素原子数を規定することにより低摩擦性と耐摩耗性とを両立させているが、異常成長を防いで面粗さを小さくするためにダイヤモンド構造とグラファイト構造の両方のクラスターを必須としており、それぞれのクラスターは原子数が100〜2000と大きいため、X線回折では非晶質構造であっても電子線回折で微小領域を解析すると結晶質を含んでおり、クラスターのサイズが大きいこともあり、低摩擦性と耐摩耗性との両立には限界があり、耐焼き付き性も十分とは言えない。
また、特許文献3では、少なくとも鉄を含む金属基材上にDLC膜を配してなる金属部材であって、DLC膜はラマンスペクトルで波数が1550〜1600cm−1の範囲に観測されるグラファイトに起因するピークを有し、前記ピークの強度が、膜面内に複数異なって混在し、ピーク強度の最大と最小の差が1桁以上である金属部材が開示されており、高硬度のDLCと潤滑性に優れたDLC膜を同一膜面内で局所的に作り分けて、硬度が異なるDLC膜を同一面内で併せ持つ膜とすることにより、低摩擦性と耐摩耗性とが両立されると示されているが、硬度に優れるDLC膜および潤滑性に優れるDLC膜の面内での大きさは数10μmサイズと大きいため、場所による性能差が現れやすく、摺動面内で均一に低摩擦性と耐摩耗性を両立させることが難しい。
また、特許文献4では、sp2混成軌道を持つ炭素量が70原子%以上、且つグラファイトの(002)面が厚さ方向に沿って配向した窒素を含有する配向性DLC膜が開示されているが、成膜に際してプラズマCVDで窒素を用いており、バイアス電圧を−1500V以下と非常に低くしている。このため、sp2混成軌道を持つ炭素電子が70%以上でsp2/sp3比が2.3〜∞と非常に大きくなって、低硬度で耐摩耗性に劣る被覆膜しか得られず、やはり、摺動部材の被覆膜として採用することができない。
さらに、近年の環境規制、省燃費を目的として摺動部材の潤滑油には低粘度の油剤が用いられる傾向にあり、そのような環境下での耐焼き付き性についてはさらなる改善が求められていた。
そこで、本発明は、低摩擦性と耐摩耗性の両立を十分に改善させるだけでなく、耐焼き付き性についてもさらなる改善が図られた被覆膜を提供することを課題とする。
前記したように、硬質炭素膜において、低摩擦性と耐摩耗性は互いにトレードオフの関係にある。本発明者らはこのトレードオフの関係を破り、耐摩耗性を維持したまま、低摩擦性を向上させるための技術開発を進めた。その結果、硬質炭素膜の最上層として、その直下の硬質炭素膜よりも低密度の硬質炭素層を1〜20nmと極薄く形成することで、低摩擦性と耐摩耗性を両立させることに成功した。さらには、硬質炭素膜の最下層として、その直上の硬質炭素層よりも低密度の硬質炭素層を2〜200nmの厚さで形成することで、耐焼き付き性に優れた被覆膜とできることを見出した。
具体的には、高性能が確認できた被覆膜の断面を加速電圧300kVで得られた明視野TEM(透過電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)像により観察したところ、基材表面に被覆された硬質炭素層の最上層に、その直下の硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層(白色硬質炭素層)を1〜20nmの厚さで薄く形成した場合、被覆膜に非常に優れた低摩擦性と耐摩耗性が具備できることを見出した。さらに、基材表面に被覆された硬質炭素層の最下層に、その直上の硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層を5〜200nmの厚さで形成した場合、耐焼き付き性も具備できることを見出した。
この被覆膜の摺動特性を測定したところ、本来トレードオフの関係にある低摩擦性と耐摩耗性の両立を十分に改善させるだけでなく、耐焼き付き性についても優れていることが確認でき、摺動性が必要とされる部材の表面に被覆させる硬質炭素膜として極めて好ましい特性を有することが分かった。
このような効果が得られた理由は、以下のように考えられる。
硬質炭素膜の最上層に、その直下の硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層を薄く形成すると、この色調が白い硬質炭素層は、直下の硬質炭素層よりも低密度で軟質の硬質炭素層であるため相手材と摺動したとき平坦化しやすくなり、相手材との固体接触が軽減され、その結果、低摩擦性を示したものと考えられる。この色調が白い硬質炭素層が厚い場合は、低摩擦性は実現できても耐摩耗性は劣化してしまう。しかし、この色調が白い硬質炭素層が1〜20nmと薄い場合は、耐摩耗性の低下は僅かであり、この場合において耐摩耗性と低摩擦性が両立できたものと考えられる。
さらには、硬質炭素膜の最下層に、その直上の硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層を2〜200nmの厚さで形成すると、この色調が白い硬質炭素層は低粘度油の使用時および潤滑油が枯渇した摺動環境下においても膜が損傷しにくく、基材が露出しにくいことから、非常に優れた耐焼き付き性を発現したものと考えられる。
以上より、低密度で軟質の硬質炭素層が有する優れた低摩擦性と下層の硬質炭素層が有する優れた耐摩耗性を両立でき、さらには耐焼き付き性を具備した被覆膜になったものと考えられる。
なお、以上に記載したような特長を有する被覆膜は、アーク式PVD法を用いて成膜することが好ましい。
即ち、従来より、CVD法でも硬質炭素を成膜できることが知られていたが、CVD法の場合には、原料ガスに炭化水素を用いるため、被覆膜に水素を含有している。そして、この水素が油中での油の吸着を抑制するため、低摩擦を示す硬質炭素層を形成させる成膜方法としてCVD法は好適とは言えなかった。本発明者は、検討の結果、PVD法を採用し、成膜条件を適切に制御することにより、上記のような特長をもつ硬質炭素膜を備えた被覆膜が形成されることを見出した。PVD法ではカソードに固体の炭素原料を用いるため、水素や不純物金属を含まない高硬度で、油中での低摩擦性に優れる硬質炭素膜を成膜できるメリットがある。
請求項1に記載の発明は、上記の知見に基づくものであり、
基材の表面に被覆される被覆膜であって、
断面を明視野TEM像により観察したとき、少なくとも2つの層からなる硬質炭素層が形成されており、最上層の硬質炭素層は、直下に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層であることを特徴とする被覆膜である。
基材の表面に被覆される被覆膜であって、
断面を明視野TEM像により観察したとき、少なくとも2つの層からなる硬質炭素層が形成されており、最上層の硬質炭素層は、直下に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層であることを特徴とする被覆膜である。
なお、直下に形成されている硬質炭素層が複数の白色の層で分割されている場合も本発明に含まれる。また、この直下に形成されている硬質炭素層の水素含有量は10at%以下、より好ましくは5at%以下である。
請求項2に記載の発明は、
前記最上層の硬質炭素層の厚さが、1〜20nmであることを特徴とする請求項1に記載の被覆膜である。
前記最上層の硬質炭素層の厚さが、1〜20nmであることを特徴とする請求項1に記載の被覆膜である。
最上層の硬質炭素層の厚さが1〜20nmであると、耐摩耗性を低下させずに低摩擦性を向上させることができる。1nmよりも薄いと低摩擦性を向上させる効果が小さく、20nmよりも厚くなると耐摩耗性が低下しやすくなる。2〜10nmであると特に好ましい。
請求項3に記載の発明は、
前記最上層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.4〜0.9であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被覆膜である。
前記最上層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.4〜0.9であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被覆膜である。
最上層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.4〜0.9であると特に優れた低摩擦性を得ることができる。
請求項4に記載の発明は、
基材の表面に被覆される被覆膜であって、
断面を明視野TEM像により観察したとき、少なくとも3つの層からなる硬質炭素層が形成されており、最上層の硬質炭素層と最下層の硬質炭素層とは、中間に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層であることを特徴とする被覆膜である。
基材の表面に被覆される被覆膜であって、
断面を明視野TEM像により観察したとき、少なくとも3つの層からなる硬質炭素層が形成されており、最上層の硬質炭素層と最下層の硬質炭素層とは、中間に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層であることを特徴とする被覆膜である。
請求項5に記載の発明は、
前記最上層の硬質炭素層の厚さが、1〜20nmであることを特徴とする請求項4に記載の被覆膜である。
前記最上層の硬質炭素層の厚さが、1〜20nmであることを特徴とする請求項4に記載の被覆膜である。
最上層の硬質炭素層の厚さが1〜20nmであると、耐摩耗性を低下させずに低摩擦性を向上させることができる。1nmよりも薄いと低摩擦性を向上させる効果が小さく、20nmよりも厚くなると耐摩耗性が低下しやすくなる。2〜10nmであると特に好ましい。なお、この白色層が複数の層に分割されている場合も本発明に含まれる。
請求項6に記載の発明は、
前記最上層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.4〜0.9であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の被覆膜である。
前記最上層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.4〜0.9であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の被覆膜である。
最上層の硬質炭素層のπ/σ強度比が0.4〜0.9であると、上記したように、特に優れた低摩擦性を得ることができる。
請求項7に記載の発明は、
前記最下層の被覆層厚さが、5〜200nmであることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の被覆膜である。
前記最下層の被覆層厚さが、5〜200nmであることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の被覆膜である。
最下層の厚さが5〜200nmであると、耐焼き付き性を向上させることができる。2nmよりも薄いと耐焼き付き性を向上させる効果は小さく、200nmよりも厚くなると耐焼き付き性が低下しやすくなる。10〜100nmであると特に好ましい。なお、この白色層が複数の層に分割されている場合も本発明に含まれる。
請求項8に記載の発明は、
前記最下層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.3〜0.8であることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の被覆膜である。
前記最下層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.3〜0.8であることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の被覆膜である。
最下層の硬質炭素層のπ/σ強度比が0.3〜0.8であると、特に優れた耐焼き付き性を得ることができる。
請求項9に記載の発明は、
前記最上層の硬質炭素層の色調が、他のいずれの硬質炭素層よりも白いことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の被覆膜である。
前記最上層の硬質炭素層の色調が、他のいずれの硬質炭素層よりも白いことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の被覆膜である。
最上層の硬質炭素層の色調が他のいずれの硬質炭素層よりも白い層であると、低摩擦性と耐摩耗性が両立でき、耐焼き付き性も向上できるため、好ましい。特に、最上層の硬質炭素層の色調が最下層の硬質炭素層の色調よりも白いと、低摩擦性の向上効果を大きくできる。
本発明によれば、低摩擦性と耐摩耗性の両立を十分に改善させるだけでなく、耐焼き付き性についてもさらなる改善が図られた被覆膜を提供することができる。
以下、本発明を実施の形態に基づき、図面を用いて説明する。
1.基材
本発明において、被覆膜を形成させる基材としては特に限定されず、鉄系の他、非鉄系の金属あるいはセラミックス、硬質複合材料等の基材を使用することができる。例えば、炭素鋼、合金鋼、軸受け鋼、焼入れ鋼、高速度工具鋼、鋳鉄、アルミ合金、Mg合金や超硬合金等を挙げることができる。
本発明において、被覆膜を形成させる基材としては特に限定されず、鉄系の他、非鉄系の金属あるいはセラミックス、硬質複合材料等の基材を使用することができる。例えば、炭素鋼、合金鋼、軸受け鋼、焼入れ鋼、高速度工具鋼、鋳鉄、アルミ合金、Mg合金や超硬合金等を挙げることができる。
2.中間層
被覆膜の形成に際しては、基材上に予め中間層を設けても良い。これにより、基材と被覆膜の密着性を向上させることができると共に、被覆膜が摩耗した場合には、露出したこの中間層に耐摩耗性機能を発揮させることができる。
被覆膜の形成に際しては、基材上に予め中間層を設けても良い。これにより、基材と被覆膜の密着性を向上させることができると共に、被覆膜が摩耗した場合には、露出したこの中間層に耐摩耗性機能を発揮させることができる。
このような中間層としては、Cr、Ti、Si、W、B等の元素の少なくとも1種を用いることができる。また、これらの元素からなる層の下層に、Cr、Ti、Si、W、Al等の少なくとも1種の窒化物、炭窒化物、炭化物等を用いることができ、このような化合物としては、例えばCrN、TiN、WC、CrAlN、TiC、TiCN、TiAlSiN等を挙げることができる。
3.被覆膜
本発明の被覆膜は、基材に対して垂直な断面における明視野TEM像(例えば、加速電圧300kV)を観察すると、少なくとも2つの層からなる硬質炭素層が形成されており、被覆膜の最上層はその直下に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層が形成されている。また、少なくとも3つの層からなる硬質炭素層が形成されている場合には、最上層の硬質炭素層と最下層の硬質炭素層とは、中間に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層である。
本発明の被覆膜は、基材に対して垂直な断面における明視野TEM像(例えば、加速電圧300kV)を観察すると、少なくとも2つの層からなる硬質炭素層が形成されており、被覆膜の最上層はその直下に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層が形成されている。また、少なくとも3つの層からなる硬質炭素層が形成されている場合には、最上層の硬質炭素層と最下層の硬質炭素層とは、中間に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層である。
図1は本発明の一実施の形態における被覆膜の断面の明視野TEM像である。そして、図2、図3は図1の明視野TEM像の一部を拡大した図であり、図2では最上層近傍を、図3では最下層近傍を示している。
図1に示すように、被覆膜1の中間には色調が黒い硬質炭素層1bが形成されており、この色調が黒い硬質炭素層1bの直上には図2に示すように、色調が白い硬質炭素層1aが形成されており、色調が黒い硬質炭素層1bの直下には図3に示すように、色調が白い硬質炭素層1cが形成されている。
なお、図1〜3では、3つの層からなる硬質炭素層が形成されている被覆膜の断面の明視野TEM像を示しているが、2つの層からなる硬質炭素層が形成されている被覆膜の場合にも、最下層が形成されていないだけで、最上層と直下の層との関係については同様に考えることができる。
4.被覆膜の製造方法およびアーク式PVD装置
(1)製造方法
上記被覆膜1の形成にはPVD法が適用できるが、特に好ましいのはアーク式PVD法である。
(1)製造方法
上記被覆膜1の形成にはPVD法が適用できるが、特に好ましいのはアーク式PVD法である。
被覆膜をアーク式PVD法により形成する場合、バイアス電圧やアーク電流を調節したり、ヒーターにより基材を加熱したり、基材をセットする冶具(ホルダー)に冷却機構を導入して基材を強制冷却したりして、成膜中の基材温度を制御できるように製造条件を調整する。
なお、本実施の形態において、硬質炭素層を形成する際の基材温度は50〜250℃の範囲内に設定することが好ましい。より好ましくは75〜230℃の範囲内である。
また、成膜に際しては、基材を10〜200rpmの回転数で自転させたり、1〜20ppmの回転数で公転をさせたりすることが好ましい。
白色硬質炭素層を形成するには、大きなアーク電流で硬質炭素層を成膜したり、ヒーター加熱を強化したり、高エネルギーで炭素イオンを注入したり、プラズマ雰囲気に晒したり、基材が高温の状態で窒素、酸素、水素、炭化水素、二酸化炭素、Arなどを含む冷却ガスに晒したり、基材を大きなマイナスのバイアス電圧に維持して硬質炭素層を成膜するなどの手段をとることができる。
このような製造条件で、白色硬質炭素層が形成できる理由は定かではないが、基本的には高温もしくは高活性な成膜条件で硬質炭素層を成膜することで、π/σ強度比の大きい硬質炭素層を形成することができる。
本実施の形態の被覆膜は、アーク式PVD装置を用いて製造することができ、具体的な成膜装置としては、例えば、日本アイ・ティ・エフ社製アーク式PVD装置M720を挙げることができる。
(2)アーク式PVD装置
次に、本実施の形態に係るアーク式PVD装置について具体的に説明する。図4は本実施の形態のアーク式PVD装置の成膜用の炉の要部を模式的に示す図である。
次に、本実施の形態に係るアーク式PVD装置について具体的に説明する。図4は本実施の形態のアーク式PVD装置の成膜用の炉の要部を模式的に示す図である。
アーク式PVD装置は、成膜用の炉11と制御装置(図示省略)とを備えている。炉11には、真空チャンバー12、プラズマ発生装置(図示省略)、ヒーター13、基材支持装置としての公転治具14、温度計側装置としての熱電対(T.C.10mm角バー)15およびバイアス電源(図示省略)および炉内の圧力を調整する圧力調整装置(図示省略)が設けられている。なお、図4において、公転治具14において、自公転治具を用いることもできる。
また、基材支持装置もしくは炉内中央部に冷却水および/または温水や蒸気を供給する冷却加熱装置が設けられていることが好ましい。なお、Tはターゲット(カーボンターゲット)であり、21は基材(鉄基材)である。また、ターゲットTは実際には5台備えているが、図4では簡略化のため1台のみ記載している。
プラズマ発生装置は、アーク電源、カソードおよびアノ−ドを備え、カソードとアノード間の真空アーク放電により、カソード材料であるカーボンターゲットTからカーボンを蒸発させると共に、イオン化したカソード材料(カーボンイオン)を含むプラズマを発生させる。バイアス電源は、基材21に所定のバイアス電圧を印加してカーボンイオンを適切な運動エネルギーで基材21へ飛翔させる。
公転治具14は、中空の円柱状で、炉体の中心を回転の中心として矢印の方向に回転自在である。これにより基材21は、公転治具14に公転自在に保持される。また、公転治具14には、基材21と公転治具14との間で速やかに熱が伝導し、基材21と公転治具14の温度が略等しくなるようにステンレスなど熱伝導性が高い金属材料が用いられている。
ヒーター13および冷却加熱装置は、公転治具14をそれぞれ加熱、冷却し、これにより基材21が間接的に加熱、冷却される。ここで、ヒーター13は温度調節が可能となるように構成されている。一方、冷却加熱装置は、冷却加熱媒体の供給スピードが調整可能となるように構成されており、具体的には、冷却実施時には冷却水を公転治具14および/または回転軸もしくは炉内中央部に設置された冷却筒に供給し、冷却停止時には冷却水の供給を停止するように構成されており、加熱時には温水または蒸気を公転治具14および/または回転軸に供給し、加熱停止時には温水または蒸気の供給を停止するように構成されている。また、熱電対15が基材21の近傍に取り付けられており、基材温度を間接的に計測して、アーク電流値、バイアス電圧値、ヒーター温度の少なくとも一つを成膜中に変化させることで、狙いとする基材温度に制御するように構成されている。
また、熱電対15による基材21の温度の計測結果に応じて、バイアス電圧、アーク電流、ヒーター温度、炉内圧力を最適化する。これにより、成膜中の基材21の温度を50〜300℃の温度範囲で制御することができる。また、必要に応じて冷却装置の作動およびバイアス電圧の印加パターンを制御する。
例えば、基材温度を上中下段で計測して、その計測値を基に上中下段各位置のアーク電流値やバイアス電圧を成膜中に適宜変化させ、上中下段各位置の基材温度を狙い温度にするようなフィードバックシステムを組むことが好ましい。これにより上中下段での硬質炭素膜の膜組織の安定化を図ることができる。
5.被覆膜の検査方法
(1)TEM組織の観察
FIB(Focused Ion Beam)を用いて薄膜化した被覆膜を、TEM(透過型電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)により、例えば加速電圧300kVで明視野TEM像を観察する。
(1)TEM組織の観察
FIB(Focused Ion Beam)を用いて薄膜化した被覆膜を、TEM(透過型電子顕微鏡:Transmission Electron Microscope)により、例えば加速電圧300kVで明視野TEM像を観察する。
(2)硬質炭素層の粗密判定方法
硬質炭素皮膜の密度は、通常、GIXA法(斜入射X線分析法)やGIXR法(X線反射率測定法)によって測定可能である。しかし、硬質炭素層中で密度の小さい粗な硬質炭素と密度の大きい密の硬質炭素とが非常に微細に分散している場合、上記方法では各部の密度を高精度で測定することは難しい。
硬質炭素皮膜の密度は、通常、GIXA法(斜入射X線分析法)やGIXR法(X線反射率測定法)によって測定可能である。しかし、硬質炭素層中で密度の小さい粗な硬質炭素と密度の大きい密の硬質炭素とが非常に微細に分散している場合、上記方法では各部の密度を高精度で測定することは難しい。
このような硬質炭素層に対しては、例えば、特許第4918656号公報に記載されている明視野TEM像の明るさを活用する方法を用いることができる。具体的には、明視野TEM像では、密度が低くなるほど電子線の透過量が増加するため、組成が同じ物質の場合、密度が低くなるほど像が白くなる。従って、同一組成からなる多層の硬質炭素層の各層の密度の高低を判定するために、硬質炭素層の組織断面における明視野TEM像を利用することは好ましい。
図1〜図3に示した明視野TEM像の場合、表面部の最上層の硬質炭素層は色調が白い硬質炭素層1aであり、その下層の硬質炭素層は色調が黒い硬質炭素層1bであり、基材直上の最下層の硬質炭素層は色調が白い硬質炭素層1cである。
(3)π/σ強度比の測定方法
EELS分析(Electron Energy−Loss Spectroscopy:電子エネルギー損失分光法)により、1s→π*強度と1s→σ*強度を測定し、1s→π*強度をsp2強度、1s→σ*強度をsp3強度と見立てて、その比である1s→π*強度と1s→σ*強度の比をπ/σ強度比として算出した。具体的には、STEM(走査型TEM)モードでのスペクトルイメージング法を適用し、加速電圧200kV、試料吸収電流10−9A、ビームスポットサイズφ1nmの条件で、1nmのピッチで得たEELSを積算し、約10nm領域からの平均情報としてC−K吸収スペクトルを抽出し、π/σ強度比を算出する。
EELS分析(Electron Energy−Loss Spectroscopy:電子エネルギー損失分光法)により、1s→π*強度と1s→σ*強度を測定し、1s→π*強度をsp2強度、1s→σ*強度をsp3強度と見立てて、その比である1s→π*強度と1s→σ*強度の比をπ/σ強度比として算出した。具体的には、STEM(走査型TEM)モードでのスペクトルイメージング法を適用し、加速電圧200kV、試料吸収電流10−9A、ビームスポットサイズφ1nmの条件で、1nmのピッチで得たEELSを積算し、約10nm領域からの平均情報としてC−K吸収スペクトルを抽出し、π/σ強度比を算出する。
6.本実施の形態による効果
以上述べてきたように、本発明に係る被覆膜は、TEM組織の明視野像において、少なくとも2つの層からなる硬質炭素層が形成されており、被覆膜の最上層はその直下に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層であると、低摩擦性と耐摩耗性を両立させることができる。特に好ましいのは最上層の厚さが1〜20nmと薄いときである。最上層の厚さが2〜10nmであると特に低摩擦性と耐摩耗性に優れる。
以上述べてきたように、本発明に係る被覆膜は、TEM組織の明視野像において、少なくとも2つの層からなる硬質炭素層が形成されており、被覆膜の最上層はその直下に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層であると、低摩擦性と耐摩耗性を両立させることができる。特に好ましいのは最上層の厚さが1〜20nmと薄いときである。最上層の厚さが2〜10nmであると特に低摩擦性と耐摩耗性に優れる。
また、少なくとも3つの層からなる硬質炭素層が形成されており、被覆膜の最上層と最下層はその中間に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層であると、低摩擦性と耐摩耗性を両立させることに加えて、優れた耐焼き付き性をも発揮させることができる。特に好ましいのは最下層の厚さが5〜200nmのときである。厚さが10〜100nmであると特に低摩擦性と耐摩耗性、耐焼き付き性のバランスに優れる。
次に、実施例に基づき、本発明をより具体的に説明する。
1.摩擦摩耗試験試料の作製
(1)基材、中間層の形成
基材(SCM420H相当材)を用意し、直径(φ)30mm、高さ(a1)20mmの円柱形状に加工し、冠面の凸量を10μmとした鋼基材を準備した。
(1)基材、中間層の形成
基材(SCM420H相当材)を用意し、直径(φ)30mm、高さ(a1)20mmの円柱形状に加工し、冠面の凸量を10μmとした鋼基材を準備した。
(2)被覆膜の形成
次に、図4に示す成膜用の炉11を備えるアーク式PVD装置を用いて、実施例、および従来例の試料を以下のように作製した。
次に、図4に示す成膜用の炉11を備えるアーク式PVD装置を用いて、実施例、および従来例の試料を以下のように作製した。
(a)実施例1〜9
前記円柱形状の鋼基材を基材支持装置でもある公転治具14に配置した後、アーク式PVD装置の炉11内にセットし、厚さ0.02μmの金属Cr層を中間層として被覆後、カーボンカソードを用いてバイアス電圧−150V、アーク電流60Aの条件でアーク放電を行い、厚さ1.0μmの色調が黒い硬質炭素層を下層の硬質炭素層として被覆した。その後、バイアス電圧−600V、アーク電流60Aの条件でアーク放電を行い、下層の硬質炭素層の直上(最上層)に厚さ5nm(0.005μm)の色調が白い硬質炭素層を被覆し、2層構造の被覆膜を実施例1の試料として作製した。硬質炭素層の形成に使用した炭素原料は固体のカーボンカソードのみであるため、硬質炭素層に含まれる水素含有量は5at%以下である。
前記円柱形状の鋼基材を基材支持装置でもある公転治具14に配置した後、アーク式PVD装置の炉11内にセットし、厚さ0.02μmの金属Cr層を中間層として被覆後、カーボンカソードを用いてバイアス電圧−150V、アーク電流60Aの条件でアーク放電を行い、厚さ1.0μmの色調が黒い硬質炭素層を下層の硬質炭素層として被覆した。その後、バイアス電圧−600V、アーク電流60Aの条件でアーク放電を行い、下層の硬質炭素層の直上(最上層)に厚さ5nm(0.005μm)の色調が白い硬質炭素層を被覆し、2層構造の被覆膜を実施例1の試料として作製した。硬質炭素層の形成に使用した炭素原料は固体のカーボンカソードのみであるため、硬質炭素層に含まれる水素含有量は5at%以下である。
また、実施例1と同様にして、最上層の膜厚だけを表1に示すように異ならせて、2層構造の被覆膜を実施例2〜9の試料として作製した。
(b)実施例10〜19
厚さ0.02μmの金属Cr層を中間層として被覆後、カーボンカソードを用いてバイアス電圧−400V、アーク電流60Aの条件でアーク放電を行い、厚さ0.1μmの色調が白い硬質炭素層(最下層)を被覆した。その後、実施例1と同様にして、厚さ0.9μmの色調が黒い硬質炭素層(中間層)を被覆すると共に、厚さ5nm(0.005μm)の色調が白い硬質炭素層(最上層)を被覆し、3層構造の被覆膜を実施例10の試料として作製した。
厚さ0.02μmの金属Cr層を中間層として被覆後、カーボンカソードを用いてバイアス電圧−400V、アーク電流60Aの条件でアーク放電を行い、厚さ0.1μmの色調が白い硬質炭素層(最下層)を被覆した。その後、実施例1と同様にして、厚さ0.9μmの色調が黒い硬質炭素層(中間層)を被覆すると共に、厚さ5nm(0.005μm)の色調が白い硬質炭素層(最上層)を被覆し、3層構造の被覆膜を実施例10の試料として作製した。
また、実施例10と同様にして、最下層と下層(中間層)の膜厚を表1に示すように異ならせて、3層構造の被覆膜を実施例11〜19の試料として作製した。
(c)従来例1
厚さ5nm(0.005μm)の色調が白い硬質炭素層を最上層として形成しないことを除いては、実施例1と同様にして、厚さ1.0μmの色調が黒い硬質炭素層を被覆し、単層構造の被覆膜を従来例1の試料として作製した。
厚さ5nm(0.005μm)の色調が白い硬質炭素層を最上層として形成しないことを除いては、実施例1と同様にして、厚さ1.0μmの色調が黒い硬質炭素層を被覆し、単層構造の被覆膜を従来例1の試料として作製した。
(d)従来例2
厚さ5nm(0.005μm)の色調が白い硬質炭素層を最上層として形成しないことを除いては、実施例10と同様にして、厚さ0.1μmの色調が白い硬質炭素層と厚さ0.9μmの色調が黒い硬質炭素層を被覆し、2層構造の被覆膜を従来例2の試料として作製した。
厚さ5nm(0.005μm)の色調が白い硬質炭素層を最上層として形成しないことを除いては、実施例10と同様にして、厚さ0.1μmの色調が白い硬質炭素層と厚さ0.9μmの色調が黒い硬質炭素層を被覆し、2層構造の被覆膜を従来例2の試料として作製した。
得られた各試料の表面に、磨き処理を施して、面粗さRaで0.05μmとした後、以下の各評価を行った。
2.被覆膜の評価
(1)π/σ強度比の測定および明視野TEM像の観察
各試料について、各層の膜厚を明視野TEM像で観察し、各硬質炭素層のπ/σ強度比をEELS測定により求めた。結果を表1に示す。
(1)π/σ強度比の測定および明視野TEM像の観察
各試料について、各層の膜厚を明視野TEM像で観察し、各硬質炭素層のπ/σ強度比をEELS測定により求めた。結果を表1に示す。
なお、実施例1、10、および、従来例1、2の各試料を用いて、各被覆膜の基材に対して垂直な断面における明視野TEM像(加速電圧300kV)から各層の膜厚を観察した結果とEELSによりπ/σ強度比を測定した結果について説明する。
実施例1では、色調が黒い下層の硬質炭素層の上に色調が白い硬質炭素層が形成されていることが確認された。そして、表1に示すように、色調が白い最上層の硬質炭素層のπ/σ強度比は0.6であり、色調が黒い下層の硬質炭素層のπ/σ強度比は0.2であった。
次に、実施例10では、最下層である色調が白い硬質炭素層の上に色調が黒い硬質炭素層が形成され、さらに最上層として色調が白い硬質炭素層が形成されていることが確認された。そして、最上層として色調が白い硬質炭素層は他の硬質炭素層よりも色調が白いことが確認された。
そして、表1に示すように、最上層である色調が白い硬質炭素層のπ/σ強度比は0.6であり、中間層である色調が黒い硬質炭素層のπ/σ強度比は0.2であり、最下層である色調が白い硬質炭素層のπ/σ強度比は0.5であった。
一方、従来例1では色調が黒く、π/σ強度比が0.2である硬質炭素層が形成されているのみであり、従来例2では最下層である色調が白く、π/σ強度比が0.5である硬質炭素層とその上層に色調が黒く、π/σ強度比が0.2である硬質炭素層が形成されているが、最上層には色調が白い硬質炭素層が形成されていないことが確認された。
(2)摩擦摩耗試験
次に、各被覆膜に対して、リングオンディスク試験機による摩擦摩耗試験を行った。摩擦摩耗試験試料の摺動面を摺動対象であるFCD600円柱材(直径50mm)に当接させた状態で、当接面に試験開始前に低粘度油0W−16(Mo−DTC添加なし)を1滴滴下し、円柱材を回転数2000rpmで回転させ、220Nの荷重を掛けて焼き付きが発生するまで摺動させ、焼き付き時間を計測した。また、10分試験後の試験片の摩耗深さと摩擦係数を測定した。それらの結果を表2に示す。
次に、各被覆膜に対して、リングオンディスク試験機による摩擦摩耗試験を行った。摩擦摩耗試験試料の摺動面を摺動対象であるFCD600円柱材(直径50mm)に当接させた状態で、当接面に試験開始前に低粘度油0W−16(Mo−DTC添加なし)を1滴滴下し、円柱材を回転数2000rpmで回転させ、220Nの荷重を掛けて焼き付きが発生するまで摺動させ、焼き付き時間を計測した。また、10分試験後の試験片の摩耗深さと摩擦係数を測定した。それらの結果を表2に示す。
表2より、実施例1〜19の被覆膜のうち、硬質炭素層の各層厚さおよびπ/σ強度比が適切に設定された被覆膜は優れた低摩擦性、耐摩耗性、耐焼き付き性を示すことが判明した。
なお、実施例1〜19のうちには、10分後の摩耗量が最上層の厚みを超えた実験結果も見られたが、本発明の被覆膜は優れた低摩擦性と耐摩耗性を維持できていた。この理由は定かではないが、摺動試験開始前に最上層の硬質炭素層が本発明の範囲にある色調が白い膜質であることにより、摺動試験中にもその硬質炭素層の膜質が維持されるか、もしくは基材および被覆膜には凹凸を有するため、凸部のみが優先的に摩耗しても凹部には色調が白い硬質炭素層が残存するため優れた低摩擦性と耐摩耗性を維持できていたかのいずれかであると考えられる。
以上、本発明を実施の形態に基づき説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
1 被覆膜
1a 色調が白い硬質炭素層
1b 色調が黒い硬質炭素層
1c 色調が白い硬質炭素層
11 炉
12 真空チャンバー
13 ヒーター
14 公転治具(基材支持装置)
15 熱電対
21 基材
T ターゲット
1a 色調が白い硬質炭素層
1b 色調が黒い硬質炭素層
1c 色調が白い硬質炭素層
11 炉
12 真空チャンバー
13 ヒーター
14 公転治具(基材支持装置)
15 熱電対
21 基材
T ターゲット
Claims (9)
- 基材の表面に被覆される被覆膜であって、
断面を明視野TEM像により観察したとき、少なくとも2つの層からなる硬質炭素層が形成されており、最上層の硬質炭素層は、直下に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層であることを特徴とする被覆膜。 - 前記最上層の硬質炭素層の厚さが、1〜20nmであることを特徴とする請求項1に記載の被覆膜。
- 前記最上層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.4〜0.9であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の被覆膜。
- 基材の表面に被覆される被覆膜であって、
断面を明視野TEM像により観察したとき、少なくとも3つの層からなる硬質炭素層が形成されており、最上層の硬質炭素層と最下層の硬質炭素層とは、中間に形成されている硬質炭素層よりも色調が白い硬質炭素層であることを特徴とする被覆膜。 - 前記最上層の硬質炭素層の厚さが、1〜20nmであることを特徴とする請求項4に記載の被覆膜。
- 前記最上層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.4〜0.9であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の被覆膜。
- 前記最下層の被覆層厚さが、5〜200nmであることを特徴とする請求項4ないし請求項6のいずれか1項に記載の被覆膜。
- 前記最下層の硬質炭素層のπ/σ強度比が、0.3〜0.8であることを特徴とする請求項4ないし請求項7のいずれか1項に記載の被覆膜。
- 前記最上層の硬質炭素層の色調が、他のいずれの硬質炭素層よりも白いことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の被覆膜。
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JP2007169698A (ja) * | 2005-12-21 | 2007-07-05 | Riken Corp | 非晶質硬質炭素皮膜 |
WO2016042629A1 (ja) * | 2014-09-17 | 2016-03-24 | 日本アイ・ティ・エフ株式会社 | 被覆膜とその製造方法およびpvd装置 |
-
2017
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