JP2018172487A - プリプレグ及びその製造方法、並びに繊維強化複合材料 - Google Patents

プリプレグ及びその製造方法、並びに繊維強化複合材料 Download PDF

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Abstract

【課題】 優れた耐衝撃性と繊維層の靭性とを兼ね備えた繊維複合材料を提供する。【解決手段】 強化繊維基材と、前記強化繊維基材内に含浸された熱硬化性樹脂組成物と、から成る樹脂含浸繊維層(I)と、粒子状物質を含む粒子含有樹脂組成物から成り、前記樹脂含浸繊維層(I)の片面又は両面に形成された粒子含有樹脂層(II)と、熱硬化性樹脂組成物から成り、前記粒子含有樹脂層(II)の表面に形成された樹脂被覆層(III)と、から成るプリプレグであって、樹脂含浸繊維層(I)中の強化繊維の平均繊維径(r)と平均繊維間距離(d)とが、次式 0.04 ≦ d/r ≦ 0.25を満たすことを特徴とするプリプレグを用いて繊維強化複合材料を作製する。

Description

本発明は、プリプレグ及びその製造方法、並びに繊維強化複合材料に関する。更に詳述すれば、破壊靱性に優れた繊維強化複合材料を製造することができるプリプレグ及びその製造方法に関する。
強化繊維と樹脂とからなる繊維強化複合材料は、軽量、高強度、高弾性率等の特長を有し、航空機、スポーツ・レジャー、一般産業に広く応用されている。この繊維強化複合材料は、強化繊維と、マトリクス樹脂と呼ばれる樹脂と、が予め一体化されているプリプレグを経由して製造されることが多い。
強化繊維とマトリクス樹脂からなるプリプレグを成形して製造される繊維強化複合材料は、不均一材料である。通常、繊維強化複合材料において、強化繊維の配列方向の物性と、それ以外の方向の物性とには、大きな相違がある。
例えば、落錘衝撃に対する抵抗性を示す尺度になる耐衝撃性は、層間の板端剥離強度等で定量される層間剥離強度によって支配される。従って、強化繊維の強度を向上させるのみでは、繊維強化複合材料の物性の抜本的な改良に結びつかないことが知られている。特に、熱硬化性樹脂は靭性が低い。従って、熱硬化性樹脂をマトリクス樹脂とする繊維強化複合材料は、マトリクス樹脂の低い靭性を反映し、強化繊維の配列方向以外から加えられる応力に対し、破壊され易い。この問題を解決するため、強化繊維の配列方向以外から加えられる応力に対応できることを可能とする種々の技術が提案されている。
それらの一つとして、プリプレグの表面領域に、樹脂粒子が分散する樹脂層を設けたプリプレグが提案されている。具体的には、ナイロン等の熱可塑性樹脂粒子を分散させた樹脂層をその表面領域に設けたプリプレグを用いることにより、靭性に優れた樹脂層を形成し、繊維強化複合材料の耐衝撃性を改善することが提案されている(特許文献1参照)。
また、特許文献2には、ポリスルホンオリゴマーを添加することにより靭性が改良された樹脂組成物と、熱硬化性樹脂粒子と、の組み合わせによって、製造される複合材料に高度の靭性を発現させる技術が提案されている。
しかし、これらの技術を用いた場合、含浸時に樹脂粒子が強く押圧される結果、樹脂粒子が変形したり、繊維層の繊維間距離が小さくなったりする場合があった。そのため、繊維層における均一性が低下し、繊維強化複合材料の機械物性が不十分なものとなっていた。
また、プリプレグの表面領域に樹脂粒子が存在すると、プリプレグのタック性が低下する傾向があった。
このように、優れたタック性を有するプリプレグであって、優れた機械物性を備える繊維強化複合材料を製造することができるプリプレグは従来存在しない。
特開平7−41575号公報 特開平3−26750号公報
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解決し、優れたタック性を有するプリプレグであって、優れた機械物性を備える繊維強化複合材料を製造することができるプリプレグ及びその製造方法を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討した結果、粒子状物質を含有するプリプレグの製造にあたって、粒子状物質を含む樹脂組成物を、粒子状物質を含まない樹脂組成物の層を介して強化繊維基材内に含浸し、これらを一体化することにより製造されるプリプレグは、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記課題を達成する本発明は、以下に記載のものである。
〔1〕 強化繊維基材と、前記強化繊維基材内に含浸された熱硬化性樹脂組成物と、から成る樹脂含浸繊維層(I)と、
粒子状物質を含む粒子含有樹脂組成物から成り、前記樹脂含浸繊維層(I)の片面又は両面に形成された粒子含有樹脂層(II)と、
熱硬化性樹脂組成物から成り、前記粒子含有樹脂層(II)の表面に形成された樹脂被覆層(III)と、
から成るプリプレグであって、
樹脂含浸繊維層(I)中の強化繊維の平均繊維径(r)と平均繊維間距離(d)とが下記式(1)
0.04 ≦ d/r ≦ 0.25 ・・・式(1)
を満たすことを特徴とするプリプレグ。
上記〔1〕に記載の発明は、樹脂含浸繊維層(I)、粒子含有樹脂層(II)、及び樹脂被覆層(III)の少なくとも3層以上の積層構造を有するプリプレグである。このプリプレグの樹脂含浸繊維層(I)中の強化繊維の平均繊維径(r)と平均繊維間距離(d)とは式(1)の関係を満たす。即ち、強化繊維基材を構成する強化繊維の繊維間距離が所定の範囲内にある。このプリプレグは、含浸操作を経て製造されており、かつ該含浸操作によって強化繊維基材の繊維間距離が所定の範囲で確保されているプリプレグである。
〔2〕 前記粒子状物質のレーザー回折法により測定される平均粒子径が、前記平均繊維間距離(d)に対して2〜1400倍である〔1〕に記載のプリプレグ。
上記〔2〕に記載の発明は、粒子状物質の平均粒子径が平均繊維間距離(d)に対して2〜1400倍であるプリプレグである。このプリプレグを積層して作製する繊維強化複合材料は、所定の大きさの粒子状物質が強化繊維層の層間に存在するため、耐衝撃性が特に優れる(以下、強化繊維層の層間に存在する粒子状物質を「層間粒子」ともいう)。
〔3〕 前記粒子状物質の含有量が、プリプレグに含まれる全樹脂組成物の質量に対して5〜60質量%である〔1〕に記載のプリプレグ。
上記〔3〕に記載の発明は、プリプレグにおける粒子状物質の含有量が、プリプレグに含まれる全樹脂組成物の質量に対して5〜60質量%であるプリプレグである。このプリプレグを積層して作製する繊維強化複合材料は、強化繊維層の層間に所定量の層間粒子が存在するため、耐衝撃性が特に優れる。
〔4〕 繊維間距離の変動係数が15%以下である〔1〕に記載のプリプレグ。
上記〔4〕に記載の発明は、繊維間距離の変動係数が小さいプリプレグである。本発明のプリプレグは、その製造工程において、強化繊維基材内に樹脂が含浸されて製造されている。上記〔4〕に記載の発明は、該含浸によって繊維強化基材の一部が潰れるような変形が実質的に生じていないプリプレグである。
〔5〕 前記樹脂被覆層(III)を構成する熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂と該熱硬化性樹脂100質量部に対して10〜50質量部の熱可塑性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物である〔1〕に記載のプリプレグ。
上記〔5〕に記載の発明は、樹脂被覆層(III)が所定量の熱可塑性樹脂により改質されているため、タック性が優れる。また、所定量の熱可塑性樹脂を含有しており粘度が高いため、粒子含有樹脂層(II)への沈み込みが抑制され、プリプレグのタック性が保持される。
〔6〕 前記樹脂被覆層(III)を構成する熱硬化性樹脂組成物の100℃における粘度が、1〜1000Pa・sである〔1〕に記載のプリプレグ。
上記〔6〕に記載の発明は、樹脂被覆層(III)が所定の粘度を有するため、樹脂被覆層(III)が粒子含有樹脂層(II)に沈み込むことが抑制され、プリプレグのタック性が保持される。
〔7〕 前記強化繊維基材が、炭素繊維から成る強化繊維基材である〔1〕に記載のプリプレグ。
〔8〕 強化繊維基材の片面又は両面に、熱硬化性樹脂と粒子状物質とを含む粒子含有樹脂組成物から成る樹脂フィルム(A)を積重し、
次いで、樹脂フィルム(A)の表面に、熱硬化性樹脂組成物から成る樹脂フィルム(B)を積重し、
前記樹脂フィルム(B)を介して前記樹脂フィルム(A)を含浸圧力1〜50kN/cmで加圧することを特徴とするプリプレグの製造方法。
上記〔8〕に記載の発明は、〔1〕に記載のプリプレグの製造方法である。このプリプレグの製造方法は、粒子状物質を含む樹脂組成物から成る樹脂フィルム(A)を、粒子状物質を含まない樹脂組成物から成る樹脂フィルム(B)を介して含浸圧力1〜50kN/cmという低い圧力で加圧する。これにより、樹脂フィルム(A)を構成する粒子含有樹脂組成物のうち、粒子状物質を除いた樹脂組成物を強化繊維基材内に含浸するとともに、粒子状物質を強化繊維基材の表面に偏在させる。このプリプレグの製造方法は、含浸時に加圧ローラー等の加圧部材が粒子状物質に直接接触せず、樹脂フィルム(B)を介して低い圧力で加圧されるため、粒子状物質の変形や強化繊維基材の繊維間距離が小さくなることを抑制できる。
〔9〕 〔8〕に記載のプリプレグの製造方法であって、
前記樹脂フィルム(A)を構成する粒子含有樹脂組成物の100℃における粘度が、10〜1000Pa・sであるプリプレグの製造方法。
上記〔9〕に記載の発明は、所定の粘度を有するため、樹脂被覆層(III)が粒子含有樹脂層(II)に沈み込むことが抑制され、プリプレグのタック性が保持される。
〔10〕 強化繊維基材と熱硬化性樹脂とを含んで成り、強化繊維基材同士の層間に粒子状物質が存在する繊維強化複合材料であって、
前記強化繊維基材の任意の断面における繊維間距離の変動係数が15%以下であることを特徴とする繊維強化複合材料。
上記〔10〕に記載の発明は、本発明のプリプレグを用いて作製される繊維強化複合材料である。この繊維強化複合材料は、繊維間距離の変動係数が15%以下であるため、強化繊維の各単繊維にかかる応力を略均一に分散することができる。
本発明のプリプレグは、樹脂含浸繊維層(I)の表面に粒子含有樹脂層(II)が形成されている。そのため、このプリプレグを積層して作製する繊維強化複合材料は、強化繊維基材の層間に粒子状物質が層間粒子として分散する。この層間粒子は、繊維強化複合材料が受ける衝撃の伝播を抑制する。その結果、繊維強化複合材料の耐衝撃性が向上する。
本発明のプリプレグは、粒子状物質を含まない樹脂被覆層(III)を有するため、優れたタック性を有する。
本発明のプリプレグは、粒子状物質を含む樹脂フィルム(A)が樹脂フィルム(B)を介して加圧含浸されるので、粒子状物質と加圧部材とが直接接触し難い。そのため、粒子状物質の変形が抑制される。その結果、このプリプレグを積層して作製される繊維強化複合材料は、層間粒子の機能が高く発現される。
本発明のプリプレグは、粒子状物質を含む樹脂フィルム(A)が樹脂フィルム(B)を介して加圧含浸されるので、粒子状物質と加圧部材とが直接接触し難い。そのため、粒子状物質が強化繊維基材内に押し込まれることによる強化繊維基材の変形が抑制される。即ち、強化繊維基材の繊維間距離が十分に確保される。その結果、このプリプレグを用いて作製する繊維強化複合材料は、強化繊維の各単繊維にかかる応力を均一に分散することができるため、高い耐衝撃性を発現することができる。
図1は、本発明のプリプレグの一例を示す概略断面図である。 図2は、本発明のプリプレグの製造過程の一例を示す概念図である。
以下、本発明のプリプレグ、その製造方法、及び繊維強化複合材料の詳細について説明する。
1. プリプレグ
本発明のプリプレグは、強化繊維基材と、前記強化繊維基材内に含浸された熱硬化性樹脂組成物と、から成る樹脂含浸繊維層(I)と;
粒子状物質を含む粒子含有樹脂組成物から成り、前記樹脂含浸繊維層(I)の片面又は両面に形成された粒子含有樹脂層(II)と;
熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物から成り、前記粒子含有樹脂層(II)の表面に形成された樹脂被覆層(III)とから成る。
図1は、本プリプレグの一例を示す概略断面図である。図1中、100は本発明のプリプレグであり、10は樹脂含浸繊維層(I)である。樹脂含浸繊維層(I)10は、強化繊維基材11とこの強化繊維基材内に含浸している熱硬化性樹脂組成物13とから構成されている。樹脂含浸繊維層(I)10の片面又は両面(図1においては片面)には、粒子含有樹脂層(II)20が形成されている。粒子含有樹脂層(II)20は、粒子状物質21と熱硬化性樹脂組成物23とを含む粒子含有樹脂組成物から構成されている。粒子含有樹脂層(II)20の表面には、樹脂被覆層(III)30が形成されている。樹脂被覆層(III)30は、熱硬化性樹脂を含む樹脂組成物31から形成されている。
これらの樹脂含浸繊維層(I)10と、粒子含有樹脂層(II)20と、樹脂被覆層(III)30と、はこの順に積層されて一体化されている。
本発明のプリプレグは、強化繊維基材全体に樹脂が含浸されたプリプレグである。プリプレグの吸水率は5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましく、3%以下であることが特に好ましい。吸水率の下限値は一般に0.5%以上であることが好ましく、1%以上であることがより好ましい。本発明において吸水率は、プリプレグ中の空隙率を示す指標であり、吸水率が高いほどプリプレグ中の空隙率が高いことを示す。吸水率が高い場合、プリプレグ中に空隙が多いため、成形時の取扱い性が悪化する。また、製造される繊維強化複合材料に空隙が残りやすいため、その機械物性に悪影響を及す場合がある。吸水率が低い場合、プリプレグ中の空隙が少ないため、ドレープ性が低くなる。そのため、良好な成形加工性(形状追従性)が得られなくなる場合がある。なお、吸水率の測定方法は後述する。
プリプレグ全体における樹脂の含有率は、プリプレグの全質量を基準として、15〜60質量%であることが好ましい。樹脂含有率が15質量%未満である場合、得られる繊維強化複合材料に空隙などが発生し、機械物性を低下させる場合がある。樹脂含有率が60質量%を超える場合、強化繊維による補強効果が不十分となり、実質的に質量対比機械物性が低いものになる場合がある。樹脂含有率は、20〜55質量%であることが好ましく、25〜50質量%であることがより好ましい。
プリプレグ全体における粒子状物質の含有率は、プリプレグに含まれる全樹脂組成物の質量に対して5〜60質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。5質量%未満である場合、層間粒子が不足し、このプリプレグを積層して作製する繊維強化複合材料の耐衝撃性が不十分になり易い。60質量%を超える場合、このプリプレグを積層して作製する繊維強化複合材料にボイドが形成され易い。また、粒子状物質の含有量は、プリプレグ全質量に対して、1〜10質量%であることが好ましく、2〜5質量%であることがより好ましい。
(1)樹脂含浸繊維層(I)
樹脂含浸繊維層(I)は、強化繊維基材と、前記強化繊維基材内に含浸された熱硬化性樹脂組成物と、から成る。樹脂含浸層の厚み、平均繊維間距離は後述の方法でプリプレグを硬化し測定される。
樹脂含浸繊維層(I)の厚みは100〜180μmであることが好ましく、120〜160μmであることがより好ましい。100μm未満である場合、成型後の繊維層厚み薄くなり、引張強度が低下する。180μmを超える場合、成型後の樹脂粒子層の厚みが薄くなり、耐衝撃性が低下する。
樹脂含浸繊維層(I)における樹脂含有率は、5〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。5質量%未満である場合、樹脂の未含浸部分が形成され易い。30質量%を超える場合、プリプレグの柔軟性(ドレープ性)が低下し易い。
樹脂含浸繊維層(I)における強化繊維の平均繊維径(r)と平均繊維間距離(d)とは、下記式(1)
0.04 ≦ d/r ≦ 0.25 ・・・式(1)
を満たす。ここで、下限値は0.08であることが好ましく、0.13であることがより好ましい。上限値は、0.24であることが好ましく、0.20であることがより好ましい。
0.04〜0.25であれば、単繊維同士が接触している比率が低く、単繊維間にマトリクス樹脂が十分に浸透した状態となる。そのため、強化繊維の単繊維表面とマトリクス樹脂との接着面が多くなる。その結果、このプリプレグを用いて作製される繊維強化複合材料に応力がかかった時に、マトリクス樹脂から伝達される応力を各単繊維に均一に分散することができる。したがって、繊維強化複合材料の機械物性を高くすることができる。0.04未満である場合、強化繊維の含有量が少な過ぎるため、このプリプレグを用いて作製する繊維強化複合材料の機械物性が不十分となる。0.25を超える場合、単繊維同士の接触が多く、このプリプレグを用いて作製する繊維強化複合材料は、強化繊維の各単繊維にかかる応力を均一に分散することができない。
なお、本発明において繊維間距離とは、単一の強化繊維基材層内において最も近接する繊維同士の距離を意味し、隣接する強化繊維層との距離を意味するものではない。
樹脂含浸繊維層(I)における強化繊維の平均繊維間距離(d)は、0.4〜1.2μmであることが好ましく、0.65〜1.0μmであることがより好ましい。
樹脂含浸繊維層(I)における強化繊維の平均繊維径(r)は、4〜20μmであることが好ましく、5〜10μmであることがより好ましい。
樹脂含浸繊維層(I)における強化繊維の繊維間距離の変動係数は15%以下であることが好ましく、14%以下であることがより好ましく、13%以下であることが特に好ましい。15%を超える場合、繊維間距離のばらつきが大きく、このプリプレグを用いて作製する繊維強化複合材料は、強化繊維の各単繊維にかかる応力を均一に分散することができない。変動係数の下限値は小さいほど好ましいが、一般に0.1%以上である。
なお、強化繊維の繊維間距離の変動係数を小さくするには、繊維間距離の変動係数が小さい強化繊維基材を用いて、該繊維間距離をできるだけ変動させず(特に、局所的な変動を生じないように)に樹脂を含浸することが求められる。
(1−1)強化繊維基材
本発明で用いる強化繊維基材としては、特に制限はなく、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、炭化ケイ素繊維、ポリエステル繊維、セラミック繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、金属繊維、鉱物繊維、岩石繊維及びスラッグ繊維などが挙げられる。
これらの強化繊維の中でも、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維が好ましい。比強度、比弾性率が良好で、軽量かつ高強度の繊維強化複合材料が得られる点で、炭素繊維がより好ましい。引張強度に優れる点でポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維が特に好ましい。
強化繊維にPAN系炭素繊維を用いる場合、その引張弾性率は、100〜600GPaであることが好ましく、200〜500GPaであることがより好ましく、230〜450GPaであることが特に好ましい。また、引張強度は、2000〜10000MPaであることが好ましく、3000〜8000MPaであることがより好ましい。炭素繊維の直径は、4〜20μmが好ましく、5〜10μmがより好ましい。このような炭素繊維を用いることにより、得られる繊維強化複合材料の機械的性質を向上できる。
強化繊維はシート状に形成して用いることが好ましい。強化繊維シートとしては、例えば、多数本の強化繊維を一方向に引き揃えたシートや、平織や綾織などの二方向織物、多軸織物、不織布、マット、ニット、組紐、強化繊維を抄紙した紙を挙げることができる。これらの中でも、強化繊維を連続繊維としてシート状に形成した一方向引揃えシートや二方向織物、多軸織物基材を用いると、より機械物性に優れた繊維強化複合材料が得られるため好ましい。シート状の強化繊維基材の厚さは、0.01〜3mmが好ましく、0.1〜1.5mmがより好ましい。また、シート状の強化繊維基材の目付は、5〜3000g/mが好ましい。
(1−2)樹脂含浸繊維層(I)を構成する熱硬化性樹脂組成物
本発明において、樹脂含浸繊維層(I)を構成する熱硬化性樹脂組成物は、特に制限はなく、耐熱性及び機械物性の観点から、熱により架橋反応が進行して、少なくとも部分的に三次元架橋構造を形成する熱硬化性樹脂を含むことが好ましい。
かかる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ビスマレイミド樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂及びポリイミド樹脂等が挙げられる。更に、これらの変性体及び2種類以上のブレンド樹脂なども用いることもできる。これらの熱硬化性樹脂は、加熱により自己硬化するものであっても良いし、硬化剤や硬化促進剤などを配合することにより硬化する樹脂であっても良い。
これらの熱硬化性樹脂の中でも、耐熱性、力学特性及び炭素繊維との接着性のバランスに優れているエポキシ樹脂やビスマレイミド樹脂が好ましく、力学特性の面からはエポキシ樹脂がより好ましく、耐熱性の面からはビスマレイミド樹脂がより好ましい。
エポキシ樹脂としては、特に制限はないが、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ヒドロフタル酸型エポキシ樹脂、ダイマー酸型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂のような2官能エポキシ樹脂;テトラキス(グリシジルオキシフェニル)エタン、トリス(グリシジルオキシフェニル)メタンのようなグリシジルエーテル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルジアミノジフェニルメタンのようなグリシジルアミン型エポキシ樹脂やナフタレン型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂のようなノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。
更には、フェノール型エポキシ樹脂などの多官能エポキシ樹脂等が挙げられる。また更に、ウレタン変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂などの各種変性エポキシ樹脂も用いることができる。
中でも、分子内に芳香族基を有するエポキシ樹脂を用いることが好ましく、グリシジルアミン構造、グリシジルエーテル構造の何れかを有するエポキシ樹脂がより好ましい。また、脂環族エポキシ樹脂も好適に用いることができる。
グリシジルアミン構造を有するエポキシ樹脂としては、N,N,N’,N’−テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,O−トリグリシジル−p−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−m−アミノフェノール、N,N,O−トリグリシジル−3−メチル−4−アミノフェノール、トリグリシジルアミノクレゾールの各種異性体などが例示される。
グリシジルエーテル構造を有するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が例示される。
これらのエポキシ樹脂は、必要に応じて、芳香族環構造などに非反応性置換基を有していても良い。非反応性置換基としては、メチル、エチル、イソプロピルなどのアルキル基、フェニルなどの芳香族基、アルコキシル基、アラルキル基、塩素や臭素などのハロゲン基などが例示される。
これらのエポキシ樹脂は、1種あるいは2種以上を混合して用いても良い。
樹脂含浸繊維層(I)を構成する熱硬化性樹脂組成物には、必要に応じて硬化性樹脂を硬化させる硬化剤が配合されていてもよい。硬化剤としては、硬化性樹脂を硬化させる公知の硬化剤が用いられる。例えば、硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合に使用される硬化剤としては、ジシアンジアミド、芳香族アミン系硬化剤の各種異性体、アミノ安息香酸エステル類が挙げられる。ジシアンジアミドは、プリプレグの保存安定性に優れるため好ましい。また、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン等の芳香族ジアミン化合物及びそれらの非反応性置換基を有する誘導体は、耐熱性の良好な硬化物を与えるという観点から特に好ましい。ここで、非反応性置換基は、エポキシ樹脂の説明において述べた非反応性置換基と同様である。
アミノ安息香酸エステル類としては、トリメチレングリコールジ−p−アミノベンゾエートやネオペンチルグリコールジ−p−アミノベンゾエートが好ましく用いられる。これらを用いて硬化させた複合材料は、ジアミノジフェニルスルホンの各種異性体と比較して耐熱性は劣るが、引張伸度に優れる。そのため、複合材料の用途に応じて、使用する硬化剤の種類は適宜選択される。
熱硬化性樹脂組成物に含まれる硬化剤の量は、少なくともプリプレグに配合されている硬化性樹脂を硬化させるのに適する量である。硬化剤の量は、用いる硬化性樹脂及び硬化剤の種類に応じて適宜調節すればよい。硬化剤の量は、硬化剤・硬化促進剤の有無と添加量、硬化性樹脂との化学反応量論及び組成物の硬化速度などを考慮して、適宜調整する。プリプレグに含まれる硬化性樹脂100質量部に対して、硬化剤を30〜100質量部配合することが好ましく、30〜70質量部配合することがより好ましい。
熱硬化性樹脂組成物として、低粘度の硬化性樹脂が用いられる場合、熱硬化性樹脂組成物に適切な粘度を与えるために、熱可塑性樹脂が配合されていても良い。この熱硬化性樹脂組成物に粘度調節のために配合する熱可塑性樹脂には、最終的に得られる繊維強化複合材料の耐衝撃性を向上させる効果もある。
熱硬化性樹脂組成物に配合される上記熱可塑性樹脂の量は、熱硬化性樹脂組成物に用いられる硬化性樹脂の種類に応じて異なり、熱硬化性樹脂組成物の粘度が後述する適切な値になるように適宜調節すればよい。通常、熱硬化性樹脂組成物に含まれる硬化性樹脂100質量部に対して、熱可塑性樹脂が5〜100質量部配合されることが好ましい。熱硬化性樹脂組成物の好ましい粘度は、80℃におけるその最低粘度が10〜450Poiseであり、より好ましくは最低粘度が50〜400Poiseである。
本発明において、熱硬化性樹脂組成物は、上記成分以外に、本発明の目的・効果を阻害しない限り、必要に応じて、適宜、酸無水物、ルイス酸、ジシアンジアミド(DICY)やイミダゾール類のような塩基性硬化剤、尿素化合物、有機金属塩、硬化促進剤、反応希釈剤、充填剤、酸化防止剤、難燃剤、顔料、導電材、紫外線吸収剤、紫外線反射材、揺変剤、フィラーなどの各種添加剤を含むことができる。
(2)粒子含有樹脂層(II)
粒子含有樹脂層(II)は、粒子状物質を含む粒子含有樹脂組成物から成る。
粒子含有樹脂層(II)の厚みは10〜50μmであることが好ましく、15〜40μmであることがより好ましい。10μm未満である場合、耐衝撃性を十分に向上させることが困難となる場合がある。50μmを超える場合、プリプレグの樹脂含有率が低下したり、ドレープ性が低下したりする場合がある。
粒子含有樹脂層(II)に含まれる粒子状物質の平均粒子径は、1〜50μmであることも好ましく、5〜40μmであることがより好ましく、10〜30μmであることがさらに好ましい。
粒子含有樹脂層(II)に含まれる粒子状物質のレーザー回折法により測定される平均粒子径は、平均繊維間距離(d)に対して2〜1400倍であることが好ましく、5〜125倍であることがより好ましい。この範囲の平均粒子径を有する粒子状物質は、樹脂組成物に混合して強化繊維基材内に含浸させる際に、強化繊維基材を形成する強化繊維の単繊維間に入り込み難い。そのため、強化繊維基材の表面に残留する。したがって、この範囲の平均粒子径を有する粒子状物質を含む樹脂組成物を、強化繊維基材内に含浸させることで、粒子状物質を強化繊維基材の表面に配置することができる。2倍未満の場合、強化繊維基材内に粒子状物質が埋没し易い。一方、粒子状物質の粒子径が大きいほど、単位質量当たりの表面積が小さくなる。そのため、高い耐衝撃性向上効果を期待する場合、粒子状物質の平均粒子径は、平均繊維間距離(d)に対して1400倍以下であることが好ましい。
(2−1)粒子含有樹脂層(II)を構成する粒子含有樹脂組成物
本発明において、粒子含有樹脂層(II)を構成する粒子含有樹脂組成物は、上記の熱硬化性樹脂組成物に粒子状物質を含有して成る。粒子状物質としては、繊維強化複合材料に付与する特性に応じて適宜選択されるが、例えば以下に説明する物質が用いられる。
本発明で用いられる粒子状物質としては、熱可塑性樹脂粒子、熱硬化性樹脂粒子、エラストマ粒子、無機粒子、黒鉛粒子、金属粒子などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、マトリクス樹脂に溶解しない熱可塑性樹脂である場合にはマトリクス樹脂との接着性に優れる熱可塑性樹脂が、マトリクス樹脂に溶解する熱可塑性樹脂である場合はマトリクス樹脂に相溶する特性を有する熱可塑性樹脂が、繊維層の靭性向上の観点で好ましい。
熱可塑性樹脂粒子としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリベンズイミダゾール、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート等の粒子が例示される。これらの中でも、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミドは、靭性及び耐熱性が高いため好ましい。これらの熱可塑性樹脂粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。また、上記の熱可塑性樹脂を共重合した共重合体の粒子を用いても良い。
また、熱可塑性樹脂粒子としては、特に制限はないが、繊維強化複合材料を成形する温度又はそれ以下の温度において、マトリクス樹脂に実質的に溶解しないマトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂からなる粒子が好ましい。マトリクス樹脂に実質的に溶解しないとは、繊維強化複合材料を成形する温度において、樹脂粒子をマトリクス樹脂中に投入して攪拌した際に、粒子の大きさが変化しない熱可塑性樹脂をいい、具体的には、マトリクス樹脂100質量部に対して、平均粒子径が10〜50μmの熱可塑性樹脂10質量部を混合して200℃で1時間撹拌した際に、粒子の大きさが10%以上変化しない熱可塑性樹脂をいう。なお、一般的に、繊維強化複合材料を成形する温度は100〜200℃である。また、粒子径は、顕微鏡によって目視で測定され、平均粒子径とは、無作為に選択した100個の粒子の粒子径の平均値を意味する。
マトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、マトリクス樹脂不溶性熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルニトリル、ポリベンズイミダゾールが例示される。これらの中でも、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミドは、靭性及び耐熱性が高いため好ましい。ポリアミドやポリイミドは、繊維強化複合材料に対する靭性向上効果が特に優れている。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。また、これらの共重合体を用いることもできる。
特に、非晶性ポリイミドや、ポリアミド6(カプロラクタムの開環重縮合反応により得られるポリアミド)、ポリアミド12(ラウリルラクタムの開環重縮合反応により得られるポリアミド)などの結晶性ポリアミド、非晶性ポリアミドを使用することにより、得られる繊維強化複合材料の耐熱性を特に向上させることができる。
熱硬化性樹脂粒子としては、例えば、エポキシ樹脂粒子、ビニルエステル樹脂粒子、アクリル樹脂粒子、フェノール樹脂粒子、マレイミド樹脂粒子が挙げられる。
エラストマ粒子としては、熱硬化性エラストマ粒子、熱可塑性エラストマ粒子が挙げられる。熱可塑性エラストマ粒子が繊維層の靭性も向上させ易いため好ましい。熱可塑性エラストマ粒子としては、ポリスチレン系エラストマ、ポリオレフィン系エラストマ、塩化ビニル系エラストマ、ポリウレタン系エラストマ、ポリエステル系エラストマ、ポリアミド系エラストマ、ポリブタジエン系エラストマなどの粒子が挙げられる。
無機粒子としては、金属酸化物粒子、鉱物粒子などが挙げられる。金属酸化物としては、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化セリウム、酸化マグネシウム、酸化鉄、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化錫、フッ素ドープ酸化スズなどが挙げられる。鉱物としては、モンモリロナイト、タルク、マイカ、ベーマイト、カオリン、スメクタイト、ゾノライト、バーキュライト、セリサイトなどの粘土鉱物が挙げられる。金属粒子としては、金、銀、銅、白金、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、鉄、スズ、鉛等が挙げられる。特に好ましいのは金、銀、銅、白金、ニッケルである。
これらの粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用しても良い。
粒子状物質の形状は特に制限はなく、球状、多角柱状、立方体状、棒状、繊維状等の一定の形状を有する粒子、破砕物の様に特定の形状を持たない不定形粒子等の任意の形状が採用できる。これらの中でも、球状、不定形状、繊維状であることが好ましく、球状であることがより好ましい。
樹脂含浸繊維層(I)に含まれる熱硬化性樹脂組成物の組成と、粒子含有樹脂層(II)に含まれる熱硬化性樹脂組成物の組成とは、粒子状物質の有無を除いて同一であることが好ましい。
(3)樹脂被覆層(III)
樹脂被覆層(III)は、熱硬化性樹脂組成物から成る。
樹脂被覆層(III)の厚みは4〜15μmであることが好ましく、5〜10μmであることがより好ましい。5μm未満である場合、プリプレグのタック性が低下し易い。また、加圧成形時に粒子含有樹脂層(II)に含まれる粒子状物質が変形し易くなる。さらには、樹脂含浸繊維層(I)を構成する強化繊維基材が変形して、繊維間距離が小さくなり易くなる。10μmを超える場合、プリプレグのドレープ性が低下し易くなる。
(3−1) 樹脂被覆層(III)を構成する熱硬化性樹脂組成物
樹脂被覆層(III)を構成する熱硬化性樹脂組成物は、熱硬化性樹脂と、該熱硬化性樹脂100質量部に対して10〜50質量部の熱可塑性樹脂と、を含む樹脂組成物であることが好ましい。樹脂被覆層(III)を構成する熱硬化性樹脂組成物に含まれる各成分は、上述の成分と同一のものを用いることができる。
熱可塑性樹脂は、樹脂被覆層(III)を改質してタック性を向上させる。また、粒子含有樹脂層(II)に含まれる粒子状物質がプリプレグの表面に移動することを抑制する。
熱可塑性樹脂の含有量が10質量部未満である場合、プリプレグのタック性を向上する効果が小さい。また、樹脂被覆層(III)が低粘度となるため、粒子含有樹脂層(II)に含まれる粒子状物質がプリプレグの表面に移動し、プリプレグのタック性を低下させる場合がある。50質量部を超える場合、プリプレグのドレープ性が低下し易い。
熱可塑性樹脂の含有量の下限値は、15質量部であることが好ましく、20質量部であることがより好ましい。熱可塑性樹脂の含有量の上限値は、40質量部であることが好ましく、35質量部であることがより好ましい。
樹脂被覆層(III)を構成する樹脂組成物の100℃における粘度は、1〜1000Pa・sであることが好ましく、10〜500Pa・sであることがより好ましい。1Pa・s未満である場合、樹脂凝集力が弱いためプリプレグを剥離紙から剥がすときに、樹脂が剥離紙上に残りやすく、作業性が悪くなる。1000Pa・sを超える場合、樹脂粘度が高いため、タック性が低下する。
2. プリプレグの製造方法
本発明のプリプレグの製造方法は、ホットメルト法により製造される。ホットメルト法は、離型紙の上に、樹脂組成物を薄いフィルム状に塗布して樹脂フィルムを形成し、次いで、該樹脂フィルムを離型紙から剥離して強化繊維基材に積層した後、加圧加熱することにより、樹脂組成物を強化繊維基材内に含浸させる方法である。
本発明のプリプレグは、強化繊維基材の片面又は両面に、粒子状物質を含む熱硬化性樹脂組成物から成る樹脂フィルム(A)を積重し、さらに樹脂被覆層(III)を構成する熱硬化性樹脂組成物から成る樹脂フィルム(B)を積重し、この樹脂フィルム(B)を介して樹脂フィルム(A)を強化繊維基材内に含浸することにより製造される。粒子状物質を含む熱硬化性樹脂組成物から成る樹脂フィルム(A)は、強化繊維基材に積層されて加圧加熱されることにより、粒子状物質が強化繊維基材の表面に配置される。即ち、樹脂フィルム(A)を構成する樹脂組成物のうち、粒子状物質を除く熱硬化性樹脂組成物が強化繊維基材内に含浸されて樹脂含浸繊維層(I)が強化繊維基材内に形成される。また、樹脂フィルム(A)を構成する樹脂組成物のうち、粒子状物質を含む熱硬化性樹脂組成物が強化繊維基材の表面に配置されて粒子含有樹脂層(II)が強化繊維基材の表面に形成される。さらに、粒子含有樹脂層(II)の表面には、樹脂フィルム(B)を構成する熱硬化性樹脂組成物から成る樹脂被覆層(III)が形成される。したがって、樹脂フィルム(A)は、含浸操作を経ることにより、樹脂含浸繊維層(I)及び粒子含有樹脂層(II)を形成する。
樹脂フィルム(A)の目付は20〜45g/mが好ましく、樹脂フィルム(B)の目付は2〜15g/mが好ましい。樹脂フィルム(A)と樹脂フィルム(B)の目付の比が2:1〜9:1の範囲とすることが好ましい。フィルム目付をこの範囲とすることで、プリプレグの各層の厚み、平均繊維間距離を所望の範囲としやすい。
図2は、本プリプレグの製造過程の一例を示す概略断面図である。なお、図中のハッチングは、樹脂を表す。図2(a)中、40は強化繊維基材層であり、41は強化繊維である。50は樹脂フィルム(A)であり、51は粒子状物質、53は熱硬化性樹脂組成物である。60は樹脂フィルム(B)であり、61は樹脂組成物である。樹脂フィルム(A)50は強化繊維基材40に積層され、樹脂フィルム(B)60は樹脂フィルム(A)50の表面に積層される(図2(b))。該積層後、樹脂フィルム(B)60を介して樹脂フィルム(A)50が強化繊維基材40内に加圧含浸され、本発明のプリプレグが製造される(図2(c))。
なお、樹脂フィルム(A)50が強化繊維基材40内に含浸された後に、その表面に樹脂フィルム(B)60を積層する製造方法は、本発明の製造方法ではない。
各樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いてもよい。例えば、エポキシ樹脂を使用する場合は、樹脂組成物製造時に適用される混練温度としては、10〜160℃の範囲が例示できる。160℃を超える場合は、エポキシ樹脂の熱劣化や、部分的に硬化反応が開始し、得られる樹脂組成物並びにそれを用いて製造されるプリプレグの保存安定性が低下する場合がある。10℃より低い場合は、エポキシ樹脂組成物の粘度が高く、実質的に混練が困難となる場合がある。好ましくは20〜130℃であり、更に好ましくは30〜110℃の範囲である。
混練機械装置としては、従来公知のものを用いることができる。具体的な例としては、ロールミル、プラネタリーミキサー、ニーダー、エクストルーダー、バンバリーミキサー、攪拌翼を供えた混合容器、横型混合槽などが挙げられる。各成分の混練は、大気中又は不活性ガス雰囲気下で行うことができる。大気中で混練が行われる場合は、温度、湿度管理された雰囲気が好ましい。特に限定されるものではないが、例えば、30℃以下の一定温度に管理された温度や、相対湿度50%RH以下の低湿度雰囲気で混練することが好ましい。
各樹脂組成物を樹脂フィルムにする方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知のいずれの方法を用いることもできる。具体的には、ダイ押し出し、アプリケーター、リバースロールコーター、コンマコーターなどを利用し、離型紙、フィルムなどの支持体上に樹脂組成物を流延、キャストをすることにより樹脂フィルムを製造することができる。フィルムを製造する際の樹脂組成物の温度は、樹脂組成や粘度に応じて適宜調整する。具体的には、前述の樹脂組成物の混練温度と同じ温度条件が好適に用いられる。含浸は1回ではなく、複数回に分けて任意の圧力と温度で、多段的に行うこともできる。
樹脂フィルムを強化繊維基材内に含浸させる際の含浸圧力は、1〜50(kN/cm)であり、5〜30(kN/cm)であることが好ましい。この含浸圧力の範囲内で、樹脂フィルムを構成する樹脂組成物の粘度や樹脂フローなどを勘案し、適宜決定する。
なお、本発明のプリプレグは、樹脂被覆層(III)を有する。そのため、樹脂被覆層(III)を有さない従来のプリプレグと比較して、強化繊維基材内に含浸する樹脂組成物における粒子状物質の含有率が相対的に高くなる(粒子状物質の含有率及び樹脂の含有率がそれぞれ同一のプリプレグを作製する場合)。即ち、樹脂フィルム(A)中における粒子状物質の含有率は、プリプレグを構成する全樹脂に対する粒子状物質の含有率よりも高い。したがって、強化繊維基材内に含浸される樹脂組成物の粘度が高くなる傾向があるため、含浸圧力も高くなる傾向がある。含浸圧力が高くなると、含浸操作の際に強化繊維基材の繊維間距離が拡大し易くなる。本発明は、樹脂フィルム(A)を樹脂フィルム(B)を介して加圧するため、含浸圧力を高くしても含浸操作の際に強化繊維基材の繊維間距離が拡大し難い。
樹脂フィルムを強化繊維基材内に含浸させる際の含浸温度は、その樹脂組成物の粘度や樹脂フローなどを勘案し、適宜決定する。
熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、含浸温度は50〜150℃であることが好ましく、60〜145℃であることがより好ましく、70〜140℃であることが特に好ましい。
樹脂フィルム(A)を構成する熱硬化性樹脂組成物の100℃における粘度は、10〜1000Pa・sであることが好ましく、50〜800Pa・sであることがより好ましく、100〜600Pa・sであることが特に好ましい。10Pa・s未満である場合、プリプレグから樹脂が流出し易くなる。1000Pa・sを超える場合、プリプレグに未含浸部分が生じ易くなる。その結果、得られる繊維強化複合材料においてボイド等が形成され易くなる。
上記方法を用いて得られるプリプレグは、目的に応じて積層され、成形及び硬化されて繊維強化複合材料が製造される。
3.繊維強化複合材料
本発明の繊維強化複合材料は、強化繊維基材内に熱硬化性樹脂が含浸されて成り、強化繊維基材の層間に粒子状物質が存在する繊維強化複合材料であって、強化繊維基材の任意の断面における繊維間距離の変動係数が15%以下であることを特徴とする。
強化繊維の繊維間距離の変動係数は、14%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましい。15%を超える場合、繊維間距離のばらつきが大きく、このプリプレグを用いて作製する繊維強化複合材料は、強化繊維の各単繊維にかかる応力を均一に分散することができない。変動係数の下限値は小さいほど好ましいが、一般に0.1%以上である。
なお、強化繊維の繊維間距離の変動係数を小さくするには、繊維間距離の変動係数が小さい強化繊維基材を用いて、該繊維間距離をできるだけ変動させずに(特に、強化繊維基材の表面付近に局所的な変形を生じないように)繊維強化複合材料を作製することが求められる。このような繊維強化複合材料は、プリプレグの製造時の含浸工程において、強化繊維基材が変形されていない本発明のプリプレグを用いて製造することができる。
本発明の繊維強化複合材料は、樹脂含浸繊維層(I)中の強化繊維の平均繊維径(r)と平均繊維間距離(d)とは、下記式(2)
0.04 ≦ d/r ≦ 0.25 ・・・式(2)
を満たすことが好ましい。ここで、下限値は0.08であることが好ましく、0.13であることがより好ましい。上限値は、0.24であることが好ましく、0.20であることがより好ましい。
0.04〜0.25であれば、強化繊維基材の繊維間距離が適切な範囲内にあり、強化繊維の単繊維表面とマトリクス樹脂との接着面が多くなる。その結果、繊維強化複合材料に応力がかかった時に、マトリクス樹脂から伝達される応力を各単繊維に均一に分散することができる。0.04未満である場合、単繊維同士の接触が多く、強化繊維の各単繊維にかかる応力を均一に分散することができない。0.25を超える場合、単繊維同士の接触が多く、強化繊維の各単繊維にかかる応力を均一に分散することができない。
繊維強化複合材料における強化繊維の平均繊維間距離(d)は、0.4〜1.2μmであることが好ましく、0.65〜1.0μmであることがより好ましい。
本発明の繊維強化複合材料における層間粒子の大きさや配合量、樹脂含有率は上記プリプレグにおいて説明したとおりである。
本発明の繊維強化複合材料の製造方法は、特に限定されず、例えば、オートクレーブ成形、プレス成形、樹脂トランスファー成形、フィラメントワインディング成形が挙げられる。本発明の繊維強化複合材料は、本発明のプリプレグを用いて成形することが好ましい。
本発明のプリプレグを用いて本発明の繊維強化複合材料を成形する場合、プリプレグを目的に応じて積層して成形及び硬化させる。プリプレグの積層方法としては、例えば、マニュアルレイアップ、自動テープレイアップ(ATL)、自動繊維配置法などが挙げられる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。本実施例、比較例において使用する成分や試験方法を以下に記載する。
〔成分〕
(エポキシ樹脂)
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂
ハンツマン・ジャパン株式会社製 「アラルダイト MY600」 (以下、MY600)
・グリシジルアミン型エポキシ樹脂
ハンツマン・ジャパン株式会社製 「アラルダイト MY721」 (以下、MY721)
(エポキシ樹脂硬化剤)
・芳香族アミン系硬化剤
3,3’−ジアミノジフェニルスルホン(小西化学工業株式会社製)(以下、3,3’−DDS)
(粒子状物質)
・ポリアミド12(エポキシ樹脂に不溶な熱可塑性樹脂)(ダイセル・エボニック社製 MSP−A6496(以下、PA12)
・ポリエーテルスルホン(エポキシ樹脂に可溶な熱可塑性樹脂)(以下、PES)
住友化学工業株式会社製 「PES−5003P」(平均粒子径15μm)
[評価方法]
(1)平均粒子径(レーザー回折法)
粒子状物質および熱可塑樹脂の平均粒子径は、レーザー回折・散乱式の粒度分析計(マイクロトラック法:MT3300(日機装株式会社製))を用いて、粒度分布の測定を実施し、その50%粒子径(D50)を平均粒子径とした。
(2)タック保持日数
プリプレグを100mm×100mmにカットし、温度25℃、相対湿度50%の恒温恒湿槽に保管後、プリプレグ同士を積層して貼り合わせる。その後、積層したプリプレグを垂直に立てたアルミ板に貼り付けて、積層したプリプレグが剥がれないか評価する。
(3)吸水率
プリプレグを100×100mmにカットし、質量(W)を測定した。その後、デシケーター中でプリプレグを水中に沈めた。デシケーター内を、10kPa以下に減圧し、プリプレグ内部の空気と水を置換させた。プリプレグを水中から取り出し、表面の水を拭き取り、プリプレグの質量(W)を測定した。これらの測定値から下記式
吸水率(%)=[(W−W)/W]×100
:プリプレグの質量(g)
:吸水後のプリプレグの質量(g)
を用いて吸水率を算出した。
(4)繊維間距離
測定試料は、オートクレーブ成形法を用いて製造した。即ち、プリプレグを100mm×100mmの大きさにカットし、積層し、積層構成[0]の積層体を得た。この積層体を、通常のオートクレーブ成形法で成形した。成形条件は、圧力0.49MPaで、温度180℃で、120分間であった。得られた成形物を繊維軸の断面方向にカットし、レーザー顕微鏡(株式会社キーエンス製 VK−8710)を用いて、倍率100倍(視野の大きさ:106μm×142μm)にて樹脂層が視野に入らないように、繊維層を中心に撮影した。その後、旭化成エンジニアリング株式会社の提供する画像解析ソフト(A像くん(商品名))を用いて各繊維間の壁間距離を測定し、繊維間距離及びその変動係数を求めた。
(5)面内せん断(IPS)降伏点強度
測定試料は、オートクレーブ成形法を用いて製造した。即ち、プリプレグをカットし、積層し、積層構成[+45/−45]2Sの積層体を得た。この積層体を、通常のオートクレーブ成形法で成形した。成形条件は、圧力0.49MPaで、温度180℃で、120分間であった。得られた成形物を幅25mm×長さ230mmの大きさに切断し、EN6031に則って測定し、降伏点応力の強度をIPS降伏点強度とした。
(6)層間破壊靭性モードI(GIc)
得られたプリプレグを一辺が30mmの正方形にカットした後、積層し、0°方向に10層積層した積層体を2つ作製した。初期クラックを発生させるために、離型シートを2つの積層体の間に挟み、両者を組み合わせ、積層構成[0]20のプリプレグ積層体を得た。通常の真空オートクレーブ成形法を用い、0.59MPaの圧力下、180℃の条件で2時間成形した。得られた成形物(FRP)を幅 12.7 mm × 長さ 304.8 mmの寸法に切断し、層間破壊靭性モードI(GIc)の試験片を得た。
GIcの試験方法として、双片持ちはり層間破壊靱性試験法(DCB法)を用い、離型シートの先端から12.7mmの予亀裂(初期クラック)を発生させた後に、さらに亀裂を進展させる試験を行った。予亀裂の先端から、亀裂進展長さが127mmに到達した時点で試験を終了させた。試験片引張試験機のクロスヘッドスピードは12.7mm/分とし、n=5で測定を行った。
亀裂進展長さは顕微鏡を用いて試験片の両端面から測定し、荷重、及び亀裂開口変位を計測することにより、GIc算出した。
(実施例1)
前駆体繊維であるPAN繊維(フィラメント数24000)を、空気中250℃で、繊維比重1.35になるまで耐炎化処理を行い、次いで窒素ガス雰囲気下、最高温度650℃で低温炭素化させた。その後、窒素雰囲気下1500℃で高温炭素化させて製造した炭素繊維を、10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用い、40C/gの電気量で電解酸化により表面処理を行い、乾燥して炭素繊維束(引張強度5800MPa、引張弾性率290GPa、フィラメント数24000、平均繊維直径5μm)を得た。その後、炭素繊維束を一方向に引き揃え、炭素繊維基材(目付:190g/m)を作製した。
(A) 50質量部のMY600と、50質量部のMY721と、20質量部のPESと、を混合し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し完全溶解させた後、樹脂温度を80℃以下に冷却した。その後、35質量部の粒子状物質(平均粒子径20μmのPA12)を混練し、さらに硬化剤である3,3’-DDSを45質量部混練して、粒子含有熱硬化性エポキシ樹脂組成物を調製した。
調製した粒子含有熱硬化性エポキシ樹脂組成物をフィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して、40(g/m)の樹脂フィルム(A)を、2枚作製した。
(B) 次いで、100質量部のMY600と、10質量部のPESと、を混合し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し完全溶解させ、エポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物の100℃における粘度は32Pa・sであった。
調製したエポキシ樹脂組成物をフィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して、10(g/m)の樹脂フィルム(B)を2枚作製した。
炭素繊維基材の両面に、樹脂フィルム(A)及び樹脂フィルム(B)をこの順で貼り合わせ、ローラーを用いて温度130℃、含浸線圧30(kN/cm)で加圧及び加熱してプリプレグを得た。このプリプレグの樹脂含有率は35(質量%)であり、タック保持日数は33(日間)、吸水率は2.3(%)であった。得られたプリプレグの平均繊維間距離を表1に示した。
このプリプレグを用いて作製した繊維強化複合材料の繊維間距離は1.1(μm)であり、IPS降伏点強度は87(MPa)であり、GIcは660(J/m)であった。
実施例1のプリプレグは、樹脂フィルム(A)が樹脂フィルム(B)を介して含浸されている。したがって、タック保持日数が高く、このプリプレグを用いて作製する繊維強化複合材料はその機械強度が優れていた。
(実施例2、3)
含浸圧力を表1記載の値に変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを得た。含浸圧力を変更したことで、得られたプリプレグの平均繊維間距離が表1に記載の値に変化したが、いずれも、式(1)の要件を満たすものであった。樹脂フィルム(A)が樹脂フィルム(B)を介して含浸された実施例2,3のプリプレグは、タック保持日数が高く、このプリプレグを用いて作製する繊維強化複合材料はその機械強度が優れていた。
(比較例1)
前駆体繊維であるPAN繊維(フィラメント数24000)を、空気中250℃で、繊維比重1.35になるまで耐炎化処理を行い、次いで窒素ガス雰囲気下、最高温度650℃で低温炭素化させた。その後、窒素雰囲気下1500℃で高温炭素化させて製造した炭素繊維を、10質量%の硫酸アンモニウム水溶液を用い、40C/gの電気量で電解酸化により表面処理を行い、乾燥して炭素繊維束(引張強度5800MPa、引張弾性率290GPa、フィラメント数24000、平均繊維直径5μm)を得た。その後、炭素繊維束を一方向に引き揃え、炭素繊維基材(目付:190g/m)を作製した。
(A) 50質量部のMY600と、50質量部のMY721と、20質量部のPESと、を混合し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し完全溶解させた後、樹脂温度を80℃以下に冷却した。その後、35質量部の粒子状物質(平均粒子径12μmのPA12)を混練し、さらに硬化剤である3,3’-DDSを45質量部混練して、粒子含有熱硬化性エポキシ樹脂組成物を調製した。
調製した粒子含有熱硬化性エポキシ樹脂組成物をフィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して、40(g/m)の樹脂フィルム(A)を、2枚作製した。
(B) 次いで、100質量部のMY600と、10質量部のPESと、を混合し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し完全溶解させ、エポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物の100℃における粘度は32Pa・sであった。
調製したエポキシ樹脂組成物をフィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して、10(g/m)の樹脂フィルム(B)を2枚作製した。
炭素繊維基材の両面に、樹脂フィルム(A)を貼り合わせ、ローラーを用いて温度130℃、含浸線圧30(kN/cm)で加圧及び加熱した後、樹脂フィルム(B)を貼り合わせてプリプレグを得た。このプリプレグの樹脂含有率は35(質量%)であり、タック保持日数は33(日間)、吸水率は1.2(%)、平均繊維間距離(d)は0.5(μm)であった。
このプリプレグを用いて作製した繊維強化複合材料の繊維間距離は0.5(μm)であり、IPS降伏点強度は79(MPa)であり、GIcは560(J/m)であった。
このプリプレグは、粒子状物質を含まない樹脂被覆層を有しているため、タック性が優れていた。しかし、このプリプレグは樹脂フィルム(A)を直接加圧して製造されているため、繊維間距離が小さくなった。その結果、得られる繊維強化複合材料の機械物性が低かった。
(比較例2)
実施例1と同一の炭素繊維基材を作製した。
(A) 50質量部のMY600と、50質量部のMY721と、20質量部のPESと、を混合し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し完全溶解させた後、樹脂温度を80℃以下に冷却した。その後、35質量部の粒子状物質(平均粒子径20μmのPA12)を混練し、さらに硬化剤である3,3’-DDSを45質量部混練して、粒子含有熱硬化性エポキシ樹脂組成物を調製した。
(B) 次いで、100質量部のMY600と、10質量部のPESと、を混合し、120℃で30分間攪拌機を用いて撹拌し完全溶解させ、エポキシ樹脂組成物を調製した。このエポキシ樹脂組成物の100℃における粘度は32Pa・sであった。上記2種類の樹脂組成物を(A):(B)が4:1になるように混合し、樹脂組成物を作製した。
調製した粒子含有熱硬化性エポキシ樹脂組成物をフィルムコーターを用いて離型紙上に塗布して、50(g/m)の樹脂フィルム(A)を2枚作製した。
炭素繊維基材の両面に、樹脂フィルム(A)を貼り合わせ、ローラーを用いて温度130℃、含浸線圧30(kN/cm)で加圧及び加熱してプリプレグを得た。このプリプレグの樹脂含有率は35(質量%)であり、タック保持日数は4(日間)、吸水率は6.8(%)、平均繊維間距離(d)は0.9(μm)であった。
このプリプレグを用いて作製した繊維強化複合材料の繊維間距離は0.9(μm)であり、IPS降伏点強度は85(MPa)であり、GIcは590(J/m)であった。
このプリプレグは、粒子状物質を含まない樹脂被覆層を有していないため、タック性が劣っていた。また、このプリプレグは粒子状物質を含む樹脂フィルムを直接加圧して製造されているため、繊維間距離がやや小さくなった。その結果、得られる繊維強化複合材料の機械物性が低かった。
(比較例3)
含浸圧力を表1記載の値に変更した以外は、実施例1と同様にしてプリプレグを得た。
含浸圧力を高くしたことで、得られたプリプレグの平均繊維間距離が表1に記載のように、式(1)の要件を満たさないものとなった。また、層間粒子に変形が見られた。そのため、このプリプレグを用いて作製する繊維強化複合材料はその機械強度が低いものとなった。
Figure 2018172487
100・・・プリプレグ
10・・・樹脂含浸繊維層(I)
11・・・強化繊維基材
13・・・熱硬化性樹脂組成物
20・・・粒子含有樹脂層(II)
21・・・粒子状物質
23・・・熱硬化性樹脂組成物
30・・・樹脂被覆層(III)
31・・・樹脂組成物
40・・・強化繊維基材層
41・・・強化繊維
50・・・樹脂フィルム(A)
51・・・粒子状物質
53・・・熱硬化性樹脂組成物
60・・・樹脂フィルム(B)
61・・・樹脂組成物

Claims (10)

  1. 強化繊維基材と、前記強化繊維基材内に含浸された熱硬化性樹脂組成物と、から成る樹脂含浸繊維層(I)と、
    粒子状物質を含む粒子含有樹脂組成物から成り、前記樹脂含浸繊維層(I)の片面又は両面に形成された粒子含有樹脂層(II)と、
    熱硬化性樹脂組成物から成り、前記粒子含有樹脂層(II)の表面に形成された樹脂被覆層(III)と、
    から成るプリプレグであって、
    樹脂含浸繊維層(I)中の強化繊維の平均繊維径(r)と平均繊維間距離(d)とが下記式(1)
    0.04 < d/r ≦ 0.25 ・・・式(1)
    を満たすことを特徴とするプリプレグ。
  2. 前記粒子状物質のレーザー回折法により測定される平均粒子径が、前記平均繊維間距離(d)に対して2〜1400倍である請求項1に記載のプリプレグ。
  3. 前記粒子状物質の含有量が、プリプレグに含まれる全樹脂組成物の質量に対して5〜60質量%である請求項1に記載のプリプレグ。
  4. 繊維間距離の変動係数が15%以下である請求項1に記載のプリプレグ。
  5. 前記樹脂被覆層(III)を構成する熱硬化性樹脂組成物が、熱硬化性樹脂と該熱硬化性樹脂100質量部に対して10〜50質量部の熱可塑性樹脂とを含む熱硬化性樹脂組成物である請求項1に記載のプリプレグ。
  6. 前記樹脂被覆層(III)を構成する熱硬化性樹脂組成物の100℃における粘度が、1〜1000Pa・sである請求項1に記載のプリプレグ。
  7. 前記強化繊維基材が、炭素繊維から成る強化繊維基材である請求項1に記載のプリプレグ。
  8. 強化繊維基材の片面又は両面に、熱硬化性樹脂と粒子状物質とを含む粒子含有樹脂組成物から成る樹脂フィルム(A)を積重し、
    次いで、樹脂フィルム(A)の表面に、熱硬化性樹脂組成物から成る樹脂フィルム(B)を積重し、
    前記樹脂フィルム(B)を介して前記樹脂フィルム(A)を含浸圧力1〜50kN/cmで加圧することを特徴とするプリプレグの製造方法。
  9. 請求項8に記載のプリプレグの製造方法であって、
    前記樹脂フィルム(A)を構成する粒子含有樹脂組成物の100℃における粘度が、10〜1000Pa・sであるプリプレグの製造方法。
  10. 強化繊維基材と熱硬化性樹脂とを含んで成り、強化繊維基材同士の層間に粒子状物質が存在する繊維強化複合材料であって、
    前記強化繊維基材の任意の断面における繊維間距離の変動係数が15%以下であることを特徴とする繊維強化複合材料。
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