本発明による原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法では、原子力プラントの炭素鋼部材の、冷却水(炉水)と接する表面(内面)にニッケル金属の膜(ニッケル金属皮膜)を形成してこの表面をニッケル金属で覆い、その後、ニッケル金属皮膜の表面に貴金属を付着させる。このニッケル金属皮膜の形成と貴金属の付着は、原子力プラントの運転停止後で起動前に行う。
原子力プラントの炭素鋼部材の表面がニッケル金属皮膜で覆われるため、炭素鋼部材から皮膜形成水溶液へのFe2+の溶出を防止することができ、炭素鋼部材の表面への貴金属の付着がFe2+の溶出によって阻害されなくなるので、炭素鋼部材の表面への貴金属の付着に要する時間を短縮することができる。
好ましくは、ニッケル金属皮膜の形成は、皮膜形成装置から炭素鋼部材にニッケルイオン及び還元剤を含む水溶液を供給することで、この水溶液を炭素鋼部材の表面に接触させることで行い、貴金属の付着は、皮膜形成装置から炭素鋼部材に貴金属イオン及び還元剤を含む水溶液を供給することで、この水溶液をニッケル金属皮膜の表面に接触させることで行う。
本発明による原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、上述した本発明による原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法で、炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜を形成し、このニッケル金属皮膜の表面に貴金属を付着させた後、酸素を含む200℃以上の水を貴金属が付着したニッケル金属皮膜に接触させて、このニッケル金属皮膜をニッケルフェライト皮膜(NiFe2O4)に変える。
酸素を含む200℃以上の水に接触するニッケル金属皮膜及び炭素鋼部材の腐食電位は、ニッケル金属皮膜に付着している貴金属の作用によって低下する。このように腐食電位が低下することと、酸素を含む200℃以上の水のニッケル金属皮膜への接触によりニッケル金属皮膜及び炭素鋼部材が200℃以上の高温になることにより、水に含まれる酸素のニッケル金属皮膜への移行及び炭素鋼部材からニッケル金属皮膜へのFe2+の移行が促進され、ニッケル金属皮膜がニッケルフェライト皮膜(NiFe2O4)に変換される。このニッケルフェライト皮膜は、付着した貴金属の作用によっても原子力プラントの冷却水中に溶出しない安定な皮膜である。このような安定なニッケルフェライト皮膜で炭素鋼部材の表面を覆うことにより、炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制する効果をより長い期間にわたって持続させることができる。
酸素を含む200℃以上の水には、運転中の原子力プラントの原子炉圧力容器内の冷却水(炉水)を用いてもよい。RPV3内の炉水は定格温度が280℃であるので、酸素を含む水の温度は、200℃以上280℃以下であるのが好ましい。
次に、本発明に至る経緯を説明する。本発明者らは、原子力プラントの炭素鋼製の構成部材(炭素鋼部材)への放射性核種の付着を抑制できる方法について種々の検討を行った。
炭素鋼部材の、炉水と接触する表面にニッケルまたは白金を付着させる場合は、ステンレス鋼製の構成部材の、炉水と接触する表面にニッケルまたは白金を付着させる場合に比べて、その表面に放射性核種が付着するのを抑制する効果が低下する。このような放射性核種の付着抑制効果の低下を改善するために、本発明者らは、炭素鋼部材の、炉水と接触する表面に貴金属(例えば、白金)を付着させ、その後、炭素鋼部材の、貴金属が付着した表面にニッケルを付着させたところ、炭素鋼部材のその表面への放射性核種の付着量が著しく低減することを見出した(特許文献7参照)。
このような新たな知見に基づいて、本発明者らは、貴金属及びニッケルを炭素鋼部材の表面に付着させることがその表面への放射性核種の付着の抑制につながると考えた。そこで、本発明者らは、貴金属及びニッケルを炭素鋼部材の表面に付着させることを前提に、その表面への放射性核種の付着をさらに抑制することができる方法について検討した。
ところで、本発明者らは、特許文献3及び特許文献5に記載されているように、鉄(II)イオン、酸化剤及びpH調整剤(例えば、ヒドラジン)を含む60℃〜100℃(60℃以上100℃以下)の低い温度範囲の皮膜形成液を原子力プラントの構成部材の表面に接触させて構成部材の表面にマグネタイト皮膜を形成し、このマグネタイト皮膜上に貴金属を付着させた場合には、原子力プラントの運転中においてマグネタイト皮膜が貴金属の作用により炉水中に溶出するという現象を見出した。また、60℃〜100℃の低い温度範囲で炭素鋼部材の炉水と接触する表面に形成されたニッケルフェライト皮膜上に貴金属を付着させた場合においても、原子力プラントの運転中においてニッケルフェライト皮膜が貴金属の作用により炉水中に溶出するという現象を見出した。炭素鋼部材の表面からの、このようなフェライト皮膜の溶出は、やがて、炭素鋼部材上のフェライト皮膜の消失をもたらし、フェライト皮膜が消失した後、すなわち運転サイクルの末期において、放射性核種が炭素鋼部材の表面に付着することになる。このように、炭素鋼部材の表面からのフェライト皮膜の溶出は、炭素鋼部材の表面への放射性核種の、長期間にわたる付着抑制を阻害する。この結果、この運転サイクルでの原子力プラントの運転を停止した後、炭素鋼部材の表面に、再度、フェライト皮膜を形成する必要がある。
貴金属が表面に付着したマグネタイト皮膜及びニッケルフェライト皮膜等のフェライト皮膜の溶出を考慮すれば、炭素鋼部材の表面への放射性核種の付着をさらに抑制するだけでなく、その表面への放射性核種の付着を長期間にわたって抑制することも重要であると本発明者らは考えた。
本発明者らは、60℃〜100℃の低い温度範囲で炭素鋼部材の炉水と接触する表面に形成したニッケルフェライト皮膜がこの皮膜上に貴金属を付着したときに、このニッケルフェライト皮膜が溶出する理由について検討した。この検討により、原子力プラントの運転停止中において、そのような低い温度範囲で炭素鋼部材の表面に形成されたニッケルフェライト皮膜は、Ni0.7Fe2.3O4の皮膜であり、不安定であることが分かった。なお、Ni0.7Fe2.3O4は、Ni1−xFe2+xO4においてxが0.3である場合の形態である。このため、不安定な皮膜であるNi0.7Fe2.3O4の皮膜上に、貴金属、例えば白金が付着しているとき、Ni0.7Fe2.3O4は、その白金の作用により、原子力プラントの運転中において炉水中に溶出するということが分かった。また、不安定なNi0.7Fe2.3O4の皮膜は、上記の低い温度範囲で形成されるため、炭素鋼部材の表面にNi0.7Fe2.3O4の小さい粒が多数付着している状態になっている。この理由によっても、上面に白金が付着したNi0.7Fe2.3O4の皮膜が溶出する。
ところで、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させる際に、炭素鋼部材に含まれるFeがFe2+として溶出していると、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させることができなくなる。このため、本発明者らは、貴金属を炭素鋼部材の表面に付着させるときにおける、炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐ方法を検討した。そして、本発明者らは、炭素鋼部材の表面をニッケル金属の皮膜で覆うことによって炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐことができることを見出した。炭素鋼部材の表面を覆うニッケル金属は、後述するように、炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制する安定なニッケルフェライト皮膜の形成に寄与する物質である。炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜を形成してこのニッケル金属皮膜で炭素鋼部材の表面を覆うことによって、炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐことができ、ニッケル金属皮膜の表面への貴金属の付着、すなわち炭素鋼部材への貴金属の付着を短い時間で行うことができた。併せて、炭素鋼部材への貴金属の付着量も増大した。
炭素鋼部材の表面へのニッケル金属皮膜の形成は、ニッケルイオン及び還元剤を含む水溶液を炭素鋼部材の表面に接触させることによって可能である。この水溶液に含まれるニッケルイオンが炭素鋼部材に含まれるFeと置換され、置換されたニッケルイオンが還元剤の作用によりニッケル金属になり、炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜が形成される。また、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の表面への貴金属の付着は、貴金属イオン(例えば、白金イオン)及び還元剤を含む水溶液を形成されたニッケル金属皮膜に接触させることによって可能である。
このように、炭素鋼部材の表面にニッケル金属皮膜を形成することによって、炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐことができ、短い時間でより多くの貴金属を炭素鋼部材に付着させることができる。
次に、炭素鋼部材の表面への放射性核種の長期間にわたる付着抑制に関する検討結果を説明する。本発明者らは、60℃〜100℃の低い温度範囲で不安定なNi0.7Fe2.3O4の皮膜を炭素鋼部材の表面に形成するのではなく、付着した貴金属によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜の、炭素鋼部材の表面への形成を目指した。そこで、本発明者らは、炭素鋼部材への貴金属の付着を効果的に行うために炭素鋼部材の表面に形成したニッケル金属皮膜を、その安定なニッケルフェライト皮膜の、炭素鋼部材の表面への形成に利用できないかを種々検討した。この結果、酸素を含む高温(200℃以上)の水を、炭素鋼部材の表面に形成されたニッケル金属皮膜の、貴金属が付着した表面に接触させることによって、このニッケル金属皮膜を、炭素鋼部材の表面を覆う、貴金属の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜(Ni1−xFe2+xO4においてxが0であるニッケルフェライトNiFe2O4の皮膜)に変えることができた。
本発明者らは、ニッケル及び白金を付着していない炭素鋼製の試験片A及び表面にニッケル金属皮膜を形成してニッケル金属皮膜の表面に白金を付着した炭素鋼製の試験片Bを用いて、放射性核種であるCo−60の付着を調べる実験を行った。この実験は、試験片A及びBを閉ループを形成した循環配管内に設置し、この循環配管内に原子炉内の炉水を模擬した模擬水を循環させて行った。循環する模擬水は、Co−60と酸素を含み、温度が280℃である。循環配管内に設置された試験片A及びBは、循環配管内を流れる模擬水中に500時間浸漬された。500時間が経過した後、試験片A及びBを循環配管から取り出し、それぞれの試験片へのCo−60の付着量を測定した。
図7は、炭素鋼製の試験片A及びBへのCo−60の付着量の測定結果を示す図である。図7では、Co−60の付着量を、試験片Aへの付着量を基準とした相対値で示している。図7から明らかであるように、ニッケル金属皮膜の表面に白金を付着した試験片Bでは、ニッケル及び白金を付着していない試験片Aに比べて、Co−60の付着量が著しく低下した。
図8は、試験片A及びBの表面における組成をラマン分光法によって分析した結果(ラマンスペクトル)を示す図である。循環配管から取り出された試験片A及びBのそれぞれの表面における組成をラマン分光法によって分析した。実質的に炭素鋼である試験片Aの表面には、主にFe3O4からなる皮膜が形成されていた。Co−60の付着量が大幅に低下した試験片Bの表面には、ニッケルフェライト(NiFe2O4)を主成分とする酸化皮膜が形成されていた。このNiFe2O4は、Ni1−xFe2+xO4においてxが0である形態である。
図9は、オージェスペクトル分析により得られた試験片Bの表面の組成(原子濃度)を示す図である。循環配管から取り出された試験片Bの表面の組成をオージェ電子分光法によって分析した。図9に示す結果から、試験片Bの母材(炭素鋼)の表面に、均一な組成のNiFe2O4が形成されていることが確認できた。このNiFe2O4の形成により、試験片Bでは、Co―60の付着量が著しく抑制されたのである。
表面にニッケル金属皮膜が形成されてこのニッケル金属皮膜の表面に貴金属(例えば、白金)が付着した炭素鋼部材(試験片B)のニッケル金属皮膜が、酸素を含む200℃以上の水との接触により、炭素鋼部材の表面を覆うニッケルフェライト皮膜(NiFe2O4)に変換される理由を説明する。酸素を含む200℃以上の水が炭素鋼部材の表面のニッケル金属皮膜に接触すると、ニッケル金属皮膜及び炭素鋼部材が200℃以上に加熱される。その水に含まれる酸素がニッケル金属皮膜内に移行し、炭素鋼部材に含まれるFeがFe2+となってニッケル金属皮膜内に移行する。ニッケル金属皮膜内のニッケルが、200℃以上の高温環境で、ニッケル金属皮膜内に移行した酸素及びFe2+と反応し、NiFe2O4であるニッケルフェライト(Ni1−xFe2+xO4においてxが0であるニッケルフェライト)が生成される。このニッケルフェライトNiFe2O4の皮膜が、炭素鋼部材の表面を覆う。
炭素鋼部材の表面を覆ったニッケル金属皮膜に含まれるニッケル金属から、200℃以上の高温の環境下において上記のように生成されたニッケルフェライトNiFe2O4は、結晶が大きく成長しており、貴金属が付着してもNi0.7Fe2.3O4皮膜のように水中に溶出せず安定であり、さらに、Co−60等の放射性核種を取り込まない。この安定なニッケルフェライトNiFe2O4は、ニッケル金属皮膜に付着した白金等の貴金属の作用により炭素鋼部材及びニッケル金属皮膜の腐食電位が低下するために生成される。このように、200℃以上の高温の環境下で、炭素鋼部材の表面を覆ったニッケル金属から生成された安定なニッケルフェライトNiFe2O4皮膜は、60℃〜100℃の低い温度範囲で生成されたNi0.7Fe2.3O4皮膜よりも、長期にわたって炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制することができる。
以上に述べた検討結果に基づいて、本発明者らは、以下に述べる(1)及び(2)の2つの発明を新たに創生することができた。
(1)ニッケルイオン及び還元剤を含む皮膜形成水溶液を炭素鋼部材の表面に接触させ、炭素鋼部材のその表面にニッケル金属皮膜を形成し、貴金属をそのニッケル金属皮膜の表面に付着させる。
(2)ニッケルイオン及び還元剤を含む皮膜形成水溶液を炭素鋼部材の表面に接触させ、炭素鋼部材のその表面にニッケル金属皮膜を形成し、貴金属をそのニッケル金属皮膜の表面に付着させ、酸素を含む200℃以上の水を、貴金属を付着したニッケル金属皮膜に接触させ、そのニッケル金属皮膜に含まれるニッケル金属を基に、200℃以上の高温下で、炭素鋼部材の表面にニッケルフェライトNiFe2O4皮膜を形成する。
(1)は、原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法に関する発明である。(1)の発明によれば、炭素鋼部材の表面をニッケル金属皮膜で覆うので、炭素鋼部材からのFe2+の溶出を防ぐことができ、炭素鋼部材の表面への貴金属の付着に要する時間を短縮することができる。
(2)は、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法に関する発明である。(2)の発明によれば、炭素鋼部材の表面に形成されて貴金属が付着しているニッケル金属皮膜に酸素を含む200℃以上の水を接触させて、そのニッケル金属皮膜に含まれるニッケル金属を基に、200℃以上の高温下で、炭素鋼部材の表面にニッケルフェライト皮膜を形成するので、この形成されたニッケルフェライト皮膜は、貴金属が付着していても水に溶出しなく、より長期にわたって(具体的には、原子力プラントの複数の運転サイクルにわたって)炭素鋼部材への放射性核種の付着を抑制することができる。
以上の検討結果を反映した、本発明の実施例を以下に説明する。なお、以下の実施例では、本発明を沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)に適用した例を説明するが、本発明は、加圧水型原子力プラント、及びカナダ型重水冷却圧力管型原子力プラントにも適用することができる。
図1〜図6を用いて、本発明の実施例1による、原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を説明する。本実施例では、原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を、沸騰水型原子力プラント(BWRプラント)の、炭素鋼製の浄化系配管(炭素鋼部材)に適用した例を説明する。
図2は、本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法に用いられる皮膜形成装置が接続されたBWRプラントの概略構成を示す図である。BWRプラント1は、原子炉2、タービン9、復水器10、再循環系、原子炉浄化系、及び給水系を備える。原子炉2は、炉心4を内蔵する原子炉圧力容器3(以下、「RPV3」という)を有し、RPV3内で炉心4を取り囲む炉心シュラウド(図示せず)の外面とRPV3の内面との間に形成される環状のダウンカマ内にジェットポンプ5を備える。炉心4には、多数の燃料集合体(図示せず)が装荷されている。燃料集合体は、核燃料物質で製造された複数の燃料ペレットが充填された複数の燃料棒を含む。再循環系は、ステンレス鋼製の再循環系配管6、及び再循環系配管6に設置された再循環ポンプ7を備える。給水系は、復水器10とRPV3とを連絡する給水配管11に、復水ポンプ12、復水浄化装置(例えば、復水脱塩器)13、低圧給水加熱器14、給水ポンプ15、及び高圧給水加熱器16が、復水器10からRPV3に向かって、この順に設置されて構成されている。原子炉浄化系は、再循環系配管6と給水配管11とを連絡する浄化系配管18に、浄化系ポンプ19、弁24、再生熱交換器20、非再生熱交換器21、及び炉水浄化装置22が、再循環系配管6から給水配管11に向かって、この順に設置されて構成されている。浄化系配管18は、再循環ポンプ7の上流で再循環系配管6に接続され、RPV3に接続する。原子炉2は、原子炉建屋(図示せず)内に配置された原子炉格納容器87内に設置されている。
RPV3内の冷却水(以下、「炉水」という)は、再循環ポンプ7で昇圧され、再循環系配管6を通ってジェットポンプ5内に噴出される。ダウンカマ内でジェットポンプ5のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ5内に吸引されて炉心4に供給される。炉心4に供給された炉水は、燃料棒内の核燃料物質の核分裂で発生する熱によって加熱される。加熱された一部の炉水が蒸気になる。この蒸気は、RPV3から主蒸気配管8を通ってタービン9に導かれ、タービン9を回転させる。タービン9に連結された発電機(図示せず)が回転し、電力が発生する。タービン9から排出された蒸気は、復水器10で凝縮して水になる。この水は、給水として、給水配管11を通りRPV3内に供給される。給水配管11を流れる給水は、復水ポンプ12で昇圧され、復水浄化装置13で不純物が除去され、給水ポンプ15でさらに昇圧される。給水は、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器16で加熱されてRPV3内に導かれる。抽気配管17でタービン9から抽気された蒸気は、低圧給水加熱器14及び高圧給水加熱器16にそれぞれ供給され、給水の加熱源となる。
再循環系配管6内を流れる炉水の一部は、浄化系ポンプ19の駆動によって浄化系配管18内に流入し、再生熱交換器20及び非再生熱交換器21で冷却された後、炉水浄化装置22で浄化される。浄化された炉水は、再生熱交換器20で加熱されて浄化系配管18及び給水配管11を経てRPV3内に戻される。
浄化系配管18には、再循環系配管6と浄化系配管18との接続点と浄化系ポンプ19の間に弁23が設置され、再生熱交換器20と非再生熱交換器21の間に弁25が設置される。
本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法では、BWRプラント1に接続した皮膜形成装置30を用いる。皮膜形成装置30は、図2に示すように、BWRプラント1の浄化系配管18に接続される。皮膜形成装置30は、循環配管34を備え、浄化系配管18に設置されている弁23及び弁25に循環配管34が接続される。
図3は、本実施例における皮膜形成装置30の詳細な構成を示す図である。皮膜形成装置30は、サージタンク31、循環ポンプ32,33、循環配管34、ニッケルイオン注入装置35、還元剤注入装置40、白金イオン注入装置45、加熱器51、冷却器52、カチオン交換樹脂塔53、混床樹脂塔54、分解装置55、酸化剤供給装置56、及びエゼクタ61を備える。循環配管34は、BWRプラント1の浄化系配管18の弁23及び弁25に接続される。
循環配管34は、皮膜形成水溶液(皮膜形成液)が流れる配管であり、開閉弁62、循環ポンプ33、弁63,66,68,73、サージタンク31、循環ポンプ32、弁76、及び開閉弁77を、上流からこの順に備える。循環配管34には、弁63をバイパスする配管65が接続され、配管65には、弁64及びフィルタ50が設置される。循環配管34には、弁66をバイパスする配管98が接続され、配管98には、冷却器52及び弁67が設置される。循環配管34には、弁68をバイパスし両端が循環配管34に接続された配管70が接続され、配管70には、カチオン交換樹脂塔53及び弁69が設置される。カチオン交換樹脂塔53には、陽イオン交換樹脂が充填されている。配管70には、カチオン交換樹脂塔53及び弁69をバイパスし両端が配管70に接続された配管72が接続され、配管72には、混床樹脂塔54及び弁71が設置される。混床樹脂塔54には、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂が充填されている。
循環配管34には、弁73をバイパスして配管75が接続され、配管75には、弁74及び分解装置55が設置される。分解装置55は、弁74よりも下流に位置し、活性炭触媒(例えば、ルテニウムを活性炭の表面に添着した活性炭触媒)が内部に充填されている。循環配管34には、弁73と循環ポンプ32の間にサージタンク31が設置される。サージタンク31内には、加熱器51が配置される。循環配管34には、循環ポンプ32と弁76の間に配管79が接続される。配管79は、弁78及びエゼクタ61が設けられ、サージタンク31に接続される。エゼクタ61には、再循環系配管6の内面の汚染物を還元溶解するために用いるシュウ酸(還元除染剤)をサージタンク31内に供給するためのホッパ(図示せず)が設けられている。
ニッケルイオン注入装置35は、薬液タンク36、注入ポンプ37及び注入配管38を備える。薬液タンク36は、注入配管38によって循環配管34に接続され、ギ酸ニッケル(2Ni(HCOO)・2H2O)を水に溶解して調製したギ酸ニッケル水溶液(ニッケルイオンを含む水溶液)が充填されている。注入配管38は、注入ポンプ37及び弁39を備える。
白金イオン注入装置(貴金属イオン注入装置)45は、薬液タンク46、注入ポンプ47及び注入配管48を備える。薬液タンク46は、注入配管48によって循環配管34に接続され、白金錯体(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na2[Pt(OH)6]・nH2O))を水に溶解して調整した白金イオンを含む水溶液(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物水溶液)が充填されている。白金イオンを含む水溶液は、貴金属イオンを含む水溶液の一種である。貴金属イオンを含む水溶液としては、白金イオンを含む水溶液以外に、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、オスミウム及びイリジウムのうちいずれかのイオンを含む水溶液を用いてもよい。注入配管48は、注入ポンプ47及び弁49を備える。
還元剤注入装置40は、薬液タンク41、注入ポンプ42及び注入配管43を備える。薬液タンク41は、注入配管43によって循環配管34に接続され、還元剤を含む水溶液が充填されている。還元剤としては、ヒドラジン、ホルムヒドラジン、ヒドラジンカルボアミド及びカルボヒドラジド等のヒドラジン誘導体及びヒドロキシルアミンのうちいずれかを用いるとよい。本実施例では、薬液タンク41には、還元剤を含む水溶液としてヒドラジン水溶液が充填されているものとする。注入配管43は、注入ポンプ42及び弁44を備える。
注入配管38,48及び43は、弁76から開閉弁77に向かってこの順番で、弁76と開閉弁77の間で循環配管34に接続される。
酸化剤供給装置56は、薬液タンク57、供給ポンプ58及び供給配管59を備える。薬液タンク57は、供給配管59によって弁74よりも上流で配管75に接続され、酸化剤である過酸化水素が充填されている。酸化剤としては、オゾン、または酸素を溶解した水を用いてもよい。供給配管59は、供給ポンプ58及び弁60を備える。
循環配管34は、注入配管43と循環配管34との接続点と開閉弁77の間に、pH計88を備える。
BWRプラント1は、1つの運転サイクルでの運転が終了した後に停止する。この運転停止後に、炉心4に装荷されている燃料集合体の一部が使用済燃料集合体として取り出され、燃焼度0GWd/tの新しい燃料集合体が炉心4に装荷される。このような燃料交換が終了した後、BWRプラント1が、次の運転サイクルでの運転のために再起動される。燃料交換のためにBWRプラント1が停止している期間を利用して、BWRプラントの保守点検が行われる。
BWRプラント1の運転が停止している期間中に、BWRプラント1における炭素鋼部材の一つである、RPV3に接続する炭素鋼製の配管系(例えば、浄化系配管18)を対象にして、本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を実施する。この貴金属の付着方法では、炭素鋼製の配管の炉水と接触する内面へのニッケル金属の付着処理、及び付着したニッケル金属への貴金属(例えば、白金)の付着処理を行う。
図1は、本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順を示すフローチャートである。図1〜図3を用いて、本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を説明する。本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法では、皮膜形成装置30を用い、一例として浄化系配管18を対象とする。
ステップS1で、ニッケル金属の付着処理及び貴金属の付着処理の対象である炭素鋼製の配管系に、皮膜形成装置30を接続する。BWRプラント1の運転が停止しているときに、浄化系配管18に設置されている弁23のボンネットを開放して、浄化系配管18の再循環系配管6側を封鎖する。皮膜形成装置30の循環配管34の開閉弁77側の端部を弁23のフランジに接続することで、循環配管34の一端部が浄化系ポンプ19の上流で浄化系配管18に接続される。また、浄化系配管18に設置されている弁25のボンネットを開放して、浄化系配管18の非再生熱交換器21側を封鎖する。皮膜形成装置30の循環配管34の開閉弁62側の端部を弁25のフランジに接続することで、循環配管34の他端部が再生熱交換器20の下流で浄化系配管18に接続される。このようにして循環配管34の両端が浄化系配管18に接続され、浄化系配管18及び循環配管34を含む閉ループが形成される。
なお、本実施例では皮膜形成装置30を原子炉浄化系の浄化系配管18に接続しているが、本実施例は、浄化系配管18以外にも適用できる。RPV3に接続する残留熱除去系、原子炉隔離時冷却系及び炉心スプレイ系のうちのいずれかの炭素鋼製の配管に皮膜形成装置30を接続し、この炭素鋼製の配管に本実施例の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を適用してもよい。
ステップS2で、処理対象の炭素鋼製の配管系に化学除染を実行する。前の運転サイクルでの運転を経験したBWRプラント1では、放射性核種を含む酸化皮膜が、RPV3から流れ込む炉水と接触する浄化系配管18の内面に形成されている。ニッケル金属皮膜を浄化系配管18の内面に形成する前に、この内面から放射性核種を含む酸化皮膜を除去することが好ましい。本実施例において、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜を形成し、貴金属をそのニッケル金属皮膜の内面に付着させるに際しては、事前に浄化系配管18の線量率を下げると共に、形成するニッケル金属皮膜と浄化系配管18の内面との密着性を向上させるために、浄化系配管18の内面に形成された、放射性核種を含む酸化皮膜を除去することが望ましい。この放射性核種を含む酸化皮膜を除去するために、化学除染、特に還元除染剤であるシュウ酸を含む還元除染液を用いた還元除染を、浄化系配管18の内面に対して実施する。
ステップS2において、浄化系配管18の内面に対して実施する化学除染には、例えば、特許文献2に記載された公知の還元除染を適用することができる。この還元除染について説明する。まず、開閉弁62、弁63,66,68,73,76、及び開閉弁77を開き、他の弁を閉じた状態で、循環ポンプ32,33を駆動する。これにより、サージタンク31内で加熱器51により加熱された水が、循環配管34及び浄化系配管18を含んで形成される閉ループ内を循環する。循環する水は、加熱器51により90℃に調節される。この水の温度が90℃になったとき、弁78を開いて循環配管34内を流れる一部の水を配管79内に導く。ホッパ及びエゼクタ61から配管79内に供給された所定量のシュウ酸が、配管79内を流れる水によりサージタンク31内に導かれる。このシュウ酸がサージタンク31内で水に溶解し、シュウ酸水溶液(還元除染液)がサージタンク31内で生成される。
このシュウ酸水溶液は、循環ポンプ32の駆動によってサージタンク31から循環配管34に排出される。還元剤注入装置40の薬液タンク41内のヒドラジン水溶液は、弁44を開いて注入ポンプ42を駆動することにより、注入配管43を通して循環配管34内のシュウ酸水溶液に注入される。pH計88で測定したシュウ酸水溶液のpH値に基づいて注入ポンプ42(または弁44の開度)を制御して循環配管34内へのヒドラジン水溶液の注入量を調節することにより、浄化系配管18に供給するシュウ酸水溶液のpHを2.5に調節する。本実施例では、浄化系配管18の内面にニッケル金属を付着させるとき、及びそのニッケル金属の皮膜の上に貴金属、例えば白金を付着させるときに用いる還元剤であるヒドラジンが、還元除染の工程では、シュウ酸水溶液のpHを調整するpH調整剤として用いられる。
pHが2.5で90℃のシュウ酸水溶液は、循環配管34から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18の内面に形成された、放射性核種を含む酸化皮膜に接触する。この酸化皮膜は、シュウ酸によって溶解される。シュウ酸水溶液は、酸化皮膜を溶解しながら浄化系配管18内を流れ、浄化系ポンプ19及び再生熱交換器20を通過して循環配管34に戻る。循環配管34に戻ったシュウ酸水溶液は、開閉弁62を通って循環ポンプ33で昇圧され、弁63,66,68,73を通過してサージタンク31に達する。このように、シュウ酸水溶液は、循環配管34及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環し、浄化系配管18の内面の還元除染を実施して、この内面に形成された酸化皮膜を溶解する。
酸化皮膜の溶解に伴って、シュウ酸水溶液の放射性核種濃度及びFe濃度が上昇する。シュウ酸水溶液に含まれる放射性核種及びFeのそれぞれの濃度の上昇を抑えるために、カチオン交換樹脂塔53を運用する。すなわち、弁69を開いて弁68の開度を調節することにより、浄化系配管18から循環配管34に戻ったシュウ酸水溶液の一部が、配管70を通ってカチオン交換樹脂塔53に導かれる。シュウ酸水溶液に含まれた放射性核種及びFe等の金属陽イオンは、カチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。カチオン交換樹脂塔53から排出されたシュウ酸水溶液及び弁68を通過したシュウ酸水溶液は、循環配管34から浄化系配管18に再び供給され、浄化系配管18の還元除染に用いられる。
シュウ酸を用いた、炭素鋼部材(例えば、浄化系配管18)の表面に対する還元除染では、炭素鋼部材の表面に難溶解性のシュウ酸鉄(II)が形成され、このシュウ酸鉄(II)により、炭素鋼部材の表面に形成された放射性核種を含む酸化皮膜のシュウ酸による溶解が抑制される場合がある。この場合には、弁68を全開にし、弁69を閉じてシュウ酸水溶液のカチオン交換樹脂塔53への供給を停止し、酸化剤である過酸化水素を、循環配管34内を流れるシュウ酸水溶液に注入する。この過酸化水素のシュウ酸水溶液への注入は、弁60を開いて供給ポンプ58を起動し、薬液タンク57内の過酸化水素を供給配管59及び配管75を通して循環配管34内を流れているシュウ酸水溶液に供給する。このとき、弁74は閉じている。過酸化水素を含むシュウ酸水溶液が循環配管34から浄化系配管18内に導かれ、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)に含まれるFe(II)が、シュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素の作用により、Fe(III)に酸化され、そのシュウ酸鉄(II)がシュウ酸鉄(III)錯体としてシュウ酸水溶液中に溶解する。すなわち、シュウ酸鉄(II)、及びシュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素及びシュウ酸が、式(1)に示す反応により、シュウ酸鉄(III)錯体、水及び水素イオンを生成する。
2Fe(COO)2+H2O2+2(COOH)2 →
2Fe[(COO)2]2 −+2H2O+2H+ …(1)
浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)が溶解され、シュウ酸水溶液に注入した過酸化水素が式(1)の反応によって消失したことを確認した後、弁69を開いて弁68の開度を調節し、循環配管34内を流れて弁66を通過したシュウ酸水溶液の一部を、配管70を通してカチオン交換樹脂塔53に供給する。シュウ酸水溶液に含まれる放射性核種等の金属陽イオンが、カチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂に吸着されて除去される。なお、シュウ酸水溶液内の過酸化水素の消失は、循環配管34からサンプリングしたシュウ酸水溶液に過酸化水素に反応する試験紙を付け、試験紙に現れる色を見ることによって確認できる。
浄化系配管18の、還元除染箇所の線量率が設定した線量率まで低下したとき、または、浄化系配管18の還元除染時間が所定の時間に達したとき、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンを分解する。すなわち、還元除染剤分解工程を実施する。なお、還元除染箇所の線量率が設定した線量率まで低下したことは、浄化系配管18の還元除染箇所からの放射線を検出する放射線検出器の出力信号に基づいて求めた線量率により確認することができる。
シュウ酸及びヒドラジンの分解は、以下のようにして行う。弁74を開いて弁73の開度を一部減少させると、循環配管34内を流れて弁68を通過した、ヒドラジンを含むシュウ酸水溶液は、弁74を通って配管75により分解装置55に供給される。このとき、弁60を開いて供給ポンプ58を駆動することにより、薬液タンク57内の過酸化水素が、供給配管59を通して配管75に供給され、分解装置55内に流入する。シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンは、分解装置55内で、活性炭触媒及び供給された過酸化水素の作用により分解される。分解装置55内でのシュウ酸及びヒドラジンの分解反応は、式(2)及び式(3)で表される。
(COOH)2+H2O2 → 2CO2+2H2O ……(2)
N2H4+2H2O2 → N2+4H2O ……(3)
シュウ酸及びヒドラジンの分解装置55内での分解は、シュウ酸水溶液を循環配管34及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環させながら行う。供給した過酸化水素がシュウ酸及びヒドラジンの分解のために分解装置55で完全に消費されて分解装置55から流出しないように、薬液タンク57から分解装置55への過酸化水素の供給量を、供給ポンプ58の回転速度を制御して調節する。
還元除染剤分解工程においても、シュウ酸水溶液中にシュウ酸が存在すると、このシュウ酸水溶液と接触する浄化系配管18の内面に、シュウ酸鉄(II)が形成される可能性がある。そこで、シュウ酸水溶液に含まれるシュウ酸及びヒドラジンの分解がある程度進んだ段階で、供給ポンプ58の回転速度を増大させ、分解装置55から過酸化水素が流出するように、薬液タンク57から分解装置55への過酸化水素の供給量を増加させる。
分解装置55から排出された、過酸化水素を含むシュウ酸水溶液は、循環配管34から浄化系配管18に導かれる。炭素鋼部材である浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)は、前述したように、その過酸化水素の作用によりシュウ酸鉄(III)錯体になりシュウ酸水溶液中に溶解する。シュウ酸水溶液中のシュウ酸等の分解が進んでいるため、シュウ酸鉄(II)に含まれるFe(II)を溶解しやすいFe(III)に変換するシュウ酸が不足し、循環配管34の内面にFe(OH)3が析出しやすくなる。このため、Fe(OH)3の析出を抑制するため、シュウ酸水溶液にギ酸を注入する。ギ酸の注入は、例えば、弁78を開いて配管79内にシュウ酸水溶液が流れている状態で、前述のホッパ及びエゼクタ61からギ酸をそのシュウ酸水溶液に供給してサージタンク31に導くことにより行われる。供給されたギ酸は、シュウ酸水溶液に混合される。
供給されたギ酸を含むシュウ酸水溶液は、濃度の低下したシュウ酸及びヒドラジンに加え、分解装置55から排出された過酸化水素を含んでいる。このギ酸及び過酸化水素を含むシュウ酸水溶液は、浄化系配管18に供給される。シュウ酸水溶液に含まれる過酸化水素は、浄化系配管18の内面に析出したシュウ酸鉄(II)を溶解し、ギ酸は、Fe(OH)3を溶解する。シュウ酸水溶液は、循環配管34及び浄化系配管18を含む閉ループを循環するため、シュウ酸及びヒドラジンの分解も、分解装置55内で継続される。
次に、シュウ酸の分解工程を終了するため、循環配管34内を流れるシュウ酸水溶液の過酸化水素濃度を低下させて、カチオン交換樹脂塔53にシュウ酸水溶液を供給する。このため、過酸化水素の注入を停止するために弁60を閉じ、ギ酸の注入を停止するために弁78を閉じる。循環配管34内を流れるシュウ酸水溶液への過酸化水素及びギ酸の注入が停止されると、シュウ酸水溶液中のこれらの濃度も低下する。シュウ酸水溶液中の過酸化水素濃度が1ppm以下になったとき、弁69を開いて弁68の開度を低減させ、カチオン交換樹脂塔53にシュウ酸水溶液を供給する。シュウ酸水溶液に含まれる金属陽イオンは、前述したように、カチオン交換樹脂塔53内の陽イオン交換樹脂で除去され、シュウ酸水溶液の金属陽イオン濃度が低下する。分解装置55内では、シュウ酸、ヒドラジン及びギ酸の分解が継続される。シュウ酸、ヒドラジン及びギ酸のうち、ヒドラジンが先に分解され、次いでシュウ酸が分解され、ギ酸が最後に残る。この状態でシュウ酸の分解工程を終了する。
以上に述べた化学除染が終了したとき、浄化系配管18は、内面から放射性核種を含む酸化皮膜が除去されており、前述した残存するギ酸を含む水溶液に内面が接触している。
図4は、化学除染が終了したときの浄化系配管18の一部の断面図である。図4は、浄化系配管18にはFeが含まれており、浄化系配管18の内面から放射性核種を含む酸化皮膜が除去されていることを表している。
図1のステップS3で、循環配管34及び浄化系配管18を含む閉ループ内を流れる水溶液(皮膜形成液)の温度調整を行う。弁68,73を開いて弁69,74を閉じる。循環ポンプ32,33が駆動しているので、残存するギ酸を含む水溶液が循環配管34及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環する。このギ酸を含む水溶液が、加熱器51によって90℃まで加熱される。このギ酸水溶液(後述の皮膜形成液)の温度は、60℃〜100℃の範囲にすることが望ましい。さらに、弁64を開いて弁63を閉じる。これらの弁操作により、循環配管34内を流れているギ酸水溶液がフィルタ50に供給され、ギ酸水溶液に残留している微細な固形分がフィルタ50によって除去される。微細な固形分をフィルタ50によって除去しない場合には、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜を形成する際に、ニッケルギ酸水溶液を循環配管34に注入したとき、その固形物の表面にもニッケル金属皮膜が形成され、注入したニッケルイオンが無駄に使用される。フィルタ50へのギ酸水溶液の供給は、このようなニッケルイオンの無駄な使用を防止するためである。
ステップS4で、ニッケルイオンを含む水溶液を注入する。弁63を開いて弁64を閉じ、フィルタ50への通水を停止する。ニッケルイオン注入装置35の弁39を開いて注入ポンプ37を駆動し、薬液タンク36内のギ酸ニッケル水溶液を、注入配管38を通して循環配管34内を流れる、ギ酸を含む90℃の水溶液に注入する。注入するギ酸ニッケル水溶液のニッケルイオン濃度は、例えば200ppmである。
ステップS5で、還元剤を注入する。還元剤注入装置40の弁44を開いて注入ポンプ42を駆動し、薬液タンク41内の還元剤を含む水溶液であるヒドラジン水溶液を、注入配管43を通して循環配管34内を流れる、ニッケルイオン及びギ酸を含み90℃の水溶液に注入する。注入するヒドラジン水溶液のヒドラジン濃度は、例えば200ppmである。ヒドラジン水溶液は、ニッケルイオン及びギ酸を含み90℃の水溶液のpHが4.0〜11.0(4.0以上11.0以下)の範囲になるように(例えば4.0になるように)、その水溶液への注入量が調節される。
還元剤の注入により、皮膜形成液は、ニッケルイオン、ギ酸及びヒドラジンを含み、pHが4.0〜11.0の範囲にあり(例えば4.0)、90℃の水溶液となる。この皮膜形成液(皮膜形成水溶液)は、循環ポンプ32の駆動により、循環配管34から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18の冷却水と接する表面(内面)に接触する。
図5は、浄化系配管18の一部の断面図であり、化学除染が終了した浄化系配管18(図4参照)の内面にニッケル金属皮膜80が形成された状態を示す図である。なお、図5では、浄化系配管18の下面が浄化系配管18の内面である。皮膜形成水溶液83が浄化系配管18の内面に接触することにより、ニッケル金属皮膜80が浄化系配管18の内面に形成される。
このニッケル金属皮膜80の形成は、以下のようにして行われる。浄化系配管18の内面とpH4.0の皮膜形成水溶液83との接触によって、皮膜形成水溶液83に含まれるニッケルイオンと浄化系配管18内のFe(II)イオンとの置換反応が加速されて、浄化系配管18の内面に取り込まれるニッケルイオンの量が多くなり、皮膜形成水溶液83へのFe(II)イオンの溶出が増大する。浄化系配管18の内面に取り込まれたニッケルイオンは、皮膜形成水溶液83に含まれるヒドラジンの作用によりニッケル金属となるため、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜80が形成される。
ニッケルイオンとFe(II)イオンとの置換反応は、浄化系配管18の内面と接触する皮膜形成水溶液83のpHが4.0のときが最も活発であり、このときに浄化系配管18の内面に取り込まれるニッケルイオンの量が最も多くなる。還元剤の注入により皮膜形成水溶液83のpHが7等に大きくなると、取り込まれたニッケルイオンがニッケル金属になる量が増大する。
浄化系配管18から循環配管34に排出された皮膜形成水溶液83は、循環ポンプ33,32で昇圧され、ニッケルイオン注入装置35からのギ酸ニッケル水溶液及び還元剤注入装置40からのヒドラジン水溶液がそれぞれ注入されて、再び、浄化系配管18に注入される。このように、皮膜形成水溶液83を、循環配管34及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環させることによって、やがて、ニッケル金属皮膜80が、浄化系配管18の、皮膜形成水溶液83と接触する内面の全面を均一に覆う。ニッケル金属皮膜80に含まれるニッケル金属の量、すなわち浄化系配管18の内面に存在するニッケル金属の量は、1平方センチメートル当たり50μg(50μg/cm2)以上であるのが好ましい。
なお、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜80が形成されるのは、浄化系配管18が炭素鋼部材であるからであり、浄化系配管18がステンレス鋼製であると、内面にニッケル金属皮膜80が形成されない。
ステップS6で、ニッケル金属皮膜80の形成が完了したかを判定する。浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の量が不十分な場合(その内面に存在するニッケル金属の量が50μg/cm2未満の場合)には、ステップS4〜S6の各工程を繰り返す。浄化系配管18の内面に存在するニッケル金属の量が50μg/cm2以上になったとき、注入ポンプ37を停止して弁39を閉じて循環配管34へのギ酸ニッケル水溶液の注入を停止すると共に、注入ポンプ42を停止して弁44を閉じて循環配管34へのヒドラジン水溶液の注入を停止し、浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜80の形成を終了する。ギ酸ニッケル水溶液を循環配管34に注入してからの経過時間が設定時間になったとき、浄化系配管18の内面に存在するニッケル金属の量が50μg/cm2以上になったと判定する。この設定時間は、炭素鋼試験片を用いた予備試験を実施し、炭素鋼試験片の表面のニッケル金属の量が50μg/cm2以上になるまでの時間を予め測定することによって求められる。
ステップS7で、皮膜形成水溶液83に含まれる還元剤を分解する。弁74を開いて弁73の開度を減少させ、循環ポンプ33で昇圧されたニッケルイオン及びヒドラジンを含む皮膜形成水溶液83の一部を、配管75を通して分解装置55に導く。さらに、薬液タンク57内の過酸化水素を供給配管59及び配管75を通して分解装置55に供給する。皮膜形成水溶液83に含まれる、還元剤であるヒドラジンは、分解装置55内で、活性炭触媒及び過酸化水素の作用により、窒素及び水に分解される。
ステップS8で、還元剤が分解された皮膜形成水溶液を浄化する第1浄化工程を行う。ヒドラジン(還元剤)が分解された後、弁73を開いて弁74を閉じてヒドラジンを含まない皮膜形成水溶液の分解装置55への供給を停止し、弁67を開いて弁66を閉じ、弁71を開いて弁68の開度を減少させる。このとき、弁69は閉じている。循環ポンプ33,32は駆動している。浄化系配管18から循環配管34に戻されたヒドラジンを含まない皮膜形成水溶液は、冷却器52で60℃になるまで冷却される。さらに、ヒドラジンを含まない60℃の皮膜形成水溶液が混床樹脂塔54に導かれ、この皮膜形成水溶液に残留しているニッケルイオン、他の陽イオン及び陰イオンが、混床樹脂塔54内の陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に吸着し、皮膜形成水溶液から除去される(第1浄化工程)。ヒドラジンを含まない60℃の皮膜形成水溶液を、上記の各イオンが実質的になくなるまで、循環配管34及び浄化系配管18を循環させる。各イオンが実質的になくなった皮膜形成水溶液は、実質的に60℃の水である。皮膜形成水溶液から各イオンが実質的になくなったか否かは、例えば皮膜形成水溶液の導電率を計測することでわかる。
ステップS9で、第1浄化工程後の皮膜形成水溶液(実質的には水)に白金イオンを含む水溶液(白金イオン水溶液)を注入する。第1浄化工程が終了した後、弁68を開いて弁71を閉じ、弁49を開いて注入ポンプ47を駆動する。循環配管34内を流れる水は、加熱器51による加熱により60℃に保たれる。循環配管34内を流れる60℃の水に、注入配管48を通して薬液タンク46内の白金イオン水溶液(例えば、ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物(Na2[Pt(OH)6]・nH2O)の水溶液)を注入する。注入する白金イオン水溶液の白金イオンの濃度は、例えば1ppmである。ヘキサヒドロキソ白金酸ナトリウム水和物の水溶液内では、白金がイオン状態になっている。60℃の白金イオン水溶液が、循環ポンプ32,33の駆動により、循環配管34から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18から循環配管34に戻される。この白金イオン水溶液は、循環配管34及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環する。
白金イオン水溶液(例えば、Na2[Pt(OH)6]・nH2Oの水溶液)は、薬液タンク46から、注入配管48と循環配管34との接続点を通して循環配管34に注入される。白金イオン水溶液の循環配管34への注入速度は、白金イオン水溶液の注入開始直後において、この接続点での白金イオン水溶液の白金イオンの濃度が設定濃度(例えば1ppm)となるように、予め計算して求める。薬液タンク46に充填する白金イオン水溶液の量は、循環配管34内を流れる60℃の白金イオン水溶液の白金イオンの濃度を上記の設定濃度にしたときに、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面に所定量の白金を付着させるのに必要な白金イオン水溶液の量を計算することで、予め求める。なお、この所定量は、実施例2で述べる腐食電位を低下させる白金の作用を考慮した予備試験を実施することにより、予め定めることができる。求めた白金イオン水溶液の循環配管34への注入速度に合わせて注入ポンプ47の回転速度を制御し、薬液タンク46内の白金イオン水溶液を循環配管34に注入する。
ステップS10で、循環配管34を流れる白金イオン水溶液に還元剤を注入する。還元剤が注入された白金イオン水溶液は、循環配管34及び浄化系配管18を含む閉ループ内を循環する。還元剤注入装置40の弁44を開いて注入ポンプ42を駆動し、薬液タンク41内の還元剤であるヒドラジンの水溶液を、注入配管43を通して循環配管34内を流れる60℃の白金イオン水溶液に注入する。注入するヒドラジン水溶液のヒドラジン濃度は、例えば100ppmである。還元剤(ヒドラジン)は、白金イオンを白金にする還元反応を起こす。白金は、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面に付着する。
図6は、浄化系配管18の一部の断面図であり、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面に白金81が付着した状態を示す図である。白金イオン及びヒドラジンを含む60℃の水溶液84は、循環配管34から浄化系配管18に供給され、ニッケル金属皮膜80の表面に接触する。なお、図6では、浄化系配管18の下面が浄化系配管18の内面である。
注入配管43と循環配管34との接続点は、ヒドラジン水溶液の注入点である。ヒドラジン水溶液の循環配管34への注入は、60℃の白金イオン水溶液がこの接続点に到達した時点以降に(薬液タンク46内の全ての白金イオン水溶液を循環配管34に注入する前に)行ってもよく、薬液タンク46内の全ての白金イオン水溶液を循環配管34に注入し終わった直後に行ってもよい。後者は、還元剤のより好ましい注入方法である。
前者は、白金イオン及びヒドラジンを含む60℃の水溶液を循環配管34から浄化系配管18に供給する方法であり、白金イオンとヒドラジンとを浄化系配管18に同時に供給する方法と考えてもよい。後者は、まず60℃の白金イオン水溶液を循環配管34から浄化系配管18に供給し、白金イオン水溶液の循環配管34への注入が終了した後で、白金イオン及びヒドラジンを含む60℃の水溶液を循環配管34から浄化系配管18に供給する方法であり、白金イオンを浄化系配管18に供給した後で、ヒドラジンを浄化系配管18に供給する方法である。すなわち、白金イオンは、前者の場合には、ヒドラジンと共に浄化系配管18に供給され、後者の場合には、単独で浄化系配管18に供給された後で、ヒドラジンと共に浄化系配管18に供給される。
前者のヒドラジン水溶液の注入方法の場合(薬液タンク46内の全ての白金イオン水溶液を循環配管34に注入する前にヒドラジン水溶液を注入する場合)には、ヒドラジンにより白金イオンを白金にする還元反応は、循環配管34内を流れるヒドラジン及び白金イオンを含む水溶液内で生じる。この水溶液内での還元反応で生じた白金81は、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面に付着する。
一方、後者のヒドラジン水溶液の注入方法の場合(白金イオン水溶液の循環配管34への注入の終了後にヒドラジン水溶液を注入する場合)には、既に、白金イオンが浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面に吸着されており、この吸着された白金イオンがヒドラジンにより還元されて白金81になる。このため、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面への白金81の付着量は、前者の場合よりも増加する。
ヒドラジン水溶液は、薬液タンク41から、注入配管43と循環配管34との接続点を通して循環配管34に注入される。ヒドラジン水溶液の循環配管34への注入速度は、ヒドラジン水溶液の注入開始直後において、この接続点でのヒドラジン水溶液のヒドラジンの濃度が設定濃度(例えば100ppm)となるように、予め計算して求める。薬液タンク41に充填するヒドラジン水溶液の量は、循環配管34内を流れる60℃の水溶液のヒドラジンの濃度を上記の設定濃度にしたときに、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面に吸着した白金イオンを白金81に還元するために必要なヒドラジン水溶液の量を計算することで、予め求める。求めたヒドラジン水溶液の循環配管34への注入速度に合わせて注入ポンプ42の回転速度を制御し、薬液タンク41内のヒドラジン水溶液を循環配管34内に注入する。
なお、薬液タンク46内の白金イオン水溶液の全量を循環配管34に注入したとき、注入ポンプ47の駆動を停止して弁49を閉じる。これにより、白金イオン水溶液の循環配管34への注入が停止される。また、薬液タンク41内のヒドラジン水溶液(還元剤水溶液)の全量を循環配管34に注入したとき、注入ポンプ42の駆動を停止して弁44を閉じる。これにより、ヒドラジン水溶液の循環配管34への注入が停止される。
ニッケル金属皮膜80の表面に吸着した白金イオンがヒドラジンによって還元されて白金81となるため、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面に白金81が付着する(図6参照)。
ステップS11で、ニッケル金属皮膜80の表面への白金81の付着が完了したかを判定する。白金イオン水溶液及び還元剤水溶液の注入開始からの経過時間が所定時間になったとき、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面への所定量の白金81の付着が完了したと判定する。この経過時間が所定時間に到達しないときには、ステップS9〜S11の各工程を繰り返す。なお、この所定時間は、予備試験を実施することにより予め定めることができる。
ステップS12で、浄化系配管18及び循環配管34内に残留する水溶液を浄化する第2浄化工程を行う。ニッケル金属皮膜80の表面への白金81の付着が完了したと判定した後、弁71を開いて弁68の開度を減少させ、循環ポンプ33で昇圧された白金イオン及びヒドラジンを含む60℃の水溶液を、混床樹脂塔54に供給する。この水溶液に含まれる白金イオン、他の金属陽イオン(例えば、ナトリウムイオン)、ヒドラジン及びOH基が、混床樹脂塔54内のイオン交換樹脂に吸着し、この水溶液から除去される(第2浄化工程)。
ステップS13で、廃液処理装置を用いて廃液を処理する。第2浄化工程が終了した後、ポンプ(図示せず)を有する高圧ホース(図示せず)により、循環配管34と廃液処理装置(図示せず)を接続する。第2浄化工程の終了後に浄化系配管18及び循環配管34内に残存する、放射性廃液である水溶液は、このポンプを駆動することにより循環配管34から高圧ホースを通して廃液処理装置に排出され、廃液処理装置で処理される。浄化系配管18及び循環配管34内の水溶液を排出した後、洗浄水を浄化系配管18及び循環配管34内に供給し、循環ポンプ32,33を駆動してこれらの配管内を洗浄する。洗浄の終了後、浄化系配管18及び循環配管34内の洗浄水を、廃液処理装置に排出する。
以上により、本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法が終了する。そして、浄化系配管18に接続した皮膜形成装置30を浄化系配管18から取り外し、浄化系配管18を復旧させる。
本実施例によれば、ニッケルイオン及び還元剤(例えば、ヒドラジン)を含む皮膜形成水溶液を浄化系配管18の内面に接触させることで、浄化系配管18の炉水と接触する内面に、この内面を覆うニッケル金属皮膜80を形成することができる。このニッケル金属皮膜80によって、浄化系配管18から皮膜形成水溶液へのFe2+の溶出を防止することができ、浄化系配管18の内面への貴金属(例えば、白金)の付着がFe2+の溶出によって阻害されることがなくなり、浄化系配管18の内面への貴金属の付着(具体的には、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80の表面への貴金属の付着)に要する時間を短縮することができる。また、浄化系配管18の内面への貴金属の付着を効率良く行うことができ、この内面への貴金属の付着量が増加する。
本実施例では、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80には、50μg/cm2以上のニッケル金属が存在する。このように50μg/cm2以上のニッケル金属が存在すると、ニッケル金属皮膜80が、浄化系配管18の皮膜形成液に接触する内面の全面を覆った状態になる。このため、BWRプラントの運転中において、浄化系配管18内を流れる炉水が浄化系配管18の母材と接触することが、このニッケル金属皮膜80によって遮られる。従って、炉水に含まれる放射性核種の浄化系配管18の母材への取り込みが生じない。
浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80は、浄化系配管18への白金の付着に要する時間を短縮させるだけでなく、後述の実施例2及び3で述べるように、付着した白金81の作用と相まって、浄化系配管18の内面への、付着した白金81によっても炉水に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜の形成に貢献する。
浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜80の形成は、皮膜形成水溶液に含まれたニッケルイオンが浄化系配管18に含まれる鉄イオンと置換されて浄化系配管18の内面に取り込まれ、皮膜形成液に含まれるヒドラジン(還元剤)によりその内面に取り込まれたニッケルイオンが還元されてニッケル金属になることで行われる。このように、置換反応によって浄化系配管18に取り込まれたニッケルイオンから還元剤の作用により生成されたニッケル金属は、浄化系配管18の母材との密着性が強い。このため、形成されたニッケル金属皮膜80は、浄化系配管18からはがれることはない。
本実施例では、浄化系配管18の内面を還元除染した後、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜80を形成するため、浄化系配管18の内面に形成された、放射性核種を含む酸化皮膜の上にニッケル金属皮膜80が形成されることはなく、浄化系配管18から放出される放射線が低減されるので、浄化系配管18の表面線量率を著しく低減できる。
シュウ酸水溶液を用いた、浄化系配管18の内面の還元除染時、及びシュウ酸の分解時において、炭素鋼部材である浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)を、シュウ酸水溶液に注入した酸化剤(例えば、過酸化水素)の作用によって除去する。このシュウ酸鉄(II)の除去により、浄化系配管18とニッケル金属皮膜80の密着性を向上でき、ニッケル金属皮膜80が浄化系配管18の内面からはがれることを防止できる。
図10〜図15を用いて、本発明の実施例2による、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を説明する。本実施例では、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、BWRプラントの浄化系配管に適用した例を説明する。
本実施例による炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順(図1参照)におけるステップS1〜S13の各工程を実施した後、図10に示すステップS14〜S17の各工程を実施する。本実施例の炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、実施例1で用いる皮膜形成装置30をステップS1〜S13の工程で用い、加熱システム90をステップS14〜S17の工程で用いる。
図11は、加熱システム90の構成図である。加熱システム90は、循環配管91、循環ポンプ92、加熱器93、及び昇圧装置である弁94を備え、耐圧構造を有する。加熱システム90は、浄化系配管18(図2参照)に設置されている弁23及び弁25に循環配管91が接続される。
循環ポンプ92は、循環配管91に設けられる。加熱器93は、循環ポンプ92の上流で循環配管91に設けられ、循環配管91を流れる液体(酸素を含む水)を加熱する。加熱器93は、循環ポンプ92の下流に配置してもよい。循環配管91には、循環ポンプ92をバイパスする配管95が設けられる。配管95の一端部は、循環ポンプ92よりも上流で循環配管91に接続され、配管95の他端部は、循環ポンプ92よりも下流で循環配管91に接続される。弁94は、配管95に設けられる。循環配管91の上流側端部には、開閉弁96が設けられ、循環配管91の下流側端部には、開閉弁97が設けられる。
図10は、本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。図10に示したステップS1〜S13は、図1に示したステップS1〜S13と同一なので、説明を省略する。なお、本実施例による炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、実施例1の炭素鋼部材への貴金属の付着方法と同様に、BWRプラント1の運転が停止している期間中に実施する。
ステップS14で、皮膜形成装置30を炭素鋼製の配管系から取り外す。ステップS1〜S13の各工程を実施した後、浄化系配管18(図2参照)に接続されている皮膜形成装置30を浄化系配管18から取り外す。皮膜形成装置30の循環配管34の一端部を弁23のフランジから取り外し、循環配管34の他端部を弁25のフランジから取り外す。
ステップS15で、加熱システム90を配管系に接続する。加熱システム90の循環配管91の開閉弁97側の端部を弁23のフランジに接続することで、循環配管91の一端部が浄化系ポンプ19(図2参照)の上流で浄化系配管18に接続される。循環配管91の開閉弁96側の端部を弁25のフランジに接続することで、循環配管91の他端部が再生熱交換器20(図2参照)の下流で浄化系配管18に接続される。このようにして循環配管91の両端が浄化系配管18に接続され、浄化系配管18及び循環配管91を含む閉ループが形成される。
ステップS16で、酸素を含む200℃以上の水を、白金81が付着したニッケル金属皮膜80に接触させることで、ニッケル金属皮膜80からニッケルフェライト皮膜(NiFe2O4)を形成する。酸素を含む水には、例えば、炉水(RPV3内の冷却水)を用いることができる。循環ポンプ92を駆動して、酸素を含む水を、循環配管91及び浄化系配管18を含む閉ループ内に充填させ、この閉ループ内を循環させる。循環ポンプ92の回転速度を増加させ、その後、弁94を徐々に閉じてその開度を減少させながら、循環ポンプ92から吐出される酸素を含む水の圧力を高める。加熱器93により、閉ループ内を循環する酸素を含む水を加熱し、その水の温度を上昇させる。このようにして、循環ポンプ92から吐出される水の圧力を高めながら、この水の温度を上昇させる。弁94が全閉になった後は、循環ポンプ92の回転速度をさらに増加させる。
このような操作により、閉ループ内を循環する水の圧力は、所定の圧力(例えば1.6MPa)にまで上昇し、この水の温度は、200℃以上の温度(例えば約201℃)にまで上昇する。閉ループ内を循環する水の圧力及び温度は、上記のそれぞれの値に保持される。このようにして、酸素を含む200℃以上の水を、白金81が付着したニッケル金属皮膜80に接触させることができる。なお、閉ループ内を循環する水の圧力を6MPaまで上昇させると、この水の温度を約276℃まで上昇させることができる。
図13は、浄化系配管18の一部の断面図であり、浄化系配管18の内面に形成されて白金81が付着したニッケル金属皮膜80に、酸素を含む200℃以上の水85を接触させる様子を示す図である。なお、図13では、浄化系配管18の下面が浄化系配管18の内面である。
酸素を含む200℃以上(例えば約201℃)の水85は、循環配管91から浄化系配管18に供給され、浄化系配管18の内面に形成された、白金81が付着したニッケル金属皮膜80に接触する。浄化系配管18は、循環配管91の両端部が接続された弁23,25の付近を除いて、保温材(図示せず)で取り囲まれている。200℃以上の水85がニッケル金属皮膜80に接触することによって、浄化系配管18及びニッケル金属皮膜80のそれぞれが加熱され、それぞれの温度が200℃以上になる。
図14は、浄化系配管18の一部の断面図であり、200℃以上の水に含まれる酸素及び浄化系配管18内のFe2+が、浄化系配管18の内面に形成されて白金81が付着したニッケル金属皮膜80に移行する様子を示す図である。なお、図14では、浄化系配管18の下面が浄化系配管18の内面である。
酸素を含む水85、浄化系配管18及びニッケル金属皮膜80が200℃以上の温度であるため、水85に含まれる酸素(O2)がニッケル金属皮膜80内に移行し、浄化系配管18に含まれるFeがFe2+となってニッケル金属皮膜80内に移行する。ニッケル金属皮膜80に付着した白金81の作用により、浄化系配管18及びニッケル金属皮膜80の腐食電位が低下する。ニッケル金属皮膜80の腐食電位の低下と、200℃以上の高温環境とにより、ニッケル金属皮膜80内のニッケルがニッケル金属皮膜80内に移行した酸素及びFe2+と反応し、ニッケルフェライト(NiFe2O4)が生成する。
図15は、浄化系配管18の一部の断面図であり、浄化系配管18の内面に形成されて白金81が付着したニッケル金属皮膜80がニッケルフェライト皮膜82に変換された状態を示す図である。なお、図15では、浄化系配管18の下面が浄化系配管18の内面である。
上述のニッケルフェライト(NiFe2O4)の生成により、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80がこのニッケルフェライトの皮膜82に変換され、ニッケルフェライト皮膜82が浄化系配管18の内面を覆う。ニッケルフェライト皮膜82は、浄化系配管18の、ニッケル金属皮膜80が覆っていた内面全体を覆う。ニッケルフェライト皮膜82上には、白金81が付着している。生成されたニッケルフェライト(NiFe2O4)は、200℃以上(例えば約201℃)の高温環境下で形成されるため、Ni0.7Fe2.3O4よりも結晶が大きい。
ステップS17で、加熱システム90を炭素鋼製の配管系から取り外す。ニッケルフェライト(NiFe2O4)皮膜82が浄化系配管18の内面を覆って形成された後、浄化系配管18に接続されている加熱システム90を浄化系配管18から取り外す。酸素を含む200℃以上の水を白金81が付着したニッケル金属皮膜80に接触させている時間が所定時間になったとき、ニッケルフェライト皮膜82が浄化系配管18の内面を覆うように形成されたと判断する。なお、この所定時間は、予備試験を実施することにより予め定めることができる。加熱システム90の循環配管91の一端部を弁23のフランジから取り外し、循環配管91の他端部を弁25のフランジから取り外す。その後、浄化系配管18を復旧させる。
そして、燃料交換が終了してBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転に入るために、BWRプラント1を起動する。このBWRプラント1は、白金81が付着したニッケルフェライト皮膜82が内面に形成された浄化系配管18を有する。浄化系配管18内を流れる炉水は、ニッケルフェライト皮膜82が形成されているため、浄化系配管18の母材に直接接触することはない。
本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、実施例1による原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法が有する各効果を有する。
さらに、本実施例において、浄化系配管18の内面に、白金81が付着して腐食電位が低下したニッケル金属皮膜80から200℃以上の高温環境下で形成するニッケルフェライト皮膜82は、安定なニッケルフェライト皮膜であり、付着した白金81の作用でBWRプラント1の運転中に炉水中に溶出する、ということがない。このように、本実施例では、BWRプラント1の運転中に炉水中に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜82を浄化系配管18の内面に生成することができる。白金81が付着していても炉水中に溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜82は、60℃〜100℃の低い温度範囲で生成されたNi0.7Fe2.3O4の皮膜よりも、長期にわたって浄化系配管18への放射性核種の付着を抑制することができる。具体的には、浄化系配管18の内面に形成された安定なニッケルフェライト皮膜82は、複数の運転サイクルにわたって浄化系配管18への放射性核種の付着を抑制することができる。このため、浄化系配管18に対して実施される化学除染の回数を減少させることができる。
前述したように、ニッケル金属皮膜80は浄化系配管18の母材との密着性が強いため、本実施例で生成するニッケルフェライト皮膜82は、浄化系配管18の母材との密着性が強い。このため、ニッケルフェライト皮膜82も、浄化系配管18からはがれることがない。
本実施例では、ニッケル金属皮膜80の、浄化系配管18の内面への形成、及び白金81の、ニッケル金属皮膜80への付着が、BWRプラント1の運転停止後で再起動前のBWRプラント1の運転停止中に行われ、さらに、ニッケル金属皮膜80のニッケルフェライト皮膜82への変換もBWRプラント1の運転停止中に行われる。BWRプラント1の起動後にニッケル金属皮膜80のニッケルフェライト皮膜82への変換を行うと、BWRプラント1の起動時にニッケル金属皮膜80に含まれるニッケルが炉水に溶出することがある。本実施例では、BWRプラント1の運転停止中にニッケル金属皮膜80のニッケルフェライト皮膜82への変換を行うので、BWRプラント1の起動時にニッケルが炉水に溶出することがない。このため、原子炉出力が100%になるBRWプラント1の起動時においても、ニッケルフェライト皮膜82により、浄化系配管18への放射性核種の付着を抑制することができる。
浄化系配管18の内面に白金を直接付着させた場合には、ステンレス鋼製の構成部材(例えば、再循環系配管6)における応力腐食割れの発生を抑制するために、BWRプラントの運転中においてRPV3内の炉水に水素を注入することがある。この場合、この水素を含む炉水が浄化系配管18内に流入して炭素鋼製の浄化系配管18の内面に接触すると、浄化系配管18の内面に付着した白金81の作用により、浄化系配管18の腐食電位が上昇する。このため、浄化系配管18の内面に酸化皮膜が形成され、この酸化皮膜に炉水に含まれる放射性核種が取り込まれる。この放射性核種により、浄化系配管18の表面線量率は上昇する。
これに対し、本実施例では、白金81の作用によっても溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜82が浄化系配管18の内面を覆っており、白金81がニッケルフェライト皮膜82の表面に付着しているので、BWRプラント1の運転中においても、ニッケルフェライト皮膜82に付着した白金81の作用により、浄化系配管18及びニッケルフェライト皮膜82の腐食電位が低下し、浄化系配管18及びニッケルフェライト皮膜82への放射性核種の取り込みが生じない。BWRプラント1の運転中において炉水に水素を注入しているときでも、浄化系配管18及びニッケルフェライト皮膜82の腐食電位が低下し、これらへの放射性核種の取り込みが生じない。
図12を用いて、本発明の実施例3による、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を説明する。本実施例では、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を、BWRプラントの浄化系配管に適用した例を説明する。
図12は、本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順を示すフローチャートである。本実施例による炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、実施例2の原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法の手順(図10参照)において、ステップS15〜S17の工程をS18及びS19の工程に替えた方法である。すなわち、本実施例では、実施例2での手順(図10参照)におけるステップS1〜S14の工程を実施した後、図12に示すステップS18及びS19の工程を実施する。本実施例の炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法では、実施例1で用いる皮膜形成装置30をステップS1〜S13の工程で用いる。
以下、本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法を説明する。なお、図12に示したステップS1〜S13は、図10に示したステップS1〜S13と同一なので、説明を省略する。
ステップS14で、皮膜形成装置30を炭素鋼製の配管系から取り外す。ステップS1〜S13の各工程を実施した後、浄化系配管18(図2参照)に接続されている皮膜形成装置30を浄化系配管18から取り外す。その後、浄化系配管18を復旧させる。
ステップS18で、原子力プラント(BWRプラント1)を起動させる。燃料交換が終了してBWRプラント1の保守点検が終了した後、次の運転サイクルでの運転に入るために、白金81が付着したニッケル金属皮膜80が内面に形成された浄化系配管18を有するBWRプラント1を起動させる。
ステップS19で、200℃以上の炉水を白金81が付着したニッケル金属皮膜80に接触させる。BWRプラント1(図2参照)が起動したとき、RPV3内の炉水は、再循環ポンプ7で昇圧され、再循環系配管6を通ってジェットポンプ5内に噴出される。ダウンカマ内でジェットポンプ5のノズルの周囲に存在する炉水も、ジェットポンプ5内に吸引されて炉心4に供給される。炉心4から吐出された炉水は、ダウンカマ内に戻される。炉心4から制御棒(図示せず)が引き抜かれて炉心4が未臨界状態から臨界状態になり、炉心4内の炉水が燃料棒内の核燃料物質の核分裂で生じる熱で加熱される。炉心4では蒸気が発生しなく、タービン9にはまだ蒸気が供給されていない。さらに、制御棒が炉心4から引き抜かれ、原子炉2の昇温昇圧工程において、RPV3内の圧力が定格圧力まで上昇し、核分裂で生じる熱によって炉水が加熱されてRPV3内の炉水の温度が定格温度(280℃)まで上昇する。RPV3内の圧力が定格圧力になり、炉水温度が定格温度まで上昇した後、炉心4からの制御棒の引き抜き、及び炉心4に供給される炉水の流量増加により、原子炉出力が定格出力(100%出力)まで上昇する。定格出力を維持したBWRプラント1の定格運転が、その運転サイクルの終了まで継続される。原子炉出力が、例えば、10%出力まで上昇したとき、炉心4で発生した蒸気が主蒸気配管8を通してタービン9に供給され、発電が開始される。
炉水には、酸素及び過酸化水素が含まれている。酸素及び過酸化水素は、RPV3内で炉水の放射線分解により生成される。原子炉2の昇温昇圧工程において、炉水は、核分裂で生じる熱により加熱され、温度が上昇して200℃以上になり280℃に達する。このため、運転中のBWRプラント1のRPV3内の炉水は、酸素を含む200℃以上の水85として用いることができる。
RPV3内の炉水(酸素を含む200℃以上の水85)は、再循環系配管6から浄化系配管18内に導かれ、浄化系配管18の内面に形成された、白金81が付着したニッケル金属皮膜80に接触する(図13参照)。炉水85の温度が200℃以上であると、ニッケル金属皮膜80及び保温材で取り囲まれている浄化系配管18の温度も200℃以上になる。この結果、炉水85に含まれる酸素がニッケル金属皮膜80内に移行し、浄化系配管18に含まれるFeがFe2+となってニッケル金属皮膜80内に移行する(図14参照)。浄化系配管18及びニッケル金属皮膜80は、ニッケル金属皮膜80に付着した白金81の作用により、腐食電位が低下する。実施例2と同様に、ニッケル金属皮膜80の腐食電位の低下と、200℃以上の高温環境とにより、ニッケル金属皮膜80内のニッケルがニッケル金属皮膜80内に移行した酸素及びFe2+と反応し、ニッケルフェライト(NiFe2O4)が生成する。
このため、浄化系配管18の内面に形成されたニッケル金属皮膜80がこのニッケルフェライトの皮膜82に変換され、ニッケルフェライト皮膜82が浄化系配管18の内面を覆う(図15参照)。ニッケルフェライト皮膜82は、浄化系配管18の、ニッケル金属皮膜80が覆っていた内面全体を覆う。ニッケルフェライト皮膜82上には、白金81が付着している。
本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法は、実施例2による原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法が有する各効果を有する。
さらに、本実施例では、実施例2のように、皮膜形成装置30を浄化系配管18から取り外した後における加熱システム90の浄化系配管18への接続作業、及びニッケルフェライト皮膜82を浄化系配管18の内面に形成した後における加熱システム90の浄化系配管18からの取り外し作業を行う必要がない。本実施例では、皮膜形成装置30を浄化系配管18から取り外した後に、BWRプラント1を起動させるだけで、浄化系配管18の内面に形成されて白金81が付着したニッケル金属皮膜80を、白金81が付着したニッケルフェライト皮膜82に変換することができる。このため、浄化系配管18の内面に安定なニッケルフェライト皮膜82を形成するのに要する時間を、加熱システム90の浄化系配管18への接続作業及び加熱システム90の浄化系配管18からの取り外し作業を実施しない分、実施例2よりも短縮することができる。
本実施例では、ニッケル金属皮膜80の、浄化系配管18の内面への形成、及び白金81の、ニッケル金属皮膜80への付着が、実施例2と同様に、BWRプラント1の運転停止中に行われるが、ニッケル金属皮膜80のニッケルフェライト皮膜82への変換は、実施例2と異なり、BWRプラント1の起動後に行われる。このため、炉水の温度が200℃未満の状態では、ニッケル金属皮膜80がニッケルフェライト皮膜82に変換せず、浄化系配管18の内面が、白金81が付着したニッケル金属皮膜80で覆われている(図13参照)。この状態でも、白金81の作用により、炉水が接触している浄化系配管18及びニッケル金属皮膜80の腐食電位が低下し、ニッケル金属皮膜80及び浄化系配管18への放射性核種の取り込みは生じない。このように、浄化系配管18への放射性核種の付着を抑制できる。
しかし、炉水がニッケル金属皮膜80に接触する状態では、極微量であるがニッケル金属皮膜80に含まれるニッケルが炉水中に溶出する。このため、炉水がニッケル金属皮膜80に接触する期間が長くなると(例えば、一つの運転サイクルの期間にわたると)、ニッケル金属皮膜80が消失する可能性もある。しかし、本実施例では、BWRプラント1の起動時における昇温昇圧工程で炉水の温度が200℃以上になると、前述したように、白金81が付着して炉水(酸素を含む200℃以上の水85)に接触しているニッケル金属皮膜80がニッケルフェライト皮膜82に変わる。このため、運転サイクルのほとんど大部分の期間では、白金81の作用でも溶出しない安定なニッケルフェライト皮膜82が浄化系配管18の内面を覆っているので、白金81が付着したニッケルフェライト皮膜82により、浄化系配管18への放射性核種の付着が抑制される。炉水の温度が200℃未満の期間は、一つの運転サイクルの期間において極短い期間であるので、ニッケル金属皮膜80から炉水に溶出するニッケルの量は極僅かであり、ニッケル金属皮膜80の厚さはほとんど変化しない。
図16〜図18を用いて、本発明の実施例4による、原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を説明する。本実施例では、原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法を、BWRプラントの浄化系配管に適用した例を説明する。
本実施例による炭素鋼部材への貴金属の付着方法では、実施例1の原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順(図1参照)におけるステップS1〜S3の各工程を実施した後、図16に示すステップS20の工程を実施し、その後、実施例1の炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順におけるステップS4〜S13の各工程を実施する。本実施例による炭素鋼部材への貴金属の付着方法では、図17に示す皮膜形成装置100をステップS1〜S3、ステップS20、及びステップS4〜S13の工程で用いる。
図17は、本実施例における皮膜形成装置100の詳細な構成を示す図である。皮膜形成装置100は、実施例1における皮膜形成装置30において、酸化剤供給装置56の薬液タンク57と循環配管34とを接続する注入配管99と、注入配管99に設けられた弁101とをさらに備える構成を有する。注入配管99は、ニッケルイオン注入装置35の注入配管38と循環配管34との接続点と弁76の間で、循環配管34に接続される。
図16は、本実施例による原子力プラントの炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順を示すフローチャートである。以下では、ステップS20の工程のみについて説明する。ステップS1〜S3とステップS4〜S13の工程は、実施例1の炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順(図1参照)におけるステップS1〜S3とステップS4〜S13の工程とそれぞれ同じであるので、説明を省略する。
ステップS20で、弁101(図17参照)を開いて供給ポンプ58を起動し、薬液タンク57内の過酸化水素を注入配管99を通して、循環配管34内を流れている皮膜形成液に注入する。ステップS20では、ステップS2で行うシュウ酸の分解の実施後(還元除染剤分解工程後)に、浄化系配管18の内面に形成されたシュウ酸鉄(II)に酸化剤(例えば、過酸化水素)を接触させることで、シュウ酸鉄を水酸化鉄(Fe(OH)3)に改質する。すなわち、浄化系配管18の内面に酸化剤を接触させることにより、浄化系配管18の内面に水酸化鉄を形成する。水酸化鉄は、シュウ酸鉄よりもNiイオンに置換されやすいことから、薬液タンク57内の過酸化水素を注入配管99を通して循環配管34に供給することで、浄化系配管18の内面へのニッケル金属皮膜80の形成を促進することができる。
この過酸化水素の皮膜形成液への注入(浄化系配管18の内面への水酸化鉄の形成)は、循環配管34及び浄化系配管18を含む閉ループ内の浄化系配管18の、皮膜形成液と接触する内面の全面に過酸化水素が接触するのに要する時間にわたって行う。この時間は、予備試験を実施することにより予め定めることができる。
図18は、本実施例の炭素鋼部材への貴金属の付着方法によるニッケル金属皮膜80の形成量と、実施例1の炭素鋼部材への貴金属の付着方法によるニッケル金属皮膜80の形成量の測定結果を示す図である。ビーカー内に炭素鋼製の試験片を設置し、本実施例の炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順(図16のステップS20、S4〜S6)と、実施例1の炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順(図1のステップS4〜S6)をそれぞれ実施し、試験片(炭素鋼部材)の表面へのニッケル金属皮膜80の形成量をそれぞれ求めた。ニッケル金属皮膜80の形成量として、試験片の1平方センチメートル当たりのニッケル金属の質量を求めた。図18では、炭素鋼部材へのニッケル金属皮膜80の形成量を、本実施例の炭素鋼部材への貴金属の付着方法によるニッケル金属皮膜80の形成量を基準とした相対値で示している。
本実施例の炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順では、ギ酸を含む90℃の水溶液を入れたビーカー内に試験片を設置し、このギ酸を含む90℃の水溶液に濃度が50ppm以上である過酸化水素を注入した。次に、過酸化水素が注入されたギ酸を含む90℃の水溶液にニッケルイオン濃度が200ppmのギ酸ニッケル水溶液(ニッケルイオン水溶液)を注入した。次に、ニッケルイオン及びギ酸を含む90℃の水溶液に、ヒドラジン濃度が200ppmであるヒドラジン水溶液を注入し、ニッケルイオン及びギ酸を含む90℃の水溶液のpHが4.0になるようにして、試験片の表面にニッケル金属皮膜80を形成した。
実施例1の炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順では、ギ酸を含む90℃の水溶液を入れたビーカー内に試験片を設置し、このギ酸を含む90℃の水溶液にニッケルイオン濃度が200ppmのギ酸ニッケル水溶液(ニッケルイオン水溶液)を注入した。以下は、上述の、本実施例の炭素鋼部材への貴金属の付着方法の手順と同様にした。
図18に示すように、本実施例の炭素鋼部材への貴金属の付着方法によるニッケル金属皮膜80の形成量は、実施例1の炭素鋼部材への貴金属の付着方法によるニッケル金属皮膜80の形成量の5倍になった。このため、本実施例の炭素鋼部材への貴金属の付着方法では、実施例1の炭素鋼部材への貴金属の付着方法に比べて、浄化系配管18の内面にニッケル金属皮膜80を形成するのに要する時間を短縮でき、この結果、浄化系配管18の内面に貴金属を付着させるのに要する時間を短縮できる。
本実施例の炭素鋼部材への貴金属の付着方法は、実施例2と実施例3による、原子力プラントの炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法に適用することもできる。本実施例の炭素鋼部材への貴金属の付着方法を、実施例2または実施例3による炭素鋼部材への放射性核種の付着抑制方法に適用すると、浄化系配管18の内面を覆うようにニッケルフェライト皮膜82を形成するのに要する時間を短縮できる。
なお、酸化剤(過酸化水素)の皮膜形成液への注入による浄化系配管18の内面への水酸化鉄の形成(本実施例でのステップS20の工程)は、還元除染剤(シュウ酸)の分解後(還元除染剤分解工程後)に行ってもよく、還元除染剤の分解中(還元除染剤分解工程中)に行ってもよい。すなわち、過酸化水素の皮膜形成液への注入は、ステップS2で行うシュウ酸及びヒドラジンの分解を実施しているとき(還元除染剤分解工程中)、ステップS2とステップS3の間、ステップS3の実施中、及び本実施例でのようにステップS3の終了後でステップS4の開始前のうち、少なくとも1つの時期に行うことができる。
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、上記の実施例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、本発明は、必ずしも説明した全ての構成を備える態様に限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、削除したり、他の構成を追加・置換したりすることが可能である。