以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。また、説明の理解を助けるため、各図面における各構成要素の寸法比は、必ずしも実際の発光素子の寸法比と一致しない。
図1は、実施の形態に係る半導体発光素子10の構成を概略的に示す断面図である。半導体発光素子10は、中心波長λが約360nm以下となる「深紫外光」を発するように構成されるLED(Light Emitting Diode)チップである。このような波長の深紫外光を出力するため、半導体発光素子10は、バンドギャップが約3.4eV以上となる窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)系半導体材料で構成される。本実施の形態では、中心波長λが300nm以上350nm以下の深紫外光を発する場合について示す。
本明細書において、「AlGaN系半導体材料」とは、主に窒化アルミニウム(AlN)と窒化ガリウム(GaN)を含む半導体材料のことをいい、窒化インジウム(InN)などの他の材料を含有する半導体材料を含むものとする。したがって、本明細書にいう「AlGaN系半導体材料」は、例えば、In1−x−yAlxGayN(0≦x+y≦1、0≦x≦1、0≦y≦1)の組成で表すことができ、AlN、GaN、AlGaN、窒化インジウムアルミニウム(InAlN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化インジウムアルミニウムガリウム(InAlGaN)を含むものとする。
また「AlGaN系半導体材料」のうち、AlNを実質的に含まない材料を区別するために「GaN系半導体材料」ということがある。「GaN系半導体材料」には、主にGaNやInGaNが含まれ、これらに微量のAlNを含有する材料も含まれる。同様に、「AlGaN系半導体材料」のうち、GaNを実質的に含まない材料を区別するために「AlN系半導体材料」ということがある。「AlN系半導体材料」には、主にAlNやInAlNが含まれ、これらに微量のGaNが含有される材料も含まれる。
半導体発光素子10は、基板20と、バッファ層22と、n型第1クラッド層24と、n型第2クラッド層25と、活性層26と、電子ブロック層28と、p型クラッド層30と、n側電極32と、p側電極34とを備える。
基板20は、半導体発光素子10が発する深紫外光に対して透光性を有する基板であり、例えば、サファイア(Al2O3)基板である。基板20は、第1主面20aと、第1主面20aの反対側の第2主面20bを有する。第1主面20aは、バッファ層22より上の各層を成長させるための結晶成長面となる一主面である。第2主面20bは、活性層26が発する深紫外光を外部に取り出すための光取出面となる一主面である。変形例において、基板20は、窒化アルミニウム(AlN)基板であってもよい。
バッファ層22は、基板20の第1主面20aの上に形成される。バッファ層22は、n型第1クラッド層24より上の各層を形成するための下地層(テンプレート層)である。バッファ層22は、例えば、アンドープのAlN層であり、具体的には高温成長させたAlN(HT−AlN;High Temparature AlN)層である。バッファ層22は、AlN層上に形成されるアンドープのAlGaN層を含んでもよい。変形例において、基板20がAlN基板である場合、バッファ層22は、アンドープのAlGaN層のみで構成されてもよい。なお、基板20がAlN基板である場合、バッファ層22が設けられなくてもよい。
n型第1クラッド層24は、バッファ層22の上に形成される。n型第1クラッド層24は、n型のAlGaN系半導体材料層であり、例えば、n型の不純物としてシリコン(Si)がドープされるAlGaN層である。n型第1クラッド層24は、活性層26が発する深紫外光を透過するように組成比が選択され、例えば、AlNのモル分率が20%以上、好ましくは、40%以上または50%以上となるように形成される。n型第1クラッド層24の厚さt1は、0.1μm〜3μm程度であり、例えば、1μm〜2μm程度である。
n型第2クラッド層25は、n型第1クラッド層24の上に形成される。n型第2クラッド層25は、n型第1クラッド層24と同様、n型のAlGaN系半導体材料層である。n型第2クラッド層25は、活性層26が発する深紫外光を透過するように組成比が選択され、例えば、AlNのモル分率が20%以上、好ましくは、30%以上または40%以上となるように形成される。その一方で、n型第2クラッド層25は、バルク抵抗を下げるためにAlNのモル分率が50%以下となるように形成される。n型第2クラッド層25の厚さt2は、0.5μm〜3.5μm程度であり、例えば、1μm〜3μm程度である。
n型第1クラッド層24およびn型第2クラッド層25を比較すると、n型第1クラッド層24よりもn型第2クラッド層25のAlNモル分率が低くなるよう構成される。逆に言えば、n型第2クラッド層25よりもn型第1クラッド層24のAlNモル分率が高くなるよう構成される。n型第1クラッド層24のAlNモル分率を高めることにより、AlNまたは高AlN組成のAlGaNで構成されるバッファ層22とn型第1クラッド層24の間の格子定数差を緩和できる。
n型第2クラッド層25の結晶品質を高めるためには、n型第1クラッド層24とn型第2クラッド層25のAlN組成の違いができるだけ小さい方が好ましい。n型第1クラッド層24とn型第2クラッド層25のAlNモル分率の差は、5%以上25%以下であることが好ましく、例えば、10%以上20%以下であることが好ましい。n型第1クラッド層24のAlNモル分率をできるだけ小さくすることにより、n型第1クラッド層24とn型第2クラッド層25の合計のバルク抵抗をより低くできる。
n型第1クラッド層24およびn型第2クラッド層25を比較すると、n型第1クラッド層24よりもn型第2クラッド層25の積層方向の厚さが大きくなるよう構成される。逆に言えば、n型第2クラッド層25の厚さt2よりもn型第1クラッド層24の厚さt1が小さくなるように構成される。相対的に高AlN組成であるn型第1クラッド層24の厚さを相対的に小さくすることにより、n型第1クラッド層24とn型第2クラッド層25の合計のバルク抵抗をより低くできる。また、n型第2クラッド層25を厚めに形成することにより、n型第2クラッド層25の上に形成される活性層26の結晶品質を高めることができる。
活性層26は、AlGaN系半導体材料で構成され、n型第2クラッド層25と電子ブロック層28の間に挟まれてダブルへテロ接合構造を形成する。活性層26は、単層または多層の量子井戸構造を有し、例えば、アンドープのAlGaN系半導体材料で形成される障壁層と、アンドープのAlGaN系半導体材料で形成される井戸層の積層体で構成される。活性層26は、波長355nm以下の深紫外光を出力するためにバンドギャップが3.4eV以上となるように構成され、例えば、波長300nm以上の深紫外光を発するようにAlN組成比が選択される。
電子ブロック層28は、活性層26の上に形成される。電子ブロック層28は、p型のAlGaN系半導体材料層であり、例えば、AlNのモル分率が40%以上、好ましくは、50%以上となるように形成される。電子ブロック層28は、AlNのモル分率が80%以上となるように形成されてもよく、実質的にGaNを含まないAlN系半導体材料で形成されてもよい。電子ブロック層は、1nm〜10nm程度の厚さを有し、例えば、2nm〜5nm程度の厚さを有する。電子ブロック層28は、p型ではなく、アンドープの半導体層であってもよい。
p型クラッド層30は、電子ブロック層28の上に形成されるp型半導体層である。p型クラッド層30は、p型のAlGaN系半導体材料層であり、例えば、p型の不純物としてマグネシウム(Mg)がドープされるAlGaN層である。p型クラッド層30は、300nm〜700nm程度の厚さを有し、例えば、400nm〜600nm程度の厚さを有する。p型クラッド層30は、実質的にAlNを含まないp型GaN系半導体材料で形成されてもよい。
n側電極32は、n型第2クラッド層25の一部領域上に形成される。n側電極32は、n型第2クラッド層25の上にチタン(Ti)/アルミニウム(Al)/Ti/金(Au)が順に積層された多層膜で形成される。n側電極32は、n型第2クラッド層25の一部領域を除去することにより露出するn型第1クラッド層24の上に設けられてもよい。p側電極34は、p型クラッド層30の上に形成される。p側電極34は、p型クラッド層30の上に順に積層されるニッケル(Ni)/金(Au)の多層膜で形成される。
図2は、半導体発光素子10のエネルギーバンドを模式的に示す図であり、特に活性層26付近の伝導帯の基底準位を模式的に示す。図2は、3層の障壁層36a,36b,36c(総称して障壁層36ともいう)と、3層の井戸層38a,38b,38c(総称して井戸層38ともいう)とを交互に積層させた多重量子井戸構造で活性層26が構成される場合を示す。活性層26は、3層の量子井戸構造に限られず、単層の量子井戸構造であってもよいし、2層または4層以上の量子井戸構造であってもよい。
図示されるように、井戸層38の基底準位E0が最も低く、n型第2クラッド層25の基底準位E2は、井戸層38の基底準位E0よりも高い。n型第1クラッド層24の基底準位E1は、n型第2クラッド層25の基底準位E2よりも高い。障壁層36の基底準位は、n型第2クラッド層25の基底準位E2よりも高く、n型第1クラッド層24の基底準位E1と同程度である。障壁層36の基底準位は、n型第1クラッド層24の基底準位E1よりも高くてもよいし、低くてもよい。
つづいて、半導体発光素子10の製造方法について説明する。図3は、半導体発光素子10の製造方法を示すフローチャートである。まず、基板20を用意し、基板20の第1主面20aの上にバッファ層22およびn型第1クラッド層24を順に形成する(S10)。
基板20は、サファイア(Al2O3)基板であり、AlGaN系半導体材料を形成するための成長基板である。例えば、サファイア基板の(0001)面上にバッファ層22が形成される。バッファ層22は、例えば、高温成長させたAlN(HT−AlN)層と、アンドープのAlGaN(u−AlGaN)層とを含む。n型第1クラッド層24は、n型のAlGaN系半導体材料で形成される層であり、有機金属化学気相成長(MOVPE)法や、分子線エピタキシ(MBE)法などの周知のエピタキシャル成長法を用いて形成できる。
つづいて、n型第1クラッド層24の上にn型第2クラッド層25を形成する(S12)。n型第2クラッド層25は、n型第1クラッド層24よりも低AlNモル分率のn型AlGaN系半導体材料で形成され、例えば、n型第1クラッド層24よりもAlNモル分率が5%〜25%程度低くなるように形成される。n型第2クラッド層25は、MOVPE法やMBE法などの周知のエピタキシャル成長法を用いて形成できる。
次に、n型第2クラッド層25の上に活性層26を形成する(S14)。例えば、n型第2クラッド層25の上に障壁層36と井戸層38とを順に積層させることにより、量子井戸構造を有する活性層26が形成される。活性層26は、AlGaN系半導体材料で形成され、MOVPE法やMBE法などの周知のエピタキシャル成長法を用いて形成できる。
次に、活性層26の上にp型半導体層を形成する(S16)。例えば、活性層26の上に電子ブロック層28を形成し、つづいて、p型クラッド層30を形成する。電子ブロック層28およびp型クラッド層30は、AlN系半導体材料またはAlGaN系半導体材料で形成される層であり、MOVPE法やMBE法などの周知のエピタキシャル成長法を用いて形成できる。
つづいて、n側電極32およびp側電極34を形成する(S18)。まず、p型クラッド層30の上にマスクを形成し、マスクが形成されていない露出領域の活性層26、電子ブロック層28およびp型クラッド層30を除去する。活性層26、電子ブロック層28およびp型クラッド層30の除去は、プラズマエッチングにより行うことができる。n型第1クラッド層24の露出面上にn側電極32を形成し、マスクを除去したp型クラッド層30の上にp側電極34を形成する。n側電極32およびp側電極34は、例えば、電子ビーム蒸着法やスパッタリング法などの周知の方法により形成することができる。これにより、図1に示す半導体発光素子10ができあがる。
本実施の形態によれば、AlN層上に高AlN組成のn型第1クラッド層24を形成し、その上に低AlN組成のn型第2クラッド層25を形成することで、n型第2クラッド層25の結晶品質を高めることができる。その結果、活性層26でのクラックの発生を抑制し、活性層26の結晶品質を高めることができる。これにより、半導体発光素子10の発光特性を向上させることができる。
本実施の形態によれば、AlN組成の異なるn型第1クラッド層24とn型第2クラッド層25とを組み合わせることにより、n型クラッド層のバルク抵抗の低減と結晶品質の向上とを両立させることができる。また、n型第1クラッド層24とn型第2クラッド層25のAlN組成の差を小さして格子定数差を小さくすることで、n型第1クラッド層24の上に形成されるn型第2クラッド層25の結晶品質をより高めることができる。
以上、本発明を実施の形態にもとづいて説明した。本発明は上記実施の形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。