JP2018154681A - 熱可塑性エラストマー組成物 - Google Patents

熱可塑性エラストマー組成物 Download PDF

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Abstract

【課題】優れた圧縮永久歪み(へたり性)と耐寒性(耐低温脆化性)を有し、成形加工性も良好な熱可塑性エラストマー組成物を提供する。【解決手段】少なくとも下記成分(A)〜(C)と架橋剤とを溶融混練してなる熱可塑性エラストマー組成物。成分(A):ポリプロピレン系樹脂成分(B):エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム成分(C):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、イソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体及び/またはその水添物【選択図】なし

Description

本発明は、成形した際の成形体の圧縮永久歪(へたり性)と耐寒性(耐低温脆化性)に優れ、成形加工性も良好な熱可塑性エラストマー組成物と、この熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体に関する。本発明の熱可塑性エラストマー組成物及びその成形体は、自動車用シール材、建材用シール材等として有用である。
ポリプロピレン系樹脂及びエチレン・α−オレフィン共重合体を含む混合物を架橋剤の存在下に動的熱処理して得られる熱可塑性エラストマー組成物は、ゴム的な軟質材料としての特性を示しながらも加硫工程が不要であり、熱可塑性樹脂と同様の成形加工性を有するものである。このため、このような熱可塑性エラストマー組成物は、製造工程の合理化やリサイクル性等の観点から注目され、自動車部品、家電用品、医療用機器部品、電線、雑貨等の分野で広く使用されている。
このような熱可塑性エラストマー組成物には、自動車用シール材や建材用シール材としての用途において、近年、成形加工性のみならず、得られる成形体について、圧縮永久歪み(へたり性)と耐寒性(耐低温脆化性)などの耐久性能が強く求められている。
従来、良好な圧縮永久歪みを得るための技術としては、オレフィン系共重合ゴムと鉱物油系ゴム用軟化剤とポリプロピレン系樹脂の混合物を動的架橋して得られたオレフィン系熱可塑性エラストマーに、曲げ弾性率(JIS K7203)が500MPa以下であり、架橋構造を有さないオレフィン系熱可塑性エラストマー成分を混合する技術が、特許文献1に開示されている。
なお、特許文献2には、結晶性オレフィン系樹脂に架橋成分としてスチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体を配合することで制振性、圧縮永久歪を改善した熱可塑性エラストマー組成物が開示されているが、樹脂成分としてポリプロピレン系樹脂とエチレン・α−オレフィン共重合体を併用するものではなく、耐寒性(耐低温脆化性)の改善についての記載はない。
特開2006−36813号公報 特開2006−117744号公報
上記特許文献1に記載の熱可塑性エラストマー組成物は、圧縮永久歪(へたり性)は良好であるが、ゴムの良分散によって更に圧縮永久歪を高めるべく鉱物油系ゴム用軟化剤の配合量を多くするなどの調整を行うと、耐寒性(耐低温脆化性)が劣るものとなる。また、圧縮永久歪みと耐寒性(耐低温脆化性)を両立させるために、配合全体に対するゴムの割合を多くすると成形性が大きく損なわれるため、圧縮永久歪み及び耐寒性(耐低温脆化性)と成形加工性とを同時にすべて満足させるという点において、改善の余地がある。
特許文献2には、スチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体を配合した制振性熱可塑性エラストマー組成物が記載されているが、従来、スチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体が、エチレン・α−オレフィン系共重合体(高ゴム弾性成分)と直接結びつき、圧縮永久歪みと耐寒性(耐低温脆化性)を向上させ、かつ成形加工性も良好に保つという効果は知られておらず、この特許文献2にも、このような作用効果を示唆する記載はない。
このように、従来において、圧縮永久歪及び耐寒性(耐低温脆化性)と成形加工性を全て同時に良好にすることを可能とした熱可塑性エラストマー組成物は未だ提供されていない。
本発明は、上記従来技術の問題点を解決し、優れた圧縮永久歪み(へたり性)及び耐寒性(耐低温脆化性)と成形加工性を有する熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
本発明者は、制振性付与成分として公知のスチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体が、圧縮永久歪と耐寒性(耐低温脆化性)の向上に有効であるという、従来全く知られていなかった、制振性とは全く異質の効果を示すという新規知見を得、更に検討を重ねた結果、スチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体等のブロック共重合体と、特定のプロピレン系樹脂とエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムを組み合わせて用いることにより、上記の課題を解決し得ることを見出した。本発明で課題とする圧縮永久歪は、ゴム弾性が高ければ良好になる性能であり、ゴムの粘性が高ければ良好になる制振性とは本来相反する性能であるため、制振性付与成分としてのスチレン−ビニルイソプレンブロック共重合体が圧縮永久歪の向上に寄与するという知見は、本発明に特徴的かつ有意義なものである。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 少なくとも下記成分(A)〜(C)と架橋剤とを溶融混練してなる熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂
成分(B):エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム
成分(C):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、イソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体及び/またはその水添物
[2] 成分(B)がエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体である、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3] 成分(C)が非水添ブロック共重合体である、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4] 成分(A)〜(C)の合計量100質量部に対する架橋剤の割合が、0.05質量部以上10質量部以下である、[1]ないし[3]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[5]成分(A)が下記成分(A1)及び成分(A2)を含むポリプロピレン系樹脂である、[1]ないし[4]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
成分(A1):融解ピーク温度が157℃以上175℃以下であるプロピレン系重合体
成分(A2):融解ピーク温度が100℃以上157℃未満であるプロピレン系ランダム共重合体
[6] 成分(A)と成分(B)の合計量100質量部に対する成分(A)の割合が40〜70質量部で、成分(B)の割合が30〜60質量部である、[1]ないし[5]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[7] 更に下記成分(D)を原料として用い、かつその割合が成分(B)100質量部に対して40〜320質量部である、[1]ないし[6]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
成分(D):炭化水素系ゴム用軟化剤
[8] [1]ないし[7]のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体。
[9] 自動車用部材である、[8]に記載の成形体。
[10] 自動車用グラスランチャンネルである、[9]に記載の成形体。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、成形した際の成形体の圧縮永久歪(へたり性)と耐寒性(耐低温脆化性)に優れ、成形加工性も良好であり、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を用いて、圧縮永久歪(へたり性)と耐寒性(耐低温脆化性)に優れた成形体を、良好な成形加工性のもとに得ることができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物及び成形体は、その優れた圧縮永久歪(へたり性)及び耐寒性(耐低温脆化性)と成形加工性から、自動車用シール材、建材用シール材として有用であり、特に自動車用グラスランチャンネルとして有用である。
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。なお、本明細書において、「〜」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
〔熱可塑性エラストマー組成物の製造方法〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、少なくとも下記成分(A)〜(C)と架橋剤とを溶融混練してなるものである。
成分(A):ポリプロピレン系樹脂
成分(B):エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム
成分(C):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、イソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体及び/またはその水添物
[メカニズム]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、得られる成形体が圧縮永久歪(へたり性)と耐寒性(耐低温脆化性)に優れ、成形加工性も良好であるという効果を奏する。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物がこのような効果を奏する理由の詳細は定かではないが、成分(C)が、ゴム弾性の発現成分である成分(B)を取り込みながら分散体を形成する(ゴム分散体の核として働く)ことで、成分(A)のポリプロピレン相との明確なゴムドメイン相を形成し、圧縮永久歪(へたり性)が向上したと考えている。これは、成分(B)と成分(C)が互いに側鎖に反応基を持つことができ、それらが架橋して結びついたためであると推測している。また、成分(B)と成分(C)が上記のように分散し、分散不良による性能の低下がないため、配合全体におけるゴム成分(特に低温での弾性を示す成分(B))の割合を高くすることができ、耐寒性(耐低温脆化性)も良好なものとすることができると考えられる。
更に、上述したような架橋反応が進行することで流動性が過度に大きくならず、優れた成形加工性が得られると考えられる。
前述の特許文献2のように、従来、エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴムとビニル芳香族化合物を主体とするブロック共重合体ゴムを同時に用いて、得られる成形体の柔軟性や制振性を向上させる方法は一般に良く知られているが、架橋システムを利用し、その相乗効果によって永久圧縮歪(へたり性)と耐寒性(耐低温脆化性)の性能を満足させ、更に成形加工性も良好なものとする技術は、本発明によって初めて確立されたものである。
[成分(A)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(A)は、好ましくは下記成分(A1)及び成分(A2)を含むポリプロピレン系樹脂であり、これらを含むものであれば、その他のポリプロピレン系樹脂を含むものであってもよい。なお、本発明において、「ポリプロピレン系樹脂」とはプロピレン単位の含有量が50質量%以上であるものを意味する。本発明において、成分(A)は主に押出成形性に寄与する。
成分(A1):融解ピーク温度が157℃以上175℃以下であるプロピレン系重合体
成分(A2):融解ピーク温度が100℃以上157℃未満であるプロピレン系ランダム共重合体
なお、成分(A1)及び成分(A2)の融解ピーク温度は、JIS K7121に従い、以下の方法により測定することができる。
即ち、示差走査熱量計(エスエスアイ・ナノテクノロジー社製DSC6220)を用いて、以下の工程(1)〜(3)を順に実施してポリプロピレン系樹脂の融解挙動を測定する。
各工程において横軸に時間、縦軸に融解熱量をプロットして融解曲線を取得し、工程(3)において観測されるピークのピークトップを融解ピーク温度とする。
工程(1):試料5mgを室温から100℃/分の速度で40℃から200℃まで昇温し、昇温終了後、3分間保持する。
工程(2):200℃から10℃/分の速度で40℃まで降温し、降温終了後、3分間保持する。
工程(3):40℃から10℃/分の速度で200℃まで昇温する。
成分(A1)のプロピレン系重合体は、融解ピーク温度が157℃以上175℃以下である。成分(A1)は主として熱可塑性エラストマー組成物に耐熱性を付与する成分である。
成分(A1)の融解ピーク温度が157℃以上であることにより、耐熱性が付与される。この観点から、成分(A1)の融解ピーク温度は、好ましくは160℃以上である。一方、上限は175℃以下、好ましくは170℃以下である。
成分(A1)のプロピレン系重合体において、プロピレン単位の含有量は、成分(A1)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは90質量%以上、より好ましくは98〜100質量%である。成分(A1)のプロピレン単位の含有量が上記範囲であると、前述の融解ピーク温度の範囲となり易いために好ましい。なお、成分(A1)の各構成単位の含有量は赤外分光法により求めることができる。後述の成分(A2)、成分(B)についても同様である。
成分(A1)はプロピレン単独重合体であっても、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよいが、成分(A1)としてプロピレン単独重合体を含むことが好ましい。
成分(A1)のプロピレン系重合体は、プロピレン以外の構成単位を有するものであってもよく、例えば、エチレンやプロピレン以外のα−オレフィンと共重合されたものを含むものであってもよい。この場合、成分(A1)が含んでいてもよいα−オレフィン単位としては、例えば、1−ブテン単位、1−ペンテン単位、1−ヘキセン単位、1−へプテン単位、1−オクテン単位、1−ノネン単位、1−デセン単位、1−ウンデセン単位、1−ドデセン単位、1−トリデセン単位、1−テトラデセン単位、1−ペンタデセン単位、1−ヘキサデセン単位、1−ヘプタデセン単位、1−オクタデセン単位、1−ノナデセン単位、1−エイコセン単位、3−メチル−1−ブテン単位、3−メチル−1−ペンテン単位、4−メチル−1−ペンテン単位、2−エチル−1−ヘキセン単位、2,2,4−トリメチル−1−ペンテン単位等が挙げられる。成分(A1)はこれらの1種のみを含むものであっても、2種以上を含むものであってもよい。成分(A1)がプロピレン単位以外の構成単位を含む場合、他の構成単位の好ましいものとしては、エチレン単位、1−ブテン単位等が挙げられる。
成分(A2)のプロピレン系ランダム共重合体は、融解ピーク温度が100℃以上157℃未満である。成分(A2)は成分(A)と成分(B)との間での相溶性を良好とするための成分である。
成分(A2)の融解ピーク温度は、100℃以上であり、125℃以上であることが好ましい。一方、成分(A2)の融解ピーク温度は、157℃未満である。成分(A2)の融解ピーク温度が上記下限値以上であると耐熱性の観点で好ましく、上記上限値未満であると成分(A)と成分(B)との相溶性の観点で好ましい。
成分(A2)のプロピレン系ランダム共重合体において、プロピレン単位の含有量は、成分(A2)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは60〜99質量%であり、より好ましくは80〜98質量%である。成分(A2)のプロピレン単位の含有量が上記範囲であると、前述の融解ピーク温度の範囲となり易いために好ましい。
成分(A2)のプロピレン系ランダム共重合体は、プロピレン単位とプロピレン単位以外の構成単位を有する共重合体である。プロピレン単位以外の構成単位として、具体的には、エチレン単位やプロピレン単位以外のα−オレフィン単位が挙げられる。成分(A2)が含んでいてもよいプロピレン単位以外の構成単位としては、例えば、エチレン単位、1−ブテン単位、1−ペンテン単位、1−ヘキセン単位、1−へプテン単位、1−オクテン単位、1−ノネン単位、1−デセン単位、1−ウンデセン単位、1−ドデセン単位、1−トリデセン単位、1−テトラデセン単位、1−ペンタデセン単位、1−ヘキサデセン単位、1−ヘプタデセン単位、1−オクタデセン単位、1−ノナデセン単位、1−エイコセン単位、3−メチル−1−ブテン単位、3−メチル−1−ペンテン単位、4−メチル−1−ペンテン単位、2−エチル−1−ヘキセン単位、2,2,4−トリメチル−1−ペンテン単位等が挙げられる。成分(A2)は、これらの1種のみを含むものであっても、2種以上を含むものであってもよい。成分(A2)に含まれるプロピレン単位以外の構成単位の好ましいものとしては、エチレン単位、1−ブテン単位等が挙げられる。
成分(A1)及び成分(A2)のプロピレン系重合体の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒を用いた重合法を挙げることができる。該重合法には、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等を用いることができ、これらを2種以上組み合わせてもよい。
成分(A1)及び成分(A2)は市販品として入手することもできる。これらに該当する市販品としては、プライムポリマー社のPrim Polypro(登録商標)、住友化学社の住友ノーブレン(登録商標)、サンアロマー社のポリプロピレンブロックコポリマー、日本ポリプロ社のノバテック(登録商標)PP、LyondellBasell社のMoplen(登録商標)、ExxonMobil社のExxonMobil PP、Formosa Plastics社のFormolene(登録商標)、Borealis社のBorealis PP、LG Chemical社のSEETEC PP、A.Schulman社のASI POLYPROPYLENE、INEOS Olefins&Polymers社のINEOS PP、Braskem社のBraskem PP、SAMSUNG TOTAL PETROCHEMICALS社のSumsung Total、Sabic社のSabic(登録商標)PP、TOTAL PETROCHEMICALS社のTOTAL PETROCHEMICALS Polypropylene、SK社のYUPLENE(登録商標)等があり、これらの中から適宜選択し、組み合わせて用いることができる。
成分(A1)、成分(A2)はそれぞれ1種のみを用いてもよく、組成や物性の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
成分(A1)の含有量は、成分(A1)と成分(A2)の合計量100質量部に対し、耐熱性、剛性、分散性等の観点から、50質量部以上であることが好ましく、60質量部以上であることがより好ましく、70質量部以上であることが更に好ましい。一方、成分(A)と成分(B)との相溶性の観点から、成分(A1)の含有量は、成分(A1)と成分(A2)の合計量100質量部に対し、95質量部以下であることが好ましく、90質量部以下であることがより好ましく、85質量部以下であることが更に好ましい。
なお、成分(A)は、成分(A1)及び成分(A2)以外のポリプロピレン系樹脂を含むものであってもよいが、成分(A1)及び成分(A2)の効果を有効に得る上で、成分(A)は、その100質量部中に成分(A1)と成分(A2)とを合計で30質量部以上含むことが好ましく、40質量部以上含むことがより好ましく、50〜100質量部含むことが更に好ましい。
[成分(B)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(B)はエチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム(ただし、成分(A)に該当するものを除く。)である。成分(B)は本発明の熱可塑性エラストマーに柔軟性を付与する成分である。
成分(B)は、少なくともエチレン単位とα−オレフィン単位とを含む共重合体であれば特に制限されないが、好ましくは更に非共役ジエン単位を含むエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体である。
成分(B)が含有するα−オレフィン単位としては、1−プロピレン単位、1−ブテン単位、2−メチルプロピレン単位、1−ペンテン単位、3−メチル−1−ブテン単位、1−ヘキセン単位、4−メチル−1−ペンテン単位、1−オクテン単位等を例示することができる。成分(B)に用いられるα−オレフィン単位は好ましくは、1−プロピレン単位、1−ブテン単位、1−ヘキセン単位、1−オクテン単位等の末端の炭素原子に炭素間二重結合を有する炭素数3〜8のα−オレフィン単位である。成分(B)は、これらのα−オレフィン単位の1種のみを含むものであっても、2種以上を含むものであってもよい。
成分(B)が含有する非共役ジエン単位としては、1,4−ヘキサジエン、1,6−オクタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、6−メチル−1,5−ヘプタジエン、7−メチル−1,6−オクタジエンのような鎖状非共役ジエンに基づく単位;シクロへキサジエン、ジシクロペンタジエン、メチルテトラヒドロインデン、5−ビニルノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5−メチレン−2−ノルボルネン、5−イソプロピリデン−2−ノルボルネン、6−クロロメチル−5−イソプロペニル−2−ノルボルネンのような環状非共役ジエンに基づく単位等が挙げられる。これらの中でも好ましくは、5−エチリデン−2−ノルボルネン単位、ジシクロペンタジエン単位である。
成分(B)はこれらの非共役ジエン単位の1種のみを含むものであってもよく、2種以上を含むものであってもよい。
成分(B)のエチレン単位の含有量は、成分(B)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは40質量%以上であり、更に好ましくは50質量%以上であり、一方、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。エチレン単位の含有量が上記範囲であると適度な柔軟性を与えるため好ましい。
成分(B)において、α−オレフィン単位の含有量は、成分(B)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは10質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上であり、一方、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下である。α−オレフィン単位の含有量が上記範囲であると適度な柔軟性を与えるために好ましい。
成分(B)において、非共役ジエン単位の含有量は、成分(B)を構成する単量体単位の合計量に対し、好ましくは1質量%以上であり、好ましくは3質量%以上であり、一方、好ましくは10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下である。非共役ジエン単位の含有量が上記下限値以上であると熱可塑性エラストマー組成物の架橋度を高める観点から好ましく、また、上記上限値以下であると成形性の観点から好ましい。
成分(B)のムーニー粘度(ML1+4、125℃)は、通常30〜120であり、好ましくは40〜100である。成分(B)のムーニー粘度(ML1+4、125℃)が上記範囲であると成形性の観点で好ましい。
成分(B)は、密度が0.850g/cm以上であることが好ましく、0.860g/cm以上であることがより好ましく、一方、0.900g/cm以下であることが好ましく、0.890g/cm以下であることがより好ましい。成分(B)の密度が上記下限値以上であると加工性の観点で好ましく、一方、上記上限値以下であると柔軟性の観点で好ましい。成分(B)の密度はJIS K7112に基づいて測定することができる。
成分(B)のメルトフローレートは限定されないが、通常10g/10分未満であり、強度の観点から、好ましくは9.0g/10分以下であり、より好ましくは8.0g/10分以下であり、更に好ましくは7.0g/10分以下である。また、成分(B)のメルトフローレートは、通常0.01g/10分以上であり、流動性の観点から、好ましくは0.05g/10分以上であり、更に好ましくは0.10g/10分以上である。成分(B)のメルトフローレート(MFR)は、JIS K7210に従い、測定温度230℃、測定荷重49Nの条件で測定される。
成分(B)の製造方法としては、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法が用いられる。例えば、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系錯体や非メタロセン系錯体等の錯体系触媒を用いた、スラリー重合法、溶液重合法、塊状重合法、気相重合法等が挙げられる。
成分(B)は市販品を用いることもできる。例えば、JSR社製JSR EPT、三井化学社製三井EPT、住友化学社製エスプレン(登録商標)、LANXESS社製Keltan(登録商標)、Dow社製Nordel(登録商標)、ExxonMobil社製Vistalon(登録商標)等から該当品を選択して使用することができる。
成分(B)は、1種のみを用いてもよく、組成や物性の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
[成分(A)と成分(B)の割合]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造方法において、成分(A)の使用量は、成分(A)と成分(B)の合計量100質量部に対し、成形性の観点から、下限は、通常40質量部以上であり、42質量部以上であることが好ましく、44質量部%以上であることがより好ましい。一方、上限は、通常70質量部以下であり、68質量部以下であることが好ましく、66質量部以下であることがより好ましい。
成分(B)の含有量は、成分(A)と成分(B)の合計量100質量部に対し、成形性の観点から、下限は、通常30質量部以上であり、32質量部以上であることが好ましく、34質量部以上であることがより好ましい。一方、上限は、通常60質量部以下であり、58質量部以下であることが好ましく、56質量部以下であることがより好ましい。
[成分(C)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物に用いる成分(C)は、ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロック(以下、「ブロックP」と称す場合がある。)と、イソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロック(以下、「ブロックQ」と称す場合がある。)とを有するブロック共重合体及び/またはその水添物(水添ブロック共重合体)である。
ここで、「ビニル芳香族化合物を主体とする重合体」とは、ビニル芳香族化合物を主体とする単量体を重合したものを意味し、「イソプレンを主体とする重合体」とは、イソプレンを主体とする単量体を重合したものを意味する。また、ここで「主体とする」とは、50モル%以上であることを意味する。
ブロックPを構成する単量体のビニル芳香族化合物は限定されないが、スチレンまたはα−メチルスチレンなどのスチレン誘導体が好ましい。中でも、スチレンを主体とすることが好ましい。なお、ブロックPには、ビニル芳香族化合物以外の単量体が原料として含まれていてもよい。
ブロックQには、イソプレン以外の単量体、例えばブタジエンが原料として含まれていてもよい。
ブロックQは、重合後に有する二重結合を水素添加した水素添加誘導体(水添ブロック共重合体)であってもよいが、成分(B)との反応性の観点から、非水添ブロック共重合体であることが好ましい。
成分(C)のブロック共重合体におけるブロックPの重量割合は限定されないが、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、一方、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましく、45質量%以下であることがさらに好ましい。ブロックPの重量割合が前記範囲であることにより、架橋反応の割合が良好となる傾向にある。
成分(C)のブロック共重合体の化学構造は直鎖状、分岐状または放射状等の何れであってもよいが、下記式(1)又は(2)で表されるブロック共重合体である場合が好ましく、機械的強度向上の観点から、より好ましくは下記式(1)の構造である。
P−(Q−P)m (1)
(P−Q)n (2)
(式中PはブロックPを、QはブロックQをそれぞれ表し、mは1〜5の整数を表し、nは2〜5の整数を表す)
式(1)又は(2)においてm及びnは、ゴム的高分子体としての秩序−無秩序転移温度を下げる点では大きい方がよいが、製造のしやすさ及びコストの点では小さい方がよい。本発明においてはm及びnが1〜5の整数で与えられるものが好ましく、より好ましくは2〜4である。
成分(C)のブロック共重合体としては、ゴム弾性に優れることから、式(2)で表されるブロック共重合体よりも式(1)で表されるブロック共重合体の方が好ましく、mが3以下である式(1)で表されるブロック共重合体がより好ましく、mが2以下である式(1)で表されるブロック共重合体が更に好ましい。
成分(C)のブロック共重合体の数平均分子量は限定されないが、ゲル浸透クロマトグラフィー(以下、GPCと略記する場合がある)により測定したポリスチレン換算の値として、20000以上であることが好ましく、より好ましくは40000以上、さらに好ましくは50000以上であり、300000以下であることが好ましく、より好ましくは200000以下、さらに好ましくは150000以下、特に好ましくは100000以下であることが好ましい。
成分(C)のブロック共重合体の数平均分子量が前記範囲内であれば、成形性が良好となる傾向にある。
本発明における成分(C)の製造方法は、上述の構造と物性が得られればどのような方法でもよく、特に限定されない。具体的には、例えば、特開平7−97493号公報に記載された方法によりリチウム触媒等を用いたブロック重合を行うことによって得ることができる。また、ブロック共重合体の水素添加(水添)は、例えば、特開昭59−133203号公報などに記載された方法により、不活性溶媒中で水添触媒の存在下で行うことができる。
成分(C)の水添ブロック共重合体の市販品としては、株式会社クラレ製「セプトン(登録商標)」、「ハイブラー(登録商標)」等が挙げられる。また、成分(C)の非水添ブロック共重合体の市販品としては、株式会社クラレ製「ハイブラー(登録商標)」の一部グレード等が挙げられる。
上記の成分(C)は、1種のみを用いてもよく、組成や物性の異なるものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
本発明において、成分(C)の使用量は、成分(A)及び成分(B)と必要に応じて用いられる後述の成分(D)の合計100質量部に対して0.1〜100質量部とすることが好ましい。成分(C)が上記範囲の下限値以上であると良好な流動性を得ることができ、上限値以下であると、圧縮永久歪(へたり性)や、機械物性が良好となる。成分(C)は、成分(A)及び成分(B)と必要に応じて用いられる後述の成分(D)の合計100質量部に対して10質量部以上用いることがより好ましく、11質量部以上用いることがさらに好ましく、12質量部以上用いることが特に好ましい。また、成分(C)は、成分(A)及び成分(B)と必要に応じて用いられる後述の成分(D)の合計100質量部に対して95質量部以下用いることが好ましく、94質量部以下用いることがより好ましく、93質量部以下用いることが更に好ましい。
また、成分(C)が、ゴム弾性の発現成分である成分(B)を取り込みながら分散体を形成する上で、成分(B)は、成分(C)よりも少量成分であることが好ましく、例えば、成分(B)は成分(C)に対して、1/5〜4/5の質量比で用いることが好ましい。
[成分(D)]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、成形性を向上させる観点から、更に下記成分(D)を原料として用いることが好ましい。
成分(D):炭化水素系ゴム用軟化剤
成分(D)の炭化水素系ゴム用軟化剤としては、鉱物油系軟化剤、合成樹脂系軟化剤等が挙げられるが、他の成分との親和性の観点から鉱物油系軟化剤が好ましい。鉱物油系軟化剤は、一般的に、芳香族炭化水素、ナフテン系炭化水素及びパラフィン系炭化水素の混合物であり、全炭素原子の50%以上がパラフィン系炭化水素であるものがパラフィン系オイル、全炭素原子の30〜45%がナフテン系炭化水素であるものがナフテン系オイル、全炭素原子の35%以上が芳香族系炭化水素であるものが芳香族系オイルと各々呼ばれている。これらの中で、本発明においては、パラフィン系オイルを用いることが好ましい。なお、炭化水素系ゴム用軟化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
成分(D)の炭化水素系ゴム用軟化剤の40℃における動粘度は特に限定されないが、好ましくは20cSt以上、より好ましくは50cSt以上であり、また、好ましくは800cSt以下、より好ましくは600cSt以下である。また、炭化水素系ゴム用軟化剤の引火点(COC法)は、好ましくは200℃以上、より好ましくは250℃以上である。
成分(D)の炭化水素系ゴム用軟化剤は市販品として入手することができる。該当する市販品としては、例えば、JX日鉱日石エネルギー社製日石ポリブテン(登録商標)HVシリーズ、出光興産社製ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPWシリーズ等が挙げられ、これらの中から該当品を適宜選択して使用することができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造に成分(D)を用いる場合、成分(D)の使用量の下限は、成分(B)100質量部に対し、柔軟性の観点から、好ましくは40質量部以上であり、より好ましくは42量部以上であり、更に好ましくは44質量部以上である。また、成分(D)の使用量の上限は、成分(B)100質量部に対し、低温耐衝撃性の観点から、通常320質量部以下であり、好ましくは318質量部以下であり、より好ましくは316質量部以下である。
[架橋剤]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、架橋剤(以下「成分(E)」と称す場合がある。)の存在下で動的熱処理を行うことにより、成分(B)および成分(C)の少なくとも一部を架橋して得られる。この動的熱処理により、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ゴム弾性が良好なものとなる。
架橋剤としては、有機過酸化物、フェノール樹脂、その他の架橋助剤等を用いることができ、これらの架橋剤は1種のみで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋剤として用いることのできる有機過酸化物としては、芳香族系有機過酸化物及び脂肪族系有機過酸化物のいずれも使用することが可能である。具体的には、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のジアルキルパーオキシド類;t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキシン−3等のパーオキシエステル類;アセチルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、p−クロロベンゾイルパーオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキシド等のヒドロパーオキシド類等が挙げられる。これらの中でも、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンが好ましい。これらの有機過酸化物は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋剤として用いることのできるフェノール樹脂としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド、臭化アルキルフェノールノールホルムアルデヒド等が挙げられる。これらのフェノール樹脂は1種類のみを用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機過酸化物及びフェノール樹脂以外の架橋助剤としては、例えば、硫黄、p−キノンジオキシム、p−ジニトロソベンゼン、1,3−ジフェニルグアニジン等の過酸化物用助剤;塩化第一錫・無水物、塩化第一錫・二水和物、塩化第二鉄等のフェノール樹脂用架橋助剤;ジビニルベンゼン、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート等の多官能ビニル化合物;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の多官能(メタ)アクリレート化合物等が挙げられる。これらは1種のみで用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
成分(E)の使用量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)と必要に応じて用いられる成分(D)の合計100質量部に対して架橋反応を十分に進行させる観点から、好ましくは0.05質量部以上であり、より好ましくは0.1質量部以上であり、更に好ましくは0.3質量部以上である。一方、成分(E)の使用量は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)と必要に応じて用いられる成分(D)の合計100質量部に対し、架橋反応を制御する観点から、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは8質量部以下であり、更に好ましくは6質量部以下である。
[その他の成分]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物の製造には、成分(A)〜(E)以外に本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の成分を原料として用いることができる。
その他の成分としては、例えば、成分(A)、成分(B)および成分(C)以外の熱可塑性樹脂やエラストマー等の樹脂、酸化防止剤、充填材、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、滑剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、分散剤、着色剤、難燃剤、帯電防止剤、導電性付与剤、金属不活性化剤、分子量調整剤、防菌剤、防黴材、蛍光増白剤等の各種添加物等を挙げることができる。これらは任意のものを単独又は併用して用いることができる。
成分(A)、成分(B)および成分(C)以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリフェニレンエーテル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレンホモポリマー、ポリオキシメチレンコポリマー等のポリオキシメチレン系樹脂;ポリメチルメタクリレート系樹脂、ポリオレフィン樹脂(だだし、成分(A)および成分(B)に該当するものを除く。)等を挙げることができる。また成分(A)、成分(B)および成分(C)以外のエラストマーとしては、例えば、スチレン系エラストマー(ただし、成分(C)に該当するものを除く。);ポリエステル系エラストマー;ポリブタジエン等を挙げることができる。
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、フォスファイト系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤等が挙げられる。酸化防止剤を用いる場合、酸化防止剤は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)と必要に応じて用いられる成分(D)の合計100質量部に対して、通常0.01〜3.0質量部の範囲で用いられる。
充填材としては、例えば、ガラス繊維、中空ガラス球、炭素繊維、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、チタン酸カリウム繊維、シリカ、金属石鹸、二酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。充填剤を用いる場合、充填剤は、成分(A)、成分(B)及び成分(C)と必要に応じて用いられる成分(D)の合計100質量部に対して、通常0.1〜50質量部で用いられる。
[熱可塑性エラストマー組成物の製造方法]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、前述の通り、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び必要に応じて用いられる成分(D)、その他の成分等を所定量含有する組成物を架橋剤である成分(E)の存在下で動的熱処理して得られるものである。
本発明において「動的熱処理」とは架橋剤の存在下で溶融状態又は半溶融状態で混練することを意味する。この動的熱処理は、溶融混練によって行うのが好ましく、そのための混合混練装置としては、例えば非開放型バンバリーミキサー、ミキシングロール、ニーダー、二軸押出機等が用いられる。これらの中でも二軸押出機を用いることが好ましい。この二軸押出機を用いた製造方法の好ましい態様としては、複数の原料供給口を有する二軸押出機の原料供給口(ホッパー)に各成分を供給して動的熱処理を行うものである。
動的熱処理を行う際の温度は、通常80〜300℃、好ましくは100〜250℃である。また、動的熱処理を行う時間は通常0.1〜30分である。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物を二軸押出機により動的熱処理を行うことにより製造する場合においては、二軸押出機のバレル半径(R(mm))、スクリュー回転数(N(rpm))及び吐出量(Q(kg/時))の間に下記式(1)の関係を保ちながら押出することが好ましく、下記式(2)の関係を保ちながら押出することがより好ましい。
2.6<NQ/R<22.6 (1)
3.0<NQ/R<20.0 (2)
二軸押出機のバレル半径(R(mm))、スクリュー回転数(N(rpm))及び吐出量(Q(kg/時))との間の前記関係が上記下限値より大きいことが熱可塑性エラストマー組成物を効率的に製造するために好ましい。一方、前記関係が上記上限値より小さいことが、剪断による発熱を抑え、外観不良の原因となる異物が発生しにくくなるために好ましい。
[熱可塑性エラストマー組成物の物性]
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、JIS K7210の規格に準拠した方法で測定温度230℃、測定荷重49Nで測定したメルトフローレート(MFR)が0.10g/10分以上であることが成形性の観点から好ましく、より好ましくは0.15g/10分以上であり、更に好ましくは0.20g/10分以上である。また、成形性の観点から、メルトフローレート(MFR)は、1g/10分以下であることが好ましく、0.95g/10分以下であることがより好ましく、0.90g/10分以下であることが更に好ましい。
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を成形してなる成形体について、JIS K6262に準拠して、70℃、22時間、25%圧縮の条件で測定した圧縮永久歪みは、51%未満であることが好ましく、45%未満であることがより好ましい。
〔成形体・用途〕
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、通常、熱可塑性エラストマー組成物に用いられる成形方法、例えば、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形等の各種成形方法により、成形体とすることができ、これらの中でも射出成形、押出成形が好適である。また、これらの成形を行った後に積層成形、熱成形等の二次加工を行った成形体とすることもできる。特に、本発明の熱可塑性エラストマー組成物は押出成形性に優れ、成形した際の目ヤニの発生や異物が低減されたものであるため、押出成形、特に異形押出成形に好適である。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体は、表皮、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、シール材等の自動車部品;止水材、目地材、窓枠、シール材等の土木・建材部品;ゴルフクラブのグリップ部、テニスラケットのグリップ部等のスポーツ用品;ホースチューブ、ガスケット等の工業用部品;ホース、パッキン類等の家電部品;医療用容器、ガスケット、パッキン等の医療用部品;容器、パッキン等の食品用部品;医療用機器部品;電線;雑貨等の広汎な分野に適用することができる。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物よりなる成形体は以上に挙げたものの中でも自動車用シール材、建材用シール材として好適であり、自動車用シール材、特に自動車用グラスランチャンネルとして好適である。
以下、実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
〔原材料〕
以下の実施例及び比較例で使用した原材料は以下の通りである。
[成分(A):ポリプロピレン系樹脂]
<A1−1>
プロピレン単独重合体(融解ピーク温度:165℃、プロピレン単位含有量:100質量%)/日本ポリプロ株式会社製 ノバテック(登録商標)PP FY6
<A2−1>
プロピレン・エチレンランダム共重合体(融解ピーク温度:138℃、プロピレン単位含有量:98質量%)/日本ポリプロ株式会社製 ノバテック(登録商標)PP FW4B
[成分(B):エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム]
<B−1>
エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体(ムーニー粘度(ML1+4、125℃):61、密度(JIS K7112):0.87g/cm、MFR(JIS K7210、230℃、49N):6g/10分、エチレン単位含有量:65.9質量%、エチリデンノルボルネン単位含有量:4.6質量%)/三井化学株式会社製 JSR EPT3092PM
<B−2>
エチレン・プロピレン・5−エチリデン−2−ノルボルネン共重合体(ムーニー粘度(ML1+4、125℃):64、密度(JIS K7112):0.86g/cm、MFR(JIS K7210、230℃、98N):0.4g/10分、エチレン単位含有量:67質量%、エチリデンノルボルネン単位含有量:4.5質量%)/JSR株式会社製 JSR EP505EC
[成分(C):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、イソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体及び/またはその水添物]
<C−1>
スチレン・イソプレン・スチレン非水添ブロック共重合体(前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含有量:20質量%、数平均分子量:90000)/株式会社クラレ製 ハイブラー5127
[比較となる成分(C)]
<c−1>
スチレン・ブタジエン・スチレン非水添ブロック共重合体(前記式(1)の構造を有する。スチレン(ブロックP)含量:60質量%、数平均分子量:200000)/旭化成ケミカルズ株式会社製 S1605
[成分(D)]
<D−1>
パラフィン系ゴム用軟化剤(40℃の動粘度:95.5cSt、流動点:−15℃、引火点:272℃)/出光興産株式会社製 ダイアナ(登録商標)プロセスオイルPW90
[成分(E):架橋剤]
<E−1>
2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン40質量%と炭酸カルシウム60質量%の混合物/化薬アクゾ株式会社製 カヤヘキサAD40C
<E−2>
ジビニルベンゼン60質量%とエチルビニルベンゼン40質量%の混合物/和光純薬工業社製 ジビニルベンゼン
[成分(F):酸化防止剤]
<F−1>
フェノール系酸化防止剤/BASFジャパン社製 イルガノックス(登録商標)1010
[評価方法]
以下の実施例及び比較例における熱可塑性エラストマー組成物の評価方法は以下の通りである。
なお、以下の(1)〜(4)の測定には、インラインスクリュウタイプ射出成形機(東芝機械社製「IS130」)にて、射出圧力50MPa、シリンダー温度220℃、金型温度40℃の条件で射出成形して得られたシート(横120mm、縦80mm、肉厚2mm)を使用した。
(1)硬度デュロA
JIS K6253に準拠(JIS−A)して、試験片に針を押し付けてから15秒後の値を測定した。
硬度デュロAは35〜95、特に40〜98の範囲であることが好ましい。
(2)圧縮永久歪み:JIS K6262に準拠して、70℃、22時間、25%圧縮の条件で測定した。
圧縮永久歪(へたり性)の測定値CSから下記基準で評価した。
◎:CS 45%未満
○:CS 45%以上51%未満
△:CS 51%以上55%未満
×:CS 55%以上
(3)耐寒性(耐低温脆化性)
JIS K7216 の脆化温度試験法を参考にした手順で行う。
JIS K7216では、脆化試験機を用いてシート試験片に一定エネルギーの衝撃を与え、全試料片の50%が脆性破壊したときの温度を求めるが、本発明においては、−40℃において、衝撃後に全試料片の何%が破断せずに残ったかを未破断率として表し、以下の基準で耐寒性を評価した。
◎:未破断率 100%
○:未破断率 60%以上100%未満
△:未破断率 20%以上60%未満
×:未破断率 0%以上 20%未満
(4)メルトフローレート(MFR)
JIS K7210に準拠して、230℃、測定荷重49Nで測定した。
MFRの値から、成形性を下記基準で評価した。
○:MFR 1g(/10分)未満
△:MFR 3g(/10分)以上4g(/10分)未満
×:MFR 4g(/10分)以上
[実施例/比較例]
<実施例1>
(A1−1)20質量部、(A2−1)6質量部、(B−1)17質量部、(C−1)40質量部、(D−1)17質量部、(E−1)0.75質量部(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン40質量%と炭酸カルシウム60質量%の混合物)、(E−2)0.75質量部(ジビニルベンゼン60質量%とエチルビニルベンゼン40質量%の混合物)、(F−1)0.1質量部をヘンシェルミキサーにて1分間ブレンドして混合物を得た。この混合物を、2個の原料供給口を有する同方向二軸押出機(日本製鋼所製「TEX30α」、L/D=46、シリンダーブロック数:13)の供給部へ合計15kg/hの速度で投入し、110〜180℃の範囲で昇温させ溶融混練を行い、ペレット化して熱可塑性エラストマー組成物を製造した。
得られた熱可塑性エラストマー組成物の評価結果を表−1に示す。
<実施例2〜9及び比較例1〜3>
表−1に示したように配合組成を変更した以外は実施例1と同様にして実施し、熱可塑性エラストマー組成物のペレットを得た。得られた熱可塑性エラストマー組成物について、実施例1と同様の評価を実施した結果を表−1に示す。
Figure 2018154681
<評価結果>
表−1に示す通り、実施例1〜9は「圧縮永久歪み(へたり性)」、「耐寒性(耐低温脆化性)」、「成形加工性(流動性)」の評価において優れる。
比較例1は実施例5で使用している(C−1)を(c−1)に変更した例であるが、「圧縮永久歪み(へたり性)」、「成形加工性(流動性)」の評価が劣っている。
また、比較例2は実施例5で使用している成分(C)の(C−1)を、成分(B)の(B−1)と成分(D)の(D−1)に振り分けた(成分(C)を除いたことによる影響を確認した)例であるが、「成形加工性(流動性)」の評価が劣っている。
比較例3は、実施例5の成分(B)の(B−1)全量を、成分(C)である(C−1)に振り分けた例であるが、「耐寒性(耐低温脆化性)」、「成形加工性(流動性)」の評価が劣っている。
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、表皮、ウェザーストリップ、天井材、内装シート、バンパーモール、サイドモール、エアスポイラー、エアダクトホース、シール材等の自動車部品;止水材、目地材、窓枠、シール材等の土木・建材部品;ゴルフクラブのグリップ部、テニスラケットのグリップ部等のスポーツ用品;ホースチューブ、ガスケット等の工業用部品;ホース、パッキン類等の家電部品;医療用容器、ガスケット、パッキン等の医療用部品;容器、パッキン等の食品用部品;医療用機器部品;電線;雑貨等の広汎な分野で用いることができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物は以上に挙げたものの中でも自動車用シール材、建材用シール材として好適であり、自動車用シール材、特に自動車用グラスランチャンネルとして好適である。

Claims (10)

  1. 少なくとも下記成分(A)〜(C)と架橋剤とを溶融混練してなる熱可塑性エラストマー組成物。
    成分(A):ポリプロピレン系樹脂
    成分(B):エチレン・α−オレフィン系共重合体ゴム
    成分(C):ビニル芳香族化合物を主体とする少なくとも2個の重合体ブロックと、イソプレンを主体とする少なくとも1個の重合体ブロックとを有するブロック共重合体及び/またはその水添物
  2. 成分(B)がエチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体である、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  3. 成分(C)が非水添ブロック共重合体である、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  4. 成分(A)〜(C)の合計量100質量部に対する架橋剤の割合が、0.05質量部以上10質量部以下である、請求項1ないし3のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  5. 成分(A)が下記成分(A1)及び成分(A2)を含むポリプロピレン系樹脂である、請求項1ないし4のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
    成分(A1):融解ピーク温度が157℃以上175℃以下であるプロピレン系重合体
    成分(A2):融解ピーク温度が100℃以上157℃未満であるプロピレン系ランダム共重合体
  6. 成分(A)と成分(B)の合計量100質量部に対する成分(A)の割合が40〜70質量部で、成分(B)の割合が30〜60質量部である、請求項1ないし5のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
  7. 更に下記成分(D)を原料として用い、かつその割合が成分(B)100質量部に対して40〜320質量部である、請求項1ないし6のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
    成分(D):炭化水素系ゴム用軟化剤
  8. 請求項1ないし7のいずれかに記載の熱可塑性エラストマー組成物を用いた成形体。
  9. 自動車用部材である、請求項8に記載の成形体。
  10. 自動車用グラスランチャンネルである、請求項9に記載の成形体。
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