本発明を実施するための形態(本実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の本実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
図1は、本実施形態に係る細胞選別装置100の構成例を模式的に示す概念図である。また、図2は、細胞選別装置100の構成例を模式的に示す斜視図である。図3は、図2の一部を拡大して示す斜視図である。以下の説明において、鉛直方向をZ方向とし、鉛直方向と直交する水平面に沿う一方向をX方向とする。また、水平面に沿い、かつ、X方向と直交する方向をY方向とする。なお、本実施形態では、鉛直方向の上側を+Z方向で示し、鉛直方向の下側を−Z方向で示している。また、後述するブレードの押し出し方向を+X方向で示し、+X方向の反対側を−X方向で示している。また、後述する帯レーザ発光部31による帯レーザ光33の照射方向を−Y方向で示し、−Y方向の反対側を+Y方向で示している。
図1から図3に示す細胞選別装置100は、例えば、液体に含まれる細胞を所望とする種別(例えば、種類や状態)毎に選別する装置である。選別された細胞は、例えば培養や解析の目的で使用される。図1から図3に示すように、細胞選別装置100は、貯留部2に接続されたノズル1と、受皿3と、細胞検出器5と、バルブ7と、廃液受皿9と、を備える。
貯留部2は、細胞を含む液体が流動する管部である。ノズル1は、管部の一端部に設けられている。ノズル1はその鉛直方向の下側(例えば、−Z方向)に向けて、細胞を含む液体を吐出する。図示しないが、ノズル1の開口端面の形状は正円形であり、その直径は一般的なフローサイトメータと同様に、70μm、もしくは100μm程度である。
なお、ノズル1は、細胞を含む液体が液滴となるように液体を断続的に吐出してもよいが、細胞の選別処理を迅速に行う観点から、細胞を含む液体は流体となるように連続的に吐出することが好ましい。図1から図3では、細胞を含む液体はノズル1から連続的に吐出されて流体となっており、ノズル1から受皿3に至る流路において、細胞を含む流体(以下、細胞流ともいう。)が形成されている場合を例示している。細胞流の直径は、ノズル1の直径と同じかそれよりも小さい。受皿3は、ノズル1の鉛直方向の下側に設けられている。受皿3は、選別された細胞を含む液体を収容するための容器である。細胞検出器5は、ノズル1から受皿3に至る流路を通る細胞を検出するための装置である。
図1から図3に示すように、細胞検出器5は、光源15と検出部16とを有する。光源15と、検出部16は、鉛直方向と交差する方向(例えば、X方向)で、流路を挟んで向かい合って配置されている。また、図示しないが、検出部16は、フォトダイオード等の受光部と、受光部で光電変換により生じた電気信号をアナログ信号からデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、を有する。
光源15は、例えば波長が400nm以上650nm以下の可視光レーザ、もしくは波長635nmの赤レーザを発光する。光源15が発したレーザ光17は、ノズル1から受皿3に向かって流れる流体6を透過して、検出部16の受光部に到達する。検出部16は、受光部に到達したレーザ光17の波長や強度を検出する。
バルブ7は、細胞検出器5の検出結果に基づいて、ノズル1から受皿3に至る流路を開閉するメカニカルバルブである。バルブ7は、バルブベース10と、ブレード駆動部20と、位置検出器30と、直動アクチュエータ40と、制御部50と、を有する。
ブレード駆動部20は、例えば、圧電素子51と、ブレードホルダ52(図3参照)と、ブレード53とを有する。ブレード駆動部20は、バルブベース10の下面側に取り付けられている。ブレード53は、ノズル1から受皿3に至る流路の周囲に設けられている。ブレード53は、ブレードホルダ52を介して、圧電素子51の長手方向の端部に取り付けられている。例えば、ブレード53はブレードホルダ52の側面に取り付けられている。また、ブレードホルダ52は、圧電素子51の長手方向の端部に取り付けられている。
圧電素子51は例えば棒状で、縦方向に伸縮するセラミックである。セラミックとしては、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛などのペロブスカイト型の結晶構造を有する強誘電体が用いられる。縦方向は、本実施形態においてX方向であり、かつ圧電素子51の長手方向である。圧電素子51の長手方向で電極54、55が向かい合って取り付けられている。圧電素子51に電極54、55を介して電圧を印加すると、圧電素子51は電圧に応じて長手方向に伸縮する。圧電素子51の長手方向の端部にブレードホルダ52を介してブレード53が取り付けられているため、ブレード53は圧電素子51の長手方向に駆動される。これにより、ブレード駆動部20は、圧電素子51の伸縮によって、ブレード53を予め設定した基準位置(例えば、後述する限界位置XL)から流路に向けて可逆的に押し出すことができる。
なお、限界位置XLとは、ブレード53を流体6に近づけた際に、ブレード53は流体6に触れずに、流体6の流れが僅かに変化する位置のことである。限界位置XLについては、後で図10及び図11を参照しながら説明する。また、ブレード53の形状については、後で図7及び図8を参照しながら、廃液受皿9の形状と共に説明する。
バルブベース10は板状の部材である。板状の部材の平面視による形状は、例えば正円形である。板状の部材の中央部には、その表面側から裏面側に至る貫通した開口部11が設けられている。バルブベース10は、ノズル1から受皿3に向かって流れる流体6が開口部11を通るように、細胞選別装置100における取付位置が設定されている。開口部11の形状は、板状の部材の表面側から裏面側に向かって直径が徐々に小さくなる、すり鉢状である。開口部11の直径は板状の部材の表面側で最大であり、板状の部材の裏面側で最小である。開口部11の最小直径は、ノズル1から受皿3に向かって流れる流体6の開口部11を通るときの直径よりも十分に大きい値となっている。また、バルブベース10は直動アクチュエータ40によってX方向に沿って移動するが、バルブベース10の移動範囲は流体6がバルブベース10に触れないで開口部11を通ることができる範囲内に制御されている。
位置検出器30は、X方向における流路の位置を検出する装置である。流路の位置とは、流体6の位置のことである。図3に示すように、位置検出器30は、X方向と直交するY方向で、流路を挟んで向かい合うレーザ発光部31とレーザ受光部32とを有する。レーザ発光部31は、図2に示すように、支持部36を介してバルブベース10の下面側に取り付けられている。レーザ受光部32は、支持部37を介してバルブベース10の下面側に取り付けられている。レーザ発光部31は、流路の直径よりも幅が十分に大きい帯レーザ光33をレーザ受光部32に向けて照射する。帯レーザ光33の幅Wは、例えば1mm以上10mm以下である。位置検出器30は、帯レーザ光33の受光強度に基づいて、流路の位置を検出することができる。
図4及び図5は、レーザ受光部32で受光される帯レーザ光33の受光強度の分布例を示す図である。図4及び図5において、縦軸は受光強度を示し、横軸は帯レーザ光33の幅方向の位置を示す。帯レーザ光33の幅方向はX方向と合致する。図3に示したように、ノズル1から受皿3に向かって流れる流体6が帯レーザ光33を横切ると、その横切った部分の光の一部は流体6に遮蔽されて、光の強度が低下する。その結果、図4に示すように、レーザ受光部32による帯レーザ光33の受光強度は、X方向において部分的に低下する。
位置検出器30は、例えば、図4に示す受光強度の立下り位置X1と受光強度の立ち上がり位置X2とを検出する。本実施形態において、X1とX2との間(X1−X2間)の中心位置が流体6の通過位置Ptとなる。また、X1−X2間の長さは、X方向における流路の直径φとみなすことができる。
図5に示すように、X方向において流路の位置が変化すると、受光強度の立ち下がり位置X1がX1’に、立ち上がり位置X2がX2’に変化する。そして、X1’−X2’間の中心位置が、X方向における流路の変化後の通過位置Pt’となる。変化前の通過位置Ptと変化後の通過位置Pt’の差分ΔPtは、X方向における通過位置の変位量である。
図1に示すように、直動アクチュエータ40は、モータの回転を、ボールねじを介して直線運動に変換し、被駆動機構を動作させる装置である。直動アクチュエータ40は、台座41と、ボールねじ42と、ボールねじ42の回転に伴ってボールねじ42の長手方向に移動するナット43と、ボールねじ42を回転させるモータ44と、を有する。直動アクチュエータ40のうち、ナット43がバルブベース10の下面側に取り付けられている。また、ボールねじ42の長手方向はX方向と合致している。これにより、直動アクチュエータ40は、ボールねじ42を回転させることで、ブレード53をX方向に沿って移動させることができる。
図2に示すように、受皿3とブレード駆動部20と位置検出器30及び直動アクチュエータ40は、バルブベース10の下方にそれぞれ配置されている。これにより、バルブベース10は、受皿3とブレード駆動部20と位置検出器30及び直動アクチュエータ40に対するキャップとしての役割を果たすので、これらに埃等の異物が付着することを抑制することができる。また、ブレード駆動部20と、位置検出器30と、直動アクチュエータ40のナット43は、バルブベース10にそれぞれ取り付けられている。したがって、バルブベース10は、ブレード駆動部20と位置検出器30及び直動アクチュエータ40を互いに固定する固定具としての役割も果たしている。
また、細胞選別装置100では、流路を挟んでブレード駆動部20が−X方向側に、直動アクチュエータ40が+X方向側にそれぞれ配置されている。これにより、例えば、直動アクチュエータ40がブレード駆動部20よりもさらに−X方向側に配置されている場合と比べて、流路周りの空間を有効に活用することができ、細胞選別装置100をコンパクトな大きさに収めることができる。
図6は、制御部50の構成例を示すブロック図である。図6に示すように、制御部50は、ブレード駆動部20の動作を制御する駆動制御部110と、ブレード53の位置を制御するフィードバック制御部120と、バルブ7をキャリブレーションするキャリブレーション制御部130と、を有する。
なお、制御部50は、演算処理装置としてのCPU(中央演算処理装置)と、ハードディスク、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等の記憶装置を備える。制御部50の後述する各機能のうち、細胞情報記憶部113、位置情報記憶部123及びプログラム情報記憶部133は記憶装置で実現される。また、制御部50の後述する各機能のうち、細胞情報記憶部113、位置情報記憶部123及びプログラム情報記憶部133を除く各機能は、例えばCPU(中央演算処理装置)の演算処理によって実現される。
駆動制御部110は、その機能として、情報取得部111と、細胞識別部112と、細胞情報記憶部113とを有する。情報取得部111は、検出部16で検出されるレーザ光17の波長や強度に関する情報を取得する。
細胞情報記憶部113は、所望の細胞に関する情報を記憶する。ここで、所望の細胞に関する情報とは、検出部16で検出されるレーザ光17の波長や強度で特定される所望の細胞に特有な情報である。細胞情報記憶部113は、所望の細胞以外の細胞に関する情報を記憶していてもよい。細胞情報記憶部113は、シース流体に関する情報も記憶する。なお、シース流体とは、細胞を流すための流体のことである。シース流体に関する情報とは、流体に細胞が含まれていない場合に検出部16で検出されるレーザ光17の波長や強度でシース流体のみとして特定される情報である。
細胞識別部112は、情報取得部111が取得した情報と、細胞情報記憶部113に記憶されている情報とを比較して、流体6に細胞が含まれているか否かを判断する。具体的には、細胞識別部112は、検出部16で検出されるレーザ光17の波長や強度に関する情報がシース流体に関する情報と合致する場合には、流体6に細胞が含まれていないと判断する。細胞識別部112は、検出部16で検出されるレーザ光17の波長や強度に関する情報がシース流体に関する情報と合致しない場合には、流体6に細胞が含まれていると判断する。
細胞識別部112は、流体6に細胞が含まれている場合には、その細胞が所望の細胞か否かを判断する。具体的には、細胞識別部112は、検出部16で検出されるレーザ光17の波長や強度に関する情報が所望の細胞に関する情報と合致する場合には、流体6に所望の細胞が含まれていると判断する。細胞識別部112は、検出部16で検出されるレーザ光17の波長や強度に関する情報が所望の細胞に関する情報と合致しない場合には、流体6に所望の細胞が含まれていないと判断する。また、細胞識別部112は、判断結果に基づいて、ブレード駆動部20の圧電素子51に圧電の制御信号を送信する。圧電の制御信号に基づいて、圧電素子51には例えばパルス状の電圧が印加される。なお、駆動制御部110による細胞選別の操作は、後で図12等を参照しながら説明する。
フィードバック制御部120は、その機能として、情報取得部121と、流路検出部122と、位置情報記憶部123とを有する。各機能を説明すると、情報取得部121は、位置検出器30のレーザ受光部32から流体6の現在の通過位置に関する情報と、バルブ7の開閉状態に関する情報とを取得する。位置情報記憶部123には、ブレード53の限界位置XLに関する情報と、流体6の通過位置Ptに関する情報とを記憶する。ブレード53の限界位置XLと、流体6の通過位置Ptは、後述のキャリブレーションで得られる情報であり、原点として位置情報記憶部123に記憶される。
流路検出部122は、情報取得部121が取得した情報と、位置情報記憶部123に記憶されている情報とを比較して、位置検出器30が検出した流体6の位置が原点と合致するか否かを判断する。また、流路検出部122は、判断結果に基づいて、直動アクチュエータ40のモータ44に制御信号を送信する。フィードバック制御部120によるフィードバックの操作は、後で図17等を参照しながら説明する。
キャリブレーション制御部130は、その機能として、情報取得部131と、限界位置検出部132と、プログラム情報記憶部133とを有する。各機能を説明すると、情報取得部131は、位置検出器30のレーザ受光部32からキャリブレーション用液体(例えば、細胞を含まないシース流体)の現在の通過位置に関する情報を取得する。プログラム情報記憶部133は、キャリブレーションのプログラム情報を記憶している。限界位置検出部132は、プログラム情報記憶部133に記憶されているプログラム情報に従って、原点である、ブレード53の限界位置XLと流体6の通過位置Ptと検出する。また、限界位置検出部132は、限界位置XLを検出するために、直動アクチュエータ40のモータ44やブレード駆動部20の圧電素子51にそれぞれ制御信号を送信する。キャリブレーション制御部130によるキャリブレーションの操作は、後で図9等を参照しながら説明する。
図1及び図2に示したように、廃液受皿9はノズル1と受皿3との間に配置されている。図7及び図8は、ブレード53と廃液受皿9の各構成例を示す断面図である。図7は、ブレード53が限界位置XLで待機して、流体6と接触していない状態(すなわち、バルブ7を開いている状態)を示している。図8は、ブレード53が限界位置XLを越えて開口部92の上方に位置し、流体6と接触している状態(すなわち、ブレード53が流路を遮ることにより、バルブ7を閉じている状態)を示している。
図7及び図8に示すように、廃液受皿9の底部91において、流路と重なる部分には開口部92が設けられている。また、底部91には、開口部92を囲む内壁93が設けられている。また、底部91の外周には、底部91を囲む外壁94が設けられている。内壁93及び外壁94はそれぞれノズル1側に起立した状態で設けられている。また、外壁94には、廃液受皿9の内側と外側との間に棒状の圧電素子51を通すための切欠き部95が設けられている。切欠き部95の下にも、外壁94が設けられている。これにより、外壁94と内壁93とに囲まれた底部91上が廃液を貯めるための収容部となっている。
図7に示すように、外壁94のうち、切欠き部95が設けられていない部分の底部91からの高さをh1とし、切欠き部95が設けられている部分の高さをh2とする。また、内壁93の底部91からの高さをh3とする。外壁94と内壁93は、例えば、h1>h2≧h3の関係を満たすように形成されている。これにより、廃液が外壁94を超えて廃液受皿9の外側へこぼれ落ちることを防止している。
一方、ブレード53は、その流路側の側面の少なくとも一部が斜め上方に向いた傾斜面となっている。例えば、図7に示すように、ブレード53の流路側の側面のうち、上側の側面53aの水平方向に対する傾斜角度をθ1とし、下側の側面53cの水平方向に対する傾斜角度をθ3とし、上側と下側の中間に位置する側面53bの水平方向に対する傾斜角度をθ2とする。このとき、ブレード53は、例えば、90°≧θ3>θ1>θ2の関係を満たすように形成されている。すなわち、上側の側面53aと中間位置の側面53bはそれぞれ斜め上方に向いた傾斜面となっており、さらに、上側の側面53aよりも中間位置の側面53bの方が、水平面により近い傾斜面となっている。これにより、図8に示すように、ブレード53が開口部92の上方に位置し、バルブ7が閉じられているときに、ノズル1から落下してくる流体6をブレード53の側面53a、53bで飛び跳ねを少なく受けることができ、これらの側面53bに沿って廃液受皿9の収容部に導くことができる。
ブレード53の材質は、例えばポリプロピレン樹脂、ステンレス鋼、セラミック、ナイロン樹脂、ポリスチレン樹脂である。ブレード53の表面は撥水加工がされていることが好ましい。例えば、ブレード53はナノテクスチャー構造の表面を持ち、撥水するように形成されていることが好ましい。これにより、ノズル1からブレード53に落ちてきた流体6は飛び散らずに、ブレード53の側面に沿って廃液受皿9の収容部に流れることがさらに容易となる。
次に、本実施形態に係る細胞選別装置100の動作について説明する。まず、細胞選別装置100を使用する前の事前準備として、ブレード53の基準位置を正すキャリブレーションの方法について説明する。図9は、キャリブレーションの手順を示すフローチャートである。まず、図1から図3に示した細胞選別装置100において、図6に示した限界位置検出部132が、ブレード駆動部20に制御信号を送信して、バルブ7を開いた状態にする(ステップS1)。バルブ7が開いた状態で、ノズル1から受皿3に向けてシース流体が流される(ステップS2)。
次に、限界位置検出部132が、直動アクチュエータ40のモータ44に制御信号を送信して、ブレード53を+X方向に移動させる(ステップS3)。そして、限界位置検出部132は、情報取得部131が取得する情報に基づき、限界位置XLと通過位置Ptを検出する。限界位置検出部132は、ブレード53のX方向における位置を、例えば直動アクチュエータ40のモータ44の回転数に基づいて検出する(ステップS4)。
図10は、ブレード53が限界位置XLにあるときの、流体6の流れを模式的に示す側面図である。また、図11は、ブレード53が限界位置XLにあるときの流体6の通過位置Ptを模式的に示す平面図である。流体6の通過位置Ptは、位置検出器30(図3参照)で検出される。図10に示すように、ブレード53+X方向に移動して流体6に近づくと、ブレード53が流体6と接触する前に、流体周囲の空気流がブレード53に乱されて、流体6の流れは+X方向に僅かに変化する。流体6の流れが+X方向に僅かに変化した位置からさらに、ブレード53が+X方向に移動すると、流体周囲の空気流はさらに乱されて、流体6の流れは+X方向に大きく変化する。流体6の流れが+X方向に大きく変化した位置からさらに、ブレード53が+X方向に移動してノズル1の直下の位置に到達すると、流体6の+X方向への変化は収まり、流体6はブレード53に接触する。
図10に示すように、ブレード53の限界位置XLとは、ブレード53を流体6に近づけた際に、ブレード53は流体6に触れずに、流体6の流れが僅かに変化する位置のことである。図11に示すように、ブレード53が限界位置XLにあるときに、流体6が帯レーザ光33を通過する位置が、通過位置Ptである。流体6の通過位置Ptは、流体6と帯レーザ光33とが交差するZ方向の所定位置Zaにおける、流体6のX方向の位置である。
図9に示すように、ステップS4の後、図6に示した位置情報記憶部123が、ブレード53の限界位置XLとシース流体6の通過位置Ptとを原点として記憶する(ステップS5)。その後、限界位置検出部132は、位置情報記憶部123が記憶した原点に関する情報と、情報取得部131が取得するブレード53のX方向における位置とに基づいて、直動アクチュエータ40のモータ44に制御信号を送信して、ブレード53を限界位置XLに移動させる(ステップS6)。以上により、制御部50は、ブレード53の基準位置を正すキャリブレーションを終了する。
次に、細胞選別装置100を使用して細胞を選別する方法について説明する。図12は、細胞選別の手順を示すフローチャートである。細胞の選別は、キャリブレーションを行った後に行われる。図12に示すように、まず、図6に示した細胞識別部112が、ブレード駆動部20に制御信号を送信してバルブ7を閉じた状態にする(ステップS11)。バルブ7が閉じられた状態で、細胞を含む流体6がノズル1から流される(ステップS12)。
次に、細胞識別部112は、ノズル1から流れる流体6に細胞が含まれているかを検出する。例えば、細胞識別部112は、情報取得部111が取得したレーザ光の波長や強度に関する情報と、細胞情報記憶部113が記憶しているシース流体に関する情報とを比較する。両情報が合致する場合、細胞識別部112は、流体6に細胞が含まれていないと判断する。両情報が合致しない場合、細胞識別部112は、流体6に細胞が含まれていると判断する(ステップS13)。細胞が含まれていないと判断された場合(ステップS13;No)は、ステップS16へ進む。
細胞が含まれていると判断された場合(ステップS13;Yes)、細胞識別部112は、その検出された細胞が、所望の細胞か否かを判断する。例えば、細胞識別部112は、情報取得部111が取得したレーザ光の波長や強度に関する情報と、細胞情報記憶部113が記憶している所望の細胞に関する情報とを比較する。両情報が合致する場合、細胞識別部112は、流体6に所望の細胞が含まれていると判断する。両情報が合致しない場合、細胞識別部112は、流体6に所望の細胞は含まれていないと判断する(ステップS14)。所望の細胞が含まれていないと判断された場合(ステップS14;No)は、ステップS13へ進む。所望の細胞が検出された場合(ステップS14;Yes)、細胞識別部112はブレード駆動部20に制御信号を割り込み送信して、バルブ7を予め規定された時間で開閉する(ステップS15)。
図12に示すステップS15は、例えば、バルブ7が閉じた状態で第1規定時間待機するステップS151と、バルブ7が開くステップS152と、バルブ7が開いた状態で第2規定時間待機するステップS153と、バルブ7が閉じるステップS154と、を有する。第1規定時間とは、検出部16で検出された細胞が、検出された時点からバルブ7に到達するまでに要する時間をいう。第2規定時間とは、1個の細胞がバルブ7を通過するのに要する時間をいう。
次に、細胞識別部112は細胞の識別を終了するか否かを判断し(ステップS16)、終了するときは(ステップS16;Yes)、細胞選別装置100はノズル1から流体6を流すことを停止する(ステップS17)。また、細胞の識別を終了しないときは(ステップS16;No)、ステップS13に戻る。以上により、細胞の選別を終了する。
次に、フィードバック制御について説明する。細胞選別を始めると、位置検出器30で検出される流体6の通過位置が変わることがある。これは、流体6の温度変化又は、貯留部2からノズル1を通って受皿3に至る流路系の圧力変化によって、流体6の状態が変わり、キャリブレーションで得られた限界位置XLが、ブレード53の基準位置として適切ではなくなったことが理由である。この現象について、図13から図16を参照しながら説明する。
図13は、流体6の通過位置がブレード53に接近する側に変化した場合の流体6の流れを模式的に示す側面図である。また、図14は、図13の場合における流体6の通過位置Pt1を模式的に示す平面図である。なお、流体6の通過位置Pt1は、位置検出器30(図3参照)で検出される。流体6の通過位置Pt1は、流体6と帯レーザ光33とが交差するZ方向の所定位置Zaにおける、流体6のX方向の位置である。図14は、位置検出器30で検出される流体6の通過位置が、キャリブレーション直後のPtの位置から+X方向に移動してPt1の位置に変化した場合を示している。これは、流体6の状態が変わり、ブレード53が流体6に近すぎるようになったことが原因である。このような場合は、図13に示すように、ブレード53の基準位置を、キャリブレーションで得られた限界位置XLから、流体6から遠ざかる方向の位置XL1に変更するフィードバック制御を行う。これにより、ブレード53は流体6から遠ざかるので、流体6の通過位置をPt1の位置からPtの位置に戻すことができる。
図15は、流体6の通過位置がブレード53から遠ざかる側に変化した場合の流体6の流れを模式的に示す側面図である。また、図16は、図15の場合における流体6の通過位置Pt2を模式的に示す平面図である。なお、流体6の通過位置Pt2は、位置検出器30(図3参照)で検出される。流体6の通過位置Pt2は、流体6と帯レーザ光33とが交差するZ方向の所定位置Zaにおける、流体6のX方向の位置である。図16は、位置検出器30で検出される流体6の通過位置が、キャリブレーション直後のPtの位置から−X方向に移動してPt2の位置に変化した場合を示している。これは、流体6の状態が変わり、ブレード53が流体6から離れすぎるようになったことが原因である。このような場合は、図15に示すように、ブレード53の基準位置を、キャリブレーションで得られた限界位置XLから、流体6から近づく方向の位置XL2に変更するフィードバック制御を行う。これにより、ブレード53は流体6に近づくので、流体6の通過位置をPt2の位置からPtの位置に戻すことができる。
図17は、フィードバックの手順を示すフローチャートである。情報取得部131は、バルブ7が開いているときに、流体6の現在の通過位置に関する情報を取得する(ステップS21)。
次に、流路検出部122は、流体6の現在の通過位置がキャリブレーションで得られた通過位置Pt、すなわち、原点と合致するか否かを判断する(ステップS22)。現在の通過位置が原点と合致する場合には(ステップS22;Yes)、ブレード53の基準位置の変更は不要であるため、フィードバック制御を終了する。
一方、現在の通過位置が原点と合致しない場合、例えば、現在の通過位置が図14に示したPt1又は図16に示したPt2である場合には(ステップS22;No)、流路検出部122は直動アクチュエータ40を駆動してブレード53の位置を動かして、流体6の通過位置を原点に近づける(ステップS23)。その後、ステップS21に戻り、情報取得部131は、現在の通過位置に関する情報を再度取得する。このように、現在の通過位置が原点と合致しない場合は、ステップS21からS23を繰り返すことにより、現在の通過位置を最終的に原点である通過位置Ptと合致させることができ、ブレード53の基準位置を適切に変更することができる。以上により、フィードバック制御を終了する。このフィードバック制御は、細胞識別と同時に行ってもよいし、細胞識別とは別に行ってもよい。なお、以上の説明は、流体6の通過位置が変化した場合についてのものであるが、ブレード53の位置自体が変化して、流体6との相対位置が変化した場合も同様にフィードバック制御を行うことができる。
以上説明したように、本実施形態に係る細胞選別装置100は、細胞を含む流体を吐出するノズル1と、ノズル1の鉛直方向の下側に設けられた受皿3と、ノズル1から受皿3に至る流路を通る細胞を検出するための細胞検出器5と、細胞検出器5の検出結果に基づいて流路を開閉するバルブ7と、を備える。バルブ7は、流路の周囲に設けられたブレード53と、圧電素子51の伸縮によってブレード53を予め設定した基準位置(例えば、限界位置XL)から流路に向けて可逆的に押し出すブレード駆動部20と、を有する。
これによれば、検出した細胞はバルブ7の開閉で選別され、所望の細胞はブレード53に触れずに受皿3に収容されるため、所望の細胞に与えるダメージを小さくすることができる。また、細胞を選別する際に、細胞に加振や電荷の注入を行う必要はないので、所望の細胞だけでなく、所望以外の細胞についても、与えるダメージを小さくすることができる。また、ブレード53は押し出し方向(+X方向)に僅かに移動するだけで、流体6に接触して流路を遮ることができ、バルブ7の開閉に要するブレード53の移動量が小さくて済む。例えば、ブレード53は、流体6の直径と同じ又はその半分程度の移動量で、流体6の流れる方向を大きく変更することができる。また、ブレード53は圧電素子51の伸縮によって移動するため、高速動作である。このように、バルブ7の移動量は小さく、しかも高速動作するため、細胞の選別処理のスループットを高めることができる。
また、本実施形態に係る細胞選別装置100において、バルブ7は、ブレード駆動部20の動作を制御する駆動制御部110、をさらに備える。駆動制御部110は、細胞検出器5が検出した細胞のうち所望の細胞がバルブ7と同じ高さ(例えば、ブレード53と同じ高さ)に到達する際にブレード53を基準位置で待機させ、所望の細胞以外の細胞がブレード53と同じ高さに到達する際に、ブレード駆動部20がブレード53を流路に押し出して流路を遮る。これによれば、細胞を選別する操作が制御駆動部110により行われるため、効率よくかつ好適に細胞の選別を行うことができる。細胞選別装置100は、細胞選別の操作を自動で行うことができる。
また、本実施形態に係る細胞選別装置100において、バルブ7は、ブレード53の押し出し方向における流路の位置を検出する位置検出器30と、ブレード53及びブレード駆動部20をX方向に沿って移動させる直動アクチュエータ40と、位置検出器30によって検出される流路の通過位置が該位置検出器30によって予め検出された初期の通過位置Ptと合致するように直動アクチュエータ40を動作してブレード53の位置を制御するフィードバック制御部120と、を有する。これによれば、流体6の状態が変化して、キャリブレーションで得られた限界位置XLが、ブレード53の基準位置として適切ではなくなった場合でも、その変化に対応して基準位置を変更することができる。したがって、安定的なバルブ動作が可能である。
また、本実施形態に係る細胞選別装置100において、位置検出器30は、X方向と交差する方向で流路を挟んで向かい合うレーザ発光部31とレーザ受光部32とを有し、レーザ発光部31は、流路の直径よりも幅が大きい帯レーザ光33をレーザ受光部32に向けて照射する。これによれば、流路の位置変化を流路の径よりも広い範囲で検出することができる。したがって、流路の位置がX方向に沿って変化した場合でも、その変化後の位置を帯レーザ光で検出することが可能である。
また、本実施形態に係る細胞選別装置100において、圧電素子51の共振周波数は、流路を通る細胞の通過周波数よりも高い。ここで、細胞の通過周波数とは、流路を水平面で切断した断面において、1秒間あたりに通過する細胞の個数のことである。これによれば、1秒間にバルブ7を通過する細胞の数よりも1秒間に細胞を選別できる回数の方が多いため、細胞の選別速度を高めることができる。
また、本実施形態に係る細胞選別装置100は、流路の周囲に配置された廃液受皿9、をさらに備える。ノズル1から流れてくる流体6のうち、ブレード53に接触した液体は廃液受皿に収容される。これによれば、ブレード53に接触した細胞を含む液体を廃液受皿9に集めて回収することができるので、その廃棄や再利用が容易となる。
また、本実施形態に係る細胞の選別方法は、細胞を含む液体を吐出するノズル1から吐出させる前に予め、細胞を含まないキャリブレーション用液体をノズル1から鉛直方向の下側に吐出させる第1のステップ(例えば、ステップS2)と、第1のステップを維持したまま、ブレード53をキャリブレーション用液体に近づける第2のステップ(例えば、ステップS3)と、ブレード53がキャリブレーション用液体に接触しない位置であって、かつ、ブレード53が接近することによって、キャリブレーション液体の通過位置が変動し始めるときの、ブレード53の位置を検出する第3のステップ(例えば、ステップS4)と、細胞を含む液体をノズル1から吐出させる際は、第3のステップで検出した位置を基準位置に設定し、ブレード53を圧電素子又は磁歪素子の伸縮によって基準位置から液体の流路に向けて可逆的に押し出す第4のステップ(例えば、ステップS6と、ステップS12からステップS15)と、を有する。
これによれば、検出した細胞はバルブ7の開閉で選別され、所望の細胞はブレード53に触れずに受皿3に収容されるため、所望の細胞に与えるダメージを小さくすることができる。また、細胞を選別する際に、細胞に加振や電荷の注入を行う必要はないので、所望の細胞だけでなく、所望以外の細胞についても、与えるダメージを小さくすることができる。
上記の実施形態では、ブレード駆動部20が有する圧電素子51が、棒状で、縦方向(すなわち、長手方向)に伸縮する圧電セラミック素子である場合について説明した。しかし、本発明において、ブレード駆動部が備える圧電素子はこれに限定されるものではない。例えば、ブレード駆動部20は、磁歪素子と、棒状の磁歪素子の周囲に巻回されたコイルとを有していてもよい。磁歪素子は、例えばTb−Dy−Fe合金である。駆動制御部110は、ブレード駆動部のコイルを励磁することで、磁歪素子が伸縮する。このため、ブレード駆動部は、磁歪素子の伸縮によってブレード53を予め設定した基準位置(例えば、限界位置XL)から流路に向けて可逆的に押し出すことができる。
図18は、変形例に係るブレード駆動部20Aの構成例を模式的に示す図である。また、図19は、圧電素子51Aの厚みすべり変位を模式的に示す図である。実施形態に係る細胞選別装置100は、図1に示したブレード駆動部20に変えて、図18に示すブレード駆動部20Aを備えていてもよい。図18及び図19に示すように、ブレード駆動部20Aは、例えば圧電素子51Aと、棒状のブレードホルダ52と、ブレード53とを有する。ブレード駆動部20Aは、バルブベース10の下面側に取り付けられている。圧電素子51Aは、直方体状で、厚みすべり変位する圧電セラミック素子である。圧電素子51Aの一方の面はバルブベース10の下面側に取り付けられており、圧電素子51Aの他方の面はブレードホルダ52の側面に取り付けられている。このような構成であっても、圧電素子51Aにパルス状の電圧を印加して厚みすべり変位させることによって、ブレード53を+X方向に可逆的に押し出すことができる。
また、本実施形態において、検出部16は、変換されたデジタル信号を分析するデジタルデータプロセッサを有していてもよい。検出部16が上記のデジタルデータプロセッサを有する場合、検出部16は、受光部に到達した光の波長や大きさ等に基づいて、流体中における細胞の有無や、流体中の細胞の種類を検出することが可能である。
また、本実施形態では、レーザ発光部31とレーザ受光部32との間にブレード53が位置するように、位置検出器30のZ方向における位置が設定されていてもよい。図20は、レーザ受光部32で受光される帯レーザ光の受光強度の分布例(その3)を示す図である。図20に示すように、レーザ発光部31とレーザ受光部32との間にブレード53が位置すると、帯レーザ光33の一部はブレード53で遮られる。その結果、帯レーザ光33のブレード53で遮られた部分の受光強度は、流体6を透過した部分の受光強度よりもゼロに近い値となる。位置検出器30は、ブレード53で遮られたことにより受光強度が低下した範囲のうちの、受光強度の立ち上がり位置X3を検出することで、X方向におけるブレード53の位置を検出することができる。また、X方向においてブレード53の位置が変化すると、受光強度の立ち上がり位置X3がX3’に変化する。変化前の位置X3と変化後の位置X3’の差分ΔX3は、X方向におけるブレード53の変位量である。制御部50(例えば、情報取得部121、131)は、位置検出器30から送信されてくる信号に基づいてブレード53の位置や変位量を検出してもよい。
本実施形態の細胞選別装置及び細胞の選別方法は適宜変更してもよい。例えば、ブレードの形状等は、ノズルの形状や、細胞を含む液体の種類等に応じて適宜変更することが好ましい。キャリブレーション、細胞選別、フィードバックの各操作において、適宜手順の一部を省略してもよく、また、手順を置換して実行してもよい。