JP2018148873A - 改変型フコース結合性レクチン、およびその製造方法 - Google Patents

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Megumi Hotani
恵 穂谷
伊藤 博之
Hiroyuki Ito
博之 伊藤
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Abstract

【課題】Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc構造を含む糖鎖への選択的な結合性を有する改変型フコース結合性レクチン、およびその製造方法を提供すること。【解決手段】フコース結合性レクチンを構成するアミノ酸のうち、特定の位置にあるアミノ酸を他の特定のアミノ酸に置換すること、さらに、大腸菌を用いて当該フコース結合性レクチンを製造することにより、前記課題を解決する。【選択図】なし

Description

本発明は、糖鎖に対する結合性を改変したフコース結合性レクチンに関する。より詳しくは、遺伝子工学的手法を用い、結合する糖鎖の選択性が向上したフコース結合性レクチンに関する。
フコース結合性レクチンの1種であるBC2LCNは、グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)が産生するBC2L−Cタンパク質のN末端ドメイン(YP_002232818)に由来するレクチンであり(非特許文献1)、このレクチンを形質転換大腸菌で発現させたものが組換えBC2LCNである(非特許文献2)。
組換えBC2LCNは、例えば、非特許文献2および特許文献1に記載の未分化糖鎖マーカーとして知られているHタイプ1型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc)およびHタイプ3型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−3GalNAc)以外に、ルイスX型糖鎖(Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAc)やルイスY型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAc)などのフコースを含む複数種の糖鎖に高い結合性を有することが知られている(非特許文献1)。また、組換えBC2LCNは、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖が高発現している未分化状態のヒトES細胞やiPS細胞には結合するが、ヒト体細胞には結合しないことが知られている(非特許文献3)。さらに、組換えBC2LCNは前記未分化糖鎖マーカーに結合性を有することから、例えば、未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出やヒトES細胞やiPS細胞などの未分化細胞の検出に使用されている(特許文献1)。
しかしながら、組換えBC2LCNは前記未分化糖鎖マーカー以外にもフコースを含む複数種の糖鎖に結合性を有しており、類似構造を有する糖鎖、例えば、Fucα1−2Galの共通構造を有するHタイプ1型糖鎖とHタイプ3型糖鎖、あるいは、Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAcの共通構造を有するルイスX型糖鎖とルイスY型糖鎖を区別して認識することができなかった。また、組換えBC2LCNを前記の未分化糖鎖マーカーを含む複合糖質の検出やヒトES細胞やiPS細胞などの未分化細胞の検出に用いる場合には、例えば、ルイスX型糖鎖やルイスY型糖鎖を含む複合糖質や、表面にルイスX型糖鎖やルイスY型糖鎖が発現している細胞が混在する場合には、未分化糖鎖マーカーとルイスX型糖鎖やルイスY型糖鎖を区別することができないため、使用できないことが問題であった。
国際公開第2013/065302号パンフレット
Sulak O, Cioci G, Delia M, LahmannM, Varrot A, Imberty A, Wimmerova M., Structure.2010,18(1):59−72. Tateno H, Matsushima A, Hiemori K, Onuma Y, Ito Y, Hasehira K, Nishimura K, Ohtaka M, Takayasu S, Nakanishi M, Ikehara Y, Nakanishi M, Ohnuma K, Chan T, Toyoda M, Akutsu H, Umezawa A, Asashima M, Hirabayashi J., Stem Cells Transl Med.2013,2(4):265−73. Tateno H, Toyota M, Saito S, OnumaY, Ito Y, Hiemori K, Fukumura M, Matsushima A, Nakanishi M, Ohnuma K, Akutsu H,Umezawa A, Horimoto K, Hirabayashi J, Asashima M., J Biol Chem. 2011, 286(23):20345−53.
本発明の課題は、遺伝子工学的手法を用いて組換えBC2LCNにアミノ酸変異を導入し、結合する糖鎖の選択性が向上した改変型フコース結合性レクチン、およびその製造方法を提供することである。
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、配列番号1で示した組換えBC2LCNを構成するアミノ酸のうち、77番目のセリンをプロリンまたはスレオニンに、81番目のグルタミン酸をヒスチジンに置換することにより、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc構造を含む糖鎖への結合性を有し、且つ、Fucα1−2Galβ1−3GalNAc構造を含む糖鎖への結合性を有さない、配列番号2および配列番号3で示した改変型フコース結合性レクチンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の(1)から(6)に記載した発明を提供するものである。
(1)以下の(a)又は(b)の改変型フコース結合性レクチン。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(i)および(ii)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列からなる改変型フコース結合性レクチン
(i)配列番号1の77番目のセリンのプロリンまたはスレオニンへの置換
(ii)配列番号1の81番目のグルタミン酸のヒスチジンへの置換
(b)(a)の改変型フコース結合性レクチンのアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFucα1−2Galβ1−3GlcNAcの構造を含む糖鎖を認識する改変型フコース結合性レクチン。
(2)(1)に記載の改変型フコース結合性レクチンをコードするDNA。
(3)(2)に記載のDNAを含有する組換えベクター。
(4)(3)に記載の組換えベクターで宿主を形質転換した、(1)に記載の
改変型フコース結合性レクチンを生産可能な形質転換体。
(5)宿主が大腸菌である、(4)に記載の形質転換体。
(6)(4)または(5)に記載の形質転換体を培養することにより改変型フコース結合性レクチンを生産する工程、得られた培養物から生産された改変型フコース結合性レクチンを回収する工程、の2つの工程を含む、(1)に記載の改変型フコース結合性レクチンの製造方法。
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の改変型フコース結合性レクチンは、フコース結合性レクチンの1種であるBC2LCNの糖鎖結合領域周辺のアミノ酸残基に変異を導入したものであり、具体的には、配列番号1で示したBC2LCNのアミノ酸配列のうち、77番目のセリンをプロリンまたはスレオニンに、81番目のグルタミン酸をヒスチジンに置換し、形質転換大腸菌で発現させたものである。本発明の改変型フコース結合性レクチンは、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAcの構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、前記77番目と81番目のアミノ酸置換以外の1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加してもよく、例えば20個以下、好ましくは10個以下、より好ましくは5個以下のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加してもよい。
また、本発明の改変型フコース結合性レクチンは、そのN末端側またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用なタンパク質タグを付加してもよい。前記タンパク質タグとしては、ポリヒスチジン、グルタチオン S−トランスフェラーゼや、マルトース結合タンパク質(MBP)、セルロース結合性ドメイン(CBD)、mycタグ、FLAGタグなどがあげられる。また本発明の改変型フコース結合性レクチンをクロマトグラフィー用の支持体等の固相に固定化する際に有用な、システインを含むオリゴペプチドを、本発明の改変型フコース結合性レクチンのN末端側またはC末端側にさらに付加してもよい。N末端側またはC末端側に付加するオリゴペプチドの長さは、本発明の改変型フコース結合性レクチンがFucα1−2Galβ1−3GlcNAcの構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、制限はない。さらに本発明の改変型フコース結合性レクチンのN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主が大腸菌の場合における前記シグナルペプチドの例としては、PelB、DsbA、MalE、TorTなどといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる。
本発明のDNAおよび組換えベクターの作製方法は公知の方法を用いることができる。アミノ酸変異を導入する前の組換えBC2LCNのアミノ酸配列(配列番号1)を塩基配列に変換し、化学合成することにより組換えBC2LCNのアミノ酸配列をコードする塩基配列を含むDNAを作製することができる。なお、アミノ酸配列から塩基配列に変換する際、形質転換させる宿主におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えばかずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Database、http://www.kazusa.or.jp/codon/、アクセス日:2016年6月27日)を利用することによっても可能である。また、変異導入操作を簡便に行うため、変異導入部位周辺にアミノ酸配列を変えずに適当な制限酵素認識配列を導入してもよい。得られたDNAを一般的なプラスミドやコスミド、バクテリオファージに挿入して、野生型組換えBC2LCNをコードする塩基配列を含む組換えベクターを作製することができる。
本発明の改変型フコース結合性レクチンの組換えベクターは、得られた組換えBC2LCNをコードする塩基配列に特定の変異を導入することによって得られる。すなわち本発明の組換えベクターの作製は図1に示す縮重プライマーを用いたPCR法により行うことができる。縮重プライマーによるPCR産物を、適当な制限酵素を用いて、組換えBC2LCNをコードする塩基配列を含む組換えベクターの対応する領域に挿入することにより、本発明の組換えベクターおよびDNAを作製することができる。なお、本発明の変異をコードした塩基配列を本発明の組換えベクターがもつことを確認するための方法としては、当業者が通常用いる方法で塩基配列解析を行うことができる。例えば、変異導入領域を増幅するシーケンス用プライマーを用い、チェーンターミネータ法に基づくBig Dye Terminator Cycle Sequencing FS read Reaction kit(PEアプライドバイオシステム社製)を用いてサイクルシークエンス反応に供し、全自動DNAシークエンサーABI Prism 3700 DNA analyzer(PEアプライドバイオシステム社製)にて塩基配列を解析することができる。
本発明の組換えベクターを用いて宿主を形質転換するには、形質転換する宿主内で安定に存在しできる発現ベクターを用いて組換えベクターを作製し、宿主に対応した形質転換法により形質転換体を得ることができる。本発明の宿主が大腸菌であった場合は、発現ベクターとしては、pET系発現ベクター、pUC発現ベクター、pTrc発現ベクター、pCDF発現ベクター、pBBR発現ベクターが例示できる。宿主は発現ベクターに対応しているものであれば当業者が通常用いるものでよく、例えば大腸菌BL21(DE3)株、BL21株、JM109株などが挙げられる。また、形質転換体は当業者が通常用いる方法で行なえばよく、公知の文献(例えば、Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,256,1992)に記載の方法等により形質転換すればよい。
本発明の改変型フコース結合性レクチンを調製するには、本発明の形質転換体を用いて当該技術分野において周知の条件で行えばよい。温度や誘導剤の種類およびその濃度など発現培養条件は、宿主や発現ベクターなど発現の形態に応じて実施すればよい。例えば、宿主が大腸菌で発現ベクターがpET系であった場合、LB(Luria−Bertani)培地またはTB(Terrific Broth)培地を用い、温度は10℃から40℃、好ましくは25℃から35℃、より好ましくは30℃前後であり、発現誘導剤はIPTG(isopropyl−β−D−thiogalactopyranoside)を用いればよい。本発明の形質転換体を培養して得られた培養混合物から本発明の改変型フコース結合性レクチンを回収するには、発現の形態に応じて当業者が通常用いる方法の中から適宜選択して行えばよい。培養上清に発現する場合は、菌体を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から改変型フコース結合性レクチンを抽出すればよい。細胞内(原核生物においてはペリプラズムも含む)に発現する場合は、遠心分離操作により菌体を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加することにより菌体を破砕し、菌体破砕液から改変型フコース結合性レクチンを抽出すればよい。前述した方法で得られた抽出物の中から改変型フコース結合性レクチンを分離精製するには、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、その一例として、液体クロマトグラフィーを用いた分離精製があげられる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等があり、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて精製を行なうことで、改変型フコース結合性レクチンを高純度に調製することができる。
なお、本発明の改変型フコース結合性レクチンの糖鎖結合性の評価は、Enzyme−linked immunosorbent assay(ELISA)法や表面プラズモン共鳴法(Surface Plasmon Resonance法:SPR法)などにより評価することができる。表面プラズモン共鳴法について説明する。表面プラズモン共鳴法による結合性評価は、Biacore T100機器(GEヘルスケア社製)などのビアコアシステムを用い、アナライトを組換えタンパク質、固相を糖鎖として測定することができる。糖鎖を固定したセンサーチップの作製は、ビオチン標識糖鎖を利用して、ストレプトアビジンをコートしたセンサーチップSensor Chip SA(GEヘルスケア社製)や、デキストランがコートされたセンサーチップSensor Chip CM5(GEヘルスケア社製)にあらかじめストレプトアビジンを固定したものを利用して行うことができる。結合性評価はビアコアシステムのカイネティクス解析プログラムを利用して行うことができる。
本発明の改変型フコース結合性レクチンは、Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc構造を含む糖鎖、例えば、Hタイプ1型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc)に対して良好な結合性を有している。そのため、本発明の改変型フコース結合性レクチンを、組換えBC2LCNとともに使用することで、ヒトES細胞やiPS細胞などのHタイプ1型糖鎖とHタイプ3型糖鎖が共に高発現している細胞上での両糖鎖の含有量を比較することが可能となる。具体的には、蛍光色素等で標識した改変型フコース結合性レクチンおよび組換えBC2LCNを用いて細胞を染色したのち、その蛍光強度を測定し、本発明の改変型フコース結合性レクチンおよび組換えBC2LCNの細胞表面への結合量を比較することにより、細胞表面におけるHタイプ1型糖鎖とHタイプ3型糖鎖の発現量を比較することができる。
また、本発明の改変型フコース結合性レクチンは、Hタイプ1型糖鎖に対して高い結合性をもつことから、Hタイプ1型糖鎖を含む複合糖質や、Hタイプ1型糖鎖を含む複合糖質を細胞表面に発現している細胞の検出に使用することができる。
組換えBC2LCNへの変異導入法の概要である。 改変型フコース結合性レクチン(S77P/E81H)のカイネティクス解析結果である。
以下、作製例、実施例および比較例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
作製例1 改変型フコース結合性レクチンの作製
(1)BC2LCNの組換えベクター(pETBC2LCN)の作製
BC2LCNの組換えベクターの作製は、BC2LCNのアミノ酸配列を塩基配列に変換し、塩基配列を含むDNAを作製し、それらを適当な発現ベクターに導入して行った。具体的には、配列番号1に示したBC2LCNのアミノ酸配列(GenBank登録番号:WP_006490828の2番目から156番目の領域のアミノ酸)をDNAworks法(Nucleic Acid Res.,30,e43頁,2002年)を用いてコドンを大腸菌型に変換し、配列番号4に示すBC2LCNのアミノ酸配列をコードする塩基配列を設計した。さらに、配列番号4のDNAをPCR法により作製するため、DNAworks法によりオリゴヌクレオチドを設計し、PCR法により連結し、配列番号4の塩基配列を含むDNAを作製した。得られたDNAを発現ベクターpET28a(+)(メルクミリポア製)に制限酵素認識配列を利用して導入し、BC2LCN組換えベクターであるpETBC2LCNを作製した。組換えベクターは、挿入したDNAがコードする組換えBC2LCNが発現し、さらにN末端側に発現ベクター上の塩基配列がコードするポリヒスチジンが連結するよう最適化した。
(2)組換えBC2LCNへの変異導入(81番目グルタミン酸のアミノ酸置換)
変異導入法の概要を図1に示した。糖鎖結合部位周辺の81番目のグルタミン酸に対して、縮重プライマーを用いたPCRにより行った。配列番号5に示した縮重プライマーは、81番目のグルタミン酸に対応する塩基配列をNNB(N=A,C,G,Tいずれか、B=C,G,Tいずれか)とし、81番目のアミノ酸が全20種類のアミノ酸に置換されるよう設計した。変異導入のためのPCRは、鋳型は前記(1)の発現ベクターpETBC2LCNを用い、プライマーは、配列番号5に示した81番目の縮重配列を含み、3‘末端に制限酵素KpnIをもつ縮重プライマーと、配列番号6に示したpETベクターのターミネーター領域のプライマーを用いた。PCR反応はEx Taq(タカラバイオ社製)やPrimeStarHS(タカラバイオ社製)などの一般的なDNAポリメラーゼを用い、メーカー推奨の通常の条件に従い行った。得られた81番目のグルタミン酸をコードする塩基配列に変異を含むPCR産物は、縮重プライマー上の制限酵素KpnIと、81番目のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む領域を置き換えるのにPstIなどの適当な制限酵素により消化し、BC2LCN組換えベクターpETBC2LCNの対応する領域と置き換えて、81番目のアミノ酸配列に一重変異をもつ発現ベクターpETBC2LCN(E81X)を作製した。81番目のアミノ酸を特定は塩基配列解析により行った。
(3)組換えBC2LCNおよび改変型フコース結合性レクチン(E81X)の製造
pETBC2LCNまたはpETBC2LCN(E81X)により大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、pETベクターの一般的な発現培養条件により培養を行い、組換えBC2LCNまたは改変型フコース結合性レクチンを生産させた。菌体からのタンパク質抽出は超音波破砕またはBugBuster Protein extraction kit(メルクミリポア社製)を用いて、一般的な方法により菌体から、組換えBC2LCNまたは改変型フコース結合性レクチンを含む可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液中の組換えBC2LCNまたは改変型フコース結合性レクチンの単離は、組換えBC2LCNおよび改変型フコース結合性レクチンのN末端側に連結したポリヒスチジンを利用し、His・Bind Resin(メルクミリポア社製)を用いたニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行った。
(4)組換えBC2LCNおよび改変型フコース結合性レクチン(E81X)の糖鎖結合性評価
前記(3)で得られた組換えBC2LCNおよび改変型フコース結合性レクチン(E81X)のHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する結合性評価は、ビアコアを用いた表面プラズモン共鳴法により行った。具体的には、Biacore T100機器(GEヘルスケア社製)を用い、アナライトを組換えBC2LCNまたは改変型フコース結合性レクチン、固相をHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖としてカイネティクス解析を行った。センサーチップはデキストランがコートされたSensor Chip CM5(GEヘルスケア社製)を使用し、デキストランにストレプトアビジン(和光純薬)をアミンカップリング法により固定した後、ビオチン標識されたHタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖(Glycotech社製)を添加し、ビオチンとストレプトアビジンの反応により糖鎖をセンサーチップ上に固定して作製した。
糖鎖親和性の測定はカイネティクス解析により行った。緩衝液はHBS−EP+を用い、結合反応は流速30μl/分、結合時間は6分間、解離時間は3分間とした。センサーチップの再生は25 mMの水酸化ナトリウムを用い、流速30μl/分、再生時間15秒で行った。アナライトタンパク質の濃度は1〜100 nMで行った。解析は解析ソフト(Biacore T100 Evaluation Software、version 1.1.1)を用いて行い、1:1 Bindingのフィッティングにより解離定数(K)を算出した。糖鎖結合性評価の結果から、Hタイプ1型糖鎖への結合性を維持した81番目のグルタミン酸がヒスチジンに置換された変異を含む発現ベクターpETBC2LCN(E81H)を含む、81番目のグルタミン酸が他のアミノ酸に置換された変異を含む発現ベクターpETBC2LCN(E81X)を選択した。
(5)改変型フコース結合性レクチン(E81X)への変異導入(77番目セリンのアミノ酸置換)
変異導入法の概要を図1に示した。糖鎖結合部位周辺の77番目のセリンに対して、縮重プライマーを用いたPCRにより行った。配列番号7に示した縮重プライマーは、77番目のセリンに対応する塩基配列をNNB(N=A,C,G,Tいずれか、B=C,G,Tいずれか)とし、77番目のアミノ酸が全20種類のアミノ酸に置換されるよう設計した。変異導入のためのPCRは、鋳型は前記(1)の発現ベクターpETBC2LCNを用い、プライマーは、配列番号7に示した77番目の縮重配列を含み、3‘末端に制限酵素KpnIをもつ縮重プライマーと、配列番号8に示したpETベクターのプロモーター領域のプライマーを用いた。PCR反応は前記(2)と同様に行った。得られた77番目のセリンをコードする塩基配列に変異を含むPCR産物は、縮重プライマー上の制限酵素KpnIと、77番目のアミノ酸配列をコードする塩基配列を含む領域を置き換えるのにPstIなどの適当な制限酵素により消化し、前記(2)で作製した81番目のアミノ酸配列に一重変異をもつ発現ベクターBC2LCN組換えベクターpETBC2LCN(E81X)のうち、前記(4)でHタイプ1型糖鎖への親和性が確認された変異をもつ発現ベクターの対応する領域と置き換えて、81番目と77番目のアミノ酸に二重変異をもつ発現ベクターpETBC2LCN(S77X/E81X)を作製した。77番目と81番目のアミノ酸の特定は塩基配列解析により行った。作製できた10種類の発現ベクターpETBC2LCN(S77X/E81X)を表1に示した。
Figure 2018148873
(6)改変型フコース結合性レクチン(S77X/E81X)の製造
表1に示した10種類の発現ベクターpETBC2LCN(S77X/E81X)の大腸菌発現と改変型フコース結合性レクチンの製造は、前記(3)と同様の方法で行った。改変型フコース結合性レクチンの発現量は、配列番号1で示したアミノ酸配列からなる組換えBC2LCNと大差なかった。
(7)改変型フコース結合性レクチン(S77X/E81X)の糖鎖結合性評価
前記(6)で得られた改変型フコース結合性レクチン(S77X/E81X)のHタイプ1型糖鎖(Fucα1−2Galβ1−3GlcNAc)とHタイプ3型糖鎖に対する結合性評価は、前記(4)と同様に行った。
表2に、実施例1と2および比較例1から9として、前記(3)で作製した組換えBC2LCNと、前記(6)で製造した改変型フコース結合性レクチンの、Hタイプ1型糖鎖およびHタイプ3型糖鎖に対する解離定数を示した。改変型フコース結合性レクチン(S77X/E81X)のうち、Hタイプ1型糖鎖に対して良好な結合性を有し、かつ、Hタイプ3型糖鎖に対する結合性が著しく低下した変異として、配列番号2で示した改変型フコース結合性レクチン(S77P/E81H、実施例1)および配列番号3で示した改変型フコース結合性レクチン(S77T/E81H、実施例2)を得ることができた。改変型フコース結合性レクチン(S77P/E81H、実施例1)のカイネティクス解析結果を図2に示した。
Figure 2018148873

Claims (6)

  1. 以下の(a)又は(b)の改変型フコース結合性レクチン。
    (a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(i)および(ii)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を含むアミノ酸配列からなる改変型フコース結合性レクチン
    (i)配列番号1の77番目のセリンのプロリンまたはスレオニンへの置換
    (ii)配列番号1の81番目のグルタミン酸のヒスチジンへの置換
    (b)上記(a)の改変型フコース結合性レクチンのアミノ酸配列において、1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入もしくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつFucα1−2Galβ1−3GlcNAcの構造を含む糖鎖を認識する改変型フコース結合性レクチン。
  2. 請求項1に記載の改変型フコース結合性レクチンをコードするDNA。
  3. 請求項2に記載のDNAを含有する組換えベクター。
  4. 請求項3に記載の組換えベクターで宿主を形質転換した、請求項1に記載の改変型フコース結合性レクチンを生産可能な形質転換体。
  5. 宿主が大腸菌である、請求項4に記載の形質転換体。
  6. 請求項4または5に記載の形質転換体を培養することにより改変型フコース結合性レクチンを生産する工程、得られた培養物から生産された改変型フコース結合性レクチンを回収する工程、の2つの工程を含む、請求項1に記載の改変型フコース結合性レクチンの製造方法。
JP2017092568A 2017-03-13 2017-05-08 改変型フコース結合性レクチン、およびその製造方法 Pending JP2018148873A (ja)

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* Cited by examiner, † Cited by third party
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WO2013065302A1 (ja) * 2011-11-01 2013-05-10 独立行政法人産業技術総合研究所 未分化細胞検出方法及び複合糖質検出方法

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WO2013065302A1 (ja) * 2011-11-01 2013-05-10 独立行政法人産業技術総合研究所 未分化細胞検出方法及び複合糖質検出方法

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