JP2022067620A - 熱安定性が向上したフコース結合性タンパク質、およびその製造方法 - Google Patents

熱安定性が向上したフコース結合性タンパク質、およびその製造方法 Download PDF

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秀典 相原
Shusuke Aihara
恵 穂谷
Megumi Hotani
博之 伊藤
Hiroyuki Ito
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Abstract

【課題】Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有し、熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質およびその製造方法を提供する。【解決手段】特定の配列で示されるフコース結合性タンパク質を構成する特定のアミノ酸配列において、特定のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換すること、加えて、Escherichia coliを用いて当該フコース結合性タンパク質を製造する、製造方法を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、熱安定性が向上したフコース結合性タンパク質、およびその製造方法に関する。
グラム陰性細菌(Burkholderia cenocepacia)が産生するBC2L-CレクチンのN末端ドメインに由来するBC2LCNは、フコース残基を含む糖鎖への結合親和性を有するレクチンであり、Hタイプ1型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)、Hタイプ3型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)、ルイスY型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)、ルイスb型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAc)およびルイスX型糖鎖(Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAc)等のフコース残基を含む複数種の糖鎖に高い結合親和性を有することが知られている(非特許文献1)。これらの糖鎖への結合親和性をもつことから、BC2LCNはこれらの糖鎖が高発現している細胞やタンパク質の検出や分離に使用することが可能である。例えば、非特許文献2、特許文献1および特許文献2には、未分化状態のヒトES細胞およびiPS細胞はHタイプ1型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GlcNAc)、Hタイプ3型糖鎖(Fucα1-2Galβ1-3GalNAc)を高発現していることから、BC2LCNを用いてヒトES細胞やiPS細胞等の未分化細胞を検出する方法が開示されている。また、Hタイプ1型糖鎖やルイスY糖鎖は特定のがん細胞に高発現していることが知られている(H1:非特許文献3、LewisY:非特許文献4)。ルイスb型糖鎖は赤血球で血液型抗原であるほか、ヘリコバクター・ピロリ菌(Helicobacter pylori)が宿主細胞のルイスb型糖鎖を感染に用いていることが知られている(非特許文献5)。
タンパク質の機能を向上させる方法として、タンパク質工学的手法によりタンパク質にアミノ酸変異を導入し、目的とする機能を向上させる方法が知られており、特許文献3にはBC2LCNの特定のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、熱に対する安定性が向上する旨、開示されているが、より熱安定性の高いBC2LCNが求められている。
国際公開第2013/065302号 国際公開第2013/128914号 特開2020-025535号公報
Sulak,O.等,Structure.2010,18(1):59-72. Tateno,H.等,Stem Cells Transl. Med.2013,2(4):265-273. Tang,C.等,Nat. Biotechnol.2011,29(9):829-835. Westwood J.A.等,J. Immunother.2009,32(3):292-301. Hage,N.等,Sci. Adv.2015,14;1(7):e1500315.
BC2LCNは種々の糖鎖への高い結合親和性を持つため、特定の細胞の検出に有用であるものの、BC2LCNは熱に不安定であり、生産、保管および使用時の熱による失活・変性が問題であった。このため、長期的に糖鎖への結合親和性が保証される安定性の高いBC2LCNが求められている。特に、BC2LCNを工業的に生産し提供するためには、製造や加工、保管が容易で、安定性が向上したBC2LCNが求められる。本発明の課題は、高い熱安定性を有するフコース結合性タンパク質を提供することである。
本発明者らは前記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、配列番号1に示される155アミノ酸残基からなるBC2LCNを構成するアミノ酸配列において、83番目のスレオニン残基をプロリン残基、アラニン残基、チロシン残基、トリプトファン残基およびセリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基に置換すること、および/または、配列番号1に示されるアミノ酸配列の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基またはバリン残基に置換すること、および/または、配列番号1に示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基、37番目のリジン残基、39番目のグルタミン残基、46番目のスレオニン残基、47番目のプロリン残基および122番目のセリン残基から選ばれる1個のアミノ酸残基をアラニン残基に置換することにより、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を維持しつつ、熱に対する安定性が向上したフコース結合性タンパク質が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の[1]から[11]に記載した発明を包含するものである。
[1]
以下の(a)~(c)のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
(a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(1)~(3)に記載のアミノ酸配列への置換がいずれか1個以上を含む、フコース結合性タンパク質
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の83番目のスレオニン残基の、スレオニン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の86番目のメチオニン残基の、メチオニン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちアラニン残基以外の任意の1個のアミノ酸残基の、アラニン残基への置換
(b)前記(a)に記載のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号1の83番目、配列番号1の86番目、および配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちアラニンであるアミノ酸残基を含まない領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはF
ucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質
(c)前記(1)~(3)に記載のいずれか1個以上の置換が行われたアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質
[2]
前記(1)において、スレオニン残基以外の任意のアミノ酸残基が、プロリン残基、アラニン残基、チロシン残基、トリプトファン残基およびセリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換である、および/または、前記(2)において、メチオニン残基以外の任意のアミノ酸残基が、イソロイシン残基またはバリン残基への置換である、および/または、前記(3)において、アラニン残基へ置換される任意の1個のアミノ酸残基が、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基、37番目のリジン残基、39番目のグルタミン残基、46番目のスレオニン残基、47番目のプロリン残基または122番目のセリン残基から選ばれる1個のアミノ酸残基である、請求項1に記載のフコース結合性タンパク質。
[3]
配列番号2から配列番号24のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、前記[1]または[2]に記載のフコース結合性タンパク質。
[4]
N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有する前記[1]から[3]のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質。
[5]
C末端に付加したアミノ酸配列がシステイン残基を含むオリゴペプチドである、前記[1]から[4]のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質。
[6]
N末端に付加したアミノ酸配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、前記[1]から[5]のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質。
[7]
前記[1]から[6]のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質をコードするDNA。
[8]
前記[7]に記載のDNAを含有する発現ベクター。
[9]
前記[8]に記載の発現ベクターで宿主を形質転換した形質転換体であって、[1]から[6]のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質を生産可能な形質転換体。
[10]
宿主がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、前記[9]に記載の形質転換体。
[11]
前記[9]または[10]に記載の形質転換体を培養することによりフコース結合性タンパク質を生産する工程、得られた培養物から生産されたフコース結合性タンパク質を回収する工程、の2つの工程を含む、[1]から[6]のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質の製造方法。
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を持つHタイプ1型糖鎖、Fucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を持つHタイプ3型糖鎖、Fucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcからなる構造を持つルイスY型糖鎖、Fucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を持つルイスb型糖鎖等のフコース含有糖鎖への結合親和性を有するレクチンであるBC2LCNを構成するアミノ酸配列(配列番号1で示される155アミノ酸残基からなるアミノ酸配列であり、GenPeptに登録番号WP_006490828として登録されているアミノ酸配列の2番目から156番目までのアミノ酸配列と一致する。)において、特定の位置にあるアミノ酸残基に変異を導入し、形質転換Escherichia coliで組換えタンパク質として発現させたものである。具体的には、配列番号1で示されるアミノ酸配列における83番目のスレオニン残基のプロリン残基、アラニン残基、チロシン残基、トリプトファン残基、セリン残基およびシステイン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換、および/または、配列番号1で示されるアミノ酸配列における86番目のメチオニン残基のイソロイシン残基またはバリン残基への置換、および/または、配列番号1で示されるアミノ酸配列における1番目のプロリン残基、37番目のリジン残基、39番目のグルタミン残基、46番目のスレオニン残基、47番目のプロリン残基および122番目のセリン残基から選ばれる1個のアミノ酸残基のアラニン残基への置換を行い、形質転換Escherichia coliで組換えタンパク質として発現させたものである。配列番号1で示されるアミノ酸配列における83番目のスレオニン残基をプロリン残基またはアラニン残基またはチロシン残基またはトリプトファン残基またはセリン残基で置換すること、および/または、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基またはバリン残基で置換すること、および/または、1番目のプロリン残基または37番目のリジン残基または39番目のグルタミン残基または46番目のスレオニン残基または47番目のプロリン残基または122番目のセリン残基86番目をアラニン残基で置換することにより、前記組換えタンパク質のFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を維持しながら、熱に対する安定性を向上させることができる。これらのアミノ酸残基の置換の中では、熱安定性が高い点で、83番目のスレオニン残基をプロリン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基またはバリン残基に置換することが好ましく、前記4種類の糖鎖すべてに対する結合親和性を維持しつつ、変性中点温度がアミノ酸置換を行っていない前記組換えタンパク質よりも10℃以上高く熱安定性が顕著に向上した点で、83番目のスレオニン残基をプロリン残基に、または、83番目のスレオニン残基をチロシン残基またはセリン残基に、および86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基またはバリン残基に置換することが好ましい後述する実施例および比較例で示すように、配列番号1で示されるアミノ酸配列における任意の位置のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換するのではなく、特定の位置のアミノ酸残基を特定のアミノ酸残基に置換することにより、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖に対する結合親和性を維持しながら、熱に対する安定性を向上させることができる。
本発明のフコース結合性タンパク質の具体例としては、配列番号2(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号3(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号4(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号5(配列番号1の83番目のスレオニン残基をトリプトファン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号6(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号7(配列番号1の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号8(配列番号1の86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号9(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号10(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号11(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号12(配列番号1の83番目のスレオニン残基をトリプトファン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号13(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号14(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号15(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号16(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号17(配列番号1の83番目のスレオニン残基をトリプトファン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号18(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号19(配列番号1の1番目のプロリン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号20(配列番号1の37番目のリジン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号21(配列番号1の39番目のグルタミン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号22(配列番号1の46番目のスレオニン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)、配列番号23(配列番号1の47番目のプロリン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)および配列番号24(配列番号1の122番目のセリン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)のいずれかで示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質を挙げることができる。これらのフコース結合性タンパク質の中では、後述する実施例で示すように、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む組換えBC2LCNcysに比べて熱安定性が高い点で、配列番号9および配列番号14で示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質が好ましく、Hタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖すべてに対する結合親和性を維持し、変性中点温度が前記組換えBC2LCNcysに比べて10℃以上高く熱安定性が顕著に向上した点で、配列番号2、配列番号11、配列番号13、配列番号16および配列番号18で示されるアミノ酸配列を含むフコース結合性タンパク質が好ましい。
本発明のフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列において以下の(1)~(3)に記載のアミノ酸置換のいずれか1つ以上を有するアミノ酸配列のバリアント配列であってもよい。
(1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の83番目のスレオニン残基の、スレオニン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
(2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の86番目のメチオニン残基の、メチオニン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
(3)配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちアラニン残基以外の任意の1個のアミノ酸残基が、アラニン残基へ置換されたアミノ酸配列
バリアント配列としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列において、83番目、86番目およびアラニン残基を含まない領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加を含むアミノ酸配列が挙げられる。前記「1若しくは数個」とは、アミノ酸残基のタンパク質の立体構造における位置やアミノ酸残基の種類によって異なり得るが、例えば1~15個、1~12個、1~10個、1~9個、1~8個、1~7個、1~6個、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、または1個を意味してよい。上記のアミノ酸残基の置換の一例としては、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が挙げられる。物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸残基としては、側鎖の性質が類似したアミノ酸残基が挙げられる。側鎖の性質が類似したアミノ酸残基は下記に例示する。
バリアント配列としては、配列番号1で示されるアミノ酸配列において前記(1)およ
び/または(2)および/または(3)に記載のアミノ酸置換を有するアミノ酸配列に対して高い相同性を有するアミノ酸配列も挙げられる。「高い相同性」とは、例えば、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、または95%以上の相同性を意味してよい。「相同性」とは、同一性(identity)または類似性(similarity)を意味してよい。本明細書においては、比較対照とするアミノ酸配列において、アミノ酸残基の種類が同一な部分の割合を「同一性(identity)」とし、さらに、アミノ酸残基の側鎖の性質が類似している部分を加えた割合を「類似性(similarity)」とする(実験医学 2013年2月号 Vol.31 No.3、羊土社)。ここで、側鎖の性質が類似しているアミノ酸残基としては、例えば、疎水性側鎖を有するアミノ酸残基としてはグリシン残基、アラニン残基、バリン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、プロリン残基、フェニルアラニン残基、メチオニン残基およびトリプトファン残基を挙げることができる。また、親水性の酸性側鎖を有するアミノ酸としてはアスパラギン酸残基およびグルタミン酸残基を、親水性の塩基性側鎖を有するアミノ酸としてはリジン残基、アルギニン残基およびヒスチジン、親水性の電荷を持たない側鎖を有するアミノ酸としてはアスパラギン残基、グルタミン残基、セリン残基、スレオニン残基、システイン残基およびチロシン残基を挙げることができる。アミノ酸配列の相同性は、BLAST等のアラインメントプログラムを利用して決定することができる。例えば、アミノ酸配列の同一性とは、blastpを用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してよく、具体的には、blastpをデフォルトのパラメータで用いて算出されるアミノ酸配列間の同一性を意味してもよい。得られるフコース結合性タンパク質の熱安定性が高い点で90%以上の相同性を有するアミノ酸配列が好ましい。
また、本発明のフコース結合性タンパク質は、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有している限り、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側および/またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用な付加的なアミノ酸配列を有していてもよい。前記付加的なアミノ酸配列としては、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチド、グルタチオンS-トランスフェラーゼ、マルトース結合タンパク質、セルロース結合性ドメイン、mycタグ、FLAGタグ等が挙げられる。これらの付加的なアミノ酸配列の中では、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が容易に行える点で、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドであることが好ましい。前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数に特に制限はないが、ヒスチジンの繰返し配列が短い場合はニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が困難となり、長い場合は、本発明のフコース結合性タンパク質の前記糖鎖への結合親和性が損なわれる可能性がある。従って、ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドにおけるヒスチジンの繰返し配列数はヒスチジン残基が5個から15個からなる繰返し配列であることが好ましく、5個から10個からなる繰返し配列であることがより好しい。また、前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドの長さは、前記ヒスチジンの繰返し配列が含まれていれば特に制限はなく、ヒスチジン残基が5個から15個からなる繰返し配列を含む20個以下のオリゴペプチドであることが好ましく、ヒスチジン残基が5個から10個からなる繰返し配列を含む15個以下のオリゴペプチドであることがより好ましい。前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドがフコース結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、N末端側或いはC末端側のいずれかであってもよいが、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーによる精製が効率的に行える点で、前記ポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドはフコース結合性タンパク質のN末端側に付加されていることが好ましい。
さらに、本発明のフコース結合性タンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列のN末端側および/またはC末端側に、本発明のフコース結合性タンパク質をクロマトグラフィー用の支持体等の担体に固定化する際に有用な、システイン残基またはリジン残基を含むオリゴペプチドからなる付加的なアミノ酸配列(以下、担体固定化用タグと呼ぶ。)を有していても良い。前記担体固定化用タグの長さは、本発明のフコース結合性タンパク質がFucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖への結合親和性を有している限り、特に制限はない。担体固定化用タグとしては、不溶性担体への固定化が高選択的かつ高効率に行える点で、システイン残基を1つ以上含む2から10アミノ酸残基からなるオリゴペプチドが好ましく、具体的には、「Gly-Gly-Cys」の3アミノ酸残基からなるオリゴペプチド、「Ala-Ser-Gly-Gly-Cys」の5アミノ酸残基からなるオリゴペプチドおよび「Gly-Gly-Gly-Ser-Gly-Gly-Cys」の7アミノ酸残基からなるオリゴペプチドを例示することができる。前記システイン残基を1つ以上含むオリゴペプチドがフコース結合性タンパク質に付加する位置に特に制限はなく、N末端側とC末端側の双方、N末端側或いはC末端側のいずれかであってもよいが、フコース結合性タンパク質の担体への固定化が効率的に行える点で、前記システイン残基を1つ以上含むオリゴペプチドはフコース結合性タンパク質のC末端側に付加されていることが好ましい。
加えて、本発明のフコース結合性タンパク質のN末端側には、宿主での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。宿主がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)の場合における前記シグナルペプチドとしては、PelB、DsbA、MalE、TorT等といったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示することができる。
次に、本発明のフコース結合性タンパク質をコードするDNA(以下、本発明のDNAとする。)および本発明のDNAを含有する発現ベクター(以下、本発明の発現ベクターとする。)について説明する。
本発明のDNAは、Polymerase Chain Reaction(PCR)法といったDNA増幅法を利用し、Burkholderia cenocepaciaのゲノムDNAのBC2L-C遺伝子領域をもとに改変して作製する方法、組換えBC2LCNのアミノ酸配列(配列番号1)のアミノ酸配列から塩基配列に変換し、当該塩基配列を含むDNAを人工的に作製し、それをさらにDNA増幅法を利用し改変して作製する方法、そして例えば配列番号2から配列番号24に記載のアミノ酸配列を塩基配列に変換し、当該塩基配列を含むDNAを人工的に作製する方法等により得ることができる。これらの方法において、アミノ酸配列から塩基配列に変換する際には、本発明のフコース結合性タンパク質の生産に利用する微生物や細胞(宿主)におけるコドンの使用頻度を考慮することが好ましい。一例として、Escherichia coliを宿主として利用する場合、アルギニン(Arg)ではAGA、AGG、CGGまたはCGAが、イソロイシン(Ile)ではATAが、ロイシン(Leu)ではCTAが、グリシン(Gly)ではGGAが、プロリン(Pro)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないコドン(レアコドン)であるため、これらのコドン以外のコドンを選択して変換することが好ましい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のホームページにあるCodon Usage Database、http://www.kazusa.or.jp/codon/、アクセス日:2018年2月1日)を利用することによっても可能である。また、本発明のDNAを作製する際には、アミノ酸残基置換操作を簡便に行うため、アミノ酸残基置換部位周辺のアミノ酸配列を変えずに、適当な制限酵素認識配列を導入してもよい。
本発明のDNAとして、具体的には、配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列番号25の塩基配列からなるDNA、配列番号3のアミノ酸配列をコードする配列番号26の塩基配列からなるDNA、配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号27の塩基配列からなるDNA、配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号28の塩基配列からなるDNA、配列番号6のアミノ酸配列をコードする配列番号29の塩基配列からなるDNA、配列番号7のアミノ酸配列をコードする配列番号30の塩基配列からなるDNA、配列番号8のアミノ酸配列をコードする配列番号31の塩基配列からなるDNA、配列番号9のアミノ酸配列をコードする配列番号32の塩基配列からなるDNA、配列番号1のアミノ酸配列をコードする配列番号33の塩基配列からなるDNA、配列番号11のアミノ酸配列をコードする配列番号34の塩基配列からなるDNA、配列番号12のアミノ配列をコードする配列番号35の塩基配列からなるDNA、配列番号13のアミノ酸配列をコードする配列番号36の塩基配列からなるDNA、配列番号14のアミノ酸配列をコードする配列番号37の塩基配列からなるDNA、配列番号15のアミノ酸配列をコードする配列番号38の塩基配列からなるDNA、配列番号16のアミノ酸配列をコードする配列番号39の塩基配列からなるDNA、配列番号17のアミノ酸配列をコードする配列番号40の塩基配列からなるDNA、配列番号18のアミノ酸配列をコードする配列番号41の塩基配列からなるDNA、配列番号19のアミノ酸配列をコードする配列番号42の塩基配列からなるDNA、配列番号20のアミノ酸配列をコードする配列番号43の塩基配列からなるDNA、配列番号21のアミノ酸配列をコードする配列番号44の塩基配列からなるDNA、配列番号22のアミノ酸配列をコードする配列番号45の塩基配列からなるDNA、配列番号23のアミノ酸配列をコードする配列番号46の塩基配列からなるDNA、および配列番号24のアミノ酸配列をコードする配列番号47の塩基配列からなるDNAを例示することができる。
本発明のDNAを用いて宿主を形質転換するには、本発明のDNAそのものを用いて形質転換してもよいが、例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドまたはプラスミド等を基にしたベクター中の適切な位置に本発明のDNAを挿入して本発明の発現ベクターとし、それを用いて形質転換することが、安定した形質転換が実施できる点で好ましい。ここで、適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、および伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。またベクターに本発明のDNAを挿入する際は、発現に必要なプロモータといった機能性DNAに連結される状態でベクターに挿入することが好ましい。
本発明の発現ベクターとしては、宿主内で安定に存在し複製できるベクターであれば特に制限はなく、例えばEscherichia coliを宿主とする場合、pETベクター、pUCベクター、pTrcベクター、pCDFベクターおよびpBBRベクター等が例示できる。また本発明において使用するプロモータとしては、例えばEscherichia coliを宿主とする場合、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータ、さらにはλファージのλPLプロモータ、λPRプロモータ等を挙げることができる。
本発明のフコース結合性タンパク質を生産可能な形質転換体(以下、本発明の形質転換体とする。)は、本発明の発現ベクターを用いて宿主を形質転換することで得ることができる。本発明の形質転換体として使用する宿主に特に制限はないが、遺伝子工学に関する実験が容易な点でEscherichia coliが好ましい。また、本発明の発現ベクターを用いて宿主を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行えばよく、例えば、宿主としてEscherichia coliのJM109株、BL21(DE3)株、W3110株等を選択する場合には、公知の文献(例えば、Molecular Cloning,Cold Spring Harbor Laboratory,256,1992)に記載の方法等を使用することができる。なお、本発明の形質転換体から適当な抽出方法または市販のキット等を用いることで、本発明の発現ベクターを抽出することができる。例えば宿主がEscherichia coliの場合には、アルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(商品名、キアゲン製)等の市販の抽出キットを用いることができる。
次に、本発明のフコース結合性タンパク質の製造方法(以下、本発明の製造方法とする。)について説明する。本発明の製造方法は、本発明の形質転換体を培養することで本発明のフコース結合性タンパク質を生産する工程(以下、第1工程という。)、得られた培養物から本発明のフコース結合性タンパク質を回収する工程(以下、第2工程という。)の2つの工程を含む。なお本明細書において、培養物とは、培養された形質転換体の細胞自体や細胞分泌物のほか、培養に用いた培地等も含まれる。
本発明の製造方法における第1工程では、本発明の形質転換体をその培養に適した培地で培養すればよい。例えば、宿主としてEscherichia coliを用いた場合、必要な栄養源を補ったTerrific Broth(TB)培地、Luria-Bertani(LB)培地等を使用することが好ましい。本発明の発現ベクターが薬剤耐性遺伝子を含む場合、その遺伝子に対応した薬剤を培地に添加して第1工程を実施すれば、形質転換体の選択的増殖が可能となり、例えば、当該発現ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は、培地にカナマイシンを添加することが好ましい。培養温度は利用する宿主に関して一般的に知られた温度であればよく、例えば宿主がEscherichia coliである場合、10℃から40℃、好ましくは20℃から37℃であり、本発明のフコース結合性タンパク質の製造量等を勘案しつつ、適宜決定すればよい。また、培地のpHは、利用する宿主に関して一般的に知られたpH範囲とすればよく、例えば宿主がEscherichia coliである場合、pH6.8からpH7.4の範囲、好ましくはpH7.0前後であり、本発明のフコース結合性タンパク質の製造量等を勘案しつつ、適宜決定すればよい。
本発明の発現ベクターに誘導性のプロモータを導入した場合は、本発明のフコース結合性タンパク質が良好に製造可能な条件下で培地に誘導剤を添加してその発現を誘導すればよい。好ましい誘導剤としてはisopropyl-β-D-thiogalactopyranoside(IPTG)を例示することができ、その添加濃度は0.005から1.0mMの範囲、好ましくは0.01から0.5mMの範囲である。IPTG添加による発現誘導は、利用する宿主に関して一般的に知られた条件で行なえばよい。また、本発明の発現ベクターに誘導性のプロモータを導入した場合であっても、本発明のフコース結合性タンパク質が良好に製造可能であれば誘導剤を添加しなくてもよい。
本発明の製造方法における第2工程では、第1工程で得られた培養物から一般的に知られた回収方法によって本発明のフコース結合性タンパク質を回収する。例えば本発明のフコース結合性タンパク質が培養液中に分泌生産される場合は細胞を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明のフコース結合性タンパク質を回収すればよく、細胞内(原核生物においてはペリプラズムも含む)に発現する場合は、遠心分離操作により細胞を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加する等により細胞を破砕し、細胞破砕液から回収すればよい。
本発明の製造方法により回収された本発明のフコース結合性タンパク質の純度を向上させたい場合には、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として、液体クロマトグラフィーを用いた分離精製法を挙げることができる。液体クロマトグラフィーとしては、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を使用することが好ましく、これらのクロマトグラフィーを組み合わせて行なうことがより好ましい。また、前記クロマトグラフィーにより精製した本発明のフコース結合性タンパク質の純度は当該技術分野において公知の方法を用いて調べればよく、一例として、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)法やゲルろ過クロマトグラフィー法を挙げることができる。
本発明のフコース結合性タンパク質の糖鎖への結合親和性の評価は、Enzyme-linked immunosorbent assay法や表面プラズモン共鳴法等により評価することができる。一例として、表面プラズモン共鳴法について説明する。表面プラズモン共鳴法による結合親和性評価は、例えば、Biacore 8K機器(GEヘルスケア製)を用い、アナライトを組換えタンパク質、固相を糖鎖として測定することができる。糖鎖を固定したセンサーチップの作製は、ビオチン標識糖鎖を利用して、ストレプトアビジンをコートしたセンサーチップ(Sensor Chip SA、GEヘルスケア製)や、デキストランがコートされたセンサーチップ(Sensor Chip CM5、GEヘルスケア製)にあらかじめストレプトアビジンを固定したものを利用して行うことができる。また、結合親和性評価は当該機器に付属のカイネティクス解析プログラムを利用して行うことができる。
本発明のフコース結合性タンパク質の熱に対する安定性の評価は、Thermal shift Assay法や示差走査熱量計による測定法で、加熱処理前後の糖鎖への結合親和性は、Enzyme-linked immunosorbent assay法や表面プラズモン共鳴法で比較することにより評価することができる。一例として、Thermal shift Assay法と示差走査熱量計による方法について説明する。Thermal shift Assay法も示差走査熱量計による方法もタンパク質溶液の温度を一定速度で上昇させ、タンパク質の半分が変性する変性中点温度を測定する方法として利用される。Thermal shift Assay法ではSYPRO Orangeなどのタンパク質の疎水面に結合する蛍光色素をタンパク質溶液にあらかじめ添加し、熱により高次構造が崩れたタンパク質の疎水面に結合した蛍光色素の蛍光強度を測定することによりタンパク質の構造変化を測定する。一方、示差走査熱量計による測定は、タンパク質の熱変性によって生じる熱量変化を測定する方法である。
本発明により、アミノ酸残基置換前のフコース結合性タンパク質に比べて熱に対する安定性が向上し、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcからなる構造を持つHタイプ1型糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcからなる構造を持つHタイプ3型糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcからなる構造を持つルイスY型糖鎖および/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を持つルイスb型糖鎖への結合親和性を維持したフコース結合性タンパク質、およびそれらの製造方法が提供される。
Hタイプ1型糖鎖やHタイプ3型糖鎖はヒトiPS細胞やES細胞等の未分化細胞に特異的に存在する未分化マーカーとして知られており、また、Hタイプ1型糖鎖やルイスY型糖鎖は特定のがん細胞に高発現していることが知られている。ルイスb型糖鎖は赤血球で血液型抗原であるほか、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染に関わることが知られている。従って、本発明のフコース結合性タンパク質は、熱に対する安定性が向上していることから、前記未分化細胞やがん細胞など特定の細胞表面の糖鎖に、温度変化による機能低下を抑えて安定的に結合することが期待され、例えば、本発明のフコース結合性タンパク質を蛍光標識することにより、前記未分化細胞やがん細胞などの細胞を高感度に検出することができる。また、本発明のフコース結合性タンパク質を水に不溶性の担体に固定化することにより、前記未分化細胞やがん細胞などの特定の細胞を選択的に吸着可能な細胞吸着剤を作製することができる。
以下、作製例、実施例、比較例および参考例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
作製例1
(1-1)発現ベクターpET-BC2LCNcysおよび組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET-BC2LCNcysの作製
発現ベクターpET-BC2LCNcysは、組換えBC2LCNcysを発現させるための発現ベクターである。組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列は配列番号48であり、具体的には、配列番号48の5番目から10番目まではポリヒスチジン配列、15番目から169番目までは配列番号1のアミノ酸配列(GenPept登録番号:WP_006490828の2番目から156番目の領域のアミノ酸配列)、170番目から174番目まではシステイン残基を含むオリゴペプチド配列に相当する。発現ベクターpET-BC2LCNcysは、特開2018-000038号公報で開示されているプラスミドpET-BC2LCNcysと同一の塩基配列であり、当該公報に開示されている方法で作製した。次いで、発現ベクターpET-BC2LCNcysを用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET-BC2LCNcysを作製した。
(1-2)組換えBC2LCNcysに対する配列番号1の83番目のスレオニン残基として特定されるスレオニン残基への変異導入
組換えBC2LCNcysに対して、配列番号1の83番目のスレオニン残基として特定されるスレオニン残基への変異導入を行った。すなわち、組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列(配列番号48)の97番目のスレオニン残基を他のアミノ酸残基に置換する変異導入を行った。
前記作製例(1-1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCNcysを鋳型として、配列番号49および配列番号50に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。なお、配列番号49に記載の配列からなるPCRプライマーは縮重配列NNB(N=A,C,GまたはT、B=C,GまたはT)を有し、配列番号48の97番目のスレオニン残基(配列番号1の83番目のスレオニン残基に相当)が他のアミノ酸残基にランダムで置換されるよう設計した。得られたPCR産物を制限酵素KpnIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1-1)の発現ベクターpET-BC2LCNcysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、複数の形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列を解析した。その結果、表1に示す19種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を得た。なお、表1における組換えタンパク質の製造は、後述する作製例(1-3)に記載した。
Figure 2022067620000001
(1-3)組換えタンパク質の製造
前記作製例(1-1)で作製した組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET-BC2LCNcysおよび前記作製例(1-2)で作製した19種類の形質転換体(表1)を、それぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地(10g/L tryptone、5g/L Yeast extractおよび5g/L NaCl)に接種し、37℃で一晩振盪することで前培養を行った。前培養液をそれぞれ30μg/mLのカナマイシンを添加した1LのTB培地(24g/LYeast extract、12g/L tryptone、9.4g/L K2HPO4、2.2g/L KH2PO4および4mL/L Glycerol)に接種し、37℃で振盪培養した。培養液の濁度(O.D.600)が凡そ0.6になったところで、培養温度を30℃に切り替え、一晩培養することで各組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよび表1に記載した19種類の組換えタンパク質)を発現させた。超音波破砕またはBugBuster Protein extraction kit(メルク製)を用いて、それぞれの菌体から可溶性タンパク質抽出液を回収した。可溶性タンパク質抽出液中からの組換えタンパク質の精製は、ニッケルキレートアフィニティークロマトグラフィーにより行い、限外ろ過フィルターを用いて保存用緩衝液(50mM Tris-HCl pH8.0,150mM 塩化ナトリウム,20%グリセロール)に置換した。
(1-4)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記(1-3)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよび表1の組換えタンパク質)のHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖に対する結合親和性評価を表面プラズモン共鳴法により行った。具体的には、Biacore 8K(GEヘルスケア製)を用い、アナライトを各組換えタンパク質、固相をHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖またはルイスb型糖鎖としてカイネティクス解析を行った。センサーチップはデキストランがコートされたSensor Chip CM5(GEヘルスケア製)を使用し、デキストランにストレプトアビジンをアミンカップリング法により固定した後、ビオチン標識されたHタイプ1型糖鎖(Glycotech製)、Hタイプ3型糖鎖(Glycotech製)、ルイスY型糖鎖(Glycotech製)またはルイスb型糖鎖(Glycotech製)を添加し、ビオチンとストレプトアビジンの反応により各糖鎖をセンサーチップ上に固定してHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖またはルイスb型糖鎖が固定されたセンサーチップを作製した。ストレプトアビジンの固定量は約400RU、糖鎖の固定量は約35RUとした。
糖鎖結合親和性の測定には緩衝液としてHBS-EP+(10mM HEPES,150mM 塩化ナトリウム、3mM EDTA、0.05%(v/v)Tween20,pH7.4)を用い、測定条件は流速を30μL/分、結合時間を3分間、解離時間を6分間とした。センサーチップの再生は5mMの水酸化ナトリウムを用い、流速30μL/分、再生時間10秒で行った。糖鎖固定量が多いセンサーチップを使用する場合は、20mMの水酸化ナトリウムを用いた。解析はBiacore 8K機器に付属の解析ソフト(Biacore 8K Evaluation Software)を用いて行い、1:1 Bindingのフィッティングにより解離定数(KD)を算出した。
表2から4に、実施例1から5および比較例1から15として、前記(1-3)で製造した組換えBC2LCNcys(比較例1)および表1記載の19種類の形質転換体を用いて作製した19種類の組換えタンパク質のHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖に対する解離定数を示す。解離定数の値は小さいほど結合親和性が高いことを示す。なお、糖鎖結合量が明らかに低下した変異型(センサグラム形状より結合は確認できるが、センサーチップへの最大結合量Rmaxがおおよそ10RU以下で組換えBC2LCNcysの約3分の1以下のもの)については、組換えタンパク質の多くが糖鎖結合活性を失い糖鎖結合性が低下していると判断し、解離定数は算出せず「低下」と記載した。また、糖鎖結合性を持たない変異型(センサグラム形状より糖鎖結合が確認できない)は、「×」と記載した。
表2に、後述する作製例(1-5)に記載の組換えBC2LCNcys(比較例1)および実施例1から5として、測定した4種類の糖鎖いずれかに対する親和性を保持し、かつ後述する作製例(1-5)に記載した熱安定性評価で組換えBC2LCNcys(比較例1)と比較して熱安定性が向上したフコース結合性タンパク質の結果を示す。なお、表2における熱安定性の測定は、後述する作製例(1-5)に記載した。表2における変性中点温度の測定は、後述する作製例(1-6)に記載した。表2に示すように、実施例1として記載のフコース結合性タンパク質T83P(配列番号1の83番目のスレオニン残基として特定されるスレオニンがプロリンに置換)、実施例2として記載のフコース結合性タンパク質T83A(配列番号1の83番目のスレオニン残基として特定されるスレオニンがアラニンに置換)、実施例3として記載のフコース結合性タンパク質T83Y(配列番号1の83番目のスレオニン残基として特定されるがチロシンに置換)、実施例4として記載のフコース結合性タンパク質T83W(配列番号1の83番目のスレオニン残基として特定されるスレオニンがトリプトファンに置換)、実施例5として記載のフコース結合性タンパク質T83S(配列番号1の83番目のスレオニン残基として特定されるスレオニンがセリンに置換)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の83番目のスレオニンとして特定されるスレオニンは置換されていない)と同様にHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖すべてに対する結合親和性を持つ。
Figure 2022067620000002
実施例1として記載のフコース結合性タンパク質T83Pのアミノ酸配列は配列番号51であり、その15番目から169番目までは配列番号2のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83Pの配列解析の結果、発現ベクターpET-83Pには配列番号2のアミノ酸配列をコードする配列番号25の塩基配列が含有されることが確認された。
実施例2として記載のフコース結合性タンパク質T83Aのアミノ酸配列は配列番号52であり、その15番目から169番目までは配列番号3のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83Aの配列解析の結果、発現ベクターpET-83Aには配列番号3のアミノ酸配列をコードする配列番号26の塩基配列が含有されることが確認された。
実施例3として記載のフコース結合性タンパク質T83Yのアミノ酸配列は配列番号53であり、その15番目から169番目までは配列番号4のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83Yの配列解析の結果、発現ベクターpET-83Yには配列番号4のアミノ酸配列をコードする配列番号27の塩基配列が含有されることが確認された。
実施例4として記載のフコース結合性タンパク質T83Wのアミノ酸配列は配列番号54であり、その15番目から169番目までは配列番号5のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニ残基をトリプトファン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83Wの配列解析の結果、発現ベクターpET-83Wには配列番号5のアミノ酸配列をコードする配列番号28の塩基配列が含有されることが確認された。
実施例5として記載のフコース結合性タンパク質T83Sのアミノ酸配列は配列番号55であり、その15番目から169番目までは配列番号6のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83Sの配列解析の結果、発現ベクターpET-83Sには配列番号6のアミノ酸配列をコードする配列番号29の塩基配列が含有されることが確認された。
表3に、比較例2から11として、測定した4種類の糖鎖いずれかに対する親和性を保持し、かつ比較例1と比較して熱安定性が同等または低下したフコース結合性タンパク質の結果を示す。なお、表3における熱安定性の測定は、後述する作製例(1-5)に記載した。
Figure 2022067620000003
表4に、比較例12および15として、測定した4種類の糖鎖すべてに対する結合親和性が著しく低下または喪失していた組換えタンパク質の結果を示す。なお、表4における熱安定性の測定は、後述する作製例(1-5)に記載した。
Figure 2022067620000004
(1-5)組換えタンパク質の熱安定性評価
前記(1-3)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよび表1の組換えタンパク質)の熱に対する安定性をThermal Shift Assay(TSA)法により評価した。具体的にはリアルタイムPCR装置QuantStudio3(サーモフィッシャーサイエンティフィック製)を使用し、反応液の組成は0.25 mg/mLの組換えタンパク質、50mM Tris-HCl(pH8.0)、150mM 塩化ナトリウム、0.5%(v/v)SYPRO Orangeとし、反応条件は、昇温温度は30℃から98℃、昇温速度は0.5℃/sとした。変性中点温度の判定は、比較例1の組換えBC2LCNcysを同時に測定し、蛍光強度のピーク温度を比較することにより行った。
表2から4にTSA法による熱安定性評価の結果を示す。表中で「向上」と記載したものは、組換えBC2LCNcys(比較例1)と比較して変性中点温度を示すピークが高温側にシフトし、熱安定性が向上したフコース結合性タンパク質、もしくは変性中点温度が測定範囲より高く、ピークがみられなかったフコース結合性タンパク質である。表中で「同等」と記載したものは、組換えBC2LCNcys(比較例1)と同程度の変性中点温度を示し、同等の熱安定性をもつフコース結合性タンパク質、「低下」と記載したものは、組換えBC2LCNcys(比較例1)より低い変性中点温度を示し、熱安定性が低下したフコース結合性タンパク質である。
表2は組換えBC2LCNcys(比較例1)と比較して、前記(1-4)の方法に従い測定した4種類の糖鎖のいずれかに対する親和性を保持し、かつ熱安定性が向上したフコース結合性タンパク質の結果を示す。表3は、前記(1-4)の方法に従い測定した4種類の糖鎖のいずれかに対する親和性を保持し、かつ熱安定性が比較例1と同等もしくは低下したフコース結合性タンパク質の結果を示す。表4は前記(1-4)で測定した糖鎖結合親和性で、4種類の糖鎖すべてに対する親和性が失われたフコース結合性タンパク質の結果を示す。
(1-6)組換えタンパク質の変性中点温度の測定
前記(1-5)において、比較例1の組換えBC2LCNcysより高い熱安定性を示し、かつ前記(1-4)において4種類の糖鎖のいずれかに対する親和性を保持したフコース結合性タンパク質および組換えBC2LCNcysについて、変性中点温度の測定を示差走査熱量計により行った。具体的には、前記(1-3)で製造した組換えタンパク質を再生セルロース膜(サーモフィッシャーサイエンティフィック製、分画分子量3500)を用いて、透析用緩衝液(50mM 酢酸ナトリウム,150mM 塩化ナトリウム,pH5.5)中で緩衝液交換を行った。透析内液の組換えタンパク質の濃度を紫外吸収法により測定し、透析用緩衝液を用いて500μg/mLになるよう希釈し、示差走査熱量計(マルバーン・パナテリティカル製、MicroCalVP-Capillary DSC)を用いて変性中点温度を測定した。変性中点温度の測定条件は、各組換えタンパク質の溶液量を400μL、昇温速度を60℃/h、加熱温度を40℃-120℃とした。
表2に、実施例1から5として、前記(1-3)で製造した組換えタンパク質の変性中点温度を示す。なお、変性中点温度はタンパク質の半分が変性する温度である。変性中点温度が高いほど熱に対する安定性が高いことを示す。表2に示すように、フコース結合性タンパク質T83P(実施例1)、フコース結合性タンパク質T83A(実施例2)、フコース結合性タンパク質T83Y(実施例3)、フコース結合性タンパク質T83W(実施例4)およびフコース結合性タンパク質T83S(実施例5)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の83番目のスレオニン残基として特定されるスレオニン残基は置換されていない)に比べ変性中点温度が高く、熱安定性が向上したことがわかる。また、測定した4種類の糖鎖すべてに対する親和性を保持し、フコース結合性タンパク質としての機能を保持していることがわかる。
作製例2
(2-1)組換えBC2LCNcysに対する配列番号1の86番目のメチオニン残基として特定されるメチオニン残基への変異導入
組換えBC2LCNcysに対して、配列番号1の86番目のメチオニン残基として特定されるメチオニン残基への変異導入を行った。すなわち、組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列(配列番号48)の100番目のメチオニン残基を他のアミノ酸残基に置換する変異導入を行った。
前記作製例(1-1)に記載の発現ベクターpET-BC2LCNcysを鋳型として、配列番号56および配列番号50に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、特開2018-000038号公報で開示されている方法によりPCRを実施した。なお、配列番号56に記載の配列からなるPCRプライマーは縮重配列NNB(N=A,C,GまたはT,B=C,GまたはT)を有し、配列番号48の86番目のメチオニン残基(配列番号1の86番目のメチオニン残基に相当)が他のアミノ酸残基にランダムで置換されるよう設計した。得られたPCR産物を制限酵素KpnIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1-2)の発現ベクターpET-BC2LCNcysとライゲーション反応を行った。このライゲーション産物を用いてEscherichia coli BL21(DE3)を形質転換し、複数の形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列を解析した。その結果、表5に示す19種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を得た。なお、表5における組換えタンパク質の製造は、後述する作製例(2-2)に記載した。
Figure 2022067620000005
(2-2)組換えタンパク質の製造
組換えBC2LCNcysおよび前記(2-1)に記載した19種類の組換えフコース結合性タンパク質(表5)の製造は、前記作製例(1-1)で作製した組換えEscherichia coli BL21(DE3)/pET-BC2LCNcysおよび前記(2-1)で作製した19種類の形質転換体(表5)を使用して、前記作製例(1-3)に記載した方法に従い行った。
(2-3)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記(2-2)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよび表5の組換えタンパク質)のHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖に対する結合親和性評価は、前記作製例(1-4)に記載した方法に従い行った。
表6から8に、実施例6および7、比較例1および比較例16から32として、前記作製例(1-3)で製造した組換えBC2LCNcys(比較例1)および表5記載の19種類の形質転換体を用いて作製した19種類の組換えタンパク質のHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖に対する解離定数を示す。
表6に、作製例(1-5)に記載の組換えBC2LCNcys(比較例1)および実施例6および7として、測定した4種類の糖鎖いずれかに対する親和性を保持し、かつ後述する作製例(2-4)に記載した熱安定性評価で組換えBC2LCNcys(比較例1)と比較して熱安定性が向上したフコース結合性タンパク質の結果を示す。なお、表6における熱安定性の測定は、後述する作製例(2-4)に記載した。表6における変性中点温度の測定は、後述する作製例(2-5)に記載した。表6に示すように、実施例6として記載のフコース結合性タンパク質M86I(配列番号1の86番目のメチオニン残基として特定されるメチオニンがイソロイシンに置換)および実施例7として記載のフコース結合性タンパク質M86V(配列番号1の86番目のメチオニン残基として特定されるメチオニンがバリンに置換)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の86番目のメチオニンとして特定されるメチオニンは置換されていない)と同様にHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖すべてに対する結合親和性を持つ。
Figure 2022067620000006
実施例6として記載のフコース結合性タンパク質M86Iのアミノ酸配列は配列番号57であり、その15番目から169番目までは配列番号7のアミノ酸配列(配列番号1の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-86Iの配列解析の結果、発現ベクターpET-86Iには配列番号7のアミノ酸配列をコードする配列番号30の塩基配列が含有されることが確認された。
実施例7として記載のフコース結合性タンパク質M86Vのアミノ酸配列は配列番号58であり、その15番目から169番目までは配列番号8のアミノ酸配列(配列番号1の86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-86Vの配列解析の結果、発現ベクターpET-86Vには配列番号8のアミノ酸配列をコードする配列番号31の塩基配列が含有されることが確認された。
表7に、比較例16から29として、測定した4種類の糖鎖いずれかに対する親和性を保持し、かつ比較例1と比較して熱安定性が同等または低下したフコース結合性タンパク質の結果を示す。なお、表7における熱安定性の測定は、後述する作製例(2-4)に記載した。
Figure 2022067620000007
表8に、比較例30から32として、測定した4種類の糖鎖すべてに対する結合親和性が著しく低下または喪失していた組換えタンパク質の結果を示す。なお、表8における熱安定性の測定は、後述する作製例(2-4)に記載した。
Figure 2022067620000008
(2-4)組換えタンパク質の熱安定性評価
前記(2-3)で製造した組換えタンパク質(組換えBC2LCNcysおよび表5の組換えタンパク質)の熱に対する安定性は、前記作製例(1-5)に記載したTSA法に従い行った。
表6から8にTSA法による熱安定性評価の結果を示す。表6は組換えBC2LCNcys(比較例1)と比較して熱安定性が向上したフコース結合性タンパク質の結果を示す。表7は、前記(2-3)の方法に従い測定した4種類の糖鎖いずれかに対する親和性を保持し、かつ熱安定性が比較例1と同等もしくは低下したフコース結合性タンパク質の結果を示す。表8は前記(2-3)で測定した糖鎖結合親和性で、4種類の糖鎖すべてに対する親和性が失われたフコース結合性タンパク質の結果を示す。
(2-5)組換えタンパク質の変性中点温度の測定
前記(2-4)において、比較例1の組換えBC2LCNcysより高い熱安定性を示し、かつ前記(2-3)において4種類の糖鎖のいずれかに対する親和性を保持したフコース結合性タンパク質および組換えBC2LCNcysについて、変性中点温度の測定を前記作製例(1-6)に記載の示差走査熱量計による測定法に従い行った。
表6に、実施例6および7として、前記(2-2)で製造した組換えタンパク質の変性中点温度を示す。表6に示すように、フコース結合性タンパク質M86I(実施例6)およびフコース結合性タンパク質M86V(実施例7)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1の86番目のメチオニン残基として特定されるメチオニン残基は置換されていない)に比べ変性中点温度が高く、熱安定性が向上したことがわかる。また、測定した4種類の糖鎖に対する親和性を保持し、フコース結合性タンパク質としての機能を保持していることがわかる。
作製例3
(3-1)組換えBC2LCNcysに対する配列番号1の83番目のスレオニン残基および86番目のメチオニン残基として特定されるアミノ酸残基への変異導入
組換えBC2LCNcysに対して、配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基、アラニン残基、チロシン残基、トリプトファン残基およびセリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換および、配列番号1の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基またはバリン残基への置換を行った。すなわち、組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列(配列番号48)の97番目のメチオニン残基および100番目のメチオニン残基を他のアミノ酸残基に置換する変異導入を行った。
前記作製例(2-1)に記載の発現ベクターpET-86Iまたは発現ベクターpET-86Vを鋳型とし、配列番号50および配列番号59から51に記載の配列からなる各オリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、表9に示した鋳型DNAとPCRプライマーの組み合わせで前記作製例(1-1)記載の方法によりPCRを実施した。得られたPCR産物を制限酵素KpnIおよびXhoIで消化し、同様に制限酵素処理した前記(1-1)の発現ベクターpET-BC2LCNcysとライゲーション反応を行い、前記作製例(1-2)記載の方法により形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列解析を行い、表10に示す10種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を得た。なお、表10における組換えタンパク質の製造は、後述する作製例(3-2)に記載した。
Figure 2022067620000009
Figure 2022067620000010
配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-83P/86Iには配列番号9のアミノ酸配列をコードする配列番号32の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83P/M86Iのアミノ酸配列は配列番号64であり、その15番目から169番目までは配列番号9のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83A/86Iには配列番号10のアミノ酸配列をコードする配列番号33の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83A/M86Iのアミノ酸配列は配列番号65であり、その15番目から169番目までは配列番号10のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83Y/86Iには配列番号11のアミノ酸配列をコードする配列番号34の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83Y/M86Iのアミノ酸配列は配列番号66であり、その15番目から169番目までは配列番号11のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83W/86Iには配列番号12のアミノ酸配列をコードする配列番号35の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83W/M86Iのアミノ酸配列は配列番号67であり、その15番目から169番目までは配列番号12のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をトリプトファン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83S/86Iには配列番号13のアミノ酸配列をコードする配列番号36の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83S/M86Iのアミノ酸配列は配列番号68であり、その15番目から169番目までは配列番号13のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83P/86Vには配列番号14のアミノ酸配列をコードする配列番号37の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83P/M86Vのアミノ酸配列は配列番号69であり、その15番目から169番目までは配列番号14のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83A/86Vには配列番号15のアミノ酸配列をコードする配列番号38の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83A/M86Vのアミノ酸配列は配列番号70であり、その15番目から169番目までは配列番号15のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83Y/86Vには配列番号16のアミノ酸配列をコードする配列番号39の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83Y/M86Vのアミノ酸配列は配列番号71であり、その15番目から169番目までは配列番号16のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83W/86Vには配列番号17のアミノ酸配列をコードする配列番号40の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83W/M86Vのアミノ酸配列は配列番号72であり、その15番目から169番目までは配列番号17のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をトリプトファン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-83S/86Vには配列番号18のアミノ酸配列をコードする配列番号41の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T83S/M86Vのアミノ酸配列は配列番号73であり、その15番目から169番目までは配列番号18のアミノ酸配列(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に、86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。
(3-2)組換えタンパク質の製造
前記(3-1)に記載した10種類の組換えフコース結合性タンパク質(表10)の製造は、前記(3-1)で作製した10種類の形質転換体(表10)を使用して、前記作製例(1-3)に記載した方法に従い行った。
(3-3)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記(3-2)で製造した10種類の組換えフコース結合性タンパク質(表10)のHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖に対する結合親和性評価は、前記作製例(1-4)に記載した方法に従い行った。
表11に、実施例8から17として、前記(3-2)で製造した12種類の組換えタンパク質のHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖に対する解離定数を示す。また、前記作製例(1-4)で測定した実施例1から5のフコース結合性タンパク質および前記作製例(2-3)で測定した実施例6および7のフコース結合性タンパク質の解離定数も併せて記載する。
なお、表11における変性中点温度の測定は、後述する作製例(3-4)に記載した。表11に示すように、作製例(1-5)に記載の組換えBC2LCNcys(比較例1)および実施例8から17として、測定した4種類の糖鎖いずれかに対する親和性を保持していることがわかる。
Figure 2022067620000011
(3-4)組換えタンパク質の変性中点温度の測定
前記(3-2)で製造した10種類の組換えタンパク質(表10)の組換えタンパク質の変性中点温度の測定を前記作製例(1-6)に記載の示差走査熱量計による測定法に従い行った。
表11に、実施例8から17として、前記(3-2)で製造した10種類の組換えタンパク質の変性中点温度を示す。また、前記作製例(1-6)で測定した実施例1から5のフコース結合性タンパク質および前記作製例(2-5)で測定した実施例6および7のフコース結合性タンパク質の変性中点温度も併せて記載する。表11に示すように、実施例8から17として、配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基、アラニン残基、チロシン残基、トリプトファン残基およびセリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換および、配列番号1の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基またはバリン残基に置換したフコース結合性タンパク質は、配列番号1の83番目のスレオニン残基または86番目のメチオニン残基どちらか一方のアミノ酸置換であるフコース結合性タンパク質と比較して、変性中点温度が向上していることがわかる。具体的には、実施例8として記載のフコース結合性タンパク質T83P/M86I(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例1のフコース結合性タンパク質T83P(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例6のフコース結合性タンパク質M86I(配列番号1の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)と、実施例9として記載のフコース結合性タンパク質T83A/M86I(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例2のフコース結合性タンパク質T83A(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例6のフコース結合性タンパク質M86I(配列番号1の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)と、実施例10として記載のフコース結合性タンパク質T83Y/M86I(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例3のフコース結合性タンパク質T83Y(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例6のフコース結合性タンパク質M86I(配列番号1の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)と、実施例11として記載のフコース結合性タンパク質T83W/M86I(配列番号1の83番目のスレオニン残基をトリプトファン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例4のフコース結合性タンパク質T83W(配列番号1の83番目のスレオニン残基をトリプトファン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例6のフコース結合性タンパク質M86I(配列番号1の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)と、実施例12として記載のフコース結合性タンパク質T83S/M86I(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に、86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例5のフコース結合性タンパク質T83S(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例6のフコース結合性タンパク質M86I(配列番号1の86番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に置換したアミノ酸配列)と、実施例13として記載のフコース結合性タンパク質T83P/M86V(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に、86番目メチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例1のフコース結合性タンパク質T83P(配列番号1の83番目のスレオニン残基をプロリン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例7のフコース結合性タンパク質M86V(配列番号1の86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)と、実施例14として記載のフコース結合性タンパク質T83A/M86V(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に、86番目メチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例2のフコース結合性タンパク質T83A(配列番号1の83番目のスレオニン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例7のフコース結合性タンパク質M86V(配列番号1の86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)と、実施例15として記載のフコース結合性タンパク質T83Y/M86V(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に、86番目メチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例3のフコース結合性タンパク質T83Y(配列番号1の83番目のスレオニン残基をチロシン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例7のフコース結合性タンパク質M86V(配列番号1の86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)と、実施例16として記載のフコース結合性タンパク質T83W/M86V(配列番号1の83番目のスレオニン残基をトリプトファン残基に、86番目メチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例4のフコース結合性タンパク質T83W(配列番号1の83番目のスレオニン残基をトリプトファン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例7のフコース結合性タンパク質M86V(配列番号1の86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)と、実施例17として記載のフコース結合性タンパク質T83S/M86V(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に、86番目メチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)は実施例5のフコース結合性タンパク質T83S(配列番号1の83番目のスレオニン残基をセリン残基に置換したアミノ酸配列)および実施例7のフコース結合性タンパク質M86V(配列番号1の86番目のメチオニン残基をバリン残基に置換したアミノ酸配列)と比較して、変性中点温度が向上していることがわかる。
作製例4
(4-1)組換えBC2LCNcysに対するアミノ酸残基のアラニン置換による変異導入
組換えBC2LCNcysに対して、配列番号1の1番目のプロリン残基(組換えBC2LCNcysのアミノ酸配列である配列番号48の15番目の残基)、37番目のリジン残基(配列番号48の51番目の残基)、39番目のグルタミン残基(配列番号48の53番目の残基)、46番目のスレオニン残基(配列番号48の60番目の残基)、47番目のプロリン残基(配列番号48の61番目の残基)および122番目のセリン残基(配列番号48の136番目の残基)から選ばれる1種類のアミノ酸残基をアラニン残基への置換を行った。
作製は前記作製例(3-1)に記載の方法などと同様の一般的な方法により行い、前記作製例(1-1)の発現ベクターpET-BC2LCNcysを鋳型として適当なPCRプライマーによるPCRや、目的のアミノ酸配列をコードするDNAを人工的に作製する方法等により、表13に示した発現ベクターを作製し、前記作製例(1-2)記載の方記作製例(1-2)記載の方法により各発現ベクターを有する形質転換体を得た。それぞれの形質転換体から発現ベクターを抽出し、塩基配列解析を行い、表13に示す6種類の発現ベクターとそれを有する形質転換体を得た。なお、表13における組換えタンパク質の製造は、後述する作製例(4-2)に記載した。
Figure 2022067620000012
Figure 2022067620000013
配列解析により塩基配列を確認した結果、発現ベクターpET-P1Aには配列番号19のアミノ酸配列をコードする配列番号42の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質P1Aのアミノ酸配列は配列番号74であり、その15番目から169番目までは配列番号19のアミノ酸配列(配列番号1の1番目のプロリン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-K37Aには配列番号20のアミノ酸配列をコードする配列番号43の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質K37Aのアミノ酸配列は配列番号75であり、その15番目から169番目までは配列番号20のアミノ酸配列(配列番号1の37番目のリジン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-Q39Aには配列番号21のアミノ酸配列をコードする配列番号44の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質Q39Aのアミノ酸配列は配列番号76であり、その15番目から169番目までは配列番号21のアミノ酸配列(配列番号1の39番目のグルタミン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-T46Aには配列番号22のアミノ酸配列をコードする配列番号45の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質T46Aのアミノ酸配列は配列番号77であり、その15番目から169番目までは配列番号22のアミノ酸配列(配列番号1の46番目のスレオニン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-P47Aには配列番号23のアミノ酸配列をコードする配列番号46の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質P47Aのアミノ酸配列は配列番号78であり、その15番目から169番目までは配列番号23のアミノ酸配列(配列番号1の47番目のプロリン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。発現ベクターpET-S122Aには配列番号24のアミノ酸配列をコードする配列番号47の塩基配列が含まれ、フコース結合性タンパク質S122Aのアミノ酸配列は配列番号79であり、その15番目から169番目までは配列番号24のアミノ酸配列(配列番号1の122番目のセリン残基をアラニン残基に置換したアミノ酸配列)に相当する。
(4-2)組換えタンパク質の製造
前記(4-1)に記載した6種類の組換えフコース結合性タンパク質(表13)の製造は、前記(4-1)で作製した6種類の形質転換体(表13)を使用して、前記作製例(1-3)に記載した方法に従い行った。
(4-3)組換えタンパク質の糖鎖結合親和性評価
前記(4-2)で製造した6種類の組換えフコース結合性タンパク質(表13)のHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖に対する結合親和性評価は、前記作製例(1-4)に記載した方法に従い行った。
表14に、実施例18から23として、前記(4-2)で製造した6種類の組換えタンパク質のHタイプ1型糖鎖、Hタイプ3型糖鎖、ルイスY型糖鎖およびルイスb型糖鎖に対する解離定数を示す。
なお、表14における変性中点温度の測定は、後述する作製例(4-4)に記載した。表14に示すように、作製例(1-5)に記載の組換えBC2LCNcys(比較例1)および実施例18から23として、測定した4種類の糖鎖いずれかに対する親和性を保持していることがわかる。
Figure 2022067620000014


(4-4)組換えタンパク質の変性中点温度の測定
前記(4-2)で製造した6種類の組換えタンパク質(表14)の組換えタンパク質の変性中点温度の測定を前記作製例(1-6)に記載の示差走査熱量計による測定法に従い行った。
表14に、実施例18から23として、前記(4-2)で製造した6種類の組換えタンパク質の変性中点温度を示す。表14に示すように、フコース結合性タンパク質P1A(実施例18)、フコース結合性タンパク質K37A(実施例19)、フコース結合性タンパク質Q39A(実施例20)、フコース結合性タンパク質T46A(実施例21)、フコース結合性タンパク質P47A(実施例22)およびフコース結合性タンパク質S122A(実施例23)は、比較例1として記載の組換えBC2LCNcys(配列番号1のいずれのアミノ酸残基もアラニン残基に置換されていない)に比べ変性中点温度が高く、熱安定性が向上したことがわかる。

Claims (11)

  1. 以下の(a)~(c)のいずれかに記載のフコース結合性タンパク質。
    (a)配列番号1で示されるアミノ酸配列において、以下の(1)~(3)に記載のアミノ酸残基への置換がいずれか1個以上を含む、フコース結合性タンパク質
    (1)配列番号1で示されるアミノ酸配列の83番目のスレオニン残基の、スレオニン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
    (2)配列番号1で示されるアミノ酸配列の86番目のメチオニン残基の、メチオニン残基以外の任意のアミノ酸残基への置換
    (3)配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちアラニン残基以外の任意の1個のアミノ酸残基の、アラニン残基への置換
    (b)前記(a)に記載のフコース結合性タンパク質のアミノ酸配列において、配列番号
    1の83番目、配列番号1の86番目、および配列番号1で示されるアミノ酸配列のうちアラニンであるアミノ酸残基を含まない領域に1個若しくは複数個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列を含み、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質
    (c)前記(1)~(3)に記載のいずれか1個以上の置換が行われたアミノ酸配列に対して90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であって、かつ、Fucα1-2Galβ1-3GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3GalNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-4(Fucα1-3)GlcNAcおよび/またはFucα1-2Galβ1-3(Fucα1-4)GalNAcからなる構造を含む糖鎖のいずれかに対する結合親和性を有するフコース結合性タンパク質
  2. 前記(1)において、スレオニン残基以外の任意のアミノ酸残基が、プロリン残基、アラニン残基、チロシン残基、トリプトファン残基およびセリン残基から選ばれる1種類のアミノ酸残基への置換である、および/または、前記(2)において、メチオニン残基以外の任意のアミノ酸残基が、イソロイシン残基またはバリン残基への置換である、および/または、前記(3)において、アラニン残基へ置換される任意の1個のアミノ酸残基が、配列番号1で示されるアミノ酸配列の1番目のプロリン残基、37番目のリジン残基、39番目のグルタミン残基、46番目のスレオニン残基、47番目のプロリン残基または122番目のセリン残基から選ばれる1個のアミノ酸残基である、請求項1に記載のフコース結合性タンパク質。
  3. 配列番号2から配列番号24のいずれかで示されるアミノ酸配列を含む、請求項1または2に記載のフコース結合性タンパク質。
  4. N末端および/またはC末端に付加的なアミノ酸配列を有する請求項1から3のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質。
  5. C末端に付加したアミノ酸配列がシステイン残基を含むオリゴペプチドである、請求項1から4のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質。
  6. N末端に付加したアミノ酸配列がポリヒスチジン配列を含むオリゴペプチドである、請求項1から5のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質。
  7. 請求項1から6のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質をコードするDNA。
  8. 請求項7に記載のDNAを含有する発現ベクター。
  9. 請求項8に記載の発現ベクターで宿主を形質転換した形質転換体であって、請求項1から6のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質を生産可能な形質転換体。
  10. 宿主がエシェリヒア・コリ(Escherichia coli)である、請求項9に記載の形質転換体。
  11. 請求項9または10に記載の形質転換体を培養することによりフコース結合性タンパク質を生産する工程、得られた培養物から生産されたフコース結合性タンパク質を回収する工程、の2つの工程を含む、請求項1から6のいずれか1項に記載のフコース結合性タンパク質の製造方法。
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