JP2018145026A - 多孔質シリカおよびその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】孔径が均一なウルトラミクロ孔を有し、用途が広くかつ安価に得ることができる多孔質シリカおよび多孔質シリカの製造方法を提供する。【解決手段】多孔質シリカは、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔および孔径が50nmを超えるマクロ孔を有する。【選択図】図1

Description

本発明は、多孔質シリカおよびその製造方法に関する。
多孔質シリカは、大きな比表面積を有し、かつ細孔の大きさの制御が可能なことから、吸着剤、触媒担体などとしての利用が期待されている。多孔質シリカは、鋳型を用いて製造されることが通常である。たとえば特開2000−220036号公報(特許文献1)、特開2010−070406号公報(特許文献2)および非特許文献1などでは、コラーゲン線維を鋳型として製造された多孔質シリカが開示されている。特開2016−098119号公報(特許文献3)、国際公開第2011/108649号(特許文献4)、非特許文献2および非特許文献3などでは、界面活性剤を鋳型として製造された多孔質シリカが開示されている。
特開2000−220036号公報 特開2010−070406号公報 特開2016−098119号公報 国際公開第2011/108649号
Y. Ono et al., "Preparation of Novel Hollow Fiber Silica Using Collagen Fiber as a Template," Chemistry Letters of the Chemical Society of Japan., 475-476(1999) T. Sawada et al., "Preparation of Mesoporous Silica with Well-Defined Hexagonal Array of Pores by Using Octyltrimethylammonium Chloride," Bulletin of the Chemical Society of Japan., 81(3), 407-409(2008) Y. Di et al., "Ultralow Temperature Synthesis of Ordered Hexagonal Smaller Supermicroporous Silica Using Semifluorinated Surfactants as Template," Langmuir, 22, 3068-3072(2006)
IUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)は、多孔質シリカなどの多孔質材料が有する孔径が0.7nm未満の細孔をウルトラミクロ孔と定義している。さらに、孔径が0.7〜2nmの細孔をスーパーミクロ孔と、孔径が2〜50nmの細孔をメソ孔と、孔径が50nmを超える細孔をマクロ孔と、それぞれ定義している。多孔質シリカは、細孔の大きさおよび均一性などを制御することにより、吸着剤、触媒担体以外の用途に応用できる可能性がある。新たな用途として、たとえばガス分離膜材料、量子ドットを収容する担体などが挙げられる。特に、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔を有する多孔質シリカが、用途を広げると期待されている。しかしながら、特許文献1に開示された多孔質シリカは、鋳型であるコラーゲンの分子間にシリカが入らないため、孔径が2nm以下の細孔を形成することができない。さらに特許文献2および非特許文献1では、高価なコラーゲン線維を用いてスーパーミクロ孔を有する多孔質シリカを製造している。特許文献3、特許文献4、非特許文献2および非特許文献3では、高価な界面活性剤を用いてスーパーミクロ孔を有する多孔質シリカを製造している。これらの場合、多孔質シリカの製造コストが高くなるために実用化が困難である。すなわち、孔径が均一なウルトラミクロ孔を有し、用途が広い多孔質シリカを安価に得る技術が未だ開発されていない。
本発明は、上記実情に鑑みてなされ、孔径が均一なウルトラミクロ孔を有し、用途が広くかつ安価に得ることができる多孔質シリカおよびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明に係る多孔質シリカは、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔および孔径が50nmを超えるマクロ孔を有する。
上記多孔質シリカは、複数の上記ウルトラミクロ孔および複数の上記マクロ孔を有し、上記ウルトラミクロ孔の合計の比表面積は、上記多孔質シリカの全体の比表面積に対して90%以上を占めることが好ましい。上記多孔質シリカは、粒径が500nm以上100μm以下であることも好ましい。
上記多孔質シリカは、炭素を0.3質量%以下含有することが好ましい。
上記多孔質シリカは、紫外線が照射されたときに白色発光することがより好ましい。
上記多孔質シリカは、サンプリングバッグ法によるトルエンの吸着試験において、試験前のサンプリングバッグ中のトルエン濃度をC0、試験開始後30分経過時の上記サンプリングバッグ中のトルエン濃度をC30とした場合、C30/C0が0.7以下となる吸着特性を有することが好ましい。
本発明に係る多孔質シリカの製造方法は、不溶性の変性コラーゲンとアルコキシシランとをpH0.1〜5の第1酸性溶液中で混合することにより前記変性コラーゲンとシリカとを含む複合体を得る第1工程と、前記複合体を洗浄および乾燥する第2工程と、前記第2工程の後に、前記複合体から前記変性コラーゲンを除去する第3工程と、を含む多孔質シリカの製造方法であって、前記第3工程は、前記複合体を500℃以上で焼成することにより前記複合体から前記変性コラーゲンを除去する工程、100〜150℃かつpH0.1〜5の第2酸性溶液に前記複合体を接触させ、前記変性コラーゲンを酸加水分解することにより前記複合体から前記変性コラーゲンを除去する工程、および前記変性コラーゲンに対して0.1〜10質量%の酵素を用いて20〜50℃で前記変性コラーゲンを酵素処理することにより前記複合体から前記変性コラーゲンを除去する工程からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
上記多孔質シリカの製造方法において、上記第2工程を行なわないことが好ましい。
上記第1工程は、撹拌および超音波照射の両方またはいずれか一方によって上記変性コラーゲンを上記第1酸性溶液中に分散させた後、上記第1酸性溶液へ上記アルコキシシランを添加する工程を含むことがより好ましい。
本発明によれば、孔径が均一なウルトラミクロ孔を有し、用途が広くかつ安価に得ることができる多孔質シリカおよびその製造方法を提供することができる。
実施例1に係る多孔質シリカの電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。 (a)は、実施例1に係る多孔質シリカの窒素吸脱着等温線の測定結果を示すグラフであり、(b)は、比較例2に係る多孔質シリカの窒素吸脱着等温線の測定結果を示すグラフである。 (a)は、実施例1に係る多孔質シリカのt−plot曲線の測定結果を示すグラフであり、(b)は、比較例2に係る多孔質シリカのt−plot曲線の測定結果を示すグラフである。 実施例1に係る多孔質シリカと比較例2に係る多孔質シリカとのトルエンの動的吸着特性を比較して表わしたグラフである。 実施例1に係る多孔質シリカと比較例2に係る多孔質シリカとのトルエンの静的吸着特性を比較して表わしたグラフである。 (a)は、第1酸性溶液中で変性コラーゲンを30分間、撹拌により分散させた後にアルコキシシランを添加することにより得た複合体を示す図面代用写真であり、(b)は、第1酸性溶液中で変性コラーゲンを30分間、超音波照射により分散させた後にアルコキシシランを添加することにより得た複合体を示す図面代用写真である。 紫外線(ブラックライト)照射下における多孔質シリカの発光の様子を示す図面代用写真であり、(a)は、波長254nmの紫外線を照射した場合における多孔質シリカの発光の様子を示し、(b)は、波長365nmの紫外線を照射した場合における多孔質シリカの発光の様子を示す。
以下、本発明に係る実施形態について詳細に説明する。
本明細書において「A〜B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
本発明者らは、孔径が均一なウルトラミクロ孔を有し、用途が広くかつ安価に得ることができる多孔質シリカの製造方法を検討した。その結果、鋳型とするコラーゲンの種類によって、細孔のサイズが異なる多孔質シリカが製造されることが分かった。特に、不溶性の変性コラーゲンを用いた場合、孔径が均一なウルトラミクロ孔を有し、かつ表面積が大きな多孔質シリカを製造することができるという知見が得られた。そのメカニズムは詳細には不明であるが、不溶性の変性コラーゲンを鋳型とした場合、アルコキシシランが高次構造の崩れた変性コラーゲンの鋳型に浸透しやすくなること、および変性コラーゲン中の部分的に不安定な箇所が鋳型とならず、安定なコラーゲン構造を持つ箇所のみが鋳型となることによる結果であると考えられる。これにより、粒子形状が連なり、かつ孔径が非常に小さいウルトラミクロ孔を有する多孔質シリカを製造することができる。
さらに、このウルトラミクロ孔を有する多孔質シリカは、凝集したシリカ同士の間隙がマクロ孔となって機能していることが分かった。すなわち、本発明に係る多孔質シリカは、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔および孔径が50nmを超えるマクロ孔を有し、良好な動的吸着特性および静的吸着特性を示すため、吸着剤、触媒担体として優れた特性を発揮することができる。さらにガス分離膜材料、量子ドットを収容する担体として新たな用途が加わる可能性がある。紫外線励起による白色発光の特性を利用し、後述する化粧品原料および発光材料としての用途も期待することができる。本発明に係る多孔質シリカは、特殊な装置を必要とせず、安価な不溶性の変性コラーゲンを用いるため、大量合成にも適している。以下、多孔質シリカの具体的な構成について詳述する。
≪多孔質シリカ≫
本発明に係る多孔質シリカは、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔および孔径が50nmを超えるマクロ孔を有する。さらに多孔質シリカは、複数のウルトラミクロ孔および複数のマクロ孔を有し、ウルトラミクロ孔の合計の比表面積は、多孔質シリカの全体の比表面積に対して90%以上を占めることが好ましい。これにより多孔質シリカは、ウルトラミクロ孔の存在によって動的吸着特性に優れ、かつマクロ孔の存在によって静的吸着特性にも優れることとなり、用途を広げることができる。
ここで、本明細書において「孔径」は、多孔質シリカの表面に現れた細孔の幅(細孔径)を指す。この細孔径は、多孔質シリカの表面に現れた細孔を投影した場合に得られる投影面積と同面積となる円の直径(円相当径)により表わされる。ただし、ウルトラミクロ孔の孔径は、この限りでない。具体的には、後述する測定方法により多孔質シリカが有する細孔(ウルトラミクロ孔およびマクロ孔)の孔径を求めることができる。本明細書において「動的吸着特性」とは、流動している気体に接触させた場合に、多孔質シリカがこの気体をどの程度吸着させることができるのかという能力をいう。静的吸着特性とは、滞留している気体と接触した場合に、多孔質シリカがこの気体をどの程度吸着させることができるのかという能力をいう。
多孔質シリカは、図1に示すように、粒径が500nm〜100μmの粒状シリカである。この粒状シリカは、後述するように粒径500nm〜5μmのシリカの粒子が凝集することにより形成される。多孔質シリカにおいて、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔は上述した粒径500nm〜5μmのシリカの粒子表面に形成される。これらのシリカが凝集したときの粒子同士の間隙が、孔径が50nmを超えるマクロ孔となる。多孔質シリカは、粒径が500nm未満である場合および100μmを超える場合、いずれも孔径が均一なウルトラミクロ孔を有することが困難となる傾向がある。
多孔質シリカは、ウルトラミクロ孔およびマクロ孔以外にも、孔径が0.7〜2nmのスーパーミクロ孔、孔径が2〜50nmのメソ孔を有していても好ましい。用途が広い多孔質シリカを安価に得ることができるからである。しかしながら、スーパーミクロ孔、メソ孔を有する場合、後述するトルエンの動的吸着特性が低下する傾向があるため、多孔質シリカは、ウルトラミクロ孔およびマクロ孔のみを有していることが好ましい。
多孔質シリカの粒径は、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM、商品名:「S−4800」、日立ハイテクノロジー株式会社製)と、当該顕微鏡に付属している計測機能とを用い、次のような測定手法により測定することができる。
まず、後述の製造方法により多孔質シリカを得、この多孔質シリカを洗浄および乾燥させて乾燥体とする。この乾燥体に対し、上記FE−SEMを使用して400倍の倍率により、任意の1視野を撮影することにより顕微鏡画像を1枚得る。続いて、この1枚の顕微鏡画像を当該顕微鏡に付属の計測機能により解析し、これらの顕微鏡画像に現れているすべての多孔質シリカに対し、その形状を投影した場合に得られる投影面積と同面積となる円の直径(円相当径)をそれぞれ求める。最後に、これらの円相当径の平均値を算出することにより多孔質シリカの粒径を特定することができる。
<ウルトラミクロ孔>
本発明に係る多孔質シリカは、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔を有する。この孔径は、平均孔径を意味する。多孔質シリカが有するウルトラミクロ孔の孔径は、0.3nm以上0.7nm未満であることが好ましく、0.4nm以上0.6nm以下であることがより好ましい。孔径が0.3nm未満となるウルトラミクロ孔は作製が困難となる。孔径が0.7nm以上となると、もはやIUPACの分類上ウルトラミクロ孔と呼ぶことができず、かつ動的吸着特性が低下する傾向がある。ウルトラミクロ孔の孔径が0.3nm以上0.7nm未満であることにより、多孔質シリカは、サブナノメートルオーダーの量子ドット用担体などとして用いることができる可能性がある。
多孔質シリカが有する細孔について、ウルトラミクロ孔の存在を確認する場合、ガス吸着法を用いる。本実施形態では、図2(a)に示すように、窒素を用いたガス吸着法に基づいて多孔質シリカの窒素吸脱着等温線のグラフを得る。具体的には、横軸を相対圧(P/P0)とし、縦軸をガス吸着量(ml/g)としてグラフ化することにより、多孔質シリカの窒素吸脱着等温線を得ることができる。次に、この窒素吸脱着等温線とIUPACの6種ある等温線分類(I〜VI型)とを比較し、窒素吸脱着等温線がIUPACの等温線分類I型(IUPAC I型)に対応することを確認する。これにより、多孔質シリカに孔径が2nm以下のミクロ孔が存することが分かる。相対圧(P/P0)における「P」とは、吸着平衡における吸着質(窒素)の圧力を表わし、「P0」とは、吸着温度における吸着質(窒素)の飽和蒸気圧を表わす。
さらに多孔質シリカが、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔を有するかどうかについては、上述のガス吸着法に基づいてt−plot曲線を得ることにより確認することができる。t−plot曲線は、横軸を吸着ガスの厚み(t、単位はnm)とし、縦軸をガス吸着量(ml/g)としてグラフ化することにより得ることができる。図3(a)に示すように、このt−plot曲線において折れ曲がりがないことを確認することにより、多孔質シリカにおいて、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔が存在していることが分かる。
多孔質シリカにおいてウルトラミクロ孔の存在を確認する場合、ガス吸着法を用いる理由は以下のとおりである。すなわち、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔は、たとえばSEM、TEMなどの電子顕微鏡を用いても孔が小さすぎるという理由から、孔の形状または輪郭を明確に観察することができない。このため、その孔径を明確に特定することも困難である。したがって、ガス吸着法を用いることにより、ウルトラミクロ孔の存在を実質的に確認するとともに、その孔径についてもt−plot法を用いる(t−plot曲線を得る)ことにより特定することとしている。
<マクロ孔>
本発明に係る多孔質シリカは、孔径が50nmを超えるマクロ孔を有する。この孔径も、ウルトラミクロ孔と同じように平均孔径を意味する。多孔質シリカが有するマクロ孔の孔径は、50nmを超え、500nm以下であることが好ましく、50nm以上100nm以下であることがより好ましい。マクロ孔の孔径が50nm以下となると、もはやIUPACの分類上マクロ孔とは呼ぶことができない。
多孔質シリカのマクロ孔の存在は、上記FE−SEMを用いて多孔質シリカを観察することにより確認することができる。本実施形態では、10000倍の倍率で多孔質シリカを観察することによりマクロ孔が存在していることを確認することができ、かつマクロ孔の孔径を測定することができる。マクロ孔の孔径は、観察視野内の50〜100個の多孔質シリカに存在するすべてのマクロ孔から求める。具体的には、上記FE−SEMに付属の計測機能を用いることにより、上記マクロ孔に対し、その形状を投影した場合に得られる投影面積と同面積となる円相当径をそれぞれ求め、得られたこれらの円相当径の平均値により特定することができる。
<表面積/比表面積>
多孔質シリカは、比表面積が500〜1000m2/gであることが好ましい。これにより、吸着剤、触媒担体として優れた特性を発揮することができる。さらに多孔質シリカにおいて、ウルトラミクロ孔の合計の比表面積は、多孔質シリカの全体の比表面積に対して90%以上を占めることが好ましい。さらに好ましくは、ウルトラミクロ孔の合計の比表面積は、多孔質シリカの全体の比表面積に対して90%以上95%以下を占めることである。
ウルトラミクロ孔の合計の比表面積は、その占有率が多孔質シリカの全体の比表面積に対して90%未満となると、吸着特性、触媒担体としての特性に影響が及ぶ恐れがある。ウルトラミクロ孔の合計の比表面積は、その占有率が多孔質シリカの全体の比表面積に対して95%を超えても、吸着特性、触媒担体としての特性に影響が及ぶ恐れがある。
多孔質シリカの全体の比表面積は、BET法を用いることにより測定することができる。具体的には、市販の比表面積/細孔分布測定装置(たとえば商品名:「BELSORP−mini」、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、相対圧(P/P0)が0.01〜0.05の範囲における多孔質シリカに対する試験ガス(たとえば窒素)の吸着量(ml/g)を測定することにより、多孔質シリカの全体の比表面積を算出することができる。多孔質シリカの全体の表面積に対するウルトラミクロ孔の占有面積は、上述した多孔質シリカの全体の比表面積に基づき、t−plot法から算出することができる。相対圧(P/P0)の「P」および「P0」が表わすものは、上述したとおりである。
上述したウルトラミクロ孔の平均孔径を測定するための窒素吸脱着等温線、t−plot曲線および多孔質シリカの比表面積などは、たとえば比表面積/細孔分布測定装置(商品名:「BELSORP−mini」、マイクロトラック・ベル株式会社製)用いることにより求めることができる。
<含有炭素>
多孔質シリカは、炭素を0.3質量%以下含有することが好ましい。特に、多孔質シリカは、炭素を0.05〜0.3質量%含有することにより、240〜370nmの波長を有する紫外線により励起され、様々な波長の光を蛍光として放出することにより白色発光することが好ましい。この場合において炭素は、多孔質シリカのウルトラミクロ孔の内部に存することになる。これにより多孔質シリカは、たとえば化粧品および発光材料の原料として利用できるなど用途を広げることができる。後述するように、多孔質シリカのウルトラミクロ孔の内部に存する炭素は、不溶性の変性コラーゲンに由来する。
多孔質シリカは、炭素を0.08〜0.24質量%含有することがより好ましい。多孔質シリカの炭素含有量が0.05質量%未満である場合および0.3質量%を超える場合、白色発光が十分に認められない傾向がある。多孔質シリカの炭素含有量が0.3質量%を超える場合、吸着特性、触媒担体としての特性にも影響が及ぶ恐れがある。
炭素を0.05〜0.3質量%含有する多孔質シリカが紫外線照射により白色発光するメカニズムは、詳細には不明であるが、次のメカニズムが考えられる。すなわち、多孔質シリカに紫外線が照射されたとき、その紫外線をウルトラミクロ孔の内部に存する炭素が吸収することにより、炭素のエネルギー状態が基底状態から励起状態に励起される。励起状態となった炭素は、再び基底状態に戻るときにエネルギーをケイ光またはリン光として放出(発光)するが、その発光はエネルギー量が一定ではないために、様々な色の光として現われる。これにより炭素を0.05〜0.3質量%含有する多孔質シリカに紫外線が照射されると、多孔質シリカは白色発光すると考えられる。
多孔質シリカ中の炭素の含有量は、全自動元素分析装置(有機微量元素分析:CHN分析)(商品名「vario MACRO cube」、エレメンター・ジャパン株式会社製)を用い、以下の条件の下で測定することにより求めることができる。
燃焼温度:1150℃
還元温度:850℃
標準物質:スルファニルアミド標準品(エレメンター・ジャパン株式会社製)。
<作用>
(動的吸着特性)
本発明に係る多孔質シリカは、優れた動的吸着特性を備えることができる。動的吸着特性とは、上述のとおり流動している気体に接触させた場合に、多孔質シリカがこの気体をどの程度吸着することができるのかという能力をいう。動的吸着特性は、所定量の流動している気体(吸着させたい気体)に多孔質シリカを接触させ、この多孔質シリカが上記気体を完全に吸着し続けることができる時間(吸着破過に至るまでの時間)を計測することにより求めることができる。したがって多孔質シリカは、上記気体を完全に吸着し続けることができる時間が長い程、動的吸着特性に優れるということができる。
本実施形態において、多孔質シリカの動的吸着特性は、具体的には以下の方法により評価することができる。まず、105℃の大気中で一晩乾燥させた多孔質シリカの試料100mgをガラス管に入れ、このガラス管に乾燥空気を流しながら試料を150℃で2時間加熱する前処理を行なう。その後、試料を30℃まで冷却することにより吸着試験用試料とする。さらに、トルエンが収容されたサチュレーターと呼ばれる処理槽を、0℃に保持したアイスバッグに入れ、この処理槽へキャリアガスである乾燥空気を流すことにより、約450ppmのトルエンを含む動的吸着特性試験用ガスを準備する。動的吸着特性試験では、ガラス管に入れた上記試料100mgに対し、このガラス管へ50ml/minの流量で上記試験用ガスを流すことにより、上記試料が吸着破過に至るまでの時間を測定する。
本発明に係る多孔質シリカは、図4に示すように、たとえば後述する実施例1において吸着破過に至るまでの時間が約120分であった。このように多孔質シリカは、長時間継続して試験用ガスを完全に吸着するという特性を有するので、吸着剤、触媒担体およびガス分離膜材料などに好適に用いることが可能となる。
(静的吸着特性)
本発明に係る多孔質シリカは、優れた静的吸着特性を示すことができる。静的吸着特性とは、上述のとおり滞留している気体と接触した場合に、多孔質シリカがこの気体をどの程度吸着することができるのかという能力をいう。静的吸着特性は、具体的には後述するサンプリングバッグ法によって評価することができる。この方法によれば、試験前後におけるサンプリングバッグ(テドラー(登録商標)バック)内のトルエン濃度の比較から、多孔質シリカのトルエン吸着量を測定することができ、この吸着量が多いほど、静的吸着特性に優れるということができる。
サンプリングバッグ法を用いた静的吸着特性の評価方法は、以下のとおりである。まず、容積が3L以上の市販のテドラー(登録商標)バックを準備し、このテドラー(登録商標)バックに、動的吸着特性を評価するときと同じ方法で前処理した多孔質シリカの試料100mgを収容する。続いて、このテドラー(登録商標)バックへ標準状態(20℃、65%RH)の空気をキャリアガスとし、約80ppmのトルエンを含む静的吸着特性試験用ガスを3L導入する。さらに、その状態で所定時間放置した後、静的吸着特性試験用ガスを取り出し、このガス中のトルエン濃度をガス検知管(商品名「トルエンガス検知管122L」、株式会社ガステック製)により測定する。これにより、静的吸着特性試験用トルエンガスのトルエン濃度が試験前の80ppmからどれだけ減少したかを算出することによって、多孔質シリカの静的吸着特性を評価することができる。
本発明に係る多孔質シリカは、上述したサンプリングバッグ法によるトルエンの吸着試験において、試験前のサンプリングバッグ中のトルエン濃度をC0、試験開始後30分経過時のサンプリングバッグ中のトルエン濃度をC30とした場合、C30/C0が0.7以下となる吸着特性を有することが好ましい。このとき、多孔質シリカは静的吸着特性に優れると評価することができる。特に、C30/C0が0.6以下となる吸着特性を有することがより好ましい。C30/C0の理想値(下限値)は0である。
図5に示すように、たとえば後述する実施例1において、多孔質シリカ100mgとともに約80ppmのトルエンを含む静的吸着特性試験用ガスを3L導入したテドラーバックは、試験前のサンプリングバッグ中のトルエン濃度をC0、試験開始後30分経過時のサンプリングバッグ中のトルエン濃度をC30としたとき、C30/C0が0.7以下となった。このように多孔質シリカは静的吸着特性に優れ、吸着剤、触媒担体およびガス分離膜材料などに好適に用いることができる。図5において、試験開始後X分経過時のサンプリングバッグ中のトルエン濃度が、Cxとして表わされている。
以上より、本発明に係る多孔質シリカは、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔および孔径が50nmを超えるマクロ孔を有することにより、良好な動的吸着特性および静的吸着特性を示すため、吸着剤、触媒担体として優れた特性を発揮することができる。さらに上述した化粧品原料、発光材料、ガス分離膜材料、量子ドットを収容する担体などとして新たな用途が広がる可能性がある。
≪多孔質シリカの製造方法≫
本発明に係る多孔質シリカの製造方法は、不溶性の変性コラーゲンとアルコキシシランとをpH0.1〜5の第1酸性溶液中で混合することにより変性コラーゲンとシリカとを含む複合体を得る第1工程と、複合体を洗浄および乾燥する第2工程と、第2工程の後に、複合体から変性コラーゲンを除去する第3工程とを含む。これにより、孔径が均一なウルトラミクロ孔を有する多孔質シリカを安価に得ることができる。第1工程により得られる複合体は、変性コラーゲンを鋳型にアルコキシシラン由来のシリカが凝集し、変性コラーゲン中の水酸基、カルボキシル基およびアミノ基と、シリカのシラノール基とが水素結合またはイオン結合により結合した構造を有する。
<第1工程>
第1工程では、不溶性の変性コラーゲンとアルコキシシランとをpH0.1〜5の第1酸性溶液中で混合することにより変性コラーゲンとシリカとを含む複合体を得る。
不溶性の変性コラーゲンは、多孔質シリカを製造するための鋳型となる。不溶性の変性コラーゲンは、不溶性かつ変性したコラーゲンであればどのようなものを用いてもよい。たとえば牛、豚、鶏、ダチョウ、魚などの動物の皮に由来する皮粉を熱処理し、加熱変性させることにより線維が凝集し、線維構造の崩れた変性コラーゲンを得ることができる。この変性コラーゲンはゼラチンとは異なり、不溶性である。ゼラチンは、一般にコラーゲンの加熱変性物であるとされるが、製造過程で水溶媒により加熱抽出されるため、たとえば水溶媒において50℃1時間の加温により完全に溶解する。このとき、ゼラチンの10質量%濃度での透過率(PAGI法、波長570nm)は、ほぼすべてで80%以上となり、通常90%以上となる。一方、変性コラーゲンは水溶媒において50℃1時間の加温により溶解しない。この変性コラーゲンの10質量%濃度での透過率(PAGI法、波長570nm)は、0%となる。
本明細書において「不溶性」とは、ゼラチンを溶解する方法において、水に対する溶解度が1%以下であることをいう。すなわち「不溶性」とは、室温において30分間保持した後、50℃1時間加温したときに水に対する溶解度が1%以下であることをいう。この水には、精製水、イオン交換水、蒸留水などを用いる。さらに上述した「変性コラーゲン」とは、コラーゲンを特徴づけるコラーゲン様配列または3重らせん構造といった線維構造の一部が崩れ、変性しているものの、ゼラチンといった一本鎖のポリペプチドにまで完全に変性してはいない状態をいう。ゼラチンに種々の架橋処理、たとえば熱脱水架橋、グルタルアルデヒドを用いた化学架橋などを導入することによって得られる不溶化させたゼラチンも不溶性の材料として使用することができる。
アルコキシシランは、多孔質シリカを製造するためのシリカ源となる。アルコキシシランとして、有機官能基(アルキル基、ビニル基、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、イソシナヌレート基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基など)およびアルコキシ基を有する従来公知のものをいずれも用いることができる。この中で、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシランなどを用いることが好ましい。置換基が大きくなると複合体の形成に時間を要することとなるため、アルコキシシランとしてテトラメトキシシランまたはテトラエトキシシランを用いることがより好ましい。
アルコキシシランは、不溶性の変性コラーゲンの質量に対して、3〜15倍の質量とすることが好ましい。アルコキシシランは、より好ましくは不溶性の変性コラーゲンの質量に対して、5〜10倍の質量とする。
pH0.1〜5の第1酸性溶液は、pH0.1〜5の溶液である限り、これに用いる溶媒を限定すべきではないが、pH0.1〜5の水溶液であることが好ましい。第1酸性溶液が水溶液である場合、その溶媒としての水は、特に限定されるべきではないが、精製水、イオン交換水、蒸留水などを好適に用いることができる。第1酸性溶液の酸として無機酸および有機酸の少なくとも1種を使用することができる。無機酸として塩酸、硫酸を挙げることができ、有機酸としてギ酸、酢酸を挙げることができる。これらの酸は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
第1酸性溶液は、不溶性の変性コラーゲンの質量に対して、80〜150倍の質量とすることが好ましい。第1酸性溶液は、より好ましくは不溶性の変性コラーゲンの質量に対して、100〜120倍の質量とする。そのpHは、上記の無機酸および有機酸、好ましくは塩酸、硫酸、酢酸などの酸を適量添加することにより調整することができる。第1酸性溶液がpH0.1〜5であることにより、より粒径の小さな粒状のシリカ粒子が鋳型(不溶性の変性コラーゲン)の周りに凝集しやすくなる。好ましい第1酸性溶液のpHは0.1〜1である。第1酸性溶液は、pH5を超えると複合体が形成される効率が低下する傾向がある。pH0.1未満とした場合も、複合体が形成される効率が低下する傾向がある。
第1酸性溶液中でのアルコキシシランと不溶性の変性コラーゲンとの混合方法は、第1酸性溶液中にアルコキシシランを添加し、続いて不溶性の変性コラーゲンを添加してもよいが、第1酸性溶液中に不溶性の変性コラーゲンを添加し、続いてアルコキシシランを添加することが好ましい。特に、本発明において第1工程は、撹拌および超音波照射の両方またはいずれか一方によって変性コラーゲンを第1酸性溶液中に分散させた後、第1酸性溶液へアルコキシシランを添加する工程を含むことが好ましい。
たとえば図6(a)は、撹拌によって変性コラーゲンを第1酸性溶液中に分散させた後、第1酸性溶液へアルコキシシランを添加することにより得た複合体を示している。図6(b)は、超音波照射によって変性コラーゲンを第1酸性溶液中に分散させた後、第1酸性溶液へアルコキシシランを添加することにより得た複合体を示している。図6(b)に現れた複合体は、図6(a)に現れた複合体よりも分散性がよく、より小径であって表面積の大きい複合体が得られることとなる。このことから第1工程は、超音波照射によって変性コラーゲンを第1酸性溶液中に分散させた後、第1酸性溶液へアルコキシシランを添加する工程を含むことがより好ましい。
<第2工程>
第2工程では、複合体を洗浄および乾燥する。複合体の洗浄方法および乾燥方法は、従来公知の方法を用いることができる。さらに、本発明に係る多孔質シリカの製造方法は、後述する第3工程において第1工程の酸性雰囲気を維持する場合、第2工程を行なわないことが好ましい。
<第3工程>
第3工程では、第2工程の後に複合体から変性コラーゲンを除去する。第3工程は、複合体を500℃以上で焼成することにより複合体から変性コラーゲンを除去する工程(A工程)、100〜150℃かつpH0.1〜5の第2酸性溶液に複合体を接触させ、変性コラーゲンを酸加水分解することにより複合体から変性コラーゲンを除去する工程(B工程)、および変性コラーゲンに対して0.1〜10質量%の酵素を用いて20〜50℃で変性コラーゲンを酵素処理することにより複合体から変性コラーゲンを除去する工程(C工程)からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
(A工程)
A工程では、複合体を500℃以上で焼成することにより変性コラーゲンを完全に熱分解する。本工程では、複合体を600℃以上で焼成することが好ましい。焼成する時間は、複合体を空気中で1〜5時間程度加熱すればよい。本工程における焼成温度の上限は、700℃である。700℃を超えても変性コラーゲンを完全に熱分解する時間が短くなるなどの効果を得ることが困難となる。
(B工程)
B工程は、複合体から変性コラーゲンを除去することができる限り、どのような酸加水分解処理を行なう工程であってもよい。たとえば複合体にpH0.1〜5の第2酸性溶液を塗布することができる。複合体にpH0.1〜5の第2酸性溶液をスプレーしてもよい。さらに、pH0.1〜5の第2酸性溶液中に複合体を浸漬させてもよい。複合体から変性コラーゲンを効率よく除去する観点から、本工程では、pH0.1〜5の第2酸性溶液中に複合体を浸漬させることが好ましい。さらに、変性コラーゲンを完全に酸加水分解する観点から、pH0.1〜5の第2酸性溶液中に複合体を浸漬させた状態で、第2酸性溶液を撹拌することがより好ましい。
第2酸性溶液は、pH0.1〜5の水溶液であることが好ましく、上述した第1酸性溶液と同じ方法により調製することができる。好ましい第2酸性溶液のpHは0.1〜1である。さらに、酸として無機酸および有機酸の少なくとも1種を使用することができる。無機酸として塩酸、硫酸、硝酸を挙げることができ、有機酸としてギ酸、酢酸を挙げることができる。これらの酸は、単独で用いても良いし、2種以上を混合してもよい。第2酸性溶液の酸としては、塩酸を用いることが好ましい。
第2酸性溶液は、pH5を超えると変性コラーゲンを酸加水分解する効率が低下する傾向がある。さらに、pH0.1〜5の第2酸性溶液に複合体を接触させる温度は、100〜150℃が好ましい。第2酸性溶液に複合体を接触させる温度を100℃未満とすると酸加水分解の効率が低下する傾向がある。第2酸性溶液の撹拌は、複合体から変性コラーゲンが除去されるまで行なえばよく、たとえば10〜48時間、好ましくは20〜30時間行なえばよい。
(C工程)
C工程では、ペプシンなどの各種プロテアーゼ、コラーゲン分解酵素であるコラゲナーゼなどの所定の酵素を用い、当該酵素が活性な温度の下で酵素反応させることにより、複合体から変性コラーゲンを除去する。当該酵素が溶解している溶液のpHは、当該酵素が失活しないpHであればよく、たとえばペプシンの場合、pH0.1〜5であることが好ましい。
酵素は、その量が変性コラーゲンに対して0.1質量%未満である場合、変性コラーゲンの除去に大幅な時間を要するために効率が悪くなる。酵素の量が変性コラーゲンに対して10質量%を超える場合、酵素処理による変性コラーゲンの除去効果が飽和してしまう傾向がある。さらに酵素処理の温度が20℃未満および50℃を超える場合には、酵素が失活する傾向があるので、変性コラーゲンの除去効率が低下する。好ましい酵素の量は、変性コラーゲンに対して1〜5質量%であり、好ましい酵素処理の温度は30〜40℃である。
複合体からの変性コラーゲンの除去は、上述した焼成、酸加水分解処理および酵素処理の各工程のうち、より大きな比表面積を有する多孔質シリカを得る観点から、焼成による除去工程(すなわちA工程)が最も好ましい。一方、酸加水分解処理および酵素処理のいずれかの工程(すなわちB工程またはC工程)を少なくとも行なう場合、多孔質シリカの細孔の崩壊および収縮が起こりにくいという利点がある。効率よく多孔質シリカを得る観点から、第3工程は、酸加水分解処理および酵素処理の両方の工程(すなわちB工程およびC工程)を行なうことが好ましい。その順番は、どちらを先に行なってもよい。
ここで本発明に係る多孔質シリカの製造方法では、第3工程において、複合体を500℃以上で焼成する時間、100〜150℃かつpH0.1〜5の第2酸性溶液に複合体を接触させ、変性コラーゲンを酸加水分解する時間、変性コラーゲンに対して0.1〜10質量%の酵素を用いて20〜50℃で変性コラーゲンを酵素処理する時間をそれぞれ調整することにより、ウルトラミクロ孔の内部に変性コラーゲンに由来する炭素を一部残存させて、多孔質シリカを製造することができる。特に、残存させた炭素が多孔質シリカに0.05〜3質量%含まれる場合、多孔質シリカは上述したように紫外線が照射されたときに白色発光するため、化粧品および発光材料の原料として利用できるなど用途を広げることができる。
<用途>
本発明の製造方法によって得られる多孔質シリカは、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔および孔径が50nmを超えるマクロ孔を有する。さらに、粒径500nm〜5μmのシリカ粒子が凝集して形成された粒径500nm〜100μmの粒状シリカとなる。さらに多孔質シリカの比表面積は500〜1000m2/gであるので、吸着剤、触媒担体として優れた特性を発揮することができる。本発明の製造方法は、特殊な装置を必要とせず、安価な不溶性の変性コラーゲンを用いるため、多孔質シリカの大量合成に適している。本発明の製造方法によって得られる多孔質シリカは、良好な動的吸着特性および静的吸着特性を示すため、吸着剤、触媒担体として優れた特性を発揮することができる。さらに上述した化粧品原料、発光材料、ガス分離膜材料、量子ドットを収容する担体などとして新たな用途が加わる可能性がある。
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
≪試験1≫
<多孔質シリカの製造>
(実施例1)
まず鋳型となる不溶性の変性コラーゲンとして、コラーゲンT−1034(新田ゼラチン株式会社製)を準備した。さらにシリカ源としてテトラエトキシシラン(TEOS)を準備した。次に、イオン交換水に塩酸を加えて4.2体積%濃度の塩酸水溶液(pH0.63)を調製し、この塩酸水溶液に上記コラーゲン1gを添加するとともに30分間撹拌して上記コラーゲンの分散溶液を得た。この分散溶液にTEOSを9ml加え、室温(25℃)で24時間撹拌することにより変性コラーゲンとシリカとを含む複合体を得た(第1工程)。この複合体は、不溶性の変性コラーゲンを鋳型としてテトラエトキシシラン由来のシリカの粒子が凝集した構造を有する。その後、上記複合体を含む溶液を濾過してイオン交換水で洗浄するとともに、室温で一晩放置することにより乾燥した複合体を得た(第2工程)。
次に、得られた複合体に対して600℃、5時間の条件で焼成することにより実施例1の多孔質シリカを得た(第3工程)。
(比較例1)
実施例1における鋳型を、市販のゼラチン(商品名:「アルカリ処理ゼラチン」、キシダ化学株式会社製)に代え、その他については実施例1と同じとして比較例1の多孔質シリカを製造しようとしたが、ゼラチンが鋳型として機能しなかったため、多孔質シリカを得ることはできなかった。このことから、ゼラチンは鋳型としては機能しないことが分かる。さらに、実施例1で用いたコラーゲンT−1034は、コラーゲンを熱変性させているため、一部に温水可溶性画分(ゼラチン)を含む可能性があるものの、この温水可溶性画分は、多孔質シリカの合成を阻害することがないことも分かった。
(比較例2)
実施例1における鋳型を、市販のコラーゲン線維(商品名:「Hide Powder」、シグマ−アルドリッチ社製)に代え、その他については実施例1と同じとして比較例2の多孔質シリカを製造した。
<多孔質シリカの細孔構造の特定>
(孔径分布)
まず実施例1の多孔質シリカおよび比較例2の多孔質シリカに対し、それぞれ前処理として密閉容器中で、300℃および3時間の真空排気を行なった。その後、比表面積/細孔分布測定装置(商品名:「BELSORP−mini」、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて以下の測定条件により窒素吸着等温線およびt−plot曲線を得、実施例1の多孔質シリカおよび比較例2の多孔質シリカの細孔構造を特定した。その結果を図2および図3に示す。
測定温度:液体窒素温度(77K)
試料(多孔質シリカ)量:30mg
吸着ガス:窒素。
図2(a)および図2(b)に示すように、実施例1および比較例2の多孔質シリカの窒素吸脱着等温線は、いずれもIUPAC I型を示したことから、実施例1および比較例2の多孔質シリカは、いずれも孔径が2nm未満のミクロ孔を有することが分かった。さらに図3(a)に示すように、実施例1の多孔質シリカのt−plot曲線は折れ曲がりが認められないことから、実施例1の多孔質シリカは、平均孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔を有することが分かった。一方、図3(b)に示すように、比較例2に係る多孔質シリカのt−plot曲線は折れ曲がりが認められ、平均孔径は0.76nmであると算出されたため、比較例2に係る多孔質シリカはウルトラミクロ孔を有していなかった。
実施例1の多孔質シリカの窒素吸脱着等温線は、比較例2の多孔質シリカの窒素吸脱着等温線よりも、曲線の角度がより急峻であることが図2(a)と図2(b)との比較から理解される。このことから実施例1の多孔質シリカは、ウルトラミクロ孔の孔径の均一性が高いことも示唆している。
次に、実施例1の多孔質シリカに対し、FE−SEM(商品名:「S−4800」、日立ハイテクノロジーズ株式会社製)を用いて400倍の倍率で観察した。さらに、観察前には多孔質シリカの表面にPtを蒸着した。その結果、観察像である図1によれば、粒径500nm〜5μmのシリカ粒子が凝集して形成された粒径500nm〜100μmの粒状シリカが確認された。さらに、図1において粒状シリカの凝集したシリカ粒子の間隙が、孔径が50nmを超えるマクロ孔として存在している様子が観察された。したがって、実施例1の多孔質シリカは、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔および孔径が50nmを超えるマクロ孔を有することが分かる。
(表面積/比表面積)
次に、実施例1の多孔質シリカの比表面積を、上述した比表面積/細孔分布測定装置を用いて相対圧が0.01〜0.05の範囲における窒素の吸着量に基づきBET法により算出した。その結果、実施例1の多孔質シリカの比表面積は、685m2/gであった。
さらに、上述した表面積の測定方法に基づけば、実施例1の多孔質シリカにおいて、ウルトラミクロ孔の合計の比表面積は、多孔質シリカの全体の比表面積に対して94%を占めることが分かった。
<動的吸着特性>
実施例1の多孔質シリカおよび比較例2の多孔質シリカに対し、上述した方法により動的吸着特性を評価した。その結果を図4に示す。
図4に示すように、実施例1の多孔質シリカ(白丸)は、吸着破過に至るまでの時間が約120分であった。これに対し、比較例2の多孔質シリカ(黒丸)は、吸着破過に至るまでの時間が約105分であった。このため実施例1の多孔質シリカは、比較例2よりも長時間継続してトルエンを完全に吸着するという特性を有し、吸着剤、触媒担体およびガス分離膜材料などに好適に用いることができると理解される。
<静的吸着特性>
実施例1の多孔質シリカおよび比較例2の多孔質シリカに対し、上述した方法により静的吸着特性を評価した。その結果を図5に示す。
図5に示すように、実施例1の多孔質シリカ(黒丸)は、試験前のサンプリングバッグ中のトルエン濃度をC0、試験開始後30分経過時のサンプリングバッグ中のトルエン濃度をC30としたとき、C30/C0が0.7以下である0.6となった。これに対し、比較例2の多孔質シリカ(二重丸)は、C30/C0が0.78となった。このため実施例1の多孔質シリカは、比較例2よりも静的吸着特性に優れ、吸着剤、触媒担体およびガス分離膜材料などに好適に用いることができると理解される。
以上より実施例1の多孔質シリカは、吸着剤、触媒担体として優れた特性を発揮することができると考えられる。さらに、実施例1の多孔質シリカの製造は、特殊な装置を必要とせず、安価な不溶性の変性コラーゲンを用いるため、多孔質シリカの大量合成に適している。
≪試験2≫
<多孔質シリカの製造>
(実施例2)
実施例1の第3工程を、70℃かつpH0.63の第2酸性溶液に複合体を接触させ、変性コラーゲンを酸加水分解することにより複合体から変性コラーゲンを除去する工程に代え、その他については実施例1と同じとして実施例2の多孔質シリカを製造した。
(実施例3)
実施例1の第3工程を、70℃かつpH0.63の第2酸性溶液に複合体を接触させ、変性コラーゲンを酸加水分解するとともに、変性コラーゲンに対して5質量%のペプシンを用いて変性コラーゲンを酵素処理することにより複合体から変性コラーゲンを除去する工程に代え、その他については実施例1と同じとして実施例3の多孔質シリカを製造した。
<多孔質シリカの細孔構造の特定>
実施例2〜3の多孔質シリカの細孔構造について、上述した実施例1の多孔質シリカに対する測定方法と同じ方法により特定した。実施例2〜3の多孔質シリカについてのウルトラミクロ孔の有無とその平均孔径、マクロ孔の有無とその平均孔径、比表面積、全表面積に対するウルトラミクロ孔の占有面積、全表面積に対するマクロ孔の占有面積、動的吸着特性(吸着破過に至るまでの時間)、静的吸着特性(C30/C0)を表1に示す。表1には、参考のため実施例1のウルトラミクロ孔の有無とその平均孔径などのデータも記載した。
以上より、実施例2〜3の多孔質シリカは、孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔および孔径が50nmを超えるマクロ孔を有することにより吸着剤、触媒担体として優れた特性を発揮することができると考えられる。さらに、実施例2〜3の多孔質シリカの製造は、特殊な装置を必要とせず、安価な不溶性の変性コラーゲンを用いるため、多孔質シリカの大量合成に適している。
≪試験3≫
<多孔質シリカの製造>
実施例1の第3工程における焼成時間を変更し、その他については実施例1と同じ方法を用いることにより、実施例4〜8の多孔質シリカを製造した。実施例4では、第3工程における焼成時間を4時間としてウルトラミクロ孔内の炭素含有量が0%である多孔質シリカを製造した。実施例5では、上記焼成時間を2時間10分としてウルトラミクロ孔内の炭素含有量が0.08%である多孔質シリカを製造した。実施例6では、上記焼成時間を2時間としてウルトラミクロ孔内の炭素含有量が0.1%である多孔質シリカを製造した。実施例7では、上記焼成時間を1.5時間としてウルトラミクロ孔内の炭素含有量が0.15%である多孔質シリカを製造した。実施例8では、上記焼成時間を1時間としてウルトラミクロ孔内の炭素含有量が0.24%である多孔質シリカを製造した。
<多孔質シリカの紫外線照射による白色発光>
実施例4〜8の多孔質シリカに対し、波長254nmおよび波長365nmのブラックライト(紫外線)を照射した。その結果を図7に示す。図7において(a)は、波長254nmの紫外線を照射した場合における多孔質シリカの発光の様子を示し、(b)は、波長365nmの紫外線を照射した場合における多孔質シリカの発光の様子を示す。図7(a)および(b)に現わされたスポットは、左から順に実施例8(炭素含有量0.24%)、実施例7(炭素含有量0.15%)、実施例6(炭素含有量0.1%)、実施例5(炭素含有量0.08%)、実施例4(炭素含有量0%)の多孔質シリカである。波長254nmおよび波長365nmのいずれも、実施例5(炭素含有量0.08%)において最も強い発光が確認され、実施例4(炭素含有量0%)において発光が確認できなかった。
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。

Claims (9)

  1. 孔径が0.7nm未満のウルトラミクロ孔および孔径が50nmを超えるマクロ孔を有する、多孔質シリカ。
  2. 前記多孔質シリカは、複数の前記ウルトラミクロ孔および複数の前記マクロ孔を有し、
    前記ウルトラミクロ孔の合計の比表面積は、前記多孔質シリカの全体の比表面積に対して90%以上を占める、請求項1に記載の多孔質シリカ。
  3. 前記多孔質シリカは、粒径が500nm以上100μm以下である、請求項1または2に記載の多孔質シリカ。
  4. 前記多孔質シリカは、炭素を0.3質量%以下含有する、請求項1〜3のいずれかに記載の多孔質シリカ。
  5. 前記多孔質シリカは、紫外線が照射されたときに白色発光する、請求項4に記載の多孔質シリカ。
  6. 前記多孔質シリカは、サンプリングバッグ法によるトルエンの吸着試験において、試験前のサンプリングバッグ中のトルエン濃度をC0、試験開始後30分経過時の前記サンプリングバッグ中のトルエン濃度をC30としたとき、C30/C0が0.7以下となる吸着特性を有する、請求項1〜5のいずれかに記載の多孔質シリカ。
  7. 不溶性の変性コラーゲンとアルコキシシランとをpH0.1〜5の第1酸性溶液中で混合することにより前記変性コラーゲンとシリカとを含む複合体を得る第1工程と、
    前記複合体を洗浄および乾燥する第2工程と、
    前記第2工程の後に、前記複合体から前記変性コラーゲンを除去する第3工程と、を含む多孔質シリカの製造方法であって、
    前記第3工程は、前記複合体を500℃以上で焼成することにより前記複合体から前記変性コラーゲンを除去する工程、100〜150℃かつpH0.1〜5の第2酸性溶液に前記複合体を接触させ、前記変性コラーゲンを酸加水分解することにより前記複合体から前記変性コラーゲンを除去する工程、および前記変性コラーゲンに対して0.1〜10質量%の酵素を用いて20〜50℃で前記変性コラーゲンを酵素処理することにより前記複合体から前記変性コラーゲンを除去する工程からなる群より選ばれる少なくとも1種である、多孔質シリカの製造方法。
  8. 請求項7に記載の多孔質シリカの製造方法において、
    前記第2工程を行なわない、多孔質シリカの製造方法。
  9. 前記第1工程は、撹拌および超音波照射の両方またはいずれか一方によって前記変性コラーゲンを前記第1酸性溶液中に分散させた後、前記第1酸性溶液へ前記アルコキシシランを添加する工程を含む、請求項7または8に記載の多孔質シリカの製造方法。
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