JP2018130096A - 転写制御因子 - Google Patents

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Abstract

【課題】WYK-1等のDPPIV阻害剤等の生体物質の生合成遺伝子クラスターの発現を制御する転写制御因子を麹菌中で有意に発現させることで、該生合成遺伝子クラスターの発現を活性化させ、該生体物質の生産量を有意に増加させ、或いは、該遺伝子クラスターを保持していても該生体物質を生産しなかった株で該生体物質を生産させるようにすること。
【解決手段】配列番号:1で表される塩基配列等からなるDNAにコードされるタンパク質から成る転写制御因子、該DNAを含む、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生合成遺伝子クラスターの発現活性化用組換えベクター等。
【選択図】図1

Description

本発明は、転写制御因子、特に、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター(DPPIV阻害剤)の生合成遺伝子クラスター等の転写制御因子、該転写制御因子をコードするDNAを含む組換えベクター等に関する。
糖尿病は現代人にとって深刻な生活習慣病であり、その治療は重要な課題となっている。人間の体内において、ジペプチジルぺプチダーゼ(Dipeptidyl peptidase) IV(DPPIV)はインシュリンを分泌させるホルモンであるgulcagon-like peptide1 (GLP-1)を分解して不活性化する。従って、かかるDPPIVの作用の結果、インシュリン分泌が減少し、糖尿病を引き起こすと考えられている(非特許文献1)。
そのため、DPPIV阻害剤はインシュリンの分泌を正常化すると考えられており、他の治療薬に比較すると副作用が少ないことからも2型糖尿病の治療薬として魅力的である(非特許文献2)。
これまでにアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)がDPPIV阻害剤(TMC-2A, 2B, 2C)を生産することは知られていたが(非特許文献3、非特許文献4)、その生合成に関与する遺伝子については未解明であった。近年になり、アスペルギルス・オリゼがDPPIV阻害剤であるイソキノリン誘導体:WYK-1(TMC-2Aと同一化合物であることが後に判明)を生産するための11個のORF(AO090001000009-AO090001000019)からなる遺伝子クラスターを保持していることが明らかとなった。しかしながら、WYK-1を生産する株は非常に稀であり、更に、WYK-1生産株に於いてもその生産量は少なく、また、アスペルギルス・オリゼRIB40株のようにWYK-1を生産するための遺伝子クラスターを保持していてもその発現が弱いため、実質的にWYK-1が生産されない等の問題があった(非特許文献5、非特許文献6)。
従って、このDPPIV阻害剤(WYK-1)の遺伝子クラスターの転写・発現を制御する因子を高発現することができれば、遺伝子クラスターを活性化し、DPPIV阻害剤の生産量を高めることができると期待されるが、そのような因子はこれまで見つかっていなかった。
尚、アスペルギルス・オリゼ由来のDPPIV等に関する発明が、特許文献1及び2等に記載されている。更に、DPPIVのようなペプチダーゼの発現の増強等に関する発明が特許文献3に記載されている。
特許第4050329号明細書 特表2001−517094号公報 特表2001−500022号公報
Holst et al. 1998. Diabetes 47: 1663-1370 Someya et al. 2008. Pharmacol. 377:209-217 Nonaka et al. 1997. J. Antibiotics 50: 646-652 Asai et al. 1997. J. Antibiotics 50: 653-658 Imamura et al. 2011. J. Biosci. Bioeng. 111:37-40 Imamura et al. 2012. Appl. Environ. Microbial. 78: 6996-7002 Takahashi et al.2006. Biosci. Biotechnol. Biochem. 70:135-143 Ogawa et al. 2010. Fungal. Genet. Biol. 14: 10-18 Chankhamjon et al. 2014. Angew. Chem. Int. Ed. 53: 13409-13413
従って、本発明の目的は、WYK-1等のDPPIV阻害剤等の生合成遺伝子クラスターの発現を制御する因子を見出し、該転写制御因子を麹菌中で有意に発現させることで、DPPIV阻害剤の生合成遺伝子クラスターの発現を活性化させ、DPPIV阻害剤の生産量を有意に増加させ、或いは、該遺伝子クラスターを保持していてもDPPIV阻害剤を生産しなかった株でDPPIV阻害剤を生産させるようにすることである。
本発明者は鋭意、研究した結果、以下の各態様等に関する本発明を完成し、上記の目的を達した。
[態様1]
以下のDNAにコードされるタンパク質から成る、生合成遺伝子(クラスター)の転写制御因子、特に、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターの生合成遺伝子クラスターの転写制御因子:
(1)配列番号:1で表される塩基配列からなるDNA;
(2)配列番号:1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、前記転写制御因子の機能を有するタンパク質をコードするDNA;
(3)配列番号:1で表される塩基配列からなるDNAと80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなるDNAであって、前記転写制御因子の機能を有するタンパク質をコードするDNA;又は
(4)配列番号:2で表されるアミノ酸配列、又は、それと80%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA。
[態様2]
上記転写制御因子をコードするDNAを含む、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生合成遺伝子クラスターの発現活性化用組換えベクター。
[態様3]
上記組換えベクターによる形質転換細胞であって、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生合成遺伝子クラスターの発現が活性化された状態にあることを特徴とする麹菌。
[態様4]
上記組換えベクターによって麹菌を形質転換することを含む、該麹菌に於いてジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生合成遺伝子クラスターの発現を活性化させる方法。
[態様5]
上記組換えベクターによって麹菌を形質転換し、該麹菌に於いてジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等を生産させ、該ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等を回収することを特徴とする、該ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生産方法。
本発明によって新たに見出された転写制御因子を発現させることによって、生体物質の生合成遺伝子(クラスター)、例えば、DPPIV阻害剤であるWYK-1等の生合成遺伝子クラスターの転写が活性化され、これまでWYK-1(DPPIV阻害剤)を生産しないことが報告されていたRIB40株等の麹菌株においても、WYK-1を生産させることが可能であることが示された。
LC-MSを用いたWYK-1の生産の結果を示す。 LC-MSを用いたRIB40株に於けるアスピロクロリンの生産の結果を示す。 LC-MSを用いたAO090011000880強制発現株に於けるアスピロクロリンの生産の結果を示す。
態様1として、本発明は、以下のDNAにコードされるタンパク質から成る、生合成遺伝子(クラスター)の転写制御因子、特に、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生体物質(細胞・組織・生体内で代謝・生合成される物質)の生合成遺伝子(クラスター)の転写制御因子:
(1)配列番号:1で表される塩基配列からなるDNA;
(2)配列番号:1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、前記転写制御因子の機能を有するタンパク質をコードするDNA;
(3)配列番号:1で表される塩基配列からなるDNAと80%以上、好ましくは約90%以上、更に好ましくは約95%以上である配列同一性を示す塩基配列からなるDNAであって、前記転写制御因子の機能を有するタンパク質をコードするDNA;又は
(4)配列番号:2で表されるアミノ酸配列、又は、それと80%以上、好ましくは約90%以上、更に好ましくは約95%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA、
に係る。
以下の実施例に記載されるように、本発明の転写制御因子は、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター及びその他の生体物質の生合成に関与する生合成遺伝子(クラスター)の転写制御因子としての作用・機能を有する。
更に、本発明は、上記DNAにも係るものである。
ここで、転写制御因子は「転写調節因子」とも呼ばれ、転写反応に関与するタンパク質である転写因子の中で、特に、転写調節エレメント(上流調節配列、エンハンサー等)への結合を介して、対象となる遺伝子(クラスター)の転写反応を調節する作用・機能を有するものを意味する。
好ましくは、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターは、WYK-1 (化学式:C28H34N4O9) 等のイソキノリン誘導体である。
本発明の転写制御因子をコードする、配列番号:1で表される塩基配列からなるDNAは、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)のデータベース(DOGAN: http://www.bio.nite.go.jp/dogan/project/view/AO)およびAspGDのデータベース(http://www.aspergillusgenome.org/)より得たアスペルギルス・オリゼのゲノム情報及びORF情報に基づき、相同性検索、モチーフ検索、及び、既知遺伝子のアノテーションや文献情報、モチーフの種類などの情報をもとに、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターであるWYK-1を生産するための11個のORF(AO090001000009-AO090001000019)からなる遺伝子クラスターの転写制御因子をコードするDNAと推定されたものである。
本発明の転写制御因子をコードするDNAは当業者に公知の任意の方法、例えば、本明細書の実施例に示すような、適当なプライマーを用いるPCRにより麹菌のゲノムDNA等から取得することができる。
PCRの装置に特に制限はなく、例えば、GeneAmp 5700 DNA Detection System (Perkin Elmer社製)が挙げられる。
PCRの鋳型となる麹菌染色体DNAは、当業者に公知の任意の方法、例えば、以下の方法により抽出することができる。150ml容量の三角フラスコにポリペプトンデキストリン培地(1%ポリペプトン、2%デキストリン、0.5%KH2PO4、0.1%NaNO3、0.05%MgSO4・7H20、0.1%カザミノ酸、pH6.0)30mlを調製し、麹菌の分生子を接種して30℃で一晩振とう培養する。培養液からろ過により菌体を回収し、ペーパータオルに挟んで水分を除き、予め液体窒素で冷却した乳鉢と乳棒を用いて液体窒素で冷却しながら菌体を粉砕し、Wizard Genomic DNA Purification Kit(プロメガ社製)を用いて粉砕菌体から染色体DNAを抽出することができる。
具体的な染色体DNA抽出方法は、Wizard Genomic DNA Purification Kit(プロメガ社製)のプロトコールを参照することができる。本発明の転写制御因子のコードするDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、上記のデータベースの情報等をもとに、適切なプライマーを設計して用いることができる。
ハイブリダイゼーションは、カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー(Current protocols in molecular biology(edited by Frederick M. Ausubel et al.,1987)、又は、Molecular cloninng third.ed.(Cold Spring Harbor Lab.Press,2001)に記載の方法等、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。
本明細書において、ハイブリダイズに際しての「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズ」の具体的な条件とは、例えば、50%ホルムアミド、5×SSC(150mM 塩
化ナトリウム、15mM クエン酸三ナトリウム、10mM リン酸ナトリウム、1mM
エチレンジアミン四酢酸、pH7.2)、5×デンハート(Denhardt’s)溶
液、0.1% SDS、10% デキストラン硫酸及び100μg/mLの変性サケ精子
DNAで42℃インキュベーションした後、フィルターを0.2×SSC中42℃で洗浄
することを例示することができる。
従って、配列番号:1で表される塩基配列を含むDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、該DNAの全塩基配列との同一性の程度が、全体の平均で、約80%以上、好ましくは約90%以上、更に好ましくは約95%以上である塩基配列を含有するDNA等を挙げることができる。
2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列同一性(配列相同性)を決定するために、配列は比較に最適な状態に前処理される。例えば、一方の配列にギャップを入れることにより、他方の配列とのアラインメントの最適化を行う。その後、各部位における塩基が比較される。第一の配列におけるある部位に、第二の配列の相当する部位と同じ塩基が存在する場合、それらの配列は、その部位において同一である。2つの配列における配列同一性は、配列間での同一である部位数の全部位数に対する百分率で示される。
上記の原理に従い、2つの塩基配列又はアミノ酸配列における配列同一性は、例えば、Karlin及びAltschulのアルゴリズム(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:2264−2268、1990及びProc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877、1993)により決定される。このようなアルゴリズムを用いたBLASTプログラムやFASTAプログラムは、主に与えられた配列に対し、高い配列同一性を示す配列をデータベース中から検索するために用いられる。これらは、例えば米国National Center for Biotechnology Informationのインターネット上のウェブサイトにおいて利用可能である。
本発明の転写制御因子であるタンパク質(例えば、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAでコードされる、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド)をコードするDNAには、該タンパク質のアミノ酸配列をコードする領域のみから成る塩基配列(即ち、エクソン部分のみが結合された塩基配列)からなるcDNAも含まれる。このようなcDNAは、本明細書に開示の塩基配列情報に基づき調製した適当なプライマーを用いて、麹菌のmRNAを鋳型としたPCR等により取得することが可能である。又、本発明に関するDNAは当業者に公知の任意の方法によって化学合成することも可能である。
上記のような塩基配列の配列同一性を示すようなDNAは、上記のようにハイブリダイゼーションを指標に得ることもでき、ゲノム塩基配列解析等によって得られた機能未知のDNA群又は公共データベースの中から、当該技術分野の研究者か通常用いている方法により、例えば、前述のBLASTソフトウェアを用いた検索により発見することも容易である。さらに、本発明遺伝子は種々の公知の変異導入方法によって得ることもできる。
態様2として、本発明は、上記転写制御因子をコードするDNAを含む組換えベクター、特に、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生合成遺伝子クラスターの発現活性化用組換えベクターに係る。好ましくは、該ベクターは該転写制御因子の強制発現ベクターである。
本発明の組換えベクターは、例えば、WO2010/032492 A1(発明の名称:麹菌アルカリプロテアーゼプロモーター)に記載されているような、当業者に公知の適当な遺伝子工学的な手段を用いて、上記のDNAをベクター内に連結することにより調製することができる。組換えベクターを麹菌内に導入することによって、該組換えベクターにコードされている本発明の転写制御因子が有意の量で発現するように該麹菌の形質が転換させる(形質転換細胞)ことができるものであれば、本発明の組換えベクターの構造及び種類等に、特に、制限はない。例えば、プラスミド、コスミド、ファージ、ウイルス、染色体組み込み型、人工染色体等のベクターを用いることかできる。
上記ベクターには、形質転換された細胞を選択することを可能にするための当業者に公知の任意のマーカー遺伝子が含まれていてもよい。マーカー遺伝子としては、例えば、pyrG、URA3、niaDのような、宿主の栄養要求性を相補する遺伝子又はアンピシリン、カナマイシンあるいはオリゴマイシン等の薬剤に対する抵抗遺伝子等が挙げられる。また、組換えベクターは、宿主麹菌中で本発明の転写制御因子を発現することのできるプロモーター及びその他の制御配列(例えば、エンハンサー配列、ターミネーター配列、ポリアデニル化配列等)、さらに、目的とするDNAを挿入するためのマルチクローニングを含むことが望ましい。これらの組換えベクターに含まれる各要素は当業者に公知であり、例えば、具体的には、実施例に示されるアスペルギルス・オリゼのアミラーゼ遺伝手プロモーター、アスペルギルス・ニーデュランスのアミラーゼターミネーター、マーカー遺伝子としてのアスペルキルス・オリゼのniaD遺伝子を挙げることができる。
本発明の組換えベクターを麹菌染色体に導入するに当たり、導入する染色体の部位を問わない場合は、該組換えベクターと適切な形質転換マーカー遺伝子とを用いて麹菌を形質転換することにより、麹菌の染色体に導入することができる。該組換えベクターと形質転換マーカー遺伝子は連結されている方が望ましいが、連結されていない場合は、コトランスフォーメーションで導入することができる。
一方、本発明の組換えベクターを麹菌染色体の特定の部位へ導入する場合は、相同組換えによりこれを行うことができる。このためには、該組換えベクターと形質転換マーカー遺伝子を連結したものの一方の端に、導入する部位より上流側で宿主麹菌染色体と相同組換えを起こすためのDNA断片をつなぎ、もう一方の端に、導入する部位より下流側で宿主染色体と相同組換えを起こすためのDNA断片をつないでおく必要がある。このようなDNA断片から構成される相同組換え用カセットで形質転換を行い、両端に設けたそれぞれのDNA断片が染色体上の該当配列と相同組換えを起こすと、目的の部位に発現ユニットが導入された形質転換体が得られる。
或いは、該組換えベクターを自律複製型のベクター(Ozeki et al. Biosci. Biotechnol. Biochem. 59, 1133 (1995)参照)として構築し、麹菌の染色体に導入しない形で用いることもできる。
麹菌の形質導入又は形質転換は、公知の適当な方法で行うことができる。例えば、プロトプラスト化した後ポリエチレングリコール及び塩化カルシウムを用いる方法(Mol.Gen.Genet.,218,99−104(1989))を用いることかできる。
理論的に拘束されるものではないが、以下の実施例に示されるように、本発明の組換えベクターによって形質転換された麹薗に於いては、本発明の転写制御因子が有意に発現され、発現された該転写制御因子の作用によって、親株と比較してジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生体物質の生合成遺伝子クラスターの発現が活性化される。更に、本発明の組換えベクターによって形質転換された麹薗に於いては、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生体物質が生産されるようになる。
よって、態様3として、本発明は、上記組換えベクターによる形質転換細胞であって、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生合成遺伝子クラスターの発現が活性化していることを特徴とする麹菌に係る。
本明細書において、「ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生合成遺伝子クラスターの発現が活性化された(又は、活性化させる)」とは、以下の実施例に記載されているような適当な測定方法で解析した場合に、親株(形質導入又は形質転換の対象となる麹薗宿主)に於いては発現されていなかった該生合成遺伝子クラスターの少なくともいずれかの遺伝子が発現されるようになること、又は、該生合成遺伝子クラスターの少なくともいずれかの遺伝子の発現量が、親株に比べて有意に増加していること(例えば、数倍〜百数十倍)を意味する。その結果、該生合成遺伝子クラスターの発現により生合成される生体物質の生産が可能となるか、または、その生産量が増加する。
麹菌とは、アスペルギルス属に属する微生物(菌類)の総称であり、その代表的な例として、既に記載したアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)及びアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)に加えて、特に食品・醸造分野で使用される菌としてアスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)及びアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等を挙げることができる。また、麹菌以外の食品・醸造・化学・医療分野で使用される産業上有用な糸状菌等を用いても実質的に同様の効果を得ることができる。これらの菌は、市販品として、又は、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)等の様々な公的寄託機関から入手することも可能である。
形質転換に用いる麹菌宿主に関しても特に制限はないが、アスペルギルス・ソーヤ及びアスペルギルス・オリゼ等のアスペルギルス属に属する麹菌が好ましい。さらに、相同組み換えにより染色体の特定の部位にDNA断片を導入する場合は、非相同組換えに関与する遺伝子が破壊されて相同組み換え効率が高くなった株、例えば、ku70遺伝子破壊株、ku80遺伝子破壊株、ligD遺伝子破壊株等を用いることが望ましい。
上記遺伝子破壊株を用いることにより、効率良く相同組み換えを行うことができる(Takahashi et al. Mol. Genet. Genomics 275, 460 (2006)、Mizutani et al. Fungal Genet. Biol. 45, 878(2008)参照)。
麹菌ku70遺伝子破壊株としては、例えば、アスペルギルス・ソーヤ ASKUPTR8株(ΔpyrG、ku70::ptrA)(Takahashi et al. Mol. Genet. Genomics 275, 460(2006)、特開2007−222055号公報参照)を挙げることができる。
アスペルギルス・ソーヤASKUPTR8株は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成16年12月2日付で寄託され、受領番号FERM P−20311が付され、その後、平成17年11月17日付で、特許手続上の微生物の寄託等の国際的承認に関するブタペスト条約に基づく国際寄託に移管され、受託番号FERM BP−10453が付与されている。
従って、態様4として、本発明は、上記組換えベクターによって麹菌を形質転換することを含む、該麹菌に於いてジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生体物質の生合成遺伝子クラスターの発現を活性化させる方法に係る。
また、態様5として、本発明は、上記組換えベクターによって麹菌を形質転換し、該麹菌に於いてジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生体物質を生産させ、該ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等を回収することを特徴とする、該ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター等の生体物質の生産方法に係る。
このような本発明方法において、組換えベクターによって形質転換された麹菌を培養する際の培養系・培地の選択、培養温度・時間等の培養諸条件は、例えば、既に引用したWO2010/032492 A1(発明の名称:麹菌アルカリプロテアーゼプロモーター)に記載されているような当業者に公知の任意の条件、及び、以下の実施例等を参考に、当業者が適宜設定することができる。
以下、実施例に則して本発明をさらに説明するが、本発明の技術的範囲は、これらに限定されるものでない。
尚、以下の実施例で使用した培地は以下の通りである。
使用培地
ポリペプトンデキストリン(PD)培地(polypepton 1%, dextrin 2%, KH2PO4 0.5%, NaNO3 0.1%, MgSO4 0.05%, casamino acid 0.1%, pH 6.0)、CzapekDox (CZ) 最小培地、CYA培地(NaNO3 0.3%, K2HPO4 0.1%, KCl 0.05%, yeast extract 0.1%, sucrose 3%, MgSO4 0.025%, FeSO4 0.001%,pH 6.0)、再生培地として1.2M ソルビトール CZを使用した。1.5 mg/ml 5fluoroortic acid(5FOA) (シグマ社) および20mM ウリジンを含むCZ培地プレートをpyrG-(ウリジン要求)株のポジティブセレクション用の培地として使用した。ふすま培地(80%散水した小麦ふすま5gを150ml容三角フラスコに入れ、121℃、50分滅菌)。
ゲノム情報に基づく転写制御因子をコードする遺伝子の推定と抽出
麹菌のゲノム情報およびORF情報はNITEのデータベース(DOGAN: http://www.bio.nite.go.jp/dogan/project/view/AO)およびAspGDのデータベース(http://www.aspergillusgenome.org/)より得た。尚、RIB40株の全ゲノム情報は、独立行政法人製品評価技術基盤機構のゲノム情報データベース(NBRC 100959)において公開されており、この配列情報をもとに、以下の要領で、配列番号:1で表される塩基配列からなるDNA(AO090011000880のコード領域)を、転写制御因子をコードする遺伝子として同定した。
麹菌アスペルギルス・オリゼの全ゲノム情報(特開2005−176602号公報参照)から、次のような方法により、転写制御因子遺伝子をコードすると推定される配列を抽出した。このステップにおいては、詳細な吟味は行わず、転写制御因子遺伝子である可能性のあるものは基本的にリストアップの対象とした。
(1)相同性検索による転写制御因子遺伝子と推定される配列の抽出
麹菌アスペルギルス・オリゼの全ゲノム情報から、遺伝子自動予測ソフトにより遺伝子配列と推定されるDNA配列をすべて抽出し、これらのDNA配列を自動予測遺伝子配列(以下、「自動予測遺伝子配列」という)とした。
各々の自動予測遺伝子配列から予測されるその遺伝子産物配列((以下、「自動予測遺伝子産物配列」という)を基礎配列として、既知タンパク質の公共データベース(NCBIによる非重複タンパク質データベースnr)に対して、相同性検索ソフトBLASTを用いて相同性検索を行った。相同性検索の結果得られた配列の機能に関する情報を整理し、その配列に関わる遺伝子機能情報に対してキーワード検索を行い、転写制御因子に関わるキーワードを含む自動予測遺伝子配列を選択した。
(2)転写制御因子の構造に関わるモチーフと推定されるアミノ酸配列をコードするDNA配列の検索
自動予測遺伝子産物配列について、モチーフ検索ソフト(HMMER)を用いてモチーフ(Pfam)検索を行い、転写制御因子に関わるモチーフを含むと推定されるアミノ酸配列をコードする自動予測遺伝子配列を選択した。
(3)既知転写制御因子配列と相同性を有するDNA配列の検索
麹菌や麹菌以外の糸状菌に関する既知の転写制御因子のアミノ酸配列を問い合わせ配列として、今回得られた自動予測遺伝子産物配列に対して、相同性検索ソフトBLASTを用いて相同性検索を行った。同様な問い合わせ配列を用いて、麹菌のゲノムコンティグ配列に対してBLAST(tblast)を用いて相同性検索を行うことにより、自動予測で予測されていなかった遺伝子や、自動予測でDNA結合領域などの保存性の高い領域を欠損した形で予測されてしまっていた遺伝子についても検索可能とした。
AO090011000880のコード領域の強制発現ベクターの作製
続いて、配列番号:1で表される塩基配列からなるDNA(AO090011000880のコード領域)をアミラーゼプロモーターに結合し、pyrGマーカーを保持したプラスミドに連結することにより、AO090011000880のコード領域の強制発現ベクターを構築した。
具体的には、A.oryzae pyrGマーカーを保持したプラスミドBP-9を鋳型としてprimer BP-U&BP-Lを用いて増幅し、A.oryzaeのゲノムDNAを鋳型としてprimer amyU&amyLを用いて増幅したamylase 全長を含む断片とIn-fusion cloning kitにより、連結した。このようにして得られたamylase全長を含むプラスミドを鋳型として、primer amyStL&amyTeUを用いて増幅し、さらにA.oryzaeのゲノムDNAを鋳型としてprimer S11-880stU&S11-880teLを用いて増幅した上記DNAを含む2.3kbの断片をIn-fision cloning kitにより、連結し、本発明の強制発現ベクターpS11-880IFPを得た。実験に使用したprimerの配列を表1に示す。
Figure 2018130096
AO090011000880のコード領域の強制発現株の作製
150ml容三角フラスコ中の20mM Uridineを含むポリペプトンデキストリン(PD)液体培地50mlにAspergillus oryzae RP-1株(ΔpyrG)の分生子を接種し、30℃で約20時間振とう培養を行い、菌体を回収した。回収した菌体を0.7 M KCl bufferで洗浄し、1% Lysing enzyme(シグマ社)を含む0.7M KCl buffer中で30℃、3時間緩やかに振とうし、プロトプラストを調製した。得られたプロトプラストを1.2 Mソルビトール bufferで洗浄した後、プロトプラストPEG法を用いて形質転換を行った。上記の実施例で作製した強制発現ベクターpS11-880IFPをPEG法により導入した。形質転換体の再生は0.5%agarを含む1.2Mソルビトール-CZ培地上で行った。その後、該再生培地上で再生したコロニーに対し、primer AmyUおよび880teLを用いたPCRを行い、約3kbの断片の増幅が確認された株を選び、本発明の形質転換細胞である、AO090011000880のコード領域の強制発現株(以下、単に「AO090011000880強制発現株」ともいう)を得た。
尚、Aspergillus oryzae RP-1株(ΔpyrG)。Aspergillus oryzae RP-1株はRIB40(=ATCC42149) 由来のpyrG deletion株(非特許文献7)である。
定量PCR(リアルタイムPCR)を用いたAO090011000880強制発現株の発現解析
次に、定量PCR(リアルタイムPCR)を用いて、実施例3で作製した強制発現株の染色体中の遺伝子発現量を比較した。
まず、ふすま麹の作製は以下のように行なった。すなわち、80%散水した小麦ふすま5gを150ml容三角フラスコに入れ、121℃、50分滅菌した後、麹菌を2白金耳程度接種し30℃、65時間培養した。培養後、菌体を液体窒素と乳鉢を用いて破砕し、ISOGEN(ニッポンジーン社)により抽出したRNAをサンプルとし、遺伝子発現の解析を行った。
定量PCRはMx3005P(アジレント・テクノロジー社)を用いて行った。AO090005000807をノーマライザーとして相対定量法により、2番染色体上のAO090001000009、AO090001000010、AO090001000013、AO090001000015、AO090001000018の相対発現量を親株(RIB40)と本発明の転写制御因子AO090011000880の強制発現株との間で比較した。定量PCRにはPrime Scrip RT reagent Kit およびSYBR premix EX taqII(宝バイオ社)を使用し、PCRの条件は95℃で30秒保持した後、95℃5秒−55℃30秒−72℃30秒を50サイクル繰り返した。AO090005000807、AO090001000009、AO090001000010、AO090001000013、AO090001000015、AO090001000018の各遺伝子の増幅には、S5-807U&S5-807L、S1-9U&S1-9L、S1-10U&S1-10L、S1-13U&S1-13L、S1-15U&S1-15L、S1-18U&S1-18Lの各プライマーを使用した(表2)。
Figure 2018130096
その結果、AO090011000880の転写量は強制発現株ではRIB40株(コントロール)における値の約46倍に増えており、この株ではAO090011000880が過剰発現していることが確認された。 又、wyk-1生合成クラスターを構成する各遺伝子である、AO090001000009(wykN)は2.3倍に、AO090001000010(wykA)は29.2倍に、AO090001000013(wykH)は59.2倍に、AO090001000015(wykB)は11.3倍に、AO090001000018(wykR)は33.6倍に発現量が増えていることが確認された(表3)。
Figure 2018130096
遺伝子発現マイクロアレイを用いたAO090011000880強制発現株の発現解析
続いて麹菌カスタムマイクロアレイ(アジレント社製)を用いてAO090011000880強制発現株における発現変化を解析した。
ふすま培地に麹菌の分生子を2白金耳程度接種し、30℃で3日間培養した後、菌体を液体窒素で凍結させ、乳鉢上ですりつぶした後、ISOGEN(ニッポンジーン社製)を用いてRNAを抽出した。得られたRNAをLow Input Quick Amp 2色法ラベリングキット(アジレント社製)を用いてラベル化し、麹菌カスタムマイクロアレイ(アジレント社製)(非特許文献8)を用いて65℃、17時間のハイブリダイゼーションを行い、洗浄後、マイクロアレイスキャナーG2505C(アジレント社製)で画像を取り込んだ後、Feature extractionで数値化し、解析を行った。その結果を表4に示す。
表4から、RIB40(コントロール)に比較してAO090011000880強制発現株ではWyk-1生合成遺伝子クラスターを構成する全ての遺伝子(AO090001000009-AO090001000019)で、発現の上昇が確認された。このことからAO090011000880の発現によってwyk-1クラスター全体の発現が活性化されることが示された。
Figure 2018130096
LC-MSを用いたWYK-1生産の確認
更に、実施例3で作製されたAO090011000880強制発現株で実際にWYK-1が作られているのかどうかを確認するため、上記のふすま培地で固体培養を行い、得られた培養物の抽出液をLC-MSで解析した。
コントロールであるAspergillus oryzae RIB40株およびAO090011000880強制発現株をそれぞれ30℃、4日間培養したふすま麹に滅菌水100mlを入れ、ゴム栓をして十分に振とうし、4時間室温にて静置した後、No.2の濾紙(アドバンテック社製)で濾過して抽出液を得た。得られた抽出液を遠心分離(13500rpm、4℃、10分)した後、上清を0.45μのフィルターで濾過して、サンプルとした。検出は、LC/MS(液体クロマトグラフィー/質量分析装置)(アジレント社製1100シリーズ高速液体クロマトグラフィー、及びアプライドバイオシステム社製QSTAR Elite質量分析装置)を用いて行った。分離カラムはODSカラム(財団法人 化学物質評価研究機構 L-column 粒子径 5μm、内径 2.1 mm、長さ100 mm)を用い、溶離液は、0.1vol% 蟻酸水をA液、0.1vol% 蟻酸−アセトニトリルをB液とし、0分から5分までをA液95%、B液5%で流し、25分までにA液5%、B液95%に達するように濃度勾配をかけ、その後35分から36分でA液95%、B液5%とする方法でサンプル10μlを分離した。流速は毎分0.2 mlで行った。質量分析は、Electrospray ionization(ESI)をイオン化法として用い、イオンスプレー電圧は5500 V、ヒーターガス温度は450℃、ネブライザーガス(GS1)は50psi、ターボガス(GS2)は50psi、カーテンガス(Nitrogen)は30psiとし、正イオン検出モードより検出した。
図1にLC/MSの結果を示す。WYK-1(=TMC-2A)の精密質量は571.24Daであることが判っている(非特許文献4)。図1上がコントロールであるRIB40株のm/z=571-572部分の抽出イオンクロマトグラム、図1中がAO090011000880強制発現株のm/z=571-572部分の抽出イオンクロマトグラムである。AO090011000880強制発現株(図1中)では矢印部分(retention time 15.7付近)に、RIB40(図1上)では見られないピークが出現した。このピークのマススペクトル(図1下)は、m/z=571.24にピークを持つWYK-1に特徴的なパターンを示したことから、AO090011000880強制発現株では、ふすま培養の条件下でWYK-1が実際に生産されていることが確認された。
遺伝子発現マイクロアレイによるアスピロクロリン生合成遺伝子クラスターの発現解析
アスピロクロリンは抗生物質であり、真菌のタンパク質の合成を特異的に阻害することが報告されている。麹菌アスペルギルス・オリゼにおいてもアスピロクロリン生産性があることが報告されており、アスピロクロリンの生合成に関与する遺伝子クラスターについても同定され、報告がある(非特許文献9)。
AO090011000880強制発現株におけるマイクロアレイによるアスピロクロリン関連遺伝子の発現状況を表5に示す。培養条件、RNA抽出方法、DNAマイクロアレイの実験方法などはWYK-1に関する上記の実施例と同様である。表5に示されるように、フスマ培養の条件下においてAO090011000880強制発現株のアスピロクロリン生合成クラスターの遺伝子はRIB40株のものに比較して、大幅に発現が増加していることが判った。
Figure 2018130096
LC-MSを用いたアスピロクロリン生産の確認
続いてAO090011880強制発現株で実際のアスピロクロリンの生産が増えているかどうかを確かめるために、AO090011000880の強制発現用ベクターを導入した株を用いてPD培地で培養した際のアスピロクロリン生産性を調べた。コントロールであるRIB40株とAO090011000880の強制発現株をそれぞれPD培地プレートに接種し、7日間、30℃で培養した後、各プレートよりコルクボーラーで10箇所を打ち抜いてバイアルに移した後、2mlの酢酸エチルを加えて15分間超音波処理を行い、15分間静置した後、酢酸エチルを2ml遠心チューブへ移し、遠心(13000rpm、4℃、10分間)した後、上清を新しいチューブへ移し、遠心濃縮機にて凍結乾燥させた。160μlのアセトニトリルに溶解させた後、LC/MSにアプライして解析した。検出は、LC/MS(液体クロマトグラフィー/質量分析装置)(アジレント社製1100シリーズ高速液体クロマトグラフィー、及びアプライドバイオシステム社製QSTAR Elite質量分析装置)を用いて行った。分離カラムはODSカラム(財団法人 化学物質評価研究機構 L-column 粒子径 5μm、内径 2.1 mm、長さ100 mm)を用い、溶離液は、0.1vol% 蟻酸水をA液、0.1vol% 蟻酸−アセトニトリルをB液とし、0分から5分までをA液95%、B液5%で流し、25分までにA液5%、B液95%に達するように濃度勾配をかけ、その後35分から36分でA液95%、B液5%とする方法でサンプル10μlを分離した。流速は毎分0.2 mlで行った。質量分析は、Electrospray ionization(ESI)をイオン化法として用い、イオンスプレー電圧は5500 V、ヒーターガス温度は450℃、ネブライザーガス(GS1)は50psi、ターボガス(GS2)は50psi、カーテンガス(Nitrogen)は30psiとし、負イオン検出モードより検出した。
結果を図2および図3に示す。アスピロクロリンの質量は359であることが判っている。 図2上および図3上はそれぞれRIB40およびAO090011000880強制発現株におけるM/Z 358.5-359.5のクロマトグラムを示す。ともにretention time 約20.24の部分にアスピロクロリンを含むピークが現れており、RIB40におけるintensityは3759であったが、AO090011000880強制発現株におけるintensityは39000に増加していた。図2下は図2上のretention time20.24のピークのマススペクトルを示し、図3下は図3上のピークのマススペクトルを示す。M/Z 358.96の部分にアスピロクロリンに特徴的なピークが見られ、このピークのintensityはRIB40においては800であったのに対し、AO090011000880の強制発現株においては8000を示した。このことからAO090011000880強制発現株においては、RIB40株に比較してアスピロクロリンの生産量が約10倍に増加していることが確認された。以上のことから、AO090011000880強制発現株においてはアスピロクロリン生合成遺伝子クラスターの発現が上昇し、生産量が増加していることが確認された。
本発明によって初めて同定された、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターの生合成遺伝子クラスターの転写制御因子を利用することによってWYK-1等のジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターの発現を増大、最適化し、該インヒビターの生産を大幅に高めることが期待される。
更に、本発明は、該ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターを有効成分として含む2型糖尿病の治療薬の研究・開発に貢献し得るものとして、産業上極めて重要でかつ有用なである。
又、実施例6に示されたように、本発明の転写制御因子は、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター以外の他の生体物質、例えば、アスピロクロリンの生合成に関与する遺伝子クラスターに対する転写制御活性を有しているので、本発明の転写制御因子を利用することによって、それらの生産を大幅に高めることも可能となる。

Claims (10)

  1. 以下のDNAにコードされるタンパク質から成る、生合成遺伝子クラスターの転写制御因子:
    (1)配列番号:1で表される塩基配列からなるDNA;
    (2)配列番号:1で表される塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、前記転写制御因子の機能を有するタンパク質をコードするDNA;
    (3)配列番号:1で表される塩基配列からなるDNAと80%以上の配列同一性を示す塩基配列からなるDNAであって、前記転写制御因子の機能を有するタンパク質をコードするDNA;又は
    (4)配列番号:2で表されるアミノ酸配列、又は、それと80%以上の配列同一性を示すアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするDNA。
  2. ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターの生合成遺伝子クラスターの転写制御因子である、請求項1記載の転写制御因子。
  3. ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターがイソキノリン誘導体である、請求項2記載の転写制御因子。
  4. ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターの生合成遺伝子クラスターがアスペルギルス・オリゼのゲノムにおけるORF(AO090001000009-AO090001000019)から構成される、請求項2又は3に記載の転写制御因子。
  5. 請求項1〜4のいずれか一項に記載の転写制御因子をコードするDNAを含む、生合成遺伝子クラスターの発現活性化用組換えベクター。
  6. 転写制御因子強制発現ベクターである、請求項5記載の組換えベクター。
  7. 請求項5又は6に記載の組換えベクターによる形質転換細胞であって、ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターの生合成遺伝子クラスターの発現が活性化された状態にあることを特徴とする麹菌。
  8. 請求項5又は6に記載の組換えベクターによって麹菌を形質転換することを含む、該麹菌に於いてジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターの生合成遺伝子クラスターの発現を活性化させる方法。
  9. 請求項5又は6に記載の組換えベクターによって麹菌を形質転換し、該麹菌に於いてジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターを生産させ、該ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビター回収することを特徴とする、該ジペプチジルぺプチダーゼIVインヒビターの生産方法。
  10. 麹菌がアスペルギルス・オリゼである、請求項8又は9に記載の方法。
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