JP2009261251A - 麹菌の分生子形成に関与する遺伝子、及び、麹菌の分生子形成能を増大させる方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】以下の(a)又は(b)の蛋白質をコードするDNA:(a)Aspergillus oryzaeの特定の遺伝子由来のアミノ酸配列からなる蛋白質、(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質またはそれをコードするDNAの発現を阻害又は抑制することから成る、麹菌の分生子形成能を増大させる方法。
【選択図】図7
Description
[態様1]
以下の(a)又は(b)の蛋白質をコードするDNA:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質。
[態様2]
以下の(a)、(b)又は(c)のDNA:
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、
(c)(a)の塩基配列からなるDNAと80%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA。
[態様3]
以下の(a)又は(b)の蛋白質:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質。
[態様4]
態様1若しくは2記載のDNA又は蛋白質の発現を阻害又は抑制することから成る、麹菌の分生子形成能を増大させる方法。
[態様5]
態様1若しくは2記載のDNAの上流に位置する転写調節領域を欠失させ、又はその機能を阻害・抑制することによって、麹菌の分生子形成能を増大させる方法。
[態様6]
転写調節領域がプロモーターである、態様5記載の方法。
[態様7]
転写調節領域が配列番号39及び配列番号36で表される塩基配列を含むプライマーで増幅される断片に含まれる領域である態様5記載の方法。
[態様8]
態様1若しくは2記載のDNAの少なくとも一部を欠失させ、又はその機能を阻害・抑制することによって、麹菌の分生子形成能を増大させる方法。
[態様9]
Ku遺伝子が抑制されていることにより相同組み換え頻度が上昇した形質転換麹菌を、染色体領域欠失用断片で形質転換させ、該染色体領域欠失用断片と該形質転換麹菌のゲノムとの間の相同組換えにより、該染色体領域を欠失させる方法を用いる、態様5〜8のいずれか一項に記載の方法。
[態様10]
態様4〜9のいずれか一項に記載の方法により得られる、麹菌分生子形成能が増大していることを特徴とする麹菌。
[態様11]
更に、プロテアーゼ活性が増加していることを特徴とする、態様9記載の麹菌。
Aspergillus oryzae E-F1 (ΔpyrG、Δku70)株を用いた。この株はA. oryzae RIB40株からpyrGとku70を破壊した株であり、相同組み換え頻度が上昇した形質転麹菌である。この株は、特許文献6(特開2006−158269号公報)に準じて作製した。
(1)マルツプレート(8% Malz Extract, 2 mg/l CuSO4, 0.04 mg/l Na2B4O7, 0.87 mg/l FePO4, 0.95 mg/l MnSO4・5H2O, 0.8 mg/l Na2MoO4・5H2O, 8 mg/l ZnSO4, 2%Agar)
(2)DPY培地(dextrin 2%, polypepton 1%, yeast extract 0.5%, KH2PO4 0.5%, MgSO4 0.05%)
(3) CzapekDox(CD)最小培地(0.2% NaNO3, 0.05% KCl, 0.05% NaCl, 0.1% KH2PO4, 0.05% MgSO4・7H2O, 0.002% FeSO4・7H2O, 2% glucose, pH 5.5)
(4)再生培地(1.2MソルビトールCD)
(5)フスマ培地(フスマ、0.8 ml/g水)
50mlファルコンチューブの中10mlのDPY液体培地に分生子を接種し、30℃で約20時間振とう培養を行い、菌体を回収した。回収した菌体を0.6M KCl bufferで洗浄し、1% Yatalase (Takara社), 0.5% lysing enzyme(シグマ社), 0.5% セルラーゼを含む0.6M KCl buffer中で30℃、3時間緩やかに振とうし、プロトプラストを調整した。得られたプロトプラストを1.2Mソルビトールbufferで洗浄した後、プロトプラストPEG法により形質転換を行った。形質転換体の再生は0.8% agarを含む1.2Mソルビトール-CD培地上で行った。
サザンハイブリダイゼージョンはHybond-N+のメンブレンフィルター(アマシャムファルマシア社)を使用し、一般的な方法によって行った。検出にはDIG Luminescent Detection Kit (ロシュ社)を使用し、メーカーの推奨する方法で行なった。Probeの作製はPCR DIG Probe Synthesis Kit (ロシュ社)によって行った。
マルツ寒天培地で培養して生えてきた分生子を0.01%Tween80溶液中に分離させ、回収された。血球計数板を用いて顕微鏡下で分生子濃度を測定し、その濃度の比較によって分生子形成を確認した。
100mlの三角フラスコにフスマ2gと水1.6mlを混ぜたフスマ培地に、回収された107の分生子を均一に培養し、30℃にて3日間静置培養した。菌の増殖に伴う発熱で、菌が死滅するのを防ぐ目的で、培養21時間目にフラスコを激しく振とうして培養物を攪拌した。培養してから三日後、30mlの水を三角フラスコに入れ、攪拌する。室温で4hrs置いて、ミラクロスでろ過し、ろ液を3000rpm, 10分遠心した。上清を新しいファルコンチューブに移し、ミルクカゼイン法によりプロテアーゼ活性を測定した。上清サンプル200μl、水800μl、1mlのミルクカゼイン(メルク社)を順番に15mlチューブに入れ、30℃ 1hr反応させ、5%トリクロロ酢酸4mlを添加することで反応を停止させた。この混合液をNo.5Cのろ紙によりろ過し、ろ液1mlに対して、0.4M Na2CO3 5mlと5倍希釈されたフェノール試薬1mlを添加、30℃、30min反応させ、660nmで吸光度を測定した。
Fusion PCR法により直接欠失用fragmentを作製した。まず欠失したい領域である7番染色体のAO090011000204からAO090011000232までの両端の配列204と232番目遺伝子をそれぞれ約1kbの配列とpyrGマーカーを末端側相補できるようにprimersを設計した(表1)。KOD Plus DNA polymeraseを用い、A. oryzae RIB40のゲノムをtemplateとして、94℃、1min, 94℃、30sec→60℃、30sec→68℃、2min、30cyclesのPCR条件下でこの三つの断片を増幅した。次は増幅された三つの断片を混合し、両側のprimersを用いてFusion PCRにより一つの断片に繋がるように融合し、増幅した。Fusion PCRはLA-Taq polymeraseを用いて、94℃、1min, 94℃、30sec→60℃、30sec→72℃、4min、30cyclesの条件下で行った。 このように増幅された欠失用断片を電気泳動により確認し、形質転換に用いた。
作製された欠失用断片をA. oryzaeの相同組換え頻度向上株であるA. oryzae E-F1 (ΔpyrG、Δku70)株に導入し、1.2Mソルビトール-CD選択培地に選択させた。このように取得された形質転換体に対してゲノムを抽出し、BamHI制限酵素により消化して0.8% Agaroseゲルで電気泳動した。電気泳動し終わったゲルをHybond-N+のメンブレンフィルターにトランスファーし、サザン解析を行った。プライマーsc011-204F(2260)とsc011-204R(3800)を使用して増幅した204番目のフラグメントをプローブとしてサザンハイブリダイゼーションに用いた。実際に取得された6株の形質転換体を確認したところ、その中の5株が親株の5.4 kbのバンドに対し予想通りの3.9 kbのバンドが検出され、AO090011000204−AO090011000232の間の遺伝子が順調に欠失されたことが確認された(図1)。
確認された欠失株と親株をマルツ寒天培地に培養して、表現型を観察した。それぞれ点培養、画線培養と一面培養して観察したところ、親株(図2、(a)及び(b)における左側の写真)と比較して、欠失株(図2、(a)及び(b)における右側の写真)の方はもっと密度が高い分生子形成が観察された。また、菌糸も親株と比べて多分岐が多く、しかも点培養の場合はコロニーの直径を測定した結果、欠失株は親株よりやや長かった。更に、実際に一面培養の場合の分生子形成を数えたところ、親株と比較して、約1.6倍以上増加していることが分かった(図2、C)。
7番染色体のAO090011000204-AO090011000232の間で先ほど述べた欠失株の表現型を引き起こす原因遺伝子の同定実験を行った。トータルで28個の遺伝子の中で原因遺伝子を二段階で見つけるためにプライマーを表2のように設計した。
215遺伝子が原因遺伝子であることが確認され、次はこの破壊株を用いて親株と同様にフスマ培地で三日間培養して、プロテアーゼ活性を測定してみた。基質はミルクカゼインを用いた。測定した結果、親株と比較して、プロテアーゼ活性が20%ぐらい増加したことが分かった(図7)。以上のことから、この215遺伝子欠失株は分生子形成も増加し、プロテアーゼ活性も有意に向上したことから、工業生産に相応しい宿主として利用されると考えられる。
本当に215番目の遺伝子が原因遺伝子であるかどうかを確認するため、今回は215番目遺伝子のORF部分だけを破壊して、同じ表現型出るかどうかの実験を行った。表4は設計した215番目遺伝子ORFを欠失するためのプライマーである。まずはプライマーsc011-215F(1970)とsc011-215R(5010)により215遺伝子のORFを含む役3kbのバンドをEx Taq polymeraseによりPCRで増幅し、TA クローニングによりクローニングした。更に、上記のようにIn-Fusion PCR cloning kitを用いて、In-Fusionすることにより215遺伝子のORFを除いたベクターにpyrG遺伝子を挿入した。このように作製されたベクターを用いて、プライマーsc011-215F(1970)とsc011-215R(5010)により破壊用断片を増幅し、ku70破壊株に導入した。取得された形質転換体表現型を観察したところ、215ORF欠失株は204-232欠失株と似たような表現型が観察された(図8)。これらの形質転換体に対してPCRとサザン解析を行った。その結果、PCRにおいては、親株の3kbのバンドに対して、欠失株のほうは約4.3kbのバンドが検出され、サザン解析の場合は、215のプロモーター部分をプローブとして、BamHI制限酵素で処理した結果、親株の4.8kbのバンドに対し、欠失株のほうは予想通りの1.2kbのバンドが検出された(図9)。以上の結果から、215ORF部分は予想通りに欠失させたことが証明され、この215遺伝子が麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードする遺伝子であり、その発現を阻害又は抑制することにより麹菌の分生子形成能が増大する原因遺伝子であることが証明された。
この遺伝子に対して、相同性検索ソフトBLASTを用いて相同性検索を行った。また、「自動予測遺伝子産物配列」について、モチーフ検索ソフト(HMMER)を用いてモチーフ(Pfam)検索を行い、転写調節因子に関わるモチーフを含むと推定されるアミノ酸配列をコードする「自動予測遺伝子配列」を選択した。その結果、この遺伝子がHLH(helix-loop-helix) motifが存在し、 HLH DNA binding domain proteinであるタンパク質をコードしている可能性を示した。HLH DNA binding domain proteinは様々なdevelopmental pathwayに影響を及ぼす一群の真核生物転写制御因子として機能を働いている。A. oryzaeにおいてはゲノム情報から10個のHLH DNA binding domain proteinを有することが推測されたが、これらの遺伝子の機能に関する知見は麹菌においてはこれまで報告されてなかった。
Claims (11)
- 以下の(a)又は(b)の蛋白質をコードするDNA:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質。 - 以下の(a)、(b)又は(c)のDNA:
(a)配列番号1で表される塩基配列からなるDNA、
(b)(a)の塩基配列からなるDNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであって、麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA、
(c)(a)の塩基配列からなるDNAと80%以上の配列相同性を示す塩基配列からなるDNAであって、麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質をコードするDNA。 - 以下の(a)又は(b)の蛋白質:
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、
(b)(a)のアミノ酸配列において、1個若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換、若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、麹菌分生子形成を阻害又は抑制する機能を有する蛋白質。 - 請求項1若しくは2記載のDNA又は蛋白質の発現を阻害又は抑制することから成る、麹菌の分生子形成能を増大させる方法。
- 請求項1若しくは2記載のDNAの上流に位置する転写調節領域を欠失させ、又はその機能を阻害・抑制することによって、麹菌の分生子形成能を増大させる方法。
- 転写調節領域がプロモーターである、請求項5記載の方法。
- 転写調節領域が配列番号39及び配列番号36で表される塩基配列を含むプライマーで増幅される断片に含まれる領域である請求項5記載の方法。
- 請求項1若しくは2記載のDNAの少なくとも一部を欠失させ、又はその機能を阻害・抑制することによって、麹菌の分生子形成能を増大させる方法。
- Ku遺伝子が抑制されていることにより相同組み換え頻度が上昇した形質転換麹菌を、染色体領域欠失用断片で形質転換させ、該染色体領域欠失用断片と該形質転換麹菌のゲノムとの間の相同組換えにより、該染色体領域を欠失させる方法を用いる、請求項5〜8のいずれか一項に記載の方法。
- 請求項4〜9のいずれか一項に記載の方法により得られる、麹菌分生子形成能が増大していることを特徴とする麹菌。
- 更に、プロテアーゼ活性が増加していることを特徴とする、請求項9記載の麹菌。
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JP2008161064A (ja) * | 2006-12-27 | 2008-07-17 | Noda Inst For Scient Res | 麹菌分生子形成を増大させる遺伝子、タンパク質、組換えベクター |
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