配列識別子の簡単な説明
配列番号1は、ヒトアルファグロビンcDNAのポリヌクレオチド配列を示す。
配列番号2は、ヒトアルファグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号3は、マウスアルファグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号4は、ラットアルファグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号5は、ヒトベータグロビンcDNAのポリヌクレオチド配列を示す。
配列番号6は、ヒトベータグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号7は、変異ヒトベータグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号8は、マウスベータグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号9は、ラットベータグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号10は、ヒトガンマグロビンcDNAのポリヌクレオチド配列を示す。
配列番号11は、ヒトガンマグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号12は、マウスガンマグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号13は、ラットガンマグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号14は、ヒトデルタグロビンcDNAのポリヌクレオチド配列を示す。
配列番号15は、ヒトデルタグロビンポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
配列番号16は、ACBD1ポリヌクレオチドをコードするcDNA配列を示す。
配列番号17は、ACBD1ポリヌクレオチドをコードするcDNA配列を示す。
配列番号18は、ACBD1ポリペプチドのアミノ酸配列を示す。
詳細な説明
A.概要
本発明は、一般には、改善された遺伝子治療組成物、およびそれを使用して、遺伝的障害を処置する、予防する、または軽減する方法に関する。遺伝子治療に関する1つの著しい難題は、被験体に送達される治療用遺伝子を含む細胞の形質導入効率を上昇させることであり、ここで、調整された細胞は非形質導入細胞に対する内因性の選択的利点を有さない。
本発明は、一部において、本発明の新規な細胞への形質導入方法を用いて、治療用細胞、すなわち、調整された細胞の数を、in vitro、ex vivo、またはin vivoで増大させるかまたは増加させて、遺伝子治療の有効性をさらに増加させることができるという予想外の発見に基づく。いかなる特定の理論にも縛られることを望むことなく、本発明は、一部において、細胞への形質導入効率を上昇させることにより、形質導入当たりより多くの調整された細胞が生成され、したがって、本発明の遺伝子治療の方法において遺伝子治療を受けている被験体に治療的、予防的、または軽減的なエンドポイントをもたらすために必要な投与細胞の数が少なくなることを意図している。さらに、より多数の形質導入された細胞が患者に送達されるので、治療的、予防的、または軽減的なエンドポイントを実現するために骨髄抑制性療法または骨髄破壊的療法が必ずしも必要にならない。
したがって、本発明は、遺伝病の処置における遺伝子治療の効率を改善する、まだ満たされていない臨床的必要性に取り組み、それにより、形質導入された細胞集団内のより多数の治療用細胞を被験体に投与して、治療的、予防的、または軽減的な効果をもたらすことができる。本発明は、詳細には、遺伝子治療の所望の臨床転帰を容易にするための、驚くほど効率的な細胞への形質導入の方法、ベクター、および遺伝子操作された細胞に関する。
本発明の実施では、特に反対のことが示されなければ、分子生物学の従来の方法および当技術分野の技術の範囲内の組換えDNA技法が用いられ、その多くが例示のために下に記載されている。そのような技法は、文献において十分に説明されている。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(第2版、1989年);Maniatisら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1982年);DNA Cloning:A Practical Approach、I巻およびII巻(D. Glover編);Oligonucleotide Synthesis(N. Gait編、1984年);Nucleic Acid Hybridization(B. Hames & S. Higgins編、1985年);Transcription and Translation(B. Hames & S. Higgins編、1984年);Animal Cell Culture(R. Freshney編、1986年);A Practical Guide to Molecular Cloning(B. Perbal編、1984年)を参照されたい。
本明細書において引用されている全ての刊行物、特許および特許出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
B.定義
別段の定義のない限り、本明細書において使用される全ての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味を有する。本発明の目的に関して、以下の用語が下で定義されている。
本明細書で使用される場合、「レトロウイルス」という用語は、そのゲノムRNAを直鎖状の二本鎖DNAコピーに逆転写し、その後、そのゲノムDNAを宿主ゲノムに共有結合により組み込むRNAウイルスを指す。レトロウイルスは遺伝子を送達するための一般的なツールである(Miller、2000年、Nature. 357巻:455〜460頁)。ウイルスが宿主ゲノムに組み込まれたら、そのウイルスは「プロウイルス」と称される。プロウイルスは、RNAポリメラーゼIIの鋳型としての機能を果たし、新しいウイルス粒子を産生するために必要な構造タンパク質および酵素をコードするRNA分子の発現を導く。
例示的なレトロウイルスとしては、これだけに限定されないが、モロニーマウス白血病ウイルス(M−MuLV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(MoMSV)、ハーベイマウス肉腫ウイルス(HaMuSV)、マウス乳腺癌ウイルス(MuMTV)、テナガザル白血病ウイルス(GaLV)、ネコ白血病ウイルス(FLV)、スプーマウイルス、フレンドマウス白血病ウイルス、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)およびラウス肉腫ウイルス(RSV))およびレンチウイルスが挙げられる。
本明細書で使用される場合、「レンチウイルス」という用語は、複合レトロウイルスの群(または属)を指す。例示的なレンチウイルスとしては、これだけに限定されないが、HIV(HIV1型、およびHIV2型を含めたヒト免疫不全ウイルス);ビスナ・マエディウイルス(VMV)ウイルス;ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV);ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV);ネコ免疫不全ウイルス(FIV);ウシ免疫不全ウイルス(BIV);サル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。一実施形態では、HIVに基づくベクターの骨格(すなわち、HIVシス作用性配列エレメント)が好ましい。
レトロウイルスベクター、より詳細にはレンチウイルスベクターを本発明の実施において使用することができる。したがって、「レトロウイルス」または「レトロウイルスベクター」という用語は、本明細書で使用される場合、それぞれ「レンチウイルス」および「レンチウイルスベクター」を包含するものとする。
「ベクター」という用語は、本明細書では、別の核酸分子を移行または運搬することができる核酸分子を指すために使用される。移行される核酸は、一般に、ベクター核酸分子と連結している、例えば、それに挿入されている。ベクターは、細胞における自律複製を導く配列を含んでもよく、宿主細胞のDNAへの組み込みを可能にするために十分な配列を含んでもよい。有用なベクターとしては、例えば、プラスミド(例えば、DNAプラスミドまたはRNAプラスミド)、トランスポゾン、コスミド、細菌性人工染色体、およびウイルスベクターが挙げられる。有用なウイルスベクターとしては、例えば、複製欠損性のレトロウイルスおよびレンチウイルスが挙げられる。
当業者には明らかになる通り、「ウイルスベクター」という用語は、広く使用されており、一般には核酸分子の移行または細胞のゲノムへの組み込みを容易にするウイルス由来の核酸エレメントを含む核酸分子(例えば、移行プラスミド)、または核酸の移行を媒介するウイルス粒子のいずれかを指す。ウイルス粒子は、一般には、種々のウイルスの構成成分を含み、時には核酸(複数可)に加えて宿主細胞の構成成分も含む。
ウイルスベクターという用語は、核酸を細胞内に移行することができるウイルスもしくはウイルス粒子、または移行された核酸自体のいずれかを指す場合がある。ウイルスベクターおよび移行プラスミドは、主にウイルスに由来する構造的遺伝エレメントおよび/または機能的遺伝エレメントを含有する。「レトロウイルスベクター」という用語は、主にレトロウイルスに由来する構造的遺伝エレメントおよび機能的遺伝エレメントまたはそれらの部分を含有するウイルスベクターまたはプラスミドを指す。「レンチウイルスベクター」という用語は、主にレンチウイルスに由来するLTRを含めた構造的遺伝エレメントおよび機能的遺伝エレメントまたはそれらの部分を含有するウイルスベクターまたはプラスミドを指す。「ハイブリッド」という用語は、レトロウイルス、例えば、レンチウイルスの配列と非レンチウイルスのウイルス配列の両方を含有するベクター、LTRまたは他の核酸を指す。一実施形態では、ハイブリッドベクターとは、逆転写、複製、組み込みおよび/またはパッケージングのためのレトロウイルス、例えば、レンチウイルスの配列を含むベクターまたは移行プラスミドを指す。
特定の実施形態では、「レンチウイルスベクター」、「レンチウイルス発現ベクター」という用語は、レンチウイルス移行プラスミドおよび/または感染性レンチウイルス粒子を指すために使用することができる。本明細書において、クローニング部位、プロモーター、調節エレメント、異種核酸などのエレメントに言及している場合、これらのエレメントの配列は、本発明のレンチウイルス粒子ではRNA形態で存在し、本発明のDNAプラスミドではDNA形態で存在することが理解されるべきである。
プロウイルスの各末端は「長い末端反復」または「LTR」と称される構造である。「長い末端反復(LTR)」という用語は、それらの天然の配列の状況では、直接反復であり、U3領域、R領域およびU5領域を含有する、レトロウイルスのDNAの末端に位置する塩基対のドメインを指す。LTRにより、一般に、レトロウイルスの遺伝子の発現(例えば、促進、開始および遺伝子転写物のポリアデニル化)およびウイルス複製の基礎をなす機能がもたらされる。LTRは、転写制御エレメント、ポリアデニル化シグナルおよびウイルスのゲノムの複製および組み込みのために必要な配列を含めた多数の調節シグナルを含有する。ウイルスLTRは、U3、RおよびU5と称される3つの領域に分けられる。U3領域はエンハンサーエレメントおよびプロモーターエレメントを含有する。U5領域はプライマー結合部位とR領域の間の配列であり、ポリアデニル化配列を含有する。R(反復)領域にはU3領域およびU5領域が隣接する。LTRは、U3領域、R領域およびU5領域で構成され、ウイルスのゲノムの5’末端および3’末端の両方に出現する。5’LTRにはゲノムの逆転写のために必要な配列(tRNAプライマー結合部位)および粒子へのウイルスRNAの効率的なパッケージングのために必要な配列(プサイ部位)が近接している。
本明細書で使用される場合、「パッケージングシグナル」または「パッケージング配列」という用語は、ウイルスカプシドまたは粒子内へのウイルスRNAの挿入のために必要な、レトロウイルスのゲノム内に位置する配列を指す。例えば、Cleverら、1995年 J. of Virology、69巻、4号;2101〜2109頁を参照されたい。いくつかのレトロウイルスベクターは、ウイルスのゲノムのキャプシド形成のために必要な最小のパッケージングシグナル(プサイ[Ψ]または[Ψ+]配列とも称される)を使用する。したがって、本明細書で使用される場合、「パッケージング配列」、「パッケージングシグナル」、「プサイ」という用語および「Ψ」という符号は、ウイルス粒子形成の間のレトロウイルスのRNA鎖のキャプシド形成のために必要な非コード配列への言及に使用される。
種々の実施形態では、ベクターは、改変された5’LTRおよび/または3’LTRを含む。3’LTRの改変は、多くの場合、ウイルスを複製欠損性にすることによってレンチウイルス系またはレトロウイルス系の安全性を改善するために行われる。本明細書で使用される場合、「複製欠損性」という用語は、完全な、有効な複製ができず、したがって、感染性ビリオンが産生されない(例えば、複製欠損性レンチウイルス後代)ウイルスを指す。「複製コンピテント」という用語は、複製することができ、したがって、ウイルスのウイルス複製により感染性ビリオン(例えば、複製コンピテントレンチウイルス後代)を産生することができる野生型ウイルスまたはバリアントウイルスを指す。
「自己不活性化」(SIN)ベクターとは、1回目のウイルス複製を越えてウイルスが転写されることを防ぐために、U3領域として公知の右側の(3’)LTRのエンハンサー−プロモーター領域が改変された(例えば、欠失および/または置換によって)複製欠損性ベクター、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターを指す。これは、ウイルス複製の間に右側の(3’)LTRのU3領域が左側の(5’)LTRのU3領域の鋳型として使用され、したがって、ウイルスの転写物はU3エンハンサー−プロモーターなしでは生じ得ないことに起因する。本発明の別の実施形態では、3’LTRは、U5領域が、例えば、異種もしくは合成ポリ(A)配列、1つまたは複数のインスレーターエレメント、および/または誘導性プロモーターに置き換わるように改変されている。LTRに対する改変、例えば、3’LTR、5’LTR、または3’LTRと5’LTRの両方に対する改変なども、本発明に包含されることに留意するべきである。
5’LTRのU3領域を、ウイルス粒子の産生の間にウイルスのゲノムの転写を駆動するための異種プロモーターで置き換えることによって、さらなる安全性の増強がもたらされる。使用することができる異種プロモーターの例としては、例えば、ウイルス性のシミアンウイルス40(SV40)プロモーター(例えば、初期または後期)、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(例えば、最初期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、および単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーターが挙げられる。典型的なプロモーターは、Tatに依存しない様式で高レベルの転写を駆動することができる。この置き換えにより、ウイルス産生系に完全なU3配列が存在しないので、複製コンピテントウイルスが生成される組換えの可能性が低下する。ある実施形態では、異種プロモーターは、誘導性であり得、したがって、1つまたは複数の誘導因子が存在する場合にのみウイルスのゲノムの全部または一部の転写が起こる。誘導因子としては、これだけに限定されないが、1つまたは複数の化合物または宿主細胞が培養される温度もしくはpHなどの生理的条件が挙げられる。
いくつかの実施形態では、ウイルスベクターは、TARエレメントを含む。「TAR」という用語は、レンチウイルス(例えば、HIV)のLTRのR領域に位置する「トランス活性化反応」遺伝エレメントを指す。このエレメントは、レンチウイルスのトランス活性化因子(tat)遺伝エレメントと相互作用して、ウイルス複製を増強する。しかし、このエレメントは、5’LTRのU3領域が異種プロモーターで置き換えられている実施形態では必要ない。
「R領域」とは、レトロウイルスLTR内の、キャップ形成基の開始点(すなわち、転写の開始点)で始まり、ポリAトラクトの開始点の直前で終わる領域を指す。R領域は、U3領域およびU5領域と隣接しているとも定義される。R領域は、逆転写の間に新生DNAをゲノムの一方の末端から他方の末端まで移行させることにおいて役割を果たす。
本明細書で使用される場合、「FLAPエレメント」という用語は、その配列がレトロウイルス、例えば、HIV−1またはHIV−2のセントラルポリプリントラクトおよび中心終結配列(cPPTおよびCTS)を含む核酸を指す。適切なFLAPエレメントは米国特許第6,682,907号およびZennouら、2000年、Cell、101巻:173頁に記載されている。HIV−1の逆転写の間、セントラルポリプリントラクト(cPPT)にあるプラス鎖DNAの中心開始点および中心終結配列(CTS)にある中心終結点により、3本鎖DNA構造:HIV−1中心DNAフラップの形成が導かれる。いかなる理論に縛られることも望むものではないが、DNAフラップは、レンチウイルスのゲノム核内移行のシス活性決定因子として働く可能性があり、かつ/またはウイルスの力価を増大させる可能性がある。特定の実施形態では、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターの骨格は、ベクター内の、目的の異種遺伝子の上流または下流の1つまたは複数のFLAPエレメントを含む。例えば、特定の実施形態では、移行プラスミドはFLAPエレメントを含む。一実施形態では、本発明のベクターは、HIV−1から単離されたFLAPエレメントを含む。
一実施形態では、レトロウイルス移行ベクターまたはレンチウイルス移行ベクターは、1つまたは複数の輸送エレメントを含む。「輸送エレメント」という用語は、核から細胞の細胞質へのRNA転写物の輸送を調節するシス作用性転写後調節エレメントを指す。RNA輸送エレメントの例としては、これだけに限定されないが、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)rev応答エレメント(RRE)(例えばCullenら、1991年 J. Virol. 65巻:1053頁;Cullenら、1991年 Cell 58巻:423頁を参照されたい)、およびB型肝炎ウイルス転写後調節エレメント(HPRE)が挙げられる。一般に、RNA輸送エレメントは遺伝子の3’UTR内に配置され、1つまたは多数のコピーとして挿入することができる。
特定の実施形態では、ウイルスベクターにおける異種配列の発現は、転写後調節エレメント、効率的なポリアデニル化部位、および必要に応じて、転写終結シグナルをベクターに組み入れることによって増大する。種々の転写後調節エレメント、例えば、ウッドチャック肝炎ウイルス転写後調節エレメント(WPRE;Zuffereyら、1999年、J. Virol.、73巻:2886頁);B型肝炎ウイルスに存在する転写後調節エレメント(HPRE)(HuangおよびYen、1995、Mol. Cell. Biol.、5巻:3864頁);および同様のもの(Liuら、1995年、Genes Dev.、9巻:1766頁)により、タンパク質における異種核酸の発現が増大し得る。いくつかの場合には、WPREまたはHPREなどの転写後調節エレメントにより、細胞の形質転換のリスクが増大し、かつ/またはmRNA転写物の量が実質的にもしくは有意に増大しない、またはmRNAの安定性が増大しないので、特定の実施形態では、本発明のベクターはこれらのエレメントを欠くまたはそれを含まない。したがって、いくつかの実施形態では、本発明のベクターは、追加的な安全対策としてWPREまたはHPREを欠くまたはそれを含まない。
異種核酸転写物の効率的な終結およびポリアデニル化を導くエレメントにより、異種性の遺伝子発現が増加する。転写終結シグナルは、一般に、ポリアデニル化シグナルの下流に見いだされる。「ポリA部位」または「ポリA配列」という用語は、本明細書で使用される場合、RNAポリメラーゼIIによる新生RNA転写物の終結およびポリアデニル化の両方を導くDNA配列を指す。ポリA尾部を欠く転写物は不安定であり、急速に分解されるので、組換え転写物の効率的なポリアデニル化が望ましい。本発明のベクターにおいて使用することができるポリAシグナルの実例としては、理想的なポリA配列(例えば、AATAAA、ATTAAA AGTAAA)、ウシ成長ホルモンポリA配列(BGHpA)、ウサギβ−グロビンポリA配列(rβgpA)、または当技術分野で公知の別の適切な異種性または内在性のポリA配列が挙げられる。
ある実施形態では、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターは、1つまたは複数のインスレーターエレメントをさらに含む。インスレーターエレメントは、レンチウイルスにより発現された配列、例えば、治療用ポリペプチドを、ゲノムDNA内に存在するシス作用性エレメントによって媒介され、移行した配列(transferred
sequence)の調節解除された発現をもたらす可能性がある組み込み部位の影響(すなわち、位置の影響;例えば、Burgess−Beusseら、2002年、Proc. Natl. Acad. Sci.、USA、99巻:16433頁;Zhanら、2001年、Hum. Genet.、109巻:471頁を参照されたい)から保護することに寄与し得る。いくつかの実施形態では、移行ベクターは、3’LTRに1つまたは複数のインスレーターエレメントを含み、プロウイルスを宿主ゲノムに組み込む際に、プロウイルスは、3’LTRの重複によって5’LTRまたは3’LTRの両方に1つまたは複数のインスレーターを含む。本発明において使用するための適切なインスレーターとしては、これだけに限定されないが、ニワトリβ−グロビンインスレーター(参照により本明細書に組み込まれるChungら、1993年、Cell 74巻:505頁;Chungら、1997年、PNAS 94巻:575頁;およびBellら、1999年、Cell 98巻:387頁を参照されたい)が挙げられる。インスレーターエレメントの例としては、これだけに限定されないが、ニワトリHS4などのβ−グロビン遺伝子座由来のインスレーターが挙げられる。
本発明の特定の実施形態によると、ウイルスベクターの骨格配列の大部分または全ては、レンチウイルス、例えば、HIV−1に由来する。しかし、レンチウイルスの配列の多くの異なる供給源を用いることができ、特定のレンチウイルスの配列における多数の置換および変更を、移行ベクターの本明細書に記載の機能を行う能力を損なうことなく適応させることができることが理解されるべきである。さらに、種々のレンチウイルスベクターが当技術分野で公知であり、その多くが本発明のウイルスベクターまたは移行プラスミドを作製するために適合させることができる。Naldiniら、(1996年a、1996年b、および1998年);Zuffereyら、(1997年);Dullら、1998年、米国特許第6,013,516号;および同第5,994,136号を参照されたい。
本明細書で使用される場合、「化合物」という用語は、小有機分子、プロスタグランジン、cAMPエンハンサー、Wnt経路アゴニスト、cAMP/PI3K/AKT経路アゴニスト、Ca2+二次メッセンジャー経路アゴニスト、一酸化窒素(NO)/アンジオテンシンシグナル伝達アゴニストおよび無機化学物質を、これだけに限定することなく、それらの類似体および誘導体の全てを含め包含する。
「小分子」、「小有機分子」または「小分子化合物」とは、約5kD未満、約4kD未満、約3kD未満、約2kD未満、約1kD未満、または約0.5kD未満の分子量を有する低分子量の化合物を指す。特定の実施形態では、小分子として、核酸、ペプチド、ペプチド模倣物、ペプトイド、および他の小さな有機化合物または薬物などを挙げることができる。真菌抽出物、細菌抽出物、または藻類抽出物などの化学的混合物および/または生物学的混合物のライブラリーは当技術分野で公知であり、本発明のアッセイのいずれかを用いてスクリーニングすることができる。分子ライブラリーを合成するための方法の例は、(Carellら、1994年a;Carellら、1994年b;Choら、1993年;DeWittら、1993年;Gallopら、1994年;Zuckermannら、1994年)に見いだすことができる。
化合物のライブラリーは、溶液中(Houghtenら、1992年)またはビーズ上(Lamら、1991年)、チップ上(Fodorら、1993年)、細菌、胞子(Ladnerら、米国特許第5,223,409号、1993年)、プラスミド(Cullら、1992年)またはファージ上(Cwirlaら、1990年;Devlinら、1990年;Feliciら、1991年;Ladnerら、米国特許第5,223,409号、1993年;ScottおよびSmith、1990年)に提供され得る。本明細書に開示されている発明は、細胞シグナル伝達経路の任意の点でプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる小分子を同定するために種々のライブラリーを使用することを包含する。本発明の目的に関して有用なライブラリーとしては、これだけに限定されないが、(1)化学物質ライブラリー、(2)天然物ライブラリー、および(3)ランダムペプチド、オリゴヌクレオチドおよび/または有機分子で構成されるコンビナトリアルライブラリーが挙げられる。
化学物質ライブラリーは、公知の化合物または天然物スクリーニングによって「ヒット(hit)」または「リード(lead)」と同定される化合物の構造類似体および誘導体からなる。天然物ライブラリーは、スクリーニング用の混合物を創製するために使用される微生物、動物、植物、または海洋生物体の収集物から(1)土壌、植物または海洋微生物由来のブロスの発酵および抽出または(2)植物または海洋生物体の抽出によって得られる。天然物ライブラリーは、ポリケチド、非リボソーム性ペプチド、およびそのバリアント(天然に存在しない)を含む。概説について、Cane, D. E.ら、(1998年)Science 282巻:63〜68頁を参照されたい。コンビナトリアルライブラリーは、混合物としての、多数のペプチド、オリゴヌクレオチドまたは有機化合物で構成される。これらは従来の自動合成方法、PCR、クローニングまたは独自の合成方法によって調製することが比較的容易である。ペプチドとオリゴヌクレオチドのコンビナトリアルライブラリーが特に重要である。
より詳細には、コンビナトリアル化学物質ライブラリーは、化学合成または生物学的合成のいずれかによって、試薬などのいくつもの化学的「基本要素」を組み合わせることによって生成した多様な化合物の収集物である。例えば、ポリペプチドライブラリーなどの線状コンビナトリアル化学ライブラリーは、化学的基本要素(アミノ酸)のセットを、所与の化合物の長さ(すなわち、ポリペプチド化合物におけるアミノ酸の数)についてあらゆる可能なやり方で組み合わせることによって形成される。化学物質の基本要素のそのようなコンビナトリアル混合によって数百万の化合物を合成することができる。
コンビナトリアルケミストリーおよびそれから創製されるライブラリーの概説については、Huc, I.およびNguyen, R.(2001年)Comb. Chem. High Throughput Screen 4巻:53〜74頁;Lepre, C A.(2001年)Drug Discov. Today 6巻:133〜140頁;Peng, S. X.(2000年)Biomed. Chromatogr. 14巻:430〜441頁;Bohm, H. J.およびStahl, M.(2000年)Curr. Opin. Chem. Biol. 4巻:283〜286頁;Barnes, CおよびBalasubramanian, S.(2000年)Curr. Opin. Chem. Biol. 4巻:346〜350頁;Lepre, Enjalbal, Cら、(2000年)Mass Septrom Rev. 19巻:139〜161頁;Hall, D. G.、(2000年)Nat. Biotechnol. 18巻:262〜262頁;Lazo, J. S.、およびWipf, P.(2000年)J. Pharmacol. Exp. Ther. 293巻:705〜709頁;Houghten, R. A.、(2000年)Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol. 40巻:273〜282頁;Kobayashi, S.(2000年)Curr. Opin. Chem. Biol.(2000年)4巻:338〜345頁;Kopylov, A. M.およびSpiridonova, V. A.(2000年)Mol. Biol.(Mosk)34巻:1097〜1113頁;Weber, L.(2000年)Curr. Opin. Chem. Biol. 4巻:295〜302頁;Dolle, R. E.(2000年)J. Comb. Chem. 2巻:383〜433頁;Floyd, C D.ら、(1999年)Prog. Med. Chem. 36巻:91〜168頁;Kundu, B.ら、(1999年)Prog. Drug Res. 53巻:89〜156頁;Cabilly, S.(1999年)Mol. Biotechnol. 12巻:143〜148頁;Lowe, G.(1999年)Nat. Prod. Rep. 16巻:641〜651頁;Dolle, R. E.およびNelson, K. H.(1999年)J. Comb. Chem. 1巻:235〜282頁;Czarnick, A. W.およびKeene, J. D.(1998年)Curr. Biol. 8巻:R705〜R707頁;Dolle, R. E.(1998年)Mol. Divers. 4巻:233〜256頁;Myers, P. L.、(1997年)Curr. Opin. Biotechnol. 8巻:701〜707頁;およびPluckthun, A.およびCortese, R.(1997年)Biol. Chem. 378巻:443頁を参照されたい。
コンビナトリアルライブラリーを調製するためのデバイスが市販されている(例えば、357MPS、390MPS、Advanced Chem Tech、Louisville Ky.、Symphony、Rainin、Woburn、Mass.、433A Applied Biosystems、Foster City、Calif.、9050Plus、Millipore、Bedford、Mass.を参照されたい)。さらに、多数のコンビナトリアルライブラリー自体が市販されている(例えば、ComGenex、Princeton、N.J.、Asinex、Moscow、Ru、Tripos, Inc.、St.Louis、Mo.、ChemStar、Ltd.、Moscow、RU、3D Pharmaceuticals、Exton、Pa.、Martek Biosciences、Columbia、Md.などを参照されたい)。
本明細書で使用される場合、「代謝前駆体」という用語は、所望の化合物に代謝される化合物の形態を指す。
本明細書で使用される場合、「代謝産物」という用語は、化合物が代謝された結果として生じた形態を指す。
有機化学物質などの化学物質に関して、「類似体」または「誘導体」とは、別の化学的物質と構造および機能が類似しており、多くの場合は単一のエレメントまたは基によって構造的に異なるが、親化学物質と同じ機能を保持する場合には2つ以上の基(例えば、2つ、3つ、または4つの基)の改変によって異なってよい化学分子に関する。そのような改変は当業者には常套的なものであり、それらとして、例えば、酸のエステルまたはアミドなどの付加した化学的部分または置換された化学的部分、保護基、例えば、アルコールまたはチオールに対するベンジル基およびアミンに対するtert−ブトキシカルボニル(butoxylcarbonyl)基が挙げられる。アルキル側鎖に対する改変、例えば、アルキル置換(例えば、メチル、ジメチル、エチルなど)、側鎖の飽和または不飽和のレベルに対する改変、および置換されたフェニルおよびフェノキシなどの改変された基の付加も包含される。誘導体は、ビオチン部分またはアビジン部分などのコンジュゲート、および、西洋ワサビペルオキシダーゼなどの酵素なども含んでよく、放射性標識部分、生物発光部分、化学発光部分、または蛍光部分を含んでよい。また、本明細書に記載の作用剤(agent)に部分を付加して、それらの薬物動態的特性を変更すること、例えば、他の望ましい特性の中でも、in vivoまたはex vivoにおける半減期を増加させること、またはそれらの細胞への浸透性を増加させることができる。医薬品の多数の望ましい品質(例えば、溶解性、生物学的利用能、製造など)を増強することが公知であるプロドラッグも包含される(例えば、例示的なEPアゴニストプロドラッグについては、そのようなアゴニストに関するその開示に関して参照により組み込まれるWO/2006/047476を参照されたい)。
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、メッセンジャーRNA(mRNA)、RNA、ゲノムRNA(gRNA)、プラス鎖RNA(RNA(+))、マイナス鎖RNA(RNA(−))、ゲノムDNA(gDNA)、相補DNA(cDNA)またはDNAを指す。ポリヌクレオチドは一本鎖ポリヌクレオチドおよび二本鎖ポリヌクレオチドを包含する。本発明のポリヌクレオチドは、本明細書に記載の参照配列(例えば、配列表を参照されたい)のいずれかに対して少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%の配列同一性を有するポリヌクレオチドまたはバリアントを包含し、一般にはバリアントが参照配列の少なくとも1つの生物活性を維持することが好ましい。種々の例示的な実施形態では、本発明は、一部において、ウイルスベクターおよび移行プラスミドのポリヌクレオチド配列、ならびにそれを含む組成物を意図している。特定の実施形態では、本発明は、1つまたは複数の治療用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドおよび/または他の目的の遺伝子を提供する。特定の実施形態では、本発明は、本明細書の他の箇所で考察されているグロビンポリペプチドまたはATP結合カセット、サブファミリーD(ALD)、メンバー1(ABCD1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。
本明細書で使用される場合、「ポリヌクレオチドバリアント」および「バリアント」などの用語は、参照ポリヌクレオチド配列、または参照配列と下で定義されているストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドと実質的な配列同一性を示すポリヌクレオチドを指す。これらの用語は、参照ポリヌクレオチドと比較して1つまたは複数のヌクレオチドが付加もしくは欠失している、または異なるヌクレオチドに置き換えられているポリヌクレオチドを包含する。この点について、参照ポリヌクレオチドに、変更されたポリヌクレオチドに参照ポリヌクレオチドの生物学的機能または活性が保持される変異、付加、欠失および置換を含めた特定の変更を行うことができることが当技術分野ではよく理解されている。
本明細書で使用される場合、「単離された」という用語は、そのネイティブな状態では通常それに付随する構成成分を実質的にまたは基本的に含まない材料、例えば、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、細胞を意味する。特定の実施形態では、「得られた」または「由来する」という用語は、単離されたと同義に使用される。例えば、「単離されたポリヌクレオチド」とは、本明細書で使用される場合、天然に存在する状態でそれに隣接する配列から精製されたポリヌクレオチド、例えば、通常はその断片に近接する配列から取り出されたDNA断片を指す。
ポリヌクレオチドの方向を説明する用語としては、5’(通常、ポリヌクレオチドの遊離ホスフェート基を有する末端)および3’(通常、ポリヌクレオチドの遊離ヒドロキシル(OH)基を有する末端)が挙げられる。ポリヌクレオチド配列は、5’から3’の方向または3’から5’の方向にアノテートされ得る。
「相補的な」および「相補性」という用語は、塩基対合規則によって関連するポリヌクレオチド(すなわち、ヌクレオチドの配列)を指す。例えば、DNA配列5’AGTCATG3’の相補鎖は3’TCAGTAC5’である。後者の配列は多くの場合、逆相補体として左側に5’末端、右側に3’末端の5’CATGACT3’と書かれる。その逆相補体と等しい配列は、パリンドローム配列であると言える。相補性は、塩基対合規則に従って核酸の塩基の一部のみがマッチする場合、「部分的」であり得る。または、核酸間には「完全な」または「全体的な」相補性があり得る。
「核酸カセット」という用語は、本明細書で使用される場合、RNA、その後、ポリペプチドを発現することができるベクター内の遺伝子配列を指す。一実施形態では、核酸カセットは、目的の遺伝子(複数可)、例えば、目的のポリヌクレオチド(複数可)を含有する。別の実施形態では、核酸カセットは、1つまたは複数の発現制御配列および目的の遺伝子(複数可)、例えば、目的のポリヌクレオチド(複数可)を含有する。ベクターは、1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、またはそれより多くの核酸カセットを含んでよい。核酸カセットは、ベクター内で位置的におよび逐次的に特定の方向に向けられ、したがって、カセット内の核酸がRNAに転写され、必要な場合にはタンパク質またはポリペプチドに翻訳され、形質転換された細胞における活性のために必要な適切な翻訳後改変を受け、適切な細胞内区画にターゲティングされるまたは細胞外区画に分泌されることによって生物活性について適した区画に転置され得る。カセットは、ベクターへの迅速な挿入に適した3’末端および5’末端を有することが好ましく、例えば、カセットは、各末端に制限エンドヌクレアーゼ部位を有する。本発明の好ましい実施形態では、核酸カセットは、造血障害などの遺伝的障害を処置する、予防する、または軽減するために使用する治療用遺伝子の配列を含有する。カセットは、単一の単位としてプラスミドまたはウイルスベクターから除去することおよびそれに挿入することができる。
ポリヌクレオチドとは目的のポリヌクレオチド(複数可)を包含する。本明細書で使用される場合、「目的のポリヌクレオチド(複数可)」という用語は、1つまたは複数のポリヌクレオチド、例えば、発現することが望まれる発現ベクターに挿入された、ポリペプチド(すなわち、目的のポリペプチド)をコードするポリヌクレオチドを指す。
好ましい実施形態では、本発明のベクターおよび/またはプラスミドは、1つまたは複数の目的のポリヌクレオチド、例えば、グロビン遺伝子またはABCD1遺伝子を含む。ある実施形態では、目的のポリヌクレオチド、例えばグロビン遺伝子は、造血性の疾患または障害の処置、予防、または軽減において治療効果をもたらすポリペプチドをコードし、該ポリペプチドは、「治療用ポリペプチド」と称することができる。例えば、その完全な開示および特許請求の範囲が参照により本明細書に詳細に組み込まれる米国特許第6,051,402号および同第7,901,671号を参照されたい。例えば、配列番号1、配列番号5、配列番号10、および配列番号14を参照されたい。
ある他の実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、「治療用ポリペプチド」と称することができる、副腎白質ジストロフィーまたは副腎脊髄神経障害の処置、予防、または軽減における治療効果をもたらすポリペプチド、例えば、ABCD1遺伝子をコードする。例えば、配列番号16〜17を参照されたい。例えば、その完全な開示および特許請求の範囲が参照により本明細書に詳細に組み込まれる米国特許第5,869,039号および同第6,013,769号を参照されたい。
本明細書で使用される「グロビン」という用語は、ヘム部分と共有結合または非共有結合することができ、したがって、酸素を輸送または貯蔵することができる全てのタンパク質またはタンパク質サブユニットを意味する。脊椎動物および無脊椎動物のヘモグロビンのサブユニット、脊椎動物および無脊椎動物のミオグロビンまたはその変異体はグロビンという用語に含まれる。グロビンの例としては、α−グロビンまたはそのバリアント、β−グロビンまたはそのバリアント、γ−グロビンまたはそのバリアント、およびδ−グロビンまたはそのバリアントが挙げられる。
一実施形態では、目的のポリヌクレオチドは、異常ヘモグロビン症を処置するための治療的機能をもたらすポリペプチド、例えば、α−グロビン、β−グロビンまたはβ−グロビンA−T87Qをコードする遺伝子である。目的のポリヌクレオチド、およびそれにコードされるポリペプチドとは、野生型ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびにその機能的なバリアントおよび断片をどちらも包含する。特定の実施形態では、機能的なバリアントは、対応する野生型参照ポリヌクレオチドまたはポリペプチド配列に対して少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも99%の同一性を有する。ある実施形態では、機能的なバリアントまたは断片は、対応する野生型ポリペプチドの生物活性の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも100%、または少なくとも110%またはそれより多くを有する。本発明において使用するために適した代表的なポリヌクレオチド配列としては、これだけに限定されないが、α−グロビン、β−グロビン、およびβ−グロビンA−T87Qが挙げられる。
本発明のポリヌクレオチドは、コード配列自体の長さにかかわらず、他のDNA配列、例えば、本明細書の他の箇所で開示されているまたは当技術分野で公知のプロモーターおよび/またはエンハンサー、非翻訳領域(UTR)、コザック配列、ポリアデニル化シグナル、追加的な制限酵素部位、多重クローニング部位、内部リボソーム侵入部位(IRES)、リコンビナーゼ認識部位(例えば、LoxP部位、FRT部位、およびAtt部位)、終結コドン、転写終結シグナル、および自己切断性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、エピトープタグなどと組み合わせることができ、したがって、それらの全体の長さは相当に変動してよい。したがって、ほぼどんな長さのポリヌクレオチド断片も用いることができ、全長は調製の容易さおよび意図された組換えDNAプロトコールにおける使用によって限定されることが好ましいことが意図されている。
「発現制御配列」という用語は、作用的に連結したポリヌクレオチドの転写または発現を導くこと、増大させること、調節すること、または制御することができる1つまたは複数のプロモーター、エンハンサー、または他の転写制御エレメントまたはそれらの組み合わせを含むポリヌクレオチド配列を指す。特定の実施形態では、本発明のベクターは、特定の細胞、細胞型、または細胞系列、例えば、標的細胞に特異的な1つまたは複数の発現制御配列を含む、すなわち、特定の細胞、細胞型、または細胞系列に特異的な発現制御配列に作用的に連結したポリヌクレオチドの発現は、標的細胞では発現され、他の非標的細胞では発現されない。細胞特異的である、ベクターにおける1つまたは複数の発現制御配列のひとつひとつは、所望の療法に応じて、同じ細胞型または異なる細胞型において発現し得る。好ましい実施形態では、ベクターは、造血幹細胞または造血前駆細胞などの造血細胞に特異的な1つまたは複数の発現制御配列を含む。他の好ましい実施形態では、ベクターは、赤血球系細胞に特異的な1つまたは複数の発現制御配列を含む。
「プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、RNAポリメラーゼが結合するポリヌクレオチド(DNAまたはRNA)の認識部位を指す。「エンハンサー」という用語は、転写の増強をもたらすことができる配列を含有し、いくつかの場合には別の制御配列に対するその方向とは独立して機能することができるDNAのセグメントを指す。エンハンサーは、プロモーターおよび/または他のエンハンサーエレメントと協同的または相加的に機能することができる。「プロモーター/エンハンサー」という用語は、プロモーター機能とエンハンサー機能の両方をもたらすことができる配列を含有するDNAのセグメントを指す。
特定の実施形態では、本発明のベクターは、外因性、内在性、または異種性の制御配列、例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサーを含む。「内在性の」制御配列とは、ゲノムにおける所与の遺伝子と天然に連結している制御配列である。「外因性の」制御配列とは、遺伝子操作(すなわち、分子生物学的技法)によって遺伝子の近位に配置され、したがってその遺伝子の転写が、連結したエンハンサー/プロモーターによって導かれるような制御配列である。「異種性の」制御配列は、遺伝的に操作される細胞とは異なる種由来の外因性の配列である。「合成」制御配列は、もう1つの内在性配列および/または外因性配列、ならびに/またはin vitroまたはin silicoにおいて特定の遺伝子治療のための最適なプロモーター活性および/またはエンハンサー活性をもたらすことが決定された配列のエレメントを含んでよい。
「作動可能に連結した」という用語は、記載されている構成成分が、それらの意図された様式で機能することを可能にする関係にある近位を指す。一実施形態では、この用語は、核酸発現制御配列(例えば、プロモーター、および/またはエンハンサー、または他の発現制御配列)と第2のポリヌクレオチド配列、例えば、目的のポリヌクレオチドとの間の機能的な連結であって、ここで、該発現制御配列により、第2の配列に対応する核酸の転写が導かれる連結を指す。
本明細書で使用される場合、「構成的発現制御配列」という用語は、作動可能に連結した配列の転写を継続的または連続的に可能にするプロモーター、エンハンサー、またはプロモーター/エンハンサーを指す。構成的発現制御配列は、多種多様な細胞および組織型における発現を可能にする「遍在」プロモーター、エンハンサー、またはプロモーター/エンハンサーであってもよく、制限されたいろいろの種類の細胞および組織型の発現をそれぞれ可能にする「細胞特異的」、「細胞型特異的」「細胞系列特異的」または「組織特異的」プロモーター、エンハンサー、またはプロモーター/エンハンサーであってもよい。例示的な遍在する発現制御配列としては、これだけに限定されないが、サイトメガロウイルス(CMV)最初期プロモーター、ウイルス性のシミアンウイルス40(SV40)(例えば、初期または後期)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)LTRプロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)LTR、単純ヘルペスウイルス(HSV)(チミジンキナーゼ)プロモーター、ワクシニアウイルス由来のH5プロモーター、P7.5プロモーター、およびP11プロモーター、伸長因子1−アルファ(EF1a)プロモーター、初期増殖応答1(EGR1)、フェリチンH(FerH)、フェリチンL(FerL)、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)、真核生物翻訳開始因子4A1(EIF4A1)、熱ショック70kDaタンパク質5(HSPA5)、熱ショックタンパク質90kDaベータ、メンバー1(HSP90B1)、熱ショックタンパク質70kDa(HSP70)、β−キネシン(β−KIN)、ヒトROSA26遺伝子座(Irionsら、(2007年)Nature Biotechnology 25巻、1477〜1482頁)、ユビキチンCプロモーター(UBC)、ホスホグリセリン酸キナーゼ−1(PGK)プロモーター、サイトメガロウイルスエンハンサー/ニワトリβ−アクチン(CAG)プロモーター、およびβ−アクチンプロモーターが挙げられる。
特定の実施形態では、所望のポリヌクレオチド配列の細胞型特異的、系列特異的、または組織特異的な発現を実現する(例えば、ポリペプチドをコードする特定の核酸を細胞型、細胞系列、もしくは組織のあるサブセットにおいてのみ、または特定の発生段階に発現させる)ために、細胞、細胞型、細胞系列または組織特異的な発現制御配列を使用することが望ましい場合がある。
組織特異的プロモーターの実例としては、これだけに限定されないが、B29プロモーター(B細胞での発現)、runt転写因子(CBFa2)プロモーター(幹細胞特異的発現)、CD14プロモーター(単核球細胞での発現)、CD43プロモーター(白血球および血小板での発現)、CD45プロモーター(造血細胞での発現)、CD68プロモーター(マクロファージでの発現)、CYP450 3A4プロモーター(肝細胞での発現)、デスミンプロモーター(筋肉での発現)、エラスターゼ1プロモーター(膵腺房細胞での発現、エンドグリンプロモーター(内皮細胞での発現)、線維芽細胞特異的タンパク質1プロモーター(FSP1)プロモーター(線維芽細胞での発現)、フィブロネクチンプロモーター(線維芽細胞での発現)、fms関連チロシンキナーゼ1(FLT1)プロモーター(内皮細胞での発現)、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)プロモーター(星状膠細胞での発現)、インスリンプロモーター(膵ベータ細胞での発現)、インテグリン、アルファ2b(ITGA2B)プロモーター(巨核球)、細胞内接着分子2(ICAM−2)プロモーター(内皮細胞)、インターフェロンベータ(IFN−β)プロモーター(造血細胞)、ケラチン5プロモーター(ケラチノサイトでの発現)、ミオグロビン(MB)プロモーター(筋肉での発現)、筋性分化1(MYOD1)プロモーター(筋肉での発現)、ネフリンプロモーター(有足突起での発現)、骨ガンマ−カルボキシグルタミン酸タンパク質2(OG−2)プロモーター(骨芽細胞での発現)、3−オキソ酸CoAトランスフェラーゼ2B(Oxct2B)プロモーター、(一倍体−精子細胞での発現)、サーファクタントタンパク質B(SP−B)プロモーター(肺での発現)、シナプシンプロモーター(ニューロンでの発現)、ウィスコット−アルドリッチ症候群タンパク質(WASP)プロモーター(造血細胞での発現)が挙げられる。
一実施形態では、本発明のベクターは、ヒトβ−グロビンプロモーター;ヒトβ−グロビンLCR;ならびにヒトα−グロビンHS40エンハンサーおよびアンキリン−1プロモーターからなる群から選択される1つまたは複数の造血細胞または組織特異的なプロモーターおよび/またはエンハンサーを含み、これらは、グロビンポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結している。
別の実施形態では、本発明のベクターは、ATP結合カセット、サブファミリーD、メンバー1(ABCD1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結した、小膠細胞において活性なプロモーターを含む。ある実施形態では、プロモーターは、骨髄増殖性肉腫ウイルスエンハンサー、負の制御領域の欠失した、dl587revプライマー結合部位が置換された(MND)プロモーターまたは転写的に活性なその断片を含む。
本明細書で使用される場合、「条件発現」とは、これだけに限定されないが、誘導性発現;抑圧可能な発現;特定の生理的、生物学的、または疾患の状態を有する細胞または組織における発現などを含めた任意の種類の条件発現を指し得る。この定義は、細胞型または組織特異的な発現を排除するものではない。本発明のある特定の実施形態は、例えば、細胞、組織、生物体などを、ポリヌクレオチドの発現を引き起こす処理もしくは条件、または目的のポリヌクレオチドによりコードされるポリヌクレオチドの発現の増大または減少を引き起こす処理または条件に供することによって発現が制御される、目的のポリヌクレオチドの条件発現を提供する。
誘導性プロモーター/系の実例としては、これだけに限定されないが、ステロイド誘導性プロモーター、例えば、グルココルチコイドまたはエストロゲン受容体をコードする遺伝子のプロモーターなど(対応するホルモンで処理することによって誘導される)、メタロチオネイン(metallothionine)プロモーター(種々の重金属で処理することによって誘導される)、MX−1プロモーター(インターフェロンによって誘導される)、「GeneSwitch」ミフェプリストン調節可能系(Sirinら、(2003年)、Gene、323巻:67頁)、クメート(cumate)誘導性遺伝子スイッチ(WO2002/088346)、テトラサイクリン依存性調節系などが挙げられる。
条件発現は、部位特異的DNAリコンビナーゼを使用することによって実現することもできる。本発明のある特定の実施形態によると、ベクターは、部位特異的リコンビナーゼによって媒介される組換えのための部位を少なくとも1つ(一般には2つ)含む。本明細書で使用される場合、「リコンビナーゼ」または「部位特異的リコンビナーゼ」という用語は、野生型タンパク質であってよい、1箇所または複数箇所の組換え部位(例えば、2箇所、3箇所、4箇所、5箇所、7箇所、10箇所、12箇所、15箇所、20箇所、30箇所、50箇所など)が関与する組換え反応に関与する切除的または統合的なタンパク質、酵素、補因子または関連するタンパク質(Landy(1993年)、Current Opinion in Biotechnology 3巻:699〜707頁を参照されたい)、またはその変異体、誘導体(例えば、組換えタンパク質配列またはその断片を含有する融合タンパク質)、断片、およびバリアントを包含する。本発明の特定の実施形態において使用するために適したリコンビナーゼの実例としては、これだけに限定されないが、Cre、Int、IHF、Xis、Flp、Fis、Hin、Gin、ΦC31、Cin、Tn3リゾルバーゼ、TndX、XerC、XerD、TnpX、Hjc、Gin、SpCCE1、およびParAが挙げられる。
ベクターは、多種多様な部位特異的リコンビナーゼのいずれかのための1箇所または複数箇所の組換え部位を含んでよい。部位特異的リコンビナーゼの標的部位は、ベクター、例えば、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターの組み込みのために必要な任意の部位(複数可)に加えたものであることが理解されるべきである。本明細書で使用される場合、「組換え配列」、「組換え部位」または「部位特異的な組換え部位」という用語は、リコンビナーゼが認識し、結合する特定の核酸配列を指す。
例えば、Creリコンビナーゼのための1つの組換え部位は、8塩基対のコア配列と隣接した13塩基対の逆方向反復(リコンビナーゼ結合部位としての機能を果たす)を2つ含む34塩基対の配列であるloxPである(Sauer, B.、(1994年)Current Opinion in Biotechnology 5巻:521〜527頁の図1を参照されたい)。他の例示的なloxP部位としては、これだけに限定されないが、lox511(Hoessら、1996年;BethkeおよびSauer、1997年)、lox5171(LeeおよびSaito、1998年)、lox2272(LeeおよびSaito、1998年)、m2(Langerら、2002年)、lox71(Albertら、1995年)、およびlox66(Albertら、1995年)が挙げられる。
FLPリコンビナーゼのために適切な認識部位としては、これだけに限定されないが、FRT(McLeodら、1996年)、F1、F2、F3(SchlakeおよびBode、1994年)、F4、F5(SchlakeおよびBode、1994年)、FRT(LE)(Senecoffら、1988年)、FRT(RE)(Senecoffら、1988年)が挙げられる。
認識配列の他の例は、attB配列、attP配列、attL配列、およびattR配列であり、これらはリコンビナーゼ酵素λインテグラーゼ、例えばフィーc31によって認識される。φC31SSRは、ヘテロタイプの部位attB(長さ34bp)とattP(長さ39bp)の間の組換えのみを媒介する(Grothら、2000年)。attBおよびattPは、それぞれ、細菌ゲノムおよびファージゲノムに対するファージインテグラーゼの付着部位に対して名づけられ、どちらも、φC31ホモ二量体が結合する可能性がある不完全な逆方向反復を含有する(Grothら、2000年)。産物の部位であるattLおよびattRは、さらなるφC31媒介性組換えに対して有効に不活性であり(Beltekiら、2003年)、それにより反応が不可逆的になる。挿入を触媒するために、ゲノムのattP部位へのattBを有するDNAの挿入が、ゲノムのattB部位へのattP部位の挿入よりも容易であることが見いだされている(Thyagarajanら、2001年;Beltekiら、2003年)。したがって、典型的な戦略では、相同組換えによってattPを有する「ドッキング部位」を定義済みの遺伝子座に位置づけ、次いでそれを挿入のために、attBを有する入ってくる配列とパートナーにする。
本明細書で使用される場合、「内部リボソーム侵入部位」または「IRES」とは、ATGなどの開始コドンへのシストロン(タンパク質をコードする領域)の直接内部リボソーム侵入を促進し、それにより、キャップに依存しない遺伝子の翻訳を導くエレメントを指す。例えば、Jacksonら、(1990年)Trends Biochem Sci 15巻(12号):477〜83頁)およびJacksonおよびKaminski. (1995年) RNA 1巻(10号):985〜1000頁を参照されたい。特定の実施形態では、本発明によって意図されているベクターは、1つまたは複数のポリペプチドをコードする1つまたは複数の目的のポリヌクレオチドを含む。特定の実施形態では、複数のポリペプチドのそれぞれの効率的な翻訳を実現するために、ポリヌクレオチド配列を1つまたは複数のIRES配列または自己切断性ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列によって分離することができる。
本明細書で使用される場合、「コザック配列」という用語は、mRNAのリボソームの小サブユニットへの最初の結合を著しく容易にし、翻訳を増大させる短いヌクレオチド配列を指す。コンセンサスコザック配列は(GCC)RCCATGGであり、Rはプリン(AまたはG)である(Kozak、(1986年) Cell. 44巻(2号):283〜92頁、およびKozak、(1987年) Nucleic Acids Res. 15巻(20号):8125〜48頁)。特定の実施形態では、本発明によって意図されているベクターは、コンセンサスコザック配列を有するポリヌクレオチドおよび所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
ある特定の実施形態では、ベクターは、選択マーカーとも称される選択遺伝子を含む。典型的な選択遺伝子は、(a)抗生物質または他の毒素、例えば、アンピシリン、ネオマイシン、ハイグロマイシン、メトトレキセート、ゼオシン、ブラストサイジン、またはテトラサイクリンに対する耐性を付与する、(b)栄養要求性欠損を補完する、または(c)複合培地からは入手不可能な重大な栄養分を供給するタンパク質をコードする(例えば、バチルス属のD−アラニンラセマーゼをコードする遺伝子)。任意の数の選択系を用いて、形質転換された細胞系を回収することができる。それらとしては、これだけに限定されないが、それぞれtk細胞またはaprt細胞において使用することができる単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(Wiglerら、(1977年) Cell 11巻:223〜232頁)およびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子(Lowyら、(1990年) Cell 22巻:817〜823頁)が挙げられる。
種々の実施形態では、本発明のベクターを使用して、1つまたは複数のポリペプチド、例えば、グロビンの発現を増大させる、確立するおよび/または維持する。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、本明細書では互換的に使用され、アミノ酸残基のポリマーならびにそのバリアントおよび合成類似体を指す。したがって、これらの用語は、1つまたは複数のアミノ酸残基が合成の天然に存在しないアミノ酸、例えば、対応する天然に存在するアミノ酸の化学的類似体であるアミノ酸のポリマー、ならびに天然に存在するアミノ酸のポリマーに当てはまる。本発明の特定の実施形態の組成物および方法において使用するために適したグロビンポリペプチドの実例は、例えば、配列番号2〜4、配列番号6〜9、配列番号11〜13、および配列番号15である。また、例えば、その完全な開示および特許請求の範囲が参照により本明細書に詳細に組み込まれる米国特許第6,051,402号および同第7,901,671号も参照されたい。
本発明の特定の実施形態の組成物および方法において使用するために適したABCD1ポリペプチドの実例は、例えば、配列番号18である。また、例えば、その完全な開示および特許請求の範囲が参照により本明細書に詳細に組み込まれる米国特許第5,869,039号および同第6,013,769号も参照されたい。
本発明の特定の実施形態は、ポリペプチド「バリアント」も包含する。ポリペプチド「バリアント」という記述は、参照ポリペプチドと少なくとも1つのアミノ酸残基の付加、欠失、切断、および/または置換によって区別され、生物活性を保持するポリペプチドを指す。ある実施形態では、当技術分野で公知の通り、ポリペプチドバリアントは、参照ポリペプチドと、保存されていても保存されていなくてもよい1つまたは複数の置換によって区別される。
ある実施形態では、バリアントポリペプチドは、参照ポリペプチドの対応する配列に対して少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%またはそれを超える配列同一性または類似性を有するアミノ酸配列を含む。ある実施形態では、アミノ酸の付加または欠失は参照ポリペプチドのC末端および/またはN末端において起こる。
上記の通り、本発明のポリペプチドは、アミノ酸置換、欠失、切断、および挿入を含めた種々のやり方で変更することができる。そのような操作のための方法は当技術分野で一般に、公知である。例えば、参照ポリペプチドのアミノ酸配列バリアントは、DNAの変異によって調製することができる。変異誘発およびヌクレオチド配列の変更のための方法は当技術分野で周知である。例えば、Kunkel(1985年)Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 82巻:488〜492頁)、Kunkelら、(1987年)Methods in Enzymol、154巻:367〜382頁)、U.S. Pat. No. 4,873,192、Watson、J. D.ら、(1987年)Molecular Biology of the Gene、第4版、Benjamin/Cummings、Menlo Park、Calif.)およびそこに引用されている参考文献を参照されたい。目的のタンパク質の生物活性に影響を及ぼさない適切なアミノ酸置換に関する手引きは、Dayhoffら、(1978年)Atlas of Protein Sequence and Structure(Natl. Biomed. Res. Found.、Washington、D.C.)のモデルにおいて見いだすことができる。
「宿主細胞」とは、in vivo、ex vivo、またはin vitroにおいて、本発明の組換えベクターまたはポリヌクレオチドを用いてトランスフェクトする、感染させる、または形質導入する細胞を包含する。宿主細胞は、パッケージング細胞、産生細胞、およびウイルスベクターを感染させた細胞を含んでよい。特定の実施形態では、本発明のウイルスベクターを感染させた宿主細胞を、治療を必要とする被験体に投与する。ある実施形態では、「標的細胞」という用語は、宿主細胞と互換的に使用され、トランスフェクトする、感染させる、または形質導入する、所望の細胞型の細胞を指す。好ましい実施形態では、標的細胞は、幹細胞または前駆細胞である。ある好ましい実施形態では、標的細胞は、体細胞、例えば、成体幹細胞、前駆細胞、または分化細胞である。特定の好ましい実施形態では、標的細胞は、造血細胞、例えば、造血幹細胞または造血前駆細胞である。さらなる治療標的細胞は以下で考察されている。
「幹細胞」という用語は、(1)長期にわたって自己再生できる、または元の細胞と同一のコピーを少なくとも1つ生成することができる、(2)単一細胞レベルで、多数の、およびいくつかの例ではただ1つの特殊化した細胞型に分化することができる、および(3)in vivoで組織の機能的再生をすることができる、未分化細胞である細胞を指す。幹細胞は、それらの発生の潜在性に従って、全能性、多能性、多分化能および少能性(oligopotent)/単能性に細分類される。「自己再生」とは、変更されていない娘細胞を産生する独特の能力および特殊化した細胞型を生成する独特の能力(分化能(potency))を有する細胞を指す。自己再生は、2つのやり方で実現することができる。非対称細胞分裂により、親の細胞と同一である娘細胞が1つと、親の細胞とは異なり、前駆細胞または分化細胞である娘細胞が1つ産生される。非対称細胞分裂では細胞の数は増加しない。対称細胞分裂により、同一の娘細胞が2つ産生される。細胞の「増殖」または「増大」とは、細胞が対称的に分割されることを指す。
本明細書で使用される場合、「全能性」という用語は、細胞の、生物体の全ての細胞系列を形成する能力を意味する。例えば、哺乳動物では、接合体および最初の卵割期割球のみが全能性である。本明細書で使用される場合、「多能性」という用語は、細胞の、体(body)または体質(soma)(すなわち、胚本体(embryo proper))の全ての系列を形成する能力を意味する。例えば、胚性幹細胞は、3つの胚葉である、外胚葉、中胚葉、および内胚葉のそれぞれから細胞を形成することができる多能性幹細胞の一種である。本明細書で使用される場合、「多分化能」という用語は、成体幹細胞の、1つの系列の多数の細胞型を形成する能力を指す。例えば、造血幹細胞は、血液細胞系列の全ての細胞、例えば、リンパ系細胞および骨髄系細胞を形成することができる。本明細書で使用される場合、「少能性」という用語は、成体幹細胞の、少数の異なる細胞型にのみ分化する能力を指す。例えば、リンパ系幹細胞および骨髄系幹細胞は、それぞれリンパ系列または骨髄系列のいずれかの細胞を形成することができる。本明細書で使用される場合、「単能性」という用語は、細胞の、単一の細胞型を形成する能力を意味する。例えば、精原幹細胞は精子細胞のみを形成することができる。
本明細書で使用される場合、「前駆体」または「前駆細胞」という用語は、自己再生する能力、およびより成熟した細胞に分化する能力を有する細胞を指す。多くの前駆細胞は単一の系列に沿って分化するが、かなり大規模な増殖能力を有する可能性がある。
造血幹細胞(HSC)は、生物体の生存期間にわたって成熟血液細胞のレパートリー全体を生成することができる拘束された造血前駆細胞(HPC)を生じさせる。「造血幹細胞」または「HSC」という用語は、骨髄系列(例えば、単球およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞)、およびリンパ系列(例えば、T細胞、B細胞、NK細胞)、および当技術分野で公知のその他の系列を含めた、生物体の血液細胞の種類の全てを生じさせる多分化能幹細胞を指す(Fei, R.ら、米国特許第5,635,387号;McGlaveら、米国特許第5,460,964号;Simmons P.ら、米国特許第5,677,136号;Tsukamotoら、米国特許第5,750,397号;Schwartzら、米国特許第5,759,793号;DiGuistoら、米国特許第5,681,599号;Tsukamotoら、米国特許第5,716,827号を参照されたい)。致死的に放射線照射した動物またはヒトに移植すると、造血幹細胞および造血前駆細胞は赤血球、好中球−マクロファージ、巨核球およびリンパ系の造血細胞プールを再配置させる(repopulate)ことができる。
妥当なウイルス力価を実現するためには、多くの場合、大規模なウイルス粒子産生が必要である。ウイルス粒子は、移行ベクターをウイルスの構造遺伝子および/またはアクセサリー遺伝子、例えば、gag遺伝子、pol遺伝子、env遺伝子、tat遺伝子、rev遺伝子、vif遺伝子、vpr遺伝子、vpu遺伝子、vpx遺伝子、またはnef遺伝子または他のレトロウイルスの遺伝子を含むパッケージング細胞系にトランスフェクトすることによって産生される。
本明細書で使用される場合、「パッケージングベクター」という用語は、パッケージングシグナルを欠き、1つ、2つ、3つ、4つまたはそれより多くのウイルスの構造遺伝子および/またはアクセサリー遺伝子をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターまたはウイルスベクターを指す。一般には、パッケージングベクターはパッケージング細胞に含まれ、トランスフェクション、形質導入または感染によって細胞に導入される。トランスフェクション、形質導入または感染のための方法は当業者に周知である。本発明のレトロウイルス/レンチウイルス移行ベクターを、トランスフェクション、形質導入または感染によってパッケージング細胞系に導入して、産生細胞または産生細胞系を生成することができる。本発明のパッケージングベクターは、例えば、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポフェクションまたは電気穿孔を含めた標準の方法によってヒト細胞または細胞系に導入することができる。いくつかの実施形態では、パッケージングベクターを、優性選択マーカー、例えば、ネオマイシン、ハイグロマイシン、ピューロマイシン、ブラストサイジン、ゼオシン、チミジンキナーゼ、DHFR、Gln合成酵素またはADAなどと一緒に細胞に導入し、その後、適切な薬物の存在下でクローンを選択し、単離することができる。選択マーカー遺伝子は、コード遺伝子に、パッケージングベクターによって、例えば、IRESまたは自己切断性ウイルスペプチドによって物理的に連結させることができる。
ウイルスエンベロープタンパク質(env)により、細胞系から生成される組換えレトロウイルスによって最終的に感染させ、形質転換することができる宿主細胞の範囲が決定される。レンチウイルス、例えば、HIV−1、HIV−2、SIV、FIVおよびEIVなどの場合では、envタンパク質としてはgp41およびgp120が挙げられる。以前に記載されている通り、本発明のパッケージング細胞によって発現されるウイルスenvタンパク質は、ウイルスのgag遺伝子およびpol遺伝子とは別のベクター上にコードされることが好ましい。
本発明において使用することができるレトロウイルス由来のenv遺伝子の実例としては、これだけに限定されないが、MLVエンベロープ、10A1エンベロープ、BAEV、FeLV−B、RD114、SSAV、Ebola、Sendai、FPV(家禽ペストウイルス)、およびインフルエンザウイルスエンベロープが挙げられる。同様に、RNAウイルス(例えば、Picornaviridae科、Calciviridae科、Astroviridae科、Togaviridae科、Flaviviridae科、Coronaviridae科、Paramyxoviridae科、Rhabdoviridae科、Filoviridae科、Orthomyxoviridae科、Bunyaviridae科、Arenaviridae科、Reoviridae科、Birnaviridae科、Retroviridae科のRNAウイルス)由来のエンベロープならびにDNAウイルス(Hepadnaviridae科、Circoviridae科、Parvoviridae科、Papovaviridae科、Adenoviridae科、Herpesviridae科、Poxyiridae科、およびIridoviridae科)由来のエンベロープをコードする遺伝子を利用することができる。代表例としては、FeLV、VEE、HFVW、WDSV、SFV、狂犬病、ALV、BIV、BLV、EBV、CAEV、SNV、ChTLV、STLV、MPMV、SMRV、RAV、FuSV、MH2、AEV、AMV、CT10、およびEIAVが挙げられる。
他の実施形態では、本発明のウイルスをシュードタイピングするためのエンベロープタンパク質としては、これだけに限定されないが、以下のウイルスのいずれかが挙げられる:A型インフルエンザ、例えば、H1N1、H1N2、H3N2およびH5N1(トリインフルエンザ)など、B型インフルエンザ、C型インフルエンザウイルス、A型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、D型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、ロタウイルス、ノーウォークウイルス群の任意のウイルス、腸内アデノウイルス、パルボウイルス、デング熱ウイルス、サル痘、モノネガウイルス目、リッサウイルス、例えば、狂犬病ウイルス、ラゴスコウモリウイルス、モコラウイルス、ドゥベンヘイジウイルス、ヨーロッパコウモリウイルス(European bat virus)1&2およびオーストラリアコウモリウイルス(Australian bat virus)など、エフェメロウイルス、ベシクロウイルス、水疱性口内炎ウイルス(VSV)、ヘルペスウイルス、例えば、単純ヘルペスウイルス1型および2型、水痘帯状疱疹、サイトメガロウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス(EBV)、ヒトヘルペスウイルス(HHV)、ヒトヘルペスウイルス6型および8型など、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、パピローマウイルス、マウスガンマヘルペスウイルス、アレナウイルス、例えば、アルゼンチン出血熱ウイルス、ボリビア出血熱ウイルス、サビア関連出血熱ウイルス(Sabia−associated hemorrhagic fever virus)、ベネズエラ出血熱ウイルス、ラッサ熱ウイルス、マチュポウイルス、リンパ球脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV)など、Bunyaviridiae科、例えば、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、ハンタウイルス、腎症候群を伴う出血熱を引き起こすウイルス、リフトバレー熱ウイルスなど、エボラ出血熱およびマールブルグ出血熱を含めたFiloviridae科(フィロウイルス)、キャサヌール森林病(Kaysanur Forest disease)ウイルス、オムスク出血熱ウイルス、ダニ媒介脳炎を引き起こすウイルスを含めたFlaviviridae科ならびにParamyxoviridae科、例えば、ヘンドラウイルスおよびニパーウイルスなど、大痘瘡、小痘瘡(天然痘)、アルファウイルス、例えば、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、SARS関連コロナウイルス(SARS−CoV)、西ナイルウイルス、任意の脳炎(encephaliltis)を引き起こすウイルスなど。
一実施形態では、本発明は、組換えレトロウイルス、例えば、VSV−G糖タンパク質でシュードタイピングされたレンチウイルスを産生するパッケージング細胞を提供する。
「シュードタイプ」または「シュードタイピング」という用語は、本明細書で使用される場合、ウイルスエンベロープタンパク質が、好ましい特性を保有する別のウイルスのウイルスエンベロープタンパク質で置換されたウイルスを指す。例えば、HIVは、水疱性口内炎ウイルスGタンパク質(VSV−G)エンベロープタンパク質を用いてシュードタイピングすることができ、これにより、HIVエンベロープタンパク質(env遺伝子によりコードされる)は通常ウイルスをCD4+提示細胞にターゲティングするので、HIVがより広い範囲の細胞に感染することが可能になる。本発明の好ましい実施形態では、レンチウイルスのエンベロープタンパク質はVSV−Gでシュードタイピングされている。一実施形態では、本発明は、組換えレトロウイルス、例えば、VSV−Gエンベロープ糖タンパク質を用いてシュードタイピングされたレンチウイルスを産生するパッケージング細胞を提供する。
本明細書で使用される場合、「パッケージング細胞系」という用語は、パッケージングシグナルを含有しないが、ウイルス粒子の正しいパッケージングに必要であるウイルスの構造タンパク質および複製酵素(例えば、gag、polおよびenv)を安定にまたは一過性に発現する細胞系への言及において使用される。本発明のパッケージング細胞を調製するために、任意の適切な細胞系を使用することができる。一般に、細胞は哺乳動物細胞である。特定の実施形態では、パッケージング細胞系を作製するために使用される細胞はヒト細胞である。使用することができる適切な細胞系としては、例えば、CHO細胞、BHK細胞、MDCK細胞、C3H10T1/2細胞、FLY細胞、Psi−2細胞、BOSC23細胞、PA317細胞、WEHI細胞、COS細胞、BSC1細胞、BSC40細胞、BMT10細胞、VERO細胞、W138細胞、MRC5細胞、A549細胞、HT1080細胞、293細胞、293T細胞、B−50細胞、3T3細胞、NIH3T3細胞、HepG2細胞、Saos−2細胞、Huh7細胞、HeLa細胞、W163細胞、211細胞、および211A細胞が挙げられる。好ましい実施形態では、パッケージング細胞は293細胞、293T細胞、またはA549細胞である。別の好ましい実施形態では、細胞はA549細胞である。
本明細書で使用される場合、「産生細胞系」という用語は、パッケージング細胞系およびパッケージングシグナルを含む移行ベクター構築物を含む、組換えレトロウイルス粒子を産生することができる細胞系を指す。感染性のウイルス粒子およびウイルスストック溶液の作製は、従来の技法を用いて行うことができる。ウイルスストック溶液を調製する方法は当技術分野で公知であり、例えば、Y. Soneokaら(1995年)Nucl. Acids Res. 23巻:628〜633頁、およびN. R. Landauら(1992年)J. Virol. 66巻:5110〜5113頁によって例示されている。感染性ウイルス粒子はパッケージング細胞から従来の技法を用いて収集することができる。例えば、感染性粒子は、当技術分野で公知の通り、細胞溶解、または細胞培養物の上清を収集することによって収集することができる。必要に応じて、収集されたウイルス粒子は、所望であれば精製することができる。適切な精製技法は当業者に周知である。
「増強する(enhance)」または「促進する(promote)」または「増加させる(increase)」または「増大させる(expand)」とは、一般に、本発明の組成物および/または方法により、ビヒクルまたは対照分子/組成物のいずれかによって形質導入された細胞の数と比較してより多数の形質導入された細胞を引き出す、引き起こす、または産生することができることを指す。一実施形態では、本発明の組成物および方法を用いて形質導入された造血幹細胞は、現行の形質導入組成物および方法と比較して形質導入された細胞の数の増加を含む。細胞への形質導入の増加は、とりわけ、レポーターアッセイ、RT−PCR、および細胞表面タンパク質発現などの当技術分野で公知の方法を用いて確認することができる。「増加した(increased)」または「増強された(enhanced)」形質導入の量とは、一般には、「統計的に有意な」量であり、ビヒクル、対照組成物、または他の形質導入方法によって形質導入された細胞の数の1.1倍、1.2倍、1.5倍、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、15倍、20倍、30倍またはそれを超える倍数(例えば、500倍、1000倍)(1との間および1を超える全ての整数および小数点、例えば、1.5、1.6、1.7、1.8などを含む)である増加を含んでよい。
「減少する(decrease)」または「低減する(lower)」または「減る(lessen)」または「低下する(reduce)」または「弱める(abate)」とは、一般に、本発明による組成物および/または方法を用いて形質導入された細胞と比較して比較的より少ない形質導入された細胞をもたらす組成物または方法を指す。「減少した(decrease)」または「低下した(reduced)」形質導入された細胞の量とは、一般には「統計的に有意な」量であり、本発明による組成物および/または方法によって生成される形質導入された細胞の数(参照応答)の1.1分の1、1.2分の1、1.5分の1、2分の1、3分の1、4分の1、5分の1、6分の1、7分の1、8分の1、9分の1、10分の1、15分の1、20分の1、30分の1またはそれ未満(例えば、500分の1、1000分の1)(分母が1との間および1を超える全ての整数および小数点、例えば、1.5、1.6、1.7、1.8などを含む)である減少を含んでよい。
「維持する(maintain)」または「保全する(preserve)」または「維持(maintenance)」または「変化なし(no change)」または「実質的な変化なし(no substantial change)」または「実質的な減少なし(no substantial decrease)」とは、一般に、ビヒクル、対照分子/組成物のいずれかによって引き起こされる応答、または特定の細胞系列における応答に匹敵する生理応答を指す。匹敵する応答とは、参照応答と有意差がないまたは測定可能には異ならない応答である。
冠詞「a(1つの)」、「an(1つの)」、および「the(その)」は、本明細書では、その冠詞の文法上の目的語の1つ、または1つより多く(すなわち少なくとも1つ)を指すために使用される。例として、「an(1つの)エレメント」とは、1つのエレメントまたは1つより多いエレメントを意味する。
選択肢(例えば、「or(または)」)の使用は、その選択肢のいずれか一方、その両方、またはそれらの任意の組み合わせを意味すると理解されるべきである。本明細書で使用される場合、「含む(include)」および「含む(comprise)」という用語は同義に使用される。
本明細書で使用される場合、「約」または「およそ」という用語は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量、重量または長さに対して15%、10%、9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%または1%だけ変動する数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量、重量または長さを指す。一実施形態では、「約」または「およそ」という用語は、参照の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量、重量または長さに関して±15%、±10%、±9%、±8%、±7%、±6%、±5%、±4%、±3%、±2%、または±1%の数量、レベル、値、数、頻度、百分率、寸法、サイズ、量、重量または長さの範囲を指す。
「含む(comprise)」、「含む(comprises)」および「含む(comprising)」という単語は、本明細書全体を通して、文脈上異なる解釈を要する場合を除き、明記されているステップもしくはエレメントまたはステップもしくはエレメントの群を包含するが、任意の他のステップもしくはエレメントまたはステップもしくはエレメントの群を排除するものではないと理解されたい。「からなる(consisting of)」とは、「からなる(consisting of)」という句に続くいかなるものも含み、それに限定されることを意味する。したがって、「からなる(consisting of)」という句は、列挙されているエレメントが必要または必須であること、および他のエレメントは存在してはならないことを示す。「から本質的になる(consisting essentially of)」とは、この句の後に列挙されている任意のエレメントを包含し、列挙されているエレメントに関する本開示に明記されている活性または作用に干渉または寄与しない他のエレメントに限定されるものとする。したがって、「から本質的になる(consisting essentially of)」という句は、列挙されているエレメントが必要または必須であるが、他のエレメントは任意選択ではなく、それらが列挙されているエレメントの活性または作用に影響を及ぼすかどうかに応じて存在するかもしれないし、存在しないかもしれないことを示す。
本明細書全体を通して「一実施形態」、または「一つの実施形態」への言及は、実施形態に関連して記載されている特定の特徴、構造または特性が本発明の少なくとも1つの実施形態に包含されることを意味する。したがって、本明細書全体を通して種々の箇所における句「一実施形態」、または「一つの実施形態」の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態に言及しているのではない。さらに、特定の特徴、構造、または特性を任意の適切な様式で1つまたは複数の実施形態に組み合わせることができる。
以下の説明において、特定の詳細は、本発明の種々の実施形態の徹底的な理解をもたらさすために記載されている。しかし、当業者には、これらの詳細なしで本発明を実施することができることが理解されよう。さらに、本明細書に記載の構造および置換基の種々の組み合わせに由来する個々のベクター、またはベクターの群が、各ベクターまたはベクターの群が個別に記載されているのと同じ程度に本出願により開示されていることが理解されるべきである。したがって、特定のベクター構造または特定の置換基の選択は本開示の範囲内である。
C.ウイルスベクター
レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクターは試験され、目的の遺伝子を広範囲の標的細胞のゲノムに安定に導入するための、例えば治療的ポリペプチドをエンコードするための、適切な送達ビヒクルであることが見いだされている。本発明は、一部において、遺伝子治療を提供するために被験体に投与される細胞の集団に対する遺伝子治療ベクターの改善された送達を意図している。
本発明は、本発明の方法を実施するために使用することができる移行ベクターをさらに提供する。そのような移行ベクターは種々の異なるウイルスベクターを使用して作製することができることが当業者には理解されるが、特定の実施形態では、レンチウイルスベクターがin vitroおよびin vivoのどちらにおいても非分裂細胞への導入遺伝子の効率的な送達、組み込みおよび長期発現をもたらすことができることに一部起因して、移行ベクターはレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターである。種々のレンチウイルスベクターが当技術分野で公知であり、いずれも本発明の移行ベクターを作製するために適合させることができる。Naldiniら、(1996年a、1996年b、および1998年);Zuffereyら、(1997年);Dullら、1998年、米国特許第6,013,516号;および同第5,994,136号を参照されたい。
一般に、これらのベクターは、プラスミドに基づくかウイルスに基づき、治療用ポリペプチドをコードする核酸を宿主細胞内に移行させるために必須な配列を有するように構成されている。
例示的な実施形態では、レトロウイルスベクターはレンチウイルスベクターである。したがって、ベクターは、ヒト免疫不全−1(HIV−1)、ヒト免疫不全−2(HIV−2)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)、ジェンブラナ病ウイルス(JDV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、ヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)などに由来してよい。本発明の大部分の態様に関して、HIVに基づく構築物がヒト細胞の形質導入において最も効率的であるという点で、HIVに基づくベクターの骨格(すなわち、HIVのシス作用性配列エレメントならびにHIVのgag遺伝子、pol遺伝子およびrev遺伝子)が一般に好ましい。
特定の例示的な実施形態は、造血障害、例えば、異常ヘモグロビン症を調整するために使用するベクター、組成物および方法についてのより詳細な記載を含むが、本発明は、本開示によって限定されるものと解釈されるべきではない。本明細書において例示されている原理を、他の系、例えば、眼、中枢神経系、および末梢神経系を含めた神経系;循環系;筋肉系;骨格系;および皮膚、心臓、肺、膵臓、肝臓、腎臓、腸を含めた器官などにおける遺伝子治療に適用することができることは当業者には容易に理解されよう。
一実施形態では、本発明は、特に細胞型または細胞系列における、目的のポリヌクレオチドの発現を導く発現制御配列、例えば、グロビン遺伝子を含むベクター、例えば、レンチウイルスベクターを提供する。細胞型または細胞系列の発現制御配列を使用することにより、ポリヌクレオチドの発現を単一の系列における細胞分化の所望の段階に制限することにおいて安全性の利点がもたらされ、したがって、本発明のベクターにより、望ましくない細胞型におけるポリペプチドの異所性発現に対処する懸念が緩和される。
1つの非限定的な例では、発現制御配列は、本明細書の他の箇所で開示されている遍在発現制御配列であってよい。
別の非限定的な例では、発現制御配列は、胚性幹細胞、神経幹細胞、間葉幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、心臓幹細胞、腎幹細胞、または造血幹細胞における目的のポリヌクレオチドの幹細胞特異的発現を導く幹細胞特異的発現制御配列であってよい。
さらに別の非限定的な例では、発現制御配列は、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄系細胞、リンパ系細胞、血小板新生系列、肥満細胞、赤血球生成系列細胞、顆粒球形成系列細胞、および単核球形成系列細胞における目的のポリヌクレオチドの発現を導く、細胞型特異的発現制御配列または細胞系列特異的発現制御配列であってよい。
特定の実施形態では、本発明のベクターを使用して、これだけに限定されないが、造血幹細胞、造血前駆細胞、骨髄系前駆体、リンパ系前駆体、血小板新生前駆体、赤血球前駆体、顆粒球形成前駆体、単核球形成前駆体、巨核芽球、前巨核球、巨核球、栓球/血小板、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染赤芽球、正染性赤芽球、多染赤血球、赤血球(RBC)、好塩基性前骨髄球、好塩基性骨髄球、好塩基性後骨髄球、好塩基球、好中性前骨髄球、好中性骨髄球、好中性後骨髄球、好中球、好酸性前骨髄球、好酸性骨髄球、マクロファージ、樹状細胞、リンパ芽球、前リンパ球、ナチュラルキラー(NK)細胞、小リンパ球、T−リンパ球、B−リンパ球、形質細胞、およびリンパ系樹状細胞を含めた造血細胞の1つまたは複数または全てにおいて、ポリヌクレオチド、例えば、目的の遺伝子を発現させることができる。
好ましい実施形態では、本発明のベクターを使用して、1つまたは複数の赤血球系細胞、例えば、前赤芽球、好塩基性赤芽球、多染赤芽球、正染性赤芽球、多染赤血球、および赤血球(RBC)においてポリヌクレオチド、例えば、目的の遺伝子を発現させることができる。
一実施形態では、ベクターは、目的の遺伝子、例えば、グロビンに作動可能に連結した造血細胞プロモーター、エンハンサー、またはプロモーター/エンハンサーを含む。
適切な細胞型または細胞系列に特異的な発現制御配列としては、これだけに限定されないが、例えば、造血幹細胞プロモーター、および造血前駆細胞プロモーターなどの造血細胞発現制御配列が挙げられる。1つまたは複数の赤血球系細胞における目的の遺伝子の発現が望まれる実施形態では、適切な造血細胞発現制御配列として、これだけに限定されないが、赤血球系細胞特異的プロモーターおよび必要に応じて赤血球系細胞特異的エンハンサー、ヒトβ−グロビンプロモーター、ヒトβ−グロビンLCR、またはヒトα−グロビンHS40エンハンサーおよびアンキリン−1プロモーターを挙げることができる。
一実施形態では、適切な細胞型特異的発現制御配列または細胞系列特異的発現制御配列としては、これだけに限定されないが、小膠細胞において活性なプロモーターが挙げられる。ある実施形態では、プロモーターは、目的の遺伝子、例えば、ABCD1に作動可能に連結したMNDプロモーターまたは転写的に活性なその断片を含む。
細胞型または細胞系列発現制御配列を使用することにより、ポリヌクレオチドの発現を単一の系列における細胞分化の所望の段階に制限することにおいて安全性の利点がもたらされ、したがって、本発明のベクターにより、望ましくない細胞型におけるポリペプチドの異所性発現に対処する懸念が緩和される。一実施形態では、本発明は、1つまたは複数のLTRと、目的の遺伝子に作動可能に連結した発現制御配列とを含むベクターを提供する。関連の実施形態では、発現制御配列は、赤血球系細胞特異的発現制御配列であり、ヒトβ−グロビンプロモーター;ヒトβ−グロビンLCR;ならびにヒトα−グロビンHS40エンハンサーおよびアンキリン−1プロモーターからなる群から選択することができる。
種々の実施形態では、ベクターの設計は、特定の造血疾患、障害、または状態を処置する、予防するまたは軽減することを目的として行う。例えば、本発明は、ヒトα−グロビン、ヒトβ−グロビン、ヒトδ−グロビン、およびヒトγ−グロビンまたはその生物学的な活性バリアントもしくは断片からなる群から選択される目的の遺伝子を含む、異常ヘモグロビン症の遺伝子治療のためのベクターを意図している。一実施形態では、グロビン遺伝子は、野生型ヒトβ−グロビン遺伝子、イントロン配列の1つまたは複数の欠失を含む欠失ヒトβ−グロビン遺伝子、および少なくとも1つの抗鎌状赤血球化アミノ酸残基をコードする変異ヒトβ−グロビン遺伝子からなる群から選択される。
処置されている状態が鎌状赤血球異常ヘモグロビン症である特定の実施形態では、目的の遺伝子は抗鎌状赤血球化タンパク質であってよい。本明細書で使用される場合、「抗鎌状赤血球化タンパク質」とは、鎌状赤血球の状態における赤血球の鎌状化を導く病理学的事象を予防するまたは逆転させるポリペプチドを指す。本発明の一実施形態では、本発明の形質導入された細胞を使用して、抗鎌状赤血球化タンパク質を異常血色素症の状態を有する被験体に送達する。抗鎌状赤血球化タンパク質は、抗鎌状赤血球化アミノ酸残基を含む変異したβ−グロビン遺伝子も包含する。
好ましい実施形態では、そのようなグロビンバリアントの1つはコドン87におけるトレオニンからグルタミンへの変異(βA−T87Q)をコードするヒトβA−グロビン遺伝子またはヒトβA−グロビン遺伝子である(成熟型のグロビンポリペプチドがN末端メチオニンの切断によってプロセシングされており、成熟グロビンポリペプチドのコドン87はトレオニンであり、全長の、切断されていないグロビンポリペプチドのコドン88はトレオニンである)。他の抗鎌状赤血球化アミノ酸残基は当技術分野で公知であり、本発明において有用であり得る。例えば、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,051,402号;米国特許第5,861,488号;米国特許第6,670,323号;米国特許第5,864,029号;米国特許第5,877,288号;およびLevasseurら、Blood 102巻:4312〜4319頁(2003年)を参照されたい。
ある実施形態では、赤血球特異的発現制御配列を含むベクターを使用して、異常ヘモグロビン症を優に超える膨大な数の障害を処置する、予防する、または軽減する。赤血球前駆体は、循環中に分泌させ、したがって、全身に送達することができるポリペプチドを発現させるために有用な細胞集団である。そのようなin vivoにおけるタンパク質の送達の例は、血友病Bの患者において欠けている凝固因子であるヒト第IX因子である。例えば、参照により本明細書に組み込まれるA. H. Changら、Molecular Therapy(2008年)を参照されたい。
一実施形態では、本発明のベクターを用いて形質導入された細胞を、in vitro、ex vivo、またはin vivoにおいて、タンパク質を分泌させるための「工場」として使用することができる。例えば、赤血球系細胞特異的発現制御配列を含むベクターを、HSCから分化した赤血球系細胞から、または胚性幹細胞からタンパク質を大規模にin vitro生成するために使用することができる。
このように発現させることができる目的のポリヌクレオチドとしては、これだけに限定されないが、リソソーム蓄積症に影響を及ぼす酵素であるアデノシンデアミナーゼ、アポリポタンパク質E、脳由来神経栄養因子(brain derived neurotropihic factor)(BDNF)、骨形成タンパク質2(BMP−2)、骨形成タンパク質6(BMP−6)、骨形成タンパク質7(BMP−7)、カルジオトロフィン1(CT−1)、CD22、CD40、毛様体神経栄養因子(CNTF)、CCL1−CCL28、CXCL1−CXCL17、CXCL1、CXCL2、CX3CL1、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、ドーパミン、エリスロポエチン、第IX因子、第VIII因子、上皮増殖因子(EGF)、エストロゲン、FAS−リガンド、線維芽細胞増殖因子1(FGF−1)、線維芽細胞増殖因子2(FGF−2)、線維芽細胞増殖因子4(FGF−4)、線維芽細胞増殖因子5(FGF−5)、線維芽細胞増殖因子6(FGF−6)、線維芽細胞増殖因子1(FGF−7)、線維芽細胞増殖因子1(FGF−10)、Flt−3、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、顆粒球マクロファージ刺激因子(GM−CSF)、成長ホルモン、肝細胞増殖因子(HGF)、インターフェロンアルファ(IFN−a)、インターフェロンベータ(IFN−b)、インターフェロンガンマ(IFNg)、インスリン、グルカゴン、インスリン様増殖因子1(IGF−1)、インスリン様増殖因子2(IGF−2)、インターロイキン1(IL−1)、インターロイキン2(IL−2)、インターロイキン3(IL−3)、インターロイキン4(IL−4)、インターロイキン5(IL−5)、インターロイキン6(IL−6)、インターロイキン7(IL−7)、インターロイキン8(IL−8)、インターロイキン9(IL−9)、インターロイキン10(IL−10)、インターロイキン11(IL−11)、インターロイキン12(IL−12)、インターロイキン13(IL−13)、インターロイキン15(IL−15)、インターロイキン17(IL−17)、インターロイキン19(IL−19)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、単球走化性タンパク質1(MCP−1)、マクロファージ炎症性タンパク質3a(MIP−3a)、マクロファージ炎症性タンパク質3b(MIP−3b)、神経増殖因子(NGF)、ニューロトロフィン3(NT−3)、ニューロトロフィン4(NT−4)、副甲状腺ホルモン、血小板由来増殖因子AA(PDGF−AA)、血小板由来増殖因子AB(PDGF−AB)、血小板由来増殖因子BB(PDGF−BB)、血小板由来増殖因子CC(PDGF−CC)、血小板由来増殖因子DD(PDGF−DD)、RANTES、幹細胞因子(SCF)、ストロマ細胞由来因子1(SDF−1)、テストステロン、形質転換増殖因子アルファ(TGF−a)、形質転換増殖因子ベータ(TGF−b)、腫瘍壊死因子アルファ(TNF−a)、Wnt1、Wnt2、Wnt2b/13、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt7c、Wnt8、Wnt8a、Wnt8b、Wnt8c、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt14、Wnt15、またはWnt16、ソニックヘッジホッグ、デザートヘッジホッグ、およびインディアンヘッジホッグが挙げられる。
一実施形態では、本発明のベクターは、少なくとも1つの改変されたまたは改変されていないレトロウイルスLTR、例えば、レンチウイルスLTRと、目的のポリヌクレオチドに作動可能に連結した(例えばグロビンポリペプチドをコードする)β−グロビンプロモーターおよびβ−グロビン遺伝子座制御領域(LCR)とを含む。LTRの適切な改変としては、これだけに限定されないが、5’LTRを異種プロモーター、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、チミジンキナーゼプロモーター、またはシミアンウイルス40(SV40)プロモーターで置き換えること、および本明細書の他の箇所で考察されている3’LTRの1つまたは複数の改変、付加、および/または欠失が挙げられる。
特定の実施形態では、ヒトβ−グロビンプロモーター、ヒトβ−グロビンLCR由来のDNAアーゼI高感受性部位2、3および4のうちの1つまたは複数を含むβ−グロビンLCR、および/またはヒトβ−グロビン3’エンハンサーエレメントを使用して、ポリヌクレオチドの赤血球での特異的発現を実現する。
種々の実施形態では、本発明のベクターは、本明細書の他の箇所で考察されている通り、プサイパッケージング配列(Ψ+)、セントラルポリプリントラクト/DNAフラップ(cPPT/FLAP)、レトロウイルス輸送エレメント、転写後調節エレメント、1つまたは複数のインスレーターエレメント、ポリアデニル化配列、選択マーカー、および細胞自殺遺伝子からなる群から選択される1つまたは複数のエレメントを含む。
種々の実施形態では、本発明のベクターは、異常ヘモグロビン症に対する治療をもたらすポリペプチドをコードする遺伝子に作動可能に連結した、造血細胞において作動可能なプロモーターを含む。ベクターは1つまたは複数のLTRを有してよく、いずれのLTRも、1つまたは複数の改変、例えば、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、付加、または欠失を含む。ベクターは、形質導入効率を上昇させるための(例えば、cPPT/FLAP)、ウイルスパッケージングのための(例えば、プサイ(Ψ)パッケージングシグナル、RRE)1つまたは複数の(one of more)アクセサリーエレメント、および/または治療用遺伝子発現を増加させる他のエレメント(例えば、ポリ(A)配列)をさらに含んでよい。
一実施形態では、ベクターは、左側の(5’)レトロウイルスLTRと、プサイパッケージング配列(Ψ+)と、セントラルポリプリントラクト/DNAフラップ(cPPT/FLAP)と、レトロウイルス輸送エレメントと、β−グロビンプロモーターと、β−グロビン遺伝子座制御領域(LCR)と、必要に応じて目的のポリヌクレオチドに作動可能に連結した3’β−グロビンエンハンサーと、1つまたは複数のインスレーターエレメント、またはポリアデニル化配列を含む右側の(3’)レトロウイルスLTRとを含む。
特定の実施形態では、本発明のベクターは、左側の(5’)HIV−1 LTRと、プサイパッケージング配列(Ψ+)と、HIV−1セントラルポリプリントラクト/DNAフラップ(cPPT/FLAP)と、rev応答エレメント(RRE)と、β−グロビンプロモーターと、β−グロビン遺伝子座制御領域(LCR)と、必要に応じて目的のポリヌクレオチドに作動可能に連結した3’β−グロビンエンハンサーと、1つまたは複数のインスレーターエレメント、およびウサギβ−グロビンポリA配列(rβgpA)を含む右側の(3’)レトロウイルスLTRとを含むレンチウイルスベクターである。
種々の実施形態では、本発明のベクターは、副腎白質ジストロフィーおよび/または副腎脊髄神経障害に対する治療をもたらすポリペプチドをコードする遺伝子に作動可能に連結した、小膠細胞において作動可能なプロモーターを含む。ベクターは1つまたは複数のLTRを有してよく、いずれのLTRも、1つまたは複数の改変、例えば、1つまたは複数のヌクレオチドの置換、付加、または欠失を含む。ベクターは、形質導入効率を上昇させるための(例えば、cPPT/FLAP)、ウイルスパッケージングのための(例えば、プサイ(Ψ)パッケージングシグナル、RRE)1つまたは複数の(one of more)アクセサリーエレメント、および/または治療用遺伝子発現を増加させる他のエレメント(例えば、ポリ(A)配列)をさらに含んでよい。
特定の実施形態では、本発明の移行ベクターは、左側の(5’)レトロウイルスLTRと、セントラルポリプリントラクト/DNAフラップ(cPPT/FLAP)と、レトロウイルス輸送エレメント(retroviral export element)と、ATP結合カセット、サブファミリーD、メンバー1(ABCD1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結した、小膠細胞において活性なプロモーターと、右側の(3’)レトロウイルスLTRとを含む。
ある実施形態では、本発明は、左側の(5’)HIV−1 LTRと、プサイ(Ψ)パッケージングシグナルと、cPPT/FLAPと、RREと、ヒトABCD1ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに作動可能に連結したMNDプロモーターと、右側の(3’)自己不活性化(self−inactivating)(SIN)HIV−1 LTRと、ウサギβ−グロビンポリアデニル化配列とを含むレンチウイルスベクターを提供する。
多くの他の異なる実施形態を本発明の現行の実施形態から適合させ得、したがって、治療用導入遺伝子または目的の遺伝子を、造血系列以外の標的細胞型または細胞系列(例えば、神経系列)において発現させることが当業者には理解されよう。
D.形質導入の方法
本発明は、一部において、標的細胞への形質導入効率を有意に増加させる方法および組成物を意図している。いかなる特定の理論にも縛られることを望むことなく、本発明の組成物および方法を用いて、有意に少ないウイルスを用いて有意に多くの細胞に形質導入し、それにより、治療用細胞のゲノムにおけるゲノムの変質(alteration)および/または癌原遺伝子の挿入活性化のリスクを最小化することができることが意図されている。治療用細胞における癌原遺伝子の挿入活性化および他のゲノムの変質のリスクを最小化することは、それにより、がん様特性を含む形質導入された細胞がin vivoにおいてクローン的に増大し、がん、腫瘍または異常な細胞増殖を伴う他の疾患を生じさせる機会が最小限になるので、適切な遺伝子治療プロトコールを案出することおける重要な考慮事項である。さらに、当技術分野では、大量のウイルスを用いて形質導入することは、一般に、形質導入された細胞に対して細胞傷害性である可能性があることが留意されている。したがって、本発明の組成物および方法により、形質導入された細胞の生存性がさらに増強される。したがって、本発明は、より安全かつより効率的な遺伝子治療を提供する。
レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターを使用し、トランスフェクションではなくウイルス感染によって遺伝子(複数可)または他のポリヌクレオチド配列を送達することは、「形質導入」と称される。一実施形態では、感染およびプロウイルスの組み込みによってレトロウイルスベクターを細胞に形質導入する。ある実施形態では、細胞、例えば、標的細胞は、ウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターを使用して感染によって細胞に送達された遺伝子または他のポリヌクレオチド配列を含む場合に「形質導入される」。特定の実施形態では、形質導入された細胞は、細胞のゲノム内に、レトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターによって送達された遺伝子または他のポリヌクレオチド配列を1つまたは複数含む。
特定の実施形態では、本発明のウイルスベクターを用いて形質導入された宿主細胞または標的細胞は治療用ポリペプチドを発現し、疾患、障害、または状態を処置および/または予防するために被験体に投与される。
感染性のウイルス粒子およびウイルスストック溶液の作製は、従来の技法を用いて行うことができる。ウイルスストック溶液を調製する方法は当技術分野で公知であり、例えば、Y. Soneokaら(1995年)Nucl. Acids Res. 23巻:628〜633頁、およびN. R. Landauら(1992年)J. Virol. 66巻:5110〜5113頁によって例示されている。
特定の実施形態では、HIV1型(HIV−1)に基づくウイルス粒子は、産生細胞においてビリオンパッケージングエレメントと移入ベクターを共発現させることによって生成することができる。これらの細胞には、いくつものプラスミドを一過性にトランスフェクトすることができる。一般には3〜4つのプラスミドが使用されるが、この数はレンチウイルス構成成分を別々の単位に分ける程度に応じてこれよりも大きくてよい。例えば、1つのプラスミドはHIV−1に由来するビリオンのコア構成成分および酵素構成成分をコードし得る。このプラスミドはパッケージングプラスミドと称される。別のプラスミドは、一般には、エンベロープタンパク質(複数可)、最も一般的には、安定性が高く、トロピズムが広範にわたることに起因して水疱性口内炎ウイルスのGタンパク質(VSV G)をコードする。このプラスミドは、エンベロープ発現プラスミドと称することができる。さらに別のプラスミドは、標的細胞に移行されるゲノム、すなわち、移入ベクターと称されるベクター自体をコードする。パッケージングプラスミドは、リン酸カルシウムトランスフェクション、リポフェクションまたは電気穿孔を含めた公知の技法によってヒト細胞系に導入することができる。この技法およびその変形により、1ミリリットル当たりの形質導入単位(TU/ml)の力価が数百万の組換えウイルスを生成することができる。超遠心分離後に、約108TU/ml、109TU/ml、1010TU/ml、1011TU/ml、1012TU/ml、または約1013TU/mlの濃縮ストックを得ることができる。
感染性ウイルス粒子は、パッケージング細胞から従来の技法を用いて収集することができる。例えば、感染性粒子は、当技術分野で公知の通り、細胞溶解によって、または細胞培養物の上清を収集することによって収集することができる。必要に応じて、収集されたウイルス粒子は、所望であれば精製することができる。適切な精製技法は当業者には周知である。
ウイルスを使用して、当技術分野で周知の技法を用いてin vivo、ex vivo、またはin vitroにおいて細胞を感染させることができる。例えば、細胞、例えばCD34+細胞、樹状細胞、末梢血液細胞または幹細胞にex vivoで形質導入する場合、ベクター粒子を細胞と一緒に、一般に、細胞105個当たり1×105〜50×105形質導入単位のウイルスベクターにも対応する1〜50の感染多重度(MOI)の桁の用量を用いてインキュベートすることができる。これは、当然、1MOI、2MOI、3MOI、4MOI、5MOI、6MOI、7MOI、8MOI、9MOI、10MOI、15MOI、20MOI、25MOI、30MOI、35MOI、40MOI、45MOI、および50MOIに対応する量のベクターを包含する。
ウイルスは、治療を必要とする細胞、組織、または器官に直接注射することによってin vivoで被験体に送達することができる。直接注射には、細胞105個当たり1×105〜50×105形質導入単位のウイルスベクターにも対応するおよそ1〜50感染多重度(MOI)が必要である。
ウイルスは、例えば、p24ウイルスコートタンパク質に対するELISAである市販のp24力価アッセイを使用することによって測定することができるウイルス力価(TU/mL)に従って送達することもできる。次式を用いてp24のpg/mLを算出することができる:レンチウイルスの物理的粒子(PP)当たりおよそ2000分子のp24が存在する:(2×103)×(PP当たり24×103Daのp24)、48×106/アボガドロ=(48×106)/(6×1023)=PP当たり8×10〜17gのp24、1×10〜16gのp24当たりおよそ1PP、1pgのp24当たり1×104PP。合理的に首尾よくパッケージングされ、VSV−Gでシュードタイピングされたレンチウイルスベクターの感染指数は、1000物理的粒子(PP)当たり1TU〜100PP当たり1TU(またはそれ未満)の範囲になる。したがって、範囲はおよそ10〜100TU/pgのp24である。この変換によりTU/mLが得られる。
以前の経験に基づいて、直接注射するレンチウイルスの量は総TUによって決定され、部位に実施可能に注射することができる体積および注射を受ける組織の種類の両者に基づいて変動し得る。例えば、脳の注射部位には、非常に小さな体積のウイルスのみを注射することが可能であり、したがって、力価の高い調製物(prep)が好ましく、注射当たり約1×106〜1×107、約1×106〜1×108、1×106〜1×109、約1×107〜1×1010、1×108〜1×1011、約1×108〜1×1012、または約1×1010〜1×1012またはそれを超えるTUを使用することができる。しかし、全身送達ははるかに大きなTUに適応させることができ、1×108、1×109、1×1010、1×1011、1×1012、1×1013、1×1014、または1×1015の負荷量を送達することができる。
本発明は、上に開示されている、本明細書において提供される組成物および方法の非存在下で匹敵する形質導入効率が実現されるウイルス力価よりも低いウイルス力価を用いてin vitro、ex vivo、およびin vivoにおける細胞への高効率の形質導入を提供する組成物および方法を意図している。
本発明のある態様は、細胞を、in vitro、ex vivo、またはin vivoにおいて、レトロウイルスおよびプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する1つまたは複数の化合物、例えば、小分子、またはそれぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2007/112084およびWO2010/108028に開示されている化合物などと接触させることによって形質導入効率が有意に増加するという予想外の知見から生じた。本明細書で使用される場合、「プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を刺激する」、「プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を活性化する」または「プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる」という用語は、一般に、化合物1つまたは複数と接触させた細胞におけるプロスタグランジンEP受容体の下流の細胞シグナル伝達の活性を、化合物1つまたは複数の非存在下のプロスタグランジンEP受容体の下流の細胞シグナル伝達の活性と比較して増加させる、化合物の能力を指す。プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路の活性化または刺激を測定するために用いることができるアッセイは当技術分野で公知であり、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2010/108028に記載されている。
プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物の実例としては、これだけに限定されないが、メベベリン、フルランドレノリド、アテノロール、ピンドロール、ガボキサドール、キヌレン酸、ヒドララジン、チアベンダゾール、ビククリン、ベサミコール、ペルボシド、イミプラミン、クロルプロパミド、1,5−ペンタメチレンテトラゾール、4−アミノピリジン、ジアゾキシド、ベンフォチアミン、12−メトキシドデセン酸、N−ホルミル−Met−Leu−Phe、ガラミン、IAA94、クロロトリアニセンからなる群から選択される、小分子、例えば小有機分子、プロスタグランジン、Wnt経路アゴニスト、cAMP/PI3K/AKT経路アゴニスト、Ca2+二次メッセンジャー経路アゴニスト、一酸化窒素(NO)/アンジオテンシンシグナル伝達アゴニスト、およびプロスタグランジンシグナル伝達経路を刺激することが公知の他の化合物、およびこれらの化合物の誘導体が挙げられる。
好ましい実施形態では、プロスタグランジン経路を刺激する化合物は、EP受容体に結合し、かつ/またはEP受容体と相互作用して、一般には、本明細書に記載されており、また当技術分野で公知のプロスタグランジンEP受容体に関連する下流シグナル伝達経路の1つまたは複数を活性化するまたは増加させる、天然に存在する分子もしくはポリペプチドまたは合成化学分子もしくはポリペプチドである。
一実施形態では、プロスタグランジン経路を刺激する化合物は、PGA2;PGB2;PGD2;PGE1(アルプロスタジル(Alprostadil)(Caverject(商標);Edex(商標);Muse(商標);Prostin VR(商標));PGE2;PGF2;PGI2(エポプロステノール(Epoprostenol)(Flolan(商標);Prostacyclin(商標)));PGH2;PGJ2;ならびにその前駆体、代謝産物、誘導体および類似体からなる群から選択される。
プロスタグランジン(prostaglandin)経路を刺激する追加の例示的な化合物としては、これだけに限定されないが、15d−PGJ2;デルタ12−PGJ2;2−ヒドロキシヘプタデカトリエン酸(HHT);トロンボキサン(TXA2およびTXB2);PGI2類似体、例えば、イロプロスト(Ventavis(商標))およびトレプロスチニル(Remodulin(商標));PGF2類似体、例えば、トラボプロスト(Travatan(商標))、カルボプロスト・トロメタミン(Hemabate(商標))、タフルプロスト(ZioptanI(商標))、ラタノプロスト(Xalatan(商標))、ビマトプロスト(Lumigan(商標);Latisse(商標))、イソプロピルウノプロストン(Rescula(商標))、クロプロステノール(Ciosin(商標)、Cyclix(商標)、Estrumate(商標)、Lutaprost(商標)、Onsett(商標)、Planate(商標))、エストロファン、およびスーパーファン;PGE1類似体、例えば、ミソプロストール(CytotecTM)およびブタプロスト;ならびにCoreyアルコール−A[[3aα,4α,5β,6aα]−(−)−[ヘキサヒドロ−4−(ヒドロキシメチル)−2−オキソ−2H−シクロペンタ/b/フラン−5−イル][1,1’−ビフェニル]−4−カルボキシレート];Coreyアルコール−B[2H−シクロペンタ[b]フラン−2−オン,5−(ベンゾイルオキシ)ヘキサヒドロ−4−(ヒドロキシメチル)[3aR−(3aα,4α,5β,6aα)]];およびCoreyジオール((3aR,4S,5R,6aS)−ヘキサヒドロ−5−ヒドロキシ−4−(ヒドロキシメチル)−2H−シクロペンタ[b]フラン−2−オン)が挙げられる。
一実施形態では、化合物は、これだけに限定されないが、プロスタグランジンE2(PGE2)、およびその「類似体」または「誘導体」を含めたプロスタグランジンEP受容体リガンドである。プロスタグランジンは、本明細書に記載されており、また当技術分野で公知の通り、概して、5炭素環を含めた炭素原子20個を含有する脂肪酸に由来するホルモン様分子に関する。
PGE2「類似体」または「誘導体」の実例としては、これだけに限定されないが、16,16−ジメチルPGE2、16−16ジメチルPGE2p−(p−アセトアミドベンズアミド)フェニルエステル、11−デオキシ−16,16−ジメチルPGE2、9−デオキシ−9−メチレン−16、16−ジメチルPGE2、9−デオキシ−9−メチレンPGE2、9−ケトフルプロステノール、5−トランスPGE2、17−フェニル−オメガ−トリノルPGE2、PGE2セリノールアミド、PGE2メチルエステル、16−フェニルテトラノルPGE2、15(S)−15−メチルPGE2、15(R)−15−メチルPGE2、8−イソ−15−ケトPGE2、8−イソPGE2イソプロピルエステル、20−ヒドロキシPGE2、11−デオキシPGEi、ノクロプロスト、スルプロストン、ブタプロスト、15−ケトPGE2、および19(R)ヒドロキシ(hydroxyy)PGE2が挙げられる。
9位においてハロゲンで置換された、PGE2と同様の構造を有するプロスタグランジン類似体または誘導体(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2001/12596を参照されたい)、および2−デカルボキシ−2−ホスフィニコプロスタグランジン誘導体、例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる米国特許出願公開第2006/0247214号に記載のものも挙げられる。
いくつかの実施形態では、化合物は、PGE2に基づかないリガンドである。ある実施形態では、PGE2に基づかないリガンドは、EP1アゴニスト、EP2アゴニスト、EP3アゴニスト、およびEP4アゴニストからなる群から選択される。
特定の実施形態では、プロスタグランジンEP受容体はEP1、EP2、EP3、およびEP4から選択される。
PGE2に基づかないEP1アゴニストの実例としては、これだけに限定されないが、ONO−DI−004およびONO−8713が挙げられる。PGE2に基づかないEP2アゴニストの実例としては、これだけに限定されないが、CAY10399、ONO_8815Ly、ONO−AE1−259、およびCP−533,536が挙げられる。PGE2に基づかないEP2アゴニストのさらなる例としては、そのような作用剤に関するその開示について参照により本明細書に組み込まれるWO2007/071456に開示されているカルバゾールおよびフルオレンが挙げられる。PGE2に基づかないEP3アゴニストの実例としては、これだけに限定されないが、AE5−599、MB28767、GR63799X、ONO−NT012、およびONO−AE−248が挙げられる。PGE2に基づかないEP4アゴニストの実例としては、これだけに限定されないが、ONO−4819、APS−999Na、AH23848、およびONO−AE1−329が挙げられる。PGE2に基づかないEP4アゴニストのさらなる例は、それぞれが、そのようなアゴニストに関するそれらの開示に関して参照により組み込まれるWO/2000/038663;米国特許第6,747,037号;および米国特許第6,610,719号に見いだすことができる。
一実施形態では、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物は、Wntアゴニストである。Wntアゴニストの実例としては、これだけに限定されないが、Wntポリペプチドおよびグリコーゲンシンターゼキナーゼ3(GSK3)阻害剤が挙げられる。プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物として使用するために適したwntポリペプチドとしては、これだけに限定されないが、Wnt1、Wnt2、Wnt2b/13、Wnt3、Wnt3a、Wnt4、Wnt5a、Wnt5b、Wnt6、Wnt7a、Wnt7b、Wnt7c、Wnt8、Wnt8a、Wnt8b、Wnt8c、Wnt10a、Wnt10b、Wnt11、Wnt14、Wnt15、またはWnt15、および生物活性のあるその断片が挙げられる。
プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物として使用するために適したGSK3阻害剤は、GSK3α、またはGSK3βに結合し、GSK3α、またはGSK3βの活性を減少させる。GSK3阻害剤の実例としては、これだけに限定されないが、BIO(6−ブロモインジルビン−3’−オキシム)、LiClまたは米国特許第6,057,117号および同第6,608,063号;ならびに米国特許出願第2004/0092535号および同第2004/0209878号において例証されている他のGSK−3阻害剤;ATP競合的選択的GSK−3阻害剤であるCHIR−911およびCHlR−837(それぞれCT−99021およびCT−98023とも称される)が挙げられる。Chiron Corporation(Emeryville、CA)。
別の実施形態では、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物は、cAMP/P13K/AKT二次メッセンジャー経路を通じてシグナル伝達を増加させるものであり、ジブチリルcAMP(DBcAMP)、ホルボールエステル、フォルスコリン、スクラレリン(sclareline)、8−ブロモ−cAMP、コレラ毒素(CTx)、アミノフィリン、2,4 ジニトロフェノール(DNP)、ノルエピネフリン、エピネフリン、イソプロテレノール、イソブチルメチルキサンチン(IBMX)、カフェイン、テオフィリン(ジメチルキサンチン)、ドーパミン、ロリプラム、イロプロスト、脳下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチド(PACAP)、および血管活性腸ポリペプチド(VIP)、ならびにこれらの作用剤の誘導体からなる群から選択される。
さらに別の実施形態では、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物は、Ca2+二次メッセンジャー経路を通じてシグナル伝達を増加させるものであり、Bapta−AM、フェンジリン、ニカルジピンおよびこれらの化合物の誘導体からなる群から選択される。
別の実施形態では、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物は、NO/アンジオテンシンシグナル伝達経路を通じてシグナル伝達を増加させるものであり、L−Arg、ニトロプルシドナトリウム、バナジン酸ナトリウム、ブラジキニン、およびそれらの誘導体からなる群から選択される。
一実施形態では、本発明は、形質導入の効率を改善する方法であって、細胞の集団を、レトロウイルスおよびプロスタグランジンPGE2;PGD2;PGI2;リノール酸;13(s)−HODE;LY171883;ミード酸;エイコサトリエン酸;エポキシエイコサトリエン酸;ONO−259;Cay1039;PGE2受容体アゴニスト;16,16−ジメチルPGE2;19(R)−ヒドロキシPGE2;16,16−ジメチルPGE2p−(p−アセトアミドベンズアミド)フェニルエステル;11−デオキシ−16,16−ジメチルPGE2;9−デオキシ−9−メチレン−16,16−ジメチルPGE2;9−デオキシ−9−メチレンPGE2;ブタプロスト;スルプロストン;PGE2セリノールアミド;PGE2メチルエステル;16−フェニルテトラノルPGE2;15(S)−15−メチルPGE2;15(R)−15−メチルPGE2;BIO;8−ブロモ−cAMP;フォルスコリン;Bapta−AM;フェンジリン;ニカルジピン;ニフェジピン;ピモジド;ストロファンチジン;ラナトシド;L−Arg;ニトロプルシドナトリウム;バナジン酸ナトリウム;ブラジキニン;メベベリン;フルランドレノリド;アテノロール;ピンドロール;ガボキサドール;キヌレン酸;ヒドララジン;チアベンダゾール;ビククリン;ベサミコール;ペルボシド;イミプラミン;クロルプロパミド;1,5−ペンタメチレンテトラゾール;4−アミノピリジン;ジアゾキシド;ベンフォチアミン;12−メトキシドデセン酸;N−ホルミル−Met−Leu−Phe;ガラミン;IAA94;およびクロロトリアニセンからなる群から選択されるプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数と一緒に培養する工程を含む方法を提供する。
特定の実施形態では、本発明は、形質導入の効率を改善する方法であって、細胞の集団を、レトロウイルスおよび16,16−ジメチルPGE2、16−16ジメチルPGE2p−(p−アセトアミドベンズアミド)フェニルエステル、11−デオキシ−16,16−ジメチルPGE2、9−デオキシ−9−メチレン−16,16−ジメチルPGE2、9−デオキシ−9−メチレンPGE2、9−ケトフルプロステノール、5−トランスPGE2、17−フェニル−オメガ−トリノルPGE2、PGE2セリノールアミド、PGE2メチルエステル、16−フェニルテトラノルPGE2、15(S)−15−メチルPGE2、15(R)−15−メチルPGE2、8−イソ−15−ケトPGE2、8−イソPGE2イソプロピルエステル、20−ヒドロキシPGE2、11−デオキシPGEi、ノクロプロスト、スルプロストン、ブタプロスト、15−ケトPGE2、および19(R)ヒドロキシ(hydroxyy)PGE2からなる群から選択される、プロスタグランジンEP受容体のリガンドである化合物1つまたは複数と一緒に培養する工程を含む方法を提供する。
本発明は、細胞への形質導入効率を、細胞を、レトロウイルス、プロスタグランジンEP受容体経路を刺激する化合物、例えばPGE2、および1つまたは複数のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤の存在下で培養することによって増加させることができることも意図している。
本発明の組成物および方法において使用するために適したHDAC阻害剤の実例としては、これだけに限定されないが、TSA(トリコスタチンA)(例えば、Adcock、(2007年)British Journal of Pharmacology 150巻:829〜831頁を参照されたい)、VPA(バルプロ酸)(例えば、Munsterら、(2007年)Journal of Clinical Oncology
25巻:18S:1065頁を参照されたい)、酪酸ナトリウム(NaBu)(例えば、Hanら、(2007年)Immunology Letters 108巻:143〜150頁を参照されたい)、SAHA(スベロイルアニリドヒドロキサム酸またはボリノスタット)(例えば、Kellyら、(2005年)Nature Clinical Practice Oncology 2巻:150〜157頁を参照されたい)、フェニル酪酸ナトリウム(例えば、Goreら、(2006年)Cancer Research 66巻:6361〜6369頁を参照されたい)、デプシペプチド(FR901228、FK228)(例えば、Zhuら、(2003年)Current Medicinal Chemistry 3巻(3号):187〜199頁を参照されたい)、トラポキシン(TPX)(例えば、Furumaiら、(2001年)PNAS 98巻(1号):87〜92頁を参照されたい)、環状ヒドロキサム酸含有ペプチド1(CHAP1)(Furumai 上記を参照されたい)、MS−275(例えば、参照により本明細書に組み込まれるCarninciら、WO2008/126932を参照されたい))、LBH589(例えば、参照により本明細書に組み込まれるGohら、WO2008/108741を参照されたい)およびPXD−101(Goh、上記を参照されたい)を限定せずに含むHDAC阻害剤が挙げられる。
本発明は、細胞を、レトロウイルスの存在下で培養することができ、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物および/またはHDAC阻害剤に、約10分間〜約72時間、約30分間〜約72時間、約30分間〜約48時間、約30分間〜約24時間、約30分間〜約12時間、約30分間〜約8時間、約30分間〜約6時間、約30分間〜約4時間、約30分間〜約2時間、約1時間〜約2時間、または間の任意の期間にわたって曝露させる(接触させる)ことができることを意図している。
一実施形態では、レトロウイルスと一緒に培養した細胞を、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物および/またはHDAC阻害剤に、約30分間、約1時間、約2時間、約4時間、約5時間、約6時間、約7時間、約8時間、約9時間、約10時間、約11時間、約12時間、約13時間、約14時間、約15時間、約16時間、約17時間、約18時間、約19時間、約20時間、約21時間、約22時間、約23時間、約24時間、約48時間、または約72時間、または間の任意の期間にわたって曝露させる(接触させる)。
本発明は、細胞を、レトロウイルスと一緒に培養する前に、レトロウイルスと一緒に培養している間に、またはレトロウイルスと一緒に培養した後に、またはそれらの任意の組み合わせで、本明細書に開示されている前記のいずれかの期間にわたって、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤と一緒に培養することができることを意図している。
本発明は、さらに、細胞を、1つまたは複数のHDAC阻害剤と一緒に培養する前に、1つまたは複数のHDAC阻害剤と一緒に培養している間に、または1つまたは複数のHDAC阻害剤と一緒に培養した後に、またはそれらの任意の組み合わせで、本明細書に開示されている前記のいずれかの期間にわたって、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物1つまたは複数およびレトロウイルスと一緒に培養することができることを意図している。
本発明は、細胞を、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤と一緒に培養する前に、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤と一緒に培養している間に、またはプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤と一緒に培養した後に、またはそれらの任意の組み合わせで、本明細書に開示されている前記のいずれかの期間にわたってレトロウイルスと一緒に培養することができることも意図している。
さらに、形質導入を増加させるための本発明の方法は、細胞を、レトロウイルス、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤と一緒に、形質導入の最初の6時間の間、形質導入の最初の12時間の間、形質導入の最初の24時間の間、形質導入の最初の48時間の間、または形質導入の最初の72時間の間、または間の任意の形質導入の期間培養する工程を含むことは当業者には理解されよう。
さらに、本発明は、細胞に、レトロウイルスおよびプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤の存在下で1回、2回、3回またはそれより多くの回数形質導入することができることを意図している。別の実施形態では、本発明は、細胞に、レトロウイルスの存在下で1回、2回、3回またはそれより多くの回数形質導入し、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤に1回または2回のみ曝露させる(接触させる)ことができることを意図している。
特定の実施形態では、本発明は、細胞を、レトロウイルス、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達経路を刺激する化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤中で培養することができ、そこで、細胞をそれらに、本明細書の他の箇所で開示されているものと同じまたは異なる期間にわたって前記のものに曝露または接触させることを意図している。
本発明は、本発明の組成物および方法により、実質的に任意の細胞型への形質導入を、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約65%、少なくとも約70%、少なくとも約75%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、少なくとも約91%、少なくとも約92%、少なくとも約93%、少なくとも約94%、少なくとも約95%、少なくとも約96%、少なくとも約97%、少なくとも約98%、少なくとも約99%、または少なくとも約100%まで増加させることができることも意図している。
特定の実施形態では、形質導入効率の増加は、形質導入された細胞が、ベクター単独で形質導入された細胞と比べて少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍、またはそれより大きな倍数富化されたことを表す。
形質導入の前、形質導入の間、および/または形質導入の後に、細胞を、細胞の維持、成長、または増殖に適した培地で培養することができる。適切な培養培地および条件は当技術分野で周知である。そのような培地としては、これだけに限定されないが、Dulbecco’s Modified Eagle’s Medium(登録商標)(DMEM)、DMEM F12 medium(登録商標)、Eagle’s Minimum
Essential Medium(登録商標)、F−12K medium(登録商標)、Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium(登録商標)、RPMI−1640 medium(登録商標)、およびserum−free medium for culture and expansion of hematopoietic cells SFEM(登録商標)が挙げられる。多くの培地は、ピルビン酸ナトリウムを含む、または含まない低グルコース調合物としても利用可能である。
最適な成長および増大のために必要な微量元素を細胞に供給するために、追加の補充剤を有利に使用することもできる。そのような補充剤として、インスリン、トランスフェリン、セレンナトリウム(sodium selenium)およびそれらの組み合わせが挙げられる。これらの構成成分は、これだけに限定されないが、Hanks’Balanced Salt Solution(登録商標)(HBSS)、Earle’s Salt Solution(登録商標)、抗酸化剤補充剤、MCDB−201(登録商標)補充剤、リン酸緩衝食塩水(PBS)、アスコルビン酸およびアスコルビン酸−2−リン酸、ならびに追加のアミノ酸などの塩類溶液中に含めることができる。多くの細胞培養培地はアミノ酸をすでに含有するが、いくつかは細胞を培養する前に補充する必要がある。そのようなアミノ酸としては、これだけに限定されないが、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−グリシン、L−ヒスチジン、L−イソロイシン、L−ロイシン、L−リシン、L−メチオニン、L−フェニルアラニン、L−プロリン、L−セリン、L−トレオニン、L−トリプトファン、L−チロシン、およびL−バリンが挙げられる。これらの補充剤の適切な濃度を決定することは十分に当業者の技術の範囲内である。
ホルモンも本発明の細胞培養物に有利に使用することができ、それらとしては、これだけに限定されないが、D−アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、β−エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)、甲状腺刺激ホルモン、チロキシンおよびL−チロニンが挙げられる。
脂質および脂質キャリアも、細胞の種類および分化細胞の発生運命に応じて細胞培養培地への補充に使用することができる。そのような脂質およびキャリアとしては、これだけに限定されないが、とりわけ、シクロデキストリン(α、β、γ)、コレステロール、アルブミンとコンジュゲートしたリノール酸、アルブミンとコンジュゲートしたリノール酸およびオレイン酸、コンジュゲートしていないリノール酸、アルブミンとコンジュゲートしたリノール酸−オレイン酸−アラキドン酸ならびにアルブミンとコンジュゲートしていないオレイン酸およびコンジュゲートしたオレイン酸を挙げることができる。
細胞は、低血清または無血清の培養培地で培養することもできる。細胞を培養するために使用する無血清培地は、例えば、米国特許第7,015,037号に記載されている。多くの細胞が無血清培地または低血清培地で成長している。
形質導入後に、形質導入された細胞を、それらの維持、成長または増殖に適した条件下で培養することができる。特定の実施形態では、形質導入された細胞を、移植前に約1日間、2日間、3日間、4日間、5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間または14日間培養する。
形質導入の前、形質導入の間、および/または形質導入の後に、細胞を、幹細胞または前駆細胞の増大を促進する条件下で培養することができる。当技術分野で公知の任意の方法を用いることができる。ある実施形態では、形質導入の前、形質導入の間、または形質導入の後に、細胞を、幹細胞または前駆細胞の増大を促進する1つまたは複数の増殖因子の存在下で培養する。幹細胞または前駆細胞の増大を促進する増殖因子の例としては、これだけに限定されないが、マウス造血幹細胞の自己再生を促進することが実証されている胎児肝臓チロシンキナーゼ(Flt3)リガンド、幹細胞因子、インターロイキン6、およびインターロイキン11が挙げられる。他のものとしては、骨形成タンパク質4を活性化することによって初期の造血前駆体の増殖を誘導するソニックヘッジホッグ、HSCの自己再生を刺激するWnt3a、脳由来神経栄養因子(BDNF)、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、毛様体神経栄養因子(CNF)、形質転換増殖因子−β(TGF−β)、線維芽細胞増殖因子(FGF、例えば、塩基性FGF、酸性FGF、FGF−17、FGF−4、FGF−5、FGF−6、FGF−8b、FGF−8c、FGF−9)、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、血小板由来増殖因子(PDGF、例えば、PDGFAA、PDGFAB、PDGFBB)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GMCSF)、幹細胞因子(SCF)、ストロマ細胞由来因子(SCDF)、インスリン様増殖因子(IGF)、トロンボポエチン(TPO)またはインターロイキン−3(IL−3)が挙げられる。特定の実施形態では、形質導入の前、形質導入の間、または形質導入の後に、細胞を、幹細胞または前駆細胞の増大を促進する1つまたは複数の増殖因子の存在下で培養する。
本明細書において提供される記載および実施例では特に造血幹細胞を含めた多分化能細胞の形質導入および選択に焦点が合わされているが、本発明の方法および組成物は、他の種類の多能性幹細胞または多分化能幹細胞および以前は治療的に使用するために形質導入される細胞の選択を適用できなかった脆弱細胞を含めた他の細胞型の形質導入および選択にも用いることができる。
本発明の方法に従って使用する細胞は、任意の動物、好ましくは哺乳動物、例えば、非ヒト霊長類またはヒト、より好ましくはヒトから得ることができ、それらの細胞は、任意の動物、好ましくは哺乳動物、およびより好ましくはヒトに移植することができる。
本発明の遺伝子治療の方法における形質導入および投与に適した細胞としては、これだけに限定されないが、幹細胞、前駆細胞、および分化細胞が挙げられる。
本発明の組成物および方法を用いて形質導入するために適した幹細胞の実例としては、これだけに限定されないが、胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、中胚葉幹細胞、内胚葉幹細胞、および外胚葉幹細胞が挙げられる。
特定の実施形態では、本明細書において意図されている組成物および方法を用いて形質導入された細胞の集団または供給源は、間葉幹細胞および/または前駆細胞、中胚葉幹細胞および/または前駆細胞、内胚葉幹細胞および/または前駆細胞、または外胚葉幹細胞および/または前駆細胞を含む。ある実施形態では、本明細書において意図されている方法において使用する細胞の集団または供給源は、骨髄幹細胞、臍帯血幹細胞および/または前駆細胞、骨幹細胞および/または前駆細胞、筋肉幹細胞および/または前駆細胞、造血幹細胞および/または前駆細胞、脂肪幹細胞および/または前駆細胞、軟骨幹細胞および/または前駆細胞、神経幹細胞および/または前駆細胞、皮膚幹細胞および/または前駆細胞、肝幹細胞および/または前駆細胞、膵幹細胞および/または前駆細胞、腎幹細胞および/または前駆細胞、胃幹細胞および/または前駆細胞、および腸幹細胞および/または前駆細胞を含む。
ある実施形態では、本発明の組成物および方法を用いて形質導入された細胞の集団または供給源としては、これだけに限定されないが、骨芽細胞、軟骨細胞、脂肪細胞、骨格筋、心筋、ニューロン、グリア細胞(星状膠細胞、オリゴデンドロサイト、シュワン細胞)、網膜細胞(桿状体細胞、錐状体細胞)、角膜細胞、皮膚細胞、単球およびマクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞、T細胞、B細胞、NK細胞、胃細胞、腸細胞、平滑筋細胞、血管細胞、膀胱細胞、膵島細胞(膵アルファ細胞、膵ベータ細胞、膵デルタ細胞)、肝細胞、腎細胞、副腎細胞、および肺細胞が挙げられる。
種々の実施形態では、幹細胞を使用することが好ましく、これは、幹細胞がin vivoで特定の生物学的ニッシェに投与されると適切な細胞型に分化する能力を有するためである。
好ましい実施形態では、本発明の組成物および方法を用いて、造血幹細胞または造血前駆細胞の形質導入を増加させる。
本発明は、細胞の集団の単離および形質導入も意図している。本明細書で使用される場合、「細胞の集団」という用語は、任意の数および/または組み合わせの、本明細書の他の箇所に記載の同種細胞型または異種細胞型で構成されていてよい複数の細胞を指す。例えば、造血幹細胞または造血前駆細胞に形質導入するために、細胞の集団を、臍帯血、胎盤血、骨髄、または末梢血から単離するまたは得ることができる。細胞の集団は、形質導入される標的細胞型を約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、または約100%含んでよい。ある実施形態では、造血幹細胞または造血前駆細胞を、異種細胞の集団から当技術分野で公知の方法を用いて単離または精製することができる。特定の実施形態では、細胞の集団に形質導入した後に造血幹細胞または造血前駆細胞を精製し、他の実施形態では、形質導入の前に造血幹細胞または造血前駆細胞を単離する。
本発明の細胞は、形質導入の前にまたは形質導入の後に当技術分野で公知の方法を用いて(sing methods known in the art)凍結保存することもできる。培養物中で確立されたら、細胞は、新鮮にまたは凍結して使用すること、および、例えば、40%FCSおよび10%DMSOを含むDMEMを使用して凍結ストックとして保管することができる。当業者は培養細胞の凍結ストックを調製するための他の方法も利用可能である。
特定の実施形態では、幹細胞または前駆細胞を含む細胞の集団を、レトロウイルス、例えば、レンチウイルス、およびプロスタグランジンシグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数、例えば、PGE2またはその類似体または誘導体などのプロスタグランジンEP受容体リガンドと接触させる。ある実施形態では、細胞の集団を、さらに1つまたは複数のHDAC阻害剤と接触させる。種々の実施形態では、細胞の集団をex vivo、またはin vivoで接触させる。
ある好ましい実施形態では、幹細胞または前駆細胞は造血幹細胞または造血前駆細胞である。
E.細胞培養物組成物
本発明は、さらに、レトロウイルスおよびプロスタグランジンシグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数を含む培養培地における細胞の培養物を含む、細胞に基づく組成物を意図している。本明細書全体を通して考察されている通り、特定の実施形態では、本組成物および方法は、ex vivoおよびin vivoにおける細胞に基づく遺伝子治療に有用である。いくつかの実施形態では、細胞培養培地は、薬学的に許容される細胞培養培地である。
本発明の細胞に基づく組成物を含む治療用の培養物、細胞培養物、培養系、または細胞培養物組成物(cell culture composition)は、経腸投与方法もしくは非経口投与方法によって単独で、または所望の処置目的を果たすための他の適切な化合物、例えば、1つまたは複数の増殖因子と組み合わせて投与することができる。
例示的な一実施形態では、本発明の形質導入された細胞を含む治療用の培養物、細胞培養物、培養系、または細胞培養物組成物を組織内に直接注射することによって全身的に投与する。
F.組成物および製剤
本発明の製剤および組成物は、単独で、または1つまたは複数の他の治療のモダリティと組み合わせて、細胞、組織、器官、または動物に投与するための、薬学的に許容されるまたは生理的に許容される溶液(例えば、培養培地)中に製剤化された、本明細書に記載の、任意の数の形質導入された細胞または形質導入されていない細胞またはそれらの組み合わせ、ウイルスベクター、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、および1つまたは複数の化合物、例えば、プロスタグランジンシグナル伝達を増加させる化合物および/またはHDAC阻害剤の組み合わせを含んでよい。
本発明の特定のex vivoおよびin vitro製剤および組成物は、単独で、または1つまたは複数の他の治療のモダリティと組み合わせて、細胞、組織、器官、または動物に投与するための、薬学的に許容されるまたは生理的に許容される溶液(例えば、培養培地)中に製剤化された、本明細書に記載の、形質導入された細胞または形質導入されていない細胞またはそれらの組み合わせ、ウイルスベクター、および1つまたは複数の化合物、例えば、プロスタグランジンシグナル伝達を増加させる化合物および/またはHDAC阻害剤の組み合わせを含んでよい。
本発明の特定のin vivo製剤および組成物は、単独で、または1つまたは複数の他の治療のモダリティと組み合わせて、動物内の細胞または組織に投与し、それに形質導入するための、薬学的に許容されるまたは生理的に許容される溶液(例えば、培養培地)中に製剤化された、本明細書に記載の、ウイルスベクター、および化合物1つまたは複数、例えば、プロスタグランジンシグナル伝達を増加させる化合物および/またはHDAC阻害剤の組み合わせを含んでよい。
ある実施形態では、本発明は、1種または複数種の薬学的に許容されるキャリア(添加物)および/または希釈剤(例えば、薬学的に許容される細胞培養培地)と一緒に製剤化された、治療有効量の本明細書に記載の形質導入された細胞を含む組成物を提供する。
他のある実施形態では、本発明は、1種または複数種の薬学的に許容されるキャリア(添加物)および/または希釈剤(例えば、薬学的に許容される細胞培養培地)と一緒に製剤化された、本明細書に記載のレトロウイルスベクターおよびプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数を含む組成物を提供する。
特定の実施形態では、本発明は、1種または複数種の薬学的に許容されるキャリア(添加物)および/または希釈剤(例えば、薬学的に許容される細胞培養培地)と一緒に製剤化された、本明細書に記載の幹細胞または前駆細胞を含む細胞の集団、レトロウイルスベクター、およびプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数を含む組成物を提供する。関連する実施形態では、細胞の集団は、造血幹細胞および造血前駆細胞を含む。
本発明は、本明細書に記載の方法によって生成された形質導入された細胞および薬学的に許容されるキャリアを含む医薬組成物をさらに含む。他の実施形態では、本発明は、本明細書に記載のレトロウイルスベクターおよび1つまたは複数の化合物、例えば、プロスタグランジンシグナル伝達を増加させる化合物および/またはHDAC阻害剤を含む医薬組成物を提供する。
「薬学的に許容される」という句は、ヒトに投与されたときにアレルギー性または同様の不都合な反応を生じさせない分子実体および組成物を指す。タンパク質を活性成分として含有する水性組成物の調製は当技術分野ではよく理解されている。一般には、そのような組成物は、液体の溶液または懸濁物のいずれかの注射剤として調製され、注射前に液体での溶液、または液体での懸濁物に適した固体形態も調製することができる。調製物は乳化されていてもよい。
本明細書で使用される場合、「キャリア」とは、任意のかつ全ての溶媒、分散媒、ビヒクル、コーティング、希釈剤、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤、緩衝剤、キャリア溶液、懸濁物、およびコロイドなどを包含する。薬学的に活性な物質へのそのような媒体および作用剤の使用は当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または作用剤が活性成分と適合しない場合を除く限りでは、治療用組成物におけるその使用が意図されている。補充の活性成分も組成物に組み入れることができる。
本発明は、本明細書に記載の方法に従って作製された形質導入された細胞と、薬学的に許容されるキャリアとを含む医薬組成物をさらに含む。本明細書で使用される場合、「薬学的に許容されるキャリア」とは、薬学的に許容される細胞培養培地を含めた生理的に適合性の任意のおよび全ての溶媒、分散媒、コーティング、抗細菌剤および抗真菌剤、等張化剤および吸収遅延剤などを包含する。一実施形態では、キャリアを含む組成物は、非経口投与、例えば、血管内投与(静脈内投与または動脈内投与)、腹腔内投与または筋肉内投与に適している。薬学的に許容されるキャリアとしては、滅菌注射用液剤または分散剤を即時調製するための滅菌水溶液または分散液および滅菌粉末が挙げられる。薬学的に活性な物質へのそのような媒体および作用剤(agent)の使用は当技術分野において周知である。任意の従来の媒体または作用剤が形質導入された細胞と適合しない場合を除く限りでは、本発明の医薬組成物におけるそれらの使用が意図されている。
本発明の組成物は、細胞または動物に投与するために、単独で、または1つまたは複数の他の療法のモダリティと組み合わせて、薬学的に許容されるまたは生理的に許容される液剤に製剤化される、本明細書に記載の1つまたは複数のポリペプチド、ポリヌクレオチド、それを含むベクター、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物、HDAC阻害剤、および形質導入された細胞などを含んでよい。所望であれば、本発明の組成物は、他の作用剤、例えば、サイトカイン、増殖因子、ホルモン、小分子または種々の薬学的に活性な作用剤などとも組み合わせて投与することができることも理解されよう。同様に組成物に含めることができる他の構成成分に対する限定は、追加的な作用剤が、意図された遺伝子治療を送達する組成物の能力に悪影響を及ぼさないのであれば、実質的に存在しない。
本発明の医薬組成物では、薬学的に許容される賦形剤およびキャリア溶液の処方は、本明細書に記載の特定の組成物を、例えば、経口的、非経口的、静脈内、鼻腔内、および筋肉内への投与および処方を含めた種々の治療レジメンにおいて使用するための適切な投薬および治療レジメンの開発と同様に当業者に周知である。
ある特定の状況では、本明細書に開示されている組成物を、例えば、米国特許第5,543,158号;同第5,641,515号および同第5,399,363号(そのそれぞれの全体が参照により具体的に本明細書に組み込まれる)に記載の通り、非経口的に、静脈内に、筋肉内に、またはさらには腹腔内に送達することが望ましい。遊離塩基または薬理学的に許容される塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合した水中に調製することができる。分散物をグリセロール、液体ポリエチレングリコール、ならびにそれらの混合物中に、および油中に調製することもできる。通常の保管および使用の条件下では、これらの調製物は、微生物の成長を予防するために防腐剤を含有する。
注射による使用に適した医薬形態としては、滅菌水溶液または分散物、および滅菌の注射可能な溶液または分散物を即時調製するための滅菌粉末が挙げられる(米国特許第5,466,468号、その全体が参照により具体的に本明細書に組み込まれる)。全ての場合において、形態は滅菌されているべきであり、また、容易に注射可能である程度まで流体であるべきである。形態は製造および保管の条件下で安定であるべきであり、また、細菌および真菌などの微生物の汚染作用から保護されるべきである。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコールなど)、適切なそれらの混合物、ならびに/または植物油を含有する溶媒または分散媒であってよい。妥当な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散の場合では必要な粒度を維持することによって、および界面活性剤を使用することによって維持することができる。微生物の作用の予防は、種々の抗細菌剤および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサールなどによって容易にすることができる。多くの場合、等張化剤、例えば、糖または塩化ナトリウムを含むことが好ましい。注射用組成物の持続的な吸収は、吸収を遅延させる作用物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンを組成物に使用することによってもたらすことができる。
水溶液中で非経口投与するためには、例えば、溶液は、必要であれば適切に緩衝されているべきであり、液体希釈剤は最初に十分な食塩水またはグルコースを用いて等張性にされる。これらの特定の水溶液は、静脈内投与、筋肉内投与、皮下投与および腹腔内投与に特に適している。これに関連して、使用することができる滅菌水性媒体は本開示を考慮すれば当業者に公知になろう。例えば、1投与量を、等張性のNaCl溶液1mlに溶解させ、皮下注入用流体1000mlに添加するか、提唱された注入部位に注射することができる(例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版、Baltimore、MD:Lippincott Williams & Wilkins、2005年を参照されたい)。治療されている被験体の状態に応じて、投与量にいくらかの変動が必ず生じる。いずれにしても、投与に関与する人が個々の被験体に対する適切な用量を決定する。さらに、ヒトに投与するためには、調製物は、FDA Office of Biologics standardsにより必要とされる滅菌、発熱性、および一般的な安全性および純度の標準に適うべきである。
滅菌注射用溶液は、必要量の活性化合物を、必要に応じて上に列挙されている種々の他の成分を含む適切な溶媒中に組み入れ、その後、濾過滅菌することによって調製することができる。一般に、分散物は、種々の滅菌された活性成分を、基本的な分散媒および上に列挙されているものからの必要な他の成分を含有する滅菌ビヒクル中に組み入れることによって調製される。滅菌注射用溶液を調製するための滅菌粉末の場合では、好ましい調製方法は、活性成分の粉末と、それに加えて任意の追加的な所望の成分を、予め滅菌濾過したその溶液から得る真空乾燥および凍結乾燥技法である。
本明細書に開示されている組成物は、中性の形態または塩の形態に製剤化することができる。薬学的に許容される塩としては酸付加塩(タンパク質の遊離のアミノ基と形成される)が挙げられ、これは、例えば、塩酸またはリン酸などの無機酸、または酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などの有機酸と形成される。遊離のカルボキシル基と形成される塩も、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、水酸化カルシウム、または水酸化第二鉄などの無機塩基、およびイソプロピルアミン、トリメチルアミン、ヒスチジン、プロカインなどの有機塩基から得ることができる。製剤化の際、溶液を投与製剤と適合する様式および治療的に有効な量で投与する。製剤は、注射用溶液、薬物放出カプセル剤などの種々の剤形で容易に投与される。
ある特定の実施形態では、組成物は、鼻腔内噴霧、吸入、および/または他のエアロゾル送達ビヒクルによって送達することができる。遺伝子、ポリヌクレオチド、およびペプチド組成物を経鼻エアロゾル噴霧によって肺に直接送達するための方法は、例えば、米国特許第5,756,353号および同第5,804,212号(そのそれぞれの全体が参照により具体的に本明細書に組み込まれる)に記載されている。同様に、鼻腔内微小粒子樹脂(Takenagaら、1998年)およびリゾホスファチジル−グリセロール化合物(米国特許第5,725,871号、その全体が参照により具体的に本明細書に組み込まれる)を使用した薬物の送達も、製薬技術分野において周知である。同様に、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroetheylene)支持マトリックスの形態での経粘膜薬物送達は、米国特許第5,780,045号(その全体が参照により具体的に本明細書に組み込まれる)に記載されている。
ある特定の実施形態では、送達は、本発明の組成物を適切な宿主細胞に導入するために、リポソーム、ナノカプセル、微小粒子、ミクロスフェア、脂質粒子、小胞を、必要に応じて、CPPポリペプチドなどと混合して使用することによって起こり得る。具体的には、本発明の組成物は、脂質粒子、リポソーム、小胞、ナノスフェア、ナノ粒子などのいずれかに封入して送達するために製剤化することができる。そのような送達ビヒクルの製剤化および使用は、公知かつ従来の技法を用いて行うことができる。本発明の製剤および組成物は、細胞または動物に投与するために、単独で、または1つまたは複数の他の療法のモダリティと組み合わせて、薬学的に許容されるまたは生理的に許容される溶液(例えば、培養培地)中に製剤化された、本明細書に記載の任意の数のポリペプチド、ポリヌクレオチド、および小分子の組み合わせで構成される1つまたは複数の抑制因子および/または活性化因子を含んでよい。所望であれば、本発明の組成物は、他の作用物質、例えば、細胞、他のタンパク質またはポリペプチドまたは種々の薬学的に活性な作用物質などとも組み合わせて投与することができることも理解されよう。
ある特定の実施形態では、本発明は、これだけに限定されないが、レトロウイルス(例えば、レンチウイルス)ベクターを含めたウイルスベクター系を送達するため(すなわち、ウイルス媒介性形質導入)に適した製剤または組成物を提供する。
ex vivo送達のための例示的な製剤は、当技術分野で公知の種々のトランスフェクション薬剤、例えば、リン酸カルシウム、電気穿孔、熱ショックおよび種々のリポソーム製剤(すなわち、脂質媒介性トランスフェクション)などの使用も含んでよい。下でより詳細に説明されている通り、リポソームは、水性流体の画分が閉じ込められた脂質二重層である。DNAは、自発的にカチオン性リポソームの外面と会合し(その電荷によって)、これらのリポソームは細胞膜と相互作用する。
ある特定の態様では、本発明は、1種または複数種の薬学的に許容されるキャリア(添加物)および/または希釈剤(例えば、薬学的に許容される細胞培養培地)と一緒に製剤化された治療有効量の本明細書に記載の1つまたは複数のポリヌクレオチドまたはポリペプチドを含む薬学的に許容される組成物を提供する。
本発明の特定の実施形態は、他の製剤、例えば、製薬技術分野で周知であり、例えば、Remington:The Science and Practice of Pharmacy、第20版 Baltimore、MD:Lippincott Williams & Wilkins、2005年に記載されているものなどを含んでよい。
ある実施形態では、本発明の組成物は、有効量の組成物を含み、必要に応じて、1つまたは複数の補助的治療剤を含む。本発明のある実施形態では、細胞に基づく組成物を含み、必要に応じて1つまたは複数の補助的治療剤を含む組成物は、滅菌食塩水、リンゲル液、ハンクス平衡塩類溶液(HBSS)、またはIsolyte S、pH7.4、無血清細胞培地、または本明細書の他の箇所で考察されている別の薬学的に許容される培地(例えば、細胞培養培地)をさらに含んでよい。
特定の実施形態では、細胞の集団を含む組成物を、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤をそれぞれ独立に約1μM〜約100μMの最終濃度で用いて処理する(例えば、それに接触させる)。ある実施形態では、細胞の集団を、プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤をそれぞれ独立に約1×10−14M〜約1×10−3M、約1×10−13M〜約1×10−4M、約1×10−12M〜約1×10−5M、約1×10−11M〜約1×10−4M、約1×10−11M〜約1×10−5M、約1×10−10M〜約1×10−4M、約1×10−10M〜約1×10−5M、約1×10−9M〜約1×10−4M、約1×10−9M〜約1×10−5M、約1×10−8M〜約1×10−4M、約1×10−7M〜約1×10−4M、約1×10−6M〜約1×10−4Mの最終濃度、または間の任意の範囲の最終濃度で用いて処理する。
別の特定の実施形態では、細胞の集団を、それぞれ独立に約1×10−14M、約1×10−13M、約1×10−12M、約1×10−10M、約1×10−9M、約1×10−8M、約1×10−7M〜約1×10−6M、約1×10−5M、約1×10−4M、約1×10−3Mの最終濃度、または間の任意の最終濃度のプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物の1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤と接触させる。プロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数(one or more one or more)および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤を含む組成物では、化合物は互いと異なる濃度であっても同じ濃度であってもよい。
当業者は、本発明の方法のための、形質導入された細胞および/またはプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤を含む有効量の組成物の適切な投与経路および適正な投与量を決定するために常套的な方法を用いることができる。特定の療法では、治療をもたらすために本発明の医薬組成物を複数回投与することが必要になることが理解されることも当業者に公知である。
例えば、組成物を、1週間、2週間、3週間、1カ月間、2カ月間、3カ月間、4カ月間、5カ月間、6カ月間、1年間、2年間、5年間、10年間にわたって、またはそれを超えて、1回、2回、3回、4回、5回、6回、7回、8回、9回、または10回またはそれより多くの回数投与することができる。
さらに、本発明の同じまたは異なる組成物の複数の投与を、上記の通り、長期間にわたって複数回施行することができる。
さらに、形質導入された細胞および/またはプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤の投与は、本明細書の他の箇所で考察されている通り同じ経路によるものであっても異なる経路によるものであってもよい。形質導入された細胞および/またはプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤の投与は、異なる部位に、同じまたは異なる投与経路の投与を用いて実施することもできる。さらに、形質導入された細胞および/またはプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤の投与は、同じ部位に、同じ経路によって、同時に、または異なる時間に行うことができる。
G.遺伝子治療の方法
形質導入された細胞および対応するレトロウイルスベクターにより、遺伝子治療の改善された方法がもたらされる。本明細書で使用される場合、「遺伝子治療」という用語は、細胞のゲノムへの遺伝子の導入を指す。種々の実施形態では、本発明のウイルスベクターは、造血幹細胞治療に適した単一遺伝子の疾患、障害、もしくは状態または造血系の疾患、障害、もしくは状態を有すると診断された被験体またはそれを有する疑いがある被験体に治癒的、予防的、または軽減的利益をもたらすポリペプチドをコードする治療用導入遺伝子を発現する造血発現制御配列を含む。
好ましい一実施形態では、本発明は、脳小膠細胞に発達する潜在性を有する形質導入された細胞を提供する。特定の実施形態では、造血幹細胞を、本発明のベクターを用いて形質導入し、副腎白質ジストロフィーまたは副腎脊髄神経障害に対する治療を必要とする個体に投与する。造血幹細胞は脳小膠細胞を起源とし、したがって好ましい。
特定の実施形態では、形質導入された造血幹細胞または造血前駆細胞は、単一遺伝子の疾患、障害、もしくは状態または造血系の疾患、障害、もしくは状態と診断されたか、あるいは単一遺伝子の疾患、障害、もしくは状態または造血系の疾患、障害、もしくは状態を有する疑いがある被験体に治癒的、予防的、または軽減的利益をもたらすポリペプチドをコードする治療用導入遺伝子を発現する造血発現制御配列を有するウイルスベクターを含む。
ウイルス、例えば、レンチウイルス、および/またはプロスタグランジンEP受容体シグナル伝達を増加させる化合物1つまたは複数および/または1つまたは複数のHDAC阻害剤を含む組成物を、in vivo、ex vivo、またはin vitroにおいて、ベクターを単独で用いて形質導入された細胞と比較して増加した効率で細胞に感染させ、それに形質導入することができる。ex vivoおよびin vitroにおける実施形態では、次いで、形質導入された細胞を、治療を必要とする被験体に投与することができる。本発明は、本発明のベクター、ウイルス粒子、および形質導入された細胞を使用して、被験体における単一遺伝子の疾患、障害、もしくは状態または造血系の疾患、障害、もしくは状態、例えば、異常ヘモグロビン症を処置する、予防する、および/または軽減することを意図している。
本明細書で使用される場合、「造血」とは、前駆細胞からの血液細胞の形成および発達ならびに幹細胞からの前駆細胞の形成を指す。血液細胞としては、これだけに限定されないが、赤血球(erythrocyte)または赤血球(red blood cell)(RBC)、網状赤血球、単球、好中球、巨核球、好酸球、好塩基球、B細胞、マクロファージ、顆粒球、肥満細胞、栓球、および白血球が挙げられる。
本明細書で使用される場合、「異常ヘモグロビン症」または「異常ヘモグロビン症の状態」という用語は、血液中に異常なヘモグロビン分子が存在することを伴う任意の障害を包含する。異常ヘモグロビン症の例としては、これだけに限定されないが、ヘモグロビンC症、ヘモグロビン鎌状赤血球症(SCD)、鎌状赤血球貧血、およびサラセミアが挙げられる。血液中に異常なヘモグロビンの組み合わせが存在する異常ヘモグロビン症(例えば、鎌状赤血球/Hb−C症)も包含される。
「鎌状赤血球貧血」または「鎌状赤血球症」という用語は、本明細書では、赤血球の鎌状化に起因する任意の症候性の貧血性の状態を包含すると定義される。鎌状赤血球症の徴候としては、貧血;疼痛;ならびに/または臓器機能障害、例えば、腎不全、網膜症、急性胸部症候群、虚血、持続勃起症および脳卒中が挙げられる。本明細書で使用される場合、「鎌状赤血球症」という用語は、特にHbSにおける鎌状赤血球置換についてホモ接合体である被験体における鎌状赤血球貧血に伴う種々の臨床的問題を指す。本明細書において鎌状赤血球症という用語を使用することによって言及される体質性徴候としては、成長および発達の遅延、特に肺炎球菌に起因する重篤な感染症が発生する傾向の増加、再発性梗塞および最終的な脾組織の破壊を伴う、循環している細菌の有効なクリアランスが妨げられる脾機能の著しい欠陥がある。「鎌状赤血球症」という用語には、主に腰椎、腹部、および大腿骨幹(femoral shaft)に影響を及ぼし、機構および重症度が減圧痛と同様である筋骨格痛の急性エピソードも包含される。成人では、そのような発作(attack)は、一般に、数週間または数カ月ごとに持続時間の短い軽度または中程度の発作(bout)として顕在化し、その間に平均で1年に約1回、5〜7日間続く苦痛な発作(attack)に襲われる。そのような発症のトリガーとなることが公知の事象はアシドーシス、低酸素症および脱水であり、これらは全て細胞内でのHbSの重合を増強する(J. H. Jandl、Blood: Textbook of Hematology、第2版、Little, Brown and Company, Boston、1996年、544〜545頁)。本明細書で使用される場合、「サラセミア」という用語は、ヘモグロビンの合成に影響を及ぼす変異に起因して起こる遺伝性貧血を包含する。したがって、この用語は、重度のまたはβサラセミア、サラセミアメジャー、中等症サラセミア、ヘモグロビンH症などのαサラセミアなどのサラセミアの状態によって生じる任意の症候性貧血を包含する。
本明細書で使用される場合、「サラセミア」とは、ヘモグロビンの生成の欠陥を特徴とする遺伝性障害を指す。サラセミアの例としては、αサラセミアおよびβサラセミアが挙げられる。βサラセミアは、ベータグロビン鎖の変異によって引き起こされ、重症型または軽症型で(in a major or minor form)起こり得る。重症型のβサラセミアでは、出生時には小児は正常であるが、生後1年間で貧血を発症する。軽症型のβサラセミアでは、小さな赤血球が産生され、グロビン鎖由来の1つまたは複数の遺伝子の欠失によってサラセミアが引き起こされる。軽症型サラセミアは、一方の親のみから欠陥のある遺伝子を受けついだ場合に起こる。この型の障害を有する人は、疾患の保有者であり、通常は症状を有さない。
αサラセミアは、一般には、HBA1遺伝子およびHBA2遺伝子が関与する欠失によって生じる。これらの遺伝子はどちらも、ヘモグロビンの構成成分(サブユニット)であるα−グロビンをコードする。各細胞のゲノムにはHBA1遺伝子の2つのコピーおよびHBA2遺伝子の2つのコピーが存在する。結果として、α−グロビンを産生する4つの対立遺伝子が存在する。種々の種類のαサラセミアがこれらの対立遺伝子の一部または全部の喪失に起因する。αサラセミアの最も重度の型であるHb Bart症候群は、α−グロビン対立遺伝子4つ全てが喪失することによって生じる。HbH症は、α−グロビン対立遺伝子4つのうち3つが喪失することによって引き起こされる。これらの2つの状態では、α−グロビンの不足により、細胞が正常なヘモグロビンを作ることが妨げられる。その代わりに、細胞は、ヘモグロビンBart(Hb Bart)またはヘモグロビンH(HbH)と称される異常な形態のヘモグロビンを産生する。これらの異常なヘモグロビン分子は酸素を体の組織に有効に運搬することができない。Hb BartまたはHbHで正常なヘモグロビンが置換されることにより、αサラセミアに関連する貧血および他の重篤な健康問題が引き起こされる。
好ましい実施形態では、本発明の遺伝子治療の方法を用いて、ヘモグロビンC症、ヘモグロビン鎌状赤血球症(SCD)、鎌状赤血球貧血、遺伝性貧血、サラセミア、β−サラセミア、サラセミメジャーア、中等症サラセミア、α−サラセミア、およびヘモグロビンH症からなる群から選択される異常ヘモグロビン症を処置する、予防する、または軽減する。
種々の実施形態では、レトロウイルスベクターを、遺伝子治療を必要とする被験体の細胞、組織、または器官にin vivoで直接注射することによって投与する。種々の他の実施形態では、細胞に、本発明のベクターを用いてin vitroまたはex vivoで形質導入し、必要に応じてex vivoで増大させる。次いで、形質導入された細胞を、遺伝子治療を必要とする被験体に投与する。
本発明の遺伝子治療の方法における形質導入および投与に適した細胞としては、これだけに限定されないが、本明細書の他の箇所に記載のとおり、幹細胞、前駆細胞、および分化細胞が挙げられる。ある実施形態では、形質導入される細胞は胚性幹細胞、人工多能性幹細胞、骨髄幹細胞、臍帯幹細胞、胎盤幹細胞、間葉幹細胞、神経幹細胞、肝幹細胞、膵幹細胞、心臓幹細胞、腎幹細胞、造血幹細胞である。
好ましい実施形態では、形質導入される細胞は、骨髄、臍帯血、または末梢循環から単離された造血幹細胞および/または造血前駆細胞である。特に好ましい実施形態では、形質導入される細胞は、骨髄、臍帯血、または末梢循環から単離された造血幹細胞である。
HSCは、特定の表現型マーカーまたは遺伝子型マーカーに応じて同定することができる。例えば、HSCは、それらのサイズが小さいこと、系列(lin)マーカーを欠くこと、生体染色色素、例えば、ローダミン123(ローダミンDULL、rholoとも称される)またはHoechst33342での染色性が低いこと(サイドポピュレーション)、およびそれらの表面上に、その多くが分化シリーズのクラスターに属する種々の抗原マーカー(例えば、CD34、CD38、CD90、CD133、CD105、CD45、Ter119、およびc−kit、幹細胞因子の受容体)が存在することによって同定することができる。HSCは、系列拘束を検出するために一般に使用されるマーカーについて主に陰性であり、したがって、多くの場合、Lin(−)細胞と称される。
一実施形態では、ヒトHSCは、CD34+、CD59+、Thy1/CD90+、CD38lo/−、C−kit/CD117+、およびLin(−)と特徴付けることができる。しかし、特定のHSCはCD34−/CD38−であるので、全ての幹細胞がこれらの組み合わせに包含されるとは限らない。いくつかの試験では、最初期の幹細胞は細胞表面上のc−kitを欠く場合があることも示唆されている。ヒトHSCに関しては、CD34+HSCおよびCD34−HSCはどちらもCD133+であることが示されているので、CD133は初期のマーカーを意味することができる。CD34+細胞およびLin(−)細胞は、造血前駆細胞も含むことは当技術分野で公知である。
別の実施形態では、造血階層をSLAMコードによって決定する。SLAM(シグナル伝達リンパ球活性化分子)ファミリーは、遺伝子が、第1染色体(マウス)上の単一の遺伝子座に大部分がタンデムに位置し、全てが免疫グロブリン遺伝子スーパーファミリーのサブセットに属し、最初はT細胞刺激に関与すると考えられていた>10分子の群である。このファミリーは、CD48、CD150、CD244などを含み、CD150は創始メンバー(founding member)であり、したがって、slamF1、すなわち、SLAMファミリーメンバー1とも称される。造血階層についてのサインSLAMコードは、造血幹細胞(HSC)−CD150+CD48−CD244−;多分化能性前駆細胞(MPPs)−CD150−CD48−CD244+;系列制限前駆細胞(LRPs)−CD150−CD48+CD244+;一般的な骨髄系前駆細胞(CMP)−lin−SCA−1−c−kit+CD34+CD16/32mid;顆粒球−マクロファージ前駆体(GMP)−lin−SCA−1−c−kit+CD34+CD16/32hi;および巨核球−赤血球前駆細胞(MEP)−lin−SCA−1−c−kit+CD34−CD16/32lowである。
マウスでは、スタンフォード大学のIrving Weissmanのグループが1988年にマウス造血幹細胞を初めて単離し、マウス造血階層を区別するためのマーカーも初めて解明した。造血階層に関するマーカーは、長期造血幹細胞(LT−HSC)−CD34−、SCA−1+、Thy1.1+/lo、C−kit+、lin−、CD135−、Slamf1/CD150+;短期造血幹細胞(ST−HSC)−CD34+、SCA−1+、Thy1.1+/lo、C−kit+、lin−、CD135−、Slamf1/CD150+、Mac−1(CD11b)lo;初期多分化能性前駆体−(初期MPP)−CD34+、SCA−1+、Thy1.1−、C−kit+、lin−、CD135+、Slamf1/CD150−、Mac−1(CD11b)lo、CD4lo;および後期多分化能性前駆体(後期MPP)−CD34+、SCA−1+、Thy1.1−、C−kit+、lin−、CD135high、Slamf1/CD150−、Mac−1(CD11b)lo、CD4loである。
一実施形態では、造血細胞はCD105+Sca1+細胞である。
本発明の細胞は、自己由来/自源性(autogeneic)(「自己」)であっても非自己由来(「非自己」、例えば、同種異系、同系または異種)であってもよい。「自己由来」とは、本明細書で使用される場合、同じ被験体由来の細胞を指す。「同種異系」とは、本明細書で使用される場合、比較する細胞とは遺伝的に異なる同じ種の細胞を指す。「同系」とは、本明細書で使用される場合、比較する細胞と遺伝的に同一である、異なる被験体の細胞を指す。「異種」とは、本明細書で使用される場合、比較する細胞とは異なる種の細胞を指す。好ましい実施形態では、本発明の細胞は同種異系のものである。
「被験体」とは、本明細書で使用される場合、本明細書の他の箇所で開示されている遺伝子治療ベクター、細胞に基づく治療薬、および方法を用いて処置することができる単一遺伝子の疾患、障害、または状態の症状を示す任意の動物を包含する。好ましい実施形態では、被験体として、本明細書の他の箇所で開示されている遺伝子治療ベクター、細胞に基づく治療薬、および方法を用いて処置することができる造血系の疾患、障害、または状態、例えば、異常ヘモグロビン症の症状を示す任意の動物が挙げられる。適切な被験体(例えば、患者)としては、実験動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、またはモルモット)、農場動物、および家畜動物または愛玩動物(例えば、ネコまたはイヌ)が挙げられる。非ヒト霊長類、好ましくはヒト患者が含まれる。典型的な被験体としては、遺伝子治療によって調節することができる1つまたは複数の生理的活性の量が異常である(「正常な」または「健常な」被験体よりも少量または多量である)動物が挙げられる。
本明細書で使用される場合、「治療(treatment)」または「処置すること(treating)」とは、疾患または病的状態の症状または病態に対する任意の有益なまたは望ましい効果を包含し、また、治療されている疾患または状態の1種または複数種の測定可能なマーカーの最低限の減少でさえ含んでよい。治療は、必要に応じて、疾患もしくは状態の症状の軽減もしくは改善、または疾患もしくは状態の進行の遅延を含んでよい。「治療(treatment)」とは、必ずしも疾患もしくは状態、またはそれに付随する症状の完全な根絶もしくは治癒を示すものではない。
本明細書で使用される場合、「予防する(prevent)」および同様の単語、例えば、「予防される(prevented)」、「予防すること(preventing)」などは、疾患または状態の発生または再発を予防するため、阻害するため、またはその可能性を低下させるための手法を指す。この用語は、疾患もしくは状態の発症もしくは再発を遅延させること、または疾患もしくは状態の症状の発生もしくは再発を遅延させることも指す。本明細書で使用される場合、「予防(prevention)」および同様の単語は、疾患または状態が発症または再発する前に、疾患または状態の強さ、影響、症状および/または負荷を軽減することも包含する。
本明細書で使用される場合、「量」という用語は、臨床結果を含めた有益なまたは所望の予防結果または治療結果を実現するためのウイルスまたは形質導入された治療用細胞の「有効な量(an amount effective)」または「有効量(an effective amount)」を指す。
「予防有効量」とは、所望の予防結果を実現するために有効なウイルスまたは形質導入された治療用細胞の量を指す。必ずではないが一般には、予防的な用量は疾患の前に、または疾患のより早い段階で被験体に用いられるので、予防有効量は治療有効量よりも少ない。
ウイルスまたは形質導入された治療用細胞の「治療有効量」は、個体の病態、年齢、性別、および体重、ならびに、幹細胞および前駆細胞の個体における所望の応答を引き出す能力などの要因に応じて変動してよい。治療有効量は、ウイルスまたは形質導入された治療用細胞のいかなる毒性の影響または有害な影響よりも治療的に有益な影響が上回る量でもある。「治療有効量」という用語は、被験体(例えば、患者)を「治療する」ために有効な量を包含する。
いかなる特定の理論にも縛られることを望むことなく、本発明のベクター、組成物、および方法によってもたらされる重要な利点は、既存の方法と比較して高い百分率の形質導入された細胞を含む細胞の集団を投与することによって実現することができる、遺伝子治療の有効性の高さである。
形質導入された細胞は、骨髄切除療法を受けた個体または受けていない個体において骨髄移植または臍帯血移植の一部として投与することができる。一実施形態では、本発明の形質導入された細胞を、化学的切除(chemoablative)または放射線切除(radioablative)骨髄療法を受けた個体に骨髄移植において投与する。
一実施形態では、ある用量の形質導入された細胞を被験体に静脈内送達する。好ましい実施形態では、形質導入された造血幹細胞を被験体に静脈内投与する。
例示的な一実施形態では、被験体に提供される有効量の形質導入された細胞は、該被験体の体重100kg当たり細胞1×1012個未満、100kg当たり細胞1×1011個未満、100kg当たり細胞1×1010個未満、100kg当たり細胞1×109個未満、100kg当たり細胞1×108個未満、100kg当たり細胞1×107個未満、100kg当たり細胞5×106個未満、100kg当たり細胞4×106個未満、100kg当たり細胞3×106個未満、100kg当たり細胞2×106個未満、100kg当たり細胞1×106個未満、100kg当たり細胞5×105個未満、100kg当たり細胞4×105個未満、100kg当たり細胞3×105個未満、100kg当たり細胞2×105個未満、100kg当たり細胞1×105個未満、100kg当たり細胞5×104個未満、または100kg当たり細胞1×104個未満である。
別の例示的な実施形態では、被験体に提供される有効量の形質導入された細胞は、100kg当たり細胞約1×1012個、100kg当たり細胞約1×1011個、100kg当たり細胞約1×1010個、100kg当たり細胞約1×109個、100kg当たり細胞約1×108個、100kg当たり細胞約1×107個、100kg当たり細胞約5×106個、100kg当たり細胞約4×106個、100kg当たり細胞約3×106個、100kg当たり細胞約2×106個、100kg当たり細胞約1×106個、100kg当たり細胞約5×105個、100kg当たり細胞約4×105個、100kg当たり細胞約3×105個、100kg当たり細胞約2×105個、100kg当たり細胞約1×105個、100kg当たり細胞約5×104個、または100kg当たり細胞約1×104個である。
別の例示的な実施形態では、被験体に提供される有効量の形質導入された細胞は、100kg当たり細胞約1×101個〜100kg当たり細胞約1×1012個、100kg当たり細胞約1×102個〜100kg当たり細胞約1×1011個、100kg当たり細胞約1×103個〜100kg当たり細胞約1×1010個、100kg当たり細胞約1×104個〜100kg当たり細胞約1×109個、100kg当たり細胞約1×105個〜100kg当たり細胞約1×108個、100kg当たり細胞約1×106個〜100kg当たり細胞約1×107個、または100kg当たりの間の任意の細胞数の範囲である。
種々の実施形態では、本発明の方法は、既存の方法よりも頑強かつ安全な遺伝子治療を提供し、かつ、形質導入された細胞を約5%、形質導入された細胞を約10%、形質導入された細胞を約15%、形質導入された細胞を約20%、形質導入された細胞を約25%、形質導入された細胞を約30%、形質導入された細胞を約35%、形質導入された細胞を約40%、形質導入された細胞を約45%、形質導入された細胞を約50%、形質導入された細胞を約55%、形質導入された細胞を約60%、形質導入された細胞を約65%、形質導入された細胞を約70%、形質導入された細胞を約75%、形質導入された細胞を約80%、形質導入された細胞を約85%、形質導入された細胞を約90%、形質導入された細胞を約95%、形質導入された細胞を約98%、または形質導入された細胞を約100%含む細胞の集団または細胞の用量を被験体に投与する工程を含む。
種々の実施形態では、本発明のベクター、組成物、および方法により、ex vivo遺伝子治療および自家移植を用いた遺伝子治療の方法の改善がもたらされる。好ましい一実施形態では、本発明は、形質導入された細胞、例えば、幹細胞、例えば、造血幹細胞を提供する。特定の実施形態では、造血幹細胞を、本発明のベクターを用いて形質導入し、異常ヘモグロビン症に対する治療を必要とする個体に投与する。
特定の実施形態では、造血幹細胞を、本発明のベクターを用いて形質導入し、副腎白質ジストロフィーまたは副腎脊髄神経障害に対する治療を必要とする個体に投与する。
好ましい一実施形態では、本発明は、赤血球系細胞または赤血球前駆体細胞において1つまたは複数の治療用タンパク質を高レベルで発現させるように最適化された改善されたウイルスベクター系を提供する。本発明のレンチウイルスベクターを含めたレトロウイルスベクターは、例えば、グロビン遺伝子または抗鎌状赤血球化タンパク質をコードする遺伝子を含めた目的のポリヌクレオチドをさらに含む。一実施形態では、本発明のレトロウイルスベクターで発現させるグロビン遺伝子は、β−グロビン、δ−グロビン、またはγ−グロビンである。別の実施形態では、ヒトβ−グロビン遺伝子は野生型ヒトβ−グロビン遺伝子またはヒトβA−グロビン遺伝子である。別の実施形態では、ヒトβ−グロビン遺伝子は、イントロン配列の1つまたは複数の欠失を含む、または、少なくとも1つの抗鎌状赤血球化アミノ酸残基をコードする変異ヒトβ−グロビン遺伝子である。抗鎌状赤血球化アミノ酸は、ヒトδ−グロビンまたはヒトγ−グロビンに由来してよい。別の実施形態では、変異ヒトβ−グロビン遺伝子は、コドン87におけるトレオニンからグルタミンへの変異(βA−T87Q)をコードする。
本発明の、レンチウイルスベクターを含めたレトロウイルスベクターは、異常ヘモグロビン症を処置するためのものを含めた遺伝子治療において使用することができる。特定の実施形態では、本発明は、例えば赤血球特異的疾患を処置するために、前記のベクターを使用して、赤血球系細胞において安定な高レベルの遺伝子発現を実現するための方法を提供する。特定の実施形態では、遺伝子治療ベクターを、例えば、鎌状赤血球症(SCD)を含めた異常ヘモグロビン症を処置するために使用する。別の好ましい実施形態では、遺伝子治療ベクターを、これだけに限定されないが、β−サラセミアを含めたサラセミアを処置するために使用する。
別の好ましい実施形態では、副腎白質ジストロフィーおよび/または副腎脊髄神経障害を処置するために、ABCD1遺伝子を含む本発明のベクターを用いて造血幹細胞に形質導入する。
ここで、本発明を以下の実施例によってより詳細に記載する。しかし、本発明は、多くの異なる形態で具体化することができ、本明細書に記載の実施形態に限定されると解釈されるべきではなく、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全なものになるよう、また本発明の範囲が当業者に十分に伝わるように提供される。
(実施例1)
形質導入のための細胞の予備刺激
CD34+細胞(AllCells)のバイアルを1つ、37℃で1〜2分間インキュベートすることによって解凍し、内容物を15mLのコニカルチューブ中10mLの幹細胞成長培地(Stem Cell Growth Media)(以降SCGMと称される)に移した。細胞を標準の卓上遠心分離機において1500RPMで5分間回転させ、10mLのSCGMに再懸濁させ、血球計で計数した。適切な数の細胞と相関する体積を新しい15mLのコニカルチューブに移し、再度1500RPMで5分間回転させた。細胞をSCGM+1×サイトカイン(100ng/mLのSCF、100ng/mLのTPO、100ng/mLのFltL、および30ng/mLのIL−3)中に所望の細胞濃度まで再懸濁させ、標準の加湿組織培養インキュベーター(5%CO2)内、37℃で滅菌非接着性表面上にプレーティングした。
CD34+細胞へのウイルスによる形質導入効率を上昇させる化合物についてのスクリーニングを、いくつものクラス由来の可溶性化合物を種々の濃度で使用して行った(表1)。スクリーニングの結果が図1に示されている。
(実施例2)
形質導入
予備刺激した細胞(実施例1)を18〜24時間培養した後に計数した。細胞を収集し、1500RPMで5分間回転させた。予備刺激したCD34+細胞1.2×10
6個を60μLの10×サイトカイン(1000ng/mLのSCF、1000ng/mLのTPO、1000ng/mLのFltL、および300ng/mLのIL−3)、7.8μLの硫酸プロタミン、111μLのウイルス上清、および361.2μLのSCGMに再懸濁させた。90μLの細胞/ウイルス懸濁液(細胞約200,000個)を標準の非接着性96ウェルプレートの各ウェルに加えた。このウイルスによる形質導入ステップの間に、dmPGE2を100μM、50μM、25μM、12.5μM、1μM、または0μMの最終濃度で加えた。ウイルスストックの力価は2.7×10
8TU/mLであり、感染多重度(MOI)は約25であった。
細胞を、標準の加湿組織培養インキュベーター(5%CO2)内、37℃でインキュベートした。
(実施例3)
細胞のdmPGE2刺激
予め処理したdmPGE2(Cayman Chemicals)1mgから、DMSO中10mMのdmPGE2の一定分量を調製した。簡単に述べると、dmPGE2のバイアルに、酢酸メチルが蒸発するまで空気をピペットで入れた。263μLのDMSOをバイアルに存在するPGE2に加え、25μLの一定分量を1.5mLのEppendorfチューブに加え、−80℃で保管した。dmPGE2をSCGMで段階希釈することによって10×作業ストック溶液を調製し、次いで、表2に従って適切な作業濃度で細胞に加えた。次いで、細胞を標準の加湿組織培養インキュベーター(5%CO2)内、37℃でインキュベートした。
(実施例4)
バリデーションアッセイ
バリデーションアッセイのための細胞の調製
細胞を、ウイルスおよびdmPGE2と一緒に24時間培養した後に、洗浄し、その後、機能バリデーションアッセイを行った。細胞を96ウェルU底プレートに移し、標準の卓上遠心分離機において1500RPMで5分間回転させることによって、洗浄を実施した。培地を吸引し、細胞を200μLのSCGMに再懸濁させた。細胞を、再度1500RPMで5分間回転させ、培地を吸引した。細胞を、再度200μLのSCGMに再懸濁させ、次いで、1500RPMで5分間回転させ、再度培地を吸引した。特定の機能バリデーションアッセイは下に記載されている。
7日間の液体培養
洗浄した細胞を、200μLのSCGM+1×サイトカイン(実施例1に記載の通り)に再懸濁させ、追加の800μLのSCGM+1×サイトカインを含有する標準の12ウェル非接着性組織培養プレートに移した。細胞をさらに6日間、標準の加湿組織培養インキュベーター(5%CO2)内で維持し、次いで、ベクターのコピー数の解析(実施例5)およびFACS分析に供した。FACS分析については、細胞を、ウイルスにコードされる導入遺伝子、緑色蛍光タンパク質(GFP)の存在についてアッセイした。培養細胞のプール内のウイルスにより標識された細胞の発生頻度を集団内のGFP+細胞の発生頻度として数量化した。標識された細胞の平均蛍光強度を数量化した。種々の濃度のdmPGE2を用いた7日間の液体培養アッセイの結果が表3に示されている。
メチルセルロースにおけるコロニー形成単位活性の評価
洗浄した細胞を、200μLのSCGMに再懸濁させ、次いで、サイトカインを補充したメチルセルロース(例えば、Methocult M4434 Classic)の一定分量3mLに移した。次いで、1.5mLをとがっていない16−ゲージの針を使用して平行35mm組織培養ディッシュに移した。ディッシュを、標準の加湿組織培養インキュベーター内で14〜16日間維持し、コロニーを、サイズ、形態、および細胞の組成についてスコア化した。次いで、個々のコロニーをその後ベクターのコピー数の解析(実施例5)のために選定したか、または35mmディッシュ全体の内容物をプールし、次いで、ベクターのコピー数の解析(実施例5)に供した。
長期培養開始細胞(LTC−IC)
細胞を、200μLのSCGMに再懸濁させ、計数し、次いで、予めプレーティングしたMS−5間質層に、種々の希釈(100U/mL−100μg/mLのpen−strepを補充したStemSpan SFEM(StemCell Technologies、Cat番号09650)200μL中、1ウェル当たり細胞2000個;1000個;500個;250個;125個;62個;31個;16個)で、かつ1希釈当たり24反復で移した。週に1回の間隔で100μLを新鮮な培地100μLで交換した。5週目に、培養物を収穫した。100μLを破棄し、細胞を残りの100μLで洗い流し、ウェルを新鮮な培地50μLですすぎ、全内容物を、Methocult(商標)H4434中に播種し、細胞懸濁液150μLを600μLのMethocult H4434を用いてホモジナイズし、12ウェルプレートの1つのウェルに14日間プレーティングした。次いで、コロニーを計数した。各希釈について分析した少なくとも1つのコロニー(細胞40個超)を含有するウェルの数およびウェルの総数を用い、L−calcソフトウェア(Stem cell technologies)を使用してLTC−ICの発生頻度および95%信頼区間を算出した。各処理群からの100コロニーを選び取って100個の異なるウェルに入れ、ベクターの存在について個別にスコア化した。各処理群から100コロニーをプールし、ゲノムDNAを抽出し、平均ベクターコピー数をqPCRによって評価した(実施例5)。
NOD/SCIDガンマ(NSG)マウスへの移植
dmPGE2が最小限の残留毒性でヒト長期造血幹細胞へのウイルスによる形質導入を促進するかどうかを決定するために、形質導入された細胞を洗浄し、リン酸緩衝食塩水(PBS)に再懸濁させ、放射線照射した成体NSGマウスの尾静脈へと移植した。マウスを、標準のIACUC動物管理ガイドラインに従って病原体を含まない環境に収容した。計画した時点で、末梢血に対するヒトドナーに由来する寄与を、標準のプロトコールによってマウスから収集することによって数量化した。簡単に述べると、2%デキストランを用いて赤血球をペレット化し、次いで、上清を赤血球溶解緩衝液で処理することによってさらに清澄にした。次いで、単核細胞をMajetiらによる、Cell Stem Cell 2007年に記載されている通りフルオロフォアとコンジュゲートした抗体を用いて染色し、LSR−II(Becton Dickinson)でフローサイトメトリーによって分析した。
組み込み部位分析
dmPGE2により、レンチウイルスベクターの組み込み部位の優先度が変化するかどうかを決定するために、dmPGE2処理した、ウイルスにより形質導入されたヒト造血幹細胞および造血前駆細胞を移植したマウス由来の骨髄試料、ならびにモック処理した、ウイルスにより形質導入されたヒト造血幹細胞および造血前駆細胞を移植したマウス由来の骨髄試料を、線形増幅媒介PCRに供した(Cartier、(2009年)Science 326巻(5954号):818〜23頁)。簡単に述べると、1〜1000ngのDNAが、レトロウイルスLTR特異的ビオチン化プライマーを使用した線形PCRのための鋳型としての機能を果たした。線形PCR産物を常磁性ビーズで分離した。さらに第2鎖DNA合成、制限消化(Tsp509I、NlaIIIまたはHpyCH4IV)およびリンカーカセットのライゲーションを半固体相で実現し、その後に2つの追加の指数関数的PCRステップを続けた。生じたLAM−PCRアンプリコンを、454パイロシークエンシング(GS Flx;Roche Diagnostics)のために、追加の指数関数的PCRを実施してGS Flx特異的増幅および配列決定プライマーAおよびBをLAM−PCRアンプリコンの両末端に付加することによってさらに調製した。プライマーの設計は製造者によって示された通り行った。異なる試料を単一の配列決定の実行で同時に分析するために6塩基の認識配列をプライマーAに組み入れた。精製されたLAM−PCR産物40ngを使用した。PCR条件は以下の通りであった:95℃で120秒間の最初の変性;95℃で45秒間、60℃で45秒間および72℃で60秒間を12サイクル;72℃で300秒間の最後の伸長。LAM−PCRアンプリコン配列をトリミングし、BLASTを使用してアラインメントした。
(実施例5)
ベクターのコピー数の解析
簡単に述べると、標準のプロトコールによって(例えば、QiagenのDNEasyカラムによって)細胞から全ゲノムDNAを単離した。ゲノムDNAを、ウイルスLTRおよびヒトベータアクチンに対するTaqManプローブを用いた定量的リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qRT−PCR)に供した。ウイルスシグナルおよびベータアクチンシグナルについてのCt値を標準化した対照に対して正規化し、ベータアクチンのコピー当たりのウイルスコピーの数を算出した。GFPをコードするウイルス構築物を使用したところ、ベクターのコピー数と平均蛍光強度(実施例4)の間に直線関係が観察された。種々の濃度のdmPGE2を用いたベクターのコピー数(VCN)の解析についての結果を表3A〜Cに示す。
表3A〜Cは、3つの別々の実験についてのCD34+細胞のウイルスによる形質導入の促進におけるdmPGE2の用量応答を示す。CD34+細胞を解凍し、SCF、TPO、FltL、およびIL3で予備刺激し、次いで、(A)GFP+レンチウイルスを用いて感染多重度25で、(B)GFP+レンチウイルスを用いて感染多重度5で形質導入した、または(C)ALD(ABCD1)を発現しているレンチウイルスを用いて感染多重度25で形質導入した。細胞を、ウイルスによる形質導入ステップ(24〜48時間の培養)の間、dmPGE2に曝露させた。次いで、細胞を洗浄し、およそ1週間培養した後にフローサイトメトリーおよびPCRによって分析した。FACS染色によるGFP(A、B)またはALD(C)について陽性である細胞の百分率が、平均蛍光強度(MFI)およびベクターのコピー数(VCN)(A、B)と一緒に示されている。
(実施例6)
CD34+細胞のウイルスによる形質導入の促進における時間経過およびdmPGE2の用量応答
MCD−34+細胞を解凍し、SCF、TPO、FltLおよびIL3で予備刺激し、次いで、GFP+レンチウイルスを用いて感染多重度25で形質導入した。細胞を、ウイルスによる形質導入ステップ(24〜25時間の培養;24〜26時間の培養;24〜28時間の培養;または24〜48時間の培養)の間、dmPGE2に曝露させ、次いで、洗浄し、およそ1週間培養した後にフローサイトメトリーによって分析した。あるいは、細胞を、予備刺激ステップ(22〜24時間の培養;23〜24時間の培養)の間、dmPGE2に曝露させた。GFPについて陽性である細胞の百分率が表4に示されている。
(実施例7)
dmPGE2の存在下でレンチウイルスベクターを用いてHSCに形質導入した後のベータサラセミアまたは鎌状赤血球症の調整
動員末梢血は、インフォームドコンセントを行った患者から、承認された治験審査委員会(IRB)プロトコールに従って、アフェレーシスによって収集する。フィコール勾配を用いて赤血球を取り出し、Miltenyi CliniMACS system(Miltenyi Biotec)を使用してCD34+選択した後にCD34富化細胞を得る。細胞を、ヒトSCF、FltL、TPO、およびIL3を用いて、1mL当たり細胞およそ4E6個の濃度で18〜24時間にわたって予備刺激する。次いで、細胞に、ヒトβ−グロビンA−T87Q遺伝子を有するLentiglobin GTPを感染多重度25で用い、SCF、FltL、TPO、IL3、硫酸プロタミン、およびdmPGE2の存在下で18〜24時間にわたって形質導入する。
形質導入後に、リリース試験のために細胞の一部を取り出し、残りを凍結保存し、−80℃で保管する。リリース試験の一部として、次いで、ある個体についての形質導入された細胞を、7日間の培養、VCN解析(実施例1)に供して、平均で細胞当たり0.5〜3コピーであること、ならびに形質導入効率が>50%であることを確認する。リリース試験が上手く行ったら、患者は、ブスルファンおよびシクロホスファミドを用いた処置を受ける。
次いで、自己由来CD34+細胞の用量を、1kg当たり>3×106個のCD34+細胞の単一静脈内用量で被験体に静脈内投与する。患者を、毎日、移植ユニット内で有害事象および検査パラメータについて調査して、骨髄の生着をモニターする。
生着が起こり、患者が安定していれば、患者を退院させ、6カ月間にわたって月に1回、および合計24カ月間にわたって少なくとも3カ月ごと調査した。評価は、常套的な血液学および化学安全性検査評価ならびに特別な血液検査、骨髄検査、有害事象および併用薬の収集、ならびに特定の疾患特異的な血液パラメータおよび臨床パラメータの評価を含む。
主要エンドポイントは、Lentiglobinで形質導入された細胞注入の安全性および忍容性ならびに自己由来の操作されたCD34+細胞が生着するまでの時間である。追加のエンドポイントは、造血細胞および血液細胞における形質導入された遺伝子および遺伝子産物の存在の生物学的尺度および生化学的尺度、輸血の必要性、ならびに2年間の追跡調査期間の過程中の種々の時点で起こった入院および臨床的事象の数を含む。全ての患者を、少なくとも年に1回、移植後合計15年にわたって、重篤な有害事象、RCL検査、および悪性腫瘍が発生する事象における挿入変異誘発検査のための血液細胞の貯蔵について調査する。
(実施例8)
dmPGE2の存在下でHSCにレンチウイルスベクターを用いて形質導入した後の副腎白質ジストロフィーの調整
動員末梢血は、インフォームドコンセントを行った患者から、承認された治験審査委員会(IRB)プロトコールに従って、アフェレーシスによって収集する。フィコール勾配を用いて赤血球を取り出し、Miltenyi CliniMACS system(Miltenyi Biotec)を使用してCD34+選択した後にCD34富化細胞を得る。細胞を、ヒトSCF、FltL、TPO、およびIL3を用いて、1mL当たり細胞およそ4E6個の濃度で18〜24時間にわたって予備刺激する。次いで、細胞に、ヒトABCD1遺伝子を有するLenti−D GTPを感染多重度25で用い、SCF、FltL、TPO、IL3、硫酸プロタミン、およびdmPGE2の存在下で18〜24時間にわたって形質導入する。
形質導入後に、リリース試験のために細胞の一部を取り出し、残りを凍結保存し、−80℃で保管する。リリース試験の一部として、次いで、ある個体についての形質導入された細胞を、7日間の培養およびVCN解析(実施例1)に供して、平均で細胞当たり0.5〜3コピーであること、ならびに形質導入効率が>50%であることを確認する。リリース試験が上手く行ったら、患者は、ブスルファンおよびシクロホスファミドを用いた処置を受ける。
次いで、自己由来CD34+細胞の用量を、1kg当たり>3×106個のCD34+細胞の単一静脈内用量で被験体に静脈内投与する。患者を、毎日、移植ユニット内で有害事象および検査パラメータについて調査して、骨髄の生着をモニターする。
生着が起こり、患者が安定していれば、患者を退院させ、6カ月間にわたって月に1回、および合計24カ月間にわたって少なくとも3カ月ごと調査した。評価は、常套的な血液学的検査および化学安全性検査評価ならびに特別な血液検査、骨髄検査、有害事象および併用薬の収集、ならびに特定の疾患特異的な血液パラメータおよび臨床パラメータの評価を含む。
主要エンドポイントは、Lenti−Dで形質導入された細胞注入の安全性および忍容性ならびに自己由来の操作されたCD34+細胞が生着するまでの時間である。追加のエンドポイントは、造血細胞および血液細胞における形質導入された遺伝子および遺伝子産物の存在の生物学的尺度および生化学的尺度、脳MRIおよび認知検査、ならびに2年間の追跡調査期間の過程中の種々の時点で起こった入院および臨床的事象の数を含む。全ての患者を、少なくとも年に1回、移植後合計15年間にわたって、重篤な有害事象、RCL検査、および悪性腫瘍が発生する事象における挿入変異誘発検査のための血液細胞の貯蔵について調査する。
本発明の開示を読むことにより当業者が認識するように、多くの改変を上記の発明の詳細な説明を踏まえて実施形態に対して行うことができる。一般に、以下の特許請求の範囲において使用される用語は、特許請求の範囲を本明細書および特許請求の範囲に開示されている特定の実施形態に限定するものと解釈されるべきではなく、可能性のある実施形態の全てをそのような特許請求の範囲に権利が与えられる等価物の全範囲と一緒に包含するものと解釈されるべきである。したがって、特許請求の範囲は本開示により限定されない。