JP2018070685A - 防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに防汚方法 - Google Patents

防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに防汚方法 Download PDF

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聡一郎 谷野
Soichiro Yano
聡一郎 谷野
順治 仁井本
Junji Niimoto
順治 仁井本
淳内 筏井
Junnai Ikadai
淳内 筏井
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Abstract

【課題】多量の有機溶剤を含まず、良好な乾燥硬化性を有し、防汚性及び乾湿交互耐水性に優れる防汚塗膜を形成できる防汚塗料組成物、防汚塗料組成物により形成される防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、防汚塗膜を用いた防汚方法の提供。【解決手段】1分子中に1以上の式(I)で表される加水分解性エステル基、及び1以上のα,β−不飽和カルボニル基を有する加水分解性単量体(A)、1分子中に3以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する架橋剤(B)、及び多官能性求核剤(C)を含有する防汚塗料組成物。加水分解性エステル基がシリルエステル基であることが好ましい防汚塗料組成物。(R1は各々独立に一価の炭化水素基;Qはケイ素原子又は金属原子;xはQの価数;nは1〜xの整数;*は結合位置)【選択図】なし

Description

本発明は、防汚塗料組成物、これを用いた、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに防汚方法に関する。
船舶、水中構造物、漁具等は水中・海中において使用される際、その表面に水生生物による汚損が生じてその用途の障害となるため、防汚塗料組成物から形成される防汚塗膜によりその汚損を防ぐ方法が広く利用されている。
一般的な防汚塗料としては、水中において塗膜表層から樹脂バインダーの水和/加水分解が進行することで塗膜が更新する特性を防汚に利用する自己研磨型防汚塗料が広く用いられている。しかし、この特性を有する樹脂が一般的に高粘度であり、かつ水性塗料中では安定性に問題が生じやすいため、塗料組成物が良好なスプレー塗装作業性を確保するためには多量の有機溶剤(揮発性有機化合物(VOC))の使用が必要となるが、塗料乾燥時に大気中に放出されるため環境面からその改善が望まれている。
この問題の解決のため、例えば特許文献1には、特定のシリルエステル基を有し硬化剤及び/若しくは硬化触媒の存在下で硬化性であるプレポリマーを含むベース組成物(a)と硬化剤及び/若しくは硬化触媒を含む成分(b)を含む自己研磨型防汚塗料組成物が提案されている。
また、特許文献2では、加水分解性基又は親水性基を有するアミノ基含有硬化剤を用いて防汚塗膜を形成することが提案されている。
更に、特許文献3では、3官能以上であるものが50質量%以上含有される(メタ)アクリルエステルを含有する第一成分とアミノ基含有化合物を含有する第二成分から構成され、(メタ)アクリルエステル及び又はアミノ基含有化合物にエーテル等の親水部分構造を有することを特徴とする防汚塗料組成物が提案されている。
特開2012−102326号公報 特開2010−235792号公報 国際公開第2016/080391号
特許文献1に記載された発明では、上記のプレポリマーを使用する場合、その溶解のために一定量の有機溶剤が必要であり、有機溶媒使用量の削減幅は限定的である。
また、特許文献2では、加水分解性基とアミノ基が共存する化合物はそれらの基の間での化学反応に起因する変質、流動性の低下・消失が起こりやすいため、実際にはその組み合わせは限定される。
更に、特許文献3に記載された防汚塗料組成物では、マイケル付加反応を硬化反応に用いることで良好な硬化性を発揮し、かつ優れた防汚性を持つ防汚塗膜を得ることができるが、例えば船舶外板の海水面付近(乾湿交互部)など、高い耐水性(乾湿交互耐水性)が必要とされる環境中では、含有する親水基に起因して塗膜内部からクラックが発生するという課題がある。
本発明はこのような課題を鑑み、多量の有機溶剤を含まず、良好な乾燥硬化性を有し、防汚性及び乾湿交互耐水性に優れる防汚塗膜を形成できる防汚塗料組成物を提供することを目的とする。更に、本発明は、前記防汚塗料組成物により形成される防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに前記防汚塗膜を用いた防汚方法を提供することを目的とする。
本発明者らが鋭意検討した結果、以下に示す防汚塗料組成物を用いることで上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の要旨は以下のとおりである。
本発明は、以下の[1]〜[15]に関する。
[1] 加水分解性単量体(A)、架橋剤(B)、及び多官能性求核剤(C)を含有し、前記加水分解性単量体(A)が、1分子中に1以上の下記式(I)で表される加水分解性エステル基、及び1以上のα,β−不飽和カルボニル基を有し、前記架橋剤(B)が、1分子中に3以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有することを特徴とする防汚塗料組成物。

(式(I)中、Rは一価の炭化水素基を示し、Qはケイ素原子又は金属原子を示し、xはQの価数を示し、nは1〜xの整数を示し、*は結合位置を示し、x−nが2以上の整数であるとき、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。)
[2] 前記加水分解性単量体(A)が有する加水分解性エステル基が、下記式(II)で表されるシリルエステル基である、[1]に記載の防汚塗料組成物。

(式(II)中、R、R、及びRはそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を示し、*は結合位置を示す。)
[3] 前記加水分解性単量体(A)が有する加水分解性エステル基が、下記式(III)で表される金属エステル基である、[1]に記載の防汚塗料組成物。

(式(III)中、Mは銅又は亜鉛を示し、*は結合位置を示す。)
[4] 前記多官能性求核剤(C)が、多官能アミン化合物を含有する、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[5] 前記多官能アミン化合物が、m−キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、及びそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1つを含有する、[4]に記載の防汚塗料組成物。
[6] 更に、防汚剤(D)を含有する、[1]〜[5]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[7] 更に、モノカルボン酸及び/又はその塩(E)を含有する、[1]〜[6]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[8] 更に、加水分解性重合体(F)、その他バインダー成分及び/又は可塑剤(G)、顔料(H)、タレ止め剤・沈降防止剤(I)、並びに脱水剤(J)よりなる群から選択される少なくとも1つを含有する、[1]〜[7]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[9] 前記加水分解性単量体(A)を含有する第一のコンポーネントと、前記多官能性求核剤(C)を含む第二のコンポーネントとを少なくとも含む、多コンポーネント型防汚塗料組成物である、[1]〜[8]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物。
[10] [1]〜[9]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
[11] [10]に記載の防汚塗膜を基材上に有する、防汚塗膜付き基材。
[12] 前記基材が、船舶、水中構造物、漁網、又は漁具である、[11]に記載の防汚塗膜付き基材。
[13] [1]〜[9]のいずれか1つに記載の防汚塗料組成物を基材に塗布又は含浸し、塗布体又は含浸体を得る工程(工程1)、及び前記塗布体又は含浸体を硬化する工程(工程2)を有する、防汚塗膜付き基材の製造方法。
[14] [1]〜[9]のいずれか1つに記載の防汚塗膜組成物を硬化してなる防汚塗膜を形成する工程(工程i)、及び前記塗膜を基材に貼付する工程(工程ii)を有する、
防汚塗膜付き基材の製造方法。
[15] [10]に記載の防汚塗膜を使用する、防汚方法。
本発明によれば、多量の有機溶剤を含まず、良好な乾燥硬化性を有し、防汚性及び乾湿交互耐水性に優れる防汚塗膜を形成できる防汚塗料組成物を提供することができる。更に、本発明によれば、前記防汚塗料組成物により形成される防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに前記防汚塗膜を用いた防汚方法を提供することができる。
以下、本発明に係る防汚塗料組成物、防汚塗膜、防汚塗膜付き基材及びその製造方法、並びに防汚方法について詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「(メタ)アクリル酸」及び「(メタ)アクリレート」は、それぞれアクリル酸又はメタクリル酸、及びアクリレート又はメタクリレートを意味する。
[防汚塗料組成物]
本発明の防汚塗料組成物(以下、単に「塗料組成物」ともいう。)は、加水分解性単量体(A)、架橋剤(B)、及び多官能性求核剤(C)を含有し、前記加水分解性単量体(A)が、1分子中に1以上の下記式(I)で表される加水分解性エステル基、及び1以上のα,β−不飽和カルボニル基を有し、前記架橋剤(B)が、1分子中に3以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有することを特徴とする。
本発明によれば、多量の有機溶剤を含まず、良好な乾燥硬化性を有し、防汚性及び乾湿交互耐水性に優れる防汚塗膜を形成できる防汚塗料組成物が提供される。なお、「乾湿交互耐水性」とは、船舶外板の海水面付近等のように、常時浸水部又は常時非浸水部ではなく、当該部分が乾燥したり、湿潤状態に置かれる状況を繰り返す部分での耐水性を意味する。
なお、上記の効果が得られる詳細な作用機序は必ずしも明らかではないが、一部は以下のように推定される。すなわち、加水分解性単量体(A)が有するα,β−不飽和カルボニル基及び架橋剤(B)が有する(メタ)アクリレート基に対して、多官能性求核剤(C)がマイケル付加し、これにより、防汚塗料組成物が硬化する。加水分解性単量体(A)、架橋剤(B)及び多官能性求核剤(C)として、いずれも低分子量又は低粘度の化合物を選択することが可能であり、その結果、防汚塗料組成物が含有する有機溶剤の量を抑制しても、塗布性、特にスプレー塗布性に優れ、防汚塗料組成物として好適な粘度範囲に調整することができる。
また、加水分解性単量体(A)が有する加水分解性エステル基が、得られる防汚塗膜中に導入されるため、防汚塗膜の更新性が高まり、より防汚性に優れる防汚塗膜が得られるものと推定される。
更に、その詳細な作用機序は不明であるが、予測しがたい効果として、加水分解性単量体(A)、架橋剤(B)及び多官能性求核剤(C)を含有する防汚塗料組成物を使用して形成された防汚塗膜では、乾湿交互耐水性に優れていた。
以下、本発明の防汚塗料組成物が含有する各成分について詳述する。
<加水分解性単量体(A)>
本発明の防汚塗料組成物は、加水分解性単量体(A)を含有する。加水分解性単量体(A)は、1分子中に1以上の式(I)で表される加水分解性エステル基、及び1以上のα,β−不飽和カルボニル基を有する。
本発明の防汚塗料組成物は、加水分解性単量体(A)を含有することにより、加水分解性単量体(A)が後述する多官能性求核剤(C)とマイケル付加反応して加水分解性を有する防汚塗膜が形成できるため、該防汚塗膜が水中において塗膜表面から加水分解反応の進行とともに溶出・更新する特性を付与できる。この特性により該防汚塗膜は良好な防汚性と耐水性を発現することができる。
加水分解性単量体(A)が有する加水分解性エステル基は、下記式(I)で表される加水分解性エステル基である。

(式(I)中、Rは一価の炭化水素基を示し、Qはケイ素原子又は金属原子を示し、xはQの価数を示し、nは1〜xの整数を示し、*は結合位置を示し、x−nが2以上の整数であるとき、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。)
式(I)中、Rは一価の炭化水素基を示し、該一価の炭化水素基としては、アルキル基又はアリール基が例示され、該アルキル基は、直鎖状、分岐状又は環状のいずれでもよい。該アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜6である。該アリール基の炭素数は、好ましくは6〜20、より好ましくは6〜14、更に好ましくは6〜10である。また、前記アルキル基はアリール基で置換されていてもよく、該アリール基はアリール基又はアルキル基で置換されていてもよい。
また、Qは、ケイ素原子又は金属原子を示す。金属原子としては、マグネシウム、カルシウム、ネオジム、チタン、ジルコニウム、鉄、ルテニウム、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、及びアルミニウムが例示され、これらの中でも、Qとして好ましくはケイ素原子、亜鉛又は銅である。
式(I)中、xはQの価数を示し、Qが亜鉛又は銅であるとき、xは2であることが好ましい。また、Qがケイ素原子であるとき、xは4である。
式(I)中、nは1〜xを示し、*は結合位置を示す。
式(I)中、Qがケイ素原子であるとき、nは1であることが好ましく、Qが亜鉛又は銅であるとき、nは1又は2であることが好ましい。
加水分解性単量体(A)は、式(I’)で表される化合物であることが好ましい。

(式(I’)中、R11は一価の炭化水素基を示し、Qはケイ素原子又は金属原子を示し、xはQの価数を示し、nは1〜xの整数を示し、R12は下記式(I’−a)〜(I’−c)で表されるいずれかの基を示し、R12の少なくとも1つは、式(I’−a)又は式(I’−b)であり、x−nが2以上の整数であるとき、複数存在するR11は同一でも異なっていてもよく、nが2以上の整数であるとき、複数存在するR12は同一でも異なっていてもよい。)
(式(I’−a)〜式(I’−c)中、R13及びR14はそれぞれ独立に、水素原子又はメチル基を示し、R15は二価の有機基を示し、R16は末端エチレン性不飽和基を含有しない一価の有機基を示す。)
式(I’)中、Q、R11、x及びnは、式(I)中のQ、R、x及びnとそれぞれ同義であり、好ましい範囲も同様である。
式(I’−a)及び式(I’−b)中、R13及びR14は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、水素原子であることが好ましい。
式(I’−b)中、R15は二価の有機基を示し、アルキレン基及びアリーレン基よりなる群から選択される少なくとも1種と、任意にエステル結合、エーテル結合、及びアミド結合よりなる群から選択される少なくとも1種と、を組み合わせた二価の有機基が好ましい。前記アルキレン基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。
15の炭素数は、好ましくは1〜36、より好ましくは2〜24、更に好ましくは2〜12、より更に好ましくは2〜8である。
式(I’−c)中、R16は末端エチレン性不飽和基を含有しない一価の有機基を示し、末端エチレン性不飽和基を含有しない、炭素数1〜30の肪族炭化水素基、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基が好ましく例示される。これらの基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、水酸基が例示される。
前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、また、飽和脂肪族炭化水素基でも、不飽和脂肪族炭化水素基でもよい。なお、R16が不飽和脂肪族炭化水素基であるとき、R16は末端エチレン性不飽和基を含有しない。脂肪族炭化水素基の炭素数は、1〜30、好ましくは1〜28、より好ましくは1〜26、更に好ましくは炭素数1〜24である。なお、脂肪族炭化水素基は、更に脂環式炭化水素基や芳香族炭化水素基により置換されていてもよい。
前記脂環式炭化水素基は、飽和脂環式炭化水素基でも、不飽和脂環式炭化水素基でもよい。脂環式炭化水素基の炭素数は、3〜30、好ましくは4〜20、より好ましくは5〜16、更に好ましくは6〜12である。なお、脂環式炭化水素基は、更に脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基により置換されていてもよい。
前記芳香族炭化水素基の炭素数は、6〜30、好ましくは6〜24、より好ましくは6〜18、更に好ましくは炭素数6〜10である。なお、芳香族炭化水素基は、更に脂肪族炭化水素基や脂環式炭化水素基により置換されていてもよい。
16で表される基は、一塩基酸から形成される有機酸残基であることが好ましく、具体的には、バーサチック酸、パルミチン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、ピマル酸、デヒドロアビエチン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、及びナフテン酸よりなる群から選択される有機酸からカルボキシ基を除いた基が例示される。
これらの中でも、好ましくはアビエチン酸、バーサチック酸、ナフテン酸からカルボキシ基を除いた基、より好ましくはアビエチン酸、バーサチック酸からカルボキシ基を除いた基である。
前記式(I)で表される加水分解性エステル基は、加水分解速度及び安定性の観点から、下記式(II)で表されるシリルエステル基であることが好ましい。

(式(II)中、R、R、及びRはそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を示し、*は結合位置を示す。)
式(II)中、R〜Rとしては、直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基、及びアリール基等が挙げられ、前記アルキル基の炭素数は、好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4である。また、前記アリール基の炭素数は、好ましくは6〜14、より好ましくは6〜10である。防汚塗膜が水中で適切な速度で加水分解する観点から、R〜Rとしては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、n−ブチル基、2−エチルヘキシル基、フェニル基等が好適に例示され、これらの中でも、イソプロピル基、n−プロピル基、sec−ブチル基、n−ブチル基、及びフェニル基よりなる群から選択されることがより好ましく、R〜Rの全てがイソプロピル基であることが更に好ましい。
式(II)における*は結合位置を表し、上述した式(I’−a)又は式(I’−b)で表される基から、カルボニルオキシ基(−C(=O)−O−)を除いた基に結合していることが好ましく、式(I’−a)で表される基からカルボニルオキシ基を除いた基に結合していることがより好ましい。
加水分解性エステル基としては、例えば下記式(III)で表される金属エステル基も加水分解速度や安定性の観点で好ましい。

(式(III)中、Mは銅又は亜鉛を示し、*は結合位置を示す。)
式(III)における*は結合位置を表し、上述した式(I’−a)、(I’−b)又は式(I’−c)で表される基から、カルボニルオキシ基を除いた基に結合していることが好ましく、2つ存在する結合位置のうち、少なくとも一方は式(I’−a)又は(I’−b)で表される基からカルボニルオキシ基を除いた基に結合していることが好ましい。
加水分解性単量体(A)は、1分子中に上記の加水分解性基を同種又は異種で2以上含むものであってもよい。
加水分解性単量体(A)は、1分子中にα,β−不飽和カルボニル基を1つ以上有する。前記α,β−不飽和カルボニル基は、α,β位に不飽和結合を有するカルボニル基であり、後述の多官能性求核剤(C)とマイケル付加反応する官能基である。
本発明では、加水分解性単量体がα,β−不飽和カルボニル基を有するため、後述の架橋剤(B)と多官能性求核剤(C)とともに起こる硬化反応の過程で速やかに硬化塗膜成分中に加水分解性基が共有結合し、塗膜に加水分解特性を付与することができる。
α,β−不飽和カルボニル基を含む化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル((メタ)アクリロイルオキシ基(CH=CR−C(=O)−O−、Rは水素原子又はメチル基)を含む化合物)、(メタ)アクリルアミド((メタ)アクリルアミド基(CH=CR−C(=O)−NR−、Rは水素原子又はメチル基、Rは水素原子又は一価の炭化水素基)を含む化合物)、ビニルケトン(CH=CH−C(=O)−で表される基を含む化合物)、不飽和ジエステル(例えば、マレイン酸ジエステル、フマル酸ジエステル)等が挙げられ、良好な反応性を得る観点から(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、アクリル酸エステルがより好ましい。
また、α,β−不飽和カルボニル基は前述の加水分解性エステル基と構造を互いに共有していてもよい。例えば、後述のトリイソプロピルシリルアクリレートは、加水分解性基としてトリイソプロピルシリルエステル基と、α,β−不飽和カルボニル基を含む基としてアクリロイルオキシ基を有する。
加水分解性単量体(A)は、1分子中に上記のようなα,β−不飽和カルボニル基を同種又は異種で2以上含んでいてよい。
加水分解性単量体(A)の1分子中に含まれるα,β−不飽和カルボニル基が多いものを用いると防汚塗料組成物の硬化性を高めることができ、少ないものを用いると塗料成分を混合してから流動性を維持できる時間を長くして施工作業性を向上させることができる。
上記の観点から、加水分解性単量体(A)が1分子中に有するα,β−不飽和カルボニル基の数は、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、更に好ましくは1〜3、より更に好ましくは1又は2である。
このような加水分解性単量体(A)としては、シリルエステル基を有するものとしては、例えばトリメチルシリル(メタ)アクリレート、トリエチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、トリ−n−プロピル(メタ)シリルアクリレート、トリ−n−ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリイソブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ−sec−ブチルシリル(メタ)アクリレート、トリ(2−エチルヘキシル)シリル(メタ)アクリレート、トリ(n−オクチル)シリル(メタ)アクリレート、トリ(n−ドデシル)シリル(メタ)アクリレート、トリ(n−オクタデシル)シリル(メタ)アクリレート、(n−ブチル)ジイソプロピルシリル(メタ)アクリレート、フェニルジイソブチルシリル(メタ)アクリレート、ジ(2−エチルヘキシル)メチルシリル(メタ)アクリレート、マレイン酸ジ(トリイソプロピルシリル)等が挙げられ、加水分解速度や安定性の観点から、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートが好ましく、トリイソプロピルシリルアクリレートがより好ましい。
金属エステル基を有するものとしては、例えばジアクリル酸亜鉛、ジメタクリル酸亜鉛、メタクリル酸アクリル酸亜鉛、ジアクリル酸銅、ジメタクリル酸銅、メタクリル酸アクリル酸銅、ジ(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸)亜鉛、ジ(3−(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸)銅、ジ(3−メタクリロイルオキシ2−メチルプロピオン酸)亜鉛、ジ(3−メタクリロイルオキシ2−メチルプロピオン酸)銅、ジ(コハク酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)亜鉛、ジ(コハク酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)銅、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)亜鉛、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)銅、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)亜鉛、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)銅、ジ(フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)亜鉛、ジ(フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)銅、ジ(フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)亜鉛、ジ(フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシプロピル)銅、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)((メタ)アクリル酸)亜鉛、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)((メタ)アクリル酸)銅、(メタ)アクリル酸(ロジン)亜鉛、(メタ)アクリル酸(ロジン)銅、(メタ)アクリル酸(バーサチック酸)亜鉛、(メタ)アクリル酸(バーサチック酸)銅、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸(ロジン)亜鉛、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸(ロジン)銅、3−(メタ)アクリロイルオキシ2−メチルプロピオン酸(ロジン)亜鉛、3−(メタ)アクリロイルオキシ2−メチルプロピオン酸(ロジン)銅、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)(ロジン)亜鉛、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)(ロジン)銅、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)(バーサチック酸)亜鉛、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)(バーサチック酸)銅、(フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)(ロジン)亜鉛、(フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)(ロジン)銅等が挙げられ、本発明における防汚塗料組成物中での安定性、非析出性、加水分解速度の観点から炭素数4以上のカルボン酸が金属に結合した化合物が好ましく、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)亜鉛、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)銅、ジ(フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)亜鉛、ジ(フタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)銅、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)((メタ)アクリル酸)亜鉛、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)((メタ)アクリル酸)銅、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)(バーサチック酸)亜鉛、(ヘキサヒドロフタル酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)(バーサチック酸)銅、(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)(ロジン)亜鉛、(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)(ロジン)銅がより好ましく、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)亜鉛、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)銅、ジ(フタル酸2−アクリロイルオキシエチル)銅、(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)(アクリル酸)亜鉛、(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)(ロジン)亜鉛、(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)(バーサチック酸)亜鉛が更に好ましく、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)亜鉛、ジ(ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル)銅、ジ(フタル酸2−アクリロイルオキシエチル)銅がより更に好ましい。
金属エステル基を有する加水分解性単量体は、例えば、以下の手順で製造することができる。
まず、溶媒と酸化亜鉛等の金属成分とを混合した混合液を50〜80℃程度に加温しながら撹拌し、これに、メタクリル酸、アクリル酸、ヘキサヒドロフタル酸2−アクリロイルオキシエチル、フタル酸2−アクリロイルオキシエチル、ロジン、バーサチック酸等の有機酸、及び水等の混合液を滴下し、更に撹拌することにより金属エステル基を有する加水分解性基含有単量体を調製する。
加水分解性単量体(A)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明において、有機溶媒の使用量をより抑制する観点から、加水分解性単量体(A)は加水分解性基としてシリルエステル基を有することが好ましい。
防汚塗料組成物の固形分中の加水分解性単量体(A)の含有量は、防汚塗料組成物の硬化性や形成される塗膜の防汚性、耐水性の観点から、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜25質量%、更に好ましくは1〜15質量%、より更に好ましくは2〜8質量%である。
また、防汚塗料組成物中の加水分解性単量体(A)の含有量は、防汚塗料組成物の硬化性や形成される塗膜の防汚性、耐水性の観点から、後述の架橋剤(B)100質量部に対して好ましくは5〜800質量部、より好ましくは10〜350質量部、更に好ましくは20〜120質量部、より更に好ましくは20〜50質量部である。また、同様の観点から、防汚塗料組成物中の加水分解性単量体(A)の含有量は、後述の多官能性求核剤(C)100質量部に対して好ましくは5〜400質量部、より好ましくは20〜300質量部、更に好ましくは40〜200質量部である。
<架橋剤(B)>
本発明の防汚塗料組成物は、架橋剤(B)を含むものである。本発明において架橋剤(B)は、加水分解性単量体(A)とともに、後述の多官能性求核剤(C)とマイケル付加反応によって速やかな塗膜の硬化を促進することができ、得られる塗膜の耐水性を向上させることができる。
本発明において、架橋剤(B)は、1分子中に3以上の(メタ)アクリロイルオキシ基(CH=CR−C(=O)−O−、Rは水素原子又はメチル基を示す。)を有する化合物であり、反応性の観点から1分子中に3以上のアクリロイルオキシ基を有する化合物であることが好ましい。なお、本発明において、架橋剤(B)は、上述した式(I)で表される加水分解性エステル基を含有しない。
架橋剤(B)は、1分子中に(メタ)アクリロイルオキシ基を3以上の範囲で任意の数を有するものを用いてもよいが、1分子中に含まれる(メタ)アクリロイルオキシ基が多いものを用いるほど防汚塗料組成物の硬化性を高めることができ、少ないものを用いるほど塗料成分を混合してから流動性を維持できる時間を長くして施工作業性を向上させることができる。
架橋剤(B)が1分子中に有する(メタ)アクリロイルオキシ基の数は、好ましくは3〜40、より好ましくは4〜20である。
架橋剤(B)は1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
架橋剤(B)は、防汚塗料組成物の粘度を低く抑え、塗膜が良好な硬化性を得られる観点から、(メタ)アクリレート基の官能基当量が200g/mol未満であるものを含むことが好ましく、100g/mol未満であるものを含むことが更に好ましい。
このような架橋剤(B)としては、例えば、新中村化学工業(株)製の「A−TMPT」(トリメチロールプロパントリアクリレート)、「A−TMM−3」(ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリエステル37%)、「A−TMMT」(ペンタエリスリトールテトラアクリレート)、「A−DPH」(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート)、アルケマ(株)製の「M Cure400」(脂肪族多官能アクリレート、官能基当量80〜90g/mol)、「CN2304」(樹形エステル型多官能アクリレート、平均官能数18)などが挙げられる。
架橋剤(B)は、分子内にエーテル部分構造を有するものを用いてもよい。架橋剤(B)が分子内にエーテル部分構造を有すると、形成する塗膜の水中での研掃速度を高めて防汚性を向上させることができるが、耐水性が低下するため、適宜調整が必要であり、架橋剤(B)の成分全ての質量に占めるそれらの中のエーテル部分構造の質量が合計で20質量%未満であることが好ましい。より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
なお、エーテル部分構造は酸素原子とその一方に結合するアルキレンを1つのユニットとして規定する。例えば、アクリルエステル−R−(O−R)n−アクリルエステル〔式中、R、Rはそれぞれアルキレン基を表し、nは繰り返し単位数を表す〕で表される架橋剤(B)では、(O−R)nをエーテル部分構造とする。
このような分子内に親水部分を有する架橋剤(B)としては、アルケマ(株)製「SR494」(エトキシ化(4)ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エーテル部分構造比率=33質量%(ポリエーテル部分構造の分子量=44×4=176、分子全体の分子量528を用いて、176÷528≒0.33の式にて計算される。))等が挙げられる。
防汚塗料組成物の固形分中の架橋剤(B)の含有量は、防汚塗料組成物の硬化性や形成される塗膜の防汚性、耐水性の観点から、好ましくは1〜50質量%であり、より好ましくは3〜30質量%である。
また、防汚塗料組成物中の架橋剤(B)の含有量は、防汚塗料組成物の硬化性や形成される塗膜の防汚性、耐水性の観点から、後述の多官能性求核剤(C)100質量部に対して、好ましくは10〜500質量部、より好ましくは20〜200質量部である。
なお、防汚塗料組成物の固形分中の加水分解性単量体(A)及び架橋剤(B)の合計量は、硬化性や形成される塗膜の防汚性、耐水性の観点から、好ましくは3〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%、更に好ましくは8〜25質量%である。
また、防汚塗料組成物中の加水分解性単量体(A)及び架橋剤(B)の含有量は、防汚塗料組成物の硬化性や形成される塗膜の防汚性、耐水性の観点から、後述の多官能性求核剤(C)100質量部に対して、好ましくは50〜500質量部、より好ましくは100〜400質量部、更に好ましくは120〜350質量部である。
<多官能性求核剤(C)>
本発明の防汚塗料組成物は、多官能性求核剤(C)を含むものである。本発明において多官能性求核剤(C)は先述の加水分解性単量体(A)及び架橋剤(B)とマイケル付加反応して、塗膜の硬化反応を起こすものである。
多官能性求核剤(C)は1分子中に2以上の求核性基を有するものであれば特に制限がなく、例えば多官能アミン化合物、多官能チオール化合物、多官能アルコキシド化合物、多官能カルバニオン化合物等が挙げられ、マイケル付加反応性や安定性の観点から、多官能アミン化合物が好ましい。
多官能アミン化合物としては、通常、脂肪族系、脂環族系、芳香族系、複素環系などの二官能以上のアミン及びその誘導体を用いることができ、防汚塗料組成物が良好な硬化性を得られる観点から誘導体が好ましい。
脂肪族系アミンとしては、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ビスヘキサメチレントリアミン、m−キシリレンジアミン(MXDA)等が挙げられ、防汚塗料組成物の粘度や防汚塗膜の硬化性の観点から、MXDAが好ましい。
脂環族系アミンとしては、イソホロンジアミン(IPDA/3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン)、4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナンジアミン(NBDA/2,5−及び2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン)等が挙げられ、防汚塗料組成物の粘度や防汚塗膜の硬化性の観点から、IPDAが好ましい。
芳香族系アミンとしては、フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
複素環系アミンとしては、N−メチルピペラジン等が挙げられる。
アミンの誘導体としては、上記のようなアミンのポリアミド及びその誘導体、エポキシ化合物を付加させたエポキシアダクト体、マンニッヒ変性体、カルボン酸変性物等が挙げられ、形成する塗膜の耐水性の観点からエポキシアダクト体が好ましい。
多官能性求核剤(C)として多官能アミン化合物を用いる場合、防汚塗料組成物の硬化性、及び形成する塗膜の耐水性の観点から、そのアミン価は150〜700であることが好ましく、250〜500であることがより好ましい。
このようなアミンとして具体的には、エアープロダクツジャパン(株)製「アンカミン2074」(イソホロンジアミンのエポキシアダクト、アミン価約350)、アンカミン2089M」(変性脂肪族ポリアミン、アミン価約400)、「アンカミン2432」(変性脂肪族ポリアミン(含MXDA)、アミン価370)、大日本インキ化学工業(株)製「ラッカマイドTD−966」(ポリアミド、アミン価150〜190)、(株)ADEKA製「アデカハードナーEH−350」(変性ポリアミドのマンニッヒ変性体、アミン価320〜380)等が挙げられる。
また、前記アミン化合物をケトンで変性したケチミンを使用することができる。
具体的には、ケチミン変性脂環式ポリアミンであるアンカーケミカル社製「アンカミンMCA」(アミン価250〜350)などを例示することができる。
これらのアミンは、1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。
多官能性求核剤(C)としては、多官能性チオールを用いることもできる。このようなチオールとして具体的には、昭和電工(株)製「カレンズMT PE1」(ペンタエリスリトール テトラキス(3−メルカプトブチレート))等が挙げられる。チオールは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、アミンと併用してもよい。
多官能性求核剤(C)は、分子内にエーテル部分構造を有するものを用いてもよい。多官能性求核剤(C)が分子内にエーテル部分構造を有すると、形成する塗膜の水中での研掃速度を高めて防汚性を向上させることができるが、耐水性が低下するため、適宜調整が必要であり、多官能性求核剤(C)の成分全ての質量に占めるそれらの中のエーテル部分構造の質量が合計で20%未満となることが好ましく、10%未満となることが更に好ましい。
このような分子内に親水部分を有する多官能性求核剤(C)としては、HUNTSMAN社製「JEFFAMINE D−230」(ポリオキシプロピレンジアミン、平均分子量230)、「JEFFAMINE T−403」(ポリオキシプロピレントリアミン化合物、分子量440、エーテル部分構造比率70%(エーテル以外の部分構造の分子量=131を用いて、1−(131/440)≒0.70の式にて計算される。))等が挙げられる。
防汚塗料組成物の固形分中の多官能性求核剤(C)の含有量は、防汚塗料組成物の硬化性や形成される塗膜の防汚性、耐水性の観点から、好ましくは1〜40質量%、より好ましくは3〜20質量%、更に好ましくは5〜15質量%である。
防汚塗料組成物中の、多官能性求核剤(C)が含有する求核性基に対する、加水分解性単量体(A)及び架橋剤(B)が含有する重合性エチレン性不飽和基のモル比(重合性エチレン性不飽和基/求核性基)は、硬化性や形成される塗膜の防汚性、耐水性の観点から、好ましくは0.5〜20、より好ましくは1.0〜10、更に好ましくは2.0〜5.0である。
<その他の任意成分>
本発明の防汚塗料組成物は必要に応じて、防汚剤(D)、モノカルボン酸及び/又はその塩(E)、加水分解性重合体(F)、その他バインダー成分・可塑剤(G)、顔料(H)、タレ止め剤・沈降防止剤(I)、脱水剤(J)、有機溶剤(K)等を含有していてもよい。
〔防汚剤(D)〕
本発明においては、防汚塗膜に防汚性を付与する目的から、本発明の防汚塗料組成物は防汚剤(D)を含んでいてもよい。
防汚剤(D)としては、例えば、亜酸化銅、銅ピリチオン、亜鉛ピリチオン、チオシアン酸銅(ロダン銅)、銅(金属銅)、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(略称:DCOIT)、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル(略称:トラロピリル)、ボラン−窒素系塩基付加物(ピリジントリフェニルボラン、4−イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン等)、(+/−)−4−[1−(2,3−ジメチルフェニル)エチル]−1H−イミダゾール(略称:メデトミジン)、N−(2,4,6−トリクロロフェニル)マレイミド、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、クロロメチル−n−オクチルジスルフィド、2,3−ジクロロ−N−(2',6'−ジエチルフェニル)マレイミド、及び2,3−ジクロロ−N−(2'−エチル−6'−メチルフェニル)マレイミドが挙げられる。中でも、亜酸化銅、銅ピリチオン、亜鉛ピリチオン、DCOIT、トラロピリル、メデトミジンが好ましい。
これらの防汚剤(D)は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
〔モノカルボン酸及び/又はその塩(E)〕
本発明においては、防汚塗膜の更新性及び物性の調整、前記防汚剤(D)の塗膜からの溶出促進を目的として、モノカルボン酸及び/又はその塩(E)(以下、成分Eともいう。)を含んでいてもよい。
成分Eとしては、例えば、炭素原子数10〜40の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、炭素原子数3〜40の飽和若しくは不飽和の脂環式炭化水素基、或いはこれらの置換体を含むモノカルボン酸又はその塩が好ましい。
中でも、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、デヒドロアビエチン酸、パラストリン酸、イソピマル酸、ピマル酸、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸、バーサチック酸、ステアリン酸、ナフテン酸等が好ましい。
また、アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等を主成分とするロジン類も好ましい。ロジン類としてはガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン、水添ロジン、不均化ロジン、ロジン金属塩等のロジン誘導体、パインタールなどが挙げられる。
また、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸としては、例えば、2,6−ジメチルオクタ−2,4,6−トリエンとメタクリル酸との反応生成物が挙げられ、これは1,2,3−トリメチル−5−(2−メチルプロパ−1−エン−1−イル)シクロヘキサ−3−エン−1−カルボン酸、及び1,4,5−トリメチル−2−(2−メチルプロパ−1−エン−1−イル)シクロヘキサ−3−エン−1−カルボン酸を主成分(85質量%以上)とするものである。
本発明におけるモノカルボン酸は、その一部及び又は全てが塩を形成していてもよい。このような塩としては例えば亜鉛塩や銅塩などが挙げられ、防汚塗料組成物の作成前に予め形成されていても、防汚塗料組成物作成時に他の塗料成分との反応により形成されてもよい。
本発明の防汚塗料組成物がモノカルボン酸及び/又はその塩(E)を含有する場合、その量は、防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1〜90質量%、より好ましくは5〜70質量%である。
〔加水分解性重合体(F)〕
本発明においては、防汚塗膜への適度な耐水性・水中での表面更新性の付与を補助する目的から、加水分解性重合体(F)を含んでいてもよい。
本発明における加水分解性重合体(F)は水中で加水分解反応を生じる加水分解性基を有する重合体である。
加水分解性重合体(F)としては、一つの形として、前述のような加水分解性単量体(A)(ここでは、(f1)ともいう。)の単独重合体や、任意に加水分解性単量体(A)と共重合可能なその他単量体(f2)との重合反応によって得られる共重合体を用いることができる。
このような加水分解性単量体(A)としては前述のシリルエステル基及び又は金属エステル基を含むものが好ましい。
前記その他単量体(f2)としては例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート又はアリール(メタ)アクリレート;
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
オルガノシロキサン基含有(メタ)アクリレート;
スチレンなどのビニル化合物等が挙げられる。これら単量体は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明における加水分解性重合体(F)は、異なる形として、例えば国際特許公報WO2014/010702号公報に記載のような、2以上の酸基を含有する重合物と前記モノカルボン酸及び/又はその塩(E)と金属化合物とを反応させることによって得られる重合物であってもよい。
本発明の防汚塗料組成物が加水分解性重合体(F)を含有する場合、塗料組成物の粘度などの観点から、その含有量は防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは0.3〜30質量%であり、更に好ましくは3〜15質量%である。
〔その他バインダー成分・可塑剤(G)〕
本発明においては、防汚塗膜に耐水性や耐クラック性や強度を付与する目的から、本発明の防汚塗料組成物はその他バインダー成分・可塑剤(G)を含んでいてもよい。
その他バインダー成分・可塑剤(G)は加水分解性基を含有しない。
その他バインダー成分・可塑剤(G)としては、例えば、アクリル系共重合物、ビニル系共重合物、塩素化パラフィン、n−パラフィン、テルペンフェノール、トリクレジルフォスフェート(TCP)、ポリビニルエチルエーテル等が挙げられる。中でも、アクリル系共重合物、ビニル系共重合物、塩素化パラフィンが好ましい。このようなアクリル系共重合物やビニル系共重合物としては前記その他単量体(f2)として挙げたものを重合して得られるものを用いてよい。
これらのその他バインダー成分・可塑剤(G)は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
その他バインダー成分・可塑剤(G)としては市販品を用いてもよく、例えば、前記アクリル樹脂としては三菱レイヨン(株)製「ダイアナールBR−106」、前記塩素化パラフィンとしては東ソー(株)製「トヨパラックス A−40/A−50/A−70/A−145/A−150」等を挙げることができる。
本発明の防汚塗料組成物がその他バインダー成分・可塑剤(G)を含有する場合、その含有量は、防汚塗料組成物の固形分中0.1〜20質量%が好ましい。
〔顔料(H)〕
本発明においては、塗膜への着色や下地の隠ぺいを目的として、また、適度な塗膜強度に調整することを目的として、本発明の防汚塗料組成物は顔料(H)を含んでいてもよい。
顔料(H)としては、例えば、タルク、マイカ、クレー、カリ長石、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫化亜鉛等の体質顔料や、弁柄、チタン白(酸化チタン)、黄色酸化鉄、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等が挙げられ、中でもタルク、酸化亜鉛を含むことが好ましい。これらの顔料は、1種単独で、又は2種以上組み合わせて用いることができる。
本発明の防汚塗料組成物が顔料(H)を含有する場合、その含有量は、防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは1〜70質量%、より好ましくは3〜50質量%である。
〔タレ止め剤・沈降防止剤(I)〕
本発明においては、防汚塗料組成物の粘度を調整することを目的として、本発明の防汚塗料組成物はタレ止め剤・沈降防止剤(I)を用いてもよい。
タレ止め剤・沈降防止剤(I)としては、有機粘土系ワックス(Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩等)、有機系ワックス(ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、アマイドワックス、ポリアマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス等)、有機粘土系ワックスと有機系ワックスの混合物、合成微粉シリカ等が挙げられる。
タレ止め剤・沈降防止剤(I)としては市販品を用いてもよく、例えば、楠本化成(株)製の「ディスパロン305」、「ディスパロン4200−20」、「ディスパロンA630−20X」、伊藤製油(株)製の「A−S−A D−120」等が挙げられる。
本発明の防汚塗料組成物がタレ止め剤・沈降防止剤(I)を含有する場合、その含有量は、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜3質量%がより好ましい。
〔脱水剤(J)〕
本発明においては、防汚塗料組成物の貯蔵安定性を向上させることを目的として、本発明の防汚塗料組成物は脱水剤(J)を含有してもよい。
脱水剤(J)としては、例えば、アルコキシシラン、「モレキュラーシーブ」の一般名称で知られるゼオライト、アルミナ、オルトギ酸アルキルエステル等のオルトエステル、オルトホウ酸、イソシアネート等を挙げることができる。これらの脱水剤は、単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
発明の防汚塗料組成物が脱水剤(J)を含有する場合、その含有量は、防汚塗料組成物中、0.1〜10質量%が好ましく、0.2〜2質量%がより好ましい。脱水剤(J)の含有量が前記範囲内であると防汚塗料組成物の貯蔵安定性を良好に保つことができる。
〔有機溶剤(K)〕
本発明の防汚塗料組成物は有機溶剤の使用が少量であっても良好なスプレー塗装性を得られるものであるが、防汚塗料組成物の混合後の流動性を一定時間保つことを目的として一定量の有機溶剤(K)を用いてもよい。
有機溶剤(K)としては、芳香族炭化水素系、脂肪族炭化水素系、脂環族炭化水素系、ケトン系、エステル系、アルコール系の有機溶剤を用いることができ、好ましくは芳香族系炭化水素系の有機溶剤である。
芳香族炭化水素系の有機溶剤としては例えば、トルエン、キシレン、スチレン、メシチレン等が挙げられる。
脂肪族炭化水素系の有機溶剤としては例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等が挙げられる。
脂環族炭化水素系の有機溶剤としては例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等が挙げられる。
ケトン系の有機溶剤としては例えば、アセチルアセトン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、炭酸ジメチル等が挙げられる。
エステル系の有機溶剤としては例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられる。
アルコール系の有機溶剤としては、例えば、イソプロパノール、ノルマルブタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等が挙げられる。
本発明の防汚塗料組成物が有機溶剤(K)を含有する場合、その含有量は、防汚塗料組成物の塗布形態等に応じた所望の粘度によって好ましい量が決定されるが、0.1〜30質量%が好ましく、0.5〜15質量%が好ましい。
[防汚塗料組成物のキット]
本発明の防汚塗料組成物は、好ましくは2以上のコンポーネントからなる多液型塗料として調製される。本発明の防汚塗料組成物は、使用時の作業性の観点から、2つのコンポーネントからなる二液型塗料であることが好ましい。
各コンポーネント(各液)は、それぞれ1又は複数の成分を含有しており、別個に包装された後、缶等の容器に入れられた状態で貯蔵保管されることが好ましく、各コンポーネントの内容物を塗装時に混合することにより塗料組成物を調製することができる。
各コンポーネントに含まれる成分は互いの反応性が低く変質が起きにくいものを組み合わせることが塗料組成物の貯蔵安定性の観点から好ましく、特に加水分解性単量体(A)及び架橋剤(B)は、多官能性求核剤(C)と別のコンポーネントとすることが好ましい。
本発明の防汚塗料組成物は、加水分解性単量体(A)を含有する第一のコンポーネントと、多官能性求核剤(C)を含有する第二のコンポーネントを少なくとも含む、多コンポーネント型(多液型)防汚塗料組成物であることが好ましい。架橋剤(B)は、第一のコンポーネントに含有してもよく、第三のコンポーネントに含有してもよい。
より好ましくは、加水分解性単量体(A)、架橋剤(B)、及び任意にその他任意成分を含む第一のコンポーネント、多官能性求核剤(C)及び任意にその他任意成分を含む第二のコンポーネント、並びに任意にその他任意成分を含む第三以降のコンポーネントで構成される多コンポーネント型(多液型)防汚塗料組成物として提供することが好ましく、加水分解性単量体(A)、架橋剤(B)、及び任意にその他任意成分を含む第一のコンポーネント、並びに多官能性求核剤(C)及び任意にその他任意成分を含む第二のコンポーネントから構成される二液型防汚塗料組成物として提供することが更に好ましい。
なお、本発明の防汚塗料組成物において、加水分解性単量体(A)と、多官能性求核剤(C)とが共存すると、マイケル反応が生じるために、硬化反応が進行し、塗料組成物の安定性が不良となる傾向にある。そのため、加水分解性単量体(A)と多官能性求核剤(C)とは、塗布の直前に混合することが好ましい。
また、本発明の防汚塗料組成物は、予め加水分解性単量体(A)が有するα,β−不飽和カルボニル基、及び架橋剤(B)が有する(メタ)アクリレート基と、多官能性求核剤(C)が反応しているものではなく、塗布後にマイケル付加反応が生じることにより、塗膜の硬化が行われる点に大きな特徴を有するものである。このように、加水分解性単量体(A)、架橋剤(B)、及び多官能性求核剤(C)を含有する防汚塗料組成物とすることで、防汚塗料組成物の粘度を低くすることができ、その結果、有機溶剤の量を抑制しても、塗布性、特にスプレー塗布性に優れる防汚塗料組成物が得られる点で有利である。
[防汚塗料組成物の製造方法]
本発明の防汚塗料組成物はそれぞれ、公知の一般的な防汚塗料と同様の装置、手段等を用いて調製することができる。具体的には、それが含まれる場合、加水分解性重合体(F)を調製した後、この重合体の溶液と必要に応じてその他の添加剤とを、一度に、又は順次に添加して、撹拌、混合して、上述した各コンポーネントを製造すればよい。
また、使用に際し、各コンポーネントを混合して、防汚塗料組成物を調製することが好ましい。
[防汚塗膜、防汚塗膜付き基材の製造方法]
本発明の防汚塗膜は前記防汚塗料組成物を硬化させたものである。
具体的には、例えば、本発明の防汚塗料組成物をそれぞれ塗膜や基材上に塗布した後、硬化させることにより防汚塗膜を得ることができる。
本発明の防汚塗料組成物を塗布する方法としては、スプレー、及び刷毛、ローラーを用いる方法等の公知の方法を挙げることができる。
前述の方法により塗布した防汚塗料組成物は、例えば、25℃の条件下、0.5〜14日間程度放置することにより硬化し、塗膜を得ることができる。なお、防汚塗料組成物の硬化にあたっては、加熱下で送風しながら行ってもよい。
防汚塗膜の硬化後の膜厚はそれぞれそれらの研掃速度とそれらの使用される期間に応じて任意に選択されるが、例えば30〜1,000μm程度が好ましい。この膜厚の塗膜を製造する方法としては、塗料組成物を1回の塗布あたり好ましくは10〜300μm、より好ましくは30〜200μmの膜厚で、1回〜複数回塗布する方法が挙げられる。
本発明の防汚塗膜付き基材は、前記防汚塗料組成物により形成された防汚塗膜で被覆されており、前記防汚塗膜を基材上に有するものである。
本発明の防汚塗膜付き基材の製造方法は特に限定されないが、例えば、本発明の防汚塗料組成物を基材に塗布又は含浸し、塗布体又は含浸体を得る工程(1)、及び前記塗布体又は含浸体を乾燥する工程(2)を有する製造方法により得ることができる。
前記工程(1)において、防汚塗料組成物を基材に塗布する方法は、前述の塗布方法を採用することができる。また、含浸させる方法に特に制限はなく、含浸させるのに十分な量の防汚塗料組成物中に基材を浸すことにより行うことができる。更に前記塗布体又は含浸体を乾燥させる方法に特に制限はなく、防汚塗膜を製造する際の方法と同様の方法で乾燥させることができる。
また、本発明の防汚塗膜付き基材は、本発明の防汚塗料組成物を乾燥させてなる塗膜を形成する工程(i)、及び前記塗膜を基材に貼付する工程(ii)を有する製造方法により得ることもできる。
工程(i)において塗膜を形成する方法に特に制限はなく、防汚塗膜を製造する際の方法と同様の方法により製造することができる。
工程(ii)において塗膜を基材に貼付する方法に特に制限はなく、例えば、特開2013−129724号公報に記載の方法により貼付することができる。
本発明の防汚方法は、本発明の防汚塗料組成物により形成された防汚塗膜を使用するものであり、防汚塗膜により基材の表面を被覆することで、基材の汚損、具体的には、水生生物の付着等を抑制するものである。
本発明の防汚塗料組成物及び防汚塗膜は、船舶、漁業、海洋構造物等の広範な産業分野において、基材の防汚性を長期間に亘って維持するために利用することができる。そのような基材としては、例えば、船舶(コンテナ船、タンカー等の大型鋼鉄船、漁船、FRP船、木船、ヨット等の船体外板、新造船又は修繕船等)、漁業資材(ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ等)、メガフロート等の海洋構造物等が挙げられる。これらの中でも、基材は、船舶、水中構造物、及び漁具よりなる群から選択されることが好ましく、船舶及び水中構造物よりなる群から選択されることがより好ましく、船舶であることが更に好ましい。
また、本発明の防汚塗膜を表面に形成する対象の基材は、防錆剤等その他の処理剤により処理された面や、表面にすでにプライマー等の塗膜が形成されているものであってもよく、本発明の防汚塗料組成物が既に塗装されている面に上塗りしてもよい。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら制限されるものではない。以下では、特にその趣旨に反しない限り、「部」は質量部の意味である。
[加水分解性単量体(A−1)〜(A−6)の製造]
<製造例1−1:加水分解性単量体(A−1)溶液の製造>
撹拌機、脱水器、温度計及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器に2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸 540g、キシレン 400g、4−メトキシフェノール 0.1gを仕込み、撹拌しながら70℃に昇温して均一な溶液を得た。この溶液に酸化亜鉛 89.5gを加え、溶液がクリアになるまで加熱撹拌を続けた。次に、得られた反応溶液から生成水を減圧条件下で留去し、キシレンを加え不揮発分を調整して、加水分解性単量体(A−1)溶液を得た。
<製造例1−2:加水分解性単量体(A−2)溶液の製造>
撹拌機、温度計及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器に2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸 270g、アクリル酸 72g、プロピレングリコールモノメチルエーテル 85g、4−メトキシフェノール 0.3gを仕込み、撹拌して均一な溶液を得た。この溶液に液温50℃以下を保つ速さで酸化亜鉛 89.5gを加えた。その後、溶液がクリアになるまで50℃で加熱撹拌を続け、加水分解性単量体(A−2)溶液を得た。
<製造例1−3:加水分解性単量体(A−3)溶液の製造>
撹拌機、脱水器、温度計及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器に2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸 270g、ロジン(後述の表3に記載のもの)168g、キシレン 400g、4−メトキシフェノール 0.1gを仕込み、撹拌しながら70℃に昇温して均一な溶液を得た。この溶液に酸化亜鉛 89.5gを加え、溶液がクリアになるまで加熱撹拌を続けた。次に、得られた反応溶液から生成水を減圧条件下で留去し、キシレンを加え不揮発分を調整して、加水分解性単量体(A−3)溶液を得た。
<製造例1−4:加水分解性単量体(A−4)溶液の製造>
使用したロジンをバーサチック酸 176gに変更した以外は、製造例1−3と同様にして、加水分解性単量体(A−4)溶液を得た。
<製造例1−5:加水分解性単量体(A−5)溶液の製造>
撹拌機、温度計を備えた反応容器に2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸 540gと水 300gを仕込み、撹拌を開始した。この混合液に水酸化ナトリウム 84gを加え、その後1時間撹拌した。次にn−ブタノール 300gを加えた後、塩化銅(II)二水和物 153gを加えた。この反応液を1時間撹拌した後、n−ブタノール 700gと水 1,000gを加え、更に2時間撹拌した。得られた反応液の有機層を水層と分離し、更に2回水洗した後濃縮し、加水分解性単量体(A−5)溶液を得た。
<製造例1−6:加水分解性単量体(A−6)溶液の製造>
使用した2−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸を表1のように変更した以外は、製造例1−5と同様にして、加水分解性単量体(A−6)溶液を得た。
[加水分解性重合体(F)の製造]
加水分解性重合体(F)の製造にあたり、まず、加水分解性単量体(f1−1)及び(f1−2)を以下のとおり調製した。
<調製例1:加水分解性単量体(金属エステル基含有単量体)(f1−1)の調製>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器にプロピレングリコールモノメチルエーテル85.4質量部及び酸化亜鉛40.7質量部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、メタクリル酸43.1質量部、アクリル酸36.1質量部、及び水5.0質量部からなる混合物を滴下装置から3時間かけて等速滴下した。滴下終了後、更に2時間撹拌した後、プロピレングリコールモノメチルエーテルを36.0質量部添加して、加水分解性単量体(金属エステル基含有単量体)(f1−1)を含む反応液を得た。
<調製例2:加水分解性単量体(金属エステル基含有単量体)(f1−2)の調製>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器にプロピレングリコールモノメチルエーテル72.4質量部及び酸化亜鉛40.7質量部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、メタクリル酸30.1質量部、アクリル酸25.2質量部、バーサチック酸51.6質量部からなる混合物を滴下装置から3時間かけて等速滴下した。滴下終了後、更に2時間撹拌した後、プロピレングリコールモノメチルエーテルを11.0質量部添加して、加水分解性単量体(金属エステル基含有単量体)(f1−2)を含む反応液を得た。
<製造例2−1:加水分解性重合体(金属エステル基含有共重合体)溶液(F−1)の製造>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル15.0質量部、キシレン57.0質量部、及びエチルアクリレート4.0部を仕込み、撹拌しながら100±5℃に昇温した。同温度を保持しつつ滴下装置より、前記反応容器内に前記調製例1で得た金属エステル基含有単量体(f1−1)を含む反応液47.5質量部、メチルメタクリレート14.6質量部、エチルアクリレート52.6質量部、n−ブチルアクリレート7.5質量部からなる単量体混合物、重合開始剤2,2'−アゾビスイソブチロニトリル2.5質量部、重合開始剤2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)8.5質量部、連鎖移動剤「ノフマーMSD」1.0質量部、及びキシレン10.0質量部を6時間かけて滴下した。滴下終了後に重合開始剤t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン7.0質量部とを30分かけて滴下し、更に1時間30分撹拌した後、キシレンを6.9質量部添加して、加水分解性重合体(金属エステル基含有共重合体)を含む淡黄色透明の加水分解性重合体溶液(F−1)を調製した。
使用された単量体混合物の構成、並びに後述の方法により測定した加水分解性重合体溶液(F−1)の特性値を表2に示す。
<製造例2−2:加水分解性重合体(金属エステル基含有共重合体)溶液(F−2)の製造>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテル10.0質量部、キシレン63.0質量部、及びエチルアクリレート3.0部を仕込み、撹拌しながら100±5℃に昇温した。同温度を保持しつつ滴下装置より、前記反応容器内に前記調製例2で得た金属エステル基含有単量体(f1−2)を含む反応液50.3質量部、メチルメタクリレート9.0質量部、エチルアクリレート58.0質量部からなる単量体混合物、重合開始剤2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)5.0質量部及びプロピレングリコールモノメチルエーテル10.0質量部を4時間かけて滴下した。滴下終了後に重合開始剤t−ブチルパーオクトエート0.5質量部とキシレン7.0質量部とを30分かけて滴下し、更に1時間30分撹拌した後、キシレンを12.0質量部添加して、加水分解性重合体(金属エステル基含有共重合体)を含む淡黄色透明の加水分解性重合体溶液(F−2)を調製した。
使用された単量体混合物の構成、並びに後述の方法により測定した加水分解性重合体溶液(F−2)の特性値を表2に示す。
[実施例1〜26、並びに比較例1及び2:塗料組成物の製造及び評価]
<配合成分>
塗料組成物に用いた各成分を、以下の表3に示す。
<塗料組成物の製造>
表4〜表6に記載された配合(質量部)で、各配合成分を混合撹拌し防汚塗料組成物の各コンポーネントを得た。なお、表4〜表6に記載された各成分の配合量は、固形分の記載がある成分については有姿(当該成分及び溶剤等を含む全量)での配合量を示し、固形分の記載がない成分については固形分での配合量を示している。例えば、実施例1において、脂肪族アマイドの有姿での(全体としての)配合量は1.0質量部であり、固形分が20%であるので、そのうちの有効成分である脂肪族アマイド自身の配合量は0.2質量部である。
また、表4〜6に、塗料組成物100gに含まれる有機溶剤の量を併せて示した。一般的に、塗料組成物100g中の有機溶剤量が15g以下であれば有機溶剤がかなり少量であるといえる。
<評価>
〔塗料組成物の安定性〕
塗料組成物の各コンポーネントを40℃で1週間貯蔵した後、流動性の有無を評価し、流動性がある場合は合格、流動性がない場合は不合格とした。
〔塗料組成物の粘度測定〕
各塗料組成物の粘度は、23℃において各コンポーネントを混合して調整した各塗料組成物を、混合後1分以内にストーマー粘度計を用いて計測した。
粘度測定はBROOKFIELD社製「KU−2」(デジタルストーマー粘度計)を用いて行った。測定結果を表4〜表6に併せて示す。一般的に、粘度(KU)が100以下であれば良好なスプレー塗装性が得られる流動性であるといえる。
[防汚塗膜の製造]
サンドブラスト処理鋼板に、エポキシ系防錆塗料(商品名「バンノー500」、中国塗料(株)製)をその乾燥膜厚が100μmとなるように塗布し、常温で1日乾燥した。続いて、前記実施例の防汚塗料組成物をその乾燥膜厚が200μmとなるように1回塗布し、7日間乾燥硬化させて、塗膜付き試験板を作製した。
<防汚塗膜の評価>
〔防汚性評価試験〕
前述のようにして作製した試験板を広島湾内に夏季を含む6ヶ月間静置浸漬した後、塗膜に付着したフジツボの付着程度を下記〔防汚性評価基準〕に従って評価した。表4〜6にその結果を併せて示す。
−防汚性評価基準−
5:試験面におけるフジツボの付着面積が全体の1%未満
4:同上面積が全体の1%以上10%未満
3:同上面積が全体の10%以上30%未満
2:同上面積が全体の30%以上70%未満
1:同上面積が全体の70%以上
〔乾湿交互耐水性試験〕
前述のようにして作製した試験板を、常温海水に1週間浸漬/1日常乾する操作を4回繰り返し実施し、終了時点で発生した塗膜クラックを下記〔乾湿交互耐水性の評価基準〕に従って評価した。表4〜6にその結果を併せて示す。
−乾湿交互耐水性評価基準−
5:塗膜にクラックが発生しない
4:塗膜に、長さ1mm未満のクラックが発生しない
3:塗膜に、長さ1mm以上3mm未満のクラックが発生しない
2:塗膜に、長さ3mm以上10mm未満のクラックが発生しない
1:塗膜に、長さ10mm以上のクラックが発生する
実施例及び比較例の結果より明らかなように、本発明によれば、有機溶剤の使用が少量であっても粘度が低く、耐水性、塗膜物性、防汚性に優れた防汚塗膜を形成できる塗料組成物を提供することができる。

Claims (15)

  1. 加水分解性単量体(A)、架橋剤(B)、及び多官能性求核剤(C)を含有し、
    前記加水分解性単量体(A)が、1分子中に1以上の下記式(I)で表される加水分解性エステル基、及び1以上のα,β−不飽和カルボニル基を有し、
    前記架橋剤(B)が、1分子中に3以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有することを特徴とする
    防汚塗料組成物。

    (式(I)中、Rは一価の炭化水素基を示し、Qはケイ素原子又は金属原子を示し、xはQの価数を示し、nは1〜xの整数を示し、*は結合位置を示し、x−nが2以上の整数であるとき、複数存在するRは同一でも異なっていてもよい。)
  2. 前記加水分解性単量体(A)が有する加水分解性エステル基が、下記式(II)で表されるシリルエステル基である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。

    (式(II)中、R、R、及びRはそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を示し、*は結合位置を示す。)
  3. 前記加水分解性単量体(A)が有する加水分解性エステル基が、下記式(III)で表される金属エステル基である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。

    (式(III)中、Mは銅又は亜鉛を示し、*は結合位置を示す。)
  4. 前記多官能性求核剤(C)が、多官能アミン化合物を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
  5. 前記多官能アミン化合物が、m−キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、及びそれらの誘導体よりなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項4に記載の防汚塗料組成物。
  6. 更に、防汚剤(D)を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
  7. 更に、モノカルボン酸及び/又はその塩(E)を含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
  8. 更に、加水分解性重合体(F)、その他バインダー成分・可塑剤(G)、顔料(H)、タレ止め剤・沈降防止剤(I)、並びに脱水剤(J)よりなる群から選択される少なくとも1つを含有する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
  9. 前記加水分解性単量体(A)を含有する第一のコンポーネントと、前記多官能性求核剤(C)を含む第二のコンポーネントとを少なくとも含む、多コンポーネント型防汚塗料組成物である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物。
  10. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物から形成された防汚塗膜。
  11. 請求項10に記載の防汚塗膜を基材上に有する、防汚塗膜付き基材。
  12. 前記基材が、船舶、水中構造物、漁網、又は漁具である、請求項11に記載の防汚塗膜付き基材。
  13. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の防汚塗料組成物を基材に塗布又は含浸し、塗布体又は含浸体を得る工程(工程1)、及び
    前記塗布体又は含浸体を硬化する工程(工程2)を有する、
    防汚塗膜付き基材の製造方法。
  14. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の防汚塗膜組成物を硬化してなる防汚塗膜を形成する工程(工程i)、及び
    前記塗膜を基材に貼付する工程(工程ii)を有する、
    防汚塗膜付き基材の製造方法。
  15. 請求項10に記載の防汚塗膜を使用する、防汚方法。
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