JP6948390B2 - 積層防汚塗膜、積層防汚塗膜付き基材及びその製造方法、積層防汚塗膜形成用塗料キット、上層防汚塗料組成物、並びに防汚方法 - Google Patents
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Description
一方、このような防汚剤の効果を活かすために、加水分解性重合体を用いた自己研掃型防汚塗膜の使用が検討されている。自己研掃型防汚塗膜は、水中に接する塗膜表面で加水分解性重合体が加水分解反応して、親水的となった層が水流により研掃するプロセスによって連続して塗膜表面が更新される塗膜である。前述のような防汚剤は、塗膜表面から水中に徐々に拡散するため、塗膜表面における濃度が低下するが、この自己研掃型防汚塗膜と組み合わせることでその課題を改善することができる。例えば、特許文献3にはトラロピリルを含む2種以上の防汚剤と特定の基を側鎖に有するアクリル樹脂とを含有する防汚塗料組成物の開示がある。
[1] 下層防汚塗膜(X)と、上層防汚塗膜(Y)とが積層されてなる積層防汚塗膜であり、前記下層防汚塗膜(X)は、重合体(B1)と有機防汚剤(C1)とを含有し、前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、前記上層防汚塗膜(Y)は、加水分解性重合体(A2)を含有する積層防汚塗膜。
[2] 前記下層防汚塗膜(X)が、更に加水分解性重合体(A1)を含有する、[1]に記載の積層防汚塗膜。
[3] 前記下層防汚塗膜(X)に占める、前記重合体(B1)及び前記加水分解性重合体(A1)の総量が1〜90質量%である、[1]又は[2]に記載の積層防汚塗膜。
[4]前記加水分解性重合体(A1)及び/又は加水分解性重合体(A2)がシリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位を有する、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の積層防汚塗膜。
[5] 前記シリルエステル基含有単量体(a11)が、下記式(1−1)で表される、[4]に記載の積層防汚塗膜。
[7] 前記金属エステル基含有単量体(a12)が、下記式(1−2)で表される単量体(a121)及び下記式(1−3)で表される単量体(a122)の少なくとも1つを含有する、[6]に記載の積層防汚塗膜。
[9] [1]〜[8]のいずれか1つに記載の積層防汚塗膜で被覆された積層防汚塗膜付き基材。
[10] 前記基材が水中構造物、船舶、又は漁具である、[9]に記載の積層防汚塗膜付き基材。
[11] [1]〜[8]のいずれか1つに記載の積層防汚塗膜を使用する、防汚方法。
[12] 基材上に、下層防汚塗料組成物(x)を塗布し、下層防汚塗膜(X)を形成する工程、及び下層防汚塗膜(X)上に、上層防汚塗料組成物(y)を塗布し、上層防汚塗膜(Y)を形成する工程を有し、前記下層防汚塗料組成物(x)が、重合体(B1)と有機防汚剤(C1)とを含有し、前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、前記上層防汚塗料組成物(y)が、加水分解性重合体(A2)及び有機溶剤(D2)を含有する、積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
[13] 前記有機溶剤(D2)が、前記下層防汚塗料組成物(x)が含有する重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)を可溶である、[12]に記載の積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
[14] 前記有機溶剤(D2)が、炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、及びエステル系溶剤よりなる群から選択される1種以上を含有する、[12]又は[13]に記載の積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
[15] 前記上層防汚塗料組成物(y)が有機防汚剤(C2)を含有し、上層防汚塗料組成物(y)中の有機防汚剤(C2)の含有量(質量%)が、下層防汚塗料組成物(x)中の有機防汚剤(C1)の含有量(質量%)よりも低い、[12]〜[14]のいずれか1つに記載の積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
[16] 前記上層防汚塗料組成物(y)が、有機防汚剤(C2)を実質的に含有しない、[12]〜[15]のいずれか1つに記載の積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
[17] 重合体(B1)と有機防汚剤(C1)とを含有する下層防汚塗料組成物(x)、及び加水分解性重合体(A2)と有機溶剤(D2)とを含有する上層防汚塗料組成物(y)を含む積層防汚塗膜形成用塗料キットであり、前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、前記下層防汚塗料組成物(x)が含有する重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)が、前記有機溶剤(D2)に可溶である、積層防汚塗膜形成用塗料キット。
[18] 重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)を含有する下層防汚塗膜(X)の表面に塗装される上層防汚塗料組成物であり、前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、前記上層防汚塗料組成物が加水分解性重合体(A2)及び有機溶剤(D2)を含有し、前記有機溶剤(D2)が、下層防汚塗膜(X)が含有する重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)を可溶である、上層防汚塗料組成物。
本発明の積層防汚塗膜は、下層防汚塗膜(X)と、上層防汚塗膜(Y)とが積層されてなる積層防汚塗膜であり、前記下層防汚塗膜(X)は、重合体(B1)と有機防汚剤(C1)とを含有し、前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、前記上層防汚塗膜(Y)は、加水分解性重合体(A2)を含有する。
また、本発明の積層防汚塗膜付き基材は、基材が本発明の積層防汚塗膜で被覆されてなる。
更に、本発明の積層防汚塗膜付き基材の製造方法は、基材上に、下層防汚塗料組成物(x)を塗布し、下層防汚塗膜(X)を形成する工程、及び下層防汚塗膜(X)上に、上層防汚塗料組成物(y)を塗布し、上層防汚塗膜(Y)を形成する工程を有し、前記下層防汚塗料組成物(x)が、重合体(B1)と有機防汚剤(C1)とを含有し、前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、前記上層防汚塗料組成物(y)が、加水分解性重合体(A2)及び有機溶剤(D2)を含有する。
本発明の積層防汚塗膜付き基材は、本発明の積層防汚塗膜付き基材の製造方法により製造されたものであることが好ましい。また、本発明の積層防汚塗膜は、前記積層防汚塗膜付き基材の製造方法において使用される下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)により形成されることが好ましい。
上記効果が得られる詳細な作用機序は必ずしも明らかではないが、一部は以下のように推定される。すなわち、下層防汚塗膜(X)が含有する有機防汚剤(C1)が、下層防汚塗膜(X)を形成する際に、下層防汚塗膜(X)の表面近傍に偏在した場合であっても、該下層防汚塗膜(X)上に上層防汚塗膜(Y)を設けることで、積層防汚塗膜全体としての有機防汚剤(C1)の表面近傍への偏在が抑制され、外観不良の発生が抑制されると考えられる。
また、積層防汚塗膜において、上層防汚塗膜(Y)中に、下層防汚塗膜(X)から、継時的に有機防汚剤(C1)が供給されるために、その初期から、長期に亘って高い防汚性能を発揮することができると推定される。なお、上層防汚塗膜(Y)は、加水分解性重合体(A2)を含有するため、上層防汚塗膜(Y)が有する塗膜更新性によっても、防汚性が発揮される。特に、上層防汚塗膜(Y)を形成するための上層防汚塗料組成物(y)が有機溶剤(D2)を含有し、該有機溶剤(D2)が、下層防汚塗膜(X)が含有する重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)を可溶であると、上層防汚塗料組成物(y)を下層防汚塗膜(X)に塗布した際に、上層防汚塗料組成物(y)中に有機防汚剤(C1)が抽出され、上層防汚塗膜(Y)中に適度な量の有機防汚剤(C)が供給されるため、その初期から高い防汚性能を発揮することができると推定される。
また、一般的な防汚塗膜中に、有機防汚剤が均一に分布されている状態、又は表層に向かって偏在している防汚塗膜と比較して、本発明の積層防汚塗膜は下層方向に向かって有機防汚剤(C1)の濃度が高くなる濃度傾斜状態をとっていると考えられ、水中での有機防汚剤の塗膜からの拡散による消失の面で、上層から下層に向っての塗膜更新が下層に到達した際に有機防汚剤(C1)の濃度が高く保てるために防汚性能が良好となるということも推定される。
以下、下層防汚塗膜(X)、及び該下層防汚塗膜(X)の形成に好適な下層防汚塗料組成物(x)、並びに上層防汚塗膜(Y)、及び該上層防汚塗膜(Y)の形成に好適な上層防汚塗料組成物(y)について説明する。
なお、以下の説明において、下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)を総称して、防汚塗料組成物、又は塗料組成物ともいう。また、下層防汚塗料組成物(x)が含有する加水分解性重合体は加水分解性重合体(A1)、上層防汚塗料組成物(y)が含有する加水分解性重合体は加水分解性重合体(A2)のように、下層防汚塗料組成物(x)が含有する各成分には、成分を表すアルファベットの後に1、上層防汚塗料組成物(y)が含有する各成分には、成分を表すアルファベットの後に2を付し、これらを総称する場合には、加水分解性重合体(A)のように、数字を付さずに記載することとする。
本発明の積層防汚塗膜は、下層防汚塗膜(X)と上層防汚塗膜(Y)とが積層されてなる。下層防汚塗膜(X)と上層防汚塗膜(Y)は、隣接する層であることが好ましい。
下層防汚塗膜(X)は、重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)を含有する。下層防汚塗膜(X)は、更に加水分解性重合体(A1)を含有してもよい。
また、下層防汚塗膜(X)の形成に好適に使用される下層防汚塗料組成物(x)は、重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)を含有し、更に、有機溶剤(D1)を含有することが好ましい。また、前記成分に加え、加水分解性重合体(A1)を含有してもよい。
上層防汚塗膜(Y)は、加水分解性重合体(A2)を含有する。
また、上層防汚塗膜(Y)の形成に好適に使用される上層防汚塗料組成物(y)は、加水分解性重合体(A2)に加え、有機溶剤(D2)を含有することが好ましい。
以下、防汚塗膜及び防汚塗料組成物に使用される各成分について説明する。
本発明において、上層防汚塗膜(Y)は加水分解性重合体(A2)を含有し、下層防汚塗膜(X)は加水分解性重合体(A1)を含有してもよい。ここで、上述したように、加水分解性重合体(A1)及び加水分解性重合体(A2)を総称して、加水分解性重合体(A)ともいう。
上層防汚塗膜(Y)が、加水分解性重合体(A2)を含有することにより、上層防汚塗膜(Y)に適度な耐水性及び塗膜更新性による防汚性が付与される。また、下層防汚塗膜(X)が加水分解性重合体(A1)を含有する場合、下層防汚塗膜(X)に適度な耐水性及び塗膜更新性が付与される。
なお、本発明において、「aに由来する構成単位を有する重合体」とは、aが重合反応又は連鎖移動により導入された重合体を意味する。従って、例えば単量体(a2)がメルカプト基を有する場合には、ラジカル重合末端が−SHのHを引き抜き、生成した−S・(Sラジカル)が重合を開始する形で加水分解性重合体に導入されるが、このような場合にも、加水分解性重合体(A)は、その他の単量体(a2)に由来する構成単位を有するものである。
以下、各構成単位について説明する。
加水分解性重合体(A)は、(i)加水分解性基含有単量体(a1)に由来する構成単位を有する。
加水分解性基含有単量体(a1)としては、シリルエステル基含有単量体(a11)又は金属エステル基含有単量体(a12)が好ましく例示される。
上層防汚塗料組成物(y)が、シリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位を有する加水分解性重合体(A2)を含有することは、形成する積層防汚塗膜の防汚性や上層防汚塗膜(Y)と下層防汚塗膜(X)との層間密着性等を良好とする観点から好ましい。
また、上層防汚塗料組成物(y)が、金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有する加水分解性重合体(A2)を含有することも、形成する積層防汚塗膜の防汚性や防汚塗膜の塗膜物性等を良好とする観点で好ましい。
加水分解性重合体(A)中の加水分解性単量体(a1)に由来する構成単位の含有量は、加水分解性重合体の全構成単位を100質量部としたとき、好ましくは3〜80質量部、より好ましくは5〜70質量部である。
前記シリルエステル基含有単量体(a11)としては、下記式(1−1)で表される化合物を含有することが好ましい。
式(1−1)中、R12、R13及びR14はそれぞれ独立に一価の炭化水素基を示し、このような炭化水素基としては直鎖状、分岐鎖状、又は環状のアルキル基、及びアリール基などが挙げられる。前記アルキル基は、炭素数が好ましくは1〜12、より好ましくは1〜8、更に好ましくは1〜4である。また、前記アリール基は、炭素数が好ましくは6〜14、より好ましくは6〜10である。防汚塗膜に適度な加水分解性を付与して長期の防汚性及び耐水性を良好とする観点から、R12〜R14としては、イソプロピル基、n−プロピル基、sec−ブチル基、n−ブチル基、フェニル基から選ばれることが好ましく、R12〜R14の全てがイソプロピル基であることがより好ましい。
すなわち、シリルエステル基含有単量体(a11)としては、トリイソプロピルシリル(メタ)アクリレートが特に好ましく、トリイソプロピルシリルメタクリレートが最も好ましい。
なお、加水分解性重合体(A)中の各単量体等に由来する構成単位の各含有量(質量)の比率は、重合反応に用いる前記各単量体等(反応原料)の仕込み量(質量)の比率と同じものとしてみなすことができる。
本発明において、加水分解性基含有単量体(a1)は、金属エステル基含有単量体(a12)を含有することが好ましく、金属エステル基含有単量体が、下記式(1−2)で表される単量体(a121)及び下記式(1−3)で表される単量体(a122)の少なくとも1つを含有することが好ましい。
式(1−2)中、Mは二価の金属であり、上述した金属の中から、二価金属を適宜選択して用いることができる。これらの中でも、ニッケル、銅、及び亜鉛等の第10〜12族の金属が好ましく、銅、及び亜鉛がより好ましく、亜鉛が更に好ましい。
R21としては、末端エチレン性不飽和基を含有する不飽和脂肪族炭化水素基であることが好ましく、前記不飽和脂肪族炭化水素基は、炭素鎖内にエステル結合、アミド結合、エーテル結合を有していてもよい。R21として具体的には、アクリル酸(2−プロペン酸)、メタクリル酸(2−メチル−2−プロペン酸)、3−ブテン酸、4−ペンテン酸、10−ウンデセン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピオン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−メチルプロピオン酸等の末端エチレン性不飽和基を有する脂肪族不飽和モノカルボン酸から、カルボキシ基を除いた基が例示される。また、イタコン酸等の末端エチレン性不飽和基を含有する脂肪族不飽和ジカルボン酸から、1つのカルボキシ基を除いた基が例示される。
これらの中でも、R21としては、末端エチレン性不飽和基を含有する脂肪族不飽和モノカルボン酸からカルボキシ基を除いた基であることが好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、(メタ)アクリロイルオキシアルキルカルボン酸からカルボキシ基を除いた基であることがより好ましく、アクリル酸、メタクリル酸からカルボキシ基を除いた基であることが更に好ましい。
式(1−3)中、R32は、末端エチレン性不飽和基を含有しない炭素数1〜30の一価の有機基を示す。R32としては、末端エチレン性不飽和基を含有しない、炭素数1〜30の肪族炭化水素基、炭素数3〜30の脂環式炭化水素基、炭素数6〜30の芳香族炭化水素基が例示される。これらの基は、置換基を有していてもよい。該置換基としては、水酸基が例示される。
前記脂肪族炭化水素基は、直鎖状、分岐状のいずれでもよく、また、飽和脂肪族炭化水素基でも、不飽和脂肪族炭化水素基でもよい。なお、R32が不飽和脂肪族炭化水素基であるとき、R32は末端エチレン性不飽和基を含有しない。該脂肪族炭化水素基の炭素数は、1〜30、好ましくは1〜28、より好ましくは1〜26、更に好ましくは炭素数1〜24である。なお、該脂肪族炭化水素基は、更に脂環式炭化水素基や芳香族炭化水素基により置換されていてもよい。
前記脂環式炭化水素基は、飽和脂環式炭化水素基でも、不飽和脂環式炭化水素基でもよい。該脂環式炭化水素基の炭素数は、3〜30、好ましくは4〜20、より好ましくは5〜16、更に好ましくは6〜12である。なお、該脂環式炭化水素基は、更に脂肪族炭化水素基や芳香族炭化水素基により置換されていてもよい。
前記芳香族炭化水素基の炭素数は、6〜30、好ましくは6〜24、より好ましくは6〜18、更に好ましくは炭素数6〜10である。なお、該芳香族炭化水素基は、更に脂肪族炭化水素基や脂環式炭化水素基により置換されていてもよい。
これらの中でも、好ましくはアビエチン酸、バーサチック酸、ナフテン酸からカルボキシ基を除いた基、より好ましくはアビエチン酸、バーサチック酸からカルボキシ基を除いた基である。
加水分解性重合体(A)が、式(1−3)で表される単量体(a122)に由来する構成単位を有する場合、加水分解性重合体(A)は、式(1−3)で表される重合性化合物(単量体(a122))中の末端エチレン性不飽和基のみが重合することによって得られる構成単位を有することが好ましい。
加水分解性重合体(A)が、単量体(a121)又は(a122)に由来する構成単位を有する場合、全構成単位100質量部に対する単量体(a121)及び(a122)に由来する構成単位の含有量は、合計して、防汚塗膜の防汚性能や耐水性を良好とする観点から、好ましくは3〜40質量部、より好ましくは5〜30質量部である。
本発明において、加水分解性重合体(A)は、(ii)その他の単量体(a2)に由来する構成単位を有することが好ましい。
前記その他の単量体(a2)としては、前記単量体(a1)と共重合可能な単量体を制限なく用いることができる。これらの中でも、その他の単量体(a2)は、エチレン性不飽和化合物であることが好ましい。
前記その他の単量体(a2)としては例えば、
ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a21);
メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、3,5,5−トリメチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、セチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート又はアリール(メタ)アクリレート;
2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、4−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メトキシ−n−プロピル(メタ)アクリレート、2−プロポキシエチル(メタ)アクリレート、2−ブトキシエチル(メタ)アクリレート、イソブトキシブチルジグリコール(メタ)アクリレート、2−フェノキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のアルコキシアルキル(メタ)アクリレート;
ヒドロキシメチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、及び2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;
グリシジル(メタ)アクリレート;
スチレン、α−メチルスチレン、酢酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルトルエン、アクリロニトリル、ビニルピリジン、ビニルピロリドン、塩化ビニルなどのビニル化合物が挙げられ、特に耐スライム性等の防汚性能を向上させる点でポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a21)を含むことが好ましい。これら単量体は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
ポリオルガノシロキサンブロック含有単量体(a21)は、下記式(2)で表されることが好ましい。
(式(2)中、R1、R2及びR3はそれぞれ独立に、一価の炭化水素基を表し、Xはそれぞれ独立に、(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又はメルカプトアルキル基を表し、mは1以上、nは0以上であり、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、n+p+qは1以上である。)
式(2)中、Xはそれぞれ独立に(メタ)アクリロイルオキシアルキル基又はメルカプトアルキル基を表し、均一な重合の進行の観点からは(メタ)アクリロイルオキシアルキル基が好ましく、形成する重合体の粘度を低減し、取り扱いを容易とする観点からはメルカプトアルキル基も好ましい。このようなXとしては、(メタ)アクリロイルオキシエチル基、(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、(メタ)アクリロイルオキシブチル基やメルカプトメチル基、メルカプトエチル基、メルカプトプロピル基、メルカプトブチル基等が挙げられる。
式(2)中、mは1以上、nは0以上であり、p及びqはそれぞれ独立に0又は1であり、n+p+qは1以上である。
なお、m及びnは、それぞれ(SiR2 2O)、(SiXR3O)の平均繰り返し数を意味する。
式(2)中、m+nは、2以上であることが好ましい。
このような単量体(a211)に由来する構成単位を有する加水分解性重合体(A)を含有する防汚塗料組成物は、特に優れた防汚性を有する防汚塗膜を形成できる点で好ましい。
このような単量体(a211)は、重合容易性等の観点から、mは3〜200であることが好ましく、5〜70であることがより好ましい。
このような単量体(a211)としては、市販のものを用いることができ、例えば、JNC(株)製のFM−0711(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量Mn=1,000)、FM−0721(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量Mn=5,000)、FM−0725(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量Mn=10,000)、信越化学工業(株)製のX−22−174ASX(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量900g/mol)、KF−2012(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量4,600g/mol)、X−22−2426(片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量12,000g/mol)が挙げられる。
このような単量体(a212)に由来する構成単位を有する加水分解性重合体(A)を含有する防汚塗料組成物は、形成する積層防汚塗膜の層間密着性が良好となる傾向があるので好ましい。
このような単量体(a212)は、重合容易性等の観点から、mは3〜200であることが好ましく、5〜70であることがより好ましい。
このような単量体(a212)としては、市販のものを用いることができ、例えば、JNC(株)製のFM−7711(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量Mn=1,000)、FM−7721(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量Mn=5,000)、FM−7725(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量Mn=10,000)、信越化学工業(株)製のX−22−164(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量190g/mol)、X−22−164AS(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量450g/mol)、X−22−164A(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量860g/mol)、X−22−164B(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量1630g/mol)、X−22−164C(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量2,370g/mol)、X−22−164E(両末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量3,900g/mol)、X−22−167B(両末端メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量1,670g/mol)が挙げられる。
加水分解性重合体(A)がこのような単量体(a213)に由来する構成単位を有すると、粘度が低く取扱いが容易である点で好ましい。
このような単量体(a213)は、重合容易性等の観点から、mは好ましくは50〜1,000であり、nは好ましくは1〜30である。
このような単量体(a213)としては、市販のものを用いることができ、例えば、信越化学工業(株)製のKF−2001(側鎖メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量1,900g/mol)、KF−2004(側鎖メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量30,000g/mol)が挙げられる。
例えば、加水分解性基含有単量体(a1)が、前記単量体(a121)又は(a122)を含む場合は、例えば、無機金属化合物(好ましくは銅又は亜鉛の酸化物、水酸化物、塩化物等)と、メタクリル酸、アクリル酸等の有機酸又はそのエステル化物とを、有機溶剤及び水の存在下で金属塩の分解温度以下で加熱し、撹拌する等の公知の方法で合成することができる。
より具体的には、まず、溶剤と酸化亜鉛等の金属成分とを混合した混合液を50〜80℃程度に加温しながら撹拌し、これに、メタクリル酸やアクリル酸等の有機酸又はそのエステル体、及び水等の混合液を滴下し、更に撹拌することにより単量体(a121)又は(a122)を調製する。
次に、新たに用意した反応容器に溶剤を入れ80〜120℃程度に加温し、これに前記単量体(a121)又は(a122)並びにその他の単量体(a2)、重合開始剤、連鎖移動剤、及び溶剤等の混合液を滴下し重合反応を行うことにより、金属エステル基含有加水分解性重合体(A)を得ることができる。
加水分解性重合体(A)の製造における重合開始剤の使用量は、前記各単量体の合計100質量部に対して0.1〜20質量部が好ましい。
加水分解性重合体(A)の製造において連鎖移動剤を用いる場合、その使用量は、前記各単量体の合計100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましい。
数平均分子量(Mn)は、好ましくは1,000〜100,000、より好ましくは1,500〜30,000である。また、重量平均分子量(Mw)は、好ましくは2,000〜200,000、より好ましくは3,000〜60,000である。
前記数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーショングラフィにより測定し、標準ポリスチレンにて換算することにより求められる。
下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)中の加水分解性重合体(A)の含有量は、本発明における防汚塗料の塗装作業性や防汚塗膜の防汚性が向上する観点から、防汚塗料組成物の固形分中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは95質量%以下、更に好ましくは90質量%以下、より更に好ましくは88質量%以下である。
なお、本発明において、下層防汚塗料組成物(x)又は上層防汚塗料組成物(y)が加水分解性重合体(A)を2種以上含有する場合、上記の含有量は加水分解性重合体(A)の総含有量としての好ましい範囲であり、後述する各成分についても同様である。
また、加水分解性重合体(A)が金属エステル基含有単量体、好ましくは単量体(a121)及び/又は単量体(a122)に由来する構成単位を有する場合、下層防汚塗料組成物(x)又は上層防汚塗料組成物(y)の固形分中の加水分解性重合体(A)の含有量は、好ましくは10〜99質量%、より好ましくは15〜95質量%、更に好ましくは20〜90質量%、より更に好ましくは25〜88質量%である。
なお、本発明において塗料組成物が加水分解性重合体(A)を2種以上含有する場合、上記の含有量は加水分解性重合体(A)の総含有量としての好ましい範囲であり、後述する各成分についても同様である。
本発明において、下層防汚塗膜(X)及び下層防汚塗料組成物(x)は、重合体(B1)を含有する。下層防汚塗膜(X)及び下層防汚塗料組成物(x)は、重合体(B1)に加え、上述した加水分解性重合体(A1)を含有していてもよい。
なお、重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、かつ、前述した加水分解性重合体(A)を除く重合体である。従って、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有していても、シリルエステル基含有単量体(a11)及び/又は金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有する重合体は、重合体(B1)に該当しない。
すなわち、重合体(B1)は、前記加水分解性基含有単量体(a1)に由来する構成単位を含まない。
重合体(B1)は、23℃における有機溶剤(D2)に対する溶解度が10g/L以上であることがより好ましい。このような重合体(B1)を用いると、上層防汚塗料組成物(y)から形成される上層防汚塗膜(Y)に有機防汚剤(C1)を効率的に供給することができ、また、該上層防汚塗膜(Y)と下層防汚塗膜(X)との層間密着性を向上させることができる。
このような重合体(B1)として、具体的には、塩化ゴム、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン等の塩素化ポリオレフィン;(メタ)アクリル酸メチル系共重合体、(メタ)アクリル酸エチル系共重合体、(メタ)アクリル酸プロピル系共重合体、(メタ)アクリル酸ブチル系共重合体、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル系共重合体等のアクリル系樹脂;塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−プロピオン酸ビニル共重合体、塩化ビニル−イソブチルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル−イソプロピルビニルエーテル共重合体、塩化ビニル−エチルビニルエーテル共重合体等の塩化ビニル系樹脂(塩ビ共重合体);スチレン系樹脂;芳香族系石油樹脂;脂肪族系石油樹脂;尿素アルデヒド縮合系樹脂;ケトン系樹脂等を挙げることができる。
更に、重合体(B1)の他の好ましい態様としては、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体(以下、(メタ)アクリル系重合体ともいう。)が挙げられる。
本発明において、重合体(B1)は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよく、好ましい一態様として、上述した塩化ビニルに由来する構成単位を有する重合体と、(メタ)アクリル系重合体を併用することが挙げられる。
重合体(B1)の重量平均分子量は、5,000〜100,000の範囲であることが好ましい。
また、下層防汚塗料組成物(x)の固形分中、すなわち下層防汚塗膜(X)中の重合体(B1)及び加水分解性重合体(A1)の総含有量(合計含有量)は、積層防汚塗膜の防汚性や物性の観点から、好ましくは1〜90質量%、より好ましくは5〜60質量%、より好ましくは10〜50質量%である。
なお、前記上層防汚塗料組成物(y)も重合体(B2)を任意に含有していてもよいが、塗膜更新性の観点から、重合体(B2)を含有しないことが好ましい。
本発明において、下層防汚塗膜(X)及び下層防汚塗料組成物(x)は有機防汚剤(C1)を含有する。
本発明において、有機防汚剤(C1)は、防汚性を有し、かつ、金属元素を含有しない化合物である。なお、半金属であるホウ素は、金属元素に該当しない。
有機防汚剤(C1)として、具体的に、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル(別名:トラロピリル)、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(別名:DCOIT)、ピリジントリフェニルボラン、4−イソプロピルピリジンジフェニルメチルボラン等のボラン−窒素系塩基付加物、(+/−)−4−[1−(2,3−ジメチルフェニル)エチル]−1H−イミダゾール(別名:メデトミジン)、N,N−ジメチル−N’−(3,4−ジクロロフェニル)尿素(別名:ジウロン)、N−(2,4,6−トリクロロフェニル)マレイミド、2,4,5,6−テトラクロロイソフタルニトリル、2−メチルチオ−4−tert−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−1,3,5−トリアジン(別名:シブトリン)、クロロメチル−n−オクチルジスルフィド、N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド(別名:ジクロフルアニド)、テトラアルキルチウラムジスルフィド(別名:TMTD)、2,3−ジクロロ−N−(2’,6’−ジエチルフェニル)マレイミド、2,3−ジクロロ−N−(2’−エチル−6’−メチルフェニル)マレイミド等が例示される。
なお、防汚塗料組成物中、又は防汚塗膜中において、上記の有機防汚剤が塩を形成する場合を排除するものではなく、そのように塩を形成している場合であっても、有機防汚剤に該当するものである。
下層防汚塗料組成物(x)中の有機防汚剤(C1)の総含有量は、用いる化合物の効能やコストなどに応じて任意に選択できるが、積層防汚塗膜に優れた防汚性と物性を付与できる観点から、下層防汚塗料組成物(x)の固形分中に好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは1〜30質量%、更に好ましくは3〜20質量%である。なお、下層防汚塗膜(X)中の有機防汚剤(C1)の含有量は、上層防汚塗膜(Y)の形成時における、上層防汚塗料組成物(y)が含有する有機溶剤(D2)への溶解や、積層防汚塗膜中での下層防汚塗膜(X)から上層防汚塗膜(Y)への有機防汚剤(C1)の供給に伴い、変動する。従って、有機防汚剤(C1)の含有量は、下層防汚塗料組成物(x)の固形分中の含有量で規定することが最も適切である。
また、下層防汚塗料組成物(x)が、有機防汚剤(C1)としてDCOITを含有する場合、同様の観点から、DCOITの含有量は、下層防汚塗料組成物(x)の固形分中に好ましくは0.5〜15質量%、より好ましくは1〜12質量%であり、更に好ましくは2〜10質量%である。
なお、本発明において「塗料組成物が対象物を実質的に含有しない」とは、塗料組成物の固形分中の対象物の濃度が0.1質量%未満であることを意味し、好ましくは0.05質量%以下、より好ましくは0.03質量%以下であり、更に好ましくは0.01質量%以下である。
上層防汚塗料組成物(y)が有機防汚剤(C2)を含有する場合、その含有量は、上層防汚塗料組成物(y)の固形分中、好ましくは0.1質量%〜10質量%であり、より好ましくは0.3質量%〜5質量%である。
本発明において、上層防汚塗料組成物(y)は、下層防汚塗膜(X)中から有機防汚剤(C1)を抽出すること、及び該上層防汚塗料組成物(y)の粘度を調整することを目的として、有機溶剤(D2)を含有することが好ましい。なお、上層防汚塗料組成物(y)は、有機溶剤(D2)として、前記加水分解性重合体(A2)を調製する際に使用した溶剤を含有してもよく、加水分解性重合体(A2)と必要に応じてその他の成分とを混合する際に、別途添加された溶剤を含有してもよい。
本発明において、有機溶剤(D2)として、前述した有機防汚剤(C1)及び重合体(B1)が可溶であるものを選択することが好ましい。なお、本発明において、「可溶である」とは、23℃における溶解度が1g/L以上であることを意味する。
有機溶媒(D2)としては、有機防汚剤(C1)の23℃における溶解度が10g/L以上であるものを含むことが好ましく、100g/L以上であるものを含むことがより好ましい。
また、有機溶媒(D2)としては、重合体(B1)の23℃における溶解度が10g/L以上であるものを含むことが好ましく、100g/L以上であるものを含むことがより好ましい。
溶解度は例えば以下の方法で決定することができる。
溶解度を測定する溶質100gと溶媒1Lを容器内で十分に撹拌して均一な懸濁液とした後、上澄みにおける媒質の濃度をHPLC等の測定方法で計測することで決定することができる。混合物が均一な溶液となる場合は溶解度100g/L以上である。
上層防汚塗料組成物(y)が、有機溶剤(D2)としてエステル系有機溶剤又はケトン系有機溶剤を含有する場合、その含有量は、上層防汚塗料組成物(y)中に1〜50質量%であることが好ましく、2〜30質量%であることがより好ましい。
本発明において、上層防汚塗料組成物(y)が含有する有機溶剤(D2)が、下層防汚塗膜(X)及び下層防汚塗料組成物(x)が含有する有機防汚剤(C1)を可溶であることが好ましい。ここで、有機溶剤(D2)が、有機防汚剤(C1)を可溶であるとは、有機溶剤(D2)が2種以上の有機溶剤を含有する場合、(i)有機溶剤(D2)の中で、最も含有量(質量%)が多い有機溶剤に可溶である、又は(ii)2種以上の有機溶剤の混合液である、上層防汚塗料組成物(y)が含有する有機溶剤(D2)全体に対して可溶である、の少なくともいずれかを満たすことを意味する。なお、「可溶である」とは、上述の通り、23℃における溶解度が1g/L以上であることを意味し、10g/L以上であることが好ましく、100g/L以上であることがより好ましい。
また、下層防汚塗料組成物(x)中の有機溶剤(D1)の含有量は、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜70質量%である。
本発明において、下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)は、上述した成分に加え、他の成分を含有していてもよい。
〔その他防汚剤(E)〕
本発明の塗料組成物は、形成する塗膜の防汚性を更に向上させる目的で、その他防汚剤(E)を更に含有してもよい。本発明においてその他防汚剤(E)は、前記有機防汚剤(C)以外の防汚剤であり、金属元素を含有する。また、有機防汚剤(C)及びその他防汚剤(E)を総称して、防汚剤ともいう。
前述の通り、本発明の積層防汚塗膜は、下層防汚塗膜(X)に由来する有機防汚剤(C1)の最適利用により優れた防汚性を発揮するが、特に上層防汚塗料組成物(y)がその他防汚剤(E)を含有することで、更にその防汚性能を向上させることができる。本発明はある一面において、高汚損環境に対応可能な防汚性能を得るために本来必要とされるこのような防汚剤を節減することができ、外部環境へのこのような防汚剤の放出を低減できるという効果を得られるものである。
また、下層塗料組成物(x)がその他防汚剤(E)を含有する場合、その塗膜に防汚性が必要とされる状況において塗膜に良好な防汚性が発揮させられる。
このうち、亜酸化銅の平均粒子径は、0.1〜30μm程度のものが長期防汚性を発揮する上で好ましく、グリセリン、ステアリン酸、ラウリン酸、ショ糖、レシチン、鉱物油等によって表面処理されているものが、貯蔵時の長期安定性の点で好ましい。このような亜酸化銅の市販品としては、NC−301(エヌシー・テック(株)製)、NC−803(エヌシー・テック(株)製)、Red Copp97N Premium(AMERICAN CHEMET Co.製)、Purple Copp(AMERICAN CHEMET Co.製)、LoLoTint97(AMERICAN CHEMET Co.製)などが挙げられる。
本発明において、防汚塗料組成物がその他防汚剤(E)を含有する場合、その総含有量は用いる化合物の効果や入手容易性の観点から任意に選択することができるが、形成する積層防汚塗膜の防汚性、物性を良好とする観点や環境負荷を低減する観点から、各防汚塗料組成物の固形分中に0.1〜90質量%であることが好ましい。
下層防汚塗料組成物(x)又は上層防汚塗料組成物(y)が、それぞれ亜酸化銅又はロダン銅を含有する場合、その総含有量は、それぞれの塗料組成物の固形分中、好ましくは10〜80質量%、より好ましくは30〜70質量%である。
下層防汚塗料組成物(x)又は上層防汚塗料組成物(y)が、それぞれ亜鉛ピリチオン又は銅ピリチオンを含有する場合、その総含有量は、それぞれの塗料組成物の固形分中、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%である。
本発明の塗料組成物は、塗膜への着色や下地の隠ぺいを目的として、また、適度な塗膜強度に調整することを目的として、防汚剤以外のその他顔料(F)を含有してもよい。
その他顔料(F)としては、例えば、酸化亜鉛、タルク、マイカ、クレー、カリ長石、炭酸カルシウム、カオリン、アルミナホワイト、ホワイトカーボン、水酸化アルミニウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、硫化亜鉛等の体質顔料や、弁柄(赤色酸化鉄)、チタン白(酸化チタン)、黄色酸化鉄、カーボンブラック、ナフトールレッド、フタロシアニンブルー等の着色顔料が挙げられ、中でも酸化亜鉛、タルクを含むことが好ましい。これらのその他顔料(F)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の塗料組成物がその他顔料(F)を含有する場合、その含有量は、形成される防汚塗膜に求められる隠ぺい性や、防汚塗料組成物の粘度によって好ましい量が決定されるが、塗料組成物の固形分中1〜60質量%が好ましい。
本発明の塗料組成物は、モノカルボン酸化合物(G)を含有していてもよい。
本発明において、モノカルボン酸化合物(G)は、形成される塗膜の水中での表面からの更新性を向上させ、また、その塗膜が防汚剤を含む場合には、防汚剤の水中への放出を促進することで塗膜の防汚性を高めるものであり、更に塗膜に適度な耐水性を付与する機能も有する。
モノカルボン酸化合物(G)としては、例えば、モノカルボン酸化合物をR−COOHで表したとき、Rが炭素原子数10〜40の飽和若しくは不飽和の脂肪族炭化水素基、又は炭素原子数3〜40の飽和若しくは不飽和の脂環式炭化水素基、或いはこれらの置換体であることが好ましい。
また、アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマル酸等を主成分とするロジン類も好ましい。ロジン類としてはガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等のロジン、水添ロジン、不均化ロジン、ロジン金属塩等のロジン誘導体、パインタールなどが挙げられる。
また、トリメチルイソブテニルシクロヘキセンカルボン酸としては、例えば、2,6−ジメチルオクタ−2,4,6−トリエンとメタクリル酸との反応生成物が挙げられ、これは1,2,3−トリメチル−5−(2−メチルプロパ−1−エン−1−イル)シクロヘキサ−3−エン−1−カルボン酸、及び1,4,5−トリメチル−2−(2−メチルプロパ−1−エン−1−イル)シクロヘキサ−3−エン−1−カルボン酸を主成分(85質量%以上)とするものである。
本発明の塗料組成物がモノカルボン酸化合物(G)及び/又はその金属エステルを含有する場合、塗料組成物の塗装作業性や防汚塗膜の耐水性の観点から、その含有量は、塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1〜50質量%となる量であり、より好ましくは1〜20質量%となる量である。
本発明の塗料組成物は、その貯蔵安定性を向上させる目的から、脱水剤(H)を含有してもよい。脱水剤(H)としては、無機系脱水剤として、合成ゼオライト、無水石膏(硫酸カルシウム)、半水石膏(別名:焼石膏)が例示され、有機系脱水剤として、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のアルコキシシラン類又はその縮合物、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル等のオルト蟻酸アルキルエステル類が例示される。脱水剤(H)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の塗料組成物が脱水剤(H)を含有する場合、その含有量は、塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1〜20質量%となる量であり、より好ましくは0.2〜15質量%となる量である。
本発明の塗料組成物は、防汚塗膜に可塑性を付与することを目的として、可塑剤(I)を含有してもよい。
可塑剤(I)としては、例えば、トリクレジルホスフェート(TCP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジイソデシルフタレート(DIDP)等を挙げることができる。これらの可塑剤は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の塗料組成物が可塑剤(I)を含有する場合、その含有量は、塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1〜10質量%となる量であり、より好ましくは0.5〜10質量%となる量である。可塑剤(I)の含有量が前記範囲内にあると、塗膜の可塑性を良好に保つことができる。
本発明の塗料組成物は、塗料組成物の粘度を調整することを目的として、タレ止め剤・沈降防止剤(J)を含有してもよい。
タレ止め剤・沈降防止剤(J)としては、有機粘土系ワックス(Al、Ca、Znのステアレート塩、レシチン塩、アルキルスルホン酸塩等)、有機系ワックス(ポリエチレンワックス、酸化ポリエチレンワックス、アマイドワックス、ポリアマイドワックス、水添ヒマシ油ワックス等)、有機粘土系ワックスと有機系ワックスの混合物、合成微粉シリカ等が挙げられる。
タレ止め剤・沈降防止剤(J)としては市販品を用いてもよく、例えば、楠本化成(株)製の「ディスパロン305」、「ディスパロン4200−20」、「ディスパロンA630−20X」、「ディスパロン6900−20X」、伊藤製油(株)製の「A−S−A D−120」等が挙げられる。
本発明の塗料組成物がタレ止め剤・沈降防止剤(J)を含有する場合、その含有量は、塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1〜10質量%となる量であり、より好ましくは0.2〜5質量%となる量である。
本発明の塗料組成物は、形成される防汚塗膜に耐水性、耐クラック性や強度を付与する目的から、バインダー成分(K)を含有してもよい。
バインダー成分(K)としては、例えば、塩素化パラフィン、n−パラフィン、ポリエステル系重合体、テルペンフェノール樹脂、石油樹脂類、ケトン樹脂等が挙げられる。中でも、塩素化パラフィン、ポリエステル系重合体、石油樹脂類が好ましい。
バインダー成分(K)は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
また、塩素化パラフィンは、一分子中、好ましくは8〜30個、より好ましくは10〜26個の平均炭素数を有している。このような塩素化パラフィンを含む防汚塗料組成物は、クラック(割れ)やハガレ等の少ない防汚塗膜を形成することができる。なお、上記平均炭素数が8未満では、塗膜においてクラックの発生を抑制する効果が不足することがある。
また、塩素化パラフィンの粘度(単位ポイズ、測定温度25℃)は、好ましくは1以上、より好ましくは1.2以上であり、その比重(25℃)は、好ましくは1.05〜1.80g/cm3、より好ましくは1.10〜1.70g/cm3である。
塩素化パラフィンの塩素化率(塩素含有量)は、塩素化パラフィンを100質量部とした場合、通常35〜70質量部であり、好ましくは35〜65質量部である。このような塩素化率を有する塩素化パラフィンを含む塗料組成物は、クラック(割れ)、ハガレ等の少ない塗膜を形成することができる。
上記多価アルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、グリセリン、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン(TMP)、ぺンタエリスリトール、ソルビトール;ジエチレングリコール等のポリアルキレングリコール;等が挙げられ、原料の入手容易さからプロピレングリコール、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、TMPが好ましい。これらの多価アルコールは2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
上記多価カルボン酸及び/又はその無水物としては、例えば、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナメチレンジカルボン酸、1,10−デカメチレンジカルボン酸、1,11−ウンデカメチレンジカルボン酸、1,12−ドデカメチレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカヒドロナフタレンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、コハク酸等、及びこれらの無水物が挙げられ、無水フタル酸、アジピン酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸無水物が好ましい。
ポリエステル系重合体は、塗料組成物の貯蔵安定性、塗膜の防汚性や適度な親水性を付与する観点から、固形分水酸基価が50〜150mgKOH/gであることが好ましく、80〜120mgKOH/gであることがより好ましい。
ポリエステル系重合体は、溶剤に溶解させて、溶液(以下、ポリエステル系重合体溶液ともいう。)として用いてもよい。溶剤としては前述の有機溶剤(D2)として挙げたものを用いることができる。
ポリエステル系重合体溶液の粘度は、塗料組成物の粘度を低減する観点から、25℃において3,000mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは1,000mPa・s以下である。
なお、ポリエステル系重合体溶液は、未反応の原料が含まれていてもよい。
前記石油樹脂類としては、C5系、C9系、スチレン系、ジクロロペンタジエン系、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。
本発明の塗料組成物がバインダー成分(K)を含有する場合、その含有量は塗料組成物の固形分中、好ましくは0.1〜10質量%である。
本発明の塗料組成物、特に下層防汚塗料組成物(x)は、エポキシ樹脂(L)を含有していてもよい。
エポキシ樹脂(L)は、1分子中に2以上のエポキシ基を有し、硬化剤との反応により硬化させることができる反応硬化型樹脂である。
また、エポキシ樹脂(L)は、塩化ビニル系重合体が重合体(B1)として下層防汚塗料組成物(x)に含有される場合は、塩素捕捉による安定化剤としても機能する。
エポキシ樹脂(L)としては、ビスフェノール型、ノボラック型、脂肪族型などが挙げられ、施工性や防錆性の観点から好ましくはビスフェノール型エポキシ樹脂である。
ビスフェノール型エポキシ樹脂としては、エポキシ当量が160〜500のものが好ましく、180〜500のものがより好ましい。
前記ビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールAポリプロピレンオキシドジグリシジルエーテル、ビスフェノールAエチレンオキシドジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールAプロピレンオキシドジグリシジルエーテル等のビスフェノールA型ジグリシジルエーテルなどが挙げられ、また、前記ビスフェノールFタイプのエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールFジグリシジルエーテル等のビスフェノールF型ジグリシジルエーテルが挙げられる。
本発明において、下層防汚塗料組成物(x)がエポキシ樹脂(L)を含有する場合、その含有量は、積層防汚塗膜の防汚性や防食性、硬化性、塗膜物性等を良好にする観点から、下層防汚塗料組成物(x)の固形分中、1〜60質量%が好ましく、3〜50質量%がより好ましい。
本発明において、下層防汚塗膜(X)が防汚性能を必要とされる場合には、その防汚性を良好とする観点からエポキシ樹脂(L)は実施的に含有しないことも好ましい。
本発明の上層防汚塗料組成物(y)もエポキシ樹脂(L)を含有していてもよいが、塗膜の防汚性、更新性の観点から実質的に含有しないことが好ましい。
本発明の塗料組成物、特に下層防汚塗料組成物(x)は、エポキシ樹脂用硬化剤(M)を含有していてもよく、塗料組成物が前記エポキシ樹脂(L)を含有する場合はエポキシ樹脂用硬化剤(M)を含有することが好ましい。
塗料組成物が、前記エポキシ樹脂(L)とエポキシ樹脂用硬化剤(M)の両方を含有すると、エポキシ樹脂(L)とエポキシ樹脂用硬化剤(M)が硬化反応して形成する塗膜に良好な塗膜物性と基材との密着性を付与することができる。
塗料組成物がエポキシ樹脂(L)とエポキシ樹脂用硬化剤(M)の両方を含有する場合、塗料組成物はそれらを互いに異なるコンポーネントに含有する多液型のキットとして調製することが好ましく、塗料組成物を使用する直前に混合してから使用することが好ましい。
前記脂肪族系アミンとしては、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、ビスヘキサメチレントリアミン、m−キシリレンジアミン(MXDA)等が挙げられる。
前記脂環族系アミンとしては、4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナンジアミン(NBDA/2,5−及び2,6−ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン)、イソホロンジアミン(IPDA/3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルアミン)等が挙げられる。
前記芳香族系アミンとしては、フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。
前記複素環系アミンとしては、N−メチルピペラジン等が挙げられる。
前記アミンの変性物としては、上記のようなアミンのポリアミド及びその変性物、エポキシ化合物を付加させたエポキシアダクト体、マンニッヒ変性体等が挙げられ、塗料組成物の硬化性の観点からエポキシアダクト体が好ましく、防食性、密着性の点でポリアミド及びその変性物が好ましい。
アミン系硬化剤としては、具体的には、ポリアミドとして、DIC(株)製「ラッカマイド N−153」、「ラッカマイド TD−966」、三和化学工業(株)製「サンマイド315」等が挙げられ、ポリアミドの変性物として、ポリアミドにエポキシ化合物を付加してなるエポキシアダクト体である大竹明新化学(株)製「PA−23」、変性ポリアミドのマンニッヒ変性体である(株)ADEKA製「アデカハードナーEH−350」等が挙げられる。
塗料組成物がエポキシ樹脂(L)及びエポキシ樹脂用硬化剤(M)を含有し、エポキシ樹脂用硬化剤(M)としてアミン系硬化剤が用いられる場合、エポキシ樹脂(L)に対して、エポキシ成分とアミン成分の当量比(エポキシ当量:活性水素当量)が、好ましくは1:0.25〜1:0.9、より好ましくは1:0.3〜1:0.8となるような量で用いることが好ましい。このような量でエポキシ樹脂用硬化剤(M)を用いると、乾燥性、防食性、及び上層適合性に優れた塗膜を得られる傾向がある。換言すれば、本発明では、これらのエポキシ樹脂用硬化剤(M)は、塗料組成物中のエポキシ樹脂100質量部に対して、好ましくは10〜80質量部、より好ましくは20〜70質量部の量で用いられる。
本発明の上層防汚塗料組成物(y)もエポキシ樹脂用硬化剤(M)を含有していてもよいが、塗膜の防汚性の観点から実質的に含有しないことが好ましい。
本発明の塗料組成物、特に下層防汚塗料組成物(x)は、エポキシ樹脂用硬化促進剤(N)を含有していてもよく、塗料組成物が前記エポキシ樹脂(L)及びエポキシ樹脂用硬化剤(M)を含有する場合は、エポキシ樹脂用硬化促進剤(N)を含有すると、塗膜が低温においても良好な硬化性を示す点から好ましい。
エポキシ樹脂用硬化促進剤(N)としては、トリ(ジメチルアミノメチル)フェノール(TAP)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロノネン(DBN)等の三級アミン化合物;2−エチル−4−メチルイミダゾール等のイミダゾール化合物;ホスフィン及びホスホニウム塩化合物等の化合物が挙げられ、中でも反応促進性や入手容易性の観点から三級アミン化合物が好ましく、TAPがより好ましい。
塗料組成物が、前記エポキシ樹脂用硬化剤(M)及びエポキシ樹脂用硬化促進剤(N)を含有する場合、エポキシ樹脂用硬化促進剤(N)は、エポキシ樹脂用硬化剤(M)100質量%に対して1〜10質量%となる量で含有されることが、塗料組成物の硬化性及び塗装作業性の観点で好ましい。
本発明の上層防汚塗料組成物(y)もエポキシ樹脂用硬化促進剤(N)を含有していてもよいが、塗膜の防汚性等の観点から実質的に含有しないことが好ましい。
本発明の下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)は、それぞれ公知の一般的な塗料と同様の装置、手段等を用いて調製することができる。
具体的には、上層防汚塗料組成物(y)であれば、加水分解性重合体(A2)を調製した後、この加水分解性重合体(A2)の溶液及び有機溶剤(D2)、並びに必要に応じてその他の添加成分を、一度に、又は順次に添加して、撹拌、混合して製造することができる。
本発明において、下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)は、以下(i)〜(viii)のいずれの態様であってもよい。また、下層防汚塗料組成物(x)又は上層防汚塗料組成物(y)が、加水分解性重合体(A)として、シリルエステル基含有単量体に由来する構成単位を有する加水分解性重合体及び金属エステル基含有単量体に由来する構成単位を有する加水分解性重合体の双方を含有していてもよい。
(i)下層防汚塗料組成物(x)が、加水分解性重合体(A1)を含有しない。
(ii)下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)が、加水分解性重合体(A)を含有し、該加水分解性重合体(A)が、共に、シリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位を有する。
(iii)下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)が、加水分解性重合体(A)を含有し、該加水分解性重合体(A)が、共に、金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有する。
(iv)下層防汚塗料組成物(x)が、加水分解性重合体(A1)を含有し、該加水分解性重合体(A1)が、シリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位を有し、上層防汚塗料組成物(y)が含有する加水分解性重合体(A2)が、金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有する。
(v)下層防汚塗料組成物(x)が、加水分解性重合体(A1)を含有し、該加水分解性重合体(A1)が、金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有し、上層防汚塗料組成物(y)が含有する加水分解性重合体(A2)が、シリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位を有する。
(vi)下層防汚塗料組成物(x)が、有機防汚剤(C1)として、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリルを含有し、上層防汚塗料組成物(y)が含有する加水分解性重合体(A2)が、金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有する。
(vii)下層防汚塗料組成物(x)が、有機防汚剤(C1)として、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンを含有し、上層防汚塗料組成物(y)が含有する加水分解性重合体(A2)が、金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有する。
(viii)下層防汚塗料組成物(x)が、有機防汚剤(C1)として、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンを含有し、上層防汚塗料組成物(y)が含有する加水分解性重合体(A2)が、シリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位を有する。
積層防汚塗膜付き基材の製造方法は、基材上に、下層防汚塗料組成物(x)を塗布し、下層防汚塗膜(X)を形成する工程、及び下層防汚塗膜(X)上に、上層防汚塗料組成物(y)を塗布し、上層防汚塗膜(Y)を形成する工程を有する。
前記下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)として、上述した下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)を用いる。
塗布された下層防汚塗料組成物(x)を乾燥及び/又は硬化させて下層防汚塗膜(X)を形成する。前述の方法により塗布した下層防汚塗料組成物(x)は、例えば、25℃の条件下、好ましくは1時間〜14日間程度、より好ましくは1〜7日間程度放置することにより乾燥及び/又は硬化し、下層防汚塗膜(X)を得ることができる。なお、下層防汚塗料組成物(x)の乾燥及び/又は硬化にあたっては、加熱下で送風しながら行ってもよい。
上記の厚さの下層防汚塗膜(X)を製造する方法としては、前記下層防汚塗料組成物(x)を1回の塗布あたり、好ましくは10〜300μmの厚さで、1回〜複数回塗布する方法が挙げられる。また、下層防汚塗料組成物(x)を複数回塗布して下層防汚塗膜(X)を形成する場合、下層防汚塗料組成物(x)として組成の異なる2以上のものを積層してもよい。
上層防汚塗料組成物(y)を塗布する方法に特に制限はなく、前述の下層防汚塗料組成物(x)を塗布する方法と同様の方法により塗布することができ、塗布された上層防汚塗料組成物(y)は、乾燥させることにより上層防汚塗膜(Y)を形成することができる。上層防汚塗料組成物(y)の乾燥条件に特に制限はないが、上層防汚塗料組成物(y)の塗布からその使用前までに、0℃を上回る期間を有する条件での乾燥が好ましく、同じく10℃を上回る期間を有する条件での乾燥がより好ましい。このような乾燥条件であれば、積層防汚塗膜が良好な外観、物性、及び防汚性を発揮することができる。
上層防汚塗料組成物(y)の乾燥は、例えば、平均気温25℃の条件下で、通常1時間〜14日、好ましくは1〜7日間程度をかけて行い、乾燥時に加熱や、送風を行いながら行ってもよい。
本発明の積層防汚塗膜は、船舶、漁業、海洋構造物等の広範な産業分野において、基材の防汚性を長期間にわたって維持するために利用することができる。そのような基材としては、例えば、船舶(コンテナ船、タンカー等の大型鋼鉄船、漁船、FRP船、木船、ヨット等の船体外板。新造船又は修繕船等)、漁業資材(ロープ、漁網、漁具、浮き子、ブイ等)、メガフロート等の海洋構造物等が挙げられる。これらの中でも、基材は、船舶、水中構造物、及び漁具よりなる群から選択されることが好ましく、船舶及び水中構造物よりなる群から選択されることがより好ましく、船舶であることが更に好ましい。
本発明の防汚方法は、上述した積層防汚塗膜を使用するものであり、種々の基材に対して、本発明の積層防汚塗膜を設けることで、防汚する方法である。
また、本発明の積層防汚塗膜形成用塗料キットは、上述した下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)を少なくとも含む。なお、本発明の積層防汚塗膜形成用塗料キットは、下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)に加え、プライマー層形成用の塗料組成物等を組み合わせた3以上の塗料組成物からなるキットであってもよい。
更に本発明の上層防汚塗料組成物は、上述した上層防汚塗料組成物(y)であり、下層防汚塗料組成物(x)により形成された下層防汚塗膜(X)上に形成される上層防汚塗膜(Y)の形成に好適に使用される。
なお、実施例において用いる各成分の「固形分」とは、各成分に溶剤として含まれる揮発成分を除いた成分を指し、各成分を125℃の熱風乾燥機中で1時間乾燥させて得られたものである。
<製造例1:加水分解性重合体溶液(A−1)の製造>
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器にキシレン43質量部、トリイソプロピルシリルメタクリレート10質量部、KF−2001(信越化学工業(株)製)2質量部を仕込み、窒素気流下で80±5℃の温度条件下にて加熱撹拌を行った。同温度を保持しつつ滴下装置より、前記反応容器内にトリイソプロピルシリルメタクリレート50質量部、KF−2001(信越化学工業(株)製)8質量部、2−メトキシエチルメタクリレート25質量部、メチルメタクリレート5質量部、及び2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)2.0質量部からなる混合物を2時間かけて滴下した。その後、同温度で2時間撹拌を行った後、AIBNを更に0.4質量部を加え、3時間かけて105℃まで昇温を行い、キシレン24質量部を加えて、無色透明の加水分解性重合体溶液(A−1)を得た。
使用された単量体混合物の構成、及び加水分解性重合体溶液(A−1)の特性値を表1に示す。
製造例1において使用された単量体混合物の仕込み比及び滴下時に用いる重合開始剤の種類及び量、及び仕込み順序を適宜調整した以外は、製造例1と同様にして、加水分解性重合体溶液(A−2)〜(A−4)を調製した。
使用された単量体混合物の構成、並びに後述の方法により測定した加水分解性重合体溶液(A−2)〜(A−4)及びこれらに含まれる重合体の特性値を表1に示す。
*1 KF−2001:信越化学工業(株)製、側鎖メルカプトアルキル変性オルガノポリシロキサン、官能基当量=1,900g/mol
*2 FM−0711:JNC(株)製、片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量Mn=1,000
(重合体溶液の粘度)
重合体溶液の25℃における粘度は、E型粘度計(東機産業(株)製)により測定した。
重合体の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を下記条件でGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて測定した。
GPC条件
装置:「HLC−8120GPC」(東ソー(株)製)
カラム:「SuperH2000+H4000」(東ソー(株)製、6mm(内径)、各15cm(長さ))
溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
流速:0.500ml/min
検出器:RI
カラム恒温槽温度:40℃
標準物質:ポリスチレン
サンプル調製法:各製造例で調製された重合体溶液に少量の塩化カルシウムを加えて
脱水した後、メンブレムフィルターで濾過して得られた濾物をGPC測定サンプルとした。
〔製造例M1:金属エステル基含有単量体混合物(a12−1)の製造〕
冷却器、温度計、滴下ロート及び撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM(プロピレングリコールモノメチルエーテル)85.4部及び酸化亜鉛40.7部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、滴下ロートからメタクリル酸43.1部、アクリル酸36.1部、水5部からなる混合物を3時間で等速滴下した。更に、2時間撹拌した後、PGMを36部添加して、透明な金属エステル基含有単量体混合物(a12−1)を得た。固形分は44.8質量%であった。
冷却器、温度計、滴下ロート、及び撹拌機を備えた四つ口フラスコに、キシレン60部、PGM13部、及び酸化亜鉛40.7部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、滴下ロートからメタクリル酸32.3部、アクリル酸27部、オレイン酸37.7部、酢酸2.3部、プロピオン酸5.8部からなる混合物を3時間で等速滴下した。更に2時間撹拌した後、キシレン77部、PGM46部を添加して、金属エステル基含有単量体混合物(a12−2)を得た。固形分は39.6%であった。
冷却器、温度計、滴下ロート、及び撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM15部、キシレン65部、及びエチルアクリレート4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、滴下ロートからメチルメタクリレート32.3部、エチルアクリレート13.9部、FM−0711(商品名、JNC(株)製)40部、製造例M1記載の金属エステル基含有単量体混合物(a12−1)21.7部、キシレン10部、連鎖移動剤(日本油脂(株)製、ノフマーMSD(商品名)、α−メチルスチレンダイマー)1.2部、AIBN2.5部、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)0.8部からなる透明な混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後にt−ブチルパーオクトエート0.5部とキシレン10部を30分で滴下し、更に1時間30分撹拌した後キシレンを10.1部添加して、淡黄色透明の加水分解性重合体溶液(A−5)を得た。
冷却器、温度計、滴下ロート、及び撹拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM15部、キシレン65部、及びエチルアクリレート4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、滴下ロートからメチルメタクリレート32.3部、エチルアクリレート43.9部、FM−0721(商品名、JNC(株)製)10部、製造例M1記載の金属エステル基含有単量体混合物(a12−1)21.7部、キシレン10部、連鎖移動剤(日本油脂(株)製、ノフマーMSD(商品名)、α−メチルスチレンダイマー)1.2部、AIBN2.5部、AMBN3部からなる透明な混合物を6時間で等速滴下した。滴下終了後にt−ブチルパーオクトエート0.5部とキシレン10部を30分で滴下し、更に1時間30分撹拌した後、キシレンを10.1部添加して、淡黄色透明の加水分解性重合体溶液(A−6)を得た。
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器に、PGM10.0部、キシレン63.0部、及びエチルアクリレート3.0部を仕込み、撹拌しながら100±5℃に昇温した。同温度を保持しつつ滴下装置より、前記反応容器内に前記調製例M2で得た金属エステル基含有単量体混合物(a12−2)50.3部、メチルメタクリレート9.0部、エチルアクリレート58.0部、重合開始剤AMBN5.0部及びPGM10.0部からなる混合物を4時間かけて滴下した。滴下終了後に重合開始剤t−ブチルパーオクトエート0.5部とキシレン7.0部とを30分かけて滴下し、更に1時間30分撹拌した後、キシレンを12.0部添加して、淡黄色透明の加水分解性重合体溶液(A−7)を調製した。
撹拌機、コンデンサー、温度計、滴下装置、窒素導入管、及び加熱冷却ジャケットを備えた反応容器に、PGM15.0部、キシレン60.0部、及びエチルアクリレート4.0部を仕込み、撹拌しながら100±5℃に昇温した。同温度を保持しつつ滴下装置より、前記反応容器内に前記調製例M1で得た金属エステル基含有単量体混合物(a12−1)40.2部、メチルメタクリレート15.0部、エチルアクリレート48.0部、n−ブチルアクリレート15.0部、重合開始剤AIBN2.5部、重合開始剤AMBN6.5部、連鎖移動剤「ノフマーMSD」1.2部、及びキシレン10.0部からなる混合物を6時間かけて滴下した。滴下終了後に重合開始剤t−ブチルパーオクトエート0.5部とキシレン7.0部とを30分かけて滴下し、更に1時間30分撹拌した後、キシレンを8.0部添加して、淡黄色透明の加水分解性重合体溶液(A−8)を調製した。
加水分解性重合体溶液(A−5)〜(A−8)の単量体成分の構成、及び加水分解性重合体溶液(A−5)〜(A−8)の特性値を表2にまとめて示す。なお、粘度、数平均分子量、重量平均分子量は、加水分解性重合体溶液(A−1)と同様にして測定し、亜鉛含有量(質量%)は、原子吸光分光光度計((株)島津製作所製、AA6800(商品名))により測定した。
*2 FM−0711:JNC(株)製、片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量Mn=1,000
*3 FM−0721:JNC(株)製、片末端メタクリロイルオキシアルキル変性オルガノポリシロキサン、数平均分子量Mn=5,000
・配合成分
下層防汚塗料組成物(x)、上層防汚塗料組成物(y)に用いた各配合成分を表3に示す。
また、使用した重合体(B)は、いずれも、実施例に記載した比率の有機溶剤混合液に可溶であり、その溶解度は100g/L以上である。
表4及び表5に記載された配合(質量部)で、各配合成分を混合撹拌し下層防汚塗料組成物(x)及び上層防汚塗料組成物(y)を得た。なお、表4及び表5に記載された各成分の配合量は、有姿での配合量を示している。例えば、上塗り防汚塗料組成物(y−1)において、脂肪酸アマイドワックスの有姿での(全体としての)配合量は2.0質量部であり、固形分20%であるので、そのうちの有効成分である脂肪酸アマイドワックス自身の配合量は、0.4質量部である。
また、シリコーン系塗料組成物(商品名「CMPバイオクリンHB」、中国塗料(株)製、加水分解性重合体(A)及び有機防汚剤(B)を含有しない)を、上層防汚塗料組成物(y−12)とし、その100質量部に対して、トラロピリル3質量部、2−ヘプタノン10質量部を混合して得た塗料組成物を、下層防汚塗料組成物(x−20)とした。
<積層防汚塗膜の製造>
サンドブラスト処理鋼板(縦300mm×横100mm×厚み3.2mm)に、エポキシ樹脂系防錆塗料組成物(商品名「バンノー500」、中国塗料(株)製)を、その乾燥膜厚が約100μmとなるように塗布した。続いて、表6、表7及び表8に示す組合せにて、前記表4に従って製造した下層防汚塗料組成物(x)を、その乾燥膜厚が約100μmとなるように1回塗布し、その上に前記表5に従って製造した上層防汚塗料組成物(y)をその乾燥膜厚が約200μmとなるように1回塗布した後、25℃条件下で7日間乾燥させて、積層防汚塗膜付き試験板を作製した。なお、前記3回の塗装は1日当たり1回のペース、すなわち、塗り重ねる場合は、下層塗膜に当たる塗料組成物を塗装した後、25℃条件下で少なくとも24時間乾燥させ、その塗膜上に上層塗膜に当たる塗料組成物を塗装した。
〔外観〕
実施例1〜30及び比較例1〜19で得られた積層防汚塗膜の外観を目視で評価したところ、いずれも外観の異常等の不具合がなく、良好であった。
前述のようにして作製した実施例1〜23及び比較例1〜13の試験板を、広島県宮島沖にて、水面下約0.5メートルの位置で、試験面が水面に対して水平であり海底面と向かい合う向きで浸漬した。3ヶ月間静置浸漬し、積層防汚塗膜のフジツボが占有している部分の面積(フジツボ占有面積)を測定し、下記〔フジツボ占有面積による防汚性評価基準〕に従って、積層防汚塗膜の防汚性(耐フジツボ性)を評価した。その結果を、表6及び表7に示した。
(フジツボ占有面積による防汚性評価基準)
5:試験面におけるフジツボ占有面積が全体の1%未満
4:同上面積が全体の1%以上10%未満
3:同上面積が全体の10%以上30%未満
2:同上面積が全体の30%以上70%未満
1:同上面積が全体の70%以上
前述のようにして作製した実施例24〜30及び比較例14〜19の試験板を、広島湾内にて、水面下約0.5メートルの位置で、試験面の表面が約15ノットとなる速度で回転する円筒に取り付け、日光暴露条件下で浸漬した。本条件での浸漬を開始してから6ヵ月後に防汚塗膜上のスライム占有面積を測定し、下記〔スライム占有面積による防汚性評価基準〕に従って、積層防汚塗膜の防汚性(耐スライム性)を評価した。その結果を表8に示した。本条件では、浸漬海域・条件の特性から特にスライム及び植物性海生生物による汚損が発生しやすい。
(スライム占有面積による防汚性評価基準)
5:試験面においてスライムに占有されている合計面積が全体の1%未満
4:同上面積が全体の1%以上10%未満
3:同上面積が全体の10%以上30%未満
2:同上面積が全体の30%以上70%未満
1:同上面積が全体の70%以上
前述のようにして作製した試験板を50℃の海水に1か月浸漬後、ナイフカットテストを実施して、以下の基準に従って、層間密着性を評価した。
(層間密着性評価基準)
5:カット部付近において層間剥離が認められない
4:層間剥離が起こる範囲が、カット部から1mm未満である
3:層間剥離が起こる範囲が、カット部から1mm以上3mm未満である
2:層間剥離が起こる範囲が、カット部から3mm以上10mm未満である
1:層間剥離が起こる範囲が、カット部から10mm以上である
表6〜表8にその結果を示す。
Claims (21)
- 下層防汚塗膜(X)と、上層防汚塗膜(Y)とが積層されてなる積層防汚塗膜であり、
前記下層防汚塗膜(X)は、重合体(B1)と有機防汚剤(C1)とを含有し、
前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、
前記上層防汚塗膜(Y)は、加水分解性重合体(A2)を含有し、
前記加水分解性重合体(A2)がシリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位及び/又は加水分解性重合体(A2)が金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有し、
前記重合体(B1)が、加水分解性重合体を除く重合体であり、塩化ビニルに由来する構成単位を含む重合体、及び(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、
積層防汚塗膜。 - 前記下層防汚塗膜(X)が、更に加水分解性重合体(A1)を含有する、請求項1に記載の積層防汚塗膜。
- 前記下層防汚塗膜(X)に占める、前記重合体(B1)及び前記加水分解性重合体(A1)の総量が1〜90質量%である、請求項1又は2に記載の積層防汚塗膜。
- 前記加水分解性重合体(A1)及び/又は加水分解性重合体(A2)がシリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜。
- 前記加水分解性重合体(A1)及び/又は加水分解性重合体(A2)が金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜。
- 前記下層防汚塗膜(X)中の前記重合体(B1)の含有量が10〜50質量%である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜。
- 前記有機防汚剤(C1)が、金属元素を含有しない化合物である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜。
- 前記下層防汚塗膜(X)が前記有機防汚剤(C1)として、4−ブロモ−2−(4−クロロフェニル)−5−(トリフルオロメチル)−1H−ピロール−3−カルボニトリル及び4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンから選ばれる少なくとも1つを含有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜。
- 請求項1〜10のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜で被覆された積層防汚塗膜付き基材。
- 前記基材が水中構造物、船舶、又は漁具である、請求項11に記載の積層防汚塗膜付き基材。
- 請求項1〜10のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜を使用する、防汚方法。
- 基材上に、下層防汚塗料組成物(x)を塗布し、下層防汚塗膜(X)を形成する工程、及び
下層防汚塗膜(X)上に、上層防汚塗料組成物(y)を塗布し、上層防汚塗膜(Y)を形成する工程を有し、
前記下層防汚塗料組成物(x)が、重合体(B1)と有機防汚剤(C1)とを含有し、前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、
前記上層防汚塗料組成物(y)が、加水分解性重合体(A2)及び有機溶剤(D2)を含有し、
前記加水分解性重合体(A2)がシリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位及び/又は加水分解性重合体(A2)が金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有し、
前記重合体(B1)が、加水分解性重合体を除く重合体であり、塩化ビニルに由来する構成単位を含む重合体、及び(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、
積層防汚塗膜付き基材の製造方法。 - 前記有機溶剤(D2)が、前記下層防汚塗料組成物(x)が含有する重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)を可溶である、請求項14に記載の積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
- 前記有機溶剤(D2)が、炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、及びエステル系溶剤よりなる群から選択される1種以上を含有する、請求項14又は15に記載の積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
- 前記上層防汚塗料組成物(y)が有機防汚剤(C2)を含有し、上層防汚塗料組成物(y)中の有機防汚剤(C2)の含有量(質量%)が、下層防汚塗料組成物(x)中の有機防汚剤(C1)の含有量(質量%)よりも低い、請求項14〜16のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
- 前記上層防汚塗料組成物(y)が、有機防汚剤(C2)を実質的に含有しない、請求項14〜17のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
- 前記下層防汚塗料組成物(x)が、エポキシ樹脂(L)を含有する、請求項14〜18のいずれか一項に記載の積層防汚塗膜付き基材の製造方法。
- 重合体(B1)と有機防汚剤(C1)とを含有する下層防汚塗料組成物(x)、及び
加水分解性重合体(A2)と有機溶剤(D2)とを含有する上層防汚塗料組成物(y)を含む積層防汚塗膜形成用塗料キットであり、
前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、
前記下層防汚塗料組成物(x)が含有する重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)が、前記有機溶剤(D2)に可溶であり、
前記加水分解性重合体(A2)がシリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位及び/又は加水分解性重合体(A2)が金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有し、
前記重合体(B1)が、加水分解性重合体を除く重合体であり、塩化ビニルに由来する構成単位を含む重合体、及び(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、
積層防汚塗膜形成用塗料キット。 - 重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)を含有する下層防汚塗膜(X)の表面に塗装される上層防汚塗料組成物であり、前記重合体(B1)は、不飽和二重結合を有する単量体に由来する構成単位を有する重合体であり、前記上層防汚塗料組成物が加水分解性重合体(A2)及び有機溶剤(D2)を含有し、
前記有機溶剤(D2)が、下層防汚塗膜(X)が含有する重合体(B1)及び有機防汚剤(C1)を可溶であり、
前記加水分解性重合体(A2)がシリルエステル基含有単量体(a11)に由来する構成単位及び/又は加水分解性重合体(A2)が金属エステル基含有単量体(a12)に由来する構成単位を有し、
前記重合体(B1)が、加水分解性重合体を除く重合体であり、塩化ビニルに由来する構成単位を含む重合体、及び(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体又は共重合体からなる群より選択される少なくとも1種である、
上層防汚塗料組成物。
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