以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。尚、本発明の説明においては、椅子の座に座った着座者を基準にして「上」及び「下」,「前」及び「後」,並びに「左」及び「右」を定義する(言い換えると、着座者から見て「上」及び「下」,「前」及び「後」,並びに「左」及び「右」を意味する)。
図1に本発明を適用した椅子の一実施形態の概略を示す。本実施形態の椅子は、脚体1と、脚体1に支持されたメインフレーム5と、背凭れ9が取り付けられたシンクロフレーム8と、座7が取り付けられた座受部材(座フレームあるいは座アウターシェルと呼ぶ)6とを有し、メインフレーム5に対してシンクロフレーム8並びに前リンク30を介在させて座7及び背凭れ9を同期させてロッキング可能に搭載されている。背フレーム57の上辺57cにはヘッドレスト86が着脱可能に装着されている。
ロッキング機構は、例えば体重対応式反力付与機構とコイルばね36を利用した反力付与機構37とを併用したものが用いられている。図2、図5及び図6に示すように、メインフレーム5の脚柱3が連結される脚柱受部31よりも僅かに前方において、軸受部40を貫通するシンクロフレーム回転軸32によって鉛直面に沿って揺動可能に連結されているシンクロフレーム8の上下方向に二股状に分岐された上側のてこリンク部8aが座アウターシェル6の後方に回転自在に連結される一方、下側の反力ばね受部8bが反力付与機構受軸33を介して反力付与機構37の後端部を支えるように設けられている。座アウターシェル6の後方とシンクロフレーム8のてこリンク部8aとは座後方支持軸50を介して回転自在に連結される。他方、座アウターシェル6の前方は、メインフレーム5の前端に設けられた前リンク30によって、好ましくは水平面よりも上で尚且つ鉛直面に達しない範囲、例えば20゜〜30°から90°未満の間で揺動自在に支持されている。前リンク30は一方のストローク端を定めるストッパレバー55を備え、メインフレーム5の溝56の突き当たり・壁面に当接して、それ以上前方へは回動して座7の前方が下がらないように設けられている。そして、着座者が背凭れ9に凭り掛かった際に、シンクロフレーム回転軸32を中心とするシンクロフレーム8の後傾動作によって、てこリンク部8aで座アウターシェル6を斜め上後方向へ持ち上げながら座アウターシェル6の前方に連結された前リンク30を引き起こして座アウターシェル6全体を持ち上げると共に反力付与機構37のコイルばね36を縮めて反力を発生させるように設けられている。
メインフレーム5とシンクロフレーム8との間には、シンクロフレーム8が後傾すると圧縮されてシンクロフレーム8を起立させようとする反力をコイルばね36で発生させる反力付与機構37が設けられている。
以上のように構成されたロッキング機構によれば、着座者が背凭れ9に凭り掛かると、コイルばね36を押し縮め(背凭れに反力を与え)ながら背凭れ9及びシンクロフレーム8がシンクロフレーム回転軸32を中心に後傾する。同時に、シンクロフレーム8の先端のてこリンク部8a及び前リンク30の揺動によって座アウターシェル6が後方へ引き上げられるため、座5にかかる着座者の体重が背凭れ9を押し戻す力に変換されてシンクロフレーム8に反力として作用する。このため、体重の重い人ほど背凭れを後傾させるのに大きな力が必要になり、体重の軽い人ほど背凭れを後傾させるのに小さな力で済む。つまり、背凭れを後傾させる力に対するロッキング反力として着座者の体重に応じた大きさのものを得ることができる。その反面、着座者が上体を起こそうとすると、体重に起因するロッキング反力の作用と共にコイルばね36が伸びて背凭れを起こす方向にシンクロフレーム8を回転させる。
前述のロッキング機構に搭載される座7は、例えば、図3及び図4に示すように、メインフレーム5に対して前リンク30及びシンクロフレーム8を介在させて揺動可能に支持されている座アウターシェル6と、芯材となるインナーシェル44と、その上に載置されるクッション並びに該クッションを覆う上張地とから構成される。座インナーシェル44には、4隅に前後方向へのスライド用スリット45が設けられ、該スリット45を座アウターシェル6側にねじ止めによって固定されているスライダパーツ46が貫通することによって、座アウターシェル6に対してその上の座インナーシェル44を含む座7が前後にスライド可能に載置される。この座7の前後方向へのスライドは、図示していないが座アウターシェル6に設けられた複数の位置決め用孔47に座インナーシェル44から出没するストッパ48を嵌合させることによって規制されるように設けられている。
また、本実施形態にかかるロッキング機構には、例えば、メインフレーム5とシンクロフレーム8との間にシンクロフレーム8の後傾動作時に傾動姿勢を段階的に固定可能とするロック機構(図示省略)を備え、選択された後傾位置で固定されるように設けられている。ロック機構は、例えば、メインフレーム5の後壁部41に複数段の係合孔49を設け、該係合孔49に選択的に嵌合するロックプレート(図示省略)をシンクロフレーム8側に出没可能に備えることにより構成される。ここで、ロック機構には、ロッキング操作レバー(図示省略)の操作でロック状態が駆動レバー(図示省略)では切り替えられたとしても、ロックプレートが切り替えられない状況にある時には、ロックプレートがスライドし得る状況になるまで、駆動レバーの状態を保持する自己保持機能が採用されている。
背凭れ9は、本実施形態の場合、例えば図1及び図7に示すように、剛体の背フレーム57と可撓性のある背インナーシェル58及び背インナーシェル58に被せられる袋状の張地(以下、総くるみ59と呼ぶ)とで構成されている。背フレーム57は、図7に示すように、例えば、側面視で全体にくの字形に屈曲した背凭れ部57aと、前方へ向けて延びる下向きに湾曲した背支桿部57bとを有し、強度に優れる強化樹脂例えばガラス繊維入りナイロンや、ポリアセタール(POM),ポリプロピレン(PP),ナイロン等のポリアミド系樹脂、あるいは樹脂以外の材料例えば鉄やアルミ合金,ステンレススティール等の使用も可能である。
背フレーム57の背支桿部57bには、左右の背支桿部57bの間に跨がるように背フレーム取付座57dが一体的に形成されると共に、各先端部分にはU字形の切欠き57fが形成されている。したがって、切欠き57fの部分をシンクロフレーム回転軸32に引っ掛けてから同回転軸32を中心に背フレーム57を後へ倒すように回動させる一方、背フレーム取付座57dをシンクロフレーム8の背フレーム取付用架橋部の上に載置してビス止めによって固定することでシンクロフレーム8と背フレーム57とが一体化されている。
また、背フレーム57の上辺57cの前面側には背インナーシェル58の上辺58cを取り付けるための凹部57gが複数例えば本実施形態の場合には4箇所設けられている。他方、背インナーシェル58の上辺58cの背面側には、図13に示すように、背フレーム57の凹部57gに嵌合する凸部58gが対応する位置に突出するように形成されている。これら凹部57gと凸部58gとは嵌合された状態で、凹部57gと凸部58gとを貫通するように下からビス止めすることで背フレーム57と背インナーシェル58の各々の上辺57c,58cが連結されている。尚、前述の凹凸の関係は、背フレーム57と背インナーシェル58との間で逆の関係にしても良く、例えば図示していないが背インナーシェル58の上辺58cの背面側からは背面に向けて開口する凹部を内方する凸部が、背フレーム57の上辺57cの表面側に設けられた凸部に向けて突出するように形成されても良い。
他方、背インナーシェル58の下辺58aは、リンク部材62を介して背フレーム57の背支桿部57bに対して回動自在に連結されることによって前後に移動可能に支持されている。即ち、図2及び図8に示すように、背インナーシェル58と背フレーム57とリンク部材62との間でリンク機構61を構成している。これによって、リンク部材62を回動させて後傾させることにより背インナーシェル58の下端を後方へ移動させると、背インナーシェル58がやや前傾ぎみの姿勢となる。また、リンク部材62を前傾させることにより背インナーシェル58の下端58aを前方へ移動させると、背インナーシェル58が比較的寝た状態・リラックス姿勢を採ることができる。つまり、背フレーム57の傾き(背凭れ9としての傾きと同じ)は変えずに、背凭れ面(背インナーシェル58とそれを覆う総くるみ59とで形成される面)の傾きだけを比較的前傾ぎみに起立させた状態と寝かせた状態とに切り替え可能な構造とすることができる。ここで、リンク機構61は、思案点を乗り越えて前位置、後位置に切り替えられるように設けられているので、前位置及び後位置の双方で背凭れ9に着座者が凭り掛かっても、リンク部材62が背フレーム57の軸受ブラケット部57eの側面に押し当てられる方向に向けてのみ回動する。このため、背インナーシェル58の傾きが意図していないのに切り替わるという不測の事態が起こることがない。
リンク機構61を構成するリンク部材62は、図9〜図11に示すように、2分割されたA部品63とB部品64とで構成される合成樹脂成形品から成り、対偶を構成する相手側部材の背フレーム57の軸受ブラケット部57e,背インナーシェル58の軸受ブラケット部58eを挟み込むように向かい合わせて締結手段例えば締結用ねじ70やリベットなどで締結されて一体化される構造とされている。A部品63はリンクの複数の対偶を構成する部材例えば2個の軸部65を有し、B部品64にはA部品63側から突出する2個の軸部65を受け入れる凹部66が設けられている。本実施形態では、2個の対偶を有する単リンクとして構成した例を挙げているが、これに特に限られず、場合によっては3個あるいはそれ以上の対偶を有する複式リンクとして構成しても良いことは言うまでもない。
リンクの対偶を構成する両端の軸部65並びに受部66の間には、A部品63とB部品64との間の間隙を一定に保つためのスペーサを兼ねる連結部67が設けられている。この連結部67は、リンク部材62を構成するA部品63とB部品64とのいずれか一方にA部品63とB部品64との間の間隙に相当する長さの連結部本体67aを設けると共に他方にその受部68を設けるようにしても良い。連結部本体67aの先端面には凹部67b(あるいは凸部)が形成され、これと対向する受部68を嵌合させて印籠継手を構成することにより、正確な位置決めと強度とを確保するように設けられている。そして、B部品64の連結部本体67aには雌ねじ69が、対向するA部品63の受部68には締結用ねじ70を通すための透孔71が形成されており、A部品63とB部品64とし締結用ねじ70による締結で一体化される。
A部品63及びB部品64は、樹脂によって形成されている。本実施形態では、ポリアセタール(POM),ポリプロピレン(PP),ナイロン等のポリアミド系樹脂、あるいはガラス繊維入りナイロン等の使用も可能である。なかでも、軸部65を一体成形する部品は、摺動性の良い樹脂材料例えばポリアセタールなどで成形することが好ましい。この場合における他方の部品は必ずしもPOMで形成する必要はなく、十分な摺動性を備えていない剛性の高い合成樹脂で成形するようにしても良い。
また、リンク部材のいずれか一方の部品、例えば外側となるB部品64に、リンク部材62を揺動させるためのレバー部品72が備えられてリンク部材62を直接駆動できるように設けても良い。例えば、図示していないが、リンク部材62と別体に成形されたレバー部品72とを矩形状の軸部と凹部との嵌め合わせとビス止めなどで連結しているが、これに特に限られるものではない。射出成形によってリンク部材62例えばB部品64とレバー部品72とを予め一体成形しても良い。
A部品63とB部品64との間には、一方の対偶を構成する部品となる背フレーム57の軸受ブラケット部57e並びに他方の対偶を構成する部品となる背インナーシェル58の軸受ブラケット部58eをそれぞれ収容する空所が軸部65の周りに形成される。これらの空所は、相手側部品たる軸受ブラケット部57e,58eの部分を揺動可能(干渉しない空間)に収納するための空間であり、本実施形態の場合、中央の連結部67を除いて開放された空間を形成するようにしている。連結部本体67の揺動方向の両端には、背フレーム58側の軸受ブラケット部58eと当接する度当たり面(ストッパ)67cが形成され、それ以上リンク部材62が揺動しないように配慮されている。
A部品63とB部品64とにそれぞれ一方の軸部65と凹部66とを形成するようにしても良い。軸部65は、有底の円筒形(中空の軸)でも良いし、中実の軸としても良いが、完全に貫通した中空軸とする場合には中に金属製の回転軸を通して強度を補強したり、締結ねじを通して軸部65における2部品の締結を可能にしても良い。軸部65そのものが連結部を兼ねる場合には、図示の連結部67は省かれることもある。
上述のリンク部材62は、対偶を構成する軸部65がA部品63とB部品64とで両持ち構造となっているので、構造的に強化される。また、軸部65がA部品63あるいはB部品64と一体成形された樹脂製であるため、動きがスムーズになる。したがって、樹脂成形品のみで構成される部材でありながら、構造的に強度面でも劣ることがない。また、軸部がA部品あるいはB部品と一体成形された樹脂製であるため、動きがスムーズであり、異音も発生しない。しかも、対偶を構成する鉄製の連結ピンあるいは軸を用いていないので、異音の発生や動き易さを確保するための樹脂製カラーやブッシュなどを用いる必要がないので、部品点数が少なくなるとともに組み付けの手間や工数、さらには管理工数も減らすことができ、部品コスト並びに製造コストを下げることができる。加えて、A部品とB部品との2部品を突き合わせて2つの軸部を内蔵する1つの機素を構成することができるため、軸部が外観に露出することがなくなるので、椅子としての見栄えも良くなる。
このリンク部材によれば、一方の部品を相互に連結する2つの部材の軸受ブラケット部にそれぞれ軸部を通してリンク機構を構成する2つの相手側部材との間の位置関係を確定させた状態で他方の部品を嵌め合わせることとなるので、位置決めが容易であり、組み付け性が格段に向上する。また、少なくとも軸部を一体成形する部品だけを摺動性に富む素材で成形すれば良く、他方の部品は必ずしも摺動性に富む素材でなくとも良いし、型構造も単純化できる。
また、本実施形態では、図2に示すように、背フレーム57と背インナーシェル58との上辺57c,58cを嵌合された凹部57gと凸部58gの連結により固定する一方、背インナーシェル58の下辺58a側と背フレーム57の背支桿部57bとの間にリンク機構61を構成して背インナーシェル58全体を上端58cを起点にして背凭れ面を寝せたり起こしたりするように変形可能としたが、これに特に限られず、場合によっては下辺58a側を背フレーム57の背支桿部57bに連結し、上辺57c,58c側にリンク機構61を構成して背インナーシェル58の上辺58c側を背フレーム57に対して前後方向に移動可能としても良い。また、背インナーシェル58の上端58cと下端58aとを背フレーム57に連結する一方、背インナーシェル58の中間部にリンク機構61を構成し、背インナーシェル58の中間部分を前後させて変形可能にしても良い。さらに、本実施形態では、リンク機構61による切換は前位置と後位置との2位置であるが、これに特に限られるものではなく、3位置以上に切換可能としても良い。
背フレーム57は全面的に外観に表れ、しかもデザイン上の大きなウェイトを占める。したがって、背フレーム57の色はデザインにおいて重要であり、大きく椅子の印象を左右する要因ともなる。このため、色違いの背フレーム57が製品のラインアップを増やす上で求められることがある。他方、背インナーシェル58は、総くるみ59によって包まれるので、大部分が外観に表れない。それにも拘わらず、リンク機構61に連結される軸受ブラケット部58eだけが外観に露出してしまうことから、背フレーム57と同様に、色違いの背インナーシェル58を揃えなくてはならず、不経済となる問題を有している。そこで、本実施形態では、背インナーシェル58そのものには着色が施されず(素材色そのまま)に軸受ブラケット部58eに背フレーム57と同色のキャップ60(図7参照)を被せることにより色違いに起因する上述の問題を解決したり、あるいはデザイン的観点から選択された色のキャップ60を被せることでデザイン性を向上させるようにしている。つまり、任意の色、例えば背フレーム57と同一色のキャップ60を被せることで見える部分だけ色を変えるようにしている。例えば、図17に示すような外観のキャップ60を背インナーシェル58の軸受ブラケット部58eに被せ、該キャップ60を介して背フレーム57の軸受ブラケット部57eと共にリンク機構のA部品63とB部品64とで挟み込むことによって背フレーム57に対して揺動可能に連結されている。これにより、背フレーム57の色に拘わらず、背インナーシェル58は単一色で済ませられるので、部材生産の効率化が期待できると共に管理する部品点数が少なくなりコスト低減に寄与することができる。
尚、キャップ60は、背インナーシェル58の軸受ブラケット部58eに被せられて、軸受けブラケット部58eを背フレーム57と同色あるいは求められる色に着色するためのものであって、少なくとも総くるみの外に露出する軸受ブラケット部58eを覆い、リンク機構61のA部品63とB部品64との間に回転自在に収容され、且つ軸部65を貫通させる孔を有していれば足りる。本実施形態の場合、キャップ60には、背インナーシェル58の斜辺58bの2条の溝75,76を斜辺58bの下端まで連続させるための2条の溝13a,13bと、軸受ブラケット部57eを囲う主覆い部14と、軸受ブラケット部57eの周囲のシンナーシェルの表面を覆うベース覆い部15と、当該キャップ60の背インナーシェル58に対する位置決めと固定を図るための突起16とが備えられている。尚、背インナーシェル58側には、キャップ60の内面側に設けられた突起を嵌合させる凹部17が対応する位置に形成されている。
背インナーシェル58は、例えば合成樹脂製であり、図12に示すように、正面視において、上辺58cと側辺58dと斜辺58b及び下辺58aとを有する背枠となる周縁部分と、多数の縦横のスリット23a,23bが全面に入れられて可撓性が確保された背凭れ面とを有する。スリットは縦方向のスリット23aと横方向のスリット23bとが組み合わされ、着座者の腰部近傍(ランバーサポート部分)に該当する位置では、着座者の腰部をしっかりと保持するために撓み難い(拡がり難い)横スリット23bが、腰部よりも上の部分と下の部分とでは撓み易い(拡がり易い)縦スリット23aが形成されている。本実施形態では、例えば、縦スリット23aを区画する縦方向の帯24aの厚みを基本厚みとして一定の厚み(基本面)とし、縦スリット23aと縦スリット23aとを繋いでいる横の帯24bと横スリット23bの横方向に走っている帯24bは張りを強くするため基本厚みよりもやや厚くしている。即ち、背凭れ面は基本的には縦方向のスリット(縦の帯24a)23aで構成され、横スリット(横の帯24b)23b部分が、縦スリット23a部分よりも厚く成形されることによって、腰部をしっかり支持しながら背の上部や下部では撓み易い柔軟支持構造を両立させている。
また、総くるみ59の縫合箇所よりも縁側(外側)の縫い代部分には、表側張地59aとウレタンクッション59cと裏側張地59bとの3層が存在するため、背インナーシェル58に被せたときに、その縫い代部分が背インナーシェル58の裏面に凹凸となって表れる虞がある。そこで、背インナーシェル58の裏面側の側辺58dの周縁部分には、図13に示すように、縁から一定幅内側に縁に沿って突堤部73が形成されて突堤部73と縁との間に縫い代部を収める段差部74が形成されている。即ち、総くるみ59の縫い代部が収まる段差部74とは、背インナーシェル58の側辺の縁から内側へ一定幅入った位置に形成された突堤部73までの領域を言う。突堤部73は、縫い代部分が乗り越えない高さ、例えば少なくとも総くるみ59の表側張地59aとクッションとの縫い代部分の厚みとほぼ同じかあるいはそれ以上の高さに設定されており、背インナーシェル58の縁と突堤部73との間で裏側張地59bにテンションがかけられて張り詰められると同時に縫い代部分が段差部74に収められることによって、縫い代部分が背凭れの裏面側に凹凸として外観に表れないように配慮されている。尚、この突堤部73は背インナーシェル58の側辺と斜辺58bとの境界、本実施形態の場合には背インナーシェル58の最大幅部分まで形成されている。
また、背インナーシェル58に被せる総くるみに対して張力を付与しながら固定することができる位置、例えば総くるみを上から被せる本実施例の場合には、上辺とは反対側の辺、即ち下辺側に張地の端・縁が固定されるように設けられている。例えば、背インナーシェル58の斜辺58b並びに底辺の外側の面には、図13及び図14に示すように、薄板状の係止部材を巻きこんだ張地の縁を嵌め込む2条の張地用溝、即ち総くるみ59の開口部の表側張地59aの縁を差し込む表側張地用溝75と裏側張地59bの縁を差し込む裏側張地用溝76とが前後に並べて形成されている。本実施形態の場合、表側張地59aの縁は、緩衝用クッション59c共々折り返されて中に係止部材78,79を挟んだ状態で縫合されており、それを表側張地用溝75に差し込むようにされている。このことから、表側張地59aの縁を差し込む表側張地用溝75は、張地と樹脂コードだけを縫合した裏側張地59bを折り返して差し込むだけの裏側張地用溝76よりも、溝幅が広く形成されている。また、表側張地用溝75と裏側張地用溝76とは、前から差し込まれる表側張地59aと後から差し込まれる裏側張地59bとの間に隙間が生じないようにするため、可能な限り近接させて前後に並べて設けることが好ましい。例えば、必要最小限の厚さの障壁77を介して並べられると共に、両溝を区画する外側の壁部(以下、張地用溝の表側外壁部81、裏側外壁部82と呼ぶ)よりも低い障壁77によって区画されることである。この場合、表側張地59aの緩衝用クッションが障壁77の外に出たところでは障壁77による拘束から解放されて僅かに膨れて障壁77の上にはみ出るので、裏側張地59bと密着する。
2条の張地用溝75,76は、本実施形態の場合、背インナーシェル58の下辺58a並びにそれに準ずる斜辺58bに設けられているが、これに特に限られるものではなく、総くるみ59に対してテンションをかけながら装着できる位置であれば固定可能であることから、いかなる位置でも設けることができる。例えば、背インナーシェル58の上辺58cでも良いし、側方58dでも良い。また、背インナーシェル58を用いるのではなく、図示していない背枠(中が空洞の枠体)に被せられて固定されることもある。
また、本実施形態の総くるみ59は、メッシュ素材の張地に比べて伸縮性に劣る織物製の張地が用いられているので、メッシュ素材の張地よりも抜け易くなる問題を有する。そこで、図15及び図16に示すように、表側張地用溝75と裏側張地用溝76とを区画する表側外壁部81と裏側外壁部82との内壁面から内側空間へと突出する返り83を設けて抜け止めの強化を図っている。例えば、表側張地用溝75と裏側張地用溝76とには、係止部材78,79が抜け出す方向において引っ掛かる返り83が適宜数例えば2箇所づつ突出するように設けられている。この返り83は、溝の入り口側から底に向けて漸次高くなる斜面に形成され、底部側に向かう先端においてスライドコアなどを用いてアンダーカットが形成されている。このアンダーカット部分に張地にくるまれた係止部材の端部を引っ掛けることにより、張地の抜けだしを抑制するようにしている。返り83の奥側にはスライドコアによって形成される孔84が残るので、張地を背インナーシェル58から取り外す際には、孔84から指あるいは治具を差し込んで係止部材78,79を浮かして返り83を乗り越えさせることにより、張地用溝75,76から容易に離脱させることができる。
背インナーシェル58の側辺58dの段差部74と斜辺58bの2条の張地用溝75,76との境界部分、即ち側辺58dから斜辺58bに遷移する部位には、縫い代のたまりを回避して分岐された表側張地59aと裏側張地59bとを各張地用溝75,76内へスムーズに導いて縫製のラインを綺麗に見せる縫い代逃がし部85が形成されている(図16参照)。この縫い代逃がし部85は、縫い代部分から係止部材78,79が縫い付けられる箇所へと切り替わるところをスムーズに通すガイド・空間であって、段差部74に収まっている縫い代部分から係止部材78,79を縫い付けた張地59a,59bの縁箇所に繋がる部分で、縫い代部分の無理な動きとなるのを上手く繋げることで縫い代が目立ってしまうことがないようにする。本実施形態の場合、例えば、背インナーシェル58の最大幅位置58fに向けて突堤部73の高さが漸次高くなるように形成されて裏側張地用溝76を区画する裏側外壁部82と同じ高さにして連続面とされる一方、段差部74を構成する側辺の周縁部分が表側張地用溝75を区画する表側外壁部81と繋げられ、張地用溝75,76を区画する表側外壁部81と裏側外壁部82とが延長されて形成される空間(障壁77が存在しない溝)から成る縫い代逃がし部85が形成されている。尚、突堤部73から切り替えられる裏側外壁部82のコーナ部分にはなだらかなRが形成されて、分離された裏側張地59bを巻きこむ際になだらかに変化するように設けられている。
総くるみ59は、背インナーシェル58の表側を覆う表側張地59aと、裏側を覆う裏側張地59bと、表側張地59aの裏面に縫い付けられる比較的薄手の緩衝用のウレタンクッションとで構成され、背インナーシェル58と相似形状の袋状に縫製されている(図18及び図19参照)。本実施形態の総くるみ59は、背インナーシェル58の上から被せて底辺附近で固定するものであることから、最大幅位置よりも上の両側辺と上辺とが縫合される一方、最大幅位置58fよりも下の斜辺58bと下辺58aとが縫合されずに表側張地59aと裏側張地59bとに分岐されている開口部を構成している。ここで、上述の下辺58aに連なる両斜辺58bは、総くるみ59の張地にテンションを掛ける際に上下方向のテンションと幅方向のテンションとの両成分を有するが、主に総くるみ59が上方へずり上がらないように働く下辺58aの一部、即ち上辺58cと対向する辺と見なせる。
本実施形態の背凭れ9は、剛体の背フレーム57と可撓性のある背インナーシェル58とで骨格が構成され、背インナーシェル58の上辺58cの背面側から突出する凸部(取付部あるいは被取付部のいずれか一方を構成する)58gと背フレーム57の上辺57cの前面側に設けられた凹部(取付部あるいは被取付部のいずれか他方を構成する)57gとを嵌合させてビス止めすることで一端が連結されている。他方、背インナーシェル58は総くるみ59で覆われている。このため、背インナーシェル58を背フレーム57に取り付けるための凸部58g(あるいは凹部を有する凸部)を総くるみ59から突出させることが必要である。本実施形態の場合、総くるみ59には、背インナーシェル58と背フレーム57との連結箇所、即ち背インナーシェル58の上辺の背面側でかつ凸部58gが突出している位置に凸部58gを貫通させる裂け目が設けられる。他方、総くるみ59の張地にはテンションが常時かかっているので、裂け目が設けられると、裂け目が拡がってその縁が蛇行して見える虞がある。そこで、背インナーシェルの取付部あるいは被取付部を張地から露出させ取付部(あるいは被取付部)の周辺の張地を固定する部材、本実施形態の場合、凸部58gを貫通させる孔53を有している板状の縁止め部材54を裂け目の縁に縫い付けて裂け目の縁を縁止め部材54に固定することにより、縁止め部材54の孔53から背インナーシェル58の凸部58gを飛び出させる一方、裂け目の縁を直線的に固定して乱れることがないにしている。これにより、背インナーシェル58をくるむときに、縁止め部材54の孔53から背インナーシェル58の凸部58gを飛び出させることで簡単に凸部58gを出させることができ、くるみに手間が掛からないようにすることができる。尚、本実施形態においては、総くるみ59において背インナーシェル58の凸部58gを張地から露出させる実施形態に適用した例を挙げて説明しているが、これに特に限られるものではなく、背もたれが背フレームと背インナーシェルとで構成され、背インナーシェルの後面と背フレームの前面のいずれか一方に取付部を他方に被取付部を備え、背インナーシェルの後面が張地に覆われている背凭れ構造において、背インナーシェルの取付部あるいは被取付部を張地から露出させ、張地を介在させて取付部と被取付部とを連結して背フレームと背インナーシェルとを連結する場合に適用しても効果的であることは言うまでもない。
縁止め部材54は適度な可撓性と強度を有する素材であれば良く、例えば合成樹脂製プレートやアルミニウムなどの金属板、あるいは厚紙や和紙などの紙類や場合によっては布地などが使用可能であり、好ましくは合成樹脂プレートであり、より好ましくはポリプロピレンのプレートである。この縁止め部材54は、少なくとも凸部58gを貫通させる孔53を区画しかつその周囲に裂け目の縁(張地の縁)を縫い付ける面積(幅や長さ)が確保される大きさであれば十分であり、突起物毎に独立して配置される個別対応としても良いが、好ましくは複数の孔53を網羅する1枚のプレートで構成する包括対応であっても良い。包括対応とする方が張地に対する縫合作業も効率的に行うことができる。本実施形態の場合、縁止め部材54には、ポリプロピレンの薄板が使用され、総くるみを貫通して外に突出する突起物の大きさ、位置、数に応じて対応する孔53が対応する数だけ設けられている。即ち、4つの孔53を網羅する1枚のプレートで構成されている(図20参照)。いずれにしても、縁止め部材54に裂け目の縁を縫合するだけで張地の端末処理も完了する上に手間が掛からないようにすることができ、仕上がりが安定することから、品質も高くなる。これによって、不良品が少なくなり、歩留まりも高くなる。
この縁止め部材54は、総くるみ9を縫製する際に、表側張地59aと裏側張地59bの縫い合わせ箇所の裏面側に縫い付けられて各張地59a,59bに固定されている。即ち、表側張地59aと裏側張地59bとの本来の縫合箇所を縫合せずに(つまり、裂け目26を設け)、表側張地59aと裏側張地59bのそれぞれの縁を縁止め部材54に縫い付けることで、表側張地59aと裏側張地59bとの間即ち裂け目に縁止め部材54を配置するようにしている。総くるみの表側張地59aと裏側張地59bとの上辺における縫合箇所は、本実施例の場合、背インナーシェル58の上辺の天面の中央を通過する位置よりも背面側寄りで、背インナーシェル58の背面側で突出する4箇所の凸部58gの上を通過するライン上に設定されている。したがって、縁止め部材54と縫合箇所は背インナーシェル58と背フレーム57とで挟まれる位置に設定され隠されることとなる。
尚、本実施形態では、背インナーシェル58と背フレーム57との連結箇所を総くるみ59の上辺に設定しているので、縁止め部材54も上辺に縫い付けられているが、これに特に限られるものではなく、連結箇所が背インナーシェル58の側辺(横)58dや下辺58aに設定される場合にはそれらに対応した位置で総くるみ59に縫合される。また、本実施形態においては、総くるみ59としては織物製の張地・布地が用いられているが、これに特に限られるものでは無く、例えば弾力性に富むメッシュ素材の張地を用いても良い。即ち、可撓性のある背枠(内側が空所となっている縁のみの枠)とメッシュから成る総くるみとで背凭れ面を構成するようにしても良い。さらに、本実施形態では、縁止め部材54は、背インナーシェル58の背面側で突出する4箇所の凸部58gの上を通過するライン上に設定された表側張地59aと裏側張地59bとの縫合箇所を利用して縫い付けるようにしているが、これに特に限られず、縫合箇所以外の場所で必要に応じて張地に切り込みを入れてスリットを設け、それに縁止め部材54を縫い付けるようにしても良い。
また、本実施形態の裂け目・孔の縁止め構造は、背インナーシェル58と背フレーム57とを連結するための凸部58gを突出させる裂け目に適用する場合に限定されるものではなく、総くるみ9から突出するその他の突起物、例えば背インナーシェル58の軸受ブラケット部58eを突出させる張地の縁を固定するのに適用することができることは言うまでもない。
本実施形態における総くるみ59の張地固定構造としては、背インナーシェル58側に張地の縁を差し込む溝(張地用溝)を設け、この張地用溝に薄板状の係止部材を巻きこんだ張地の縁を嵌め込んで固定する構造が採られている。この張地固定構造は、張地の縁部に板状の係止部材を縫い付け、この係止部材ともども張地の縁を折り返して背インナーシェル58の張地用溝に押し込むように嵌め込むことによって、張地に引っ張り力が付与されても係止部材が張地用溝に引っ掛かって張地用溝から抜け出ないようにするものである。例えば、図21に示すように、厚み寸法よりも幅寸法が長く尚且つある程度の可撓性と剛性を備える係止部材78,79を表側張地59aと裏側張地59bとのそれぞれの縁部に備えることにより、張地の周縁部を係止部材78,79と共に折り返して、背インナーシェル58の斜辺58bと下辺58aとの外側面に形成された身体支持面・背もたれ面と平行な2条の張地用溝75,76にそれぞれ押し込むことで、背インナーシェル58を覆う総くるみ9の表側張地59aと裏側張地59bに張りを与えながら固定することを可能とする。尚、係止部材78,79は、張地5にかかる張力で簡単には折り曲がらない程度の硬さがあって尚且つ溝形状に沿って曲がる可塑性を有する素材、例えば熱可塑性樹脂や、鉄、アルミニウム合金、銅などの展性を有する金属薄板などの使用が好ましく、なかでも一般に市販されており比較的安価に入手し易く使いやすい樹脂製コード(単に樹脂コードとも呼ばれる)の使用が好ましい。本実施形態では、係止部材78,79としては、所定の硬さを有する合成樹脂、例えばポリプロピレンなどによって形成された樹脂製コードを用いるようにしている。
ここで、背凭れ9の前後を張地でくるむ総くるみ59では、背インナーシェル58の前後から係止部材78,79を縫い付けた表側張地59aと裏側張地59bの縁を折り返して張地用溝に差し込む必要がある。このとき、1つの張地用溝に表側張地59aと裏側張地59bとを同時に差し込む係止構造にすると、溝幅が大きくなり抜け易くなるので、品質が悪くなる。このことから、表側張地用溝75と裏側張地用溝76との2つの溝に分けて別々に設けることで、1つの張地用溝に1つの張地の縁を差し込むようにして、抜け難く、品質的に安定する係止構造を得るようにしている。しかし、2条の張地用溝75,76を独立した存在として完全に分離させるように離して設ける場合、2条の溝75,76の間の背インナーシェル58の表面が外観に露出してしまい、デザイン的に好まれないかも知れないという問題が発生する。そこで、本実施形態では、表側張地用溝75と裏側張地用溝76との2本の溝が必要最小限の厚さの障壁77を介して並べられるように配置し、それぞれに張地を差し込むようにして表側張地59aと裏側張地59bとの間に背インナーシェル58の表面が露出しないように配慮している。しかしながら、この場合においても、表側張地59aと裏側張地59bとは互いに逆方向に引っ張られてテンションが付与されることにより、場合によっては障壁77の天面が露出してしまうこともある。
そこで、障壁77の天面が露出してしまうことをより確実に防ぐために、表側張地59aの係止部材78あるいは裏側張地59bの係止部材79のいずれか一方に、張地を障壁77の天面の上に突出させる膨出部80を備えることが好ましい。例えば、本実施形態では、係止部材の一方、例えば本実施形態の場合には裏側張地59bに縫い付けられる係止部材79は、縫合相手の張地に背く方向に突出する膨出部80を有し、裏側張地用溝76に嵌め込まれたときに障壁77の天面の上に張地59bをはみ出させて遮蔽するようにしている。膨出部80を有する係止部材79としては、例えば、断面形状L形、P形、F形、三角形の突起を有するフラグ形などの係止部材とすること、中でも簡単な形状のL形の樹脂コードとすることが好ましい。そして、このL形の係止部材79を、張地の縁側に側方に突出する膨出部80が配置されるようにして張地に縫い付ければ、係止部材79を張地で包み込むように折り返してから溝に差し込んだときに、L字形の膨出部80の部分で張地を膨らませて障壁77の天面部分を覆い隠すことができる。尚、本実施形態の場合、一体成形のL形の係止部材79を用いているが、これに特に限定されるものではなく、張地の面に沿って縫い付けられるベース部分に対して張地に背く方向に突出する膨出部80を有していれば足り、膨出部80はベース部と一体に形成されていても良いし、別パーツを接着などで取り付けるようにしたものでも良い。
他方、本実施形態の場合には、緩衝用クッション59cを共に巻き込む表側張地59aには膨出部80を有していない板状の係止部材78、即ち単なる板状の係止部材78が縫い付けられている(尚、単なる板状の係止部材78は、膨出部80を有する係止部材に対して「第二の係止部材」に位置づけられ得る)。張地を膨らませて障壁77の天面部分を覆い隠すには、少なくとも一方の係止部材が膨出部80を有していれば足りる。また、緩衝用クッション59cを巻き込んでいる表側張地59aは、ある程度の弾性を発揮することから、表側張地用溝75に差し入れられたときに障壁77との間に隙間を作りにくい上に、膨出部80を有する一方の係止部材79を巻き込んだ裏側張地59bが障壁77の天面部の上に張り出して押しつけられたときに、弾性変形して密着することにより直線状の分割線をつくることができる。したがって、本実施形態の場合、表側張地59aの係止部材78には膨出部80は必要とされないが、場合によっては膨出部80を設けても良い。この場合、表側張地59aと裏側張地59bの双方が障壁77の天面部の上に張り出して互いに押しつけられることで密着し、表側張地59aと裏側張地59bとの間に直線状の分割線をつくることができる。
ここで、本発明に係る張地の固定構造は、上述の実施形態のように2条の溝75,76が形成されてこれら溝75,76のそれぞれに張地としての総くるみ59(59a,59b)の二つの端部が差し込まれる態様には限定されない。具体的には例えば、図30に示すように、張地59a’が取り付けられる部材に溝75’が1本だけ形成されると共に、当該部材に対して張設される張地59a’の端部のうちの一つ(言い換えると、一辺)に係止部材79が取り付けられ、当該係止部材79が溝75’へと嵌め合わされる嵌合部79aと溝75’の外部に露出する膨出部80とを有するものとして形成され、張地59a’が係止部材79によって巻き込まれて当該係止部材79をくるみつつ嵌合部79aと共に溝75’へと差し込まれた状態で係止部材79の膨出部79aが溝75’を構成する対向する壁77’,81のうちの一方の壁77’を覆うようにしても良い。
ヘッドレスト86は、本実施形態の場合、例えば図22に示すように、可撓性のあるヘッドレストインナーシェル87とこれに被せられる総くるみの張地(以下、ヘッドレスト総くるみ88と呼ぶ)と、ヘッドレストインナーシェル87の内部に充填されるヘッドレストコア89及び背フレーム57の上辺57cに形成された図示していない溝と凹部に係合して上辺57cを挟持する爪を有するグリップ90によって構成され、背フレーム57の上辺57cに着脱可能に取り付けられている。尚、ヘッドレスト総くるみ88の表側張地88aの裏面側にはヘッドレストインナーシェル87のヘッドレスト面との間に介在されるウレタンなどの緩衝用クッション材88cが縫合されている。本実施形態のヘッドレスト総くるみ88は、ヘッドレストインナーシェル87の上から被せて底部のスカート部91の内側に下端縁を折り返して固定するものであることから、上辺と両側辺とで縫合されることにより袋状とされ、下端縁が縫合されずに開口されている。
ヘッドレストインナーシェル87は、特定の形状に限られるものではないが、本実施形態の場合、例えば図22及び図23に示すように、前後方向には凸で左右方向には凹となるように湾曲した双曲放物面体を成し、袋状のヘッドレスト総くるみ88が被せられている。そして、ヘッドレストインナーシェル87には、前後方向への湾曲をし易くさせるための縦スリット92が設けられると共にその外周が中央よりも肉厚を増して剛性を持たされている。
このヘッドレストインナーシェル87の前後を張地でくるむヘッドレスト総くるみ88の場合、ヘッドレストインナーシェル87の前後から係止部材94(前述の係止部材78と同様のもの)を縫い付けた張地の縁を差し込み固定する必要がある。そこで、ヘッドレストインナーシェル87の底部には後方向に拡がるスカート部91が形成され、ヘッドレスト総くるみ88の表側張地88aを取り付ける前面側縁部93aと裏側張地88bを取り付ける後面側縁部93bとが構成されている(図23参照)。そして、前面側縁部93a及び後面側縁部93bの各内側の面には、係止部材94を縫い付けた張地の縁を差し込み固定する張地用溝96が設けられている(図25参照)。ここで、上述のスカート部91の前面側縁部93aと後面側縁部93bとには、僅かに傾斜した斜辺部分が左右両側に含まれるが、張地にテンションを掛ける際に上下方向のテンションを働かせ、くるみが上方へずり上がらないように働く底辺の一部と見なせる。
また、ヘッドレストインナーシェル87には、スカート部91の内側の空間に嵌め込まれるヘッドレストコア89が着脱可能に備えられている。このヘッドレストコア89は、図24に示すように、ヘッドレストインナーシェル87のスカート部91の底部開口を塞ぐ底蓋部89aと、その内側の面(スカート部91の内部に臨む面)に設けられてスカート部91の前面側縁部93a及び後面側縁部93bの内面に宛がわれて支持する支持部89bと、スカート部91内のリブと一体成形された前後一対の押え部97a,97bの間の空間95に嵌め込まれるバックアップ部89cと、ヘッドレストインナーシェル87の左右方向の両端附近に設けられた雌ねじにねじ込まれる締結ねじを支持する筒部89dと、ヘッドレストインナーシェル87のスカート部91の前面側縁部93aと後面側縁部93bとの間を連結するリブを乗り越えてリブと係合するばね部89eと、前面側縁部93aに宛がわれる前壁部93fとが備えられている。しかして、ヘッドレストコア89は、ヘッドレストインナーシェル87のスカート部91の内部の空間に嵌め込まれて雌ねじ部27にビス止めされることによって固定され、ヘッドレストインナーシェル87と一体化される。同時に、ヘッドレストコア89によってスカート部91の開口が塞がれるので、スカート部91の内側に形成される張地用溝96と返り98とは遮蔽され、張地の端末処理状況が外観には表れない。
尚、グリップ90は、図22に示すように、例えば、背フレーム57の上辺57cの下面に形成された凹部(図示省略)に下から宛がわれるように嵌められる爪を有する下顎部90aと、上辺57cの上面に形成された溝(図示省略)に引っ掛けられるように嵌められる爪を有する上顎部90bとで構成され、これらを背フレーム57の上辺57cを挟むように配置してからボルト(図示省略)で互いに連結することで上辺57cを把持して固定される。また、上顎部90bは、ヘッドレストコア89を介してヘッドレストインナーシェル87と連結されて一体化され、ヘッドレストインナーシェル87を支持する。
張地用溝96は、本実施形態の場合、図23に示すように、スカート部91の前面側縁部93a及び後面側縁部93bの内側の面に断続的に形成されるクリップ状のものとして複数箇所例えば5箇所に形成され、入り口に相当する部位に係止部材94の端に引っ掛かってその動きを阻止する返り(逆鉤,逆刺)98が設けられている。
本実施形態の場合、張地用溝96は、図25に示すように、前側押え部97aとスカート部91の前面側縁部93aとの間並びに後側押え部97bと後面側縁部93bとの間でそれぞれ構成される。ここで、前側押え部97aと後側押え部97bとは、スカート部91の前面側縁部93a及び後面側縁部93bの内側の面との間にほぼ均一の間隔・隙間を空けて形成されたものであり、本実施形態の場合には、スカート部91の前面側縁部93aと後面側縁部93bとを連結するリブ97からスカート部91の開口に向けて突出する片持ちの梁状に一体成形されている。尚、符号97’も前面側縁部93aと後面側縁部93bとを連結して補強するリブである。
また、返り98は、前面側縁部93a及び後面側縁部93bの内側の面から張地ひいては係止部材94の引き抜き方向に対して交差する方向に飛び出した突起であり、本実施形態の場合、例えば張地用溝96に収容された係止部材94の端面と対向する係止面(度当たり)98aを有すると共に、該係止面98a附近を頂点としてスカート部91の開口に向けて漸次低くなる傾斜面98bを有する楔状を成し、ヘッドレストインナーシェル87を射出成形する際に、スライドコアを利用することで係止面98a部分のアンダーカットが形成されている。この返り98は、前面側縁部93a及び後面側縁部93bの全幅に連続的に形成しても良いが、本実施形態のように断続的に形成する方がスライドコアを用いてアンダーカット部分を容易に成形することができるので好ましい。
返り98の係止面98aは、本実施形態の場合、射出成形時にスライドコアによって形成される孔99の縁の面の延長線上に形成された僅かに後傾した斜面(前面側縁部93a側)あるいは係止部材94の端面に向けて突出する逆傾斜の斜面(後面側縁部93b側)とされている。本実施形態の場合、バックアップ部89cによって前側押え部97a及び後側押え部97bと返し98との間の隙間が拡がらないように設けられているので、厳密な意味で係止面98aが係止部材の端面と平行な面(係止部材と直交する垂直面)でなくとも良い。勿論、係止部材94の端面に向けて突出する逆傾斜の斜面あるいは係止部材の端面と平行な面(係止部材と直交する垂直面)であれば、前側押え部97a及び後側押え部97bの背後がバックアップ部89cで支持されていなくとも係止部材94の端面を係止面98aに押し当てるだけで係止部材94の抜け方向への移動を阻止することができる。
さらに、前側押え部97aの前面側縁部93aと対向する面25の返り98の頂点からスカート部91の開口側の先端部分25aにおいては返り98の斜面98bと反対側に傾斜する斜面に形成されている。即ち、前側押え部97aの傾斜面25aと返り98の傾斜面98bとの間で形成される隙間(張地用溝の入り口)は、外側に向かうほど広がるテーパー面とされており、係止部材94を縫い付けた張地の縁を差し込むときの導入を助けるガイドとして機能するように構成されている。スカート部91の後面側縁部93bの返り98と後側押え部97bとの関係も同様であり、詳細な説明は省略する。
前側押え部97aと後側押え部97bの背後、本実施形態の場合、即ち前側押え部97aと後側押え部97bとの間には、当該前側押え部97a及び後側押え部97bが返りとの間の間隙を拡げる方向に弾性変形可能とするための空間、例えば少なくとも一方が傾斜面に成形された楔状の空間95が形成されている。他方、ヘッドレストコア89側には、前述の空間95に充填され、前側押え部97a及び後側押え部97bの返り98との間の間隙を拡げる方向への弾性変形を妨げるバックアップ部89cが設けられている。ここで、バックアップ部89c及び前側押え部97aと後側押え部97bとの間の空間95は、隙間なく嵌合させ得る楔形であることが好ましいが、この楔形に特に限られるものでなく、テーパーや勾配が0の凹部としても良いし、場合によっては前側押え部97a側の空間と後側押え部97b側の空間とに独立した別々の空間として形成するようにしても良い。
張地端部の係止構造において、係止部材94を縫い付けた張地88a,88bの縁を1巻きせずにそのまま差し込む場合、係止部材94は抜け易いことから張地用溝96の溝幅を狭くすることが望まれる。しかし、溝幅を狭くしても、あるいは押え部97a,97bによる押しつける力を強くしても、張地88a,88bの縁に縫い付けられた係止部材94が平行移動させられるように引き抜かれる場合には、張地88a,88bが介在されているので滑りが生じやすく、引き抜きを完全に阻止することは難しい。そこで、本実施形態では、張地用溝に係止部材94を縫い付けた張地88a,88bを差し込んだ後の押え部97a,97bの背面側への変形を阻止すると共に、返り98で係止部材94の端を引っ掛けて押えることにより、容易に引き抜けないようにしている。
したがって、本実施形態の張地端部の係止構造の場合、張地88a,88bの縁を差し込むときには、前側押え部97a及び後側押え部97bが溝幅を拡げる方向(係止部材94の厚み方向)に撓みうるので、返し98の部分を容易に通過させて張地用溝96内に挿入できる。そして、係止部材94を縫い付けた張地の縁を張地用溝96内に差し込んだ後に、ヘッドレストインナーシェル87のスカート部91にヘッドレストコア89を固定することによって、前側押え部97aと後側押え部97bとの間の空間95にバックアップ部89cが嵌め込まれて前側押え部97aと後側押え部97bが本来の位置に戻され、あるいは本来の位置から溝幅を広くする方向(前面側縁部93aあるいは後面側縁部93bから離れる方向:内側)へ変形することが防がれる(図26参照)。これによって、係止部材94の端が返り98の係止面98aに当たって張地用溝96から離脱するのを防ぎ、容易に張地が抜け出ることがないにする。また、張地88a,88bを交換などのために取り外す際には、ヘッドレストコア89を取り外し、前面側縁部93a及び後面側縁部93bに形成されている返り98のアンダーコアを成形するためのスライドコアの抜け孔99から指あるいは治具などを差し込んで係止部材94を前側押え部97aあるいは後側押え部97b側に押し上げながら張地88a,88bを引き抜けば、返り98を乗り越えて簡単に引き出すことができる。
尚、本実施形態では、スカート部91の前面側縁部93aと後面側縁部93bとを連結するリブ97を利用して、片持ち梁状の前側押え部97aと後側押え部97bとを一体形成し、前面側縁部93aとの間及び後面側縁部93bとの間でクリップ状の張地用溝96を構成するようにしているが、場合によっては、前側及び後側の各押え部97a,97bをスカート部91の幅方向に連続した壁として構成し、前面側縁部93aとの間及び後面側縁部93bとの間で張地用溝を連続的に全幅に亙って構成するようにしても良い。
また、本実施形態では、前側及び後側の各押え部97a,97bは係止部材94を縫い付けた張地88a,88bの縁を挿入する際に、返り98との間の隙間を拡げる方向の弾性変形を可能とするため、片持ちの梁状を成しているが、これに特に限られるものではない。例えば、前側押え部97aと後側押え部97bとが1つのピースとなってリブ97の一部を成すように形成され、変形しにくい部材として構成されるようにしても良い。この場合には、係止部材94を縫い付けた張地の縁を挿入する際には、返し98の頂部を押してスカート部91の前面側縁部93a側を弾性変形させながら乗り越えさせて張地用溝96に差し込まれる。そして、張地が引き抜かれようとするときには、係止部材94の端が返り98の係止面98aに引っ掛かって移動が阻止されるので、引き抜かれない。この実施形態の場合、前側及び後側の各押え部97a,97bの変形を抑制するための別パーツ即ちバックアップ部89cを必要としない。
上述の実施形態にかかる張地端部の固定構造は、一例としてヘッドレストに適用した場合を例に挙げて説明したが、これに特に限られるものではなく、椅子の他の身体支持構造物例えば背凭れや座あるいは肘掛けなどにおける張地端部の係止構造としても適用できることは言うまでもない。また、本実施形態では袋状の張地即ち総くるみに適用した場合を例に挙げているが、これに特に限られるものではなく、1枚の面状(二次元)張地をフレームに固定したり、さらには布製張地ではなく伸縮性に富むメッシュ張地をフレームに固定する場合にも適用可能である。また、ヘッドレスト総くるみの張地端部の差し込み固定位置については、上述の実施形態では外観に表れにくいスカート部91の内部で固定するようにしているが、これに特に限られるものではなく、必要に応じてヘッドレストインナーシェル87あるいはフレームなどの側面、底面、上面のいずれかに固定するようにしても良い。
また、本実施形態の場合、張地で係止部材94を包み込むようにヘッドレスト総くるみ88の縁を折り返すことなく、そのままの状態で、係止部材94が縫い付けられた張地の縁を張地用溝96に差し込むようにしているが、これに特に限られるものではなく、係止部材94のエッジと返り98との間に張地88a,88bが巻きこまれない半周巻程度であれば、係止部材94を張地88a,88bで巻きこんでも、滑り易くならないので実施可能である。
また、本実施形態においては、総くるみ88としては織物製の張地が用いられているが、これに特に限られるものでは無く、例えば弾力性に富むメッシュ素材の張地を用いても良い。即ち、可撓性のあるヘッドレスト枠(内側が空所となっている縁のみの枠)と該ヘッドレスト枠に被せられてから張られるメッシュから成る袋状のメッシュ張地とでヘッドレスト面を構成するようにしても良い。この場合においても、ヘッドレスト枠の底部のスカート部91の溝に袋状のメッシュ張地の表側張地88aと裏側張地とがそれぞれ差し込まれてから固定される。
上述の背凭れ及び座などを支える脚体1は、図27に示すように、脚羽根タイプの脚ベース2と、当該脚ベース2の中心部に立設する脚柱3とを有する。脚ベース2は、座を支持する脚柱3が嵌め込まれる基部10とキャスタ4を先端に備える複数本の脚羽根20とを有し、樹脂例えばあくまで一例として挙げるとガラス繊維入りナイロンによって一体に成形されている。基部10には、円形の貫通孔11が鉛直方向に設けられ、当該貫通孔11にロック式ガススプリングによって構成される脚柱3が嵌合されて固定される。脚柱3を構成する部品、例えばガススプリングのシリンダ18は、外径が一定である上部円柱部18Aと、外径が上部円柱部18Aの外径よりも小さい径で一定である下部円柱部18Bと、上部円柱部18Aと下部円柱部18Bとを段差無く繋ぐ中間テーパー部18Cとを有する。
ここで、貫通孔11は、本実施形態では、図28に示すように、脚柱3の外周面とは接触せず脚柱3の固定には寄与しない上端側部分11a及び下端側部分11bと、脚柱3の支持に関与する脚柱支持筒部12との3領域に大きく分けられ、さらに脚柱支持筒部12が脚柱3の外周面と接触する上下一対の接触部12A,12Bと、これら上下一対の接触部12A,12Bの間において脚柱3の外周面と接触しない非接触部12Cとを有するものとして構成されている。
上接触部12Aと下接触部12Bとは、例えば上側から下側に向かって漸次内径が小さくなる1つの円錐面・内周面の一部を構成し、ガススプリングのシリンダ18の中間テーパー部18Cと同時に接触・嵌合するように設けられている。また、非接触部12Cは、上下の接触部12A,12Bの母線Fに対して凹み、即ち径方向外側の位置に存在する面を成すことにより、シリンダ18の中間テーパー部18Cに対して接触することがないように形成される。例えば、上側接触部12Aあるいは下接触部12Bから非接触部12Cへと遷移する箇所でそれらの間に段差が無く連続的に傾斜角度を変化させるテーパー面あるいは逆テーパー面若しくは円筒面として、あるいは非連続的・段階的に遷移するテーパー面あるいは逆テーパー面若しくは円筒面として形成される。本実施形態の場合、図8に示すように、上側接触部12Aの下端から下側接触部12Bに向けて径方向外側へ拡径されるテーパー面(θ2<θ1)とされているが、場合によっては図示していないが下側接触部12Bの上端から上側接触部12Aに向けて径方向外側へ拡径されるテーパー面(θ1<θ2)としても良い。いずれの場合にも、抜き型によって容易に成形可能となる。また、場合によっては、非接触部12Cの傾斜角θ2は上下の接触部12A,12Bの傾斜角θ1と同じでかつ径方向外側へ全体に内径が拡径されるテーパー面(θ2=θ1)によっても良い。要は、非接触部12Cは、母線Fよりも径方向内側に突出せず、凹んでいれば良く、場合によってはテーパー面である必要もない。尚、母線Fの鉛直軸Vに対する傾斜角をθ1、非接触部12Cの鉛直軸Vに対する傾斜角をθ2とする。また、上側接触部12Aと下側接触部12Bとは必ずしもテーパー面である必要はなく、いずれか一方若しくは双方が鉛直軸と同心状の円形の内周面として形成され、これら内周面がシリンダ18の中間テーパー部18Cと同時に接触する上側接触部12Aと下側接触部12Bとにおける2点間を結ぶ直線が上述の母線Fと同様の傾きを成すものであれば良い。
ここで、上述の傾斜角θ1及びθ2は、あくまで一例として挙げると、2.5°≦θ1≦3.5°,1.0°≦θ2≦2.0°とすることが考えられ、さらに具体的にはθ1=3.0°,θ2=1.5°とすることが考えられる。
かかる構成の脚ベースによれば、脚柱支持筒部12の内周面の起伏,歪みや脚柱3を構成する部品の直径のばらつきが非接触部12Cによって吸収され、これにより、上下一対の接触部12A,12Bを脚柱3としてのガススプリングのシリンダ18の外周面に確実に密着させることができ、椅子の脚柱3と樹脂製の脚ベース2との取付部である基部10の貫通孔11におけるがたつきを防止することが可能になる。このため、成形において生じる個体間のばらつきを矯正する必要がなく、したがって、製造工程において矯正する作業が必要とされず、製造にかかる手間を低減させることが可能になる。
脚羽根20は、本実施形態では、長手方向に伸びて対向して設けられる一対の側板21,21と、これら側板21,21の上端部を連接するように設けられる頂部22とを有し、下向きに開口する横断面形状山形の構造として形成される。そして、脚羽根20の側板21が、上側部分21Aよりも下側部分21Bの方が厚いものとして構成される。例えば、図29に示すように、側板21の上側部分21Aは厚み寸法がt1で一定であるようにした上で、側板21の下側部分21Bの厚み寸法t2,t3が上側部分21Aの厚み寸法t1よりも大きいものとして構成される。ただし、側板21の上側部分21Aや下側部分21Bのそれぞれの厚み寸法は、一定であるようにしても良く、或いは、漸次下端に向かう荷従って厚くなるように変化させても良い。
本実施形態の場合、上述の各厚み寸法は、あくまで一例として挙げると、例えば、t1=4.0〜5.5mm程度、t2=6.5〜8.0mm程度、t3=4.5〜6.0mm程度であり、好ましくはt1=4.5mmで一定、t2=7.0〜7.6mm、t3=5.0〜5.7mmの範囲に設定されることであり、より好ましくはt1=4.5mm、t2=7.6mm、t3=5.7mmとすることが考えられる。
上述の各厚み寸法t1,t2,t3に設定されるとき、脚羽根20の長さ寸法(貫通孔11の中心からキャスタ4の支持軸中心若しくは接地部分の重心位置までの寸法)が330mm以上であっても、さらに言えば345mm程度であっても、応力集中の回避,設計強度の確保,及び荷重の適切な分担が良好に達成されるることが本発明者等の実験において確認された。しかも、この良好な結果は、脚羽根20の長さ寸法が概ね360mm程度まで達成された。しかも、脚羽根20の横断面における全幅寸法Wを、従来汎用されている樹脂製の脚羽根の全幅寸法と同等の35mm程度若しくはそれよりも小さくすることができる。
なお、上側部分21Aと下側部分21Bとの境界位置(これにより、側板21の上下方向における上側部分21Aと下側部分21Bとの比率が特定される)は、特定の位置に限定されるものではなく、着座によって脚ベース2に荷重がかけられた際に脚羽根20における局所的な応力集中を回避することや脚羽根として必要とされる設計強度を確保すること並びに脚羽根20の長手方向と直交する方向の縦断面の全体で荷重を適切に分担することなどが考慮された上で適当な位置に適宜設定される。具体的には例えば、側板21の上下方向における全体寸法に対する下側部分21Bの割合が、概ね30〜70 % 程度の範囲に設定されることが好ましく、40〜60 % 程度の範囲に設定されることが一層好ましい。
以上の構成の脚ベースによれば、脚ベース2にかかる荷重を、脚羽根20の全体で、具体的には脚羽根20の長手方向と直交する方向の縦断面の全体で、適切に分担することができ、サイドリブを多数設けたり脚羽根20の外形寸法を大きくしたり(言い換えると、脚羽根20全体を太くしたり)することなく樹脂製の脚羽根20の長手方向の寸法を大きくすることが可能になる。このため、樹脂製の脚羽根の長手方向の寸法を大きくしながらも重量が極端に増大したり外観が損なわれたりすること無く強度を確保することが可能になる。
なお、上述の実施形態は本発明を実施する際の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の形態が上述のものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において本発明は種々変形実施可能である。例えば、上述の各実施形態では背凭れやヘッドレストの下端での袋状張地の固定に本発明を適用した例を挙げて主に説明されているが、これに特に限定されるものではなく、背凭れの側方や上方での固定に用いても良い。背凭れ以外の張地の固定、例えば座や肘掛けなどに適用することも可能である。
また、上述の各実施形態では、張地に対する係止部材78,79,94や縁止め部材54などの固定、並びに張地同士の固定などの手法としては、安価で確実な一般的手法である縫合を用いた例を挙げているが、これに特に限られるものではなく、必要に応じて接着や融着などの手法を用いても良いことは言うまでもない。