本発明の樹脂組成物は、樹脂と、近赤外線吸収色素と、下記式(1)で表されるケイ素化合物および/またはその脱水縮合物とを含有するものである。
SiR1 m(OH)n(OR2)4-m-n (1)
[式(1)中、R1はアルキル基、エポキシ基含有基、アミノ基含有基、メルカプト基含有基または重合性二重結合含有基を表し、R2はアルキル基を表し、mおよびnは1〜3の整数を表し、mが2以上のとき、複数のR1は互いに同一であっても異なっていてもよく、4−m−nが2以上のとき、複数のOR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。]
本発明の樹脂組成物は上記式(1)で表されるケイ素化合物および/またはその脱水縮合物を含有するため、当該樹脂組成物を用いて基板上に樹脂層を形成することにより、湿熱下での樹脂層の基板への密着性を高めることができるとともに、耐熱性に優れた樹脂層を得ることができる。樹脂層は、近赤外線吸収層として機能する。
樹脂組成物に含まれる樹脂は、公知の樹脂を用いることができ、透明性が高い樹脂を用いることが好ましい。樹脂組成物に含まれる樹脂としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、(メタ)アクリルウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂)、シクロオレフィン系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、スチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド樹脂(例えば、ナイロン)、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、アルキド樹脂、フェノール系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂(例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリスルホン樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂)、AS樹脂(アクリロニトリル−スチレン共重合体)、シリコーン樹脂、変性シリコーン樹脂(例えば、(メタ)アクリルシリコーン系樹脂、アルキルポリシロキサン系樹脂、シリコーンウレタン樹脂、シリコーンポリエステル樹脂、シリコーンアクリル樹脂等)、フッ素系樹脂(例えば、フッ素化芳香族ポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、フッ素化ポリアリールエーテルケトン(FPEK)、フッ素化ポリイミド(FPI)、フッ素化ポリアミド酸(FPAA)、フッ素化ポリエーテルニトリル(FPEN)等)等が挙げられる。これらの中でも、耐光性に優れる点から、(メタ)アクリル系樹脂、シクロオレフィン系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、ポリスルホン樹脂、フッ素化芳香族ポリマーが好ましい。
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸またはその誘導体由来の繰り返し単位を有する重合体であり、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル樹脂等の(メタ)アクリル酸エステル由来の繰り返し単位を有する樹脂が好ましく用いられる。(メタ)アクリル系樹脂は主鎖に環構造を有するものも好ましく、例えば、ラクトン環構造、無水グルタル酸構造、グルタルイミド構造、無水マレイン酸構造、マレイミド環構造等のカルボニル基含有環構造;オキセタン環構造、アゼチジン環構造、テトラヒドロフラン環構造、ピロリジン環構造、テトラヒドロピラン環構造、ピペリジン環構造等のカルボニル基非含有環構造が挙げられる。カルボニル基含有環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂は、例えば、特開2004−168882号公報、特開2008−179677号公報、国際公開第2005/54311号、特開2007−31537号公報等に記載されたものを用いることができる。
シクロオレフィン系樹脂は、モノマー成分の少なくとも一部としてシクロオレフィンを用い、これを重合して得られる重合体であり、主鎖の一部に脂環構造を有するものであれば特に限定されない。シクロオレフィン樹脂としては、例えば、ポリプラスチック社製のトパス(登録商標)、三井化学社製のアペル(登録商標)、日本ゼオン社製のゼオネックス(登録商標)およびゼオノア(登録商標)、JSR社製のアートン(登録商標)等を用いることができる。
ポリイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にイミド結合を含む重合体であり、例えば、テトラカルボン酸2無水物とジアミンとを重合させてポリアミド酸を得て、これを脱水・環化(イミド化)させることにより製造することができる。ポリイミド樹脂としては、芳香族環がイミド結合で連結された芳香族ポリイミドを用いることが好ましい。ポリイミド樹脂は、例えば、デュポン社製のカプトン(登録商標)、三井化学社製のオーラム(登録商標)、サンゴバン社製のメルディン(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI3000シリーズ等を用いることができる。
ポリアミドイミド樹脂は、主鎖の繰り返し単位にアミド結合とイミド結合を含む重合体である。ポリアミドイミド樹脂は、例えば、ソルベイアドバンストポリマーズ社製のトーロン(登録商標)、東洋紡社製のバイロマックス(登録商標)、東レプラスチック精工社製のTPS(登録商標)TI5000シリーズ等を用いることができる。
エポキシ樹脂は、1分子中に2個以上のオキシラン環(エポキシ基)を有するオキシラン化合物をプレポリマーとして含み、当該プレポリマーを硬化剤や硬化触媒の存在下で架橋することで硬化させることができる。エポキシ樹脂としては、芳香族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられ、例えば、大阪ガスケミカル社製のフルオレンエポキシ(オグソール(登録商標)PG−100)、三菱化学社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER(登録商標)828EL)や水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂(JER(登録商標)YX8000)、ダイセル社製の脂環式液状エポキシ樹脂(EHPE3150、セロキサイド(登録商標)2021P等を用いることができる。
ポリスルホン樹脂は、芳香族環とスルホニル基(−SO2−)と酸素原子とを含む繰り返し単位を有する重合体である。ポリスルホン樹脂は、例えば、住友化学社製のスミカエクセル(登録商標)PES3600PやPES4100P、ソルベイスペシャルティポリマーズ社製のUDEL(登録商標)P−1700等を用いることができる。
フッ素化芳香族ポリマーは、1以上のフッ素原子を有する芳香族環と、エーテル結合、ケトン結合、スルホン結合、アミド結合、イミド結合およびエステル結合よりなる群から選ばれる少なくとも1つの結合とを含む繰り返し単位を有する重合体であり、これらの中でも、1以上のフッ素原子を有する芳香族環とエーテル結合とを含む繰り返し単位を必須的に含む重合体であることが好ましい。フッ素化芳香族ポリマーは、例えば、特開2008−181121号公報に記載されたものを用いることができる。
樹脂はガラス転移温度(Tg)が高いことが好ましく、これにより、樹脂組成物から形成された樹脂層の耐熱性を高めることができる。樹脂のガラス転移温度は、例えば、110℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましく、130℃以上がさらに好ましい。前記樹脂のガラス転移温度の上限は特に限定されないが、樹脂組成物の成形加工性を高める点から、例えば380℃以下が好ましい。
樹脂組成物に含まれる樹脂としては、耐熱性が高く、樹脂組成物を硬化して得られる樹脂層の高温下での形状安定性に優れる点から、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。エポキシ樹脂を用いれば、例えば樹脂組成物から樹脂層を形成し、その上に誘電体多層膜を蒸着させる際に、樹脂層の熱収縮を抑えて反りを抑えることができる。
エポキシ樹脂に含まれるオキシラン化合物は、エポキシ基(オキシラン環)をグリシジル基の形態で含んでいてもよく、シクロアルキレン環の二重結合を酸化してエポキシ化した脂環式エポキシ基(シクロアルケンオキサイド)の形態で含んでいてもよい。エポキシ基がグリシジル基の形態で含まれる場合は、グリシジル基は、例えばグリシジルエーテルの形態で存在していてもよく、グリシジルアミンの形態で存在していてもよく、グリシジルエステルの形態で存在していてもよく、もちろんグリシジル基が直接主鎖に結合していてもよい。
エポキシ樹脂としては、主鎖に芳香環構造を有する芳香族エポキシ樹脂、脂環構造を有する脂環式エポキシ樹脂、主鎖に芳香環構造も脂環構造も有さず脂肪族炭化水素鎖構造を有する脂肪族エポキシ樹脂などを用いることができ、特にその種類は限定されない。
芳香族エポキシ樹脂としては、主鎖にビスフェノール骨格、フルオレン骨格、ビフェニル骨格、ナフタレン環、アントラセン環等を有するオキシラン化合物が挙げられ、これらの化合物には通常グリシジル基の形態でエポキシ基が含まれる。芳香族エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノール型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂;テトラグリシジルアミノジフェニルメタン等の多官能性グリシジルアミン樹脂;テトラフェニルグリシジルエーテルエタン等の多官能性グリシジルエーテル樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂;フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、ナフトール等のフェノール化合物とフェノール性ヒドロキシル基を有する芳香族アルデヒドとの縮合反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物;フェノール化合物とジビニルベンゼンやジシクロペンタジエン等のジオレフィン化合物との付加反応により得られるポリフェノール化合物と、エピクロルヒドリンとの反応物等が挙げられる。
脂環式エポキシ樹脂としては、シクロヘキサン環等の脂環構造を有するオキシラン化合物が挙げられ、エポキシ基はグリシジル基またはシクロアルケンオキサイドの形態で含まれる。グリシジル基を有する脂環式エポキシ樹脂としては、主鎖に脂環構造を有するものが挙げられ、例えば、上記の芳香族エポキシ樹脂の芳香環を水素化したもの(水添エポキシ樹脂)や、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物等が挙げられる。シクロアルケンオキサイド構造を有する脂環式エポキシ樹脂としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、イプシロン−カプロラクトン変性−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシル)アジペート等が挙げられる。
脂肪族エポキシ樹脂としては、主鎖にプロピレングリコール構造、アルキレン構造、オキシアルキレン構造等を有するオキシラン化合物が挙げられ、これらの化合物には通常グリシジル基の形態でエポキシ基が含まれる。脂肪族エポキシ樹脂としては、例えば、ポリヒドロキシ化合物(エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG600)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(PPG)、グリセロール、ジグリセロール、テトラグリセロール、ポリグリセロール、トリメチロールプロパンおよびその多量体、ペンタエリスリトールおよびその多量体、グルコース、フルクトース、ラクトース、マルトース等の単/多糖類等)とエピハロヒドリンとの縮合反応により得られるもの等が挙げられる。
エポキシ樹脂としては脂環式エポキシ樹脂を用いることが好ましい。脂環式エポキシ樹脂を用いれば、樹脂組成物を硬化して得られる樹脂層の耐熱性を高めやすくなり、また着色の少ないものとすることができる。
エポキシ樹脂に含まれるオキシラン化合物は、エポキシ基(オキシラン環)をグリシジル基の形態で含むことが好ましい。グリシジル基を有するエポキシ樹脂は、硬化の際、様々な種類の硬化剤や硬化触媒を使用することができるため、硬化剤や硬化触媒を適宜選択して樹脂組成物としての適用範囲を広げることができる。エポキシ樹脂に含まれるオキシラン化合物は、エポキシ基(オキシラン環)を1分子中に3個以上含むこと(多官能型)が好ましく、これにより樹脂組成物に含まれるケイ素化合物やその脱水縮合物との反応性が高まり、樹脂層を基板上に形成した際の樹脂層と基板との密着性を高めやすくなる。
エポキシ樹脂には、重量平均分子量が2000以上のオキシラン化合物が含まれることが好ましい。重量平均分子量が2000以上のオキシラン化合物の含有量は、樹脂組成物に含まれるオキシラン化合物の総量100質量%に対し、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、70質量%以上がさらにより好ましく、また100質量%以下であればよい。これにより、基板上に樹脂組成物を塗工および硬化して樹脂層を形成する際に、樹脂層の成膜性を高めることができる。なお、前記重量平均分子量は、2200以上であることが好ましく、2500以上がより好ましく、一方、樹脂層の成膜性の点から、前記重量平均分子量は1000000以下が好ましく、100000以下がより好ましく、10000以下がさらに好ましい。重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算値として求める。
樹脂組成物の樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、樹脂組成物は硬化剤および/または硬化触媒を含有することが好ましい。硬化剤および硬化触媒は公知のものを用いることができ、エポキシ樹脂の種類や所望する性状に応じて適宜選択すればよい。硬化剤としては、アミン類(脂肪族ジアミン、脂肪族ポリアミン、脂環式ジアミン、脂環式ポリアミン、芳香族ジアミン、芳香族ポリアミン等)、ポリアミノアミド類、酸無水物類(脂肪族酸無水物、脂環式酸無水物、芳香族酸無水物等)、フェノール類(ビスフェノール、ポリフェノール類等)、ポリメルカプタン類等が挙げられる。硬化触媒としては、3級アミン類(トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルベンジルアミン、1,8−ジアザビシクロ(5.4.0)ウンデカン、(1,5−ジアザビシクロ(4.3.0)−ノネン−5等)、イミダゾール類(1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール等)、ルイス酸塩類やブレンステッド酸塩類等が挙げられる。硬化剤および硬化触媒は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。硬化剤および硬化触媒は、それらの総量として、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば0.1〜10質量部用いればよい。
硬化剤としては、潜在性硬化触媒を用いることが好ましい。潜在性硬化触媒としては熱潜在性硬化触媒や光潜在性硬化触媒が挙げられ、それぞれ反応形式の違いにより、カチオン硬化触媒とラジカル硬化触媒が存在する。潜在性硬化触媒は、エポキシ樹脂とともに樹脂組成物中に含有させても、熱や光の反応開始のきっかけを与えなければ、長期間安定して保存することが可能となるため、樹脂組成物の取り扱い性が向上する。熱潜在性硬化触媒であれば、樹脂組成物を加熱することにより硬化反応が進行し、光潜在性硬化触媒であれば、樹脂組成物に活性エネルギー線を照射することにより硬化反応が進行する。このように硬化剤として潜在性硬化触媒を用いれば、エポキシ樹脂の硬化反応を自在に調節することができ、1液型樹脂組成物として調製しても保存安定性に優れるともに、硬化させたいときは加熱や活性エネルギー線の照射により反応のきっかけを与えることにより、速やかに硬化反応を進行させることができる。中でも、硬化物の収縮量を低減できる点から、熱潜在性カチオン硬化触媒または光潜在性カチオン硬化触媒を用いることが好ましい。
熱潜在性カチオン硬化触媒としては、例えば、下記式(3)で表される化合物を用いることができる。
(Z1R11 aR12 bR13 cR14 d)+v(Z2R15 u)-v (3)
上記式(3)中、(Z1R11 aR12 bR13 cR14 d)+vはオニウム塩を表し、Z1は、S、Se、Te、P、As、Sb、Bi、O、Nまたはハロゲン原子を表し、R11、R12、R13およびR14は有機基を表す。(Z2R15 u)-vはハロゲン化物錯体を表し、Z2はその中心原子である金属元素または半金属元素(metalloid)を表し、具体的には、B、P、As、Al、Ca、In、Ti、Zn、Sc、V、Cr、MnまたはCoを表し、R15はハロゲン原子を表す。a、b、cおよびdは0または正数を表し、a、b、cおよびdの合計はZの価数に等しい。uはハロゲン化物錯体イオンの正味の電荷を表し、vはハロゲン化物錯体イオン中のハロゲン原子の数を表す。
上記式(3)の陰イオン(Z2R15 u)-vとしては、例えば、テトラフルオロボレート(BF4 -)、ヘキサフルオロホスフェート(PF6 -)、ヘキサフルオロアンチモネート(SbF6 -)、ヘキサフルオロアルセネート(AsF6 -)、ヘキサクロロアンチモネート(SbCl6 -)等が挙げられる。また、上記式(3)の(Z2R15 u)-vの代わりに、Z2R15 s(OH)-で表される陰イオンや、過塩素酸イオン(ClO4 -)、トリフルオロメチル亜硫酸イオン(CF3SO3 -)、フルオロスルホン酸イオン(FSO3 -)、トルエンスルホン酸イオン、トリニトロベンゼンスルホン酸イオン等を用いることもできる。
熱潜在性カチオン硬化触媒としては、例えば、AMERICUREシリーズ(アメリカン・キャン社製)、ULTRASETシリーズ(アデカ社製)、WPAGシリーズ(和光純薬工業社製)等のジアゾニウム塩タイプ;UVEシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、UV9310C(GE東芝シリコーン社製)、Photoinitiator2074(ローヌプーラン(現ロ−ディア)社製)、WPIシリーズ(和光純薬工業社製)等のヨードニウム塩タイプ;CYRACUREシリーズ(ユニオンカーバイド社製)、UVIシリーズ(ゼネラル・エレクトリック社製)、FCシリーズ(3M社製)、CDシリーズ(サートマー社製)、オプトマーSPシリーズ・オプトマーCPシリーズ(アデカ社製)、サンエイドSIシリーズ(三新化学工業社製)、CIシリーズ(日本曹達社製)、WPAGシリーズ(和光純薬工業社製)、CPIシリーズ(サンアプロ社製)等のスルホニウム塩タイプ;等を用いることができる。
熱潜在性カチオン硬化触媒としては、有機ボランとルイス塩基との塩を用いることも好ましい。有機ボランはルイス酸として機能し、例えば下記式(4)で表されるものが好ましく用いられる。このような熱潜在性カチオン硬化触媒を用いることにより、耐熱性や耐湿性等の耐久性に優れ、着色の低減された硬化物を得やすくなる。
BR16 wR17 3-w (4)
上記式(4)中、R16はフッ化フェニル基を表し、R17は置換基を有していてもよい炭化水素基を表し、wは1〜3の整数を表す。R16のフッ化フェニル基は、フェニル基の水素原子が1〜5個のフッ素原子で置換されている。R16が複数ある場合は、複数のR16は同一であっても異なっていてもよく、R17が複数ある場合は、複数のR17は同一であっても異なっていてもよい。R17の炭化水素基としては、炭素数1〜20であることが好ましく、アルキル基、アリール基またはアルケニル基であることが好ましい。これらの基に有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基等が挙げられる。
上記式(4)で表される有機ボラン(ルイス酸)として具体的には、例えば、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン(以下、「TPB」と称する)、ビス(ペンタフルオロフェニル)フェニルボラン、ペンタフルオロフェニル−ジフェニルボラン、トリス(4−フルオロフェニル)ボラン等が好ましい。これらの中でも、硬化物の耐熱性、耐湿熱性、耐温度衝撃性等を向上できる点で、TPBがより好ましい。なお、ルイス酸としてTPBを含む触媒を、「TPB触媒」と称す。
有機ボランの対イオンとなるルイス塩基は、有機ボランのホウ素原子と配位結合を形成できるものであれば限定されず、ルイス塩基として通常用いられるものを用いることができ、非共有電子対を有する原子を有する化合物が好適に用いられる。具体的には、窒素原子、リン原子または硫黄原子を有する化合物を用いることができる。この場合、ルイス塩基は、窒素原子、リン原子または硫黄原子が有する非共有電子対を有機ボランのホウ素原子に供与することにより、配位結合を形成することができる。ルイス塩基としては、窒素原子またはリン原子を有する化合物がより好ましい。ルイス塩基として窒素原子を有する化合物としては、アミン類(モノアミン、ポリアミン)や、アンモニア等が挙げられる。ルイス塩基としてリン原子を有する化合物としては、ホスフィン類が挙げられる。ルイス塩基として硫黄原子を有する化合物としては、チオール類やスルフィド類が挙げられる。
有機ボランとルイス塩基との塩としては、好ましくは、TPB/モノアルキルアミン錯体、TPB/ジアルキルアミン錯体、TPB/トリアルキルアミン錯体等のTPB/アルキルアミン錯体やTPB/ヒンダードアミン錯体等の有機ボラン/アミン錯体;TPB/NH3錯体等の有機ボラン/アンモニア錯体;TPB/トリアリールホスフィン錯体、TPB/ジアリールホスフィン錯体、TPB/モノアリールホスフィン錯体等の有機ボラン/ホスフィン錯体;TPB/アルキルチオール錯体等の有機ボラン/チオール錯体;TPB/ジアリールスルフィド錯体、TPB/ジアルキルスルフィド錯体等の有機ボラン/スルフィド錯体等が挙げられる。中でも、TPB/アルキルアミン錯体、TPB/ヒンダードアミン錯体、TPB/NH3錯体、TPB/ホスフィン錯体が好適に用いられる。
光潜在性カチオン硬化触媒としては、例えば、トリフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、トリフェニルスルホニウムホスフェート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、p−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロホスフェート、4−クロルフェニルジフェニルスルホニウムヘキサフルオロアンチモネート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロフォスフェート、ビス[4−(ジフェニルスルフォニオ)フェニル]スルフィドビスヘキサフルオロアンチモネート、(2,4−シクロペンタジエン−1−イル)[(1−メチルエチル)ベンゼン]−Fe−ヘキサフルオロホスフェート、ジアリルヨードニウムヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられ、例えば、SP−150、SP−170(旭電化社製)、イルガキュア261(チバ・ガイギー社製)、UVR−6974、UVR−6990(ユニオンカーバイド社製)、CD−1012(サートマー社製)等を用いることができる。これらの中でも、オニウム塩を使用することが好ましく、トリアリールスルホニウム塩およびジアリールヨードニウム塩のうち少なくとも1種を使用することが好ましい。
樹脂組成物に含まれる近赤外線吸収色素は、有機色素であっても、無機色素であっても、有機無機複合色素(例えば、金属原子またはイオンが配位した有機化合物)であってもよく、特にその種類は限定されない。近赤外線吸収色素は波長600nm〜1100nmの範囲に極大吸収波長を有することが好ましく、これにより、樹脂組成物から樹脂層を形成して光学フィルターとした場合に、当該光学フィルターを近赤外線カットフィルターに好適に適用することができる。近赤外線吸収色素の極大吸収波長の波長範囲は、好ましくは650nm以上であり、680nm以上がより好ましく、また1000nm以下が好ましく、900nm以下がより好ましく、850nm以下がさらに好ましい。
近赤外線吸収色素としては、例えば、中心金属イオンとして銅(例えば、Cu(II))や亜鉛(例えば、Zn(II))等を有していてもよい環状テトラピロール系色素(ポルフィリン類、クロリン類、フタロシアニン類、コリン類等)、シアニン系色素、クアテリレン系色素、ナフタロシアニン系色素、ニッケル錯体系色素、銅イオン系色素、ジインモニウム系色素、サブフタロシアニン系色素、キサンテン系色素、アゾ系色素、ジピロメテン系色素等が挙げられる。樹脂組成物には、近赤外線吸収色素が1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよい。なお、所望の光学特性が発揮されるように分子設計することが容易な点から、近赤外線吸収色素としては有機色素または有機無機複合色素を用いることが好ましく、中でも、近赤外領域の光線を効果的に吸収し、可視光透過率を高めることが容易な点から、近赤外線吸収色素としてオキソカーボン系化合物を用いることが好ましい。オキソカーボン系化合物の詳細は後述する。
樹脂組成物は、下記式(1)で表されるケイ素化合物および/またはその脱水縮合物を含有する。下記式(1)中、R1はアルキル基、エポキシ基含有基、アミノ基含有基、メルカプト基含有基または重合性二重結合含有基を表し、R2はアルキル基を表し、mおよびnは1〜3の整数を表す。なお、mが2以上のとき、複数のR1は互いに同一であっても異なっていてもよく、4−m−nが2以上のとき、複数のOR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。R1とOHとOR2は、それぞれSiに直接結合する置換基である。以下、式(1)で表されるケイ素化合物および/またはその脱水縮合物を、「特定シラン化合物」と称する場合がある。
SiR1 m(OH)n(OR2)4-m-n (1)
樹脂組成物が特定シラン化合物を含有することにより、当該樹脂組成物を用いて基板上に樹脂層を形成した際に、湿熱下での樹脂層の基板への密着性(耐湿熱性)を高めることができるとともに、耐熱性に優れた樹脂層を得ることができる。特定シラン化合物は樹脂層と基板とのバインダーとして機能し、この際、特定シラン化合物のシラノール基やシロキサン結合が基板(特にガラス基板)との接着性を高めるように作用し、置換基R1が樹脂との接着性を高めるように作用するものと考えられる。その結果、基板上に樹脂層を形成した積層体を高温高湿の過酷な条件下に長時間置いても、樹脂層と基板との密着性が維持され、樹脂層の耐熱性を高めることができる。
式(1)において、R1のアルキル基としては、炭素数1〜24が好ましく、より好ましくは1〜20であり、さらに好ましくは1〜12である。R1のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等の脂環式アルキル基;等が挙げられる。
R1のエポキシ基含有基としては、エポキシ基を有するものであれば特に限定されず、グリシドキシ基含有基やシクロアルケンオキサイド(脂環式エポキシ基)含有基が挙げられる。グリシドキシ基やシクロアルケンオキサイドは、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基)等の連結基を介してケイ素原子に結合していてもよい。R1のエポキシ基含有基としては、グリシドキシ基、3−グリシドキシプロピル基、8−(グリシドキシ)−n−オクチル基、3,4−エポキシシクロヘキシル基、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチル基等が挙げられる。
R1のアミノ基含有基は、アミノ基を有するものであれば特に限定されず、1級アミノ基を有するものであってもよく、2級アミノ基を有するものであってもよく、3級アミノ基を有するものであってもよく、複数のアミノ基(例えば1級アミノ基と2級アミノ基)を有するものであってもよい。アミノ基は、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基)等の連結基を介してケイ素原子に結合していることが好ましい。R1のアミノ基含有基としては、3−アミノプロピル基、3−(2−アミノエチル)アミノプロピル基、3−(6−アミノヘキシル)アミノプロピル基、3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル基、N−フェニルアミノメチル基、N−フェニル−3−アミノプロピル基、N−ベンジル−3−アミノプロピル基、N−シクロヘキシルアミノメチル基等が挙げられる。
R1のメルカプト基含有基としては、メルカプト基を有するものであれば特に限定されないが、メルカプトアルキル基が好ましい。メルカプトアルキル基中のアルキル基は、直鎖状であってもよいし分岐状であってもよく、その炭素数は1〜12が好ましく、1〜10がより好ましく、1〜6がさらに好ましい。R1のメルカプト基含有基としては、3−メルカプトプロピル基、2−メルカプトエチル基、2−メルカプトプロピル基、6−メルカプトヘキシル基等が挙げられる。
R1の重合性二重結合含有基としては、重合性二重結合基を有するものであれば特に限定されず、重合性二重結合基としてはビニル基、スチリル基、(メタ)アクリル基等が挙げられる。重合性二重結合基は、ケイ素原子に直接結合していてもよいし、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜10のアルキレン基)等の連結基を介してケイ素原子に結合していてもよい。R1の重合性二重結合含有基としては、ビニル基、2−プロペニル基、スチリル基、3−(メタ)アクリロキシプロピル基等が挙げられる。
なお、特定シラン化合物が置換基R1としてアルキル基を有する場合、特定シラン化合物は置換基R1としてエポキシ基含有基、アミノ基含有基、メルカプト基含有基または重合性二重結合含有基も有することが好ましく、これにより樹脂組成物の基板への密着性を高めやすくなる。例えば、mが2以上のとき、複数のR1の一部がアルキル基で、他部がエポキシ基含有基、アミノ基含有基、メルカプト基含有基または重合性二重結合含有基であることが好ましい。
式(1)において、R2のアルキル基としては、炭素数1〜6が好ましく、より好ましくは1〜4であり、さらに好ましくは1〜3である。OR2基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、ペントキシ基、ヘキシルオキシ基等が具体的に挙げられる。
式(1)において、mは1または2が好ましく、1がより好ましく、これにより樹脂層の基板に対する密着性を高めやすくなる。また、nは2または3が好ましい。
式(1)で表されるケイ素化合物の脱水縮合物は、式(1)で表されるケイ素化合物の水酸基が脱水縮合してシロキサン結合が形成された化合物であれば特に限定されず、同種のケイ素化合物の脱水縮合物であってもよく、異種のケイ素化合物の脱水縮合物であってもよい。式(1)で表されるケイ素化合物の脱水縮合物としては、下記式(1A)で表される化合物が示される。
SipOqR1 r(OH)s(OR2)t (1A)
上記式(1A)中、pは2以上の整数を表し、qはp−1〜pの整数を表し、rはp〜2p+1の整数を表し、sは0〜2p+1の整数を表し、tは0〜2p+1の整数を表し、q+s+rの上限は2p+1である。式(1A)中、複数のR1は互いに同一であっても異なっていてもよく、tが2以上のとき、複数のOR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。R1とOHとOR2は、それぞれSiに直接結合する置換基である。
式(1A)において、pは1000以下が好ましく、100以下がより好ましく、10以下がさらに好ましく、これにより樹脂との相溶性を高めやすくなる。sは1以上であることが好ましく、これにより樹脂組成物の基板への密着性を高めやすくなる。また、樹脂との相溶性やハジキ防止の観点より、r≦2pであることが好ましく、r≦1.5pであることがより好ましく、r=pであることがさらに好ましい。
式(1)で表されるケイ素化合物および/またはその脱水縮合物には、例えば下記に示す化合物が含まれ、式(1−1)〜式(1−6)に示すような非縮合ケイ素化合物、式(1〜7)〜式(1−13)に示すような鎖状の縮合ケイ素化合物、式(1−14)〜式(1−15)に示すようなラダー構造を有する縮合ケイ素化合物等が含まれる。
置換基R1としては、エポキシ基含有基、アミノ基含有基またはメルカプト基含有基が好ましい。置換基R1がこのような置換基であれば、樹脂の有する極性基に作用して、樹脂層と基板との密着性を高めることが容易になる。この場合、比較的多くの種類の樹脂に対して、樹脂層と基板との湿熱下での密着性を高めることが容易になる。例えば、上記に説明したように、樹脂組成物に含まれる樹脂としてエポキシ樹脂を用いた場合は耐熱性や高温下で形状安定性が向上するが、このような場合も、置換基R1が、エポキシ基含有基、アミノ基含有基またはメルカプト基含有基であれば、湿熱下での密着性の向上効果が期待できる。なお、置換基R1がこれ以外のアルキル基や重合性二重結合含有基であっても、樹脂の種類によっては樹脂層と基板との密着性を高めることができ、例えばポリオレフィン樹脂やシクロオレフィン系樹脂、あるいはアルキル基や重合性二重結合含有基を側鎖に有する樹脂の場合は、置換基R1がアルキル基や重合性二重結合含有基であっても、樹脂層と基板との密着性を高めることができる。特に好ましい樹脂と置換基R1との組み合わせとしては、エポキシ樹脂と置換基R1がエポキシ基含有基の組み合わせ、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂またはポリアミドイミド樹脂と置換基R1がアミノ基含有基の組み合わせ、ポリスルホン樹脂と置換基R1がメルカプト基含有基の組み合わせ等が挙げられる。
樹脂組成物には、特定シラン化合物が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。また、樹脂組成物には、式(1)で表されるケイ素化合物のみが1種または2種以上含まれていてもよく、式(1)で表されるケイ素化合物の脱水縮合物のみが1種または2種以上含まれていてもよく、その両方が含まれていてもよい。なお、樹脂組成物に式(1)で表されるケイ素化合物の脱水縮合物が含まれる場合、樹脂組成物には、上記式(1A)においてsが1以上である化合物が少なくとも含まれることが好ましく、その含有量は、式(1A)で表されるケイ素化合物の脱水縮合物100質量%に対して、10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上がさらに好ましい。
なお後述するように、特定シラン化合物は、置換基R1を有するアルコキシシランを加水分解することにより調製することが簡便であり、その際、置換基R1を有するアルコキシシランの加水分解物の脱水縮合反応も起こることから、樹脂組成物には、式(1)で表されるケイ素化合物とその脱水縮合物が含まれることが好ましい。脱水縮合物としては、式(1)で表されるケイ素化合物の二量体や三量体が少なくとも含まれることが好ましく、例えば樹脂組成物に含まれる特定シラン化合物の重量平均分子量を測定したときに、五量体相当(ただし、アルコキシ基は全て水酸基になっているとする)の分子量以下となることが好ましく、四量体相当の分子量以下となることがより好ましい。当該重量平均分子量の具体的な値としては、例えば、300以上が好ましく、また1000以下が好ましく、800以下がより好ましく、600以下がさらに好ましい。
特定シラン化合物は、下記式(2)で表される置換基R1を有するアルコキシシランを加水分解またはさらに脱水縮合することにより得ることが、製造容易性の点から好ましい。R1とR2とmは上記に説明した通りであり、mが2以上のとき、複数のR1は互いに同一であっても異なっていてもよく、4−mが2以上のとき、複数のOR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。R1とOR2は、それぞれSiに直接結合する置換基である。好ましくはmは1または2であり、mは1であることが特に好ましい。
SiR1 m(OR2)4-m (2)
置換基R1を有するアルコキシシランを加水分解することにより、置換基OR2の少なくとも一部が水酸基に変換されて上記式(1)で表されるケイ素化合物を得ることができ、当該ケイ素化合物をさらに脱水縮合することにより、上記式(1A)で表されるようなケイ素化合物の脱水縮合物が得られる。このときの置換基R1を有するアルコキシシランの加水分解率としては、例えば、10モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましい。当該加水分解率の上限は特に限定されず、100モル%であってもよい。
樹脂組成物には、樹脂組成物100質量%中、式(1)で表されるケイ素化合物とその脱水縮合物が、合計で0.1質量%以上含まれていることが好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、また20質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、5質量%以下がさらに好ましい。樹脂組成物100質量%中、特定シラン化合物が0.1質量%以上の含有量で含まれていれば、当該樹脂組成物を用いて基板上に樹脂層を形成した際に、湿熱下での樹脂層の基板への密着性を高めやすくなるとともに、耐熱性に優れた樹脂層を得やすくなる。一方、樹脂組成物中に特性シラン化合物が過剰に含まれていても、樹脂層の基板への密着性を高める効果や樹脂層の耐熱性を高める効果がそれ以上あまり向上しないことから、樹脂組成物100質量%中、特定シラン化合物の含有量は20質量%以下であることが好ましい。樹脂を基準とした特定シラン化合物の含有量としては、樹脂100質量部に対して、特定シラン化合物の含有量は0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、また30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。
樹脂組成物中の特定シラン化合物の含有量は、ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーにより求めることができる。ガスクロマトグラフィーや高速液体クロマトグラフィーにより樹脂組成物に含まれる特定シラン化合物を種類ごとに定量し、その総和から特定シラン化合物の含有量を求めることができる。樹脂組成物に式(1)で表されるケイ素化合物の脱水縮合物(二量体や三量体等のオリゴマー)が含まれる場合は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー分析などを組み合わせて、脱水縮合物の存在形態の判断材料とすることもできる。また、樹脂組成物に含まれるケイ素成分の含有量を求め、そこから特定シラン化合物以外のケイ素化合物(例えば、置換基R1を有するアルコキシシラン等)の含有量を差し引くことで、特定シラン化合物の含有量を求めてもよい。例えば、置換基R1を有するアルコキシシランを加水分解またはさらに脱水縮合することにより特定シラン化合物を調製する場合などは、初期に用いた置換基R1を有するアルコキシシランの量から、加水分解またはさらに脱水縮合した後のその残存量を差し引くことで、特定シラン化合物の含有量を求めることが簡便である。
樹脂組成物中、上記式(1)で表されるケイ素化合物とその脱水縮合物(すなわち特定シラン化合物)の合計含有量をPとし、上記式(2)で表されるケイ素化合物の含有量をQとしたとき、比P/(P+Q)(質量基準)が10%以上であることが好ましい。上記に説明したように、特定シラン化合物は、式(2)で表されるケイ素化合物を加水分解またはさらに脱水縮合することにより得ることが、製造容易性の点から好ましいが、その場合、式(2)で表されるケイ素化合物から所定以上の割合で特定シラン化合物が生成することが好ましく、それにより樹脂との相溶性が良好となり、湿熱下での樹脂層と基板との密着性を高めたり、樹脂層の耐熱性を高めることが容易になる。なお、比P/(P+Q)は30%以上がより好ましく、50%以上がさらに好ましい。比P/(P+Q)の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
近赤外線吸収色素として好適に用いられるオキソカーボン系化合物について詳しく説明する。オキソカーボン系化合物は、炭素酸化物を基本骨格として含む化合物であれば特に限定されないが、近赤外領域に吸収波長を有し、可視光領域の光線透過率が比較的高い化合物として広く知られているスクアリリウム化合物またはクロコニウム化合物を用いることが好ましい。樹脂組成物に含まれるオキソカーボン系化合物は、スクアリリウム化合物であってもよいし、クロコニウム化合物であってもよいし、その両者が含まれていてもよい。樹脂組成物に含まれるオキソカーボン系化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
スクアリリウム化合物としては、下記式(5)で表されるスクアリリウム骨格を有する化合物が具体的に示され、クロコニウム化合物としては、下記式(6)で表されるクロコニウム骨格を有する化合物が具体的に示される。下記式(5)および式(6)において、R21〜R24はそれぞれ独立して有機基を表す。
スクアリリウム化合物は、上記式(5)において、R21とR22の少なくとも一方が、スクアリリウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表すものであることが好ましい。クロコニウム化合物は、上記式(6)において、R23とR24の少なくとも一方が、クロコニウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表すものであることが好ましい。このようなスクアリリウム化合物またはクロコニウム化合物を用いることにより、π共役系がスクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格から芳香族炭化水素環や芳香族複素環にかけて広がって、近赤外領域の光の透過を選択的にカットしやすくなる。より好ましくは、上記式(5)において、R21とR22の両方が、スクアリリウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表し、上記式(6)において、R23とR24の両方が、クロコニウム骨格とπ共役系で繋がった、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表す。
芳香族炭化水素環としては、炭素数6〜14のものが挙げられ、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、フェナントレン環、アントラセン環、フルオランテン環、シクロテトラデカヘプタエン環等が挙げられる。中でも、置換基を有していてもよい5員または6員の芳香族炭化水素環が好ましい。
芳香族複素環としては、例えば、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む5員または6員の単環性芳香族複素環、3〜8員の環が縮合した二環または三環性で窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる少なくとも1個の原子を含む縮環性芳香族複素環等が挙げられ、具体的には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、プリン環、プテリジン環等が挙げられる。中でも、置換基を有していてもよい5員または6員の芳香族複素環が好ましい。
芳香族炭化水素環と芳香族複素環を含む縮合環としては、例えば、インドール環、イソインドール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、ベンゾピラン環、アクリジン環、キサンテン環、カルバゾール環等が挙げられる。
芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環は、スクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格と直接結合していてもよく、π共役系を有する連結基を介してスクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格と結合していてもよい。いずれの場合も、スクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格からこれらの環構造にかけてπ共役系が広がるように構成されていればよい。π共役を有する連結基としては、例えば、−CRa1=、−(CRa2=CRa3)h−(式中、Ra1〜Ra3は、水素原子または有機基を表し、Ra2とRa3は互いに繋がって環を形成していてもよく、hは1以上の整数を表す)で表される基が示される。Ra1〜Ra3の有機基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、ハロゲン原子等が挙げられる。
芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環が有していてもよい置換基の種類は特に限定されず、例えば、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基、アルキルオキシカルボニル基、アリール基、アラルキル基、アミド基、スルホンアミド基、シアノ基、ハロゲン原子、−CH=CH−Ra4で表される基、−CH=N−Ra4で表される基、−N=CH−Ra4で表される基、−N=N−Ra4で表される基等が挙げられる。なお、前記式中Ra4は、それぞれ独立して、水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン基で置換されていてもよいアルキル基、アルコキシ基、シアノ基、またはハロゲン原子を表す。当該置換基としては、好ましくは水酸基、カルボキシル基、ニトロ基、アルコキシ基、アリール基、ハロゲン原子であり、置換基の数は1〜5個が好ましく、1〜3個がより好ましい。
オキソカーボン系化合物は、上記式(5)および式(6)において、R21〜R24がそれぞれ独立して、下記式(7)で示される基を有する化合物であることも好ましい。このようなオキソカーボン系化合物を用いれば、可視光領域(特に400〜450nmの波長範囲)の光の平均透過率を高めることが容易になり、また近赤外領域の吸収波形のショルダーピークを大幅に低減して、光学特性を改善できる。さらに、環Bのπ共役系を適宜設定することにより、オキソカーボン系化合物の吸収波長を容易に調整できる。
式(7)中、環Aは、4〜9員の不飽和炭化水素環を表し、環Bは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表し、R25は、水素原子、有機基または極性官能基を表し、R26は、有機基または極性官能基を表し、*は式(5)中の4員環または式(6)中の5員環との結合部位を表す。xは0〜6の整数であり、かつy以下(ただし、yは環Aの構成員数から3を引いた値である)であり、xが2以上である場合、複数のR26は同一であっても異なっていてもよい。
なお、スクアリリウム化合物とクロコニウム化合物は、それぞれ共鳴関係にある化合物が存在している場合があり、式(5)で表されるスクアリリウム化合物と式(6)で表されるクロコニウム化合物には、これらと共鳴関係にある化合物も含まれる。例えば、式(7)の基を有する式(5)のスクアリリウム化合物には、共鳴関係にある化合物としては下記式(5a),(5b)で表される化合物等が挙げられ、これら共鳴関係にある化合物も含まれる。式(7)の基を有する式(6)のクロコニウム化合物には、共鳴関係にある化合物として下記式(6a)〜(6c)で表される化合物等が挙げられ、これら共鳴関係にある化合物も含まれる。なお下記式において、式(7)の構造中のR25とR26は省略して示している。
式(7)中、環Aは、構成員数が4〜9員である不飽和炭化水素環を表す。環Aは、スクアリリウム骨格またはクロコニウム骨格に結合する炭素原子とピロール環のα位の炭素原子との間に二重結合を有するとともに、ピロール環のα位の炭素とβ位の炭素を含んで構成される不飽和炭化水素環である。環Aは、前記二重結合以外にも不飽和結合(好ましくは二重結合)を有していてもよく、好ましくは不飽和結合(二重結合)を1個のみ有する。環Aは、好ましくは5〜8員環であり、より好ましくは6〜8員環である。
オキソカーボン系化合物は、環Aを有することにより、分子どうしの会合が促進され、その結果、近赤外領域の吸収波形の低波長側のショルダーピークを大幅に低減することが可能となり、光学特性を改善することができる。また、オキソカーボン系化合物が環Aを有していれば、分子歪みによってπ−π*遷移のバンドギャップが狭くなり、かつ環Bによってπ電子系が広範囲に広がることができるため、吸収波長の長波長化を達成することができる。
環Aの構造としては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロペンタジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロヘプタトリエン、シクロオクテン、シクロオクタジエン、シクロオクタトリエン、シクロノネン、シクロノナジエン、シクロノナトリエン、シクロノナテトラエン等のシクロアルケン構造が挙げられる。中でも、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等のシクロアルカンモノエンが好ましい。
環Aは置換基R26を有していてもよい。置換基R26としては、有機基または極性官能基が挙げられる。置換基R26の数xは0〜6であり、好ましくは0〜5の整数であり、より好ましくは0〜3の整数であり、さらに好ましくは0〜2の整数である。置換基R26の数xが2以上であり、R26が複数存在する場合には、各R26は同じであってもよいし異なっていてもよい。xが2以上の場合、複数のR26は各々環Aを構成する別の炭素原子に結合していてもよいし、2個のR26が1個の炭素原子に結合していてもよい。
R26で表される有機基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオオキシ基(アルキルチオ基)、アルコキシカルボニル基、アルキルスルホニル基、アリール基、アラルキル基、アリールオキシ基、アリールチオオキシ基(アリールチオ基)、アリールオキシカルボニル基、アリールスルホニル基、アリールスルフィニル基、ヘテロアリール基、アミド基、スルホンアミド基、カルボキシ基(カルボン酸基)、ベンゾチアゾール基、ハロゲノアルキル基、シアノ基等が挙げられる。また極性官能基としては、ハロゲノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基(スルホン酸基)等が挙げられる。中でも、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲノ基、アリール基、アルコキシカルボニル基(エステル基)、アミド基、スルホンアミド基、水酸基が好ましく、アルキル基または水酸基がより好ましく、これにより、オキソカーボン系化合物の溶剤溶解性を高めやすくなる。この場合、アルキル基の炭素数は1〜5が好ましく、より好ましくは1〜3であり、さらに好ましくは1〜2である。具体的には、R26で表される有機基または極性官能基として、メチル基、エチル基、水酸基等が好ましく挙げられる。
環Aの一部を構成するピロール環のβ位の炭素原子には、水素原子、有機基または極性官能基が結合している(式(7)におけるR25)。式(7)中、R25の有機基と極性官能基としては、置換基R26で例示した有機基や極性官能基が挙げられる。中でも、式(7)のR25としては、水素原子、アルキル基、アルコキシカルボニル基、アリール基が好ましく、アルキル基またはアリール基がより好ましく、これにより、オキソカーボン系化合物の溶剤溶解性を高めやすくなる。この場合、アルキル基の炭素数は、直鎖状または分岐状のアルキル基であれば1〜6が好ましく、より好ましくは1〜4であり、脂環式のアルキル基であれば4〜7が好ましく、より好ましくは5〜6である。アリール基の炭素数は6〜10が好ましく、より好ましくは6〜8である。R25がアルキル基またはアリール基である場合、メチル基、エチル基、イソプロピル基、イソブチル基、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、フェニル基等が好ましく挙げられる。
式(7)中、環Bは、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環、芳香族複素環、またはこれらの環構造を含む縮合環を表す。これらの環構造の具体例は、上記に説明した通りである。環Bのπ共役系を適宜設定することにより、オキソカーボン系化合物の吸収波長を容易に調整することができる。式(7)で示される基が結合したオキソカーボン系化合物は、短波長域では、極大吸収波長を例えば650nm程度に調整することができ、環Bのπ電子数を増加させる(π共役系を広げる)ことにより最大吸収波長を長波長シフトさせて、例えば極大吸収波長を1100nm程度まで調整することが可能である。
環Bは置換基を有していてもよく、当該置換基としては、例えば、置換基R26で例示した置換基が挙げられる。環Bに結合する置換基としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4の直鎖状または分岐状アルキル基)、アリール基、アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)、アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜2のアルキルチオ基)、ヘテロアリール基、アミノ基、アミド基、スルホンアミド基、水酸基、チオール基、ベンゾチアゾール基、インドリニル基等の電子供与性基や;ハロゲノ基(好ましくは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基)、ハロゲノアルキル基(好ましくは炭素数1〜3のパーハロゲノアルキル基)、シアノ基、アルコキシカルボニル基(エステル基)、カルボキシ基(カルボン酸基)、カルボン酸エステル基、カルボン酸アミド基、スルホ基(スルホン酸基)、ニトロ基等の電子吸引性基が好ましい。これらの中でも、電子吸引性基がより好ましく、ハロゲノ基が特に好ましい。なお、環Bは置換基を有さなくてもよい。環Bが置換基を有する場合、その数は1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、さらに好ましくは1である。
環Bは、式(8):−CH=CH−Rb1(式(8)中、Rb1は、脂肪族炭化水素基、アリール基またはヘテロアリール基を表す)で表されるエチレン含有基や、式(9):−CH=N−Rb2(式(9)中、Rb2は、置換基を有していてもよいアミノ基を表す)で表されるイミン含有基を有することも好ましい。
式(8)中、Rb1の脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和のいずれであってもよいが、好ましくは不飽和である。このような脂肪族炭化水素基としては、−(CH=CH)k−(kは1〜10の整数であり、好ましくは1〜5の整数である)で表される繰り返し単位を有する基が好ましく、例えばビニル基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、炭素数1〜20のものが好ましく、より好ましくは1〜10のものが挙げられる。式(8)中、Rb1のアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられ、ヘテロアリール基としては、チエニル基、チオピラニル基、イソチオクロメニル基、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、ピリジル基、ピラリジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、フラニル基、ピラニル基等が挙げられる。
式(9)中、Rb2のアミノ基は、置換または無置換のいずれであってもよい。置換基を有するアミノ基としては、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアリールアミノ基、ジアリールアミノ基、モノアルキルモノアリールアミノ基等が挙げられる。Rb2のアミノ基に結合するアルキル基やアリール基としては、置換基R25で例示したアルキル基やアリール基が挙げられる。
式(7)で示される基を有するオキソカーボン系化合物は、例えば、下記式(10)で表されるピロール環含有化合物を、スクアリン酸またはクロコン酸と反応させることにより製造することができる。なお、下記式(10)中、環A、環B、R25、R26およびxは、上記の式(7)における意味と同じである。
原料として用いるピロール環含有化合物は、公知の合成手法を適宜採用することによって合成でき、例えば、ベンジルヒドラジン塩酸塩とシクロアルカノンとの反応により合成できる。このとき、2位に置換基を有するシクロアルカノンを用いることにより置換基R25を導入することができ、また2位以外の位置に置換基を有するシクロアルカノンを用いれば、環Aに置換基R26を導入することができる。環Bの構造は、ベンジルヒドラジン塩酸塩の代わりに他の芳香族ヒドラジン塩酸塩を使用することにより、変えることができる。ピロール環含有化合物はまた、例えば次の論文に記載の合成法によっても合成することができる:Sajjadifar et al., “New 3H-Indole Synthesis by Fischer’s Method. Part I”, Molecules, Vol.15, p.2491-2498 (2010)。
スクアリリウム化合物は、ピロール環含有化合物とスクアリン酸とを反応させる公知の合成手法を適宜採用することによって合成できる。例えば、次の論文に記載の合成法によってスクアリリウム化合物を合成することができる:Serguei Miltsov et al., “New Cyanine Dyes:Norindosquarocyanines”, Tetrahedron Letters, Vol.40, Issue 21, p.4067-4068 (1999)。
クロコニウム化合物の合成方法は特に限定されないが、ピロール環含有化合物とクロコン酸とを反応させる公知の合成手法を適宜採用することによって合成できる。例えば、特開2002−286931号公報、特開2007−31644号公報、特開2007−31645号公報、特開2007−169315号公報に記載されている方法でクロコニウム化合物を合成することができる。
上記の反応により得られたオキソカーボン系化合物は、必要に応じて、ろ過、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、アルミナカラムクロマトグラフィー、昇華、再結晶、晶析など公知の精製手段によって適宜精製することができる。得られたオキソカーボン系化合物の化学構造は、質量分析法、単結晶X線構造解析法、フーリエ変換赤外分光法、核磁気共鳴分光法などの公知の分析方法により解析することができる。
樹脂組成物中の近赤外線吸収色素の含有量は所望する光学性能に応じて適宜調整すればよいが、例えば樹脂組成物100質量%中、近赤外線吸収色素の含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、1質量%以上がさらに好ましく、また20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、7質量%以下が特に好ましい。このように樹脂組成物中の近赤外線吸収色素の含有量を調整することにより、樹脂組成物から樹脂層を形成して光学フィルターとした場合に、近赤外領域に吸収波長帯を十分広い範囲で有しやすくなるとともに、可視光領域の光線透過率を高めやすくなる。
なお上記に説明したように、近赤外線吸収色素としてオキソカーボン系化合物を用いた場合は、近赤外領域の光線を効果的に吸収し、可視光透過率を高めることが容易になる点から、近赤外線吸収色素としてはオキソカーボン系化合物が主成分として含まれることが好ましく、具体的には、近赤外線吸収色素の総量100質量%中、オキソカーボン系化合物の含有率が50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上がさらにより好ましい。また、近赤外線吸収色素としてオキソカーボン系化合物のみを用いてもよい。
樹脂組成物が近赤外線吸収色素としてオキソカーボン系化合物を含有する場合、特定シラン化合物の置換基R1としては、アルキル基、エポキシ基含有基または重合性二重結合含有基であることが好ましい。オキソカーボン系化合物は分解性が高い物質であるところ、置換基R1がこのような置換基であれば、湿熱下での樹脂層と基板との密着性を高めることが容易になるとともに、オキソカーボン系化合物の分解を抑制し、樹脂層の耐熱性を高めやすくなる。
樹脂組成物は、例えば、350〜400nmの波長域に吸収能を有する化合物(紫外線吸収剤)を含んでいてもよい。これらの化合物の存在により、350〜400nm波長域の光に起因する樹脂の劣化を抑制することができる。350〜400nmの波長域に吸収能を有する化合物としては、例えば、BASF社製のTINUVIN(登録商標)シリーズを用いることができる。
樹脂組成物は、任意の有機微粒子または無機微粒子を含有してもよい。有機微粒子または無機微粒子は、例えば、樹脂組成物に、屈折率や導電性等に関する機能を付与するために用いられる。樹脂組成物の高屈折率化や導電性付与に有用な微粒子の具体例として、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化スズ、スズドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ、インジウムドープ酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化アンチモン等が挙げられる。一方、樹脂組成物の低屈折率化に有用な微粒子の具体例として、フッ化マグネシウム、シリカ、中空シリカ等が挙げられる。防眩性付与に有用な微粒子の具体例としては、上記の微粒子に加え、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、タルク、カオリン等の無機微粒子:シリコーン樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアミン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂およびこれらの共重合樹脂等の有機微粒子が挙げられる。樹脂組成物は、これらの微粒子を1種のみ含有していてもよく、2種以上含有していてもよい。
樹脂組成物は、表面調整剤を含有してもよい。樹脂組成物が表面調整剤を含むことにより、樹脂組成物を硬化して樹脂層を形成した際に、樹脂層にストライエーションや凹み等の外観上の欠陥を生じることを抑制することができる。表面調整剤は、樹脂組成物100質量%中、例えば0.01〜1質量%含まれていればよい。
表面調整剤の種類は特に限定されず、シロキサン系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アクリル系レベリング剤などを用いることができる。中でも、表面調整剤としては、シロキサン系界面活性剤またはアクリル系レベリング剤を用いることが好ましく、シロキサン系界面活性剤を用いることがより好ましい。
シロキサン系界面活性剤としては、シロキサン結合を有する界面活性剤であれば特に限定されず、例えば、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、アルキル変性ポリジメチルシロキサン、ポリエステル変性ポリジメチルシロキサン、アラルキル変性ポリジメチルシロキサン等が挙げられる。中でも、樹脂組成物中における近赤外線吸収色素(特にオキソカーボン系化合物)の分散性の観点から、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンが好ましい。ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサンは、親水基がポリアルキレンオキサイド(より好ましくはエチレンオキサイドまたはプロピレンオキサイド)、疎水基がジメチルシロキサンで構成される非イオン系の界面活性剤であることが特に好ましい。
上記に示した表面調整剤は公知のものを用いることができ、シロキサン系界面活性剤としては、例えば、ビックケミー社製のBYK−300、302、306、307、310、313、315N、320、322、323、325、330、331、333、342、345/346、347、348、349、370、377、378、3455や、信越化学工業社製のKF−618、351、352、353、6011、6015等を用いることができる。アセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール等が挙げられる。フッ素系界面活性剤としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸塩、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキサイド化合物等が挙げられる。アクリル系レベリング剤としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert−ブチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の単独または共重合体が挙げられ、市販品としては、例えば、ビックケミー社製のBYK−350、352、354、355、358N、361N、381、392等を用いることができる。
樹脂組成物には、上記以外の添加剤として、必要に応じて、可塑剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、比抵抗調整剤、pH調整剤、密着性向上剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
樹脂組成物は、溶媒を含有するものであってもよい。樹脂組成物が溶媒を含むことにより、樹脂組成物の塗工が容易になり、例えば、樹脂組成物を基板上に塗工して、塗膜を形成することが容易になる。溶媒としては、有機溶剤を用いることが好ましく、例えば、メチルエチルケトン(2−ブタノン)、メチルイソブチルケトン(4−メチル−2−ペンタノン)、シクロヘキサノン等のケトン類;PGMEA(2−アセトキシ−1−メトキシプロパン)、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート等のグリコール誘導体(エーテル化合物、エステル化合物、エーテルエステル化合物等);N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド類;酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類;N−メチル−ピロリドン(具体的には、1−メチル−2−ピロリドン等)等のピロリドン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;シクロヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジプチルエーテル等のエーテル類;等が挙げられる。
溶媒の含有量としては、樹脂組成物100質量%中、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上がより好ましく、50質量%以上がさらに好ましく、また95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましい。
なお、樹脂組成物には水が多く含まれないことが好ましく、具体的には、樹脂組成物100質量%中、水分量が0.35質量%未満であることが好ましく、0.32質量%以下がより好ましく、0.30質量%以下がさらに好ましい。このように樹脂組成物の水分量を低減することにより、樹脂組成物を硬化して樹脂層を形成した際に樹脂層の表面に凹み等の欠陥が生じにくくなり、外観が良好なものとなる。樹脂組成物中の水分量の下限は特に限定されず、0質量%以上であればよい。樹脂組成物中の水分量は、カールフィッシャー法(容量滴定法)により分析する。
次に、本発明の樹脂組成物の製造方法について説明する。本発明の樹脂組成物は、下記式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解物および/またはその脱水縮合物と、樹脂と、近赤外線吸収色素とを配合する工程(配合工程)を有する製造方法によって得ることができる。
SiR1 m(OR2)4-m (2)
上記式(2)中、R1はアルキル基、エポキシ基含有基、アミノ基含有基、メルカプト基含有基または重合性二重結合含有基を表し、R2はアルキル基を表し、mは1〜3の整数を表し、mが2以上のとき、複数のR1は互いに同一であっても異なっていてもよく、4−mが2以上のとき、複数のOR2は互いに同一であっても異なっていてもよい。R1とR2とmの好適態様は上記に説明した通りである。式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解物および/またはその脱水縮合物としては、具体的には、上記式(1)で表されるケイ素化合物および/またはその脱水縮合物が示される。
式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解物および/またはその脱水縮合物、樹脂、および近赤外線吸収色素の具体例やその好適態様は上記に説明した通りである。各成分の配合割合について、式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解物および/またはその脱水縮合物の配合量は、樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上がさらに好ましく、3質量部以上がさらにより好ましく、また20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましい。近赤外線吸収色素の配合量は、樹脂100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、また30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。なお本発明において、樹脂の量(例えば、樹脂100質量部など)は、樹脂が溶媒を含有する場合は、溶媒を除く固形分量を意味する。
樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合は、配合工程でさらに硬化剤および/または硬化触媒を配合することが好ましい。硬化剤や硬化触媒の具体例やその好適態様は上記に説明した通りである。硬化剤および/または硬化触媒の配合量は、その総量として、エポキシ樹脂100質量部に対して、例えば0.1〜10質量部とすればよい。
配合工程では、溶媒を配合してもよい。溶媒を配合することにより、樹脂組成物を溶媒キャスト法やスピンコート法等により基板上に成膜しやすくなる。溶媒としては、上記に説明した溶媒を用いることができる。溶媒の配合量は、樹脂100質量部に対して、20質量部以上が好ましく、50質量部以上がより好ましく、80質量部以上がさらに好ましく、また2000質量部以下が好ましく、1500質量部以下がより好ましく、1000質量部以下がさらに好ましく、500質量部以下が特に好ましい。
配合工程では、必要に応じて、表面調整剤を配合してもよい。表面調整剤の配合量は、樹脂100質量部に対して、例えば0.05〜3質量部とすればよい。配合工程では、さらに必要に応じて、紫外線吸収剤、有機微粒子、無機微粒子、可塑剤、分散剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、比抵抗調整剤、pH調整剤、密着性向上剤等の各種添加剤を配合してもよい。
配合工程における各成分の配合順序や配合方法は特に限定されない。配合工程においては、これら各成分を配合して混合することにより、樹脂組成物を得ることが好ましい。
式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解物および/またはその脱水縮合物は、式(2)で表されるケイ素化合物と水とを配合して、加水分解またはさらに脱水縮合することにより得ることが好ましい。すなわち、本発明の樹脂組成物の製造方法は、式(2)で表されるケイ素化合物と水とを配合して、加水分解またはさらに脱水縮合することにより、式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解物および/またはその脱水縮合物を得る工程(反応工程)を有することが好ましい。
反応工程では、式(2)で表されるケイ素化合物と水とを反応させることにより、置換基OR2の少なくとも一部が水酸基に変換されて加水分解物が得られ、さらにこれを脱水縮合することにより式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解物の脱水縮合物が得られる。通常、式(2)で表されるケイ素化合物が加水分解して加水分解物が生成すると、さらに脱水縮合反応が速やかに進行し、加水分解物の少なくとも一部がその脱水縮合物に変換される。
反応工程で得られた生成物は、式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解物および/またはその脱水縮合物を含む組成物(以下、当該組成物を「シラン組成物」と称する場合がある)として、そのまま次工程の配合工程に供することが樹脂組成物の製造上簡便である。従って、配合工程では、式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解物および/またはその脱水縮合物を含む組成物と、樹脂と、近赤外線吸収色素とを配合することが好ましい。
反応工程では、式(2)で表されるケイ素化合物100質量部に対して、水を25質量部未満用いることが好ましく、22質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。このように水の配合量を調節することで、最終的に得られる樹脂組成物の水分量を低減することができ、樹脂組成物を硬化して樹脂層を形成した際に樹脂層の表面に凹み等の欠陥が生じにくくなる。反応工程で用いる水の量の下限は、式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解反応を進行させる点から、式(2)で表されるケイ素化合物100質量部に対して、水を1質量部以上用いることが好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。
なお、最終的に得られる樹脂組成物の水分量を低減する方法としては、反応工程で水の使用量を低減する以外に、配合工程で樹脂組成物を調製した後に、当該樹脂組成物の脱水処理を行う方法を採用してもよい。樹脂組成物の脱水処理はシリカゲル等の脱水剤と接触させることにより行えばよい。この場合、樹脂組成物を脱水剤と接触させた後、樹脂組成物から脱水剤を分離することにより、水分量の低減された樹脂組成物を得ることができる。
反応工程では、アルコール溶媒(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等)中で、式(2)のケイ素化合物と水とを反応させることが好ましく、これにより、式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解反応および脱水縮合反応の制御が容易になる。アルコール溶媒を使用する場合、その使用量は、式(2)で表されるケイ素化合物100質量部に対して、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましく、また500質量部以下が好ましく、300質量部以下がより好ましく、200質量部以下がさらに好ましい。
反応工程は、触媒の存在下で行うことが好ましい。これにより、式(2)で表されるケイ素化合物のアルコキシ基の加水分解反応が促進される。触媒としては、アンモニア、尿素、エタノールアミン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等の塩基;硫酸、リン酸、硝酸、塩酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、スルホン酸等の有機酸等が挙げられる。これらの中でも有機酸を用いることが好ましい。なお、式(2)で表されるケイ素化合物の置換基R1がエポキシ基含有基である場合、反応工程では当該エポキシ基の開環反応が抑制されることが好ましいことから、触媒として塩基を用いる場合は、置換基R1に含まれるエポキシ基はシクロアルケンオキサイドの形態で含まれることが好ましく、触媒として酸を用いる場合は、置換基R1に含まれるエポキシ基はグリシジル基の形態で含まれることが好ましい。触媒を使用する場合、その使用量は、式(2)で表されるケイ素化合物100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましく、また30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
反応工程における反応条件は特に限定されず、式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解反応とその脱水縮合反応の進行を見ながら、反応温度や反応時間を適宜調整すればよい。例えば、式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解反応およびその脱水縮合反応は、0℃〜80℃の温度で、1分〜3時間行えばよい。反応工程において、式(2)で表されるケイ素化合物の加水分解率(置換基OR2の加水分解率)は、例えば10モル%以上であることが好ましく、30モル%以上がより好ましく、50モル%以上がさらに好ましい。当該加水分解率の上限は特に限定されず、100モル%であってもよい。
本発明の樹脂組成物は、硬化させることにより、近赤外線吸収能を有する樹脂硬化物を形成することができる。樹脂組成物は、射出成形等の成形に用いることのできる熱可塑性樹脂組成物であってもよく、スピンコート法や溶媒キャスト法等により塗工できるよう塗料化された樹脂組成物であってもよい。本発明の樹脂組成物から形成された樹脂硬化物は、特定の波長の光を選択的に透過させる(あるいはカットする)光学フィルターに用いることができる。
樹脂組成物が熱可塑性樹脂組成物である場合は、当該樹脂組成物を、射出成形、押出成形、真空成形、圧縮成形、ブロー成形等をすることにより樹脂硬化物を形成することができる。この方法では、樹脂成分として熱可塑性樹脂を用い、当該熱可塑性樹脂に近赤外線吸収色素を配合し、加熱成形することにより、樹脂硬化物を形成することができる。例えば、ベース樹脂の粉体またはペレットに近赤外線吸収色素を添加し、150℃〜350℃程度に加熱し、溶解させた後、成形するとよい。
樹脂組成物が塗料化された樹脂組成物である場合は、近赤外線吸収色素を含む液状またはペースト状の樹脂組成物を、透明基板(例えば、樹脂板、フィルム、ガラス板等)上に塗工し硬化させることで、透明基板上に樹脂層を形成することができる。樹脂層は、近赤外線吸収層として機能する。塗料化された樹脂組成物としては、例えば近赤外線吸収色素を樹脂組成物中に溶解させたものや、近赤外線吸収色素を数μm以下に微粒化して樹脂組成物中に分散したもの等が挙げられる。
なお本発明の樹脂組成物は、上記に説明したように、特定シラン化合物を含有しており、これにより、当該樹脂組成物を用いて基板上に樹脂層を形成した際に、湿熱下での樹脂層の基板への密着性(耐湿熱性)を高めることができる。従って、本発明の樹脂組成物を用いた光学フィルターとしては、当該樹脂組成物を硬化した樹脂層が基材上に形成されたものが好ましい。このように形成された光学フィルターは、耐熱性と耐湿熱性に優れたものとなる。
基板としては、ガラス基板を用いることが好ましい。樹脂層をガラス基板上に設けることにより、耐熱性に優れた光学フィルターを得ることができる。このようにして得られた光学フィルターは、例えば、半田リフローにより、光学フィルターを電子部品に実装することが可能となり、電子部品の小型化を図ることができる。またガラス基板は、高温にさらされても割れや反りが起こりにくいため、樹脂層との密着性を確保しやすくなる。さらに、ガラス基板を用いることにより、特定シラン化合物の作用によって、樹脂層とガラス基板との密着性を高めることが容易になる。
ガラス基板は、透明な(すなわち可視光線透過性を有する)板状のガラスであれば、特に制限なく用いることができる。ガラス基板に用いられるガラスは、二酸化ケイ素を主成分とするものが好ましく、ケイ素と酸素以外の原子あるいはイオンを含有していてもよい。このような原子やイオンとしては、例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、バリウム、ホウ素、アルミニウム、鉄、銀、銅、コバルト、ニッケル、鉛、亜鉛、およびこれらのイオンが挙げられる。ガラス基板の厚みは、例えば、強度を確保する点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、また薄型化の点から、0.4mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。
樹脂組成物の基材への塗工は、スピンコート法、溶媒キャスト法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット法等の公知の塗工方法を用いればよい。これらの中でも、スピンコート法が、薄くて均一な厚みの樹脂層を形成しやすい点で、好ましく用いられる。スピンコート法では、例えば、塗料化された樹脂組成物を基板上に載せた後、室温(25℃)付近で、回転数500rpm〜4000rpmで10秒〜60秒間程度回転させることにより、基板上に薄くて均一な厚みの塗膜を形成することができる。その後、例えば150℃〜350℃で加熱することにより、樹脂層を形成することができる。
樹脂層の厚さは特に限定されず、光学フィルターの所望の光学性能や強度に応じて適宜調整すればよい。樹脂層の厚さは、例えば3μm以下が好ましく、2.5μm以下がより好ましく、これにより厚さの薄い光学フィルターとすることができる。樹脂層の厚さの下限としては、例えば0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。なお、樹脂層は3μmよりも厚く形成することも当然可能である。
樹脂層は、基板の片面のみに設けられていてもよく、両面に設けられていてもよい。なお樹脂層は、特定シラン化合物による効果を奏効させる点から、基板上に直接形成されることが好ましい。
光学フィルターは、さらに誘電体多層膜を有していてもよい。誘電体多層膜は樹脂層上に設けられ、樹脂層が基板上に形成される場合は、誘電体多層膜は樹脂層の基板とは反対側に設けられることが好ましい。誘電体多層膜によって所望の波長範囲の光線を透過させたりカットすることができ、光学フィルターに、反射防止膜(可視光反射防止膜)、赤外線反射膜、紫外線反射膜等としての機能を付与することができる。誘電体多層膜はこれら2つ以上の機能を備えることもでき、少なくとも可視光反射防止膜と赤外線反射膜としての機能を有することが好ましい。
誘電体多層膜は、高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層して形成することができる。高屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.7以上の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.7〜2.5の材料が選択されることが好ましい。高屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化インジウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化錫、酸化ビスマス等の酸化物;窒化ケイ素等の窒化物;前記酸化物や前記窒化物の混合物やそれらにアルミニウムや銅等の金属や炭素を含有ドープしたもの(例えば、スズドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO))等が挙げられる。低屈折率材料層を構成する材料としては、屈折率が1.6以下の材料を用いることができ、屈折率の範囲が1.2〜1.6の材料が選択されることが好ましい。低屈折率材料層を構成する材料としては、例えば、酸化ケイ素(シリカ、SiOx(x=1〜2))、アルミナ、フッ化ランタン、フッ化マグネシウム、六フッ化アルミニウムナトリウム等が挙げられる。
誘電体多層膜は、蒸着膜として形成することができる。誘電体多層膜の蒸着は公知の方法により行えばよい。例えば、蒸発源の加熱手段としては、抵抗加熱、電子ビーム加熱、高周波誘導加熱、レーザビーム加熱等の公知の加熱手段を用いることができる。蒸着の際の真空度は5×10-2Pa以下(絶対圧)とすることが好ましく、蒸着温度は、例えば80℃以上300℃以下とすることが好ましい。なお蒸着としては、イオンアシスト蒸着を用いることが好ましく、これにより緻密かつ平滑性の高い誘電体多層膜を形成しやすくなり、所望の光学性能を付与させやすくなる。イオンアシストとしては、イオン銃、イオンプレーティング、プラズマ銃等を用いることができる。
誘電体多層膜の厚みは特に限定されず、例えば0.01μm〜10μmの範囲であればよい。誘電体多層膜の層数は、反射防止膜や赤外線反射膜としての光学性能を発揮させる観点から、例えば2層〜80層であることが好ましい。
光学フィルターは、上記に説明した樹脂層、基板、誘電体多層膜以外に、他の層(膜)を有していてもよい。他の層(膜)としては、防眩性を有する層、傷付き防止性能を有する層、金属膜、その他の機能を有する透明基板等が挙げられる。
光学フィルターの厚みは、例えば、1mm以下であることが好ましい。これにより、例えば、撮像素子の小型化への要請に十分に応えることができる。光学フィルターの厚みは、より好ましくは500μm以下、さらに好ましくは300μm以下、さらにより好ましくは150μm以下であり、また30μm以上が好ましく、50μm以上がさらに好ましい。
本発明の光学フィルターは、撮像素子用途に特に好適である。本発明には、光学フィルターを有する撮像素子も含まれる。撮像素子は、固体撮像素子やイメージセンサチップとも称され、被写体の光を電気信号に変換し、電気信号として出力する電子部品である。撮像素子は、通常、CCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor)等の検出素子(センサー)を有し、レンズを有していてもよい。撮像素子は、例えば、携帯電話用カメラ、デジタルカメラ、車載用カメラ、監視カメラ、表示素子(LED等)等に用いられる。撮像素子は、本発明の光学フィルターを1または2以上含み、必要に応じて、さらに他の部材を有していてもよい。
以下に、実施例を示すことにより本発明を更に詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、下記の説明では特に断らない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
(1)樹脂組成物の調製
(1−1)調製例1(オキソカーボン系化合物Aの調製)
近赤外線吸収色素として、下記に示す構造を有するオキソカーボン系化合物Aを作製した。オキソカーボン系化合物Aは、ピロール環含有化合物とスクアリン酸とを反応させる公知の合成手法、すなわち明細書中に挙げた論文に記載された合成方法によって作製した。オキソカーボン系化合物Aは、近赤外領域の波長730nmに吸収極大を有する吸収ピークを示す。
(1−2)調製例2(シラン組成物の調製)
表1に示す配合割合で、エポキシシランである3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、ofs−6040)と2−プロパノール(和光純薬工業社製)と純水(和光純薬工業社製)とギ酸とを配合し、25℃で30分間混合し、シラン組成物1〜4を調製した。シラン組成物1〜4は、特定シラン化合物、すなわち3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランの加水分解物およびその脱水縮合物を含有するものである。
(1−3)調製例3(硬化触媒の調製)
国際公開第1997/031924号に記載された合成法に従って、TPB(トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)含有量7%の安藤パラケミー社製アイソパー(登録商標)E溶液255gを調製した。この溶液に水を60℃で滴下して白色結晶を析出させ、これを室温まで冷却した後、吸引ろ過し、n−ヘプタンで洗浄した。得られたケーキを60℃で減圧乾燥し、白色結晶であるTPB・水錯体(TPB含有粉末)を18.7g得た。この錯体は水分量9.2%(カールフィッシャー水分計)であり、TPB含有率は90.8%であった。乾燥後の錯体に対して19F−NMR分析とGC分析を実施したが、TPB以外のピークは検出されなかった。得られたTPB・水錯体2.0gとトルエンを1.1gとを配合し、室温で10分間混合した。その後、2mol/Lアンモニア・エタノール溶液を2.6g添加し、室温で60分間混合し、TPB触媒の均一溶液とした。これをカチオン硬化触媒とした。
(1−4)調製例4(近赤外線吸収色素を含有するベース樹脂組成物の調製)
オキシラン化合物(エポキシ樹脂)として2,2−ビス(ヒドロキシメチル)−1−ブタノールの1,2−エポキシ−4−(2−オキシラニル)シクロヘキサン付加物(ダイセル社製、EHPE3150)を100部、溶媒としてトルエン(和光純薬工業社製)150部とo−キシレン75部を、80℃にて均一に混合した。冷却後、調製例1で得たオキソカーボン系化合物Aを9部と、表面調整剤としてビックケミー社製BYK−306(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン)0.3部を加え、25℃にて60分間均一に混合した。さらにそこに、調製例3で得た硬化触媒2.5部を加え、25℃にて5分間均一に混合した後、0.45μmフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過して異物を取り除き、ベース樹脂組成物を得た。各成分の配合割合は表2にも示されている。
(1−5)調製例5(樹脂組成物の調製)
表2に示す配合割合で、調製例4で得たベース樹脂組成物と、調製例2で得たシラン組成物またはシラン化合物(エポキシシラン、メルカプトシランまたはアミノシラン)とを配合し、25℃で30分間混合した。これを0.45μmフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過して異物を取り除き、実施例と比較例で用いる樹脂組成物を得た。実施例5では、ベース樹脂組成物とシラン組成物との混合物をフィルターでろ過して異物を取り除いた後、ろ過した組成物100部に対してシリカゲルを100部配合し、室温にて1時間混合して脱水処理を行った。脱水処理後の組成物は、0.45μmフィルター(GLサイエンス社製、非水系13N)でろ過して、実施例5で用いる樹脂組成物を得た。比較例1では、シラン組成物やシラン化合物を配合せず、ベース樹脂組成物をそのまま使用した。エポキシシランとしては、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、ofs−6040)を用い、メルカプトシランとしては、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング社製、Z−6062)を用い、アミノシランとしては、3−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、KBM−903)を用いた。
(2)分析方法
(2−1)樹脂組成物中のシラン化合物の加水分解量
樹脂組成物をガスクロマトグラフィーにより分析し、原料として用いたシラン化合物の残存量を定量した。原料のシラン化合物の使用量に対して、樹脂組成物に残存したシラン化合物の量を除いた量(割合)を加水分解量(mol%)とした。測定条件は以下の通りである。
−測定装置:島津製作所社製、GC−2014
−カラム:Agilent社製、Agilent J&W DB−1(内径:0.53mm、長さ:60m、膜厚:1.5μm)
−展開ガス:ヘリウム
−展開溶媒:プロピレンカーボネート
−内標:シクロヘキサノン
(2−2)シラン化合物の重量平均分子量
高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置を用いて、シラン組成物に含まれるシラン化合物の重量平均分子量を求めた。シラン組成物を展開溶媒に0.5質量%となるように希釈し、流量0.35mL/minで展開した。標準試料をもとに得られたチャートより重量平均分子量を計算した。なお、同様にして、比較例で用いたシラン化合物の重量平均分子量も求めた。測定条件は以下の通りである。
−測定装置:東ソー社製、TOSOH HLC−8320GPC EcoSEC
−カラム:東ソー社製、TSKgel SuperMurtipore HZ−N×2本
−展開溶媒:THF
−温度:40℃
−標準試料:東ソー社製、PStQuickMP−M
(2−3)樹脂組成物の水分量
カールフィッシャー法により樹脂組成物0.3g中の水分量を測定した。測定条件は以下の通りである。
−測定装置:平沼社製、HIRANUMA AQUACOUNTER AQV−2100
−溶媒:林純薬工業社製、HYASHI−Solvent CE
−指示薬:シグマ・アルドリッチ社製、Fluka HYDRANAL−Composite 5K
(3)光学フィルターの作製
実施例および比較例の各樹脂組成物を、76mm角(Schott社製、D263Teco、松浪ガラス社にて洗浄)のガラス基板上に1cc垂らした後、スピンコーター(ミカサ社製、MS−A200)を用い、0.5秒間かけて1000回転にし、20秒間その回転数で保持し、その後3秒間かけて0回転(rpm)になるようにして、樹脂組成物をガラス基板上に成膜した。樹脂組成物を成膜したガラス基板を、イナートオーブン(光洋サーモシステム社製、CLO−9CH)を用いて室温で30分間窒素置換した後(酸素濃度100ppm未満(体積基準))、30分程度で200℃に昇温し、窒素雰囲気下で200℃で30分間乾燥し、30分で150℃まで降温することにより、ガラス基板上に樹脂層を形成した(以下、「樹脂層積層基板」と称する)。ガラス基板上に形成した樹脂層の厚みは2μmであった。なお、樹脂層の厚みは、樹脂層を形成したガラス基板の厚みとガラス基板単独の厚みをそれぞれマイクロメーターにより測定し、両者の差から求めた。
(4)光学フィルター(樹脂層積層基板)の評価方法
(4−1)初期耐剥離性試験
樹脂層積層基板について、ガラス基板上に設けられた樹脂層にカッター(エヌティー社製、A−300)で切り込みを入れ、縦列、横列にそれぞれ2mm間隔で10本のクロスカット線を設けることによって4mm2の四角を81マス作製し、評価用サンプル基板を作製した。この評価用サンプル基板を、空気が入らないようにテープ(3M(スリーエム)社製、スコッチ(登録商標)透明粘着テープ透明美色(登録商標))を貼り付け、10秒間放置した。その後、基板からのテープの剥離を1秒以内に行い、下記基準で評価した。なお、いずれのマスにおいても剥離力が一定となるようにテープの剥離を行った。
○:作製した81マスの四角のうち、1マスも剥がれが発生しなかった
△:作製した81マスの四角のうち、1〜9マスに剥がれが発生した
×:作製した81マスの四角のうち、10〜81マスに剥がれが発生した
(4−2)50時間湿熱下耐剥離性試験(PCT(Pressure Cooker Test)試験)
樹脂層積層基板について、ガラス基板上に設けられた樹脂層にカッター(エヌティー社製、A−300)で切り込みを入れ、縦列、横列にそれぞれ2mm間隔で10本のクロスカット線を設けることによって4mm2の四角を81マス作製し、評価用サンプル基板を作製した。次に、この評価用サンプル基板を、120℃、2気圧、湿度100%の高圧高温高湿槽(平山製作所社製、パーソナルプレッシャークッカーPC−242HS−E、動作モード1)に50時間入れた。続いて、室温にて、空気が入らないようにテープ(3M(スリーエム)社製、スコッチ(登録商標)透明粘着テープ透明美色(登録商標))を貼り付け、10秒間放置した。その後、基板からのテープの剥離を1秒以内に行い、下記基準で評価した。なお、いずれのマスにおいても剥離力が一定となるようにテープの剥離を行った。
○:作製した81マスの四角のうち、1マスも剥がれが発生しなかった
△:作製した81マスの四角のうち、1〜9マスに剥がれが発生した
×:作製した81マスの四角のうち、10〜81マスに剥がれが発生した
(4−3)耐熱性試験
樹脂層積層基板の作製の際の、イナートオーブンでの加熱処理前(硬化前)の樹脂組成物を成膜したガラス基板と、イナートオーブンでの加熱処理後(硬化後)の樹脂層積層基板のそれぞれについて、分光光度計(Agilent社製、8453)を用いて透過スペクトル(空気基準)の測定を行った。波長600nmから700nmにおいて、透過率が50%となる波長の硬化前後の変化量を測り、下記基準で評価した。
○:50%となる波長変化が9nm未満
×:50%となる波長変化が9nm以上
(4−4)樹脂層凹欠陥の評価
ポラリオンライトにより樹脂層表面を照射し、樹脂層表面に形成された1μm〜10μmの大きさの欠陥に印を付け、その印を付けた欠陥をレーザー顕微鏡(キーエンス社製、レーザーマイクロスコープVK−9700)を用い観察し、凹欠陥の数を数えた。樹脂層の凹欠陥は、下記の基準で評価した。
○:樹脂積層基板(76mm角)に存在する欠陥の数が30個以下
△:樹脂積層基板(76mm角)に存在する欠陥の数が31個〜100個
×:樹脂積層基板(76mm角)に存在する欠陥の数が101個以上
(5)評価試験結果
シラン組成物と樹脂組成物の分析結果、および光学フィルター(樹脂層積層基板)の評価結果を表3にまとめる。実施例で用いた樹脂組成物は、特定シラン化合物(すなわち、特定の置換基を有するシラン化合物が加水分解またはさらに脱水縮合したもの)が含まれていたため、これを硬化して得られた樹脂層は、50時間湿熱下での耐剥離性に優れるとともに、耐熱性に優れるものとなった。一方、比較例で用いた樹脂組成物は特定シラン化合物が含まれていなかったため、これを硬化して得られた樹脂層は、50時間湿熱下での耐剥離性と耐熱性の両方を備えたものとはならなかった。
実施例で作製した光学フィルターに特開2014−149514号公報と同様に蒸着膜を形成したところ、撮像素子用の良好な赤外線反射吸収型の赤外線カットフィルターが得られた。