以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図中、同一又は相当部分には同一符号を用いることとする。また、各図において、同一要素には同一符号を付して重複する説明を省略する。
本実施形態では、チェーン式の無段変速機(CVT)の制御装置1に適用する。図1を参照して、実施形態に係る無段変速機の制御装置1について説明する。図1は、実施形態に係る無段変速機の制御装置1の構成を示すブロック図である。
制御装置1について説明する前に、エンジン2及び無段変速機3について説明する。まず、エンジン2について説明する。エンジン2は、どのような形式のものでもよいが、例えば、水平対向型の4気筒ガソリンエンジンである。エンジン2のクランク軸(出力軸)2aには、無段変速機3が接続されている。エンジン2は、エンジン・コントロールユニット(以下では「ECU(Engine Control Unit)」と呼ぶ)20によって制御される。
ECU20は、エンジン2を総合的に制御する制御装置である。ECU20は、演算を行うマイクロプロセッサ、マイクロプロセッサに各処理を実行させるためのプログラムなどを記憶するROM、演算結果などの各種データを記憶するRAM、12Vバッテリによってその記憶内容が維持されるバックアップRAM及び入出力I/F等を有して構成されている。
ECU20には、制御に必要な情報を取得するために、吸入空気量センサ21、クランク角センサ22等の各種センサが接続されている。吸入空気量センサ21は、エアクリーナ(図示省略)から吸入された空気の量を検出する。クランク角センサ22は、クランク軸2aの回転角を検出する。ECU20では、例えば、周知の推定方法により吸入空気量等を用いてエンジン2で発生するエンジントルク(無段変速機3に入力されるトルク)を算出(推定)する。また、ECU20では、例えば、クランク軸2aの回転角からエンジン回転数を算出する。ECU20では、これらの各種センサから取得した検出値や算出した各種値に基づいて、燃料噴射量や点火時期等を制御する。ECU20で取得した各種センサの検出値やECU20で算出したエンジントルク、エンジン回転数等の値は、CAN(Controller Area Network)60を介してトランスミッション・コントロールユニット(以下では「TCU(Transmission Control Unit)」と呼ぶ)10に送信される。なお、本実施形態では、ECU20やCAN60等が特許請求の範囲に記載のトルク取得手段に相当する。
次に、無段変速機3について説明する。無段変速機3は、エンジン2からの駆動力を変換して出力する。無段変速機3は、トルクコンバータ30と、前後進切替機構31と、を備えている。また、無段変速機3は、このトルクコンバータ30及び前後進切替機構31を介してエンジン2のクランク軸2aと接続されるプライマリ軸32と、プライマリ軸32と平行に配設されたセカンダリ軸33と、を備えている。
トルクコンバータ30は、クラッチ機能とトルク増幅機能を有している。トルクコンバータ30は、主として、ポンプインペラ30aと、タービンライナ30bと、ステータ30cと、を備えている。ポンプインペラ30aは、エンジン2のクランク軸2aに接続され、オイルの流れを生み出す。タービンライナ30bは、ポンプインペラ30aに対向して配置され、オイルを介してエンジン2の駆動力を受けて出力軸(タービン軸30e)を駆動する。ステータ30cは、ポンプインペラ30aとタービンライナ30bの間に配置され、タービンライナ30bからの排出流(戻り)を整流し、ポンプインペラ30aに還元することでトルク増幅作用を発生させる。また、トルクコンバータ30は、入力(クランク軸2a)と出力(タービン軸30e)とを直結状態にするロックアップクラッチ30dを備えている。トルクコンバータ30は、ロックアップクラッチ30dが締結されていないとき(非ロックアップ時)にエンジン2の駆動力をトルク増幅して伝達し、ロックアップクラッチ30dが締結されているとき(ロックアップ時)にエンジン2の駆動力を直接伝達する。
前後進切替機構31は、駆動輪の正転と逆転(車両の前進と後進)とを切り替える機能を有している。前後進切替機構31は、主として、ダブルピニオン式の遊星歯車列31aと、前進クラッチ31bと、後進クラッチ(後進ブレーキ)31cと、を備えている。前後進切替機構31では、前進クラッチ31b及び後進クラッチ31cそれぞれの状態(締結/解放)を制御することにより、エンジン2の駆動力の伝達経路を切り替えることが可能に構成されている。前進クラッチ31bには油室が形成されており、この油室にはクラッチを締結させるためのクラッチ油圧が供給される。後進クラッチ31cには油室が形成されており、この油室にはクラッチを締結させるためのクラッチ油圧が供給される。
運転者のシフトレバー操作でドライブレンジが選択された場合、前後進切替機構31では、後進クラッチ31cを解放してから前進クラッチ31bを締結することにより、タービン軸30eの回転をそのままプライマリ軸32に伝達する。この場合、車両を前進走行させることが可能となる。一方、運転者のシフトレバー操作でリバースレンジが選択された場合、前後進切替機構31では、前進クラッチ31bを解放してから後進クラッチ31cを締結することにより、遊星歯車列31aを作動させてタービン軸30eの回転を逆転させてプライマリ軸32に伝達する。この場合、車両を後進走行させることが可能となる。なお、運転者のシフトレバー操作でニュートラルレンジ又はパーキングレンジが選択された場合、前進クラッチ31b及び後進クラッチ31cを解放することにより、タービン軸30eとプライマリ軸32とは切り離され(エンジン2の駆動力の伝達が遮断され)、前後進切替機構31はプライマリ軸32に動力を伝達しないニュートラル状態となる。
プライマリ軸32には、プライマリプーリ34が設けられている。プライマリプーリ34は、固定プーリ34aと、可動プーリ34bとを有している。固定プーリ34aは、プライマリ軸32に接合されている。可動プーリ34bは、固定プーリ34aに対向し、プライマリ軸32の軸方向に摺動自在かつ相対回転不能に装着されている。プライマリプーリ34は、固定プーリ34aと可動プーリ34bとの間のコーン面間隔(すなわち、プーリ溝幅)を変更できるように構成されている。
セカンダリ軸33には、セカンダリプーリ35が設けられている。セカンダリプーリ35は、固定プーリ35aと、可動プーリ35bとを有している。固定プーリ35aは、セカンダリ軸33に接合されている。可動プーリ35bは、固定プーリ35aに対向し、セカンダリ軸33の軸方向に摺動自在かつ相対回転不能に装着されている。セカンダリプーリ35は、固定プーリ35aと可動プーリ35bとの間のプーリ溝幅を変更できるように構成されている。
プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35との間には、駆動力を伝達するチェーン36が掛け渡されている。このプライマリプーリ34とセカンダリプーリ35及びチェーン36により、バリエータ37が構成される。バリエータ37では、プライマリプーリ34とセカンダリプーリ35の各プーリ溝幅を変化させて、各プーリ34,35に対するチェーン36の巻き付け径の比率(プーリ比)を変化させることで変速比を無段階で変更する。なお、チェーン36のプライマリプーリ34に対する巻き付け径をRpとし、セカンダリプーリ35に対する巻き付け径をRsとすると、変速比iは、i=Rs/Rpで表される。
プライマリプーリ34の可動プーリ34bには、プライマリ駆動油室(油圧シリンダ室)34cが形成されている。セカンダリプーリ35の可動プーリ35bには、セカンダリ駆動油室(油圧シリンダ室)35cが形成されている。プライマリ駆動油室34cには、プーリ比(変速比)を変化させるための変速油圧とチェーン36の滑りを防止するためのクランプ油圧が供給される。セカンダリ駆動油室35cには、クランプ油圧が供給される。
無段変速機3には、バルブボディ40によって各油圧が供給される。バルブボディ40には、コントロールバルブ機構が組み込まれている。このコントロールバルブ機構は、例えば、油圧回路に設けられた複数のスプールバルブと当該スプールバルブを動かすソレノイドバルブを用いてバルブボディ40内に形成された油路を開閉することで、オイルポンプ(図示省略)から吐出された油圧(ライン圧)を調圧した各油圧を発生する。バルブボディ40では、調圧したクランプ油圧をプライマリ駆動油室34c及びセカンダリ駆動油室35cに供給すると共に、調圧した変速油圧をプライマリ駆動油室34cに供給する。
特に、バルブボディ40には、前進クラッチ31b、後進クラッチ31bの各油室に供給/排出するオイル量を調節(調圧)するための油圧回路41が設けられている。この油圧回路41を、図2を参照して説明する。図2は、バルブボディ40の前後進切替機構用の油圧回路41を模式的に示す図である。
油圧回路41は、クラッチリニアソレノイドバルブ42と、クラッチバルブ43と、マニュアルバルブ44とを有する。油圧回路41では、マニュアルバルブ44で選択された前進クラッチ31bと後進クラッチ31cのうちの一方のクラッチの油室に供給するクラッチ油圧を、TCU10によって制御されるクラッチリニアソレノイドバルブ42とクラッチバルブ43により調圧する。
クラッチリニアソレノイドバルブ42は、油路46aと、クラッチバルブ43に連通する油路46bとが接続されている。油路46aには、パイロット圧のオイルが流れる。クラッチリニアソレノイドバルブ42は、TCU10に接続されている。クラッチリニアソレノイドバルブ42は、TCU10から供給される電流値に応じてプランジャの軸方向への駆動(位置)が制御され、クラッチ油圧制御圧を変化させる。クラッチリニアソレノイドバルブ42は、クラッチバルブ43に油路46bを介してクラッチ油圧制御圧を供給する。
クラッチバルブ43は、スプールバルブであり、軸方向に摺動するスプール43aと、スプール43aの一端側に配置されたスプリング43bとを有している。クラッチバルブ43には、クラッチリニアソレノイドバルブ42に連通する油路46bと、油路46cと、マニュアルバルブ44と連通する油路46dとが接続されている。油路46cには、ライン圧のオイルが流れる。クラッチバルブ43は、クラッチリニアソレノイドバルブ42から供給されるクラッチ油圧制御圧に応じてスプール43aの軸方向への駆動(位置)が制御される。つまり、クラッチバルブ43は、油路46cを介して供給されるクラッチ油圧制御圧による押力(クラッチ油圧制御圧×受圧面積)と、スプリング43bのバネ力(付勢力)と、ライン圧による押力(ライン圧×受圧面積)とのバランスに応じてスプール43aが軸方向に駆動されることにより、クラッチ油圧を調圧する。クラッチバルブ43は、マニュアルバルブ44に油路46dを介してクラッチ油圧を供給する。
マニュアルバルブ44は、シフトレバー50に連動して動くように構成されている。マニュアルバルブ44は、クラッチバルブ43に連通する油路46dと、前進クラッチ31bの油室に連通する油路46eと、後進クラッチ31cの油室に連通する油路46fとが接続されている。
シフトレバー(セレクトレバー)50は、車両のフロア(センターコンソール)などに設けられている。シフトレバー50では、例えば、ドライブレンジ(Dレンジ)、マニュアルレンジ(Mレンジ)、パーキングレンジ(Pレンジ)、リバースレンジ(Rレンジ)、ニュートラルレンジ(Nレンジ)を選択的に切り替えることができる。
シフトレバー50が操作されてDレンジ(前進走行レンジ)が選択された場合、マニュアルバルブ44がシフトレバー50に連動して動くことで油路46dと油路46eが連通し、クラッチバルブ43で調圧されたクラッチ油圧のオイルが油路46eを介して前進クラッチ31bの油室に供給されると共に、後進クラッチ31cの油室からオイルが排出される。これにより、前進クラッチ31bはクラッチ油圧で締結状態になり、後進クラッチ31cは解放状態になり、車両は前進可能となる。
シフトレバー50が操作されてRレンジ(後進走行レンジ)が選択された場合、マニュアルバルブ44がシフトレバー50に連動して動くことで油路46dと油路46fとが連通し、クラッチバルブ43で調圧されたクラッチ油圧のオイルが油路46fを介して後進クラッチ31cの油室に供給されると共に、前進クラッチ31bの油室からオイルが排出される。これにより、前進クラッチ31bは解放状態になり、後進クラッチ31cはクラッチ油圧で締結状態になり、車両は後進可能となる。
なお、シフトレバー50が操作されてNレンジ又はPレンジが選択された場合、マニュアルバルブ44がシフトレバー50に連動して動くことで油路46dと油路46e及び油路46fとが連通せず、前進クラッチ31bの油室及び後進クラッチ31cの油室からそれぞれオイルが排出される。これにより、前進クラッチ31b及び後進クラッチ31cは解放状態になり、エンジン駆動力の伝達は遮断される。
それでは、図3〜図7も参照して、無段変速機の制御装置1について説明する。図3は、回帰直線を算出前の学習反映許可領域の一例を示す図である。図4は、回帰直線を算出後の学習反映許可領域の一例を示す図である。図5は、1個の学習値による直線の一例を示す図である。図6は、所定個数の学習値による回帰直線の一例を示す図である。図7は、回帰直線を用いた場合の過剰油圧の一例を示す図である。
制御装置1は、無段変速機3を総合的に制御する制御装置である。特に、本実施形態に係る制御装置1は、前後進切替機構31のクラッチ31b,31c毎に、前後進切替機構31に入力される入力トルクとこの入力トルクに応じたクラッチを締結するためのクラッチ油圧との関係(車両個々の各クラッチ31b,31cの摩擦材の摩擦係数に相当)を学習する。本実施形態では、この関係を示す学習情報は、一次関数の直線で表され、一次関数の傾きと切片からなる。
制御装置1の各制御は、TCU10によって実施される。TCU10は、ECU20と同様に、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、バックアップRAM及び入出力I/Fなどを有して構成されている。
TCU10には、制御に必要な情報を取得するために、タービン軸回転センサ11、プライマリプーリ回転センサ12、出力軸回転センサ13、レンジスイッチ14などの各種センサが接続されている。また、TCU10は、CAN60を介して、ECU20からエンジン回転数、エンジントルクなどの各種情報を受信する。
タービン軸回転センサ11は、タービン軸30eの回転数を検出する。プライマリプーリ回転センサ12は、プライマリプーリ34(プライマリ軸32)の回転数を検出する。出力軸回転センサ13は、セカンダリ軸33(出力軸)の回転数を検出する。TCU10では、このセカンダリ軸33の回転数から車速を算出する。レンジスイッチ14は、シフトレバー50と連動して動くように接続され、シフトレバー50の選択位置を検出する。なお、車速は、例えば、各輪に設けられた車輪速センサで検出された車輪速から算出される車速(車体速)でもよい。TCU10では、例えば、この車速をCAN60を介してECU20などから受信する。
TCU10は、変速マップに従い、車両の運転状態に応じて自動で変速比を無段階に変速する制御を行う。この制御では、例えば、所定の変速比となるようにプライマリ回転数の目標値を設定し、実際のプライマリ回転数(プライマリプーリ回転センサ12で検出された回転数)がその目標値になるようにバルブボディ40の各ソレノイドバルブを制御することで変速油圧を発生させ、変速比を変化させる。変速マップは、TCU10内のROMに格納されている。
また、TCU10は、前後進切替機構31の各クラッチ31b,31cを締結/解放するための油圧制御を行うと共に、クラッチ31b,31c毎の入力トルクとクラッチ油圧との関係を示す直線(特に、回帰直線)の学習を行う。そのために、TCU10は、油圧制御部10a(特許請求の範囲に記載の油圧制御手段に相当)と、滑り判定部10b(特許請求の範囲に記載の滑り判定手段に相当)と、学習値取得部10c(特許請求の範囲に記載の学習値取得手段に相当)と、学習部10d(特許請求の範囲に記載の学習手段に相当)とを有している。TCU10は、ROMに記憶されているプログラムがマイクロプロセッサによって実行されることで、これらの各部10a〜10dの各処理が実現される。
また、TCU10には、学習用のデータを記憶しておくための記憶部10e(特許請求の範囲に記載の記憶手段に相当)が構成されている。記憶部10eには、前進クラッチ用の学習値蓄積領域及び学習直線記憶領域と、後進クラッチ用の学習値蓄積領域及び学習直線記憶領域とがある。各学習値蓄積領域は、所定個数の学習値(入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧)が記憶される領域である。この所定個数は、適合で決められる。各学習直線記憶領域には、直線の傾きと切片が記憶される領域である。
TCU10での各部10c〜10dの具体的な処理を説明する前に、入力トルクとクラッチ油圧との関係を示す直線(クラッチマップ)について説明する。このクラッチマップは、クラッチ31b,31c毎に設けられる。クラッチマップは、クラッチ31b,31cを締結するためのクラッチ油圧を得るためのマップである。クラッチマップは、入力トルクに対して線形に変化するクラッチ油圧を示す直線状のマップである。このクラッチ油圧は、入力トルク(クラッチ31b,31cで伝達するトルク)に応じて、締結状態のクラッチ31b,31cが滑らないために最低限必要な油圧である。入力トルクは、エンジントルクである。
クラッチマップとなる直線は、学習によって更新される。特に、所定個数の学習値が蓄積された場合、所定個数の学習値から得られる回帰直線である。なお、学習前のクラッチマップの初期マップは、TCU10内のROMに予め格納されている。この初期マップは、例えば、図3等に示す学習反映上限直線UG1で示されるマップである。それでは、TCU10での各部10c〜10dの具体的な処理について説明する。
まず、油圧制御部10aについて説明する。油圧制御部10aは、各クラッチ31b,31cを締結するためにクラッチリニアソレノイドバルブ42を制御する。具体的には、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合(シフトレバー50でDレンジが選択されている場合)、油圧制御部10aは、前進クラッチ31b用のクラッチマップ(直線)を参照して、入力トルクに対応するクラッチ油圧を取得する。レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合(シフトレバー50でRレンジが選択されている場合)、油圧制御部10aは、後進クラッチ用のクラッチマップを参照して、入力トルクに対応するクラッチ油圧を取得する。
油圧制御部10aは、このクラッチマップから取得したクラッチ油圧に基づいて油圧制御の目標値(指示値)を設定する。例えば、車両が定常走行中の場合、クラッチマップから取得したクラッチ油圧をそのまま目標値として設定する。車両が加速走行中又は減速走行中の場合、クラッチマップから取得したクラッチ油圧に所定圧加算した油圧を目標値として設定する。そして、油圧制御部10aは、このクラッチ油圧の目標値なるために必要な電流値をクラッチリニアソレノイドバルブ42に印加する。
また、油圧制御部10aは、学習値取得部10cによる指示に応じてクラッチ油圧を一定の割合で増圧又は減圧するために、クラッチリニアソレノイドバルブ42を制御する。具体的には、学習値取得部10cで増圧指示されている場合、油圧制御部10aは、一定時間経過する毎に、前回設定したクラッチ油圧の目標値に対して一定圧加算した油圧をクラッチ油圧の目標値として設定する。学習値取得部10cで減圧指示されている場合、油圧制御部10aは、一定時間経過する毎に、前回設定したクラッチ油圧の目標値に対して一定圧減算した油圧をクラッチ油圧の目標値として設定する。この一定時間や一定圧は、適合で決められる。一定時間毎にクラッチ油圧の目標値を設定すると、油圧制御部10aは、このクラッチ油圧の目標値なるために必要な電流値をクラッチリニアソレノイドバルブ42に印加する。
次に、滑り判定部10bについて説明する。滑り判定部10bは、クラッチ31b,31cが滑っているか否かを判定する。具体的には、滑り判定部10bは、前後進切替機構31(クラッチ31b,31c)の入力側のタービン軸30eの回転数と出力側のプライマリ軸32の回転数とを比較することで、クラッチ31b,31cが滑っているか否かを判定する。この判定方法としては、例えば、タービン軸30eの回転数からプライマリ軸32の回転数を減算し、この回転数差が所定値以内の場合には滑っていないと判定し、所定値を超える場合には滑っていると判定する。この判定の際、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合には前進クラッチ31bが滑っており、レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合には後進クラッチ31cが滑っている。
学習値取得部10cについて説明する。学習値取得部10cは、各クラッチ31b,31c毎に、入力トルクとこの入力トルクに応じてクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とからなる学習値を取得し、この取得した学習値を記憶部10eに記憶(蓄積)する。学習の実施条件としては、車両の定常走行時に実施される。これは、定常走行時には油圧が安定しているからである。また、学習の実施条件としては、エンジントルク(入力トルク)が低いときに実施される。これは、学習値を取得する際にクラッチ31b,31cを一時的に滑らせるので、高いエンジントルクのときに滑らせるとクラッチ31b,31cを摩耗、損傷等させるおそれがあるからである。学習値の採用条件(反映条件)は、取得した入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧からなる二次元座標点が学習反映許可領域内に入っている場合にその入力クラッチと油圧が学習値として採用する(学習に反映する)。これは、油圧は不安定でばらつきが大きいので、学習の精度を向上させるために、ばらつきの大きい油圧を学習から除くためである。
具体的には、学習値取得部10cは、定常走行時に実施するために、エンジン回転数が所定回転数以下か否かを判定すると共に車速が所定車速範囲内(下限車速以上かつ上限車速以下)か否かを判定する。また、学習値取得部10cは、エンジントルクが低いときに実施するために、エンジントルクが所定トルク範囲内(下限トルク以上かつ上限トルク以下)か否かを判定する。この所定回転数、下限車速、上限車速、上限トルク、下限トルクは、適合で決められる。
エンジン回転数が所定回転数以下かつ車速が所定車速範囲内かつエンジントルクが所定トルク範囲内の場合、学習値取得部10cは、滑り判定部10bでクラッチ31b,31cが滑っていると判定している場合には油圧制御部10aに増圧指示する。これにより、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合には前進クラッチ31bの油室の油圧が徐々に高くなり、レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合には後進クラッチ31cの油室の油圧が徐々に高くなる。また、学習値取得部10cは、滑り判定部10bでクラッチ31b,31cが滑っていないと判定している場合には油圧制御部10aに減圧指示する。これにより、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合には前進クラッチ31bの油室の油圧が徐々に低くなり、レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合には後進クラッチ31cの油室の油圧が徐々に低くなる。
増圧指示した場合、学習値取得部10cは、増圧中に滑り判定部10bでクラッチ31b,31cが滑っていないと判定すると増圧指示を停止し、入力トルク(エンジントルク)と滑っていないと判定したときの油圧制御部10aでのクラッチ油圧の指示値(クラッチが滑らないために最低限必要な油圧に相当)を取得する。これにより、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合には滑っていた前進クラッチ31bが滑らなくなったときのクラッチ油圧が取得され、レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合には滑っていた後進クラッチ31cが滑らなくなったときのクラッチ油圧が取得される。
減圧指示した場合、学習値取得部10cは、減圧中に滑り判定部10bでクラッチ31b,31cが滑っていると判定すると減圧指示を停止し、入力トルク(エンジントルク)と滑っていると判定する直前の油圧制御部10aでのクラッチ油圧の指示値(クラッチが滑らないために最低限必要な油圧に相当)を取得する。これにより、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合には滑っていなかった前進クラッチ31bが滑り始める直前のクラッチ油圧が取得され、レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合には滑っていなかった後進クラッチ31cが滑り始める直前のクラッチ油圧が取得される。
学習値取得部10cは、入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧を取得する毎に、この入力トルクと油圧とからなる二次元座標点が学習反映許可領域に入っているか否かを判定する。学習反映許可領域は、学習反映上限直線と学習反映下限直線及び上限トルクと下限トルクによって囲まれる領域である。この学習反映許可領域(特に、学習反映上限直線と学習反映下限直線)は、学習部10dで回帰直線が未だ算出されていない場合と既に算出されている場合とで異なる。
まず、図3を参照して、学習部10dで回帰直線が未だ算出されていない場合(所定個数の学習値が蓄積されていない場合)の学習反映許可領域について説明する。この場合、学習反映頻度を高くするために、学習反映許可領域を比較的広くする。学習反映上限直線UG1と学習反映下限直線LG1は、図3に示すように、横軸を入力トルク、縦軸をクラッチ油圧とする二次元座標系において、原点を通る所定の傾きを有する直線である。学習反映上限直線UG1と学習反映下限直線LG1は、各クラッチ31b、31c毎に、クラッチ31b,31cの摩擦材の摩擦係数の規格値に基づいて設定される。学習反映上限直線UG1は、摩擦係数の下限値に基づいて設定される。学習反映下限直線LG1は、学習反映上限直線UG1よりも傾きが小さく、摩擦係数の上限値に基づいて設定される。この摩擦係数の下限値と上限値は、摩擦材の経年劣化が加味されている。上限トルクUTと下限トルクLTは、上述した学習実施条件のトルク範囲の上限トルクと下限トルクであり、適合で決められる。この学習反映上限直線UG1と学習反映下限直線LG1及び上限トルクUTと下限トルクLTで規定される学習反映許可領域PA1は、図3に示すように、台形状の領域となる。
次に、図4を参照して、学習部10dで回帰直線が既に算出されている場合(所定個数の学習値が蓄積されている場合)の学習反映許可領域について説明する。学習によって回帰直線が求められた後は、学習値が回帰直線から大きく離れることはないと考えられる。そこで、回帰直線を利用して学習反映許可領域を厳しくして(狭くして)、学習値のばらつきを抑えて、学習の精度を向上させる。学習反映上限直線UG2と学習反映下限直線LG2は、図4に示すように、回帰直線RLと平行な直線(回帰直線RLと傾きが同じ直線)である。学習反映上限直線UG2と学習反映下限直線LG2は、各クラッチ31b、31c毎に、最新の回帰直線RLに基づいて設定される。学習反映上限直線UG2は、回帰直線RLからプラス側に一定の第1距離D1離れた直線(回帰直線RLよりも切片がD1分大きい直線)である。学習反映下限直線LG2は、回帰直線RLからマイナス側に一定の第2距離D2離れた直線(回帰直線RLよりも切片がD2分小さい直線)である。マイナス側の第2距離D2は、プラス側の第1距離D1よりも小さい。これは、クラッチ31b,31cに供給する油圧が低くなり過ぎることを抑制することで、クラッチ31b,31cの滑りを防止するためである。このプラス側の第1距離D1及びマイナス側の第2距離D2は、適合で決められる。この学習反映上限直線UG2と学習反映下限直線LG2及び上限トルクUTと下限トルクLTで規定される学習反映許可領域PA2は、図4に示すように、平行四辺形状の領域となる。
入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とからなる二次元座標点が学習反映許可領域内に入っていない場合、学習値取得部10cは、その入力トルクと最低限必要な油圧を学習値として採用しない(学習に反映しない)。一方、入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とからなる二次元座標点が学習反映許可領域内に入っている場合、学習値取得部10cは、その入力トルクと最低限必要な油圧を学習値として採用する(学習に反映する)。
学習値として採用した場合、学習値取得部10cは、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合にはその学習値を記憶部10eの前進クラッチ用の学習値蓄積領域に記憶し、レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合にはその学習値を記憶部10eの後進クラッチ用の学習値蓄積領域に記憶する。なお、所定個数を超える学習値が取得される毎に、学習値蓄積領域には、記憶されている所定個数の学習値のうち最古の学習値が消去されて、取得された最新の学習値が記憶される。
学習値取得部10cは、記憶部10eの各クラッチ用の学習値蓄積領域に蓄積されている学習値が一定期間内に取得されたものか否かを判定する。一定期間内に取得されていない学習値がある場合、学習値取得部10cは、学習値蓄積領域から一定期間内に取得されていない学習値を消去する。この際、学習値蓄積領域に記憶されている学習値を全て消去(学習値蓄積領域をリセット)してもよい。一定期間は、適合で決められる。一定期間は、例えば、六か月、三か月である。
なお、クラッチ31b,31cに設けられる各摩擦材は経年劣化するので、時間の経過に伴って、摩擦係数が変化し、クラッチが滑らないために最低限必要な油圧も徐々に変わる。そこで、一定期間以上前の学習値を用いて回帰直線を算出することは避け、一定期間内に取得された学習値を用いて回帰直線を算出する。
学習部10dについて説明する。学習部10dは、各クラッチ31b、31c毎に、記憶部10eの学習値蓄積領域の学習値を用いて入力トルクとクラッチ油圧との関係を示す直線(クラッチマップ)を算出する。この直線の算出では、学習値蓄積領域に学習値が所定個数蓄積されていない場合には最新の1個の学習値を用いて直線を算出し、学習値蓄積領域に学習値が所定個数蓄積されている場合には所定個数の学習値を用いて回帰直線を算出する。
具体的には、記憶部10eの学習値蓄積領域に学習値が所定個数蓄積されていない場合、学習部10dは、学習部取得部10dで学習値が新たに取得される毎に、その最新の1個の学習値を用いて入力トルクとクラッチ油圧との関係を示す直線(一次関数の傾きと切片)を算出する。学習部10dは、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合にはその直線の傾きと切片を記憶部10eの前進クラッチ用の学習直線記憶領域に記憶し、レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合にはその直線の傾きと切片を記憶部10eの後進クラッチ用の学習直線記憶領域に記憶する。
この直線の算出方法としては、例えば、横軸を入力トルク、縦軸をクラッチ油圧とする二次元座標系において、原点と学習値(入力トルク、クラッチが滑らないために最低限必要な油圧)の二次元座標点とを通る直線の傾きを求め、この直線をオフセットさせることで直線の切片を求める。図5には、1個の学習点LVで求められた直線Lの一例を示している。
記憶部10eの学習値蓄積領域に学習値が所定個数蓄積されている場合、学習部10dは、学習部取得部10dで学習値が新たに取得される毎に、所定個数の学習値を用いて回帰直線(一次関数の傾きと切片)を算出する。学習部10dは、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合にはその回帰直線の傾きと切片を記憶部10eの前進クラッチ用の学習直線記憶領域に記憶し、レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合にはその回帰直線の傾きと切片を記憶部10eの後進クラッチ用の学習直線記憶領域に記憶する。学習直線記憶領域に既に傾きと切片が記憶されている場合、新たに求められた傾きと切片が上書きされる。
この回帰直線の算出方法としては、例えば、横軸を入力トルク、縦軸をクラッチ油圧とする二次元座標系において、所定個数の学習値の入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とからなる二次元座標点により回帰分析(例えば、最小二乗法による回帰分析)することにより、回帰直線の傾きと切片を求める。図6には、所定個数の学習点LVで求められた回帰直線RLの一例を示している。
図7には、図6に示す回帰直線RLを示すと共に、入力トルクと入力トルクに応じた実際にクラッチが滑らないために最低限必要なクラッチ油圧との関係を示す直線IL(理想的な直線)とを示している。この回帰直線RLを用いてクラッチ31b,31cの締結制御を行った場合、回帰直線RLが直線ILよりも上回っている領域SA1の油圧が過剰な油圧となるが、その過剰な油圧量は少ない。
なお、図5には1個の学習値で求められた直線Lと直線IL(理想的な直線)とを示しているが、この直線Lを用いてクラッチ31b,31cの締結制御を行った場合、直線Lが直線ILよりも上回っている領域SA2の油圧が過剰な油圧となる。この図5に示す領域SA2と図7に示す領域SA1とを比較すると、領域SA1のほうが小さい。したがって、回帰直線RLを用いたほうが、過剰な油圧量が低減する。
図1〜図7を参照しつつ、図8〜図9のフローチャートに沿って制御装置1(TCU10)で行う学習の流れを説明する。図8は、学習のメイン処理を示すフローチャートである。図9は、学習値記憶処理の流れを示すフローチャートである。TCU10では、所定のタイミング毎に以下の処理を繰り返し行う。
TCU10では、エンジン回転数が所定回転数以下か否かを判定する(S10)。S10の判定にてエンジン回転数が所定回転数より高いと判定した場合、TCU10では、学習を実施しない。
S10の判定にてエンジン回転数が所定回転数以下と判定した場合、TCU10では、エンジントルクが所定トルク範囲内か否かを判定する(S12)。S12の判定にてエンジントルクが所定トルク範囲外と判定した場合、TCU10では、学習を実施しない。
S12の判定にてエンジントルクが所定トルク範囲内と判定した場合、TCU10では、車速が所定車速範囲内か否かを判定する(S14)。S14の判定にて車速が所定車速範囲外と判定した場合、TCU10では、学習を実施しない。
S14の判定にて車速が所定車速範囲内と判定した場合、TCU10では、学習を実施する。以下で説明する学習は、レンジスイッチ14でDレンジを検出している場合(シフトレバー50でDレンジが選択されている場合)には学習対象クラッチを前進クラッチ31bとする学習となり、レンジスイッチ14でRレンジを検出している場合(シフトレバー50でRレンジが選択されている場合)には学習対象クラッチを後進クラッチ31cとする学習となる。
TCU10では、クラッチ31b,31cが滑っているか否か判定する(S16)。S16の判定にてクラッチ31b,31cが滑っていると判定した場合、TCU10では、クラッチ31b,31cが滑らなくなるまで一定の割合でクラッチ油圧を上げる増圧制御を行う(S18)。そして、TCU10では、入力トルク(エンジントルク)とこの入力トルクに対応するクラッチが滑らなくなったときのクラッチ油圧(クラッチが滑らないために最低限必要な油圧)とを取得する(S18)。一方、S16の判定にてクラッチ31b,31cが滑っていないと判定した場合、TCU10では、クラッチ31b,31cが滑り始めるまで一定の割合でクラッチ油圧を下げる減圧制御を行う(S20)。そして、TCU10では、入力トルクとこの入力トルクに対応するクラッチが滑り始める直前のクラッチ油圧(クラッチが滑らないために最低限必要な油圧)とを取得する(S20)。
TCU10では、入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とからなる学習値の記憶処理を行う(S22)。この学習値記憶処理は図9のフローチャートに移って、まず、TCU10では、回帰直線が未だ算出されていないか否か判定する(S40)。
S40の判定にて回帰直線が未だ算出されていないと判定した場合、TCU10では、取得した入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とからなる二次元座標点が予め設定された学習反映上限直線UG1と学習反映下限直線LG1との間の学習反映許可領域PA1内に存在するか否かを判定する(S42)。S42の判定にて学習反映許可領域PA1内に存在すると判定した場合、TCU10では、取得した入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とを学習値として採用し、記憶部10eに記憶(蓄積)する(S44)。一方、S42の判定にて学習反映許可領域PA1内に存在しないと判定した場合、TCU10では、取得した入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とを学習値として採用しない(S46)。
S40の判定にて回帰直線が既に算出されていると判定した場合、TCU10では、最新の回帰直線に基づいて学習反映上限直線UG2と学習反映下限直線LG2とを設定し、取得した入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とからなる二次元座標点が学習反映上限直線UG2と学習反映下限直線LG2との間の学習反映許可領域PA2内に存在するか否かを判定する(S48)。S48の判定にて学習反映許可領域PA2内に存在すると判定した場合、TCU10では、取得した入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とを学習値として採用し、記憶部10eに記憶(蓄積)する(S50)。一方、S48の判定にて学習反映許可領域PA2内に存在しないと判定した場合、TCU10では、取得した入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧とを学習値として採用しない(S52)。
図8のフローチャートに戻って、TCU10では、記憶部10eに蓄積されている学習値が一定期間内に取得されたもの否かを判定する(S24)。S24の判定にて一定期間外に取得された学習値があると判定した場合、TCU10では、記憶部10eから一定期間外の学習値を消去する(S26)。この場合、回帰直線の算出は実施されない。
S24の判定にて全て一定期間内に取得された学習値であると判定した場合、TCU10では、記憶部10eに所定個数の学習値が蓄積されているか否かを判定する(S28)。S28の判定にて所定個数の学習値が未だ蓄積されていないと判定した場合、回帰直線の算出は実施されない。なお、この場合、TCU10では、最新の1個の学習値のみを用いて入力トルクとクラッチ油圧との関係を示す直線の傾きと切片を算出し、この直線の傾きと切片を記憶部10eに記憶する。
S28の判定にて所定個数の学習値が蓄積されていると判定した場合、TCU10では、所定個数の学習値を用いて、入力トルクとクラッチ油圧との関係を示す回帰直線の傾きと切片を算出する(S30)。そして、TCU10では、記憶部10eにこの回帰直線の傾きと切片を記憶(更新)する(S32)。
記憶部10eに回帰直線の傾きと切片が記憶されている場合、TCU10では、この回帰直線(クラッチマップ)を参照して入力トルクに応じたクラッチ油圧を取得し、このクラッチ油圧を目標値として締結制御(油圧制御)を行う。これにより、クラッチ31b,31cは、伝達している入力トルクに対して略必要最低限の油圧で締結される。このとき、無段変速機3に車輪側から過大なトルクが入力された場合、クラッチ31b,31cがバリエータ37より先に滑り始める。これにより、バリエータ37におけるチェーン36の滑りが回避される。
実施形態に係る無段変速機の制御装置1によれば、所定個数の学習値を用いて回帰直線(傾きと切片)を算出することにより、入力トルクとこの入力トルクに応じたクラッチ油圧(特に、クラッチが滑らないために最低限必要な油圧)との関係の学習の精度を向上させことができる。その結果、前後進切替機構31の各クラッチ31b,31cを締結するために供給するクラッチ油圧(過剰な油圧)を低減することができると共に、バリエータ37の各プーリ34,35に供給するクランプ油圧(マージン分の油圧)を低減することができる。これにより、この各油圧の発生源であるオイルポンプでの動力損失を抑制でき、燃費を向上させることができる。また、この入力トルクとクラッチ油圧との関係を示す回帰直線(クラッチマップ)を用いて各クラッチ31b,31cを締結制御することで、無段変速機3に車輪側から過大なトルクが作用した場合にバリエータ37よりも先にクラッチ31b,31cを滑らせることができるので、バリエータ37を保護することができる。また、前後進切替機構31の各クラッチ31b,31cを締結するために供給するクラッチ油圧が低くなり過ぎてクラッチ31b,31cの滑り量が大きくなることを抑制できるので(特に、滑りを防止することができるので)、クラッチ31b,31cを保護することができる。
実施形態に係る無段変速機の制御装置1によれば、回帰直線を未だ算出されていない場合、予め設定された学習反映上限直線UG1と学習反映下限直線LG1との間(学習反映許可領域PA1内)に入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧との二次元座標点が存在する場合に学習値として採用することにより、ばらつきが大きい油圧を学習値から除外できるので、精度の良い学習値を取得でき、学習の精度を向上させることができる。この学習反映上限直線UG1及び学習反映下限直線LG1をクラッチ31b,31cの摩擦材の摩擦係数に基づいて設定することにより、クラッチ31b,31cの摩擦材の摩擦係数のばらつきを考慮して、適切な学習反映上限直線UG1及び学習反映下限直線LG1を設定することができる。
実施形態に係る無段変速機の制御装置1によれば、回帰直線が既に算出されている場合、回帰直線からプラス側に一定の第1距離D1離れた学習反映上限直線UG2とマイナス側に一定の第2距離D2離れた学習反映下限直線LG2を設定し、この学習反映上限直線UG2と学習反映下限直線LG2との間(学習反映許可領域PA2内)に入力トルクとクラッチが滑らないために最低限必要な油圧との二次元座標点が存在する場合に学習値として採用することにより、学習反映許可領域PA2を絞って(厳しくして)、より精度の良い学習値を取得でき、学習の精度を更に向上させることができる。このマイナス側の第2距離D2をプラス側の第1距離D1よりも小さくすることにより、クラッチ31b,31cに供給するクラッチ油圧が低くなり過ぎることを抑制できるので、クラッチ31b,31cの滑り量が大きくなることを更に抑制することができ(特に、クラッチ31b,31cの滑りを防止でき)、クラッチ31b,31cを保護することができる。
実施形態に係る無段変速機の制御装置1によれば、クラッチ31b,31cが滑っていると判定した場合には滑っていないと判定するまで増圧制御することでクラッチが滑らないために最低限必要な油圧を取得し、クラッチ31b,31cが滑っていないと判定した場合には滑っていると判定するまで減圧制御することでクラッチが滑らないために最低限必要な油圧を取得することにより、クラッチ31b,31cが滑らないために最低限必要な油圧になるまで精度良く油圧制御でき、入力トルクに対するクラッチが滑らないために最低限必要な油圧(学習値)を精度良く取得することができる。
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態ではチェーン式の無段変速機3に適用したが、ベルト式などの他の無段変速機にも適用可能である。
上記実施形態ではバリエータ37よりも上流側(エンジン2側)に前後進切替機構31が設けられている場合に適用したが、バリエータ37よりも下流側に前後進切替機構31が設けられている場合に適用してもよい。
上記実施形態では学習によって得られる学習情報として直線(傾き、切片)を取得する構成としたが、入力トルクとクラッチ油圧との関係を示すものであれば、直線以外のものでもよい。特に、上記実施形態では回帰分析により1次関数の回帰直線を算出する構成としたが、回帰分析によりn次関数の回帰曲線を算出する構成としてもよい。
上記実施形態ではクラッチが滑らないために最低限必要な油圧を油圧制御部10aでの指示値を用いる構成としたが、クラッチ31b,31cに供給する実際の油圧を検出するセンサの検出値を用いる構成としてもよい。
上記実施形態では入力トルクをエンジン2で算出(推定)されるエンジントルクを用いる構成としたが、前後進切替機構31に入力される実際のトルクを検出するセンサの検出値を用いる構成としてもよい。
上記実施形態では所定個数の学習値が蓄積されるまでは最新の1個の学習値を用いて入力トルクとクラッチ油圧との関係を示す直線を算出する構成としたが、所定個数の学習値が蓄積されるまでは直線を算出せずに、初期マップの直線を用いてよいし、あるいは、所定個数未満の全ての学習値を用いて直線を算出する構成としてもよい。
上記実施形態では前進クラッチ31bと後進クラッチ31cの両方を学習対象クラッチとしたが、前進クラッチ31bと後進クラッチ31cのうちの何れか一方を学習対象クラッチとしてもよい。