以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本実施形態にかかる自動変速機の油圧制御装置を備える車両1の全体構成例を示す図である。同図に示す車両1には、自動変速機が搭載される。より具体的には、車両1には、駆動源としてのエンジン10(内燃機関)と、トルクコンバータ24と、エンジン10の駆動力による回転を変速して出力する無段変速機26(CVT:Continuous Variable Transmission)と、前後進切替装置28とを備える。前後進切替装置28には、エンジン10の駆動力の無段変速機26への伝達を断接するために設けられた前進クラッチ28aが含まれる。また、車両1は、上記のエンジン10、無段変速機26、前後進切替装置28を制御するための制御装置であるエンジンコントローラ66及びシフトコントローラ90を備える。
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は、車両の運転席の床面に配置されるアクセルペダルとの機械的な接続が絶たれ電動モータなどのアクチュエータからなるDBW機構16(Drive By Wire 機構)に接続され、DBW機構16で開閉される。
スロットルバルブで調量された吸気は、インテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストンを駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
エンジン10のクランクシャフト22は、トルクコンバータ24のポンプ・インペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービン・ランナ24bはメインシャフトMS(入力軸)に接続される。これによりクランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24に入力される。また、トルクコンバータ24は、ロックアップクラッチ24cを有する。
また、クランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24を介して、無段変速機26に入力される。無段変速機26は、メインシャフトMS、より正確にはその外周側シャフト、に配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフトCS(出力軸)、より正確にはカウンタシャフトCSの外周側シャフト、に配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される無端可撓部材、例えば金属製のベルト26cからなる。
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26a1と、メインシャフトMSの外周側シャフトに相対回転不能で固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSの外周側シャフトに相対回転不能で軸方向移動不能に配置された固定プーリ半体26b1と、カウンタシャフトCSに相対回転不能で固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
無段変速機26は、前後進切替装置28を介してエンジン10に接続される。前後進切替装置28は、車両の前進方向への走行を可能にする前進クラッチ28aと、後進方向への走行を可能にする後進ブレーキクラッチ28bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構28cからなる。無段変速機26は、エンジン10に前進クラッチ28aを介して接続される。
プラネタリギヤ機構28cにおいて、サンギヤ28c1はメインシャフトMSに固定されるとともに、リングギヤ28c2は前進クラッチ28aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。サンギヤ28c1とリングギヤ28c2の間には、ピニオン28c3が配置される。ピニオン28c3は、サンギヤ28c1と噛合い、キャリア28c4と一体に構成される。キャリア28c4は、後進ブレーキクラッチ28bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
カウンタシャフトCSの回転は、ギヤを介してセカンダリシャフトSS(中間軸)から駆動輪12に伝えられる。即ち、カウンタシャフトCSの回転は、ギヤ30a,30bを介してセカンダリシャフトSSに伝えられ、その回転はギヤ30cを介してディファレンシャル32から駆動軸34に伝わり、最終的に左右の駆動輪12(右側のみ示す)に伝えられる。
駆動輪12(前輪)と図示しない従動輪(後輪)の付近には、ディスクブレーキ36が配置される。車両の運転席の床面にはブレーキペダル40及びアクセルペダル56が配置される。ブレーキペダル40の付近にはブレーキスイッチ40aが設けられる。ブレーキスイッチ40aは、運転者のブレーキペダル40の操作に応じてオン信号を出力する。また、アクセルペダル56の付近には、アクセル開度センサ56aが設けられる。アクセル開度センサ56aは、運転者のアクセルペダル操作量に相当するアクセル開度に比例する信号を出力する。
前後進切替装置28において前進クラッチ28aと後進ブレーキクラッチ28bの切替は、車両運転席に設けられたレンジセレクタ44(シフト切替手段)を運転者が操作して例えばP(パーキングレンジ),R,N,Dなどのレンジ(シフトレンジ)のいずれかを選択することで行われる。運転者のレンジセレクタ44の操作によるレンジ選択は、油圧供給機構46のマニュアルバルブに伝えられる。レンジセレクタ44の付近には、レンジセレクタスイッチ44aが設けられる。レンジセレクタスイッチ44aは、運転者によって選択されたP,R,N,Dなどのレンジに応じた信号を出力する。
レンジセレクタ44を介して、例えばD,S,Lレンジが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキクラッチ28bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、前進クラッチ28aのピストン室に油圧が供給されて前進クラッチ28aが締結される。
前進クラッチ28aが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動される。よって、車両は前進方向に走行する。
Rレンジが選択されると、前進クラッチ28aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキクラッチ28bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキクラッチ28bが作動する。
PあるいはNレンジが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されて前進クラッチ28aと後進ブレーキクラッチ28bが共に開放され、前後進切替装置28を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10と無段変速機26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ50が設けられている。クランク角センサ50は、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。また、吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ52が設けられている。絶対圧センサ52は、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。DBW機構16のアクチュエータには、スロットル開度センサ54が設けられている。
クランク角センサ50などの出力は、エンジンコントローラ66に送られる。エンジンコントローラ66は、マイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて目標スロットル開度を決定してDBW機構16の動作を制御するとともに、燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動する。
メインシャフトMSには、NTセンサ70が設けられている。NTセンサ70は、タービン・ランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数NT、より具体的には、前進クラッチ28aの入力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
無段変速機26のドライブプーリ26aの近傍には、NDRセンサ72が設けられている。NDRセンサ72は、ドライブプーリ26aの回転数NDR、換言すれば前進クラッチ28aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力する。
ドリブンプーリ26bの近傍には、NDNセンサ74が設けられている。NDNセンサ74は、ドリブンプーリ26bの回転数NDN、即ち、カウンタシャフトCSの回転数を示すパルス信号を出力する。セカンダリシャフトSSのギヤ30bの付近には、Vセンサ76が設けられている。Vセンサ76は、セカンダリシャフトSSの回転数を通じて車速Vを示すパルス信号を出力する。
油圧供給機構46は、所定の油路に配置され油圧を計測する油圧センサ82と、油温を計測する油温センサ84とが配置される。また、駆動輪12を回転させる駆動軸34には、車輪速センサ81(回転数センサ)が設けられる。
上述の各種センサの出力は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ90に送られる。シフトコントローラ90もCPU,ROM,RAM,I/Oなどからなるマイクロコンピュータを備えるとともに、エンジンコントローラ66と通信自在に構成される。
図2は、油圧供給機構46の油圧回路図である。本実施形態の油圧供給機構46は、メイン油圧回路47と、サブ油圧回路48から構成される。メイン油圧回路47は、後述のPH制御バルブ46cを含み、無段変速機26、前後進切替装置28及びトルクコンバータ24の各部を制御するための油圧回路である。サブ油圧回路48は、後述の潤滑系46jを有する油圧回路である。メイン油圧回路47には油圧制御が必要な構成部材が多いため、メイン油圧回路47の油圧は、相対的に高い油圧となる。これに対して、サブ油圧回路48の油圧は、相対的に低い油圧となる。
油圧供給機構46には、第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2が設けられる。第1オイルポンプ46a1のロータと第2オイルポンプ46a2のロータとは、エンジン10の回転軸と同一軸に配置される。このため、第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2は、エンジン10の回転によって駆動される。
第1オイルポンプ46a1は、CVTケース(図示せず)の下方のリザーバ46bに貯留された作動油を汲み上げ、PH制御バルブ46cに接続される油路46dに作動油を圧送する。第2オイルポンプ46a2は、リザーバ46bから作動油を汲み上げ、ポンプ切替バルブ46g(流量調整手段)に接続される油路46eに作動油を圧送する。
油路46dにはPH制御バルブ46cが接続される。PH制御バルブ46cは、第1オイルポンプ46a1の吐出圧(元圧)と、必要に応じて第2オイルポンプ46a2から加えられた吐出圧とを、PH圧(ライン圧)に調圧して油路46kに出力する。
ポンプ切替バルブ46gは、ポンプ切替バルブ46gのスプールの一端に、付勢部材であるバネ46g1を有する。ポンプ切替バルブ46gは、バネ46g1によって、図の左方に付勢される。
ポンプ切替バルブ46gの出力は、一方では油路46dに接続される油路46fに接続されるとともに、他方では油路46hに接続され、そこから潤滑制御バルブ46iを介して潤滑系46jに接続される。潤滑系46jとは、潤滑を必要とする構成部品あるいは部材の総称を意味する。
そして、油圧供給機構46では、ポンプ切替バルブ46gの切り替えにより、潤滑モード(第1状態)と高圧モード(第2状態)の少なくとも2段階に、モード(状態)の切り替え可能である。潤滑モードは、メイン油圧回路47へ供給される作動油の流量が相対的に少ないモードであり、高圧モードは、メイン油圧回路47へ供給される作動油の流量が相対的に多いモードである。
潤滑モードと高圧モードとの切り替えの際の、ポンプ切替バルブ46gの切り替え動作を説明する。潤滑モードの場合、ポンプ切替バルブ46gは、第2オイルポンプ46a2から供給された作動油を潤滑側の油路46hに供給する。このため、PH制御バルブ46cには、作動油が第1オイルポンプ46a1のみから供給されることとなる。一方、高圧モードの場合、ポンプ切替バルブ46gは、第2オイルポンプ46a2から供給された作動油を高圧側の油路46fに供給する。このため、PH制御バルブ46cには、作動油が第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2から供給されることとなる。このように、ポンプ切替バルブ46gが作動油を供給する油路を切り替えることにより、PH制御バルブ46cに供給される作動油の流量が、相対的に少ない第1流量Q1と相対的に多い第2流量Q2とのいずれかに切り替わる。
油路46kは、DR制御バルブ46m1を介してドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室26a21に接続される。また、油路46kは、DN制御バルブ46m2を介してドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室26b21に接続される。
可動プーリ半体26b2のピストン室26b21とDN制御バルブ46m2との間には、DNプーリ圧センサ82a(油圧検出手段)が配置される。これにより、ドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2の側圧を計測することができる。
第1リニアソレノイドバルブ46m11及び第2リニアソレノイドバルブ46m21は、油路46pから送られる後述のCR圧を元圧として調圧されるパイロット圧を、DR制御バルブ46m1とDN制御バルブ46m2のスプールの一端に供給する。
DR制御バルブ46m1は、PH圧を元圧として調圧され、ドライブプーリ26aの可動プーリ半体26a2のピストン室26a21に供給する。DN制御バルブ46m2は、PH圧を元圧として調圧され、ドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室26b21に供給する。こうして、プーリ側圧及びドリブンプーリ側圧を発生させる。
その結果、無段変速機26においては、可動プーリ半体26a2と可動プーリ半体26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧が発生して、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化する。これにより、ベルト26cの巻掛け半径が変化してエンジン10の出力を駆動輪12に伝達する変速比が無段階に変化させられる。
油路46kは、他方では油路46nを介してCRバルブ46oに接続される。CRバルブ46oはPH制御バルブ46cで調圧されたPH圧をCR圧(クラッチリデューシング圧(制御圧))に減圧し、油路46pに吐出する。油路46pに吐出されるCRバルブ46oの出力圧(CR圧)は第3リニアソレノイドバルブ46qに入力され、そこでソレノイドの励磁に応じて適切な油圧に調圧される。
第3リニアソレノイドバルブ46qで調圧された油圧は、フェール時のバックアップ用に設けられるバックアップバルブ46rの入力ポート46r1から入力され、出力ポート46r2から出力される。そして、マニュアルバルブ46sを介して前後進切替装置28の前進クラッチ28aのピストン室28a1あるいは後進ブレーキクラッチ28bのピストン室28b1に接続される。
マニュアルバルブ46sは、運転者によって操作されるレンジセレクタ44の出力信号に応じて第3リニアソレノイドバルブ46qで調圧された出力圧を、前進クラッチ28aのピストン室28a1または後進ブレーキクラッチ28bのピストン室28b1に接続する。これにより、車両の前進または後進走行を可能にする。
また、PH制御バルブ46cの排出圧は、油路46tを介してTC制御バルブ46uにトルコン元圧として送られる。TC制御バルブ46uの出力圧は、トルクコンバータ24のロックアップクラッチ24cのピストン室に送られるとともに、排出圧は潤滑系46jに送られる。
図3を用いて、油圧制御装置の構造を説明する。図3は、油圧制御装置のブロック図である。本実施形態の油圧制御装置は、シフトコントローラ90が、少なくとも制御部91(制御手段)、流量推定手段92、目標油圧設定手段94を有する構成である。流量推定手段92は、後述の推定供給流量Qsや推定消費流量Qcを求めるためのマップ等の情報が記憶された記憶部92a、制御部91により推定供給流量Qsや推定消費流量Qcを補正するための補正部92bをさらに有する。
制御部91は、レンジセレクタ44のレンジセレクタスイッチ44aや車輪速センサ81等の各種センサからの出力信号と、流量推定手段92や目標油圧設定手段94により得られた結果とに基づいて、油圧供給機構46のポンプ切替バルブ46gの制御を行う。具体的には、ポンプ切替バルブ46gを切り替えることで、PH制御バルブ46cに供給する流量を、第1流量Q1または第2流量Q2に調整する。
流量推定手段92は、エンジン10と直結された第1オイルポンプ46a1の回転数、DNプーリ圧センサ82aを含む油圧センサ82及び油温センサ84等の検出値や、記憶部92aに記憶された流量に関するマップに基づいて、作動油の流量を推定する。流量推定手段92により推定される作動油の推定流量としては、第1オイルポンプ46a1から供給される推定供給流量Qsと、メイン油圧回路47で消費される推定消費流量Qcとがある。
本実施形態における推定供給流量Qsは、2つのオイルポンプのうち第1オイルポンプ46a1から供給される作動油の流量を推定したものである。例えば、1つのオイルポンプで油圧供給源が構成される場合であっても、オイルポンプから作動油をメイン油圧回路47へ供給する場合に、供給流量を、相対的に少ない第1流量と相対的に多い第2流量との2段階に切り替えが可能な場合に、第1流量の推定を行うものとしてもよい。
記憶部92aに記憶されるマップとしては、例えば、作動油の油温、オイルポンプの回転数、ライン圧等から構成され、供給流量の基準となるマップ、作動油の油温とライン圧等から構成され、作動油の消費流量の基準となるマップ、無段変速機26により消費される作動油の消費流量の基準となるマップ等がある。マップの具体的な構成は、これに限られるものではない。
補正部92bは、制御部91が行う推定供給流量Qsと推定消費流量Qcとの比較により行われる流量の収支計算の結果に基づいて、マップの値の補正を行う。例えば、ある供給側の基準となるマップMs0から得られた推定供給流量Qs0が実際の供給流量と異なると判断した場合、マップMs0から得られる値に所定の補正係数C1を乗じ、C1×Ms0から得られるマップMs1を、次回の推定供給流量Qsを求めるために基準となるマップとして用いる。同様に、ある消費側の基準となるマップMc0から得られた推定消費流量Qc0が実際の消費流量と異なると判断した場合、消費側の基準となるマップMc0から得られる値に所定の補正係数C2を乗じ、C2×Mc0から得られるマップMc1を次回の推定消費流量Qcを求めるために基準となるマップとして用いる。なお、補正方法は、必ずしもマップから得られた値に補正係数を乗じて行う必要はなく、マップから得られた値に所定の補正値を加減して行ってもよい。また、補正は、一部のマップから得られた値に対して補正係数を乗じたものに、さらに所定の補正値を加減して行うこととしてもよい。
目標油圧設定手段94は、制御部91が油圧供給機構46を制御する場合に目標となる油圧を設定する。目標油圧設定手段94による目標油圧Ptの設定は、制御部91からの指令により行う。ただし、これに限るものではなく、流量推定手段92から得られた値によって目標油圧Ptの設定を行ってもよい。
この構成により、通常時において、目標油圧設定手段94が目標油圧Ptを設定する際、目標油圧設定手段94は、油圧供給機構46の各部材の油圧を設定する。当該各部材としては、例えば、ロックアップクラッチ24cのピストン室、前進クラッチ28aのピストン室28a1、後進ブレーキクラッチ28bのピストン室28b1、ドリブンプーリ26bのピストン室26b21、ドライブプーリ26aのピストン室26a21等がある。
目標油圧設定手段94が油圧を設定する場合、目標油圧設定手段94は、各種センサから車両の走行状態の情報や変速比の情報等を取得する。そして、これらの情報に基づいて、目標油圧設定手段94が所定位置の必要圧を計算する。
また、本実施形態の目標油圧設定手段94は、推定供給流量Qsの補正制御を行う場合に、所定位置の目標油圧Ptとして、通常設定される油圧よりも特別に高い油圧である所定油圧Phhを設定することができる。本実施形態では、推定供給流量の補正制御に用いる所定位置として、ドリブンプーリ26bのピストン室26b21とした場合を例示して説明する。すなわち、推定供給流量Qsを補正する補正制御を行う際には、所定位置の油圧、例えば、ドリブンプーリ26bのピストン室26b21の油圧を、通常時の目標油圧Ptよりも高い油圧である所定油圧Phhに設定することができる。
図4を用いて、制御部91による推定流量(推定供給流量Qs及び推定消費流量Qc)の決定と当該推定流量に基づいて、PH制御バルブ46cへ供給する流量の決定と、ポンプ切替バルブ46gの切り替えタイミングについて説明する。図4は、推定流量の決定方法に関するフローチャートである。
図4に示すように、まず、制御部91は、上述の各種センサから得られる値と流量推定手段92の記憶部92aに記憶されるマップに基づいて、推定供給流量Qs及び推定消費流量Qcを算出する(ステップS1)。
そして、制御部91は、推定供給流量Qsと推定消費流量Qcとを比較する(ステップS2)。ここで、推定供給流量Qsが推定消費流量Qcを上回る場合、メイン油圧回路47に供給される流量は、相対的に少ない第1流量Q1でよいと判断する(ステップS3)。一方、推定供給流量Qsが推定消費流量Qcを上回らない場合、メイン油圧回路47に供給される流量は、相対的に多い第2流量Q2を供給すべきであると判断する(ステップS4)。
次に、制御部91は、ポンプ切替バルブ46gの切り替えが必要か否かを判断する(ステップS5)。具体的には、PH制御バルブ46cへ供給する流量が第1流量Q1から第2流量Q2へ変わる場合、または、PH制御バルブ46cへ供給する流量が第2流量Q2から第1流量Q1へ変わる場合がこれにあたる。
ここで、制御部91は、流量切替が必要である場合には、ポンプ切替バルブ46gの切り替えを行う(ステップS6)。一方、流量切替が必要でない場合は、制御部91は、ポンプ切替バルブ46gの切り替えを行わない。
図5を用いて、推定供給流量Qsの補正について説明する。図5は、推定供給流量Qsの補正制御に関するフローチャートである。
本実施形態における推定供給流量Qsの補正制御は、車両1の停車中に行う。このため、制御部91は、車輪速センサ81から取得した回転数が0であるか否かを判断する(ステップS11)。また、運転者が車両1が停車指示をしていることをより確実に検出するため、制御部91は、レンジセレクタ44のレンジセレクタスイッチ44aからの信号を受信し、パーキングレンジ(Pレンジ)が選択されているか否かを判断する(ステップS12)。なお、制御部91は、補正制御のために必要な条件が満たされているかを判断してもよい(ステップS13)。補正制御のために必要な条件とは、例えば、油圧、油温等の環境条件やプーリが停止に適した変速比になっているか等の自動変速機の作動条件などがある。
ステップS11乃至ステップS13の全てを満たしている場合、制御部91は推定供給流量Qsの補正制御に移行する。一方、ステップS11乃至ステップS13のいずれか一つでも満たしていない場合、制御部91は、補正制御に適していないと判断して、補正制御を行わない。
次に、推定供給流量Qsの補正制御であるステップS20の内容について説明する。まず、補正制御を行う際、制御部91は、油圧供給機構46の所定位置の目標油圧Ptを所定油圧Phhに設定する(ステップS21)。本実施形態においては、所定位置は、ドリブンプーリ26bの可動プーリ半体26b2のピストン室26b21の油圧である。所定位置をドリブンプーリ26bのピストン室26b21とすることで、車両1の停車時に補正制御を行いやすい。また、所定油圧Phhは、通常設定される設定圧よりも高い油圧とする。
この状態において、制御部91は、ポンプ切替バルブ46gを切り替えて、潤滑モードに設定する(ステップS22)。すなわち、一般的に、停車直後は高圧モードに設定されているため、補正制御を行う場合には、ポンプ切替バルブ46gを切り替えることで、いったん潤滑モードとする。すると、メイン油圧回路47には第1オイルポンプ46a1のみから作動油が供給されることとなるため、第1オイルポンプ46a1の特性を把握することができる状態となる。
その後、制御部91は、DNプーリ圧センサ82aから、所定位置の検出圧Psを取得する(ステップS23)。
ここで、制御部91は、推定供給流量Qsを増加させるか、推定供給流量Qsを減少させるかを決定する。すなわち、制御部91は、推定供給流量Qsを増加させるかまたは推定供給流量Qsを減少させるかを判断する油圧の閾値Aを有しており、検出圧Psと閾値Aとを比較する(ステップS24)。
検出圧Psが閾値Aを超える場合、第1オイルポンプ46a1の供給能力が高く、推定供給流量Qsを増加させる余裕があると判断し、次回のポンプ切替バルブ46gの切替時点に用いる推定供給流量Qsを増加させる(ステップS25)。一方、検出圧Psが閾値Aを超えない場合、第1オイルポンプ46a1の供給能力は低く、推定供給流量Qsを増加させる余裕はないと判断し、次回のポンプ切替バルブ46gの切替時点に用いる推定供給流量Qsを減少させる(ステップS26)。
次に、具体的な場合を例示して、上記の補正制御を行った場合の油圧の状態を説明する。図6は、補正制御における所定位置の目標油圧Pt及び検出圧Psの変化を示す図である。図6においては、車両1の停車時に、高圧モードから潤滑モードに切り替えた場合の、目標油圧設定手段94が設定した目標油圧Ptを示す線と、第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2の供給能力が高い場合の検出圧を検出圧Ps1として示した線と、第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2の供給能力が低い場合の検出圧を検出圧Ps2として示した線と、を比較している。
停車時でパーキングレンジを選択している場合、運転指示等の運転者からの指示等に備えて、高圧モードとなっている。高圧モードにおいては、第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2の双方が、PH制御バルブ46cに対して作動油を供給している。
ここで、時点T1において、補正制御が開始されると、目標油圧Ptは、通常設定される油圧よりも高い油圧である所定油圧Phhに設定される。この所定油圧Phhは、停車時における第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2から通常時に供給される流量では、発生し得ない高い油圧とする。
この場合、PH制御バルブ46cは、目標油圧Ptに追随させようと制御する。このため、検出圧Ps(検出圧Ps1及び検出圧Ps2)は、所定油圧Phhには到達しないものの、いずれも通常の高圧モードよりも高くなる。
次に、時点T2において、目標油圧Ptを所定油圧Phhに設定したまま、潤滑モードに設定する。この状態においては、第2オイルポンプ46a2が供給する作動油は、ポンプ切替バルブ46gによって潤滑系46jに導かれるため、第1オイルポンプ46a1が供給する作動油のみがメイン油圧回路47のPH制御バルブ46cに圧送される。
この場合において、目標油圧設定手段94は、目標油圧Ptを、通常設定されるよりも高い油圧である所定油圧Phhに設定している。ここで、PH制御バルブ46cは、目標油圧Ptである所定油圧Phhに追随させようと制御するが、所定油圧Phhは、停車時における第1オイルポンプ46a1からの作動油の供給流量では発生し得ない油圧であるため、検出圧Ps(検出圧Ps1及び検出圧Ps2)は、所定油圧Phhに到達しない。
そして、ポンプ切替バルブ46g、目標油圧設定手段94、PH制御バルブ46cを制御した状態で、検出圧Psが閾値Aを超えるか否かを判断する。そして、検出圧Psが閾値Aを超える高い検出圧Ps1である場合、第1オイルポンプ46a1による作動油の実際の供給流量は多く、推定供給流量Qsを増加させる余裕があると判断することができる。一方、検出圧Psが閾値Aを超えない低い検出圧Ps2である場合、第1オイルポンプ46a1による作動油の実際の供給流量は少なく、推定供給流量Qsを増加させる余裕がないと判断することとなる。そして、最後に、時点T3において、再び高圧モードに戻し、その後、補正制御を終了する。
以上のように、本実施形態においては、制御部91が推定供給流量Qsの補正制御を行う際、所定位置であるドリブンプーリ26bのピストン室26b21における目標油圧Ptを通常設定される油圧よりも高い所定油圧Phhに設定するとともに所定位置における検出圧Psを取得する。これにより、メイン油圧回路47の所定位置において得られる最大の油圧を把握することができる。ここで、補正制御の際に得られる所定位置における検出圧が大きければ(図6における検出圧Ps1を参照)、第1オイルポンプ46a1から供給される作動油の流量に余裕があると判断し、推定供給流量Qsを多くするような補正を行う。一方、補正制御の際に得られる所定位置における検出圧が小さければ(図6における検出圧Ps2を参照)、第1オイルポンプ46a1から供給される作動油の流量に余裕がないものと判断し、推定供給流量Qsを少なくするような補正を行う。このように第1状態において第1オイルポンプ46a1から供給される作動油の推定供給流量Qsを補正することで、より正確な流量を推定し得る。そして、より正確な推定供給流量Qsの値に基づいて、ポンプ切替バルブ46gにより潤滑モードと高圧モードとを切り替えれば、補正制御を行わない場合と比較して潤滑モードを増やすことができ、第2オイルポンプ46a2及びこれを駆動するエンジン10にかかる負荷を低減することができる。この結果、燃費向上を図ることができる。
また、本実施形態においては、制御部91は、補正制御を行う際、潤滑モードとなるように、ポンプ切替バルブ46gを切り替える。これにより、第1オイルポンプ46a1からメイン油圧回路47へ供給される流量が相対的に少ない場合における検出圧Psを把握することができる。すると、潤滑モードにおける第1オイルポンプ46a1から供給される作動油の流量の余裕がどの程度であるかを把握することができ、推定供給流量Qsを推定する際に、より正確な流量を推定し得る。
また、本実施形態においては、油圧供給源が、第1オイルポンプ46a1及び第2オイルポンプ46a2から構成され、潤滑モードにおいては第1オイルポンプ46a1のみからメイン油圧回路47へ作動油を供給する。これにより、潤滑モードにおいて使用する第1オイルポンプ46a1の特性を把握することができる。また、潤滑モードにおいては、第2オイルポンプ46a2からは高圧のメイン油圧回路47への作動油の供給はなく、低圧のサブ油圧回路48へ作動油を供給する構成であるため、第2オイルポンプ46a2の負荷を低減することができる。さらに、第2オイルポンプ46a2を駆動するエンジン10にかかる負荷を低減することができる。
また、本実施形態においては、制御部91は、駆動輪12の回転数を検出する車輪速センサ81の回転数が0と判断される場合に、補正制御を行う。また、制御部91は、レンジセレクタ44がパーキングレンジを選択している場合に、補正制御を行う。このように、駆動輪12の回転数が0である場合やレンジセレクタ44の指示値がパーキングレンジであることを確認した後に補正制御を行うこととすると、補正制御が停車時に行われる。このため、運転者が特に指示をしなくとも、走行に支障のないタイミングで、作動油の推定供給流量Qsの補正を行うことができる。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
特に、本実施形態においては、補正制御の際、検出圧Psが閾値Aを超えるか否かによって、推定供給流量Qsを増加させるか否かを決定していたが、これに限るものではない。例えば、検出圧Psの大きさに応じて、基準となるマップMs0に乗じる補正係数C1の値の大きさを調整するように構成してもよい。