(1)エンジンの全体構成
図1は、本発明の一実施形態にかかるエンジンの制御装置を備えたエンジンシステムの全体構成を示す図である。本図に示されるエンジンは、走行用の動力源として車両に搭載される4サイクルのディーゼルエンジンである。なお、エンジンの具体的種類はこれに限らず、例えば、ガソリンエンジンであってもよい。
エンジンシステムは、エンジン本体1と、エンジン本体1に燃焼用の空気を導入するための吸気通路30と、エンジン本体1で生成された排気を車両外部に排出するための排気通路40と、排気通路40を通過する排気の一部を吸気通路30に還流するためのEGR装置50と、排気通路40を通過する排気により駆動される第1ターボ過給機60および第2ターボ過給機70とを備える。
エンジン本体1は、気筒2が内部に形成されたシリンダブロック3と、シリンダブロック3の上面に設けられたシリンダヘッド5と、気筒2に往復摺動可能に挿入されたピストン4とを有している。ピストン4の上方には燃焼室9が形成されている。
シリンダヘッド5には、インジェクタ20が、各気筒2につきそれぞれ1組ずつ設けられている。インジェクタ20は、そのピストン4側の先端部が燃焼室9の中心部を臨むような姿勢で取り付けられている。
インジェクタ20は燃焼室9内に燃料を噴射する。噴射された燃料と空気との混合気は燃焼室9で燃焼し、ピストン4はその燃焼による膨張力で押し下げられて上下に往復運動する。
ピストン4はコネクティングロッドを介してクランク軸7と連結されており、ピストン4の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。
シリンダヘッド5には、吸気通路30から供給される空気を各気筒2の燃焼室9に導入するための吸気ポート16と、吸気ポート16を開閉する吸気弁18と、各気筒2の燃焼室9で生成された排気を排気通路40に導出するための排気ポート17と、排気ポート17を開閉する排気弁19とが設けられている。
吸気通路30には、上流側から順に、エアクリーナ31、第1ターボ過給機60のコンプレッサ61、第2ターボ過給機70のコンプレッサ71、インタークーラ35、スロットルバルブ36a、サージタンク37が設けられている。サージタンク37よりも下流側には、各気筒2とそれぞれ個別に連通する独立通路が設けられており、各気筒2には、エアクリーナ31でろ過されて各コンプレッサ61,62によって圧縮された後インタークーラ35によって冷却された空気が、サージタンク37およびこれら独立通路を介して分配される。
なお、吸気通路30には、第2ターボ過給機70のコンプレッサ71をバイパスするコンプレッサバイパス通路33と、この通路33を開閉するバルブ33aが設けられており、このバルブ33aが開弁された場合は、空気は、第2ターボ過給機70のコンプレッサ71により圧縮されることなくインタークーラ35に流入する。
スロットルバルブ36aは、吸気通路30を開閉するものである。スロットルバルブ36aは、吸気通路30のうち、後述するEGR通路51の接続部分よりも上流側に設けられている。
スロットルバルブ36aはバタフライ弁であって吸気通路30の流路と直交する方向に延びる軸回りに回転して、吸気通路30を開閉する。吸気通路30には、スロットルバルブ36aを駆動するためのバルブアクチュエータ36bが設けられており、スロットルバルブ36aはこのバルブアクチュエータ36bによって回転駆動される。バルブアクチュエータ36bは、例えば、電動式であって、供給される電流のDUTY比が変更されることでスロットルバルブ36aの開度を変更する。
図2は、スロットルバルブの周辺を拡大して示した概略断面図である。この図2に示すように、具体的には、スロットルバルブ36aは、図2に鎖線で示す全閉の位置、すなわち、吸気通路30の内側に形成された流路のほぼ全体を塞ぐ位置と、図2に実線で示す全開の位置との間で回転駆動され、スロットルバルブ36aの開度は、これら全閉位置と全開位置との間で連続的に変更される。本実施形態では、スロットルバルブ36aは、全閉位置から図3の矢印Y1で示した方向に82度回転した位置が全開位置となっており、全閉位置を0度として0度から82度の間でその開度が変更可能となっている。
排気通路40には、上流側から順に、第1ターボ過給機60のタービン62と、第2ターボ過給機70のタービン72と、排気中の有害成分を浄化するための複数の浄化装置81〜85とが設けられている。
各ターボ過給機60,70は、タービン62,72が、排気通路40を流れる排気のエネルギーを受けて回転し、これに連動して各タービン62,72に連結されているコンプレッサ61,71が回転することにより、吸気通路30を流通する空気を圧縮(過給)する。
排気通路40には、第1ターボ過給機60のタービン62をバイパスする第1タービンバイパス通路41と、この通路41を開閉するバルブ41aと、第2ターボ過給機70のタービン72をバイパスする第2タービンバイパス通路42と、この通路42を開閉するバルブ42aとが設けられており、各バイパス通路41,42が各バルブ41a,42aにより開閉されることで、排気が各タービン62,72を通過するか、各タービン62,72をバイパスするかが変更される。
例えば、両バルブ41a,42aが開弁されたときは、排気のほとんどはいずれのタービン62,72も通過せず浄化装置81に流れ込み、吸気は過給されることなくエンジン本体1に導入される。
本実施形態では、浄化装置として、上流側から順に、NSC(NOx Storage Catalyst)装置81、DOC装置82、DPF(Disel Particulate Filter、フィルタ)83が設けられるとともに、DPF83のさらに下流にSCR(Selective Catalytic Reduction)装置84、スリップ触媒装置85が設けられている。
NSC装置81は、NOx吸蔵還元触媒81aが内蔵された触媒装置であり、排気中のNOxを吸蔵して外部への排出を抑制する。
また、NSC装置81は、還元剤が供給されることで吸蔵しているNOxを還元して無害なN2に変化させる。具体的には、後述するECU100は、NSC装置81に吸蔵されているNOxの量を推定する。そして、ECU100は、この推定量が所定量以上になると、NSC装置81に吸蔵されているNOxを還元するために、気筒2内の混合気の空気過剰率λをリッチ(1未満)にして排気に未燃の燃料を含有させ、この未燃の燃料を還元剤としてNSC装置81に供給するDeNOx制御を実施する。このDeNOx制御によって、NSC装置81には未燃の燃料が還元剤として供給され、これによりNSC装置81に吸蔵されているNOxは還元する。
DOC装置82は、酸化触媒82aが内蔵された触媒装置である。
DPF83は、排気中の煤等の粒子状物質を捕集可能なフィルタであり、排気中の煤等を捕集して外部への排出を抑制する。
このDPF83に捕集された煤は、DPF再生制御の実施によって適宜除去される。具体的には、ECU100は、DPF83に捕集されている煤の量を推定する。そして、ECU100は、この煤の推定量が所定量以上になると、この煤を燃焼除去するために、気筒2内の混合気の空気過剰率λをリッチ(1未満)にして排気に未燃の燃料を含有させ、この未燃の燃料をDPF83内で燃焼させる再生制御を実施する。
SCR装置84は、尿素が分解されて生じたアンモニアの供給を受けてNOxを還元する触媒84aが内蔵された触媒装置である。本実施形態では、排気通路40のうちDPF83とSCR装置84の間の部分に、尿素を添加する尿素インジェクタ49が設けられており、この尿素インジェクタ49からSCR装置84に向けて尿素が供給される。
スリップ触媒装置85は、酸化触媒85aが内蔵された触媒装置である。スリップ触媒装置85は、主として、SCR装置84から排出されたアンモニアを酸化して無害化する。
EGR装置50は、排気の一部を吸気側に還流するためのものである。EGR装置50は、排気通路40における第2タービン62よりも上流側の部分と、吸気通路30のうちインタークーラ35よりも下流側の部分とを接続するEGR通路51を備えており、このEGR通路51を介して一部の排気(未満、EGRガスという場合がある)を吸気側に還流させる。
本実施形態では、図2に示すように、EGR通路51の下流側の先端部分の外側面に開口孔が形成されており、この開口孔が形成された先端部分が吸気通路30の内側に挿入されている。そして、この開口孔を通してEGRガスがEGR通路51から吸気通路30に流入するようになっている。
EGR通路51は、その途中で第1EGR通路51aと第2EGR通路51bとに分岐している。第1EGR通路51aには、EGRクーラ55が設けられており、この第1EGR通路51aを通過するガスはEGRクーラ55により冷却される。第1EGR通路51a、第2EGR通路51bにはそれぞれ各通路51a,51bを開閉する第1EGRバルブ52a、第2EGRバルブ52bが設けられており、これらEGRバルブ52a,52bの開閉によって、EGRガスの還流量が変更されるとともに、EGRガスの経路、すなわち第1EGR通路51aと第2EGR通路51bの両方の通路を通してEGRガスを還流させるかあるいはどちらの通路を通してEGRガスを還流させるかが変更される。以下、適宜、このEGRガスの経路をEGR経路といい、第1EGR通路51aを通してEGRガスを還流させる経路を第1経路、第2EGR通路51bを通してEGRガスを還流させる経路を第2経路という。
(2)制御系
次に、図3を用いて、エンジンシステムの制御系について説明する。当実施形態のエンジンシステムは、車両に備わるECU(エンジン制御ユニット、スロットル制御手段、EGR制御手段)100によって制御される。ECU100は、周知のとおり、CPU、ROM、RAM、I/F等から構成されるマイクロプロセッサである。
ECU100には、各種センサからの情報が入力される。例えば、ECU100は、エンジン回転数センサSE1、エアフローセンサSE2、吸気圧センサ(吸気圧検出手段)SE3、スロットル開度センサSE4、第1EGR開度センサSE5、排気酸素濃度センサSE6、エンジン水温センサSE7、アクセル開度センサSE8、車速センサSE9等と電気的に接続されており、これらのセンサSE1〜SE9等からの入力信号を受け付ける。
エンジン回転数センサSE1は、クランク軸7の回転数をエンジン本体の回転数すなわちエンジン回転数として検出するセンサであり、シリンダブロック3に取付けられている。エアフローセンサSE2は、吸気通路30を通過する吸気の流量を検出するセンサであり、吸気通路30のうちエアクリーナ31と第1ターボ過給機60のコンプレッサ61との間に取付けられている。吸気圧センサSE3は、吸気通路30のうちスロットルバルブ36aの下流側の圧力を吸気圧として検出するセンサであり、サージタンク37に取付けられている。すなわち、本実施形態では、吸気通路30のうちEGR通路51の接続部分からエンジン本体1までの間の部分の圧力が吸気圧として検出される。スロットル開度センサSE4、第1EGR開度センサSE5は、それぞれ、スロットルバルブ36aの開度、第1EGRバルブ52aの開度を検出するセンサである。排気酸素濃度センサSE6は、排気通路40を流通する排気の酸素濃度を検出するセンサである。エンジン水温センサSE7は、エンジン本体1を冷却するためのエンジン冷却水の温度を検出するセンサである。アクセル開度センサSE8、車速センサSE9は、それぞれ、アクセルペダル(不図示)の開度、車速を検出するセンサである。
ECU100は、SE1〜SE9等の各種センサからの入力信号に基づいて種々の演算等を実行しつつ、インジェクタ20、スロットルバルブ36a、第1EGRバルブ52a、第2EGRバルブ52b等の各部を制御する。
(2−1)基本制御
ECU100によるインジェクタ20、スロットルバルブ36a、第1EGRバルブ52a、第2EGRバルブ52bの基本的な制御について次に説明する。
(インジェクタ)
まず、インジェクタ20の基本的な制御を説明する。
ECU100は、アクセル開度、車速、ギア段等に基づいて、インジェクタ20の噴射パターンおよびインジェクタ20の噴射量(インジェクタ20から噴射する燃料量)を算出する。すなわち、本実施形態では、インジェクタ20は多段噴射が可能であり、運転条件に応じてその噴射パターンが変化するように構成されている。なお、本実施形態では、現在のギア段は、ECU100が、車速とエンジン回転数とに基づいて算出する。
具体的には、ECU100は、アクセル開度等に基づいて、運転者から要求されている車両の加速度を算出し、これに基づいてエンジントルクの目標値である目標エンジントルクすなわちエンジン負荷を算出する。次に、ECU100は、エンジン回転数とエンジン負荷とに基づいて噴射パターンを決定する。具体的には、エンジン回転数とエンジン負荷とに対する噴射パターンのマップが予めECU100に記憶されており、ECU100はこのマップから現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応する噴射パターンを抽出する。次に、ECU100は、決定した噴射パターンとエンジン負荷とに基づいて噴射量を決定する。具体的には、噴射パターン毎に燃焼効率が予め求められてECU100に記憶されており、ECU100は決定した噴射パターンに対応する燃焼効率とエンジン負荷とに基づいて噴射量を決定する。
(EGRバルブ)
次に、図4のフローチャートを用いて、第1EGRバルブ52a、第2EGRバルブ52bの基本的な制御を説明する。
まず、ECU100は、ステップS1にて、エンジン回転数およびエンジン負荷等を読み込む。
次に、ECU100は、ステップS2にて、気筒2内の酸素の濃度である筒内酸素濃度を推定する。例えば、ECU100は、吸気量、排気酸素濃度等に基づいて、この筒内酸素濃度を推定する。
次に、ECU100は、ステップS3にて、エンジン回転数およびエンジン負荷等に基づいて、気筒2内の混合気(燃焼前の混合気)の酸素濃度である吸気酸素濃度の目標値を設定する。例えば、ECU100は、エンジン回転数およびエンジン負荷に対して、NOxおよび煤の発生を適正に抑えることができる吸気酸素濃度を予めマップで記憶しており、このマップから現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応する値を抽出する。
次に、ECU100は、ステップS4にて、エンジン回転数とエンジン負荷とエンジン水温とに基づいてEGR経路を決定する。
本実施形態では、ECU100に、予め図5および図6のマップが記憶されている。これら図5、図6のマップは、エンジン回転数とエンジン負荷とについてEGR経路を定めたマップであって、図5のマップはエンジン本体1が完全暖機した状態でのマップ、図6のマップはエンジン本体1が完全暖機前の状態でのマップである。
図5に示すように、本実施形態では、エンジン本体1が完全暖機状態にある場合は、エンジン回転数およびエンジン負荷が極めて低い運転領域A1においてEGR経路は第2経路のみとされる。また、これよりもエンジン回転数およびエンジン負荷が高い運転領域A2にでは、EGR経路は第1経路と第2経路との両方とされ、これよりもエンジン負荷およびエンジン回転数が高い運転領域A3では、EGR経路は第1経路のみとされる。そして、エンジン回転数およびエンジン負荷が高い運転領域A4では、EGRガスの還流が停止される。
一方、図6に示すように、エンジン本体1が完全暖機前の場合は、エンジン回転数およびエンジン負荷が高い運転領域B2においてEGRガスの還流は停止される。そして、運転領域B2以外の運転領域B1ではEGR経路は第2経路のみとされる。
ECU100は、まず、エンジン水温に応じて図5のマップと図6のマップとのいずれを採用するかを決定する。具体的には、ECU100は、エンジン水温が予め設定された温度以上であってエンジン本体1が完全暖機している場合は図5のマップを採用し、他の場合は図6のマップを採用する。次に、ECU100は、採用したマップに基づいて、現在のエンジン回転数とエンジン負荷とに対応するEGR経路を決定する。
次に、ステップS5にて、ECU100は、ステップS3で設定した目標吸気酸素濃度、ステップS2で算出した筒内酸素濃度の推定値に基づいて、EGRバルブの開度の目標値である目標EGRバルブ開度を設定する。
このとき、ステップS4にてEGR経路として採用されなかった経路に対応するEGRバルブの開度の目標値は0(全閉)とされる。そして、ECU100は、EGR経路として採用された経路に対応するEGRバルブの開度の目標値を目標吸気酸素濃度と筒内酸素濃度の推定値とに基づいて設定する。本実施形態では、ECU100は、筒内酸素濃度の推定値が目標吸気酸素濃度となるように、筒内酸素濃度の推定値と目標吸気酸素濃度との偏差、および、排気酸素濃度等に基づいて目標EGRバルブ開度を設定する。
その後、ECU100は、ステップS6にて、EGRバルブの開度をステップS5で設定した目標EGRバルブ開度に制御する。具体的には、EGRバルブの開度が目標EGRバルブ開度となるように、EGRバルブを駆動するアクチュエータに駆動信号を送信する。
(スロットルバルブ)
次に、図7のフローチャートを用いて、スロットルバルブ36aの基本的な制御を説明する。
まず、ECU100は、ステップS11にて、エンジン本体1が停止しているか否かを判定する。
ステップS11の判定がYESであってエンジン本体1が停止している場合は、ECU100はステップS12に進み、スロットルバルブ36aの開度を全閉(0度)として処理を終了する。このように、本実施形態では、エンジン本体1が停止するとスロットルバルブ36aは全閉とされる。
一方、ステップS11の判定がNOであってエンジン本体1が稼働している場合は、ECU100は、ステップS13に進み、エンジン回転数等の運転状態を読み込む。
次に、ECU100は、ステップS14にて、読み込んだ運転状態に基づいて吸気絞り制御を実施するか否かを判定する。
吸気絞り制御は、エンジン本体1に流入する吸気の量を小さくするべくスロットルバルブ36aの開度を比較的小さい(閉じ側の)開度にする制御であり、ステップS12の判定がYESの場合、ECU100は、ステップS15に進んでスロットルバルブ36aの開度を最小開度に設定して処理を終了する。
上記の最小開度は、全閉(0度)よりも大きい開度であって、エンジン本体1の稼働中(後述する固着回避制御の実施時を除く)にスロットルバルブ36aが制御される開度のうち最も小さい開度である。この最小開度は、例えば、5度程度に設定されている。
吸気絞り制御は、アイドル運転時、DPF再生制御の実施時、DeNOx制御の実施時に、それぞれ実施される。
具体的には、アイドル運転時は、ターボ過給機60,70の過給能力が小さいこと等に伴って排気の圧力が低くなるためEGRガスが還流しにくくなる。そこで、本実施形態では、アイドル運転時に吸気絞り制御を実施し、これにより吸気圧を小さく抑えてEGRガスの還流を促進する。
また、DPF再生制御では、上記のように気筒内の混合気の空気過剰率λをリッチ(1未満)にする必要があるとともに、DPF83内で煤が燃焼除去されるようにDPF83内の温度ひいては排気の温度を高く維持する必要がある。そこで、本実施形態では、DPF再生制御時に吸気絞り制御を実施して、気筒2に流入する新気の量を少なく抑える。
また、同様に、DeNOx制御時においても気筒2内の混合気の空気過剰率λをリッチにし、かつ、NSC装置81内の温度ひいては排気の温度を高くする必要がある。そこで、本実施形態ではDeNOx制御時にも吸気絞り制御を実施して、気筒2に流入する新気の量を少なく抑える。
一方、ステップS14の判定がNOの場合、すなわち、アイドル運転時、DPF再生制御実施時およびDeNOx制御実施時のいずれでもなく吸気絞り制御の実施が不要な場合は、ECU100はステップS16に進みスロットルバルブ36aの開度を全開として処理を終了する(後述する固着回避制御を除く)。
このように、本実施形態では、エンジンの稼働中であって吸気絞り制御の実施時および固着回避制御の実施時を除く通常の運転時には、スロットルバルブ36aの開度は全開とされる。特に、本実施形態では、これら吸気絞り制御実施時および固着回避制御実施時を除き、エンジン稼働中は、気筒2内に燃料が供給されている場合と、気筒2内への燃料の供給が停止されるフューエルカット運転の場合とのいずれにおいても、スロットルバルブ36aは全開とされる。
(2−2)固着回避制御
ECU100によって実施される固着回避制御について説明する。
固着回避制御は、スロットルバルブ36aが固着して適切に稼働できなくなるのを回避するための制御である。すなわち、図8に示すように、エンジンの稼働に伴って、吸気通路30の内周面のうちスロットルバルブ36aが設けられた部分の周辺には燃焼ガスに含まれる煤Cが堆積していく。特に、本実施形態のように、吸気通路30にEGR通路51が接続されている場合には、図8の矢印Y2に示すように、EGR通路51から吸気通路30にEGRガスが導入されるため、EGRガスに含まれる煤Cがスロットルバルブ36aの周辺に堆積しやすい。そして、この堆積した煤Cがエンジン停止時等に冷えて固まると、スロットルバルブ36aが固着する、あるいは、スロットルバルブ36aの適正な稼働が阻害されるという問題が生じる。
ここで、上記のように、本実施形態では、エンジン停止時においてスロットルバルブ36aが全閉とされる。そのため、このエンジン停止時に、図8の実線で示した状態から鎖線で示した状態のように、堆積している煤Cにスロットルバルブ36aを衝突させて煤Cを除去することができる。しかしながら、エンジンの停止機会が少ない場合等では、エンジン停止時にスロットルバルブ36aを全閉にするだけでは堆積した煤Cを十分に除去できないおそれがある。そこで、本実施形態では、エンジン本体1の稼働中であっても所定の条件が成立するとスロットルバルブ36aを全閉に向けて閉弁する固着回避制御を実施する。
まず、図9のフローチャートを用いて、ECU100によって実施される、固着回避制御を実施するかどうかの判定手順を説明する。
ECU100は、ステップS21にて、エンジン回転数等の運転状態を読み込む。
次に、ECU100は、ステップS22にて、固着回避制御の実施要求があるか否かを判定する。すなわち、ECU100は、スロットルバルブ36a周辺に煤Cが所定量以上堆積しており、これを除去する必要があるかどうかを判定する。
煤Cの堆積量は車両の走行距離にほぼ比例する。そこで、本実施形態では、ステップS22において、ECU100は、前回スロットルバルブ36aを全閉にしてから(エンジンを停止してから、または、前回固着回避制御を実施してから)車両の走行距離が予め設定された基準距離以上になったか否かを判定し、この判定がYESであれば、スロットルバルブ36a周辺に煤Cが所定量以上堆積したと推定して固着回避制御の実施要求があるとする。上記基準距離は、エンジン本体の排気量等に応じて適宜設定されればよいが、例えば40kmに設定される。
ステップS22の判定がNOであって固着回避制御の実施要求がない場合は、ECU100は、ステップS29に進み、固着回避制御ではない通常の制御を実施する。すなわち、ECU100は、図7のフローチャートのステップS11に進む。
一方、ステップS22の判定がYESであって固着回避制御の実施要求がある場合は、ECU100は、ステップS23に進む。
ステップS23では、ECU100は、フューエルカット運転時(減速F/C時)か否か、すなわち、エンジン本体1の稼働中で、かつ、インジェクタ20から気筒2内への燃料の供給が停止されているか否かを判定する。
ステップS23の判定がNOであって、フューエルカット運転時ではない場合は、ECU100は、ステップS29に進む。
一方、ステップS23の判定がYESであってフューエルカット運転時である場合は、ECU100は、ステップS24に進む。
ステップS24では、ECU100は、ギア段が予め設定された基準ギア段以上の高速段であるか否かを判定する。基準ギア段は2速以上の所定の値に設定されており、例えば、4速に設定されている。本実施形態では、ECU100は、車速とエンジン回転数とに基づいて現在のギア段を算出し、このギア段が基準ギア段以上か否かを判定する。
ステップS24の判定がNOであってギア段が基準ギア段未満の場合は、ECU100は、ステップS29に進む。
一方、ステップS24の判定がYESであってギア段が基準ギア段以上の高速段である場合は、ECU100は、ステップS25に進む。
ステップS25では、ECU100は、吸気圧が予め設定された基準開始圧力P1未満か否かを判定する。基準開始圧力P1は、大気圧以上の値であって、例えば140kPa程度に設定されている。
ステップS25の判定がNOであって吸気圧が基準開始圧力P1以上の場合は、ECU100は、ステップS29に進む。
一方、ステップS25の判定がYESであって吸気圧が基準開始圧力P1未満の場合は、ECU100は、ステップS26に進み、固着回避制御の実施を決定する。
以上のように、本実施形態では、前回スロットルバルブ36aが全閉とされてからの車両の走行距離が基準距離以上となった場合において、フューエルカットが実施されており、ギア段が基準ギア段以上であり、かつ、吸気圧が基準開始圧力P1未満に低下している場合にのみ、固着回避制御が実施される。なお、図9のフローチャートに係る制御は、固着回避制御の実施中にも実行されており、固着回避制御の実施途中においてステップS23〜25のいずれか一つでもその判定がNOになると固着回避制御は停止され、通常の制御に戻される。
次に、図10のフローチャートを用いて固着回避制御の手順について説明する。
ECU100は、上記ステップS22〜25のすべての判定がYESとなってステップS26にて固着回避制御の実施を決定すると、ステップS31にて、第1EGRバルブ52aの開度を増大させて、第1EGRバルブ52aを通常の制御時の開度(固着回避制御を仮に実施しなかった場合に実現される開度)よりも開き側に制御する。そして、このとき、第1EGRバルブ52aの開度を、その開弁速度(単位時間あたりの第1EGRバルブ52aの実際の開度の増加量)が予め設定された基準EGR開弁速度β1となるように、漸増させる。また、第1EGRバルブ52aを全開に向けて開弁させていく。
本実施形態では、固着回避制御の実施時を除く通常のフューエルカット運転時は、フューエルカットの開始とともに各EGRバルブ52a,52aが全閉に制御されるようになっている。従って、ステップS31では、第2EGRバルブ52aが全閉にされる一方、第1EGRバルブ52aが開弁されて、EGR経路が第1EGR経路のみとされる。
なお、フューエルカット後しばらく後に固着回避制御の実施が決定された場合(フューエルカット後しばらく後にステップS24またはステップS25の判定がYESとなった場合等)は、第1EGRバルブ52aは、フューエルカット開始後一旦全閉とされた後、全閉状態から徐々に開弁されることになる。また、第1EGRバルブ52aが全開の状態でフューエルカットがなされ、さらに、フューエルカットと同時に固着回避制御が実施される場合は、第1EGRバルブ52aの開度は全開に維持される。
次に、ECU100は、ステップS32にて、第1EGRバルブ52aの開度が予め設定された基準EGR開度E1以上になったか否かを判定する。基準EGR開度E1は全開よりも小さい開度に設定されている。
ステップS32の判定がYESの場合は、ECU100は、ステップS33に進む。一方、ステップS32の判定がNOであって第1EGRバルブ52aの開度が基準EGR開度E1に到達していない場合は、ECU100はステップS31に戻る。
このように、本実施形態では、固着回避制御の実施が決定されてもすぐにはスロットルバルブ36aの閉弁は開始されず、まず、第1EGRバルブ52aが基準EGR開度E1になるまで徐々に開弁される。なお、第1EGRバルブ52aは、基準EGR開度E1になった後も全開に向けて開弁されていく。そして、全開になった後は、固着回避制御が停止されるまで全開に維持される。
ステップS33では、ECU100は、スロットルバルブ36aの開度の目標値である目標スロットル開度を予め設定された第1スロットル開度(中間設定開度)ETB1に設定する。第1スロットル開度ETB1は、最小開度よりも大きく全開よりも小さい開度であって、スロットルバルブ36aの開度を変更しても吸気圧がほぼ変化しないいわゆる不感帯領域のうちの最も小さい開度に設定されている。すなわち、本実施形態では、スロットルバルブ36aの開度を所定開度未満にすることで初めてスロットルバルブ36aの開度変化に伴って吸気圧が変化するようになっており、第1スロットル開度ETB1はこの所定開度に設定されている。例えば、上記のように82度が全開となるスロットルバルブ36aにおいて、第1スロットル開度ETB1は50度程度に設定される。
次に、ステップS34にて、ECU100は、第1スロットル開度ETB1になるようにスロットルバルブ36aの開度を変更する。なお、上記のように、スロットルバルブ36aの開度は通常の制御時において全開となるように設定されており、ステップS34まで(少なくともフューエルカットを開始してからステップS34まで)は、スロットルバルブ36aは全開であり、ステップS34においてスロットルバルブ36aは全開から第1スロットル開度ETB1に向けて閉弁される。
次に、ECU100は、ステップS35にて、スロットルバルブ36aの開度が第1スロットル開度ETB1未満になったか否かを判定する。
ECU100は、ステップS35の判定がYESになるとステップS36に進む。一方、ECU100は、ステップ35の判定がNOの場合はステップS34に戻り、さらにスロットルバルブ36aを閉弁させる。このようにして、ECU100は、まずは、スロットルバルブ36aを第1スロットル開度ETB1に向けて閉弁する。
ステップS36では、ECU100は、スロットルバルブ36aを予め設定された後期第1閉弁速度α1_Bで閉弁させていく。すなわち、ECU100は、スロットルバルブ36aの閉弁速度(単位時間あたりのスロットルバルブ36aの開度の低下量)が後期第1閉弁速度α1_Bとなるように、スロットルバルブ36aを第1スロットル開度ETB1からさらに閉弁させていく。具体的には、ECU100は、目標スロットル開度を後期第1閉弁速度α1_Bで徐々に低減させていき、これによってスロットルバルブ36aの開度を後期第1閉弁速度α1_Bで低下させる。
ここで、ステップS34では、ステップS33で目標スロットル開度が全開から第1スロットル開度ETB1にステップ的に変更されてこれに合わせてスロットルバルブ36aが閉弁される。そのため、ステップS33〜ステップS35までのスロットルバルブ36aの閉弁速度は、後期第1閉弁速度α1_Bよりも大きい値(以下、適宜、前期第1閉弁速度α1_Aという)となる。換言すると、後期第1閉弁速度α1_Bは、前期第1閉弁速度α1_Aよりも小さい値に設定される。
次に、ECU100は、ステップS37にて、スロットル開度(実際のスロットルバルブ36aの開度)が予め設定された第2スロットル開度(基準開度)ETB2未満かつ吸気圧が予め設定された基準吸気圧P2未満になったか否かを判定する。
ECU100は、ステップS37の判定がYESになるとステップS38に進む。一方、ECU100は、ステップ37の判定がNOの場合はステップS36に戻る。すなわち、ECU100は、スロットル開度が第2スロットル開度ETB2未満かつ吸気圧が基準吸気圧P2未満になるまでスロットルバルブ36aを後期第1閉弁速度α1_Bで閉弁させ続ける。
ステップS38では、ECU100は、スロットルバルブ36aを予め設定された第2閉弁速度α2で閉弁させていく。具体的には、ステップS36と同様に、目標スロットル開度を第2閉弁速度α2で徐々に低減させていき、これによってスロットルバルブ36aの開度を第2閉弁速度α2で低下させる。
第2閉弁速度α2は、前期第1閉弁速度α1_Bおよび後期第1閉弁速度α1_Bよりも小さい値に設定されており、ステップS38以降は、それ以前よりもゆっくりとスロットルバルブ36aが閉弁されていく。
次に、ECU100は、ステップS39にて、スロットルバルブ36aが全閉になったか否かを判定する。ECU100は、ステップS38の判定がYESになるとステップS40に進む。一方、ECU100は、ステップ39の判定がNOの場合はステップS38に戻る。すなわち、ECU100は、スロットルバルブ36aが全閉になるまで(スロットル開度が0度になるまで)、スロットルバルブ36aを第2閉弁速度α2で閉弁させ続ける。
ステップS40の判定がYESとなりスロットルバルブ36aが全閉になると、ECU100は、スロットルバルブ36aの駆動力を最大として、スロットルバルブ36aを全閉位置に押し付ける。本実施形態では、ECU100は、バルブアクチュエータ36bの駆動DUTYを100%付近にして、スロットルバルブ36aを全閉位置に押し付ける。
ステップS40は、ステップS23〜25のいずれか一つがNOになり、これに伴って固着回避制御が停止されるまで、継続される。例えば、気筒2内への燃料供給が再開される燃料復帰が行われてフューエルカット運転が終了するまで、ステップS40は継続される。
以上のように、本実施形態では、ステップS26にて固着回避制御の実施が決定されると、まず、第1EGRバルブ52aの開度が漸増される。そして、第1EGRバルブ52aの開度が基準EGR開度E1になるとスロットルバルブ36aの閉弁が開始される。そして、スロットルバルブ36aは、その閉弁速度が、初期第1閉弁速度α1_A、後期第1閉弁速度α1_b、第2閉弁速度α2と、この順に徐々に遅くされながら全閉まで閉弁される。
次に、図11のフローチャートを用いて、固着回避制御が実施され後、すなわち、フューエルカット状態でスロットルバルブ36aが全閉とされた後、燃料復帰が行われたときの制御手順について説明する。
まず、ECU100は、ステップS41にて、スロットルバルブ36aが全閉の状態での燃料復帰であるかどうかを判定する。そして、ECU100は、この判定がNOの場合はそのまま処理を終了し(通常の制御に戻る)、YESの場合にステップS42以降を実施する。
ステップS42では、ECU100は、スロットルバルブ36aを、予め設定された基準開弁速度α10で開弁させていき、スロットルバルブ36aの開度を漸増させる。基準開弁速度α10は、後期第1閉弁速度α1_Bと同じ速度に設定されている。詳細には、基準開弁速度α10は、その絶対値が、後期第1閉弁速度α1_Bと絶対値と同じとなる値に設定されている。
このステップS42は、後述するステップS45の判定がYESとなるまで継続される。すなわち、スロットルバルブ36aはステップS45の判定がYESとなるまで基準開弁速度α10で開弁され続ける。
次に、ECU100は、ステップS43にて、吸気圧が予め設定された復帰基準吸気圧P10以上になったか否かを判定する。本実施形態では、この復帰基準吸気圧P10は基準吸気圧P2とほぼ同じ値に設定されている。
ステップS43の判定がNOの場合はステップS42に戻る。すなわち、ECU100は、スロットルバルブ36aを基準開弁速度α10で開弁させながらステップS43の判定がYESとなるのを待つ。
ステップS43の判定がYESとなって吸気圧が復帰基準吸気圧P10以上に増加すると、ECU100は、ステップS44に進み、第1EGRバルブ52aの閉弁を開始する。このとき、ECU100は、第1EGRバルブ52aを、通常の制御時の開度E10(固着回避制御を仮に実施しなかった場合に実現される開度)に向けて、予め設定された基準EGR閉弁速度β10で閉弁させる。基準EGR閉弁速度β10は、基準EGR開弁速度β1よりも大きい値に設定されている。詳細には、基準EGR閉弁速度β10は、その絶対値が、基準EGR開弁速度β1の絶対値よりも大きくなるように設定されている。
なお、通常の制御時の第1EGRバルブ52aの開度が全開である場合は、第1EGRバルブ52aの開度は全開に維持される。
ステップS44の制御(第1EGRバルブ52aを閉弁させる制御)は、第1EGRバルブ52aの開度が通常の制御時の開度E10に戻るまで続けられる。そして、第1EGRバルブ52aの開度が通常の制御時の開度E10に戻ると第1EGRバルブ52aの制御は通常の制御に戻される。すなわち、第1EGRバルブ52aに対して、図4に示したステップS1〜S6の制御が開始される。また、第2EGRバルブ52bに対しても、第1EGRバルブ52aの開度が通常の制御時の開度に戻った時点で通常の制御に戻される。
ステップS44の次はステップS45に進み、ECU100は、スロットルバルブ36aの開度が第1スロットル開度ETB1に到達したか否かを判定する。ECU100は、この判定がYESとなるとステップS46に進む。すなわち、ECU100は、上記のようにステップS41の判定がYESとなってからステップS42を継続してスロットルバルブ36aを基準開弁速度α10で開弁し続け、スロットルバルブ36aの開度が第1スロットル開度ETB1に到達するのを待ってステップS46に進む。
ステップS46では、ECU100は、スロットルバルブ36aの開度を通常の制御時の開度(本実施形態では全開)に向けて開弁する。具体的には、ステップS45の判定が、YESとなると、ECU100は、目標スロットル開度を第1スロットル開度ETB1から全開へステップ的に変化させて、スロットルバルブ36aを早い速度で開弁させる。スロットルバルブ36aが全開となった後は、スロットルバルブ36aの制御についても通常の制御を再開させる。
(3)作用等
上記の固着回避制御を実施したときの各パラメータの時間変化を図12に示す。図12では、ギア段が基準ギア段以上に維持された状態で、フューエルカットがなされて固着回避制御が実施された後、加速された場合を例示している。また、図12では、図5に示す運転ポイントX1であって第1EGRバルブ52aおよび第2EGRバルブ52bがそれぞれ全閉とされている状態でフューエルカットされた場合を例示している。また、図12には、上から順に、車速、噴射量、吸気圧、スロットル開度(実線が実際のスロットル開度、鎖線が目標スロットル開度)、第1EGRバルブ52aの開度(実線が実際の開度、鎖線が目標の開度)の時間変化を示している。
上記のように、本実施形態では、吸気絞り制御時および固着回避制御を除く通常の制御がなされている状態ではスロットルバルブ36aの開度は全開とされており、時刻t1のフューエルカットの開始前において、スロットルバルブ36aの開度は全開となっている。
時刻t1にてフューエルカットがなされると、車速および吸気圧は徐々に低下していく。そして、時刻t2にて吸気圧が基準開始圧力P1未満に低下すると、固着回避制御が開始されて、まず、第1EGRバルブ52aの開弁が開始される(ステップS31が実施される)。そして、第1EGRバルブ52aの開度は、全開に向けて基準EGR開弁速度β1で徐々に増大していく。
第1EGRバルブ52aを開弁させると、EGRガスの吸気通路30への還流量が多くなり吸気圧が急増するおそれがあるが、本実施形態では、上記のように、第1EGRバルブ52aの開度が徐々に増大されるため、この開度変化に伴う吸気圧の急変は抑制される。従って、時刻t2前後において吸気圧の低下速度はほぼ一定に維持される。
その後、時刻t3にて、第1EGRバルブ52aの開度が基準EGR開度E1以上になると(ステップS32の判定がYESとなると)、図12に鎖線で示すように、目標スロットル開度が第1スロットル開度ETB1に設定される(ステップS33)。そして、第1スロットル開度ETB1に向けてスロットルバルブ36aの閉弁が開始される(ステップS34)。
このとき、目標スロットル開度はステップ的に全開から第1スロットル開度ETB1に変更されるが、スロットルバルブ36aの動きには遅れがあるため、実際のスロットル開度はステップ的には変化せず、実線で示したように第1スロットル開度ETB1に向けて所定の速度(初期第1閉弁速度α1_A)で低下していく。ただし、目標スロットル開度がステップ的に変化することで、この初期第1閉弁速度α1_Aは比較的大きくなる。
上記のように、全開から第1スロットル開度ETB1までは不感帯領域である。そのため、時刻t3後も吸気圧は時刻t3までと同様の速度で低下していく。
その後、時刻t4にて、スロットル開度が第1スロットル開度ETB1に到達すると(ステップS35の判定がYESとなると)、スロットルバルブ36aは、後期第1閉弁速度α1_Bで閉弁されるようになる(ステップS36)。上記のように、本実施形態では、目標スロットル開度が後期第1閉弁速度α1_Bで低減されて、これによってスロットルバルブ36aが後期第1閉弁速度α1_Bで閉弁されていく。
不感帯領域を超えていることで、時刻t4以後は、スロットルバルブ36aが閉弁していくことに伴って吸気圧は時刻t4以前よりも早い速度で低下する。しかしながら、後期第1閉弁速度α1_Bは初期第1閉弁速度α1_Aよりも小さい値に設定されているため、吸気圧の急減は抑制され吸気圧は緩やかに低下していく。また、本実施形態では、上記のように第1EGRバルブ52aが開き側に制御されて多量のEGRガスが吸気通路30に還流するようになっており、これによっても、吸気圧の急減が抑制される。
時刻t5にてスロットル開度が第2スロットル開度ETB2未満に低下し、かつ、吸気圧が基準吸気圧P2未満になると(ステップS37の判定がYESとなると)、時刻t6で全閉になるまで、スロットルバルブ36aは第2閉弁速度α2で閉弁されていく(ステップS38)。上記のように、本実施形態では、目標スロットル開度が第2閉弁速度α2で低減されて、これによってスロットルバルブ36aが第2閉弁速度α2で閉弁していく。
上記のように、第2閉弁速度α2は後期第1閉弁速度α1_Bよりも小さいため、図12に示すように、スロットル開度は時刻t6にて全閉になるまでゆっくりと低下していく。
ここで、時刻t5から時刻t6の間は、スロットル開度が第2スロットル開度ETB2未満と非常に小さいために、スロットル開度に対する吸気圧の感度が高く(スロットル開度の単位変化量に対する吸気圧の変化量が大きく)、スロットル開度の低下に伴って吸気圧が急減しやすい。
これに対して、本実施形態では、上記のように、この期間、スロットルバルブ36aが比較的遅い第2閉弁速度α2で閉弁されるため、このスロットルバルブ36aの閉弁に伴う吸気圧の急減は抑えられる。
また、本実施形態では、時刻t5において吸気圧が基準吸気圧P2未満に低下した後、すなわち、スロットルバルブ36aを全閉にしたときの吸気圧との差が所定値未満になった後に、スロットルバルブ36aが比較的遅い第2閉弁速度α2で全閉まで閉弁されているため、これによっても、時刻t5から時刻t6までの間の吸気圧の急減が抑えられる。
従って、本実施形態では、時刻t5から時刻t6までの期間中、吸気圧は時刻t5以前よりも早い速度で低下はするもののその低下速度は小さく抑えられ、吸気圧は急変することなくゆるやかに低下していく。
また、時刻t5から時刻t6までの期間中においても、時刻t4から時刻t5までの期間と同様に第1EGRバルブ52aが開き側に制御されて多量のEGRガスが吸気通路30に還流するようになっており、これによっても、吸気圧の急減が抑制される。
なお、図12に示した例では、第1EGRバルブ52aの開度は、時刻t5にて全開に到達する。換言すると、第1EGRバルブ52aは、時刻t5付近にて全開となるように制御される。
図12には示していないが、時刻t6にてスロットルバルブ36aが全閉になるとスロットルバルブ36aの駆動力は最大とされ(ステップS40)、時刻t7にて加速が開始されるまで駆動力最大の状態でスロットルバルブ36aは全閉に維持される。
時刻t7にて加速が開始されて燃料復帰が行われると(ステップS41の判定がYESとなると)、まず、スロットルバルブ36aが開弁される(ステップS42)。また、このとき、スロットルバルブ36aの開度は、絶対値が後期第1閉弁速度α1_Bと同じとなる基準開弁速度α10で比較的ゆっくりと開弁される。
このようにスロットルバルブ36aが比較的ゆっくりと開弁されることで、時刻t7以後において吸気圧はゆるやかに増加していく。
その後、時刻t8にて吸気圧が復帰基準吸気圧P3以上になると(ステップS43の判定がYESとなると)、第1EGRバルブ52aが通常の制御時の開度E10に向けて閉弁される。このとき、第1EGRバルブ52aは、その閉弁速度が、基準EGR開弁速度β1よりも大きい値に設定された基準EGR閉弁速度β10となるように閉弁される。
図12に示した例では、第1EGRバルブ52aにも不感帯領域(第1EGRバルブ52aの開度を変更してもEGRガスの流量がほとんど変化しない領域)が設定されており、時刻t8では、まず、第1EGRバルブ52aをこの不感帯領域分比較的早期に閉弁させ、その後通常の制御時の開度に向けて閉弁していく。
ここで、第1EGRバルブ52aの開度を変更するとEGRガス量および吸気圧が変化するが、本実施形態では上記のように第1EGRバルブ52aの開度を徐々に変更していることで、時刻t8前後において吸気圧が急変するのを抑制することができる。
その後、時刻t9にてスロットル開度が第1スロットル開度ETB1に到達すると(ステップS45の判定がYESとなると)、スロットルバルブ36aは通常時の開度すなわち全開に向けて基準開弁速度α10よりも高速で開弁される。具体的には、目標スロットル開度が全開とされてこれに向けてスロットルバルブ36aの開度が変更される。
以上のように、本実施形態では、フューエルカット運転時であってエンジン本体1の稼働時に、スロットルバルブ36aを全閉にする固着回避制御が実施される。そのため、スロットルバルブ36aを全閉にする機会を多く確保することができ、スロットルバルブ36aの周辺に堆積している煤Cを適切に除去してスロットルバルブ36aの固着を抑制することができる。
しかも、この固着回避制御では、スロットルバルブ36aの開度が基準開度ETB2未満に低下し且つ吸気圧が基準吸気圧P2未満に低下するタイミング(時刻t5)までは比較的早い第1閉弁速度α1(初期第1閉弁速度α1_Aおよび後期第1閉弁速度α1_B)でスロットルバルブ36aが閉弁される一方、このタイミング以後は第1閉弁速度α1よりも遅い第2閉弁速度α2でスロットルバルブ36aが閉弁される。そのため、スロットルバルブ36aをより早期に全閉に近づけつつ、上記のように、吸気圧が急減しやすい運転状態においても、吸気圧が過剰に急減するのを抑えることができる。従って、吸気圧の変化率が過剰に大きくなり、これに伴ってポンピングロスが急増してエンジン本体1および車両の減速度が急増するのを抑制することができる。
特に、本実施形態では、過給機60,70が設けられており、吸気圧が高い値に制御される。そのため、スロットルバルブ36aの開度変更に伴う吸気圧の変動ひいてはエンジン本体1および車両の減速度の変動が大きくなりやすい。そのため、上記の固着回避制御が実施されることでスロットルバルブ36aを全閉としつつエンジン本体1および車両の減速度が急増するのを効果的に抑制することができる。
また、本実施形態では、初期第1閉弁速度α1_Aを後期第1閉弁速度α1_Bよりも大きくして、固着回避制御を実施してからスロットル開度が第1ETB開度ETB1に低下するまでの間であってスロットル開度に対する吸気圧の感度が低い運転条件(本実施形態では不感帯領域)ではより高速でスロットルバルブ36aを閉弁させている。そのため、エンジン本体1および車両の減速度の急増を抑制しつつ、スロットルバルブ36a開度をより早期に全閉にすることができる。そして、これにより、フューエルカットの時間が短い場合においても、煤Cの除去を実現することができ、この除去の機会を多く確保することができる。
また、本実施形態では、エンジン本体1の停止時にもスロットルバルブ36aを全閉にしている。そのため、煤Cの除去の機会をより多くすることができる。
さらに、このエンジン本体1の停止時も含めスロットルバルブ36aを全閉にしてから車両の走行距離が基準距離以上になったときであって煤Cの堆積量が所定量以上になったと推定される場合にのみ固着回避制御が実施されるようになっている。そのため、煤Cを適切に除去しつつ、固着回避制御の実施機会を少なく抑えてこの固着回避制御の実施に伴ってエンジン本体1および車両の減速度が増加する機会を少なくすることができる。
また、本実施形態では、ギア段が基準ギア段以上の高速段であって、エンジン本体1の減速度に対する車両の減速度の感度が低い場合(エンジン本体1の減速度の変化に伴う車速の減速度の変化量が小さい場合)にのみ固着回避制御が実施されるため、固着回避制御を実施によってエンジン本体1の減速度が変化してもこれに伴う車両の減速度を十分に小さく抑えることができ、車両の乗り心地を良好にすることができる。
また、本実施形態では、吸気圧が基準開始圧力P1未満の場合にのみ、固着回避制御を実施される。すなわち、吸気圧が比較的低く、スロットルバルブ36aを全閉まで閉弁することに伴う吸気圧の落ち込み量(低下量)ひいてはエンジン本体の減速度が小さく抑えられる場合にのみ固着回避制御が実施される。そのため、固着回避制御の実施によるエンジン本体の減速度の急増をより確実に抑制することができる。
また、本実施形態では、固着回避制御時に、第1EGRバルブ52aが開き側に制御される。特に、通常の制御時の開度よりも開き側に制御される。そのため、固着回避制御時において、より多くのEGRガスを吸気通路30に還流させることができ、スロットルバルブ36aの閉弁に伴って吸気量(新気量)が低下しても吸気圧を高く且つ排気圧を低くしてポンピングロスの急増を抑制することができる。従って、エンジン本体の減速度の急増をより確実に抑制することができる。
特に、本実施形態では、第1EGRバルブ52aを開弁させた後にスロットルバルブ36aの閉弁を開始している。そのため、スロットルバルブ36aの閉弁開始時における吸気圧およびポンピングロスの増加をより一層小さく抑えることができる。
また、本実施形態では、固着回避制御の実施に伴ってスロットルバルブ36aを全閉とした後、燃料復帰がなされたときに、スロットルバルブ36aの開度が全開(通常の運転時の開度)に向けて漸増される。そのため、この燃料復帰時においても、スロットルバルブ36aの開度変更に伴って吸気圧が急変するのを抑制することができ、エンジン本体1および車両の動きが急変するのを抑制することができる。
(4)変形例
上記実施形態では、初期第1閉弁速度α1_Aと後期第1閉弁速度α1_Bとを異なる速度とした場合について説明したが、これらの速度を第2閉弁速度α2よりも大きい同じ値に設定してもよい。ただし、上記のように、スロットルバルブ36aの閉弁開始直後であって吸気圧が高い状態におけるスロットルバルブ36aの閉弁速度である初期第1閉弁速度α1_Aをより大きい値とすれば、エンジン本体1および車両の減速度の急増を抑制しながら早期にスロットルバルブ36aを全閉にすることができる。
また、上記実施形態では、固着回避制御において、まず、第1EGRバルブ52aの開弁を開始した後に、スロットルバルブ36aの閉弁を開始する場合について説明したが、これらを同時に開始させてもよい。すなわち、吸気圧が基準開始圧力P1未満に低下した時点でスロットルバルブ36aの閉弁を開始させてもよい。
また、上記実施形態では、固着回避制御の実施時において、第2EGRバルブ52bではなく、第1EGRバルブ52aを開弁させた場合について説明したが、これらバルブ52a,52bの少なくとも一方が通常の制御時の開度よりも開弁されればよい。
ただし、高負荷等の排気の温度が高い状態でフューエルカットおよび固着回避制御が実施された場合に第2EGRバルブ52bを開弁させると、第2EGRバルブ52bに高温の排気が導入されてしまい好ましくない。これに対して、第1EGRバルブ52aには、EGRクーラ55で冷却された後の比較的低温の排気が導入される。そのため、固着回避制御の実施時に第1EGRバルブ52aのみを開弁させるようにすれば、これらバルブ52a,52bの信頼性を確保することができる。
また、固着回避制御の実施時において第1EGRバルブ52aを通常の制御時の開度よりも開弁させる制御は省略してもよい。ただし、この制御を実施すれば、上記のように、固着回避制御の実施時にポンピングロスをより小さく抑えることができる。
また、過給が行われて吸気圧が高い状態でスロットルバルブ36aを全閉にする場合の方が、吸気圧が低い状態でスロットルバルブ36aを全閉にする場合よりも、吸気圧の低下量が大きくなってエンジン本体1の減速度が急増しやすい。そこで、上記実施形態では、フューエルカット前の運転状態によらず固着回避制御を実施するか否かが決定される場合について説明したが、これに代えて、フューエルカットのうち過給が行われている状態からのフューエルカット運転時、詳細には、バルブ41a,42aの少なくとも一方が閉弁している状態からのフューエルカット運転時にのみ、スロットルバルブ36aをその閉弁速度を異ならせつつ全閉にする上記固着回避制御を実施し、他のフューエルカット運転時には一定速度、かつ、比較的早い速度でスロットルバルブ36aを全閉にするようにしてもよい。このようにすれば、効果的にエンジン本体1の減速度の急増を抑制することができる。