以下、動力源としてエンジン及びモータを備えるハイブリッド車両として具現化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1に示すように、ハイブリッド車両10は、エンジン20、スタータ22、トルクコンバータ32、クラッチ34、変速機36、MG(Motor Generator)40、ディファレンシャル52、駆動輪54、低電圧バッテリ60、DCDCコンバータ62、高電圧バッテリ64、インバータ68、制御装置70等を備えている。
エンジン20(動力源に相当)は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等であり、燃料の燃焼により動力を発生する。エンジン20には、スタータ22が設けられている。スタータ22(始動機構に相当)は、低電圧バッテリ60から供給される電力により駆動され、エンジン20のクランク軸に初期回転を与える。すなわち、スタータ22はエンジン20を始動時にクランキングする。低電圧バッテリ60は、略12Vの電圧を供給するPbバッテリ等である。エンジン20及びスタータ22の駆動状態は、制御装置70により制御される。
トルクコンバータ32は、エンジン20の動力を伝達するとともに、トルクを増幅させる。トルクコンバータ32のポンプインペラは、エンジン20のクランクシャフトに接続されている。トルクコンバータ32のタービンランナは、クラッチ34の入力軸34aに接続されている。
クラッチ34は、油圧駆動式の湿式クラッチ等である。クラッチ34の出力軸34bは、変速機36の入力軸に接続されている。クラッチ34は、トルクコンバータ32と変速機36との間を切断及び接続する。すなわち、クラッチ34は、作動油の油圧により、エンジン20と駆動輪54との間の駆動力伝達経路を切断及び接続する機構と、この作動油の油圧を油圧指令値に基づき制御するアクチュエータとを備える。いいかえると、伝達トルク漸増部が駆動力伝達経路を接続することによりクラッチ34の伝達トルクを漸増させ、伝達トルク制御部が駆動力伝達経路を切断することでクラッチ34によるトルクの伝達を停止させる。クラッチ34の動作状態は、クラッチ34に供給される作動油の油圧の指令値(以下、「クラッチ油圧の指令値」という)を、制御装置70がクラッチ34のアクチュエータに出力することにより制御される。なお、アクチュエータは、制御装置70から入力された指令値になるように作動油の油圧を調整するものである。
変速機36は、CVT(無段変速機)や有段のAT等である。変速機36の出力軸は、MG40の入力軸に接続されている。変速機36は、クラッチ34とMG40との間において、変速機36の入力軸の回転数と出力軸の回転数との比としての一次変速比(変速比に相当)を変更する。すなわち、変速機36は、エンジン20の回転数と駆動輪54の回転数との比としての変速比を変更する。変速機36の一次変速比は、制御装置70により制御される。
MG40(モータ、動力源に相当)は、モータとしての機能と発電機としての機能とを有している。MG40の出力軸は、ディファレンシャル52を介して駆動輪54に接続されている。MG40は、インバータ68から供給される交流電力により駆動される。また、MG40は、MG40の入力軸又は出力軸の回転により発電する。MG40の駆動状態は、制御装置70がインバータ68の動作状態を制御することにより制御される。
インバータ68は、高電圧バッテリ64から供給される直流電力を交流電力に変換する。高電圧バッテリ64は、例えば略300Vの電圧を供給するNiH電池やLiイオン電池等である。また、インバータ68は、MG40から供給される交流電力を直流電力に変換する。
DCDCコンバータ62は、低電圧バッテリ60から供給される電圧を昇圧して、高電圧バッテリ64及びインバータ68へ供給する。また、DCDCコンバータ62は、高電圧バッテリ64及びインバータ68から供給される電圧を降圧して、低電圧バッテリ60及びスタータ22へ供給する。DCDCコンバータ62の動作状態は、制御装置70により制御される。
制御装置70(駆動制御装置に相当)は、CPU、ROM、RAM、入出力インターフェース、各装置を駆動する駆動回路等を含むマイクロコンピュータである。制御装置70は、各種センサにより検出されるハイブリッド車両10の状態に基づいて、上記の各装置の状態を制御する。制御装置70は、エンジン20を制御するエンジンECUや、MG40を制御するMGECU、エンジンECU及びMGECUを統括制御するHVECU等により構成される。
各種センサは、エンジン回転数センサ71、クラッチ入力軸回転数センサ72、クラッチ出力軸回転数センサ73、変速比センサ74、アクセルセンサ75等を含んでいる。エンジン回転数センサ71は、エンジン20の単位時間当たりの回転数(すなわち回転速度)を検出し制御装置70内の第1判定部,エンジン回転速度判定部に送出する。クラッチ入力軸回転数センサ72は、クラッチ34の入力軸34aの単位時間当たりの回転数(すなわち回転速度)を検出し制御装置70内の第2判定部,回転速度差判定部に送出する。クラッチ出力軸回転数センサ73(回転速度検出部に相当)は、クラッチ34の出力軸34b(回転部材に相当)の単位時間当たりの回転数(すなわち回転速度)を検出し制御装置70内の第2判定部,回転速度差判定部に送出する。これらの回転数センサ71〜73は、レゾルバやホール素子等で構成され、所定検出精度よりも高い検出精度を有している。変速比センサ74は、CVTの変速比や、有段のATのシフトポジション、すなわち変速機36の一次変速比を検出する。アクセルセンサ75は、アクセルペダルの踏み込み量(アクセル操作量)を検出する。なお、単位時間当たりの回転数を、以降、単に回転数ということもある。
制御装置70(トルク制御部に相当)は、エンジン20又はMG40の駆動トルクの指令値が急変した場合に、駆動輪54に伝達される駆動トルクの急変を抑制するようにMG40の駆動トルクを制御する(制振制御)。制御装置70は、制振制御を実行することにより、ハイブリッド車両10に大きなトルクショックが生じることを抑制する。
そして、制御装置70は、クラッチ34を切断してMG40の動力によりハイブリッド車両10を走行させるEVモードと、クラッチ34を接続してエンジン20及びMG40の動力によりハイブリッド車両10を走行させるHEVモード(HVモードに相当)とを実行する。
図2は、EVモードからHEVモードへの移行制御の概略を示すフローチャートである。この一連の処理は、制御装置70により所定の周期で繰り返し実行される。
まず、ドライバ要求パワーがエンジン始動閾値よりも大きいか否か判定する(S11)。具体的には、アクセルセンサ75により検出されるアクセル操作量と、エンジン回転数センサ71により検出されるエンジン20の回転数とに基づいて、ドライバ要求パワーを算出する。そして、算出されたドライバ要求パワーが、エンジン始動閾値よりも大きいか否か判定する。エンジン始動閾値は、MG40のパワーだけでは、ドライバ要求パワーを満たすのに不十分であることを判定することのできる値に設定されている。
S11の判定において、ドライバ要求パワーがエンジン始動閾値よりも大きくないと判定した場合(S11:NO)、この一連の処理を一旦終了する(END)。
一方、S11の判定において、ドライバ要求パワーがエンジン始動閾値よりも大きいと判定した場合(S11:YES)、後述するエンジン20の始動制御を実行する(S12)。なお、ドライバ要求パワーがエンジン始動閾値よりも大きいと判定した場合は、この判定結果はエンジン20の始動制御が終了するまで維持される。その後、この一連の処理を一旦終了する(END)。
図3は、始動制御の概略を示すフローチャートである。この一連の処理は、図2のS12の処理が実行される度にそのサブルーチンとして呼び出されて、制御装置70により実行される。
まず、エンジン20の始動中におけるエンジン20のトルク制御(始動中ENGトルク制御)を実行する(S20)。続いて、エンジン20の始動中におけるクラッチ34の油圧制御(始動中クラッチ油圧制御)を実行する(S50)。続いて、エンジン20の始動中におけるMG40のトルク制御(始動中MGトルク制御)を実行する(S80)。これらの制御の詳細は後述する。その後、図2のS12以後の処理へ戻る(RETURN)。なお、S20,S50,S80の処理の順番は、上記の順番に限らず、任意に変更することができる。
次に、図4のタイムチャートを参照して、上記始動制御の概略を説明する。
時刻t1以前では、ハイブリッド車両10はMG40の動力により走行するEVモードを実行している。クラッチ34の動作状態を制御するクラッチ油圧の指令値は、最低圧となるように指示されている(最低圧指示)。これにより、クラッチ34は、トルクコンバータ32と変速機36との間を切断している。エンジン20の回転数及びクラッチ34の入力軸34aの回転数は0になっている。また、MG40の指令トルクであるMG指令トルクは、EVモード時の制御における指令トルクになっている(EV時制御)。エンジン20の指令トルクであるENG指令トルクは、EVモード時の制御における指令トルク、すなわちゼロトルクになっている(EV時制御)。
時刻t1において、ドライバ要求パワーが上記エンジン始動閾値よりも大きくなると、始動要求フラグ及び始動制御中フラグの値が「0」から「1」になる。これにより、スタータ22によるエンジン20のクランキングが開始され、エンジン20の回転数が上昇を開始する。MG指令トルクは、始動開始時制御における指令トルクになる。クラッチ油圧の指令値は、待機制御における油圧に設定される。ENG指令トルクは、トルク一定制御における一定の指令トルクになる。
時刻t2において、ENG回転数が点火開始回転数に達して、燃料噴射弁による燃料噴射と点火プラグによる点火とが開始される。時刻t3において、エンジン20が完爆してENG回転数が急激に上昇し始め、予め定めたクランキング終了回転数に達するとクランキングが終了する。また、時刻t3では、エンジン20にトルクコンバータ32を介して接続されたクラッチ34の入力軸34aの回転数が急激に上昇し始める。
時刻t4において、クラッチ34の出力軸34bの回転数であるクラッチ出力回転数から、クラッチ34の入力軸34aの回転数であるクラッチ入力回転数を引いた差が充填開始閾値(所定閾値に相当)よりも小さくなる。これにより、クラッチ34に作動油を充填する充填制御が開始される。充填制御(いわゆるファーストフィル)では、クラッチ油圧の指令値は、クラッチ34に迅速に作動油を充填するための充填油圧に設定される。充填制御の実行期間は、クラッチ34への作動油の充填を完了することのできる期間に予め設定されている。
時刻t5において、充填制御の実行期間が終了すると、クラッチ34の作動油の油圧を一定圧に維持する一定圧制御が開始される。一定圧制御では、クラッチ油圧の指令値は、クラッチ34で伝達トルクを発生させず且つ0よりも高い所定油圧に維持される。この所定油圧は、上記充填油圧よりも低く設定されている。
時刻t6において、クラッチ入力回転数からクラッチ出力回転数を引いた回転数差が所定回転数差よりも大きくなる。これにより、クラッチ油圧の指令値を漸増させる油圧漸増制御と、ENG指令トルクを漸増させるトルク漸増制御とが開始される。
時刻t7において、クラッチ34で伝達トルクが発生し、クラッチ出力回転数、すなわちMG40の回転数が所定値よりも大きい変化をする。これにより、MG指令トルクを漸減させるトルク漸減制御が開始される。
時刻t8において、クラッチ入力回転数からクラッチ出力回転数を引いた回転数差が第1閾値よりも小さくなる。これにより、MG指令トルクを漸減させるトルク漸減制御と、クラッチ油圧の指令値を漸増させる油圧漸増制御と、ENG指令トルクを漸増させるトルク漸増制御とが停止される。
時刻t9において、クラッチ入力回転数からクラッチ出力回転数を引いた回転数差が第2閾値(<第1閾値)よりも小さくなる。これにより、クラッチ油圧の指令値が増加される(終了制御)。一方、MG指令トルクを漸減させるトルク漸減制御と、ENG指令トルクを漸増させるトルク漸増制御とは、停止されたまま維持される(終了制御)。
時刻t10において、クラッチ油圧の指令値が最高圧に達すると、始動制御中フラグが「1」から「0」になる。これにより、MG指令トルクとENG指令トルクとは、それぞれHEVモード時の制御における指令トルクになる(HEV時制御)。すなわち、MG指令トルクが減少され、それに対応してENG指令トルクが増加される。クラッチ油圧の指令値は、最高圧となるように指示される(最高圧指示)。こうして、クラッチ34を接続してエンジン20及びMG40の動力によりハイブリッド車両10を走行させるHEVモードが実行される。
図5は、図3のS20における始動中ENGトルク制御の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、図3のS20の処理が実行される度にそのサブルーチンとして呼び出されて、制御装置70により実行される。
まず、FlagEngの値に応じて、実行する処理を決定する(S21)。FlagEngの初期値は「0」である。
FlagEngの値が「0」の場合、上記トルク一定制御を実行(開始)する(S22)。トルク一定制御における指令トルクは、エンジン20で燃料の燃焼が開始された際に、エンジン20の回転数が吹き上がることを抑制することのできる指令トルクに設定されている。続いて、FlagEngの値を「1」に設定する(S23)。その後、図3のS20以後の処理へ戻る(RETURN)。
一方、FlagEngの値が「1」の場合、トルク一定制御の終了条件が成立しているか否か判定する(S24)。トルク一定制御の終了条件は後述する。トルク一定制御の終了条件が成立していないと判定した場合(S24:NO)、トルク一定制御を実行(継続)する。その後、図3のS20以後の処理へ戻る(RETURN)。
S24の判定において、トルク一定制御の終了条件が成立したと判定した場合(S24:YES)、上記トルク漸増制御を実行(開始)する(S26)。続いて、FlagEngの値を「2」に設定する(S27)。その後、図3のS20以後の処理へ戻る(RETURN)。
また一方、FlagEngの値が「2」の場合、トルク漸増制御の終了条件が成立しているか否か判定する(S28)。トルク漸増制御の終了条件は後述する。トルク漸増制御の終了条件が成立していないと判定した場合(S28:NO)、トルク漸増制御を実行(継続)する。トルク漸増制御の詳細は後述する。その後、図3のS20以後の処理へ戻る(RETURN)。
S28の判定において、トルク漸増制御の終了条件が成立したと判定した場合(S28:YES)、上記終了制御を実行する(S30)。続いて、始動中ENGトルク制御を終了し、FlagEngの値を「0」に設定する(S31)。その後、図3のS20以後の処理へ戻る(RETURN)。
図6は、図3のS50における始動中クラッチ油圧制御の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、図3のS50の処理が実行される度にそのサブルーチンとして呼び出されて、制御装置70により実行される。
まず、FlagCLの値に応じて、実行する処理を決定する(S51)。FlagCLの初期値は「0」である。
FlagCLの値が「0」の場合、上記待機制御を実行(開始)する(S52)。待機制御の詳細は後述する。続いて、FlagCLの値を「1」に設定する(S53)。その後、図3のS50以後の処理へ戻る(RETURN)。
一方、FlagCLの値が「1」の場合、待機制御の終了条件が成立しているか否か判定する(S54)。待機制御の終了条件は後述する。待機制御の終了条件が成立していないと判定した場合(S54:NO)、待機制御を実行(継続)する(S55)。その後、図3のS50以後の処理へ戻る(RETURN)。
S54の判定において、待機制御の終了条件が成立していると判定した場合(S54:YES)、上記充填制御を実行(開始)する(S56)。続いて、FlagCLの値を「2」に設定する(S57)。続いて、経過時間tを0にする、すなわち経過時間tの計測を開始する。その後、図3のS50以後の処理へ戻る(RETURN)。
また一方、FlagCLの値が「2」の場合、経過時間tに制御周期Δtを加算して、それを経過時間tとする(S59)。続いて、経過時間tが完了時間QT以上か否か判定する(S60)。完了時間QTは、クラッチ34へ作動油の充填を開始してから充填を完了するまでの時間に予め設定されており、充填制御の実行期間に相当する。経過時間tが完了時間QT以上でないと判定した場合(S60:NO)、充填制御を実行(継続)する。その後、図3のS50以後の処理へ戻る(RETURN)。
S60の判定において、経過時間tが完了時間QT以上であると判定した場合(S60:YES)、上記一定圧制御を実行(開始)する(S62)。一定圧制御の詳細は後述する。続いて、FlagCLの値を「3」に設定する(S63)。その後、図3のS50以後の処理へ戻る(RETURN)。
また一方、FlagCLの値が「3」の場合、一定圧制御の終了条件が成立しているか否か判定する(S64)。一定圧制御の終了条件は後述する。一定圧制御の終了条件が成立していないと判定した場合(S64:NO)、一定圧制御を実行(継続)する(S65)。その後、図3のS50以後の処理へ戻る(RETURN)。
S64の判定において、一定圧制御の終了条件が成立したと判定した場合(S64:YES)、上記油圧漸増制御を実行(開始)する(S66)。油圧漸増制御の詳細は後述する。続いて、FlagCLの値を「4」に設定する(S67)。その後、図3のS50以後の処理へ戻る(RETURN)。
また一方、FlagCLの値が「4」の場合、油圧漸増制御の終了条件が成立しているか否か判定する(S68)。油圧漸増制御の終了条件は後述する。油圧漸増制御の終了条件が成立していないと判定した場合(S68:NO)、油圧漸増制御を実行(継続)する(S69)。その後、図3のS50以後の処理へ戻る(RETURN)。
S68の判定において、油圧漸増制御の終了条件が成立したと判定した場合(S68:YES)、上記終了制御を実行する(S70)。続いて、始動中クラッチ油圧制御を終了し、FlagCLの値を「0」に設定する(S71)。その後、図3のS50以後の処理へ戻る(RETURN)。
図7は、図3のS80における始動中MGトルク制御の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、図3のS80の処理が実行される度にそのサブルーチンとして呼び出されて、制御装置70により実行される。
まず、FlagMGの値に応じて、実行する処理を決定する(S81)。FlagMGの初期値は「0」である。
FlagMGの値が「0」の場合、上記始動開始時制御を実行(開始)する(S82)。始動開始時制御の詳細は後述する。続いて、FlagMGの値を「1」に設定する(S83)。その後、図3のS80以後の処理へ戻る(RETURN)。
一方、FlagMGの値が「1」の場合、始動開始時制御の終了条件が成立しているか否か判定する(S84)。始動開始時制御の終了条件は後述する。始動開始時制御の終了条件が成立していないと判定した場合(S84:NO)、始動開始時制御を実行(継続)する。その後、図3のS80以後の処理へ戻る(RETURN)。
S84の判定において、始動開始時制御の終了条件が成立していると判定した場合(S84:YES)、上記トルク漸減制御を実行(開始)する(S86)。トルク漸減制御の詳細は後述する。続いて、FlagMGの値を「2」に設定する(S87)。その後、図3のS80以後の処理へ戻る(RETURN)。
また一方、FlagMGの値が「2」の場合、トルク漸減制御の終了条件が成立しているか否か判定する(S88)。トルク漸減制御の終了条件は後述する。トルク漸減制御の終了条件が成立していないと判定した場合(S88:NO)、トルク漸減制御を実行(継続)する。その後、図3のS80以後の処理へ戻る(RETURN)。
S88の判定において、トルク漸減制御の終了条件が成立していると判定した場合(S88:YES)、上記終了制御を実行する(S90)。続いて、始動中MGトルク制御を終了し、FlagMGの値を「0」に設定する(S91)。その後、図3のS80以後の処理へ戻る(RETURN)。
図8は、クラッチ油圧の指令値における待機制御の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、制御装置70により実行される。
まず、Flagクランキングの値が「1」であるか否か判定する(S551)。Flagクランキングの初期値は「0」である。
Flagクランキングの値が「1」でないと判定した場合(S551:NO)、エンジン20のクランキングが終了しているか否か判定する(S552)。詳しくは、エンジン20のクランキングが開始された後、エンジン回転数センサ71により検出されるENG回転数がクランキング終了回転数に達したか否か判定する。クランキング終了回転数(所定の回転速度に相当)は、エンジン20が燃料の燃焼により自立運転可能となる回転数である。
S552の判定において、エンジン20のクランキングが終了していないと判定した場合(S552:NO)、S554の処理へ進む。一方、エンジン20のクランキングが終了していると判定した場合(S552:YES)、Flagクランキングの値を「1」に設定する(S553)。
続いて、クラッチ出力回転数からクラッチ入力回転数を引いた差が、充填開始閾値よりも小さいか否か判定する(S554)。充填開始閾値(所定閾値に相当)は、クラッチ34の作動油の油圧がクラッチ油圧の指令値をオーバーシュートしてクラッチ34で伝達トルクが発生したとしても、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することのできる値に設定されている。なお、上記差が充填開始閾値よりも小さいことは、クラッチ34の入力軸34aの回転数が所定範囲内であることに相当する。
ここで、変速機36の変速比が大きいほど(変速機36のシフトギアがローギアであるほど)、エンジン20と駆動輪54との間で伝達されるトルクが大きくなり、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じ易い。換言すれば、変速機36の変速比が小さいほど(変速機36のシフトギアがハイギアであるほど)、エンジン20と駆動輪54との間で伝達されるトルクが小さくなり、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じにくい。これらを踏まえて、図9に示すように、変速機36の一次変速比(変速比)が大きいほど充填開始閾値を小さい値に設定、換言すれば変速機36の一次変速比が小さいほど充填開始閾値を大きい値に設定する。変速機36の一次変速比は変速比センサ74により検出される。
S554の判定において、上記差が充填開始閾値よりも小さくないと判定した場合(S554:NO)、S556の処理へ進む。一方、上記差が充填開始閾値よりも小さいと判定した場合(S554:YES)、FlagCL回転差の値を「1」に設定する(S555)。FlagCL回転差の初期値は「0」である。
続いて、クラッチ油圧の指令値を所定値以下に設定する(S556)。所定値は、上記一定圧制御におけるクラッチ油圧の指令値よりも低い値であり、例えば最低圧である。その後、待機制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
また、Flagクランキングの値が「1」であると判定した場合(S551:YES)、FlagCL回転差の値が「1」であるか否か判定する(S557)。FlagCL回転差の値が「1」でないと判定した場合(S557:NO)、S554の処理へ進む。
一方、S557の判定において、FlagCL回転差の値が「1」であると判定した場合(S557:YES)、待機制御を終了し、Flagクランキングの値を「0」に設定するとともに、FlagCL回転差の値を「0」に設定する。すなわち、エンジン20のクランキングが終了したと判定し、且つクラッチ出力回転数からクラッチ入力回転数を引いた差が、充填開始閾値よりも小さいと判定したことを条件(待機制御終了条件)として、待機制御を終了(充填制御を開始)する。その後、待機制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
なお、S552の処理が第1判定部としての処理に相当し、S554の処理が第2判定部としての処理に相当し、S551の処理及びS557の処理が油圧制御部としての処理に相当する。
図10(a)は従来技術の充填制御の開始態様を示すタイムチャートであり、図10(b)は本実施形態の充填制御の開始態様を示すタイムチャートである。
図10(a)に示すように、従来技術では、クランキング開始と同時にクラッチ油圧の指令値を充填油圧まで上昇させて、充填制御を開始している。このため、充填制御の開始時や充填制御中に、クラッチ34で伝達トルクが発生し、トルクショックが発生するおそれがある。その場合、スタータ22の負荷が増大して、エンジン20を適切にクランキングできないおそれがある。特に、気温や湿度が高くなると作動油の粘度が低下して、クラッチ34に供給される作動油の油圧が充填制御中にクラッチ油圧の指令値をオーバーシュートし易くなる。クランキング中に作動油の油圧のオーバーシュートが起きると、スタータ負荷が増大して適切なクランキングができない。しかも、作動油の油圧のオーバーシュートが起きたタイミングでクラッチ出入力回転速度差が大きいと、クラッチ34の入力軸34aと出力軸34bとの接続時にスタータ負荷がさらに増大する。
これに対して、図10(b)に示すように、本実施形態では、クランキングが開始されても、クラッチ油圧の指令値は待機制御時の油圧(例えば最低圧)に設定され、充填制御は開始されない。このため、クランキング中にクラッチ34で伝達トルクが発生せず、エンジン20を適切にクランキングすることができる。クランキング中において時刻t4までのあるタイミングで点火され、エンジン回転数検出値が予め定めたクランキング終了回転数に達した時点で第1判定部によりクランキングが終了したと判定され、スタータ22のピニオンがエンジン20から離脱する。そして、時刻t4において、充填制御の開始条件が成立すると、充填制御が開始される。すなわち、エンジン20のクランキングが終了した既にと判定され、且つ時刻t4でクラッチ出力回転数からクラッチ入力回転数を引いた差が、充填開始閾値よりも小さいと判定されたことを条件として、充填制御が開始される。このため、充填制御の開始時や充填制御中に、作動油の油圧のオーバーシュートによりクラッチ34で伝達トルクが発生したとしても、クランキングが終了しており、且つクラッチ出入力回転速度差が小さいため、ハイブリッド車両10にトルクショックが発生することを抑制することができる。
図11は、クラッチ油圧の指令値における一定圧制御の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、制御装置70により実行される。
まず、一定圧制御におけるクラッチ油圧の指令値を演算する(S641)。一定圧制御では、クラッチ34で伝達トルクを発生し始める油圧又はその油圧よりも若干低い油圧となるように、クラッチ油圧の指令値を演算する。
続いて、後述する一定圧制御の終了判定を実行する(S642)。その後、一定圧制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
図12は、一定圧制御の終了判定の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、制御装置70により実行される。
まず、エンジン回転数センサ71により検出されるENG回転数が、所定回転数よりも高いか否か判定する(S643)。所定回転数は、クラッチ34で伝達トルクが発生したとしても、ENG回転数が過度に低くなることを抑制することのできる回転数に設定されている。
ここで、ハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値(ドライバ要求トルク)が大きいほど、クラッチ34の伝達トルクが大きくされる。このため、クラッチ34を接続する際に、ENG回転数が低下し易くなる。このため、図13に示すように、アクセルセンサ75により検出されるアクセル操作量が大きいほど、所定回転数を高い値に設定する。
S643の判定において、ENG回転数が所定回転数よりも高くないと判定した場合(S643:NO)、一定圧制御の終了判定以後の処理へ戻る(RETURN)。一方、ENG回転数が所定回転数よりも高いと判定した場合(S643:YES)、クラッチ入力回転数からクラッチ出力回転数を引いた回転数差が所定回転数差よりも大きいか否か判定する(S644)。所定回転数差は、クラッチ34の作動油の油圧がクラッチ油圧の指令値をオーバーシュートしてクラッチ34で伝達トルクが発生したとしても、クラッチ入力回転数とクラッチ出力回転数とに差がある状態を維持し易い回転数差に設定されている。
上述したように、変速機36の変速比が大きいほど、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じ易い。換言すれば、変速機36の変速比が小さいほど、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じにくい。これらを踏まえて、図14に示すように、変速機36の一次変速比(変速比)が大きいほど所定回転数差を大きい値に設定、換言すれば変速機36の一次変速比が小さいほど所定回転数差を小さい値に設定する。
S644の判定において、上記回転数差が所定回転数差よりも大きくないと判定した場合(S644:NO)、一定圧制御の終了判定以後の処理へ戻る(RETURN)。一方、上記回転数差が所定回転数差よりも大きいと判定した場合(S644:YES)、一定圧制御を終了し(S645)、一定圧制御の終了判定以後の処理へ戻る(RETURN)。すなわち、ENG回転数が所定回転数よりも高いと判定し、且つクラッチ入力回転数からクラッチ出力回転数を引いた回転数差が所定回転数差よりも大きいと判定したことを条件(一定圧制御終了条件)として、一定圧制御を終了(油圧漸増制御及びトルク漸増制御を開始)する。
なお、S643の処理がエンジン回転速度判定部としての処理に相当し、S644の処理が回転速度差判定部としての処理に相当し、S643〜S645の処理が油圧制御部(伝達トルク制御部)としての処理に相当する。
図15は、クラッチ油圧の指令値における一定圧制御の終了態様(油圧漸増制御の開始態様)を示すタイムチャートである。
時刻t5において、充填制御が終了され、一定圧制御が開始されている。その後、クラッチ入力回転数がクラッチ出力回転数を超えても、クラッチ入力回転数からクラッチ出力回転数を引いた回転数差が所定回転数差よりも大きくない場合は、油圧漸増制御が開始されない。このため、油圧漸増制御の開始時に、上記回転数差が小さい状態において油圧のオーバーシュート等によりクラッチ34で伝達トルクが発生して、クラッチ34が急に接続することを抑制することができる。ひいては、油圧漸増制御の開始時に、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
また、クラッチ入力回転数がクラッチ出力回転数を超えても、ENG回転数が所定回転数よりも高くない場合は、油圧漸増制御が開始されない。このため、油圧漸増制御の開始時にクラッチ34で伝達トルクが発生して、ENG回転数が過度に低くなることでハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
そして、時刻t6において、油圧漸増制御の開始条件が成立すると、油圧漸増制御が開始される。すなわち、ENG回転数が所定回転数よりも高くなり、且つクラッチ入力回転数からクラッチ出力回転数を引いた回転数差が所定回転数差よりも大きくなると、伝達トルク漸増部により油圧漸増制御が開始される。このため、油圧漸増制御の開始時や油圧漸増制御中に、クラッチ34で伝達トルクが発生したとしても、ハイブリッド車両10にトルクショックが発生することを抑制することができる。
ところで、エンジン20又はMG40の駆動トルクの指令値が急変した場合に、ハイブリッド車両10の駆動系に共振が生じ、ハイブリッド車両10に大きなトルクショックが生じることがある。その状態でクラッチ34の伝達開始タイミングの推定に移行すると、伝達開始タイミングを適切に推定することができないおそれがある。この点、制御装置70は、基本的には制振制御を常時実行している。
図16は、MG指令トルクの上記始動開始時制御の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、制御装置70により実行される。
まず、充填制御の終了条件が成立しているか否か判定する(S841)。この処理は、図6のS60の処理と同一の処理であり、経過時間tが完了時間QT以上か否か判定する処理である。充填制御の終了条件が成立していないと判定した場合(S841:NO)、MG指令トルクとしてドライバ要求トルクを設定する(S842)。その後、始動開始時制御以後の処理へ戻る(RETURN)。一方、充填制御の終了条件が成立していると判定した場合(S841:YES)、上記制振制御を終了する(S843)。伝達開始タイミングの推定を開始する前に、制振制御を終了(禁止)する。すなわち、クラッチ34の伝達開始タイミングの推定中は、制振制御を禁止する。
続いて、FlagMgRpmの値が「1」であるか否か判定する(S844)。FlagMgRpmの初期値は「0」である。この判定において、FlagMgRpmの値が「1」でないと判定した場合(S844:NO)、MG回転数(クラッチ出力回転数と対応)の所定期間における平均値の変化率が、所定変化率よりも大きいか否か判定する(S845)。
ここで、クラッチ34を接続する際に伝達トルクが発生すると、クラッチ34の出力軸34bの単位時間当たりの回転数(クラッチ出力回転数)に変化が生じる。ただし、クラッチ出力軸回転数センサ73により検出されるクラッチ出力回転数には、ノイズによる成分が含まれている。このため、クラッチ出力軸回転数センサ73により検出されるクラッチ出力回転数の変化率が所定変化率よりも大きくなったタイミングをクラッチ34の伝達開始タイミングと推定すると、ノイズによる回転数の変化率の変化を、クラッチ34の伝達開始タイミングと誤推定するおそれがある。そこで、上記のように、クラッチ出力回転数の所定期間における平均値を用いる。
また、クラッチ34の伝達開始タイミングにおけるクラッチ出力回転数の変化は、ハイブリッド車両10の走行状態により変動する。具体的には、クラッチ出力回転数の変化は、ハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値(ドライバ要求トルク)が大きいほど、大きくなる。このため、図17に示すように、ドライバ要求トルクが大きいほど、所定変化率を大きい値に設定する。
S845の判定において、MG回転数の所定期間における平均値の変化率が所定変化率よりも大きくないと判定した場合(S845:NO)、S842の処理へ進む。一方、MG回転数の所定期間における平均値の変化率が所定変化率よりも大きいと判定した場合(S845:YES)、FlagMgRpmの値を「1」に設定する。すなわち、MG回転数の所定期間における平均値の変化率が所定変化率よりも大きくなったタイミングを、伝達開始タイミングと推定する。なお、MG回転数の所定期間における平均値の変化率が所定変化率よりも大きくなったことは、クラッチ出力軸回転数が所定値よりも大きい変化をしたことに相当する。その後、S842の処理へ進む。
そして、S844の判定において、FlagMgRpmの値が「1」であると判定した場合(S844:YES)、始動開始時制御を終了(トルク漸減制御を開始)し、制振制御を開始するとともに、FlagMgRpmの値を「0」に設定する。具体的には、推定されたクラッチ34の伝達開始タイミングを、MG40の駆動トルクの漸減開始タイミングとする。すなわち、推定されたクラッチ34の伝達開始タイミングに基づいて、MG40の駆動トルクの漸減開始タイミングを制御する。その後、S842の処理へ進む。
なお、S845の処理が伝達推定部としての処理に相当し、S844〜847の処理がタイミング制御部としての処理に相当する。
図18は、従来技術におけるMG指令トルクのトルクすり替え制御の開始態様を示すタイムチャートである。
時刻t11において、クラッチ34に作動油を充填する充填制御(いわゆるファーストフィル)が開始される。時刻t12において、クラッチ34で伝達トルクの発生しない一定圧にクラッチ油圧の指令値を維持する制御が開始される。
時刻t13において、クラッチ入力回転数がクラッチ出力回転数を超えると、トルクすり替え制御が開始される。トルクすり替え制御では、クラッチ油圧の指令値を漸増させるとともに、ENG指令トルク(図示略)を漸増させる。それに対応して、MG指令トルクを漸減させることで、駆動輪54に伝達されるトルクである駆動軸トルクがドライバ要求トルクから変化しないようにする。
しかしながら、気温や湿度の影響により作動油の粘度が変化することで、クラッチ34の作動油の油圧がばらつくことがある。その結果、領域A1で示すように、クラッチ34で伝達トルクが発生するタイミングが、クラッチ油圧の指令値を漸増させ始める時刻t13、すなわち、MG40の駆動トルクを漸減させ始める時刻t13よりも遅れている。このため、領域A2で示すように、時刻t13から時刻t14まで駆動軸トルクが減少し、車両にトルクショックが生じることとなる。
図19は、本実施形態におけるMG指令トルクのトルク漸減制御の開始態様を示すタイムチャートである。ここでは、時刻t21〜t23において、図18の時刻t11〜t13と同様の制御を実行した場合を例に説明する。
時刻t21〜t22で実行される充填制御において、クラッチ油圧が破線で示すように上昇し、一時的にクラッチ34で伝達トルクが発生するおそれがある。また、クラッチ出力軸回転数センサ73により検出されるクラッチ出力回転数には、ノイズによる成分が含まれている。具体的には、検出されるクラッチ出力回転数には、ハイブリッド車両10が走行する道路の凹凸による回転数の変動や、クラッチ34の作動油の油圧が指令値をオーバーシュートしてクラッチ34で一時的に伝達トルクが発生することによる変動が含まれている。そこで、本実施形態では、クラッチ34に対する作動油の充填が終了したことを条件として、クラッチ34の伝達開始タイミングを推定している。
ここで、駆動輪54に伝達される駆動トルクの急変を抑制するようにMG40の駆動トルクを制御する制振制御が実行されると、クラッチ34で伝達トルクが発生する際におけるクラッチ出力回転数(MG回転数と対応)の変動も抑制され、クラッチ34の伝達開始タイミングを適切に推定することができないおそれがある。この点、本実施形態では、クラッチ34の伝達開始タイミングの推定中は、制振制御を禁止している。
時刻t23において、クラッチ入力回転数がクラッチ出力回転数を超えると、クラッチ油圧の指令値を漸増させる油圧漸増制御が開始される(このタイミングを油圧の漸増開始タイミングと呼ぶ)とともに、ENG指令トルク(図示略)を漸増させるトルク漸増制御が開始される。しかしながら、この時点では、MG指令トルクを漸減させるトルク漸減制御は開始しない。
時刻t24において、MG回転数の所定期間における平均値の変化率が所定変化率よりも大きくなり、クラッチ34の伝達開始タイミングと推定される。そして、MG指令トルクを漸減させるトルク漸減制御が開始される。すなわち、クラッチ34の伝達開始タイミングに合わせて、MG40の駆動トルクの漸減が開始される。その結果、駆動軸トルクの減少が生じておらず、駆動軸トルクがドライバ要求トルクで維持されている。
図20は、クラッチ油圧の指令値における上記油圧漸増制御の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、制御装置70により実行される。
まず、クラッチ34の入力軸34aの回転数からクラッチ34の出力軸34bの回転数を引いた回転数差が、第1閾値よりも小さいか否か判定する(S681)。入力軸34aの回転数(クラッチ入力回転数)は、クラッチ入力軸回転数センサ72により検出される。出力軸34bの回転数(クラッチ出力回転数)は、クラッチ出力軸回転数センサ73により検出される。
S681の判定において、上記回転数差が第1閾値よりも小さくないと判定した場合(S681:NO)、クラッチ油圧の指令値を漸増させる(S682)。例えば、クラッチ油圧の指令値を一定の速度で徐々に上昇させる。その後、油圧漸増制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
ここで、クラッチ34の伝達トルクが漸増させられると、単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数と出力軸34bの回転数との差が徐々に減少する。そして、クラッチ34の入力軸34aの回転数と出力軸34bの回転数とが一致した時点で、入力軸34a側の摩擦板(すなわち摩擦部材)と出力軸34b側の摩擦板とが密着してクラッチ34が接続する。入力軸34a側の摩擦板と出力軸34b側の摩擦板とが密着する直前に、これらの摩擦板の摩擦係数が変化し易い。このため、クラッチ34の入力軸34aの回転数と出力軸34bの回転数との差が0に近付いた時点で、クラッチ34が急に接続し易い。上記第1閾値は、クラッチ34の急な接続が発生し得ることを判定することのできる値に設定されている。
また、ハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値が大きいほど、ハイブリッド車両10の加速度が大きくなり、相対的にクラッチ34の接続時のトルクショックは小さくなる。このため、図21に示すように、アクセルセンサ75により検出されるアクセル操作量が大きいほど(ドライバ要求トルクが大きいほど)、第1閾値を小さい値に設定する。すなわち、クラッチ34の油圧の漸増を停止する時期を遅くする。
一方、S681の判定において、上記回転数差が第1閾値よりも小さいと判定した場合(S681:YES)、上記回転数差が第2閾値よりも小さいか否か判定する(S683)。第2閾値は、上記第1閾値よりも小さい値に設定されている。
S683の判定において、上記回転数差が第2閾値よりも小さくないと判定した場合(S683:NO)、クラッチ油圧の指令値の漸増を停止する(S684)。詳しくは、上記回転数差が第1閾値よりも小さいと判定された時点で、クラッチ油圧の指令値(すなわち伝達トルク)の漸増を停止させてクラッチ油圧の指令値を一定に維持する。その後、油圧漸増制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
一方、S683の判定において、上記回転数差が第2閾値よりも小さいと判定した場合(S683:YES)、油圧漸増制御を終了(終了制御を開始)する(S685)。すなわち、上記回転数差が第2閾値よりも小さいと判定されたことを条件として、クラッチ34の伝達トルクを増加させる。その後、油圧漸増制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
なお、S682の処理が油圧漸増部(伝達トルク漸増部)としての処理に相当し、S681の処理が第1回転速度差判定部としての処理に相当し、S681〜S685の処理が伝達トルク制御部としての処理に相当し、S683の処理が第2回転速度差判定部としての処理に相当する。
図22は、ENG指令トルクの上記トルク漸増制御の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、制御装置70により実行される。
まず、クラッチ34の入力軸34aの回転数からクラッチ34の出力軸34bの回転数を引いた回転数差が、上記第1閾値よりも小さいか否か判定する(S281)。S281の処理は、S681の処理と同一である。
S281の判定において、上記回転数差が第1閾値よりも小さくないと判定した場合(S281:NO)、ENG指令トルクを漸増させる。例えば、ENG指令トルクを一定の速度で徐々に上昇させる。すなわち、クラッチ34の伝達トルクの漸増中に、伝達トルクに基づいてENG指令トルクを漸増させる。その後、トルク漸増制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
一方、S281の判定において、上記回転数差が第1閾値よりも小さいと判定した場合(S281:YES)、上記回転数差が第2閾値よりも小さいか否か判定する(S283)。第2閾値は、上記第1閾値よりも小さい値に設定されている。S283の処理は、S683の処理と同一である。
S283の判定において、上記回転数差が第2閾値よりも小さくないと判定した場合(S283:NO)、ENG指令トルクの漸増を停止する(S284)。詳しくは、上記回転数差が第1閾値よりも小さいと判定された時点で、ENG指令トルクの漸増を停止させてENG指令トルクを一定に維持する。その後、トルク漸増制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
一方、S283の判定において、上記回転数差が第2閾値よりも小さいと判定した場合(S283:YES)、トルク漸増制御を終了(終了制御を開始)する(S285)。その後、トルク漸増制御以後の処理へ戻る(RETURN)。ENG指令トルクの終了制御では、ENG指令トルクの漸増を停止させてENG指令トルクを一定に維持する。
なお、S282の処理がエンジントルク漸増部としての処理に相当し、S281の処理が第1回転速度差判定部としての処理に相当し、S281〜S285の処理が駆動トルク制御部としての処理に相当し、S283の処理が第2回転速度差判定部としての処理に相当する。
図23は、MG指令トルクの上記トルク漸減制御の手順を示すフローチャートである。この一連の処理は、制御装置70により実行される。
まず、クラッチ34の入力軸34aの回転数からクラッチ34の出力軸34bの回転数を引いた回転数差が、上記第1閾値よりも小さいか否か判定する(S881)。S881の処理は、S681の処理と同一である。
S881の判定において、上記回転数差が第1閾値よりも小さくないと判定した場合(S881:NO)、MG指令トルクを漸減させる(S882)。例えば、MG指令トルクを一定の速度で徐々に上昇させる。すなわち、クラッチ34の伝達トルクの漸増中に、伝達トルクに基づいてMG指令トルクを漸減させる。その後、トルク漸減制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
一方、S881の判定において、上記回転数差が第1閾値よりも小さいと判定した場合(S881:YES)、上記回転数差が第2閾値よりも小さいか否か判定する(S883)。第2閾値は、上記第1閾値よりも小さい値に設定されている。S883の処理は、S683の処理と同一である。
S883の判定において、上記回転数差が第2閾値よりも小さくないと判定した場合(S883:NO)、MG指令トルクの漸減を停止する(S884)。詳しくは、上記回転数差が第1閾値よりも小さいと判定された時点で、MG指令トルクの漸減を停止させてMG指令トルクを一定に維持する。その後、トルク漸減制御以後の処理へ戻る(RETURN)。
一方、S883の判定において、上記回転数差が第2閾値よりも小さいと判定した場合(S883:YES)、トルク漸減制御を終了(終了制御を開始)する(S885)。その後、トルク漸減制御以後の処理へ戻る(RETURN)。MG指令トルクの終了制御では、MG指令トルクの漸減を停止させてMG指令トルクを一定に維持する。
なお、S882の処理がモータトルク漸減部としての処理に相当し、S881の処理が第1回転速度差判定部としての処理に相当し、S881〜S885の処理が駆動トルク制御部としての処理に相当し、S883の処理が第2回転速度差判定部としての処理に相当する。
図24は、トルク漸減制御、油圧漸増制御、トルク漸増制御、及び終了制御の態様を示すタイムチャートである。
時刻t6において、上述したように油圧漸増制御及びトルク漸増制御が開始される。そして、時刻t7において、上述したようにトルク漸減制御が開始される。すなわち、クラッチ34の伝達トルクが漸増されることに合わせて、ハイブリッド車両10の駆動トルクのうちMG40の駆動トルクの配分を減少させて、エンジン20の駆動トルクの配分を増加させる。
時刻t8において、クラッチ入力回転数からクラッチ出力回転数を引いた回転数差が第1閾値よりも小さくなると、トルク漸減制御、油圧漸増制御、及びトルク漸増制御が停止される。そして、MG指令トルク、クラッチ油圧の指令値、及びENG指令トルクが一定に維持される。このため、時刻t8以前における上記回転数差の減少速度よりも、時刻t8以後における上記回転数差の減少速度が低くなる。
クラッチ34の伝達トルクが増加されるよりも早くエンジン20の駆動トルクが増加されると、エンジン20の回転数が吹き上がるおそれがある。また、クラッチ34の伝達トルクが増加されるよりも早くMG40の駆動トルクが減少されると、ハイブリッド車両10の駆動トルクが減少するおそれがある。そして、クラッチ34が半クラッチ状態から完全接続状態に移行する瞬間に、クラッチ34の伝達トルクの増加に合わせて、MG40の駆動トルクを減少させることと、エンジン20の駆動トルクを増加させることは困難である。
そこで、時刻t9において、上記回転数差が第2閾値よりも小さくなると、トルク漸減制御及びトルク漸増制御を停止した状態が維持される一方、クラッチ油圧の指令値が増加させられる。このため、エンジン20の回転数は吹き上がらず、且つハイブリッド車両10の駆動トルクは減少しない。上記回転数差が第2閾値よりも小さくなるまで十分に減少しているため、クラッチ34が接続する際の伝達トルクの増加は十分に小さくなる。
時刻t10において、クラッチ油圧の指令値が最高圧となるように指示され(最高圧指示)、クラッチ34が完全に接続する。その後、MG指令トルクが減少させられるのに合わせて、ENG指令トルクが増加させられる。
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
・クランキングが終了したと判定されていない場合は、クラッチ34に対して作動油の充填が開始されない。このため、エンジン20のクランキング中はクラッチ34で伝達トルクが発生せず、エンジン20を適切にクランキングすることができる。
・入力軸34aの回転数が所定範囲内であると判定されていない場合は、クラッチ34に対して作動油の充填が開始されない。詳しくは、単位時間当たりのクラッチ34の出力軸34bの回転数からクラッチ34の入力軸34aの回転数を引いた差が充填開始閾値よりも小さくなってから、クラッチ34に対して作動油の充填が開始される。このため、作動油の油圧が指令値をオーバーシュートしてクラッチ34で伝達トルクが発生したとしても、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・変速機36の一次変速比(変速比)が大きいほど充填開始閾値が小さい値に設定される。このため、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じ易い変速比であるほど、単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数からクラッチ34の出力軸34bの回転数を引いた差が小さい状態で、クラッチ34に対して作動油の充填が開始される。このため、変速機36の変速比が大きくトルクショックが生じ易い場合であっても、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・変速機36の変速比が小さいほど充填開始閾値が大きい値に設定される。このため、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じにくい変速比であるほど、単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数からクラッチ34の出力軸34bの回転数を引いた差が大きい状態で、クラッチ34に対して作動油の充填が開始される。このため、変速機36の変速比が小さくトルクショックが生じにくい場合には、クラッチ34に対する作動油の充填を早く開始することができ、EVモードからHEVモードへ早く移行することができる。
・単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数からクラッチ34の出力軸34bの回転数を引いた回転数差が所定回転数差よりも大きいと判定されていない場合は、油圧漸増制御が開始されない。このため、上記回転数差が所定回転数差よりも大きい状態で油圧の漸増が開始され、作動油の油圧が指令値をオーバーシュートしたとしても、クラッチ34の入力軸34aの回転数と出力軸34bの回転数とに差がある状態(半クラッチ状態)を維持し易くなる。したがって、クラッチ34が急に接続することを抑制することができ、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・単位時間当たりのエンジン20の回転数が所定回転数よりも高いと判定されていない場合は、油圧漸増制御が開始されない。このため、単位時間当たりのエンジン20の回転数が所定回転数よりも高い状態で油圧の漸増が開始され、作動油の油圧が指令値をオーバーシュートしたとしても、エンジン20の回転数が過度に低くなることを抑制することができる。したがって、エンジン20の回転数低下によるショックを抑制することができ、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・ハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値が大きいほど所定回転数が高い値に設定される。このため、クラッチ34の伝達トルクが大きくされ易い状態であるほど、クラッチ34の入力軸34aと出力軸34bとの回転数差が大きい状態で、クラッチ34の伝達トルクの漸増が開始される。このため、ハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値が大きい場合であっても、エンジン20の回転数低下を抑制することができ、ひいてはハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・変速機36の変速比が大きいほど所定回転数差が大きい値に設定される。このため、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じ易い変速比であるほど、単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数からクラッチ34の出力軸34bの回転数を引いた回転数差が大きい状態で、クラッチ34の伝達トルクの漸増が開始される。このため、変速機36の変速比が大きくトルクショックが生じ易い場合にクラッチ34が急接続することを抑制することができ、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・変速機36の変速比が小さいほど所定回転数差が小さい値に設定される。このため、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じにくい変速比であるほど、単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数からクラッチ34の出力軸34bの回転数を引いた回転数差が小さい状態で、クラッチ34の伝達トルクの漸増が開始される。このため、変速機36の変速比が小さくクラッチ34が急接続してもトルクショックが生じにくい場合は、クラッチ34の伝達トルクの漸増を早く開始することができ、EVモードからHEVモードへ早く移行することができる。
・EVモードからHEVモードへの移行時に、油圧漸増制御を開始させる前に、作動油の油圧が、クラッチ34で伝達トルクを発生させず且つ0よりも高い所定油圧に維持される。このため、油圧漸増制御を開始する際に、油圧の漸増を迅速に開始することができる。作動油の油圧を所定油圧に維持した状態から、油圧の漸増を開始する際に油圧が指令値をオーバーシュートし易い。この点、作動油の油圧が指令値をオーバーシュートしたとしても、クラッチ34が急に接続すること及びエンジン20の回転数が過度に低くなることを抑制することができ、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・EVモードからHEVモードへの移行時に、クラッチ34の伝達トルクを漸増させるように作動油の油圧が漸増させられる。また、EVモードからHEVモードへの移行時に、MG40の駆動トルクが漸減させられる。これにより、EVモードからHEVモードへの移行時に、駆動輪54に伝達されるトルクが変動することを抑制することができる。
・クラッチ34を接続する際に伝達トルクが発生する伝達開始タイミングが推定される。このため、気温や湿度の影響により作動油の粘度が変化すること等により、クラッチ34の作動油の油圧がばらついたとしても、クラッチ34で伝達トルクが発生する伝達開始タイミングを推定することができる。そして、推定された伝達開始タイミングに基づいて、MG指令トルクのトルク漸減制御における駆動トルクの漸減開始タイミングが制御される。このため、クラッチ34で伝達トルクが発生するタイミングと、MG40の駆動トルクを漸減させ始めるタイミングとのずれを抑制することができ、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・クラッチ出力軸回転数センサ73により、クラッチ34の出力軸34bの単位時間当たりの回転数が検出される。そして、クラッチ出力軸回転数センサ73により検出された回転数が所定値よりも大きい変化をしたタイミングが、クラッチ34で伝達トルクが発生する伝達開始タイミングと推定される。このため、クラッチ34の伝達開始タイミングを正確に推定することができる。そして、EVモードからHEVモードへの移行時に、推定された伝達開始タイミングが、トルク漸減制御における駆動トルクの漸減開始タイミングとされる。したがって、クラッチ34の伝達開始タイミングに合わせてMG40の駆動トルクの漸減を開始することができ、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを更に抑制することができる。
・クラッチ出力軸回転数センサ73により検出された回転数の所定期間における平均値の変化率が所定変化率よりも大きくなったタイミングが、伝達開始タイミングと推定される。このため、ノイズの影響を抑制しつつ、クラッチ34の伝達開始タイミングを正確に推定することができる。
・ハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値が大きいほど、所定変化率が大きい値に設定される。したがって、クラッチ34の伝達開始タイミングにおける出力軸34bの回転数の変化の大きさが、駆動トルクの要求値に応じて変動したとしても、クラッチ34の伝達開始タイミングを正確に推定することができる。
・EVモードからHEVモードへの移行時に、クラッチ34に対する作動油の充填が終了したことを条件として、伝達開始タイミングが推定される。このため、クラッチ34に対する作動油の充填が終了しておらず、クラッチ34の伝達トルクを漸増させる制御を開始していない場合は、伝達開始タイミングが推定されない。したがって、ハイブリッド車両10が走行する道路の凹凸による影響や、クラッチ34の作動油の油圧が指令値をオーバーシュートすることによる影響を抑制することができ、クラッチ34の伝達開始タイミングを誤推定することを抑制することができる。
・エンジン20又はMG40の駆動トルクの指令値が急変した場合に、駆動輪54に伝達される駆動トルクの急変を抑制するようにMG40の駆動トルクが制御される(制振制御)。このため、ハイブリッド車両10に大きなトルクショックが生じることを抑制することができる。さらに、ハイブリッド車両10の駆動系に共振が生じている状態で伝達開始タイミングの推定に移行することを抑制することができ、伝達開始タイミングを適切に推定することができる。
・伝達開始タイミングの推定中は、制振制御が禁止される。このため、クラッチ34を接続する際には、出力軸34bの回転数の変動が抑制されないようにすることができ、クラッチ34の伝達開始タイミングを適切に推定することができる。具体的には、伝達開始タイミングの推定を開始する前、すなわち伝達開始タイミングに至る前に制振制御が禁止される。このため、クラッチ34を接続する前に、出力軸34bの回転数の変動が抑制されないようにすることができ、クラッチ34の伝達開始タイミングを適切に推定することができる。
・出力軸34bの単位時間当たりの回転数を検出するクラッチ出力軸回転数センサ73の検出精度が低い場合は、クラッチ34の伝達開始タイミングを推定する精度が低くなり、ひいてはハイブリッド車両10にトルクショックが生じる原因となる。この点、クラッチ出力軸回転数センサ73は、所定検出精度よりも高い検出精度を有するレゾルバ又はホール素子であるため、クラッチ34の伝達開始タイミングを推定する精度を高くすることができ、ひいてはハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・クラッチ34の伝達トルクの漸増中に、単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数からクラッチ34の出力軸34bの回転数を引いた回転数差が第1閾値よりも小さいことが判定される。そして、回転数差が第1閾値よりも小さいと判定された時点で、伝達トルクの漸増が停止される。このため、クラッチ34の伝達トルクの漸増中と比較して、上記回転数差が減少する速度を遅くすることができる。これにより、クラッチ34が完全に接続するまでに、すなわちクラッチ34の入力軸34aの回転数と出力軸34bの回転数とに差がある状態(半クラッチ状態)で、上記回転数差をより小さくすることができる。したがって、クラッチ34が急に接続することを抑制することができ、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・伝達トルクの漸増中に、伝達トルクに基づいてMG40の駆動トルクが漸減されるとともに、伝達トルクに基づいてエンジン20の駆動トルクが漸増される。このため、クラッチ34の伝達トルクが漸増されることに合わせて、ハイブリッド車両10の駆動トルクのうちMG40の駆動トルクの配分を減少させてエンジン20の駆動トルクの配分を増加させることができる。
・上記回転数差が第1閾値よりも小さいと判定された時点で、MG40の駆動トルクの漸減が停止され、且つエンジン20の駆動トルクの漸増が停止される。このため、伝達トルクの漸増が停止された場合に、MG40の駆動トルクの漸減も停止され、ハイブリッド車両10の駆動トルクが減少することを抑制することができる。また、伝達トルクの漸増が停止された場合に、エンジン20の駆動トルクの漸増も停止され、エンジン20の回転数が吹き上がることを抑制することができる。すなわち、ハイブリッド車両10の駆動トルク、MG40の駆動トルク、及びエンジン20の駆動トルクのバランスを保ち易くなる。
・伝達トルクの漸増の停止中に、第1閾値よりも小さい値に設定された第2閾値よりも上記回転数差が小さいことが判定される。そして、回転数差が第2閾値よりも小さいと判定されたことを条件として、クラッチ34の伝達トルクが増加される。すなわち、回転数差が第2閾値よりも小さいと判定されていない場合は、伝達トルクの漸増が停止され、クラッチ34の伝達トルクは増加されない。このため、上記回転数差が、第1閾値よりも小さい値に設定された第2閾値よりも小さい状態でクラッチ34の伝達トルクが増加させられ、クラッチ34が接続した際にハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。さらに、クラッチ34の伝達トルクを増加させることで、クラッチ34を確実に接続することができる。
・クラッチ34の伝達トルクが増加させられる際に、MG40の駆動トルクの漸減が停止され、且つエンジン20の駆動トルクの漸増が停止される。このため、エンジン20の回転数が吹き上がること及びハイブリッド車両10の駆動トルクが減少することを抑制することができる。なお、上記回転数差が第2閾値よりも小さい状態では、クラッチ34の接続による伝達トルクの増加が小さいため、ハイブリッド車両10の駆動トルクの増加によるトルクショックは小さくなる。
・ハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値が大きいほど第1閾値が小さい値に設定される。このため、ハイブリッド車両10のトルクショックが気になりにくい状態であるほど、クラッチ34の油圧の漸増を停止する時期を遅くすることができ、クラッチ34を接続するまでの時間を短縮することができる。
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。
・伝達トルクの漸増の速度を低下させる態様として、伝達トルクの漸増を停止させることに限らず、作動油の油圧を油圧指令値に基づき制御するアクチュエータを適切に制御する等の方法で、クラッチ34の伝達トルクを漸増しつつ、伝達トルクを漸増させる速度、すなわち伝達トルクの増加速度を低下させてもよい。
・クラッチ出力軸回転数センサ73として、光学式のセンサ等、レゾルバやホール素子以外のセンサを採用することもできる。
・スタータ22に代えて、エンジン20のクランク軸に回転を付与すること、クランク軸の回転により発電すること、及びエンジン20の運転時にエンジン20の駆動力をアシストすることが可能なモータ機能付発電機(始動機構に相当)を採用することもできる。
・第1判定部の処理として、エンジン20で燃料の噴射を実行させる噴射信号が出力されてから所定時間が経過したこと、エンジン20で燃料に点火を実行させる点火信号が出力されたこと、の少なくとも1つが成立した場合に、クランキングが終了したと判定してもよい。これらの構成であっても、エンジン20の状態に基づいて、クランキングが終了したことを容易に判定することができる。
・上記実施形態では、第2判定部の処理として、変速機36の一次変速比(変速比)が大きいほど(ローギア側ほど)充填開始閾値(所定閾値に相当)を小さい値に設定した。しかしながら、充填開始閾値を、ローギア側の小さい値とハイギア側の大きい値との二値に設定したり、一定値に設定したりすることもできる。
・回転速度差判定部の処理は、クラッチ入力軸回転数センサ72、クラッチ出力軸回転数センサ73が検出した回転数からそれらの差を求めて所定回転数差より大きいと判定する方法以外に、以下の方法を採用してもよい。すなわち、所定のタイミング(たとえば図4に示すクラッチ入力回転数が急上昇を始める時刻t3)から予め設定した所定回転数差に達するまでの期間を設定しておき、その所定のタイミングになってからの実経過時間がその期間を超えると回転数差が所定回転数差より大きくなったとみなすことで判定してもよい。
・トルクコンバータ32を省略することもできる。
・クラッチ34が、変速機36とMG40との間に設けられたハイブリッド車両10を採用することもできる。また、MG40が、クラッチ34と変速機36との間に設けられたハイブリッド車両10を採用することもできる。
・クラッチ34の伝達トルクを制御するアクチュエータの駆動量に誤差が生じることで、クラッチ34の伝達トルクが指令値をオーバーシュートすることがある。その場合、単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数と出力軸34bの回転数とが一致した時点でクラッチ34が急に接続し、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じるおそれがある。
こうした問題は、クラッチ34に作動油を充填する充填制御を実行しない場合にも生じる。このため、充填制御を省略して、制御装置70は、EVモードからHEVモードへの移行時に、上記回転数差が所定回転数差よりも大きいと判定され、且つエンジン20の回転数が所定回転数よりも高いと判定されたことを条件として、クラッチ油圧の指令値における油圧漸増制御を開始させてもよい。
また、クラッチ34が油圧駆動式のクラッチである場合に限らず、クラッチ34が電磁駆動式のクラッチである場合にも上記問題は生じる。したがって、電磁駆動式のクラッチ34を採用して、制御装置70(伝達トルク制御部に相当)は、EVモードからHEVモードへの移行時に、上記回転数差が所定回転数差よりも大きいと判定され、且つエンジン20の回転数が所定回転数よりも高いと判定されたことを条件として、クラッチ34の伝達トルクの漸増を開始させてもよい。
・上記実施形態では、回転数速度判定部の処理として、変速機36の一次変速比(変速比)が大きいほど(ローギア側ほど)所定回転数差を大きい値に設定した。しかしながら、所定回転数差を、ローギア側の大きい値とハイギア側の小さい値との二値に設定したり、一定値に設定したりすることもできる。
・上記実施形態では、エンジン回転速度判定部の処理として、ハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値(ドライバ要求トルク)が大きいほど所定回転数を高い値に設定した。しかしながら、所定回転数を、高駆動トルク側の高い値と低駆動トルク側の低い値との二値に設定したり、一定値に設定したりすることもできる。
・クラッチ34の伝達開始タイミングを推定する際に、制振制御を禁止することを省略することもできる。また、制振制御自体を省略することもできる。
・クラッチ34に対する作動油の充填(充填制御)が終了したことを条件とせず、伝達開始タイミングを推定することもできる。
・伝達開始タイミングを推定する際に、クラッチ34の出力軸34b(回転部材に相当)の回転数に代えて、変速機36の出力軸36a(回転部材に相当)の回転数や、MG40の出力軸40a(回転部材に相当)の回転数、駆動輪54の(回転部材に相当)の回転数等を採用することもできる。
・上記実施形態では、伝達推定部の処理として、ハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値が大きいほど所定変化率を大きい値に設定した。しかしながら、伝達推定部の処理として、EVモードからHEVモードへの移行時におけるクラッチ34の出力軸34b(回転部材)の単位時間当たりの回転数の変化率が大きいほど所定変化率を大きい値に設定すること、EVモードからHEVモードへの移行時における作動油の油圧の変化率が大きいほど所定変化率を大きい値に設定すること、の少なくとも一方を実行してもよい。
・上記実施形態では、伝達推定部の処理として、クラッチ出力軸回転数センサ73(回転速度検出部に相当)により検出された回転数の所定期間における平均値の変化率が所定変化率よりも大きくなったタイミングを、伝達開始タイミングと推定した。これに代えて、クラッチ出力軸回転数センサ73により検出された回転数の変動量に基づいて、伝達開始タイミングを推定することが考えられる。
しかしながら、ハイブリッド車両10の速度が加速により変動した場合は、クラッチ34の出力軸34bと駆動輪54との間の駆動力伝達経路に含まれる回転部材の単位時間当たりの回転数も変動する。このため、回転速度検出部により検出された回転数の変動量が所定変動量よりも大きくなったタイミングを伝達開始タイミングと推定すると、ハイブリッド車両10の加速による回転部材の回転数の変動量を、クラッチ34の伝達開始タイミングと誤推定するおそれがある。
この点、図19にMG回転数とMG回転変動量と記載されるように、伝達推定部の処理として、回転速度検出部により検出された回転数の変動量からハイブリッド車両10の加速による変動量を除いた変動量が、所定変動量よりも大きくなったタイミングを伝達開始タイミングと推定するとよい(時刻t24)。こうした構成によれば、ハイブリッド車両10の加速による影響を抑制しつつ、クラッチ34の伝達開始タイミングを正確に推定することができる。
・ハイブリッド車両10の加速による上記回転部材の回転数の変動の周波数は、クラッチ34の伝達開始により生じる上記回転部材の回転数の変動の周波数よりも低い。そこで、伝達推定部の処理として、回転速度検出部により検出された回転数を、所定周波数よりも低い周波数の成分を通過させ且つ所定周波数よりも高い周波数の成分を減衰させるフィルタに通すことで、ハイブリッド車両10の加速による変動量を算出するとよい。こうした構成によれば、ハイブリッド車両10の加速による変動量を容易に算出することができる。なお、上記フィルタを用いる構成以外に、クラッチ34の出力軸34bの回転数(MG回転数と対応)の変化を表す直線の近似式を算出し、その近似式に基づいてハイブリッド車両10の加速による変動量を算出することもできる。
・伝達推定部の処理として、EVモードからHEVモードへの移行時における回転部材の単位時間当たりの回転数の変化率が大きいほど所定変動量を大きく設定すること、EVモードからHEVモードへの移行時における作動油の油圧の変化率が大きいほど所定変動量を大きく設定すること、及び図25に記載されるようにハイブリッド車両10を走行させる駆動トルクの要求値(ドライバ要求トルク)が大きいほど所定変動量を大きく設定すること、の少なくとも1つを実行するとよい。こうした構成によれば、クラッチ34の伝達開始タイミングにおける上記回転部材の回転数の変化の大きさが、ハイブリッド車両10の状態等に応じて変動したとしても、クラッチ34の伝達開始タイミングを正確に推定することができる。
・クラッチ34の作動油の油圧を漸増させてクラッチ34の伝達トルクを漸増させる際には、作動油の油圧の漸増開始からクラッチ34の伝達開始タイミングまでに遅れが生じる。また、気温や湿度の影響により作動油の粘度が変化すること等により、クラッチ34の作動油の油圧がばらつくことがある。しかしながら、作動油の油圧の漸増開始からクラッチ34の伝達開始タイミングまでの遅れを、予め実験等に基づいて算出したり、前回のクラッチ34の接続において検出したりすることができる。
そこで、タイミング制御部の処理として、EVモードからHEVモードへの移行時に、トルク漸減部による駆動トルクの漸減開始タイミングに基づいて、油圧漸増部による油圧の漸増開始タイミングを制御するといった構成を採用することもできる。こうした構成によれば、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
詳しくは、ENG回転数やクラッチ入力回転数に基づいてMG40の駆動トルク漸減開始タイミングを決定し、駆動トルク漸減開始タイミングよりも所定時間前を油圧漸増開始タイミングに決定することもできる。
・上記実施形態では、クラッチ入力回転数からクラッチ出力回転数を引いた回転数差が第1閾値よりも小さいと判定された時点で、クラッチ34の伝達トルクの漸増を停止して一定に維持し、且つMG40の駆動トルクの漸減を停止して一定に維持し、且つエンジン20の駆動トルクの漸増を停止して一定に維持した。しかしながら、伝達トルクの漸増を停止させる態様として伝達トルクを漸減させ、且つMG40の駆動トルクの漸減を停止させる態様として駆動トルクを漸増させ、且つエンジン20の駆動トルクの漸増を停止させる態様として駆動トルクを漸減させることもできる。
・変速機36の変速比が大きいほど(変速機36のシフトギアがローギアであるほど)、エンジン20と駆動輪54との間で伝達されるトルクが大きくなり、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じ易い。そこで、第2回転速度差判定部の処理として、変速機36の一次変速比(変速比)が大きいほど第2閾値を小さい値に設定してもよい。こうした構成によれば、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じ易い変速比であるほど、単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数とクラッチ34の出力軸34bの回転数との差が小さい状態で、クラッチ34の伝達トルクが増加される。このため、変速機36の変速比が大きくトルクショックが生じ易い場合であっても、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じることを抑制することができる。
・変速機36の変速比が小さいほど(変速機36のシフトギアがハイギアであるほど)、エンジン20と駆動輪54との間で伝達されるトルクが小さくなり、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じにくい。そこで、第2回転速度差判定部の処理として、変速機36の一次変速比(変速比)が小さいほど第2閾値を大きい値に設定してもよい。こうした構成によれば、ハイブリッド車両10にトルクショックが生じにくい変速比であるほど、単位時間当たりのクラッチ34の入力軸34aの回転数とクラッチ34の出力軸34bの回転数との差が大きい状態で、クラッチ34の伝達トルクが増加される。このため、変速機36の変速比が小さくトルクショックが生じにくい場合は、クラッチ34の伝達トルクを早く増加させることができ、EVモードからHEVモードへ早く移行することができる。
・以上の制御に加えて、EVモードからHVモードへの移行時に、クラッチ油圧の指令値の漸増が開始(油圧漸増部による作動油の油圧の漸増開始が指令)されてから所定時間後を、MG指令トルクを漸減させるタイミング(トルク漸減部による駆動トルクの漸減開始タイミング)としてもよい。こうした構成によれば、伝達トルクが発生する伝達開始タイミングを推定できなかった場合であっても、クラッチ油圧の指令値の漸増が開始されてから所定時間経過すれば、MG指令トルクの漸減を開始することができる。
・上記実施形態では、EVモードが、MG40の動力によりハイブリッド車両10を走行させるモードとして説明をした。しかしながら、MG40の動力を使わず、単にエンジン20を停止するとともにクラッチ34を切断して、惰性走行するモードをEVモードとしてもよい。