本発明の剪断加工方法(以下「本発明方法I」ということがある。)は、ダイ上に載置した被加工材の非製品部分をパンチで打ち抜く剪断加工方法において、
(i)打抜き後、抜き材(非製品部分)を、該抜き材を打ち抜いたパンチと背圧ピンで拘束して、加工材(製品部分)に対抗させ、
(ii)上記対抗状態で、抜き材の端面を加工材の剪断加工面に擦り合せる
ことを特徴とする。
本発明の剪断加工方法(以下「本発明方法II」ということがある。)は、ダイ上に載置した被加工材の非製品部分をパンチで打ち抜く剪断加工方法において、
(i-1)打抜き後、抜き材(非製品部分)を載置するダイの側面、抜き材(非製品部分)をダイ上に固定するホルダーの側面、又は、抜き材(非製品部分)を打ち抜いたパンチの側面で、被加工材を拘束する拘束状態で、さらに、被加工材の非製品部分を打ち抜き、
(i-2)上記打抜き後、上記拘束状態において、抜き材(非製品部分)を、該抜き材を打ち抜いたパンチと背圧ピンで拘束して、加工材(製品部分)に対抗させ、
(ii)上記対抗状態で、抜き材の端面を加工材の剪断加工面に擦り合せる
ことを特徴とする。
まず、本発明方法Iについて、図面に基づいて説明する。
図3に、片持ち式の剪断加工の態様を示し、図4に、片持ち式の剪断加工で被加工材を剪断加工した態様を示す。
図3に示す剪断加工機において、ダイ12とパンチ17の間隔d(mm)は、加工材の剪断加工面の破断面(図2中「6」参照)の破断角θがパンチ方向に対し3°以上となるように設定されている。
本発明方法I及び本発明方法II(以下、まとめて「本発明方法」ということがある。)において、ダイとパンチの間隔d(mm)は、加工材の剪断加工面における破断面の破断角θがパンチ方向に対し3°以上となる範囲、即ち、上記破断面と抜き材の肩面が所要の角度で衝接して、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることが可能な範囲で設定するのが好ましい。この点については後述する。
本発明方法において、剪断加工の対象とする被加工材は、鋼板の他、銅、亜鉛、スズ、アルミニウム、チタン、マグネシウム、及び、それらを基とする合金からなる金属板、又は、これら金属板を積層した積層金属板である。被加工材の材質は、剪断加工が可能な材質であればよく、特定の材質に限定されない。被加工材の厚さは、剪断加工が可能な厚さであればよく、特定の厚さに限定されない。
本発明方法は、特に、引張強度が980MPa以上の鋼板の剪断加工、及び、引張強度が980MPa以上の鋼板を含む積層鋼板の剪断加工に好適である。この点については後述する。
冷間の剪断加工において、剪断加工品の形状・寸法精度を保つ観点から、被加工材の厚さは6.0mm以下が好ましい。特に、剪断加工品の形状・寸法精度が高く要求される場合、被加工材の厚さは3.0mm以下がより好ましい。
図3に示すように、機枠18の片側において、弾性部材11で保持されている背圧ピン13がダイ12の上面よりΔH飛び出ている片持ち式剪断加工機に、被加工材14を配置する。弾性部材16でホルダー15を押圧し、被加工材14を剪断加工機のダイ12に固定し、図4に示すように、パンチ17を、背圧ピン13の背圧に対抗しつつ押し下げ、剪断加工面9を有する加工材14aを得る。
ここまでは、通常の剪断加工であるが、本発明方法I」においては、図5に示すように、弾性部材11の反発力を利用し、背圧ピン13が保持する抜き材19を、抜いたままの状態で、上へ押し上げていき、抜き材19の端面20を、加工材14aの剪断加工面21に擦り合せる。
この擦り合せにおいて、抜き材19は、機枠18により、加工材14aに対抗するように拘束されていて、この拘束状態のもとで、抜き材19の端面20を、加工材14aの剪断加工面21に擦り合せることになる。
加工材の剪断加工面は、通常、図2に示すように、ダレ4、剪断面5、破断面6、及び、バリ7で構成されているが、抜き材19を、加工材の剪断加工面21を精整する工具として用い、上記拘束状態で、抜き材19の端面20を、加工材14aの剪断加工面21に擦り合せると、加工材14aの剪断加工面21の表層に圧縮の塑性変形が加えられて、剪断加工面21における残留応力が大きく低減するとともに均一化する。
その結果、加工材14aの剪断加工面21の面性状が大きく向上し、加工材14aの疲労特性、及び、耐水素脆化特性が顕著に向上する。
抜き材19の端面20と、加工材14aの剪断加工面21の擦り合せは、図5に示すように、途中で止めてもよく、また、図6に示すように、抜き材19を加工材14aの上まで押し上げて、剪断加工面21の全面にわたって行ってもよい。剪断加工面21に“バリ”が存在すると、伸びフランジ性が低下するので、上記擦り合せは、擦り合せにより“ばり”が発生しない範囲で行えばよい。
抜き材の形状、又は、加工材の形状は、抜き材の端面と、加工材の輪郭面の剪断加工面を擦り合せることが可能であればよいので、特定の形状に限定されない。
図7〜図9に基づいて、本発明方法Iの別の態様を説明する。
図7に、被加工材の製品としない外周部分を、被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有するパンチと、被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有する背圧ピンで挟持して、上記外周部分を打ち抜く態様を示す。図8に、図7に示す打抜きの後、抜き材を、打ち抜いた状態で押し上げ、抜き材の端面を加工材の剪断加工面に擦り合せる態様を示し、図9に、図7に示す打抜きの後、抜き材を、打ち抜いた状態で、加工材の上方まで押し上げ、抜き材の端面を加工材の剪断加工面に擦り合せる態様を示す。
図7に示す剪断加工においては、被加工材の外周部分14bを、被加工材に当接する面に1つ以上の突起22を有するパンチ17と、被加工材に当接する面に1つ以上の突起22を有する背圧ピン13で挟持して打ち抜く。
上記打抜きの後、図8に示すように、抜き材19(被加工材の外周部分14b)を、打ち抜いた状態で、突起22を有するパンチ17と背圧ピン13で挟持して押し上げ、抜き材19の端面20を加工材14aの剪断加工面21に擦り合せる。
また、上記打抜き後、図9に示すように、抜き材19(被加工材の外周部分14b)を、打ち抜いた状態で、突起22を有するパンチ17と背圧ピン13で挟持して、加工材14aの上方まで押し上げ、抜き材19の端面20を加工材14aの剪断加工面21に擦り合せる。
抜き材19(被加工材の外周部分14b)は、突起22を有するパンチ17と背圧ピン13で挟持され、加工材に対抗するように拘束されているので、抜き材19の端面20と加工材14aの剪断加工面21の擦り合せにより、加工材14aの剪断加工面21の表層に圧縮の塑性変形を加えることができる。その結果、加工材14aの剪断加工面21の面性状が顕著に向上する。
図7〜図9には、被加工材の製品としない外周部分14bを、被加工材に当接する面に1つ以上の突起22を有するパンチ17と、被加工材に当接する面に1つ以上の突起22を有する背圧ピン13で挟持して打ち抜く態様を示したが、抜き材(被加工材の外周部分14b)を強固に挟持し、加工材に対抗するように拘束し、抜き材の端面と加工材の剪断加工面の擦り合せにより、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることができる限りにおいて、突起は、パンチ及び背圧ピンのどちらか一方のみに設けてもよい。
パンチ及び/又は背圧ピンの被加工材に当接する面に設ける突起の断面形状は、抜き材(被加工材の外周部分)を強固に挟持し、加工材に対抗するように拘束し、抜き材の端面と加工材の剪断加工面の擦り合せにより、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることができる限りにおいて、特定の断面形状に限定されない。例えば、突起の断面形状は、V型、U形、凸型等でもよい。
突起の高さ(被加工材の挟持面に垂直な方向の高さ)は、挟持力、及び、加工材に対抗する拘束力の確保の点で、通常、高いほど好ましいが、高すぎると、突起の摩耗、消耗が速く進行し、また、被加工材の挟持に必要な押圧力が増大するので、突起の高さには限界がある。本発明者らの試験結果によれば、突起の高さは10〜1000μmが好ましい。より好ましくは10〜500μmである。
パンチの被加工材に当接する面と、背圧ピンの被加工材に当接する面の両方に突起を設ける場合、突起の断面形状は同じである必要はない。抜き材(被加工材の外周部分)を強固に挟持し、加工材に対抗するように拘束し、抜き材の端面と加工材の剪断加工面の擦り合せの際、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることができる限りにおいて、突起の断面形状は、パンチと背圧ピンで異なっていてもよい。
パンチ及び/又は背圧ピンの被加工材に当接する面に設ける突起の、上記外周部分の周方向における形態は、抜き材(被加工材の外周部分)を強固に挟持し、加工材に対抗するように拘束し、抜き材の端面と加工材の剪断加工面の擦り合せにより、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることができる限りにおいて、特定の形態に限定されない。
被加工材の製品としない外周部を挟持し、加工材に対抗するように拘束する突起の、上記外周部分の周方向の形態は、例えば、所要の断面形状の突起が連続して連なる形態や、所要の断面形状の突起が、点状、弧状、又は、一点鎖線状に断続して連なる形態でもよい。突起が点状の突起の場合、突起の円相当径は、突起の摩耗、消耗を抑制する点で、10〜1000μmが好ましい。より好ましくは10〜500μmである。また、突起が弧状の突起の場合、突起の幅は、同じ理由で10〜1000μmが好ましい。より好ましくは10〜500μmである。
パンチ及び/又は背圧ピンの被加工材に当接する面に設ける突起(突起列)の、上記外周部分の幅方向における個数(列数)は、抜き材(被加工材の外周部分)を強固に挟持し、加工材に対抗するように拘束し、抜き材の端面と加工材の剪断加工面の擦り合せにより、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることができる限りにおいて、特定の個数(列数)に限定されない。
突起(突起列)の、上記外周部分の幅方向における個数(列数)は、抜き材(被加工材の外周部分)の幅に応じて適宜設定すればよい。抜き材(被加工材の外周部分)を強固に挟持し、加工材に強固に対抗するように拘束する点で、突起(突起列)の個数(列数)は2以上が好ましい。また、突起(突起列)の個数(列数)は、パンチ面と背圧ピン面で異なっていてもよい。
パンチの被加工材に当接する面において、ダイに最近接して設ける突起の位置は、抜き材(被加工材の外周部分)を強固に挟持し、加工材に対抗するように拘束し、抜き材の端面と加工材の剪断加工面の擦り合せにより、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を十分に加えることができる限りにおいて、特定の位置に限定されないが、加工材に、面性状の優れた剪断加工面を形成する点で、突起の位置は、ダイからの距離が短いほど好ましい。
パンチの被加工材に当接する面において、ダイに最近接して設ける突起の位置は、加工材に、面性状の優れた剪断加工面を形成する点で、被加工材の厚さt(mm)とも関連する。上記突起の位置、即ち、突起と、被加工材を載置したダイとの最近接間隔は2t(t(mm):被加工材の厚さ)以下が好ましく、1t以下がより好ましい。
本発明方法Iにおいて、突起を設ける面(パンチ面及び/又は背圧ピン面)、及び、突起の断面形状、寸法、形態、個数(列数)、及び、位置は、剪断加工の態様に応じて適宜設定すればよい。
本発明方法においては、抜き材の端面と加工材の剪断加工面を擦り合せることにより、抜き材が、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加える工具として機能して、加工材の剪断加工面における残留応力が大幅に低減するとともに均一化して、加工材の剪断加工面の面性状が大きく向上する。その結果、疲労特性、耐水素脆化特性、伸びフランジ性等が向上する。
抜き材の端面と加工材の剪断加工面を擦り合せることで、加工材の剪断加工面の面性状が向上する効果は、ダイとパンチの間隔d(mm)を、加工材の剪断加工面における破断面の角度がパンチ方向に対し3°以上となる範囲(該破断面と抜き材の肩面が所要の角度で衝接し、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることが可能な範囲)で設定するとより向上する。この点については後述する。
以上説明したように、図7〜図9に実施態様を示す本発明方法Iは、板状の被加工材を厚さ方向に打ち抜く剪断加工方法において、
(i)ダイ上に、製品とする部分をホルダーで押圧、固定した上記被加工材の製品としない外周部分を、
(a1)(a1-1)被加工材に当接する下面に1つ以上の突起を有する突起面パンチと、(a1-2)被加工材に当接する上面が平坦な平背圧ピンで挟持し、
(b1)(b1-1)被加工材に当接する下面が平坦な平面パンチと、(b1-2)被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有する突起背圧ピンで挟持し、又は、
(c1)(c1-1)被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有する突起面パンチと、(c1-2)被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有する突起背圧ピンで挟持し、
(ii)上記(a1)、(b1)、又は、(c1)で挟持した被加工材の外周部を、パンチと背圧ピンとの協働で打ち抜き、次いで、
(iii)抜き材を、打ち抜いた状態で、そのまま押し上げ、抜き材の端面を加工材の剪断加工面に擦り合せる
ことを特徴とする。
本発明方法Iの別の態様について、図10及び図11に基づいて説明する。
図10に、被加工材の製品としない外周部分を、被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有するパンチに、被加工材に当接する面が平坦なパンチを連結した連結パンチと、被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有する背圧ピンに、被加工材に当接する面が平坦な背圧ピンを連結した連結背圧ピンで挟持して、上記外周部分を打ち抜く態様を示す。
図11に、図10に示す打抜きの後、抜き材を、打ち抜いた状態で押し上げ、抜き材の端面を加工材の剪断加工面に擦り合せる態様を示す。
図10に示すように、被加工材の製品としない外周部分14bを、被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有するパンチ17に、被加工材に当接する面が平坦なパンチ17aを連結した連結パンチ17bと、被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有する背圧ピン13に、被加工材に当接する面が平坦な背圧ピン13aを連結した連結背圧ピン13bで挟持し、連結パンチ17bとダイ12との協働で、被加工材の外周部分14bを打ち抜く。
パンチ17とパンチ17aの連結、及び、背圧ピン13と背圧ピン13aの連結は、連結解除が可能な公知の連結手段で強固に行なればよい。連結パンチ17b及び連結背圧ピン13bにおいては、連結するパンチ17a及び背圧ピン13aを、打ち抜く被加工材の外周部分の幅に応じて適宜取り換えることができ、また、パンチ17及び/又は背圧ピン13を、突起22の消耗程度に応じて適宜取り換えることができる。
図10に示す打抜きの後、図11に示すように、連結パンチ17bと連結背圧ピン13bで挟持した抜き材19(外周部分14b)を、連結背面ピン13bを押し上げていき、加工材に対抗する拘束状態で、抜き材19(外周部分14b)の端面20を、加工材14aの剪断加工面21に擦り合せる。この擦り合せは、図11に示すように、途中で止めてもよいし、抜き材19(外周部分14b)を、加工材14aの上方まで押し上げて行ってもよい(図9、参照)。
前述したように、抜き材19(外周部分14b)は、連結パンチ17bと連結背圧ピン13bで挟持され、加工材に対抗するように拘束されているので、抜き材19の端面20と加工材14aの剪断加工面21の擦り合せにより、加工材の剪断加工面21の表層に圧縮の塑性変形を十分に加えることができる。その結果、加工材14aの剪断加工面21の面性状が顕著に向上する。
図10と図11には、被加工材の外周部分14bを、突起22を備えるパンチ17を連結した連結パンチと、突起22を備える背圧ピン13を連結した連結背圧ピンで挟持して打ち抜く態様を示したが、抜き材(被加工材の外周部分)を強固に挟持し、加工材に対抗するように拘束し、抜き材の端面と加工材の剪断加工面の擦り合せにより、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることができる限りにおいて、突起は、パンチ及び背圧ピンのどちらか一方のみに設けてもよい。
以上説明したように、図10及び図11に実施態様を示す本発明方法は、板状の被加工材を厚さ方向に打ち抜く剪断加工方法において、
(i)ダイ上に、製品とする部分をホルダーで押圧、固定した上記被加工材の製品としない外周部を、
(a2)(a2-1)被加工材に当接する下面に突起を有する突起面パンチのダイ側の側面に、被加工材に当接する上面が平坦な平面パンチを連結した連結パンチと、(a2-2)上記突起面パンチに対向する、被加工材に当接する上面が平坦な平背圧ピンのダイ側の側面に、上記平面パンチに対向する、被加工材に当接する上面が平坦な平背圧ピンを連結した連結背圧ピンで挟持し、
(b2)(b2-1)被加工材に当接する下面が平坦な平面パンチのダイ側の側面に、被加工材に当接する下面が平坦な別平面パンチを連結した連結パンチと、(b2-2)上記平面パンチに対向する、被加工材に当接する上面に突起を有する突起背圧ピンのダイ側の側面に、上記別平面パンチに対向する、被加工材に当接する上面が平坦な平背圧ピンを連結した連結背圧ピンで挟持し、又は、
(c2)(c2-1)被加工材に当接する下面に突起を有する突起面パンチのダイ側の側面に、被加工材に当接する上面が平坦な平面パンチを連結した連結パンチと、(c2-2)上記突起面パンチに対向する、被加工材に当接する上面に突起を有する突起背圧ピンのダイ側の側面に、上記平面パンチに対向する、被加工材に当接する上面が平坦な平背圧ピンを連結した連結背圧ピンで挟持し、
(ii)上記(a2)、(b2)、又は、(c2)で挟持した被加工材の外周部を、連結パンチと連結背圧ピンとの協働で打ち抜き、次いで、
(iii)抜き材を、打ち抜いた状態で、そのまま押し上げ、抜き材の端面を加工材の剪断加工面に擦り合せる
ことを特徴とする。
次に、被加工材の強度が高い場合、例えば、被加工材の強度が980MPa級以上の場合の剪断加工に好ましい態様について説明する。
被加工材の強度が高いと、パンチの際、被加工材がパンチ側に逃げる現象が生じる。この逃げ現象が生じると、加工材において、面性状に優れた剪断加工面は得られない。被加工材の逃げ現象を抑制するためには、ダイとホルダーで被加工材を強く拘束する必要があるが、突起を備えるパンチで剪断加工すると、被加工材を強く拘束していても、被加工材がパンチ側に逃げる現象が生じ、加工材において、面性状に優れた剪断加工面が得られない。
図12〜図14に、被加工材の強度が高い場合、例えば、被加工材の強度が980MPa級以上の場合の剪断加工に好ましい、本発明方法Iの一態様を示す。
図12に、被加工材の製品としない外周部分の外側部分を、被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有するホルダーと、被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有するダイで挟持し、被加工材が当接する面が平坦なホルダーと、被加工材に当接する面が平坦なダイで挟持し、ホルダーとホルダーの間に配置したパンチで、被加工材の外周部の内側部分(製品としない部分)を打ち抜く態様を示す。
図13に、図12に示す打抜きの後、抜き材を、打ち抜いた状態で押し上げ、抜き材の端面を、被加工材の外周部分の外側部分の剪断加工面と加工材の剪断加工面に、同時に擦り合せる態様を示す。
図14に、図12に示す打抜きの後、抜き材の一方の端面を、被加工材の製品としない外周部分の外側部分を保持するダイの側面で拘束し、拘束した状態で、抜き材を押し上げ、抜き材の他方の端面を、加工材の剪断加工面に擦り合せる態様を示す。
図12に示すように、被加工材の製品としない外周部分の外側部分14baを、被加工材に当接する面に1つ以上の突起22を有するホルダー15aと、被加工材に当接する面に1つ以上の突起22を有するダイ12aで挟持し、被加工材において製品となる加工材14aを、被加工材に当接する面が平坦なホルダー15と、被加工材に当接する面が平坦なダイ12で挟持し、ホルダー15aとホルダー15の間に配置したパンチ17で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く。
図12に示す剪断加工においては、被加工材の製品としない外周部分の外側部分14baをホルダー15aとダイ12aで挟持して、ダイ12a及びダイ12とパンチ17の協働で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜くので、被加工材の強度が高い場合でも、被加工材がパンチ側に逃げる現象を極力抑制できて、加工材14a(製品)に、剪断加工の段階で、面性状に優れた剪断加工面を形成することができる。
図12に示す打抜きの後、図13に示すように、抜き材19(被加工材の外周部分の内側部分14bb)を、打ち抜いた状態のまま、背圧ピン13で押し上げていき、抜き材19の端面を、被加工材の外周部分の外側部分14baの剪断加工面21と加工材14aの剪断加工面21に、同時に擦り合せる。この場合も、抜き材19を加工材14aの上まで押し上げてもよい。
また、図14に示すように、図12に示す打抜きの後、被加工材の製品としない外周部分の外側部分14baを挟持するダイ12aとホルダー15aを押し上げていき、抜き材19(被加工材の外周部分の内側部分14bb)の一方の端面20をダイ12aの側面で拘束し、その拘束状態で、抜き材19(被加工材の外周部分の内側部分14bb)の他方の端面20を、加工材14aの剪断加工面21に擦り合せてもよい。
図12に示す剪断加工において、被加工材の製品としない外周部分の外側部分14baを、ダイ12aとホルダー15aで挟持する場合、被加工材の剪断加工の際、被加工材の逃げを抑制して、被加工材を安定状態に維持し、かつ、図13に示す擦り合せの際、抜き材19(被加工材の外周部分の内側部分14bb)を拘束する力を確保できる限りで、上記外側部分14baを挟持するホルダー15a及びダイ12aのいずれか一方が突起22を備えていればよい。
図12に示す剪断加工では、スクラップとなる部分(被加工材の製品としない外周部分14baと14bb)が幅広であるが、被加工材の製品としない外周部分の外側部分14baを幅広くとることができるので、該外側部分14baを挟持するホルダー15a及びダイ12aの一方のみが突起22を備える場合でも、被加工材の剪断加工の際、被加工材の逃げを抑制して、被加工材を安定状態に維持し、かつ、図13に示す擦り合せの際、抜き材19(被加工材の外周部分の内側部分14bb)を拘束する力を確保することができる。
その結果、被加工材の剪断加工において、加工材に、形状精度が良好な剪断加工面を形成することができ、かつ、加工材の形状精度が良好な剪断加工面の表層に圧縮の塑性加工を加えることができので、高強度の被加工材から、形状精度と面性状に優れた剪断加工面を有する高強度の加工材を確実に得ることができる。
図12〜図14に示す剪断加工は、一枚の被加工材においてスクラップとなる部分が多いが、前述したように、高強度の被加工材から、面性状と形状精度に優れた剪断加工面を有する高強度の加工材を確実に得ることができる剪断加工であるので、総合的に見れば、高歩留りで生産性のよい剪断加工である。
以上説明したように、図12〜図14に実施態様を示す本発明方法Iは、板状の被加工材を厚さ方向に打ち抜く剪断加工方法において、
(i)ダイ上に、製品とする部分をホルダーで押圧、固定した上記被加工材の製品としない外周部を、
(a3)(a3-1)被加工材に当接する下面に1つ以上の突起を有する突起面パンチと、(a3-2)被加工材に当接する上面が平坦な平背圧ピンで挟持し、
(b3)(b3-1)被加工材に当接する下面が平坦な平面パンチと、(b3-2)被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有する突起背圧ピンで挟持し、又は、
(c3)(c3-1)被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有する突起面パンチと、(c3-2)被加工材に当接する面に1つ以上の突起を有する突起背圧ピンで挟持し、
(ii)上記凸面パンチ又は平面パンチとホルダーの間に配置したパンチと、該パンチに対向して、上記凸背圧ピン又は平背圧ピンとダイの間に配置した背圧ピンとの協働で、被加工材の外周部の内側で製品としない部分を打ち抜き、
(iii)抜き材を、打ち抜いた状態で、(d1)そのまま押し上げるか、又は、(d2)抜き材の一方の端面を上記平背圧ピン又は上記突起背圧ピンの側面で拘束して押し上げ、抜き材の他方の端面を加工材の剪断加工面に擦り合せる
ことを特徴とする。
図15〜図18に、被加工材の強度が高い場合、例えば、被加工材の強度が980MPa級以上の場合の剪断加工に好ましい本発明方法IIの一態様を示す。
図15に、被加工材の製品としない外周部分の外側部分を打ち抜く態様を示す。図16に、図15に示す打抜きの後、被加工材の製品としない外周部分の内側部分を打ち抜く前、上記外周部分の外側部分を打ち抜いたパンチの側面で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分を拘束し、拘束した状態で、該内側部分を打ち抜く態様を示す。
図17に、図16に示す拘束状態で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分を打ち抜く態様を示す。図18に、図17に示す打抜きの後、抜き材の一方の端面に、被加工材の製品としない外周部分を打ち抜いたパンチの側面を当接して抜き材を拘束し、拘束した状態で、抜き材を押し上げ、抜き材の他方の端面を、加工材(製品)の剪断加工面に擦り合せる態様を示す。
図15に示すように、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを背圧ピン13上に載置し、パンチ17をホルダーとして用いて押圧、固定し、製品(加工材)とする部分14aをダイ12上に載置して、ホルダー15で押圧して固定した状態にて、パンチ17aで、製品としない外周部分の外側部分14baを打ち抜く。
図15に示す打抜きの後、図16に示すように、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く前、上記外周部分の外側部分14baを打ち抜いたパンチ17aの側面を被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbの断面20に当接して、該外周部分の内側部分14bbを拘束し、この拘束状態を維持して、上記外周部分の内側部分14bbをパンチ17で打ち抜く。
図17に示すように、パンチ17とパンチ17aを同時に押し下げ、図16に示す拘束状態を維持し、パンチ17とダイ12の協働で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く。図16に示す拘束状態を維持して、上記外周部分の内側部分14bbを打ち抜くので、製品となる側の被加工材がパンチ側に逃げる現象を抑制することができ、加工材(製品)において形状精度の良好な剪断加工面を形成することができる。
図16に示す拘束状態を維持して、パンチ17とダイ12の協働で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く際、被加工材の逃げ現象を抑制する点で、パンチ17aの側面とダイ12との間隔は2t(t(mm):被加工材の厚さ)以下が好ましく、1t以下がより好ましい。
図17に示す打抜きの後は、図18に示すように、抜き材19(上記内側部分14bb)の一方の端面20に、被加工材の製品としない外周部分の外側部分を打ち抜いたパンチ17aの側面を当接して抜き材19を拘束した状態を維持して、背圧ピン13を押し上げて、抜き材19を押し上げていき、抜き材19の他方の端面20を、加工材(製品)の剪断加工面21に擦り合せる。
この擦り合せは、押上げ途中で止めてもよいし、また、擦り合せによる“バリ”が剪断加工面21に発生しなければ、抜き材19を加工材14aの上まで押し上げて行ってもよい。
以上説明したように、図15〜図18に実施態様を示す本発明方法IIは、板状の被加工材を厚さ方向に打ち抜く剪断加工方法において、
(i)ダイ上に、製品とする部分をホルダーで押圧、固定した上記被加工材の製品としない外周部を外周パンチで打ち抜き、
(ii)上記外周パンチのダイ側の側面が加工材の打抜き端面に当接し、加工材が拘束されている状態で、上記パンチとホルダーの間に配置した中間パンチと上記ダイで、加工材において製品としない部分を打ち抜き、
(iii)抜き材を、打ち抜いた状態、即ち、上記外周パンチのダイ側の側面が抜き材の打抜き端面に当接し、抜き材を拘束した状態で押し上げ、抜き材の他方の打抜き端面を、製品とする加工材の剪断加工面に擦り合せる
ことを特徴とする。
図19〜図22に、被加工材の強度が高い場合、例えば、被加工材の強度が980MPa級以上の場合の剪断加工に好ましい本発明方法IIの別の態様を示す。
図19に、被加工材の製品としない外周部分の外側部分を打ち抜く態様を示す。図20に、図19に示す打抜きの後、被加工材の製品としない外周部分の内側部分を打ち抜く前、上記外周部分の外側部分を打ち抜いたダイの側面で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分を拘束し、拘束した状態で、該内側部分を打ち抜き態様を示す。
図21に、図20に示す拘束状態で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分を打ち抜く態様を示す。図22に、図21に示す打抜きの後、抜き材の一方の端面に、被加工材の製品としない外周部分の外側部分を打ち抜いたダイの側面を当接して抜き材を拘束し、拘束した状態で、抜き材を押し上げ、抜き材の他方の端面を、加工材(製品)の剪断加工面に擦り合せる態様を示す。
図19に示すように、被加工材の製品としない外周部分の外側部分14baをダイ12aに載置してホルダー15aで押圧して固定し、パンチ17とダイ12aの協働で、上記外周部分の外側部分14baを打ち抜く。
図19に示す打抜きの後、図20に示すように、被加工材の製品としない外周部分の内側部分を背圧ピン13上に載置し、被加工材の製品部分をダイ12上に載置し、該製品部分は、ホルダー15で押圧して固定し、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く前、上記外周部分の外側部分14baを打ち抜いたダイ12aの側面を、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbの端面20に当接して、被加工材(外周部分の内側部分14bbと加工材14a(製品)の部分)を拘束する。
図20に示す拘束状態を維持して、パンチ17とダイ12の協働で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く際、被加工材の逃げ現象を抑制する点で、ダイ12aの側面とダイ12との間隔は2t(t(mm):被加工材の厚さ)以下が好ましく、1t以下がより好ましい。
図21に示すように、パンチ17とダイ12aを同時に押し下げ、図20に示す拘束状態を維持して、パンチ17とダイ12の協働で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く。図20に示す拘束状態を維持して、パンチ17とダイ12の協働で、上記外周部分の内側部分14bbを打ち抜くので、製品となる側の被加工材がパンチ側に逃げる現象が抑制されて、加工材(製品)においては、形状精度の良好な剪断加工面が形成される。
図21に示す打抜きの後は、図22に示すように、抜き材19(上記内側部分14bb)の一方の端面20に、被加工材の製品としない外周部分の外側部分を打ち抜いたダイ12aの側面を当接し、抜き材19を拘束した状態を維持して、背圧ピン13を押し上げて、抜き材19を押し上げていき、抜き材19の他方の端面20を、加工材(製品)の剪断加工面21に擦り合せる。
この擦り合せは、押上げ途中で止めてもよいし、擦り合せにより“バリ”が剪断加工面に発生しなければ、抜き材19を加工材の上まで押し上げて行ってもよい。
以上説明したように、図19〜図22に実施例を示す本発明方法IIは、板状の被加工材を厚さ方向に打ち抜く剪断加工方法において、
(i)上記被加工材において製品とする部分に当接する主ダイの外側に配置した外側ダイ上に、製品としない上記被加工材の外周部をホルダーで押圧、固定し、該被加工材をパンチで打ち抜き、
(ii)上記外側ダイのパンチ側の側面が加工材の打抜き端面に当接し、加工材が拘束されている状態で、上記パンチと上記主ダイで、加工材において製品としない外周部を打ち抜き、
(iii)抜き材を、打ち抜いた状態、即ち、上記外側ダイの主ダイ側の側面が抜き材の打抜き端面に当接し、抜き材を拘束した状態で押し上げ、抜き材の他方の打抜き端面を、製品とする加工材の剪断加工面に擦り合せる
ことを特徴とする。
図23〜図26に、被加工材の強度が高い場合、例えば、被加工材の強度が980MPa級以上の場合の剪断加工に好ましい本発明方法IIの別の態様を示す。
図23に、被加工材の製品としない外周部分の外側部分を打ち抜く態様を示す。図24に、図23に示す打抜きの後、被加工材の製品としない外周部分の内側部分を打ち抜く前、上記外周部分の外側部分をダイに押圧、固定したホルダーの側面で被加工材の製品としない外周部分の内側部分を拘束し、拘束した状態で、該内側部分を打ち抜き態様を示す。
図25に、図24に示す拘束状態で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分を打ち抜く態様を示す。図26に、図25に示す打抜きの後、抜き材の一方の端面に、上記外周部分の外側部分をダイに押圧、固定したホルダーの側面を当接して抜き材を拘束し、拘束した状態で、抜き材を押し上げ、抜き材の他方の端面を、製品とする加工材の剪断加工面に擦り合せる態様を示す。
図23に示すように、被加工材の製品としない外周部分の外側部分14baをダイ12aに載置してホルダー15aで押圧して固定し、パンチ17とダイ12aの協働で、上記外周部分の外側部分14baを打ち抜く。
図23に示す打抜きの後、図24に示すように、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを背圧ピン13上に載置し、加工材14a(製品)部分をダイ12上に載置し、該製品部分は、ホルダー15で押圧して固定し、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く前、上記外周部分の外側部分14baを挟持するダイ12aとホルダー15aを押し下げて、ホルダー15aの側面を、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbの端面20に当接して、該内側部分14bbを拘束する。
図25に示すように、パンチ17とホルダー15aを同時に押し下げて、図24に示す拘束状態を維持し、パンチ17とダイ12の協働で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く。この拘束状態を維持して、上記外周部分の内側部分14bbを打ち抜くので、製品となる側の被加工材がパンチ側に逃げる現象が抑制されて、加工材14a(製品)には、形状精度の良好な剪断加工面が形成される。
図24に示す拘束状態を維持して、パンチ17とダイ12の協働で、被加工材の製品としない外周部分の内側部分14bbを打ち抜く際、被加工材の逃げ現象を抑制する点で、ホルダー15aの側面とダイ12との間隔は2t(t(mm):被加工材の厚さ)以下が好ましく、1t以下がより好ましい。
図25に示す打抜きの後は、図26に示すように、抜き材19(上記内側部分14bb)の一方の端面20にホルダー15aの側面を当接して抜き材19を拘束し、この拘束状態を維持して、背圧ピン13を押し上げ、抜き材19を押し上げていき、抜き材19の他方の端面20を、加工材(製品)の剪断加工面21に擦り合せる。
この擦り合せは、押上げ途中で止めてもよいし、擦り合せにより“バリ”が剪断加工面に発生しなければ、抜き材19を加工材の上まで押し上げて行ってもよい。
以上説明したように、図23〜図26に実施態様を示す本発明方法IIは、板状の被加工材を厚さ方向に打ち抜く剪断加工方法において、
(i)上記被加工材において製品とする部分に当接する主ダイの外側に配置した外側ダイ上に、製品としない上記被加工材の外周部をホルダーで押圧、固定し、該被加工材をパンチで打ち抜き、
(ii)上記外側ホルダーのパンチ側の側面を加工材の打抜き端面に当接し、加工材を拘束した状態で、上記パンチと上記主ダイで、加工材において製品としない外周部を打ち抜き、
(iii)抜き材を、打ち抜いた状態、即ち、上記外側ホルダーのパンチ側の側面が抜き材の打抜き端面に当接し、抜き材を拘束した状態で押し上げ、抜き材の他方の打抜き端面を、製品とする加工材の剪断加工面に擦り合せる
ことを特徴とする。
以上、高強度の被加工材を剪断加工する場合でも、面性状に優れた剪断加工面を形成し得る本発明方法の実施態様について説明した。
ここで、抜き材の端面と加工材の剪断加工面を擦り合せることで、加工材の剪断加工面の面性状が向上する効果は、ダイとパンチの間隔d(mm)を、加工材の剪断加工面における破断面の角度がパンチ方向に対し3°以上となる範囲(該破断面と抜き材の肩面が所要の角度で衝接し、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることが可能な範囲)で設定するとより向上することについて説明する。
図27に、本発明方法の基本概念を模式的に示す。図27(a)に、剪断加工の基本概念を模式的に示し、図27(b)に、擦り合せの基本概念を模式的に示す。
図27(a)に示すように、ダイ12上に、ホルダー15で押圧、固定した、厚さt(mm)の被加工材を、拘束力Pを付加した状態で、間隔dのパンチ17とダイ12の協働で剪断加工する。加工材14aの剪断加工面は、通常、図2に示すように、ダレ4、剪断面5、破断面6、及び、バリ7によって構成されている。
抜き材19の端面の形状は、加工材14aの剪断加工面の形状と点対称の関係にあり、同様に、ダレ、剪断面、破断面、及び、バリによって構成されているが、図27(b)にて、加工材14aの剪断加工面と抜き材19の端面の擦り合せを説明するため、図27(a)及び図27(b)では、加工材14aの剪断加工面の形状、及び、抜き材19の端面の形状を、剪断面と切断面で模式的に示す。
なお、加工材14aの破断面6の破断角(パンチ方向に対する角度)と、抜き材19の破断面6aの破断角(パンチ方向に対する角度)は同じとした。
被加工材の剪断加工時、被加工材に対する拘束力Pは、(a)機枠(図3〜6、参照)、(b)パンチ及び背圧ピンの一方又は両方に設ける突起(図7〜14、参照)、又は、(c)先行して打ち抜いた抜き材を挟持するダイ、背圧ピン、又は、ホルダー(図15〜25、参照)を利用することで得ることができる。
剪断加工の段階で、加工材(及び抜き材)に、面性状が良好な剪断加工面を形成するためには、パンチ17の刃先17zの形状、ダイ12の刃先12zの形状、及び、パンチ17とダイ12の間隔d(mm)の設定を適正に行うことが重要である。
垂直度の高い剪断加工面を得る点で、パンチ17の刃先17zの形状、及び、ダイ12の刃先12zの形状は、曲率半径R(mm)が小さい方が好ましい。Rが小さいと、剪断加工面においてダレが小さくなり、剪断面の比率が増し、また、剪断加工面の垂直度が上昇するので、加工材の剪断加工面と抜き材の端面を擦り合せることによる面性状向上効果が向上する。
加工材の剪断加工面と抜き材の端面を擦り合せは、図27(b)に示すように、抜き材19に対する拘束力Pを維持した状態で、パンチ17と背圧ピン13で挟持した抜き材19を押し上げて行う。加工材14aの剪断加工面21と抜き材19の端面20の擦り合せは、抜き材19の破断面6aが、加工材14aの破断面6に衝接にして始まり、抜き材19が拘束状態にあるので、加工材14aの剪断加工面21の表層に圧縮の塑性加工を十分に加えることができる。
加工材14aの剪断加工面21と抜き材19の端面20の擦り合せは、抜き材19の押し上げ途中(擦り合せ途中)で止めてもよいし、擦り合せで、加工材の剪断加工面にバリが生じなければ、抜き材を、加工材の上まで押し上げて行ってもよい。加工材の剪断加工面にバリが存在すると、加工材の疲労特性や耐水素脆化特性が低下するので、バリの発生は、極力回避する必要がある。
次に、抜き材の端面と加工材の剪断加工面の擦り合せにより、加工材の剪断加工面の表層が圧縮の塑性加工を受ける機構について説明する。図28に、抜き材の端面と加工材の剪断加工面の擦り合せ機構を模式的に示す。図28(a)に、擦り合せ開始時の破断面の衝接断面を示し、図28(b)に、擦り合せ完了時の塑性加工域を示す。
図28(a)に示すように、背圧ピン13で、剪断面のパンチ方向の長さl、破断面6aの破断角θ(パンチ方向に対する角度)の抜き材19を、抜き材19に対する拘束力Pを維持して押し上げていき、抜き材19の破断面6aを、加工材14aの破断面6に衝接させる。加工材14aの破断面6の破断角は、抜き材19の破断面6aの破断角(パンチ方向に対する角度)と略同じθである。θは3°以上が好ましいが、この点については後述する。
拘束力Pを維持して、さらに、抜き材19を押し上げていき、抜き材19の端面と加工材14aの剪断加工面を擦り合せると、ポンチとダイの間隔dと略同じ幅の破断面衝接領域において、材料重複領域が生じ、該領域において圧縮の塑性変形が生じる。そして、抜き材19を加工材14aの位置まで押し上げると、図28(b)に示すように、ポンチとダイの間隔dと略同じ幅の破断面衝接領域において、圧縮の塑性変形領域Zが形成される。
その結果、加工材14aの剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形が加えられて、剪断加工面における引張残留応力が減少して、面性状が顕著に向上する。即ち、本発明方法は、抜き材を拘束する状態下で、抜き材の端面(剪断加工面)を、加工材の剪断加工面に擦り合せることにより、加工材の剪断加工面の面性状を顕著に高めることができる。この点が、本発明方法の特徴である。
材料重複領域が大きいほど、圧縮の塑性変形領域Zは広くなり(図28(b)、参照)、残留応力の低減量は大きくなるが、材料重複領域が小さい(即ち、圧縮の塑性変形領域Zが狭い)場合でも、抜き材を拘束した状態で、抜き材の端面と加工材の剪断加工面を擦り合せるので、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることができ、同様に、面性状向上効果を得ることができる。
加工材の剪断加工面は、通常、図2に示すように、ダレ4、剪断面5、破断面6、及び、バリ7で構成されているが、剪断加工面の形態、特に、バリ7の形状(パンチ方向に対する破断角θ)は、ダイとパンチの間隔d(mm)によって大きく変化し、また、図28で説明したように、上記間隔dで、圧縮の塑性変形領域Zの幅、及び、圧縮の塑性変形の態様が略定まるので、パンチ17とダイ12の間隔dの設定は、加工材の剪断加工面の面性状を高めるうえで重要である。
パンチ17とダイ12の間隔dが小さいと、通常、剪断加工面において、ダレが小さくなり、剪断面の比率が増し、また、剪断加工面の垂直度が上昇するが、パンチ17とダイ12の間隔dは、被加工材の厚さt(mm)、適宜、強度を併せて考慮し、所要の垂直度を確保し得る範囲で、かつ、剪断加工面の破断面と抜き材の肩面の衝接で、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることが可能な破断面の破断角を確保し得る範囲で設定する。
本発明者らが、ダイとパンチの間隔d(mm)を、被加工材の厚さt(mm)との関係(d=t・a[a:係数])で設定し、加工材の剪断加工面の垂直度、及び、破断面の破断角(破断面角)θを調査した。
その結果によれば、パンチ17とダイ12の間隔d(mm)は、所要の垂直度を確保し、かつ、剪断加工面の破断面と抜き材の肩面の衝接で、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることが可能な破断面角、好ましくは3°以上を確保することが可能な点で、t(mm)×0.50以下が好ましい。上記間隔d(mm)がt×0.50を超えると、加工材の剪断加工面にダレが大きく生じ、破断面を形成する延性破壊亀裂がダイ肩方向に向かわないことによって、破断面角が小さくなるとともに、剪断加工面の面性状は低下する。
加工材の剪断加工面の垂直度が増すと、通常、剪断加工面の破断面角θは小さくなるが、加工材の剪断加工面の表層に圧縮の塑性変形を加えることが可能な破断面角、好ましくは3°以上を確保することができる限りで、パンチ17とダイ12の間隔dは、t×0.30以下でもよく、t×0.10以下でもよい。
図29に、加工材の剪断加工面の垂直断面形態の一例を示す。図29(a)に、ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.40の場合の剪断加工面の垂直断面形態を示し、図29(b)に、ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.20の場合の剪断加工面の垂直断面形態を示す。
ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.40の場合(図9(a)、参照)、破断が、ダイの肩部に向かわず、被加工材の板厚方向に進行して剪断加工面が形成されているが、剪断加工面の垂直度は高いので、抜き材の端面との擦り合せによる面性状の向上を十分に期待できる。
ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.20の場合(図9(b)、参照)、破断がダイの肩部に向かって進行して、垂直度の高い剪断加工面が形成されているので、抜き材の端面との擦り合せによる面性状の向上を十分に期待できる。
図30に、別の加工材の剪断加工面の垂直断面形態の一例を示す。図30(a)に、ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.05の場合の剪断加工面の垂直断面形態を示し、図30(b)に、ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.10の場合の剪断加工面の垂直断面形態を示す。
本発明者らは、図29及び図30に示す剪断加工面に、抜き材を拘束して、抜き材の端面を擦り合せ、抜き材の端面の擦り合せ前後の剪断加工面における残留応力を測定した。
図31に、剪断加工面における残留応力の測定位置を示す。図31に示すように、剪断加工面において、加工材14aの板厚方向に沿って3点、即ち、バリ側位置(s3)、板厚中央位置(s2)、及び、ダレ側位置(s1)に、スポット径500μmのX線を照射し、sin2Ψ法を用いて、これら位置における残留応力を測定した。
図32〜図36に、抜き材の端面を擦り合せる前後の剪断加工面における残留応力分布を示す。図32に、ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.05(CL5%)の場合の剪断加工面における残留応力分布を示す。図33に、ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.10(CL10%)の場合の剪断加工面における残留応力分布を示す。
図34に、ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.20(CL20%)の場合の剪断加工面における残留応力分布を示す。図35に、ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.40(CL40%)の場合の剪断加工面における残留応力分布を示す。
図33及び図34から、ダイとパンチの間隔d(mm)が、被加工材の厚さt(mm)×0.10の場合と、被加工材の厚さt(mm)×0.20の場合、加工材の剪断加工面と抜き材の端面の擦合せで、バリ側及び板厚中央で板厚方向残留応力が大きく低下し、加工材の剪断加工面における残留応力分布が均一化することが解る。
図35から、ダイとパンチの間隔d(mm)が被加工材の厚さt(mm)×0.40の場合、加工材の剪断加工面の下部にバリが発生したが、拘束状態にある抜き材の端面との擦り合せにより残留応力が低下し、剪断加工面の残留応力分布が均一化することが解る。
特に、ダイとパンチの間隔d(mm)が被加工材の厚さt(mm)×0.20の場合(図32、参照)、バリ側及び板厚中央での残留応力の低下が大きく、残留応力分布が、圧縮側で略均一化している。
ダイとパンチの間隔d(mm)が被加工材の厚さt(mm)×0.05の場合(図32、参照)、加工材の剪断加工面に二次剪断断面が発生したが、拘束状態にある抜き材の端面と加工材の剪断加工面との擦り合せにより残留応力が低下し、剪断加工面の残留応力分布が均一化している。
ダイとパンチの間隔d(mm)によって、加工材の剪断加工面における破断面の破断角θは変化する。この変化により、拘束状態にある抜き材の端面と加工材の剪断加工面との擦り合せによる加工材の剪断加工面における面性状向上効果は変動するので、本発明者らは、破断面の角度と残留応力低減量の関係を調査した。
図36に、ダイとパンチの間隔d(mm)を被加工材の厚さt(mm)×0.01〜0.2の範囲で設定した時の破断面角度(破断角)と残留応力低減量の関係を示す。図36から、破断面角度がパンチ進行方向に対して3°を超えると、残留応力低減量が大きく増大することが解る。
即ち、ダイとパンチの間隔d(mm)を、加工材の剪断加工面における破断面の破断角がパンチ方向に対して3°以上になるように設定すると、加工材の剪断加工面における面性状向上効果がより顕著に得られることが解った。
本発明方法は、以上説明したように、抜き材を、加工材の剪断加工面を精整する工具として利用することを基本思想とし、剪断加工の後、抜き材を加工材に対抗して拘束し、拘束状態の抜き材の端面と加工材の剪断加工面を擦り合せることで、加工材の剪断加工面の面性状を顕著に高めることを特徴とするものである。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
板厚1.6mmで、50mm×50mmの1200MPa級の鋼板(被加工材)の外周部分を、内径30mmのパンチで打ち抜いた。ダイとパンチの間隔d(mm)は、鋼板(被加工材)の板厚t(mm)×0.20とした。打ち抜き後、抜き材を加工材に対抗して拘束し、抜いたままの状態で、鋼板(加工材)の位置まで押し上げて、抜き材の端面と鋼板(加工材)の剪断加工面を擦り合せた。
上記擦り合せ後、鋼板(加工材)の剪断加工面の平均残留応力を測定し、擦合せ前の剪断加工面の平均残留応力と比較した。結果を、表1に示す。
表1から、擦合せにより、鋼板(加工材)の剪断加工面の残留応力が減少していることが解る。
加工材を、1〜100g/Lのチオシアン酸アンモニウム溶液に72時間浸漬して、擦合せ前後における剪断加工面の耐水素脆化特性を調査した。結果を表2に示す。
表2に示すように、抜き材の端面と加工材の剪断加工面を擦り合せることにより、剪断加工面の耐水素脆化特性は大きく向上する。
(実施例2)
板厚1.6mmで、50mm×50mmの1200MPa級の鋼板(被加工材)の外周部分を内径30mmのパンチで打ち抜いた。ダイとパンチの間隔d(mm)を、鋼板(被加工材)の板厚t(mm)×0.10、鋼板(被加工材)の板厚t(mm)×0.20、及び、鋼板(被加工材)の板厚t(mm)×0.40として打ち抜き、打ち抜き後、抜き材を加工材に対抗して拘束し、抜いたままの状態で、鋼板(加工材)の位置まで押し上げて、抜き材の端面と鋼板(加工材)の剪断加工面を擦り合せた。
擦合せ後の加工材(鋼板)の剪断加工面における板厚中央の残留応力を測定し、擦合せ前の剪断加工面における板厚中央の残留応力と比較した。結果を、表3に示す。
表3から、擦合せにより、加工材の剪断加工面の残留応力が大きく減少していることが解る。
擦合せ後の加工材鋼板を、1〜100g/Lのチオシアン酸アンモニウム溶液に72時間浸漬して、耐水素脆化特性を調査した。結果を表4に示す。
表4に示すように、抜き材の端面と加工材の剪断加工面を擦り合せることにより、剪断加工面の耐水素脆化特性は大きく向上する。
(実施例3)
実施例1で得た加工材について、応力比を−1、周波数を25Hzとし、室温大気中にて、平板曲げ疲労試験を行い、疲労特性(σa:疲労限度)を測定した。図37に、平板曲げ疲労試験で測定した疲労特性を示す。図37から、抜き材の端面と加工材の剪断加工面を擦り合せると、剪断加工面において引張残留応力が低下し疲労特性が向上することが解る。