以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
[第1実施形態]
図1は、音響通信方法の実施に用いる音響通信システムの第1実施形態を示す概要図である。図2は水中航走体の構成を示す概略図である。図3は母船の構成を示す概略図である。図4は音響通信中継機の構成を示す概略図である。図5は音響スケジューリング装置で設定された送受信タイムチャートの一例を示す図である。
本実施形態の音響通信システムは、図1に符号1で示すもので、設定された深度を自律航走する水中航走体2と、水面Wを移動する移動体としての母船4と、水面Wから水中航走体2が航走する深度Dまでの間に設定された単数または複数の深度で水中航走体2と並走などの協調航走を行って、水中航走体2の音響通信機3と母船4の音響通信機5との間の音響通信を中継する音響通信中継機6a,6b,6cとを備えた構成とされている。
本実施形態では、一例として、水面Wと深度Dとの間の異なる3つの深度Da,Db,Dcに航走深度が設定された3機の音響通信中継機6a,6b,6cを備える構成が示してある。
ここで、先ず、水中航走体2と母船4の構成について説明する。
水中航走体2は、たとえば、ウェイポイント制御により自律航走する機能を備えている。
そのため、水中航走体2は、図2に示すように、機体7に、制御装置8を備え、制御装置8に、予め設定された航走計画に応じたウェイポイントを記憶する記憶装置9と、慣性航法装置10と、推進および操舵装置11とが接続された構成を備えている。
慣性航法装置10には、GPSのような全地球航法衛星システム12と、ドップラーベロシティログ13が接続されている。
全地球航法衛星システム12は、水中航走体2が潜航前に水面に配置されているか、あるいは水面から引き上げられて母船4などに搭載されている状態のときに、自機である水中航走体2の位置と向きを取得するためのものである。
これにより、慣性航法装置10では、水中航走体2が潜航する前に全地球航法衛星システム12で取得した位置と向きの情報を基に、慣性航法と、ドップラーベロシティログ13によって取得する情報とを使用することで、潜航した水中航走体2において、自機の位置と向きと姿勢とを検出することができる。
制御装置8は、慣性航法装置10より得られる水中航走体2の現在の位置と向きと姿勢の情報と、記憶装置9から取得したウェイポイントの座標および深度の情報とを基に、現在位置から現在目標としているウェイポイントに達するための航走経路を求める機能を備えている。更に、制御装置8は、求められた航走経路に従って水中航走体2を航走させるための指令を、推進および操舵装置11に与える機能を備えている。これにより、水中航走体2は、現在位置から目標としているウェイポイントに向かい、その後、航走計画に従って目標とするウェイポイントを順次更新しながら航走することで、航走計画に沿った自律航走を実施することができる。
なお、図示しないが、水中航走体2は、航走経路に存在していて航走の障害となる障害物を検出する手段を備えており、この障害物検出手段で検出された障害物を回避するように航走方向や速度を適宜制御する機能も、制御装置8は備えている。
更に、水中航走体2は、機体7の上部に配置された音響通信機3を備えている。音響通信機3は、制御装置8に接続されている。制御装置8は、音響通信機3を介し、自機が航走する深度よりも上方で且つ最も近い深度を航走する音響通信中継機6aの下部音響通信機33a(図1、図4参照)を通信対象として、コマンドCの受信とステータスSの送信とを行う機能を備えている。なお、この水中航走体2の発するステータスSには、水中航走体2の航走計画の遂行状況が、ウェイポイント番号およびウェイポイント間航走達成率などの情報によって含まれている。
また、水中航走体2は、機体7の上部に、音響トランスポンダ14を備えた構成とされている。この音響トランスポンダ14を備えることにより、水中航走体2は、音響通信中継機6aの音響測位装置34a(図1、図4参照)による測位対象となっている。
音響通信機3には、音響スケジューリング装置15が接続されている。この音響スケジューリング装置15の機能については、後で説明する。
水中航走体2は、水中航走体2が水面に浮上しているときに無線通信や衛星通信に用いる図示しない通信機を備えて、この通信機が制御装置8に接続された構成を備えていてもよい。
母船4は、図3に示すように、船体16に、制御装置17を備え、制御装置17に、予め設定された航走計画に応じたウェイポイントを記憶する記憶装置18と、慣性航法装置19と、航走目標位置設定装置20と、推進および操舵装置21とが接続された構成を備えている。更に、母船4は、船体16の水没する部分である船底部に、音響通信機5と音響測位装置22とを備えて、この音響通信機5および音響測位装置22が制御装置17に接続された構成を備えている。
慣性航法装置19には、水中航走体2と同様の全地球航法衛星システム23が接続されている。全地球航法衛星システム23は、母船4の位置と向きを取得するためのものである。これにより、慣性航法装置19では、全地球航法衛星システム23で取得した位置と向きの情報を基に、慣性航法を使用することで、母船4の位置と向きと姿勢とを検出することができる。
音響通信機5は、水面Wに最も近い深度を航走する音響通信中継機6cの上部音響通信機31c(図1、図4参照)を通信対象として、コマンドCの送信とステータスSの受信とを行う機能を備えている。なお、この音響通信機5を介して母船4から発するコマンドCは、水中航走体2を対象とするコマンドCのほかに、各音響通信中継機6a,6b,6cを対象とするコマンドCを含んでいてよい。また、この音響通信機5を介して母船4で受けるステータスSは、水中航走体2が発するステータスSのほかに、各音響通信中継機6a,6b,6cが、自機の状態をそれぞれ発するステータスSを含んでいてよい。この各音響通信中継機6a,6b,6cが発するステータスSには、前記水中航走体2が発するステータスSと同様に、各音響通信中継機6a,6b,6cの航走計画の遂行状況が含まれるようにしてある。
音響測位装置22は、呼出信号を発信してから、音響通信中継機6cに備えた音響トランスポンダ32c(図1、図4参照)が発する応答信号が受信されるまでの経過時間と、応答信号が到来する方向(角度)とを基に、母船4を基準とする音響通信中継機6cの相対位置を測位する機能を備えている。
音響通信機5および音響測位装置22には、音響スケジューリング装置24が接続されている。この音響スケジューリング装置24の機能については、後述する。
航走目標位置設定装置20は、記憶装置18に記憶したウェイポイントで設定されている母船4の航走計画と、現在時刻とから、母船4の計画目標位置を求める機能を備えている。更に、航走目標位置設定装置20は、求めた計画目標位置を、音響通信中継機6cの航走計画の遂行状況と、音響通信中継機6cの測位位置とにより補正して、母船4の音響通信中継機6cに対する水平方向距離が設定された範囲内になるように、母船4の航走目標位置を設定する機能を備えている。
制御装置17は、航走目標位置設定装置20で設定された航走目標位置に向けて母船4を航走させるための指令を、推進および操舵装置21に与える機能を備えている。
これにより、母船4は、音響通信中継機6cからの水平方向距離が前記所定の範囲内に収まるように音響通信中継機6cに対する相対位置が常に保持された状態で、音響通信中継機6cの移動に追従して移動することができる。
したがって、母船4は、音響通信機5を介して音響通信中継機6cの上部音響通信機31cとの音響通信を常に行うことができる。
なお、航走目標位置設定装置20は、音響測位装置22による音響通信中継機6cの測位の一時的な途絶や、音響通信機5を介した音響通信中継機6cとの音響通信の一時的な途絶が生じた場合、それらが途絶する直前での音響通信中継機6cの航走計画の遂行状況と測位位置を基に、時間の経過に伴う音響通信中継機6cの移動先を推定する機能と、その推定された音響通信中継機6cの移動先を参照して、母船4の航走目標位置を設定する機能を備えることが好ましい。このようにすれば、母船4は、前記したような測位や音響通信の一時的な途絶が生じた場合であっても、音響通信中継機6cに対し相対位置が大きく離れない追従航走を行うことができる。
なお、図示しないが、母船4は、航走経路の水面Wに存在していて航走の障害となる障害物を検出する手段を備えると共に、この障害物検出手段で検出された障害物を回避するように航走方向や速度を適宜制御する機能を制御装置17に備える構成としてもよいことは勿論である。
次に、各音響通信中継機6a,6b,6cの構成について説明する。なお、各音響通信中継機6a,6b,6cは、機器構成は共通している。そのため、図4では、音響通信中継機6aの構成を示し、音響通信中継機6aの各構成要素に対応する音響通信中継機6bと音響通信中継機6cの各構成要素については、図4中に括弧書きで示してある。この際、音響通信中継機6aの各構成要素は、数字にaを付した符号で示し、それに対応する音響通信中継機6bと音響通信中継機6cの構成要素は、それぞれ数字に付した文字をbとcに変更してある。なお、各音響通信中継機6a,6b,6cで対応する構成要素であっても機能が異なるものについては、個別に説明する。
各音響通信中継機6a,6b,6cは、図4に示すように、機体25a,25b,25cに、制御装置26a,26b,26cを備え、制御装置26a,26b,26cに、予め設定された航走計画に応じたウェイポイントを記憶する記憶装置27a,27b,27cと、慣性航法装置28a,28b,28cと、航走目標位置設定装置29a,29b,29cと、推進および操舵装置30a,30b,30cとが接続された構成を備えている。更に、各音響通信中継機6a,6b,6cは、機体25a,25b,25cの上部に上部音響通信機31a,31b,31cと音響トランスポンダ32a,32b,32cを備え、機体25a,25b,25cの下部に下部音響通信機33a,33b,33cと音響測位装置34a,34b,34cを備えた構成とされている。上部音響通信機31a,31b,31cと下部音響通信機33a,33b,33cと音響測位装置34a,34b,34cは、制御装置26a,26b,26cに接続されている。
各音響通信中継機6a,6b,6cは、上部音響通信機31a,31b,31cで受信するコマンドCを、下部音響通信機33a,33b,33cへ送り、下部音響通信機33a,33b,33cから設定された信号強度で機体25a,25b,25cの下方に向けて送信する機能と、下部音響通信機33a,33b,33cで受信するステータスSを、上部音響通信機31a,31b,31cへ送り、上部音響通信機31a,31b,31cから設定された信号強度で機体25a,25b,25cの上方に向けて送信する機能を備えている。
更に、上部音響通信機31a,31b,31cと下部音響通信機33a,33b,33cと音響測位装置34a,34b,34cには、音響スケジューリング装置35a,35b,35cが接続されている。この音響スケジューリング装置35a,35b,35cの機能については、前記した水中航走体2の音響スケジューリング装置15および母船4の音響スケジューリング装置24の機能と共に後述する。
慣性航法装置28a,28b,28cには、水中航走体2と同様の全地球航法衛星システム36a,36b,36cと、ドップラーベロシティログ37a,37b,37cが接続されている。
全地球航法衛星システム36a,36b,36cは、各音響通信中継機6a,6b,6cが潜航前に水面に配置されているか、あるいは水面から引き上げられて母船4などに搭載されている状態のときに、各音響通信中継機6a,6b,6cの自機の位置と向きを取得するためのものである。
これにより、慣性航法装置28a,28b,28cでは、各音響通信中継機6a,6b,6cが潜航する前に全地球航法衛星システム36a,36b,36cで取得した位置と向きの情報を基に、慣性航法と、ドップラーベロシティログ37a,37b,37cによって取得する情報とを使用することで、潜航した各音響通信中継機6a,6b,6cにおいて、自機の位置と向きと姿勢とを検出することができる。
ここで、各音響通信中継機6a,6b,6cのうち、音響通信中継機6aの航走制御手法について説明する。この音響通信中継機6aは、水中航走体2が航走する深度Dの直上の深度Daに航走深度が設定されているものである。
音響通信中継機6aの下部音響通信機33aは、自機の下方の最も近い位置を航走する航走体である水中航走体2の音響通信機3を通信対象としてコマンドCの送信とステータスSの受信とを行う機能を備えている。
音響測位装置34aは、呼出信号を発信してから、水中航走体2の音響トランスポンダ14(図1、図2参照)が発する応答信号が受信されるまでの経過時間と、応答信号が到来する方向(角度)とを基に、音響通信中継機6aを基準とする水中航走体2の相対位置を測位する機能を備えている。
航走目標位置設定装置29aは、記憶装置27aに記憶したウェイポイントで設定されている音響通信中継機6aの航走計画と、現在時刻とから、音響通信中継機6aの計画目標位置を求める機能を備え、更に、求めた計画目標位置を、水中航走体2の航走計画の遂行状況と、水中航走体2の測位位置とにより補正して、音響通信中継機6aの水中航走体2に対する水平方向距離が設定された範囲内になるように、音響通信中継機6aの航走目標位置を設定する機能を備えている。
制御装置26aは、航走目標位置設定装置29aで設定された航走目標位置に向けて音響通信中継機6aを航走させるための指令を、推進および操舵装置30aに与える機能を備えている。
これにより、音響通信中継機6aは、水中航走体2からの水平方向距離が前記所定の範囲内に収まるように水中航走体2に対する相対位置が常に保持され、この状態で、水中航走体2の移動に追従して移動することができる。
したがって、音響通信中継機6aは、下部音響通信機33aを介して水中航走体2の音響通信機3との音響通信を常に行うことができる。
なお、航走目標位置設定装置29aは、音響測位装置34aによる水中航走体2の測位の一時的な途絶や、下部音響通信機33aを介した水中航走体2との音響通信の一時的な途絶が生じた場合、それらが途絶する直前での水中航走体2の航走計画の遂行状況と測位位置を基に、時間の経過に伴う水中航走体2の移動先を推定する機能と、その推定された水中航走体2の移動先を参照して、音響通信中継機6aの航走目標位置を設定する機能を備えることが好ましい。このようにすれば、音響通信中継機6aは、前記したような測位や音響通信の一時的な途絶が生じた場合であっても、水中航走体2に対し相対位置が大きく離れない追従航走を行うことができる。
次に、音響通信中継機6aの航走する深度Daの直上の深度Dbに航走深度が設定された音響通信中継機6bの航走制御手法について説明する。
音響通信中継機6bの下部音響通信機33bは、自機の下方の最も近い位置を航走する航走体である音響通信中継機6aの上部音響通信機31aを通信対象として、コマンドCの送信とステータスSの受信とを行う機能を備えている。なお、この下部音響通信機33bを介して音響通信中継機6aに向けて送信するコマンドCは、水中航走体2を対象とするコマンドCと、音響通信中継機6aを対象とするコマンドCを含んでいてよい。また、この下部音響通信機33bを介して受信するステータスSは、水中航走体2が発するステータスSのほかに、音響通信中継機6aの状態に関するステータスSを含んでいてよい。なお、このステータスSには、音響通信中継機6aの航走計画の遂行状況が含まれるようにしてある。
音響測位装置34bは、呼出信号を発信してから、音響通信中継機6aに備えた音響トランスポンダ32a(図1参照)が発する応答信号が受信されるまでの経過時間と、応答信号が到来する方向(角度)とを基に、音響通信中継機6bを基準とする音響通信中継機6aの相対位置を測位する機能を備えている。
航走目標位置設定装置29bは、記憶装置27bに記憶したウェイポイントで設定されている音響通信中継機6bの航走計画と、現在時刻とから、音響通信中継機6bの計画目標位置を求める機能を備え、更に、求めた計画目標位置を、音響通信中継機6aの航走計画の遂行状況と、音響通信中継機6aの測位位置とにより補正して、音響通信中継機6bの音響通信中継機6aに対する水平方向距離が設定された範囲内になるように、音響通信中継機6bの航走目標位置を設定する機能を備えている。
制御装置26bは、航走目標位置設定装置29bで設定された航走目標位置に向けて音響通信中継機6bを航走させるための指令を、推進および操舵装置30bに与える機能を備えている。
これにより、音響通信中継機6bは、音響通信中継機6aからの水平方向距離が前記所定の範囲内に収まるように音響通信中継機6aに対する相対位置が常に保持され、この状態で、音響通信中継機6aの移動に追従して移動することができる。
したがって、音響通信中継機6bは、下部音響通信機33bを介して、音響通信中継機6aの上部音響通信機31aとの音響通信を常に行うことができる。
なお、航走目標位置設定装置29bは、音響測位装置34bによる音響通信中継機6aの測位の一時的な途絶や、下部音響通信機33bを介した音響通信中継機6aとの音響通信の一時的な途絶が生じた場合、それらが途絶する直前での音響通信中継機6aの航走計画の遂行状況と測位位置を基に、時間の経過に伴う音響通信中継機6aの移動先を推定する機能と、その推定された音響通信中継機6aの移動先を参照して、音響通信中継機6bの航走目標位置を設定する機能を備えることが好ましい。このようにすれば、音響通信中継機6bは、前記したような測位や音響通信の一時的な途絶が生じた場合であっても、音響通信中継機6aに対し相対位置が大きく離れない追従航走を行うことができる。
次いで、音響通信中継機6bの航走する深度Dbの直上の深度Dcに航走深度が設定された音響通信中継機6cの航走制御手法について説明する。
音響通信中継機6cの下部音響通信機33cは、自機の下方の最も近い位置を航走する航走体である音響通信中継機6bの上部音響通信機31bを通信対象として、コマンドCの送信とステータスSの受信とを行う機能を備えている。なお、この下部音響通信機33cを介して音響通信中継機6bに向けて送信するコマンドCは、水中航走体2を対象とするコマンドCと、音響通信中継機6a,6bを対象とするコマンドCを含んでいてよい。また、この下部音響通信機33cを介して受信するステータスSは、水中航走体2が発するステータスSのほかに、音響通信中継機6a,6bの状態に関するステータスSを含んでいてよい。なお、このステータスSには、音響通信中継機6bの航走計画の遂行状況が含まれるようにしてある。
音響測位装置34cは、呼出信号を発信してから、音響通信中継機6bに備えた音響トランスポンダ32b(図1参照)が発する応答信号が受信されるまでの経過時間と、応答信号が到来する方向(角度)とを基に、音響通信中継機6cを基準とする音響通信中継機6bの相対位置を測位する機能を備えている。
航走目標位置設定装置29cは、記憶装置27cに記憶したウェイポイントで設定されている音響通信中継機6cの航走計画と、現在時刻とから、音響通信中継機6cの計画目標位置を求める機能を備え、更に、求めた計画目標位置を、音響通信中継機6bの航走計画の遂行状況と、音響通信中継機6bの測位位置とにより補正して、音響通信中継機6cの音響通信中継機6bに対する水平方向距離が設定された範囲内になるように、音響通信中継機6cの航走目標位置を設定する機能を備えている。
制御装置26cは、航走目標位置設定装置29cで設定された航走目標位置に向けて音響通信中継機6cを航走させるための指令を、推進および操舵装置30cに与える機能を備えている。
これにより、音響通信中継機6cは、音響通信中継機6bからの水平方向距離が前記所定の範囲内に収まるように音響通信中継機6bに対する相対位置が常に保持され、この状態で、音響通信中継機6bの移動に追従して移動することができる。
したがって、音響通信中継機6cは、下部音響通信機33cを介して音響通信中継機6bの上部音響通信機31bとの音響通信を常に行うことができる。
なお、航走目標位置設定装置29cは、音響測位装置34cによる音響通信中継機6bの測位の一時的な途絶や、下部音響通信機33cを介した音響通信中継機6bとの音響通信の一時的な途絶が生じた場合、それらが途絶する直前での音響通信中継機6bの航走計画の遂行状況と測位位置を基に、時間の経過に伴う音響通信中継機6bの移動先を推定する機能と、その推定された音響通信中継機6bの移動先を参照して、音響通信中継機6cの航走目標位置を設定する機能を備えることが好ましい。このようにすれば、音響通信中継機6cは、前記したような測位や音響通信の一時的な途絶が生じた場合であっても、音響通信中継機6bに対し相対位置が大きく離れない追従航走を行うことができる。
図示しないが、各音響通信中継機6a,6b,6cは、航走経路に存在していて航走の障害となる障害物を検出する手段を備え、この障害物検出手段で検出された障害物を回避するように航走方向や速度を適宜制御する機能も、それぞれの制御装置26a,26b,26cに備えている。
次いで、水中航走体2、母船4、各音響通信中継機6a,6b,6cの各音響スケジューリング装置15,24,35a,35b,35cについて説明する。
各音響スケジューリング装置15,24,35a,35b,35cには、いずれも、時間を基準とする送受信計画が、たとえば、図5に示す送受信タイムチャートにより予め設定されている。
この送受信タイムチャートでは、水中航走体2と音響通信中継機6aとの間、音響通信中継機6aと音響通信中継機6bとの間、音響通信中継機6bと音響通信中継機6cとの間、音響通信中継機6cと母船4との間のそれぞれで、コマンドCの通信と、音響測位Mと、ステータスSの通信が一続きで順番に行われるようにしてある。
また、本実施形態における送受信タイムチャートでは、各音響通信中継機6a,6b,6cにて、上部音響通信機31a,31b,31cによるコマンドCの受信からステータスSの送信までの処理と、下部音響通信機33a,33b,33cによるコマンドCの送信からステータスSの受信までの処理とが、時間的に重ならずに実施されるよう設定されている。これにより、個々の音響通信中継機6a,6b,6cでは、上部音響通信機31a,31b,31cで送受信される音響信号と、下部音響通信機33a,33b,33cで送受信されるとの音響信号とが、同様の周波数であるとしても、相互の音響干渉を防止することができる。
なお、本実施形態では、上下に隣接して配置される水中航走体2と音響通信中継機6a、音響通信中継機6aと音響通信中継機6b、音響通信中継機6bと音響通信中継機6c、音響通信中継機6cと母船4以外の組み合わせでは、S/N比の低下により音響通信が不能となるように設定されている。
そこで、図5に示す送受信タイムチャートでは、水中航走体2と音響通信中継機6aとの間の音響通信と、音響通信中継機6bと音響通信中継機6cとの間の音響通信は同期して行い、また、音響通信中継機6aと音響通信中継機6bとの間の音響通信と、音響通信中継機6cと母船4との間の音響通信は同期して行うように設定されている。
水中航走体2、母船4、および各音響通信中継機6a,6b,6cは、航走を開始する前に、水中航走体2および各音響通信中継機6a,6b,6cが水面Wに配置されている状態で、それぞれが有する時計(図示せず)を、全地球航法衛星システム12,23,36a,36b,36cなどのマスタークロックに対して基準時刻を合わせる処理を行う。
その後は、水中航走体2、母船4および各音響通信中継機6a,6b,6cは、図5に示した送受信タイムチャートに従ったタイミングで、コマンドCの通信、音響測位M、ステータスSの通信を行うようにしてある。
本実施形態では、水中航走体2と母船4との間を3台の音響通信中継機6a,6b,6cを介して通信するようにしてある。そのため、コマンド通信時間をtc、音響測位に要する測位通信時間をtm、ステータス通信時間をtsとすると、水中航走体2と母船4との間でのコマンドCおよびステータスSの通信遅れは、3×(tc+tm+ts)となる。
また、本実施形態では、前記したように、各音響通信中継機6a,6b,6cで、上部音響通信機31a,31b,31cによるコマンドCの受信からステータスSの送信までの処理の時間と、下部音響通信機33a,33b,33cによるコマンドCの送信からステータスSの受信までの処理の時間が重ならないようにしてあるため、通信周期は2×(tc+tm+ts)となる。
なお、水中航走体2と各音響通信中継機6a,6b,6cは、潜水して水中での航走を開始すると、前記したような全地球航法衛星システム12,23,36a,36b,36cのマスタークロックに対する時刻合わせを実施することはできない。そのため、水中を航走している状態の水中航走体2と各音響通信中継機6a,6b,6cでは、航走中に、時計のずれ、たとえば、1日の連続航走で1秒程度の時計のずれが生じる虞がある。
このような時計のずれへの対応としては、たとえば、コマンド通信時間tcと測位通信時間tmとステータス通信時間tsについてのスケジュールを長めに設定してマージンを予め備えることで、前記時計のずれを補償するようにすればよい。
以上の構成としてある本実施形態の音響通信方法および音響通信システムによれば、母船4から発する水中航走体2に対するコマンドCの信号は、音響通信中継機6cと音響通信中継機6bと音響通信中継機6aにより順に中継して、水中航走体2へ送ることができる。
また、水中航走体2の発するステータスSの信号は、音響通信中継機6aと音響通信中継機6bと音響通信中継機6cにより順に中継して、母船4へ送ることができる。
このとき、実際に音響通信が行われるのは、上下に隣接して配置されている水中航走体2と音響通信中継機6aとの間、音響通信中継機6aと音響通信中継機6bとの間、音響通信中継機6bと音響通信中継機6cとの間、音響通信中継機6cと母船4との間となるので、それぞれの通信距離は、水中航走体2から母船4までの上下距離に比して1/4程度まで短くすることができる。
このため、本実施形態では、水中航走体2と音響通信中継機6aとの間、音響通信中継機6aと音響通信中継機6bとの間、音響通信中継機6bと音響通信中継機6cとの間、音響通信中継機6cと母船4との間の音響通信のそれぞれについて、コマンドCの信号やステータスSの信号についてS/N比を高く保持することができる。
したがって、本実施形態の音響通信方法および音響通信システムによれば、水中航走体2の音響通信機3と、水面Wに配置された母船4に備えた音響通信機5との間で、音響通信による情報の伝送速度の向上化を図ることができる。
更に、この伝送速度の向上化に伴い、本実施形態では、コマンドCの通信やステータスSの通信について、通信可能な情報量を増加させることができる。特に、コマンドCの信号については、情報量が増えた分、信号に自己復元の冗長性をもたせることが可能になる。これにより、水中航走体2では、コマンドCの受信の信頼性を向上することができる。
また、本実施形態によれば、たとえば、水中航走体2を深度1000m以上となるような大深度で航走させる場合であっても、水中航走体2から大容量のデータを母船4に送ることができる。このため、水中航走体2を用いて海底探査などの水中の情報収集を行うときに、より広範な情報やより詳細な情報を取得することができる。
[第2実施形態]
図6は、母船4と音響通信中継機6cとの間、音響通信中継機6cと音響通信中継機6bとの間、音響通信中継機6bと音響通信中継機6aとの間、音響通信中継機6aと水中航走体2との間で使用する音響信号の周波数帯域の例を示す概要図である。図7は音響スケジューリング装置で設定された送受信タイムチャートの他の例を示す図であり、図8は送受信タイムチャートの更に他の例を示す図である。
なお、図7、図8において、第1実施形態と同一のものには同一符号を付してその説明を省略する。
本実施形態では、図6に示すように、母船4の音響通信機5と音響通信中継機6cの上部音響通信機31cで使用する音響信号38aの周波数帯域FB1と、音響通信中継機6cの下部音響通信機33cと音響通信中継機6bの上部音響通信機31bで使用する音響信号38bの周波数帯域FB2と、音響通信中継機6bの下部音響通信機33bと音響通信中継機6aの上部音響通信機31aで使用する音響信号38cの周波数帯域FB3と、音響通信中継機6aの下部音響通信機33aと水中航走体2の音響通信機3で使用する音響信号38dの周波数帯域FB4とが、すべて異なるように設定されている。なお、音響信号38aの周波数帯域FB1と、音響信号38bの周波数帯域FB2と、音響信号38cの周波数帯域FB3と、音響信号38dの周波数帯域FB4とがそれぞれ異なるようにしてあれば、各周波数帯域FB1,FB2,FB3,FB4は、周波数の高低に関する順序を自在に変更してもよい。
これにより、音響通信中継機6cでは、上部音響通信機31cでの音響信号38aの送受信と、下部音響通信機33cでの音響信号38bの送受信との干渉を防止することができる。また、音響通信中継機6bでは、上部音響通信機31bでの音響信号38bの送受信と、下部音響通信機33bでの音響信号38cの送受信との干渉を防止することができる。同様に、音響通信中継機6aでは、上部音響通信機31aでの音響信号38cの送受信と、下部音響通信機33aでの音響信号38dの送受信との干渉を防止することができる。
そこで、本実施形態では、水中航走体2の音響スケジューリング装置15(図1、図2参照)、母船4の音響スケジューリング装置24(図1、図3参照)、および、各音響通信中継機6a,6b,6cの音響スケジューリング装置35a,35b,35cに設定される送受信タイムチャートは、図7に示す如き送受信タイムチャート、または、図8に示す如き送受信タイムチャートとする。
図7に示す送受信タイムチャートは、各音響通信中継機6a,6b,6cにて、上部音響通信機31a,31b,31cによるコマンドCの受信と、下部音響通信機33a,33b,33cによるコマンドCの送信を同時に行い、また、上部音響通信機31a,31b,31cによるステータスSの送信と、下部音響通信機33a,33b,33cによるステータスSの受信を同時に行うようにしてある。
この送受信タイムチャートに従って水中航走体2と母船4との間を各音響通信中継機6a,6b,6cで中継して音響通信を行う場合は、通信周期は、(tc+tm+ts)になる。
よって、この場合は、通信周期を第1実施形態に比して半分にすることができる。この場合、水中航走体2と母船4との間でのコマンドCおよびステータスSの通信遅れは、第1実施形態と同様に、3×(tc+tm+ts)となる。
次に、図8に示す送受信タイムチャートは、各音響通信中継機6a,6b,6cにて、上部音響通信機31a,31b,31cによるコマンドCの受信と、下部音響通信機33a,33b,33cによるステータスSの受信を同時に行うようにしてある。また、このように上部音響通信機31a,31b,31cと下部音響通信機33a,33b,33cで受信を同時に行うことに伴い、上部音響通信機31a,31b,31cによるステータスSの送信に、部分的に重なるタイミングで下部音響通信機33a,33b,33cによるコマンドCの送信が行われる。
この送受信タイムチャートに従って水中航走体2と母船4との間を各音響通信中継機6a,6b,6cで中継して音響通信を行う場合は、通信周期は、図7に示した送受信タイムチャートと同様に、(tc+tm+ts)になるので、通信周期を第1実施形態に比して半分にすることができる。
更に、図8の送受信タイムチャートによれば、水中航走体2と母船4との間でのコマンドCおよびステータスSの通信遅れは、コマンド通信時間tc、測位通信時間tm、ステータス通信時間tsのうちのいずれか一番長い時間に3を掛けた時間とすることができる。したがって、通信遅れは、3×tcまたは3×tmまたは3×tsのいずれかになるので、第1実施形態や図7の送受信タイムチャートを用いる場合に比して、通信遅れを短縮することができる。
特に、図8の送受信タイムチャートを採用する場合は、コマンド通信時間tcを短くする必要がないため、ステータス通信時間tsと同じくらいになるまで通信量を増やすことができて、コマンドCの信号の冗長化が容易となる。また、コマンドCに、母船4の全地球航法衛星システム23で求めた自機の位置情報を含めるようにすれば、潜航中の水中航走体2や各音響通信中継機6a,6b,6cの時間経過に伴って生じる自機の位置検出の誤差を補正することも可能になる。
[応用例]
なお、水中航走体2の航走計画によっては、水中航走体2の航走する深度が、当初設定された深度Dよりも小さくなる場合がある。これは、たとえば、水中航走体2を用いて海底探査を行う際、水中航走体2に海底の隆起を越える航走を行わせるような場合である。
また、水中航走体2が航走経路上の障害物を上方へ回避する場合にも、水中航走体2の航走する深度が、当初設定された深度Dよりも小さくなる。
これらの場合には、水中航走体2と音響通信中継機6bとの上下距離が短くなるため、水中航走体2の音響通信機3から送信されたステータスSの信号が、音響通信が不能になるまでのS/N比の低下が生じないうちに音響通信中継機6bの下部音響通信機33bまで到達する可能性が生じる。同様に、音響通信中継機6bの下部音響通信機33bから送信されたコマンドCの信号が、音響通信が不能になるまでのS/N比の低下が生じないうちに水中航走体2の音響通信機3まで到達する可能性が生じる。
この場合は、水中航走体2の音響通信機3から送信するステータスSの信号や、音響通信中継機6bの下部音響通信機33bから送信するコマンドCの信号について、予め強度を低減させた状態で送信する制御を行うようにすればよい。このようにすれば、水中航走体2と音響通信中継機6bとの上下距離が短くなる場合であっても、水中航走体2の音響通信機3から送信するステータスSの信号は、音響通信中継機6bの下部音響通信機33bに到達するまでの間に音響通信が不能になるまでS/N比の低下を生じさせることができる。よって、音響通信中継機6bの下部音響通信機33bでは、音響通信中継機6aで中継されたステータスSの信号のみを、音響通信が可能となるS/N比で受信できる。
また、音響通信中継機6bの下部音響通信機33bから送信するコマンドCの信号は、水中航走体2の音響通信機3に到達するまでの間に音響通信が不能になるまでS/N比の低下を生じさせることができる。よって、水中航走体2の音響通信機3では、音響通信中継機6aで中継されたコマンドCの信号のみを、音響通信が可能となるS/N比で受信できる。
更に、前記のように水中航走体2の航走する深度が変化するときには、音響通信中継機6aは、水中航走体2が航走するようになる深度と、音響通信中継機6bに設定された深度Dbとの中間付近となる深度に移動する航走を行うように制御することが好ましい。このようにすれば、水中航走体2と音響通信中継機6aとの上下距離が小さくなりすぎることを防止することができて、音響通信中継機6bの下部音響通信機33bから送信するコマンドCの信号について、音響通信中継機6aの上部音響通信機31aには音響通信が可能となるS/N比で到達する一方、水中航走体2の音響通信機3には音響通信が不能になるS/N比で到達するようにするための信号強度の制御を行い易くすることができる。
なお、本発明は、前記各実施形態にのみ限定されるものではなく、水中航走体2、母船4、各音響通信中継機6a,6b,6cの形状や、相対的なサイズは、図示するための便宜上のものであって、実際の形状や相対的なサイズを反映したものではない。
水面Wに配置される移動体の例として母船4を示したが、母船4に代えて、海上通信中継機であってもよい。海上通信中継機は、前記した母船4の備える機能に加えて、離れた母船とは無線通信または衛星通信により相互通信を行う通信機を備える構成とすればよい。
水中航走体2が航走する深度と水面Wとの上下距離や、使用する音響通信機で音響通信が可能な距離、良好な音響通信が可能な距離などの条件に応じて、水中航走体2と母船4との間で水中航走体2に順次協調航走させる音響通信中継機の数は、1機、2機または4機以上としてもよい。
この際、音響通信中継機の機数をnとすると、図5または図7の送受信タイムチャートを使用する場合における水中航走体2と母船4との間でのコマンドCおよびステータスSの通信遅れは、n×(tc+tm+ts)となる。また、図8の送受信タイムチャートを使用する場合における通信遅れは、n×(tc、tm、tsのうちのいずれか一番長い時間)になる。
母船4と各音響通信中継機6a,6b,6cに備える音響測位装置は、自機の下方の最も近い位置を航走する航走体である音響通信中継機6a,6b,6cや水中航走体2の測位を行うことができれば、音響トランスポンダ32a,32b,32cや音響トランスポンダ14を使用しない形式の音響測位装置を採用してもよい。その場合は、音響通信中継機6a,6b,6cは音響トランスポンダ32a,32b,32cを省略した構成としてもよく、水中航走体2は音響トランスポンダ14を省略した構成としてもよい。
音響通信中継機は、自機の下方の最も近い位置を航走する航走体である水中航走体または別の音響通信中継機との音響通信が可能となる深度と、自機の上方の最も近い位置を航走する別の音響通信中継機または母船4との音響通信が可能となる深度との間で昇降する機能を備えるようにしてもよい。このようにすれば、たとえば、複数の音響通信中継機のうちのいずれかの音響通信中継機に音響通信の中継が不能となる支障が生じた場合であっても、他の音響通信中継機によるバックアップを行うことが可能になる。
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。